【実施例】
【0048】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。
【0049】
(製造例1)
(1)エステル合成
磁気攪拌子、温度計、窒素導入管、Dean−Stark型分水器、および還流冷却管を備えた容量500mlのガラス製三口フラスコに、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノール(東京化成工業株式会社製)123g(0.777mol)、無水フタル酸(和光純薬工業株式会社製)57.5g(0.388mol)、トルエン(和光純薬工業株式会社製)100g、および酸触媒としてメタンスルホン酸(和光純薬工業株式会社製)1.52g(15.8mmol)を窒素雰囲気下で仕込んだ。この溶液を攪拌しながら内温120℃まで加熱し5時間反応させた。その後反応系を減圧にして溶媒と未反応の2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノールを除去した後、中和、水洗、減圧下での脱水を行うことで、フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)144g(0.322mol)を得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl
3,テトラメチルシラン(TMS),ppm) δ 0.87(d,CH
3,6H),0.88(d,CH
3,6H),0.92(d,CH
3,12H),1.14〜1.61,1.80〜1.88(m,14H),4.26(dd,−O−CH
2−,4H),7.52(dd,ArH,2H),7.69(dd,ArH,2H)
【0050】
(2)樹脂組成物および軟質塩化ビニル樹脂シート作成
平均重合度1000のポリ塩化ビニル樹脂(信越化学工業株式会社製、商品名TK−1000)100質量部に対し、前記(1)で合成したフタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部、および安定剤として三塩基性硫酸鉛5質量部を配合した。この混合物をプラネタリーミキサー(東洋精機株式会社製)により120℃、回転数60rpmで混練した。ドライアップ(可塑剤がポリ塩化ビニル樹脂に吸収され、混合物の流動性が増すこと)の完了はミキサーのトルク降下で判定した。この混合物を150℃の二本ミルロール上で10分間ロールし(ロール幅220mm、ロールギャップ1mm)、その後厚さ1mmになるように26トン油圧式成型機(有限会社東邦プレス製作所製)でプレスし(予備プレス:0.5MPa・170℃で4分、プレス:5MPa・170℃で1分、冷却:0.5MPa・20℃で10分)、軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0051】
(製造例2)
(1)エステル合成
無水フタル酸の代わりに無水トリメリット酸(和光純薬工業株式会社製)49.8g(0.259mol)を用いた以外は製造例1と同様に反応および後処理を行い、トリメリット酸トリス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)131g(0.208mol)を得た。
1H−NMR分析(400MHz,CDCl
3,TMS,ppm) δ 0.87〜0.97(m,CH
3,36H),1.15〜1.65,1.79〜1.90(m,21H),4.25〜4.36(m,−O−CH
2−,6H),7.72(d,ArH,1H),8.17(dd,ArH,1H),8.37(d,ArH,1H)
【0052】
(2)樹脂組成物および軟質塩化ビニル樹脂シート作成
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、前記(1)で合成したトリメリット酸トリス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)25質量部、フタル酸ジオクチル(花王株式会社製、商品名ビニサイザー80)25質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0053】
(製造例3)
(1)エステル合成
無水フタル酸の代わりにアジピン酸(和光純薬工業株式会社製)56.8g(0.389mol)を用いた以外は製造例1と同様に反応および後処理を行い、アジピン酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)129g(0.302mol)を得た。
1H−NMR(400MHz、CDCl
3、TMS、ppm) δ 0.86〜0.90(m,CH
3,24H),1.10〜1.55,1.62〜1.82(m,18H),2.29〜2.34(m,−CH
2−COO,4H),3.98〜4.07(m,−O−CH
2−,4H)
【0054】
(2)樹脂組成物および軟質塩化ビニル樹脂シート作成
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、前記(1)で合成したアジピン酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0055】
(製造例4)
(1)エステル合成
無水フタル酸の代わりにセバシン酸(和光純薬工業株式会社製)78.5g(0.388mol)を用いた以外は製造例1と同様に反応および後処理を行い、セバシン酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)161g(0.333mol)を得た。
1H−NMR分析(400MHz,CDCl
3,TMS,ppm) δ 0.86〜0.90(m,CH
3,24H),1.10〜1.83(m,26H),2.28(t,−CH
2−COO,4H),3.97〜4.06(m,−O−CH
2−,4H)
【0056】
(2)樹脂組成物および軟質塩化ビニル樹脂シート作成
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、前記(1)で合成したセバシン酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0057】
(比較製造例1)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ジオクチル(花王株式会社製、商品名ビニサイザー80)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0058】
(比較製造例2)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ジイソノニル(花王株式会社製、商品名ビニサイザー90)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0059】
(比較製造例3)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ジイソデシル(株式会社ジェイ・プラス製)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0060】
(比較製造例4)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ビス(2−プロピル−1−ヘプチル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0061】
(比較製造例5)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ビス(2−エチル−1−オクチル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0062】
(比較製造例6)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ビス(3,7−ジメチル−1−オクチル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0063】
(比較製造例7)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ビス(2−メチル−1−ノニル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0064】
(比較製造例8)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、トリメリット酸トリオクチル(花王株式会社製、商品名トリメックスT−08NB)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0065】
(比較製造例9)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、アジピン酸ジイソデシル(花王株式会社製、商品名ビニサイザー50)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0066】
(実施例1〜4)
製造例1〜4で得られた軟質塩化ビニル樹脂シートについて下記の方法で各物性を測定・評価した。結果を表1に示す。
(1)引張試験:JIS K6723に準拠して試験を行った。
(2)体積抵抗率試験:JIS K 6723に準拠し、30℃で試験を行った。
(3)加熱後引張試験:JIS K 6723に準拠し、100℃、120℃で120時間加熱後にそれぞれ試験を行った。
(4)耐油性試験:JIS K6723に準拠し、70℃の試験用油に4時間浸漬後に試験を行った。
(5)ブリードアウト試験:100mm×100mm×1mmに成型した試験片(n=3)を70℃のオーブン中で20日間加熱し、可塑剤のブリードアウト(PVCシートからの染み出し)の有無を目視で確認し評価した(n=3)。
(6)移行性試験:20mm×50mm×1mmに成型した試験片一枚と同形のABS樹脂板一枚を重ねあわせ、80℃のオーブン中で72時間加熱し、PVCシートからABS樹脂板への可塑剤の移行の有無を目視で確認し評価した(n=6)。さらに、ABS樹脂板の代わりにポリエチレン樹脂板を用いて同様の試験を行った。
【0067】
(比較例1〜9)
比較製造例1〜9で得られた軟質塩化ビニル樹脂シートについて、実施例1〜4と同様に各物性を測定・評価した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記実施例および比較例により、本発明の絶縁材について、以下の諸点が認められた。
フタル酸エステル間で比較をすると、構成単位(A)を有さないフタル酸エステルを用いた比較例1〜7の樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートの体積抵抗率は低いのに対し、構成単位(A)を有するエステル(i)を用いた実施例1の樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートは高い体積抵抗率を示した。
【0070】
またトリメリット酸エステル間で比較をすると、構成単位(A)を有する実施例2のトリメリット酸エステルを用いた樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートは、構成単位(A)を有さないフタル酸ジオクチルと混合して用いても、比較例8のトリメリット酸トリオクチルのみを用いた場合に匹敵する高い体積抵抗率を示した。トリメリット酸エステルはフタル酸エステル等に比べ、塩化ビニル樹脂が本来有する体積抵抗率を大きく損なうことなく軟質塩化ビニル樹脂に求められる各種性能を付与できる可塑剤として知られる。構成単位(A)を有するトリメリット酸エステルを用いれば、使用するフタル酸エステルの一部を係るトリメリット酸エステルに置き換えるのみで同等の効果を得られるため、高価なトリメリット酸の使用量を抑えることができる。
【0071】
アジピン酸エステル、セバシン酸エステルといった脂肪族エステル間の比較でも同様な傾向が見られ、構成単位(A)を有さないエステルを用いた比較例9の樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートに対し、構成単位(A)を有するエステル(i)を用いた実施例3、4の樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートは高い体積抵抗率を示した。
【0072】
樹脂組成物は各種用途で使用されており、それぞれの用途に応じて必要性能が異なる。また可塑剤の添加量も目的に応じて様々であるため、樹脂組成物の機械的特性、体積抵抗率、耐熱性、耐油性、耐可塑剤移行性の値については一概に必要量を規定できるものではないが、実施例中の値をもって一つの基準とみなすことができる。実施例の結果から、可塑剤の添加量が等しい場合、構成単位(A)を有する特定構造のエステル(i)を可塑剤として用いた場合にのみ、樹脂組成物の機械的強度、耐熱性、耐油性、耐可塑剤移行性を保ったまま優れた体積抵抗率を発揮できることがわかる。
【0073】
(実施例5)
実施例1、2、3、4の樹脂組成物それぞれについて、スクリュー直径60mm、L/D=25の電線押出機を用い、押出機のシリンダー温度を190℃、クロスヘッド部温度を180℃に設定し、線速毎分400mで銅線上に樹脂組成物を押出成形することで、被覆電線を製造した。