(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725876
(24)【登録日】2020年6月30日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】無水アルカリ金属硫化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 17/38 20060101AFI20200713BHJP
C01B 17/24 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
C01B17/38
C01B17/24
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-128874(P2016-128874)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-2514(P2018-2514A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】大槻 周次郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 英樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏
(72)【発明者】
【氏名】古沢 高志
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−159656(JP,A)
【文献】
特開2006−016281(JP,A)
【文献】
特表2013−516380(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0163259(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/083053(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/070335(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0253147(US,A1)
【文献】
特開平02−059406(JP,A)
【文献】
米国特許第05071632(US,A)
【文献】
特開平01−028207(JP,A)
【文献】
米国特許第04908043(US,A)
【文献】
中国特許出願公開第104163402(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0033824(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第1436719(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水アルカリ金属硫化物および含水アルカリ金属水硫化物を含む水溶液を97℃以上の温度範囲を維持しながら減圧脱水を開始する、無水アルカリ金属硫化物を晶析させる工程を有する無水アルカリ金属硫化物の製造方法であって、
該水溶液中の含水アルカリ金属硫化物1モルに対して含水アルカリ金属水硫化物のモル数が0.01〜1.00モルの範囲の割合であることを特徴とする無水アルカリ金属硫化物の製造方法。
【請求項2】
含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物より調製された、含水アルカリ金属硫化物を含む水溶液である請求項1記載の無水アルカリ金属硫化物の製造方法。
【請求項3】
含水アルカリ金属水硫化物1モルに対し、アルカリ金属水酸化物0.50〜0.99モルの割合で調製されたものである、請求項2記載の無水アルカリ金属硫化物の製造方法。
【請求項4】
得られる無水アルカリ金属硫化物の二次粒子径が30〜600μmの範囲である請求項1〜3の何れか一項記載の無水アルカリ金属硫化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水アルカリ金属硫化物の製造方法に関し、詳しくは、微粒子状で高純度の無水アルカリ金属硫化物を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジニアリングプラスチックや医薬品の原料として、高純度であり、かつ取り扱いの容易な無水アルカリ金属硫化物、中でもポリアリーレンスルフィドやスルフィド結合を有する医薬品等の原料である無水硫化ナトリウムが要求されている。現在、一般に市販されている硫化ナトリウムとしては、硫化ナトリウム水溶液を冷却または濃縮して晶析させた結晶水を有する硫化ナトリウム結晶(Na
2S・9H
2O、Na
2S・6H
2O、Na
2S・5.5H
2O、Na
2S・5H
2O等)や60%程度の濃度の硫化ナトリウム水溶液をペレット状、フレーク状、チップ状等に固化して得られる含水硫化ナトリウム等がある。しかしながら、これらの硫化ナトリウムは水分を30%以上含有するものであり、純度が低いことに加えて潮解性が強く酸化され易いという欠点を有する。
【0003】
これらアルカリ金属硫化物を原料とする化学反応においては、製品中に存在する水が好ましくない副反応を誘発することや反応の平衡状態を変えると言う問題点があるため、反応に使用する前に脱水等の操作が必要となって操作が煩雑となる。また反応をスムーズに進行させるために反応溶媒に良分散して溶解し易い様な微粒子状の無水アルカリ金属硫化物が望まれている。
【0004】
無水硫化ナトリウムを得る方法としては、水和または含水硫化ナトリウムを融点以上の温度に加熱し脱水する方法が一般的である。しかしながら、水分を含有する硫化ナトリウムを融解させると極めて高粘度の塊となって、容器に強固に付着して攪拌や取り出しが困難となる。これまでに無水硫化ナトリウムの製法として知られているものには、
(1)水和硫化ナトリウム・9水和物をパイプに充填し、攪拌することなく1トールの減圧下で特定の条件で加熱して融解を避けながら徐々に800℃まで昇温し、強制脱水する方法(特許文献1参照)。
(2)水酸化ナトリウムを2〜15質量%含有する97℃以上の硫化ナトリウム水溶液から無水硫化ナトリウム結晶を析出させる方法(特許文献2参照)
(3)高水和硫化ナトリウム結晶を500トール以下の圧力で高水和硫化ナトリウム結晶から硫化ナトリウム・1水和物への相転移点±10℃で4〜5時間加熱し、次いで大気圧下または減圧下で90〜200℃で4〜5時間加熱して無水硫化ナトリウムを得る方法(特許文献3参照)。
(4)炭化水素溶媒あるいはポリハロ芳香族化合物の存在下、硫化ナトリウム水和物及び有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、リン酸アルカリ金属塩の中から選ばれる少なくとも一種の金属塩を接触せしめ脱水を行ない、硫化ナトリウム組成物を得る方法(特許文献4、5参照)等が知られている。
【0005】
しかしながら、(1)の方法は、加熱温度が極めて高温であることから実用的ではなく、しかも得られた無水硫化ナトリウムは水和物の結晶形状を保持した骸晶となり、比表面積が大きく潮解性があり、非常に酸化され易いものであった。(2)及び(3)の方法は、これらの欠点を改良した方法ではあるが、(2)の方法では無水硫化ナトリウム結晶を析出させている間の水酸化ナトリウム濃度及び温度を厳密に制御する必要があり容易な方法ではなかった。また、(3)の方法では、減圧下で長時間を要し数工程が必要であり、原料としてNa
2S・5水和物を溶融させることなく粒子形を保持したまま脱水を行なっており、原料であるNa
2S・5水和物の粒子径がそのまま無水硫化ナトリウムの粒子径に反映し、得られる無水硫化ナトリウムの粒子径も1〜1.5mmと、比較的大きい結晶であった。このような結晶体を呈していると、比表面積が小さくなり、エンジニアリングプラスチックや医薬品の原料として用いた場合に反応性が低下したり、それゆえ、別途、当該結晶を微子粒状(例えば800μm以下)にまで破砕する工程が必要になることもあった。また、(4)の方法では脱水時の系に有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、リン酸アルカリ金属塩等を分散剤として加える必要があるため脱水後の系内はそれら金属塩との混合物となり無水硫化ナトリウム単品を取り出すことは不可能に近かった。
【0006】
そこで、微粒子状の高純度の無水アルカリ金属硫化物を得る方法として、アルカリ金属硫化物水溶液と、該水溶液の沸点以下の融点を有する分散媒とを接触させ脱水を行なう、無水アルカリ金属硫化物と分散媒の混合物の製造方法が知られている(特許文献6参照)。しかし該方法もエネルギー効率が低く、生産性良く無水アルカリ金属硫化物を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許2533163号公報
【特許文献2】特開昭64−28207号公報
【特許文献3】特開平2−51404号公報
【特許文献4】特開昭60−200807号公報
【特許文献5】特開昭60−210509号公報
【特許文献6】特開平9−67108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、微粒子状の高純度の無水アルカリ金属硫化物を生産性良く製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、含水アルカリ金属水硫化物の過剰下で、含水アルカリ金属硫化物を含む水溶液を、97℃以上という高温を維持したまま、濃縮することにより、微粒子状の無水アルカリ金属硫化物が高純度で、効率よく得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、含水アルカリ金属硫化物および含水アルカリ金属水硫化物を含む水溶液を97℃以上の温度範囲を維持しながら濃縮することにより、無水アルカリ金属硫化物を晶析させる工程を有する無水アルカリ金属硫化物の製造方法であって、
該水溶液中の含水アルカリ金属硫化物1モルに対して含水アルカリ金属水硫化物のモル数が0.01〜1.00モルの範囲の割合であることを特徴とする無水アルカリ金属硫化物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微粒子状の高純度の無水アルカリ金属硫化物を生産性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】硫化ソーダの各種水和物の溶解度曲線を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の無水アルカリ金属硫化物の製造方法は、含水アルカリ金属硫化物および含水アルカリ金属水硫化物を含む水溶液を97℃以上の温度範囲を維持しながら濃縮することにより、無水アルカリ金属硫化物を晶析させる工程を有する無水アルカリ金属硫化物の製造方法であって、
該水溶液中の含水アルカリ金属硫化物1モルに対して含水アルカリ金属水硫化物のモル数が0.01〜1.00モルの範囲の割合であることを特徴とする。
【0014】
本発明で用いる含水アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は特に限定されないが10〜80質量%、特に35〜65質量%であることが好ましい。含水アルカリ金属硫化物として、好ましいのは含水硫化ナトリウムである。使用する含水硫化ナトリウムの形状は、結晶、フレーク状、固形、液体及び水溶液のいずれでもかまわない。使用する含水硫化ナトリウムの形状が、結晶、フレーク状、固形、液体の場合には、水を加えて水溶液とすればよい。その際、該水溶液中のアルカリ金属硫化物1モルに対して含水アルカリ金属水硫化物のモル数が0.01〜1.00モルの範囲の割合で、好ましくは0.01〜0.10モルの範囲の割合で含有するよう調整する。
【0015】
含水アルカリ金属硫化物は、例えば、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物より調製されたものであってもよい。含水アルカリ金属水硫化物としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は特に限定されないが10〜80質量%、特に35〜65質量%であることが好ましい。含水アルカリ金属水硫化物として、好ましいのは含水水硫化ナトリウムである。使用する含水水硫化ナトリウムの形状は、結晶、フレーク状、固形、液体及び水溶液のいずれでもかまわない。また、アルカリ金属水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの水溶液が挙げられる。なお、該水溶液として用いる場合には、濃度20質量%以上の水溶液であることが好ましい。これらの中でも特に水酸化リチウムと水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、無水アルカリ金属硫化物の生成が促進される点から、アルカリ金属水硫化物1モル当たり、0.50〜0.99モルの範囲が好ましく、特に0.95〜0.99モルの範囲がより好ましい。当該アルカリ金属水酸化物の使用量は、当該範囲を外れた場合であっても、アルカリ金属水酸化物ないし含水アルカリ金属水硫化物を加えて調整すればよく、最終的に得られる水溶液中の含水アルカリ金属水硫化物の割合が、アルカリ金属硫化物1モルに対して、0.01〜1.00モルの範囲の割合、好ましくは0.01〜1.00モルの範囲の割合となるよう調整することが生産性の観点からは好ましい。
【0016】
このようにして調製された含水アルカリ金属硫化物を含む水溶液は、水に溶解する有機溶媒を含んでいても良い。水に溶解する有機溶媒としては、例えば、アセトン(溶解度:全ての割合で水と相溶する。沸点:56.1℃)等のケトン類;メタノール(溶解度:全ての割合で水と相溶する、沸点:64.7℃)、エタノール(溶解度:全ての割合で水と相溶する、沸点:78.3℃)、イソプロピルアルコール(溶解度:全ての割合で水と相溶する、沸点:82.26℃)、エチレングリコール(溶解度:全ての割合で水と相溶する、沸点:197℃)等のアルコール類;酢酸メチル(溶解度:24質量%、沸点:56.9℃)等のエステル類等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いても良いし、2種以上を混合した混合溶剤を用いても良い。有機溶剤として好ましいものはケトン類、アルコール類であり、より好ましいものはエタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、エチレングリコールであり、最も好ましいものはエタノール、アセトン、エチレングリコールである。
【0017】
このようにして調製された含水アルカリ金属硫化物を含む水溶液は、後述する濃縮を行う前に、97℃以上の温度範囲を維持しながら、静置して不純物を除去してもよい。静置時間は特に限定されないが、1〜5時間が好ましい。
【0018】
このようにして調製された含水アルカリ金属硫化物を含む水溶液は、97℃以上の温度範囲を維持しながら、好ましくは、97℃以上かつ120℃の温度範囲を維持しながら、
図1に示すアルカリ金属硫化物の飽和濃度曲線に沿って、濃縮することによって、水溶液中に無水アルカリ金属硫化物を析出することができる。飽和濃度を濃縮すると無水アルカリ金属硫化物を析出させることができる。結晶が析出したアルカリ金属硫化物飽和水溶液の無水アルカリ金属結晶スラリー溶液はスラリー濃度1〜50%まで析出させることができるが、液の流動性を維持する点から1〜30質量%が好ましい。濃縮は、減圧下に脱水することが好ましく、絶対圧で4〜40kPaの範囲で行うことが好ましく、さらに8〜20kPaの範囲で行うことがより好ましい。
【0019】
含水アルカリ金属硫化物および含水アルカリ金属水硫化物を含む水溶液の濃縮を、バッチで行う場合には、1回あたりの濃縮に要する時間は特に限定されないが、10分〜10時間の範囲で行うことが好ましく、30分〜2時間の範囲で行うことがより好ましい。また連続式で行う場合には、
図1に示すアルカリ金属硫化物の飽和濃度曲線に沿って、無水アルカリ金属硫化物が析出する濃度範囲まで濃縮したら、当該濃度範囲を維持するように、含水アルカリ金属硫化物および含水アルカリ金属水硫化物を含む水溶液を調整しながら加え、飽和濃度以上に濃縮すれば良い。
【0020】
本発明の製造方法では、30〜600μmの範囲、さらには300〜500μmの範囲で所望の二次粒子径の範囲を有する微粒子状の無水アルカリ金属硫化物を得ることができる。
【0021】
上記工程(1)を経て得られた無水アルカリ金属硫化物は、続いて、適宜フィルターを用いて固液分離した後、冷却・乾燥して粉末状ないし顆粒状の無水アルカリ金属硫化物として調製することができる。無水アルカリ金属硫化物は、潮解性を有し、空気中の二酸化炭素と反応することから、密封して空気と遮断して保存することが望ましい。
【0022】
本発明の製造方法は、腐食性を抑えて無水アルカリ金属硫化物を生成することができるため、耐腐食性に極めて優れるものの、高価でかつ加工の難しいジルコニウムやチタンといった金属材料を必ずしも使用する必要は無く、SUSやニッケル合金を用いた製造装置を使用することができる。なお、本発明に用いることができる該ニッケル合金は、クロムの含有割合が43〜47質量%、モリブデンの含有割合が0.1〜2質量%および残部がニッケルおよび不可避不純物で構成された合金である。タングステン、鉄、コバルトおよび銅は、検出限界以下の含有量であるものが好ましい。本発明において「不可避不純物」の用語は、技術的に除去が困難な微量の不純物を意味している。本発明においては、例えば、合金中において、1質量%以下、好ましくは検出限界以下の割合で含まれる炭素原子が挙げられる。当該ニッケル合金は例えば、MCアロイ(日立金属MMCスーパーアロイ社)として市販されている。
【0023】
上記の方法で得られた本発明の無水アルカリ金属硫化物は、微粒子状で高純度なことから エンジニアリングプラスチックや医薬品の原料として用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りが無い場合、%は質量%をあらわすものとする。
【0025】
(測定法)水分量
水分気化装置を備えた電量式カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製)を用い、 得られた無水硫化ナトリウムを280℃20分加熱して、蒸発させた水分を窒素ガスでカールフィッシャー液に送り、カールフィッシャー法にて水分量を測定した。
【0026】
(測定法)生成物の成分分析
生成物成分測定はJIS K1435−1986に準拠した測定により求めた。
【0027】
(測定法)無水硫化ナトリウムの二次粒子径
無水硫化ナトリウムの二次粒子径は、JIS Z8815−1994に準拠した測定により求めた。
【0028】
[侵食度の算出方法]
試験片の寸法変化、重量変化を測定し、下記計算式より、侵食度を算出した。
【0029】
【数1】
単位は、バッフル2枚の試験前重量(g)、バッフル2枚の試験後重量(g)、密度(g/cm
3)、バッフル2枚の表面積(cm
2)、試験時間(h)、10mm=1cmで換算、とする。
【0030】
[試験片の作成方法]
「MCアロイ」(クロム45質量%、モリブデン1質量%およびニッケル残部)を用いて、寸法:縦25(mm)×横25(mm)×厚さ2(mm)を2枚作成し、互いに中央部で溶接して、寸法:縦50(mm)×横25(mm)×厚さ2(mm)の試験片を作製した。
【0031】
〔実施例1〕
攪拌機及びデカンターを備えた「MCアロイ」製反応容器に、上記試験片をバッフルとして2枚を、試験片全体が後述する水溶液に浸かる位置に取り付けた。次に、当該反応容器に、モル比NaOH:NaSH=0.98:1.00になるように、48.64%NaOH水溶液(1287g)(15.68mol)、48.30%NaSH水溶液(1857g)(16.00mol)を仕込み、撹拌しながら内温120℃まで昇温し、38%Na
2S水溶液を調製した。その後、120℃を維持したまま5時間静置した。
【0032】
不純物を除去後、内温120℃を維持したまま、減圧を開始して減圧脱水を開始した。内温120±10℃で発泡に注意しながら徐々に減圧度を上げて行き、Na
2S濃度が60%になるまで減圧脱水を継続した。濃縮脱水速度は210g/Hrであった。
【0033】
Na
2S濃度が60%に到達すると飽和水溶液となり無水Na
2Sの結晶が析出した。更に減圧脱水を継続して結晶スラリー濃度が30%になるまで継続した。ここでも濃縮脱水速度は210g/Hrであった。
【0034】
晶析終了後、窒素雰囲気中で遠心ろ過機を使用して結晶を分離した。得られた結晶520gは空気に触れないように密封容器に充填・保管した。
【0035】
得られた生成物の成分を下記表1に示した。また得られた無水硫化ナトリウムの粒子径は、下記表2に示した。また、試験片の侵食度は、表3に示した。
【0036】
〔比較例1〕
モル比でNaOH:NaSH=1.00:0.93になるように、48.64%水酸化ナトリウム水溶液(1316g)(16.00mol)、48.30%水硫化ソーダ水溶液(1727g)(14.88mol)、濃縮脱水速度は20g/Hrで行なったこと以外は実施例1と同様に実施した。得られた結晶528gは空気に触れないよう密封容器に充填、保管した。生成物の成分を下記表1に示した。また得られた無水硫化ナトリウムの粒子径は、下記表2に示した。また、試験片の侵食度は、表3に示した。
【0037】
〔比較例2〕
実施例1と同様の反応容器を用いて、モル比でNaOH:NaSH=1.00:0.93になるように、48.64%水酸化ナトリウム水溶液(1316g)(16.00mol)、48.30%水硫化ソーダ水溶液(1727g)(14.88mol)及び分散媒としてp−ジクロロベンゼン147.0g(1.000mol)を入れ昇温を開始した。内温が140℃に到達すると水とp−ジクロロベンゼンの留出 が始まった。p−ジクロロベンゼンは、デカンターで分離して連続的に系内に戻した。濃縮速度は20g/Hrであった。留出開始後しばらくすると系内に粒子が分散し始めた。2時間後90.0gの水が留出し内温がp−ジクロロベンゼンの沸点である174℃に上昇したので脱水を終了した。脱水終了時の系内は、無水硫化ナトリウムの微粒子がp−ジクロロベンゼンに分散している状態であった。冷却後粒子をろ取し、100℃で2時間減圧乾燥し77.2g(収率99.0%)の粒状生成物を得た。生成物の成分を下記表1に示した。また得られた無水硫化ナトリウムの粒子径は、下記表2に示した。また、試験片の侵食度は、表3に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】