(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720495
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】モールド加工電線及びモールド加工ケーブル並びにモールド加工電線用電線及びモールド加工ケーブル用ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20200629BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20200629BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20200629BHJP
H02G 1/14 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
H01B7/295
H01B7/02 F
H01B7/00 306
H02G1/14 050
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-199758(P2015-199758)
(22)【出願日】2015年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-73282(P2017-73282A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099597
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 賢二
(74)【代理人】
【識別番号】100124235
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】杉田 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】中山 明成
【審査官】
神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−018957(JP,A)
【文献】
特開平04−253110(JP,A)
【文献】
特開2007−095439(JP,A)
【文献】
特開2014−141650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/295
H01B 7/00
H01B 7/02
H02G 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、
前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層と、
前記導体の露出された端末部及び前記露出された端末部側の前記絶縁体外層の端末部を被覆し、前記絶縁体外層に融着されたモールド樹脂成形体とを備え、
前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が45%以上であり、かつ前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が71%以下であり、
前記熱可塑性ポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンを単独で用いたものであるモールド加工電線。
【請求項2】
前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が50%以上である請求項1に記載のモールド加工電線。
【請求項3】
前記モールド樹脂成形体が、ポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂からなる請求項1又は請求項2に記載のモールド加工電線。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタン組成物は、前記熱可塑性ポリウレタンに加工助剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、滑剤、無機充填剤、接着性付与剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤の少なくとも1つの添加剤が加えられたものである請求項1〜3いずれか1項に記載のモールド加工電線。
【請求項5】
導体と、
前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、
前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層と、
前記絶縁体外層の外周に設けられた外被と、
前記導体の露出された端末部及び前記露出された端末部側の前記絶縁体外層の端末部を被覆し、前記絶縁体外層に融着されたモールド樹脂成形体とを備え、
前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が71%以下であり、
前記熱可塑性ポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンを単独で用いたものである
モールド加工ケーブル。
【請求項6】
前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が50%以上である請求項5に記載のモールド加工ケーブル。
【請求項7】
前記モールド樹脂成形体が、ポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂からなる請求項5又は請求項6に記載のモールド加工ケーブル。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリウレタン組成物は、前記熱可塑性ポリウレタンに加工助剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、滑剤、無機充填剤、接着性付与剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤の少なくとも1つの添加剤が加えられたものである請求項5〜7いずれか1項に記載のモールド加工ケーブル。
【請求項9】
導体と、
前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、
前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層とを備え、
前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が45%以上であり、かつ前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が71%以下であり、
前記熱可塑性ポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンを単独で用いたものであるモールド加工電線用電線。
【請求項10】
導体と、
前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、
前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層と、
前記絶縁体外層の外周に設けられた外被とを備え、
前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が45%以上であり、かつ前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が71%以下であり、
前記熱可塑性ポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンを単独で用いたものであるモールド加工ケーブル用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド加工電線及びモールド加工ケーブル並びにモールド加工電線用電線及びモールド加工ケーブル用ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケーブルにセンサーなどの機器部品を電極端子や電子回路を介して接続する場合、その接続部及びその周囲をモールド樹脂によって被覆し保護することが一般的に実施されている。
【0003】
これらのセンサーなどの機器部品は、高い信頼性が要求される自動車、ロボット、電子機器等に使用されるため、モールド樹脂成形体とケーブルとの間の気密性は極めて重要な特性の一つである。このため、ケーブルシースにはモールド樹脂と接着性に優れる材料を使用することが求められる。
【0004】
上記のようなモールド加工されたケーブルの構造例として
図5に示すモールド加工ケーブルが挙げられる。
【0005】
モールド加工ケーブル130は、ケーブル200のシース4の端末及び電線100の絶縁体12の端末が取り除かれ、露出された導体1が電極端子31に接続されることでセンサー32に接続された構造をとる。モールド樹脂成形体30は、上記ケーブル端末を囲む形状で被覆され、シース4の端末までを保護している。
【0006】
上記用途ではケーブルのシース材料として熱可塑性ポリウレタンが一般的に使用されており、モールド樹脂としてはポリアミド樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂が主に使用されている(特許文献1参照)。
【0007】
一方、センサーなどの機器部品の小型化及び配策性向上のため、ケーブルシースの端部ではなく電線の絶縁体端部にモールド樹脂を融着する
図3のような構造が新たに考案されている。
【0008】
図3の構造では、モールド樹脂の容積を減らすことができるため、従来よりも小型化が可能となる。また、モールド樹脂成形体から突き出た部分が従来の太いケーブル(
図5)から細い絶縁電線(
図3)に変わるため、モールド部近傍における曲げ半径を小さくすることができ、配策性が向上する(省スペース化が可能となる)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−95439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図3の構造において、一般的な架橋ポリエチレン系樹脂を絶縁体に用いるとモールド樹脂との接着が弱いため、十分な気密性が得られない。そこで、モールド樹脂との接着性に優れる熱可塑性ポリウレタンを絶縁体として用いる手法が考えられる。
【0011】
しかし、一般的に、熱可塑性ポリウレタンは、粘着性が強く、電線同士がくっつくため、引き出し時や撚り合わせ時の取扱性(作業性)が低下するという問題がある。また熱可塑性ポリウレタンは、導体との密着力が強いため、端末加工時の皮剥き作業が困難という問題があった。さらに、耐熱性付与のために架橋すると、ポリエチレン系樹脂と同様にモールド樹脂との接着性が低下し、十分な気密性が得られない問題がある。
【0012】
また、電線・ケーブルには近年益々高い耐熱性が要求されており、被覆材には電子線照射などにより架橋処理を施した樹脂組成物が適用されている。また、電線・ケーブルには機械的強度(引張伸び)に優れていることも要求されている。
【0013】
従って、本発明の目的は、上記課題を解決し、取扱性(作業性)、端末加工性、気密性、耐熱性、及び機械的強度(引張伸び)に優れるモールド加工電線及びモールド加工ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するために、下記のモールド加工電線及びモールド加工ケーブル並びにモールド加工電線用電線及びモールド加工ケーブル用ケーブルを提供する。
【0015】
[1]導体と、前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層と、前記導体の露出された端末部及び前記露出された端末部側の前記絶縁体外層の端末部を被覆し、前記絶縁体外層に融着されたモールド樹脂成形体とを備え、前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が45%以上であり、かつ前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が71%以下であるモールド加工電線。
[2]前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が50%以上であり、かつ前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が70%以下である前記[1]に記載のモールド加工電線。
[3]前記モールド樹脂成形体が、ポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂からなる前記[1]又は前記[2]に記載のモールド加工電線。
[4]導体と、前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層と、前記絶縁体外層の外周に設けられた外被と、前記導体の露出された端末部及び前記露出された端末部側の前記絶縁体外層の端末部を被覆し、前記絶縁体外層に融着されたモールド樹脂成形体とを備えたモールド加工ケーブル。
[5]前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が50%以上であり、かつ前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が70%以下である前記[4]に記載のモールド加工ケーブル。
[6]前記モールド樹脂成形体が、ポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂からなる前記[4]又は前記[5]に記載のモールド加工ケーブル。
[7]導体と、前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層とを備え、前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が45%以上であり、かつ前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が71%以下であるモールド加工電線用電線。
[8]導体と、前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層と、前記絶縁体外層の外周に設けられた外被とを備え、前記エチレン系樹脂組成物のゲル分率が45%以上であり、かつ前記熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率が71%以下であるモールド加工ケーブル用ケーブル。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、取扱性(作業性)、端末加工性、気密性、耐熱性、及び機械的強度(引張伸び)に優れるモールド加工電線及びモールド加工ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係るモールド加工電線及びモールド加工ケーブルに使用される電線の一例を示す横断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルに使用されるケーブルの一例を示す横断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルの一例を示す横断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルの別の一例を示す横断面図である。
【
図5】従来のモールド加工ケーブルを示す横断面図である。
【
図6】実施例及び比較例のモールド加工電線における電線とモールド樹脂成形体の間の気密性を試験する試験装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔モールド加工電線・ケーブル〕
本発明の実施の形態に係るモールド加工電線は、導体と、前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層と、前記導体の露出された端末部及び前記露出された端末部側の前記絶縁体外層の端末部を被覆し、前記絶縁体外層に融着されたモールド樹脂成形体とを備える。モールド樹脂成形体を除く上記構成を備えた絶縁電線が、本発明の実施の形態に係るモールド加工電線用電線である。
【0019】
また、本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルは、導体と、前記導体の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層と、前記絶縁体内層の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層と、前記絶縁体外層の外周に設けられた外被と、前記導体の露出された端末部及び前記露出された端末部側の前記絶縁体外層の端末部を被覆し、前記絶縁体外層に融着されたモールド樹脂成形体とを備える。モールド樹脂成形体を除く上記構成を備えたケーブルが、本発明の実施の形態に係るモールド加工電線用ケーブルである。
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳述する。
初めに本発明の実施の形態に係るモールド加工電線・ケーブルを構成する電線・ケーブルについて説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係るモールド加工電線及びモールド加工ケーブルに使用される電線の一例を示す横断面図であり、
図2は、本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルに使用されるケーブルの一例を示す横断面図である。
【0022】
図1に示される本発明の実施の形態に係るモールド加工電線及びモールド加工ケーブルに使用される電線10は、導体1と、導体1の外周に設けられた、架橋されたエチレン系樹脂組成物からなる絶縁体内層2と、絶縁体内層2の外周に設けられた、架橋された熱可塑性ポリウレタン組成物からなり、表面の算術平均粗さ(Ra)が5〜100μmである絶縁体外層3とを備える。絶縁体層は、上記2層構造のみからなることが好ましいが、本発明の効果を奏する限りにおいてその他の絶縁体層を設けても良い。
【0023】
一方、
図2に示される本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルに使用されるケーブル20は、上記電線10を2本撚り合わせた多芯撚り線5と、多芯撚り線5の外周に設けられたシース4とを備える。多芯撚り線5の撚り合わせ本数は2本に限られず、3本以上としても良い。
【0024】
導体1の材質には既知のものが使用でき、銅、軟銅、銀、アルミニウムなどが挙げられる。また、耐熱性を向上させるため、これらの表面には錫めっき、ニッケルめっき、銀めっき、金めっきなどが施されていてもよい。
【0025】
絶縁体内層2を構成するエチレン系樹脂組成物に用いるエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレンブテン−1共重合体、エチレンヘキセン−1共重合体、エチレンオクテン−1共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンメチルアクリレート共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体、エチレンブチルアクリレート共重合体、エチレンブテンヘキセン三元共重合体などが挙げられ、これらを単独で、もしくは2種以上ブレンドして用いることができる。エチレン系樹脂のメルトインデックスや、エチレン系樹脂におけるエチレン以外の共重合成分の含有量などは特に限定されるものではない。
【0026】
上記のエチレン系樹脂の中でも、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンメチルアクリレート共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体が、絶縁体外層3に用いられる熱可塑性ポリウレタンとの接着性の観点から好適である。
【0027】
絶縁体内層2としてエチレン系樹脂組成物を用いることで、導体1との密着性が抑えられ、端末加工時の皮剥き作業を容易にできる、すなわち、端末加工性を高めることができる。また、架橋しているため耐熱性にも優れる。
【0028】
絶縁体外層3を構成する熱可塑性ポリウレタン組成物に用いる熱可塑性ポリウレタンとしては、ポリエステル系ポリウレタン(アジペート系、カブロラクトン系、ポリカーボネイト系)、ポリエーテル系ポリウレタンが使用できる。特に耐湿熱性などの点からポリエーテル系ポリウレタンが好ましい。硬度に制限はなく、自由に選定できる。
【0029】
絶縁体外層3の熱可塑性ポリウレタンの表面を適度に粗化することで、粘着性が低下し電線の取扱性が向上し、さらには、架橋してもモールド樹脂成形体との気密性が維持される。
【0030】
上記のエチレン系樹脂及び熱可塑性ポリウレタンには、必要に応じて加工助剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、滑剤、無機充填剤、接着性付与剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の添加物を加えることも可能である。
【0031】
本発明の実施形態に係る表面が粗化された絶縁体外層3を得るために、熱可塑性ポリウレタンには艶消し剤を添加することが可能である。艶消し剤としては、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカなどの無機化合物の粉体やポリスチレン、ポリウレタンなどの架橋高分子粒子が例として挙げられ、所定の効果が得られれば特に限定されない。艶消し剤の添加量は、例えば、熱可塑性ポリウレタン100質量部に対して、1〜5質量部である。
【0032】
上記エチレン系樹脂組成物及び熱可塑性ポリウレタン組成物をそれぞれ絶縁体内層2及び絶縁体外層3として導体1上に押出被覆することにより、本発明の実施形態に係る電線10を得ることができる。押出被覆の方法としては既知のものが使用できる。絶縁体内層2を被覆してから、別工程で絶縁体外層3を被覆する方法や、2つの押出機を用い2層同時押出用のヘッドを用いて一つの工程で被覆する方法などが挙げられる。絶縁体内層2と絶縁体外層3の厚さや比率は限定されるものではなく、自由に設定してよい。
【0033】
押出条件を変えて絶縁体外層3の表面を粗化するためには、材料に加わるせん断応力を大きくする方法が有効である。例えば、押出機やダイス、ニップルのサイズ、位置構成を変え、材料の流路を狭くする方法や、押出温度を下げる、電線の引取速度を上げるなどの方法がある。
【0034】
絶縁体外層3の表面の算術平均粗さ(Ra)は、5〜100μmとなるように調整される。5μmより小さいと表面の平滑性が増し、接触面積が増えることにより電線同士の粘着性が高くなる。また、モールド樹脂との気密性が低下する。100μmより大きいと押出外観が著しく悪化するとともに、電線の伸び(引張伸び)が低下する。
【0035】
本発明の実施形態において絶縁体内層2及び絶縁体外層3は架橋されている必要がある。架橋方式としては電子線照射架橋が好適である。電子線照射は絶縁体外層3を被覆した後に実施して、内外層を同時に架橋させるのが好ましい。これは絶縁体内層2と絶縁体外層3が界面で共架橋し、両層の接着性が高まるためである。
【0036】
電子線の吸収線量などは特に限定されるものではないが、絶縁体内層2に用いるエチレン系樹脂組成物のゲル分率は45%以上であり、かつ絶縁体外層3に用いる熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率は71%以下に抑える必要がある。絶縁体内層2のゲル分率が45%未満だと、十分な耐熱性が得られず、溶融する等の不具合が懸念される。また、絶縁体外層3のゲル分率が71%を超えるとモールド樹脂との接着性が下がり、気密性が低下する。絶縁体内層2に用いるエチレン系樹脂組成物のゲル分率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。絶縁体内層2に用いるエチレン系樹脂組成物のゲル分率の上限は特に限定されるものではないが、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、85%以下であることが更に好ましい。絶縁体外層3に用いる熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率は70%以下であることが好ましく、68%以下であることがより好ましく、65%以下であることが更に好ましい。絶縁体外層3に用いる熱可塑性ポリウレタン組成物のゲル分率の下限は特に限定されるものではないが、20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましい。ゲル分率は、例えば、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0037】
シース4は、押出被覆により設けることができる。シース4の材料としては、熱可塑性ポリウレタンやポリオレフィン系材料などの一般的材料が使用でき、これらは耐熱性を付与するため架橋してもよい。
【0038】
本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルに使用されるケーブルの外被としては、上記シース4に限られるものではなく、後述する
図4に示すコルゲートチューブ6であってもよい。コルゲートチューブ6の材質としては、ポリプロピレンやポリアミドなどの汎用のものが使用でき、これらは難燃化されているのが好ましい。
【0039】
次に、本発明の実施の形態に係るモールド加工電線・ケーブルを構成するモールド樹脂成形体について説明する。
【0040】
モールド樹脂成形体部位については、本発明の実施の形態に係るモールド加工電線及びモールド加工ケーブルにおいて共通するため、モールド加工ケーブルを例に説明する。
【0041】
図3は、本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルの一例を示す横断面図である。
【0042】
本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブル110は、上記のケーブル20と、導体1の露出された端末部及び露出された端末部側の絶縁体外層3の端末部を被覆し、絶縁体外層3に融着されたモールド樹脂成形体30とを備える。
【0043】
モールド加工ケーブル110は、以下の手順で製造することができる。
ケーブル20の端末のシース4を切除して電線10の端末を剥き出しにし、さらに、剥き出しにされた電線10の端末の絶縁体内層2及び絶縁体外層3を切除して導体1の端末を剥き出しにした後、センサー32の電極端子31に導体1を接続する。この接続部、センサー32、及び絶縁体外層3の端末部をモールド樹脂で射出成形によって被覆し、モールド樹脂成形体30を形成する。これにより、モールド加工ケーブル110(モールド加工品)を得ることができる。モールド樹脂成形体30は、シース4ではなく、絶縁体外層3に融着されている。センサー32に替えて、その他の機器部品としてもよい。
【0044】
本発明の実施の形態に係るモールド加工電線の場合には、上記のケーブル20ではなく上記の電線10を使用しているため、シース4を切除する工程が不要である点で相違している。
【0045】
モールド樹脂成形体30に用いられるモールド樹脂としては、ポリアミド樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂が好適であり、これらはガラス繊維によって強化されていることが望ましい。
【0046】
図4は、本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブルの別の一例を示す横断面図である。
【0047】
本発明の実施の形態に係るモールド加工ケーブル120は、シース4に替えてコルゲートチューブ6を多芯撚り線5の周囲に被覆したコルゲートケーブル30をケーブル20に替えて使用している点において
図3のモールド加工ケーブル110と相違する。
【0048】
モールドされていない部分の電線を保護する方法としては、上記のシース4を被覆する方法やコルゲートチューブ6内に電線を配線する方法のほか、保護用テープを巻く方法などを採用することができる。
【0049】
本発明の実施の形態に係るモールド加工電線及びモールド加工ケーブルは、例えば、自動車、ロボット、電子機器等のセンサーケーブルなどに好適である。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(電線の製造)
絶縁体内層及び絶縁体外層として表1の実施例及び比較例に示した組成物を用いて、構成7本/0.26mmの銅導体上に同時に押出被覆した。絶縁体内層には40mm単軸押出機(L/D=24)、絶縁体外層には24mm単軸押出機(L/D=20)をそれぞれ用い、内層が0.20mm、外層が0.15mmの被覆厚さ、電線外径が1.5mmφとなるように押出被覆し、電線を作製した。内層の押出温度は200℃とし、外層の押出条件は表1に示した。得られた電線に表1に示した吸収線量で電子線を照射し、内外層を同時に架橋させた。完成した電線は胴径300mmのボビンに巻き取った。各電線の全長は300mとした。
【0052】
(電線の測定・評価)
作製した電線は、以下の試験方法により測定及び評価した。測定及び評価結果を表1に示す。
【0053】
<絶縁体外層の表面の算術平均粗さ>
レーザー顕微鏡を用い、非接触方式で絶縁体外層表面の算術平均粗さ(Ra)を求めた。
【0054】
<絶縁体のゲル分率>
架橋度の指標であるゲル分率を、電線の絶縁体内層と絶縁体外層についてそれぞれ測定した。カミソリ等を用いて内層及び外層を削り取ったサンプルについて、外層は65℃のテトラヒドロフランを用いて18時間抽出し、内層は120℃のキシレンを用いて24時間抽出した。抽出後、乾燥した。ゲル分率の算出には次の式を用いた。
{(抽出、乾燥後のサンプルの質量(=残存ゲルの質量))/(抽出前のサンプルの質量)}×100(%)
【0055】
<粘着性>
ボビンに巻き取った電線を1週間放置した後、引き出したときの粘着の有無を目視により確認した。
【0056】
<端末加工性>
電線を100mmの長さに切り取り、絶縁体を長さ25mmだけ残して取り除いた。露出した導体側を固定し、残した絶縁体を導体から引き抜くときの力を測定した。35N以下を合格とした。
【0057】
<耐熱性>
電線を2.3mmφに3回巻付け、170℃の恒温槽内で6時間加熱した。取り出し後、室温になるまで放冷したのちに、外観に溶融及び亀裂がないものを合格とした。
【0058】
<引張伸び>
導体を引き抜いたあとの絶縁体を200mm/minの速度で引張り、伸びを測定した。100%以上を合格とした。
【0059】
(モールド加工電線の製造・評価)
モールド加工電線を以下の通り製造し、気密性評価を以下の方法により行なった。評価結果を表1に示す。
【0060】
電線10の片端の絶縁体外層にポリアミド(ガラス繊維:30質量%、商品名:レニー1002F、三菱エンジニアリングプラスチックス製)、又はポリブチレンテレフタレート(ガラス繊維:30質量%、商品名:ノバデュラン5010G30X4、三菱エンジニアリングプラスチックス製)を射出成形でモールド成形(直径φ15mm、長さ20mm、電線挿入長さ15mm)して、モールド樹脂成形体30として端末を封止したものをサンプルとした。
【0061】
得られたサンプルについて、−40℃×30分、125℃×30分の条件でヒートショック試験を200サイクル実施した。その後、
図6に示すように、サンプルを、モールド樹脂成形体30が水槽41内の水42に浸るようにした状態で、電線10端末に空気供給機43から30kPaで圧縮空気を30秒間送り込んだ。その間にモールド樹脂成形体30と電線10との間から気泡44が出ないものを合格とした。合格したものについてはヒートショック試験をさらに200サイクルずつ追加していき、合計2000サイクルまで実施した。合計1000サイクル以上のものを合格とした。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1〜9では、電線同士の粘着がなく、端末加工性に優れており、耐熱性、引張伸び、モールド加工電線の気密性は目標を満足した。実施例1と比べ電子線の吸収線量が高い実施例7では、モールド樹脂との接着性が低下し、気密性が低下する傾向がみられた。
【0064】
比較例1では、内外層ともに熱可塑性ポリウレタンを使用しており、端末加工性が不合格であった。
比較例2では、外層表面の算術平均粗さが規定より小さいため、電線同士の粘着がみられ、気密性も不合格であった。
比較例3では、外層表面の算術平均粗さが規定より大きいため、引張伸びが不合格となった。
比較例4では、内外層共に架橋されていないため、耐熱試験で溶融してしまった。
【0065】
以上の通り、本発明によると、電線の絶縁体外層にモールド樹脂を直接被覆したモールド加工電線において、優れた気密性を得ることができる。また、電線の取扱性、端末加工性、引張伸び及び耐熱性も良好であり、その工業的な有用性は極めて高いと考えられる。
【0066】
なお、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:導体、2:絶縁体内層、3:絶縁体外層、4:シース
5:多芯撚り線、6:コルゲートチューブ、12:絶縁体
10,100:電線、20:ケーブル、30:コルゲートケーブル
110,120,130:モールド加工ケーブル
30:モールド樹脂成形体、31:電極端子、32:センサー
41:水槽、42:水、43:空気供給機、44:気泡