【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明の理解を助けるための例であって本発明はこれらの実施例により何等の制限を受けるものではない。なお、用いた試薬等は断りのない限り市販品を用いた。
【0035】
(試薬等)
C8以上の直鎖アルキル鎖を側鎖に有する(メタ)アクリレート(A)として以下を用いた。
ベヘニルアクリレート(略称BHA)
ヘキサデシルアクリレート(略称HDA)
カチオン性基及び/又はアニオン性基を側鎖に有する(メタ)アクリレート(B)として以下を用いた。
ジエチルアミノエチルメタクリレート(略称DEAEMA)
t-ブチルアミノエチルメタクリレート(略称TBAEMA)
ジメチルアミノエチルアクリレート(略称DMAEA)
ジエチルアミノエチルアクリレート(略称DEAEA)
アクリル酸(略称AA)
なお、溶媒は以下を用いた。
n−酢酸ブチル、
トルエン
以上の全ては、和光純薬シグマ・アルドリッチ又は東京化成から試薬として購入した。
【0036】
また、重合用触媒は以下を用いた。
2−メチル−2−[N−(t−ブチル)−N−(ジエトキシホスホニル−2−2−ジメチルプロピル)アミノキシ]プロピオン酸(略称SG−1MA;アルケマ製)。
【0037】
また、以上の試薬を用いて調製した下記実施例1〜5及び比較例1〜3に記載の重合体及び表面処理シート等については、以下の方法にてそれらの物性を評価した。
【0038】
(分子量測定)
GPCにて、溶離液にTHF、標準分子量サンプルにポリスチレンを用いて重量平均分子量を測定した。
【0039】
(接触角の測定)
予め、純水に浸漬した表面処理した高密度ポリエチレンシートを測定用セルに入れ、協和界面科学製接触角測定機を用いて水中での空気との接触角(θ)を測定し、純水に浸漬した直後と7日後の接触角を比較した。なお、水中の接触角は(180−θ)にて表示した。
【0040】
(ゼータ電位の測定)
大塚電子株式会社製ゼータ電位測定機を用いて、表面処理済みの高密度ポリエチレンシートを純水に浸して1日後にシート表面のゼータ電位を測定した。未処理の高密度ポリエチレンシートのゼータ電位(Z0)と表面処理したシートのゼータ電位(Z)を下記式に基づいて比較し、
ΔZ=Z−Z0
プラス(ΔZ>0)になればシート表面がカチオン性に、マイナス(ΔZ<0)であればシート表面がアニオン性にそれぞれ修飾されたと評価した。なお、以下の実施例等において用いた高密度ポリエチレンシートが未処理である場合(下記表1及び2における、比較例3)、そのゼータ電位は−9mVである。
【0041】
以下、実施例1〜5及び比較例1〜2に記載の重合体及び表面処理シート等の調製方法、並びにそれらの物性について示す。また、表1において、それらをまとめたものを示す。
【0042】
(実施例1)
SG−1MA(0.38g)、BHA(5.0g)、n−酢酸ブチル(7.7g)を反応容器に取り、20分間窒素バブリングを行った。その後、窒素バブリングを継続したまま、反応液の温度を118℃に保ち反応を行った。4時間後、20分間窒素バブリング処理したDEAEMA(4.2g)、n−酢酸ブチル(4.1g)を反応容器に加えて再び118℃、5時間で反応を続け、ブロック共重合体(c1)を得た。得られたブロック共重合体の分子量は、Mw=28000であった。
【0043】
トルエンを溶媒にして、得られた共重合体(c1)を0.05wt%になるよう、加熱溶解した。次いで、このようにして調製した溶解液に、高密度ポリエチレンシート(厚さ0.5ミリ、縦10ミリ、横20ミリ)を2秒浸漬した後、直ちに引き上げて、そのまま室温にて乾燥させること(ディップコーティング)により、吸着材シートを得た。
【0044】
得られた吸着材シートの水中接触角を測定したところ、浸漬直後で46度、7日目で35度であった。さらに、ゼータ電位を測定した結果、+35mVであり、ブロック共重合体(c1)でシート表面がカチオン性に処理されたことを確認した。
【0045】
(実施例2)
SG−1MA(0.38g)、BHA(4.8g)、n−酢酸ブチル(5.0g)を反応容器に取り、20分間窒素バブリングを行った。その後、窒素バブリングを継続したまま、反応液の温度を118℃に保ち反応を行った。4時間後、20分間窒素バブリング処理したTBAEMA(5.1g)、n−酢酸ブチル(5.3g)を反応容器に加えて再び118℃、5時間で反応を続け、ブロック共重合体(c2)を得た。得られたブロック共重合体(c2)の分子量は、Mw=7600であった。
【0046】
得られたブロック共重合体(c2)を0.5wt%になるようトルエンの代わりにn−酢酸ブチルに溶解した以外は、実施例1と同様に高密度ポリエチレンシートの表面処理を行い、吸着材シートを得た。
【0047】
得られた吸着材シートの水中接触角を測定した結果、浸漬直後で39度、7日目で30度であった。さらに、ゼータ電位を測定した結果、+35mVであり、ブロック共重合体(c2)でシート表面がカチオン性に処理されたことを確認した。
【0048】
(実施例3)
SG−1MA(0.38g)、BHA(7.0g)、n−酢酸ブチル(7.0g)を反応容器に取り、20分間窒素バブリングを行った。その後、窒素バブリングを継続したまま、反応液の温度を118℃に保ち反応を行った。4時間後、20分間窒素バブリング処理したDMAEA(3.0g)、n−酢酸ブチル(3.0g)を反応容器に加えて再び118℃、5時間で反応を続け、ブロック共重合体(c3)を得た。得られたブロック共重合体(c3)の分子量は、Mw=7700であった。
【0049】
得られたブロック共重合体(c3)を0.5wt%になるよう、トルエンに溶解し、実施例1と同様に高密度ポリエチレンシートの表面処理を行い、吸着材シートを得た。
【0050】
得られた吸着材シートの水中接触角を測定した結果、浸漬直後で87度、7日目で75度であった。さらに、ゼータ電位を測定した結果、−1mVであり、ブロック共重合体(c3)でシート表面がカチオン性に処理されたことを確認した。
【0051】
(実施例4)
SG−1MA(0.38g)、BHA(6.7g)、n−酢酸ブチル(6.6g)を反応容器に取り、20分間窒素バブリングを行った。その後、窒素バブリングを継続したまま、反応液の温度を118℃に保ち反応を行った。4時間後、20分間窒素バブリング処理したDEAEA(3.7g)、n−酢酸ブチル(3.7g)を反応容器に加えて再び118℃、5時間で反応を続け、ブロック共重合体(c4)を得た。得られたブロック共重合体(c4)の分子量は、Mw=9900であった。
【0052】
得られたブロック共重合体(c4)を0.5wt%になるようトルエンに溶解し、この溶解液を、高密度ポリエチレンシートの表面に滴下して、そのまま乾燥させること(ドロップキャスト)により、表面処理を行い、吸着材シートを得た。
【0053】
得られた吸着材シートの水中接触角を測定した結果、浸漬直後で84度、7日目で86度であった。さらに、ゼータ電位を測定した結果、+19mVであり、ブロック共重合体(c4)でシート表面がカチオン性に処理されたことを確認した。
【0054】
(実施例5)
SG−1MA(0.37g)、HDA(8.0g)、n−酢酸ブチル(8.0g)を反応容器に取り、20分間窒素バブリングを行った。その後、窒素バブリングを継続したまま、反応液の温度を118℃に保ち反応を行った。4時間後、20分間窒素バブリング処理したAA(2.1g)、n−酢酸ブチル(2.1g)を反応容器に加えて再び118℃、5時間で反応を続け、ブロック共重合体(c5)を得た。得られたブロック共重合体(c5)の分子量は、Mw=10800であった。
【0055】
得られたブロック共重合体(c5)を0.5wt%になるようトルエンの代わりにn−酢酸ブチルに溶解した以外は、実施例1と同様に高密度ポリエチレンシートの表面処理を行い、吸着材シートを得た。
【0056】
得られた吸着材シートの水中接触角を測定した結果、浸漬直後で60度、7日目で71度であった。さらに、ゼータ電位を測定した結果、−30mVであり、ブロック共重合体(c5)でシート表面がアニオン性に処理されたことを確認した。
【0057】
(比較例1)
SG−1MA(0.37g)、BHA(6.7g)、n−酢酸ブチル(6.6g)を反応容器に取り、20分間窒素バブリングを行った。その後、窒素バブリングを継続したまま、反応液の温度を118℃に保ち反応を行った。4時間後反応を終了し、ベヘニルアクリレートのホモポリマー(h1)を得た。得られたポリマーの分子量は、Mw=7000であった。
【0058】
得られたホモポリマー(h1)を、トルエンの代わりにn−酢酸ブチルに0.5wt%になるように溶解した以外は、実施例1と同様に高密度ポリエチレンシートの表面処理を行った。
【0059】
得られた表面処理シートの水中接触角を測定した結果、浸漬直後で95度、7日目で94度であった。ホモポリマー(h1)に官能基成分(B)を含んでいないため、表面処理シートのゼータ電位は−10mVと未処理のシートのゼータ電位(−9mV)とほとんど変わらなかった。
【0060】
(比較例2)
SG−1MA(0.37g)、DEAEA(3.7g)、n−酢酸ブチル(3.7g)を反応容器に取り、20分間窒素バブリングを行った。その後、窒素バブリングを継続したまま、反応液の温度を118℃に保ち反応を行った。4時間後反応を終了し、ジエチルアミノエチルアクリレートのホモポリマー(h2)を得た。得られたポリマーの分子量は、Mw=5000であった。
【0061】
得られたホモポリマー(h2)を、トルエンの代わりにn−酢酸ブチルに0.5wt%になるよう溶解した以外は、実施例1と同様に高密度ポリエチレンシートの表面処理を行った。しかしながら、ホモポリマー(h2)の基材への付着性は乏しいものであった。また、得られた表面処理シートの接触角を測定した結果、浸漬直後で75度、7日目で83度であった。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、実施例2及び5、並びに比較例1及び3に記載の表面処理シート等について、以下に示す方法にて、それらのタンパク質の吸着量を評価した。また得られた結果を表2に示す。
【0064】
(タンパク質の吸着量の評価)
タンパク質を1mg/mlの濃度で溶かしたPBS溶液(リン酸緩衝水溶液)に、ディップコーティングした高密度ポリエチレンシートを浸漬した。1時間後にシートを引き上げて、PBSと蒸留水にて数回洗浄し、乾燥させた。吸着されるタンパク質として、酸性タンパク質のウシ血清アルブミンと、塩基性タンパク質の卵白由来リゾチームを用いた。また、吸着されたタンパク質の定量方法として、市販のビシンコニン酸を用いたタンパク質定量用試薬セットを用いて、所要の方法にてシート表面に吸着されたタンパク質を定量した。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示した結果から明らかな通り、高密度ポリエチレンシートのみ(比較例3)におけるタンパク質吸着量は、ウシ血清アルブミンを用いた場合においても、卵白由来リゾチームを用いた場合においても、0.4〜0.5μg/cm
2であり、酸性タンパク質と塩基性タンパク質とにおける吸着量の差は見られなかった。また、ホモポリマー(h1)によって表面を処理した場合(比較例1)においても、比較例3同様に酸性タンパク質と塩基性タンパク質との差は見られなかった。
【0067】
一方、本発明のカチオン性を示したブロック共重合体(c2)によって表面が処理されたシート(実施例2)は、その処理によって、酸性タンパク質(ウシ血清アルブミン)の吸着量が1.0μg/cm
2と多くなったが、塩基性タンパク質(卵白由来リゾチーム)の吸着量は0.6μg/cm
2と、処理前とほとんど変わらなかった。また、本発明のアニオン性を示したブロック共重合体(c5)によって表面が処理されたシート(実施例5)は、塩基性タンパク質(卵白由来リゾチーム)の吸着量が0.9μg/cm2と多くなったが、酸性タンパク質(ウシ血清アルブミン)の吸着量が0.3μg/cm
2と処理前のそれよりも少なくなった。
【0068】
以上の結果により、本発明において、(メタ)アクリレート(B)のpKaを調整することによって、タンパク質の吸着を、その等電点に応じて効率的に行うことができることが明らかになった。