特許第6726411号(P6726411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許6726411電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法
<>
  • 特許6726411-電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法 図000006
  • 特許6726411-電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法 図000007
  • 特許6726411-電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法 図000008
  • 特許6726411-電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法 図000009
  • 特許6726411-電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法 図000010
  • 特許6726411-電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法 図000011
  • 特許6726411-電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726411
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】電解精錬設備に用いる電源制御装置および電源制御方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/00 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   C25C7/00 301
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-243346(P2018-243346)
(22)【出願日】2018年12月26日
(62)【分割の表示】特願2015-193834(P2015-193834)の分割
【原出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2019-70198(P2019-70198A)
(43)【公開日】2019年5月9日
【審査請求日】2018年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】古賀 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 光治
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−130385(JP,A)
【文献】 特開2000−104193(JP,A)
【文献】 特開2016−000869(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0067719(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0126337(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00−7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受電した高圧電流を降圧して低圧電流を給電する変圧機能部を備えた電源と、前記電源に直列に接続されて閉回路をなす複数の電解槽からなる電解部とを備え、前記電源から電解部に電解電流を供給する電解精錬設備に用いる電源制御装置であって、
前記電解部が、直列接続された1個以上、m個の電解槽からなる組を2組以上、n組、直列接続した構成からなり、
前記n組のいずれか一組に掛かる電圧と、前記一組と異なる他の一組に掛かる電圧との差が、遮断電圧値以上の電圧を示した場合、前記電源から電解部への電解電流の供給を停止することを特徴とする電解精錬設備に用いる電源制御装置。
【請求項2】
前記電解電流の供給を停止することが、前記変圧機能部への高圧電流を遮断することによって、行われることを特徴とする請求項1に記載の電解精錬設備に用いる電源制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電源制御装置を用いて直列接続されたm個の電解槽からなる組に掛かる電圧増加を検出し、電源から電解部への電解電流の供給を停止した後、
前記電圧増加が検出された組が電解液量の減少した槽を含み、この槽を迂回する通電経路を構築し、
前記電解電流の供給を再開することを特徴とする電解精錬設備に用いる電源制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解精錬設備において、設備や人への悪影響を未然に防止する安全装置に関し、具体的には電解精錬設備において、安全に操業するための電解精錬用の電源制御装置と、その制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅やニッケル等の非鉄金属の精錬方法として、非鉄電解精錬法が広く知られている。この非鉄電解精錬法は、電解槽内の電解液に浸漬させたアノード(陽極板)とカソード(陰極板)との間に通電して電解液に溶解しているCuやNiなどの精錬対象金属(以降、目的金属と称する)をカソード表面上に電着させ、これにより高純度の目的金属を得るものである。
【0003】
具体的には、通電を継続して各カソードの表面上に所定の厚み迄目的金属を電着させた後、電解槽内の電解液からカソードを引き上げて電着した目的金属を回収し、再度電着前のカソードを電解槽に浸漬させて通電することが繰り返される。またアノードについても、時間経過と共にアノードは消耗するので、消耗したアノードは電解槽中から引き上げて新品に交換される。カソードやアノードを引き上げた後、電解槽の底部に設置された配管から栓を引き抜くことで電解液を取り除き、定期的に電解槽の掃除を行っている。
【0004】
ところで、電解槽を複数用いる場合、それらの電解槽を直列に電源に接続して通電する方式と、それらの電解槽を互いに並列に電源に接続して通電する方式があり、前者の直列方式が一般的に用いられている。
その理由として、電着が進むにつれてカソードがアノードに接触しやすくなり、接触した時には、その接触部に電流が集中してしまうが、この電流ロスやそれに伴う生産ロスが直列方式では小さいことが挙げられる。具体的には、直列方式では、接触の生じた電解槽の電流が空費される程度である。一方、並列方式では、並列関係にある各電解槽に流れるべき電流が、接触部に集中して空費されてしまう。
【0005】
また使用する電源としては、電流量を一定に保つ定電流電源と、電圧値を一定に保つ定電圧電源とに大別されるが、直列方式では定電流電源を用いるのが一般的である。
この定電流電源を用いると、電気抵抗に差があっても各槽へ均等に電流を分配できるので、電着して得られる目的金属の生産量や品質を保つことができる。さらに電解槽からカソードやアノードを引き上げる際にも、その電解槽を迂回するように一時的に回路を変更する場合にも、定電流電源を用いれば、各槽に流れる電流の時間的変動が抑えられるので、電着して得られる目的金属の生産量や品質を保つことができる。なお、電源としては直流電源であればよく、パルス通電や逆方向通電といった機能を備えてもよい。
【0006】
ところで、カソード、アノード、およびそれらから通電中に脱落した破片は重量が大きく、落下して電解槽の底面を破損することがある。底面が破損したり、栓が緩んで抜けたりすると、電解槽内から電解液が失われることになり、この電解液の液位が低下するにつれて、バルク電解液に対するカソードやアノードの接触面積は減少し、この接触面積は最終的に0となる。このとき、わずかな接触面積に莫大な電流が集中して、過熱された電解液が突沸して火傷や薬傷を及ぼす危険がある。また、空中放電の火花を伴って、目が眩んだり火災が起きたりする危険もある。
【0007】
これら危険は、電解液の液位が低下した槽を早期に発見できれば、その電解槽を迂回するように一時的に回路を変更することで防止できる。しかし、電解槽の上部にはカソードやアノードがあって視界を遮っているから、電解液の液位や槽底の状態は遠くからは見えず、また電解槽は、1槽あたり数m程度の敷地面積を占有するものが一般的で、電解精錬制御室から離れた建物に数百個単位で収容されていることも多く、目視による早期発見は困難であった。
【0008】
そこで、上記危険状態を取り除くため、特許文献1に示すような、電解装置の安定電圧値を読み取り、記憶し、この値に対して変動許容範囲を設定し、電圧値が許容範囲を逸脱した際に、電解装置を保護する技術が知られている。しかしながら電解工場では、電解槽は多数個が(特に、直列に)電源に接続されているから、多数個の電解槽によって電解装置の電圧が安定化してしまい、電解液の液位の低下に関する危険を取り除くことができなかった。
以上のように、電解槽内の液位の低下を精度よく検出して、確実に危険を防止するシステムが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平03−130385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、直流電源に複数の電解槽が直列に接続された電解工場において、電解槽内の液位の低下に随伴される現象を検出し、液位の低下に起因する危険を確実に防止する電解精錬設備の電源制御装置および、その制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、操業状態において電解槽から電解液が減少する際の電解槽内の電解液の液量変化について観察し、その変化速度が一定していることを発見した。また、電解槽から電解液が減少するときの電解槽に掛かる電圧(槽電圧)の変化を検討し、電解液の液量が減少するにつれ、電解槽にかかる電圧は加速度的に増加することを見出した。
よって、単位時間あたりの電圧の変動率の変化速度で判断すれば、電解槽内の液位の低下を精度よく検出できる。
続いて、発明者らは、一定時間内に電圧の変動率の変化を発見する方法を検討し、たとえば10〜20個の電解槽を直列につなげた組を作り、その組の電圧を測定することで、短期間に電解槽内の液位の低下を検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明の第1の発明は、受電した高圧電流を降圧して低圧電流を給電する変圧機能部を備えた電源と、その電源に直列に接続されて閉回路をなす複数の電解槽からなる電解部とを備え、電源から電解部に電解電流を供給する電解精錬設備に用いる電源制御装置であって、その電解部が、直列接続された1個以上、m個の電解槽からなる組を2組以上、n組、直列接続した構成からなり、そのn組のいずれか一組に掛かる電圧と、その一組と異なる他の一組に掛かる電圧との差が、遮断電圧値以上の電圧を示した場合、電源から電解部への電解電流の供給を停止することを特徴とする電源制御装置である。
【0013】
本発明の第2の発明は、第1の発明における電解電流の供給を停止することが、変圧機能部への高圧電流を遮断することによって行われることを特徴とする電源制御装置である。
【0015】
本発明の第の発明は、第1又はの発明に記載の電源制御装置を用いて直列接続されたm個の電解槽からなる組に掛かる電圧増加を検出し、電源から電解部への電解電流の供給を停止した後、前記電圧増加が検出された組が電解液量の減少した槽を含み、この槽を迂回する通電経路を構築し、電解電流の供給を再開することを特徴とする電源制御方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、直流電源に複数の電解槽が直列に接続された電解精錬設備において、電解槽内の電解液の液位低下を検出でき、その液位低下に起因する危険を確実に防止できるシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の電源制御装置を用いた電解工程の一具体例の等価回路を示す概略図である。
図2】一般的な電解槽を示す図で、(a)は断面図、(b)は銅イオンと電流(※同じ矢印)の流路を示す概略図である。
図3】本発明において電解液量の減少した槽を迂回する通電経路を示す概略図である。
図4】本発明の実施例1に係る電源制御装置を示す概略フロー図である。
図5】本発明の実施例2に係る電源制御装置を示す概略フロー図である。
図6】従来の電解工程の等価回路を示す概略図である。
図7】電解工程において、一槽の電解槽から電解液を喪失した場合の等価回路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の、電源制御装置および電源制御方法を詳細に説明する。
本発明では、電解槽を直列につなげて構成した組にかかる電圧を測定して、その測定電圧値が過大になった場合に、電源から電解槽へ電解電流の供給を停止する。なお、本願発明では、電圧の測定値が正の値となるように測定する。
その測定電圧値が過大であるかどうかの判定は、その測定電圧値から計算により評価電圧値を求め、その評価電圧値が予め設定した遮断電圧値以上の値を示す場合に、測定電圧値は過大であると判断する。
【0019】
その判断基準となる遮断電圧値は、下記式(1)〜(8)で詳述するように、評価電圧値の平均値と評価電圧値の変動幅を線形結合して得ることができる。また、評価電圧値および遮断電圧値は、一定期間ごとに算出し直して設定するのがよい。このようにすることで、電解槽内の液位の低下などの異常を早期に検出できるとともに、誤検出を少なくできる。
遮断電圧値の計算に用いるデータの期間は、遮断電圧値の更新間隔より長くするのが望ましい。このようにすることで、遮断電圧値は安定し、異常の検出精度を向上させることができる。
【0020】
評価電圧値、遮断電圧値の計算方法として、後述する第1または第2の評価方法を用いる。
[第1の評価方法]
評価電圧値として、測定電圧値E[V]をそのまま用いる。
このとき、遮断電圧値[V]としては、次の式(1)〜(3)に挙げるいずれかを用いることができる。
【0021】
【数1】
【0022】
特に、銅の電解精製においては、遮断電圧値として、下記式(3)で算出した値を用いることができる。なお、測定槽数は測定電圧値Eを計測した際の、直列に接続された電解槽の組(すなわち、測定電圧値Eの印加されている範囲)に配置されている電解槽の数である。
【0023】
【数2】
【0024】
本発明におけるこの方法では、電解槽を直列につなげた組にかかる電圧の測定電圧値Eを評価電圧値として用いるので、評価電圧値は、大きくしかも変動が少ない。このため、評価電圧値(=測定電圧値E)が、上記式(1)または式(2)で示す遮断電圧値に達することは、電解槽内の液位の低下などの異常時ということができる。
【0025】
特に、銅の電解精製においては、電圧の測定電圧値Eは、電解槽当たりで表すと、0.2V/槽〜0.4V/槽が一般的であり、概ね0.25V/槽〜0.35V/槽の範囲にある。このため、電圧の測定電圧値Eが、上記式(3)で示す遮断電圧値に達することは、電解槽内の液位の低下などの異常時ということができる。
【0026】
[第2の評価方法]
評価電圧値として、測定電圧値Eと、その測定電圧値Eを記録した電解槽の組と同数の電解槽を直列につなげた別の組にかかる電圧の測定値E’との差の絶対値である、|E−E’|を用いる。このときの遮断電圧値として、次に挙げるいずれかの値を用いる。
【0027】
【数3】
【0028】
この評価方法では、同数の電解槽を直列につなげた組にかかる電圧同士の差の絶対値|E−E’|を評価電圧値として用いるので、評価電圧値の変動が少なくなるため、その評価電圧値|E−E’|が、上記式(4)または式(5)で示す遮断電圧値に達することは、電解槽内の液位の低下などの異常時ということができる。また、通常時はE×1.0≦E’×1.1、E’×1.0≦E×1.1であるので、式(4)から式(5)、式(6)、式(7)を得ることができ、より簡便に運用できる。また、通常時、それぞれの組にほぼ同じ電流が流れるので、電流量を変化させても評価電圧値|E−E’|は安定して運用できる利点を有する。
【0029】
(組が多数ある場合)
複数の電解槽から構成される組を多数、備える電解精錬設備では、組同士の組み合わせが無数に存在するため、評価電圧値や遮断電圧値の運用に困難が予想される。
【0030】
例えば、上記式(4)では、|E−E’|の最大値や最小値は、平均値と異なり、Eの平均値やE’の平均値からは求めることができないという困難がある。この困難は、遮断電圧値を下記式(8)とすることで軽減できる。
【0031】
【数4】
【0032】
複数の電解槽から構成される組が多数ある場合は、組同士を組み合わせたさまざまな評価電圧値|E−E’|を用いながら、遮断電圧値としては、いずれかの組み合わせから得た遮断電圧値で代表させてもよい。これによって、遮断電圧値の記録や計算にかかるコストと時間が大幅に軽減できる。
なお、このとき、遮断電圧値の計算には、遮断電圧値が最も大きくなるようにEおよびE’を選ぶことで、誤検出を防止できる。
【0033】
(計測期間)
本発明の平均値、最大値、最小値の計算に用いるデータの始期は、「10日前」、「電解槽を直列につなげた組のすべての電解槽の液位が安定した時点」、「通電槽数が変化した時点」、「電解電流を意図的に変化させた時点」のいずれかの遅い時刻とするのがよい。
さらにデータの終期は、計算時点または計算時点の直前とするのがよい。
【0034】
(組を構成する電解槽)
1つの組を構成する電解槽は、電源に直列接続された全ての電解槽で構成するのではなく、一部の電解槽だけとするのがよい。このようにすることで、電圧の変化を鋭敏にして高感度に検出することができる。
1つの組を構成する電解槽の数mは、1槽以上でもよいが、好ましくは2槽以上とする。測定に時間を要する場合は、9槽以上、または18槽以上とするのがよい。これによって、測定すべき組が減るので、時間内に測定を終えることが容易になる。
【0035】
また、設定する組の数nについては、従来の電解工程の等価回路を示す概略図である図6に見られるように、電解槽は建屋内を行ったり来たりと折り返しながら回路を構成している事情から、折り返し地点から折り返し地点までの電解槽を一組とするのがよい。奇数回折り返して戻ってくるまでの電解槽を組とすることがさらに好ましい。具体的には、図1のEやEの電圧がかかっている部分を組とする。
図1は、本発明の電源制御装置を用いた電解工程の一具体例の等価回路を示す概略図である。
【0036】
図1図6において、Vjkは電解槽(j組、k番の電解槽)、jは組番号、kは組内の電解槽番号、Nは一組の電解槽、3は電源装置、4は遮断部、5は変圧機能部、6は交流電源、E11、E12は一槽の電解槽に掛かる電圧、E、Eは電解槽の一組に掛かる電圧、Eallは直列に接続された全電解槽に掛かる電圧である。
ここで、E11、E12、E、E、Eallは上記測定電圧値を表し、E11、E12はそれぞれ第1組の第1番電解槽、第2番電解槽の測定電圧値、E、Eは12槽の電解槽からなる組と、その隣り合う組の測定電圧値、Eallは全電解槽を一組とした場合の測定電圧値であり、電解槽に掛かる電圧である。
【0037】
本発明における電解精錬設備を備える電解工場の電源装置3は、図1に示されるように内部に変圧機能部5を備え、変圧機能部5は、高圧電流を受電してこれを降圧し、得られた大量の低圧電流を電解槽に供給している。
そこで、電源から電解槽への電解電流の供給を停止するに際して、変圧機能部5への高圧電流を遮断することによって停止させる。このようにすることによって、遮断部4(いわゆるスイッチ)に通る電流は、高圧側の電流であり、低圧電流を遮断する場合に比べて少なくすむので、遮断部の容量が少なくすみ、遮断部の消耗も少なくすむ。
なお、高圧電流が交流である場合、電源装置3は、図1のように降圧と同時に直流に変換(整流)してもよく、降圧の前に直流に変換(整流)してもよく、降圧のあとで直流に変換(整流)してもよい。
【0038】
図2は、一般的な電解槽を示す図で、(a)は断面図、(b)は銅イオン(黒片矢印)と電流(黒片矢印)の流路を示す概略図で、銅イオンと電流は同じ向きの流路を通る。図2において、Vは電解槽、Lは電解液、Aはアノード、Cはカソード、11は電解液の液位である。
電解槽V内の電解液Lは、図2(b)のように銅イオンと電流の通る回路を構成しているので、その液位11が高いほど、銅イオンと電流の通る断面積が大きくなる。導体の抵抗値が断面積に反比例することは広く知られており、電解槽内の電解液の液位が一定速度で低下していても、抵抗値は加速度的に増大する。これが、組に掛かる電圧が加速度的に増大する第一の要因である。
【0039】
また電解槽V内の電解液Lが減少していくと、残った少量の電解液に電解電流が集中し、電解液の蒸発が加速度的に進む。その結果、アノードAの表面やカソードCの表面に結晶が析出して通電を妨げる。電解液の蒸発が加速度的に進むことと、結晶が析出することによっても、抵抗値は加速度的に増大する。これが、組に掛かる電圧が加速度的に増大する第二の要因である。
【0040】
先に述べた第一の要因又は第二の要因により、抵抗値が加速度的に増大しながら、定電流電解を行うと、電解槽にかかる電圧は抵抗値に比例するため、電圧は加速度的に増大する。このことを利用して、電圧または電圧差が加速度的に増加するときに限り、電源から電解槽への電解電流の供給を停止させるものである。
このようにすれば、電解液が減少していない場合に、誤って電解電流の供給を停止させることがないので、無駄な停止が減って生産量を増大させることができる。
【0041】
また、電圧又は電圧差の増大を検知し、電源から電解槽への電解電流の供給を停止した後は、その原因箇所を特定し、電解液量の減少した槽を迂回する通電経路を構築し、電解電流の供給を再開する。このようにすれば、電解液量の減少した槽を補修したり電解液を補充したりする間、ほかの電解槽に電流を供給して生産をすることができる。
具体的には、例えば図7のように点線内の電解槽V22の電解液が流失したときに、本発明においては電解電流の供給を停止した後、図3の黒塗り部を短絡器10により短絡することにより、電流を白抜き矢印のごとく迂回させ、電解電流の供給を再開する。図3において、「白抜き×」は図7の第2組第2番の電解槽V22に相当し、電解液が流失したため機能していない電解槽である。
【0042】
(蒸発した電解液)
電解液の蒸発が加速度的に進むと、それに伴い、電解槽の上方には多量の水蒸気が供給される。電解建屋では電解槽から水蒸気が蒸発しており湿度が高いので、多量に供給された水蒸気は、空中で結露して霧となる。この霧は、例えば光電管など、光を用いて検出することができる。このように検出した場合に限り、電源から電解槽への電解電流の供給を停止させてもよい。このようにすれば、電解液が減少していない場合に、誤って電解電流の供給を停止させることがないので、無駄な停止が減って生産量を増大させることができる。
このような光を用いた検出は、電解槽が多数ある場合に好適に使用できるうえ、電解液が減少した槽を特定するのも容易にする。
【0043】
以上、述べた通りに本発明は、直流電源に複数の電解槽が直列に接続された電解工場において、電解槽内の液位の低下を検出でき、確実に危険を防止できるシステムを提供することができる。なお、直流電源から供給される電流は、直流電流が望ましいが、脈流があったり、電流方向が一時的に反転したりしてもよい。
【0044】
以下、本発明を、実施例を用いてさらに説明する。
【実施例1】
【0045】
本発明の電源制御装置として、図4の実施例1に係る電源制御装置を示す概略フロー図に示す電源制御装置を使用して銅の電解精製を行った。
この図4に示す電源制御装置は、複数の電解槽を直列につなげた組の電圧を測定し、この組の電圧をそれぞれ計器用変圧器を介してアラームセッターに送り、アラームセッターの入力値が設定値を超えたときに直流過電圧信号を出力する。
さらに、この直流過電圧信号が出力されると、重故障警報を発報するとともに保護回路を動作させ電源装置を自動的に停止するように構成されている。
なお、電源装置には、各電解槽が直列につながって接続され、閉回路をなしている。
【0046】
電源装置で高圧電流を降圧、整流して各電解槽に通電し、アラームセッターの設定値として、このときの組の電圧の1.1倍に相当する値を設定した。通電したまま、ある電解槽の底部にある栓を抜いたところ、その電解槽内の電解液が減少していき、通電が自動的に停止された。
通電が停止された時点の組の電圧は、アラームセッターの設定時点の電圧であった。
【実施例2】
【0047】
本発明の図5の本発明の実施例2に係る電源制御装置を示す概略フロー図に示す電源制御装置を使用して銅の電解精製を行った。
この図5の電源制御装置は、18槽の電解槽を直列につなげた組の電圧を測定し、各組の電圧差のうち最大のものを計器用変圧器を介してアラームセッターに送り、アラームセッターの入力値が設定値を超えたときに直流過電圧信号を出力する。また、直流過電圧信号が出力されると、重故障警報を発報するとともに保護回路を動作させ電源装置を自動的に停止するようになっている。
なお、電源装置には、各組が直列につながって接続され、閉回路をなしている。
【0048】
電源装置で高圧電流を降圧、整流して各電解槽に通電し、アラームセッターの設定値として、このときの組の電圧の0.1倍に相当する値を設定した。その後、各電解槽に通電したまま、ある電解槽の底部にある栓を抜いたところ、その電解槽内の電解液が減少していき、通電が自動的に停止した。
その通電が停止した時点の各組の電圧差のうち最大のものは、アラームセッターの設定時点の電圧であった。
【実施例3】
【0049】
本発明の電源制御装置として、図4の実施例1に係る電源制御装置を示す概略フロー図に示す電源制御装置を使用して銅の電解精製を行った。
この図4に示す電源制御装置は、複数の電解槽を直列につなげた組の電圧を測定し、この組の電圧をそれぞれ計器用変圧器を介してアラームセッターに送り、アラームセッターの入力値が設定値を超えたときに直流過電圧信号を出力する。
さらに、この直流過電圧信号が出力されると、重故障警報を発報するとともに保護回路を動作させ電源装置を自動的に停止するように構成されている。
なお、電源装置には、2槽の電解槽を直列に接続した組を1組と、4槽の電解槽を直列に接続した組を1組とが直列につながって接続されて閉回路をなしている。
【0050】
電源装置で高圧電流を降圧、整流して各電解槽に通電し、アラームセッターの設定値として、それぞれ槽数の0.4ボルト倍に相当する値を設定した。通電したまま、2槽の組に属する電解槽の底部にある栓を抜いたところ、その電解槽内の電解液が減少していき、通電が自動的に停止された。
通電が停止された時点の組の電圧は、アラームセッターの設定時点の電圧であった。
【実施例4】
【0051】
電解槽に20kAの電流を流し、銅の電解精製を行った。
電流を流しながら、ある電解槽の底部にある栓を抜いたところ、その電解槽内の電解液が減少していき、栓を抜いてから5分毎に電解槽にかかる電圧を測定した。
電圧は7回測定したが、電圧は単調増加し、その増加速度は、測定回数が増えるほど加速していた。
【実施例5】
【0052】
実施例1のあと、短絡器を配置することにより、栓を抜いた電解槽を迂回する回路を形成後、通電を再開した。
通電中の電解槽のカソード表面をルーペで定期的に観察したところ、特段の問題なく、銅の電着が進行しつつあることを確認した。
【符号の説明】
【0053】
jk、V 電解槽
j 電解槽の組番号
k 組内の電解槽番号
L 電解液
A アノード
C カソード
3 電源装置
4 遮断部
5 変圧機能部
6 交流電源
10 短絡器
11 電解液の液位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7