特許第6725113号(P6725113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725113
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】アクリル系フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/10 20060101AFI20200706BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20200706BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20200706BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200706BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200706BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C08L33/10
   C08L51/06
   C08L69/00
   C08J5/18CEY
   B32B27/30 A
   G02B5/30
【請求項の数】10
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-560117(P2016-560117)
(86)(22)【出願日】2015年10月16日
(86)【国際出願番号】JP2015079362
(87)【国際公開番号】WO2016080124
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2018年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-234677(P2014-234677)
(32)【優先日】2014年11月19日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】辻 和尊
(72)【発明者】
【氏名】東田 昇
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 享
(72)【発明者】
【氏名】干場 孝男
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−028763(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/182750(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/057079(WO,A1)
【文献】 特開2010−024338(JP,A)
【文献】 特開2002−327012(JP,A)
【文献】 特開2003−246791(JP,A)
【文献】 特開平06−093049(JP,A)
【文献】 特開2014−051649(JP,A)
【文献】 特開2012−093724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00−33/26
C08F 20/00−20/70
C08F 297/00−297/08
B32B 27/00−27/42
C08J 5/18
C08L 51/00−53/02
C08L 69/00
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が65%以上であるメタクリル樹脂〔1〕と、アクリル酸エステルに由来する構造単位を30質量%以上含有するエラストマー成分〔2〕とを、メタクリル樹脂〔1〕/エラストマー成分〔2〕の質量比60/40〜99/1の割合で含有するメタクリル樹脂組成物からなるアクリル系フィルムであって、
当該メタクリル樹脂〔1〕の分子量分布が1.5以下であり、
当該エラストマー成分〔2〕として、コアシェル型グラフト共重合体を含有し、
当該アクリル系フィルムの薄片をリンタングステン酸染色した際の前記エラストマー成分〔2〕に由来する分散相の長径が10〜300nmであることを特徴とするアクリル系フィルム。
【請求項2】
前記メタクリル樹脂〔1〕/エラストマー成分〔2〕の質量比が80/20〜99/1であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系フィルム。
【請求項3】
前記エラストマー成分〔2〕として、メタクリル酸エステルを主成分とする構造単位を有する重合体(b1)と、アクリル酸エステルからなる構造単位を有する重合体(b2)と、の組み合わせからなるブロック共重合体を含有する請求項1または2に記載のアクリル系フィルム。
【請求項4】
前記メタクリル樹脂組成物が紫外線吸収剤をさらに含有する請求項1〜3のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルム。
【請求項5】
前記メタクリル樹脂組成物が、前記メタクリル樹脂〔1〕および前記エラストマー成分〔2〕の合計量100質量部に対して、ポリカーボネート樹脂1〜10質量部をさらに含有する、請求項1〜4のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルムを用いた積層フィルム。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルムからなる偏光子保護フィルム。
【請求項8】
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が65%以上であるメタクリル樹脂〔1〕と、アクリル酸エステルに由来する構造単位を30質量%以上含有するエラストマー成分〔2〕とを、メタクリル樹脂〔1〕/エラストマー成分〔2〕の質量比60/40〜99/1の割合で溶融混練してメタクリル樹脂組成物を得、当該メタクリル樹脂組成物を成形してなるアクリル系フィルムの製造方法であって、
当該メタクリル樹脂〔1〕の分子量分布が1.5以下であり、
当該エラストマー成分〔2〕として、コアシェル型グラフト共重合体を含有し、
当該アクリル系フィルムの薄片をリンタングステン酸染色した際の前記エラストマー成分〔2〕に由来する分散相の長径が10〜300nmであることを特徴とするアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記アクリル系フィルムをさらに延伸することを特徴とする、請求項8に記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【請求項10】
ポリカーボネート樹脂をさらに溶融混練して、前記メタクリル樹脂組成物を得ることを有する、請求項8または9に記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル樹脂組成物からなるアクリル系フィルムに関し、より詳細には、透明性が高く、耐折曲げ白化性、高剛性、耐熱性強度が高く且つ表面平滑性に優れるアクリル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂は、高い透明性を有し、光学部材、照明部材、看板部材、装飾部材等に用いる成形体の材料として有用である。しかし、ガラス転移温度が約110℃と低いため、該メタクリル樹脂からなる成形体は熱によって変形しやすいという問題を有している。
【0003】
ガラス転移温度が高いメタクリル樹脂として、シンジオタクティシティが高いメタクリル樹脂が知られている。シンジオタクティシティが高いメタクリル樹脂の製造方法としては、アニオン重合による方法が挙げられる(特許文献1、2参照)。また、シンジオタクティシティが高いメタクリル樹脂に多層構造の強化剤を配合して耐衝撃強度および曲げ強度を改良した樹脂組成物が知られている(特許文献3)。またメタクリル樹脂にアクリル系ブロック共重合体を配合したアクリル系フィルムも知られている(特許文献4)。
【0004】
しかしながら、特許文献3の技術ではその好適な強化剤についての開示が十分でない。また、特許文献4の技術では、耐熱性が十分でなく、得られるアクリル系フィルムの用途が限られていた。
【0005】
また、近年、液晶表示装置などの薄膜化の進行に伴い、偏光子保護フィルムなどに使用されるフィルムも薄膜化が進んでいる。そのような状況下、従来使用されてきたトリアセチルセルロースからなるフィルムは透湿度が高いため、薄膜化するにしたがって、偏光子の品質低下を引き起こすという問題があった。そこでトリアセチルセルロースに変わる偏光子保護フィルムの開発が液晶表示装置の薄型化において課題となっていた。
【0006】
そこで、新たな偏光子保護フィルムの候補としてアクリル系フィルムが検討されているが、アクリル系フィルムは脆い上、薄膜化によりフィルム自体の剛性が低下し、表面硬度の低下を招くなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−263412号公報
【特許文献2】特開2002−327012号公報
【特許文献3】特開平6−287398号公報
【特許文献4】国際公開公報2014/073216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、透明性が高く、ガラス転移温度が高く、耐薬品性、耐白化性を有し、表面硬度の高いアクリル系フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。以下にその態様を述べる。
【0010】
(1):三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が65%以上であるメタクリル樹脂〔1〕と、アクリル酸エステルに由来する構造単位を30質量%以上含有するエラストマー成分〔2〕とを、メタクリル樹脂〔1〕/エラストマー成分〔2〕の質量比60/40〜99/1の割合で含有するメタクリル樹脂組成物からなるアクリル系フィルムであって、
当該アクリル系フィルムの薄片をリンタングステン酸染色した際の前記エラストマー成分〔2〕に由来する分散相の長径が10〜300nmであることを特徴とするアクリル系フィルム。
【0011】
(2):メタクリル樹脂〔1〕の分子量分布が1.5以下であることを特徴とする(1)に記載のアクリル系フィルム
(3):前記メタクリル樹脂〔1〕/エラストマー成分〔2〕の質量比が80/20〜99/1であることを特徴とする(1)または(2)に記載のアクリル系フィルム
(4):前記エラストマー成分〔2〕として、メタクリル酸エステルを主成分とする構造単位を有する重合体(b1)と、アクリル酸エステルからなる構造単位を有する重合体(b2)と、の組み合わせからなるブロック共重合体を含有する(1)〜(3)のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルム。
(5):前記エラストマー成分〔2〕として、コアシェル型グラフト共重合体を含有す
る(1)〜(4)のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルム。
【0012】
(6):前記メタクリル樹脂組成物が紫外線吸収剤をさらに含有する(1)〜(5)のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルム。
(7):前記メタクリル樹脂組成物が、前記メタクリル樹脂〔1〕および前記エラストマー成分〔2〕の合計量100質量部に対して、ポリカーボネート樹脂1〜10質量部をさらに含有する、(1)〜(6)のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルム。
【0013】
(8):(1)〜(7)のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルムを用いた積層フィルム。
(9):(1)〜(7)のいずれかひとつに記載のアクリル系フィルムからなる偏光子保保護フィルム。
【0014】
(10):三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が65%以上であるメタクリル樹脂〔1〕と、アクリル酸エステルに由来する構造単位を30質量%以上含有するエラストマー成分〔2〕とを、メタクリル樹脂〔1〕/エラストマー成分〔2〕の質量比60/40〜99/1の割合で溶融混練してメタクリル樹脂組成物を得、当該メタクリル樹脂組成物を成形してなるアクリル系フィルムの製造方法であって、当該アクリル系フィルムの薄片をリンタングステン酸染色した際の前記エラストマー成分〔2〕に由来する分散相の長径が10〜300nmであることを特徴とするアクリル系フィルムの製造方法。
(11)前記アクリル系フィルムをさらに延伸することを特徴とする、(10)に記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【0015】
(12):ポリカーボネート樹脂をさらに溶融混練して、前記メタクリル樹脂組成物を得ることを有する、(10)または(11)に記載のアクリル系フィルムの製造方法。
(13):メタクリル酸エステルを主成分とする構造単位を有する重合体(b1)を構成する単量体を重合する工程と、アクリル酸エステルを主成分とする構造単位を有する重合体(b2)を構成する単量体を重合する工程とを含むことによって、ブロック共重合体(B)を製造し、これを前記エラストマー成分〔2〕として含有する(10)〜(12)に記載のアクリル系フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアクリル系フィルムは、透明性が高く、ガラス転移温度が高く、耐薬品性、耐白化性を有し、表面硬度が高い。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のアクリル系フィルムはメタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕とを含有するメタクリル樹脂組成物からなる。言い換えれば、本発明のアクリル系フィルムはメタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕とからなる。
【0018】
メタクリル樹脂〔1〕は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が、65%以上、好ましくは70〜90%、より好ましくは72〜85%である。かかるシンジオタクティシティが65%以上であることで、本発明のメタクリル樹脂組成物のガラス転移温度を高くすることができ、耐熱性に優れた組成物となる。また、耐薬品性に優れる傾向となる。
【0019】
ここで、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(以下、単に「シンジオタクティシティ(rr)」と称することがある。)は、連続する3つの構造単位の連鎖(3連子、triad)が有する2つの連鎖(2連子、diad)が、ともにラセモ(rrと表記する)である割合である。なお、ポリマー分子中の構造単位の連鎖(2連子、diad)において立体配置が同じものをメソ(meso)、逆のものをラセモ(racemo)と称し、それぞれm、rと表記する。三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(%)は、重水素化クロロホルム中、30℃で1H−NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の0.6〜0.95ppmの領域の面積(X)と0.6〜1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、式:(X/Y)×100にて算出することができる。
【0020】
本発明のアクリル系フィルムに含有するメタクリル樹脂〔1〕の量は60〜99質量%が好ましく、高いガラス転移温度および良好な成形加工性を両立させる観点から70〜99質量%がより好ましく、80〜99質量%がさらに好ましい。60質量%未満であるとアクリル系フィルムの表面硬度や剛性が低下し好ましくない。99質量%を越えるとアクリル系フィルムの打ち抜き加工性などの靭性が損なわれるので好ましくない。
【0021】
メタクリル樹脂〔1〕の重量平均分子量(以下、単に「Mw」と称することがある)は、好ましくは40000〜150000、より好ましくは40000〜120000、さらに好ましくは50000〜100000である。Mwが40000未満ではアクリル系フィルムの打ち抜き加工性などの靭性が低下する傾向となり、150000を越えるとフィルム成形が困難になり加工条件範囲が狭くなる傾向にある。
【0022】
メタクリル樹脂〔1〕は、Mwと数平均分子量(以下、単に「Mn」と称することがある。)の比(Mw/Mn、以下、この値を「分子量分布」と称することがある。)が、好ましくは1.01〜1.8、より好ましくは1.03〜1.5、さらに好ましくは1.05〜1.3である。このような範囲内にある分子量分布を有するメタクリル樹脂〔1〕を用いると、力学強度に優れ、特に高温時の力学特性、クリープ特性に優れた成形体を得易くなる。また、耐薬品性に優れたフィルムを得易くなる。MwおよびMnは、メタクリル樹脂〔1〕の製造の際に使用する重合開始剤の種類や量を調整することによって制御できる。なお、MwおよびMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0023】
メタクリル樹脂〔1〕のガラス転移温度は、好ましくは125℃以上、より好ましくは128℃以上、さらに好ましくは130℃以上である。メタクリル樹脂〔1〕のガラス転移温度の上限は好ましくは140℃である。ガラス転移温度は、分子量やシンジオタクティシティ(rr)などを調節することによって制御することができる。メタクリル樹脂〔1〕のガラス転移温度が高くなるにしたがって、得られるメタクリル樹脂組成物のガラス転移温度が高くなり、該メタクリル樹脂組成物からなるアクリル系フィルムは熱収縮などの変形が起こり難い。
【0024】
メタクリル樹脂〔1〕は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。かかるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル;が挙げられる。これらのうち、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0025】
メタクリル樹脂〔1〕は、上記したメタクリル酸エステルに由来する構造単位のうち、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0026】
メタクリル樹脂〔1〕に含有し得る、メタクリル酸エステルに由来する構造単位以外の構造単位としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;などの一分子中に重合性の炭素−炭素二重結合を一つだけ有するビニル系単量体に由来する構造単位が挙げられる。
【0027】
メタクリル樹脂〔1〕の製造方法に特に制限はない。生産性の観点からは、アニオン重合法において、重合温度、重合時間、連鎖移動剤の種類や量、重合開始剤の種類や量などを調整することによって、メタクリル樹脂〔1〕を製造する方法が好ましい。
【0028】
かかるアニオン重合法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法(特公平7−25859号参照)、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤とし有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法(特開平11−335432号参照)、有機希土類金属錯体を重合開始剤としてアニオン重合する方法(特開平6−93060号参照)などが挙げられる。
【0029】
メタクリル樹脂〔1〕の製造のためのアニオン重合法においては、重合開始剤としてn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウムを用いることが好ましい。また、生産性の観点から有機アルミニウム化合物を共存させることが好ましい。有機アルミニウムとしては、下記式:
【0030】
AlR1R2R3(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアルコキシル基、置換基を有してもよいアリールオキシ基またはN,N−二置換アミノ基を表す。さらに、R2およびR3は、それらが結合してなる、置換基を有していてもよいアリーレンジオキシ基であってもよい。)で表わされる化合物が挙げられる。
【0031】
有機アルミニウム化合物の具体例としては、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチル〔2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノキシ)〕アルミニウム等が挙げられる。また、アニオン重合法においては、重合反応を制御するために、エーテルや含窒素化合物などを共存させることもできる。
【0032】
本発明のアクリル系フィルムに含有するエラストマー成分〔2〕は、アクリル酸エステルに由来する構造単位を30質量%以上含有することが重要である。30質量%未満であると、得られるアクリル系フィルムの靭性が劣り、たとえば打ち抜き試験等により欠けや割れが生じやすくなり好ましくない。エラストマー成分〔2〕におけるアクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量は、好ましくは35%質量以上、90質量%以下、より好ましくは40質量%以上、80質量%以下である。
【0033】
かかるアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル;が挙げられ、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸ブチルが最も好ましい。
【0034】
エラストマー成分〔2〕に含有し得る、アクリル酸エステルに由来する構造単位以外の構造単位としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシルなどのメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルネニルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド;メタクリルアミド;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;などの一分子中に重合性の炭素−炭素二重結合を一つだけ有するビニル系単量体に由来する構造単位が挙げられる。
【0035】
本発明のアクリル系フィルムにおけるエラストマー成分〔2〕に由来する分散相の分散の形態は、特に制約はなく、例えば球状、楕円体状、棒状、扁平体状、ひも状のなどが挙げられる。エラストマー成分〔2〕に由来する分散相の大きさ、特に、分散相の長径の大きさは、透明性、耐折り曲げ白化性などのフィルム性能に影響するため重要である。このため、本発明のアクリル系フィルムの薄片をリンタングステン酸した際の該エラストマー成分〔2〕の分散相の長径の大きさが10〜300nmであることが重要である。分散相の長径の大きさは以下の方法で測定する。
【0036】
リンタングステン酸染色の測定に使用する薄片は次の方法で2つ用意する。ミクロトームにてフィルムの厚み方向でかつフィルムの押出し方向で切り出し薄片Aを得る。ミクロトームにてフィルムの厚み方向でおよび押出し垂直方向で切り出して薄片Bを得る。薄片AおよびBをそれぞれリンタングステン酸溶液で染色し、透過型電子顕微鏡で観察する。薄片Aにおいてはフィルムの押出し方向で染色された分散相を100個抽出し、長径の平均をとり、その長径平均値(A-Av)を求める。薄片Bにおいてはフィルムの押出し垂直方向で染色された分散相を100個抽出し、長径の平均をとり、その長径平均値(B-Av)を求める。長径平均値(A-Av)および長径平均値(B-Av)のうち大きい方をエラストマー成分〔2〕に由来する分散相の長径とする。尚、リンタングステン酸で染色することで、特にアクリル酸ブチルが効果的に染色され、エラストマー成分〔2〕の分散相の状態を正確に把握できる。
【0037】
上記測定法によるエラストマー成分〔2〕に由来する分散相の長径の大きさが10nm未満では、透明性は優れるものの、脆くなるため好ましくない。一方、300nmを越えると透明性、折り曲げ白化性が悪化するため好ましくない。当該値は、好ましくは50nm以上、290nm以下、より好ましくは100nm以上、270nm以下である。
【0038】
本発明のアクリル系フィルムに含有するエラストマー成分〔2〕の量は、40〜1質量%が好ましく、30〜1質量%、更に好ましくは、20〜1質量%である。エラストマー成分が40質量%を超える耐薬品性と耐熱性が低下して好ましくなく、一方、1質量%より少ないと靭性が損なわれ、好ましくない。なお、本発明のアクリル系フィルムを延伸する場合、エラストマー成分〔2〕の量を低減しても打ち抜き性を維持することができる。そのため延伸された本発明のアクリル系フィルムにおいては、エラストマー成分〔2〕の含有量は好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
【0039】
エラストマー成分〔2〕としては、アクリル酸エステルに由来する構造単位を30質量%以上含有するものであれば特に制約はなく、直鎖の重合体、コアシェル型を含むグラフト共重合体、ソフトブロックとハードブロックからなるブロック共重合体などが挙げられ、その混合物でも良い。このうち、ソフトブロックとハードブロックからなるブロック共重合体およびコアシェル型グラフト共重合体およびその混合物が、他の物性を損なうことなく耐衝撃性や靭性を賦与できる点で好ましい。
【0040】
エラストマー成分〔2〕の低温側のガラス転移温度は好ましくは、20℃以下、更に好ましくは、−20℃以下である。20℃以上であると、打ち抜き加工性などの靭性が損なわれるので好ましくない。
【0041】
本発明のアクリル系フィルムに含有するメタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕の合計量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98.5質量%以上である。
【0042】
メタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕とのみを練り合わせたものは、230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートが、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.2〜30g/10分、さらに好ましくは0.5〜20g/10分、最も好ましくは1.0〜10g/10分である。
【0043】
また、メタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕とのみを練り合わせたものは、ガラス転移温度が、好ましくは120℃以上、より好ましくは123℃以上、さらに好ましくは124℃以上、最も好ましくは130℃以上である。
【0044】
本発明に用いるエラストマー成分〔2〕としての好ましい一形態である、ブロック共重合体について説明する。
【0045】
本発明に用いるエラストマー成分〔2〕として使用できるブロック共重合体(B)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)とを有するブロック共重合体である。ブロック共重合体(B)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を1つのみ有していても、複数有していてもよい。また、ブロック共重合体(B)は、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を1つのみ有していても、複数有していてもよい。
【0046】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、メタクリル酸エステルを主成分とする構造単位を有する重合体である。メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)におけるメタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0047】
かかるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性、耐熱性を向上させる観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。これらメタクリル酸エステルを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて重合することによって、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を形成できる。
【0048】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、メタクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)に含まれるメタクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位の割合は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下の範囲である。
【0049】
かかるメタクリル酸エステル以外の単量体としては、例えば、アクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらメタクリル酸エステル以外の単量体を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて、前述のメタクリル酸エステルと伴に共重合することによって、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を形成できる。
【0050】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、屈折率が1.485〜1.495の範囲となる重合体で構成されていることが、メタクリル樹脂組成物の透明性を高める観点から好ましい。
【0051】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量は、好ましくは5,000以上150,000以下、より好ましくは8,000以上120,000以下、さらにより好ましくは12,000以上100,000以下である。
【0052】
ブロック共重合体(B)中にメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)が複数ある場合、それぞれのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を構成する構造単位の組成比や分子量は、相互に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)が複数ある場合、そのうちの最大の重量平均分子量Mw(b1)は、好ましくは12,000以上150,000以下、より好ましくは15,000以上120,000以下、さらに好ましくは20,000以上100,000以下である。ブロック共重合体(B)中にメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を1つのみ有する場合は、該メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量がMw(b1)となる。また、ブロック共重合体(B)中にメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を複数有する場合であって、該複数のメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量が互いに同じである場合は、かかる重量平均分子量がMw(b1)となる。
【0054】
本発明に用いるメタクリル樹脂組成物においては、メタクリル樹脂〔1〕の重量平均分子量Mw〔1〕のMw(b1)に対する比、すなわちMw〔1〕/Mw(b1)は、0.5以上2.5以下、好ましくは0.6以上2.3以下、より好ましくは0.7以上2.2以下である。Mw〔1〕/Mw(b1)が0.5を下回ると、メタクリル樹脂組成物から作製したアクリル系フィルムの耐衝撃性が低下、また表面平滑性が低下する傾向がある。一方、Mw〔1〕/Mw(b1)が大きすぎると、メタクリル樹脂組成物から作製した成形品の表面平滑性およびヘイズの温度依存性が悪化する傾向がある。Mw〔1〕/Mw(b1)が上記範囲にある場合は、ブロック共重合体(B)のメタクリル樹脂(A)中での分散相の大きさが小さくなるので、温度変化によらず低いヘイズを示すこととなり、広い温度範囲においてヘイズの変化が小さくなると考えている。
【0055】
ブロック共重合体(B)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の割合は、透明性、柔軟性、成形加工性、表面平滑性の観点から、好ましくは40質量%以上90質量%以下、より好ましくは45質量%以上80質量%以下である。ブロック共重合体(B)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の割合が上記範囲内にあると、本発明のメタクリル樹脂組成物またはそれからなる成形品の透明性、可撓性、耐屈曲性、耐衝撃性、柔軟性などに優れる。ブロック共重合体(B)にメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)が複数含まれる場合には、上記の割合は、すべてのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の合計質量に基づいて算出する。
【0056】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、アクリル酸エステルを主成分とする構造単位を有する重合体である。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)におけるアクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0057】
かかるアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどが挙げられる。これらアクリル酸エステルを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて重合することによって、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を形成できる。
【0058】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、アクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよい。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)に含まれるアクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位の割合は、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0059】
かかるアクリル酸エステル以外の単量体としては、メタクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらアクリル酸エステル以外の単量体を1種単独でまたは2種以上を組み合わせて、前述のアクリル酸エステルと伴に共重合することによって、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を形成できる。
【0060】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、本発明に用いるメタクリル系樹脂組成物の屈折率を調整したり、透明性を向上させたりする観点などから、アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸芳香族エステルとからなることが好ましい。アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシルなどが挙げられる。これらのうち、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0061】
(メタ)アクリル酸芳香族エステルはアクリル酸芳香族エステルまたはメタクリル酸芳香族エステルを意味し、芳香環を含む化合物が(メタ)アクリル酸にエステル結合して成る。かかる(メタ)アクリル酸芳香族エステルとしては、例えば、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸スチリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸スチリルなどが挙げられる。中でも、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ベンジルが好ましい。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が、アクリル酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸芳香族エステルとからなる場合、該アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位50〜90質量%と(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位50〜10質量%とを含むことが好ましく、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位60〜80質量%と(メタ)アクリル酸芳香族エステルに由来する構造単位40〜20質量%とを含むことがより好ましい。
【0062】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、屈折率が1.485〜1.495の範囲となる重合体で構成されていることが、本発明に用いるメタクリル樹脂組成物の透明性を高める観点から好ましい。
【0063】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量は、5,000以上120,000以下、好ましくは15,000以上110,000以下、より好ましくは30,000以上100,0000以下である。
【0064】
ブロック共重合体(B)中にアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が複数ある場合、それぞれのアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を構成する構造単位の組成比や分子量は、相互に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0065】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が複数ある場合、そのうちの最大の重量平均分子量Mw(b2)は、3 0 , 0 0 0 以上1 2 0 , 0 0 0 以下、好ましくは40 , 0 0 0 以上1 1 0 , 0 0 0 以下、より好ましくは5 0 , 0 0 0 以上1 0 0 , 0 0 0 0 以下である。Mw(b2)が小さいと、メタクリル樹脂組成物から作製したアクリル系フィルムの耐衝撃性が低下する傾向がある。一方、Mw(b2)が大きいと、メタクリル樹脂組成物から作製した成形品の表面平滑性が低下する傾向がある。ブロック共重合体(B)中にクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を1つのみ有する場合は、該クリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量がMw(b2)となる。また、ブロック共重合体(B)中にクリル酸エステル重合体ブロック(b)を複数有する場合であって、該複数のクリル酸エステル重合体ブロック(b)の重量平均分子量が互いに同じである場合は、かかる重量平均分子量がMw(b2)となる。
【0066】
なお、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量およびアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量は、ブロック共重合体(B)を製造する過程において、重合中および重合後にサンプリングを行なって測定した中間生成物および最終生成物(ブロック共重合体(B))の重量平均分子量から算出される値である。各重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0067】
ブロック共重合体(B)におけるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の割合は、透明性、柔軟性、成形加工性、表面平滑性の観点から、好ましくは10質量%以上60質量%以下、より好ましくは20質量%以上55質量%以下である。ブロック共重合体(B)におけるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の割合が上記範囲内にあると、本発明のメタクリル樹脂組成物またはそれからなる成形品の耐衝撃性、柔軟性などに優れる。ブロック共重合体(B)にアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が複数含まれる場合には、上記の割合は、すべてのアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の合計質量に基づいて算出する。
【0068】
ブロック共重合体(B)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)との結合形態によって特に限定されない。例えば、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の一末端にアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の一末端が繋がったもの((b1)−(b2)構造のジブロック共重合体);メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の両末端のそれぞれにアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の一末端が繋がったもの((b2)−(b1)−(b2)構造のトリブロック共重合体);アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の両末端のそれぞれにメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の一末端が繋がったもの((b1)−(b2)−(b1)構造のトリブロック共重合体)などのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)とが直列に繋がった構造のブロック共重合体が挙げられる。
【0069】
また、複数の(b1)−(b2)構造のブロック共重合体の一末端が繋がって放射状構造を成したブロック共重合体([(b1)−(b2)−]nX構造);複数の(b2)−(b1)構造のブロック共重合体の一末端が繋がって放射状構造を成したブロック共重合体([(b2)−(b1)−]nX構造);複数の(b1)−(b2)−(b1)構造のブロック共重合体の一末端が繋がって放射状構造を成したブロック共重合体([(b1)−(b2)−(b1)−]nX構造);複数の(b2)−(b1)−(b2)構造のブロック共重合体の一末端が繋がって放射状構造を成したブロック共重合体([(b2)−(b1)−(b2)−]nX構造)などの星型ブロック共重合体や、分岐構造を有するブロック共重合体などが挙げられる。なお、ここでXはカップリング剤残基を表す。これらのうち、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、星型ブロック共重合体が好ましく、(b1)−(b2)構造のジブロック共重合体、(b1)−(b2)−(b1)構造のトリブロック共重合体、[(b1)−(b2)−]nX構造の星形ブロック共重合体、[(b1)−(b2)−(b1)−]nX構造の星形ブロック共重合体がより好ましい。
【0070】
また、ブロック共重合体(B)は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)以外の重合体ブロック(b3)を有するものであってもよい。重合体ブロック(b3)を構成する主たる構造単位はメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位である。かかる単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p-メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミド、ε−カプロラクトン、バレロラクトンなどを挙げることができる。
【0071】
かかるブロック共重合体(B)における、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)および重合体ブロック(b3)の結合形態は特に限定されない。メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)および重合体ブロック(b3)からなるブロック共重合体(B)の結合形態としては、例えば、(b1)−(b2)−(b1)−(b3)構造のブロック共重合体、(b3)−(b1)−(b2)−(b1)−(b3)構造のブロック共重合体などが挙げられる。ブロック共重合体(B)中に重合体ブロック(b3)が複数ある場合、それぞれの重合体ブロック(b3)を構成する構造単位の組成比や分子量は、相互に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0072】
ブロック共重合体(B)は、必要に応じて、分子鎖中または分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物、アミノ基などの官能基を有していてもよい。
【0073】
ブロック共重合体(B)の重量平均分子量Mw(B)は、好ましくは52,000以上400,000以下、より好ましくは60,000以上300,000以下である。ブロック共重合体(B)の重量平均分子量が小さいと、溶融押出成形において十分な溶融張力を保持できず、良好なアクリル系フィルムが得られにくく、また得られたアクリル系フィルムの破断強度などの力学物性が低下する傾向がある。一方、ブロック共重合体(B)の重量平均分子量が大きいと、溶融樹脂の粘度が高くなり、溶融押出成形で得られるアクリル系フィルムの表面に微細なシボ調の凹凸や未溶融物(高分子量体)に起因するブツが発生し、良好な板状成形体が得られにくい傾向がある。
【0074】
また、ブロック共重合体(B)の分子量分布は、好ましくは1.01以上2.00以下、より好ましくは1.05以上1.60以下である。このような範囲内に分子量分布があることにより、本発明のアクリル系フィルムにおけるブツの発生原因となる未溶融物の含有量を極めて少量とすることができる。なお、分子量分布は、重量平均分子量と数平均分子量の比であり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の分子量から求める値である。
【0075】
前記ブロック共重合体(B)の屈折率は、好ましくは1.485〜1.495、より好ましくは1.487〜1.493である。屈折率がこの範囲内であると、メタクリル樹脂組成物の透明性が高くなる。なお、本明細書で「屈折率」とは、後述する実施例のとおり、測定波長587.6nm(d線)で測定した値を意味する。
【0076】
ブロック共重合体(B)の製造方法は、特に限定されず、公知の手法に準じた方法を採用することができる。例えば、各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法が一般に使用される。このようなリビング重合の手法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、有機希土類金属錯体を重合開始剤として用い重合する方法、α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として用い銅化合物の存在下ラジカル重合する方法などが挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、各ブロックを構成するモノマーを重合させ、本発明に用いられるブロック共重合体(B)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。これらの方法のうち、特に、ブロック共重合体(B)が高純度で得られ、また分子量や組成比の制御が容易であり、かつ経済的であることから、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用い有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法が好ましい。
【0077】
次に、本発明に用いるエラストマー成分〔2〕として好ましい一形態である、コアシェル型グラフト共重合体について説明する。コアシェル型グラフト共重合体の積層構造は、最外層と内層とを有するものであれば特に限定されない。例えば、芯(内層)が架橋ゴム重合体(I)−外殻(最外層)が熱可塑性重合体(II)の2層重合体粒子、芯(内層)が重合体(III)−内殻(内層)が架橋ゴム重合体(I)−外殻(最外層)が熱可塑性重合体(II)の3層重合体粒子、芯(内層)が架橋ゴム重合体(I)−第一内殻(内層)が重合体(III)−第二内殻(内層)が架橋ゴム重合体(I)−外殻(最外層)が熱可塑性重合体(II)の4層重合体粒子などのさまざまな積層構造が可能である。これらの中で、芯(内層)が重合体(III)−内殻(内層)が架橋ゴム重合体(I)−外殻(最外層)が熱可塑性重合体(II)の3層重合体粒子が好ましく;芯(内層)がメタクリル酸メチル80〜99.95質量%、炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体0〜19.95質量%および架橋性単量体0.05〜2質量%を重合してなる重合体(III)を含有して成る層であり、内殻(内層)が炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体80〜98質量%、芳香族ビニル単量体1〜19質量%および架橋性単量体1〜5質量%を重合してなる架橋ゴム重合体(I)を含有してなる層であり、外殻(最外層)がメタクリル酸メチル80〜100質量%および炭素原子数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体0〜20質量%を重合してなる熱可塑性重合体(II)を含有して成る層で構成される3層重合体粒子がより好ましい。コアシェル型グラフト共重合体の透明性の観点から、隣り合う層の屈折率の差が、好ましくは0.005未満、より好ましくは0.004未満、さらに好ましくは0.003未満になるように各層に含有される重合体を選択することが好ましい。
【0078】
コアシェル型グラフト共重合体における内層と最外層との質量比は、好ましくは60/40〜95/5、より好ましくは70/30〜90/10である。内層において、架橋ゴム重合体(I)を含有してなる層が占める割合は、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは30〜50質量%である。
【0079】
コアシェル型グラフト共重合体の平均粒子径は、好ましくは0.05〜1μm、より好ましくは0.07〜0.5μm、さらに好ましくは0.10〜0.4μmである。このような範囲内の平均粒子径、特に0.15〜0.3μmの平均粒子径を有するコアシェル型グラフト共重合体を用いると、少量の配合で、靭性を発現することができ、このため剛性や表面硬度を損なうことない。なお、本明細書における平均粒子径は、光散乱光法によって測定される、体積基準の粒径分布における算術平均値である。
【0080】
コアシェル型グラフト共重合体の製造法は特に制限されないが、乳化重合法が好適である。具体的には、架橋ゴム重合体(I)を構成する単量体を乳化重合することによって得ることができる。また、架橋ゴム粒子成分としてのコアシェル型グラフト共重合体は、コアシェル型グラフト共重合体の最内層を構成する単量体の乳化重合を行ってシード粒子を得、このシード粒子の存在下に各層を構成する単量体を逐次添加して順次最外層までの重合を行うことによって得ることができる。
【0081】
乳化重合法に用いられる乳化剤としては、例えば、アニオン系乳化剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩;ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなど;ノニオン・アニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのアルキルエーテルカルボン酸塩;が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、ノニオン系乳化剤およびノニオン・アニオン系乳化剤の例示化合物におけるエチレンオキシド単位の平均繰返し単位数は、乳化剤の発泡性が極端に大きくならないようにするために、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。
【0082】
乳化重合に用いられる重合開始剤は特に限定されない。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩系開始剤;パースルホキシレート/有機過酸化物、過硫酸塩/亜硫酸塩などのレドックス系開始剤が挙げられる。
【0083】
乳化重合で得られるポリマーラテックスからのコアシェル型グラフト共重合体の分離取得は、塩析凝固法、凍結凝固法、噴霧乾燥法などの公知の方法によって行うことができる。これらの中でも、架橋ゴム粒子成分に含まれる不純物を水洗により容易に除去できる点から、塩析凝固法および凍結凝固法が好ましく、凍結凝固法がより好ましい。凍結凝固法においては凝集剤を用いないので耐水性に優れたアクリル系樹脂フィルムが得られやすい。なお、凝固工程前にポリマーラテックスに混入した異物を除去するため、目開き50μm以下の金網などでポリマーラテックスを濾過することが好ましい。メタクリル樹脂〔1〕との溶融混練において均一に分散させ易いという観点から、コアシェル型グラフト共重合体を1000μm以下の凝集粒子として取り出すことが好ましく、500μm以下の凝集粒子として取り出すことがより好ましい。なお、凝集粒子の形態は特に限定されず、例えば、最外層部分で相互に融着した状態のペレット状でもよいし、パウダー状やグラニュー状の粉体でもよい。
【0084】
本発明に用いるエラストマー成分〔2〕としては、上述したブロック共重合体(B)とコアシェル型グラフト共重合体を組み合わせて使用することができる。
【0085】
本発明のアクリル系フィルムに含有し得る、メタクリル樹脂〔1〕およびエラストマー成分〔2〕以外の成分としては、他の重合体や、フィラー、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などの添加剤が挙げられる。これらは、メタクリル樹脂〔1〕またはエラストマー成分〔2〕を製造する際の重合反応液のいずれか一方または両方に添加してもよいし、重合反応により製造されたメタクリル樹脂〔1〕またはメタクリル樹脂〔2〕のいずれか一方または両方に添加してもよいし、メタクリル樹脂〔1〕またはエラストマー成分〔2〕との混練物に添加してもよい。
【0086】
他の重合体としては、メタクリル樹脂〔1〕以外のメタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;メチルメタクリレート系重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセトアセタール樹脂;エラストマー成分〔2〕以外のエラストマー成分、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDMなどのオレフィン系ゴムなどが挙げられる。本発明のメタクリル樹脂組成物に含有し得る他の重合体の量は、メタクリル樹脂〔1〕およびエラストマー成分〔2〕の合計量100質量部に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0087】
本発明の好ましい実施形態に係るメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕に加えて、ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセトアセタール樹脂とを含有するものである。ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセトアセタール樹脂を含有することによって、アクリル系フィルムの位相差の調整ができる。ポリカーボネート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセトアセタール樹脂の量は、メタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕の合計量100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜7質量部、さらに好ましくは3〜6質量部である。
【0088】
本発明のより好ましい実施形態に係るメタクリル樹脂組成物は、メタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕とポリカーボネート樹脂とを含有するものである。本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、相溶性の観点から芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂は、多官能ヒドロキシ化合物と炭酸エステル形成性化合物との反応によって得られる重合体である。成形体の位相差を小さくし易いという観点から、ポリカーボネート樹脂の量は、メタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕の合計量100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜7質量部、さらに好ましくは3〜6質量部である。
【0089】
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂は、その製造方法によって特に限定されない。例えば、ホスゲン法(界面重合法)、溶融重合法(エステル交換法)などが挙げられる。また、本発明に好ましく用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂は、溶融重合法で製造したポリカーボネート樹脂に末端ヒドロキシ基量を調整するための後処理を施したものであってもよい。
【0090】
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂は、位相差を所望の値に制御しやすく、透明性に優れる成形体を得るという観点から、300℃、1.2KgでのMVR値が、好ましくは80〜400cm3/10分、より好ましくは100〜300cm3/10分、さらに好ましくは130〜250cm3/10分、最も好ましくは150〜230cm3/10分であるポリカーボネート樹脂か、またはゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した重量平均分子量が、好ましくは13000〜32000、より好ましくは14000〜30000、さらに好ましくは15000〜28000、最も好ましくは18000〜27000であるポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。ポリカーボネート樹脂のMVR値または分子量の調節は末端停止剤や分岐剤の量を調整することによって行うことができる。
【0091】
フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。本発明のアクリル系フィルムに含有し得るフィラーの量は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。
【0092】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤の使用量:ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量は、質量比で、1:5〜2:1が好ましく、1:2〜1:1がより好ましい。
【0093】
リン系酸化防止剤としては、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)などが好ましい。
【0094】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル−3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)などが好ましい。
【0095】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。該熱劣化防止剤としては、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4−ジt−アミル−6−(3’,5’−ジt−アミル−2’−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などが好ましい。
【0096】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤は、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、または波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0097】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いので、本発明のメタクリル樹脂組成物をかかる特性が要求される用途に適用する場合に用いる紫外線吸収剤として好ましい。ベンゾトリアゾール類としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)などが好ましい。
【0098】
また、波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤は、得られる成形体の黄色味を抑制できる。このような紫外線吸収剤としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)などが挙げられる。これら紫外線吸収剤の中、紫外線被照による樹脂劣化が抑えられるという観点からベンゾトリアゾール類が好ましく用いられる。
【0099】
また、波長380nm付近の波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(ADEKA社製;LA−F70)、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−2,4−ビス−ブチロシキフェニル)−1,3,5−トリアジンなどのヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;TINUVIN460、TINUVIN479)、などが挙げられる。
【0100】
さらに380nm〜400nmの波長の光を特に効果的に吸収したい場合は、WO2011-089794、WO2012-124395、特開2012-012476、特開2013-023461、特開2013-112790、特開2013-194037、特開2014-62228、特開2014-88542、特開2014-88543等に記載の特定構造の複素複合環を含有する金属錯体を紫外線吸収剤として用いることが好ましい。特定構造の複素複合環としては、2,2’−イミノビスベンゾチアゾール、2−(2−ベンゾチアゾリルアミノ)ベンゾオキサゾール、2−(2−ベンゾチアゾリルアミノ)ベンゾイミダゾール、(2−ベンゾチアゾリル)(2−ベンゾイミダゾリル)メタン、ビス(2−ベンゾオキサゾリル)メタン、ビス(2−ベンゾチアゾリル)メタン、ビス[2−(N−置換)ベンゾイミダゾリル]メタン等およびそれらの誘導体が挙げられる。このような金属錯体の中心金属としては、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛が好ましく用いられる。またこれら金属錯体は、金属錯体を分散させるための媒体(低分子化合物や重合体)に分散させた組成物の状態で用いることが好ましい。
【0101】
このような金属錯体の添加量としては、本発明のメタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕との合計100質量部に対して0.01質量部〜5質量部が好ましく、0.1〜2質量部がより好ましい。このような金属錯体は380nm〜400nmの波長におけるモル吸光係数が大きいため、添加量が少なくできる。添加量を少なくできるため、ブリードアウトによるフィルム等の成形体の外観の悪化を抑制することができる。また耐熱性が高いため、成形加工時の劣化や分解が少なく、さらに耐光性が高いため、性能を長期間保持することができる。
【0102】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値εmaxは、次のようにして測定する。シクロヘキサン1Lに紫外線吸収剤10.00mgを添加し、目視による観察で未溶解物がないように溶解させる。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U−3410型分光光度計を用いて、波長380〜450nmでの吸光度を測定する。紫外線吸収剤の分子量(MUV)と、測定された吸光度の最大値(Amax)とから次式により計算し、モル吸光係数の最大値εmaxを算出する。
【0103】
εmax=[Amax/(10×10-3)]×MUV
【0104】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類が挙げられる。
【0105】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などが挙げられる。
【0106】
離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類の使用量:グリセリン脂肪酸モノエステルの使用量は、質量比で、2.5:1〜3.5:1が好ましく、2.8:1〜3.2:1がより好ましい。
【0107】
高分子加工助剤としては、通常、乳化重合法によって製造できる、0.05〜0.5μmの粒子径を有する重合体粒子を用いる。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。高分子加工助剤は、極限粘度が3〜6dl/gであることが好ましい。極限粘度が小さすぎると成形性の改善効果が低い傾向がある。極限粘度が大きすぎるとメタクリル樹脂組成物の成形加工性の低下を招く傾向がある。
【0108】
有機色素としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
【0109】
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。
【0110】
蛍光体としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
【0111】
本発明のアクリル系フィルムに含有し得る、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、および蛍光体の合計量は、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0112】
本発明のアクリル系フィルムを構成するメタクリル樹脂組成物の製造方法に特に限定はない。例えば、メタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕とポリカーボネート樹脂などの他の重合体とを溶融混練することによって、メタクリル樹脂組成物を製造することができる。溶融混練は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができる。混練時の温度は、メタクリル樹脂〔1〕、エラストマー成分〔2〕および他の重合体の軟化温度に応じて適宜調節すればよいが、通常150℃〜300℃の範囲内の温度で混練する。
【0113】
メタクリル樹脂組成物の別の製造方法として、メタクリル樹脂〔1〕および他の重合体の存在下にエラストマー成分〔2〕の原料である単量体を重合することによって、メタクリル樹脂組成物を製造する方法がある。かかる重合は、メタクリル樹脂〔2〕の製造のための重合方法と同様にして行うことができる。メタクリル樹脂〔1〕および他の重合体の存在下にエラストマー成分〔2〕の原料である単量体を重合することによる製造方法は、メタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕と他の重合体とを溶融混練することによって製造する方法に比べて、メタクリル樹脂に掛かる熱履歴が短くなるので、メタクリル樹脂の熱分解が抑制され、着色や異物の少ない成形体が得られやすい。
【0114】
本発明のアクリル系フィルムは、溶液キャスト法、溶融流延法、押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法などによって製造することができる。これらのうち、透明性に優れ、改善された靭性を持ち、取扱い性に優れ、靭性と表面硬度および剛性とのバランスに優れたフィルムを得ることができるという観点から、押出成形法が好ましい。押出機から吐出されるメタクリル樹脂組成物の温度は好ましくは200〜300℃、より好ましくは250〜280℃に設定する。
【0115】
押出成形法のうち、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズのフィルムが得られるという観点から、メタクリル樹脂組成物を溶融状態でTダイから押出し、次いでそれを二つ以上の鏡面ロールまたは鏡面ベルトもしくはその組み合わせで挟持して成形する方法が好ましい。
【0116】
鏡面ロールは、通常の金属剛体ロールもしくは外筒に鏡面の薄膜を備えた金属弾性ロールであることが好ましい。一対の鏡面ロールまたは鏡面ベルトの間の線圧は好ましくは2〜100N/mm、より好ましくは10〜60N/mm、さらに好ましくは25〜45N/mmである。2N/mm未満では、鏡面の転写が不十分となり好ましくない。一方100N/mm以上では、フィルムに残留する歪が大きく、加熱収縮しやすくなったりして好ましくない。
【0117】
また、一対の鏡面ロールまたは鏡面ベルトの表面温度は50℃〜130℃であることが好ましく、更に60℃〜100℃であることが更に好ましい。このような表面温度に設定すると、押出機から吐出されるメタクリル樹脂組成物を自然放冷よりも速い速度で冷却することができ、表面平滑性に優れ且つヘイズの低いフィルムを製造し易い。押出成形で得られる未延伸フィルムの厚さは、10〜300μmであることが好ましく、15〜100μmであることが更に好ましい。フィルムのヘイズは、通常1.0%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。
【0118】
本発明のアクリル系フィルムは、フィルム状に成形した後に、延伸処理を施してもよい。延伸処理によって機械的強度が高まり、ひび割れし難いフィルムを得ることができる。延伸方法は特に限定されず、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法などが挙げられる。均一に延伸でき高い強度のフィルムが得られるという観点から、延伸時の温度の下限はメタクリル樹脂組成物のガラス転移温度より10℃高い温度であり、延伸時の温度の上限はメタクリル樹脂組成物のガラス転移温度より40℃高い温度である。延伸は通常100〜5000%/分で行われる。延伸の後、熱固定を行うことによって、熱収縮の少ないフィルムを得ることができる。延伸後のフィルムの厚さは10〜200μmであることが好ましい。
【0119】
また、本発明のアクリル系フィルムは、易接着処理、ハードコート処理、ナーリング加工等の処理をすることも可能である。
【0120】
本発明のアクリル系フィルムは透明性、耐熱性が高いため、光学用途に好適であり、偏光子保護フィルム、液晶保護板、携帯型情報端末の表面材、携帯型情報端末の表示窓保護フィルム、導光フィルム、銀ナノワイヤーやカーボンナノチューブを表面に塗布した透明導電フィルム、各種ディスプレイの前面板用途に特に好適である。特に、メタクリル樹脂とポリカーボネート樹脂とを含むメタクリル樹脂組成物からなる本発明のフィルムは、所望の位相差を付与できるため、偏光子保護フィルム、位相差フィルム等の光学用途として好適である。本発明のフィルムは透明性、耐熱性が高いため、光学用途以外の用途として、IRカットフィルムや、防犯フィルム、飛散防止フィルム、加飾フィルム、金属加飾フィルム、太陽電池のバックシート、フレキシブル太陽電池用フロントシート、シュリンクフィルム、インモールドラベル用フィルムに使用することができる。
【実施例】
【0121】
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、物性値等の測定は以下の方法によって実施した。
【0122】
(重合転化率)
島津製作所社製ガスクロマトグラフ GC−14Aに、カラムとしてGL SciencesInc.製InertCap1(df=0.4μm、0.25mmI.D.×60m)を繋ぎ、インジェクション温度を180℃に、検出器温度を180℃に、カラム温度を60℃(5分間保持)から昇温速度10℃/分で200℃まで昇温して、10分間保持する条件にて測定を行い、この結果に基づいて重合転化率を算出した。
【0123】
(Mw、分子量分布)
Mwおよび分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて下記の条件でクロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値を算出した。
GPC装置:東ソー株式会社製、HLC−8320
検出器:示差屈折率検出器
カラム:東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZMMの2本とSuperHZ4000を直列に繋いだものを用いた。
溶離剤 :テトラヒドロフラン
溶離剤流量:0.35ml/分
カラム温度:40℃
検量線 :標準ポリスチレン10点のデータを用いて作成
【0124】
(三連子表示のシンジオタクティシティ(rr))
各製造例で得られたメタクリル樹脂について1H−NMR測定を実施した。TMSを0ppmとした際の0.6〜0.95ppmの領域の面積(X)、0.6〜1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、式:(X/Y)×100にて算出した値を三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(%)とした。
装置:核磁気共鳴装置(Bruker社製 ULTRA SHIELD 400PLUS)
溶媒 :重クロロホルム
測定核種:1H
測定温度:室温
積算回数:64回
【0125】
(ガラス転移温度)
各製造例で得られたメタクリル樹脂を、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(島津製作所製、DSC−50(品番))を用いて、230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度とした。
【0126】
(厚み測定)
アクリル系フィルムの厚み測定は、マイクロゲージにて測定した。
【0127】
(エラストマー成分に由来する分散相(エラストマー分散相)の大きさ)
リンタングステン酸染色により測定した。測定に使用する薄片は次の方法で2つ用意した。ミクロトームにてフィルムの厚み方向でかつフィルムの押出し方向で切り出し薄片Aを得た。ミクロトームにてフィルムの厚み方向でおよび押出し垂直方向で切り出して薄片Bを得た。
次いで、薄片AおよびBをそれぞれリンタングステン酸溶液(TABB社製 PHOSPHOTUNGSTATEACIDEM)15質量%、イオン交換水2質量%、メタノール83質量%)に15分間浸漬して染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子製JSM−7600)にて加速電圧25kV、倍率30000〜100000で観察した。
薄片Aにおいてはフィルムの押出し方向で染色された分散相を100個抽出し、長径の平均をとり、その長径平均値(A-Av)を求めた。
薄片Bにおいてはフィルムの押出し垂直方向で染色された分散相を100個抽出し、長径の平均をとり、その長径平均値(B-Av)を求めた。
長径平均値(A-Av)および長径平均値(B-Av)のうち大きい方をエラストマー成分〔2〕に由来する分散相の長径とした。
【0128】
(鉛筆硬度)
アクリル系フィルムをJIS K 5600−5−4に準拠して測定した。
【0129】
(打ち抜き性)
アクリル系フィルムをパンチにて穴あけして目視により以下の評価を行った。
○:良好
△:僅かに欠けが生じる。
×:パンチ部からクラックが発生した。
【0130】
(折り曲げ白化)
アクリル系フィルムを180度折り曲げて目視による白化の程度により以下で評価した。
○:白化なし。
△:僅かに白化した。
×:白化が著しい。
−:折り曲げると割れる
【0131】
(耐薬品性)
薬品としてイソプロピルアルコール(和光純薬社製 試薬1級:IPAと略す)およびキシレン(和光純薬社製試薬1級)を用い、JISK5600−6−1の方法3(滴下法)により行い、以下の評価とした。
○:外観変化なし。
△:僅かに白化する。
×:著しい白化もしくは溶解して痕が残る。
【0132】
製造例1
[メタクリル樹脂〔A−1〕の合成]
ブライン冷却できるジャケットおよび撹拌機つきのグラスライニング製5m3反応容器内を窒素で置換した。これに、室温下にて、トルエン1600kg、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン3.19kg(13.9mol)、濃度0.45Mのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムのトルエン溶液68.6kg(39.6mol)、および濃度1.3Mのsec−ブチルリチウムの溶液(溶媒:シクロヘキサン95質量%、n−ヘキサン質量5%)7.91kg(13.2mol)を仕込んだ。撹拌しながら、これに、20℃に保ちながら、蒸留精製したメタクリル酸メチル550kgを30分間かけて滴下した。滴下終了後、20℃で90分間撹拌した。溶液の色が黄色から無色に変わった。この時点におけるメタクリル酸メチルの重合転化率は100%であった。
得られた溶液にトルエン1500kgを加えて希釈した。次いで、該希釈液を多量のメタノールに注ぎ入れ、沈澱物を得た。得られた沈殿物を80℃、140Paにて24時間乾燥して、Mwが58900で、分子量分布が1.06で、シンジオタクティシティ(rr)が74%で、ガラス転移温度が130℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が100質量%であるメタクリル樹脂〔A−1〕を得た。
【0133】
製造例2
[メタクリル樹脂〔A−2〕の合成]
ブライン冷却できるジャケットおよび撹拌機つきのグラスライニング製5m3反応容器内を窒素で置換した。これに、室温下にて、トルエン1600kg、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン2.49kg(10.8mol)、濃度0.45Mのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムのトルエン溶液53.5kg(30.9mol)、および濃度1.3Mのsec−ブチルリチウムの溶液(溶媒:シクロヘキサン95質量%、n−ヘキサン5質量%)6.17kg(10.3mol)を仕込んだ。撹拌しながら、これに、20℃に保ちながら、蒸留精製したメタクリル酸メチル550kgを30分間かけて滴下した。滴下終了後、20℃で90分間撹拌した。溶液の色が黄色から無色に変わった。この時点におけるメタクリル酸メチルの重合転化率は100%であった。
得られた溶液にトルエン1500kgを加えて希釈した。次いで、該希釈液を多量のメタノールに注ぎ入れ、沈澱物を得た。得られた沈殿物を80℃、140Paにて24時間乾燥して、Mwが81400で、分子量分布が1.08で、シンジオタクティシティ(rr)が73%で、ガラス転移温度が131℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が100質量%であるメタクリル樹脂〔A−2〕を得た。
【0134】
製造例3
[メタクリル樹脂〔A−3〕の合成]
ブライン冷却できるジャケットおよび撹拌機つきのグラスライニング製5m3反応容器内を窒素で置換した。これに、室温下にて、トルエン1600kg、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン2.49kg(10.8mol)、濃度0.45Mのイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムのトルエン溶液53.5kg(30.9mol)、および濃度1.3Mのsec−ブチルリチウムの溶液(溶媒:シクロヘキサン95質量%、n−ヘキサン5質量%)6.17kg(10.3mol)を仕込んだ。撹拌しながら、これに、−20℃に保ちながら、蒸留精製したメタクリル酸メチル550kgを30分間かけて滴下した。滴下終了後、−20℃保ちながら180分間撹拌した。溶液の色が黄色から無色に変わった。この時点におけるメタクリル酸メチルの転化率は100%であった。
得られた溶液にトルエン1500kgを加えて希釈した。次いで、該希釈液を多量のメタノールに注ぎ入れ、沈澱物を得た。得られた沈殿物を80℃、140Paにて24時間乾燥して、Mwが96100で、分子量分布が1.07で、シンジオタクティシティ(rr)が83%で、ガラス転移温度が133℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が100質量%であるメタクリル樹脂〔A−3〕を得た。
【0135】
製造例4
[メタクリル樹脂〔A−4〕の合成]
攪拌機および採取管が取り付けられたオートクレーブ内を窒素で置換した。これに、精製されたメタクリル酸メチル100質量部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル(水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)0.0052質量部、およびn−オクチルメルカプタン0.28質量部を入れ、撹拌して、原料液を得た。かかる原料液中に窒素を送り込み、原料液中の溶存酸素を除去した。
オートクレーブと配管で接続された槽型反応器に容量の2/3まで原料液を入れた。温度を140℃に維持して先ずバッチ方式で重合反応を開始させた。重合転化率が55質量%になったところで、平均滞留時間150分となる流量で、原料液をオートクレーブから槽型反応器に供給し、且つ原料液の供給流量に相当する流量で、反応液を槽型反応器から抜き出して、温度140℃に維持し、連続流通方式の重合反応に切り替えた。切り替え後、定常状態における重合転化率は55質量%であった。
【0136】
定常状態になった槽型反応器から抜き出される反応液を、平均滞留時間2分間となる流量で内温230℃の多管式熱交換器に供給して加温した。次いで加温された反応液をフラッシュ蒸発器に導入し、未反応単量体を主成分とする揮発分を除去して、溶融樹脂を得た。揮発分が除去された溶融樹脂を内温260℃の二軸押出機に供給してストランド状に吐出し、ペレタイザーでカットして、ペレット状の、Mwが82000で、分子量分布が1.85で、シンジオタクティシティ(rr)が52%で、ガラス転移温度が120℃で、且つメタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量が100質量%であるメタクリル樹脂〔A−4〕を得た。
【0137】
得られたメタクリル樹脂〔A−1〕〜〔A−4〕について以下に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
製造例5
[ブロック共重合体(B−1)の合成]
内部を脱気し、窒素で置換したブライン冷却できるジャケットおよび撹拌機つきのグラスライニング製3m3反応容器容器に、室温にて乾燥トルエン735kg、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン0.4kg、およびイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム20molを含有するトルエン溶液39.4kgを加え、さらに、sec−ブチルリチウム1.17molを加えた。これにメタクリル酸メチル35.0kgを加え、室温で1時間反応させた。反応液に含まれる重合体をサンプリングして重量平均分子量(以下、Mw(b1-1)と称する)を測定したところ、40,000であった。かかるメタクリル酸メチル重合体はさらにアクリル酸エステルをブロック共重合することで、該メタクリル酸メチル重合体はメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)(以下、「メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1−1)」と称する)となる。
【0140】
次いで、反応液を−25℃に保ちながら、アクリル酸n−ブチル35kgを0.5時間かけて滴下した。滴下直後、反応液に含まれる重合体をサンプリングして重量平均分子量を測定したところ、80,000であった。メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1−1)の重量平均分子量は40,000であったので、アクリル酸n−ブチルからなるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量(Mw(b2))を40,000であると決定した。
【0141】
続いて、メタクリル酸メチル35.0kgを加え、反応液を室温に戻し、8時間攪拌することで、2つめのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)(以下、「メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1−2)」と称する)を形成した。その後、反応液にメタノール4kgを添加して重合を停止させた後、反応液を大量のメタノールに注ぎ、トリブロック共重合体であるブロック共重合体(B)(以下、「ブロック共重合体(B−1)」と称する)を析出させ、ろ過し、80℃にて、1torr(約133Pa)で、12時間乾燥して単離した。得られたブロック共重合体(B−1)の重量平均分子量Mw(B)は120,000であった。ジブロック共重合体の重量平均分子量は80,000であったので、メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1−2)の重量平均分子量(Mw(b1-2)と称する)を40,000であると決定した。メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1−1)の重量平均分子量Mw(b1-1)と、メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1−2)の重量平均分子量Mw(b1-2)が共に40,000なので、Mw(b1)は40,000であった。このブロック共重合体におけるアクリル酸エステルの含有量は33%である。
【0142】
製造例6
[ブロック共重合体(B−2)の合成]
内部を脱気し、窒素で置換したブライン冷却できるジャケットおよび撹拌機つきのグラスライニング製3m3反応容器に、室温にて乾燥トルエン735kg、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン0.4kg、およびイソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム20molを含有するトルエン溶液39.4kgを加え、さらに、sec−ブチルリチウム1.17molを加えた。これにメタクリル酸メチル35.0kgを加え、室温で1時間反応させた。反応液に含まれる重合体をサンプリングして重量平均分子量(以下、Mw(b1-1)と称する)を測定したところ、40,000であった。かかるメタクリル酸メチル重合体はさらにアクリル酸エステルをブロック共重合することで、該メタクリル酸メチル重合体はメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)(以下、「メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1−1)」と称する)となる。
【0143】
次いで、反応液を−25℃に保ちながら、アクリル酸n−ブチル24.5kgおよびアクリル酸ベンジル10.5kgの混合液を0.5時間かけて滴下した。滴下直後、反応液に含まれる重合体をサンプリングして重量平均分子量を測定したところ、80,000であった。メタクリル酸メチル重合体ブロック(b1−1)の重量平均分子量は40,000であったので、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸ベンジルの共重合体からなるアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量(Mw(b2))を40,000であると決定した。このブロック共重合体におけるアクリル酸エステルの含有量は50%である。
【0144】
製造例7
[コアシェル型グラフト共重合体(B−3)の合成]
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.6質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃にした。そこに、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間攪拌した。これに、メタクリル酸メチル95.4質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびメタクリル酸アリル0.2質量%からなる単量体混合物245質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(2)次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間攪拌した。その後、アクリル酸ブチル80.5質量%、スチレン17.5質量%およびメタクリル酸アリル2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。(3)次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間攪拌した。その後、メタクリル酸メチル95.2質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびn−オクチルメルカプタン0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行った。以上の操作によって、架橋ゴム粒子(A1)を含むラテックスを得た。架橋ゴム粒子(A1)を含むラテックスを凍結して凝固させた。次いで水洗・乾燥してコアシェル型グラフト共重合体を得た。当該グラフト共重合体の平均粒子径は0.09μmであった。尚、このコアシェル型グラフト共重合体におけるアクリル酸エステルの含有量は39%である。
【0145】
製造例8
[コアシェル型グラフト共重合体(B−4)の合成]
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.1質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃にした。そこに、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間攪拌した。これに、メタクリル酸メチル95.4質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびメタクリル酸アリル0.2質量%からなる単量体混合物245質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(2)次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間攪拌した。その後、アクリル酸ブチル80.5質量%、スチレン17.5質量%およびメタクリル酸アリル2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(3)次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間攪拌した。その後、メタクリル酸メチル95.2質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびn−オクチルメルカプタン0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行った。以上の操作によって、架橋ゴム粒子(A1)を含むラテックスを得た。架橋ゴム粒子(A1)を含むラテックスを凍結して凝固させた。次いで水洗・乾燥してコアシェル型グラフト共重合体を得た。当該グラフト共重合体の平均粒子径は0.35μmであった。尚、このコアシェル型グラフト共重合体におけるアクリル酸エステルの含有量は39%である。
【0146】
[コアシェル型グラフト共重合体(B−5)の合成]
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム1.0質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃にした。そこに、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間攪拌した。これに、メタクリル酸メチル95.4質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびメタクリル酸アリル0.2質量%からなる単量体混合物445質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(2)次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間攪拌した。その後、アクリル酸ブチル80.5質量%、スチレン17.5質量%およびメタクリル酸アリル2質量%からなる単量体混合物115質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
(3)次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間攪拌した。その後、メタクリル酸メチル95.2質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびn−オクチルメルカプタン0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行った。以上の操作によって、架橋ゴム粒子(A1)を含むラテックスを得た。架橋ゴム粒子(A1)を含むラテックスを凍結して凝固させた。次いで水洗・乾燥してコアシェル型グラフト共重合体を得た。当該グラフト共重合体の平均粒子径は0.09μmであった。尚、このコアシェル型グラフト共重合体におけるアクリル酸エステルの含有量は17%である。
【0147】
得られたエラストマー成分、(B−1)〜(B−5)について以下に示す。
【0148】
【表2】
【0149】
紫外線吸収剤として以下のものを用いた。
D-1:BASF社製紫外線吸収剤 TINUVIN460
D-2:BASF社製紫外線吸収剤 TINUVIN479
【0150】
<実施例1>
メタクリル樹脂〔A−1〕85質量部、ブロック共重合体(B−1)15質量部および紫外線吸収剤〔D-1〕1質量部をタンブラーで混ぜ合わせ、二軸混練押出機(東芝機械株式会社製TEM-41SS)にて設定温度250℃で押し出しメタクリル樹脂組成物を製造した。
当該メタクリル組成物を、Tダイを備えた65φmm単軸押出機にてシリンダー温度250℃ダイ温度260℃にて溶融押出し、80℃に設定した金属弾性ロールと80℃に設定した金属剛体ロールに挟み込んで、40μm厚みのフィルムを作製した。その評価結果を表3に示す。
【0151】
<実施例2〜6>
表3に示す配合で実施例1と同様にメタクリル樹脂組成物を製造し、実施例1と同様の温度条件にてそれぞれの厚みのフィルムを得た。その結果を表3にまとめる。
【0152】
【表3】
【0153】
<比較例1〜6>
表4に示す配合で実施例1と同様にメタクリル樹脂組成物を製造し、実施例1と同様の装置を用い、それぞれの厚みのフィルムを得た。その結果を表4に示す。
【0154】
【表4】
【0155】
以上の結果から、本発明のアクリル系フィルムの規定する範囲から外れたフィルムは、鉛筆硬度や耐薬品性が悪化(比較例1)したり、打ち抜き性や、折り曲げ白化が悪化(比較例2,3、6)したり、ガラス転移温度が低下し、キシレンへの耐薬品性が低下(比較例4,5)していることがわかる。
【0156】
<実施例7〜11>
表5に示す配合で実施例1と同様にメタクリル樹脂組成物を製造し、実施例1と同の製法で80μmのフィルムを作製した。その後140℃で加温してテンター方式にて縦横2倍となるよう二軸延伸し、20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表5に示す。
【0157】
【表5】
【0158】
実施例7〜11から、二軸延伸したフィルムの場合はエラストマー成分の配合量が少なくても打ち抜き性は良好であり、鉛筆硬度も高いことからより剛性が高く、表面硬度も高くすることができることがわかる。
【0159】
<実施例12>
実施例7と同じ組成の、メタクリル樹脂〔A−1〕とブロック共重合体(B−3)の合計100質量部に対し、さらに三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネートユーピロンHL−8000を6重量部添加して溶融混練し、メタクリル樹脂組成物〔C−1〕を製造し、実施例7と同様に80μmのフィルムを作製した。その後140℃で加温してテンター方式にて縦横2倍となるよう二軸延伸し、20μmのフィルム作製した。
得られたフィルムの評価を行った結果、エラストマー分散相の大きさは250nm、鉛筆硬度はF〜HBで打ち抜き性○、折り曲げ白化○であり、耐薬品性はIPA、キシレン共に○であった。
【0160】
<実施例13>
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネートユーピロンHL−8000の代わりに、ポリカーボネートとして住化スタイロンポリカーボネート社製、SDPOLYCATR−2000を用い、その添加量を4重量部とした以外は、実施例12と同等にしてメタクリル樹脂組成物〔C−2〕を製造し、実施例12と同様に20μmのフィルムを作製した。得られたフィルムの評価を行った結果、エラストマー分散相の大きさは250nm、鉛筆硬度はF〜HBで打ち抜き性○、折り曲げ白化○であり、耐薬品性はIPA、キシレン共に○であった。
【0161】
以上の結果から、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が65%以上であるメタクリル樹脂〔1〕とエラストマー成分〔2〕とを60/99〜40/1の質量比(メタクリル樹脂〔1〕/エラストマー成分〔2〕)で含有するメタクリル樹脂組成物に、ポリカーボネート樹脂を配合するとすることでもガラス転移温度鉛筆硬度や打ち抜き性や折り曲げ白化および耐薬品性に優れたフィルムが得られることがわかる。