特許第6727558号(P6727558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6727558シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物、リチウムイオン電池用負極活物質、リチウムイオン電池用負極、及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6727558
(24)【登録日】2020年7月3日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物、リチウムイオン電池用負極活物質、リチウムイオン電池用負極、及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/113 20060101AFI20200713BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20200713BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20200713BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   C01B33/113 Z
   C01B33/02 Z
   H01M4/48
   H01M4/36 A
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-561389(P2018-561389)
(86)(22)【出願日】2018年1月10日
(86)【国際出願番号】JP2018000347
(87)【国際公開番号】WO2018131607
(87)【国際公開日】20180719
【審査請求日】2019年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2017-2954(P2017-2954)
(32)【優先日】2017年1月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】高野 義人
(72)【発明者】
【氏名】木崎 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩綱
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 彬
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−514898(JP,A)
【文献】 特開2008−171813(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/208314(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2008−0064778(KR,A)
【文献】 国際公開第2018/003150(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/113
H01M 4/36
H01M 4/48
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式 SiO(0.01<x≦0.3、0<y<0.35)で表わされ、
Si−H結合を有する、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物であり、
該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、
(A)体積基準平均粒径が10nmを超え500nm未満であり、かつ、粒径が1000nm以上の粒子を含まないシリコンナノ粒子を65.0重量%超含み、
(B)前記シリコンナノ粒子を被覆し、前記シリコンナノ粒子の表面に化学的に結合する水素ポリシルセスキオキサン由来のケイ素酸化物構造を含むことを特徴とする
シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物。
【請求項2】
赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、Si−H結合に由来する820〜920cm−1の吸収帯のうち、最大吸収ピークの強度をI、Si−O−Si結合に由来する1000〜1250cm−1吸収帯のうち、最大吸収ピークの強度をIとした場合に、強度比(I/I)が、0.01から0.35の範囲にある請求項1に記載のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物。
【請求項3】
赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、Si−O−Si結合に由来する1000〜1250cm−1の吸収帯のうち、1100cm−1より高波数側の吸収帯における最大吸収ピーク強度をI2−1、1100cm−1より低波数側の吸収帯における最大吸収ピークの強度をI2−2とした場合に、強度比(I2−1/I2−2)が、1を超える請求項1又は2に記載のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含むリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン電池用負極活物質を含むリチウムイオン電池用負極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン電池用負極を備えたリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンナノ粒子表面と水素ポリシルセスキオキサン由来のケイ素酸化物構造との間に化学的な結合を有するシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物、当該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含んでなるリチウムイオン電池用負極活物質、当該負極活物質を含んでなるリチウムイオン電池用負極、当該リチウムイオン電池用負極を備えたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速な電子機器、通信機器等の発展及び小型化の技術の発達に伴い、様々な携帯型の機器が普及してきている。そして、これらの携帯型の機器の電源として、経済性、機器の小型化、および軽量化の観点から、高容量及び寿命特性の優れた二次電池の開発が強く求められている。
このような小型、軽量な高容量の二次電池としては、今日、リチウムイオンを層間から放出するリチウムインターカレーション化合物を正極物質に、リチウムイオンを結晶面間の層間に充放電時に吸蔵放出(インターカレート)できる黒鉛などに代表される炭素質材料を負極物質に用いた、ロッキングチェア型のリチウムイオン電池の開発が進み、実用化されて一般的に使用されている。
【0003】
リチウム化合物を負極として使用する非水電解質二次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を有しており、そのなかでもリチウム金属は、豊富な電池容量により負極活物質として初期に多くの研究対象になった。しかし、リチウム金属を負極として使用する場合、充電時に負極リチウム表面に多くの樹枝状リチウムが析出するため、充放電効率が低下したり、また、樹枝状リチウムが成長し、正極と短絡を起こしたりする場合がある。また、リチウム金属自体は、不安定で高い反応性を有し、熱や衝撃に敏感であるので、リチウム金属を用いた負極の商用化は課題が残されていた。
そこで、リチウム金属に代わる負極活物質として、リチウムを吸蔵、放出する炭素系負極が用いられるようになった(特許文献1)。
【0004】
炭素系負極は、リチウム金属が有する各種問題点を解決し、リチウムイオン電池が普及するのに大きく寄与をした。しかし、次第に各種携帯用機器が小型化、軽量化及び高性能化されるにつれて、リチウムイオン電池の高容量化が重要な問題として浮び上がってきた。
炭素系負極を使用するリチウムイオン電池は、炭素の多孔性構造のため、本質的に低い電池容量を有する。例えば、使用されている炭素として最も結晶性の高い黒鉛の場合でも、理論容量は、LiCの組成であるとき、372mAh/gほどである。これは、リチウム金属の理論容量が3860mAh/gであることに比べれば、僅か10%ほどに過ぎない。このような状況から、前記したような問題点があるにもかかわらず、再びリチウムのような金属を負極に導入し、電池の容量を向上させようという研究が活発に試みられている。
【0005】
代表的なものとして、Si、Sn、Alのような、リチウムと合金化可能な金属を主成分とする材料を負極活物質として使うことが検討されている。しかし、Si、Snのような、リチウムとの合金化が可能な物質は、リチウムとの合金化反応時に体積膨張を伴って、金属材料粒子が微粉化し、そのため金属材料粒子間の接触が低下して電極内で電気的に孤立する活物質が発生する場合がある。さらに、金属材料粒子が電極から脱離して、内部抵抗の増加および容量の低下が生じ、結果としてサイクル特性を低下させ、また、比表面積拡大による電解質分解反応を深刻化させるなどの問題点を抱えている。
【0006】
係る金属材料の使用による問題点を解決するために、金属に比べて体積膨張率が相対的に低い金属酸化物を負極活物質の材料として使用する検討が進められた。
例えば、特許文献2にはケイ素と酸素を含み、ケイ素に対する酸素の比が0〜2であるケイ素酸化物は、リチウムイオン電池の負極活物質として使用した場合、良好な充放電サイクル性能を得ることが開示されている。
また、特許文献3にはナノ気孔構造を含む非晶質ケイ素酸化物を含むケイ素酸化物系負極活物質として、水素ポリシルセスキオキサンの焼成物を用いる方法が提案されている。
さらに、特許文献4にはケイ素を含むコアとコア表面に形成されたシリコンナノ粒子を配置した構造体を作ることにより、充放電の際に体積膨張率の短所を補完し、容易にケイ素と酸素の比率を調節することが可能なケイ素酸化物が提案されている。
【0007】
しかし、前記文献のいずれのケイ素酸化物系化合物も、水素を含まない化合物であり、また、Si−H結合の存在についても言及されていない。したがって、前記文献のケイ素酸化物系化合物は、本発明の一般式SiOで表されるシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物とは本質的に異なる化合物である。さらに、前記文献は、シリコンナノ粒子とケイ素酸化物との間の化学的な結合の存在についても何ら示唆されておらず、構造体としても本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物とは異質なものと判断される。また、電池負極活物質として利用した際の電池性能には、それぞれ一定程度の改良が認められるものの、放電容量、初期充放電効率、充放電サイクルにおける容量維持率のいずれか、あるいはふたつ以上の性能が、問題のないレベルに達しているとは言いがたく、バランスの取れた電池性能を示し実用性の高い負極活物質を提供できる技術ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−90863号公報
【特許文献2】特開2004−71542号公報
【特許文献3】特開2008−171813号公報
【特許文献4】特開2016−514898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の負極材料の有する問題点を解決し、得られた電池が非常に優れた初期放電効率を有し、かつ高容量で良好なサイクル特性をも示す負極活物質の開発が、依然として求められている。
本発明の課題は、得られた電池が非常に優れた初期放電効率を有し、かつ高容量で良好なサイクル特性を有し、実用的な容量維持率を持つ二次電池用負極活物質として、新しいケイ素酸化物系構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題についてその解決に向けて鋭意検討した結果、リチウムイオン電池用の負極活物質として用いた際に、得られる二次電池が、非常に優れた初期充放電効率を有し、高容量かつ容量維持率を有するシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1] 一般式 SiO(0.01<x≦0.3、0<y<0.35)で表わされ、
Si−H結合を有する、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物であり、
該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、
(A)体積基準平均粒径が10nmを超え500nm未満であり、かつ、粒径が1000nm以上の粒子を含まないシリコンナノ粒子を65.0重量%超含み、
(B)前記シリコンナノ粒子を被覆し、前記シリコンナノ粒子の表面に化学的に結合する水素ポリシルセスキオキサン由来のケイ素酸化物構造を含むことを特徴とする
シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物。
[2] 赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、Si−H結合に由来する820〜920cm−1の吸収帯のうち、最大吸収ピークの強度をI、Si−O−Si結合に由来する1000〜1250cm−1吸収帯のうち、最大吸収ピークの強度をIとした場合に、強度比(I/I)が、0.01から0.35の範囲にある[1]に記載のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物。
[3] 赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、Si−O−Si結合に由来する1000〜1250cm−1の吸収帯のうち、1100cm−1より高波数側の吸収帯における最大吸収ピークの強度をI2−1、1100cm−1より低波数側の吸収帯における最大吸収ピークの強度をI2−2とした場合に、強度比(I2−1/I2−2)が、1を超える[1]又は[2]に記載のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物。
[4] [1]から[3]のいずれか1項に記載のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含むリチウムイオン電池用負極活物質。
[5] [4]に記載のリチウムイオン電池用負極活物質を含むリチウムイオン電池用負極。
[6] [5]に記載のリチウムイオン電池用負極を備えたリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを非酸化性雰囲気下での熱処理による焼成物から直接得られる新しい構造のナノシリコン粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含有する負極活物質を提供することができる。
また、本発明のリチウムイオン電池用負極活物質を用いて得られるリチウムイオン電池は、非常に優れた初期放電効率を有し、良好な放電容量及びサイクル特性も有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、赤外分光法(IR)による実施例1で得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(1)、実施例2で得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(2)、及び比較例1で得られたシリコンナノ粒子混合ケイ素酸化物(1)のIR吸収スペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例1で得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(1)の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3図3は、コイン型のリチウムイオン電池の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物の前駆体)を焼成することにより、得ることができる。まず、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを説明し、次に、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物について説明する。
【0015】
<シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンの製造>
シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンは、式(1)で示されるケイ素化合物を加水分解および縮合反応(重縮合反応ともいう)をさせて、水素シルセスキオキサン重合物(HPSQ)を合成する過程でシリコンナノ粒子を混合することにより得ることができるが、製造方法は特に限定されるものではない。例えば、式(1)で示されるケイ素化合物にシリコンナノパウダーを加えた混合物を加水分解および縮合反応させる方法、もしくはシリコンナノパウダーを分散させた溶媒中に式(1)で示されるケイ素化合物を滴下して加水分解および縮合反応させる方法を挙げることができる。
【0016】
HSi(R) (1)
式(1)において、Rは、それぞれ同一あるいは異なる、ハロゲン、水素、炭素数1〜10の置換または非置換のアルコキシ、および炭素数6〜20の置換または非置換のアリールオキシから選択される基である。但し、炭素数1〜10の置換または非置換のアルコキシ基、および炭素数6〜20の置換または非置換のアリールオキシ基において、任意の水素はハロゲンで置換されていてもよい。
【0017】
式(1)で表されるケイ素化合物としては具体的には、下記の化合物等が挙げられる。
例えば、トリクロロシラン、トリフルオロシラン、トリブロモシラン、ジクロロシラン等のトリハロゲン化シランやジハロゲン化シラン、トリ−n−ブトキシシラン、トリ−t−ブトキシシラン、トリ−n−プロポキシシラン、トリ−i−プロポキシシラン、ジ−n−ブトキシエトキシシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、ジエトキシシラン等のトリアルコキシシランやジアルコキシシラン、更にはトリアリールオキシシラン、ジアリールオキシシラン、ジアリールオキシエトキシシラン等のアリールオキシシランまたはアリールオキシアルコキシシランが挙げられる。
【0018】
これらのうち、反応性および入手の容易性と製造コストの観点から好ましいのはトリハロゲン化シランまたはトリアルコキシシランであり、特に好ましいのはトリハロゲン化シランである。
【0019】
これらの式(1)で表されるケイ素化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0020】
また、式(1)で表されるケイ素化合物は、加水分解性および縮合反応性が高く、これを用いると、本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンが容易に得られる。また、式(1)で表されるケイ素化合物を用いると、得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを非酸化性雰囲気下で熱処理した際に得られるシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物のSi−H結合量を制御し易い、という利点もある。
【0021】
次に、式(1)で表されるケイ素化合物にシリコンナノ粒子を加えた混合物の加水分解および重縮合反応について説明する。
加水分解は、公知の方法で行うことができ、例えば、アルコール又はDMF等の溶媒中、塩酸等の無機酸又は酢酸等の有機酸、および水の存在下で、常温又は加熱した状態で、実施することができる。したがって、加水分解後の反応液中には式(1)で表されるケイ素化合物の加水分解物に加えて、溶媒、酸及び水並びにこれらに由来する物質を含有してもよい。
【0022】
また、加水分解後の反応液中には、式(1)で表されるケイ素化合物が完全に加水分解されていなくてもよく、その一部が残存していてもよい。
なお、加水分解反応に加えて、加水分解物の重縮合反応も部分的に進行する。
ここで、重縮合反応が進行する程度は、加水分解温度、加水分解時間、酸性度、及び/又は、溶媒等によって制御することができ、例えば、後述するように目的とするシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンに応じて適宜に設定することができる。
【0023】
生産性と製造コストを考慮して、加水分解と重縮合反応を一つの反応器で、同一の条件下に並行して行う方法が好ましい。
反応条件としては、撹拌下、酸性水溶液中に式(1)で表されるケイ素化合物を添加し、−20℃〜50℃、好ましくは0℃〜40℃、特に好ましくは10℃〜30℃の温度で0.5時間〜20時間、好ましくは1時間〜10時間、特に好ましくは1時間〜5時間反応させる。
【0024】
加水分解溶液の酸性度としては、通常pH=7以下に調整することが好ましく、より好ましくはpH=6以下であり、さらに好ましくはpH=3以下である。このpH調整に用いる酸としては有機酸、無機酸のいずれも使用可能である。
具体的には、有機酸としてはギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸などが例示され、無機酸としては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが例示される。これらの中でも加水分解反応およびその後の重縮合反応の制御が容易にでき、入手やpH調整、および反応後の処理も容易であることから塩酸及び酢酸が好ましい。
また、式(1)で表されるケイ素化合物としてトリクロロシラン等のハロゲン化シランを用いた場合には、水の存在下で酸性水溶液が形成されるので、特に酸を別途加える必要は無く、本発明の好ましい態様の一つである。
【0025】
シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物の前駆体)は、式(1)の化合物を、シリコンナノ粒子の共存下で、加水分解及び重合反応を行うことによって得ることができる。使用されるシリコンナノ粒子は、体積基準平均粒径が10nmを超え500nm未満であれば、特に限定されるものではない。体積基準平均粒径の下限は、20nmを超えることが好ましく、30nmを超えることがさらに好ましい。体積基準平均粒径の上限は、300nm未満であることが好ましく、200nm未満であることがさらに好ましい。また、シリコンナノ粒子としては、シリコンナノパウダー等が好ましく用いられる。シリコンナノ粒子の量を多く用いる場合は、初期放電効率が高くなる一方で、得られる負極の耐久性が劣化しやすくなる傾向がある。しかし、微粒子化したシリコン粒子を用いることにより、耐久性の劣化を抑制することができる。したがって、使用されるシリコンナノ粒子は、粒径が1000nm以上の粒子を含まないシリコンナノ粒子であることが好ましい。
シリコンナノ粒子は、本発明の効果を損なわない範囲で、ケイ素以外の他の成分を含有していてもよく、例えば、炭素、金属類などを含むことができるが、その含有量は、シリコンナノ粒子に対して、通常5重量%未満である。そして、本質的に炭素又は金属を含まないシリコンナノ粒子を用いることもできる。
【0026】
なお、本明細書において、体積基準平均粒径とは、体積基準によって算出される粒径であることを意味し、本明細書では、単に平均粒径と称する場合もある。
【0027】
シリコンナノ粒子は、得られるシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物に対して、通常、65重量%を超えるように配合する。このように配合することにより、初期充放電効率が非常に優れるようになる。シリコンナノ粒子の配合量の上限は特にないが、好ましくは95重量%以下、より好ましくは、90重量%以下である。
【0028】
加水分解反応および重縮合反応終了後、濾過分離、遠心分離或いは傾斜等の公知の方法により液体画分を分離除去し、場合によっては、さらに水洗浄あるいは有機溶剤洗浄した後、乾燥し、本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを得ることができる。
【0029】
<シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンの構造>
【0030】
シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンは、赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、Si−O−Si結合に由来する1000〜1250cm−1の吸収帯のうち、1100cm−1より高波数側の吸収帯における最大吸収ピーク(ピーク2−1)の強度をI2−1、1100cm−1より低波数側の吸収帯における最大吸収ピーク(ピーク2−2)の強度をI2−2とした場合に、強度比(I2−1/I2−2)が、1を超えることを特徴とすることができる。前記ピーク強度比が1を超えることは、内部に存在するシリコンナノ粒子と水素ポリシルセスキオキサンとの間に化学的な結合を有していることを示唆するものであり、この化学的結合の存在により、充放電サイクル時のシリコン粒子の膨張収縮によって引き起こされる粒子崩壊が抑制されると推察される。
【0031】
水素ポリシルセスキオキサンのIRスペクトルにおける1000〜1250cm−1の吸収帯は、Si−O−Siの非対称伸縮振動に由来し、直鎖状結合である場合は1000〜1250cm−1に複数の吸収、環状結合である場合は1000〜1100cm−1に1本の吸収が見られるのが一般的である。シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンのIRスペクトルにおいては、1100cm−1より高波数側の吸収帯は、シロキサンの直鎖状結合に由来し、1100cm−1より低波数側の吸収帯は、シロキサンの直鎖状、環状の両結合に由来したものであると帰属される。そこで、シリコンナノ粒子を共存させずに、前記式(1)のケイ素化合物を単独で加水分解及び縮合反応させた場合、重合末端とモノマーが反応し直鎖状シロキサンが生成する反応よりも、重合末端同士が反応し環状シロキサンが生成する反応の方が系のエネルギーを低下させると想定されるため、ピーク2−2がピーク2−1よりも大きくなることは容易に予想できる。
一方、シリコンナノ粒子共存下で式(1)のケイ素化合物の加水分解/重合が進める場合は、生成するHPSQ重合体に含まれる鎖状Si−O−Si骨格の末端部がシリコンナノ粒子表面のシラノール骨格と反応すると、そこで重合が停止し、鎖状Si−O−Si構造が保持されることになる。その結果として、式(1)のケイ素化合物単独で反応させた場合と比較して環状Si−O−Si骨格の生成が抑制されるものと考えられる。更に、この割合は、環状化結合の割合は熱処理後も概ね維持されるため、焼成後であっても、I2−1/I2−2>1の状態も維持される。
【0032】
この様にシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンにおいて、シリコンナノ粒子および水素ポリシルセスキオキサンは、強固な化学結合(Si−O−Si結合)を介してネットワークを形成している。焼成後もこのネットワークは保持され、水素ポリシルセスキオキサン骨格がシリコンナノ粒子の膨張収縮に対する緩衝層の役割を果たし、その結果充放電の繰り返しの際に発生するシリコンナノ粒子の微細化を抑制しているものと推察される。
【0033】
一次粒子が小さいことで、このシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンの焼成物をリチウムイオン電池の負極材料として電池に用いた場合に、充放電を繰り返す際に生じる膨張収縮時の応力が緩和されることによって、サイクル劣化が抑制されサイクル特性向上に効果がある。また、複雑な2次凝集構造を持つことで結着剤との結着性が良好となり、さらに優れたサイクル特性を発現する。
【0034】
次にシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを焼成して得られるシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物について説明する。
【0035】
<シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物の製造>
シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、上記の方法で得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを非酸化性雰囲気下で、熱処理して得られる。本明細書でいう「非酸化性」は、文言的にはシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを酸化させないことを意味するものであるが、実質的にはシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを熱処理する際に二酸化ケイ素の生成を本発明の効果に悪影響を与えない程度に抑えられていればよく(すなわちI/Iの値が本発明で規定する数値範囲内となればよく)、したがって「非酸化性」もその目的を達成できるように酸素が除去されていればよい。ここで、Iとは、赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、Si−H結合に由来する820〜920cm−1の吸収帯のうち、吸収強度が最大のピーク(ピーク1)の強度をいう。このようにして得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物の組成を元素分析により測定すると、本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、ケイ素(Si)、酸素(O)及び水素(H)を含有しており、一般式SiO(0.01<x≦0.3、0<y<0.35)で表示される。
【0036】
焼成物において、xが0.01<x≦0.3、好ましくは0.05<x≦0.3であれば、非常に優れた初期充放電効率を有し、かつ良好な電池容量とサイクル容量維持率を有する負極活物質が得られる。焼成物において、yが0<y<0.35、好ましくは0.01<y<0.35の範囲であれば、得られる二次電池が、優れた充放電容量と容量維持率が向上した良好なサイクル特性を有する。
【0037】
さらに、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、Si−H結合に由来する820〜920cm−1の吸収帯のうち、最大吸収ピーク(ピーク1)の強度をI、Si−O−Si結合に由来する1000〜1250cm−1吸収帯のうち、最大吸収ピーク(ピーク2)の強度をIとした場合に、強度比(I/I)が、0.01から0.35の範囲にあることが好ましい。
焼成物の上記のピーク1の強度(I)とピーク2の強度(I)の比(I/I)は、好ましくは0.01から0.35、より好ましくは0.01から0.30、さらに好ましくは0.03から0.20の範囲にあれば、適量のSi−H結合の存在により、リチウムイオン電池の負極活物質とした場合に高い放電容量、良好な初期充放電効率およびサイクル特性を発現させることができる。
【0038】
さらに、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、Si−O−Si結合に由来する1000〜1250cm−1の吸収帯のうち、1100cm−1より高波数側の吸収帯における最大吸収ピーク(ピーク2−1)の強度をI2−1、1100cm−1より低波数側の吸収帯における最大吸収ピーク(ピーク2−2)の強度をI2−2とした場合に、強度比(I2−1/I2−2)が1を超えることが好ましい。前記ピーク強度比が1を超えることは、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物内部に存在するシリコンナノ粒子と水素ポリシルセスキオキサン由来のケイ素酸化物構造との間に化学的な結合を有していることを示唆するものであり、この化学的結合の存在により、充放電サイクル時のシリコン粒子膨張収縮によって引き起こされる粒子崩壊が抑制されると推察される。
【0039】
シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンの熱処理は前述の通り、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。酸素が存在する雰囲気下で熱処理を行うと二酸化ケイ素が生成することにより、所望の組成とSi−H結合量が得ることが難しい。
非酸化性雰囲気は、不活性ガス雰囲気、高真空により酸素を除去した雰囲気(目的とするシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物の生成を阻害しない程度に酸素が除去されている雰囲気であればよい)、還元性雰囲気およびこれらの雰囲気を併用した雰囲気が包含される。ここで、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。これらの不活性ガスは、一般に使用されている高純度規格のものであれば問題なく使用できる。また、不活性気体を用いることなく、高真空により酸素を除去した雰囲気でもよい。還元性雰囲気としては、水素などの還元性ガスを含む雰囲気が包含される。例えば、2容積%以上の水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気が挙げられる。また、還元性雰囲気として、水素ガス雰囲気も使用することができる。
【0040】
非酸化性雰囲気下で熱処理をすることにより、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンは600℃近辺からSi−H結合の脱水素が始まり、Si−Si結合が生成し、水素ポリシルセスキオキサン由来の特徴的なケイ素酸化物構造が形成される。この熱処理を行っても、シリコンナノ粒子と水素ポリシルセスキオキサンの間の化学的な結合は保持される。熱処理後に水素ポリシルセスキオキサン由来のケイ素酸化物構造が存在することは、後述の赤外分光法による測定などより知ることができる。Si−Si結合は適度に成長させると優良なLi吸蔵サイトとなり高充電容量の源となる。一方でSi−H結合は公知の電池材料成分である、COO基のような官能基を持った結着剤と相互に作用し、柔軟かつ強固な結合を形成するため、電池にした場合、良好なサイクル特性を発現する。
したがって、高容量と良好なサイクル特性を共に発現させるには適量のSi−H結合を残存させることが必要となり、そのような条件を満足させる熱処理温度は通常600℃から1000℃、好ましくは750℃から900℃である。600℃未満ではSi−H結合が多すぎ、放電容量が十分でなく、1000℃を超えるとSi−H結合が消失してしまうため良好なサイクル特性が得られなくなる。
熱処理時間は、特に限定されないが通常15分から10時間、好ましくは30分から5時間である。
【0041】
上記の熱処理により、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物が得られるが、既述の元素分析結果がSiO(0.01<x≦0.3、0<y<0.35)の範囲および赤外分光法によるピーク1の強度(I)とピーク2の強度(I)の比(I/I)が0.01から0.35の範囲に入るように熱処理条件を適宜選択すれば良い。
【0042】
かくして得られた本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、その形状として本発明の合成法によって得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを熱処理して得られることから、図2に示した走査型電子顕微鏡(SEM)写真で明らかなように、粒径がサブミクロンの球状粒子である一次粒子がさらに凝集し粒径が数ミクロンの2次凝集体を形成している。
【0043】
一次粒子が小さいことで、リチウムイオン電池の負極材料として電池に用いた場合に、充放電を繰り返す際に生じる膨張収縮時の応力が緩和されることによって、サイクル劣化が抑制されサイクル特性向上に効果がある。また、複雑な2次凝集構造を持つことで結着剤との結着性が良好となり、さらに優れたサイクル特性を発現する。
【0044】
<シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含む負極活物質>
次に、前記シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含むリチウムイオン電池用負極活物質について説明する。
【0045】
電池は、高容量化のために大量の電流を充放電することが必須であることから、電極の電気抵抗が低い材料が要求されている。
したがって、前記シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物に炭素系物質を複合又は被覆させることも本発明の一態様である。
炭素系物質を複合又は被覆させるには、メカノフュージョンやボールミルあるいは振動ミル等を用いた機械的混合法等により、前記シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物と炭素系物質を分散させる方法が挙げられる。
【0046】
炭素系物質としては、黒鉛、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノフォーム、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維および無定形炭素などの炭素系物質が好ましく挙げられる。
【0047】
なお、前記シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物と炭素系物質とは任意の割合で複合又は被覆できる。
【0048】
<負極>
本発明に係るリウムイオン二次電池における負極は、前記シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物あるいは前記炭素系物質を複合又は被覆させたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含有する負極活物質を用いて製造される。
負極としては、例えば、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物あるいは前記炭素系物質を複合又は被覆させたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含んで形成された負極活物質および結着剤を含む負極混合材料を一定の形状に成形したものでもよく、該負極混合材料を銅箔などの集電体に塗布させる方法で製造されたものでもよい。負極の成形方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0049】
より詳しくは、例えば、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物、あるいは前記炭素系物質を複合させたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含有する負極活物質、結着剤、及び必要に応じて導電材料などを含む負極材料組成物を調製し、これを銅、ニッケル、ステンレスなどを主体とする棒状体、板状体、箔状体、網状体などの集電体に直接コーティングするか、または負極材料組成物を別途、支持体上にキャスティングし、その支持体から剥離させた負極活物質フィルムを集電体にラミネートすることにより負極極板を得ることができる。また、本発明の負極は、前記で列挙した形態に限定されるものではなく、列挙した形態以外の形態でも可能である。
【0050】
結着剤としては、二次電池において一般的に使われるもので、負極活物質上のSi−H結合と相互作用のある、COO基のような官能基を持ったものであれば、いずれも使用可能であり、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、アルギン酸、グルコマンナン、アミロース、サッカロース及びその誘導体や重合物、さらに夫々のアルカリ金属塩の他、ポリイミド樹脂やポリイミドアミド樹脂が例示される。これら結着剤は単独で使用してもよいし、混合物であってもよく、更にまた集電体との結着性の向上、分散性を改善、結着剤自身の導電性の向上など別機能を付与する成分、例えば、スチレン−ブタジエン・ゴム系ポリマーやスチレン−イソプレン・ゴム系ポリマーが付加、混合されていてもよい。
【0051】
<リチウムイオン電池>
本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含んでなる負極活物質を用いたリチウムイオン電池は、次のように製造できる。
まず、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な正極活物質、導電助剤、結着剤及び溶媒を混合して正極活物質組成物を準備する。前記正極活物質組成物を負極と同様、公知の方法にて金属集電体上に直接コーティング及び乾燥し、正極極板を準備する。
前記正極活物質組成物を別途、支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得たフィルムを金属集電体上にラミネートして正極を製造することも可能である。正極の成形方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0052】
前記正極活物質としては、リチウム金属複合酸化物であって、当該二次電池の分野で一般的に使われるものであるならば特に限定されなく、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、スピネル構造を持ったマンガン酸リチウム、コバルトマンガン酸リチウム、オリビン構造を持ったリン酸鉄、いわゆる三元系リチウム金属複合酸化物、ニッケル系リチウム金属複合酸化物などが例示できる。また、リチウムイオンの脱−挿入が可能な化合物であるV、TiS及びMoSなども使用することができる。
【0053】
導電助剤は、リチウムイオン電池で一般的に使用されるものであれば特に限定されず、構成された電池において分解又は変質を起こさない電子伝導性の材料であればよい。具体例としては、カーボンブラック(アセチレンブラック等)、黒鉛微粒子、気相成長炭素繊維、及びこれらの二種以上の組み合わせなどが挙げられる。また、結着剤としては、例えば、フッ化ビニリデン/六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ四フッ化エチレン及びその混合物、スチレンブタジエン・ゴム系ポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものでない。また、溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、アセトン、水などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
この時、正極活物質、導電助剤、結着剤及び溶媒の含有量は、リチウムイオン電池で一般的に使用することができる量とする。
【0054】
正極と負極との間に介在するセパレータとしては、リチウムイオン電池で一般的に使われるものならば、特に限定されない。電解質のイオン移動に対して低抵抗であるか、又は電解液含浸能に優れるものが好ましい。具体的には、ガラスファイバー、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリイミド、あるいはその化合物のうちから選択された材質であって、不織布または織布の形態でもよい。
より具体的には、リチウムイオン電池の場合には、ポリエチレン、ポリプロピレンのような材料からなる巻き取り可能なセパレータを使用し、リチウムイオンポリマー電池の場合には、有機電解液含浸能に優れたセパレータを使用する事が好ましい。
【0055】
電解液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチレンカーボネート、ジブチルカーボネート、ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、スルフォラン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ニトロベンゼンまたは、ジエチルエーテルなどの溶媒またはそれらの混合溶媒に、六フッ化リンリチウム、四フッ化ホウ素リチウム、六アンチモンリチウム、六フッ化ヒ素リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、Li(CFSON、LiCSO、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiN(C2x+1SO)(C2y+1SO)(ただし、xおよびyは自然数)、LiCl、LiIのようなリチウム塩からなる電解質のうち一種またはそれらを二種以上混合したものを溶解して使用できる。
【0056】
また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。例えば、リチウムイオンを添加した各種イオン液体、イオン液体と微粉末を混合した擬似固体電解質、リチウムイオン導電性固体電解質などが使用可能である。
【0057】
更にまた、充放電サイクル特性を向上させる目的で、前記の電解液に、負極活物質表面に安定な被膜形成を促進する化合物を適宜含有させることもできる。例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロベンゼン、環状フッ素化カーボネート〔フルオロエチレンカーボネート(FEC)、トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)など〕、または、鎖状フッ素化カーボネート〔トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)、トリフルオロジエチルカーボネート(TFDEC)、トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)など〕などのフッ素化カーボネートが効果的である。なお、前記環状フッ素化カーボネートおよび鎖状フッ素化カーボネートは、エチレンカーボネートなどのように、溶媒として用いることもできる。
【0058】
前述のような正極極板と負極極板との間にセパレータを配して電池構造体を形成する。係る電池構造体をワインディングするか、または折りたたんで円筒形電池ケース、または角型電池ケースに入れた後、電解液を注入すればリチウムイオン電池が完成する。
【0059】
また、前記電池構造体をバイセル構造に積層した後、これを有機電解液に含浸させ、得られた物をパウチに入れて密封すれば、リチウムイオンポリマー電池が完成する。
【0060】
シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンを熱処理することにより形成されるシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物の一態様は、赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、ピーク1の強度をI、ピーク2の強度をIとした場合に、強度比(I/I)が0.01から0.35の範囲にあり、また、表1の元素分析値に示すように一般式SiO(0.01<x≦0.3、0<y<0.35)で表示されるシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物である。これらの特徴を有するシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含んでなる負極活物質を用いて製造されたリチウムイオン電池は、非常に優れた初期充放電効率を有し、かつ、高容量であり、良好な優れたサイクル特性を示す。
【0061】
本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物の一態様は、赤外分光法により測定したスペクトルにおいて、ピーク2−1の強度をI2−1、ピーク2−2の強度をI2−2とした場合に、強度比(I2−1/I2−2)が1を超えることを特徴とするシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物である。この特徴は、前駆体であるシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンと同じである。また、熱処理によっても環状化結合の割合は概ね維持されるため、I2−1/I2−2>1の状態も維持される。
【0062】
この様なシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物は、シリコンナノ粒子の表面とケイ素酸化物構造(水素ポリシルセスキオキサン由来)が強固な化学結合(Si−O−Si結合)を介してネットワークを形成している事が示唆される。焼成後もこのネットワークは保持され、ケイ素酸化物構造部分の骨格がシリコンナノ粒子の膨張収縮に対する緩衝層の役割を果たし、その結果充放電の繰り返しの際に発生するシリコンナノ粒子の微細化を抑制しているものと推察される。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例及び比較例において調製したシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物等について、各種分析・評価を行った。
各実施例及び比較例における「赤外分光法測定」および「元素分析測定」の測定装置及び測定方法並びに「電池特性の評価」は、以下のとおりである。
【0065】
(赤外分光法測定)
赤外分光法測定は、赤外分光装置として、Thermo Fisher Scientific製 Nicolet iS5 FT-IRを用いて、KBr法による透過測定(分解能4cm-1、スキャン回数16回、データ間隔 1.928cm-1、検出器 DTGS KBr)にて、820〜920cm-1にあるSi−H結合に由来するピーク1の強度(I1)および、1000〜1250cm-1にあるSi−O−Si結合に由来するピーク2の強度(I)を測定した。なお、各々のピーク強度は、対象のピークの始点と終点を直線で結び、部分的にベースライン補正を行った後、ベースラインからピークトップまでの高さを計測して求めた。Si−O−Si結合に由来するピークは、2箇所に存在するため、ピーク分離を行いピーク位置が1170cm−1付近のピークの強度をI2−1、1070cm−1付近のピークの強度をI2−2とし、2ピークのうち高強度なピークの強度をIと規定した。
【0066】
(元素分析測定)
元素分析測定については、試料粉末をペレット状に固めたのち、2.3MeVに加速したHeイオンを試料に照射し、後方散乱粒子のエネルギースペクトル、及び前方散乱された水素原子のエネルギースペクトルを解析することにより水素を含めた確度の高い組成値が得られるRBS(ラザフォード後方散乱分析)/HFS(水素前方散乱分析)法により行った。測定装置はNational Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDHにて、入射イオン:2.3MeV He、RBS/HFS同時測定時入射角:75deg.、散乱角:160deg.、試料電流:4nA、ビーム径:2mmφの条件で測定した。
【0067】
(電子顕微鏡(SEM)による観察)
試料粉末を、超高分解能分析走査電子顕微鏡(Hitachi製 商品名SU-70)により観察、撮影した。
【0068】
(電池特性の評価)
本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を含有する負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池等の充放電特性は、次のようにして測定した。
株式会社ナガノ製BTS2005Wを用い、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物1g重量あたり、100mAの電流で、Li電極に対して0.001Vに達するまで定電流充電し、次に0.001Vの電圧を維持しつつ、電流が活物質1g当たり20mA以下の電流値になるまで定電圧充電を実施した。
充電が完了したセルは、約30分間の休止期間を経た後、活物質1g当たり100mAの電流で電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行った。
また、充電容量は、定電圧充電が終了するまで積算電流値から計算し、放電容量は、電池電圧が1.5Vに到達するまでの積算電流値から計算した。各充放電の切り替え時には、30分間、開回路で休止した。
【0069】
充放電サイクル特性についても同様の条件で行った。
なお、充放電効率は、初回(充放電の第1サイクル目)の充電容量に対する放電容量の比率とし、容量維持率は初回の放電容量に対する、充放電50サイクル目の放電容量の比率とした。
【0070】
[実施例1]
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン(1)の調製)
100mlポリビーカーに純水50gとシリコンナノパウダー(Nanomakers社製 Pure Si NM Si99 平均粒径75nm、粒径1000nm以上の粒子非含有。)13.6gを入れ、超音波ホモジナイザーにて2分間処理して、シリコンナノ粒子分散水溶液を作製した。500mlの三つ口フラスコに、このシリコン微粒子分散液と35重量%濃度の塩酸2.22g(21mmol)及び純水161gを仕込み、室温にて10分攪拌してシリコンナノ粒子を全体に分散させ、撹拌下にトリエトキシシラン(東京化成)19.9g(121mmol)を25℃にて滴下した。滴下終了後、撹拌しながら25℃にて加水分解反応および縮合反応を2時間行った。
反応時間経過後、反応物をメンブランフィルター(孔径0.45μm、親水性)にてろ過し、固体を回収した。得られた固体を80℃にて10時間、減圧乾燥し、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(1)20.0gを得た。
【0071】
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(1)の調製)
前記シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(1)10.0gをSSA−Sグレードのアルミナ製ボートにのせた後、該ボートを真空パージ式チューブ炉 KTF43N1−VPS(光洋サーモシステム社製)にセットし、熱処理条件として、アルゴンガス雰囲気下(高純度アルゴンガス99.999%)にて、アルゴンガスを250ml/分の流量で供給しつつ、4℃/分の割合で昇温し、900℃で1時間焼成することで、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を得た。
次いで、得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を乳鉢にて5分間解砕粉砕し、目開き32μmのステンレス製篩を用いて分級することにより最大粒子径が32μmであるシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(1)、9.78gを得た。
得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(1)の赤外分光スペクトルを図1図1では、「実施例1」と記載する)、電子顕微鏡(SEM)による写真を図2に示す。
【0072】
(負極の作製)
カルボキシメチルセルロースの2重量%水溶液20g中に、前記シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(1)3.0gと0.4gのデンカ株式会社製アセチレンブラック、及び0.2gの昭和電工株式会社製の気相法炭素繊維(気相成長炭素繊維)VGCF-Hを加え、フラスコ内で攪拌子を用いて15分間混合した後、固形分濃度が15重量%となるよう蒸留水を加え、さらに15分間撹拌してスラリー状組成物を調製した。このスラリー状組成物をプライミックス社製の薄膜旋回型高速ミキサー(フィルミックス40−40型)に移し、回転数20m/sで30秒間、撹拌分散を行った。分散処理後のスラリーを、ドクターブレード法により、銅箔ロール上にスラリーを200μmの厚さにて塗工した。
塗工後、80℃のホットプレートにて90分間乾燥した。乾燥後、負極シートを2t小型精密ロールプレス(サンクメタル社製)にてプレスした。プレス後、φ14.50mmの電極打ち抜きパンチHSNG−EPにて電極を打ち抜き、ガラスチューブオーブンGTO―200(SIBATA)にて、80℃で、16時間減圧乾燥を行い、負極を作製した。
【0073】
(リチウムイオン電池の作製及び評価)
図3に示す構造の2032型コイン電池を作製した。負極1として上記負極体、対極3として金属リチウム、セパレータ2として微多孔性のポリプロピレン製フィルムを使用し、電解液としてLiPFを1モル/Lの割合で溶解させたエチレンカーボネートとジエチルカーボネート1:1(体積比)混合溶媒にフルオロエチレンカーボネートを5重量%添加したものを使用した。
次いで、リチウムイオン電池の電池特性の評価を既述の方法で実施した。
【0074】
[実施例2]
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン(2)の調製)
200mlポリビーカーに純水100gとシリコンナノパウダー(Nanomakers社製 Pure Si NM Si99 平均粒径75nm、粒径1000nm以上の粒子非含有。)31.0gを入れ、超音波ホモジナイザーにて2分間処理して、シリコンナノ粒子分散水溶液を作製した。1000mlの三つ口フラスコに、このシリコン微粒子分散液と35重量%濃度の塩酸5.08g(49 mmol)及び純水381gを仕込み、室温にて10分攪拌してシリコンナノ粒子を全体に分散させ、撹拌下にトリエトキシシラン(東京化成)27.9g(169.9mmol)を25℃にて滴下した。滴下終了後、撹拌しながら25℃にて加水分解反応および縮合反応を2時間行った。
反応時間経過後、反応物をメンブランフィルター(孔径0.45μm、親水性)にてろ過し、固体を回収した。得られた固体を80℃にて10時間、減圧乾燥し、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(2)40.0gを得た。
【0075】
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(2)の調製)
該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(2)10.0gを用い、実施例1と同様の方法で焼成物の調製を行い、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(2)9.83gを得た。得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(2)の赤外分光スペクトルを図1図1では、「実施例2」と記載する)に示す。
【0076】
(負極の作製、リチウムイオン電池の作製及び評価)
該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(2)について、実施例1と同様に負極体を作製し、それを用いたリチウムイオン電池の電池特性を評価した。
【0077】
[実施例3]
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン(3)の調製)
100mlポリビーカーに純水50gとシリコンナノパウダー(Nanomakers社製 Pure Si NM Si99 平均粒径75nm、粒径1000nm以上の粒子非含有)17.6gを入れ、超音波ホモジナイザーにて2分間処理して、シリコンナノ粒子分散水溶液を作製した。500mlの三つ口フラスコに、このシリコン微粒子分散液と酢酸(和光特級試薬)1.67g(28mmol)及び純水223gを仕込み、室温にて10分攪拌してシリコンナノ粒子を全体に分散させ、撹拌下にトリエトキシシラン(東京化成)7.36g(44.9mmol)を25℃にて滴下した。滴下終了後、撹拌しながら25℃にて加水分解反応および縮合反応を2時間行った。
反応時間経過後、反応物をメンブランフィルター(孔径0.45μm、親水性)にてろ過し、固体を回収した。得られた固体を80℃にて10時間、減圧乾燥し、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(3)20.0gを得た。
【0078】
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(3)の調製)
該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(3)10.0gを用い、実施例1と同様の方法で焼成物の調製を行い、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(3)9.87gを得た。
【0079】
(負極の作製、リチウムイオン電池の作製及び評価)
該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(3)について、実施例1と同様に負極体を作製し、それを用いたリチウムイオン電池の電池特性を評価した。
【0080】
[実施例4]
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(4)の調製)
前記シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(2)10.0gを用い、焼成温度を800℃にしたこと以外は、実施例1と同様に焼成物の調製を行い、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(4)9.81gを得た。
【0081】
(負極の作製、リチウムイオン電池の作製及び評価)
得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(4)を用い、実施例1と同様の方法で負極体の作製を行い、それを用いたリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。
【0082】
本発明の実施例1〜4で得られたシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物の赤外分光測定の結果、元素分析の結果及び各負極活物質を用いて作製した負極を採用した電池特性の評価結果は、表1に示すとおりである。
【0083】
[比較例1]
市販の一酸化珪素(アルドリッチ社製 under325mesh)を20μmのステンレス製篩を用いて分級することにより最大粒子径が20μmである一酸化ケイ素粉末を得た。該20μm以下の一酸化珪素4.0gを、シリコンナノパウダー(シグマアルドリッチ、体積基準平均粒径<100nm(100nm未満))16.0gとジルコニア製の容器とジルコニア製ボールを用いて遊星ボールミルにて10分間ボールミリング処理混合し、シリコンナノ粒子混合ケイ素酸化物(1)を得た。得られたシリコンナノ粒子混合ケイ素酸化物(1)の赤外分光スペクトルを図1図1では「比較例1」と記載する)に示す。該シリコンナノ粒子混合ケイ素酸化物(1)にカルボキシメチルセルロースの2重量%水溶液5gを加え、ジルコニア製の容器とジルコニア製ボールを用いて遊星ボールミルにて2時間ボールミリング処理を行い、真空乾燥機にて100℃で8時間乾燥して水分を除去してシリコンナノ粒子複合ケイ素酸化物(1)(比較例1)を得た。
【0084】
(負極の作製)
比較例1のシリコンナノ粒子複合ケイ素酸化物(1)を用いた以外は、実施例2と同様に行い負極体を作製した。
【0085】
(リチウムイオン電池の作製及び評価)
負極体として、前記シリコンナノ粒子複合ケイ素酸化物(1)から作製された負極を用いた以外は、実施例1のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(1)を用いたときと同様にしてリチウムイオン電池を作製し、それを備えた電池特性を評価した。
【0086】
[比較例2]
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン(5)の調製)
用いるシリコンナノパウダーをHangWu社製 #2 211(平均粒径:280nm、D90:1.4μm、粒径1000nm以上の粒子を含む。)に変えた以外は実施例2と同様に処理を行い、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(5)を調製した。結果を表1に示す。
【0087】
(シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(5)の調製)
該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン粉体(5)10.0gを用い、実施例1と同様の方法で焼成物の調製を行い、シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(5)9.73gを得た。
該シリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物(5)について、実施例1と同様に負極体を作製し、それを用いたリチウムイオン電池の電池特性を評価した。
【0088】
【表1】
【0089】
上記各実施例の結果によると、本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物から作製されるリチウムイオン電池用負極活物質は、何れも初期放電容量と50サイクル目の放電容量ともに従来の炭素系負極活物質よりも格段に放電容量が高く、良好な初期充放電効率を有し、しかも、充放電サイクルによる容量低下が少なく、高い容量維持率を有するものであった。したがって、特定のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサンは熱処理加工することによりリチウムイオン電池負極活物質として十分に実用に耐え、高容量を求められる最新電池の負極材料として利用可能な物質となり得る有用な化合物であると評価できる。
【0090】
比較例1で示されるように、シリコンナノ粒子表面が化学的な結合を持たず、Si−H結合を有していないケイ素酸化物から作製された負極活物質を用いた負極を採用した電池特性は、本発明の負極活物質を採用した負極と同じ条件下で作製した電池特性と比較したとき、初期充放電効率は一定程度の値を示すものの、急激に容量が低下しており、リチウムイオン電池として実用的なレベルに達していない。また、比較例2で示されるように1000nm以上のミクロンサイズの粒子を含むようなシリコンナノ粒子を基材として用いた場合、水素ポリシルセスキオキサンと複合化しても、充放電時に発生する膨張収縮による応力変化を抑制しきれないため、充放電サイクルを繰り返すごとに電極の導電パスが切れて、許容範囲を超える容量の低下を招く。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のシリコンナノ粒子含有水素ポリシルセスキオキサン焼成物を用いたリチウムイオン電池用負極活物質及びそれを用いて負極を形成し、リチウムイオン電池に用いることにより、従来の炭素系負極材と比べ、格段に高い容量を有し、実用性のある初期充放電効率とサイクル特性を有するリチウムイオン電池を得ることができ、例えば、本発明は、電池の分野に、特に、二次電池の分野において有用な技術である。
【符号の説明】
【0092】
1:負極材
2:セパレータ
3:リチウム対極


図1
図2
図3