(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.第1実施形態:
本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、ここで説明する実施の形態は本発明の実施の形態を例示するものにすぎず、本発明の実施の形態はここに例示する形態に限られない。
【0018】
図1は、本実施形態におけるメカニカル継手の例を示す部分断面図である。
図1の左側は、メカニカル継手1と管Pとの接合が完了していない途中の状態を示している。
図1の右側は、メカニカル継手1と管Pとの接合が完了している状態を示している。
図1には、メカニカル継手1の中心軸である軸線CAを境界として、軸線CAより紙面上側にメカニカル継手1の断面形状が図示され、軸線CAより紙面下側にメカニカル継手1の外観形状が図示されている。
【0019】
本実施形態におけるメカニカル継手1は、ボディ2と、ボディ2にねじ込むことができるナット3と、ボディ2の外周面において周方向に設けられたパッキン4とを有する。本実施形態におけるメカニカル継手1は、径が拡大した拡大部PLを端部に有する管Pのうち少なくとも拡大部PLを含む部分をナット3の内側に配置した状態でナット3をボディ2にねじ込むことによって拡大部PLとボディ2との間でパッキン4が圧縮されてシールがなされるメカニカル継手1である。
【0020】
他の実施形態におけるメカニカル継手では、ボディ2の内周面において周方向に設けられたパッキン4を有していてもよい。そのような実施形態では、拡大部PLを含む部分をナット3の内側およびボディ2の内側に配置した状態でナット3をボディ2にねじ込むことによって拡大部PLとボディ2との間でパッキン4が圧縮されてシールがなされる。
【0021】
図1に例示されたメカニカル継手1では、管Pの端部に拡大部PLが設けられている。本実施形態におけるメカニカル継手1では、拡大部PLをボディ2のテーパ外周面とナット3のテーパ内周面とで挟み込んだ状態でナット3をボディ2にねじ込んで、拡大部PLをボディ2のテーパ外周面に押し当てることによりパッキン4が圧縮されて、ボディ2と管Pとのシールがなされる。他の実施形態におけるメカニカル継手では、
図1に例示されたシールの構造を有するものに限られず、ナットをボディにねじ込むことによりパッキンが圧縮される構造のものであれば、どのような構造のものであってもよい。
【0022】
他の実施形態におけるメカニカル継手に使用される管の拡大部PLでは、
図1に例示された管の端部に設けられた拡大部PLに限られず、ナットの内側に管を通した状態でナットをボディにねじ込むことによって管の拡大部PLとボディとの間でパッキンが圧縮される構造の拡大部であれば、どのような形状の拡大部PLであってもよい。管の拡大部が設けられる位置は、管の端部でなくてもよい。
【0023】
本実施形態におけるメカニカル継手1は、ボディ2の外周面に連続して設けられた歯5であって、ボディ2の中心軸に平行な面でなる壁51を備える歯5と、ナット3の内側に固定された部材であり、ナット3の周方向よりも内側に向かって伸びた爪61を備えたリング6とを有することを特徴とする。
【0024】
歯5は、ボディ2の周方向に連続して設けられている複数の突起部である。歯5は、ナット3をボディ2に締め込んだときにナット3に設けられたリング6と対向する位置に設けられる(
図6及び
図7参照)。歯5は、ボディ2の中心軸と平行な面でなる壁51を備える。壁51をなす面は、ボディ2の中心軸と平行であるが、壁51とボディ2の中心軸との相互の幾何学的な位置関係は厳密なものではなく、製造上避けられない誤差を含むことができる。
【0025】
リング6は、板状の部材を環状にした部品である。本実施形態では、リング6は、環の一部が欠けた形状である(
図2参照)が、これをリングと呼ぶこととする。他の実施形態では、リング6は、完全な環状の形状であってもよい。リング6は、ナット3をボディ2にねじ込んだときにボディ2に設けられた歯5と対向する位置に設けられる。
【0026】
リング6が備える爪61は、ナット3の周方向よりも内側に向かって伸びている(
図2参照)。爪61の先端はボディ2に設けられた歯5と接触する。リング6は、弾性を有する板状の部材である。したがって、リング6の一部である爪61も弾性を有している。リング6は、ナット3に固定されているため、ボディ2に対してナット3を回転させると、ナット3に固定されたリング6もナット3と同じ方向に回転する。
【0027】
図2は、本実施形態におけるメカニカル継手1のリング6を示す斜視図である。
図2に例示された本実施形態において、爪61は、リング6と一体に形成された複数の突起である。より具体的には、爪61は、リング6のうちリング6の幅方向における中央部から内側に伸びる形状で複数形成されている。爪61をリング6と一体に形成することによって、製造コストを低減することができる。また、爪61を複数形成することによって、ナット3の緩みをより確実に防止することができる。
【0028】
図2に示されたリング6において、爪61は、リング6のうちリング6の幅方向における中央部から2つの長辺及び1つの短辺の切り込みが入れられることによって形成される。また、切り込みが入れられた部分のうちリング6と接続している部分の反対方向における部分がボディ2の側(リング6の内側)に伸びるように折り曲げられて形成される。このような板状の部材の切断加工や曲げ加工は、例えば金型を使うことにより、短時間かつ高い加工精度で行うことができる。
【0029】
図2に示されたリング6において、爪61は、伸びる方向がリング6の周方向よりも内側に傾いており、その傾いた方向は図に矢印で示した一の回転方向にそろっている。この回転方向は、リング6が固定されたナット3をボディ2に対して緩むように回転させるときの回転方向と一致している(
図7参照)。ナット3にリング6を固定する際に爪61の方向をこのように設定することにより、目的とするナット3の緩み止めの効果が得られる。
【0030】
図2に示された本実施形態のリング6において、爪61はリング6の幅方向における中央部に形成されているが、他の実施形態では、爪61を形成する位置はこの位置に限られない。例えば、他の実施形態では、爪61は、リング6の幅方向の片側の端に形成してもよい。この場合、爪61をリング6の幅方向の中央部に形成する場合と比べて、爪61の切断加工や曲げ加工が容易になる。
【0031】
爪61の形状は、
図2に示されたような長方形に限られず、他の実施形態では、例えば、三角形、楕円形などの任意の形状であってもよい。ただし、爪61はリング6の厚さ方向に(リング6の内側方向)弾性変形できることが必要である。このため、爪61のうちボディ2の側に伸びた部分の形状は、リング6の幅方向における長さに比べて、リング6の周方向における長さの方が長いことが好ましい。
【0032】
本実施形態におけるメカニカル継手1において、ナット3がボディ2に対してパッキン4が圧縮される方向に締まろうとするときは、リング6が備える爪61はボディ2に設けられた歯5の上に乗り上がるよう弾性変形するため、爪61が歯5を乗り越えることができる(
図6参照)。このため、リング6及びナット3の回転は許容される。逆に、ナット3がボディ2に対してパッキン4の圧縮が解除される方向に緩もうとするときは、爪61の先端が歯5が備える壁51に引っ掛かって爪61を圧縮させようとする力がはたらくことによって、爪61は歯5の上に乗り上げることができない(
図7参照)。このため、爪61が歯5を乗り越えることができず、リング6及びナット3の回転は妨げられる。このように、弾性を有する爪61と壁51を備える歯5とが組み合わされることにより、ボディ2に対するナット3の回転を一方向にのみ許容する作用が生じる。
【0033】
本実施形態におけるメカニカル継手1において、リング6は、ナット3とは独立した板状の部材である。このため、従来技術におけるナットの一部である係止片を加工する場合に比べて爪を容易に加工することができ、加工後の爪の寸法精度も優れているので、メカニカル継手1の製品コストを低く抑えることができる。
【0034】
リング6を構成する板状の部材は、加工が容易で、適度な弾性を有し、耐食性にも優れた材料を用いることが好ましい。板状の部材には、例えば、ステンレス鋼である薄板などを用いることができる。板状の部材としてステンレス鋼の薄板を用いる場合、その厚さは0.3mm以上、1.0mm以下であることが好ましい。
【0035】
図3は、本実施形態におけるリング6を示す拡大された断面図である。
図3において、リング6は図の下方にある図示しないリング6の中心軸の周りに緩やかな円弧を描いており、リング6の一部である爪61がリング6の中心軸の側(リング6の内側)、すなわちナット3をボディ2にねじ込んだ時にボディ2が存在する側、に伸びている。
図3に例示された本実施形態において、爪61の伸びる方向は、リング6の中心軸に向かう成分を含み、かつ、リング6の周方向となす角度が45度である。他の実施形態では、爪61の伸びる方向は、20度以上、70度以下の範囲であることが好ましい。ここで、リング6の周方向とは、
図3に示されたリング6の長手方向のうち、リング6が固定されたナット3をボディ2に対して緩むように回転させるときの回転方向と一致する方向、すなわち
図3の右から左に向かう方向、をいう。
【0036】
ナット3をボディ2にねじ込んだ状態において、ナット3に固定されたリング6の中心軸とボディ2の中心軸とは一致する。したがって、上記の実施の形態において、爪61の先端が壁51の面に当接するので、爪61の先端が上下左右に滑ることなく壁51に引っ掛かる。したがって、ナット3がボディ2に対してパッキン4の圧縮が解除される方向に緩もうとするときは、壁51に対して接触した爪61の先端は、壁51の上を滑ることなく壁51に引っ掛かる。
【0037】
上記の実施の形態において、爪61の伸びる方向と、リング6の周方向とがなす角度、すなわち
図3において記号θで示された角度、が20度以上、70度以下である。この角度が20度未満であると、爪61の先端がリング6からボディ2の側に十分に伸びないので、ナット3がボディ2に対してパッキン4の圧縮が解除される方向に緩もうとするときに、爪61の先端が壁51に引っかからず、ナット3の回転を許容してしまうおそれがある。
【0038】
この角度が70度を超えると、ナット3がボディ2に対してパッキン4の圧縮が解除される方向に緩もうとするときに、爪61の先端が壁51に引っ掛かって爪61を圧縮させようとする力がはたらいても、爪61が壁51と反対の方向に変形して、ナット3の回転を許容してしまうおそれがある。したがって、この角度は20度以上、70度以下であることが好ましい。より好ましい角度の範囲は30度以上、60度以下である。
【0039】
爪61は、切り込みが入れられた部分のうちリング6と接続している部分から折り曲げられているが、切り込みが入れられた部分のうちリング6と接続している部分で急激に折り曲げるのではなく、
図3に例示するように、切り込みが入れられた部分のうちリング6と接続している部分から爪61の先端部に向かって徐々に緩やかなカーブを描くように折り曲げた方が、応力の集中が緩和されて爪61の耐久性が高まるので好ましい。この場合において、爪61の伸びる方向と、リング6の周方向とがなす角度とは、
図3に示すように、爪61の先端部における接線の方向と、リング6の周方向とがなす角度をいう。
【0040】
図2及び
図3に例示された本実施形態において、リング6は、環状に形成された板状の部材の一部が欠落した形状であり、ナット3の側(リング6の外側)に伸びたリング固定手段62を有する。リング固定手段62は、ナット3に設けられたリング固定穴32に固定される。ナット3に設けられたリング固定穴32については本実施形態のナット3を示す
図4の説明において後述する。
【0041】
リング6を、環状に形成された板状の部材の一部が欠落した形状を有するよう構成することにより、リング6の径が小さくなるように弾性変形させることが可能となる。リング6をそのように弾性変形させながらナット3の内径側にはめ込み、リング固定手段62をリング固定穴32に固定することによって、例えば
図1に示すようにリング6をナット3に固定することができる。
【0042】
リング固定手段62は、ナット3の内径側においてリング6がナット3に対して容易に回転しないようにリング6をナット3に固定する機能を有する。このため、リング固定手段62は複数設けることが好ましく、また、リング固定手段62を破壊しようとする力に対して十分な強度を有していることが好ましい。このため、リング固定手段62は、リング6における幅方向の長さに比べて、リング6における周方向の長さを短くすることが好ましい。
【0043】
リング固定手段62は、爪61と同様に、リング6と一体に形成される。爪61及びリング固定手段62をリング6と一体に形成すれば、製造コストを低減できるので好ましい。本実施形態では、爪61及びリング固定手段62をリング6の幅方向の中央部に形成するとき、
図2に示すように、リング6の全周にわたって爪61を形成するのではなく、リング6の一部に爪61を形成しない場所を残し、その場所にリング固定手段62を形成する。リング固定手段62をリング6と一体に形成する場合、ナット3の側に伸びたリング固定手段62の伸びる方向は、
図2及び
図3に示すように、爪61が伸びる方向とは逆の方向である方がナット3の緩み防止を確実に行うことができるので、好ましい。
【0044】
図4は、本実施形態におけるナット3を示す斜視図である。ナット3は、管Pを通す貫通穴31と、リング6を固定するためのリング固定穴32を有する。本実施形態では、ナット3に設けられたリング固定穴32は、
図4に示すように独立した貫通穴である。他の実施形態では、ナット3に設けられたリング固定穴32は、
図5に示すように、ナット3の端部から連続して形成された溝状の穴であってもよい。また、リング固定穴32は、貫通していない穴であってもよい。リング固定穴32を溝状の穴として形成した場合、リング6の径が小さくなるように弾性変形させることなくリング6をナット3に固定することができる。このため、リング固定手段62及びリング固定穴32の寸法公差を小さくすることができ、組み立て精度を高めることができる。また、ナット3の製造も容易となるので、好ましい。
【0045】
本実施形態において、リング固定手段62は、メカニカル継手1と管Pとの接合が完了した後にリング固定穴32による固定から解除することができる。リング固定手段62をリング固定穴32による固定から解除する方法としては、例えば、リング固定穴32に棒状の治具を差し込んでリング固定手段62の先端部を変形させながらボディ2に対してナット3が緩む方向に回転させる方法がある。あるいは、棒状の治具を用いずに、ナット3がボディ2に対して緩む方向に強いトルクを与えることによって、リング固定手段62の先端部を変形させたり破断させたりする方法がある。
【0046】
メカニカル継手1と管Pとの接合が完了した後にリング固定穴32による固定から解除する上述の機能は、従来技術に係るメカニカル継手にはなかった新規な機能である。この機能を有する本実施形態におけるメカニカル継手1では、一度施工した配管の一部の接合を解除して他の部材と交換したり、使用済みのメカニカル継手1のリング6のみを新品と交換することによって、メカニカル継手1として再利用することが可能となる。
【0047】
本実施形態におけるメカニカル継手1において、歯5の形状は、ボディ2に設けられ、ナット3が締まる方向に回転するときは爪61が乗り越えることができ、ナット3が緩む方向に回転するときは爪61が乗り越えることができないものであれば、どのような形状のものであってもよい。歯5の形状は、爪61との関係で、ナット3が緩む方向に回転するときは、爪61の先端が歯5が備える壁51に引っ掛かって爪61を圧縮させようとする力がはたらくような形状に設けることが好ましい。
【0048】
本実施形態におけるメカニカル継手1において、歯5はボディ2の全周にわたって設けることが好ましい。そうすることで、ボディ2に対して任意の回転位置においてナット3の締め付け動作を完了すると同時に、その回転位置においてナット3の緩み止め機能が発揮されるからである。一方、爪61については、リング6の全周にわたって歯5と同じピッチで設けてもよいし、歯5のピッチの倍数の間隔で設けてもよい。
【0049】
図6は、本実施形態における歯5を示す断面図である。
図6に例示された本実施形態における歯5は、ボディ2の一部がナット3の側(ボディ2の外側方向)に伸びた突起部である。壁51は、突起部の側面である。本実施形態では、歯5はボディ2の一部としてボディ2と一体に形成される。本実施形態における突起部は、ボディ2の中心軸に対して垂直な平面で切ったときの断面は、平歯車の歯のような形状を有している。また、突起部の先端は平坦である。このような突起部は、例えば、ボディ2に鋸刃状の係止片などの複雑な形状を有する部分を形成する場合に比べて、低いコストで製造することができる。
【0050】
図6及び
図7を用いて、本実施形態における歯5と爪61との相互作用を説明する。
図6において、実線の長い矢印は、ナット3がボディ2に対してパッキン4が圧縮される方向に締まろうとするときのナット3に固定されたリング6の回転方向を示している。この場合、リング6が備える爪61はボディ2に設けられた歯5の上に乗り上げながらリング6の厚さ方向(
図6に小さな矢印で示した方向)に弾性変形するため、爪61が歯5を乗り越えることができる。このため、リング6及びナット3の回転は許容される。
【0051】
図7において、破線の長い矢印は、ナット3がボディ2に対してパッキン4の圧縮が解除される方向に緩もうとするときのナット3に固定されたリング6の回転方向を示している。この場合、爪61の先端が歯5が備える壁51に引っ掛かって爪61を圧縮させようとする力(
図7に小さな矢印で示した力)がはたらくことによって、歯5の上に乗り上げることができない。このため、爪61が歯5を乗り越えることができず、リング6及びナット3の回転は妨げられる。このように、歯5と爪61との相互作用により、
図6の実線の矢印で示された方向の回転は許容され、
図7の破線の矢印で示された方向の回転は妨げられる。
【0052】
図6および
図7に示されたように、本実施形態における突起部は、ボディ2の中心軸に対して垂直な平面で切ったときの断面は、平歯車の歯のような形状を有していたが、本発明はこれに限られない。例えば、鋸刃状(
図12参照)であってもよい。
【0053】
また、メカニカル継手1は、
図1に示されるように、ボディ2は、外周面におねじ及びテーパ外周面を有し、ナット3は、内周面におねじと締め付け可能なめねじ及びテーパ外周面と向かい合うテーパ内周面を有し、パッキン4は、ボディ2のテーパ外周面に設けられた溝部にはめ込まれており、管の拡大部PLは、管の端部に設けられる。この実施の形態では、ナット3の貫通穴31に管を通し、管Pの端部に設けられた拡大部PLをテーパ外周面及びテーパ内周面とで挟み込んだ状態でナット3をボディ2にねじ込んで拡大部PLをテーパ外周面に押し当てることによりパッキン4が圧縮されて、ボディ2と管Pとのシールがなされる。
【0054】
この実施の形態では、管Pの端部に拡大部PLを設ける加工を施すだけでメカニカル継手1と管Pとの接合を確実に行うことができる。また、パッキン4は最初からボディ2に設けられているので、パッキン4を設けることを忘れるおそれがない。
【0055】
B.変形例:
図8は、他の実施形態における歯5の例を示す断面図である。
図8に例示された実施形態において、歯5は、ボディ2に固定された板状の部材に設けられた複数の貫通穴2h同士の間の部分である。壁51は、貫通穴2hの内側面である。この実施の形態では、リング6が備える爪61の先端は、貫通穴2hの側面である壁51とかみ合う。板状の部材で形成された歯は、ボディ2と一体に形成された歯と比べて低いコストで製造することができる。歯5を構成する板状の部材の厚さは、爪61を構成する板状の部材の厚さよりも厚くした方が、爪61の先端と穴を除く部分の側面とのかみ合いを確実に実現することができるので好ましい。
【0056】
図9は、他の実施形態における歯5の例を示す断面図である。
図9に例示された実施形態において、歯5は、ボディ2に固定された板状の部材からナット3の側(ボディ2の周方向よりも外側)に伸びた突起部であり、壁51は、突起部の側面である。この実施の形態では、歯5は板状の部材であり、リング6が備える爪61の先端は、突起部の側面である壁51とかみ合う。この突起部は、爪61と同様に、板状の部材と一体に形成することができ、ボディ2と一体に形成された歯と比べて低いコストで製造することができる。突起部の強度は爪61から伝わる力で変形しない程度の強度を有する必要がある。このため、歯5を構成する板状の部材の厚さは、爪61を構成する板状の部材の厚さよりも厚くすることが好ましい。突起部の高さは板状の部材における幅よりも低くすることが好ましい。
【0057】
図8及び
図9に示す実施形態において、歯5は、ボディ2の側に伸びた歯固定手段52を有する。歯固定手段52は、ボディ2の外周面に設けられた歯固定穴(図示せず)に固定される。
図8および
図9に示す実施形態では、歯5は貫通穴2h又は突起部が設けられた板状の部材であり、リング6をリング固定手段62によってナット3に固定する場合と同様に、歯固定手段52によってボディ2の歯固定穴に固定されている。リング固定手段62が、メカニカル継手1と管Pとの接合が完了した後にリング固定穴32による固定から解除することができるように構成されているときは、ナット3をボディ2から分離した後に、歯5の歯固定手段52をボディ2の歯固定穴から解除して歯5を取り外し、新しい歯5と交換することができる。
【0058】
図10は、他の実施形態におけるボディ2の遷移部21を示す断面図である。
図10に例示された実施形態において、ボディ2は、遷移部21が設けられている。この遷移部21は、ボディ2の中心軸に沿った方向においてボディ2の中央に向かうにつれてボディ2の外径が少しずつ大きくなるように設けられている。この実施の形態では、ナット3をボディ2にねじ込もうとするときに、リング6における爪61の先端が遷移部21の外周と接触しながら回転し、その回転に対する抵抗はナット3をねじ込むほど強くなる。この抵抗に逆らって手を使ってねじ込みを完了することができないように各部の寸法を設定することができる。
【0059】
上記の実施の形態において、ボディ2に遷移部21を設けた場合、手を使ってねじ込みを完了することができないので、水圧試験時に管Pとボディ2との隙間から流体が漏れて、ねじ込みの未完了を検知することができる。パイプレンチなどの工具を使用してナット3をボディ2にねじ込んだ場合には、工具の使用によりナット3に強いトルクを与えることができるので、上記の遷移部21による抵抗に逆らってナット3をねじ込むことができる。この場合、爪61の先端が歯5にかかって動作音が発生する。動作音の発生を確認しながら、ナット3が止まるまで工具による締め付けを行うことにより、ねじ込みを完了することができる。また、ボディ2の一部に、ねじ込みの完了によって隠れるインジケータを設けてもよい。
【0060】
以上説明してきた各実施形態におけるメカニカル継手1は、爪61を有するリング6をナット3に固定し、歯5をボディ2に設ける構成であった。この構成とは逆に、爪61を有するリング6をボディ2に固定し、歯5をナット3に設ける構成としても、全く同様の効果を得ることができる。すなわち、本発明に係るメカニカル継手1の他の実施の形態として、メカニカル継手1は、ボディ2に固定された板状の部材であり、ナット3の側に伸びた爪61を備えたリング6と、ナット3の周方向に連続して設けられた歯5であって、ナット3の中心軸に平行な面でなる壁51を備える歯5とをさらに有することを特徴とするメカニカル継手1であってもよい。この実施の形態によりメカニカル継手1の設計の自由度が高まるので、好ましい。
【0061】
C.第2実施形態:
図12は、他の実施形態におけるメカニカル継手1aを示す説明図である。
図13は、屈曲部材7がナット3に固定されている状態を示す説明図である。メカニカル継手1aは、リング6の代わりに屈曲部材7を有する点がメカニカル継手1とは異なる。
図12に例示された実施形態において、屈曲部材7は、ナット3の周側面に設けられた固定穴3hを通る第1の部分71と、第1の部分71における一方の端部と接続してナット3の外側においてナット3の周方向に沿って伸びた第2の部分72と、第1の部分71における他方の端部と接続してナット3の内側においてナット3の周方向に沿って伸びた第3の部分73と、第3の部分73のうち第1の部分71と接続している端部とは反対方向における端部からナット3の内側に向けて屈曲した第4の部分74とを備える棒状の部材である。屈曲部材7は、棒状の部材でなく、帯状の部材であってもよい。
図12および
図13では、ナット3に設けられた固定穴3hは、ナット3の端部から連続して形成された溝状の穴である。別の実施形態では、ナット3の端部において独立した貫通穴であってもよい。
【0062】
屈曲部材7は、第1の部分71と第2の部分72と第3の部分73とがナット3の内周面から外周面にかけて引っ掛かることによって、ナット3に固定される。屈曲部材7は、ナット3に固定された状態において、ナット3がボディ2に対してパッキン4が圧縮される方向に締まろうとするときは、屈曲部材7が備える第4の部分74はボディ2に設けられた歯5の上に乗り上がるよう弾性変形するため、第4の部分74が歯5を乗り越えることができる。このため、屈曲部材7及びナット3の回転は許容される。
【0063】
逆に、ナット3がボディ2に対してパッキン4の圧縮が解除される方向に緩もうとするときは、第4の部分74の先端が歯5が備える壁51に引っ掛かって第4の部分74を圧縮させようとする力がはたらくことによって、第4の部分74は歯5の上に乗り上げることができない。このため、第4の部分74が歯5を乗り越えることができず、屈曲部材7及びナット3の回転は妨げられる。このように、第4の部分74と壁51を備える歯5とが組み合わされることにより、ボディ2に対するナット3の回転を一方向にのみ許容する作用が生じる。
【0064】
棒状の部材または帯状の部材を切断および曲げ加工するだけで第1実施形態における爪61と同等の作用を奏する屈曲部材7を実現することができるので、製造がさらに容易で、製造コストの低減に有効である。
【0065】
屈曲部材7を構成する棒状の部材または帯状の部材の断面形状は、円よりも矩形が望ましい。棒状の部材または帯状の部材の断面形状が矩形である場合、断面形状が円であるものと比べて、屈曲部材7が回転しにくくなるため、ラチェットの作用をより確実に奏することができる。例えば、屈曲部材7の断面は、厚さが0.5mm、幅が3mmの矩形とすることができる。
【0066】
本発明に係るメカニカル継手を製造する方法は、リング6の形成を金型を用いた切断加工及び曲げ加工により行う。爪61を有するリング6は、本発明に係るメカニカル継手に特徴的な形状を有する部材であるが、この部材を金型で加工することにより、寸法精度の高いリング6を短時間で製造することができるので、製造コストを低減することができる。金型は、例えばダイスとパンチとで構成することができ、切断加工と曲げ加工にはそれぞれ異なる金型を使用することができる。
【0067】
本発明に係るメカニカル継手であって、歯は、ボディからナットの側に伸びた突起部であり、壁は、突起部の側面であるメカニカル継手を製造する方法は、歯5の形成を転造型を用いた転造加工により行ってもよい。転造型とは、歯5の突起部の形状を有する工具鋼である回転体であり、これをボディ2に押し付けながら回転することにより突起部の形成を行うことができる。転造型を用いて突起部を形成する方法は、切削加工などにより突起部を形成する場合に比べて寸法精度が高いので、製造コストを低減することができる。