特許第6722209号(P6722209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6722209カロテノイド組成物、カロテノイド組成物の製造方法、カロテノイド組成物を生産する微生物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722209
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】カロテノイド組成物、カロテノイド組成物の製造方法、カロテノイド組成物を生産する微生物
(51)【国際特許分類】
   C12P 23/00 20060101AFI20200706BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20200706BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20200706BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20200706BHJP
   C09B 61/00 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C12P23/00
   C12N1/12 C
   C12N1/00 Z
   A23L33/10
   C09B61/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-9398(P2018-9398)
(22)【出願日】2018年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-117619(P2018-117619A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2018年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2017-10607(P2017-10607)
(32)【優先日】2017年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開1 研究集会名 :第2回アジアオレオサイエンス会議・第56回日本油化学会年会 開催日 :2017年9月11〜13日 開催場所 :東京理科大学神楽坂キャンパス 要旨集発行日 :2017年9月11日 発行人 :第2回アジアオレオサイエンス会議・第56回日本油化学会年会実行委員会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開2 研究集会名 :第69回日本生物工学会大会 開催日 :2017年9月11〜14日 開催場所 :早稲田大学 大隈記念講堂(9月11日) 早稲田大学 西早稲田キャンパス(9月12〜14日) 要旨集発行日 :2017年8月8日 発行所 :公益社団法人日本生物工学会
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22320
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22321
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22535
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋 庸裕
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 研志
(72)【発明者】
【氏名】東 莉沙
(72)【発明者】
【氏名】上原 莉世
(72)【発明者】
【氏名】松山 恵介
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/155535(WO,A1)
【文献】 特開平11−060980(JP,A)
【文献】 特開2005−075792(JP,A)
【文献】 特開2007−244205(JP,A)
【文献】 特表2016−523553(JP,A)
【文献】 特開2015−188342(JP,A)
【文献】 特開2016−010347(JP,A)
【文献】 特表2016−523554(JP,A)
【文献】 Agricultural and Biological Chemistry,1963年,Vol.27, No.4,p.259-264
【文献】 Analytical Biochemistry,2006年,Vol.352,p.176-181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 23/00
C09B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーランチオキトリウム属に属し、且つ、ドコサヘキサエン酸、並びに、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を生産する能力を有し、
RH−7A−3(受託番号:FERM P−22320)、RH−7A−7(受託番号:FERM P−22321)、及び、RU−1(受託番号:FERM P−22353)のうち1つが有する18SrRNAをコードするDNAの塩基配列と98%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる、18SrRNAをコードするDNAを有する
ことを特徴とする微生物。
【請求項2】
RH−7A−3(受託番号:FERM P−22320)、RH−7A−7(受託番号:FERM P−22321)、又は、RU−1(受託番号:FERM P−22353)の、ドコサヘキサエン酸、並びに、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を生産する能力を有する変異株。
【請求項3】
RH−7A−3(受託番号:FERM P−22320)、RH−7A−7(受託番号:FERM P−22321)、又は、RU−1(受託番号:FERM P−22353)。
【請求項4】
アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を製造する方法であって、
前記カロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から前記カロテノイド組成物を取得するカロテノイド組成物取得工程と
を含み、
前記微生物が、請求項1〜のいずれか1項に記載の微生物であることを特徴とする方法。
【請求項5】
アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を製造する方法であって、
前記カロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から前記カロテノイド組成物を取得するカロテノイド組成物取得工程と
を含み、
前記微生物が、オーランチオキトリウム属に属し、且つ、ドコサヘキサエン酸、並びに、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物であることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記微生物が、(組成1)〜(組成4):
(組成1)液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが0.1〜10.0%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、アスタキサンチンが22〜34%、フェニコキサンチンが14〜25%、カンタキサンチンが7〜19%、エキネノンが1〜10%、β−カロテンが32〜42%である
(組成2)液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが0.1〜10.0%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、アスタキサンチンが65〜90%、フェニコキサンチンが7〜24%、カンタキサンチンが0.1〜10%、エキネノンが0.1〜6%、β−カロテンが1〜12%である
(組成3)液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが0.1〜10.0%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、アスタキサンチンが0.5〜5%、フェニコキサンチンが10〜20%、カンタキサンチンが60〜80%、エキネノンが0.5〜5%、β−カロテンが5〜15%である
(組成4)液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが0.1〜10.0%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、アスタキサンチンが7〜17%、フェニコキサンチンが10〜30%、カンタキサンチンが30〜50%、エキネノンが0.5〜5%、β−カロテンが15〜35%である
から選択されるいずれか1つの組成を有するカロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物である、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種のカロテノイドを含むカロテノイド組成物、前記カロテノイド組成物の製造方法、及び、前記カロテノイド組成物を生産する微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは色素として有用であるとともに、抗酸化作用等の種々の有用な作用を有するため、医薬品、化粧品、食品などの分野において利用価値が高い。
【0003】
カロテノイドのうちアスタシンは、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、β−カロテン等の他のカロテノイドと比較して産業的応用はやや遅れているが、例えば以下のようなアスタシンの応用例が報告されている。
【0004】
特許文献1では、カロテノイドが抗酸化作用を有することに着目し、脂質、リポタンパク質、タンパク質、DNA等の酸化等の、酸化機構が関与する疾患の予防、治療のために親水性カロテノイドを使用することが開示されており、親水性カロテノイドの具体例としてアスタシンが挙げられている。特許文献1ではアスタシンを、ビタミンC、α−トコフェロール、レシチン、大豆油と混合した混合物を封入したカプセルが開示されている。
【0005】
特許文献2では、メラニン芽細胞合成インヒビターとして、アスタシンが、アスタキサンチン等とともに例示されている。特許文献2の実施例1では、線維芽細胞をエストラジオール溶液で処理すると細胞質の強い収縮が観察され、紡錘状外観は認められなかったのに対して、アスタシンの存在下で細胞を培養すると、その後にエストラジオール溶液で処理しても細胞の表現型は変化せず、細胞は透明細胞質と紡錘状外観を維持したことが開示されている。
【0006】
特許文献3では、アスタシンが人体に安全な着色剤等として利用可能であることが記載されている。
【0007】
また、アスタシン等のカロテノイドは半導体の分野における利用も検討されている(非特許文献1)。
【0008】
アスタシン以外のカロテノイド、すなわちβ−カロテン、カンタキサンチン、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、エキネノン等のカロテノイドについては、それを生産する能力を有する微生物を培養することにより生産する技術が開発されている(特許文献4〜6)。
【0009】
アスタシンの製造方法の報告は少ないが、例えば特許文献7には、アスタキサンチンと塩基とをアルコール溶媒中に分散させ、撹拌しながら酸素を供給して酸化反応を行い、アルコール溶媒を除去することによりアスタシンを合成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO95/00130
【特許文献2】特開平5−25036号公報
【特許文献3】CN104262221A
【特許文献4】特開2011−188795号公報
【特許文献5】特開2001−95500号公報
【特許文献6】特開2015−188342号公報
【特許文献7】CN1817858A
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. 1980,19(1),207
【非特許文献2】Mycoscience,2007,48,199
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
アスタシンを含むカロテノイドを微生物により生産する方法はこれまでに提供されていない。
【0013】
一方、複数種のカロテノイドを含むカロテノイド組成物は、個々のカロテノイドを単離して利用するための出発原料として用いることができる。また、数種のカロテノイドを含むカロテノイド組成物は、複数種のカロテノイドを同時に供給するために用いることができる。このように、複数種のカロテノイドを含むカロテノイド組成物は有用性が高いと本発明者らは考えた。
【0014】
そこで本発明では、微生物を用いて、アスタシンに加えて他のカロテノイドを同時に含むカロテノイド組成物を生産するための手段、及び、有用な複数のカロテノイドを含むカロテノイド組成物を提供する。本発明はまた、微生物を用いて、アスタシンを生産するための手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を製造する方法であって、
前記カロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から前記カロテノイド組成物を取得するカロテノイド組成物取得工程と
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0016】
本発明はまた、アスタシンを製造する方法であって、
アスタシンを生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物からアスタシンを取得するアスタシン取得工程と
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0017】
本発明はまた、オーランチオキトリウム属に属し、且つ、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を生産する能力を有することを特徴とする微生物に関する。
【0018】
本発明はまた、オーランチオキトリウム属に属し、且つ、アスタシンを生産する能力を有することを特徴とする微生物に関する。
【0019】
本発明はまた、RH−7A−3(受託番号:FERM P−22320)、RH−7A−7(受託番号:FERM P−22321)、又は、RU−1(受託番号:FERM P−22353)に関する。
【0020】
本発明はまた、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物に関する。
【0021】
本発明はまた、アスタシンを生産する能力を有する微生物の微生物体とアスタシンとを含む培養物に関する。
【0022】
本発明はまた、
カンタキサンチンを製造する方法であって、
オーランチオキトリウム属に属する微生物(特に、オーランチオキトリウム属に属し、且つ、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物)をコバルトイオンの存在下で培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物からカンタキサンチン又はカンタキサンチンを含むカロテノイド組成物を取得するカンタキサンチン取得工程と
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0023】
本発明はまた、
オーランチオキトリウム属に属する微生物(特に、オーランチオキトリウム属に属し、且つ、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物)によるカンタキサンチンの生産量を向上させる方法であって、
前記微生物をコバルトイオンの存在下で培養する培養工程
を含むことを特徴とする方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明のカロテノイド組成物の製造方法では、アスタシン等の複数種のカロテノイドを含むカロテノイド組成物を、微生物を用いて製造することが可能である。
【0025】
本発明のアスタシンの製造方法では、アスタシンを、微生物を用いて製造することが可能である。
【0026】
本発明の微生物は、アスタシン等の複数種のカロテノイドを含むカロテノイド組成物を生産するために、又はアスタシンを生産するために、利用することができる。
【0027】
本発明のカロテノイド組成物は、アスタシン、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンのうち1種以上の化合物を個別に単離して利用するための出発原料として用いることや、複数種のカロテノイドを同時に供給するための素材として用いることが可能である。
【0028】
本発明の培養物は、アスタシンを単離して利用するための出発原料として用いることや、アスタシンを供給するための素材として用いることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<1.カロテノイド組成物>
本発明のカロテノイド組成物は、複数種のカロテノイドの混合物であり、具体的には、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを少なくとも含む。本発明のカロテノイド組成物はこれら以外のカロテノイドを更に含んでもよい。
【0030】
本発明のカロテノイド組成物は、好ましくは、アスタシン、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンを少なくとも含む。
【0031】
本発明のカロテノイド組成物における各カロテノイドの含有量の比率は特に限定されない。本発明のカロテノイド組成物の典型的な例として以下の第2の実施形態、第3の実施形態、第4の実施形態、第5の実施形態、及び、第6の実施形態が挙げられる。
【0032】
本発明のカロテノイド組成物の第2の実施形態では、液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは0.1〜5.0%、特に好ましくは0.1〜1.0%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、好ましくはアスタキサンチンが17〜39%、フェニコキサンチンが9〜30%、カンタキサンチンが2〜24%、エキネノンが1〜15%、β−カロテンが27〜47%であり、より好ましくはアスタキサンチンが22〜34%、フェニコキサンチンが14〜25%、カンタキサンチンが7〜19%、エキネノンが1〜10%、β−カロテンが32〜42%である。
【0033】
本発明のカロテノイド組成物の第3の実施形態では、液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは0.1〜5.0%、特に好ましくは0.1〜1.1%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、好ましくはアスタキサンチンが60〜95%、フェニコキサンチンが2〜29%、カンタキサンチンが0.1〜15%、エキネノンが0.1〜11%、β−カロテンが1〜17%であり、より好ましくはアスタキサンチンが65〜90%、フェニコキサンチンが7〜24%、カンタキサンチンが0.1〜10%、エキネノンが0.1〜6%、β−カロテンが1〜12%である。
【0034】
本発明のカロテノイド組成物の第4の実施形態では、液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは3.0〜7.0%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、好ましくはアスタキサンチンが60〜95%、フェニコキサンチンが2〜29%、カンタキサンチンが0.1〜15%、エキネノンが0.1〜11%、β−カロテンが1〜17%であり、より好ましくはアスタキサンチンが65〜90%、フェニコキサンチンが7〜24%、カンタキサンチンが0.1〜10%、エキネノンが0.1〜6%、β−カロテンが1〜12%である。
【0035】
本発明のカロテノイド組成物の第5の実施形態では、液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは0.5〜5.5%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、好ましくはアスタキサンチンが0.1〜10%、フェニコキサンチンが1〜30%、カンタキサンチンが50〜90%、エキネノンが0.1〜10%、β−カロテンが1〜20%であり、より好ましくはアスタキサンチンが0.5〜5%、フェニコキサンチンが10〜20%、カンタキサンチンが60〜80%、エキネノンが0.5〜5%、β−カロテンが5〜15%である。
【0036】
本発明のカロテノイド組成物の第6の実施形態では、液体クロマトグラフ質量スペクトル分析で得られる抽出イオンクロマトグラムのピーク面積の比率として、アスタキサンチンに対しアスタシンが好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは0.5〜5.5%であり、且つ、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対して、好ましくはアスタキサンチンが2〜22%、フェニコキサンチンが5〜35%、カンタキサンチンが20〜60%、エキネノンが0.1〜10%、β−カロテンが5〜45%であり、より好ましくはアスタキサンチンが7〜17%、フェニコキサンチンが10〜30%、カンタキサンチンが30〜50%、エキネノンが0.5〜5%、β−カロテンが15〜35%である。
【0037】
本発明のカロテノイド組成物の第2、第3、第4、第5、第6の実施形態は、更に、未同定のカロテノイドを含んでいる場合があり、その量は、450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定でのクロマトグラムにおけるピーク面積の比率として、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンの合計に対する割合で表すことができる。
【0038】
上記の、アスタキサンチンに対するアスタシンの比率は、例えば、液体クロマトグラフ質量スペクトル分析(LC/MS)を用いた次の方法により算出できる。前記カロテノイド組成物を試料とし、液体クロマトグラフィーカラムを通して前記組成物中の各成分を時間的に分離し、分離された各成分を、大気圧化学イオン化法(APCI)でイオン化し、生成したイオンを飛行時間型質量分析器(TOFMS)により質量電荷比(m/z)に応じて分離し検出器で検出する。この操作により、時間経過に伴って繰り返し質量スペクトルデータを収集し記録する。そして、記録された質量スペクトルデータから、アスタキサンチンを代表する質量電荷比([M+H]のm/z=597.3930〜597.3950)のイオンの強度を時間の関数として表した抽出イオンクロマトグラム(アスタキサンチンEIC)と、アスタシンを代表する質量電荷比([M+H]のm/z=593.3600〜593.3640)のイオンの強度を時間の関数として表した抽出イオンクロマトグラム(アスタシンEIC)とを作成する。そして作成されたアスタキサンチンEICのピーク面積を100%としたときの、アスタシンEICのピーク面積の比率を、アスタキサンチンに対するアスタシンの比率とすることができる。
【0039】
上記の「450nmを検出波長とする紫外光検出器を用いる液体クロマトグラフィー測定」は、具体的には、以下の条件:
カラム:ODSカラム、特に、COSMOSIL 5C18−MS−II(ナカライテスク)、
移動相:アセトニトリルとメタノールとジクロロメタン混合溶媒、特に、アセトニトリルとメタノールとジクロロメタンが7:2:1の容積比で混合された混合溶媒、
流速:1mL/分、
カラム温度:25℃、
検出器:紫外光検出器、
検出波長:450nm、
による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定が例示できる。
【0040】
本発明のカロテノイド組成物は、どのような形態で提供されてもよい。本発明のカロテノイド組成物は、例えば、医薬品、飲食品、化粧品、微生物培養物等の組成物中に存在していてもよいし、精製(粗精製も含む)された状態であってもよい。
【0041】
本発明のカロテノイド組成物は、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とのうち1種以上を個別に単離して利用するための出発原料として用いることができる。本発明のカロテノイド組成物はまた、複数種のカロテノイドを同時に供給するための素材として、医薬品、飲食品、化粧品等に配合することができる。
【0042】
<2.カロテノイド組成物又はアスタシンを生産する能力を有する微生物>
本発明はまた、アスタシンを生産する能力を有する微生物を提供する。本発明はまた、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物を提供する。
【0043】
ここで、カロテノイド組成物は上記「1.カロテノイド組成物」の欄に説明したものと同様である。
【0044】
本発明の、前記カロテノイド組成物又はアスタシンを生産する能力を有する微生物は好ましくは微細藻類に属する微生物である。微細藻類としてはラビリンチュラ類、藍藻類、珪藻類、真正眼点藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類、ユーグレナ藻類、プラシノ藻類又は緑藻類が好ましく、特にラビリンチュラ類が好ましい。ラビリンチュラ類に属する微生物としてはオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属又はウルケニア(Ulkenia)属に属する微生物が好ましく、なかでも、オーランチオキトリウム属に属する微生物が特に好ましい。
【0045】
微生物がオーランチオキトリウム属に属することは以下の指標により判断することができる:18SrRNAをコードするDNAの塩基配列が、既知のオーランチオキトリウム属に属する微生物の18SrRNAをコードするDNAの塩基配列と実質的に同一であり、色素としてアスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、β−カロテンを含み、ドコサヘキサエン酸(DHA)を主な脂肪酸成分として含むトリグリセリドを油滴として蓄積する(非特許文献2)。また、後述する微生物の具体的な3例の微生物のいずれか1つが有する18SrRNAをコードするDNAの塩基配列と、実質的に同一の塩基配列、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%の配列同一性を有する塩基配列を、18SrRNAをコードするDNAの塩基配列として含む微生物も、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に属する微生物と判断することができる。ここで2つの塩基配列の同一性の値は、複数の塩基配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DNASIS、及びBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。塩基配列の同一性の値は、一致度が最大となるように一対の塩基配列をアライメントした際に一致する塩基の数を算出し、当該一致する塩基の数の、比較した塩基配列の全塩基数に対する割合として算出される。ここで、ギャップがある場合、上記の全塩基数は、1つのギャップを1つの塩基として数えた塩基数である。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, Nuc. Acids. Res. 25, 3389−3402, 1977及びAltschul et al, J. Mol. Biol. 215, 403−410, 1990を参照されたい。
【0046】
本発明において、前記カロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物は、適切な条件で培養したときに、培養物中にアスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とをそれぞれ生成することができる微生物を指す。本発明において、アスタシンを生産する能力を有する微生物は、適切な条件で培養したときに、培養物中にアスタシンを生成することができる微生物を指す。培養条件の具体例は別途説明する。培養条件の具体例は別途説明する。
【0047】
本発明で用いる微生物は野生株であってもよいし、変異株であってもよい。
本発明で用いるオーランチオキトリウム属に属し、アスタシン又は前記カロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物の好ましい具体例としては、RH−7A−3(受託番号:FERM P−22320)、RH−7A−7(受託番号:FERM P−22321)、及び、RU−1(受託番号:FERM P−22353)が例示できる。これらの微生物のうち2種以上が混合したものであってもよい。RH−7A−3は、前記第2の実施形態に係るカロテノイド組成物を生産するのに適している。RH−7A−7は、前記第3の実施形態に係るカロテノイド組成物を生産するのに適している。RU−1は、コバルト塩が存在しないpH1.5〜4.5の条件下では、前記第4の実施形態に係るカロテノイド組成物を生産するのに適している。RU−1は、コバルト塩が存在する条件下では、前記第5の実施形態に係るカロテノイド組成物を生産するのに適している。RH−7A−7は、コバルト塩が存在する条件下では、前記第6の実施形態に係るカロテノイド組成物を生産するのに適している。
【0048】
本発明において、RH−7A−3、RH−7A−7、及び、RU−1はいずれも、その変異株であって、アスタシン又は前記カロテノイド組成物を生産する能力を有する変異株も包含する概念である。各株の変異株は、RH−7A−3、RH−7A−7、又は、RU−1に変異誘発処理を施して得られる変異株である。変異誘発処理は任意の適当な変異原を用いて行われ得る。ここで「変異原」なる語は、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類が挙げられるが、適切であれば、他の変異原も使用され得る。
【0049】
<3.カロテノイド組成物の製造方法>
本発明は、アスタシンと、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンからなる群から選択される4以上の化合物とを含むカロテノイド組成物を製造する方法であって、
前記カロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物から前記カロテノイド組成物を取得するカロテノイド組成物取得工程と
を含む方法を提供する。
【0050】
本方法で製造される前記カロテノイド組成物は上記「1.カロテノイド組成物」の欄に説明したものと同様である。本方法で用いる前記微生物は「2.カロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物」の欄に説明したものと同様である。
【0051】
前記培養工程では、前記微生物を培地に接種して培養する。培地は液体培地であってもよいし、固体培地であってもよいが、前記カロテノイド組成物の大量生産のためには液体培地であることが好ましい。
【0052】
培地は天然海水塩又は人工海水塩を含んでもよく、含まなくてもよい。
培地は炭素源及び窒素源を少なくとも含む。
【0053】
炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、フコース、グルコサミン、デキストラン等の炭水化物、脂肪酸(オレイン酸等)、大豆油等の油脂類、並びに、グルタミン酸、糖蜜、グリセロール、酢酸ナトリウム等の従来使用されている炭素源から選択される1種以上を使用できるが、これらに限られるものではない。
【0054】
窒素源としては、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆かす等の天然窒素源、グルタミン酸ナトリウム、尿素等の有機窒素源、並びに、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素源から選択される1種以上を使用できるが、これらに限られるものではない。
【0055】
前記培地は更に必要に応じて、硫酸鉄(特に硫酸鉄(II))、コバルト塩(特に塩化コバルト(II))、銅塩(硫酸銅等)、亜鉛塩、マグネシウム塩(硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等)、カルシウム塩(塩化カルシウム等)、モリブデン塩、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム等の無機塩、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸塩、並びにビタミン類から選択される1種以上の他の栄養成分を含有してもよい。特に、コバルト塩を含有する培地中で、前記カロテノイド組成物を生産する能力を有する微生物を培養すると、微生物により生産されるカロテノイド組成物中でのカンタキサンチンの比率を顕著に高めることができる。微生物としてRU−1又はRH−7A−7をコバルト塩(特に塩化コバルト(II))を含む培地を用いて培養するとき、カンタキサンチンを高比率で含むカロテノイド組成物を生産することができる。
【0056】
これらの培地成分の量は、成分の濃度が微生物の生育に有害な影響を与えない範囲で適宜調整することができ、特に限定されない。一般的には、炭素源は、総量として、培地1リットルあたり20〜180gの濃度で添加することができる。窒素源は、総量として、培地1リットルあたり0.6〜100gの濃度で添加することができる。好ましくは、窒素源の量は、炭素源の量の増加に伴って増加させる。培地に無機塩が添加される場合、無機塩は培地中に0.005〜0.100質量%の濃度で添加されることが好ましい。特に、硫酸鉄(硫酸鉄(II))が培地中に0.005〜0.100質量%の濃度で添加されることが好ましく、0.010〜0.050の濃度で添加されることがより好ましい。
【0057】
培地は適当な酸または塩基を添加してpHを調節することが好ましく、pHの範囲としては1.5〜9.5が例示できる。pHの更に具体的な範囲としては1.5〜4.5が例示できる。培地のpH値としては、室温(例えば25℃)において測定した値を採用することができる。培地のpH値とは、特に限定しない限り、培養開始時の初期のpH値を指す。特に、RU−1を用いて前記第4の実施形態に係るカロテノイド組成物を生産する場合、初期pHが1.5〜4.5の培地を用いることが好ましく、初期pHが3.5〜4.5の培地を用いることがより好ましい。
培地は培養に使用する前にオートクレーブ処理等の滅菌処理を施す。
【0058】
前記培養工程において微生物の培養の条件は特に限定されない。液体培地中での培養の場合、通気撹拌培養、振盪培養、静置培養のいずれかによって行うことができる。培地と接する雰囲気は空気、酸素が例示できる。培養温度は好ましくは10〜40℃、より好ましくは15〜30℃が例示できる。培養時間は通常24〜336時間、好ましくは48〜168時間とすることができる。
【0059】
炭素源、窒素源、他の栄養成分等は、培養工程の開始前または途中に培地へ添加することができる。これらの成分の添加は、一回、複数回、または連続的に行うことができる。
【0060】
前記培養工程に続いて行うカロテノイド組成物取得工程は、前記培養工程で得られた培養物から前記カロテノイド組成物を取得する工程である。
【0061】
ここで培養物とは、培養により得られた、前記微生物の微生物体と前記カロテノイド組成物とを含む、培養による産物を指す。培養物は、培地と微生物体との混合物であってもよいし、前記混合物から分離した微生物体であってもよい。微生物体の範囲には、未処理の微生物体だけでなく、処理された微生物体も包含される。処理された微生物体としては、例えば、水洗、破砕及び乾燥から選択される1種以上の処理により処理された微生物体が例示できる。培養物は殺菌処理されたものであってもよいし、殺菌処理されていないものであってもよい。
【0062】
培養物から前記カロテノイド組成物を取得する方法は特に限定されない。典型的には、前記混合物を遠心分離、濾過等の固液分離手段により分離して微生物体を採取する。採取した微生物体は更に水洗、乾燥及び破砕から選択される1以上の処理を施してもよい。微生物体の乾燥は凍結乾燥、風乾等によって行うことができる。微生物体の破砕は、ミルによる処理、超音波処理等によって行うことができる。
【0063】
好ましくは、前記微生物体(好ましくは、前段落に記載の処理がされた微生物体)から、カロテノイドを有機溶媒によって抽出する。抽出に用いる有機溶媒としてはクロロホルム、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、エーテル、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、石油エーテル等が例示でき、これらの溶媒のうち2種以上の混合した混合溶媒であってもよい。好適な混合溶媒としてはクロロホルムとメタノールとの混合溶媒が例示できる。抽出物から減圧下で有機溶媒を留去することにより、高濃度のカロテノイド組成物が得られる。
【0064】
また、前記培養工程で得られた培養物から前記カロテノイド組成物を分離することは必須ではなく、前記カロテノイド組成物を含む前記培養物自体を、前記カロテノイド組成物の用途に利用してもよい。前記培養工程で得られた培養物自体を、前記カロテノイド組成物の用途に利用するために取得することも、前記カロテノイド組成物を取得する工程の一態様である。
【0065】
<4.アスタシンの製造方法>
本発明は、アスタシンを製造する方法であって、
アスタシンを生産する能力を有する微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養物からアスタシンを取得するアスタシン取得工程と
を含む方法を提供する。
【0066】
本方法で用いる前記微生物は「2.カロテノイド組成物又はアスタシンを生産する能力を有する微生物」の欄に説明したものと同様である。
【0067】
前記培養工程で用いる培地及び培養条件は、「3.カロテノイド組成物の製造方法」で詳述したカロテノイド組成物製造のための培養工程に用いる培地及び培養条件と同様の範囲から選択することができる。
【0068】
前記培養工程に続いて行うアスタシン取得工程は、前記培養工程で得られた培養物からアスタシンを取得する工程である。
【0069】
ここで培養物とは、培養により得られた、前記微生物の微生物体とアスタシンとを含む、培養による産物を指す。培養物は、培地と微生物体との混合物であってもよいし、前記混合物から分離した微生物体であってもよい。微生物体の範囲には、未処理の微生物体だけでなく、処理された微生物体も包含される。処理された微生物体としては、例えば、水洗、破砕及び乾燥から選択される1種以上の処理により処理された微生物体が例示できる。培養物は殺菌処理されたものであってもよいし、殺菌処理されていないものであってもよい。
【0070】
培養物からアスタシンを取得する方法は特に限定されない。典型的には、前記混合物を遠心分離、濾過等の固液分離手段により分離して微生物体を採取する。採取した微生物体は更に水洗、乾燥及び破砕から選択される1以上の処理を施してもよい。微生物体の乾燥は凍結乾燥、風乾等によって行うことができる。微生物体の破砕は、ミルによる処理、超音波処理等によって行うことができる。
【0071】
好ましくは、前記微生物体(好ましくは、前段落に記載の処理がされた微生物体)から、アスタシンを有機溶媒によって抽出する。抽出は、他のカロテノイドも一緒に抽出される条件で行ってもよい。抽出に用いる有機溶媒としてはクロロホルム、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、エーテル、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、石油エーテル等が例示でき、これらの溶媒のうち2種以上の混合した混合溶媒であってもよい。好適な混合溶媒としてはクロロホルムとメタノールとの混合溶媒が例示できる。抽出物から減圧下で有機溶媒を留去することによりアスタシンが得られる。
【0072】
アスタシンを他のカロテノイドとともに含む組成物(例えば前記カロテノイド組成物)として前記培養物から分離する場合、必要に応じて、前記組成物からアスタシンを分離する工程を更に行ってもよい。前記組成物からアスタシンを分離する方法としてはカラムクロマトグラフィーを用いる方法が挙げられる。
【0073】
また、前記培養工程で得られた培養物からアスタシンを分離することは必須ではなく、アスタシンを含む前記培養物自体を、アスタシンの用途に利用してもよい。前記培養工程で得られた培養物自体を、アスタシンの用途に利用するために取得することも、アスタシンを取得する工程の一態様である。
【0074】
<5.アスタシンを含む培養物>
本発明の培養物は、アスタシンを生産する能力を有する微生物の微生物体とアスタシンとを少なくとも含み、好ましくは、「4.アスタシンの製造方法」の欄に説明した方法における培養工程で得られる培養物である。「アスタシンを生産する能力を有する微生物」の具体例は、「2.カロテノイド組成物又はアスタシンを生産する能力を有する微生物」の欄に説明したものと同様である。「培養物」の具体例は、「4.アスタシンの製造方法」の欄に説明したものと同様である。
【0075】
本発明の培養物の好ましい一実施形態では、アスタシンとアスタキサンチンとを含み、アスタシンを、アスタキサンチンに対して、好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは0.1〜5.0%、特に好ましくは0.1〜1.0%の量で含む。本発明の培養物の他の好ましい一実施形態では、アスタシンとアスタキサンチンとを含み、アスタシンを、アスタキサンチンに対して、好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは0.1〜5.0%、特に好ましくは0.1〜1.1%の量で含む。本発明の培養物の他の好ましい一実施形態では、アスタシンとアスタキサンチンとを含み、アスタシンを、アスタキサンチンに対して、好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは3.0〜7.0%の量で含む。本発明の培養物の他の好ましい一実施形態では、アスタシンとアスタキサンチンとを含み、アスタシンを、アスタキサンチンに対して、好ましくは0.1〜10.0%、より好ましくは0.5〜5.5%の量で含む。
【0076】
ここで、アスタシンとアスタキサンチンとの比率は、「1.カロテノイド組成物」において説明した手順で求めることができる。本発明の培養物中のアスタシンは、より好ましくは、「1.カロテノイド組成物」の欄に詳述した組成物の形態で含まれる。本発明の培養物のより好ましい実施形態は、「3.カロテノイド組成物の製造方法」の欄に詳述した方法における培養工程で得られる培養物である。
【実施例】
【0077】
1.オーランチオキトリウム属微生物
後述する実験ではオーランチオキトリウム属に属する微生物の株として「RH−7A−3」、「RH−7A−7」及び「RU−1」を用いた。これら3株はいずれも、形態及び代謝産物の特徴から、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に分類される。また、これら3株はいずれも、18SrRNAをコードする塩基配列に基づいてオーランチオキトリウム属微生物に分類された微生物株の変異株であることからも、同属に属すると判断した。
【0078】
また、上記微生物株の各々を、下記表2に示す組成の液体培地中で、28℃の温度条件下、150rpmの振盪速度で48時間振盪培養を行った。培養された微生物体の凍結乾燥物の脂質を、メチルエステルに変換しガスクロマトグラフィーにより分析したところ、クロマトグラフにおけるピーク面積比(各株3回の培養物からの平均値)は下記表1のようになった。上記の微生物株は、いずれも、脂肪酸としてドコサヘキサエン酸(DHA)を主として生産することから、オーランチオキトリウム属微生物であることが裏付けられた。
【0079】
【表1】
【0080】
RH−7A−3は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(郵便番号292−0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託され、受託番号:FERM P−22320が付与されている(受託日:平成28年(2016年)12月13日)。
【0081】
RH−7A−7は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(郵便番号292−0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託され、受託番号:FERM P−22321が付与されている(受託日:平成28年(2016年)12月13日)。
【0082】
RU−1は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(郵便番号292−0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託され、受託番号:FERM P−22353が付与されている(受託日:平成29年(2017年)12月19日)。
【0083】
2.培養とカロテノイド抽出
(1)培養
フラスコ中で以下の組成の液体培地を調製し、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)を施した。
【0084】
【表2】
【0085】
前記液体培地に前記微生物株の1つの前培養液を1/10量植菌し、28℃の温度条件下、150rpmの振盪速度で振盪培養を行った。培養時間は96時間、144時間又は168時間とした。
【0086】
表4、表5−1及び表5−2中で特に明示の無い実験では、表2に示す組成の前記液体培地を用いた。この液体培地の初期pHは6であった。
【0087】
表4の1)、表5−1の2)の実験では、表2に示す組成の前記液体培地中に、0.01質量%の硫酸鉄(II)を更に添加したものを液体培地として用いた。この液体培地の初期pHは6であった。
【0088】
表4の2)、表5−1の3)の実験では、表2に示す組成の前記液体培地中に、0.04質量%の硫酸鉄(II)を更に添加したものを液体培地として用いた。この液体培地の初期pHは6であった。
【0089】
表5−2の4)の実験では、表2に示す組成の前記液体培地中に、0.015質量%の硫酸鉄(II)を更に添加したものを液体培地として用いた。この液体培地の初期pHは6であった。
【0090】
表4の3)、表5−2の6)の実験では、表2に示す組成の前記液体培地中に、0.01質量%の塩化コバルト(II)を更に添加したものを液体培地として用いた。この液体培地の初期pHは6であった。
【0091】
表4の4)、表5−2の7)の実験では、表2に示す組成の前記液体培地中に、5規定の塩酸を添加して初期pHを4に調整した。
【0092】
表5−2の5)の実験では、液体培地として、表2に示す組成においてグルコース30gをフルクトース30gに置換した組成の液体培地を用いた。この液体培地の初期pHは6であった。
【0093】
ここで用いた前培養液は、前記微生物株の1つを、試験管中の、前記液体培地と同じ組成の液体培地に植菌し、28℃で1日間培養した培養液を指す。
【0094】
(2)カロテノイド抽出
培養後の培養液を遠心分離し、上清を除去して微生物体を単離した。
単離した前記微生物体を凍結乾燥処理した。
【0095】
クロロホルム/メタノールを2/1の容積比で混合した混合溶媒により前記微生物体の凍結乾燥処理物を処理して、カロテノイドを含む成分(カロテノイド成分)を前記混合溶媒中に抽出し、抽出液を得た。
【0096】
前記抽出液を蒸留水により洗浄した。
前記洗浄後に前記抽出液から溶媒を留去し、カロテノイド成分を得た。
【0097】
3.カロテノイド分析
高速液体クロマトグラフ−飛行時間型質量分析法(HPLC−TOFMS)により、前記カロテノイド成分中のカロテノイドを分析した。HPLC−TOFMSは以下の条件で行った。
【0098】
【表3】
【0099】
上記条件で得られる検出波長450nmでのHPLCのクロマトグラムにおける、β−カロテン、エキネノン、カンタキサンチン、フェニコキサンチン及びアスタキサンチンに対応する各ピーク面積の割合(%)を求めた。各ピーク面積の割合(%)は、検出された全成分(全てカロテノイドと推定される)のピーク面積の合計に対する割合(%)と、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン及びβ−カロテンのピーク面積の合計に対する割合(%)との両方を求めた。
【0100】
更に、アスタシンについては、アスタキサンチンとアスタシンの抽出イオンクロマトグラム(EIC)での面積を比較することで、アスタキサンチンに対する割合(%)を求めた。
【0101】
更に、β−カロテン、カンタキサンチン及びアスタキサンチンについては、既知量の標準品と比較することで定量した。これら3成分の量は、前記液体培地1Lあたりの質量(mg)に換算した。
【0102】
アスタキサンチン及びアスタシンの分析結果を表4に示す。カロテノイドの分析結果を表5−1及び5−2に示す。
【0103】
なお、表4において、カッコ内に示す、アスタキサンチンの液体培地1Lあたりの質量(mg/mL)は、基礎出願時に記載していた結果であり、カッコ外に示す、アスタキサンチンの液体培地1Lあたりの質量(mg/mL)は、今回新たなアスタキサンチンの標準物質を用いて作成した検量線に基づき算出した結果である。基礎出願時の検量線作成の際の条件又は操作が適切でない可能性があったため、新たな標準物質を用いて検量線を再作成し、それに基づいてアスタキサンチン量を算出し直した。
【0104】
同様に、表5−1及び5−2において、カッコ内に示す、β−カロテン、カンタキサンチン、アスタキサンチンの液体培地1Lあたりの質量(mg/mL)は、基礎出願時に記載していた結果であり、カッコ外に示す、β−カロテン、カンタキサンチン、アスタキサンチンの液体培地1Lあたりの質量(mg/mL)は、今回新たなβ−カロテン、カンタキサンチン、アスタキサンチンの標準物質を用いて作成した検量線に基づき算出した結果である。基礎出願時の検量線作成の際の条件又は操作が適切でない可能性があったため、新たな標準物質を用いて検量線を再作成し、それに基づいて各カロテノイド量を算出し直した。
【0105】
【表4】
【0106】
【表5-1】
【表5-2】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の、カロテノイド組成物の製造方法、微生物、及びカロテノイド組成物は、医薬品、飲食品、化粧品、半導体等の技術分野で利用可能である。