特許第6725114号(P6725114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725114
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】絶縁材
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20200706BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20200706BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20200706BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20200706BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20200706BHJP
   C07C 69/80 20060101ALN20200706BHJP
   C07C 69/76 20060101ALN20200706BHJP
   C07C 69/44 20060101ALN20200706BHJP
   C07C 69/50 20060101ALN20200706BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K5/10
   C08L27/06
   H01B3/44 P
   H01B3/44 B
   H01B7/02 Z
   !C07C69/80 Z
   !C07C69/76 Z
   !C07C69/44
   !C07C69/50
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-562676(P2016-562676)
(86)(22)【出願日】2015年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2015084033
(87)【国際公開番号】WO2016088841
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年6月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-246625(P2014-246625)
(32)【優先日】2014年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理浩
(72)【発明者】
【氏名】藤 純市
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−143177(JP,A)
【文献】 特開2001−2829(JP,A)
【文献】 特開2001−207002(JP,A)
【文献】 特開2000−53803(JP,A)
【文献】 特開平9−87435(JP,A)
【文献】 特開平9−132689(JP,A)
【文献】 特開昭58−220874(JP,A)
【文献】 N.NAKAJIMA et ali.,Effect of Plasticizer Type on Gelation and Fusion of PVC Plastisol, Dialkyl Phthalate Series,JOURNAL OF VINYL TECHNOLOGY,1991年,Vol.13, No.4,p.212-222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 5/00−5/59
H01B 3/00−3/56
H01B 7/00−7/42
C07C 69/00−69/96
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル(i)、および
樹脂(ii)
を含有する樹脂組成物からなる絶縁材であって、
前記エステル(i)が下記式(1)
【化1】

(式中、Rはイソプロピル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示されるアルコールおよび酸成分を縮合させて得られるエステルであり、
前記酸成分が、芳香族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸無水物、脂肪族多価カルボン酸および脂肪族多価カルボン酸無水物から選択される1種である、絶縁材。
【請求項2】
前記Rがメチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基である、請求項に記載の絶縁材。
【請求項3】
絶縁材中に含まれる可塑剤のうち、20質量%以上がエステル(i)である、請求項1又は2に記載の絶縁材。
【請求項4】
前記樹脂(ii)が塩化ビニル系樹脂である、請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁材を用いた絶縁方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁材の絶縁のための使用。
【請求項7】
電線被覆用である、請求項1〜4のいずれか1項のいずれか1項に記載の絶縁材。
【請求項8】
請求項7に記載の絶縁材を用いた電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁材に関する。詳細には、本発明は、エステルを含有する樹脂組成物からなる絶縁材、および該絶縁材を用いた電線に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、PVC)は代表的なプラスチックの一つであり、安価で優れた物性を持つため、その用途は多岐にわたる。塩化ビニル樹脂は高極性分子鎖間の強い相互作用により硬くもろい性質を有し、そのままでは加工しづらいため、可塑剤を添加して用いられる。可塑剤は分子鎖間に入り込むことにより分子鎖間の相互作用を弱め、塩化ビニル樹脂を柔軟にする。可塑剤としては各種エステル類が用いられ、フタル酸系、トリメリット酸系、ピロメリット酸系などの芳香族多価カルボン酸エステル;アジピン酸系、アゼライン酸系、セバシン酸系などの脂肪族多価カルボン酸エステル;ポリエステル系、エポキシ系、リン酸系などが一般的に使われている。これらの可塑剤は種類により各性能が異なるため、目的に応じ単独であるいは複数を組み合わせて用いられることが多い。
これら可塑剤の中でもフタル酸系、特にフタル酸ジオクチルが可塑性能、耐熱性、耐寒性に優れ、なおかつ安価であるため多く用いられる。塩化ビニル樹脂は添加する可塑剤の種類と量によってその硬さが決まり、硬質と軟質に大別される。
【0003】
軟質塩化ビニル樹脂は耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性、化学的安定性、難燃性、電気絶縁性などの諸物性に優れており、各種フィルムやシート、ロープ、農業資材、建築資材、自動車部品、絶縁材・電線被覆材などに広く用いられる。
【0004】
現在軟質塩化ビニル樹脂の使用範囲は拡大が続いており、前記諸物性のさらなる向上が要求されている。特に絶縁材・電線被覆材の分野では、電気機器や自動車部品の小型・軽量化による電線の細線化に伴い、より高い体積抵抗率が求められている。
【0005】
一方、軟質塩化ビニル樹脂の体積抵抗率も、用いる可塑剤の種類や分子構造により変動することが知られている。非特許文献1によれば、可塑剤分子を構成するアルコール炭素鎖の分岐度が大きいほど、軟質塩化ビニル樹脂の体積抵抗率は大きくなる。特許文献1では、炭素数が10の脂肪族アルコール混合物と、係るアルコール混合物から製造されるフタル酸ジエステル混合物について、分岐構造のトポロジー的な特徴を示すパラメータを規定し、特定範囲内のフタル酸ジエステル混合物を可塑剤として用いた軟質塩化ビニル樹脂は耐寒性、耐熱性、電気絶縁性などに優れることが開示されている。特許文献2では、様々な分岐構造を有する炭素数10のアルコール混合物(2−プロピル−1−ヘプタノール、4−メチル−2−プロピル−1−ヘキサノール、5−メチル−2−プロピル−1−ヘキサノール、2−イソプロピル−1−ヘプタノール)と、フタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などのカルボン酸のエステルを可塑剤として用いた軟質塩化ビニル樹脂が電気絶縁性に優れることが開示されている。
また優れた体積抵抗率を付与する可塑剤としてはトリメリット酸エステルやピロメリット酸エステルが知られており、特許文献3にはトリメリット酸エステルやピロメリット酸エステルを始めとした芳香族多価カルボン酸エステル系可塑剤を用いた、電気絶縁性に優れた電線被覆用塩化ビニル系樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「可塑剤−その理論と応用」(村井孝一編著、幸書房、1973)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−2829号公報
【特許文献2】特開平6−166644号公報
【特許文献3】特開2004−158465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の文献に開示された可塑剤を用いた軟質塩化ビニル樹脂の体積抵抗率は、軟質塩化ビニル樹脂を用いた絶縁材・電線被覆材の薄型化に伴い要求される、より高い絶縁性へ対応する上でなお改善の余地がある。また、可塑剤分子中のアルコール部位について、具体的にどのような分岐構造が軟質塩化ビニル樹脂の体積抵抗率向上に寄与するかについては依然として不明である。
【0009】
しかして本発明の目的は、従来のフタル酸エステルを含有する樹脂組成物と同等の機械的強度、耐熱性、耐油性、耐ブリードアウト性、耐可塑剤移行性等の各性能バランスを保ちながら、優れた体積抵抗率を有する絶縁材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに可塑剤として用いる分子中のエステル部分を構成する単位に特定の分岐構造をもたせることで、該可塑剤を含む樹脂組成物が体積抵抗率に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[10]を提供する。
[1]下記式(A)
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示される構成単位を1つ以上有するエステル(i)、および
樹脂(ii)
を含有する樹脂組成物からなる絶縁材。
[2]前記エステル(i)が下記式(1)
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で示されるアルコールおよび酸成分を縮合させて得られるエステルである、[1]の絶縁材。
[3]酸成分が、芳香族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸無水物、脂肪族多価カルボン酸および脂肪族多価カルボン酸無水物から選択される1種である、[2]の絶縁材。
[4]前記RおよびRがそれぞれ独立してメチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基である、[1]〜[3]のいずれかの絶縁材。
[5]絶縁材中に含まれる可塑剤のうち、20質量%以上がエステル(i)である、[1]〜[4]のいずれかの絶縁材。
[6]前記樹脂(ii)が塩化ビニル系樹脂である、[1]〜[5]のいずれかの絶縁材。
[7][1]〜[6]の絶縁材を用いた絶縁方法。
[8][1]〜[6]の絶縁材の絶縁のための使用。
[9]電線被覆用である、[1]〜[6]のいずれかの絶縁材。
[10][9]の絶縁材を用いた電線。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた体積抵抗率を有する絶縁材および該絶縁材を用いた電線を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の絶縁材は、下記式(A)で示される構成単位(以下、構成単位(A)と称する)を1つ以上有するエステル(以下、エステル(i)と称する)および樹脂(ii)を含有する樹脂組成物からなる。以下、各成分について説明する。
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0020】
エステル(i)としては、例えば安息香酸エステル、2−メチル安息香酸エステル、3−メチル安息香酸エステル、4−メチル安息香酸エステル、1−ナフトエ酸エステル、2−ナフトエ酸エステル、2−フランカルボン酸エステル、3−フランカルボン酸エステルなどの芳香族モノカルボン酸エステル;フタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テレフタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステルなどの芳香族多価カルボン酸エステル;カプリル酸エステル、カプリン酸エステル、ラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、オレイン酸エステルなどの脂肪族モノカルボン酸エステル;シュウ酸エステル、マロン酸エステル、コハク酸エステル、グルタル酸エステル、アジピン酸エステル、ピメリン酸エステル、スベリン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル、フマル酸エステル、マレイン酸エステルなどの脂肪族多価カルボン酸エステル;シクロブタンカルボン酸エステル、シクロペンタンカルボン酸エステル、シクロヘキサンカルボン酸エステル、シクロヘプタンカルボン酸エステル、シクロオクタンカルボン酸エステルなどの脂環式モノカルボン酸エステル;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸エステル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸エステル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステルなどの脂環式多価カルボン酸エステル;リン酸エステルなどが挙げられる。
このうちフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テレフタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、アジピン酸エステル、ピメリン酸エステル、スベリン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸エステル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸エステル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステルが好ましく、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、アジピン酸エステル、アゼライン酸エステル、セバシン酸エステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸エステルが特に好ましい。
【0021】
エステル(i)の製造法は特に制限されず、公知の方法を用いて製造できる。例えばカルボン酸エステルの場合、所望のカルボン酸またはその無水物と後述するアルコール(1)をエステル化反応させ、縮合反応により生成する水を系外へ除去しながら反応を行うことで製造できる。またリン酸エステルの場合は、例えば塩化アルミニウムなどの触媒の存在下、塩化ホスホリルに対し後述するアルコール(1)を反応させ、中和、水洗して、副生する塩酸その他の不純物を除き精製することで製造できる。
【0022】
エステル(i)は、好ましくは下記式(1)で表されるアルコール(以下、アルコール(1)と称する)および酸成分を縮合して製造するのが好ましい。なお、酸成分として多価カルボン酸を用いる場合、アルコールとしてアルコール(1)のみが縮合したエステル(i)の他、アルコール(1)と共に他のアルコールが縮合したエステル(i)も製造可能である。中でも、エステル(i)はアルコールとしてアルコール(1)のみが縮合したものであることが好ましい。
【0023】
【化4】
【0024】
(式中、R、Rは前記定義のとおりである。)
【0025】
構成単位(A)およびアルコール(1)において、RおよびRがそれぞれ独立して表す炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基であることが好ましく、Rがエチル基、プロピル基またはイソプロピル基であり、かつRがメチル基またはエチル基であることがより好ましく、Rがイソプロピル基かつRがメチル基であることがさらに好ましい。
具体的に、アルコール(1)としては、2,5−ジメチル−1−ヘキサノール、2−エチル−5−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−2−プロピル−1−ヘキサノール、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノール、2,5−ジメチル−1−ヘプタノール、2−エチル−5−メチル−1−ヘプタノール、2,5−ジメチル−1−オクタノール、2,5,6−トリメチル−1−ヘプタノールが好ましく、2,5−ジメチル−1−ヘキサノール、2−エチル−5−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−2−プロピル−1−ヘキサノール、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノールが特に好ましい。
【0026】
アルコール(1)の製造法は特に制限されず、例えばエチレンなどの炭素数2〜6程度の低級オレフィンの多量化で得られる炭素数6〜12程度のオレフィンをヒドロホルミル化反応によりアルデヒドとし、続いて水素化する方法や、ブテン類のヒドロホルミル化反応により得られる炭素数5のアルデヒドをアルドール縮合により二量化し、続いて水素化する方法などの公知の方法が挙げられる。
【0027】
エステル(i)のうち、カルボン酸エステルの製造法について以下に詳しく述べる。
【0028】
カルボン酸エステルの製造は溶媒の存在下または非存在下で実施できる。溶媒としては、反応を阻害しなければ特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族系溶媒;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロピラン、3−メチルテトラヒドロピラン、4−メチルテトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でもトルエンを用いるのが、生成する水を共沸により効率的に除去できる点から好ましい。
溶媒の存在下で実施する場合、溶媒の使用量は容積効率と共沸による水除去効率の観点から、カルボン酸1質量部に対して0.5〜3質量部であるのが好ましく、1〜2.5質量部であるのがより好ましく、1.5〜2質量部であるのがさらに好ましい。
【0029】
エステル化反応は触媒の存在下で実施してもよい。触媒としては、硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、チタン酸テトライソプロピル、ジブチル錫オキシド、塩化アルミニウムなどの各種ブレンステッド酸またはルイス酸として作用する化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でもメタンスルホン酸やパラトルエンスルホン酸を用いるのが、溶媒との相溶性の観点から好ましい。
触媒の存在下で実施する場合、触媒の使用量は、反応速度とコストの観点から、カルボン酸1質量部に対して0.01〜0.05質量部であるのが好ましく、0.02〜0.03質量部であるのがさらに好ましい。
【0030】
エステル化反応の反応温度に特に制限はないが、生成するエステルの熱安定性などの観点から、通常、生成するエステルの沸点以下になるように設定する。使用するカルボン酸またはその無水物、アルコール、溶媒の種類などによって異なるが、概ね60〜250℃であるのが好ましく、100〜200℃であるのがより好ましい。
【0031】
エステル化反応の反応圧力に特に制限はなく、常圧下でも加圧下でも実施できる。反応装置・設備の簡略化の観点から常圧下での反応が好ましい。
【0032】
エステル化反応の反応時間は、使用するカルボン酸またはその無水物、アルコール、溶媒の種類などによって異なるが、通常1〜10時間が好ましく、3〜7時間がより好ましい。
【0033】
エステル化反応の終了後は、酸触媒の中和、水洗、減圧脱水、ろ過、昇華精製、真空蒸留、水蒸気蒸留などの一般的な後処理を行い、残存する未反応のカルボン酸またはその無水物、アルコール、触媒などを除去することにより、目的とするエステルが得られる。その際、必要に応じて一般的に用いられる添加剤、例えば脱色剤や脱臭剤、吸着剤などを加えても差し支えない。
【0034】
エステル(i)は本願発明の絶縁材を構成する可塑剤としての用途の他、農薬製造用溶剤、塗料用溶剤などの溶剤;相溶性改良剤、希釈剤、加工性向上剤、滑剤などの樹脂改質剤;シーリング材;ゴム加工薬剤;医薬、香料、界面活性剤、農薬、液晶、電子材料などの機能性材料およびその合成中間体;高分子の末端封止剤の原料中間体;自動車・船舶・航空機などのエンジンおよび駆動装置用潤滑油、減速ギヤボックス装置・コンプレッサー・真空ポンプ用潤滑油、冷凍機油、金属加工油、繊維加工油等の工業用潤滑油、グリースなどの潤滑剤;オレフィン類重合触媒の構成成分(例えば電子供与体);ガソリン添加剤などに用いることができる。
【0035】
エステル(i)は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、必要に応じてその他の可塑剤と混合して用いることができる。エステル(i)の含有率に特に制限はないが、絶縁材中に含まれる可塑剤のうち、20質量%以上がエステル(i)であることが好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。絶縁材中に含まれる可塑剤のうち20質量%以上をエステル(i)とすることで、高い体積抵抗率が発現する。
【0036】
前記その他の可塑剤としては、例えばフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジアリル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジsec−ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジtert−ブチル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジイソペンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジイソヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジイソヘプチル、フタル酸ビスブチルベンジル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジn−オクチル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、フタル酸ジn−デシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジドデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジテトラデシル、イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、イソフタル酸ジn−オクチル、イソフタル酸ジイソオクチル、イソフタル酸ジノニル、イソフタル酸ジイソノニル、イソフタル酸ジn−デシル、イソフタル酸ジイソデシル、イソフタル酸ジウンデシル、イソフタル酸ジドデシル、イソフタル酸ジトリデシル、イソフタル酸ジテトラデシル、テレフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、テレフタル酸ジn−オクチル、テレフタル酸ジイソオクチル、テレフタル酸ジノニル、テレフタル酸ジイソノニル、テレフタル酸ジn−デシル、テレフタル酸ジイソデシル、テレフタル酸ジウンデシル、テレフタル酸ジドデシル、テレフタル酸ジトリデシル、テレフタル酸ジテトラデシル、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリn−オクチル、トリメリット酸トリイソオクチル、トリメリット酸トリノニル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリn−デシル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリウンデシル、トリメリット酸トリドデシル、トリメリット酸トリ(トリデシル)、トリメリット酸トリテトラデシル、ピロメリット酸テトラ(2−エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラn−オクチル、ピロメリット酸テトライソオクチル、ピロメリット酸テトラノニル、ピロメリット酸テトライソノニル、ピロメリット酸テトラn−デシル、ピロメリット酸テトライソデシル、ピロメリット酸テトラウンデシル、ピロメリット酸テトラドデシル、ピロメリット酸テトラトリデシル、ピロメリット酸テトラ(テトラデシル)、オレイン酸イソブチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ビス[2−(2−ブトキシエトキシ)エチル]、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジn−オクチル、アジピン酸ジイソオクチル、アジピン酸ジノニル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジn−デシル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジウンデシル、アジピン酸ジドデシル、アジピン酸ジトリデシル、アジピン酸ジテトラデシル、ピメリン酸ジ(2−エチルヘキシル)、ピメリン酸ジn−オクチル、ピメリン酸ジイソオクチル、ピメリン酸ジノニル、ピメリン酸ジイソノニル、ピメリン酸ジn−デシル、ピメリン酸ジイソデシル、ピメリン酸ジウンデシル、ピメリン酸ジドデシル、ピメリン酸ジトリデシル、ピメリン酸ジテトラデシル、スベリン酸ジ(2−エチルヘキシル)、スベリン酸ジn−オクチル、スベリン酸ジイソオクチル、スベリン酸ジノニル、スベリン酸ジイソノニル、スベリン酸ジn−デシル、スベリン酸ジイソデシル、スベリン酸ジウンデシル、スベリン酸ジドデシル、スベリン酸ジトリデシル、スベリン酸ジテトラデシル、アゼライン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アゼライン酸ジn−オクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジノニル、アゼライン酸ジイソノニル、アゼライン酸ジn−デシル、アゼライン酸ジイソデシル、アゼライン酸ジウンデシル、アゼライン酸ジドデシル、アゼライン酸ジトリデシル、アゼライン酸ジテトラデシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、セバシン酸ジn−オクチル、セバシン酸ジイソオクチル、セバシン酸ジノニル、セバシン酸ジイソノニル、セバシン酸ジn−デシル、セバシン酸ジイソデシル、セバシン酸ジウンデシル、セバシン酸ジドデシル、セバシン酸ジトリデシル、セバシン酸ジテトラデシル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジブチル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(2−エチルヘキシル)、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−オクチル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソオクチル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジノニル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−デシル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソデシル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジウンデシル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジドデシル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジトリデシル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジテトラデシル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(2−エチルヘキシル)、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−オクチル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソオクチル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジノニル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−デシル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソデシル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジウンデシル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジドデシル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジトリデシル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジテトラデシル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(2−エチルヘキシル)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−オクチル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソオクチル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジノニル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジn−デシル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソデシル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジウンデシル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジドデシル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジトリデシル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジテトラデシル、アジピン酸/グリコールポリエステル系可塑剤、ピメリン酸/グリコールポリエステル系可塑剤、スベリン酸/グリコールポリエステル系可塑剤、アゼライン酸/グリコールポリエステル系可塑剤、セバシン酸/グリコールポリエステル系可塑剤、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化脂肪酸オクチルエステル、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル、ジペンタエリスリトールエステル、アセチルクエン酸トリブチル、エチルフタリルエチルグリコレ−ト、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)、リン酸トリフェニル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸(2−エチルヘキシル)ジフェニル、リン酸トリクレジル、メチルアセチルリシノレ−ト、グリセリルトリアセテ−ト、N−ブチルベンゼンスルホンアミドなどが挙げられる。
【0037】
エステル(i)および樹脂(ii)を含有する樹脂組成物は、柔軟性などの諸物性に優れ、各種用途に対し好適に使用できる。
樹脂(ii)としては、例えば塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、スチロール樹脂、セルロース樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ブチラール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
中でも、塩化ビニル系樹脂であるのが好ましい。
【0038】
ここで「塩化ビニル系樹脂」とは、モノマーとして塩化ビニルのみを用いた無変性の塩化ビニル樹脂のほか、塩化ビニルを主成分とする他のコモノマーとの共重合体など、塩化ビニルを主な構成単位とする樹脂を指す。前記樹脂は従来公知の方法、例えば懸濁重合法などで製造される。塩化ビニルと共重合されうるコモノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテンなどのα−オレフィン;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン;ビニルアルコール、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、フマル酸またはそのエステル、マレイン酸またはそのエステルやその無水物、アクリル酸またはそのエステル、メタクリル酸またはそのエステル、イソプレノールなどが挙げられる。
【0039】
エステル(i)の樹脂(ii)への配合量は、所望する柔軟性や加工性の程度によっても異なるが、エステル(i)および必要に応じて混合する他の公知の可塑剤の合計量として、樹脂(ii)100質量部に対して通常1〜200質量部であり、10〜150質量部であるのが好ましく、30〜70質量部であるのがさらに好ましい。添加量が1質量部未満では得られる樹脂組成物の柔軟性・加工性が不足する傾向となり、また添加量が200質量部より多い場合は樹脂組成物からのエステル(i)のブリードアウトあるいは加工時のゲル化不良が生じやすくなる傾向がある。
【0040】
前記樹脂組成物は、樹脂(ii)に、エステル(i)の他に、必要に応じ本発明の目的を損なわない範囲で添加剤を加えても良い。添加剤としては、例えばシリカ系粉末、クレイ、タルク、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどの充填剤;流動パラフィン、ワックス類、高級脂肪酸またはその塩類、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、高級アルコール、金属石鹸などの滑剤;ホウ酸バリウム、ホウ酸亜鉛、三酸化アンチモン、酸化亜鉛、塩素化ポリエチレン、リン酸系難燃剤、ハロゲン系難燃剤などの難燃剤;フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの酸化防止剤;無機顔料、有機顔料などの着色剤;ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類、ヒンダードアミン類などの紫外線吸収剤;オキシビスベンジルヒドラジド、アゾジカルボンアミドなどの発泡剤;三塩基性硫酸鉛、オルトケイ酸鉛−シリカゲル共沈物、二塩基性ステアリン酸鉛、二塩基性フタル酸鉛などの鉛系安定剤;バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、アルミニウム系安定剤、ケイ素系安定剤、スズ系安定剤、マグネシウム系安定剤などの安定剤;界面活性剤;帯電防止剤などが挙げられる。
【0041】
これら添加剤を必要に応じ樹脂組成物へ配合する場合、その配合量は樹脂(ii)100質量部に対して通常0.1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部の範囲内であることが望ましい。
【0042】
エステル(i)と樹脂(ii)、その他の可塑剤、各種添加剤などを目的に応じた公知の方法・設備、例えばブレンダー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサーなどを用いて加熱下で混合することで樹脂組成物を調製し、本発明の絶縁材を得ることができる。
その後、公知の成形方法、例えば押出成形、カレンダー成形、射出成形、熱成形、コーティング加工、ディッピング加工などの成形方法により、所望の製品形態へ加工・成形することができる。
【0043】
本発明の絶縁材の用途は特に限定されるものではなく、電気絶縁性が必要とされるあらゆる用途に適用できる。例えば、絶縁テープ、絶縁クロス、絶縁フィルム、絶縁シート、靴、靴底、衣類、手袋、ヘルメット、コンデンサー、電池材料(容器・セパレータなど)、絶縁性接着剤、電気機器の内外装やカバー、配線コネクタ、コンセントなどの電線周りの樹脂製品、電気工事用工具の被覆、ネジ、ボルト、ナット、ワッシャー、電子回路基板、プリント基板、電子機器用グリース、絶縁ワニス、絶縁塗料などに用いることができる。
【0044】
また本発明の絶縁材を構成する樹脂組成物は、電気絶縁性が必ずしも必要とされない様々な用途にも適用できる。例えば、衣類、雨衣、傘、バッグ、ロープ、防虫網(網戸など)、包装材料、静脈バッグおよびチューブ、化粧品・シャンプー・洗剤用ボトル、血液保存容器(血小板保存容器など)、組織の包埋剤、水道パイプ、パイプ用継手、ホース、タンク、自動車アンダーボディコート、冷蔵庫用ガスケット、パッキン類、各種レザー類(普通レザー、発泡層を含むスポンジレザー、サンドイッチスポンジレザーなど)、各種発泡製品、建築材料(壁紙、床材、クッション材、断熱材、防音材、保護剤、テラス、明かり取り、カーポート、目隠し、物置、アーケード、樋など)、看板、文房具、字消し、カード、ステッカー、玩具、接着剤、絆創膏、農業用フィルム、漁網、ブラシ、かつら、レコード盤などに用いることができる。
【0045】
本発明の絶縁材を導体(例えば銅などの金属など)上に被覆するには、従来公知の押出機を備えた押出被覆装置が利用できる。例えば押出機温度が160〜200℃、クロスヘッド部温度が180℃の条件では毎分300〜450メ−トル程度の電線製造が可能である。
【0046】
本発明の絶縁材を電線被覆用として適用できる電線の形態は特に限定されず、例えば単線、フラット線、シールド線など様々な公知の形態の電線に絶縁材として適用できる。
【0047】
本発明の電線の利用法は特に限定されず、例えば自動車用、電気機器用、通信用、電力用、船舶用、航空機用などに用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。
【0049】
(製造例1)
(1)エステル合成
磁気攪拌子、温度計、窒素導入管、Dean−Stark型分水器、および還流冷却管を備えた容量500mlのガラス製三口フラスコに、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノール(東京化成工業株式会社製)123g(0.777mol)、無水フタル酸(和光純薬工業株式会社製)57.5g(0.388mol)、トルエン(和光純薬工業株式会社製)100g、および酸触媒としてメタンスルホン酸(和光純薬工業株式会社製)1.52g(15.8mmol)を窒素雰囲気下で仕込んだ。この溶液を攪拌しながら内温120℃まで加熱し5時間反応させた。その後反応系を減圧にして溶媒と未反応の2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキサノールを除去した後、中和、水洗、減圧下での脱水を行うことで、フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)144g(0.322mol)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl,テトラメチルシラン(TMS),ppm) δ 0.87(d,CH,6H),0.88(d,CH,6H),0.92(d,CH,12H),1.14〜1.61,1.80〜1.88(m,14H),4.26(dd,−O−CH−,4H),7.52(dd,ArH,2H),7.69(dd,ArH,2H)
【0050】
(2)樹脂組成物および軟質塩化ビニル樹脂シート作成
平均重合度1000のポリ塩化ビニル樹脂(信越化学工業株式会社製、商品名TK−1000)100質量部に対し、前記(1)で合成したフタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部、および安定剤として三塩基性硫酸鉛5質量部を配合した。この混合物をプラネタリーミキサー(東洋精機株式会社製)により120℃、回転数60rpmで混練した。ドライアップ(可塑剤がポリ塩化ビニル樹脂に吸収され、混合物の流動性が増すこと)の完了はミキサーのトルク降下で判定した。この混合物を150℃の二本ミルロール上で10分間ロールし(ロール幅220mm、ロールギャップ1mm)、その後厚さ1mmになるように26トン油圧式成型機(有限会社東邦プレス製作所製)でプレスし(予備プレス:0.5MPa・170℃で4分、プレス:5MPa・170℃で1分、冷却:0.5MPa・20℃で10分)、軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0051】
(製造例2)
(1)エステル合成
無水フタル酸の代わりに無水トリメリット酸(和光純薬工業株式会社製)49.8g(0.259mol)を用いた以外は製造例1と同様に反応および後処理を行い、トリメリット酸トリス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)131g(0.208mol)を得た。
H−NMR分析(400MHz,CDCl,TMS,ppm) δ 0.87〜0.97(m,CH,36H),1.15〜1.65,1.79〜1.90(m,21H),4.25〜4.36(m,−O−CH−,6H),7.72(d,ArH,1H),8.17(dd,ArH,1H),8.37(d,ArH,1H)
【0052】
(2)樹脂組成物および軟質塩化ビニル樹脂シート作成
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、前記(1)で合成したトリメリット酸トリス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)25質量部、フタル酸ジオクチル(花王株式会社製、商品名ビニサイザー80)25質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0053】
(製造例3)
(1)エステル合成
無水フタル酸の代わりにアジピン酸(和光純薬工業株式会社製)56.8g(0.389mol)を用いた以外は製造例1と同様に反応および後処理を行い、アジピン酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)129g(0.302mol)を得た。
H−NMR(400MHz、CDCl、TMS、ppm) δ 0.86〜0.90(m,CH,24H),1.10〜1.55,1.62〜1.82(m,18H),2.29〜2.34(m,−CH−COO,4H),3.98〜4.07(m,−O−CH−,4H)
【0054】
(2)樹脂組成物および軟質塩化ビニル樹脂シート作成
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、前記(1)で合成したアジピン酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0055】
(製造例4)
(1)エステル合成
無水フタル酸の代わりにセバシン酸(和光純薬工業株式会社製)78.5g(0.388mol)を用いた以外は製造例1と同様に反応および後処理を行い、セバシン酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)161g(0.333mol)を得た。
H−NMR分析(400MHz,CDCl,TMS,ppm) δ 0.86〜0.90(m,CH,24H),1.10〜1.83(m,26H),2.28(t,−CH−COO,4H),3.97〜4.06(m,−O−CH−,4H)
【0056】
(2)樹脂組成物および軟質塩化ビニル樹脂シート作成
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、前記(1)で合成したセバシン酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0057】
(比較製造例1)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ジオクチル(花王株式会社製、商品名ビニサイザー80)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0058】
(比較製造例2)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ジイソノニル(花王株式会社製、商品名ビニサイザー90)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0059】
(比較製造例3)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ジイソデシル(株式会社ジェイ・プラス製)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0060】
(比較製造例4)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ビス(2−プロピル−1−ヘプチル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0061】
(比較製造例5)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ビス(2−エチル−1−オクチル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0062】
(比較製造例6)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ビス(3,7−ジメチル−1−オクチル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0063】
(比較製造例7)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、フタル酸ビス(2−メチル−1−ノニル)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0064】
(比較製造例8)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、トリメリット酸トリオクチル(花王株式会社製、商品名トリメックスT−08NB)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0065】
(比較製造例9)
フタル酸ビス(2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル)50質量部の代わりに、アジピン酸ジイソデシル(花王株式会社製、商品名ビニサイザー50)50質量部を用いた以外は製造例1の(2)と同様にして軟質塩化ビニル樹脂シートを製造した。
【0066】
(実施例1〜4)
製造例1〜4で得られた軟質塩化ビニル樹脂シートについて下記の方法で各物性を測定・評価した。結果を表1に示す。
(1)引張試験:JIS K6723に準拠して試験を行った。
(2)体積抵抗率試験:JIS K 6723に準拠し、30℃で試験を行った。
(3)加熱後引張試験:JIS K 6723に準拠し、100℃、120℃で120時間加熱後にそれぞれ試験を行った。
(4)耐油性試験:JIS K6723に準拠し、70℃の試験用油に4時間浸漬後に試験を行った。
(5)ブリードアウト試験:100mm×100mm×1mmに成型した試験片(n=3)を70℃のオーブン中で20日間加熱し、可塑剤のブリードアウト(PVCシートからの染み出し)の有無を目視で確認し評価した(n=3)。
(6)移行性試験:20mm×50mm×1mmに成型した試験片一枚と同形のABS樹脂板一枚を重ねあわせ、80℃のオーブン中で72時間加熱し、PVCシートからABS樹脂板への可塑剤の移行の有無を目視で確認し評価した(n=6)。さらに、ABS樹脂板の代わりにポリエチレン樹脂板を用いて同様の試験を行った。
【0067】
(比較例1〜9)
比較製造例1〜9で得られた軟質塩化ビニル樹脂シートについて、実施例1〜4と同様に各物性を測定・評価した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記実施例および比較例により、本発明の絶縁材について、以下の諸点が認められた。
フタル酸エステル間で比較をすると、構成単位(A)を有さないフタル酸エステルを用いた比較例1〜7の樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートの体積抵抗率は低いのに対し、構成単位(A)を有するエステル(i)を用いた実施例1の樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートは高い体積抵抗率を示した。
【0070】
またトリメリット酸エステル間で比較をすると、構成単位(A)を有する実施例2のトリメリット酸エステルを用いた樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートは、構成単位(A)を有さないフタル酸ジオクチルと混合して用いても、比較例8のトリメリット酸トリオクチルのみを用いた場合に匹敵する高い体積抵抗率を示した。トリメリット酸エステルはフタル酸エステル等に比べ、塩化ビニル樹脂が本来有する体積抵抗率を大きく損なうことなく軟質塩化ビニル樹脂に求められる各種性能を付与できる可塑剤として知られる。構成単位(A)を有するトリメリット酸エステルを用いれば、使用するフタル酸エステルの一部を係るトリメリット酸エステルに置き換えるのみで同等の効果を得られるため、高価なトリメリット酸の使用量を抑えることができる。
【0071】
アジピン酸エステル、セバシン酸エステルといった脂肪族エステル間の比較でも同様な傾向が見られ、構成単位(A)を有さないエステルを用いた比較例9の樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートに対し、構成単位(A)を有するエステル(i)を用いた実施例3、4の樹脂組成物を成形して得た軟質塩化ビニルシートは高い体積抵抗率を示した。
【0072】
樹脂組成物は各種用途で使用されており、それぞれの用途に応じて必要性能が異なる。また可塑剤の添加量も目的に応じて様々であるため、樹脂組成物の機械的特性、体積抵抗率、耐熱性、耐油性、耐可塑剤移行性の値については一概に必要量を規定できるものではないが、実施例中の値をもって一つの基準とみなすことができる。実施例の結果から、可塑剤の添加量が等しい場合、構成単位(A)を有する特定構造のエステル(i)を可塑剤として用いた場合にのみ、樹脂組成物の機械的強度、耐熱性、耐油性、耐可塑剤移行性を保ったまま優れた体積抵抗率を発揮できることがわかる。
【0073】
(実施例5)
実施例1、2、3、4の樹脂組成物それぞれについて、スクリュー直径60mm、L/D=25の電線押出機を用い、押出機のシリンダー温度を190℃、クロスヘッド部温度を180℃に設定し、線速毎分400mで銅線上に樹脂組成物を押出成形することで、被覆電線を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の絶縁材は高い体積抵抗率を有し、電気絶縁性が必要とされるあらゆる用途に有利に使用できる。