特許第6721062号(P6721062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6721062化合物半導体積層基板及びその製造方法、並びに半導体素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6721062
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】化合物半導体積層基板及びその製造方法、並びに半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20200629BHJP
【FI】
   H01L21/02 B
【請求項の数】15
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2018-568589(P2018-568589)
(86)(22)【出願日】2018年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2018005169
(87)【国際公開番号】WO2018151189
(87)【国際公開日】20180823
【審査請求日】2019年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-27069(P2017-27069)
(32)【優先日】2017年2月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515251539
【氏名又は名称】株式会社CUSIC
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】久保田 芳宏
(72)【発明者】
【氏名】秋山 昌次
【審査官】 平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−250888(JP,A)
【文献】 特開2013−084781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A及びBを構成元素として含む同一組成で同一の原子配列を有する2枚の単結晶の化合物半導体基板が直接貼り合わされて積層された基板であって、その積層基板の表裏面がA又はBの同種の原子からなる極性面であり、積層界面がB又はAのいずれか一方の原子同士の結合からなると共にそれらの結晶格子が整合している単極性の反位相領域境界面であることを特徴とする化合物半導体積層基板。
【請求項2】
炭化珪素、窒化ガリウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、インジウム燐、窒化アルミニウム又はインジウムアンチモンからなることを特徴とする請求項1記載の化合物半導体積層基板。
【請求項3】
積層された化合物半導体基板はそれぞれ均一な厚みを有する請求項1又は2記載の化合物半導体積層基板。
【請求項4】
上記2枚の化合物半導体基板の一方が化合物半導体の薄膜である請求項1〜3のいずれか1項記載の化合物半導体積層基板。
【請求項5】
上記2枚の化合物半導体基板の一方がエピタキシャル成長膜である請求項4記載の化合物半導体積層基板。
【請求項6】
一方の主面をA原子からなる極性面であるA面とし、他方の主面をB原子からなる極性面であるB面とした、A及びBを構成元素として含む同一組成で同一の原子配列を有する単結晶の化合物半導体基板を2枚用意し、この2枚の化合物半導体基板のB面同士又はA面同士を両基板のそれぞれ特定の結晶面を揃えた状態で直接貼り合わせて上記2枚の化合物半導体基板を積層し、該積層基板の表裏面がA又はBの同種の原子からなる極性面であり、積層界面がB又はAのいずれか一方の原子同士の結合からなると共にそれらの結晶格子が整合している単極性の反位相領域境界面となった化合物半導体積層基板を得ることを特徴とする化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項7】
上記化合物半導体基板の特定の結晶面を識別可能に付与されたオリエンテーションフラット又はノッチを両基板間で所定の位置関係とすることで上記それぞれ特定の結晶面を揃える請求項6記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項8】
上記2枚の化合物半導体基板のうち一方の化合物半導体基板について、他方の化合物半導体基板と接合する面に予めイオン注入を行っておき、上記接合した後にこのイオン注入領域で剥離させて化合物半導体基板の薄層化を行う請求項6又は7記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項9】
上記2枚の化合物半導体基板のうち一方の化合物半導体基板は、他方の化合物半導体基板と接合する面に予め該一方の化合物半導体基板と同じ化合物のホモエピタキシャル成長層を形成したものである請求項6又は7記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項10】
上記一方の化合物半導体基板とホモエピタキシャル成長層との間に同一化合物に不純物をドーピングしてなるバッファ層を設けている請求項9記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項11】
上記ホモエピタキシャル成長層に予めイオン注入を行っておき、上記接合した後に化合物半導体基板の薄層化として、このイオン注入領域で剥離させて該ホモエピタキシャル成長層の一部を転写させることを行う請求項9又は10記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項12】
上記2枚の化合物半導体基板は、同一の単結晶の化合物半導体基板から採取されたものである請求項6〜11のいずれか1項記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項13】
上記2枚の化合物半導体基板について、同じ処理条件で同時に表面処理を施して両基板の接合面の表面状態を等価なものとする請求項6〜12のいずれか1項記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項14】
上記接合前に、上記2枚の化合物半導体基板の両方の接合面に同じ処理条件で表面活性化処理を施す請求項6〜13のいずれか1項記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか1項記載の化合物半導体積層基板を用いた半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
パワー半導体素子の製造に好ましく用いることのできる化合物半導体積層基板に関し、特に、半導体素子製造工程における表面処理特性の最適化や工程設計を容易にする化合物半導体積層基板及びその製造方法、並びに半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素や窒化ガリウムなどをはじめとする化合物半導体は、その物理的・化学的・電気的特性から、高温・高耐圧・低損失のパワー半導体素子や超高速スイッチング素子など、一般的に用いられているシリコンでは実現不可能な高性能半導体素子の材料として注目を浴びている。実際に、スイッチング電源や電車や自動車などのモーター駆動用のスイッチング素子の基板材料として化合物半導体が用いられることにより、著しい省エネルギー特性や小型・軽量化が実現され始めている。
【0003】
以上のように、優れた特長を有する化合物半導体ではあるが、シリコンのような単体の半導体に比べて幾つかの使用上の制限がある。その制限の一つは、化合物半導体結晶表面が極性を有することである。即ち、構成元素AとBからなる単結晶の化合物半導体基板は、必然的に、A原子からなり(終端され)該A原子の未結合手が露出した極性面(A極性面、以下A面ともいう)とB原子からなり(終端され)該B原子の未結合手が露出した極性面(B極性面、以下B面ともいう)を有する。
【0004】
このとき、化合物半導体結晶が立方晶、六方晶そして菱面体の場合においては、極性面は結晶格子の最密面に現れる。即ち、立方晶の最密面は{111}面であるが、シリコンではいかなる{111}面もSi極性面であり等価であるのに対し、立方晶の化合物半導体結晶では(111)面がカチオン原子が露出する面、その反対側の(−1−1−1)面がアニオン原子が露出する面となる。具体的には、立方晶炭化珪素(SiC)においては(111)面がSi面、そしてその反対側の面である(−1−1−1)面はC面となる。一方、六方晶や菱面体の化合物半導体結晶の最密面は{0001}面であるが、(0001)面と(000−1)面は等価ではなく、前者はカチオン原子が露出する面、後者はアニオン原子が露出する面である。六方晶炭化珪素においては(0001)面がSi面、(000−1)面がC面となる。同様に、ガリウム砒素(GaAs)においては(111)面がGa面、(−1−1−1)面がAs面、ガリウム燐(GaP)においては(111)面がGa面、(−1−1−1)面がP面、窒化ガリウム(GaN)においては(0001)面がGa面、(000−1)面がN面となる。
【0005】
化合物単結晶基板を用いた半導体素子の製造を困難にする主要因は、極性面によって物理的・化学的・電気的特性が異なる点であり、特定の極性面に対して素子の最適化を図ると、他方の極性面上の特性が損なわれる事態がしばしば起こる。このような極性面の特性の違いは、(1)最表面の原子とその1層下の原子との結合エネルギーが極性により変わること、(2)原子毎のイオン化傾向の違いを反映して表面ポテンシャルも異なること、の2点が起因している。
【0006】
以上のような極性面の違いにより、例えば半導体と金属との接合特性が異なり、一方の面においては整流性を示すにもかかわらず、他方の面ではオーミック特性を示したり、異なるコンタクト抵抗を示すなどの問題を生じさせる。
【0007】
また、酸化速度も極性面により異なり、熱酸化処理を施すと、基板の表面と裏面で酸化膜の膜厚に大きな差が生ずることもある。例えば、炭化珪素においてはC面の熱酸化速度がSi面の熱酸化速度の3倍であるため、Si面上において所望の膜厚の熱酸化膜を得ようとすると、C面上においてはその3倍の厚さの熱酸化膜を形成してしまう。このため、極性面ごとに別々の酸化処理をしたり、一方の酸化膜を所望の膜厚までエッチングしたりするなどの余計な工程が必要となる。
【0008】
また、表面を平滑化させるための研磨条件も極性面ごとに異なる。例えば、炭化珪素基板においては平滑な表面を得る際に化学的機械研磨(CMP)が施されることがあるが、CMP処理に用いるスラリーのpHによりC面とSi面の研磨速度が変わる。例えば、Si面に対して平滑な表面が得られるアルカリ条件でのCMPにおいてはC面がSi面より速くエッチングされるため、C面上において平滑な面を得ることができなくなる。このため、Si面とC面とでは、異なるCMP条件を適用せざるを得ず、両面を同時に研磨することはできない。
【0009】
更に深刻な問題は、化合物半導体基板上のホモエピタキシャル成長条件も極性面の影響を受けることである。化合物半導体結晶をエピタキシャル成長する際には、固相、液相、気相の別を問わず、その複数の構成元素を基板表面に供給しなければならない。この場合、元素の取り込み効率は極性面ごとに異なる。例えば、供給律速下における元素Aと元素Bからなる化合物半導体結晶のエピタキシャル成長を前提とした場合、A極性面上でのエピタキシャル成長速度を律速するのはB原子の供給量であり、他方のB極性面上でのエピタキシャル成長速度を律速するのはA原子の供給量である。必然的に、A原子の供給量を増すとB極性面のエピタキシャル成長速度が増加し、A極性面のエピタキシャル成長速度が低下する。これに加えて、各極性面における不純物の取り込み効率も変わる。即ち、A原子の格子位置を置換する不純物の濃度はB極性面の成長速度の増加に伴って低下し、B原子の格子位置を置換する不純物の濃度はA極性面の成長速度の増加に伴って低下する。以上のように、化合物半導体結晶においては、全ての極性面上で所望の膜厚と不純物濃度のエピタキシャル成長膜を同時に得ることは困難であり、それぞれの極性面ごとに固有の条件でエピタキシャル成長を実施しなければならず、工程の複雑化とコスト増加などの問題が生じてしまう。
【0010】
特に、炭化珪素のエピタキシャル成長においては、最密面の積層順序を正確に伝搬させる必要がある。このため、特許文献1(米国特許第5011549号明細書)に提示されるように、結晶成長する表面を最密面から特定方向に微傾斜させて積層順序を横方向に伝搬させるステップフローエピタキシーが用いられる。ただし、最適な微傾斜角は極性面ごとに異なるため、図7が示す断面図のように、Si面(A面)とC面(B面)では異なる微傾斜角が必要となり、基板断面形状がくさび状となり平行度が損なわれることから、半導体素子製造時にはフォトリソグラフィー工程が困難になるなどの問題が生ずる。
【0011】
上記問題を解決するため、特許文献2(特開2012−151177号公報)では2枚の六方晶炭化珪素基板を準備し、それらの(0001)Si面同士を貼り合わせることにより両面が(000−1)C面となる炭化珪素基板の構造と製造方法が開示されている。これにより、基板の表裏面とも同じC面となり半導体素子に適した面とすることができるが、これを用いて実際に半導体素子を形成すると動作不良が発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5011549号明細書
【特許文献2】特開2012−151177号公報
【特許文献3】特許第3576432号公報
【特許文献4】国際公開第2012/067105号
【特許文献5】特開2011−84435号公報
【特許文献6】特開2003−119097号公報
【0013】
【非特許文献1】H. Nagasawa, R. Gurunathan, M. Suemitsu, Materials Science Forum Vols. 821-823 (2015) 108-114
【非特許文献2】Naoki Hatta, Takamitsu Kawahara, Kuniaki Yagi, Hiroyuki Nagasawa, Sergey Reshanov, Adolf Schoner; Materials Science Forum Vols. 717-720 (2012), pp 173-176
【非特許文献3】T.Kawahara, N.Natta, K.Yagi, H.Uchida, M.Kobayashi, M.Abe, H.Nagasawa, B.Zippelius, G.Pensl, Materials Science Forum Vols.645-648 (2010) pp.339-342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、化合物半導体積層基板の表裏面の極性面を単一極性(互いに同一の極性)として半導体素子の工程設計を容易にすると共に、複雑な基板加工を施すこと無く、低コストで高性能で安定な半導体素子の製造を可能とする化合物半導体積層基板及びその製造方法、並びに半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、まず上記特許文献2の発明で確認された半導体素子の動作不良について調査したところ、特許文献2の発明では、積層基板の基板同士が貼り合わされた界面において不整合界面(結晶格子が不連続になっている面)や粒界(二つの結晶格子が傾斜して部分的につながっている面)が形成され、そこから転位などの結晶欠陥が発生し、それが半導体素子の動作を劣化させている場合があることが分かった。
即ち、特許文献2では、SiC半導体基板の製造方法として、貼り合わせ用の基板(n+型SiC基板11、12)の表裏面の面方位が(0001)Si面や(000−1)C面のジャスト面に対してオフ角を有したオフ基板を使用してもよく、このときの基板11、12間でオフ方向やオフ角度が違っていてもよいとしている(段落[0042])。これは、特許文献2では貼り合わせる面同士の結晶方位を限定していないこと、そして結晶軸の回転も考慮していないことを意味しており、上記のような欠陥発生の主要因となる。例えば、貼り合わせ面の方位を特定せず異なる傾斜角を有する結晶面を貼り合わせると、図8に示すように接合界面(一点鎖線で示した境界)に傾角粒界が発生し、結晶軸の回転を解消しないと(結晶軸を中心に回転関係のある結晶面を貼り合わせると)、接合界面(図中、点線で囲んだ領域)に図9に示すようなねじれ粒界が発生する。
【0016】
更に、特許文献2では貼り合わせ界面に導電膜を介在させることによっても効果が得られると述べているが、導電膜と炭化珪素の仕事関数は異なるため、導電膜近傍の炭化珪素に空間電荷領域が発生し、これが抵抗成分を増加させて所望の低損失性能が得られないことが判明した。
【0017】
ところで、貼り合わせ界面(接合界面ともいう)の結晶格子が整合して、反位相領域境界面(逆位相境界面、Anti−phase boudary(APB)面ともいう。詳しくは後述する。)が形成された場合、その界面における結晶格子の断面構造は図10図11図12のいずれかとなる。
このうち、図10では、結晶格子のシャッフルセット(shuffle−set)にAPB面が存在するものであり表裏面に露出する元素とは異なる元素でAPB面が構成される。一方、図11では、結晶格子のグライドセット(glide−set)にAPB面が存在するものであり表裏面に露出する元素と同一の元素でAPB面が構成される。いずれの構造も単一の元素でAPB面が構成されているので、単極性APB面と呼ぶこととする。
【0018】
ところが、特許文献2では貼り合わされる双方の面方位が厳密に一致しておらず、かつ面の表面粗度Ra(算術平均粗さ)を5nmまで許容しているため、貼り合わせた界面に偶然APB面が発生したとしても、その構造は図10に示すタイプのAPBと図11に示すタイプのAPBが混在した接合界面となる(即ち、反位相領域境界面がグライドセットとシャッフルセットに分離している)。その結果、図12に示すような両極性APB面が形成される。この場合、後述する理由により、両極性APB面は半金属的な電気的振る舞いをするため、パワー半導体素子においてはリーク電流が増大し、低損失性能が損なわれる。
即ち、基板表裏の極性面を等しくし、かつパワー半導体素子の材料として使用するためには、その接合面の結晶格子は連続しており(整合界面)、かつ形成されるAPB面は単極性(即ち、特定の一つの元素同士の結合のみによって形成されたもの:図10図11のいずれか一方のタイプ)であることが必要である。
【0019】
ここで、高性能な半導体素子を製造するうえで、化合物半導体結晶中の結晶欠陥は大きな障害要因となる。シリコンと異なり、化合物半導体結晶中には多数の欠陥が含まれ、これが半導体素子の動作に影響を及ぼす。例えば、線欠陥である転位は結晶中の特定の結晶方位に沿って伝搬し、半導体素子のブロッキング特性を損なわせる。また、転位の軌跡は積層欠陥として残留し、これが結晶中のキャリアの移動を妨げたり、リークパスとして振る舞ったりする。更に、転位は外部応力や電界、キャリア消滅時のエネルギーによっても移動し、半導体素子の長期的な動作特性を不安定なものとする。
【0020】
これまで、転位や積層欠陥の対策に関しては、多くの発明が成されてきた。例えば、特許文献3(特許第3576432号公報)では、炭化珪素をエピタキシャル成長する際のシリコン基板表面の特定方向に略平行な起伏を設け、特定の極性面を特定方向に配向することにより反位相領域境界面や積層欠陥などの解消を導く手段を提供している。しかしながら、炭化珪素のエピタキシャル成長に先立って、シリコン基板に加工を施す必要があることや、外部応力による転位の運動を抑制できないこと、そして可動転位の運動によって発生する積層欠陥は完全に解消できないなどの課題が残されていた。
【0021】
また、転位の運動を完全に抑制すると共に、積層欠陥の密度を著しく低減するために、特許文献4(国際公開第2012/067105号)では、結晶の内部に内包領域を設け、この内包領域で転位の伝搬を遮る手段を開示している。この発明では、転位や積層欠陥密度が大幅に低減できるが、結晶内部に内包領域を形成する工程が複雑であると共に、内包領域が電気抵抗を高めてしまい、高効率の半導体素子を低コストで製造することが難しくなっていた。
【0022】
また、非特許文献1(H. Nagasawa, R. Gurunathan, M. Suemitsu, Materials Science Forum Vols. 821-823 (2015) 108-114)では、内包領域を用いるまでもなく、反位相領域境界面が転位の運動を完全に阻止することが見出されている。このため、反位相領域境界面を意図的に結晶内部に発生させれば転位と積層欠陥の解消が図られる。そこで、特許文献5(特開2011−84435号公報)では、特許文献3の開示する手段を進歩させ、炭化珪素を成長させる基板表面に離散的な起伏を設けて反位相領域境界面を発生させ、これにより積層欠陥の拡大を阻止する手段を開示している。
【0023】
しかしながら、特許文献5の方法によっては反位相領域境界面の極性を制御することは不可能である。反位相領域境界面は化合物結晶特有の面欠陥であり、これは異種原子同士の結合により形成されるべき格子が同種の元素の原子同士の結合により構成された面である。反位相領域境界面がアニオン同士の結合で形成されると、伝導帯の下端のエネルギーが低下する。反対に、反位相領域境界面がカチオン同士の結合で形成されると、価電子帯の上端のエネルギーが高くなる。このため、反位相領域境界面にアニオン−アニオンの結合とカチオン−カチオンの結合の両方が含まれると(両極性APB面が形成されると)、本来半導体的であるべき電子物性が半金属的な電子物性に変化してしまい、半導体素子のブロッキング特性が大きく劣化してしまう。従って、特許文献5が開示する構造では積層欠陥は低減できるものの、残留した反位相領域境界面が半金属となり、実用的な半導体素子を得ることが困難となる。また、特許文献3と同様に、基板表面に起伏を設けるなどの付加的な工程が増えてしまい、コスト低減が難しくなる。
【0024】
本発明者らは、上記目的を達成するため、単結晶の化合物半導体基板の表裏面の極性を統一しつつ、転位の運動を抑制するための手段を鋭意検討した。
まず、化合物半導体の単結晶(化合物半導体結晶ともいう)の極性面は最密面に現れること、そして該結晶における特定の極性面の反対側の面も極性面であり、その極性は異なるものであることに注目した。即ち、最密面が表面と裏面に露出するように化合物半導体結晶を平板状に加工すると、その平板の表面側と裏面側は異なる極性面となる。これは、磁石の一方がN極であれば、その反対側は、必ずS極になることと同じと考えればよい。
【0025】
ここで、図1(a)のように、A及びBを構成元素として含む化合物半導体の単結晶基板であって、その一方の主面をA原子(元素Aの原子)からなり該A原子の未結合手が露出した極性面1cp1であるA面とし、他方の主面をB原子からなり該B原子の未結合手が露出した極性面1cp2であるB面とした厚みが一定の化合物半導体単結晶の板(原板1)を想定する。この原板1を表面に対して水平に切断した場合、原板1は基板1aと基板1bの2枚の化合物半導体基板に分離する(図1(b))。基板1aの表面はA面なので、その裏面側(切断面)はB面となる。一方、基板1bの裏面はB面なので、表面側(切断面)にはA面が現れる。その結果、基板1aを上下反転させて基板1bに接合すると、双方の基板はA面同士が接合された界面1abを有する新たな基板(化合物半導体積層基板10)が出来上がる(図1(c))。ここで、積層基板10の表面も裏面もB面となり、単結晶の化合物半導体の基板でありながらも、その積層基板10の表裏面に露出する極性面は単一極性(互いに同じ極性)に統一される。
【0026】
ところで、基板1aと基板1bの結晶格子が傾斜や回転することなく正確に一致するように(即ち、整合して)接合された場合、新たに形成された積層基板10に含まれる界面1abは、同種の元素の原子同士の結合(A原子−A原子、又はB原子−B原子)からなる整合界面(結晶格子同士が連続してつながった界面)であることから、特許文献2の積層基板の積層界面とは異なり、単極性の反位相領域境界面(単極性APB面)であるとみなせる。この場合、非特許文献1に記載された通り、界面1abは転位の運動を妨げるので、積層基板10に含まれる転位密度や積層欠陥密度は特許文献5に開示される発明と同様に低減可能であり、かつこれを用いた半導体素子の動作特性の長期的安定性は高められる。また、特許文献5とは異なり、反位相領域境界面はアニオン−アニオン結合、カチオン−カチオン結合のいずれか一方であることから、半金属的な振るまいとはならず、半導体素子のブロッキング特性が大きく損なわれる弊害は解消される。更に、界面1abは表面に露出しないので、表面近傍に活性領域が形成されるようなMOSFET(metal−oxide−semiconductor field−effect transistor)やSBD(Schottky Barrier Diode)を製造するに当たっては、界面1abである反位相領域境界面は全く影響を及ぼさない。
本発明者らは、以上のように得られた知見に基づいて更に検討を行い、本発明を成すに至った。
【0027】
即ち、本発明は、下記の化合物半導体積層基板及びその製造方法、並びに半導体素子を提供する。
〔1〕 A及びBを構成元素として含む同一組成で同一の原子配列を有する2枚の単結晶の化合物半導体基板が直接貼り合わされて積層された基板であって、その積層基板の表裏面がA又はBの同種の原子からなる極性面であり、積層界面がB又はAのいずれか一方の原子同士の結合からなると共にそれらの結晶格子が整合している単極性の反位相領域境界面であることを特徴とする化合物半導体積層基板。
〔2〕 炭化珪素、窒化ガリウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、インジウム燐、窒化アルミニウム又はインジウムアンチモンからなることを特徴とする〔1〕記載の化合物半導体積層基板。
〔3〕 積層された化合物半導体基板はそれぞれ均一な厚みを有する〔1〕又は〔2〕記載の化合物半導体積層基板。
〔4〕 上記2枚の化合物半導体基板の一方が化合物半導体の薄膜である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の化合物半導体積層基板。
〔5〕 上記2枚の化合物半導体基板の一方がエピタキシャル成長膜である〔4〕記載の化合物半導体積層基板。
〔6〕 一方の主面をA原子からなる極性面であるA面とし、他方の主面をB原子からなる極性面であるB面とした、A及びBを構成元素として含む同一組成で同一の原子配列を有する単結晶の化合物半導体基板を2枚用意し、この2枚の化合物半導体基板のB面同士又はA面同士を両基板のそれぞれ特定の結晶面を揃えた状態で直接貼り合わせて上記2枚の化合物半導体基板を積層し、該積層基板の表裏面がA又はBの同種の原子からなる極性面であり、積層界面がB又はAのいずれか一方の原子同士の結合からなると共にそれらの結晶格子が整合している単極性の反位相領域境界面となった化合物半導体積層基板を得ることを特徴とする化合物半導体積層基板の製造方法。
〔7〕 上記化合物半導体基板の特定の結晶面を識別可能に付与されたオリエンテーションフラット又はノッチを両基板間で所定の位置関係とすることで上記それぞれ特定の結晶面を揃える〔6〕記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
〔8〕 上記2枚の化合物半導体基板のうち一方の化合物半導体基板について、他方の化合物半導体基板と接合する面に予めイオン注入を行っておき、上記接合した後にこのイオン注入領域で剥離させて化合物半導体基板の薄層化を行う〔6〕又は〔7〕記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
〔9〕 上記2枚の化合物半導体基板のうち一方の化合物半導体基板は、他方の化合物半導体基板と接合する面に予め該一方の化合物半導体基板と同じ化合物のホモエピタキシャル成長層を形成したものである〔6〕又は〔7〕記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
〔10〕 上記一方の化合物半導体基板とホモエピタキシャル成長層との間に同一化合物に不純物をドーピングしてなるバッファ層を設けている〔9〕記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
〔11〕 上記ホモエピタキシャル成長層に予めイオン注入を行っておき、上記接合した後に化合物半導体基板の薄層化として、このイオン注入領域で剥離させて該ホモエピタキシャル成長層の一部を転写させることを行う〔9〕又は〔10〕記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
〔12〕 上記2枚の化合物半導体基板は、同一の単結晶の化合物半導体基板から採取されたものである〔6〕〜〔11〕のいずれかに記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
〔13〕 上記2枚の化合物半導体基板について、同じ処理条件で同時に表面処理を施して両基板の接合面の表面状態を等価なものとする〔6〕〜〔12〕のいずれかに記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
〔14〕 上記接合前に、上記2枚の化合物半導体基板の両方の接合面に同じ処理条件で表面活性化処理を施す〔6〕〜〔13〕のいずれかに記載の化合物半導体積層基板の製造方法。
〔15〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の化合物半導体積層基板を用いた半導体素子。
【発明の効果】
【0028】
本発明の化合物半導体積層基板によれば、化合物半導体結晶の基板であるにもかかわらず、その表面と裏面は同一の極性であることから、表裏の様々な物理的・化学的性質(酸化速度、エッチング速度、研磨速度など)が厳密に一致し、基板の表裏に対するウエハ加工条件(べべリング、洗浄、研削、研磨など)が一致するので、表裏の同時処理が可能となる。特に、ウエハ表裏にプロセス処理を施すようなディスクリート半導体用のウエハ製造に当たっては、表裏とも同一の処理で同一の性状の面が得られるため、有益である。
更に、本発明の化合物半導体積層基板はその内部に単一極性の反位相領域境界面を必須構成として含む。反位相領域境界面が単一極性であることから、半金属的な性質とはならず、半導体素子のブロッキング特性が保たれる。また、反位相領域境界面が結晶中の転位の運動(伝搬)を妨げるので、転位密度や積層欠陥密度の低減、並びに半導体素子の長期的安定性が確実なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る化合物半導体積層基板の構成及び製造手順を示す概念図である。
図2】本発明に係る化合物半導体積層基板の断面構成を示す概略図である。
図3】本発明に係る化合物半導体積層基板の製造方法の実施形態1における製造工程を示す図である。
図4】本発明で用いる化合物半導体基板の外観を示す図である。
図5】本発明に係る化合物半導体積層基板の製造方法の実施形態2における製造工程を示す図である。
図6】本発明に係る化合物半導体積層基板の製造方法の実施形態3における製造工程を示す図である。
図7】極性面に対してエピタキシャル成長に最適な微傾斜加工を施した従来の化合物半導体基板の構成を示す断面図である。
図8】異なる傾斜角を有する結晶が貼り合わされた界面の格子配置(傾角粒界)を示す断面模式図である。
図9】結晶軸を中心に回転関係にある結晶が貼り合わされた界面(ねじれ粒界)の格子配置を示す断面模式図である。
図10】結晶格子が整合しており、表裏面とは異なる元素で構成された単一極性の反位相領域境界面の構造を示す断面模式図である。
図11】結晶格子が整合しており、表裏面と同じ元素で構成された単一極性の反位相領域境界面の構造を示す断面模式図である。
図12】結晶格子が整合した両極性の反位相領域境界面の構造を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
[化合物半導体積層基板]
図2に、本発明に係る化合物半導体積層基板の断面構成を示す。図2に示すように、化合物半導体積層基板20は、同一組成で同一の原子配列を有する2枚の単結晶の化合物半導体基板2a、2bが直接貼り合わされて積層された基板であって、その積層基板20の表裏面が化合物半導体基板2a、2bを構成する複数の元素の中の同種(いずれか1つ)の元素の原子からなると共に該原子の未結合手が露出した極性面であり、その積層界面が積層基板20の表面(表面20f及び裏面20r)に平行で、化合物半導体基板2a、2bを構成する複数の元素の中のいずれか1つの同種の元素の原子同士の結合からなると共にそれらの結晶格子が整合している単極性の反位相領域境界面2abであることを特徴とする。あるいは、化合物半導体積層基板20は、A及びBを構成元素として含む同一組成で同一の原子配列を有する2枚の単結晶の化合物半導体基板2a、2bが直接貼り合わされて積層された基板であって、その積層基板20の表裏面がA又はBの同種(いずれか一方)の原子からなると共に該原子の未結合手が露出した極性面であり、その積層界面が積層基板20の表面(表面20f及び裏面20r)に平行で、B又はAのいずれか一方の原子同士の結合からなると共にそれらの結晶格子が整合している単極性の反位相領域境界面2abであることを特徴とする。
【0031】
なお、積層基板20の表裏面がA又はBの同種(いずれか一方)の原子からなると共に該原子の未結合手が露出した極性面であるとは、積層基板20の表裏面がどちらも化合物半導体結晶の結晶格子におけるA原子の最密面(A面)となった、又はどちらもB原子の最密面(B面)となったことをいう。
【0032】
これは言い換えれば、積層基板20の表裏面共に面指数(ミラー指数)の同じ結晶面となっていることをいう。例えば、積層基板20が結晶多形4H−SiCの炭化珪素(SiC)からなる場合、表裏面共に(0001)Si面であり、あるいは共に(000−1)C面である。
【0033】
ここで、化合物半導体積層基板20は、A及びBを構成元素として含む組成の化合物半導体からなるが、A及びBの2元系化合物半導体からなることが好ましく、例えば、炭化珪素、窒化ガリウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、インジウム燐、窒化アルミニウム又はインジウムアンチモンからなることが好ましく、炭化珪素、窒化ガリウム、ガリウム砒素又はガリウム燐からなることがより好ましく、炭化珪素からなることが特に好ましい。
【0034】
化合物半導体積層基板20が炭化珪素(SiC)からなる場合、化合物半導体積層基板20は、同一の原子配列を有する単結晶SiCからなる化合物半導体基板2a、2bが積層された基板であって、その積層基板20の表裏面20f、20rそれぞれが化合物半導体基板2a、2bを構成するSi及びCのうち、Si原子(又はC原子)で終端され(即ち、Si原子(又はC原子)からなり)その未結合手が露出した互いに同じ極性を有する極性面であり、積層界面が積層基板20の表面(表面20f及び裏面20r)に平行で、化合物半導体基板2a、2bを構成するSi及びCのうち、いずれか一方の同種の元素の原子(即ち、C原子又はSi原子)同士が結合している(C−C結合又はSi−Si結合)と共にそれらの結晶格子が整合している単極性の反位相領域境界面(単極性APB面)2abである構成を有する。この単極性APB面2abは、図10図11のいずれかの接合界面となっている。
【0035】
また、それらの結晶格子が整合しているとは、積層界面全面において化合物半導体基板2a側の結晶格子と化合物半導体基板2b側の結晶格子とが連続してつながった状態(格子整合)をいう。このとき、基板2a側の結晶方位と基板2b側の結晶方位が揃っている。なおこの場合、それらの結晶格子同士が完全につながった状態が最も好ましいが、ある程度のつながっていない状態も許容される。
【0036】
ここで、結晶格子同士がつながっていない程度(不整合界面密度)は単位面積当たりの積層界面における原子の結合していない数の比率、具体的には単位面積当たりの積層界面における(結合の切れている原子対の数)/(結合対象の原子対の全数)×100(%)で表され、界面を構成する原子密度の0.1%以下であることが好ましく、0.02%以下であることがより好ましい。なお、この比率は電子スピン共鳴を利用して測定可能である。
【0037】
また、積層界面に不整合界面が存在すると、半導体素子中における電気伝導を担うキャリアを捕獲してイオン化する。その結果、半導体素子の低損失性能が損なわれる。この問題発生を避けるには、界面におけるトラップ密度を109/cm2以下とすることが望ましく、積層される結晶格子の公差角度や回転角度が50arcsec以下であることが望ましく、更には20arcsec以下が望ましい。
【0038】
なお、上記反位相領域境界面2abを得るためには、後述するように製造方法に工夫が必要であり、単に基板2a、2bのA面同士又はB面同士を貼り合わせただけでは得られない。
【0039】
化合物半導体基板2a、2bを構成する単結晶化合物半導体の結晶多形は同一であれば、即ち同じ結晶系で結晶中の原子の配列の仕方が同じであれば特に限定されない。例えば、炭化珪素(SiC)の場合、その結晶多形が同一であれば4H−SiC、6H−SiC、3C−SiCなどいずれのものでもよい。ただし、接合される基板(2a、2b)のそれぞれの表面は全く同じ状態であることが望ましい。なぜならば、それぞれの表面状態が異なると、図12のように両極性のAPB面が発生するためである。このため、基板の接合前には基板2a、2bを同時に同じ条件で表面処理することが望ましい。
【0040】
また、化合物半導体積層基板20は、その厚さは特に限定されないが、例えば、100〜800μmであることが好ましく、200〜500μmであることがより好ましい。なお、化合物半導体積層基板20は、均一な厚みを有する(即ち、表面20fと裏面20rが平行である)ことが好ましい。
【0041】
また、積層された化合物半導体基板2a、2bもその厚さは特に限定されない。また、化合物半導体基板2a、2bは互いに同じ厚さである必要はなく、それぞれ均一な厚みを有することが好ましい。例えば、2枚の化合物半導体基板2a、2bの一方が化合物半導体の薄膜であってもよい。この場合、化合物半導体の薄膜は、原板となる化合物半導体基板からイオン注入剥離法により剥離させた転写膜であってもよい。更に、化合物半導体の薄膜は、エピタキシャル成長膜が転写されたものであってもよい。化合物半導体基板2a、2bの一方が化合物半導体の薄膜となる場合、他方の基板はその薄膜の支持基板となる。
【0042】
化合物半導体基板2a、2bの厚さとしては、例えば好ましくは100nm〜1000μmの範囲、より好ましくは200nm〜650μmの範囲で選択されるとよい。
【0043】
本発明の積層基板20によれば、その表裏面が共に面指数の同じ結晶面となっていることにより、表裏面の様々な物理的・化学的性質(酸化速度、エッチング速度、研磨速度など)が厳密に一致し、基板の表裏面に対するウエハ加工条件(べべリング、洗浄、研削、研磨など)が一致するので、表裏面の同時処理が可能となる。特に、ウエハ表裏にプロセス処理を施すようなディスクリート半導体用のウエハ製造に当たっては、表裏面とも同一の処理で同一の性状の面が得られるため、有益である。これに加え、半導体素子の製造に当たっても化合物半導体積層基板の表裏面について同一の工程条件を最適な工程条件として同時に施すことが可能となり、コスト低減が促進される。また、高品質なホモエピタキシャル成長層を化合物結晶上に得ようとする場合には、意図的に結晶面に対して特定の微傾斜を有する表面を基板として用いるが、本発明による基板を用いれば、表裏とも同一の性状の結晶面であるため、最適な微傾斜角も表裏で完全に一致し、表裏の平行度が損なわれることが無く、素子製造に適した平行度の高いウエハを得ることができる。特に、化合物半導体積層基板の表面と同様の条件で裏面側にもエピタキシャル成長が可能であることから、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)のコレクタ層となるp型の層を裏面側にエピタキシャル成長により形成することが可能となり、半導体素子製造工程の自由度が増す。
また、その積層界面が単極性の反位相領域境界面2abであることから、半金属的な性質とはならず、半導体素子のブロッキング特性が保たれる。また、反位相領域境界面2abが結晶中の転位の運動(伝搬)を妨げるので、転位密度や積層欠陥密度の低減、並びに半導体素子の長期的安定性が確実なものとなる。なお、半導体素子のブロッキング特性とは、該半導体素子の主電極間の特定方向に高い電位差を印加しても、主電極間に電流を流さない(又は流れにくくする)特性のことである。
この効果は、極性を有する化合物半導体結晶、例えば、炭化珪素、窒化ガリウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、インジウム燐、窒化アルミニウム、インジウムアンチモンにおいて同様に発現する。
【0044】
[化合物半導体積層基板の製造方法]
上述した本発明の化合物半導体積層基板の製造方法の実施形態1、2、3について説明する。
【0045】
(実施形態1)
本発明に係る化合物半導体積層基板の製造方法の実施形態1について図3を用いて説明する。
はじめに、最密面を基板の表面と裏面に配向させた(基板の表裏面とした)単結晶の2枚の化合物半導体基板3a、3bを用意する(図3(a))。
【0046】
このとき、それぞれの基板3a、3bの構成元素と構成元素比は同一としなければならない(即ち、同一組成とする)。また、その結晶系は両者が同じ結晶系であれば三斜晶、単斜晶、直方晶、正方晶、三方晶、立方晶、六方晶、菱面体の組み合わせから任意に選ぶことができるが、基板3a、3bにおける原子配列は同じでなければならない。例えば、基板3a、3bが炭化珪素からなる場合、基板3a、3bが共に4H−SiCであり、共に6H−SiCであり、又は共に3C−SiCであるものとする。
また例えば、結晶系が立方晶の場合は最密面が{111}面となり、六方晶や菱面体の場合には最密面が{0001}面となる。
【0047】
また、化合物半導体基板3a、3bがA及びBを構成元素として含む同一組成であって同一の原子配列を有するものとした場合、基板3a、3bそれぞれの表面は同種の元素の原子からなると共に該原子の未結合手が露出した極性面となり、裏面は表面とは異なる同種の元素の原子からなると共に該原子の未結合手が露出した極性面となる。ここで、上記最密面のうち、カチオン側の原子からなり、該原子の未結合手が露出した極性面をA面、アニオン側の原子からなり、該原子の未結合手が露出した面をB面と定義する。
【0048】
なお、化合物半導体基板3a、3bにおけるA面、B面を特定する方法は構成元素により異なるが、例えば炭化珪素の場合には熱酸化速度を比較することが挙げられる。即ち、A面の熱酸化速度がB面の熱酸化速度よりも高ければ、A面は炭素面であり、B面は珪素面であると特定することができる。また、イオン性の高い化合物半導体(ガリウム砒素、ガリウム燐、インジウム燐など)はプローブ顕微鏡を用いて表面の電位を測定することにより特定することも可能である。あるいは、ホモエピタキシャル成長を施し、供給するアニオン原子の供給量を増やした場合に成長速度が相対的に低下する場合にはアニオン面、逆に、成長速度が相対的に増加する場合にはカチオン面と判断することもできる。
【0049】
以上のようにして、化合物半導体基板3a、3bにおけるA面、B面を特定して該基板3a、3bそれぞれの積層基板30の性能に影響を及ぼさない箇所にA面、B面が判別可能なマークを付けておく。
【0050】
また、基板3a、3bの貼り合わせ予定面(A面又はB面)における特定の方位(ミラー指数)の結晶面が識別可能なマークを基板3a、3bそれぞれに付与しておく。そのマークとして、元々単結晶ウエハに付与されているオリエンテーションフラット(オリフラ、OFともいう)やノッチを活用してもよい。即ち、図4に示すように、基板3a、3bの貼り合わせ予定面であるA面又はB面におけるそれぞれ特定の結晶面が識別可能なように予め基板3a、3bにオリエンテーションフラット3ofやノッチ3nとして付与しておく。例えば、4H−SiCウエハの化合物半導体基板3a(及び3b)を用いる場合、該基板3a及び3bの(11−20)面に沿わせた(フラットな辺(直線状の辺)がその結晶面に平行な)オリエンテーションフラット3ofを設けると共に、貼り合わせ予定面(接合する面)である(000−1)C面を表面としたときにオリエンテーションフラット3ofに対して右側90°回転した位置にノッチ3nを設ける(図4)。あるいは、3C−SiCウエハの化合物半導体基板3a(及び3b)を用いる場合、該基板3a及び3bの(110)面に沿わせた(フラットな辺がその結晶面に平行な)オリエンテーションフラット3ofを設けると共に、貼り合わせ予定面である(111)Si面を表面としたときにオリエンテーションフラット3ofに対して右側90°回転した位置にノッチ3nを設ける(図4)。
【0051】
あるいは、長さの異なる2つのオリエンテーションフラットをそれぞれ異なる特定の結晶面に平行になるように基板に付与しておいてもよい。この場合、長いオリエンテーションフラット(OF1)を結晶面の[11−20]方位に設け、短いオリエンテーションフラット(OF2)を結晶面の[1−100]方位に平行に設ける。具体的には、2枚の基板について共にオリエンテーションフラットOF1を時計の6時方向の位置とし、一方の基板についてそのオリエンテーションフラットOF2が同時計の3時方向の位置となるように設け、他方の基板についてそのオリエンテーションフラットOF2を同時計の9時方向の位置となるように設ける。即ち、いずれの基板においても、オリエンテーションフラットOF1とオリエンテーションフラットOF2は直交関係となるのでL字型の治具を用いて、それぞれのオリエンテーションフラットOF1同士、そしてそれぞれのオリエンテーションフラットOF2同士を揃えれば容易に高精度位置合わせが可能となる。
【0052】
このとき、図4のオリエンテーションフラット3ofと特定の結晶方位との公差は50arcsec以内とすることが好ましく、20arcsec以内とすることがより好ましい。上記公差以内になると後述する接合工程(貼り合わせ工程)後において接合部で結晶格子が整合した整合界面となって目的の単極性の反位相領域境界面が形成されるようになり、ねじれ粒界や傾角粒界など、転位の源の発生を抑制することが容易にできるようになり好ましい。
【0053】
また、化合物半導体基板3a、3bは、炭化珪素、窒化ガリウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、インジウム燐、窒化アルミニウム又はインジウムアンチモンからなることが好ましく、炭化珪素、窒化ガリウム、ガリウム砒素又はガリウム燐からなることがより好ましく、炭化珪素からなることが特に好ましい。例えば、炭化珪素からなる場合においてはカチオン面はSi面でアニオン面はC面となり、窒化ガリウムからなる場合においてはカチオン面はGa面、アニオン面はN面となり、ガリウム砒素からなる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がAs面となり、ガリウム燐からなる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がP面となり、窒化ガリウムからなる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がN面となる。
【0054】
また、後工程でホモエピタキシャル成長を施すことも考慮して、化合物半導体基板3a、3bの表面と裏面の最密面の配向方位(最密面の結晶方位)を基板の法線に対して所定の方向に微傾斜させることも可能である。この際の傾斜角は、所望の面極性における最適な値とし、基板3a、3bでは鏡面対称方向に同じ傾斜角度であり、表面と裏面の傾斜角度を等しくすれば、化合物半導体基板表面の平行度も保たれると共に、接合面は整合界面となる。
【0055】
また、基板3a、3bの少なくとも接合面の表面状態を厳密に等価なものとするための表面処理を行うことが望ましい。具体的には、基板3a、3bの表面処理を同時に同じ処理条件で実施すれば、それぞれの表面状態が厳密に等しいものとなり、図10図11に示されるような単極性の反位相領域境界面が得られるようになり好ましい。一方、非等価な表面同士を接合すると、図12のような両極性のAPB面が形成され、半導体素子の特性が損なわれるようになる。なお、表面状態が等価とは、2枚の基板ともその表面の終端全てが化合物半導体を構成するいずれか同じ元素の原子で揃っている状態をいう。
【0056】
このため、基板3a、3bをペアとして、同時に表面処理を行う。最適な表面処理方法は基板の材質に依存するが、例えば炭化珪素基板の場合には過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄した後、表面の酸化膜を希フッ酸で除去することにより清浄な表面を得る方法が挙げられる。更に、単極性APB面の構造を規定するために水素雰囲気で加熱して表面を水素で終端すれば表面極性の制御性が高まり、図10に示されるようなシャッフルセット位置のAPB面を接合界面として確実に得ることが可能となる。
あるいは、上記水素処理の後に1600℃以上の昇温を行い、最表面に単層グラフェンを形成し、更にグラフェンを酸化して除去した表面同士を接合すれば、図11に示されるようなグライドセット位置のAPB面を接合界面として得ることも可能である。
【0057】
次に、化合物半導体基板3aのA面(又はB面)と化合物半導体基板3bのA面(又はB面)を両基板3a、3bのそれぞれ特定の結晶面を揃えた状態でA面同士(又はB面同士)が直接接するようにして貼り合わせて接合する(図3(b))。
【0058】
ここで、上述したように基板3a、3bのそれぞれ特定の結晶面を識別可能に付与したマークを用いて該それぞれ特定の結晶面を揃える(即ち、それぞれ特定の結晶方位を完全に合致させて積層界面を挟んでも結晶格子の連続性が維持される)ことが好ましい。例えば、基板3a、3bのある結晶面に沿わせて(フラットな辺がその結晶面に平行に)付与されたオリエンテーションフラット3of又はある結晶面に対応する方向に設けられた切り込み状のノッチ3nを両基板間で所定の位置関係となるように厳密に合わせることで、上記それぞれ特定の結晶面を揃えるとよい(即ち、基板3aの特定の結晶方位と基板3bの特定の結晶方位が合致するようにするとよい)。これにより、接合面における基板3a、3bそれぞれの原子配列が揃うようになり、それらの結晶格子が整合し、反位相領域境界面3abが形成させるようになる。
【0059】
例えば、六方晶からなる基板3a、3bにおいては、基板3aの[1−100]方位と基板3bの[−1100]方位を合致させるように貼り合わせを行うことが好ましい。また、立方晶からなる基板3a、3bにおいては、基板3aの[110]方位と基板3bの[−1−10]方位を合致させるように貼り合わせを行うことが好ましい。
【0060】
このとき、基板3aと基板3bのそれらの結晶方位の公差(合致すべき基板3aの結晶方位と基板3bの結晶方位の角度差)は50arcsec以下が好ましく、20arcsec以下がより好ましい。これにより、接合界面において結晶格子が整合し、単極性の反位相領域境界面が形成されて本発明の効果がより顕著に発現するようになる。また、貼り合わせ面(接合面)の整合界面において転位や積層欠陥の発生が抑制され、化合物半導体基板内の欠陥密度を低減することができる。
【0061】
本発明では、結晶方位に対応したオリフラ等のマークを付与した(外形加工した)基板2枚を準備し、両者のマーク同士で厳密に位置合わせをすることで2枚の基板間のそれぞれの特定の結晶方位を揃えるようにして所定の結晶面を重ね合わせて接合することで積層界面を単極性APB面としている。この場合、貼り合わせた2枚の基板の重ね合わせ面間の結晶方位の公差(板面回転方向のずれ)をできるだけ小さくすることが重要である。
【0062】
そこで、本発明では、上述したように所定の結晶方位が特定可能なように所定の結晶方位に対して所定の位置関係となるような複数のオリフラなどのマークを基板に付与しているが、通常は、第1マーク、第2マークの2つのマークを付与すればよく、これらは互いに識別可能なように異なる形状を有するようにすればよい。例えば、オリフラの場合には目視で識別可能な程度に異なる長さを有するようにする。これらのマークを各基板において所定の結晶方位に対する公差(板面回転方向のずれ)ができるだけ小さくなるように付与することが好ましい。
【0063】
また、2枚の基板の貼り合わせに際しては、それぞれの基板に付与されたマーク同士で厳密に位置が合うように治具を用いて2枚の基板を固定することが好ましい。具体的には、2枚の基板それぞれに上記第1、第2マークとして2種類のオリフラ(第1オリエンテーションフラット、第2オリエンテーションフラット)をそれらのフラットな辺の延長線が交差した角度が90°となるように付与しておき、2枚の基板を重ね合わせるときに第1オリエンテーションフラット同士、第2オリエンテーションフラット同士それぞれの位置が揃うようにして重ね合わせた後、90°の当金となるL字形状の石英治具を用いて第1オリエンテーションフラット同士、第2オリエンテーションフラット同士それぞれの端面を揃えて固定し、接合を行うとよい。
【0064】
なお、上記のように2枚の基板の貼り合わせを行う前に、基板毎にラウエ・カメラやX線回折ピーク位置で上記基板の外形加工後の表面やオリフラの偏向方位の系統誤差を求め、これらを基準として貼り合わせの対となる基板間で系統誤差を互いに打ち消す補正関係となるように基板の選別を行い、それらの基板を対として貼り合わせることを行うことが好ましい。この方法によれば、最終的な基板間の結晶方位の公差(板面回転方向のずれ)は偶然公差に起因する成分のみとなり、目標とする公差以内(例えば、好ましくは50arcsec以下、より好ましくは20arcsec以下)を満たす積層基板の歩留りをより向上させることが可能となる。
【0065】
また更に、貼り合わせ後の積層基板を3軸のゴニオメータに固定し、ラウエ・カメラやX線回折ピーク位置で積層基板表裏それぞれの結晶面の配向方位を測定すれば、両者の差異から接合時の公差を求めることができ、この公差測定結果から目標とする公差以内(例えば、好ましくは50arcsec以下、より好ましくは20arcsec以下)を満たす積層基板を判別することが可能となる。
【0066】
また、上記のように重ね合わせた2枚の基板の接合方法は、同種の元素の原子同士が連続して結合可能となる手段から任意の方法を選ぶことができる。例えば、予め2枚の化合物半導体基板3a、3bのいずれか一方又は両方の接合面に表面活性化処理を施した上で、両者を貼り合わせるとよい。表面活性化処理としてはプラズマ活性化処理、真空イオンビーム処理又はオゾン水への浸漬処理を行うとよい。
【0067】
このうち、プラズマ活性化処理をする場合、真空チャンバ中に化合物半導体基板3a、3bを載置し、プラズマ用ガスを減圧下で導入した後、100W程度の高周波プラズマに5〜10秒程度さらし、表面をプラズマ活性化処理する。プラズマ用ガスとしては、酸素ガス、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガスを用いることができる。
【0068】
真空イオンビーム処理は、高真空のチャンバ内に化合物半導体基板3a、3bを載置し、Ar等のイオンビームを貼り合わせをする表面に照射して活性化処理を行う。
【0069】
オゾン水への浸漬処理は、オゾンガスを溶解させたオゾン水に化合物半導体基板3a、3bを浸漬し、その表面を活性化処理する。
【0070】
上記した表面活性化処理は、化合物半導体基板3a、3bのA面(又はB面)両方について同じ処理条件で行うのが好ましい。なぜならば、基板の表面状態が厳密に一致し、単極性の反位相領域境界面を形成しやすくなるためである。また、表面活性化処理は上記方法のいずれか一つでもよいし、組み合わせた処理を行っても構わない。更に、化合物半導体基板3a、3bの表面活性化処理を行う面は、貼り合わせを行う面(接合面)であることが好ましい。
【0071】
次いで、化合物半導体基板3aと化合物半導体基板3bとを貼り合わせた後に、好ましくは150〜350℃、より好ましくは150〜250℃の熱処理を行い、化合物半導体基板3aと化合物半導体基板3bの貼り合わせ面の結合強度を向上させる。化合物半導体基板3aと化合物半導体基板3bは同質の材料であるため、熱膨張率差による基板の反りは抑制されるが、適宜、それぞれの基板に適した温度を採用して反りを抑制するとよい。熱処理時間としては、温度にもある程度依存するが、2〜24時間が好ましい。
【0072】
これにより、化合物半導体基板3aと化合物半導体基板3bとは強固に密着して、一枚の化合物半導体積層基板30が得られる(図3(c))。
【0073】
ここで、図3では、化合物半導体積層基板30の表裏面それぞれが構成元素の中の同種の元素の原子(B原子)からなると共に該原子の未結合手が露出した極性面(B面)となる。あるいは、化合物半導体基板3a、3bのB面同士を接合した場合には、化合物半導体積層基板30の表裏面それぞれがA原子からなると共に該A原子の未結合手が露出した極性面(A面)となる。
【0074】
また、図3では、化合物半導体積層基板30は、その内部に積層界面として積層基板30の表面に平行で、A原子同士が結合した単極性の反位相領域境界面3abが形成される。あるいは、化合物半導体基板3a、3bのB面同士を接合した場合には、化合物半導体積層基板30は、その内部に積層界面として積層基板30の表面に平行で、B原子同士が結合した単極性の反位相領域境界面3abが形成される。この反位相領域境界面3abは、上述した単極性の反位相領域境界面2abであり、カチオン−カチオン同士(又は、アニオン−アニオン同士)の同種の元素の原子同士の結合のみにより形成されるため、半導体素子のブロッキング特性を損なわない。
【0075】
また、上記化合物半導体積層基板30では、その表面と裏面それぞれに、半導体素子の活性層としてキャリア濃度が制御された所定の厚さのエピタキシャル成長層を形成することも可能である。炭化珪素の基板を製造する際には、上記工程により製造した積層基板30を多結晶炭化珪素製のボートに縦に載置し、気相成長炉内にて1340℃まで昇温し、流量200sccmのSiH2Cl2と流量50sccmのC22を導入し、圧力を15Paとすることにより所定の厚さのエピタキシャル成長層を形成することができる。エピタキシャル成長層の厚さは成長時間により制御可能であり、その電子濃度や正孔濃度は、それぞれ成長ガス中にN2ガスやトリメチルアルミニウム等を適宜混合することにより制御可能である。
【0076】
以上の操作により、積層基板30の両面に同様のホモエピタキシャル成長層が形成するが、片面にのみエピタキシャル成長層を形成する際には、エピタキシャル成長を必要としない面を酸化膜で被覆したうえでエピタキシャル成長操作を行うか、エピタキシャル成長後に研磨を施してエピタキシャル成長層を除去することも可能である。
【0077】
以上のようにして、基板加工や半導体素子製造においては表面の極性の違いによる影響を受けず、結晶中の転位の運動が妨げられ、ブロッキング特性の損なわれない化合物半導体積層基板が得られる。
【0078】
なお例えば、炭化珪素からなる化合物半導体基板3a、3bを用いる場合においてはカチオン面はSi面でアニオン面はC面であり、窒化ガリウムからなる化合物半導体基板3a、3bを用いる場合においてはカチオン面はGa面でアニオン面はN面であり、ガリウム砒素からなる化合物半導体基板3a、3bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がAs面であり、ガリウム燐からなる化合物半導体基板3a、3bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がP面であり、窒化ガリウムからなる化合物半導体基板3a、3bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がN面である。本発明では、それぞれのカチオン面同士(あるいはアニオン面同士)を接合してカチオン同士(あるいはアニオン同士)からなる単極性の反位相領域境界面を形成し、かつ積層基板30の表裏面には同一の極性を持つアニオン面(あるいはカチオン面)が形成されて上述した本発明の作用効果が得られる。
【0079】
(実施形態2)
本発明に係る化合物半導体積層基板の製造方法の実施形態2について図5を用いて説明する。
はじめに、最密面を基板の表面と裏面に配向させた単結晶の化合物半導体基板4a、4bを用意する(図5(a))。この化合物半導体基板4a、4bは、実施形態1における化合物半導体基板3a、3bと同じものとする。
【0080】
次に、2枚の化合物半導体基板4a、4bのうち一方の化合物半導体基板4aについて、他方の化合物半導体基板4bと接合する面に、化合物半導体基板4aのA面(又はB面)の表面層を分離するための処理として、予め水素イオン等を注入してイオン注入領域4ionを形成する(図5(b))。
【0081】
ここで、化合物半導体基板4aへのイオン注入の際、その表面から所望の深さにイオン注入領域4ionを形成できるような注入エネルギーで、所定の線量の少なくとも水素イオン(H+)又は水素分子イオン(H2+)を注入する。このときの条件として、所望の薄膜の厚さになるようにイオン注入エネルギーを設定すればよい。HeイオンやBイオン等を同時に注入しても構わないし、同じ効果が得られるものであればどのようなイオンを採用しても構わない。ただし、化合物半導体結晶格子へのダメージを低減する観点からは、できるだけ軽元素のイオンであるほうが望ましい。
【0082】
化合物半導体基板4aに注入する水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1016atoms/cm2〜9.0×1017atoms/cm2であることが好ましい。1.0×1016atoms/cm2未満であると、界面の脆化が起こらない場合があり、9.0×1017atoms/cm2を超えると、貼り合わせ後の熱処理中に気泡となり転写不良となる場合がある。
【0083】
注入イオンとして水素分子イオン(H2+)を用いる場合、そのドーズ量は、5.0×1015atoms/cm2〜4.5×1017atoms/cm2であることが好ましい。5.0×1015atoms/cm2未満であると、界面の脆化が起こらない場合があり、4.5×1017atoms/cm2を超えると、貼り合わせ後の熱処理中に気泡となり転写不良となる場合がある。
【0084】
イオン注入された基板表面からイオン注入領域4ionまでの深さ(即ち、イオン打ち込み深さ)は、化合物半導体基板4b上に設ける薄層化された化合物半導体基板である化合物半導体薄膜4a’の所望の厚さに対応するものであり、通常100〜2,000nm、好ましくは300〜500nm、更に好ましくは400nm程度である。また、イオン注入領域4ionの深さ(即ち、イオン分布厚さ)は、機械衝撃等によって容易に剥離できる厚さがよく、好ましくは200〜400nm、更に好ましくは300nm程度である。
【0085】
次に、化合物半導体基板4aのイオン注入面であるA面(又はB面)と化合物半導体基板4bのA面(又はB面)の表面状態を厳密に等価なものとするための表面処理を行うことが望ましい。なぜならば、非等価な表面同士を接合すると、図12のような両極性のAPB面が形成され、半導体素子の特性が損なわれるためである。このため、基板4a、4bをペアとして、同時に同じ処理条件で表面処理を行う。最適な表面処理方法は基板の材質に依存するが、例えば炭化珪素基板の場合には過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄した後、表面の酸化膜を希フッ酸で除去することにより正常な表面を得る方法が挙げられる。更に、単極性APB面の構造を規定するために水素雰囲気で加熱して表面を水素で終端すれば表面極性の制御性が高まり、図10に示されるようなシャッフルセット位置のAPB面を接合界面として確実に得ることが可能となる。
【0086】
次に、両基板4a、4bのそれぞれ特定の結晶面を揃えた状態(即ち、基板4aの特定の結晶方位と基板4bの特定の結晶方位が合致した状態)でA面同士(又はB面同士)が直接接するようにして貼り合わせて接合する、即ち化合物半導体基板4a、4bの表面活性化処理をしたA面同士(又はB面同士)を接合面として貼り合わせる(図5(c))。ここで、接合方法、表面活性化方法などは実施形態1と同じ方法でよい。
【0087】
次いで、化合物半導体基板4aと化合物半導体基板4bとを貼り合わせた後に、好ましくは150〜350℃、より好ましくは150〜250℃の熱処理を行い、化合物半導体基板4aと化合物半導体基板4bの貼り合わせ面の結合強度を向上させる。化合物半導体基板4aと化合物半導体基板4bは同質の材料であるため、熱膨張率差による基板の反りは抑制されるが、適宜、それぞれの基板に適した温度を採用して反りを抑制するとよい。熱処理時間としては、温度にもある程度依存するが、2〜24時間が好ましい。
【0088】
上記のようにして貼り合わせた基板について、イオン注入した部分に熱的エネルギー又は機械的エネルギーを付与して、イオン注入領域4ionで化合物半導体基板4aの表面層を剥離させ、化合物半導体基板4b上に単結晶化合物半導体薄膜4a’を転写して化合物半導体積層基板40を得る(図5(d))。
【0089】
ここで、剥離方法としては、例えば上記貼り合わせた基板を高温に加熱して、この熱によってイオン注入領域4ionにおいてイオン注入した成分の微小なバブル体を発生させることにより剥離を生じさせて化合物半導体基板4aを分離する熱剥離法を適用することができる。あるいは、熱剥離が生じない程度の低温熱処理(例えば、500〜900℃、好ましくは500〜700℃)を施しつつ、イオン注入領域4ionの一端に物理的な衝撃を加えて機械的に剥離を発生させて化合物半導体基板4aを分離する機械剥離法を適用することができる。機械剥離法は単結晶化合物半導体薄膜転写後の転写表面の粗さが熱剥離法よりも比較的小さいため、より好ましい。
【0090】
なお、剥離処理後に、化合物半導体基板4bを加熱温度700〜1000℃であって剥離処理時よりも高い温度、加熱時間1〜24時間の条件で加熱して、化合物半導体薄膜4a’との密着性を改善する熱処理を行ってもよい。このとき、薄膜4a’は化合物半導体基板4bに強固に密着しているため、イオン注入領域4ionにおける剥離部分以外の部分での剥離は発生しない。
【0091】
なお、剥離した後の単結晶化合物半導体基板4a''は、表面を再度研磨や洗浄等を施すことにより再度単結晶化合物半導体基板として再利用することが可能となる。
【0092】
これにより、化合物半導体薄膜4a’と化合物半導体基板4bとは強固に密着して、一枚の化合物半導体積層基板40が得られる(図5(d))。
【0093】
ここで、図5では、化合物半導体積層基板40の表裏面それぞれが構成元素の中の同種の元素の原子(B原子)からなると共に該原子の未結合手が露出した極性面(B面)となる。あるいは、化合物半導体基板4a、4bのB面同士を接合した場合には、化合物半導体積層基板40の表裏面それぞれがA原子からなると共に該A原子の未結合手が露出した極性面(A面)となる。
【0094】
また、図5では、化合物半導体積層基板40は、その内部に積層界面として積層基板40の表面に平行で、A原子、B原子のいずれか一方同士が結合した反位相領域境界面4abが形成される。あるいは、化合物半導体基板4a、4bのB面同士を接合した場合には、化合物半導体積層基板40は、その内部に積層界面として積層基板40の表面に平行で、A原子、B原子のいずれか一方同士が結合した反位相領域境界面4abが形成される。この反位相領域境界面4abは、上述した単極性の反位相領域境界面2abであり、カチオン−カチオン同士(又は、アニオン−アニオン同士)の同種の元素の原子同士の結合のみにより形成される。
【0095】
また、上記化合物半導体積層基板40では、その表面と裏面それぞれに、半導体素子の活性層としてキャリア濃度が制御された所定の厚さのエピタキシャル成長層を形成することも可能である。炭化珪素の基板を製造する際には、上記工程により製造した積層基板40を多結晶炭化珪素製のボートに縦に載置し、気相成長炉内にて1340℃まで昇温し、流量200sccmのSiH2Cl2と流量50sccmのC22を導入し、圧力を15Paとすることにより所定の厚さのエピタキシャル成長層を形成することができる。エピタキシャル成長層の厚さは成長時間により制御可能であり、その電子濃度や正孔濃度は、それぞれ成長ガス中にN2ガスやトリメチルアルミニウム等を適宜混合することにより制御可能である。
【0096】
以上の操作により、積層基板40の両面に同様のホモエピタキシャル成長層が形成するが、片面にのみエピタキシャル成長層を形成する際には、エピタキシャル成長を必要としない面を酸化膜で被覆したうえでエピタキシャル成長操作を行うか、エピタキシャル成長後に研磨を施してエピタキシャル成長層を除去することも可能である。
【0097】
以上のようにして得られた積層基板40を用いることにより、基板加工や半導体素子製造においては表面の極性の違いによる影響を受けず、結晶中の転位の運動が妨げられる。例えば、非特許文献2には、転位の運動を妨げることにより積層欠陥密度は120/cm以下の炭化珪素が形成できること、非特許文献3においては積層欠陥の密度を60,000/cm2以下(245/cm以下)とすることにより、炭化珪素のpn接合における漏洩電流密度が0.1mA以下にできることが報告されている。本発明による炭化珪素からなる化合物半導体積層基板を用いれば、ブロッキング特性の損なわれない半導体素子が得られる。
【0098】
また同様に、窒化ガリウムからなる化合物半導体基板4a、4bを用いる場合においてはカチオン面はGa面でアニオン面はN面であり、ガリウム砒素からなる化合物半導体基板4a、4bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がAs面であり、ガリウム燐からなる化合物半導体基板4a、4bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がP面であり、窒化ガリウムからなる化合物半導体基板4a、4bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がN面である。本発明では、それぞれのカチオン面同士(あるいはアニオン面同士)を接合してカチオン同士(あるいはアニオン同士)からなる単極性の反位相領域境界面を形成し、かつ積層基板40の表裏面には同一の極性を持つアニオン面(あるいはカチオン面)が形成されて上述した本発明の作用効果が得られる。
【0099】
(実施形態3)
本発明に係る化合物半導体積層基板の製造方法の実施形態3について図6を用いて説明する。実施形態3は、上記実施形態2における化合物半導体基板4aとして、その基板4aの化合物半導体基板4bと接合する面に予めホモエピタキシャル成長層を形成したものを用いる場合である。
【0100】
はじめに、最密面を基板の表面と裏面に配向させた単結晶の化合物半導体基板5a、5bを用意する(図6(a))。この化合物半導体基板5a、5bは、実施形態1における化合物半導体基板3a、3bと同じものとする。ここでは、基板5aを転写基板と称し、基板5bを支持基板とも称する。
【0101】
次に、2枚の化合物半導体基板5a、5bのうち一方の化合物半導体基板5aについて、他方の化合物半導体基板5bと接合する面に、基板5aと同じ化合物のホモエピタキシャル成長層5eを形成する(図6(b))。即ち、基板5aの一方の主面上に該基板5aと同じ化合物であって同じ原子配列を持つエピタキシャル結晶を層状に成長させる。
【0102】
ホモエピタキシャル成長させる方法は公知のエピタキシャル成長法を用いればよく、例えば気相エピタキシャル成長法が好ましい。
【0103】
ホモエピタキシャル成長層5eの厚さは、好ましくは500nm〜5μmであり、より好ましくは600nm〜1μmである。これにより、後述するイオン注入転写法によりホモエピタキシャル成長層5eの一部を層状に基板5b上に転写することが可能である。
【0104】
なお、化合物半導体基板5aとホモエピタキシャル成長層5eとの間に同一化合物に不純物をドーピングしてなるバッファ層5cを形成すると、基板5a表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層5eに伝搬させないようにすることができ好ましい(図6(b))。バッファ層5cの厚さは、好ましくは100〜1000nmである。
【0105】
ここで、基板5aのA面(カチオン面)上にホモエピタキシャル成長層5eを形成するので、ホモエピタキシャル成長層5eの表面もA面(カチオン面)となる。なお、基板5aのB面上にホモエピタキシャル成長層5eを設けた場合、ホモエピタキシャル成長層5eの表面はB面(アニオン面)となる。
【0106】
次に、一方の化合物半導体基板5aについて、他方の化合物半導体基板5bと接合する面、即ちホモエピタキシャル成長層5eに、該ホモエピタキシャル成長層5eのA面(又はB面)の表面層を分離するための処理として、予め水素イオン等を注入してイオン注入領域5ionを形成する(図6(c))。このときのイオン注入処理方法は実施形態2と同じでよい。
【0107】
なお、イオン注入された基板表面からイオン注入領域5ionまでの深さ(即ち、イオン打ち込み深さ)は、化合物半導体基板5b上に設ける薄層化された化合物半導体基板であるホモエピタキシャル成長層5e’の所望の厚さに対応するものであり、通常100〜2000nm、好ましくは300〜500nm、更に好ましくは400nm程度である。また、イオン注入領域5ionの深さ(即ち、イオン分布厚さ)は、機械衝撃等によって容易に剥離できる厚さがよく、好ましくは200〜400nm、更に好ましくは300nm程度である。
【0108】
次いで、基板5a、5bの少なくとも接合面の表面状態を厳密に等価なものとするための表面処理を行うことが望ましい。なぜならば、非等価な表面同士を接合すると、図12のような両極性のAPB面が発生し、半導体素子の特性が損なわれるためである。このため、基板5a、5bをペアとして、同時に同じ処理条件で表面処理を行う。最適な表面処理方法は基板の材質に依存するが、例えば炭化珪素基板の場合には過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄した後、表面の酸化膜を希フッ酸で除去することにより正常な表面を得る方法が挙げられる。更に、単極性APB面の構造を規定するために水素雰囲気で加熱して表面を水素で終端すれば表面極性の制御性が高まり、図10に示されるようなシャッフルセット位置のAPB面を確実に得ることが可能となる。
【0109】
次に、化合物半導体基板5a(つまり、ホモエピタキシャル成長層5e)のイオン注入面であるA面(又はB面)と化合物半導体基板5bのA面(又はB面)を両基板5a、5bのそれぞれ特定の結晶面を揃えた状態(即ち、基板5aの特定の結晶方位と基板5bの特定の結晶方位が合致した状態)でA面同士(又はB面同士)が直接接するようにして貼り合わせて接合する、即ち化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)と化合物半導体基板5bの表面活性化処理をしたA面同士(又はB面同士)を接合面として貼り合わせる(図6(d))。このときの接合方法、表面洗浄方法、表面活性化方法などは実施形態1と同じ方法でよい。
【0110】
次いで、化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)と化合物半導体基板5bとを貼り合わせた後に、好ましくは150〜350℃、より好ましくは150〜250℃の熱処理を行い、ホモエピタキシャル成長層5eと化合物半導体基板5bの貼り合わせ面の結合強度を向上させる。化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)と化合物半導体基板5bは同質の材料であるため、熱膨張率差による基板の反りは抑制されるが、適宜、それぞれの基板に適した温度を採用して反りを抑制するとよい。熱処理時間としては、温度にもある程度依存するが、2〜24時間が好ましい。
【0111】
上記のようにして貼り合わせた基板について、イオン注入した部分に熱的エネルギー又は機械的エネルギーを付与して、イオン注入領域5ionでホモエピタキシャル成長層5eの表面層を剥離させ、化合物半導体基板5b上に単結晶化合物半導体薄膜5e’を転写して化合物半導体積層基板50を得る(図6(e))。このときの剥離方法は実施形態2と同じでよい。必要により密着性を改善する熱処理を行ってもよい。
【0112】
なお、剥離した後の単結晶化合物半導体基板5aは、表面を再度研磨や洗浄等を施すことにより再度単結晶化合物半導体基板として再利用することが可能となる。
【0113】
これにより、化合物半導体薄膜5e’と化合物半導体基板5bとは強固に密着して、一枚の化合物半導体積層基板50が得られる(図6(e))。
【0114】
ここで、図6では、化合物半導体積層基板50の表裏面それぞれが構成元素の中の同種の元素の原子(B原子)からなると共に該原子の未結合手が露出した極性面(B面)となる。あるいは、化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)、化合物半導体基板5bのB面同士を接合した場合には、化合物半導体積層基板50の表裏面それぞれがA原子からなると共に該A原子の未結合手が露出した極性面(A面)となる。
【0115】
また、図6では、化合物半導体積層基板50は、その内部に積層界面として積層基板50の表面に平行で、A原子同士が結合した反位相領域境界面5ebが形成される。あるいは、化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)、化合物半導体基板5bのB面同士を接合した場合には、化合物半導体積層基板50は、その内部に積層界面として積層基板50の表面に平行で、B原子同士が結合した反位相領域境界面5ebが形成される。この反位相領域境界面5ebは、上述した単極性の反位相領域境界面2abであり、カチオン−カチオン同士(又は、アニオン−アニオン同士)の同種の元素の原子同士の結合のみにより形成される。
【0116】
また、上記化合物半導体積層基板50では、その表面と裏面それぞれに、半導体素子の活性層としてキャリア濃度が制御された所定の厚さのエピタキシャル成長層を形成することも可能である。炭化珪素(3C−SiC)の基板を製造する際には、例えば上記工程により製造した積層基板50を多結晶炭化珪素製のボートに縦に載置し、気相成長炉内にて1340℃まで昇温し、流量200sccmのSiH2Cl2と流量50sccmのC22を導入し、圧力を15Paとすることにより所定の厚さのエピタキシャル成長層を形成することができる。エピタキシャル成長層の厚さは成長時間により制御可能であり、その電子濃度や正孔濃度は、それぞれ成長ガス中にN2ガスやトリメチルアルミニウム等を適宜混合することにより制御可能である。
【0117】
以上の操作により、積層基板50の両面に同様のホモエピタキシャル成長層が形成するが、片面にのみエピタキシャル成長層を形成する際には、エピタキシャル成長を必要としない面を酸化膜で被覆したうえでエピタキシャル成長操作を行うか、エピタキシャル成長後に研磨を施してエピタキシャル成長層を除去することも可能である。
【0118】
以上のようにして得られた積層基板50を用いることにより、基板加工や半導体素子製造においては表面の極性の違いによる影響を受けず、結晶中の転位の運動が妨げられる。例えば、非特許文献2には、転位の運動を妨げることにより積層欠陥密度は120/cm以下の炭化珪素が形成できること、非特許文献3においては積層欠陥の密度を60,000/cm2以下(245/cm以下)とすることにより、炭化珪素のpn接合における漏洩電流密度が0.1mA以下にできることが報告されている。本発明による炭化珪素からなる化合物半導体積層基板を用いれば、ブロッキング特性の損なわれない半導体素子が得られる。
【0119】
また同様に、窒化ガリウムからなる化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)、化合物半導体基板5bを用いる場合においてはカチオン面はGa面でアニオン面はN面であり、ガリウム砒素からなる化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)、化合物半導体基板5bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がAs面であり、ガリウム燐からなる化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)、化合物半導体基板5bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がP面であり、窒化ガリウムからなる化合物半導体基板5a(ホモエピタキシャル成長層5e)、化合物半導体基板5bを用いる場合においてはカチオン面がGa面、アニオン面がN面である。本発明では、それぞれのカチオン面同士(あるいはアニオン面同士)を接合してカチオン同士(あるいはアニオン同士)からなる単極性の反位相領域境界面を形成し、かつ積層基板50の表裏面には同一の極性を持つアニオン面(あるいはカチオン面)が形成されて上述した本発明の作用効果が得られる。
【実施例】
【0120】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に限定されるものではない。
【0121】
[実施例1]
実施形態1に相当する、図3(c)に示す単極性の反位相領域境界面(APB面)を有する化合物半導体積層基板30と単極性APB面を有さない積層基板とを作製し、評価した。
まず、II−VI社製の直径4インチの単結晶4H−SiCウエハを4種類用意した。第1のウエハW11(4枚)と第2のウエハW12(2枚)は表面を(0001)Si面とし、第3のウエハW13(1枚)は表面を(000−1)C面とした。それぞれのウエハの表面の法線軸と[0001]軸の公差は0.3度以内である。また、第4のウエハW14(1枚)は表面を(0001)Si面から[11−20]方位へ4度傾斜させた面とした。なお、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設け、第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW11については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW12、W13、W14については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。
また、ウエハW11は後述する貼り合わせ工程後に積層体の支持基板部分(基台)となる(図3の基板3bに相当する)ため、機械的強度を保つ必要があり、ウエハ厚さを0.5mmとした。一方、ウエハW12、W13、W14はいずれも厚さを0.15mmとした。
【0122】
このようなウエハW11、W12、W13、W14の表面と裏面には機械研磨処理と化学的機械研磨(CMP)を施し、表面の算術平均粗さ(Ra、JIS B0601:2013、以下同じ)を0.2nm以下とした。このように平滑化を実施する理由は、後述するウエハ接合工程において未接合領域を低減するためである。そして、ウエハW11、W12、W13、W14を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次いで、オゾンガスを溶解させたオゾン水にそれぞれのウエハを同時に10分間浸漬してその表面を活性化した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0123】
次に、ウエハW11とウエハW12の組み合わせ(2組)、ウエハW11とウエハW13の組み合わせ及びウエハW11とウエハW14の組み合わせとして、それぞれの組み合わせにおいてウエハの表面同士が当接するようにして接合した。このとき、ウエハW11とウエハW12の組み合わせのうちの1組(実施例)、及びウエハW11とウエハW13の組み合わせ(比較1)におけるそれぞれのウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するように、L字形状の石英治具を用いてオリエンテーションフラット端面を揃えた。この場合、当接したウエハ端面の公差は20arcsec以内であった。
また、ウエハW11とウエハW12の組み合わせのうちの他の1組(比較2)におけるウエハW11の第1オリエンテーションフラットに対してウエハW12の第1オリエンテーションフラットが反時計方向に2度以上回転するようにした。このような回転により、後述する接合後の界面は整合界面とはならず、ねじれ粒界となる。
また、ウエハW11とウエハW14の組み合わせ(比較3)におけるそれぞれのウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するように、L字形状の石英治具を用いてオリエンテーションフラット端面を揃えた。この場合当接したウエハ端面の公差は20arcsec以内であった。なお、ウエハW11とウエハW14の組み合わせにおいては貼り合わせ界面においてウエハW11に対してウエハW14の結晶格子は傾斜しているため、後述する接合後の界面は整合界面とはならず、傾角粒界となる。
【0124】
ここで、ウエハW11とウエハW12の組み合わせのうちの1組(実施例)のウエハW11とウエハW12の当接により一体化したウエハをW112と呼び、ウエハW11とウエハW13の組み合わせ(比較1)におけるウエハW11とウエハW13の当接により一体化したウエハをW113と呼ぶ。また、ウエハW11とウエハW12の組み合わせのうちの他の1組(比較2)におけるウエハW11とウエハW12の当接により一体化したウエハをW112’と呼び、ウエハW11とウエハW14の組み合わせ(比較3)におけるウエハW11とウエハW14の当接により一体化したウエハをW114と呼ぶ。
【0125】
ウエハW112は接合面がSi−Si結合の単極性APB面で構成され、その表面と裏面はC面となる。一方、ウエハW113は接合面がSi−C結合となりAPB面は含まれない。また、ウエハW113の表面側(ウエハW13の裏面に相当)はSi面となり、ウエハW113の裏面側(ウエハW11の裏面に相当)はC面となる。また、ウエハW112’、W114は、表面と裏面がC面となるが、接合面は必ずしもSi原子同士が結合した単極性APB面とはならず、両極性APB面とねじれ粒界、あるいは傾角粒界によって構成される。このため、pn接合やショットキー電極を設けて接合界面に空間電荷領域を拡張させるとキャリアのリークパスとして振る舞う。
【0126】
次に、ウエハW112、W113、W112’、W114に対して250℃、24時間の熱処理を行い、接合面の接合強度を高めた。
【0127】
ここで、化合物半導体基板や化合物半導体積層基板の表面には種々の結晶欠陥が露出しているが、これらの基板において支配的な欠陥は基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)と貫通転位(TD:Threading Dislocation)である。それぞれの欠陥を目視によって観察することはできないが、水酸化カリウム(KOH)の結晶をウエハ表面又はエピタキシャル成長層表面に載置して500℃に加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化させ観察することが可能である(これを溶融KOH処理と称する)。ここでは、溶融KOH処理後の観察対象表面について100倍の光学顕微鏡の複数視野の中で観察された欠陥をカウントし、欠陥密度を求めた(以降の実施例において同じ)。
【0128】
まず、上記のようにして得られたウエハW112、W113、W112’、W114のウエハW12側の表面、W13側の表面、W14側の表面について溶融KOH処理を施し、その表面に露出していたBPD密度を測定したところ、ウエハW112、W113、W112’、W114のBPD密度は同程度であり、7900〜12000/cm2であった。
【0129】
次に、ウエハW112、W113、W112’、W114に対してホモエピタキシャル成長に相当する熱処理として、1650℃、300分の熱処理を施した後に、溶融KOH処理を施し、ウエハ表面(ウエハW12側の表面、W13側の表面、W14側の表面)のBPD密度を測定した。その結果、ウエハW112では9500/cm2であったのに対し、その他の積層ウエハではその倍以上であり、ウエハW113では21000/cm2、ウエハW112’では26000/cm2、ウエハW114では31000/cm2であった。
【0130】
本発明の積層基板であるウエハW112では、接合界面に形成された単極性APB面が積層基板内においてウエハW11側からウエハW12へのBPDの拡張(伝搬)を阻み、BPD密度の増加を抑制したと推定される。一方、比較用のウエハW113では積層界面においてAPB面が形成されてないため、積層基板内においてウエハW11側からウエハW13へとBPDが伝搬し、BPD密度が増加したと推定される。また、比較用のウエハW112’、W114では積層界面において単極性APB面が形成されておらず、両極性APB面と共に発生した不整合界面により新たなBPDが発生し、BPD密度が増加したと推定される。
【0131】
なお、本実施例では、ウエハW12として欠陥密度の比較的大きい炭化珪素基板を用いたが、欠陥密度の低い炭化珪素基板をウエハW12として用いてウエハW112を作製すれば、たとえウエハW11表面の欠陥密度が大きいとしてもそれらの欠陥の伝搬はAPB面で遮られるため、ウエハW12表面同様の低欠陥密度の炭化珪素積層基板を得ることが可能である。欠陥密度の低い炭化珪素基板としては、例えば特開2003−119097号公報記載の方法で製造された低欠陥密度の炭化珪素基板を用いればよい。
【0132】
[実施例2]
実施形態2に相当する、図5(d)に示す単極性の反位相領域境界面(APB面)を有する化合物半導体積層基板40と単極性APB面を有さない積層基板とを作製し、評価した。
まず、口径4インチの単結晶4H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。このうち、第1のウエハW21(2枚)は積層体の支持基板部分となる(図5の基板4bに相当する)ものであり、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである。第2のウエハW22(1枚)(図5の基板4aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである(転写基板)。第3のウエハW23(2枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものである(転写基板)。このように微傾斜基板を用いる理由は、[0001]軸方向の結晶面の積層順序を横方向に伝搬させて結晶のポリタイプを保つ(原子配列を保つ)ステップ制御エピタキシーを具現化するためである。また、対象面の微傾斜方向をウエハW21と、W22及びW23とで反対方向とした理由は、それぞれの表面を接合した際に傾角粒界の発生を抑制し、整合界面を形成するためである。
【0133】
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW21については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW22、W23については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
【0134】
なお、上述した溶融KOH処理により測定したウエハW21、W22、W23のBPD密度はいずれも同程度であり、9300〜11000/cm2であった。
【0135】
次に、各ウエハ表面には化学的機械研磨(CMP)処理して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。このように平滑化を実施する理由は、後述するウエハ接合工程において未接合領域や両極性APB面の発生を低減するためである。
【0136】
次に、ウエハW22、W23それぞれの表面に脆弱層を設けた(図5(b)のイオン注入領域4ionに相当する)。これは、ウエハW22、W23をウエハW21に当接させて接合した後にそれぞれの表面層のみをウエハW21上に転写するための処理である。このため、ウエハW22、W23の貼り合わせ予定の表面に水素イオンを注入して図5(b)に示すイオン注入領域4ionを形成した。注入した水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1017atoms/cm2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0137】
そして、ウエハW21、W22、W23を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0138】
次に、ウエハW22、W23の表面をそれぞれウエハW21の表面に当接して接合した(図5(c)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW21のオリフラ方位に対してウエハW22、W23のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW21とウエハW22間、及びウエハW21とウエハW23間の不整合界面(結晶格子が不連続になっている界面)密度が無視し得る程度に低減する。
【0139】
ここで、ウエハW21/W22界面とウエハW21/W23界面の違いに着目する。ウエハW21とウエハW22間の界面には、Si極性面が相互に対向しているため、Si−Si結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW21とウエハW23間の界面では、ウエハW21のSi極性面に対してウエハW23のC極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0140】
次に、ウエハW21、W22の接合体、並びにウエハW21、W23の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW21の表面に残留(転写)させた(図5(d)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW21表面にウエハW22側の薄膜層が転写したウエハをW212と呼び、ウエハW21表面にウエハW23側の薄膜層が転写したウエハをW213と呼ぶ。ウエハW212及びW213表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0141】
次に、ウエハW212、W213の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW212、W213を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW213は表面にSi面が露出しているため、SiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW212に対してはSiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0142】
次に、ウエハW212、W213上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW212表面のBPD密度はW22表面同様の9700/cm2にとどまったが、ウエハW213表面のBPD密度はW23表面の約2倍の22000/cm2に増加した。即ち、ウエハW212では、積層界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW213ではAPB面が存在しないため、ウエハW21表面のBPDがW23を貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
以上により、本発明の効果が検証された。
【0143】
なお、本実施例では、ウエハW22として欠陥密度の比較的大きい炭化珪素基板を用いたが、欠陥密度の低い炭化珪素基板をウエハW22として用いてウエハW212を作製すれば、たとえウエハW21表面の欠陥密度が大きいとしてもそれらの欠陥の伝搬はAPB面で遮られるため、ウエハW22表面同様の低欠陥密度の炭化珪素積層基板を得ることが可能である。欠陥密度の低い炭化珪素基板としては、例えば特開2003−119097号公報記載の方法で製造された低欠陥密度の炭化珪素基板を用いればよい。
【0144】
[実施例3]
図6(e)に示す単極性反位相領域境界面(APB面)を有する化合物半導体積層基板50と単極性APB面を有さない積層基板とを作製し、それらの基板上にホモエピタキシャル成長させた薄膜の基底面転位(BPD)密度を比較する。
まず、単結晶4H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW31(2枚)は積層体の支持基板部分となる(図6の基板5bに相当する)ものであり、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである。第2のウエハW32(1枚)(図6の基板5aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである(転写基板)。第3のウエハW33(1枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものである(転写基板)。このように微傾斜基板を用いる理由は、[0001]軸方向の結晶面の積層順序を横方向に伝搬させて結晶のポリタイプを保つ(原子配列を保つ)ステップ制御エピタキシーを具現化するためである。また、対象面の微傾斜方向をウエハW31と、W32及びW33とで反対方向とした理由は、それぞれの表面を接合した際に傾角粒界や両極性の反位相領域境界面の発生を抑制し、整合界面を形成するためである。
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW31については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW32、W33については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW31、W32、W33を硫酸と過酸化水素水の混合溶液で同時に同じ処理条件で、洗浄(SPM洗浄)後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。
【0145】
次に、ウエハW32、W33の表面に4H−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW32、W33を別個に配置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW32に対するSiH4ガスとC38ガスの流量をそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW33に対するSiH4ガスとC38ガスの流量をそれぞれ8sccmと10sccmとした。このように、ウエハW32、W33でガスの流量を変えた理由は、それぞれの表面の極性面の違い(Si面とC面)に応じて微傾斜面からの横方向成長を促進するための最適条件が変わるためである。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約8μm/hであることを、ウエハ表面の温度を測定する放射温度計の温度振動により確認した(測定方法は以下の実施例で同じ)。
【0146】
なお、上記エピタキシャル成長処理の最初に、ウエハ表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層に伝搬させないようにするために、上記ガス中に40sccmの窒素ガスを添加することにより、成長初期の厚さ1μm分を窒素濃度1×1018atoms/cm3の窒素添加層としてバッファ層(図6(b)のバッファ層5cに相当する)を形成した。このとき、ウエハ表面からエピ層へと伝搬する基底面転位(BPD)はバッファ層内で貫通転位(TD)へと構造変化を起こし、その表面のBPD密度が減少する。
次いで、厚さ1μmのバッファ層形成後に窒素ガス添加を停止して10μm厚のホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層(図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0147】
エピタキシャル成長前後の表面には種々の結晶欠陥が露出しているが、支配的な欠陥は基底面転位(BPD)と貫通転位(TD)である。溶融KOH処理により測定したウエハW32、W33のBPD密度はエピタキシャル成長前で9300〜11000/cm2である(つまり、ウエハW31におけるBPD密度も同じである)のに対し、エピタキシャル成長後には共に80〜250/cm2まで低減していることを確認した。
一方、TD密度はいずれのウエハもエピタキシャル成長前後で800/cm2と変化しなかった。
【0148】
次に、ウエハW32、W33上のエピタキシャル成長層表面を化学的機械研磨(CMP)処理して表面の算術平均粗さRaを1nmから0.2nmまで低減させた。このように平滑化を実施する理由は、後述するウエハ接合工程において未接合領域を低減するためである。
【0149】
次に、ウエハW32、W33それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(図6(c)のイオン注入領域5ionに相当する)。これは、ウエハW32、W33をウエハW31に当接させて接合した後にそれぞれの表面層のみをウエハW31上に転写するための処理である。このため、ウエハW32、W33のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して図6(c)に示すイオン注入領域5ionを形成した。注入した水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1017atoms/cm2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0150】
そして、ウエハW31、W32、W33を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0151】
次に、ウエハW32、W33の表面をそれぞれウエハW31の表面に当接して接合した(図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW31のオリフラ方位に対してウエハW32、W33のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW31とウエハW32間、及びウエハW31とウエハW33間の不整合界面(結晶格子が不連続になっている界面)密度が無視し得る程度に低減する。
【0152】
ここで、ウエハW31/W32界面とウエハW31/W33界面の違いに着目する。ウエハW31とウエハW32間の界面には、Si極性面が相互に対向しているため、Si−Si結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW31とウエハW33間の界面では、ウエハW31のSi極性面に対してウエハW33のC極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0153】
次に、ウエハW31、W32の接合体、並びにウエハW31、W33の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW31の表面に残留(転写)させた(図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW31表面にウエハW32側の薄膜層が転写したウエハをW312と呼び、ウエハW31表面にウエハW33側の薄膜層が転写したウエハをW313と呼ぶ。ウエハW312及びW313表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0154】
次に、ウエハW312、W313の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW312、W313を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW313は表面にSi面が露出しているため、ウエハW32上のエピタキシャル成長と同様にSiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW312に対してはウエハW33と同様、SiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0155】
次に、ウエハW312、W313上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW312表面のBPD密度はエピタキシャル成長前と同程度の87〜375/cm2にとどまったが、ウエハW313表面のBPD密度はエピタキシャル成長前のウエハW31表面と同様、8700〜15000/cm2に増加した。即ち、ウエハW312では、界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW313ではAPB面が存在しないため、ウエハW31表面のBPDがバッファ層も貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0156】
[実施例4]
実施例3において、単結晶基板としてそのA面、B面を入れ替えて使用して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶4H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW41(2枚)は積層体の支持基板部分となる(図6の基板5bに相当する)もので、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものとした。第2のウエハW42(1枚)(図6の基板5aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものとした。第3のウエハW43(1枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものとした。このように微傾斜基板を用いる理由は、[0001]軸方向の結晶面の積層順序を横方向に伝搬させて結晶のポリタイプを保つ(原子配列を保つ)ステップ制御エピタキシーを具現化するためである。また、対象面の微傾斜方向をウエハW41と、W42及びW43とで反対方向とした理由は、それぞれの表面を接合した際に傾角粒界の発生を抑制し、整合界面を形成するためである。
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW41については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW42、W43については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW41、W42、W43を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0157】
次に、ウエハW42、W43の表面に4H−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW42、W43を別個に配置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW42に対するSiH4ガスとC38ガスの流量をそれぞれ8sccmと10sccmとし、ウエハW43に対するSiH4ガスとC38ガスの流量をそれぞれ10sccmと8sccmとした。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約8μm/hであった。
【0158】
なお、上記エピタキシャル成長処理の最初に、ウエハ表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層に伝搬させないようにするために、上記ガス中に40sccmの窒素ガスを添加することにより、成長初期の厚さ1μm分を窒素濃度1×1018atoms/cm3の窒素添加層としてバッファ層(図6(b)のバッファ層5cに相当する)を形成した。
次いで、厚さ1μmのバッファ層形成後に窒素ガス添加を停止して10μm厚のホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層(図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0159】
ここで、500℃の溶融KOH処理により測定したウエハW42、W43のBPD密度はエピタキシャル成長前で9300〜11000/cm2であるのに対し、エピタキシャル成長後には共に35〜140/cm2まで低減していることを確認した。一方、TD密度はいずれのウエハもエピタキシャル成長前後で800/cm2と変化しなかった。
【0160】
次に、ウエハW42、W43上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0161】
次に、ウエハW42、W43それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(図6(c)のイオン注入領域5ionに相当する)。即ち、ウエハW42、W43のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して図6(c)に示すイオン注入領域5ionを形成した。注入した水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1017atoms/cm2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0162】
そして、ウエハW41、W42、W43を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0163】
次に、ウエハW42、W43の表面をそれぞれウエハW41の表面に当接して接合した(図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW41のオリフラ方位に対してウエハW42、W43のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW41とウエハW42間、及びウエハW41とウエハW43間の不整合界面(結晶格子が不連続になっている界面)密度が無視し得る程度に低減する。
【0164】
ここで、ウエハW41/W42界面とウエハW41/W43界面の違いに着目すると、ウエハW41とウエハW42間の界面には、C極性面が相互に対向しているため、C−C結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW41とウエハW43間の界面では、ウエハW41のC極性面に対してウエハW43のSi極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0165】
次に、ウエハW41、W42の接合体、並びにウエハW41、W43の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW41の表面に残留(転写)させた(図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW41表面にウエハW42側の薄膜層が転写したウエハをW412と呼び、ウエハW41表面にウエハW43側の薄膜層が転写したウエハをW413と呼ぶ。ウエハW412及びW413表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0166】
次に、ウエハW412、W413の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW412、W413を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW413は表面にC面が露出しているため、ウエハW42上のエピタキシャル成長と同様にSiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとし、ウエハW412に対してはウエハW43と同様、SiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0167】
次に、ウエハW412、W413上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW412表面のBPD密度はエピタキシャル成長前と同程度の84〜184/cm2にとどまったが、ウエハW413表面のBPD密度はエピタキシャル成長前のウエハW41表面と同様、9200〜15000/cm2に増加した。即ち、ウエハW412では、界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW413ではAPB面が存在しないため、ウエハW41表面のBPDがバッファ層も貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0168】
[実施例5]
実施例3において、結晶構造(結晶の配列)の異なる単結晶基板に変更して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶6H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW51(2枚)は積層体の支持基板部分となる(図6の基板5bに相当する)ものであり、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである。第2のウエハW52(1枚)(図6の基板5aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである。第3のウエハW53(1枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものである。
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW51については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW52、W53については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW51、W52、W53を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0169】
次に、ウエハW52、W53の表面に6H−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW52、W53を別個に配置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1550℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1550℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW52に対するSiH4ガスとC38ガスの流量をそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW53に対するSiH4ガスとC38ガスの流量をそれぞれ8sccmと10sccmとした。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約8μm/hであった。
【0170】
なお、上記エピタキシャル成長処理の最初に、ウエハ表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層に伝搬させないようにするために、上記ガス中に40sccmの窒素ガスを添加することにより、成長初期の厚さ1μm分を窒素濃度1×1018atoms/cm3の窒素添加層としてバッファ層(図6(b)のバッファ層5cに相当する)を形成した。
次いで、厚さ1μmのバッファ層形成後に窒素ガス添加を停止して10μm厚のホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層(図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0171】
ここで、500℃の溶融KOH処理により測定したウエハW52、W53のBPD密度はエピタキシャル成長前で8700〜12000/cm2であるのに対し、エピタキシャル成長後には共に38〜260/cm2まで低減していることを確認した。一方、TD密度はいずれのウエハもエピタキシャル成長前後で300/cm2と変化しなかった。
【0172】
次に、ウエハW52、W53上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0173】
次に、ウエハW52、W53それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(図6(c)のイオン注入領域5ionに相当する)。即ち、ウエハW52、W53のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して図6(c)に示すイオン注入領域5ionを形成した。注入した水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1017atoms/cm2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0174】
そして、ウエハW51、W52、W53を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0175】
次に、ウエハW52、W53の表面をそれぞれウエハW51の表面に当接して接合した(図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW51のオリフラ方位に対してウエハW52、W53のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
【0176】
ここで、ウエハW51/W52界面とウエハW51/W53界面の違いに着目する。ウエハW51とウエハW52間の界面には、Si極性面が相互に対向しているため、Si−Si結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW51とウエハW53間の界面では、ウエハW51のSi極性面に対してウエハW53のC極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0177】
次に、ウエハW51、W52の接合体、並びにウエハW51、W53の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW51の表面に残留(転写)させた(図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW51表面にウエハW52側の薄膜層が転写したウエハをW512と呼び、ウエハW51表面にウエハW53側の薄膜層が転写したウエハをW513と呼ぶ。ウエハW512及びW513表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0178】
次に、ウエハW512、W513の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW512、W513を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1550℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1550℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW513は表面にSi面が露出しているため、ウエハW52上のエピタキシャル成長と同様にSiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW512に対してはウエハW53と同様、SiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0179】
次に、ウエハW512、W513上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW512表面のBPD密度はエピタキシャル成長前と同程度の42〜292/cm2にとどまったが、ウエハW513表面のBPD密度はエピタキシャル成長前のウエハW51表面と同様、1400〜18000/cm2に増加した。即ち、ウエハW512では、界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW513ではAPB面が存在しないため、ウエハW31表面のBPDがバッファ層も貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0180】
[実施例6]
実施例5において、単結晶基板としてそのA面、B面を入れ替えて使用して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶6H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW61(2枚)は積層体の支持基板部分となる(図6の基板5bに相当する)もので、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものとした。第2のウエハW62(1枚)(図6の基板5aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものとした。第3のウエハW63(1枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものとした。
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW61については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW62、W63については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW61、W62、W63を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0181】
次に、ウエハW62、W63の表面に6H−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW62、W63を別個に配置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1550℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1550℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW62に対するSiH4ガスとC38ガスの流量をそれぞれ8sccmと10sccmとし、ウエハW63に対するSiH4ガスとC38ガスの流量をそれぞれ10sccmと8sccmとした。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約8μm/hであった。
【0182】
なお、上記エピタキシャル成長処理の最初に、ウエハ表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層に伝搬させないようにするために、上記ガス中に40sccmの窒素ガスを添加することにより、成長初期の厚さ1μm分を窒素濃度1×1018atoms/cm3の窒素添加層としてバッファ層(図6(b)のバッファ層5cに相当する)を形成した。
次いで、厚さ1μmのバッファ層形成後に窒素ガス添加を停止して10μm厚のホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層(図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0183】
ここで、500℃の溶融KOH処理により測定したウエハW62、W63のBPD密度はエピタキシャル成長前で8700〜12000/cm2であるのに対し、エピタキシャル成長後には共に29〜84/cm2まで低減していることを確認した。一方、TD密度はいずれのウエハもエピタキシャル成長前後で300/cm2と変化しなかった。
【0184】
次に、ウエハW62、W63上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0185】
次に、ウエハW62、W63それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(図6(c)のイオン注入領域5ionに相当する)。即ち、ウエハW62、W63のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して図6(c)に示すイオン注入領域5ionを形成した。注入した水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1017atoms/cm2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0186】
そして、ウエハW61、W62、W63を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0187】
次に、ウエハW62、W63の表面をそれぞれウエハW61の表面に当接して接合した(図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW61のオリフラ方位に対してウエハW62、W63のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW61とウエハW62間、及びウエハW61とウエハW63間の不整合界面(結晶格子が不連続になっている界面)密度が無視し得る程度に低減する。
【0188】
ここで、ウエハW61/W62界面とウエハW61/W63界面の違いに着目すると、ウエハW61とウエハW62間の界面には、C極性面が相互に対向しているため、C−C結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW61とウエハW63間の界面では、ウエハW61のC極性面に対してウエハW63のSi極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0189】
次に、ウエハW61、W62の接合体、並びにウエハW61、W63の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW61の表面に残留(転写)させた(図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW61表面にウエハW62側の薄膜層が転写したウエハをW612と呼び、ウエハW61表面にウエハW63側の薄膜層が転写したウエハをW613と呼ぶ。ウエハW612及びW613表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0190】
次に、ウエハW612、W613の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW612、W613を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1550℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1550℃に到達してから10分後にSiH4ガスとC38ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW613は表面にC面が露出しているため、ウエハW62上のエピタキシャル成長と同様にSiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとし、ウエハW612に対してはウエハW63と同様、SiH4ガスとC38ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×1015/cm3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0191】
次に、ウエハW612、W613上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW612表面のBPD密度はエピタキシャル成長前と同程度の31〜94/cm2にとどまったが、ウエハW613表面のBPD密度はエピタキシャル成長前のウエハW61表面と同様、312〜824/cm2に増加した。即ち、ウエハW612では、界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW613ではAPB面が存在しないため、ウエハW61表面のBPDがバッファ層も貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0192】
[実施例7]
実施例3において、結晶構造(結晶多形)の異なる単結晶基板に変更して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶3C−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW71(2枚)は積層体の支持基板部分となる(図6の基板5bに相当する)ものであり、(111)Si面を表面とする。第2のウエハW72(1枚)(図6の基板5aに相当するもの)も、(111)Si面を表面とする。第3のウエハW73(1枚)(比較用)は、(−1−1−1)C面を表面とする。
また、それぞれのウエハには、[110]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−10]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW71については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW72、W73については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW71、W72、W73を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0193】
次に、ウエハW72、W73の表面に3C−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW72、W73を別個に配置後、500sccmの水素を導入し、1Paの圧力下で1350℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1350℃に到達してから10分後にSiH2Cl2ガスとC22ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW72に対するSiH2Cl2ガスとC22ガスの流量をそれぞれ50sccmと12sccmとし、ウエハW73に対するSiH2Cl2ガスとC22ガスの流量をそれぞれ50sccmと14sccmとした。このように、ウエハW72、W73でC22ガスの流量を変えた理由は、それぞれの表面の極性面の違い(Si面とC面)に応じて表面の過飽和度が変わり、最適なエピタキシャル成長条件が変わるためである。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約21μm/hであった。
【0194】
このホモエピタキシャル成長を29分間実施し、10μm厚のホモエピタキシャル成長層を得た。ホモエピタキシャル成長層(図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は2×1016/cm3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0195】
ここで、500℃の溶融KOH処理によりウエハW72、W73のエピタキシャル成長層表面の積層欠陥(SF:stacking fault)を顕在化させたところ、ともにエピタキシャル成長層のSF密度は368〜890/cm2であった。
【0196】
次に、ウエハW72、W73上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0197】
次に、ウエハW72、W73それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(図6(c)のイオン注入領域5ionに相当する)。即ち、ウエハW72、W73のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して図6(c)に示すイオン注入領域5ionを形成した。注入した水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1017atoms/cm2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0198】
そして、ウエハW71、W72、W73を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0199】
次に、ウエハW72、W73の表面をそれぞれウエハW71の表面に当接して接合した(図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW71のオリフラ方位に対してウエハW72、W73のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[110]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW71−W72間、及びウエハW71−W73間の不整合界面密度が無視し得る程度に低減する。
【0200】
ここで、ウエハW71/W72界面とウエハW71/W73界面の違いに着目する。ウエハW71とウエハW72間の界面には、Si極性面が相互に対向しているため、Si−Si結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW71とウエハW73間の界面では、ウエハW71のSi極性面に対してウエハW73のC極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0201】
次に、ウエハW71、W72の接合体、並びにウエハW71、W73の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW71の表面に残留(転写)させた(図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW71表面にウエハW72側の薄膜層が転写したウエハをW712と呼び、ウエハW71表面にウエハW73側の薄膜層が転写したウエハをW713と呼ぶ。ウエハW712及びW713表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0202】
次に、ウエハW712、W713の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW712、W713を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、500sccmの水素を導入し、1Paの圧力下で1350℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1350℃に到達してから10分後にSiH2Cl2ガスとC22ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW712に対するSiH2Cl2ガスとC22ガスの流量をそれぞれ50sccmと14sccmとし、ウエハW713に対するSiH2Cl2ガスとC22ガスの流量をそれぞれ50sccmと12sccmとした。この条件で29分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は2×1016/cm3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0203】
次に、ウエハW712、W713上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW712表面のSF密度はエピタキシャル成長前と同程度の456〜917/cm2にとどまったが、ウエハW713表面のSF密度は16000〜23000/cm2に増加した。即ち、ウエハW712では、界面の単極性APB面によりSFの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW713ではAPB面が存在しないため、ウエハW71表面のSFがエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0204】
[実施例8]
実施例7において、単結晶基板としてそのA面、B面を入れ替えて使用して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶3C−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW81(2枚)は積層体の支持基板部分となる(図6の基板5bに相当する)ものであり、(−1−1−1)C面を表面とする。第2のウエハW82(1枚)(図6の基板5aに相当するもの)も、(−1−1−1)C面を表面とする。第3のウエハW83(1枚)(比較用)は、(111)Si面を表面とする。
また、それぞれのウエハには、[110]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−10]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW81については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW82、W83については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW81、W82、W83を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0205】
次に、ウエハW82、W83の表面に3C−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW82、W83を別個に配置後、500sccmの水素を導入し、1Paの圧力下で1350℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1350℃に到達してから10分後にSiH2Cl2ガスとC22ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW82に対するSiH2Cl2ガスとC22ガスの流量をそれぞれ50sccmと14sccmとし、ウエハW83に対するSiH2Cl2ガスとC22ガスの流量をそれぞれ50sccmと12sccmとした。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約21μm/hであった。
【0206】
このホモエピタキシャル成長を29分間実施し、10μm厚のホモエピタキシャル成長層を得た。ホモエピタキシャル成長層(図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は2×1016/cm3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0207】
ここで、500℃の溶融KOH処理によりウエハW82、W83のエピタキシャル成長層表面の積層欠陥(SF)を顕在化させたところ、ともにエピタキシャル成長層のSF密度は244〜883/cm2であった。
【0208】
次に、ウエハW82、W83上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0209】
次に、ウエハW82、W83それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(図6(c)のイオン注入領域5ionに相当する)。即ち、ウエハW82、W83のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して図6(c)に示すイオン注入領域5ionを形成した。注入した水素イオン(H+)のドーズ量は、1.0×1017atoms/cm2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0210】
そして、ウエハW81、W82、W83を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0211】
次に、ウエハW82、W83の表面をそれぞれウエハW81の表面に当接して接合した(図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW81のオリフラ方位に対してウエハW82、W83のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[110]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW81−W82間、及びウエハW81−W83間の不整合界面密度が無視し得る程度に低減する。
【0212】
ここで、ウエハW81/W82界面とウエハW81/W83界面の違いに着目する。ウエハW81とウエハW82間の界面には、C極性面が相互に対向しているため、C−C結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW81とウエハW83間の界面では、ウエハW81のC極性面に対してウエハW83のSi極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0213】
次に、ウエハW81、W82の接合体、並びにウエハW81、W83の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW81の表面に残留(転写)させた(図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW81表面にウエハW82側の薄膜層が転写したウエハをW812と呼び、ウエハW81表面にウエハW83側の薄膜層が転写したウエハをW813と呼ぶ。ウエハW812及びW813表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0214】
次に、ウエハW812、W813の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW812、W813を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、500sccmの水素を導入し、1Paの圧力下で1350℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1350℃に到達してから10分後にSiH2Cl2ガスとC22ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW812に対するSiH2Cl2ガスとC22ガスの流量をそれぞれ50sccmと12sccmとし、ウエハW813に対するSiH2Cl2ガスとC22ガスの流量をそれぞれ50sccmと14sccmとした。この条件で21分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は2×1016/cm3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0215】
次に、ウエハW812、W813上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW812表面のSF密度はエピタキシャル成長前と同程度の277〜1000/cm2にとどまったが、ウエハW813表面のSF密度は11000〜34000/cm2に増加した。即ち、ウエハW812では、界面の単極性APB面によりSFの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW813ではAPB面が存在しないため、ウエハW81表面のSFがエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0216】
表1に実施例3〜8の積層基板におけるエピタキシャル成長層の表面欠陥密度の結果をまとめて示す。なお、実施例3、4(4H−SiC)、実施例5、6(6H−SiC)の欠陥密度はBPD密度であり、実施例7、8(3C−SiC)の欠陥密度はSF密度である。
表1に示すように、化合物半導体基板の結晶構造(結晶系、結晶配列)の違いにかかわらず、本発明の積層基板では単極性APB面による欠陥伝搬抑制の効果が得られる。
【0217】
【表1】
【0218】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
例えば、本実施例では、基板上のホモエピタキシャル成長に関して混合ガスとしてSiH4+C38+H2やSiH2Cl2+C22+H2系を用いた気相成長法を用いたが、本発明の効果はエピタキシャル成長の方式や原料にかかわらず発現し、例えば分子線エピタキシーや溶液成長を用いても同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0219】
1 原板(単結晶化合物半導体原板)
1a、1b、2a、2b、3a、3b、4a、4a''、4b、5a、5b、90 化合物半導体基板
1ab、2ab、3ab、4ab、5eb 単極性反位相領域境界面
cp1、1cp2 極性面
of オリエンテーションフラット(オリフラ、OF)
n ノッチ
4a’、5e’ 化合物半導体薄膜
ion、5ion イオン注入領域
5c バッファ層
5e ホモエピタキシャル成長層
10、20、30、40、50 化合物半導体積層基板
20f 表面
20r 裏面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12