【文献】
白井雅紀,山本拓司,高澤悟,石橋暁,N*ラジカル源を用いた反応性スパッタ法によるGaN形成,第78回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,2017年 9月,pp. 13-217, 7a-A301-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ラジカルガン部の放出口から真空槽内に配置された基板に窒素ラジカルを照射しながら金属ガリウムのターゲットを窒素ガスとスパッタリングガスとを含有する混合ガスのプラズマによってスパッタリングして生成されたスパッタリング粒子を基板に到達させ、窒化ガリウム薄膜を形成する窒化ガリウム薄膜の製造方法であって、
前記ラジカルガン部に導入された窒素ガスの前記真空槽内部での分圧値である原料ガス分圧の値は、前記混合ガスに含有される窒素ガスの分圧値である反応ガス分圧の値と前記原料ガス分圧の値とを合計した合計値に対して38%以上63%以下の範囲にする窒化ガリウム薄膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照し、符号2は本発明に用いる成膜装置であり真空槽10を有している。
真空槽10の内部には、基板配置部20と、リアクティブスパッタ部30と、ラジカルガン部40と、を有している。
【0010】
基板配置部20は基板22が配置される基板ホルダ21と、基板ホルダ21に配置された基板22を加熱するヒータ23とを有している。
基板ホルダ21は真空槽10の天井に設けられ、ヒータ23は、基板ホルダ21に配置された基板22の裏面と天井との間に位置するように天井に固定されている。
【0011】
リアクティブスパッタ部30とラジカルガン部40とは基板ホルダ21の下方に配置されており、基板ホルダ21に配置された基板22の表面は、リアクティブスパッタ部30とラジカルガン部40とに面するように、下方を向けられている。
【0012】
基板ホルダ21は天井ではなく真空槽10の壁面や底面に設け、リアクティブスパッタ部30とラジカルガン部40とを基板ホルダ21と対向する位置に設けてもよい。
【0013】
リアクティブスパッタ部30は防着板容器31を有しており、防着板容器31の内部には、スパッタ電極32が配置されている。スパッタ電極32は容器形形状であり、スパッタ電極32である容器の中には金属ガリウムから成るターゲット33が配置されている。
【0014】
防着板容器31は放出口37を有しており、スパッタ電極32の開口34と防着板容器31の放出口37とは連通されている。ターゲット33は、それら開口34と放出口37とを介して、基板ホルダ21に配置された基板22と対面するように配置されている。
【0015】
真空槽10の外部にはスパッタ電源35と加熱電源28とが配置されている。
スパッタ電極32はスパッタ電源35に接続され、真空槽10は接地電位に接続されており、スパッタ電源35が動作するとスパッタ電極32にスパッタ電圧が印加され、加熱電源28が動作するとヒータ23が通電されて発熱する。
【0016】
真空槽10の外部にはガス供給装置15が配置されている。ガス供給装置15は、スパッタリングガスを供給するスパッタガス源26と反応ガスを供給する反応ガス源27と、スパッタガス源26と反応ガス源27とに接続された混合器36とを有している。
【0017】
混合器36は防着板容器31に接続されており、混合器36にはスパッタガス源26と反応ガス源27とから、スパッタリングガスと反応ガスとが所望流量でそれぞれ供給され、供給されたスパッタリングガスと反応ガスとは混合器36で混合され、混合ガスにされて防着板容器31の内部に供給される。
【0018】
スパッタリングガスにはアルゴン等の希ガスが用いられており、反応ガスは窒素原子を含むガスであり、N
2ガス(窒素ガス)、NH
3ガス、N
2H
4ガス、NO
2ガス、NOガス、N
2Oガス等を採用することができる。ここでは窒素ガスが用いられている。
【0019】
真空槽10には真空排気装置19が接続されており、真空排気装置19を動作させると真空槽10の内部は真空排気され、真空雰囲気が形成される。
真空槽10の内部に真空雰囲気が形成された後、ガス供給装置15の混合器36から防着板容器31の内部に混合ガスが導入されながらスパッタ電源35が起動されてスパッタ電極32に交流のスパッタ電圧が印加されると、アルゴンガスのプラズマと窒素ガスのプラズマとを含む混合ガスのプラズマがターゲット33の表面上に形成され、アルゴンガスプラズマによってターゲット33の表面がスパッタリングされる。
【0020】
このとき、ターゲット33の表面の金属ガリウムは窒素ガスプラズマによって窒化され、ターゲット33の表面の窒化ガリウムがスパッタリングされる。
【0021】
ターゲット33の表面から飛び出した窒化ガリウムの粒子であるスパッタリング粒子38は開口34と放出口37とを通過し、真空槽10の内部に放出され、基板ホルダ21に配置された基板22に到達する。交流のスパッタ電圧は13.56MHzの高周波電圧である。
【0022】
ラジカルガン部40は反応筒44と、反応筒44に設けられた活性化装置43とを有している。
真空槽10には、装置用容器42が設けられており、反応筒44は、装置用容器42の内部に配置されている。
【0023】
真空槽10の外部には、原料ガス供給源45と反応用電源46とが配置されている。原料ガス供給源45には原料ガスが配置されており、原料ガスを反応筒44の内部に供給する。ここでは、原料ガスは窒素ガスである。
【0024】
このとき、反応用電源46から高周波のイオン化電圧を活性化装置43に供給すると原料ガスは反応筒44の内部で活性化され、原料ガスのイオン(窒素イオン)と原料ガスのラジカル(窒素ラジカル48)とが生成される。活性化装置43は反応筒44の周囲に巻き回されたコイルである。
【0025】
図中符号24はシャッターであり、回転軸25によって回転され、シャッター24の開閉によって、基板22が露出され、又は覆われる。ここではシャッター24は開けられて基板22は露出されている。
【0026】
反応筒44は放出口49を有している。放出口49には、イオンを通過させない公知のフィルタ装置47が配置されており、反応筒44の内部で生成された原料ガスのラジカルである窒素ラジカル48はフィルタ装置47を通過するが、原料ガスのイオンはフィルタ装置47を通過できず、原料ガスのイオンは放出口49から反応筒44の外部に漏出しないようにされている。
【0027】
ラジカルガン部40からは原料ガスのイオンは放出されず、原料ガスのラジカルである窒素ラジカル48が放出され、基板ホルダ21に配置された基板22の表面に到達する。
【0028】
ヒータ23は加熱電源28によって通電され、基板22は発熱したヒータ23によって加熱されて600℃以上の温度に昇温されている。但し、基板22の温度は300℃以上であれば、900℃未満でよい。
基板22の表面に到達したスパッタリング粒子38のうち、窒素が不足するスパッタリング粒子38中のガリウムは窒素ラジカル48と反応し、窒素の割合が大きくなった窒化ガリウム結晶が形成され、基板22の表面に窒化ガリウム薄膜が成長する。
【0029】
図2の符号6は、所定膜厚に形成された窒化ガリウム薄膜であり、基板22は、サファイア基板4上にHVPE法(ハイドライド気相成長法:Hydride Vapor Phase Epitaxy)で成長されたn型窒化ガリウム薄膜5が配置され、そのn型窒化ガリウム薄膜5の表面に、本発明の成膜装置2によって成長された窒化ガリウム薄膜6が接触して配置されている。
【0030】
反応ガス中には、形成する窒化ガリウム薄膜6のp型又はn型を決める不純物の化合物が含有されており、例えばマグネシウム化合物ガスが添加された場合は、基板22の表面に成長する窒化ガリウム薄膜中にマグネシウムがドープされるとp型の窒化ガリウム薄膜が形成される。
【0031】
HVPE法で形成したn型窒化ガリウム薄膜5が露出された基板22の表面に、混合ガス中の反応ガスの含有率を変えて窒化ガリウム薄膜6を形成した。
【0032】
下記表1に薄膜を形成した条件を示す。
アルゴンから成るスパッタリングガスの圧力(スパッタリングガス分圧)は一定値の0.130Paに維持しており、ラジカルガン部40に導入される原料ガスである窒素ガスの真空槽10中の圧力(原料ガス分圧)も、一定値の0.030Paに維持しており、その状態で、スパッタリングガスと混合される反応ガスである窒素ガスの真空槽10中の圧力(反応ガス分圧)を変化させている。
【0033】
表1中の「窒素比率1」は、原料ガス分圧RG(一定値の0.03Pa)の、原料ガス分圧RG(Pa)と反応ガス分圧RE(Pa)の合計値に対する比率であり、「窒素比率2」は、原料ガス分圧RG(Pa)と反応ガス分圧RE(Pa)との合計値の、原料ガス分圧RG(Pa)と反応ガス分圧RE(Pa)とスパッタリグガス分圧SP(Pa)との合計値に対する比率である。
原料ガス分圧RG(Pa)と反応ガス分圧RE(Pa)とは、真空槽10内の基板22が配置された雰囲気の圧力を全圧としたときの、真空槽10の内部での分圧値である。
【0034】
下記表1〜表4に於いて、窒素比率1と、窒素比率2は、下記式で表される。
窒素比率1=RG/(RG+RE)
窒素比率2=(RG+RE)/(RG+RE+SP)
【0035】
表1には、成膜条件として、変化させた反応ガス分圧RE(Pa)の値と、反応ガス分圧RE(Pa)の値に対応する窒素比率1と窒素比率2とが記載されている。
【0036】
これら成膜条件で、先ず、形成した薄膜の表面状態を観察し、薄膜が金属ガリウムの薄膜であるか窒化ガリウム薄膜6であるかを判断した。判断結果を下記表1に示す。
【0037】
また、得られた窒化ガリウム薄膜6をX線回折解析し(ここではX線ロッキングカーブ法)、ωとX線回折強度との関係から、(10−10)配向性を示すピークの半値全幅(秒:arcsec)を求めた。その結果を下記表1と
図3のグラフに示す。
【0038】
また、得られた窒化ガリウム薄膜6の膜厚を測定し、測定結果と成膜時間とから、窒化ガリウム薄膜6の成長速度(nm/分)を算出した。その結果を下記表1と
図4のグラフに示す。
【0040】
表1から、ラジカル照射をして窒化ガリウム薄膜を形成する場合には、窒素比率1は40%以上63%以下の範囲内が良いことが分かる。
【0041】
表1中、「−」が記載された欄は、窒化ガリウムが確認できなかった成膜条件の結果であるが、反応ガス分圧0.035Paの条件では目視では金属が観察されたがX線のピークが観察されたので、表面の金属層の下層には窒化ガリウム薄膜が形成されているものと考えられる。
【0042】
次に、ラジカルガン部40から真空槽10中に導入される窒素ガスの分圧値(表1では原料ガス分圧)と、リアクティブスパッタリングの反応ガスとして真空槽10中に導入される窒素ガスの分圧値と、基板22の温度とをスパッタリング条件として、(10−10)面のXRC半値幅(XRC:X線ロッキングカーブ法)と、(0002)面のXRC半値幅と、成長速度とを測定した。スパッタリングガスの分圧値は、各条件共に0.13Paである。
測定結果を表2〜4に示す。スパッタリングガスにはアルゴンガスを用いた。
【表2】
【表3】
【表4】
表2、3中の「◎」は半値幅が狭い測定結果を示しており、「○」と「△」と「×」とは半値幅の値がこの順序で大きくなっている。「×」が記載された条件で形成された薄膜は使用できない不良品であるが、「◎」が記載された条件で形成された薄膜と、「○」が記載された条件で形成された薄膜と「△」が記載された条件で形成された薄膜とは、使用可能な品質である。
表4中の「◎」は成膜速度が大きい測定結果を示しており、「○」と「△」と「×」とは成膜速度の値がこの順序で小さくなっている。「×」が記載された条件の成膜速度は小さく、薄膜形成に長時間を要するため実使用に適していないが、「◎」が記載された条件と、「○」が記載された条件と、「△」が記載された条件との成膜速度は実使用可能な条件である。
なお、表2〜4中、「−」は薄膜が形成できなかった条件である。「Metal」は窒化ガリウム薄膜は形成されず金属ガリウム薄膜が形成された条件に記載されている。
以上の表2〜4の測定結果から、300℃以上900℃未満の温度範囲において、窒素比率1は、RG=0.03Pa、RE=0.05の時の値0.375(=0.03(0.03+0.05):表中では38%)が良品が得られる最低値となっている。
300℃以上500℃以下の温度範囲で良品を得るときの窒素比率1の最大値は0.5である。
次に、
図5は、本発明によって形成された窒化ガリウム薄膜6が用いられた発光素子(LED)50であり、アノード電極61とカソード電極62の間に電流を流すと発光層53が発光する。
【0043】
この発光素子50は、サファイア基板51上でエピタキシャル成長によって形成された窒化ガリウム薄膜52〜55、6、57〜59で構成されており、詳細には、発光素子50は、サファイア基板51の表面に接触して成長された膜厚2μmのn−GaN薄膜52と、n−GaN薄膜52上に成長された膜厚70nmの発光層(MQW)53とを有しており、カソード電極62はn−GaN薄膜52と接触して形成されている。
【0044】
発光層53上には、発光層53と接触して膜厚20nmのp型下地薄膜54が成長され、p型下地薄膜54の表面には膜厚100nmのp型層薄膜55が成長され、p型層薄膜55の表面上には、本発明で形成され、マグネシウムを高濃度に含有する膜厚4nmのp
+型の窒化ガリウム薄膜6が成長されている。
【0045】
発光層53は多重量子井戸(MQW)構造の窒化ガリウム薄膜である。p型下地薄膜54の不純物はアルミニウムである。
【0046】
p
+型の窒化ガリウム薄膜6の表面上にはシリコンを高濃度に含有する膜厚2nmのn
+型の窒化ガリウム薄膜57が成長されており、その窒化ガリウム薄膜57の表面には膜厚400nmのn型の窒化ガリウム薄膜58が成長されている。
【0047】
n型の窒化ガリウム薄膜58の表面上にはn型不純物が高濃度で含有された膜厚20nmのコンタクト薄膜59が成長されており、アノード電極61はコンタクト薄膜59と接触して形成されている。
【0048】
アノード電極61とカソード電極62とは、チタン薄膜とアルミニウム薄膜とチタン薄膜と金薄膜とがこの順序で積層された金属薄膜であり、接触抵抗が小さくされており、アノード電極61とカソード電極62との間に電流を流すと、高効率で発光層53が発光する。
【0049】
上記例では、膜厚100nmのp型層薄膜55上に位置する膜厚4nmのp
+型の窒化ガリウム薄膜6を本発明によって形成したが、発光層53上に位置する各窒化ガリウム薄膜を本発明によって形成することができ、特に、膜厚2nmのn
+型の窒化ガリウム薄膜57と、膜厚400nmのn型の窒化ガリウム薄膜58と、n型不純物が高濃度で含有された膜厚20nmのコンタクト薄膜59への本発明の適用が考えられる。
【0050】
上記例では、反応性ガスの中に不純物の化合物ガスが含有されてn型又はp型の窒化ガリウム薄膜が形成されたが、不純物を含有するターゲットを用いてn型又はp型の窒化ガリウム薄膜を形成することができる。
【0051】
図6の符号2’はその場合の製造方法に用いることができる成膜装置であり、該成膜装置2’は、リアクティブスパッタ部30aと補助スパッタ部30bとを有している。
【0052】
図6の成膜装置2’のリアクティブスパッタ部30aは、上記
図1の成膜装置2のリアクティブスパッタ部30と同じ構造であり、上記
図1の成膜装置2のリアクティブスパッタ部30と同じ部材には、上記
図1の成膜装置2のリアクティブスパッタ部30の部材の符号に添え字aを付して説明を省略する。また、成膜装置2’の他の部材のうち、
図1の成膜装置2と同じ部材には同じ符号を付して説明を省略する。
【0053】
補助スパッタ部30bは補助防着板容器31bを有しており、補助防着板容器31bの内部には、補助スパッタ電極32bが配置されている。補助スパッタ電極32bには半導体のp型又はn型を決定する不純物から成る不純物用ターゲット33bが配置されている。
【0054】
補助防着板容器31bは補助放出口37bを有しており、不純物用ターゲット33bは補助放出口37bを介して、基板ホルダ21に配置された基板22と対面するように配置されている。
【0055】
真空槽10の外部には補助スパッタ電源35bが配置されている。
補助スパッタ電極32bは補助スパッタ電源35bに接続され、真空槽10は接地電位に接続されており、補助スパッタ電源35bが動作すると補助スパッタ電極32bにスパッタ電圧が印加される。
【0056】
真空槽10の外部には補助ガス供給装置15bが配置されている。補助ガス供給装置15bには、アルゴン等の希ガスである補助スパッタリングガスを供給する補助スパッタガス源26bが配置されている。
【0057】
この成膜装置2’のリアクティブスパッタ部30aのターゲット33aが
図1の成膜装置2と同じ動作によってリアクティブスパッタリングされ、ラジカルガン部40から窒素ラジカル48が放出されて基板22の表面に窒化ガリウム薄膜が成長するときに、補助スパッタ部30bの不純物用ターゲット33bを補助スパッタリングガスでスパッタリングし、生成された補助スパッタリング粒子38bを基板22表面に到達させると、基板22の表面に形成される窒化ガリウム薄膜に補助スパッタリング粒子38bの不純物が含有され、p型、又はn型の窒化ガリウム薄膜を形成することができる。