(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット部材、スパッタリングターゲット、スパッタ膜の製造方法、膜体の製造方法、積層構造体、積層構造体の製造方法、有機EL装置、及び有機EL装置の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スパッタガス中の酸素量を0〜3体積%まで変化させてスパッタ膜を成膜した場合に、そのスパッタ膜の仕事関数が4.8〜5.9eVの範囲内である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット部材。
前記スパッタ膜は、Ga、In、Sn、O、及び不可避的不純物を含んでおり、Ga/Inの原子比が0.85以上1.15以下であり、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比が0.005以上0.040未満である、請求項12〜15のいずれか一項に記載のスパッタ膜の製造方法。
前記第1の金属膜が、Ag、Cu、Ni、Fe、Cr、Al及びCoの群から選択される1種又は2種以上を90質量%以上含む組成で形成された、請求項23、24、26、27のいずれか一項に記載の膜体の製造方法。
前記第2の金属膜が、Al、In、W、Ti、Mo、Mg−Ag、及びAg−Alの群から選択される1種又は2種以上で形成された、請求項33に記載の積層構造体の製造方法。
封止層、請求項31〜34のいずれか一項に記載の積層構造体の製造方法により製造された積層構造体、薄膜トランジスタ、基板をこの順に積層する工程を含む、有機EL装置の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された混合粉末(In
2O
3とGa
2O
3を等モルに調製)を、より焼結体密度を向上させるため、1500℃、酸素条件で高温焼結した場合、アルキメデス密度で6.42g/cm
3と、特許文献1に記載の値よりも高い密度のIGO焼結体が得られた。得られたIGO焼結体ターゲットを用いてスパッタしたところ、その透明導電膜は仕事関数が高いものであった。しかしながら、該焼結体ターゲットの組織をSEM観察すると、クラックが非常に多いものであった。焼結体ターゲットのクラックはスパッタリング中にアーキングの起点となり、パーティクル等の発生原因となる。特に、薄膜トランジスタ技術においては配線の微細化が主流となっているので、高仕事関数膜のスパッタにおいても、パーティクル等が発生すると生産ラインにおける歩留まりが低下する。このため、クラックが低減された焼結体ターゲットが求められる。
【0007】
そこで、本発明の実施形態は、高い仕事関数といった特性を有するスパッタ膜を得るのに適したスパッタリングターゲット部材において、クラックを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は一側面において、Ga、In、Sn、O、及び不可避的不純物で形成されたスパッタリングターゲット部材であって、Ga/Inの原子比が0.95以上1.05以下であり、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比が0.005以上0.040未満であり、X線回折において(Ga,In)
2O
3に同定されるピークを有するスパッタリングターゲット部材である。
【0009】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、前記Sn/(Ga+In+Sn)の原子比が0.006以上0.036以下である。
【0010】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、EPMAにおける面分析において、前記Ga、In、Sn、Oの4元素を含む複合酸化物相が同定される。
【0011】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、EPMAにおける面分析において、前記複合酸化物相の面積率が65%以下である。
【0012】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、X線回折において、Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)に同定されるピークを有する。
【0013】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、前記Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)は、Ga
2.4In
5.6Sn
2O
16又はGa
2In
6Sn
2O
16である。
【0014】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、スパッタガス中の酸素量を0〜3体積%まで変化させてスパッタ膜を成膜した場合に、そのスパッタ膜の仕事関数が4.8〜5.9eVの範囲内である。
【0015】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、走査電子顕微鏡により、中心を通りスパッタ面に垂直な面で切ったターゲット断面を観察した場合、明細書中の手順に従ったクラック数判定試験において、格子線とクラックの交差点の平均が30未満である。
【0016】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、相対密度が90%以上である。
【0017】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、体積抵抗率が1.0×10
4Ω・cm以下である。
【0018】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、体積抵抗率が1.0×10
-1Ω・cm以下である。
【0019】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、円筒状又は平板状である。
【0020】
また、本発明は別の一側面において、上記いずれかのスパッタリングターゲット部材と基材とを備えた、スパッタリングターゲットである。
【0021】
また、本発明は別の一側面において、Ga、In、Sn、O、及び不可避的不純物で形成されたスパッタ膜であって、Ga/Inの原子比が0.85以上1.15以下であり、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比が0.005以上0.040未満である、スパッタ膜である。
【0022】
本発明に係るスパッタ膜の一実施形態においては、仕事関数が4.8〜5.9eVである。
【0023】
本発明に係るスパッタ膜の一実施形態においては、波長633nmにおける屈折率が1.9〜2.1である。
【0024】
本発明に係るスパッタ膜の一実施形態においては、体積抵抗率が1.0×10
2Ω・cm以下である。
【0025】
本発明に係るスパッタ膜の一実施形態においては、波長633nmにおける消衰係数が0.01以下である。
【0026】
本発明に係るスパッタ膜の一実施形態においては、非晶質である。
【0027】
また、本発明は別の一側面において、上記いずれかのスパッタリングターゲット部材を用いて成膜する成膜工程を含む、スパッタ膜の製造方法である。
【0028】
本発明に係るスパッタ膜の製造方法の一実施形態においては、前記成膜工程では、スパッタガス中の酸素量を10体積%以下で実施する。
【0029】
本発明に係るスパッタ膜の製造方法の一実施形態においては、前記成膜工程後に、前記スパッタ膜を200℃以下でアニール処理する工程を含む。
【0030】
本発明に係るスパッタ膜の製造方法の一実施形態においては、前記成膜工程では、200℃以下でアニール処理しながら前記スパッタ膜を成膜する。
【0031】
また、本発明は別の一側面において、上記いずれかのスパッタ膜を備える、膜体である。
【0032】
本発明に係る膜体の一実施形態においては、前記スパッタ膜の第1の主表面に接した第1の金属膜を更に備える。
【0033】
本発明に係る膜体の一実施形態においては、前記第1の金属膜の主表面に接した酸化物バリア膜を更に備える。
【0034】
本発明に係る膜体の一実施形態においては、前記スパッタ膜の第1の主表面に接した酸化物導電膜を備える。
【0035】
本発明に係る膜体の一実施形態においては、前記酸化物導電膜の主表面に接した第1の金属膜を更に備える。
【0036】
本発明に係る膜体の一実施形態においては、前記第1の金属膜の主表面に接した酸化物バリア膜を更に備える。
【0037】
本発明に係る膜体の一実施形態においては、前記酸化物導電膜の体積抵抗率が1.0×10
-3Ω・cm以下である。
【0038】
本発明に係る膜体の一実施形態においては、前記酸化物導電膜が、ITO、IZO、及びAZOの群から選択される少なくとも1種で形成されている。
【0039】
本発明に係る膜体の一実施形態においては、前記第1の金属膜が、Ag、Cu、Ni、Fe、Cr、Al及びCoの群から選択される1種又は2種以上を90質量%以上含む組成で形成されている。
【0040】
また、本発明は別の一側面において、上記いずれかの膜体と、前記スパッタ膜の第1の主表面側における前記膜体の最外主表面に接したガラス基板又は樹脂基板とを備える積層構造体である。
【0041】
本発明に係る積層構造体の一実施形態においては、前記スパッタ膜の第1の主表面と反対側の第2の主表面に接した有機層を更に備える。
【0042】
本発明に係る積層構造体の一実施形態においては、前記有機層の主表面に接した第2の金属膜を更に備える。
【0043】
本発明に係る積層構造体の一実施形態においては、前記第2の金属膜が、Al、In、W、Ti、Mo、Mg−Ag、及びAg−Alの群から選択される1種又は2種以上で形成される。
【0044】
また、本発明は別の一側面において、封止層、上記いずれかの積層構造体、薄膜トランジスタ、基板がこの順に積層された有機EL装置である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット部材は高い仕事関数といった特性を有するスパッタ膜を得るのに適している。また、当該スパッタリングターゲット部材は、クラックの発生が抑制されるため、スパッタリング時においてパーティクルが少なく、品質が良好なスパッタ膜を得るのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明は各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0048】
[1.スパッタリングターゲット部材]
本発明に係るスパッタリングターゲット部材は、一実施形態において、Ga、In、Sn、O、及び不可避的不純物で形成されたスパッタリングターゲット部材であって、Ga/Inの原子比が0.95以上1.05以下であり、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比が0.005以上0.040未満であり、X線回折において(Ga,In)
2O
3に同定されるピークを有する。ICDDカードにおいて、(Ga,In)
2O
3は、No.00−014−0564である。以下、当該スパッタリングターゲット部材の好適な条件例について説明する。
【0049】
(組成)
本発明に係るスパッタリングターゲット部材は一実施形態において、Ga、In、SnO、及び残部が不可避的不純物で形成される。不可避的不純物とは、概ね金属あるいは金属酸化物製品において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするもので、例えば原料粉粉砕時のメディアなどが挙げられる。本来は不要なものであるが、微量であり、金属あるいは金属酸化物製品の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。本発明に係るスパッタリングターゲット部材において、不可避的不純物の総量は一般的には1000質量ppm以下であり、典型的には500質量ppm以下であり、より典型的には100質量ppm以下である。
【0050】
Ga/Inの原子比は、0.95以上1.05以下である。上記Ga/Inの原子比は、Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)量を制御するため、下限側として0.95以上であり、0.97以上であることが好ましく、0.99以上であることがより好ましく、上限側として1.05以下であり、1.03以下であることが好ましく、1.01以下であることがより好ましい。
【0051】
Sn/(Ga+In+Sn)の原子比は、0.005以上0.040未満である。上記
Sn/(Ga+In+Sn)の原子比は、(Ga,In)
2O
3相の他に、Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)を生成させ、結晶粒径の粗大化を防止して、スパッタリングターゲット部材のクラックを低減するという観点から、下限側として0.005以上であり、0.006以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることが更に好ましい。また、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比は、(Ga,In)
2O
3相量を制御するため、上限側として0.040未満であり、0.036以下であることが好ましく、0.025以下であることがより好ましい。
【0052】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、Ga、In及びSnは酸化物の形態で存在することができる。酸化物としては、(Ga,In)
2O
3、Ga、In及びSnの複合酸化物(例:Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16(x=0〜1))、が例示される。Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16(x=0〜1)には、例えば、ICDD(International Centre for Diffraction Data)No.00−051−0204 Ga
2.4In
5.6Sn
2O
16、No.00−051−0205 Ga
2In
6Sn
2O
16が挙げられる。
【0053】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、X線回折において、スパッタリングターゲット部材のクラックを低減するという観点から、複合酸化物相として、Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)に同定されるピークを有することが好ましい。
【0054】
XRD測定は以下の手順で行う。測定対象となるスパッタリングターゲット部材を厚み方向に切断し、切断面を、JIS R 6010:2000に準拠した砥粒の平均粒径#400の研磨紙で研磨したものを測定サンプルとし、X線回折法を用いて、下記の測定条件によりX線回折チャートを得る。なお、解析ソフトウェアはPDXLを使用した。PDXLにおいては、ソフト内で固溶などに起因するピークのシフトを自動で計算し、ICDDカードのピークを移動し、同定しやすくする機能がある。実施例と比較例の一部において、その機能をON(補正あり)としたものとOFF(補正なし)としたものの2種類を載せる。
<測定条件>
XRD回折装置の一例:Smart Lab(株式会社リガク製)
管電圧:40kV
管電流:30mA
測定範囲:2θ=10°〜90°
スキャン軸:2θ/θ、
スキャン速度:10°/min
ステップ幅:0.01°
解析ソフトウェア:PDXL(SmartLabに付属)
【0055】
EPMA分析における面分析において、スパッタリングターゲット部材のクラックを低減するという観点から、Ga、In、Sn、Oの4元素を含む複合酸化物相が同定されることが好ましい。この複合酸化物相は、XRDとの比較から、Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16(x=0〜1)と分かる。この複合酸化物相の存在割合が、焼結体の抵抗に影響することから、EPMA分析における面分析において、面積率が65%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。ただし、クラックを低減させるという観点から、典型的に3%以上であり、より典型的に5%以上である。
なお、EPMAによる面分析を下記に説明する。
スパッタリングターゲット部材を切り出して試験片とする。次いで、この試験片をスライシングマシンで約1cm×1cm×1cm角に切断したものを測定サンプルとして、研磨材を用い、鏡面研磨を行う。電子線マイクロアナライザ(例:JXA−8500F、日本電子株式会社製)を用いて、面分析により試験片の研磨面を測定し、任意に選択した少なくとも3点測定する。
<測定条件>
加圧電流:15.0kv
照射電流:1.0〜2.0×10
-7A
測定倍率:2000倍
解像度:256×256dpi
走査:ビームスキャン
なお、面積率を求める際には、以下の手順により行う。
1.面分析の結果を表示する。
2.GaとInとSnの面分析結果に対し、粒子計測を実行し、GaとInとSnが重なる領域を求める。この領域は、当該スパッタリングターゲット部材が先述したXRDによりGa
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)の存在しかほとんど確認されないので、EPMAで確認されたGaとInとSnが共存した、Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)であると断定して求めるものである。
粒子計測は、以下の条件とする。JXA−8500Fに付属のソフトの粒子計測を利用すると、フィルター、二値化の方法、ラべリング方法等を選択する必要があるが、それぞれ以下とする。
<粒子計測の条件>
フィルター:スムージングフィルター
二値化:自動
二値化のラべリング:8連結、外周の粒子もラべリングする
ラべリング像の計測:専有面積率
専有面積率において、ラべリングした粒子のそれぞれのInとGaとSnが重なる領域の面積率が表示される。
3.Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)の面積率を算出する。すなわち、本発明においては、Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)の面積率は、試験片の研磨面を少なくとも計測した3点における測定範囲内の合計面積に対する、ラベリングした粒子から計測されたGa
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)の面積を算出したGa
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)の合計面積の割合により示される。
【0056】
本発明に係るスパッタリングターゲット部材の一実施形態においては、スパッタガス中の酸素量Xを0〜3体積%まで変化させてスパッタ膜を成膜した場合に、仕事関数が4.8〜5.9eVの範囲内であることが好ましい。なお、以下に成膜条件を例示する。
<成膜条件>
スパッタ装置:キャノンアネルバ社製、型番:SPF−313H
基板 :EAGLE XG(コーニング社製)
入力 :1W/cm
2
基板温度 :常温
到達真空度 :2.0×10
-4Pa以下
スパッタガス:Ar+酸素(0、1、2、3体積%)
ガス流量 :50sccm
膜厚 :100nm
仕事関数は例えば、光電子分光法により測定することができる。測定においては、以下の装置、手順を用いる。
装置の一例:大気中光電子分光装置AC−3(RIKEN KEIKI製)
手順:スパッタ後、10分以内に成膜基板を真空パックし、測定直前に大気開放する。大気中に保管しておくと、表面が劣化し、正確な値が出ないためである。
【0057】
(クラック数判定試験)
走査電子顕微鏡(SEM)により、中心を通りスパッタ面に垂直な面で切ったターゲット断面を観察した場合、スパッタ中におけるパーティクルの低減やアーキングの抑制という観点から、クラック数が少ない方が好ましい。例えば、後述するSEM分析において、異なる視野における格子線とクラックの交差点の平均が30未満であることが好ましく、20未満であることがより好ましく、10未満であることが更に好ましく、5未満であることが更により好ましい。
なお、SEMによる分析を下記に説明する。
スパッタリングターゲット部材を切り出して試験片とする。次いで、この試験片をスライシングマシンで約1cm×1cm×1cm角に切断したものを測定サンプルとして、EPMA(JXA−8500F、日本電子株式会社製)を用いて、加速電圧15.0kV、2000倍の倍率で観察して、任意に選択した少なくとも3点を測定する。2000倍の倍率で測定したSE像中のクラック数の計測については以下の方法で行う。例えば、後述する
図15は、比較例1のSE像(2000倍)であるが、そこに互いに隣接した合計16のマスとなるように、1マスが横15μm、縦11.2μmの格子線を描く。格子線の太さは0.2μmとする。このマスの外周の線と、クラックの交点を数え(△印)、それをクラック数と定義する。ただし、密度が低いものにはポアも存在する。そこで、当該ポアは、
図15中の○印で示すように、クラックと異なり、丸い輪郭をもつため、△印と区別し、クラックとしてはカウントしない。
【0058】
(相対密度)
本実施形態に係るスパッタリングターゲット部材では、相対密度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることが更により好ましい。スパッタリングターゲット部材の相対密度は、スパッタ膜の品質と相関がある。スパッタリングターゲット部材が低密度であると、異常放電や空孔部からの発塵により、スパッタ膜にパーティクルを発生させるおそれがある。相対密度が90%以上の場合、内部の空隙の数は操業の許容範囲となり、空隙によるパーティクルの発生を抑制することができる。ただし、空隙は少ない方がよい。
なお、スパッタリングターゲット部材の相対密度の算出方法を以下に説明する。
本発明において「相対密度」は、相対密度=(測定密度/計算密度)×100(%)で表される。計算密度とは、焼結体の各構成元素において、酸素を除いた元素の酸化物の理論密度から算出される密度の値である。本発明のGa−In−Sn−Oターゲットであれば、各構成元素であるガリウム、インジウム、錫、酸素のうち、酸素を除いたガリウム、インジウム、錫の酸化物として、酸化ガリウム(Ga
2O
3)と酸化インジウム(In
2O
3)と酸化錫(SnO
2)とを計算密度の算出に用いる。ここで、焼結体中のガリウムとインジウムと錫との元素分析値(at%、又は質量%)から、酸化ガリウム(Ga
2O
3)と酸化インジウム(In
2O
3)と酸化錫(SnO
2)との質量比に換算する。例えば、換算の結果、酸化ガリウムが40質量%、酸化インジウムが40質量%、酸化錫が20質量%のGTOターゲットの場合、計算密度は、(Ga
2O
3の密度(g/cm
3)×40+In
2O
3の密度(g/cm
3)×40+SnO
2の密度(g/cm
3)×20)/100(g/cm
3)として算出する。Ga
2O
3の理論密度は5.95g/cm
3、In
2O
3の理論密度は7.18g/cm
3、SnO
2の理論密度は6.95g/cm
3として計算する。一方、測定密度とは、重量を体積で割った値である。焼結体の場合は、アルキメデス法により体積を求めて算出する。
【0059】
(体積抵抗率)
スパッタリングターゲット部材の体積抵抗率は、スパッタリングの際の成膜レートの向上という観点から、1.0×10
4Ω・cm以下が好ましく、1.0×10
-1Ω・cm以下がより好ましく、1.0×10
-2Ω・cm以下が更に好ましく、例えば1.0×10
-3〜1.0×10
4Ω・cmとすることができる。
本発明において、ターゲットのバルク抵抗率は抵抗率測定器を用いて四探針法により測定する。焼結体の表面には、焼結による変質層が存在するため、0.5mm研削し、JIS R 6010:2000に準拠した砥粒の平均粒径#400番の研磨紙で仕上げる。実施例においては、以下の装置で測定した。
抵抗率測定器:型式FELL−TC−100−SB−Σ5+(エヌピーエス株式会社製)
測定治具:試料台RG−5
【0060】
スパッタリングターゲット部材では、限定的ではないが、平板状、円筒状などの形状に加工して使用することが可能である。
【0061】
[2.スパッタリングターゲット部材の製造方法]
次に、スパッタリングターゲット部材の製造方法について図面を用いて説明する。本発明に係るスパッタリングターゲット部材の製造方法は、一実施形態において、
図1に示すように混合工程S11と加圧成形工程S21と焼結工程S31と機械加工工程S41とを含む。以下、各工程をそれぞれ例示する。なお、先述したのと重複する内容については、割愛する。
【0062】
(混合工程S11)
混合工程S11では、原料粉としてGa
2O
3粉、In
2O
3粉、及びSnO
2粉をGa/Inの原子比が0.95以上1.05以下であり、かつSn/(Ga+In+Sn)の原子比が0.005以上0.040未満となるように秤量する。不純物による電気特性への悪影響を避けるために、純度3N(99.9質量%)以上の原料粉を用いることが好ましく、純度4N(99.99質量%)以上の原料粉を用いることがより好ましい。
【0063】
次に、秤量したGa
2O
3粉、In
2O
3粉、及びSnO
2粉を湿式で混合、微粉砕する。混合と粉砕を行って得られる混合粉は、メジアン径が5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更により好ましい。なお、混合粉のメジアン径は、エタノールを分散媒として1分間の超音波分散後、レーザー回折散乱法粒度測定装置を用いて粒度の累積分布を測定したときの体積基準によるメジアン径(D50)を指す。混合と粉砕が不十分であると、製造したスパッタリングターゲット部材中に各成分が偏析して、高抵抗率領域と低抵抗率領域が存在することになり、スパッタ成膜時に高抵抗率領域での帯電等によるアーキングなどの異常放電の原因となってしまうので、充分に混合と粉砕を行うことが望ましい。好適な混合と粉砕の方法としては、例えば、原料粉を水に投入し分散させてスラリー化し、このスラリーを、湿式媒体撹拌ミル(ビーズミル等)を用いて微粉砕する方法が挙げられる。また、大型スパッタリングターゲット部材を作製する場合、焼結後の反りが大きくなることがあり、その場合一度Ga
2O
3粉とIn
2O
3粉とSnO
2粉を混合した粉を、800〜1250℃で仮焼してから、微粉砕しても良い。
【0064】
次に、得られたスラリーにバインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を投入する。PVAの量は、特に限定されるものではなく、適宜調整可能である。
【0065】
次に、PVA投入後のスラリーはスプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得る。乾燥は、限定的ではないが、例えば150〜200℃の条件で行うことができる。乾燥後は篩別して粗大粒子を分離することが好ましい。篩別は、目開き500μm以下の篩で行うことが好ましく、目開き250μm以下の篩で行うことがより好ましい。ここで、目開きはJIS Z8801−1:2006に準拠して測定される。
【0066】
(加圧成形工程S21)
加圧成形工程S21では、所望の形状の金型に混合粉末を充填し、プレスして成形体を得る。プレス時の面圧は例えば400〜1000kgf/cm
2とすることができる。また、冷間静水圧プレスを行っても良い。
【0067】
(焼結工程S31)
焼結工程S31では、例えば成形体を酸素含有雰囲気下、1500℃以上の加熱温度で10時間以上焼結してGa−In−Sn−O複合酸化物相を含有する焼結体を得る。
【0068】
酸素含有雰囲気下で加熱するとしたのは酸化物の蒸発を抑制し焼結体の密度を向上させるためである。酸素含有雰囲気としては、例えば、酸素雰囲気及び空気雰囲気が挙げられるが、より密度が向上するという観点から、酸素雰囲気が好ましい。焼結工程S31における加熱温度を1500℃以上としたのは焼結の反応速度が十分に早いこと、並びに、(Ga,In)
2O
3、Ga
3-xIn
5+xSn
2O
16相(x=0〜1)を生成させるためである。特許文献1に記載のように、1400℃以下での焼結では、β−Ga
2O
3が生成している。一方で、温度が高すぎると酸化物の揮発による組成ずれの懸念があることから、加熱温度は1600℃以下で焼結することが好ましく、1550℃以下がより好ましい。1500℃以上の加熱温度での加熱時間を10時間以上としたのは、焼結を十分に進行させるためである。当該加熱時間は15時間以上が好ましいがそれ以上時間を伸ばしても、密度の上昇は少ないため、20時間以下が好ましい。
【0069】
(機械加工工程S41)
機械加工工程S41では、形成された焼結体を、平面研削盤、円筒研削盤、旋盤、切断機、マシニングセンタ等の機械加工機を用いて、所望の形状に機械加工して、スパッタリングターゲット部材を得る。
【0070】
[3.スパッタリングターゲット]
本発明に係るスパッタリングターゲットは、一実施形態において、上述したスパッタリングターゲット部材と、バッキングプレート又はバッキングチューブ等の基材と接合して使用する。スパッタリングターゲット部材と基材は公知の任意の方法で接合すればよいが、例えば低融点の半田、例えばインジウム半田、錫半田、錫合金半田等を用いることが可能である。基材の材料としても公知の任意の材料を使用すればよいが、例えば銅(例えば無酸素銅)、銅合金、アルミ合金、チタン、ステンレススチール等を使用することが可能である。
【0071】
[4.スパッタ膜]
本発明に係るスパッタ膜は、一実施形態において、Ga、In、Sn、O、及び不可避的不純物で形成されたスパッタ膜であって、Ga/Inの原子比が0.85以上1.15以下であり、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比が0.005以上0.040未満である。なお、本発明に係るスパッタ膜は、結晶化した膜の一部をいわゆるエッチング残渣として残さないため、非晶質であることが好ましい。
スパッタ膜の結晶性を確認する方法を下記に例示する。スパッタ膜に対してXRDを行い、特定の結晶ピークが観察されず、ブロードなハローパターンが観察された場合には、その観察対象であるスパッタ膜は、非晶質であるといえる。
<測定条件>
XRD回折装置の一例:Smart Lab(株式会社リガク製)
管電圧:40kV
管電流:30mA
測定範囲:2θ=10°〜90°
スキャン軸:2θ/θ
スキャン速度:10°/min
ステップ幅:0.01°
解析ソフトウェア:PDXL(SmartLabに付属)
【0072】
(屈折率)
波長633nmにおける屈折率が1.9〜2.1であることが好ましい。屈折率は例えば、分光エリプソメーターを用いて測定することができる。
【0073】
(消衰係数)
本発明に係るスパッタ膜は、一実施形態において、波長633nmにおける消衰係数が、透過率を向上させるという観点から、0.01以下であることが好ましく、0.001以下であることがより好ましく、0.0005以下であることが更に好ましい。ただし、下限側は、典型的に0以上であり、より典型的に0.00001以上である。消衰係数は例えば、分光エリプソメーターを用いて測定することができる。
【0074】
(仕事関数)
仕事関数は、4.8〜5.9eVが好ましい。仕事関数の値は、採用されるデバイスによるため、一概にどの値が良いかは決められないが、この範囲で制御できることが好ましい。仕事関数は例えば、光電子分光法により測定することができる。測定においては、以下の装置、手順を用いる。
装置の一例:大気中光電子分光装置AC−3(RIKEN KEIKI製)
手順:スパッタ後、10分以内に成膜基板を真空パックし、測定直前に大気開放する。大気中に保管しておくと、表面が劣化し、正確な値が出ないためである。
【0075】
(体積抵抗率)
スパッタ膜の体積抵抗率は1.0×10
2Ω・cm以下であることが好ましく、1.0×10
0Ω・cm以下であることがより好ましく、1.0×10
-1Ω・cm以下であることが更に好ましく、例えば1.0×10
-3〜1.0×10
2Ω・cmとすることができる。これにより、導電膜として好適に使用することができる。
本発明において、体積抵抗率は抵抗率測定器を用いて四探針法により測定する。実施例においては、以下の装置で測定した。
抵抗率測定器:型式FELL−TC−100−SB−Σ5+(エヌピーエス株式会社製)
測定治具:試料台RG−5
【0076】
[5.スパッタ膜の製造方法]
本発明に係るスパッタ膜の製造方法は、一実施形態において、先述したスパッタリングターゲット部材を用いてスパッタ膜を成膜する成膜工程を含む。スパッタリングターゲット部材が、使用可能なスパッタリング装置には特に制約はない。例えば、マグネトロンスパッタリング装置、RF印加型マグネトロンDCスパッタリング装置等が使用可能である。
【0077】
成膜工程では、スパッタガス中の酸素量は、体積抵抗率の低いスパッタ膜を得るという観点から、10体積%以下で実施するのが好ましく、5体積%以下で実施することがより好ましく、3体積%以下で実施することが更に好ましい。また、スパッタガス中の酸素量は、酸素を含まないと仕事関数が低い傾向がみられることから、0体積%以上で実施するが好ましく、1体積%以上で実施することがより好ましく、2体積%以上で実施することが更に好ましい。
【0078】
成膜工程後に、体積抵抗率を小さくするため、スパッタ膜をアニール処理する工程を更に含んでも良い。また、成膜工程では、アニール処理しながら、スパッタ膜を成膜しても良い。アニール処理の条件としては、例えば大気中で60〜200℃で、0.2〜5時間にわたって実施することが挙げられる。
【0079】
[6.積層構造体]
図2は、本発明に係る積層構造体の一実施形態を説明するための断面図である。
図3〜7は、本発明に係る積層構造体の他の実施形態を説明するための断面図である。以下、本発明に係る積層構造体の一実施形態について図面を使用して説明する。
【0080】
図2〜
図7に示すように、積層構造体10A、10B、10C、10D、10E、10Fは、第2の金属膜11と、有機層12と、膜体13と、基板14とを備える。
【0081】
第2の金属膜11は、膜体13と反対側の有機層12の主表面12−1に接している。第2の金属膜は、例えば有機EL装置として使用した際に、カソードとしての役割を有する。第2の金属膜11は、金属であれば特に限定されないが、電子注入を容易にして発光効率を上げるために仕事関数の低い金属を使用するという観点から、Al、In、W、Ti、Mo、Mg−Ag、及びAg−Alよりなる群から選択される1種又は2種以上で形成されていることが好ましい。例えば、上記第2の金属膜11は真空蒸着法或いはスパッタリング法により成膜される。なお、第2の金属膜11の厚さは、典型的に5〜20nmであり、より典型的に7〜17nmである。
【0082】
有機層12は、スパッタ膜13aの第1の主表面13a−1と反対側の第2の主表面13a−2に接している。有機層12は、有機正孔輸送層と有機発光層を含み、スパッタ膜13a上に有機正孔輸送層を備え、該有機正孔輸送層上に有機発光層を備える。
【0083】
膜体13は、例えば有機EL装置として使用した際に、アノードとしての役割を有する。
図2に示した膜体13は、先述したスパッタ膜13aを備えている。
図3に示した膜体13は、スパッタ膜13aと、スパッタ膜13aの第1の主表面13a−1に接した第1の金属膜13bとを備えている。
図4に示した膜体13は、スパッタ膜13aと、スパッタ膜13aの第1の主表面13a−1に接した第1の金属膜13bと、第1の金属膜13bの主表面13b−1に接した酸化物バリア膜13cとを備えている。
図5に示した膜体13は、スパッタ膜13aと、スパッタ膜13aの第1の主表面13a−1に接した酸化物導電膜13dとを備えている。
図6に示した膜体13は、スパッタ膜13aと、スパッタ膜13aの第1の主表面13a−1に接した酸化物導電膜13dと、酸化物導電膜13dの主表面13d−1に接した第1の金属膜13bとを備えている。
図7に示した膜体13は、スパッタ膜13aと、スパッタ膜13aの第1の主表面13a−1に接した酸化物導電膜13dと、酸化物導電膜13dの主表面13d−1に接した第1の金属膜13bと、第1の金属膜13bの主表面13b−1に接した酸化物バリア膜13cとを備えている。
【0084】
スパッタ膜13aは、先述したように、高い仕事関数を有している。先述したスパッタリングターゲット部材を用いてスパッタリング法により第1の金属膜13b又は酸化物導電膜13d上に成膜される。もちろん、後述する有機EL装置を製造する場合には、第1の金属膜13bに成膜せずに、ガラス基板又は樹脂基板等の基板14に成膜してもよい。なお、スパッタ膜13aの厚さは、典型的に1〜20nmであり、より典型的に2〜10nmである。
【0085】
第1の金属膜13bは、特に限定されないが、反射率に優れ、導電性が高い金属を使用するという観点から、Ag、Cu、Ni、Fe、Cr、Al及びCoよりなる群から選択される1種又は2種以上を90質量%以上含む組成で形成されていることが好ましい。例えば、上記第1の金属膜13bは真空蒸着法或いはスパッタリング法により成膜される。なお、第1の金属膜13bの厚さは、典型的に10〜200nmであり、より典型的に20〜150nmである。
【0086】
酸化物バリア膜13cは、特に限定されないが、第1の金属膜13bの酸化又は腐食を防止するという観点から、Al、Mg、Si、Sn、Zr、Ti、Ga、Nb、Ta、Hf、W、Zn、及びInよりなる群から選択される1種又は2種以上から選ばれる元素の酸化物或いは窒化物で形成されていることが好ましい。なお、酸化物バリア膜13cの厚さは、典型的に5〜100nmであり、より典型的に10〜60nmである。
【0087】
酸化物導電膜13dは、特に限定されないが、1.0×10
-3Ω・cm以下の高い導電性を有する、ITO、IZO、及びAZOよりなる群から選択される1種又は2種以上で形成されていることが好ましい。なお、酸化物導電膜13dの厚さは、典型的に1〜20nmであり、より典型的に2〜10nmである。なお、酸化物導電膜13dを配置したことで、第1の金属膜13bを配置せずに、より良好な導電性が得ることができる。
【0088】
酸化物導電膜13dがITOで形成されている場合には、例えばIn
2O
3を主成分とし、SnをSnO
2換算で5〜15質量%含む。
酸化物導電膜13dがIZOで形成されている場合には、例えばIn
2O
3を主成分とし、ZnをZnO換算で2.5〜15質量%含む。
酸化物導電膜13dがAZOで形成されている場合には、例えばZnOを主成分とし、AlをAl
2O
3換算で0.5〜10質量%含む。
【0089】
基板14は、スパッタ膜13aの第1の主表面13a−1側における膜体13の最外主表面に接する。ここで、膜体13の最外主表面は、
図2に示したスパッタ膜13aの第1の主表面13a−1で表され、
図3に示した第1の金属膜13bの主表面13b−1で表され、
図4に示した酸化物バリア膜13cの主表面13c−1で表され、
図5に示した酸化物導電膜13dの主表面13d−1で表され、
図6に示した第1の金属膜13bの主表面13b−1で表され、
図7に示した酸化物導電膜13dの主表面13d−1で表される。なお、基板14としては、例えばガラス基板又は樹脂基板が挙げられる。
【0090】
当該積層構造体10A、10B、10C、10D、10E、10Fは、トップエミッション型の有機EL装置に使用することができる。より詳細には、有機EL装置(不図示)は、封止層、積層構造体、薄膜トランジスタ(TFT)、基板、がこの順に積層されている。駆動回路により、下部電極及び上部電極に電圧が印加されると、有機層12へ上部電極から電子が、下部電極から正孔が流れ込み、有機層12の発光分子で電子と正孔が再結合することにより発光する。基板と反対側の封止層側から有機層12からの光をとり出す。
【実施例】
【0091】
本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例、比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0092】
(実施例1)
市販のGa
2O
3粉、In
2O
3粉、及びSnO
2粉を、表1に示すSn/(Ga+In+Sn)の原子比となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。
【0093】
次に、この混合粉末を金型に充填しプレス機にて加圧成形(面圧:300kgf/cm
2、保持時間:1分)し、厚み13mmの成形体を作製した。その後、得られた成形体をCIP成形(面圧:1500kgf/cm
2、保持時間:20分)した。
【0094】
次に、得られた成形体を焼結炉に装入し、酸素雰囲気下、温度1500℃で10時間焼結した後、室温まで自然冷却して厚み10mmの焼結体を得た。
【0095】
そして、得られた焼結体を上面、下面、及び側面を機械加工で切削し、各表面を平面研削盤で研削し、φ203.2mm×5mmtの平板状のスパッタリングターゲット部材を得た。得られたスパッタリングターゲット部材について、下記に示す評価をそれぞれ実施した。
【0096】
<EPMAにおける面分析>
先述したように、電子線マイクロアナライザを用いてスパッタリングターゲット部材の組織を観察した結果、
図8Aに示すように、Ga、In、Sn、Oからなる複合酸化物相が形成されていることを確認した。また、前記複合酸化物相について、面積率を求めた。
【0097】
<相対密度>
測定対象となるスパッタリングターゲット部材の実測密度をアルキメデス法で求め、相対密度=実測密度/計算密度によって相対密度を求めた。
【0098】
<結晶相>
スパッタリングターゲット部材について、先述した方法により、X線回折測定(XRD)を行うことにより判定した。その結果については、ピーク補正後のグラフを
図9Aに示し、ピーク補正前のグラフを
図9Bに示す。ICDD(International Centre for Diffraction Data)によれば、No.00−014−0564である(Ga,In)
2O
3と、No.00−051−0204であるGa
2.4In
5.6Sn
2O
16が観察された。ここで、このGa
2.4In
5.6Sn
2O
16は、No.00−051−0205であるGa
2In
6Sn
2O
16と同じピークをもつため、上記スパッタリングターゲット部材は、Ga
2.4In
5.6Sn
2O
16相又はGa
2In
6Sn
2O
16相の少なくとも一方が存在していると推察される。なお、観察された結晶相を表2に示す。ここで、表2中の「(Ga
2.4In
5.6Sn
2O
16/Ga
2In
6Sn
2O
16)」は、Ga
2.4In
5.6Sn
2O
16及びGa
2In
6Sn
2O
16の複合酸化物相のうち少なくとも一方が観察されたことを示す。
【0099】
<クラック数判定試験>
スパッタリングターゲット部材のターゲット断面をSEMで観察し、
図8Bで得られたSEM画像(倍率×2000)に基づいて、クラック数を判断した。クラック数カウントは先述した方法で行った。その結果を表2に示す。
【0100】
<体積抵抗率>
直流四探針法を用いた抵抗率測定器(エヌピーエス株式会社製、型式FELL−TC−100−SB−Σ5+、測定治具RG−5)を使用して、先述した方法でスパッタリングターゲット部材の体積抵抗率を測定した。なお、その結果を表2に示す。
【0101】
次に、得られたスパッタリングターゲット部材を、インジウム−錫半田合金で銅製のバッキングプレートにボンディングして、スパッタリングターゲットを得た。このスパッタリングターゲットをDC(直流)スパッタ装置でアルゴンガス中に酸素0体積%、1体積%、2体積%、3体積%を含有するといった条件で、それぞれ成膜した。
<成膜条件>
スパッタ装置:キャノンアネルバ社製、型番:SPF−313H
基板 :EAGLE XG(コーニング社製)
入力 :1W/cm
2
基板温度 :常温
到達真空度 :2.0×10
-4Pa以下
スパッタガス:Ar+酸素(0、1、2、3体積%)
ガス流量 :50sccm
膜厚 :100nm
【0102】
<仕事関数>
酸素0体積%〜3体積%で得られたスパッタ膜の仕事関数を大気中光電子分光装置AC−3(RIKEN KEIKI製)で、先述した方法により、任意に選択した2箇所測定した。その測定値の平均値を仕事関数とした。
【0103】
<屈折率>
スパッタ膜の屈折率は、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製、型番:ESM−300)で測定し、波長633nmの値を用いた。また、スパッタ膜を大気中、150℃で1時間にわたって、アニール処理した後、その処理後のスパッタ膜の屈折率も測定した。
【0104】
<消衰係数>
スパッタ膜の消衰係数は、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製、型番:ESM−300)で測定し、波長633nmの値を用いた。また、スパッタ膜を大気中、150℃で1時間にわたって、アニール処理した後、その処理後のスパッタ膜の消衰係数も測定した。
【0105】
<薄膜の体積抵抗率>
直流四探針法を用いた抵抗率測定器(エヌピーエス株式会社製、型式FELL−TC−100−SB−Σ5+、測定治具RG−5)を使用して、先述した方法でスパッタ膜の体積抵抗率を測定した。また、スパッタ膜を大気中、150℃で1時間にわたって、アニール処理した後、その処理後のスパッタ膜の体積抵抗率も測定した。
【0106】
<結晶性>
先述した方法でスパッタ膜の結晶性を観察した。また、スパッタ膜を大気中、150℃で1時間にわたって、アニール処理した後、その処理後のスパッタ膜の結晶性も観察した。
【0107】
(実施例2)
実施例2では、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比を0.012に変更したこと以外、実施例1と同様に実施した。なお、スパッタリングターゲット部材の製造条件を表1に示し、スパッタリングターゲット部材の評価結果を表2、
図10A及びB、
図11A及びBに示し、スパッタ膜の評価結果を表3に示す。
【0108】
(実施例3)
実施例3では、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比を0.024に変更したこと以外、実施例1と同様に実施した。なお、スパッタリングターゲット部材の製造条件を表1に示し、スパッタリングターゲット部材の評価結果を表2、
図12A及びB、
図13A及びBに示し、スパッタ膜の評価結果を表3に示す。
【0109】
(実施例4)
実施例4では、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比を0.036に変更したこと以外、実施例1と同様に実施した。なお、スパッタリングターゲット部材の製造条件を表1に示し、スパッタリングターゲット部材の評価結果を表2に示し、スパッタ膜の評価結果を表3に示す。
【0110】
(実施例5)
実施例5では、In/Gaの原子比を1.11に変更したこと以外、実施例3と同様に実施した。なお、スパッタリングターゲット部材の製造条件を表1に示し、スパッタリングターゲット部材の評価結果を表2に示し、スパッタ膜の評価結果を表3に示す。
【0111】
(実施例6)
実施例6では、In/Gaの原子比を0.90に変更したこと以外、実施例3と同様に実施した。なお、スパッタリングターゲット部材の製造条件を表1に示し、スパッタリングターゲット部材の評価結果を表2に示し、スパッタ膜の評価結果を表3に示す。
【0112】
(実施例7)
実施例7では、焼結条件を大気雰囲気以外、実施例3と同様に実施した。なお、スパッタリングターゲット部材の製造条件を表1に示し、スパッタリングターゲット部材の評価結果を表2に示し、スパッタ膜の評価結果を表3に示す。
【0113】
(比較例1)
比較例1では、SnO
2粉を混合しなかったこと以外、実施例1と同様に実施した。なお、スパッタリングターゲット部材の製造条件を表1に示し、スパッタリングターゲット部材の評価結果を表2、
図14A及びB、
図16A及びBに示し、スパッタ膜の評価結果を表3に示す。また、
図15は、
図14Bにおけるクラック数判定試験を説明するためのSE像(2000倍)を示す図である。
【0114】
(比較例2)
比較例2では、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比を0.111に変更したことと、DCスパッタ装置をRF(高周波)スパッタ装置に変更したこと以外、実施例1と同様に実施した。スパッタリングターゲット部材の製造条件を表1に示し、スパッタリングターゲット部材の評価結果を表2、
図17A及びB、
図18A及びBに示し、スパッタ膜の評価結果を表3に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
(実施例による考察)
実施例1〜7で生成されたスパッタリングターゲット部材は、比較例1〜2に比べ、SE像を観察したところ、かなりクラックが低減されていることを確認した。また、実施例7は、実施例3と異なり、大気中で焼結したため、相対密度が若干低くなったと考えられる。
【0119】
比較例1は、SnO
2を添加しなかったことで、クラックを低減することができなかった。また、比較例2は、生成されたGa
2.4In
5.6Sn
2O
16相の量が少なく、またGaInO
3(ICDD:01−075−0975)やGa
2O
3(ICDD:00−043−1013)に同定される相も出現したため、クラックを低減することができず、仕事関数も若干低かった。
【解決手段】Ga、In、Sn、O、及び不可避的不純物で形成されたスパッタリングターゲット部材であって、Ga/Inの原子比が0.95以上1.05以下であり、Sn/(Ga+In+Sn)の原子比が0.005以上0.040未満であり、X線回折において(Ga,In)