【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<実施例1>
図1に示すマルチコアファイバ1に相当するマルチコアファイバについて、以下に示す条件でシミュレーションを行った。
【0055】
第1コア11の半径r
11と低屈折率層13の内周の半径r
12との比r
12/r
11=1.7、第2コア21の半径r
21と低屈折率層23の内周の半径r
22との比r
22/r
21=1.7、低屈折率層13の外側クラッド30に対する比屈折率差Δ
12=−0.7%、低屈折率層23の外側クラッド30に対する比屈折率差Δ
22=−0.7%とした。この場合、最も外側に配置されるコアの中心からマルチコアファイバ1の被覆までの距離OCT=35μm、外側クラッド30の外周の直径=230μmとすると、互いに隣り合うコアの中心間距離Λ=27.4μmとなる。
【0056】
このようなマルチコアファイバ1において、
図3に示すNo.21〜32のコアを中心とする基準円上には4つのコアが配置される。このように内側に配置されるコアは外側に配置される他のコアよりもカットオフ波長が長波長化すると考えられる。このマルチコアファイバ1が曲げ直径280mmで曲げられるときに、これらの内側に配置されるコアにおけるLP
11モードの光の1kmカットオフ波長が1500nm以下(波長1500nmにおいて伝搬損失が0.02dB/m以上)となり、且つ最も外側に配置されるコアの中心からマルチコアファイバ1の被覆までの距離OCTが最小になる(ファイバ径が最小になる)ときのコアのパラメータを検討した。その結果を下記表1に示す。なお、コアを伝搬する光の波長が1550nmである場合の有効断面積A
effは、従来のシングルモードファイバと同等で80μm
2になる。
【0057】
【0058】
表1に示す条件1において各コアを囲う低屈折率層の厚さを変えたときの、1kmカットオフ波長[μm]を
図8に、曲げ半径Rを140mm(曲げ直径を280mm)にしたときのLP
01モードの光の曲げ損失[dB/km]と距離OCT[μm]との関係を
図9に、相関長を50mmとしてコアを伝搬する光の波長を1565nmとした場合のコア間クロストークXT[dB/100km]と曲げ半径[mm]との関係を
図10に、それぞれ示す。
【0059】
また、表1に示す条件2において各コアを囲う低屈折率層の厚さを変えたときの、1kmカットオフ波長[μm]を
図11に、曲げ半径Rを140mm(曲げ直径を280mm)にしたときのLP
01モードの光の曲げ損失[dB/km]と距離OCT[μm]との関係を
図12に、相関長を50mmとしてコアを伝搬する光の波長を1565nmとした場合のコア間クロストークXT[dB/100km]と曲げ半径[mm]との関係を
図13に、それぞれ示す。
【0060】
以下に説明するように、表1に示す条件1の場合、低屈折率層13の厚さW
1と第1コア11の半径r
11との比W
1/r
11を0.4以上に設定しても、必要な距離OCTは変化しないことがわかる。必要な距離OCTは、
図9からわかる。すなわち、
図9において、低屈折率層の厚さの条件(W
1/r
11又はW
2/r
21)毎に引かれる線とLP
01モードの光の伝搬損失が0.001dB/kmとなる線(
図9の破線)とが交差する位置で必要となる距離OCTが決まる。ここで、W
1/r
11をより大きくする場合を考えると、
図8からわかるように、W
2/r
21が小さくなる。すなわち、低屈折率層23の厚さW
2が小さくなる。次に、
図9を見ると、W
1/r
11が大きくなれば第1コア11に着目した場合に必要となる距離OCTは小さくなるが、W
2が小さくなることから、第2コア21に着目した場合に必要となる距離OCTは大きくなる。従って、第1コア11及び第2コア21の両方を基準として考えた場合に最小となる距離OCTが存在することがわかる。また、
図10からは、コア間クロストークXTが最も大きくなるときの曲げ半径とマルチコアファイバ1の通常の使用状態を想定した場合の曲げ半径(100mm以上)でのクロストークがわかる。
【0061】
また、条件1と同様にして、条件2についても
図11〜
図13から、LP
01モードの光の曲げ損失が0.001dB/kmとなり距離OCTを小さくできるという観点から好ましいW
1/r
11及びW
2/r
21の値、そのときの距離OCTの値及びファイバ径、コア間クロストークXTが最も大きくなるときの曲げ半径とマルチコアファイバ1の通常の使用状態を想定した場合の曲げ半径(100mm以上)でのクロストークがわかる。
【0062】
上記のように考えて表1に示す各条件に基づいて得られた計算結果を下記表2に示す。表2に示すXT(d=50mm)は、相関長dを50mmとしてコアを伝搬する光の波長が1565nmとした場合の曲げ半径155mmでのコア間クロストークXT[dB/100km]であり、R
pkはコア間クロストークXTが最も大きくなるときの曲げ半径である。
【0063】
【0064】
条件2と条件3とを比較すると、条件3の場合の方がコア間クロストークXTが大きい。これは、条件3の方が第1コア11の外側クラッド30に対する比屈折率差Δ
11が大きく、カットオフ波長を所定の値以下とするために必要となる低屈折率層13の厚さW
1が小さいからである。条件1と条件2とを比較すると、条件1の方が条件2の場合よりも距離OCTが厚くなっている。これは、条件1の方が第2コア21の外側クラッド30に対する比屈折率差Δ
21が小さく、第2コア21に光を閉じ込め難くなっているからである。第1コア11の比屈折率差Δ
11を小さくして第2コア21の比屈折率差Δ
21を大きくする等して第1コア11と第2コア21との間の伝搬定数の差が小さくなると、R
pkが大きくなる。
【0065】
<比較例1>
表1に示す条件1のパラメータを用い、各コアを囲う低屈折率層の厚さを変えたときの、22mカットオフ波長[μm]を
図14に、曲げ半径Rを140mm(曲げ直径を280mm)にしたときのLP
01モードの光の曲げ損失[dB/km]と距離OCT[μm]との関係を
図15に、相関長を50mmとしてコアを伝搬する光の波長を1565nmとした場合のコア間クロストークXT[dB/100km]と曲げ半径[mm]との関係を
図16に、それぞれ示す。
図14〜
図16からは、22mカットオフ波長が1500nm以下となるようにした以外は実施例1と同様にして、LP
01モードの光の曲げ損失が0.001dB/kmとなり距離OCTを小さくできるという観点から好ましいW
1/r
11及びW
2/r
21の値、そのときの距離OCTの値及びファイバ径、コア間クロストークXTが最も大きくなるときの値及びそのときの曲げ半径がわかる。その計算結果を下記表3に示す。
【0066】
【0067】
(実施例1と比較例1との比較)
表2に示す結果は、直径280mmの曲げが加えられるとき、伝搬損失が最も小さいコアにおいて、波長1500nmにおけるLP
11モードの光の伝搬損失が1dB/m以下0.02dB/m以上となるように各パラメータが検討されている。すなわち、表2に示す結果は、LP
11モードの光が1km伝搬したときには十分減衰されるように各パラメータが検討されている。一方、表3に示す結果は、直径280mmの曲げが加えられるとき、全てのコアにおいて、波長1500nmにおけるLP
11モードの光の伝搬損失が1dB/mより大きくなるように各パラメータが検討されている。すなわち、表3に示す結果は、LP
11モードの光が22m伝搬したときに十分減衰されるように各パラメータが検討されている。
【0068】
実施例1(表2)と比較例1(表3)とを比較することによって、光が1km伝搬した後におけるカットオフ波長を基準としてコア間距離やコアの屈折率等を規定した方が、光が22m伝搬した後におけるカットオフ波長を基準とするよりも、ファイバ径を小さくしつつコア間クロストークを低減できることが確認された。
【0069】
<実施例2及び比較例2>
実施例2に係るマルチコアファイバとしてファイバAを作製し、比較例2に係るマルチコアファイバとしてファイバBを作製した。ファイバAは実施例1のマルチコアファイバと同様である。ファイバBは、直径280mmの曲げが加えられるとき、全てのコアにおいて、波長1530nmにおけるLP
11モードの光の伝搬損失が1dB/mより大きいということ以外は、ファイバAと同様である。ファイバA及びファイバBのパラメータを下記表4及び表5に示す。また、ファイバA及びファイバBの光学測定結果を表6に示す。なお、表6及び以下に示す表7において、コア番号は
図3に示すコア要素の番号に対応している。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
表6からわかるように、ファイバAでは、内側に配置される一部のコアにおいて22mカットオフ波長が1600nmを超えているが、全てのコアにおいて1kmカットオフ波長は1530nmを下回っていた。一方、ファイバBでは、従来のマルチコアファイバと同様に、全てのコアにおいて、22mカットオフ波長が1530nmを下回っていた。
【0074】
下記表7には、ファイバA及びファイバBのそれぞれについて、No.6,11,22,29のコアを励振させたときの最悪クロストーク[dB]の測定結果を、光がコアを100km伝搬した後の値に換算して示す。ここで、最悪クロストークとは、すべてのコアに信号を伝送した時を想定したクロストークであり、ここでは、互いに最も近い2つのコア間のクロストークと正方格子の対角線上に配置される第二近接コア同士の間のクロストークとの合計である。よって、最悪クロストークを考える場合のクロストークの組み合わせ数は、励振されるコアの位置によって異なる。表7に示す結果は、コアを伝搬する光の波長が1550nmである場合と、Cバンドにおいてクロストークが最も大きくなると考えられる、コアを伝搬する光の波長が1565nmである場合とについて、ファイバの巻直径を310mmとして最悪クロストークを測定した結果である。
【0075】
【0076】
ファイバAとファイバBとを比較すると、ファイバAの方が全てのコアでクロストークが小さくなっていた。これは、ファイバAの方については、1kmカットオフ波長を基準としてコア間距離やコアの屈折率等を設計したことによると考えられる。
【0077】
なお、ファイバAのR
pkは100mm以下であり、具体的には60mm程度であった。長距離通信に用いられるケーブル内での光ファイバの曲げ半径が数百mmになることを考えると、ファイバAを長距離通信に用いる場合に曲げによるクロストークの過度な増大は起こりにくいと考えられる。また、ファイバAは、四相位相変調(QPSK)信号を1000km伝送するのに必要とされるクロストークの条件である−29dB/100kmよりクロストークが小さかった。
【0078】
また、モード変換器により生成した波長1530nmのLP
11モードの光をファイバAのNo.23のコアに入力した。その結果、入力端から22mの位置ではカットオフ波長が1600nm以上であるため、LP
11モードの光が観測された。しかし、入力端から1kmの位置ではカットオフ波長が1530nm以下であるため、LP
11モードの光が十分に損失しており、モード変換器内のクロストークにより生じたLP
01モードの光が観測された。このように、ファイバAでは、光がコアを1km伝搬した後には余計な高次モードの光が十分に減衰されてシングルモードとなることが確認された。
【0079】
<実施例3>
図17は、実施例3におけるマルチコアファイバの長手方向に垂直な断面の様子を
図1と同様に示す図である。実施例3では、
図17に示すように、外側クラッド30の中心と当該中心を中心とする正六角形の各頂点とに第1コア要素10が配置されるマルチコアファイバ6を作製した。このマルチコアファイバ6では、外側クラッド30の中心に配置されるコアを中心とする基準円上には6つのコアが配置される。上述したように、他のコア要素に囲まれるコアでは、他のコアよりカットオフ波長が長波長化し易い。よって、このマルチコアファイバ6では、外側クラッド30の中心に配置されるコアはカットオフ波長が長波長化し易い。また、本実施例では、LP
01モードの光及びLP
11モードの光によって情報の伝送し得るように、マルチコアファイバ6を設計した。マルチコアファイバ6の各パラメータは下記表8に示す通りである。表8におけるΔ
11、r
11、r
12、W
11は
図2(B)を用いて定義した通りである。A
eff(LP
01)はコアを伝搬するLP
01モードの光の波長が1550nmである場合の有効断面積であり、A
eff(LP
11)はコアを伝搬するLP
11モードの光の波長が1550nmである場合の有効断面積である。
【0080】
【0081】
図18は、曲げ半径Rを140mm(曲げ直径を280mm)にしたときのLP
21モードの光の曲げ損失[dB/km]と互いに隣り合うコアの中心間距離Λとの関係を示す。本実施例では、上記のようにLP
01モードの光及びLP
11モードの光を情報の伝送に用いるため、LP
11モードより高次モードの光であるLP
21モードの光の伝搬が抑制されることが求められる。
図18から、22mケーブルカットオフ波長を1530nm以下とするためには、すなわちLP
21モードの光の伝搬損失を1dB/m以上とするためには、コア間距離Λを42.5μm以上にする必要があることがわかる。一方、1kmカットオフ波長を1530nm以下とするためには、すなわちLP
21モードの光の伝搬損失を0.02dB/m以上とするためには、コア間距離Λが38.8μm程度まで小さくされても良いことがわかる。
【0082】
図19は、波長1550nmにおけるLP
11モードの光同士のコア間クロストークの大きさと互いに隣り合うコアの中心間距離Λとの関係を示す。
図19より、コア間距離Λが38.8μmまで小さくされても、100km伝搬後のクロストークが−30dB以下であり、QPSK信号を伝送可能であることがわかる。
【0083】
<比較例3>
実施例3のマルチコアファイバ作製に用いた母材と同様の母材を用いて、コア間距離が45μmとなるように狙って線引した以外は実施例3と同様にして、比較例3に係るマルチコアファイバを作製した。比較例3に係るマルチコアファイバでは、コア間距離Λが42.5μm以上とされため、上記のように全てのコアにおいて22mケーブルカットオフ波長が1530nm以下になると考えられる。実施例3に係るマルチコアファイバと比較例3に係るマルチコアファイバとのコア間距離Λ、距離OCT及びファイバ径の測定結果を下記表9に示す。また、実施例3に係るマルチコアファイバ6と比較例3に係るマルチコアファイバとの光学測定結果を下記表10に示す。なお、表10に示すカットオフ波長は、外側クラッド30の中心に配置されたコアについて測定した結果である。
【0084】
【0085】
【0086】
実施例3に係るマルチコアファイバと比較例3に係るマルチコアファイバとは、同様の母材を用いているため、表10に示すようにカットオフ波長以外の光学特性は同じとなった。また、表9に示したように、実施例3に係るマルチコアファイバでは比較例3に係るマルチコアファイバに対してファイバ径を小さくすることができた。このようにファイバ径を小さくし得る効果は、マルチコアファイバに備えられるコアの数が多くなる程顕著になる。
【0087】
以上に説明した本発明に係るマルチコアファイバは、長距離通信に好適であり、光通信の産業において利用することができる。