(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(非水系二次電池の製造方法)
本発明の製造方法では、正極および負極を含む電池部材と、電解液とを電池容器に収容してなる非水系二次電池を製造する。なお、電池容器に収容される電池部材には、正極および負極以外に、正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレータ等の既知の電池部材が含まれていてもよい。
また、本発明の製造方法は、電池部材と電解液とを電池容器に収容して未充電非水系二次電池を組み立てる組立工程と、未充電非水系二次電池を所定の温度以上に加熱する加熱工程と、加熱工程後に未充電非水系二次電池を充電する初期充電工程とを含む。更に、本発明の製造方法では、負極として、負極活物質と、所定の性状を有する非水溶性重合体と、所定の性状を有する水溶性重合体とを含有する負極合材層を備える負極を使用する。
そして、本発明の非水系二次電池の製造方法によれば、未充電非水系二次電池を初期充電する前に加熱工程を施すので、初期充電の前に負極合材層中への電解液の浸透を促進して、SEI皮膜の形成不良や負極上への金属析出を抑制しつつ、負極合材層上にSEI皮膜を形成した非水系二次電池を効率的に製造することができる。また、本発明の非水系二次電池の製造方法によれば、所定の性状を有する非水溶性重合体および水溶性重合体を使用しているので、初期充電の前に加熱工程を実施した場合であっても、負極合材層の剥がれや割れが発生するのを抑制することができる。従って、本発明の非水系二次電池の製造方法によれば、良好なSEI皮膜が形成された負極合材層を有し、寿命特性等の電池特性に優れている非水系二次電池を効率的に製造することができる。
【0020】
<負極>
本発明の製造方法を用いて製造される非水系二次電池の負極としては、所定の負極合材層を備えるものであれば特に限定されることなく、例えば、所定の負極合材層を集電体上に形成してなる負極を用いることができる。
【0021】
[集電体]
ここで、集電体としては、既知の集電体を用いることができる。そして、集電体の材料としては、電気導電性、電気化学的な耐久性、および耐熱性を有するため金属が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等を用いることができる。
【0022】
[負極合材層]
本発明の製造方法に用いられる負極の負極合材層は、負極活物質、非水溶性重合体、および水溶性重合体を含有する。
ここで、負極合材層の密度は、1.60g/cm
3以上であることが好ましく、1.65g/cm
3以上であることがより好ましく、1.70g/cm
3以上であることが更に好ましく、2.0g/cm
3以下であることが好ましい。負極合材層の密度を1.60g/cm
3以上にすれば、非水系二次電池のエネルギー密度を十分に高めることができる。なお、通常、負極合材層の密度を高めると電解液が負極合材層に浸透し難くなる。しかし、本発明の製造方法によれば、初期充電工程の前に加熱工程を実施するので、負極合材層の密度を1.60g/cm
3以上にした場合であっても、短時間で負極合材層中へ電解液を良好に浸透させ、電解液の浸透不足に起因したSEI皮膜の形成不良および金属析出の発生を抑制することができる。
【0023】
[[非水溶性重合体]]
負極合材層に含まれる非水溶性重合体は、負極合材層に含まれる成分が負極合材層から脱離しないように保持するとともに、集電体上に形成された負極合材層が集電体と良好に結着するよう保持し得る成分である。
【0024】
−非水溶性重合体の性状−
そして、負極合材層に含まれる非水溶性重合体は、電解液膨潤度が、1.0倍超4.0倍以下であることが必要であり、非水溶性重合体の電解液膨潤度は、1.1倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましく、3.0倍以下であることが好ましく、2.0倍以下であることがより好ましい。非水溶性重合体の電解液膨潤度が1.0倍超であれば、負極合材層のイオン伝導性を十分に確保し、二次電池の内部抵抗を十分に下げることができる。また、非水溶性重合体の電解液膨潤度が4.0倍以下であれば、負極合材層の強度を十分に高め、初期充電工程の前に加熱工程を実施した場合であっても、負極合材層の剥がれや割れが発生するのを抑制することができる。
なお、電解液膨潤度は、例えば、非水溶性重合体の組成を調整することにより制御することができる。
【0025】
また、非水溶性重合体は、ゲル量が、80質量%以上95質量%以下であることが必要であり、非水溶性重合体のゲル量は、82質量%以上であることが好ましく、94質量%以下であることが好ましい。非水溶性重合体のゲル量が80質量%以上95質量%以下であれば、負極合材層の強度および柔軟性を十分に高め、初期充電工程の前に加熱工程を実施した場合であっても、負極合材層の剥がれや割れが発生するのを抑制することができる。
なお、ゲル量は、例えば、非水溶性重合体の組成、重合温度、並びに、重合に使用する連鎖移動剤の添加量および種類を調整することにより制御することができる。
【0026】
−非水溶性重合体の組成−
非水溶性重合体としては、上述した電解液膨潤度およびゲル量を有していれば、特に限定されることなく、共役ジエン系重合体やアクリル系重合体などの任意の重合体を使用することができる。中でも、非水溶性重合体としては、共役ジエン系重合体が好ましく、芳香族ビニル単量体単位と共役ジエン単量体単位とを主構成単位とする共重合体がより好ましい。ここで、「芳香族ビニル単量体単位と共役ジエン単量体単位とが主構成単位である」とは、共重合体中において、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位の合計含有量が、共重合体の全単量体単位の50質量%を超えることを指す。
【0027】
−芳香族ビニル単量体単位−
ここで、芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。これらは1種単独で、または、2種以上を組み合わせてもよい。
そして、共重合体中の芳香族ビニル単量体単位の割合は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。芳香族ビニル単量体単位の割合を10質量%以上とすれば、非水溶性重合体の電解液膨潤度が過度に大きくなるのを抑制し、負極合材層の強度をより高めることができるからである。また、芳香族ビニル単量体単位の割合を80質量%以下とすれば、非水溶性重合体の靭性を高め、負極合材層の割れや剥がれが発生するのを十分に抑制することができるからである。
【0028】
−共役ジエン単量体単位−
また、共役ジエン単量体単位を形成し得る共役ジエン単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、ピペリレンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。これらは1種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
そして、共重合体中の共役ジエン単量体単位の割合は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。共役ジエン単量体単位の割合を20質量%以上とすれば、共重合体のゲル量を高めることができると共に、電解液膨潤度が過度に大きくなるのを抑制することができる。そして、その結果、柔軟性と強度との双方に優れる負極合材層が得られるからである。また、共役ジエン単量体単位の割合を50質量%以下とすれば、負極合材層を適度な硬さとし、負極合材層の強度を十分に確保することができるからである。
【0029】
−その他の単量体単位−
なお、芳香族ビニル単量体単位と共役ジエン単量体単位とを主構成単位とする共重合体は、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位以外のその他の単量体単位を含んでいてもよい。その他の単量体単位としては、特に限定されることなく、例えば、不飽和カルボン酸単量体単位などの酸性基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、ニトリル基含有単量体単位などが挙げられる。これらは1種単独で、または、2種以上を組み合わせてもよい。なお、本願において、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0030】
=酸性基含有単量体単位=
酸性基含有単量体単位である不飽和カルボン酸単量体単位を形成し得る不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、不飽和モノカルボン酸およびその誘導体、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物、並びにそれらの誘導体が挙げられる。不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、およびクロトン酸が挙げられる。不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、およびβ−ジアミノアクリル酸が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、およびジメチル無水マレイン酸が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等が挙げられる。これらは、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
これらの中でも、不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸や、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸が好ましく、アクリル酸、イタコン酸がより好ましく、イタコン酸が更に好ましい。
そして、共重合体中の酸性基含有単量体単位の割合は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることが更に好ましい。酸性基含有単量体単位の割合を0.5質量%以上とすれば、負極活物質同士、および集電体と負極合材層との接着性を高めることができるからである。一方、酸性基含有単量体単位の割合を10質量%以下とすれば、負極合材層の割れや剥がれが発生するのを十分に抑制することができるからである。
【0032】
=(メタ)アクリル酸エステル単量体単位=
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシエチルアクリレートが挙げられる。これらは、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
=ニトリル基含有単量体単位=
ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、非水溶性重合体の電解液膨潤度を適度に増大させて負極合材層のイオン伝導度を高め、二次電池の内部抵抗を下げる観点から、(メタ)アクリロニトリルが好ましい。これらは、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
−非水溶性重合体の調製方法−
そして、上述した単量体を用いた非水溶性重合体の調製方法は特に限定されず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。
【0035】
−含有量−
負極合材層中に含まれている非水溶性重合体の量は、負極活物質100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることが更に好ましく、4質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2.5質量部以下であることが更に好ましい。所定の電解液膨潤度およびゲル量を有する非水溶性重合体の含有量が上記下限値以上であれば、負極合材層に柔軟性が付与され、負極合材層の強度を十分に確保することができるからである。また、所定の電解液膨潤度およびゲル量を有する非水溶性重合体の含有量が上記上限値以下であれば、内部抵抗が小さく、かつ、高容量の非水系二次電池が得られるからである。
【0036】
[[水溶性重合体]]
負極合材層に含まれる水溶性重合体は、上述した非水溶性重合体と共に、負極合材層に含まれる成分が負極合材層から脱離しないように保持し、且つ、集電体上に形成された負極合材層を集電体と良好に結着させ得る成分である。
【0037】
−水溶性重合体の性状−
そして、水溶性重合体は、電解液膨潤度が、1.0倍超2.0倍以下であることが必要であり、水溶性重合体の電解液膨潤度は、1.3倍以下であることが好ましく、1.2倍以下であることがより好ましく、1.1倍以下であることが更に好ましい。水溶性重合体の電解液膨潤度が1.0倍超であれば、負極合材層のイオン伝導性を十分に確保し、二次電池の内部抵抗を十分に下げることができる。また、水溶性重合体の電解液膨潤度が2.0倍以下であれば、負極合材層の強度を十分に高め、初期充電工程の前に加熱工程を実施した場合であっても、負極合材層の剥がれや割れが発生するのを抑制することができる。
なお、水溶性重合体の電解液膨潤度は、例えば、水溶性重合体の組成を調整することにより制御することができる。
【0038】
−水溶性重合体の組成−
水溶性重合体としては、上述した電解液膨潤度を有していれば、特に限定されることなく、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロースなどのセルロース化合物、およびこれらのアンモニウム塩やアルカリ金属塩などの塩類といったセルロース系重合体;酸化スターチやリン酸スターチ;カゼイン;各種変性デンプン;ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスルホン酸、ポリカルボン酸;(メタ)アクリル酸共重合体、アクリルアミド系重合体、およびこれらのアンモニウム塩やアルカリ金属塩などの塩類を挙げることができる。これらは1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用して用いることができる。
【0039】
中でも、水溶性重合体としては、セルロース系重合体、(メタ)アクリルアミド系重合体、およびこれらの組み合わせが好ましい。
【0040】
−含有量−
負極合材層中に含まれている水溶性重合体の量は、負極活物質100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であることがより好ましく、0.8質量部以上であることが更に好ましく、3質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以下であることが更に好ましい。所定の電解液膨潤度を有する水溶性重合体の含有量が上記下限値以上であれば、負極合材層を適度な硬さとし、負極合材層の強度を十分に確保することができるからである。また、所定の電解液膨潤度を有する水溶性重合体の含有量が上記上限値以下であれば、二次電池の内部抵抗を低減し、高容量の非水系二次電池が得られるからである。
【0041】
[[負極活物質]]
負極合材層に含まれる負極活物質としては、特に限定されることなく、既知の負極活物質を用いることができる。既知の負極活物質としては、例えば、非水系二次電池がリチウムイオン二次電池の場合には、炭素系活物質、シリコーン系活物質、並びに、リチウム合金を形成する単体金属および合金が挙げられる。中でも、負極活物質としては、炭素系活物質が好ましく、天然黒鉛を用いた炭素系活物質がより好ましく、天然黒鉛を低結晶性の炭素材料で被覆(以下、これを「非晶質コート」を称することがある。)してなる炭素系活物質が更に好ましい。なお、非晶質コートの方法としては、特開2013−45714号公報に開示される方法などを挙げることができる。
【0042】
−負極活物質の性状−
負極活物質は、タップ密度が0.8g/cm
3以上であることが好ましく、0.85g/cm
3以上であることがより好ましく、0.9g/cm
3以上であることが更に好ましく、1.2g/cm
3以下であることが好ましく、1.1g/cm
3以下であることがより好ましく、1.05g/cm
3以下であることが更に好ましい。タップ密度が0.8g/cm
3以上の負極活物質を使用すれば、密度および強度の高い負極合材層を備えた負極が容易に得られるからである。また、タップ密度が1.2g/cm
3以下の負極活物質を使用すれば、負極合材層中に電解液がより浸透しやすくなるからである。
【0043】
また、負極活物質は、体積平均粒子径が、5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましく、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。なお、本発明において、負極活物質の「体積平均粒子径」は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、型番:マイクロトラックMT3000II)を用いて、50%径として湿式法により測定することができる。
【0044】
ここで、負極活物質の体積平均粒子径およびタップ密度は、例えば、不定形または非球形の負極活物質粒子を球形化処理することによって制御し得る。球形化処理の好ましい方法としては、特に限定されることなく、例えば特開2010−34036号公報に開示される方法などを挙げることができる。具体的には、球形化処理は、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製、型番:NHS−3)を用いて、高速気流中に分散させた負極活物質粒子に衝撃力などを与えることにより行うことができる。
【0045】
[負極の作製]
上述した負極合材層を備える負極は、特に限定されることなく、既知の手法を用いて作製することができる。具体的には、負極は、例えば、負極活物質と、非水溶性重合体と、水溶性重合体と、任意の添加剤と、水などの分散媒とを含む負極用スラリー組成物を集電体上に塗布し、塗布した負極用スラリー組成物を乾燥させて負極合材層を形成することにより作製することができる。なお、集電体上に形成した負極合材層は、プレス加工等の加圧処理を施して密度を調整してもよい。
また、非水溶性重合体は、通常、負極用スラリー組成物中では粒子形状で存在するが、形成された負極合材層中では、粒子形状であってもよいし、その他の任意の形状であってもよい。
【0046】
<正極>
本発明の製造方法を用いて製造される非水系二次電池の正極としては、既知の正極を用いることができる。具体的には、正極としては、特に限定されることなく、集電体と、集電体上に形成された正極合材層とを有する正極を用いることができる。そして、正極合材層は、通常、正極活物質、導電材、および結着材を含有する。
ここで、集電体、正極合材層中の正極活物質、導電材、および結着材、並びに、集電体上への正極合材層の形成方法には、既知のものを用いることができ、例えば特開2013−145763号公報に記載のものを用いることができる。
【0047】
<電解液>
本発明の製造方法を用いて製造される非水系二次電池の電解液としては、既知の電解液を用いることができる。具体的には、非水系二次電池がリチウムイオン二次電池の場合には、特に限定されることなく、例えば、非水系溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、および、エチルメチルカーボネート(EMC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。また、電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0048】
<セパレータ>
本発明の製造方法を用いて製造される非水系二次電池が任意に備えるセパレータとしては、特に限定されることなく、既知のセパレータを用いることができる。既知のセパレータとしては、例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂を用いた微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を用いた微多孔膜、ポリオレフィン系の繊維を用いた織布または不織布、絶縁性物質よりなる粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、非水系二次電池内の電極合材層の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂を用いた微多孔膜が好ましい。
【0049】
[接着層]
ここで、正極と負極との間にセパレータを設ける場合には、電極(正極、負極)とセパレータとを良好に一体化させるために、電極とセパレータとの間に既知の接着層を設けることができる。
しかし、非水系二次電池が備える負極合材層中の負極活物質は、電池の充放電にともなって膨張収縮する。そのため、例えば、負極合材層とセパレータとが接着層を介して強固に接着されている場合は、負極活物質の膨張収縮に起因する応力を十分に緩和することができず、負極合材層にひびや割れが生じる原因となり得る。従って、負極合材層とセパレータとの間には、接着層を設けないことが好ましい。また、負極合材層とセパレータとの間に接着層を設けるとしても、接着力が低い接着層を用いることが好ましい。
具体的には、未充電非水系二次電池を温度60℃で15時間放置した際の負極とセパレータとの接着力は、1.0N/m以下であることが好ましく、0.5N/m以下であることがより好ましく、0.3N/m以下であることが更に好ましく、0.15N/m以上とすることができる。接着力を1.0N/m以下とすれば、充放電時の負極活物質の膨張収縮に起因する負極合材層の剥がれ等が助長されることを抑制できるからである。
【0050】
<電池容器>
本発明の製造方法を用いて製造される非水系二次電池の電池容器としては、特に限定されることなく、任意の容器体を用いることができる。具体的には、電池容器としては、例えば、アルミニウムやスチールなどの軽量な金属を用いて形成した包材やケースを採用し得る。
【0051】
<組立工程>
本発明の非水系二次電池の製造方法に含まれる組立工程では、正極と、負極と、電解液とを電池容器に収容して、未充電非水系二次電池を準備する。なお、正極および負極は、正極と負極との間にセパレータを配置した状態で電池容器内に収容してもよい。
【0052】
具体的には、組立工程では、例えば、典型的には常温域において、上記正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせることにより積層体を得た後、得られた積層体を必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れる。その後、積層体を収容した電池容器に電解液を注入して電池容器を封口することにより、未充電非水系二次電池を組み立てる。ここで、本明細書において「常温域」とは、20℃±10℃を指すものとする。
【0053】
なお、非水系二次電池の内部の圧力上昇、過充放電などの発生を防止するために、未充電非水系二次電池には、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。また、組み立てる未充電非水系二次電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【0054】
<加熱工程>
本発明の非水系二次電池の製造方法に含まれる加熱工程では、上述の組立工程により得られた未充電非水系二次電池を40℃以上の高温域まで昇温することにより、電極合材層(特に負極合材層)に電解液を良好に浸透させる。なお、加熱工程では、所定の温度まで昇温した未充電非水系二次電池を当該温度で所定時間保持することにより、電極合材層への電解液の浸透を更に促進させることができる。
【0055】
ここで、未充電非水系二次電池の加熱温度は、40℃以上とすることが必要であり、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、85℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましい。40℃以上で未充電非水系二次電池を加熱すれば、電池内の電解液粘度が低下することにより、電解液が電極合材層内に入り込み易くなり、かつ電極合材層内に十分に行き渡り易くなる。そして、その結果、高密度の負極合材層を用いた場合であっても、後述する初期充電時にSEI皮膜の形成不良および金属析出の発生を抑制することができ、良好な寿命特性およびレート特性を有する非水系二次電池が得られる。また、85℃以下で未充電非水系二次電池を加熱すれば、加熱時の電解液の引火を予防して安全に非水系二次電池を製造することができるからである。
【0056】
さらに、加熱した未充電非水系二次電池の加熱保持(温度保持)時間は、1時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、10時間以上が更に好ましく、50時間以下が好ましい。未充電非水系二次電池を1時間以上にわたって加熱すれば、電極合材層中に電解液を十分に浸透させることができるからである。また、未充電非水系二次電池の加熱を50時間以下にすれば、長時間の加熱による電極合材層の劣化を予防できると共に、非水系二次電池の生産効率が低下するのを抑制できるからである。
【0057】
なお、本発明の非水系二次電池の製造方法では、所定の性状を有する非水溶性重合体および水溶性重合体を含む負極合材層を使用しているので、上述の加熱処理を施しても、負極合材層の剥がれや割れの発生を抑制することができる。
【0058】
<初期充電工程>
本発明の非水系二次電池の製造方法に含まれる初期充電工程では、上述の加熱工程により加熱された未充電非水系二次電池を所定の充電深度まで充電することにより、負極合材層上に良好なSEI皮膜を効率的に形成する。ここで、負極合材層上に十分なSEI皮膜を効率よく形成する観点からは、充電深度は5%以上80%以下とすることが好ましい。
なお、本発明の非水系二次電池の製造方法では、初期充電工程の前に上述した加熱工程を実施しているので、SEI皮膜の形成不良および金属析出の発生を抑制することができ、良好な電池特性を有する非水系二次電池が得られる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、未充電非水系二次電池の加熱温度、非水溶性重合体および水溶性重合体の電解液膨潤度、非水溶性重合体のゲル量、負極活物質のタップ密度、負極とセパレータとの接着力、初期満充電後の負極合材層の状態、および非水系二次電池のレート特性は、それぞれ以下の方法を使用して測定、評価、または観察した。
【0060】
<加熱温度>
加熱温度は、恒温器(エスペック社製、型番:PU−2KT)を用いて、任意の温度に設定した上、未充電非水系二次電池の周囲の雰囲気実温度として測定した。測定結果を表1に示す。
【0061】
<電解液膨潤度>
電解液膨潤度は、非水溶性重合体および水溶性重合体のそれぞれについて、非水溶性重合体または水溶性重合体を含む乾燥フィルム片の重量と、非水溶性重合体または水溶性重合体を含む乾燥フィルム片を電解液に浸漬させて得た膨潤フィルム片の重量とを用いて求めることができる。具体的には、非水溶性重合体または水溶性重合体が水中に分散または溶解された水分散液または水溶液を用意し、用意した水分散液または水溶液を、湿度50%、温度23℃以上25℃以下の環境下で乾燥させ、乾燥分散体を得た。その後、得られた乾燥分散体を、厚み3±0.3mmに成膜し、直径12mmに裁断することにより、乾燥フィルム片を用意した。
用意した乾燥フィルム片を精秤し、得られた乾燥フィルム片の重量をW0とした。
次に、精秤した乾燥フィルム片を、濃度1.0MのLiPF
6電解液(溶媒:エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/7(体積比)の混合溶媒であり、添加剤としてビニレンカーボネート2質量%(溶媒比)を含む)50gに、60℃にて72時間浸漬させ、電解液を乾燥フィルム片に浸透させた。そして、電解液の浸透により膨潤したフィルム片、即ち膨潤フィルム片を得た。
その後、電解液から引き揚げた膨潤フィルム片を軽く拭いた後に、精秤して得られた膨潤フィルム片の重量をW1とした。
そして、得られた精秤値を用いて下記式(I):
電解液膨潤度=(W1/W0) ・・・(I)
に従って、電解液膨潤度(倍)を算出した。測定結果を表1に示す。
【0062】
<ゲル量>
ゲル量は、非水溶性重合体の全固形分の重量に対する、非水溶性重合体の固形分のうちテトラヒドロフランに不溶な固形分の重量の割合(質量%)として求めることができる。具体的には、非水溶性重合体が水中に分散された水分散液を、湿度50%、温度23℃以上25℃以下の環境下で3日間乾燥させた後に、更に熱風オーブンを用いて、120℃環境下で1時間乾燥させることにより、乾燥分散体を得た。得られた乾燥分散体を、厚み3±0.3mmに成膜し、一辺が3mm以上5mm以下の略正方形状に裁断することにより、乾燥フィルム片を用意した。
用意した乾燥フィルム片を精秤し、得られた乾燥フィルム片の重量をV0とした。
次に、乾燥フィルム片を、100gのテトラヒドロフランに23℃以上25℃以下にて24時間浸漬させ、溶解させた。テトラヒドロフランから引き揚げた残留フィルム片を、105℃環境下で3時間真空乾燥した後に、乾燥させた残留フィルム片を精秤し、得られた残留フィルム片の重量をV1とした。
そして、得られた精秤値を用いて下記式(II):
ゲル量=(V1/V0)×100 ・・・(II)
に従って、ゲル量(質量%)を算出した。測定結果を表1に示す。
【0063】
<タップ密度>
負極活物質のタップ密度は、パウダテスタ(登録商標)(ホソカワミクロン社製、PT−D)を用いて測定した。具体的には、まず、測定容器に充填した負極活物質の粉体を容器上面にてすり切った。次いで、測定容器に測定器付属のキャップを取り付け、取り付けたキャップの上縁まで負極活物質の粉体を追加充填し、高さ1.8cmから180回繰り返し落下させることにより、タッピングを行った。タッピング終了後にキャップを外し、容器上面にて負極活物質の粉体を再びすり切った。タッピング後にすり切った試料を秤量し、この状態の嵩密度を固め嵩密度、即ちタップ密度(g/cm
3)として測定した。タップ密度が高いほど、負極活物質の密度が高く、高密度充放電に適した非水系二次電池が得られることを示す。測定結果を表1に示す。
【0064】
<負極とセパレータとの接着力>
負極とセパレータとの接着力は、負極表面の引張り応力として測定した。具体的には、組立工程にて得られた未充電非水系二次電池に対し、表1に記載した各実施例および各比較例における加熱温度および加熱保持時間にて加熱処理を行った。その後、加熱処理が施された未充電非水系二次電池から、電解液に浸漬されていた負極およびセパレータを備える積層体を取り出し、長さ10mm×幅10mmの大きさに切り出し、試験片を得た。そして、得られた試験片の表面に付着した電解液を拭き取り、拭き取った試験片表面のうち負極表面側に粘着テープを貼り付けた。この際、粘着テープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。そして、試験片の一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分にて引き剥がしたときの応力を接着力として測定した(なお、粘着テープは水平な試験台に固定した。)。
測定結果を表1に示す。なお、負極とセパレータとの間に接着層を設けない場合であっても、負極合材層界面において電解液の液膜による応力が働くため、通常、接着力は接着層の有無にかかわらず0.1N/m以上の測定値を示す。
【0065】
<初期満充電後の負極合材層の状態>
各実施例および各比較例に記載した方法で製造した非水系二次電池5個をドライルームにて解体し、負極合材層の割れや剥がれについて目視観察した。ここで、比較例4においては、加熱終了後の非水系二次電池を用いた。評価基準は以下の通りとした。測定結果を表1に示す。
A:負極合材層の欠損(割れや剥がれ)が見られる電池の個数が1個以下
B:負極合材層の欠損(割れや剥がれ)が見られる電池の個数が2個
C:負極合材層の欠損(割れや剥がれ)が見られる電池の個数が3個
D:負極合材層の欠損(割れや剥がれ)が見られる電池の個数が4個以上
【0066】
<非水系二次電池のレート特性>
各実施例および各比較例に記載した方法で製造した非水系二次電池の初期容量を確認後、非水系二次電池を、25℃環境下、0.2Cで4.2Vまで定電流定電圧法(カットオフ条件:0.02C)にて満充電した。その後、非水系二次電池を25℃環境下、0.2Cにて3.0Vまで定電流放電し、そのときの放電容量C1を測定した。そして、非水系二次電池を25℃環境下、4.2Vの定電流定電圧法(カットオフ条件:0.02C)によって再び満充電した後、25℃環境下、1Cにて3.0Vまで定電流放電し、その際の放電容量C2を測定した。非水系二次電池のレート特性C
2/C
1は、下記式(III):
C
2/C
1=(C2/C1)×100 ・・・(III)
に従って、C1に対するC2の比(%)として算出した。評価基準は以下の通りとした。C
2/C
1値が大きいほど、製造された非水系二次電池のレート特性が優れていることを示す。測定結果を表1に示す。
A:C
2/C
1が85%以上
B:C
2/C
1が85%未満75%以上
C:C
2/C
1が75%未満65%以上
D:C
2/C
1が65%未満
【0067】
(実施例1)
<非水溶性重合体の調製>
芳香族ビニル単量体としてのスチレン63部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3−ブタジエン33部、酸性基含有単量体としてのイタコン酸4部、連鎖移動剤としてのt−ドデシルメルカプタン0.3部、および乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.35部を容器Aに入れ、混合物を得た。得られた混合物を、容器Aから耐圧容器Bへ添加すると同時に、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を耐圧容器Bへ添加することにより、重合を開始した。なお、重合反応温度は75℃を維持した。
重合転化率が97%になった時点で冷却し、反応を停止して、非水溶性重合体を含む混合物を得た。得られた非水溶性重合体を含む混合物に、濃度5%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体を除去した。その後冷却し、非水溶性重合体を含む水分散液(固形分濃度:40%)を得た。
【0068】
<負極活物質の調製>
平均粒子径100μmの鱗片状黒鉛粒子を、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製、型番:NHS−3、回転数(ローター周速度):65m/秒、回転滞留時間:15分間)を用いて球形化処理することにより、体積平均粒子径(50%径)15μm、およびタップ密度1.02g/cm
3の球状黒鉛粒子を得た。
その後、得られた球状黒鉛粒子100部に対し、低結晶性の被膜形成炭素材としてのタールピッチを30部添加し、ヘンシェルミキサーを用いて、200℃環境下で30分混合した。得られた混合物を、窒素雰囲気下1000℃でプレ焼成し、更に窒素雰囲気下1500℃で焼成し、粉砕することにより、球状黒鉛粒子のコアがタールピッチで非晶質コートされた、炭素系の負極活物質を得た。得られた負極活物質の体積平均粒子径(50%径)は15μm、タップ密度は1.04g/cm
3であった。
【0069】
<負極用スラリー組成物の調製>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、上述の通り得られた炭素系の負極活物質を100部、および水溶性重合体としてのアクリルアミド系重合体(アクリル酸単位/アクリルアミド単位=50%/50%)を固形分換算で1部加えて混合物を得た。得られた混合物にイオン交換水を添加して固形分濃度60%に調整した後、25℃環境下で60分間混合した。次に、イオン交換水を用いて固形分濃度を48%に調整した後、更に25℃環境下で15分間混合し、負極活物質と水溶性重合体との混合液を得た。
得られた負極活物質と水溶性重合体との混合液に、上述の方法で調製した非水溶性重合体を含む水分散液(非水溶性重合体の固形分換算で2部)を加え、イオン交換水を用いて最終固形分濃度が50%となるように調整し、更に10分間混合した後、減圧下で脱泡処理することにより、負極用スラリー組成物を得た。
【0070】
<非水系二次電池用負極の作製>
上述の通り得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーター(サンクメタル社製)を用いて、集電体としての銅箔(厚さ15μm)の片面上に、塗付量が9mg/cm
2以上10mg/cm
2以下となるように塗布した。負極用スラリー組成物が塗布された銅箔を、60℃のオーブン内を2分間かけて搬送(速度:0.5m/分)することにより乾燥させ、更に120℃のオーブン内で2分間加熱処理して、負極原反を得た。
得られた負極原反を、ロールプレス機を用いて、11トン以上14トン以下の荷重でプレスすることにより、密度が1.75g/cm
3の負極合材層を集電体上に備える非水系二次電池用負極を得た。
【0071】
<非水系二次電池用正極の作製>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのLiCoO
2を100部、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、品番:HS−100)を2部、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ化学社製、品番:KF−1100)を2部、および全固形分濃度が67%となる量の2−メチルピリロドンを加えて混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
得られた正極用スラリー組成物を、前記コンマコーターで、集電体としてのアルミ箔(厚さ20μm)の片面上に塗布した。正極用スラリー組成物が塗布されたアルミ箔を、60℃のオーブン内を2分間かけて搬送(速度:0.5m/分)することにより乾燥させ、更に120℃のオーブン内で2分間加熱処理をした。同様の塗布・乾燥作業を、集電体のもう一方の表面上にも施すことによって、正極原反を得た。
得られた正極原反を、前記ロールプレス機を用いて、正極合材層の密度が3.40mg/cm
3以上3.50g/cm
3以下となるようにプレスすることにより、非水系二次電池用正極を得た。
【0072】
<非水系二次電池の製造>
単層のポリプロピレン製セパレータ(長さ500mm×幅65mm×厚さ25μm、気孔率55%、乾式法により製造)の片面に、接着層用組成物(日本ゼオン社製、品名:BM−2500M)をグラビアコート法(線数300)により塗布し、50℃環境下で1分間乾燥させることにより、1層当たりの厚みが1μmの接着層をセパレータ上に形成した。次に、接着層が形成されたセパレータを長さ50mm×幅40mmに切り出し、上述の通り作製した正極を長さ45mm×幅35mmに切り出し、上述の通り作製した負極を長さ47mm×幅37mmに切り出した。そして、切り出した正極、セパレータ、および負極を、以下のように重ねて、非水系二次電池を製造した。
具体的には、両面に正極合材層を備える正極の両側にセパレータ配置して正極をセパレータで挟んだ。なお、正極合材層にはセパレータの接着層が塗布されている側の面が接触するようにした。そして、セパレータの、正極と接していない側の面(接着層が設けられていない側の面)上に、それぞれ負極を重ね、積層体を得た。そして、得られた積層体を、電池容器としてのアルミ包材外装に入れ、積層電池を得た。
その後、積層電池内に、電解液としての濃度1.0MのLiPF
6溶液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒であり、添加剤としてビニレンカーボネート(2質量%)を含有している)を充填した。更に、電解液が充填された積層電池を、温度150℃でヒートシールし、アルミ包材外装の開口を密封閉口した後に、25℃環境下で5秒間、圧力10MPaのプレスを行って正極とセパレータとを加圧接着して未充電非水系二次電池を得た(組立工程)。そして、得られた未充電非水系二次電池を用いて負極とセパレータとの接着力を評価した。
また、得られた未充電非水系二次電池を、温度60℃にて15時間加熱した後に(加熱工程)、25℃環境下、0.2Cで4.2Vまで定電流定電圧法(カットオフ条件:0.02C)により充電深度20%まで充電し(初期充電工程)、非水系二次電池としてのリチウムイオン二次電池を製造した。そして、製造したリチウムイオン二次電池を用いて初期満充電後の負極合材層の状態および非水系二次電池のレート特性を評価した。
【0073】
(実施例2)
非水系二次電池の製造時に、加熱工程における加熱温度を50℃に変更した以外は実施例1と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例3)
非水溶性重合体の調製時に、スチレンの量を29.5部とし、1.3−ブタジエンの量を47.5部とし、イタコン酸の量を3部とし、t−ドデシルメルカプタンの量を1.3部とし、更にその他の単量体としてのアクリロニトリル20部を混合物に追加した。また、スラリー組成物の調製時に、水溶性重合体の種類をカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセルファインケム社製、品名:CMCダイセル2200)に変更した。更に、非水系二次電池の製造時に、組立工程において、負極合材層にセパレータの接着層が接触するようにし、セパレータの、負極と接していない側の面(接着層が設けられていない側の面)上に正極を重ね、更に、ヒートシールにてアルミ包材外装の開口を密封閉口した後に、25℃環境下で5秒間、圧力10MPaのプレスを行って負極とセパレータとを加圧接着して未充電非水系二次電池を得た。上記以外は実施例1と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例4)
負極活物質の調製時に、ハイブリダイゼーションシステムの条件を、回転数(ローター周速度):40m/秒、回転滞留時間:10分間に調整することにより、非晶質コートされた負極活物質のタップ密度を0.86g/cm
3に変更し、更に、スラリー組成物の調製時に、水溶性重合体の種類をカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセルファインケム社製、品名:CMCダイセル2200)に変更した以外は実施例1と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例5)
スラリー組成物の調製時に、水溶性重合体の種類をカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセルファインケム社製、品名:CMCダイセル2200)に変更し、非水溶性重合体の配合量を1質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例6)
スラリー組成物の調製時に、水溶性重合体の種類をカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセルファインケム社製、品名:CMCダイセル2200)に変更した。更に、非水系二次電池の製造時に、組立工程において、負極合材層にセパレータの接着層が接触するようにし、セパレータの、負極と接していない側の面(接着層が設けられていない側の面)上に正極を重ね、更に、ヒートシールにてアルミ包材外装の開口を密封閉口した後に、50℃環境下で5秒間、圧力10MPaのプレスを行って負極とセパレータとを加圧接着して未充電非水系二次電池を得た。上記以外は実施例1と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例1)
非水溶性重合体の調製時に、t−ドデシルメルカプタンの量を3.0部に変更した以外は、実施例3と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例2)
スラリー組成物の調製時に、水溶性重合体の種類をカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセルファインケム社製、品名:CMCダイセル2200)に変更し、更に、非水系二次電池の製造時に、加熱工程における加熱温度を25℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例3)
スラリー組成物の調製時に、水溶性重合体の種類をアクリル酸エチル単位(EA)/アクリル酸ブチル単位(BA)/メタクリルアミド単位(MAA)=40/30/30(質量比)の共重合体に変更した。更に、非水系二次電池の製造時に、組立工程において、負極合材層にセパレータの接着層が接触するようにし、セパレータの、負極と接していない側の面(接着層が設けられていない側の面)上に正極を重ね、更に、ヒートシールにてアルミ包材外装の開口を密封閉口した後に、30℃環境下で5秒間、圧力10MPaのプレスを行って負極とセパレータとを加圧接着して未充電非水系二次電池を得た。上記以外は実施例1と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例4)
スラリー組成物の調製時に、水溶性重合体の種類をカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(ダイセルファインケム社製、品名:CMCダイセル2200)に変更した。更に、非水系二次電池の製造時に、組立工程で得られた未充電非水系二次電池を、加熱工程を施すことなく、0.1Cで充電深度20%まで充電し、その後60℃環境下で15時間加熱し、更に0.2Cで4.2Vまで定電流定電圧充電法(カットオフ条件:0.02C)によって充電して非水系二次電池を製造した。上記以外は実施例1と同様にして、非水溶性重合体、負極活物質、スラリー組成物、負極、正極および非水系二次電池を製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
TDM:t−ドデシルメルカプタン
THF:テトラヒドロフラン
AA/Aam:アクリル酸/アクリルアミド共重合体
CMC:カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩
EA/BA/MAA:アクリル酸エチル/アクリル酸ブチル/メタクリルアミド共重合体
【0083】
表1より、初期充電工程前に加熱工程を施した実施例1〜6では、初期充電後に加熱処理を施した比較例4と比較し、初期充放電直後のレート特性が優れた非水系二次電池が得られることが分かる。
しかし、初期充電工程前に加熱工程を施したとしても、加熱温度が25℃である比較例2では、加熱温度が40℃以上である実施例1〜6と比較し、初期充放電直後のレート特性が著しく悪化してしまうことが分かる。
また、電解液膨潤度が4.0倍超、かつ、ゲル量が80質量%未満である非水溶性重合体を用いた比較例1では、電解液膨潤度が1.0倍超4.0倍以下、かつ、ゲル量が80質量%以上95質量%以下である非水溶性重合体を用いた実施例1〜6と比較し、初期充電後の負極合材層の欠損が著しく進み、また初期充放電直後のレート特性も著しく悪化していることが分かる。
さらに、電解液膨潤度が2.0倍超の水溶性重合体を用いた比較例3では、電解液膨潤度が1.0倍超2.0倍以下の水溶性重合体を用いた実施例1〜6と比較し、初期充電後の負極合材層の欠損が著しく進み、また初期充放電直後のレート特性も著しく悪化していることが分かる。
なお、密度1.70g/cm
3以上の負極合材層を用いている実施例1〜6において、初期充電後の負極合材層の欠損も程度も低く、かつ良好な初期充放電直後のレートを維持していることから、本発明の製造方法は、高密度電極を用いた場合であっても、高い電池性能を維持した非水系二次電池の製造に適していることが分かる。