特許第6719092号(P6719092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6719092マンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化物の生成方法及び金属の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6719092
(24)【登録日】2020年6月18日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】マンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化物の生成方法及び金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20200629BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20200629BHJP
   C12P 3/00 20060101ALI20200629BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20200629BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20200629BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20200629BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 19/20 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 13/00 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 25/00 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 26/20 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 61/00 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 60/04 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 43/00 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 60/02 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 30/04 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 60/00 20060101ALI20200629BHJP
   C22B 17/00 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   C12N1/00 B
   C12P3/00 Z
   C02F1/28 B
   C02F1/28 C
   C02F3/34 Z
   B01J20/30
   B01J20/06 B
   C22B47/00
   C22B3/24
   C22B15/00
   C22B23/00 102
   C22B19/20
   C22B13/00 101
   C22B25/00 101
   C22B26/20
   C22B61/00
   C22B60/04
   C22B43/00 102
   C22B60/02
   C22B30/04
   C22B60/00
   C22B17/00 101
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-51472(P2015-51472)
(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公開番号】特開2016-168029(P2016-168029A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】大橋 晶良
(72)【発明者】
【氏名】小寺 博也
(72)【発明者】
【氏名】カオ ティ トゥイ リン
(72)【発明者】
【氏名】金田一 智規
(72)【発明者】
【氏名】廣江 貴史
(72)【発明者】
【氏名】青井 議輝
(72)【発明者】
【氏名】井町 寛之
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−184470(JP,A)
【文献】 米国特許第05441641(US,A)
【文献】 小溝大介、他,共生を利用したレアメタル吸着性Bio-MnO2の高速生成,第48回 日本水環境学会年会講演集,2014年 3月17日,p. 174, 1-F-15-1
【文献】 BIO INDUSTRY,2014年,Vol. 31, No. 2,pp. 41-48
【文献】 WATER RES.,2014年10月23日,Vol. 68,pp. 545-553
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
C12P 1/00−41/00
C02F 1/28
C02F 3/28−3/34
B01J 20/00−20/30
C22B 1/00−61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン酸化細菌を含む活性汚泥に二酸化マンガンの粒子を懸濁させた液体を保水性の多孔質部材に吸引させることによって予めマンガン酸化細菌及び二酸化マンガンを保持させた微生物保持部材に有機性の基質を供給し、マンガン酸化細菌を除く微生物に因ってマンガン酸化細菌の活性が低下することを抑制しつつ、前記微生物保持部材中に前記マンガン酸化細菌を優占的に繁殖させて集積させる、
ことを特徴とするマンガン酸化細菌の集積培養方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマンガン酸化細菌の集積培養方法によりマンガン酸化細菌を繁殖させるとともに、2価のマンガンイオンを供給してマンガン酸化細菌にバイオマンガン酸化物を生成させる、
ことを特徴とするバイオマンガン酸化物の生成方法。
【請求項3】
請求項に記載のバイオマンガン酸化物の生成方法によりバイオマンガン酸化物を生成させるとともに、銅、コバルト、カドミウム、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、カルシウム、鉄、ラジウム、水銀、ウラン、プルトニウム、ポロニウム、ヒ素、セレン及びトリウムから選択される一種以上の金属を含有する液体を供給し、前記バイオマンガン酸化物に前記金属を吸着させて落下した前記バイオマンガン酸化物を回収する、
ことを特徴とする金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化物の生成方法、金属の回収方法及び微生物群集に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマンガン酸化物は、マンガンイオン(Mn2+)がマンガン酸化細菌により酸化されて生成される酸化物である。マンガン酸化細菌によってMn2+(2価)が酸化されて生成される4価等のバイオマンガン酸化物(MnO)は、NiやCoなどの金属イオンに対する吸着能力が高いことが報じられている。この特性を利用して、金属を吸着、回収する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
マンガン酸化細菌は好気性従属栄養細菌であるため、その培養には有機物の投与が必要である。その有機物を利用する他の好気性細菌と有機物を争うことになるため、有機物の利用速度が遅いマンガン酸化細菌を優占化させることが困難である。このため、バイオマンガン酸化物の生成速度を高めることが難しく、金属の吸着、回収効率を高め難い。
【0004】
好気性細菌の活性を阻害するにあたり、非特許文献1には、大腸菌の活性を阻害し得る金属酸化物について検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−184470号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chitrada Kaweeteerawat et al; "Toxicity of Metal Oxide Nanoparticles in Escherichia coli Correlates with Conduction Band and Hydration Energies"; ACS Publications, ENVIRONMENTAL Science & Technology, 2015, 49 (2), pp 1105-1112; January 7, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1には、大腸菌の活性を阻害し得る金属酸化物について報じられているがマンガン酸化細菌と他の好気性細菌が共存する場合、マンガン酸化細菌の活性を阻害せずに他の好気性細菌の繁殖を阻害するか否かは記載されていない。
【0008】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マンガン酸化細菌を優占化させ得るマンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化物の生成方法、金属の回収方法及び微生物群集を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法は、予めマンガン酸化細菌及び二酸化マンガンを保持させた微生物保持部材に有機性の基質を供給するか、又は、予めマンガン酸化細菌を保持させた微生物保持部材に有機性の基質の代わりに活性汚泥を供給し、マンガン酸化細菌を除く微生物の繁殖を抑制しつつ、前記微生物保持部材中に前記マンガン酸化細菌を優占的に繁殖させて集積させる、
ことを特徴とする。
【0010】
本発明の第1の態様に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法は、
予めマンガン酸化細菌及び二酸化マンガンを保持させた微生物保持部材に有機性の基質を供給し、マンガン酸化細菌を除く微生物の繁殖を抑制しつつ、前記微生物保持部材中に前記マンガン酸化細菌を優占的に繁殖させて集積させる、
ことを特徴とする。
【0011】
また、活性汚泥及び二酸化マンガンの粒子を懸濁させた液体を保水性の多孔質部材に吸引させて得られた前記微生物保持部材を用いることが好ましい。
【0012】
また、バイオマンガン酸化物の生成方法は、上記のマンガン酸化細菌の集積培養方法によりマンガン酸化細菌を繁殖させるとともに、2価のマンガンイオンを供給してマンガン酸化細菌にバイオマンガン酸化物を生成させる、
ことを特徴とする。
【0013】
また、金属の回収方法は、上記のバイオマンガン酸化物の生成方法によりバイオマンガン酸化物を生成させるとともに、銅、コバルト、カドミウム、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、カルシウム、鉄、ラジウム、水銀、ウラン、プルトニウム、ポロニウム、ヒ素、セレン及びトリウムから選択される一種以上の金属を含有する液体を供給し、前記バイオマンガン酸化物に前記金属を吸着させて落下した前記バイオマンガン酸化物を回収する、
ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の態様に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法は、
予めマンガン酸化細菌を保持させた微生物保持部材に基質として活性汚泥を供給して、前記微生物保持部材中に前記マンガン酸化細菌を優占的に繁殖させて集積させる、
ことを特徴とする。
【0015】
また、保水性の多孔質部材に前記マンガン酸化細菌を保持させた前記微生物保持部材を用いることが好ましい。
【0016】
また、バイオマンガン酸化物の生成方法は、上記のマンガン酸化細菌の集積培養方法によりマンガン酸化細菌を繁殖させるとともに、2価のマンガンイオンを供給してマンガン酸化細菌にバイオマンガン酸化物を生成させる、
ことを特徴とする。
【0017】
また、金属の回収方法は、上記のバイオマンガン酸化物の生成方法によりバイオマンガン酸化物を生成させるとともに、銅、コバルト、カドミウム、亜鉛、ニッケル、スズ、鉛、カルシウム、鉄、ラジウム、水銀、ウラン、プルトニウム、ポロニウム、ヒ素、セレン及びトリウムから選択される一種以上の金属を含有する液体を供給し、前記バイオマンガン酸化物に前記金属を吸着させて落下した前記バイオマンガン酸化物を回収する、
ことを特徴とする。
【0018】
また、微生物群集は、上記のマンガン酸化細菌の集積培養方法により培養されて得られる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法では、マンガン酸化細菌を除く微生物の繁殖を抑制しつつ、微生物保持部材中にマンガン酸化細菌を優占的に繁殖させて集積させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化細菌の生成方法及び金属の回収方法を説明する図である。
図2】実施の形態1に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化細菌の生成方法及び金属の回収方法を説明する図である。
図3】実施例1の測定結果を示すグラフである。
図4】実施例2の測定結果を示すグラフである。
図5】実施例3の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
マンガン酸化細菌の集積培養方法は、予めマンガン酸化細菌及び二酸化マンガンを保持させた微生物保持部材に有機性の基質を供給するか、又は、予めマンガン酸化細菌を保持させた微生物保持部材に有機性の基質の代わりに活性汚泥を供給する。これにより、マンガン酸化細菌を除く微生物の繁殖を抑制しつつ、微生物保持部材中にマンガン酸化細菌を優占的に繁殖させて集積させることができる。
【0022】
(第1の態様)
図1に示す装置1を参照しつつ、第1の態様に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化細菌の生成方法及び金属の回収方法について説明する。
【0023】
装置1は、所謂、下降流懸垂スポンジ(Down−flow Hanging Sponge:DHS)型の装置であり、容器11、液体供給路12、液体排出路13、バルブ14、バイオマンガン酸化物回収部15、微生物保持部材21、糸22、ガス供給路31、ガス排出路32を備える。
【0024】
容器11は内部中空の筒体であり、上部の液体供給路12から有機性の基質、マンガンイオン、金属イオン(Cu,Co,Cd,Zn,Ni,Sn,Pb,Ca,Fe,Ra,Hg,U,Pu,Po,As,Se,Th等の金属イオン)を含有する液体が供給される。有機性の基質は、例えば有機性排水など有機物を含有する液体である。
【0025】
液体供給路12の端部に糸22が取り付けられており、この糸22に微生物保持部材21が複数個それぞれ離間して連なっている。
【0026】
微生物保持部材21は、担体にマンガン酸化細菌及び二酸化マンガンが予め担持されている。マンガン酸化細菌及び二酸化マンガンを担持させる担体として、ポリウレタン製等のスポンジ状の多孔質発泡部材、焼結金属のような粒子や繊維体の結合体、セラミックス等の保水性の多孔質部材、不織布のような保水性のシートなどが挙げられる。
【0027】
微生物保持部材21は、マンガン酸化細菌及び二酸化マンガンを含有する液体、例えば、活性汚泥に二酸化マンガンの粒子を懸濁させた液体に担体を浸漬させて吸液させることで得られる。
【0028】
容器11の下部は逆円錐形状で、微生物保持部材21から落下したバイオマンガン酸化物が沈降、集積しやすい構造であり、そして、沈降したバイオマンガン酸化物を回収するバイオマンガン酸化物回収部15を備える。バイオマンガン酸化物回収部15にはバルブ14が設置され、バルブ14の開閉により、溜まったバイオマンガン酸化物が取り出される。
【0029】
また、容器11には、空気を循環させて容器11内の気相空間を好気条件にするため、空気を容器11内に供給するガス供給路31及び空気を排出するガス排出路32を備える。また、金属が除去された液体が排出される液体排出路13を備える。
【0030】
上述した装置1について、まず、図2に示すように、液体供給路12を通じて有機性の基質、マンガンイオン(Mn2+)、上述した金属イオンを含有する液体を容器11内に供給する。
【0031】
供給された液体は、糸22を介して上方の微生物保持部材21に浸透しつつ、下方の微生物保持部材21へと流下する。
【0032】
また、ガス供給路31から空気を容器11内に供給し、容器11内の空気はガス排出路32から排出されることにより、容器11内の空気を循環させて、容器11内を好気条件に維持する。
【0033】
微生物保持部材21には、予め二酸化マンガンが担持されている。二酸化マンガンが予め担持されていることにより、マンガン酸化細菌を除く好気性微生物の活性が抑えられる。他の好気性微生物の活性が抑えられるため、有機物の利用速度が遅いマンガン酸化細菌であっても、基質に含まれる有機物をマンガン酸化細菌が摂取し、繁殖する。これにより、微生物保持部材21中にマンガン酸化細菌を集積培養し、優占化させることができる。
【0034】
また、微生物保持部材21には、有機性の基質に加え、マンガンイオン(Mn2+)を供給しているので、マンガン酸化細菌がマンガン(Mn2+)を酸化させて4価等のバイオマンガン酸化物(MnO)が生成する。微生物保持部材21では、マンガン酸化細菌が優占的に繁殖しているので、バイオマンガン酸化物の生成速度が速められる。
【0035】
そして、生成されるバイオマンガン酸化物は金属イオンに対して高い吸着性を示すことが知られている。例えば、バイオマンガン酸化物に吸着する金属イオンとして、Cu(銅),Co(コバルト),Cd(カドミウム),Zn(亜鉛),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Pb(鉛),Ca(カルシウム),Fe(鉄),Ra(ラジウム),Hg(水銀),U(ウラン),Pu(プルトニウム),Po(ポロニウム),As(ヒ素),Se(セレン),Th(トリウム)等が知られている。
【0036】
微生物保持部材21に、上記の金属が供給されていると、生成されたバイオマンガン酸化物に金属が吸着する。金属が吸着したバイオマンガン酸化物は、その自重によって落下し、容器11下部に沈降、集積する。バイオマンガン酸化物は自重により自然に落下するので、自然に微生物保持部材21からバイオマンガン酸化物が分離し、容器11下部に集められる。
【0037】
バルブ14を開くことで、沈降し溜まったマンガン酸化物を回収する。公知の手法によりバイオマンガン酸化物から金属を分離することにより、金属を回収することができる。なお、金属が除去された液体は、液体排出路13を通じて排出される。
【0038】
上記では、微生物保持部材21に有機性の基質、マンガンイオン及び上述した金属を同時に供給し、マンガン酸化細菌の集積培養、バイオマンガン酸化物の生成、金属の吸着・回収を並行して行う例について説明したが、まず、微生物保持部材21に有機性の基質のみを供給し、微生物保持部材21にマンガン酸化細菌を集積培養させてもよい。その後、微生物保持部材21にマンガンイオンを含有する液体を供給してバイオマンガン酸化物を生成させてもよい。そして、その後、微生物保持部材21に金属を含有する液体を供給し、生成されたバイオマンガン酸化物に金属を吸着させて回収してもよい。
【0039】
以上のように、第1の態様では、マンガン酸化細菌を微生物保持部材21中に繁殖、集積させることにより、優占化されたマンガン酸化細菌によってバイオマンガン酸化物の生成速度を向上させることができる。そして多量に生成されるバイオマンガン酸化物に金属を吸着させることにより、液体から金属を効率的に回収することが可能となる。
【0040】
(第2の態様)
第2の態様に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化細菌の生成方法、金属の回収方法及び微生物群集について説明する。
【0041】
第2の態様に係るマンガン酸化細菌の集積培養方法、バイオマンガン酸化細菌の生成方法及び金属の回収方法では、上述した第1の態様とは、微生物保持部材21に予めマンガン酸化物を担持させない点、及び、供給する有機性の基質の代わりに活性汚泥を不定期に供給する点で異なり、第2の態様についても、上述した第1の態様と同じ装置にて行うことができるので、以下、図1、2を参照して説明する。
【0042】
装置1は、所謂、下降流懸垂スポンジ(Down−flow Hanging Sponge:DHS)型の装置であり、容器11、液体供給路12、液体排出路13、バルブ14、バイオマンガン酸化物回収部15、微生物保持部材21、糸22、ガス供給路31、ガス排出路32を備える。
【0043】
容器11は内部中空の筒体であり、上部の液体供給路12から活性汚泥が供給される。また、マンガンイオン、金属イオン(Cu,Co,Cd,Zn,Ni,Sn,Pb,Ca,Fe,Ra,Hg,U,Pu,Po,As,Se,Th等の金属イオン)を含有する液体が供給される。
【0044】
液体供給路12の端部に糸22が取り付けられており、この糸22に微生物保持部材21が複数個それぞれ離間して連なっている。
【0045】
微生物保持部材21は、担体にマンガン酸化細菌が予め担持されている。マンガン酸化細菌を担持させる担体として、ポリウレタン製等のスポンジ状の多孔質発泡部材、焼結金属のような粒子や繊維体の結合体、セラミックス等の保水性の多孔質部材、不織布のような保水性のシートなどが挙げられる。
【0046】
微生物保持部材21は、マンガン酸化細菌を含有する液体、例えば、活性汚泥に担体を浸漬させて吸液させることで得られる。
【0047】
容器11の下部は逆円錐形状で、微生物保持部材21から落下したバイオマンガン酸化物が沈降、集積しやすい構造であり、そして、沈降したバイオマンガン酸化物を回収するバイオマンガン酸化物回収部15を備える。バイオマンガン酸化物回収部15にはバルブ14が設置され、バルブ14の開閉により、溜まったバイオマンガン酸化物が取り出される。
【0048】
また、容器11には、空気を循環させて容器11内の気相空間を好気条件にするため、空気を容器11内に供給するガス供給路31及び空気を排出するガス排出路32を備える。また、金属が除去された液体が排出される液体排出路13を備える。
【0049】
上述した装置1について、まず、図2に示すように、液体供給路12を通じて活性汚泥を不定期に供給する。また、マンガンイオン(Mn2+)、上述した金属イオンを含有する液体を容器11内に供給する。マンガンイオン(Mn2+)、上述した金属イオンを含有する液体は連続して供給してよい。
【0050】
供給された液体は、糸22を介して上方の微生物保持部材21に浸透しつつ、下方の微生物保持部材21へと流下する。
【0051】
また、ガス供給路31から空気を容器11内に供給し、容器11内の空気はガス排出路32から排出されることにより、容器11内の空気を循環させて、容器11内を好気条件に維持する。
【0052】
微生物保持部材21にはマンガン酸化細菌が保持されており、ある種のマンガン酸化細菌は活性汚泥を利用して繁殖する。即ち、細菌の死骸を基質として利用し繁殖する。一方で、他の好気性微生物は、細菌の死骸を基質として利用しづらく、活性が抑制され繁殖しがたい。このため、微生物保持部材21中に、マンガン酸化細菌を集積培養し、優占化させることができる。このようにして、微生物保持部材21にマンガン酸化細菌が優占化した微生物群集が得られる。
【0053】
また、微生物保持部材21には、活性汚泥のほか、マンガンイオン(Mn2+)を供給しているので、マンガン酸化細菌がマンガン(Mn2+)を酸化させて4価等のバイオマンガン酸化物(MnO)が生成する。微生物保持部材21では、マンガン酸化細菌が優占的に繁殖しているので、バイオマンガン酸化物の生成速度が速められる。
【0054】
そして、生成されるバイオマンガン酸化物は金属イオンに対して高い吸着性を示すことが知られている。例えば、バイオマンガン酸化物に吸着する金属イオンとして、Cu(銅),Co(コバルト),Cd(カドミウム),Zn(亜鉛),Ni(ニッケル),Sn(スズ),Pb(鉛),Ca(カルシウム),Fe(鉄),Ra(ラジウム),Hg(水銀),U(ウラン),Pu(プルトニウム),Po(ポロニウム),As(ヒ素),Se(セレン),Th(トリウム)等が知られている。
【0055】
微生物保持部材21に、上記の金属が供給されていると、生成されたバイオマンガン酸化物に金属が吸着する。金属が吸着したバイオマンガン酸化物は、その自重によって落下し、容器11下部に沈降、集積する。バイオマンガン酸化物は自重により自然に落下するので、自然に微生物保持部材21からバイオマンガン酸化物が分離し、容器11下部に集められる。
【0056】
バルブ14を開くことで、沈降し溜まったマンガン酸化物を回収する。公知の手法によりバイオマンガン酸化物から金属を分離することにより、金属を回収することができる。なお、金属が除去された液体は、液体排出路13を通じて排出される。
【0057】
上記では、微生物保持部材21に基質、マンガンイオン及び上述した金属を同時に供給し、マンガン酸化細菌の集積培養、バイオマンガン酸化物の生成、金属の吸着・回収を並行して行う例について説明したが、まず、微生物保持部材21に活性汚泥のみを供給し、微生物保持部材21にマンガン酸化細菌を集積培養させてもよい。その後、微生物保持部材21にマンガンイオンを含有する液体を供給してバイオマンガン酸化物を生成させてもよい。そして、その後、微生物保持部材21に金属を含有する液体を供給し、生成されたバイオマンガン酸化物に金属を吸着させて回収してもよい。
【0058】
マンガン酸化細菌を微生物保持部材21中に繁殖、集積させることにより、優占化されたマンガン酸化細菌によってバイオマンガン酸化物の生成速度を向上させることができる。そして多量に生成されるバイオマンガン酸化物に金属を吸着させることにより、液体から金属を効率的に回収することが可能となる。
【0059】
以上のように、第2の態様では、後述の実施例にも示すように、マンガン酸化細菌は、活性汚泥を不定期に供給するだけで、すなわち細菌の死骸を利用して繁殖し、これによりマンガン酸化細菌を集積培養することができる。そして、このようにして得られる微生物群集では、マンガン除去速度が非常に大きい。したがって、得られた微生物群集を用いて、第1の態様と同様にバイオマンガン酸化物の生成、金属の吸着・回収を行うことが可能である。
【実施例1】
【0060】
(回分実験によるマンガン酸化物(MnO)の好気性微生物への活性阻害実験)
【0061】
活性汚泥は東広島浄化センター活性汚泥反応槽から採取(5L)したものを用いた。
採取した活性汚泥は以下のように馴養してから用いた。メディウム瓶(10L)に活性汚泥5Lを投入し、基質を表1に示す組成になるよう添加して、曝気(Air:0.3L/min)しながら24時間培養した。
【0062】
【表1】
【0063】
500mLフラスコに基質400mL、馴養汚泥100mL、MnO(キシダ化学 010−47295,1級,粒径1〜150μm)(条件により濃度が異なる)を投入して、曝気(Air:0.3L/min)しながら室温で培養し、基質の消費量を測定した。フラスコ内の基質組成濃度は表1に示した通りである。また、汚泥濃度は600mgSS/Lである。
【0064】
実験はMnO濃度が異なる4系列(MnO濃度:0,10,50,100g/L)にて行った。
【0065】
培養開始後、培養液をサンプリングし、0.45μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC社製)でろ過して、それぞれの有機物濃度(mgTOC/L)をTOC−V CSH/CSN(SHIMADZU社製)にて測定した。
【0066】
有機物濃度の測定結果を図3に示す。マンガン酸化物が添加されていない場合(0g/L)は、速やかに有機物が分解除去されている。一方、マンガン酸化物が添加され、マンガン酸化物の濃度が高いほど、有機物分解が遅い結果となった。この結果から、マンガン酸化物が介在していると、好気性微生物の活性が阻害されることが示唆された。
【実施例2】
【0067】
(MnO塗布によるリアクターのMn(II)連続除去(酸化)速度への影響実験)
図1に示したのと同様のリアクターを構築した。すなわち、透明アクリル製円筒形カラム(内径50mm、外径60mm、体積約1.6L)の中に、微生物保持担体として2cm角のスポンジ20個(全容積0.16L)を直列に吊るしたDHSリアクターを構築した。
【0068】
リアクターは2基用意し、一方は汚泥だけをスポンジに植種した微生物保持部材を設置し、他方は汚泥を植種したスポンジにMnOを塗布した微生物保持部材を設置した。
【0069】
用いた汚泥は、実施例1と同じ汚泥(東広島浄化センター活性汚泥反応槽より採取した活性汚泥)と同じである。
【0070】
MnOはMn(II)を吸着するため、市販のMnO(キシダ化学株式会社 010−47295,1級,粒径1〜150μm)100gを1LのMnCl溶液(20gMn(II)/L)に浸けてMn(II)が飽和吸着したものを使用した。
【0071】
MnO塗布なしの微生物保持部材は、1Lの活性汚泥溶液(3600mgSSL−1)にスポンジ担体20個を浸漬し、スポンジを揉みながら汚泥をスポンジ内に保持させることで準備した。一方、MnO塗布ありの微生物保持部材は、1Lの活性汚泥溶液(360mgSSL−1)に上記MnOを100g添加して混合しながら、スポンジ担体20個を浸漬し、スポンジを揉みながらスポンジ内に汚泥を植種すると共にMnOを塗布した。
【0072】
それぞれのリアクターを恒温室(25℃)に設置して、基質をリアクター上部より0.9L/day(水理学的滞留時間4.25h)の流量で供給した。リアクターに0.5L/minの速度で空気を供給した。
【0073】
供給した基質の組成を表2に示す。また、MnO塗布なしリアクターのMn(II)の供給濃度は5mg/L、一方、MnO塗布ありリアクターでは5〜20mg/Lである。
【0074】
【表2】
【0075】
また、MnO塗布ありリアクターにおいては、運転30日以降、リアクター上部のMn(II)濃度が5mg/L以下になるように流出水を循環させた。
【0076】
リアクターへの流入水および流出水(0.45μmメンブレンフィルター(ADVANTEC社製)によるろ過水)の水質(pH、有機物(COD)濃度、Mn(II)濃度)を経時的に測定した。COD濃度,Mn(II)濃度は吸光光度式水質分析器DR−2800(HACH社製)にて定量した。
【0077】
その結果を図4に示す。MnOがスポンジ担体に塗布されていないリアクターでは、有機物は除去されるが、Mn(II)の除去はほとんど起こらなかった。
【0078】
一方、あらかじめMnOを塗布すると、運転開始15日にはMn(II)除去が確認された。30日に基質のMn(II)濃度を10mgMn(II)/Lに増加させてもMn(II)の除去は速やかに起こり、除去速度は大きくなり、マンガン酸化細菌が集積培養されたことを示している。
【実施例3】
【0079】
(基質として活性汚泥を用いたリアクターによる連続Mn(II)除去実験)
図1に示したのと同様のリアクターを構築した。リアクターには透明アクリル製円筒形カラム(内径40mm、外径50mm、体積約1.1L)の中に、微生物保持部材として2cm角のスポンジ20個(全容積0.16L)を直列に吊るしたDHSリアクターを使用した。
【0080】
スポンジには硝化細菌共生系を利用したMn(II)酸化バイオリアクターのマンガン酸化細菌を含むバイオマスを用いた。200mlのバイオマス(汚泥濃度約4000mgSSL−1)の中にスポンジを浸漬させ、しぼることでバイオマスを植種した。
【0081】
Mn(II)と微生物の代謝活動に必須な微量元素を含有する人工排水(表3に組成を示す)を0.9〜18L/day(水理学的滞留時間HRT 0.6〜12時間)の流量でリアクター上部から供給した。また、リアクターカラム内に同様の流量で空気を供給した。リアクターは25℃の恒温室内に設置した。運転開始時においてMn(II)濃度は5mg/Lである。
【0082】
【表3】
【0083】
有機基質としては、唯一、活性汚泥を供給した。活性汚泥の供給は間欠的に以下のように行った。
【0084】
210日、292日、384日、414日、444日、522日目にそれぞれ164mgCOD、164mgCOD、132mgCOD、95.5mgCOD、94mgCOD、569mgCOD相当の活性汚泥をリアクター上部から添加して供給した。
【0085】
また、Mn(II)除去能力に応じて、Mn(II)濃度と排水流量(HRT)を変更した(Mn(II)負荷の変更)。
【0086】
リアクターへの流入水および流出水の水質(pH、有機物(COD)濃度、Mn(II)濃度)を測定した。COD濃度並びにMn(II)濃度は吸光光度式水質分析器DR−2800(HACH社製)にて定量した。サンプルは全て0.45μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC社製)を用いて濾過処理を施した。
【0087】
Mn(II)除去速度の結果を図5に示す。有機性培地を供給しなくても、マンガン酸化細菌を含むバイオマスを植種した直後から僅かであるがMn(II)除去が見られた。
【0088】
経過日数とともにMn(II)除去は徐々に増加するが、ある期間を経過すると、逆にMn(II)除去速度が徐々に低下した。そこで、有機基質として活性汚泥を添加すると、Mn(II)除去速度が再び大きくなった。この活性汚泥の添加を間欠的に行うことで運転764日目において、Mn(II)除去速度は1.7kgMnm−3/dayに到達した。
【0089】
すなわち、マンガン酸化細菌は溶解性有機性基質でなくても、固形性の活性汚泥すなわち細菌の死骸を利用することができ、基質として産業廃棄物の活性汚泥を用いてマンガン酸化細菌は集積培養でき、しかもMn(II)除去速度は既存の方法よりも数倍高い性能が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
マンガン酸化細菌を集積培養でき、集積されたマンガン酸化細菌を利用して、バイオマンガン酸化物を効率的に生成させることができる。バイオマンガン酸化物は種々の金属を吸着させる特性を有することから、産業排水等からの金属の回収等に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 装置
11 容器
12 液体供給路
13 液体排出路
14 バルブ
15 バイオマンガン酸化物回収部
21 微生物保持部材
22 糸
31 ガス供給路
32 ガス排出路
図1
図2
図3
図4
図5