【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、請求項1に記載の用量設定機構および請求項11に記載の薬物送達デバイスによって解決される。
【0016】
本発明の第1の態様によれば、用量設定機構は、好ましくは、用量設定(用量の増大)のための第1の方向、たとえば時計回りおよび用量補正(用量の減少)のための反対の第2の方向、たとえば反時計回りにハウジングに対して回転可能な用量設定部材を含む。この機構は、カムリングと、駆動部材に連結された連結部材とをさらに含むことができる。さらに、用量設定部材とカムリングとの間に傾斜したインターフェースが提供され、用量設定部材が第2の方向にカムリングに対して回転したとき、カムリングの軸方向変位を引き起こす。カムリングの軸方向変位を使用して、連結部材と駆動部材との間の連結を係合または係合解除することができる。好ましくは、用量設定部材が第2の方向に回転したときにカムリングが軸方向に動くと、カムリングは連結部材および駆動部材の少なくとも1つと接触する。
【0017】
本発明の好ましい実施形態による用量設定機構は、いくつかのインターフェースを含む。この機構は、駆動部材、好ましくはピニオンを有する駆動ギヤと連結部材との間に提供された1方向のラチェットインターフェースを形成する第1の組のラチェット歯を含み、第1の方向における駆動部材に対する連結部材の回転を可能にし、かつ反対の第2の方向における相対回転を防止する。この機構は、カムリングをさらに含むことができ、カムリングは、連結部材に回転方向に拘束され、かつ連結部材に対して軸方向に変位可能であり、駆動部材と軸方向に接触している。これは、直接の軸方向接触または介在する構成要素部材を介して間接的な軸方向接触とすることができる。この機構は、用量設定部材とカムリングとの間に傾斜したインターフェースを形成する第2の組のラチェット歯を含むことができ、第1の方向における用量設定部材およびカムリングの相対回転を防止し、かつ反対の第2の方向におけるカムリングに対する用量設定部材の回転を可能にする。歯は、好ましくは、反対の第2の方向におけるカムリングに対する用量設定部材の回転が、用量設定部材に対するカムリングの軸方向変位を引き起こすように配置される。この機構は、好ましくは、連結部材を第2の方向に付勢する駆動ばねをさらに含む。第1の組の歯の高さが第2の組の歯の高さより小さく、第1の組の歯の間隔が第2の組の歯の間隔より小さい場合、駆動ばねおよび用量設定部材の回転によって引き起こされる段階的な用量補正を提供することができる。
【0018】
たとえば、第2の方向における用量設定部材の反時計回り(用量補正)の回転は、のこぎり歯プロファイルのため、カムリングへ伝送されない。駆動ギヤが動作中にシャーシ内で非回転可能に保持され、連結部材を介してカムリングに回転可能に連結される場合、用量設定部材とカムリングとの間に相対回転が生じる。カムリングと用量設定部材との間のインターフェースの傾斜した歯のプロファイルのため、これは、カムリングの軸方向変位を引き起こし、この軸方向変位が駆動ギヤに作用し、したがって駆動ギヤと連結部材との間のインターフェースを係合解除する。ここで、連結部材は、駆動ばねの付勢を受けてカムリングとともに自由に回転することができ、それにより設定された用量を低減させる(補正する)。カムリングが連結部材とともに回転すると、その傾斜した歯は、用量設定部材の傾斜した歯の上を摺動して、以前の完全な係合位置に戻り、それによりカムリングが軸方向に戻ることが可能になり、駆動ギヤと連結部材との間のインターフェースを再係合させる。言い換えれば、可能になる回転運動は、連結部材インターフェースに対する駆動ギヤの2つの隣接する歯の間隔だけであり、これは典型的には、1つの単一用量の増分(1IU)である。このプロセスは、所望の(低減された)用量が設定されるまで繰り返すことができる。
【0019】
この実施形態では、ダイヤルギヤと駆動ギヤのラチェットインターフェースは、機能サイズを増大させることによって、このインターフェースの安全性を最大にする。薬物送達デバイスの連結部材は、ダイヤルギヤと数字ホイールとの間の相対的な軸方向運動を可能にするスプライン連結インターフェースを介してディスプレイ(たとえば、数字ホイール)に回転可能に連結されたダイヤルギヤの形態の単一の構成要素部材とすることができる。好ましい実施形態では、駆動ギヤは、シャーシとダイヤルギヤとの間で軸方向に拘束され、トリガばねでもあってよい圧縮ばねによって、シャーシから離れる方へ付勢される。
【0020】
用量設定機構は、駆動ギヤのスプライン連結部分およびハウジングまたはハウジングに拘束されたシャーシの対応するスプライン連結部分によって提供されるクラッチをさらに含むことができる。駆動ギヤは、クラッチの係合によって駆動ギヤがハウジングまたはシャーシに回転方向に拘束される第1の位置と、クラッチが係合解除され、ハウジングまたはシャーシと駆動ギヤとの間の相対回転が可能になる第2の位置との間で、その回転軸に沿って軸方向に可動とすることができる。
【0021】
加えて、用量設定機構は、好ましくは、ハウジングまたはシャーシと駆動部材との間に配置された圧縮ばねを含み、圧縮ばねは、駆動部材を連結部材の方へ付勢して第1の組のラチェット歯を係合させる。さらに、この圧縮ばねは、駆動部材を軸方向(用量設定および用量補正)位置で保持することができ、この位置で駆動部材は、ハウジングまたはシャーシに回転方向に拘束される。
【0022】
用量設定機構では、第2の方向におけるカムリングに対する用量設定部材の回転は、好ましくは、連結部材に対する駆動部材の軸方向変位を引き起こす。これを使用して、第1の組の歯を係合解除することができる。
【0023】
用量設定部材とカムリングとの間に、スプライン連結インターフェースを提供することができる。スプライン連結インターフェースは、好ましくは、第1の組の歯が係合しているときは、第2の方向におけるカムリングに対する用量設定部材の回転を可能にし、第1の組の歯が係合していないときは、第2の方向におけるカムリングに対する用量設定部材の回転を防止する。たとえば、用量設定部材が第1の組の歯を係合解除するのに十分に回転したとき、用量設定部材上のスプラインは、カムリング上のスプラインに接触し、用量設定部材とカムリングとの間のさらなる相対回転を防止する。好ましくは、スプライン間の隙間は、第1の組の歯を係合解除するのに十分な用量設定部材およびカムリングの相対回転を可能にするが、この相対回転は、第2の組の歯が互いを乗り越え、用量設定部材がカムリングおよび連結部材に対して非同期になるのに十分ではない。
【0024】
本発明による薬剤の複数の使用者可変用量を選択および投薬する薬物送達デバイスは、上記で定義した用量設定機構を含む。好ましくは、この機構は、ハウジング内で堅く固定されたシャーシをさらに含み、ハウジングおよび/またはシャーシは、カートリッジを受け取るためのコンパートメントを含む。加えて、この機構は、駆動ギヤ(駆動部材)のピニオンとメッシュ係合している歯付きピストンロッドを含むことができ、このピストンロッドは、駆動ギヤが第2の方向に回転したときにカートリッジの方および/または中へ駆動されるように位置する。
【0025】
薬物送達デバイスでは、歯付きピストンロッドは、好ましくは、ヒンジによって連結された複数の剛性ロッド片を含む。シャーシは、第1の湾曲した案内セクションおよび第2のまっすぐな案内セクションを含むことができ、駆動ギヤのピニオンは、第2のまっすぐな案内セクション内へ突出するように配置される。歯付きピストンロッドは、好ましくは、一体ヒンジによって連結された複数の剛性ロッド片を含み、その結果、剛性ロッド片は、互いに旋回するように配置される。剛性ロッド片はそれぞれ、平板を含み、まっすぐな歯付きラックを備える。言い換えれば、剛性ロッド片も歯付きラックも、湾曲または傾斜していない。これにより、ロッドの曲げ剛性が増大し、ピニオンの周りにロッドループを必要とすることなく、ラックアンドピニオン式の応用例におけるロッドの使用が可能になる。したがって、駆動機構および/または薬物送達デバイス内のロッドおよびピニオンの位置および配置に関して、より多くの設計上の選択肢がある。加えて、ピニオンは、比較的小さくすることができる。これは、ロッドがピニオンの周りにループを形成することが意図されるときには可能でない。
【0026】
典型的には、可撓性のピストンロッドは、シャーシ内に位置し、ラックアンドピニオン式のインターフェースを介して駆動ギヤに係合し、したがって駆動ギヤの回転がピストンロッドを前進させる。カートリッジが栓を有する薬物送達デバイス内で使用されるとき、ピストンロッドの遠位端は、液体薬剤カートリッジ内の栓に作用し、ピストンロッドの前進によって用量投薬中にカートリッジから薬剤を排出させる。可撓性のピストンロッドは、好ましくは、単一の構成要素であり、可撓性のヒンジを形成する細い材料セクションによって、個別の区間(剛性ロッド片)がともに連結される。曲げに対する可撓性により、従来のガラスの薬剤カートリッジを使用しながら、著しく短いデバイス形式が可能になる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態では、区間の端面は平面であり、可撓性のピストンロッドがまっすぐになったとき、隣接する区間面は互いに当接し、構成要素が圧縮負荷に耐えることが可能になる。これは、平板としての区間の設計とともに、ロッドの曲げ剛性に寄与する。可撓性のピストンロッドは、曲げ状態を維持して、ラックギヤの歯が駆動ギヤのピニオンから係合解除するのを防止するように、シャーシ内で抑制することができる。ピストンロッドが、駆動ギヤとのラックアンドピニオン式の係合を介して前進すると、ピストンロッドの後続区間が引っ張られて、駆動ギヤピニオンと係合する。後の区間が先行区間を駆動し、先行区間に圧縮負荷をかけ、栓に力を加える。可撓性のピストンロッドが前進すると、第1の区間は、シャーシによって提供される支持から外れる可能性がある。追加の支持がなければ、ピストンロッドはこの圧縮負荷を受けて座屈する可能性が高い。座屈を防止する追加の支持は、カートリッジの内壁が可撓性のピストンロッドの外面に拘束を提供することによって生み出される。
【0028】
加えて、シャーシは、カートリッジを保持する受け取りセクション(receiving section)を含むことができる。典型的には、受け取りセクションは、ピニオンの直後にロッドがカートリッジに入るように、第2のまっすぐな案内セクションに隣接して配置される。第2のまっすぐな案内セクションは、受け取りセクションに入って受け取りセクションと一体になることができる。
【0029】
ロッドの曲げ剛性をさらに増大させるために、各区間またはロッド片の平板は、まっすぐな歯付きラックの反対側に位置するフランジを含むことができる。フランジの端面は、好ましくは平面であり、可撓性のピストンロッドがまっすぐになったとき、隣接するフランジ面が互いに当接し、構成要素が圧縮負荷に耐えることを可能にする。フランジの長さは、好ましくは、フランジ(板に加えて)がカートリッジ内でロッドを案内するように、カートリッジの寸法に適用される。
【0030】
好ましい実施形態では、シャーシは、略円形の構成を有し、ピニオンは、シャーシの中心に位置し、第1の湾曲した案内セクションおよび第2のまっすぐな案内セクションは、シャーシの中心からずれて位置する。これは、そのような駆動機構を使用する薬物送達デバイスの全体的な寸法の低減に寄与することができる。
【0031】
好ましくは、デバイスは、駆動ばねを含む。これは、用量設定中にチャージされるばね、すなわち使用者によって加えられるエネルギーを蓄積するばね、もしくは機構の製造もしくは組立て中に事前に緊張させたばね、またはこれらの組合せとすることができる。好ましくは、駆動ばねは、一方の端部でシャーシ(または任意の他のハウジング構成要素)に固定されており、少なくとも駆動ギヤがベース要素に対して回転することが可能であるとき、駆動ギヤに力またはトルクを及ぼして、駆動ギヤをシャーシに対して回転させ、この回転の結果、歯付きピストンロッドの動きが生じる。ばねは、たとえばばねが製造または組立て中に機構の所期の寿命全体のためにチャージされる場合、駆動ギヤに直接取り付けることができる。代替として、ばねは、用量投薬のために駆動ギヤに(直接または間接的に)連結された構成要素部材に取り付けることができる。たとえば、駆動ばねは、少なくとも駆動ギヤがシャーシに対して回転することが可能にされるとき、連結部材を介して駆動ギヤに力またはトルクを及ぼし、駆動ギヤをシャーシに対して第2の方向に回転させることができ、この回転の結果、歯付きピストンロッドの動きが生じる。
【0032】
駆動ばねまたは同様のエネルギー蓄積部の使用には、カートリッジの内容物を排出するために必要とされる使用者の力が低減されるという利益がある。事前に緊張させたばねには、用量設定中に必要とされる力が低減されるというさらなる利点がある。事前に緊張させたばねに対する代替として、ばねまたは他の適したパワーリザーバを使用することができ、これは用量設定中にチャージまたは緊張される。カートリッジの内容物を排出するために必要とされる力が使用者ではなくパワーリザーバによって提供されるデバイスの別の利益は、デバイスのダイヤル延長を回避することができることであり、これは、用量が設定されているかどうかまたは設定された用量の量にかかわらず、デバイスのサイズが同じままであることを意味する。これにより、デバイスはより小型で使いやすいものとなる。
【0033】
本発明のさらなる実施形態によれば、デバイスは、クリッカ構成要素を含む。用量設定および用量投薬中に、異なるクリッカ機構が作用することができる。たとえば、連結要素と駆動ギヤとの間に提供される1方向のラチェットインターフェースによって、用量設定フィードバックを生成することができ、ラチェット歯の再係合が、フィードバック信号を生成する。ベース要素またはシャーシと駆動ギヤとの間で、用量投薬フィードバックを生成することができる。たとえば、シャーシ内に組み込まれた弾力のある片持ち梁の形態のクリッカアームが、駆動ギヤ上のラチェット機能と軸方向に連動する。設定用量の投薬の終了時のみ、追加の非視覚的な、すなわち可聴および/または触覚フィードバックを使用者に提供するために、デバイスがその最小用量止め具に戻ったときに作用するクリッカを、シャーシおよび連結部材によって提供することができる。これらのフィードバック信号を区別するために、設定用量の投薬の終了時にのみ生成される用量投薬終了フィードバックは、さらなるフィードバックとは別個である。たとえば、異なる音を生成することができる。好ましくは、用量投薬終了フィードバック機構は、ベース要素および連結部材の一方の上に位置する傾斜機能と、ベース要素および連結部材の他方の上に位置する可撓性のクリッカアームとを含む。連結部材は、用量設定および用量補正位置と用量投薬位置との間で、用量設定部材の回転軸に沿って軸方向に可動とすることができる。これにより、用量補正(設定用量の低減)中に傾斜およびクリッカアームが相互作用するのを防止する。この文脈で、用量投薬終了とは、ピストンロッドが設定用量に対応するその前進を完了した瞬間を意味するものとする。したがって、用量投薬終了直後には、カートリッジ栓の弾性のため、液体が依然として排出されている可能性がある。
【0034】
非視覚的フィードバックに加えて、薬物送達デバイスは通常、実際に設定された用量を示すディスプレイを有する。たとえば、用量設定部材と同軸に数字ホイールを配置して、用量設定部材に回転可能に連結することができ、数字ホイールの外周には一連のマーキングが提供される。本発明の好ましい実施形態は、ディスプレイの数字ホイールの外周に一連のマーキングを提供し、数字ホイールのマーキングの像をプリズムによって好ましくは90°屈曲させるという概念に基づく。ホイールの外周は、一連のマーキングを配置するのに十分な空間を有する領域であり、すべての数字または1つおきの数字が図示され、中間位置を印付けるための線を有する。他方では、ホイールの外周は、用量設定中および投薬中に使用者が読み取ることができるマーキングの最も好都合な位置ではない可能性があるため、使いやすさを増大させるために屈曲が提供される。
【0035】
屈曲の方向に関しては、用量設定および/または用量投薬中に作動が必要とされる方向にディスプレイが向いている場合、一部の使用者にとっては好都合である。たとえば、用量設定には平面内の回転が必要とされ、用量投薬には前記平面に直交してトリガを押すことが必要とされる場合、ディスプレイは、この平面に隣接して配置することができる。好ましくは、数字ホイールは、軸の周りを回転可能であり、プリズムは、数字ホイールのマーキングの像が前記軸に対して平行の方向に屈曲されるように配置される。好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのプリズムは、三角形のプリズムであり、一連のマーキングは、読み取ることができるように、プリズムによって数字ホイールの外周に裏返し(鏡映)に提供される。代替として、簡単な(三角形の)プリズムの代わりに、五角プリズムを使用して、像を反転させることなく、すなわち像の対称性を変化させることなく、直角に像の伝送を可能にすることができる。したがって、一連のマーキングは、数字ホイールの外周に鏡映されずに提供される。
【0036】
好ましくは、プリズムの表面は、数字ホイール上のマーキングの拡大を提供するように設計される。これにより、数字ホイールの外周面上で利用可能な空間が制限されている場合でも、設定すべき用量のすべての単位(または1つおきの単位)に対する個々の数字を提供することが可能になり、好都合には、その数字はそれでもなお、使用者が読み取ることができる。
【0037】
ハウジングは、カートリッジを受け取るためのコンパートメント、たとえば駆動機構のカートリッジ受け取りセクションによって画成される長手方向軸を有することができ、用量設定部材は、ハウジング内で回転可能に配置され、その回転軸は、ハウジングの長手方向軸に直交する。これにより、薬物送達デバイスの人間工学的な設計が可能になる。
【0038】
好ましい実施形態によれば、薬物送達デバイスは、最大設定可能用量および最小設定可能用量を画成するリミッタ機構を含む。典型的には、最小設定可能用量はゼロ(0IUのインスリン製剤)であり、その結果、リミッタは、用量投薬の終了時にデバイスを止める。最大設定可能用量、たとえばインスリン製剤の60、80、または120IUは、過剰投与のリスクを低減させ、非常に大きい用量を投薬するために必要とされる追加のばね力を回避しながら、それでもなお異なる用量サイズを必要とする広範囲の患者に適するように制限することができる。好ましくは、最小用量および最大用量の限界は、ハードストップ機能によって提供される。たとえば、ハウジングに対する用量設定部材の回転は、最小用量位置および最大用量位置を画成する回転止め具によって制限される。最小用量止め具は、パワーリザーバによって保持部材を介して及ぼされる負荷に耐えるのに十分に頑丈でなければならない。用量設定部材、連結要素、および/またはディスプレイもしくは数字ホイールの回転は、最小用量位置および最大用量位置を画成する回転止め具によって制限することができる。最小用量位置および最大用量位置は、ハウジングおよびたとえばディスプレイの数字ホイール上に設けられた回転ハードストップによって画成することができる。好ましくは、同じ突起が最小用量位置および最大用量位置を画成し、すなわち最小および最大用量止め具間の相対回転が、ほぼ360°に制限される。
【0039】
薬物送達デバイスは、用量設定部材の回転軸の方向に、すなわちハウジングの長手方向軸に直交する方向に、軸方向に可動のトリガをさらに含むことができる。典型的には、トリガの作動の結果、駆動ギヤの軸方向運動が生じて、駆動ギヤおよびシャーシを回転方向にデカップリングする。
【0040】
本発明のさらなる態様によれば、デバイスは、駆動ギヤおよび連結部材の1つに対して軸方向に変位可能かつ非回転可能に案内されるナットをさらに含む。たとえば、ナットは、スプライン連結インターフェースを介して駆動ギヤに回転可能に連結される。ナットは、連結部材と駆動ギヤとが相対回転したとき(すなわち、ダイヤル設定中)、ねじインターフェースを介して連結部材に対して螺旋状の経路に沿って動く。ナットは、端部止め具の方へ動き、ナットおよび端部止め具は、ナットが注射デバイス内の薬剤の(投薬可能な)量を超過する用量の設定を防止するように、注射デバイスの駆動機構内に設けることができる。言い換えれば、端部止め具は、好ましくは、用量設定中にナットが移動するトラックの長さを画成し、トラックの長さは、カートリッジ内の薬剤の(投薬可能な)総量に対応する。
【0041】
薬物送達デバイスのカートリッジは、典型的には、薬剤を収容する。本明細書で使用する用語「薬剤」は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態において、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、および/または、ペプチド、タンパク質、多糖類、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモンもしくはオリゴヌクレオチド、または上述の薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病関連の合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチの処置および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病性網膜症などの糖尿病に関連する合併症の処置および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)もしくはその類似体もしくは誘導体、またはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4もしくはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4の類似体もしくは誘導体を含む。
【0042】
インスリン類似体は、たとえば、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28−B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリン、およびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0043】
インスリン誘導体は、たとえば、B29−N−ミリストイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−パルミトイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−ミリストイルヒトインスリン;B29−N−パルミトイルヒトインスリン;B28−N−ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28−N−パルミトイル−LysB28ProB29ヒトインスリン;B30−N−ミリストイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30−N−パルミトイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29−N−(N−パルミトイル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(N−リトコリル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)−des(B30)ヒトインスリン、およびB29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0044】
エキセンジン−4は、たとえば、H−His−Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Lys−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Lys−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser−NH2配列のペプチドであるエキセンジン−4(1−39)を意味する。
【0045】
エキセンジン−4誘導体は、たとえば、以下のリストの化合物:
H−(Lys)4−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)5−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39);または
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
(ここで、基−Lys6−NH2が、エキセンジン−4誘導体のC−末端に結合していてもよい);
【0046】
または、以下の配列のエキセンジン−4誘導体:
desPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2(AVE0010)、
H−(Lys)6−desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desAsp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desMet(O)14,Asp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2;
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Lys6−desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28,Pro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(S1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2;
または前述のいずれか1つのエキセンジン−4誘導体の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和化合物
から選択される。
【0047】
ホルモンは、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンなどの、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストである。
【0048】
多糖類としては、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩がある。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。
【0049】
抗体は、基本構造を共有する免疫グロブリンとしても知られている球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位は免疫グロブリン(Ig)単量体(1つのIg単位のみを含む)であり、分泌型抗体はまた、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもあり得る。
【0050】
Ig単量体は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、システイン残基間のジスルフィド結合によって結合された2つの同一の重鎖および2本の同一の軽鎖から構成される「Y」字型の分子である。それぞれの重鎖は約440アミノ酸長であり、それぞれの軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化させる鎖内ジスルフィド結合を含む。それぞれの鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインから構成される。これらのドメインは約70〜110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に基づいて異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的な免疫グロブリン折り畳み構造を有する。
【0051】
α、δ、ε、γおよびμで表される5種類の哺乳類Ig重鎖が存在する。存在する重鎖の種類により抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される。
【0052】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(CH)と可変領域(VH)を有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、α、およびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つの免疫グロブリン・ドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0053】
哺乳類では、λおよびκで表される2種類の免疫グロブリン軽鎖がある。軽鎖は2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211〜217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を有し、哺乳類の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0054】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(HV)に3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0055】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化は、Igプロトタイプを3つのフラグメントに切断する。1つの完全なL鎖および約半分のH鎖をそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズが同等であるが、鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR結合部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH−H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合は、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域は、縮合して単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することもできる。
【0056】
薬学的に許容される塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩としては、たとえば、HClまたはHBr塩がある。塩基性塩は、たとえば、アルカリまたはアルカリ土類、たとえば、Na+、またはK+、またはCa2+から選択されるカチオン、または、アンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1〜R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1〜C6アルキル基、場合により置換されたC2〜C6アルケニル基、場合により置換されたC6〜C10アリール基、または場合により置換されたC6〜C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0057】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0058】
本発明について、添付の概略的な図面を参照して、さらに詳細に次に説明する。