(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のマスク一体型表面保護テープは、半導体ウェハをプラズマダイシングにより分割、個別化して半導体チップを得る方法に用いられる。以下に説明するように、本発明のマスク一体型表面保護テープを用いることにより、プラズマダイシング工程に先立つフォトリソグラフィプロセスが不要となり、半導体チップないし半導体製品の製造コストを大幅に抑えることができる。
【0017】
<<マスク一体型表面保護テープ>>
本発明のマスク一体型表面保護テープは、基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた粘着剤層と、該粘着剤層上に設けられたマスク材層とを少なくとも有する。
なお、本発明および本明細書では、マスク材層を有さず、基材フィルム上に粘着剤層が設けられているテープを、単に、表面保護テープと称し、マスク材層を有するものをマスク一体型表面保護テープと称す。
【0018】
本発明のマスク一体型表面保護テープは、半導体ウェハの裏面研削の際に、半導体ウェハのパターン面(表面)を保護するために、このパターン面に貼り合わせて用いられる。
従って、通常の半導体ウェハ加工用表面保護テープと同様の粘着性を含めた性能が要求される。
具体的には、半導体ウェハのパターン面に形成された半導体素子を保護する機能を有する。すなわち、後工程のウェハ薄膜化工程(裏面研削工程)では半導体ウェハのパターン面で半導体ウェハを支持してウェハの裏面が研削されるために、マスク一体型表面保護テープはこの研削時の負荷に耐える必要がある。そのため、マスク一体型表面保護テープは単なるレジスト膜等とは異なり、パターン面に形成される素子を被覆するだけの厚みがあって、その押圧抵抗は低く、また、研削時のダストや研削水などの浸入が起こらないように素子を密着できるだけの密着性が高いものである。
これに加えて、プラズマダイシング方式に適し、プラズマダイシング方式を用いた半導体チップの製造においてフォトリソグラフィプロセスによるマスク形成を不要とする。
【0019】
このため、本発明のマスク一体型表面保護テープは、半導体チップの製造工程において、少なくとも下記工程(a)〜(d)を含む半導体チップの製造を可能とし、かつこの製造工程に適用することが好ましい。
【0020】
〔工程〕
(a)マスク一体型表面保護テープを半導体ウェハのパターン面側に貼り合せた状態で、該半導体ウェハの裏面を研削し、研削した半導体ウェハの裏面にウェハ固定テープを貼り合せ、リングフレームで支持固定する工程、
(b)マスク一体型表面保護テープか
ら基材フィルムと粘着剤層とを一体に剥離することで、マスク材層を表面に露出させた後、マスク材層のうち半導体ウェハのストリートに相当する部分をレーザーにより切断して半導体ウェハのストリートを開口する工程、
(c)プラズマ(例えばSF
6プラズマ)により半導体ウェハをストリートで分断して半導体チップに個片化するプラズマダイシング工程、および、
(d)プラズマ(例えばO
2プラズマ)によりマスク材層を除去するアッシング工程
【0021】
以下、基材フィルム、マスク材層および粘着剤層の順に説明する。
【0022】
<基材フィルム>
基材フィルムは単層構成でも、複数の層が積層した積層体であってもよい。
基材フィルムを構成する樹脂もしくはポリマー成分は、従来の半導体ウェハ加工用表面保護テープで使用される樹脂もしくはポリマー成分が用いられる。
例えば、ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂、さらには、(メタ)アクリル樹脂に加え、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ゴム類が挙げられ、これらを単体もしくは2種以上を混合させたものでも構わない。
【0023】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンの単独もしくは共重合体のポリエチレンもしくはポリプロピレンから選択されるポリオレフィン樹脂が挙げられ、本発明で好ましい。
なお、ポリエチレン、ポリプロピレンは、ホモポリエチレン、ホモポリプロピレン以外は、通常、密度を調整するため、α−オレフィンを共重合成分として含む。特に、ポリエチレンでは、このα−オレフィンは、一般には、5モル%以下である。
ポリエチレンの密度(比重)等により、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)に分類される。
ポリプロピレンは、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンが挙げられる。
【0024】
ポリエチレン樹脂としては、上記以外に、ポリスチレンもしくはその共重合体、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸もしくは(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマー等のα−オレフィンの単独重合体または共重合体、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。
【0025】
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PNT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)が挙げられる。
【0026】
本発明では、基材フィルムは、ポリオレフィン樹脂層又はポリエステル樹脂層を少なくとも有することが好ましく、ポリオレフィン樹脂層又はPET層を少なくとも有することがより好ましく、PET層がさらに好ましい。
【0027】
これらの基材フィルムは、一般的な押出し法を用いて製造できる。基材フィルムを種々の樹脂を積層して得る場合には、共押出し法、ラミネート法などで製造される。この際、通常のラミネートフィルムの製法に於いて普通に行われている様に、樹脂と樹脂の間に接着層を設けてもよい。
【0028】
本発明では、基材フィルムの厚さは、強・伸度特性、放射線透過性の観点から20〜200μmが好ましい。
【0029】
<マスク材層>
マスク材層は、プラズマダイシング工程でのSF
6などのプラズマ照射によるエッチング(ダイシング)から、半導体ウェハ表面を保護する層であり、開口工程で除去された半導体ウェハのストリート部分のみを選択的にエッチング(ダイシング)して、半導体ウェハの高精度な分割を可能とする層である。
本発明では、マスク材層は、半導体ウェハ表面のパターン面に貼り合わせて使用されるため、通常の半導体ウェハ加工用表面保護テープにおける粘着剤層と同様に、粘着性を含めた性能を有する。
【0030】
本発明では、上記工程(b)で、表面に露出したマスク材層のうち半導体ウェハのストリートに相当する部分をレーザーにより切断して半導体ウェハのストリートを開口する工程で、レーザー光を照射する。
照射されるレーザー光は、CO
2レーザー(炭酸ガスの気体レーザー)、YAGレーザー(イットリウム・アルミニウム・ガーネットを用いた固体レーザー)、半導体レーザーなど特に限定されるものではない。本発明では、なかでもYAGレーザーの第3高調波である355nmの紫外線領域のレーザーは各種材質に対して吸収率が非常に高く、熱ストレスをかけないため、高品質を求められる微細加工に使用され、ビーム径が長波長レーザーと比べ絞られるため、より微細な加工が可能であり、本発明に好適に利用できる。
【0031】
本発明では、マスク材層の放射線硬化後の破断伸度は50〜250%である。破断伸度が250%よりも高いと、マスク材層の半導体ウェハのストリート部の開口工程において、レーザー光によりマスク材層が溶融して残渣となり、半導体ウェハの表面に残留し、加工品質を悪化する恐れがある。また、破断伸度が50%よりも低いと、マスク材層が固すぎてレーザー光によりマスク材層が開口しきれずにマスク材層の残渣がデブリ(加工屑)として半導体ウェハの表面に残留し、加工品質が悪化する恐れがある。
マスク材層の放射線硬化後の破断伸度は、50〜150%が好ましく、50〜100%がより好ましい。
【0032】
また、本発明では、マスク材層の放射線硬化後の貯蔵弾性率は100,000Pa以上である。貯蔵弾性率が100,000Paより低いと、マスク材層の半導体ウェハのストリート部の開口工程において、マスク材層が柔らか過ぎレーザー光によりマスク材層が溶融して残渣となり、半導体ウェハの表面に残留し、加工品質が悪化する恐れがある。
マスク材層の放射線硬化後の貯蔵弾性率は、150,000〜300,000Paが好ましく、200,000〜300,000Paがより好ましい。
【0033】
上記のマスク材層の放射線硬化後の破断伸度および放射線硬化後の貯蔵弾性率において、放射線とは、後述する放射線硬化型マスク材層における放射線と同義である。
また、上記のマスク材層の放射線硬化後の破断伸度および放射線硬化後の貯蔵弾性率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
〔〔樹脂〕〕
マスク材層を構成する樹脂は、どのような樹脂でも構わないが、通常の半導体ウェハ加工用表面保護テープにおける粘着剤層を構成する粘着剤が好ましい。
粘着剤で使用される樹脂は、(メタ)アクリル共重合体が好ましい。
なお、本発明および本明細書では、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」を総称するもので、「アクリル」、「メタクリル」のいずれか一方であっても、これらの混合であっても構わない。例えば、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを意味するものである。
【0035】
このため、本発明では、マスク材層は、(メタ)アクリル共重合体を含有することが好ましい。なお、(メタ)アクリル共重合体を含有するとは、(メタ)アクリル共重合体が硬化剤と反応した状態で存在する形態を含む意味である。
【0036】
(メタ)アクリル共重合体は、異なった(メタ)アクリル酸エステルの2種以上の共重合体であっても、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アミドを含むエチレン性不飽和基を有するモノマーの共重合体であっても構わない。
ここで、エチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、上記以外に、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ビニルアルコール、酢酸ビニル、塩化ビニル、マレイン酸(エステル、酸無水物も含む)などが挙げられる。
本発明では、(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸から選択されるモノマーの共重合体が、より好ましい。また、1種類の共重合体であっても複数の共重合体の混合物であっても構わない。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステルであっても構わないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
また、(メタ)アクリル酸エステルのアルコール部(エステルを形成するアルコール)の炭素数は、1〜20が好ましく、1〜15がより好ましく、1〜12がさらに好ましい。
なお、(メタ)アクリル酸エステルのアルコール部は、置換基を有していてもよい。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルが挙げられる。
【0039】
上記(メタ)アクリル共重合体の全モノマー成分中、(メタ)アクリル酸エステル成分の割合は70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。また、(メタ)アクリル共重合体の全モノマー成分中、(メタ)アクリル酸エステル成分の割合が100モル%でない場合、残部のモノマー成分は(メタ)アクリロイル基を重合性基として重合した形態で存在するモノマー成分((メタ)アクリル酸等)であることが好ましい。
さらに、(メタ)アクリル共重合体の全モノマー成分中、後述する硬化剤と反応する官能基(例えばヒドロキシ基)を有する(メタ)アクリル酸エステル成分の割合は、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がより好ましい。なお、硬化剤と反応する官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル成分の割合は35モル%以下が好ましく、25モル%以下がより好ましい。
【0040】
これらの共重合体の質量平均分子量は、通常は30万〜100万程度である。
ここで、質量平均分子量は、GPCによってポリスチレン換算の分子量として計測することができる。
【0041】
マスク材層中の(メタ)アクリル共重合体の含有量(硬化剤と反応する前の状態に換算した含有量)は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95〜99.9質量%がより好ましい。
【0042】
〔〔硬化剤〕〕
マスク材層中の(メタ)アクリル共重合体は硬化されていることが好ましく、マスク材層形成用組成物に硬化剤を含有することが好ましい。
硬化剤は、(メタ)アクリル共重合体が有する官能基と反応させて粘着力および凝集力を調整するために用いられるものである。
硬化剤としては、例えば、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)トルエン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、N,N,N,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステルアクリレートなどの分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(以下、「エポキシ硬化剤」ともいう。)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびこれらのアダクトタイプなどの分子中に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(以下、「イソシアネート硬化剤」ともいう。)、テトラメチロール−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロール−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパン−トリ−β−(2−メチルアジリジン)プロピオネート、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、トリス[1−(2−メチル)−アジリジニル]ホスフィンオキシド、ヘキサ[1−(2−メチル)−アジリジニル]トリホスファトリアジンなどの分子中に2個以上のアジリジニル基を有するアジリジン化合物(アジリジン硬化剤)等が挙げられる。硬化剤の添加量は、所望の粘着力に応じて調整すればよく、(メタ)アクリル共重合体100質量部に対して0.1〜5.0質量部が適当である。本発明のマスク一体型表面保護テープのマスク材層において、硬化剤は(メタ)アクリル共重合体と反応した状態にある。
【0043】
<放射線硬化型マスク材層>
本発明では、マスク材層を放射線硬化型とすることで、マスク材層のみを半導体ウェハのパターン面に残し、剥離を容易にすることができる。
上記放射線硬化型に対して、非放射線硬化型とは、粘着剤と同様に、感圧型とも称し、上記で説明した樹脂および硬化剤で硬化された樹脂からなり、放射線の照射で硬化するエチレン性不飽和基を含む成分を含有しないものである。
【0044】
本発明では、マスク材層が放射線硬化型であるため、上記工程(b)において、マスク一体型表面保護テープからマスク材層のみを半導体ウェハ面上に残すことが容易になる。
具体的には、マスク一体型表面保護テープの基材フィルム側から、放射線を照射することで、マスク材層を硬化させることにより、マスク材層とこれに接する層との層間剥離性が向上し、マスク一体型表面保護テープから表面保護テープを剥離しやすくなる。
これは、放射線照射によってマスク材層が三次元網状化して粘着力が低下するため、マスク材層に接する層、例えば粘着剤層との強固な密着性が解かれて、マスク一体型表面保護テープのマスク材層に接する層、例えば粘着剤層から簡単に剥離することが可能となる。
ただし、放射線照射により、マスク材層と粘着剤層との密着力は、マスク材層と半導体ウェハのパターン面との間の密着力よりも低くなることが好ましい。
本発明および本明細書において「放射線」とは、紫外線のような光線や電子線のような電離性放射線の双方を含む意味に用いる。本発明では、放射線は紫外線が好ましい。
【0045】
マスク材層を放射線硬化型とするには、通常の半導体ウェハ加工用表面保護テープにおける放射線硬化型粘着剤と同様に、放射線により硬化し三次元網状化する性質を有すればよい。
放射線硬化型とするには、大きく分けて、(1)側鎖にエチレン性不飽和基(放射線重合性炭素−炭素二重結合でエチレン性二重結合とも称す)を有する樹脂(ポリマー)を含有するか、(2)上記の感圧型で使用する樹脂(ポリマー)とともに、分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和基を有する低分子量化合物(オリゴオマーを含み、以下、放射線重合性低分子量化合物とも称す)を含有させる。
本発明では、上記(1)、(2)のいずれでもよいが、(1)が好ましい。
【0046】
エチレン性不飽和基としては、ビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、などが挙げられる。
【0047】
〔(1)側鎖にエチレン性不飽和基を有する樹脂〕
側鎖にエチレン性不飽和基を有する樹脂は、側鎖に反応性の官能基(α)、例えば、ヒドロキシ基を有する共重合体と、この反応性官能基(α)と反応する官能基(β)、例えば、イソシアネート基を有し、かつエチレン性不飽和基を有する化合物と反応させることで得られる。反応性官能基βとエチレン性不飽和基を有する化合物としては、代表的には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。
【0048】
上記官能基(α)、(β)としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、環状酸無水物基、エポキシ基、イソシアネート基(−N=C=O)等が挙げられる。ここで、環状酸無水物基は、環状の酸無水物構造を有する基である。
上記官能基(α)と(β)の組み合わせは、例えば、求核置換反応の場合、一方が、求核剤で、他方が求電子剤である。
【0049】
側鎖にエチレン性不飽和基を有する樹脂は、(メタ)アクリル共重合体が好ましい。
(メタ)アクリル共重合体は、少なくとも、(メタ)アクリル酸エステルから得られる単位構造において、このエステルのアルコール部にエチレン性不飽和基を有する単位構造を有する重合体が好ましい。
また、上記(メタ)アクリル共重合体は、上記単位構造に加えて、アルコール部にエチレン性不飽和基を有さない(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、その他のエチレン性不飽和基を有するモノマーから得られる繰り返し単位を有することが好ましい。このうち、(メタ)アクリル酸エステルおよび/または(メタ)アクリル酸から得られる繰り返し単位を有することが好ましい。
特に、アルコール部の炭素数が8〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルから得られる繰り返し単位を有することが好ましい。
側鎖にエチレン性不飽和結合を有する(メタ)アクリル共重合体を構成するモノマー成分中、炭素数が8〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分の割合は、45〜85モル%が好ましく、50〜80モル%がより好ましい。
【0050】
側鎖にエチレン性不飽和基を有する樹脂は、特許第6034522号公報の段落番号0020〜0036に記載されているものが好ましく、本明細書では、該段落番号0020〜0036に記載の内容が好ましく組み込まれる。
【0051】
〔(2)放射線重合性低分子量化合物〕
放射線重合性低分子量化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートや、オリゴエステルアクリレート等の(メタ)アクリレート化合物を広く適用可能である。
【0052】
また、上記(メタ)アクリレート化合物のほかに、ウレタンアクリレートオリゴマーを用いることもできる。ウレタンアクリレートオリゴマーは、ポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアナート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシリレンジイソシアナート、ジフェニルメタン4,4−ジイソシアナートなど)を反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有するアクリレートあるいはメタクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなど)を反応させて得られる。
【0053】
(メタ)アクリル共重合体と放射線重合性低分子量化合物との配合比としては、(メタ)アクリル共重合体100質量部に対して放射線重合性低分子量化合物を50〜200質量部、好ましくは50〜150質量部の範囲で配合されるのが望ましい。この配合比の範囲である場合、放射線照射後に粘着力を大きく低下させることが可能となる。
【0054】
〔光ラジカル重合開始剤〕
放射線によりマスク材層を重合硬化させるには、光ラジカル重合開始剤を使用することで、効率よく重合反応を進行させることができ、好ましい。
光ラジカル重合開始剤は、アルキルフェノン型重合開始剤、ジアリールケトン型重合開始剤、ジアシル型重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド型重合開始剤、オキシムエステル型重合開始剤、ハロゲン化アルキル置換−1,3,5−トリアジン型重合開始剤、2,4,5−トリアリ−ルイミダゾール二量体(ロフィン二量体)が挙げられる。
本発明では、α位にヒドロキシ基を有するアルキルもしくはシクロアルキルフェノンが好ましい。
光ラジカル重合開始剤は、例えばイソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、ベンジルメチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等を用いることができる。これらのうち少なくとも1種類をマスク材層に添加することにより、効率よく重合反応を進行させることができる。
【0055】
〔硬化剤〕
放射線硬化型マスク材層を形成する樹脂においても、樹脂は硬化剤で硬化されていることが好ましい。特に、側鎖にエチレン性不飽和基を有する樹脂の場合、マスク材層形成用組成物に硬化剤を含有させて樹脂を硬化するのが好ましい。
硬化剤は、感圧型で挙げた硬化剤が好ましく、硬化剤の添加量は、含有する硬化前の樹脂、例えば(メタ)アクリル共重合体100質量部に対して0.1〜5.0質量部が適当である。本発明のマスク一体型表面保護テープのマスク材層において、硬化剤は(メタ)アクリル共重合体と反応した状態にある。
【0056】
〔紫外線吸収成分〕
本発明では、マスク材層は紫外線吸収成分を含有する。紫外線吸収成分としては、紫外線吸収剤を含有させるのが好ましい。
【0057】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は樹脂に対する相溶性に優れ、透明性が高く、少量の添加で紫外領域のレーザー光に対し高い吸収性能を有するため、本発明に好適に利用できる。
【0058】
紫外線吸収剤として、トリアジン骨格、ベンゾフェノン骨格、ベンゾトリアゾール骨格またはベンゾエート骨格を有する紫外線吸収剤のうち少なくとも1種を含有することが好ましい。
これらの紫外線吸収剤は、例えば、トリアジン骨格を有する化合物として、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0059】
ベンゾフェノン骨格を有する化合物として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチロキシベンゾフェノン、2,2’ ,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンが挙げられる。
【0060】
ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物として、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールが挙げられる。
【0061】
ベンゾエート骨格を有する化合物として、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−4’−ヒドロキシ−3’ ,5’−ジ−t−ブチルベンゾエート等が挙げられる。
【0062】
紫外線吸収剤は、市販されているものを使用してもよく、例えば、株式会社ADEKA製のアデカスタブLAシリーズ(LA−24、LA−29、LA−31、LA−32、LA−36、LA−F70、1413)、BASF社製のTINUVIN P、TINUBIN 234、TINUVIN 326、TINUVIN 329、TINUVIN 213、TINUVIN 571、TINUVIN 1577ED、CHIMASSORB 81、TINUVIN 120などが挙げられる。
【0063】
紫外線吸収剤は1種類でも2種以上併用してもよい。
紫外線吸収剤の添加量は、所望のレーザー光吸収性能に応じて調整すればよく、(メタ)アクリル共重合体100質量部に対して0.1〜5.0質量部が適当である。
【0064】
マスク材層の厚さは、プラズマアッシングでの除去速度の観点から、5〜100μmが好ましく、5〜40μmがより好ましい。
【0065】
<粘着剤層>
本発明のマスク一体型表面保護テープは、基材フィルムと、該基材フィルム上に設けられた粘着剤層と、該粘着剤層上に設けられたマスク材層とを少なくとも有する。すなわち、表面保護テープの粘着剤層上にマスク材層を有する。
【0066】
粘着剤層は、マスク材層と共に、半導体ウェハのパターン面に形成される素子の凹凸を吸収してパターン面との密着性を高め、パターン面を保護する役割を担う。マスク一体型表面保護テープをウェハ薄膜化工程の負荷に耐えるものとするために、粘着剤層は、ウェハ薄膜化工程においてはマスク材層との密着性が高いことが好ましい。一方、ウェハ薄膜化工程後においては、基材フィルムと一体となってマスク材層と剥離されるために、マスク材層との密着性は低いことが好ましい(剥離性が高いことが好ましい)。
【0067】
粘着剤層を構成する粘着剤は、従来の半導体ウェハ加工用表面保護テープで使用される粘着剤が使用できる。
粘着剤は、放射線硬化型粘着剤および感圧型粘着剤のいずれでもよいが、マスク材層が放射線硬化型である場合、感圧型粘着剤が好ましく、マスク材層が感圧型である場合、放射線硬化型粘着剤が好ましい。
このため、本発明では、マスク材層が放射線硬化型であるため、感圧型粘着剤が好ましい。
【0068】
本発明では、粘着剤層に紫外線吸収成分を含んでもよく、紫外線吸収成分を含まなくともよい。
【0069】
粘着剤層の厚さは、パターン面に形成された素子等の保護能をより高め、また半導体ウェハのパターン面への密着性をより高める観点から、5〜100μmが好ましい。なお、デバイスの種類にもよるが、半導体ウェハのパターン表面の凹凸は概ね数μm〜15μm程度であるため、粘着剤層の厚さは5〜30μmがより好ましい。
また、デバイスの種類にもよるが、粘着剤層の厚さは、マスク材層の厚さ以上が好ましく、マスク材層の厚さより厚い場合が、より好ましい。
【0070】
本発明のマスク一体型表面保護テープは、分
図1(b)、(c)で示されるような構成である。
分
図1(b)、(c)において、マスク一体型表面保護テープ3は基材フィルム3aa上に粘着剤層3abを有し、この粘着剤層3ab上にマスク材層3bを有する。
ここで、基材フィルム3aaと粘着剤層3abが表面保護テープ3aである。
【0071】
本発明では、マスク材層や粘着剤層は、従来の半導体ウェハ加工用表面保護テープで使用される樹脂、硬化剤、光ラジカル重合開始剤以外の成分を含有してもよい。
【0072】
<<半導体チップの製造方法>>
本発明では、特に、下記工程(a)〜(d)を含む工程で、半導体チップを製造することが好ましい。
【0073】
〔工程〕
(a)マスク一体型表面保護テープを半導体ウェハのパターン面側に貼り合せた状態で、半導体ウェハの裏面を研削し、研削した半導体ウェハの裏面にウェハ固定テープを貼り合せ、リングフレームで支持固定する工程、
(b)マスク一体型表面保護テープか
ら基材フィルム
と粘着剤層とを一体に剥離することで、マスク材層を表面に露出させた後、マスク材層のうち半導体ウェハのストリートに相当する部分をレーザーにより切断して半導体ウェハのストリートを開口する工程、
(c)プラズマ(例えばSF
6プラズマ)により半導体ウェハをストリートで分断して半導体チップに個片化するプラズマダイシング工程、および、
(d)プラズマ(例えばO
2プラズマ)によりマスク材層を除去するアッシング工程
【0074】
半導体ウェハの製造方法では、本発明のマスク一体型表面保護テープを使用することで、上記工程(a)〜(d)を含む工程で、半導体チップを製造することが可能となった。
【0075】
本発明のマスク一体型表面保護テープが適用される上記半導体チップの製造方法は、上記工程(d)の後、下記工程(e)を含むことが好ましい。また下記工程(e)を含む場合、この工程(e)の後、さらに下記工程(f)を含むことが好ましい。
(e)ウェハ固定テープから半導体チップをピックアップする工程
(f)ピックアップした半導体チップをダイボンディング工程に移行する工程
【0076】
本発明のマスク一体型表面保護テープを用いた半導体チップの製造方法(以下、単に「本発明が適用される製造方法」とも称す。)について、その好ましい実施形態を、図面を参照して以下に説明するが、本発明は、本発明で規定されること以外は下記実施形態に限定されるものではない。また、各図面に示される形態は、本発明の理解を容易にするための模式図であり、各部材のサイズ、厚み、ないしは相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。
【0077】
本発明が適用される製造方法の好ましい実施形態は、下記に示す第1および2の実施形態に分類することができる。
なお、下記の実施形態に用いる装置およびマスク一体型表面保護テープ以外の材料は、特に断りのない限り、従来から半導体ウェハの加工に用いられている通常の装置および材料等を使用することができ、その使用条件も通常の使用方法の範囲内で目的に応じて適宜に設定、好適化することができる。また、各実施形態で共通する材質、構造、方法、効果などについては重複記載を省略する。
【0078】
<第1実施形態[
図1〜
図5]>
本発明が適用される製造方法の第1の実施形態を
図1〜
図5を参照して説明する。
なお、これらの図は、前記のように、層構成を示す模式図であって、基材フィルム、粘着剤層、マスク材層の各厚さを実態に即して反映するものではない。基材フィルムや、各層の厚さは、既に記載したマスク一体型表面保護テープで説明されている内容が適用される。
【0079】
半導体ウェハ1は、その表面Sに半導体素子の回路などが形成されたパターン面2を有している(分
図1(a)参照)。このパターン面2には、基材フィルム3aaに粘着剤層3abを設けた表面保護テープ3aの粘着剤層3ab上に、さらにマスク材層3bを設けた本発明のマスク一体型表面保護テープ3を貼合し(分
図1(b)参照)、パターン面2が本発明のマスク一体型表面保護テープ3で被覆された半導体ウェハ1を得る(分
図1(c)参照)。
【0080】
次に、半導体ウェハ1の裏面Bをウェハ研削装置M1で研削し、半導体ウェハ1の厚みを薄くする(分
図2(a)参照)。その研削した裏面Bにはウェハ固定テープ4を貼り合わせて(分
図2(b)参照)、リングフレームFに支持固定する(分
図2(c)参照)。
【0081】
半導体ウェハ1からマスク一体型表面保護テープ3の表面保護テープ3aを剥離するとともにそのマスク材層3bは半導体ウェハ1に残して(分
図3(a)参照)、マスク材層3bを剥き出しにする(分
図3(b)参照)。そして、表面Sの側からパターン面2に格子状等に適宜形成された複数のストリート(図示せず)に対してレーザーLを照射して、マスク材層3bのストリートに相当する部分を除去し、半導体ウェハ1のストリートを開口する(分
図3(c)参照)。
【0082】
マスク材層3bを切断するレーザー照射には、紫外線または赤外線のレーザー光を照射するレーザー照射装置を用いることができる。このレーザー光照射装置は、半導体ウェハ1のストリートに沿って移動自在にレーザー照射部が配設されており、マスク材層3bを除去するために適切に制御された出力のレーザーを照射できる。
なお、レーザーはCO
2やYAGなど特に限定されるものではないが、なかでもYAGレーザーの第3高調波である355nmの紫外線領域のレーザーは各種材質に対して吸収率が非常に高く、熱ストレスをかけないため、高品質を求められる微細加工に使用され、ビーム径が長波長レーザーと比べ絞られるため、より微細な加工が可能であり、本発明に好適に利用できる。
【0083】
次に、表面S側からSF
6ガスのプラズマP1による処理を行いストリート部分で剥き出しになった半導体ウェハ1をエッチングし(分
図4(a)参照)、個々のチップ7に分割して個片化する(分
図4(b)参照)、次いでO
2ガスのプラズマP2によってアッシングを行い(分
図4(c)参照)、表面Sに残ったマスク材層3bを取り除く(分
図5(a)参照)。そして最後に個片化されたチップ7をピンM2により突き上げコレットM3により吸着してピックアップする(分
図5(b)参照)。
【0084】
ここで、SF
6ガスを用いた半導体ウェハのSiのエッチングプロセスはBOSCHプロセスとも呼ばれ、露出したSiと、SF
6をプラズマ化して生成したF原子とを反応させ、四フッ化ケイ素(SiF
4)として除去するものであり、リアクティブイオンエッチング(RIE)とも呼ばれる。一方、O
2プラズマによる除去は、半導体製造プロセス中ではプラズマクリーナーとしても用いられる方法でアッシング(灰化)とも呼ばれ、対有機物除去の手法の一つである。半導体デバイス表面に残った有機物残渣をクリーニングするために行われる。
【0085】
次に、上記方法で用いた材料について説明する。なお、下記で説明する材料は、本発明のマスク一体型表面保護テープ全てに適用可能な材料であり、マスク一体型表面保護テープを上記方法に用いる場合に限定して適用される材料ではない。
【0086】
半導体ウェハ1は、片面に半導体素子の回路などが形成されたパターン面2を有するシリコンウェハなどであり、パターン面2は、半導体素子の回路などが形成された面であって、平面視においてストリートを有する。
【0087】
ウェハ固定テープ4は、半導体ウェハ1を保持し、プラズマダイシング工程にさらされても耐えうるプラズマ耐性が必要である。またピックアップ工程においては良好なピックアップ性や場合によってはエキスパンド性等も要求されるものである。こうしたウェハ固定テープ4には、上記表面保護テープ3aと同様のテープを用いることができる。また一般的にダイシングテープと称される従来のプラズマダイシング方式で利用される公知のダイシングテープを用いることができる。また、ピックアップ後のダイボンディング工程への移行を容易にするために、粘着剤層と基材フィルムとの間にダイボンディング用接着剤を積層したダイシングダイボンディングテープを用いることもできる。
【0088】
プラズマダイシングおよびプラズマアッシングを行うにはプラズマエッチング装置を用いることができる。プラズマエッチング装置は、半導体ウェハ1に対してドライエッチングを行い得る装置であって、真空チャンバ内に密閉処理空間をつくり、高周波側電極に半導体ウェハ1が載置され、その高周波側電極に対向して設けられたガス供給電極側からプラズマ発生用ガスが供給されるものである。高周波側電極に高周波電圧が印加されればガス供給電極と高周波側電極との間にプラズマが発生するため、このプラズマを利用する。発熱する高周波電極内には冷媒を循環させて、プラズマの熱による半導体ウェハ1の昇温を防止している。
【0089】
上記半導体チップの製造方法(半導体ウェハの処理方法)によれば、パターン面を保護する表面保護テープにプラズマダイシングにおけるマスク機能を持たせたことで、従来のプラズマダイシングプロセスで用いられていたレジストを設けるためのフォトリソ工程等が不要となる。特に表面保護テープを用いたため、マスクの形成に印刷や転写等の高度な位置合わせが要求される技術が不要で簡単に半導体ウェハ表面に貼合でき、レーザー装置により簡単にマスクを形成できる。
また、マスク材層3bをO
2プラズマで除去できるため、プラズマダイシングを行う装置と同じ装置でマスク部分の除去ができる。加えてパターン面2側(表面S側)からプラズマダイシングを行うため、ピッキング作業前にチップの上下を反転させる必要がない。これらの理由から設備を簡易化でき、プロセスコストを大幅に抑えることができる。
【0090】
<第2実施形態[
図6]>
本実施形態では第1実施形態における表面保護テープ3aを剥離する工程の前に、マスク一体型表面保護テープ3に紫外線等の放射線を照射してマスク材層や粘着剤層を硬化させる工程を含む点で第1実施形態と異なる。その他の工程は第1実施形態と同じである。
なお、本発明では、粘着剤層でなく、マスク材層を硬化させることが好ましい。
【0091】
すなわち、半導体ウェハ1の表面S側にはマスク一体型表面保護テープ3を貼合し、半導体ウェハ1の研削した裏面B側にはウェハ固定テープ4を貼合し、リングフレームFに支持固定した(分
図2(c)、分
図6(a)参照)後、表面S側からマスク一体型表面保護テープ3に向けて紫外線UVを照射する(分
図6(b)参照)。そして、マスク一体型表面保護テープ3のマスク材層3bを硬化させた後、表面保護テープ3aを取り除いて(分
図6(c)参照)マスク材層3bを剥き出しにする。その後、レーザーLによりストリートに相当する部分のマスク材層3bを切除する工程に移る。
なお、紫外線の照射は、例えば、紫外線を積算照射量500mJ/cm
2となるように、マスク一体型表面保護テープ全体に、基材フィルム側から照射する。紫外線照射には高圧水銀灯を用いることが好ましい。
【0092】
本実施形態で用いるマスク一体型表面保護テープは、第1実施形態で示したマスク一体型表面保護テープ3の中でも紫外線等の放射線で硬化可能な材質をマスク材層3bに用いたものである。
マスク材層3bを紫外線等で硬化させることにより、表面保護テープ3aとマスク材層3bとの剥離が容易になる。
【0093】
上記各実施形態は本発明の一例であり、こうした形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限度において、各プロセスにおける公知のプロセスの付加や削除、変更等を行い得るものである。
【実施例】
【0094】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0095】
実施例1
<マスク一体型表面保護テープの作製>
アクリル酸20mol%、2−エチルヘキシルアクリレート75mol%、メチルアクリレート5mol%を混合し、酢酸エチル溶液中で重合することにより(メタ)アクリル共重合体(質量平均分子量:50万、水酸基価:0mgKOH/g、酸価:48.8mgKOH/g、Tg:−45℃)を合成した。
この(メタ)アクリル共重合体の溶液に該共重合体100質量部に対して、硬化剤としてTETRAD−X〔三菱ガス化学(株)社製、エポキシ系硬化剤〕を0.5質量部配合し、粘着剤組成物Aを得た。
【0096】
メタクリル酸2.0mol%、ブチルアクリレート69mol%、2−ヒドロキシエチルアクリレート29mol%を混合し、酢酸エチル溶液中で重合することにより質量平均分子量60万の(メタ)アクリル共重合体の溶液を得た。
得られた共重合体に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート〔商品名:カレンズMOI、昭和電工(株)社製〕を付加することで、エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体b(質量平均分子量:60万、二重結合量:0.90meq/g、水酸基価:33.8mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−43℃)を得た。
このエチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体b100質量部に対し、硬化剤としてコロネートL〔日本ポリウレタン工業(株)社製、イソシアネート系硬化剤〕を0.5質量部、光ラジカル重合開始剤としてイルガキュア184(BASF社製)を2.0質量部配合し、紫外線吸収剤としてLA−F70(株式会社ADEKA製、トリアジン骨格の紫外線吸収剤)を0.75質量部配合し、マスク材層形成用組成物Bを得た。
【0097】
上記粘着剤組成物Aを剥離ライナー上に乾燥後の厚みが20μmとなるように塗工し、形成された粘着剤層3abを厚さ50μmのPETフィルムである基材フィルム3aaに貼り合せ、厚さ70μmの表面保護テープ3aを得た。
【0098】
さらに、マスク材層形成用組成物Bを剥離ライナー上に乾燥後の厚みが30μmとなるように塗工し、形成されたマスク材層3bを、上記表面保護テープ3aの剥離ライナーを剥がして露出させた粘着剤層表面に貼り合せることで、総厚100μmの紫外線硬化型のマスク一体型表面保護テープ3を作製した。
【0099】
<半導体チップの製造>
ラミネータDR8500III〔商品名:日東精機(株)社製〕を用いて、スクライブライン(ストリート)付シリコンウェハ(直径8インチ)表面に、上記で得られた紫外線硬化型のマスク一体型表面保護テープを貼り合わせた。
その後、DGP8760〔商品名:ディスコ(株)社製〕を用いて、上記マスク一体型表面保護テープを貼り合わせた面とは反対の面(ウェハの裏面)を、ウェハの厚さが50μmになるまで研削した。研削後のウェハを、RAD−2700F〔商品名:リンテック(株)社製〕を用いて、ウェハ裏面側からダイシングテープ(ウェハ固定テープ)上にマウントし、リングフレームにて支持固定した(工程(a))。
【0100】
固定後に、紫外線硬化型のマスク一体型テープ側から高圧水銀ランプを用いて500mJ/cm
2の紫外線を照射することでマスク材層3bと表面保護テープ3aとの間の密着力を落とし、表面保護テープ3aのみを剥離し、ウェハ上にマスク材層3bのみを残した。
次に355nm波長のYAGレーザーでスクライブライン上のマスク材層を除去し、スクライブラインを開口した(工程(b))。
【0101】
その後、プラズマ発生用ガスとしてSF
6ガスを用い、シリコンウェハを15μm/分のエッチング速度で5分間、マスク材層側からプラズマ照射した。このプラズマダイシングによりウェハを切断して個々のチップに分割した(工程(c))。
【0102】
次いで、プラズマ発生用ガスとしてO
2ガスを用い、1.5μm/分のエッチング速度で10分間アッシングを行い、マスク材層3bを除去した(工程(d))。
【0103】
その後、ダイシングテープ側から紫外線を照射し(照射量200mJ/cm
2)、ダイシングテープの粘着力を低減させ、チップをピックアップした。
【0104】
実施例2〜5、比較例1〜3
エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体bの作製において、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート〔商品名:カレンズMOI、昭和電工(株)社製〕の付加量を調整することで、下記エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体c〜iを調製した。
続けて、マスク材層形成用組成物Bの作製において、エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体bに代えて、それぞれ、上記エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体c〜iを用いることで、マスク材層形成用組成物C〜Iを得た。
エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体c(質量平均分子量:60万、二重結合量:0.80meq/g、水酸基価:40.6mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−43℃)
エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体d(質量平均分子量:60万、二重結合量:0.60meq/g、水酸基価:54.6mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−43℃)
エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体e(質量平均分子量:60万、二重結合量:0.50meq/g、水酸基価:61.5mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−43℃)
エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体f(質量平均分子量:60万、二重結合量:0.30meq/g、水酸基価:75.4mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−43℃)
エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体g(質量平均分子量:60万、二重結合量:1.00meq/g、水酸基価:26.8mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−43℃)
エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体h(質量平均分子量:60万、二重結合量:0.20meq/g、水酸基価:82.4mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−43℃)
エチレン性不飽和基含有(メタ)アクリル共重合体i(質量平均分子量:60万、二重結合量:0.20meq/g、水酸基価:82.4mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−43℃)
【0105】
マスク材層形成用組成物Bに代えて、それぞれ、マスク材層形成用組成物C〜Iを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5および比較例1〜3のマスク一体型表面保護テープを作製し、実施例1と同様にして半導体チップを作製した。
【0106】
<特性および性能評価>
上記のようにして得られた各マスク材層3bの放射線硬化後の破断伸度および放射線硬化後の弾性率を、それぞれ下記の試験例1および2に従い測定した。
また、実施例1〜5、比較例1〜3で作製した各マスク一体型表面保護テープのレーザー照射によるウェハストリート部の開口性およびO
2プラズマアッシングによるマスク材層の除去性を、下記の試験例3および4に従い評価した。
【0107】
[試験例1] マスク材層の放射線硬化後の破断伸度
マスク材層の放射線硬化後の破断伸度は以下の方法で測定した。
上記で調製した各マスク材層形成用組成物を剥離ライナー上に塗工し、紫外線照射(500mJ/cm
2)を行うことで、厚み30μmの、紫外線照射されたマスク材層を形成した。この紫外線照射されたマスク材層を、剥離ライナーを剥がして積層し(紫外線照射したマスク材層を50層、積層し)、厚さ1.5mmの紫外線照射されたマスク材層の積層体を作製した。積層したマスク材層から幅10mm、長さ50mmのサンプルを切り出し、JIS B 7721に適合する引張試験機を用いて、チャック間距離10mm、引張速度300mm/minでサンプルを引張り、マスク材層が破断した際の伸び量を測定した。
【0108】
[試験例2] マスク材層の放射線硬化後の貯蔵弾性率
マスク材層の放射線硬化後の貯蔵弾性率は以下の方法で測定した。
上記で調製した各マスク材層形成用組成物を剥離ライナー上に塗工し、紫外線照射(500mJ/cm
2)を行うことで、厚み30μmの、紫外線照射されたマスク材層を形成した。この紫外線照射されたマスク材層を、剥離ライナーを剥がして積層し(紫外線照射したマスク材層を100層、積層し)、厚さ3mmの紫外線照射されたマスク材層の積層体を作製した。積層したマスク材層から8mmφ×3mmのサンプルを切り出し、円柱測定器:DYNAMIC ANALYZER RDA II (REOMETRIC 社製)を用いて、測定周波数:1Hzの条件で捻り剪断法にてマスク材層の貯蔵弾性率G’を測定した。
【0109】
[試験例3] レーザー照射によるウェハストリート部の開口性
上記半導体チップの製造工程の工程(b)において、各実施例および比較例で、マスク材層に355nmのYAGレーザーを照射して、マスク材層のストリートに相当する部分を除去した際の、半導体ウェハのストリート部の開口性を下記評価基準により評価した。
具体的には、平均出力2.5W、繰り返し周波数1kHzのYAGレーザーの第三高周波(355nm)をfθレンズによりシリコンウェハ表面に25μm径に集光して、ガルバノスキャナーによりレーザー光を照射した。また、レーザー光は、2.5mm/秒の速度でスキャンして、1ラインあたり2回のレーザー照射を繰り返した。
【0110】
−レーザー照射によるウェハストリート部の開口性の評価基準−
◎:ストリートが開口可能であり、マスク材層の残渣物が生じなかった
○:ストリートが開口可能であったが、マスク材層の残渣物が少量生じた
△:ストリートが開口可能であったが、マスク材層の残渣物が多量に生じた
×:マスク材層が除去できず、ストリートの開口が不可能であった
【0111】
[試験例4] O
2プラズマアッシングによるマスク材層の除去性
上記半導体チップの製造工程の工程(d)において、各実施例および比較例でのO
2プラズマアッシング(1.5μm/分のエッチング速度で10分間アッシング)後のマスク材層の残留の有無を、レーザー顕微鏡〔商品名:VK−X100、キーエンス(株)社製〕を用い、表面の横640μm×縦480μmの範囲における3次元情報(拡大率400倍)で調べた。
【0112】
−マスク材層の除去性の評価基準−
○:マスク材層の残留が観測されない(残留無)
×:マスク材層の残留が明らかに観測される(残留有)
【0113】
試験例1〜4で得られた結果を下記表1および2に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
上記実施例1〜5における各試験例の結果から、半導体ウェハを加工して半導体チップを製造するに際し、本発明のマスク一体型表面保護テープを用いることにより、半導体ウェハのパターン面にマスク一体型表面保護テープ3を貼り付け、貼り付けたマスク一体型表面保護テープ3から表面保護テープ3aを剥離するだけで、糊残りを生じずに簡単にマスクを形成することがでた。
しかも、本発明のマスク一体型表面保護テープを用いることにより、半導体ウェハのストリートをレーザー照射で問題なく開口でき、さらに、マスク材層3bはO
2プラズマによってより確実に除去することができ、レーザー加工時におけるデブリ発生の防止に優れ、不良チップの発生を高度に抑制できることがわかった。
【0117】
これに対し、マスク材層の放射線硬化後の破断伸度が50%を下回った比較例1ではレーザー照射で半導体ウェハのストリート部を開口する際、レーザー加工時におけるデブリの発生が多すぎ、O
2プラズマによって完全に除去できない残渣が残り、不良チップが発生した。
【0118】
また、マスク材層の放射線硬化後の破断伸度が250%を超えた比較例2ではレーザー照射で半導体ウェハのストリート部を開口する際、カット時の熱でマスク材の溶融が発生し、O
2プラズマによって完全に除去できない残渣が残り、不良チップが発生した。
【0119】
さらに、比較例3はマスク材層の放射線硬化後の破断伸度が50〜250%の範囲内であったが、放射線硬化後の貯蔵弾性率が100,000Paを下回り、カット時の熱でマスク材の溶融が発生し、O
2プラズマによって完全に除去できない残渣が残り、不良チップが発生した。