【実施例】
【0120】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に限定されるものではない。
【0121】
[実施例1]
実施形態1に相当する、
図3(c)に示す単極性の反位相領域境界面(APB面)を有する化合物半導体積層基板30と単極性APB面を有さない積層基板とを作製し、評価した。
まず、II−VI社製の直径4インチの単結晶4H−SiCウエハを4種類用意した。第1のウエハW11(4枚)と第2のウエハW12(2枚)は表面を(0001)Si面とし、第3のウエハW13(1枚)は表面を(000−1)C面とした。それぞれのウエハの表面の法線軸と[0001]軸の公差は0.3度以内である。また、第4のウエハW14(1枚)は表面を(0001)Si面から[11−20]方位へ4度傾斜させた面とした。なお、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設け、第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW11については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW12、W13、W14については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。
また、ウエハW11は後述する貼り合わせ工程後に積層体の支持基板部分(基台)となる(
図3の基板3bに相当する)ため、機械的強度を保つ必要があり、ウエハ厚さを0.5mmとした。一方、ウエハW12、W13、W14はいずれも厚さを0.15mmとした。
【0122】
このようなウエハW11、W12、W13、W14の表面と裏面には機械研磨処理と化学的機械研磨(CMP)を施し、表面の算術平均粗さ(Ra、JIS B0601:2013、以下同じ)を0.2nm以下とした。このように平滑化を実施する理由は、後述するウエハ接合工程において未接合領域を低減するためである。そして、ウエハW11、W12、W13、W14を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次いで、オゾンガスを溶解させたオゾン水にそれぞれのウエハを同時に10分間浸漬してその表面を活性化した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0123】
次に、ウエハW11とウエハW12の組み合わせ(2組)、ウエハW11とウエハW13の組み合わせ及びウエハW11とウエハW14の組み合わせとして、それぞれの組み合わせにおいてウエハの表面同士が当接するようにして接合した。このとき、ウエハW11とウエハW12の組み合わせのうちの1組(実施例)、及びウエハW11とウエハW13の組み合わせ(比較1)におけるそれぞれのウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するように、L字形状の石英治具を用いてオリエンテーションフラット端面を揃えた。この場合、当接したウエハ端面の公差は20arcsec以内であった。
また、ウエハW11とウエハW12の組み合わせのうちの他の1組(比較2)におけるウエハW11の第1オリエンテーションフラットに対してウエハW12の第1オリエンテーションフラットが反時計方向に2度以上回転するようにした。このような回転により、後述する接合後の界面は整合界面とはならず、ねじれ粒界となる。
また、ウエハW11とウエハW14の組み合わせ(比較3)におけるそれぞれのウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するように、L字形状の石英治具を用いてオリエンテーションフラット端面を揃えた。この場合当接したウエハ端面の公差は20arcsec以内であった。なお、ウエハW11とウエハW14の組み合わせにおいては貼り合わせ界面においてウエハW11に対してウエハW14の結晶格子は傾斜しているため、後述する接合後の界面は整合界面とはならず、傾角粒界となる。
【0124】
ここで、ウエハW11とウエハW12の組み合わせのうちの1組(実施例)のウエハW11とウエハW12の当接により一体化したウエハをW112と呼び、ウエハW11とウエハW13の組み合わせ(比較1)におけるウエハW11とウエハW13の当接により一体化したウエハをW113と呼ぶ。また、ウエハW11とウエハW12の組み合わせのうちの他の1組(比較2)におけるウエハW11とウエハW12の当接により一体化したウエハをW112’と呼び、ウエハW11とウエハW14の組み合わせ(比較3)におけるウエハW11とウエハW14の当接により一体化したウエハをW114と呼ぶ。
【0125】
ウエハW112は接合面がSi−Si結合の単極性APB面で構成され、その表面と裏面はC面となる。一方、ウエハW113は接合面がSi−C結合となりAPB面は含まれない。また、ウエハW113の表面側(ウエハW13の裏面に相当)はSi面となり、ウエハW113の裏面側(ウエハW11の裏面に相当)はC面となる。また、ウエハW112’、W114は、表面と裏面がC面となるが、接合面は必ずしもSi原子同士が結合した単極性APB面とはならず、両極性APB面とねじれ粒界、あるいは傾角粒界によって構成される。このため、pn接合やショットキー電極を設けて接合界面に空間電荷領域を拡張させるとキャリアのリークパスとして振る舞う。
【0126】
次に、ウエハW112、W113、W112’、W114に対して250℃、24時間の熱処理を行い、接合面の接合強度を高めた。
【0127】
ここで、化合物半導体基板や化合物半導体積層基板の表面には種々の結晶欠陥が露出しているが、これらの基板において支配的な欠陥は基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)と貫通転位(TD:Threading Dislocation)である。それぞれの欠陥を目視によって観察することはできないが、水酸化カリウム(KOH)の結晶をウエハ表面又はエピタキシャル成長層表面に載置して500℃に加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化させ観察することが可能である(これを溶融KOH処理と称する)。ここでは、溶融KOH処理後の観察対象表面について100倍の光学顕微鏡の複数視野の中で観察された欠陥をカウントし、欠陥密度を求めた(以降の実施例において同じ)。
【0128】
まず、上記のようにして得られたウエハW112、W113、W112’、W114のウエハW12側の表面、W13側の表面、W14側の表面について溶融KOH処理を施し、その表面に露出していたBPD密度を測定したところ、ウエハW112、W113、W112’、W114のBPD密度は同程度であり、7900〜12000/cm
2であった。
【0129】
次に、ウエハW112、W113、W112’、W114に対してホモエピタキシャル成長に相当する熱処理として、1650℃、300分の熱処理を施した後に、溶融KOH処理を施し、ウエハ表面(ウエハW12側の表面、W13側の表面、W14側の表面)のBPD密度を測定した。その結果、ウエハW112では9500/cm
2であったのに対し、その他の積層ウエハではその倍以上であり、ウエハW113では21000/cm
2、ウエハW112’では26000/cm
2、ウエハW114では31000/cm
2であった。
【0130】
本発明の積層基板であるウエハW112では、接合界面に形成された単極性APB面が積層基板内においてウエハW11側からウエハW12へのBPDの拡張(伝搬)を阻み、BPD密度の増加を抑制したと推定される。一方、比較用のウエハW113では積層界面においてAPB面が形成されてないため、積層基板内においてウエハW11側からウエハW13へとBPDが伝搬し、BPD密度が増加したと推定される。また、比較用のウエハW112’、W114では積層界面において単極性APB面が形成されておらず、両極性APB面と共に発生した不整合界面により新たなBPDが発生し、BPD密度が増加したと推定される。
【0131】
なお、本実施例では、ウエハW12として欠陥密度の比較的大きい炭化珪素基板を用いたが、欠陥密度の低い炭化珪素基板をウエハW12として用いてウエハW112を作製すれば、たとえウエハW11表面の欠陥密度が大きいとしてもそれらの欠陥の伝搬はAPB面で遮られるため、ウエハW12表面同様の低欠陥密度の炭化珪素積層基板を得ることが可能である。欠陥密度の低い炭化珪素基板としては、例えば特開2003−119097号公報記載の方法で製造された低欠陥密度の炭化珪素基板を用いればよい。
【0132】
[実施例2]
実施形態2に相当する、
図5(d)に示す単極性の反位相領域境界面(APB面)を有する化合物半導体積層基板40と単極性APB面を有さない積層基板とを作製し、評価した。
まず、口径4インチの単結晶4H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。このうち、第1のウエハW21(2枚)は積層体の支持基板部分となる(
図5の基板4bに相当する)ものであり、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである。第2のウエハW22(1枚)(
図5の基板4aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである(転写基板)。第3のウエハW23(2枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものである(転写基板)。このように微傾斜基板を用いる理由は、[0001]軸方向の結晶面の積層順序を横方向に伝搬させて結晶のポリタイプを保つ(原子配列を保つ)ステップ制御エピタキシーを具現化するためである。また、対象面の微傾斜方向をウエハW21と、W22及びW23とで反対方向とした理由は、それぞれの表面を接合した際に傾角粒界の発生を抑制し、整合界面を形成するためである。
【0133】
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW21については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW22、W23については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
【0134】
なお、上述した溶融KOH処理により測定したウエハW21、W22、W23のBPD密度はいずれも同程度であり、9300〜11000/cm
2であった。
【0135】
次に、各ウエハ表面には化学的機械研磨(CMP)処理して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。このように平滑化を実施する理由は、後述するウエハ接合工程において未接合領域や両極性APB面の発生を低減するためである。
【0136】
次に、ウエハW22、W23それぞれの表面に脆弱層を設けた(
図5(b)のイオン注入領域4
ionに相当する)。これは、ウエハW22、W23をウエハW21に当接させて接合した後にそれぞれの表面層のみをウエハW21上に転写するための処理である。このため、ウエハW22、W23の貼り合わせ予定の表面に水素イオンを注入して
図5(b)に示すイオン注入領域4
ionを形成した。注入した水素イオン(H
+)のドーズ量は、1.0×10
17atoms/cm
2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0137】
そして、ウエハW21、W22、W23を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0138】
次に、ウエハW22、W23の表面をそれぞれウエハW21の表面に当接して接合した(
図5(c)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW21のオリフラ方位に対してウエハW22、W23のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW21とウエハW22間、及びウエハW21とウエハW23間の不整合界面(結晶格子が不連続になっている界面)密度が無視し得る程度に低減する。
【0139】
ここで、ウエハW21/W22界面とウエハW21/W23界面の違いに着目する。ウエハW21とウエハW22間の界面には、Si極性面が相互に対向しているため、Si−Si結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW21とウエハW23間の界面では、ウエハW21のSi極性面に対してウエハW23のC極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0140】
次に、ウエハW21、W22の接合体、並びにウエハW21、W23の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW21の表面に残留(転写)させた(
図5(d)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW21表面にウエハW22側の薄膜層が転写したウエハをW212と呼び、ウエハW21表面にウエハW23側の薄膜層が転写したウエハをW213と呼ぶ。ウエハW212及びW213表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0141】
次に、ウエハW212、W213の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW212、W213を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW213は表面にSi面が露出しているため、SiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW212に対してはSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0142】
次に、ウエハW212、W213上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW212表面のBPD密度はW22表面同様の9700/cm
2にとどまったが、ウエハW213表面のBPD密度はW23表面の約2倍の22000/cm
2に増加した。即ち、ウエハW212では、積層界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW213ではAPB面が存在しないため、ウエハW21表面のBPDがW23を貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
以上により、本発明の効果が検証された。
【0143】
なお、本実施例では、ウエハW22として欠陥密度の比較的大きい炭化珪素基板を用いたが、欠陥密度の低い炭化珪素基板をウエハW22として用いてウエハW212を作製すれば、たとえウエハW21表面の欠陥密度が大きいとしてもそれらの欠陥の伝搬はAPB面で遮られるため、ウエハW22表面同様の低欠陥密度の炭化珪素積層基板を得ることが可能である。欠陥密度の低い炭化珪素基板としては、例えば特開2003−119097号公報記載の方法で製造された低欠陥密度の炭化珪素基板を用いればよい。
【0144】
[実施例3]
図6(e)に示す単極性反位相領域境界面(APB面)を有する化合物半導体積層基板50と単極性APB面を有さない積層基板とを作製し、それらの基板上にホモエピタキシャル成長させた薄膜の基底面転位(BPD)密度を比較する。
まず、単結晶4H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW31(2枚)は積層体の支持基板部分となる(
図6の基板5bに相当する)ものであり、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである。第2のウエハW32(1枚)(
図6の基板5aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである(転写基板)。第3のウエハW33(1枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものである(転写基板)。このように微傾斜基板を用いる理由は、[0001]軸方向の結晶面の積層順序を横方向に伝搬させて結晶のポリタイプを保つ(原子配列を保つ)ステップ制御エピタキシーを具現化するためである。また、対象面の微傾斜方向をウエハW31と、W32及びW33とで反対方向とした理由は、それぞれの表面を接合した際に傾角粒界や両極性の反位相領域境界面の発生を抑制し、整合界面を形成するためである。
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW31については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW32、W33については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW31、W32、W33を硫酸と過酸化水素水の混合溶液で同時に同じ処理条件で、洗浄(SPM洗浄)後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。
【0145】
次に、ウエハW32、W33の表面に4H−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(
図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW32、W33を別個に配置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW32に対するSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量をそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW33に対するSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量をそれぞれ8sccmと10sccmとした。このように、ウエハW32、W33でガスの流量を変えた理由は、それぞれの表面の極性面の違い(Si面とC面)に応じて微傾斜面からの横方向成長を促進するための最適条件が変わるためである。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約8μm/hであることを、ウエハ表面の温度を測定する放射温度計の温度振動により確認した(測定方法は以下の実施例で同じ)。
【0146】
なお、上記エピタキシャル成長処理の最初に、ウエハ表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層に伝搬させないようにするために、上記ガス中に40sccmの窒素ガスを添加することにより、成長初期の厚さ1μm分を窒素濃度1×10
18atoms/cm
3の窒素添加層としてバッファ層(
図6(b)のバッファ層5cに相当する)を形成した。このとき、ウエハ表面からエピ層へと伝搬する基底面転位(BPD)はバッファ層内で貫通転位(TD)へと構造変化を起こし、その表面のBPD密度が減少する。
次いで、厚さ1μmのバッファ層形成後に窒素ガス添加を停止して10μm厚のホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層(
図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0147】
エピタキシャル成長前後の表面には種々の結晶欠陥が露出しているが、支配的な欠陥は基底面転位(BPD)と貫通転位(TD)である。溶融KOH処理により測定したウエハW32、W33のBPD密度はエピタキシャル成長前で9300〜11000/cm
2である(つまり、ウエハW31におけるBPD密度も同じである)のに対し、エピタキシャル成長後には共に80〜250/cm
2まで低減していることを確認した。
一方、TD密度はいずれのウエハもエピタキシャル成長前後で800/cm
2と変化しなかった。
【0148】
次に、ウエハW32、W33上のエピタキシャル成長層表面を化学的機械研磨(CMP)処理して表面の算術平均粗さRaを1nmから0.2nmまで低減させた。このように平滑化を実施する理由は、後述するウエハ接合工程において未接合領域を低減するためである。
【0149】
次に、ウエハW32、W33それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(
図6(c)のイオン注入領域5
ionに相当する)。これは、ウエハW32、W33をウエハW31に当接させて接合した後にそれぞれの表面層のみをウエハW31上に転写するための処理である。このため、ウエハW32、W33のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して
図6(c)に示すイオン注入領域5
ionを形成した。注入した水素イオン(H
+)のドーズ量は、1.0×10
17atoms/cm
2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0150】
そして、ウエハW31、W32、W33を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0151】
次に、ウエハW32、W33の表面をそれぞれウエハW31の表面に当接して接合した(
図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW31のオリフラ方位に対してウエハW32、W33のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW31とウエハW32間、及びウエハW31とウエハW33間の不整合界面(結晶格子が不連続になっている界面)密度が無視し得る程度に低減する。
【0152】
ここで、ウエハW31/W32界面とウエハW31/W33界面の違いに着目する。ウエハW31とウエハW32間の界面には、Si極性面が相互に対向しているため、Si−Si結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW31とウエハW33間の界面では、ウエハW31のSi極性面に対してウエハW33のC極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0153】
次に、ウエハW31、W32の接合体、並びにウエハW31、W33の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW31の表面に残留(転写)させた(
図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW31表面にウエハW32側の薄膜層が転写したウエハをW312と呼び、ウエハW31表面にウエハW33側の薄膜層が転写したウエハをW313と呼ぶ。ウエハW312及びW313表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0154】
次に、ウエハW312、W313の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW312、W313を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW313は表面にSi面が露出しているため、ウエハW32上のエピタキシャル成長と同様にSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW312に対してはウエハW33と同様、SiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0155】
次に、ウエハW312、W313上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW312表面のBPD密度はエピタキシャル成長前と同程度の87〜375/cm
2にとどまったが、ウエハW313表面のBPD密度はエピタキシャル成長前のウエハW31表面と同様、8700〜15000/cm
2に増加した。即ち、ウエハW312では、界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW313ではAPB面が存在しないため、ウエハW31表面のBPDがバッファ層も貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0156】
[実施例4]
実施例3において、単結晶基板としてそのA面、B面を入れ替えて使用して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶4H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW41(2枚)は積層体の支持基板部分となる(
図6の基板5bに相当する)もので、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものとした。第2のウエハW42(1枚)(
図6の基板5aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものとした。第3のウエハW43(1枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものとした。このように微傾斜基板を用いる理由は、[0001]軸方向の結晶面の積層順序を横方向に伝搬させて結晶のポリタイプを保つ(原子配列を保つ)ステップ制御エピタキシーを具現化するためである。また、対象面の微傾斜方向をウエハW41と、W42及びW43とで反対方向とした理由は、それぞれの表面を接合した際に傾角粒界の発生を抑制し、整合界面を形成するためである。
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW41については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW42、W43については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW41、W42、W43を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0157】
次に、ウエハW42、W43の表面に4H−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(
図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW42、W43を別個に配置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW42に対するSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量をそれぞれ8sccmと10sccmとし、ウエハW43に対するSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量をそれぞれ10sccmと8sccmとした。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約8μm/hであった。
【0158】
なお、上記エピタキシャル成長処理の最初に、ウエハ表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層に伝搬させないようにするために、上記ガス中に40sccmの窒素ガスを添加することにより、成長初期の厚さ1μm分を窒素濃度1×10
18atoms/cm
3の窒素添加層としてバッファ層(
図6(b)のバッファ層5cに相当する)を形成した。
次いで、厚さ1μmのバッファ層形成後に窒素ガス添加を停止して10μm厚のホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層(
図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0159】
ここで、500℃の溶融KOH処理により測定したウエハW42、W43のBPD密度はエピタキシャル成長前で9300〜11000/cm
2であるのに対し、エピタキシャル成長後には共に35〜140/cm
2まで低減していることを確認した。一方、TD密度はいずれのウエハもエピタキシャル成長前後で800/cm
2と変化しなかった。
【0160】
次に、ウエハW42、W43上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0161】
次に、ウエハW42、W43それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(
図6(c)のイオン注入領域5
ionに相当する)。即ち、ウエハW42、W43のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して
図6(c)に示すイオン注入領域5
ionを形成した。注入した水素イオン(H
+)のドーズ量は、1.0×10
17atoms/cm
2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0162】
そして、ウエハW41、W42、W43を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0163】
次に、ウエハW42、W43の表面をそれぞれウエハW41の表面に当接して接合した(
図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW41のオリフラ方位に対してウエハW42、W43のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW41とウエハW42間、及びウエハW41とウエハW43間の不整合界面(結晶格子が不連続になっている界面)密度が無視し得る程度に低減する。
【0164】
ここで、ウエハW41/W42界面とウエハW41/W43界面の違いに着目すると、ウエハW41とウエハW42間の界面には、C極性面が相互に対向しているため、C−C結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW41とウエハW43間の界面では、ウエハW41のC極性面に対してウエハW43のSi極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0165】
次に、ウエハW41、W42の接合体、並びにウエハW41、W43の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW41の表面に残留(転写)させた(
図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW41表面にウエハW42側の薄膜層が転写したウエハをW412と呼び、ウエハW41表面にウエハW43側の薄膜層が転写したウエハをW413と呼ぶ。ウエハW412及びW413表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0166】
次に、ウエハW412、W413の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW412、W413を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1600℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1600℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW413は表面にC面が露出しているため、ウエハW42上のエピタキシャル成長と同様にSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとし、ウエハW412に対してはウエハW43と同様、SiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0167】
次に、ウエハW412、W413上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW412表面のBPD密度はエピタキシャル成長前と同程度の84〜184/cm
2にとどまったが、ウエハW413表面のBPD密度はエピタキシャル成長前のウエハW41表面と同様、9200〜15000/cm
2に増加した。即ち、ウエハW412では、界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW413ではAPB面が存在しないため、ウエハW41表面のBPDがバッファ層も貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0168】
[実施例5]
実施例3において、結晶構造(結晶の配列)の異なる単結晶基板に変更して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶6H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW51(2枚)は積層体の支持基板部分となる(
図6の基板5bに相当する)ものであり、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである。第2のウエハW52(1枚)(
図6の基板5aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものである。第3のウエハW53(1枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものである。
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW51については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW52、W53については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW51、W52、W53を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0169】
次に、ウエハW52、W53の表面に6H−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(
図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW52、W53を別個に配置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1550℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1550℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW52に対するSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量をそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW53に対するSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量をそれぞれ8sccmと10sccmとした。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約8μm/hであった。
【0170】
なお、上記エピタキシャル成長処理の最初に、ウエハ表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層に伝搬させないようにするために、上記ガス中に40sccmの窒素ガスを添加することにより、成長初期の厚さ1μm分を窒素濃度1×10
18atoms/cm
3の窒素添加層としてバッファ層(
図6(b)のバッファ層5cに相当する)を形成した。
次いで、厚さ1μmのバッファ層形成後に窒素ガス添加を停止して10μm厚のホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層(
図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0171】
ここで、500℃の溶融KOH処理により測定したウエハW52、W53のBPD密度はエピタキシャル成長前で8700〜12000/cm
2であるのに対し、エピタキシャル成長後には共に38〜260/cm
2まで低減していることを確認した。一方、TD密度はいずれのウエハもエピタキシャル成長前後で300/cm
2と変化しなかった。
【0172】
次に、ウエハW52、W53上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0173】
次に、ウエハW52、W53それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(
図6(c)のイオン注入領域5
ionに相当する)。即ち、ウエハW52、W53のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して
図6(c)に示すイオン注入領域5
ionを形成した。注入した水素イオン(H
+)のドーズ量は、1.0×10
17atoms/cm
2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0174】
そして、ウエハW51、W52、W53を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0175】
次に、ウエハW52、W53の表面をそれぞれウエハW51の表面に当接して接合した(
図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW51のオリフラ方位に対してウエハW52、W53のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
【0176】
ここで、ウエハW51/W52界面とウエハW51/W53界面の違いに着目する。ウエハW51とウエハW52間の界面には、Si極性面が相互に対向しているため、Si−Si結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW51とウエハW53間の界面では、ウエハW51のSi極性面に対してウエハW53のC極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0177】
次に、ウエハW51、W52の接合体、並びにウエハW51、W53の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW51の表面に残留(転写)させた(
図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW51表面にウエハW52側の薄膜層が転写したウエハをW512と呼び、ウエハW51表面にウエハW53側の薄膜層が転写したウエハをW513と呼ぶ。ウエハW512及びW513表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0178】
次に、ウエハW512、W513の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW512、W513を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1550℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1550℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW513は表面にSi面が露出しているため、ウエハW52上のエピタキシャル成長と同様にSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとし、ウエハW512に対してはウエハW53と同様、SiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0179】
次に、ウエハW512、W513上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW512表面のBPD密度はエピタキシャル成長前と同程度の42〜292/cm
2にとどまったが、ウエハW513表面のBPD密度はエピタキシャル成長前のウエハW51表面と同様、1400〜18000/cm
2に増加した。即ち、ウエハW512では、界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW513ではAPB面が存在しないため、ウエハW31表面のBPDがバッファ層も貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0180】
[実施例6]
実施例5において、単結晶基板としてそのA面、B面を入れ替えて使用して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶6H−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW61(2枚)は積層体の支持基板部分となる(
図6の基板5bに相当する)もので、その表面の法線軸から[11−20]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものとした。第2のウエハW62(1枚)(
図6の基板5aに相当するもの)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(000−1)C面を配向させたものとした。第3のウエハW63(1枚)(比較用)は、表面の法線軸から[−1−120]方位に4度傾斜させた方向に(0001)Si面を配向させたものとした。
また、それぞれのウエハには、[11−20]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−100]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW61については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW62、W63については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW61、W62、W63を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0181】
次に、ウエハW62、W63の表面に6H−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(
図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW62、W63を別個に配置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1550℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1550℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW62に対するSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量をそれぞれ8sccmと10sccmとし、ウエハW63に対するSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量をそれぞれ10sccmと8sccmとした。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約8μm/hであった。
【0182】
なお、上記エピタキシャル成長処理の最初に、ウエハ表面に露出した結晶欠陥をホモエピタキシャル成長層に伝搬させないようにするために、上記ガス中に40sccmの窒素ガスを添加することにより、成長初期の厚さ1μm分を窒素濃度1×10
18atoms/cm
3の窒素添加層としてバッファ層(
図6(b)のバッファ層5cに相当する)を形成した。
次いで、厚さ1μmのバッファ層形成後に窒素ガス添加を停止して10μm厚のホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層(
図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0183】
ここで、500℃の溶融KOH処理により測定したウエハW62、W63のBPD密度はエピタキシャル成長前で8700〜12000/cm
2であるのに対し、エピタキシャル成長後には共に29〜84/cm
2まで低減していることを確認した。一方、TD密度はいずれのウエハもエピタキシャル成長前後で300/cm
2と変化しなかった。
【0184】
次に、ウエハW62、W63上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0185】
次に、ウエハW62、W63それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(
図6(c)のイオン注入領域5
ionに相当する)。即ち、ウエハW62、W63のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して
図6(c)に示すイオン注入領域5
ionを形成した。注入した水素イオン(H
+)のドーズ量は、1.0×10
17atoms/cm
2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0186】
そして、ウエハW61、W62、W63を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0187】
次に、ウエハW62、W63の表面をそれぞれウエハW61の表面に当接して接合した(
図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW61のオリフラ方位に対してウエハW62、W63のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[11−20]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW61とウエハW62間、及びウエハW61とウエハW63間の不整合界面(結晶格子が不連続になっている界面)密度が無視し得る程度に低減する。
【0188】
ここで、ウエハW61/W62界面とウエハW61/W63界面の違いに着目すると、ウエハW61とウエハW62間の界面には、C極性面が相互に対向しているため、C−C結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW61とウエハW63間の界面では、ウエハW61のC極性面に対してウエハW63のSi極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0189】
次に、ウエハW61、W62の接合体、並びにウエハW61、W63の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW61の表面に残留(転写)させた(
図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW61表面にウエハW62側の薄膜層が転写したウエハをW612と呼び、ウエハW61表面にウエハW63側の薄膜層が転写したウエハをW613と呼ぶ。ウエハW612及びW613表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0190】
次に、ウエハW612、W613の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW612、W613を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、3slmの水素を導入し、13Paの圧力下で1550℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1550℃に到達してから10分後にSiH
4ガスとC
3H
8ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。ウエハW613は表面にC面が露出しているため、ウエハW62上のエピタキシャル成長と同様にSiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ8sccmと10sccmとし、ウエハW612に対してはウエハW63と同様、SiH
4ガスとC
3H
8ガスの流量はそれぞれ10sccmと8sccmとした。この条件で75分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は3×10
15/cm
3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0191】
次に、ウエハW612、W613上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW612表面のBPD密度はエピタキシャル成長前と同程度の31〜94/cm
2にとどまったが、ウエハW613表面のBPD密度はエピタキシャル成長前のウエハW61表面と同様、312〜824/cm
2に増加した。即ち、ウエハW612では、界面の単極性APB面によりBPDの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW613ではAPB面が存在しないため、ウエハW61表面のBPDがバッファ層も貫通しエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0192】
[実施例7]
実施例3において、結晶構造(結晶多形)の異なる単結晶基板に変更して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶3C−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW71(2枚)は積層体の支持基板部分となる(
図6の基板5bに相当する)ものであり、(111)Si面を表面とする。第2のウエハW72(1枚)(
図6の基板5aに相当するもの)も、(111)Si面を表面とする。第3のウエハW73(1枚)(比較用)は、(−1−1−1)C面を表面とする。
また、それぞれのウエハには、[110]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−10]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW71については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW72、W73については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW71、W72、W73を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0193】
次に、ウエハW72、W73の表面に3C−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(
図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW72、W73を別個に配置後、500sccmの水素を導入し、1Paの圧力下で1350℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1350℃に到達してから10分後にSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW72に対するSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスの流量をそれぞれ50sccmと12sccmとし、ウエハW73に対するSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスの流量をそれぞれ50sccmと14sccmとした。このように、ウエハW72、W73でC
2H
2ガスの流量を変えた理由は、それぞれの表面の極性面の違い(Si面とC面)に応じて表面の過飽和度が変わり、最適なエピタキシャル成長条件が変わるためである。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約21μm/hであった。
【0194】
このホモエピタキシャル成長を29分間実施し、10μm厚のホモエピタキシャル成長層を得た。ホモエピタキシャル成長層(
図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は2×10
16/cm
3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0195】
ここで、500℃の溶融KOH処理によりウエハW72、W73のエピタキシャル成長層表面の積層欠陥(SF:stacking fault)を顕在化させたところ、ともにエピタキシャル成長層のSF密度は368〜890/cm
2であった。
【0196】
次に、ウエハW72、W73上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0197】
次に、ウエハW72、W73それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(
図6(c)のイオン注入領域5
ionに相当する)。即ち、ウエハW72、W73のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して
図6(c)に示すイオン注入領域5
ionを形成した。注入した水素イオン(H
+)のドーズ量は、1.0×10
17atoms/cm
2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0198】
そして、ウエハW71、W72、W73を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0199】
次に、ウエハW72、W73の表面をそれぞれウエハW71の表面に当接して接合した(
図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW71のオリフラ方位に対してウエハW72、W73のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[110]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW71−W72間、及びウエハW71−W73間の不整合界面密度が無視し得る程度に低減する。
【0200】
ここで、ウエハW71/W72界面とウエハW71/W73界面の違いに着目する。ウエハW71とウエハW72間の界面には、Si極性面が相互に対向しているため、Si−Si結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW71とウエハW73間の界面では、ウエハW71のSi極性面に対してウエハW73のC極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0201】
次に、ウエハW71、W72の接合体、並びにウエハW71、W73の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW71の表面に残留(転写)させた(
図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW71表面にウエハW72側の薄膜層が転写したウエハをW712と呼び、ウエハW71表面にウエハW73側の薄膜層が転写したウエハをW713と呼ぶ。ウエハW712及びW713表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0202】
次に、ウエハW712、W713の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW712、W713を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、500sccmの水素を導入し、1Paの圧力下で1350℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1350℃に到達してから10分後にSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW712に対するSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスの流量をそれぞれ50sccmと14sccmとし、ウエハW713に対するSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスの流量をそれぞれ50sccmと12sccmとした。この条件で29分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は2×10
16/cm
3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0203】
次に、ウエハW712、W713上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW712表面のSF密度はエピタキシャル成長前と同程度の456〜917/cm
2にとどまったが、ウエハW713表面のSF密度は16000〜23000/cm
2に増加した。即ち、ウエハW712では、界面の単極性APB面によりSFの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW713ではAPB面が存在しないため、ウエハW71表面のSFがエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0204】
[実施例8]
実施例7において、単結晶基板としてそのA面、B面を入れ替えて使用して積層基板を作製し評価した。
まず、単結晶3C−SiC基板(ウエハ)を3種類準備した。第1のウエハW81(2枚)は積層体の支持基板部分となる(
図6の基板5bに相当する)ものであり、(−1−1−1)C面を表面とする。第2のウエハW82(1枚)(
図6の基板5aに相当するもの)も、(−1−1−1)C面を表面とする。第3のウエハW83(1枚)(比較用)は、(111)Si面を表面とする。
また、それぞれのウエハには、[110]方位と平行な第1オリエンテーションフラットと[1−10]方位と平行な第2オリエンテーションフラットを設けた。第1オリエンテーションフラットの長さは38.5mmとし、第2オリエンテーションフラットの長さは18mmとした。また、ウエハW81については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の3時方向の関係となるように加工した。ウエハW82、W83については、表面を見たとき、第1オリエンテーションフラットが時計の6時方向、第2オリエンテーションフラットが時計の9時方向の関係となるように加工した。各ウエハ厚さは0.5mmである。
このようなウエハW81、W82、W83を同時に同じ処理条件で、SPM洗浄後、HF処理により表面の酸化膜を除去した。
【0205】
次に、ウエハW82、W83の表面に3C−SiCのホモエピタキシャル成長を実施した(
図6(b))。
まずエピタキシャル成長に先立って、エピタキシャル成長装置内にウエハW82、W83を別個に配置後、500sccmの水素を導入し、1Paの圧力下で1350℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1350℃に到達してから10分後にSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW82に対するSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスの流量をそれぞれ50sccmと14sccmとし、ウエハW83に対するSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスの流量をそれぞれ50sccmと12sccmとした。
それぞれの条件によるSiCの成長速度は約21μm/hであった。
【0206】
このホモエピタキシャル成長を29分間実施し、10μm厚のホモエピタキシャル成長層を得た。ホモエピタキシャル成長層(
図6(b)のホモエピタキシャル層5eに相当する)はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は2×10
16/cm
3を示すことを後に実施した容量−電圧測定(CV測定)で確認した。
【0207】
ここで、500℃の溶融KOH処理によりウエハW82、W83のエピタキシャル成長層表面の積層欠陥(SF)を顕在化させたところ、ともにエピタキシャル成長層のSF密度は244〜883/cm
2であった。
【0208】
次に、ウエハW82、W83上のエピタキシャル成長層表面をCMP処理して表面の算術平均粗さ(Ra)を1nmから0.2nmまで低減させた。
【0209】
次に、ウエハW82、W83それぞれのエピタキシャル成長層表面に脆弱層を設けた(
図6(c)のイオン注入領域5
ionに相当する)。即ち、ウエハW82、W83のエピタキシャル成長層表面に水素イオンを注入して
図6(c)に示すイオン注入領域5
ionを形成した。注入した水素イオン(H
+)のドーズ量は、1.0×10
17atoms/cm
2とし、イオンの加速エネルギーは脆弱層の深さが400nmとなるように65keVとした。
【0210】
そして、ウエハW81、W82、W83を同時に同じ処理条件で、過酸化水素水と硫酸の混酸で洗浄(SPM洗浄)した後、希フッ酸処理(HF処理)により表面の酸化膜を除去した。次に、水素雰囲気中で700℃の熱処理を10分施すことにより基板表面を水素終端し、それぞれの基板の極性を均一化した。
【0211】
次に、ウエハW82、W83の表面をそれぞれウエハW81の表面に当接して接合した(
図6(d)に示す処理に相当する)。ただし、当接前のそれぞれのウエハ表面にはArプラズマを同じ処理条件で照射して活性化させている。また、実施例1と同様にしてL字状の石英治具を用いて、ウエハW81のオリフラ方位に対してウエハW82、W83のオリフラ方位をそれぞれ一致させて(即ち、ウエハの第1オリエンテーションフラット同士、そして第2オリエンテーションフラット同士の位置が正確に一致するようにして)貼り合わせて、[110]方位の結晶面のずれを20arcsec以下とした。
これにより、ウエハW81−W82間、及びウエハW81−W83間の不整合界面密度が無視し得る程度に低減する。
【0212】
ここで、ウエハW81/W82界面とウエハW81/W83界面の違いに着目する。ウエハW81とウエハW82間の界面には、C極性面が相互に対向しているため、C−C結合が存在している。即ち、一分子層の単極性反位相領域境界(APB)面が存在している。一方、ウエハW81とウエハW83間の界面では、ウエハW81のC極性面に対してウエハW83のSi極性面が対向している。このため、界面はSi−Cの結合で形成され、APB面は存在しない。
【0213】
次に、ウエハW81、W82の接合体、並びにウエハW81、W83の接合体を800℃に加熱し、水素イオン注入により形成された脆弱層で破断を引き起こし、厚さ400nmの薄膜層のみをウエハW81の表面に残留(転写)させた(
図6(e)に示す処理に相当する)。破断によりウエハW81表面にウエハW82側の薄膜層が転写したウエハをW812と呼び、ウエハW81表面にウエハW83側の薄膜層が転写したウエハをW813と呼ぶ。ウエハW812及びW813表面は破断処理により表面の算術平均粗さRaが1nmを超えるまでに増加したため、CMP処理を施して表面の算術平均粗さRaを0.2nm以下まで低減させた。
【0214】
次に、ウエハW812、W813の表面に更なるホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長に先立って、ウエハW812、W813を別個にエピタキシャル成長装置内に設置後、500sccmの水素を導入し、1Paの圧力下で1350℃まで昇温した。エピタキシャル成長装置内の温度を均一化させるため、温度が1350℃に到達してから10分後にSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスを追加導入してエピタキシャル成長を開始した。このとき、ウエハW812に対するSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスの流量をそれぞれ50sccmと12sccmとし、ウエハW813に対するSiH
2Cl
2ガスとC
2H
2ガスの流量をそれぞれ50sccmと14sccmとした。この条件で21分の処理を継続し、10μmのホモエピタキシャル成長を実施した。ホモエピタキシャル成長層はn型の電導性を示し、残留キャリア濃度は2×10
16/cm
3を示すことを後に実施したCV測定で確認した。
【0215】
次に、ウエハW812、W813上に形成したエピタキシャル成長層表面の欠陥密度を測定するため、表面に水酸化カリウムを載置して500℃で5分間加熱して溶融させることにより欠陥のエッチングを促進して顕在化処理を施した。この溶融KOH処理により測定した結果、ウエハW812表面のSF密度はエピタキシャル成長前と同程度の277〜1000/cm
2にとどまったが、ウエハW813表面のSF密度は11000〜34000/cm
2に増加した。即ち、ウエハW812では、界面の単極性APB面によりSFの伝搬が阻止されたのに対し、ウエハW813ではAPB面が存在しないため、ウエハW81表面のSFがエピタキシャル成長層表面にまで達したと考えられる。
【0216】
表1に実施例3〜8の積層基板におけるエピタキシャル成長層の表面欠陥密度の結果をまとめて示す。なお、実施例3、4(4H−SiC)、実施例5、6(6H−SiC)の欠陥密度はBPD密度であり、実施例7、8(3C−SiC)の欠陥密度はSF密度である。
表1に示すように、化合物半導体基板の結晶構造(結晶系、結晶配列)の違いにかかわらず、本発明の積層基板では単極性APB面による欠陥伝搬抑制の効果が得られる。
【0217】
【表1】
【0218】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
例えば、本実施例では、基板上のホモエピタキシャル成長に関して混合ガスとしてSiH
4+C
3H
8+H
2やSiH
2Cl
2+C
2H
2+H
2系を用いた気相成長法を用いたが、本発明の効果はエピタキシャル成長の方式や原料にかかわらず発現し、例えば分子線エピタキシーや溶液成長を用いても同様な効果が得られる。