特許第6728637号(P6728637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6728637ジフルオロメトキシ基を有する酸化防止剤、液晶組成物および液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6728637
(24)【登録日】2020年7月6日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】ジフルオロメトキシ基を有する酸化防止剤、液晶組成物および液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/23 20060101AFI20200713BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 19/14 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 19/16 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 19/18 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 19/20 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 19/32 20060101ALI20200713BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20200713BHJP
   C09K 15/08 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   C07C43/23 ECSP
   C09K19/54 C
   C09K19/34
   C09K19/30
   C09K19/12
   C09K19/14
   C09K19/16
   C09K19/18
   C09K19/20
   C09K19/32
   G02F1/13 500
   C09K15/08
【請求項の数】13
【全頁数】78
(21)【出願番号】特願2015-220223(P2015-220223)
(22)【出願日】2015年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-94412(P2016-94412A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2018年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-228125(P2014-228125)
(32)【優先日】2014年11月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 禎治
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−160525(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/162587(WO,A1)
【文献】 特表2006−502205(JP,A)
【文献】 特開2014−156460(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/171272(WO,A1)
【文献】 特開2014−043561(JP,A)
【文献】 特開平09−124529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 43/23
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1−2−a)から(1−2−e)で表される化合物。


式(1−2−a)から(1−2−e)において、Rが炭素数2から20のアルキルであり;RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルであり;L、L、L、L、L、L、L、およびLは独立して、水素またはフッ素である。
【請求項2】
式(1−2−c)から(1−2−e)において、Rが炭素数2から15のアルキルであり;RおよびRは独立して、メチルまたはt−ブチルであり;L、L、L、L、L、L、L、およびLは独立して、水素またはフッ素であり、フッ素の合計は、0から4の整数である、請求項1に記載の化合物

【請求項3】
式(1−3−a)から(1−3−l)で表される、化合物。



式(1−3−a)から(1−3−l)において、Rは炭素数2から9のアルキルである。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物を含有する液晶組成物。
【請求項5】
式(2)から(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項4に記載の液晶組成物。


式(2)から(4)において、
11およびR12は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルまたはアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環B、環B、環B、および環Bは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
11、Z12、およびZ13は独立して、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、または−COO−である。
【請求項6】
式(5)から(7)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項4または5に記載の液晶組成物。

式(5)から(7)において、
13は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
11は、フッ素、塩素、−OCF3、−OCHF2、−CF3、−CHF2、−CH2F、−OCF2CHF2、または−OCF2CHFCF3であり;
環C、環C、および環Cは独立して、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
14、Z15、およびZ16は独立して、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−CFO−、−OCF−、−CHO−、または−(CH−であり;
11およびL12は独立して、水素またはフッ素である。
【請求項7】
式(8)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項4から6のいずれか1項に記載の液晶組成物。


式(8)において、
14は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
12は−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nであり;
環Dは、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
17は、単結合、−CHCH−、−C≡C−、−COO−、−CFO−、−OCF−、または−CHO−であり;
13およびL14は独立して、水素またはフッ素であり;
iは、1、2、3、または4である。
【請求項8】
式(9)から(15)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項4から7のいずれか1項に記載の液晶組成物。


式(9)から(15)において、
15およびR16は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
17は、水素、フッ素、炭素数1から10のアルキル、または炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環E、環E、環E、および環Eは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
環Eおよび環Eは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
18、Z19、Z20、およびZ21は独立して、単結合、−CHCH−、−COO−、−CHO−、−OCF−、または−OCFCHCH−であり;
15およびL16は独立して、フッ素または塩素であり;
11は、水素またはメチルであり;
Xは、−CHF−または−CF−であり;
j、k、m、n、p、q、r、およびsは独立して、0または1であり、k、m、n、およびpの和は、1または2であり、q、r、およびsの和は、0、1、2、または3であり、tは、1、2、または3である。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物の酸化防止剤としての使用。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物を添加することにより、液晶組成物を安定化させる方法。
【請求項11】
請求項4から8のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶表示素子。
【請求項12】
液晶表示素子の動作モードが、TNモード、ECBモード、OCBモード、VAモード、IPSモード、PSAモード、FFSモード、またはFPAモードであり、液晶表示素子の駆動方式がアクティブマトリックス方式である請求項11に記載の液晶表示素子。
【請求項13】
請求項4から8のいずれか1項に記載の液晶組成物の液晶表示素子における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール系の酸化防止剤、液晶組成物、および液晶表示素子に関する。さらに詳しくは、2,6−ジアルキル−4−置換フェノール、この化合物を添加した液晶組成物、この組成物を含有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子において、液晶の動作モードに基づいた分類は、PC(phase change)、TN(twisted nematic)、STN(super twisted nematic)、ECB(electrically controlled birefringence)、OCB(optically compensated bend)、IPS(in-plane switching)、VA(vertical alignment)、FFS(Fringe Field Switching)、PSA(polymer sustained alignment)、FPA(field induced photo-reactive alignment)モードなどである。素子の駆動方式に基づいた分類は、PM(passive matrix)とAM(active matrix)である。PMはスタティック(static)とマルチプレックス(multiplex)などに分類され、AMはTFT(thin film transistor)、MIM(metal insulator metal)などに分類される。TFTの分類は非晶質シリコン(amorphous silicon)および多結晶シリコン(polycrystal silicon)である。後者は製造工程によって高温型と低温型とに分類される。光源に基づいた分類は、自然光を利用する反射型、バックライトを利用する透過型、そして自然光とバックライトの両方を利用する半透過型である。
【0003】
これらの素子は適切な特性を有する液晶組成物を含有する。この液晶組成物はネマチック相を有する。良好な一般的特性を有するAM素子を得るには組成物の一般的特性を向上させる。2つの一般的特性における関連を下記の表1にまとめる。組成物の一般的特性を市販されているAM素子に基づいてさらに説明する。ネマチック相の温度範囲は、素子の使用できる温度範囲に関連する。ネマチック相の好ましい上限温度は約70℃以上であり、そしてネマチック相の好ましい下限温度は約−10℃以下である。組成物の粘度は素子の応答時間に関連する。素子で動画を表示するためには短い応答時間が好ましい。したがって、組成物における小さな粘度が好ましい。低い温度における小さな粘度はより好ましい。組成物の弾性定数は素子のコントラストに関連する。素子においてコントラストを上げるためには、組成物における大きな弾性定数がより好ましい。
【0004】
【0005】
組成物の光学異方性は、素子のコントラスト比に関連する。組成物の光学異方性(Δn)と素子のセルギャップ(d)との積(Δn×d)は、コントラスト比を最大にするように設計される。適切な積の値は動作モードの種類に依存する。TNのようなモードの素子では、適切な値は約0.45μmである。VAモードの素子では約0.30μmから約0.40μmの範囲、IPSモード、またはFFSモードの素子では約0.20μmから約0.30μmの範囲である。この場合、小さなセルギャップの素子には大きな光学異方性を有する組成物が好ましい。組成物における絶対値の大きな誘電率異方性は素子における低いしきい値電圧、小さな消費電力と大きなコントラスト比に寄与する。したがって、絶対値の大きな誘電率異方性が好ましい。組成物における大きな比抵抗は、大きな電圧保持率に寄与し、素子における大きなコントラスト比に寄与する。したがって、初期段階において室温だけでなくネマチック相の上限温度に近い温度でも大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。長時間使用したあと、室温だけでなくネマチック相の上限温度に近い温度でも大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。紫外線および熱に対する組成物の安定性は、液晶表示素子の寿命に関連する。これらの安定性が高いとき、この素子の寿命は長い。このような特性は、液晶プロジェクター、液晶テレビなどに用いるAM素子に好ましい。組成物における大きな弾性定数は素子における大きなコントラスト比と短い応答時間に寄与する。したがって、大きな弾性定数が好ましい。
【0006】
このような特性を有する組成物を調製するために、成分である液晶性化合物の種類や割合は注意深く選定される。しかしながら、このような特性を長時間維持できないことがある。経時変化によって素子の表示不良が発生することがある。これは液晶性化合物が酸化されるからだと推定される。この酸化を防止する目的で、酸化防止剤が組成物に添加される。酸化防止剤の例は、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(特許文献1および2)、化合物(BH7)(特許文献3)、化合物(BH3L)(特許文献4)であるが、さらに有用な酸化防止剤が求められている。低い蒸気圧を有し、組成物への高い溶解度を有し、少量であっても効果的な酸化防止剤の開発が期待されている。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−256267号公報
【特許文献2】特開2010−180266号公報
【特許文献3】国際公開第2014/162587号
【特許文献4】特開平9−124529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の1つの目的は、酸化防止剤として有用な化合物である。他の目的は、この化合物を含有し、そしてネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、正または負に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、紫外線に対する高い安定性、熱に対する高い安定性、大きな弾性定数などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物である。他の目的は、少なくとも2つの特性に関して適切なバランスを有する液晶組成物である。別の目的は、このような組成物を含有し、そして短い応答時間、大きな電圧保持率、低いしきい値電圧、大きなコントラスト比、長い寿命などの特性を有する液晶表示素子である。別の目的は紫外線に対する高い安定性を有する液晶組成物であり、長時間使用しても電圧保持率が低下しにくい素子である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、式(1)で表される化合物、この化合物を添加した液晶組成物、この組成物を含有する液晶表示素子に関する。

式(1)において、Rは水素または炭素数1から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CHCH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルであり;環Aは、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,4−フェニレン、またはナフタレン−2,6−ジイルであり、これらの基において、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CHCH−は−CH=CH−または−CH=N−で置き換えられてもよく、これらの二価基において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、−C≡N、−CF3、−CHF、−CHF、−OCF、−OCHF、または−OCHFで置き換えられてもよく;Zは、単結合または炭素数1から6のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、1つまたは2つの−CHCH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく、これらの二価基において、少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく;mは0、1、または2であり、m=2のとき、2つの環Aは同じであっても異なっていてもよく、2つのZは同じであっても異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1つの長所は、蒸気圧が低く、溶解度が高い、酸化防止剤として有用な化合物である。他の長所は、この化合物を含有し、そしてネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、正または負に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、紫外線に対する高い安定性、熱に対する高い安定性、大きな弾性定数などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する液晶組成物である。他の長所は、少なくとも2つの特性に関して適切なバランスを有する液晶組成物である。別の長所は、このような組成物を含有し、そして短い応答時間、大きな電圧保持率、低いしきい値電圧、大きなコントラスト比、長い寿命などの特性を有する液晶表示素子である。別の長所は、紫外線に対する高い安定性を有する液晶組成物であり、長時間使用しても電圧保持率が低下しにくい素子である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。「液晶組成物」および「液晶表示素子」をそれぞれ「組成物」または「素子」と略すことがある。「液晶表示素子」は、液晶表示パネルおよび液晶表示モジュールの総称である。「液晶性化合物」は、ネマチック相、スメクチック相などの液晶相を有する化合物または液晶相を有さないが、組成物の成分として有用な化合物を意味する。この化合物は、例えば1,4−シクロヘキシレンや1,4−フェニレンのような六員環を有し、その分子構造は棒状(rod like)である。「重合性化合物」は、組成物中に重合体を生成させる目的で添加する化合物である。式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1)」と略すことがある。「化合物(1)」は、式(1)で表される1つの化合物、2つの化合物の混合物、または3つ以上の化合物の混合物を意味する。他の式で表される化合物についても同様である。
【0013】
液晶組成物は、複数の液晶性化合物を混合することによって調製される。液晶性化合物の割合(含有量)は、この液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)で表される。この液晶組成物に、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、色素、および消泡剤のような添加物が必要に応じて添加される。添加物の割合(添加量)は、液晶性化合物の割合と同様に、液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)で表される。重量百万分率(ppm)が用いられることもある。重合開始剤および重合禁止剤の割合は、例外的に重合性化合物の重量に基づいて表される。
【0014】
ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。「比抵抗が大きい」は、組成物が初期段階において室温だけでなくネマチック相の上限温度に近い温度でも大きな比抵抗を有し、そして長時間使用したあと室温だけでなくネマチック相の上限温度に近い温度でも大きな比抵抗を有することを意味する。「電圧保持率が大きい」は、素子が初期段階において室温だけでなくネマチック相の上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を有し、そして長時間使用したあと室温だけでなくネマチック相の上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を有することを意味する。「誘電率異方性を上げる」の表現は、誘電率異方性が正である組成物のときは、その値が正に増加することを意味し、誘電率異方性が負である組成物のときは、その値が負に増加することを意味する。「液晶組成物を安定化させる」とは、液晶組成物の紫外線または熱に対する安定性を向上させることを意味する。
【0015】
成分化合物の化学式において、Rの記号を複数の化合物に用いた。これらの任意の2つの化合物において、Rで選択されるものは同じであっても、異なってもよい。例えば、化合物(1−1−a)のRがエチルであり、化合物(1−1−b)のRがエチルであるケースがある。化合物(1−1−a)のRがエチルであり、化合物(1−1−b)のRがプロピルであるケースもある。このルールは、R、R11、Z11などの記号にも適用される。化合物(8)において、iが2のとき、2つの環Dが存在する。この化合物において2つの環Dが表す2つの基は、同一であってもよく、または異なってもよい。iが2より大きいとき、任意の2つの環Dにも適用される。このルールは、環A、Z、Z17などの記号にも適用される。六角形で囲んだA、B、Cなどの記号はそれぞれ環A、環B、環Cなどの環に対応する。化合物(1)において、六角形はベンゼン環のような六員環またはナフタレン環のような縮合環を表す。化合物(2)から化合物(15)において、六角形はベンゼン環のような六員環を表す。
【0016】
「少なくとも1つの‘A’」の表現は、‘A’の数は任意であることを意味する。「少なくとも1つの‘A’は、‘B’で置き換えられてもよい」の表現は、‘A’の数が1つのとき、‘A’の位置は任意であり、‘A’の数が2つ以上のときも、それらの位置は制限なく選択できる。このルールは、「少なくとも1つの‘A’が、‘B’で置き換えられた」の表現にも適用される。「少なくとも1つのAが、B、C、またはDで置き換えられてもよい」という表現は、少なくとも1つのAがBで置き換えられた場合、少なくとも1つのAがCで置き換えられた場合、および少なくとも1つのAがDで置き換えられた場合、さらに複数のAがB、C、Dの少なくとも2つで置き換えられた場合を含むことを意味する。例えば、少なくとも1つの−CH−(または−CHCH−)が−O−(または−CH=CH−)で置き換えられてもよいアルキルには、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルケニル、アルケニルオキシアルキルが含まれる。なお、連続する2つの−CH−が−O−で置き換えられて、−O−O−のようになることは好ましくない。アルキルなどにおいて、メチル部分(−CH−H)の−CH−が−O−で置き換えられて−O−Hになることも好ましくない。
【0017】
ハロゲンはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素を意味する。好ましいハロゲンは、フッ素および塩素である。さらに好ましいハロゲンはフッ素である。アルキルは、直鎖状または分岐状であり、環状アルキルを含まない。直鎖状アルキルは、一般的に分岐状アルキルよりも好ましい。これらのことは、アルコキシ、アルケニルなどの末端基についても同様である。1,4−シクロヘキシレンに関する立体配置は、一般的にシスよりもトランスが好ましい。2−フルオロ−1,4−フェニレンは、下記の2つの二価基を意味する。化学式において、フッ素は左向き(L)であってもよいし、右向き(R)であってもよい。このルールは、テトラヒドロピラン−2,5−ジイルのような、環から水素を2つ除くことによって誘導された非対称な二価基にも適用される。

【0018】
本発明は、下記の項などである。
【0019】
項1. 式(1)で表される化合物。

式(1)において、Rは水素または炭素数1から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CHCH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルであり;環Aは、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,4−フェニレン、またはナフタレン−2,6−ジイルであり、これらの基において、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CHCH−は−CH=CH−または−CH=N−で置き換えられてもよく、これらの二価基において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、−C≡N、−CF、−CHF、−CHF、−OCF、−OCHF、または−OCHFで置き換えられてもよく;Zは、単結合または炭素数1から6のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、1つまたは2つの−CHCH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく、これらの二価基において、少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく;mは0、1、または2であり、m=2のとき、2つの環Aは同じであっても異なっていてもよく、2つのZは同じであっても異なっていてもよい。
【0020】
項2. 項1に記載の式(1)において、Rは水素または炭素数1から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−または−S−で置き換えられてもよく;RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルであり;環Aは、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4−フェニレンであり;Zは、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CHO−、−OCH−、−CF=CF−、−CFCF−、−CHCF−、−CHCHF−、−CHS−、または−SCH−であり;mは0、1、または2であり、m=2のとき、2つの環Aは同じであっても異なっていてもよく、2つのZは同じであっても異なっていてもよい、項1に記載の化合物。
【0021】
項3. 項1に記載の式(1)において、Rが炭素数2から20のアルキルであり;RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルであり;環Aが1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、または少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた1,4−フェニレンであり;Zが、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CHO−、または−OCH−であり;mが1または2であり、m=2のとき、2つの環Aは同じであっても異なっていてもよく、2つのZは同じであっても異なっていてもよい、項1または2に記載の化合物。
【0022】
項4. 式(1−1−a)から(1−1−e)で表される、項1から3のいずれか1項に記載の化合物。


式(1−1−a)から(1−1−e)において、Rが炭素数2から20のアルキルであり;RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルであり;Zは、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CHO−、または−OCH−であり;L、L、L、L、L、L、L、およびLは独立して、水素またはフッ素である。
【0023】
項5. 式(1−2−a)から(1−2−e)で表される、項1から4のいずれか1項に記載の化合物。

式(1−2−a)から(1−2−e)において、Rが炭素数2から20のアルキルであり;RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルであり;L、L、L、L、L、L、L、およびLは独立して、水素またはフッ素である。
【0024】
項6. 式(1−2−a)から(1−2−e)において、Rが炭素数2から15のアルキルであり;RおよびRは独立して、メチルまたはt−ブチルであり;L、L、L、L、L、L、L、およびLは独立して、水素またはフッ素であり、フッ素の合計は、0から4の整数である、項1から5のいずれか1項に記載の化合物。

式(1−2−a)から(1−2−e)において、Rが炭素数2から20のアルキルであり;RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルであり;L、L、L、L、L、L、L、およびLは独立して、水素またはフッ素である。
【0025】
項7. 式(1−3−a)から(1−3−l)で表される、項1から6のいずれか1項に記載の化合物。

式(1−3−a)から(1−3−l)において、Rは炭素数2から9のアルキルである。
【0026】
項8. 項1から7のいずれか1項に記載の化合物を含有する液晶組成物。
【0027】
項9. 式(2)から(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項8に記載の液晶組成物。

式(2)から(4)において、
11およびR12は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルまたはアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環B、環B、環B、および環Bは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
11、Z12、およびZ13は独立して、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、または−COO−である。
【0028】
項10. 式(5)から(7)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項8または9に記載の液晶組成物。
式(5)から(7)において、
13は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
11は、フッ素、塩素、−OCF3、−OCHF2、−CF3、−CHF2、−CH2F、−OCF2CHF2、または−OCF2CHFCF3であり;
環C、環C、および環Cは独立して、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
14、Z15、およびZ16は独立して、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−CFO−、−OCF−、−CHO−、または−(CH−であり;
11およびL12は独立して、水素またはフッ素である。
【0029】
項11. 式(8)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項8から10のいずれか1項に記載の液晶組成物。

式(8)において、
14は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
12は−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nであり;
環Dは、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
17は、単結合、−CHCH−、−C≡C−、−COO−、−CFO−、−OCF−、または−CHO−であり;
13およびL14は独立して、水素またはフッ素であり;
iは、1、2、3、または4である。
【0030】
項12. 式(9)から(15)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項8から11のいずれか1項に記載の液晶組成物。


式(9)から(15)において、
15およびR16は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
17は、水素、フッ素、炭素数1から10のアルキル、または炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環E、環E、環E、および環Eは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
環Eおよび環Eは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
18、Z19、Z20、およびZ21は独立して、単結合、−CHCH−、−COO−、−CHO−、−OCF−、または−OCFCHCH−であり;
15およびL16は独立して、フッ素または塩素であり;
11は、水素またはメチルであり;
Xは、−CHF−または−CF−であり;
j、k、m、n、p、q、r、およびsは独立して、0または1であり、k、m、n、およびpの和は、1または2であり、q、r、およびsの和は、0、1、2、または3であり、tは、1、2、または3である。
【0031】
項13. 項1から7のいずれか1項に記載の化合物の酸化防止剤としての使用。
【0032】
項14. 項1から7のいずれか1項に記載の化合物を添加することにより、液晶組成物を安定化させる方法。
【0033】
項15. 項8から12のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶表示素子。
【0034】
項16. 液晶表示素子の動作モードが、TNモード、ECBモード、OCBモード、VAモード、IPSモード、PSAモード、FFSモード、またはFPAモードであり、液晶表示素子の駆動方式がアクティブマトリックス方式である項15に記載の液晶表示素子。
【0035】
項17. 項8から12のいずれか1項に記載の液晶組成物の液晶表示素子における使用。
【0036】
本発明は、次の項も含む。1)重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、色素、および消泡剤の少なくとも1つをさらに含有する上記の組成物、2)重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、色素、および消泡剤の少なくとも2つをさらに含有する上記の組成物、3)上記の組成物を含有するAM素子、4)上記の組成物を含有し、そしてTN、ECB、OCB、VA、IPS、FFS、PSA、FPAのモードを有する素子、5)上記の組成物を含有する透過型の素子、6)上記の組成物を、ネマチック相を有する組成物としての使用、7)上記の組成物に光学活性な化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用。
【0037】
化合物(1)の態様、化合物(1)の合成、液晶組成物、および液晶表示素子について順に説明する。
【0038】
1.化合物(1)の態様
本発明の化合物(1)は、ジフルオロメトキシ基を有する2,6−ジアルキル−4−置換フェノールであるので、酸化防止剤として有用である。化合物(1)は、水酸基のパラ位にジフルオロメトキシ基を有するので、その電子的効果によってラジカルを捕捉する能力が向上していると考えられる。化合物(1)のRまたはRは、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルである。したがって、RおよびRによって表される基を選択することによって、水酸基の立体障害の大きさを調節することができる。立体障害が小さい場合は、ラジカルを補足する反応が速くなる。立体障害が大きい場合は、ラジカルを補足したあとの安定性が大きい。RおよびRを適切に組み合わせることによって水酸基の立体障害の大きさを調整することができるので、目的に一致した酸化防止剤を得ることができる。水酸基の立体障害が異なる2つ(または3つ以上)の化合物(1)を組み合わせることによって、相乗効果を期待することもできる。化合物(1)は、特にmが2である化合物は、液晶性化合物の構造に類似する。したがって、化合物(1)を液晶組成物に添加したとき、溶解度は良好である。化合物(1)は分子量が大きいので、蒸気圧が低い。そのため化合物(1)を液晶組成物に添加した場合、蒸散により濃度が減少しない。
【0039】
化合物(1)の好ましい例について説明をする。化合物(1)における末端基R、側鎖基RおよびR、環A、結合基Z、添え字mの好ましい例は、化合物(1)の下位式にも適用される。化合物(1)において、これらの基の種類を適切に組み合わせることによって、特性を任意に調整することが可能である。化合物の特性に大きな差異がないので、化合物(1)は、H(重水素)、13Cなどの同位体を天然存在比の量より多く含んでもよい。
【0040】
式(1)において、Rは水素または炭素数1から20のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CHCH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよい。
【0041】
好ましいRは、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルキルチオ、アルキルチオアルキル、アルケニル、またはアルキニルである。さらに好ましいRは、少なくとも1つの−CH−が−O−または−S−で置き換えられてもよいアルキルである。特に好ましいRは、アルキル、アルコキシ、またはアルキルチオである。最も好ましいRはアルキルである。
【0042】
式(1)において、RおよびRは独立して、メチル、エチル、イソプロピル、またはt−ブチルである。好ましいRまたはRは、メチル、イソプロピル、またはt−ブチルである。RまたはRの少なくとも1つは、t−ブチルであることが好ましい。RおよびRにおいて、好ましい組み合わせは、水酸基の立体障害の観点からt−ブチルおよびt−ブチルである。好ましい組み合わせは、水酸基の速い反応性の観点からt−ブチルおよびメチルである。
【0043】
式(1)において、環Aは、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,4−フェニレン、またはナフタレン−2,6−ジイルであり、これらの基において、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの−CHCH−は−CH=CH−または−CH=N−で置き換えられてもよく、これらの二価基において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、−C≡N、−CF、−CHF、−CHF、−OCF、−OCHF、または−OCHFで置き換えられてもよい。式(1)において、m=2のとき、2つの環Aは同じであっても異なっていてもよい。
【0044】
好ましい環Aは、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4−フェニレンである。さらに好ましい環Aは、1,4−シクロヘキシレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2−クロロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、または2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンである。特に好ましい環Aは、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、または2−フルオロ−1,4−フェニレンである。
【0045】
式(1)において、Zは、単結合または炭素数1から6のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−、−S−、−CO−、または−SiH−で置き換えられてもよく、1つまたは2つの−CHCH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく、これらの二価基において、少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよい。式(1)において、m=2のとき、2つのZは同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
好ましいZは、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CHO−、−OCH−、−CF=CF−、−CFCF−、−CHCF−、−CHCHF−、−CHS−、または−SCH−である。さらに好ましいZは、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CHO−、または−OCH−である。特に好ましいZは、単結合または−CHCH−である。最も好ましいZは単結合である。
【0047】
式(1)において、mは0、1、または2である。mが0のときは合成が容易という観点から好ましい。この場合は、高い溶解度の観点からRが長鎖であることが好ましい。好ましいmは、1または2である。さらに好ましいmは、高い溶解度の観点から1であり、低い蒸気圧の観点から2である。特に好ましいmは2である。特に好ましいmは、Rが長鎖であるとき、1である。
【0048】
上記の好ましい例を参照しながら、末端基R、側鎖基RおよびR、環A、結合基Z、および添え字mの組み合わせを適切に選択することによって、目的とする特性を有する化合物(1)を得ることができる。化合物(1)の好ましい例は、項4に記載した化合物である。より具体的な例は項5に記載した化合物である。さらに具体的な例は項7に記載した化合物である。
【0049】
2.化合物(1)の合成
【0050】
本発明の化合物(1)の合成法を説明する。化合物(1)は、有機合成化学の方法を適切に組み合わせることにより合成することができる。出発物質に目的の末端基、環、または結合基を導入する方法は、フーベン−ヴァイル(Houben-Wyle, Methoden der Organische Chemie, Georg-Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセシズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載されている。
【0051】
2−1.合成経路(A)
下記の化合物(5)は、ジフルオロメトキシ基に隣接する環が1,4−シクロヘキシレンである。このような化合物は、次のような経路(A)で合成することができる。
【0052】
2−2.合成経路(B)
下記の化合物(4)は、ジフルオロメトキシ基に隣接する環が1,4−フェニレンである。このような化合物は、次のような経路(B)で合成することができる。
【0053】
2−3.合成経路(C)
下記の化合物(4)は、ジフルオロメトキシ基に隣接する環が無い場合である。このような化合物は、次のような経路(C)で合成することができる。
【0054】
3.液晶組成物
本発明の液晶組成物は、化合物(1)を成分Aとして含む。化合物(1)は、液晶組成物が光や熱によって分解されるのを防止するのに適している。この組成物は、化合物(1)を成分Aとして含み、下に示す成分B、C、D、およびEから選択された液晶化合物をさらに含むことが好ましい。成分Bは、化合物(2)から(4)である。成分Cは化合物(5)から(7)である。成分Dは、化合物(8)である。成分Eは、化合物(9)から(15)である。この組成物は、化合物(2)から(15)とは異なる、その他の液晶性化合物を含んでもよい。この組成物を調製するときには、正または負の誘電率異方性、誘電率異方性の大きさなどを考慮して成分B、C、D、およびEを選択することが好ましい。成分を適切に選択した組成物は、高い上限温度、低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性(すなわち、大きな光学異方性または小さな光学異方性)、正または負に大きな誘電率異方性、および適切な弾性定数(すなわち、大きな弾性定数または小さな弾性定数)を有する。
【0055】
化合物(1)の好ましい割合は、紫外線に対して高い安定性を維持するために、液晶組成物の重量に基づいて約0.001重量%以上であり、液晶組成物へ溶解させるために約5重量%以下である。さらに好ましい割合は約0.005重量%から約2重量%の範囲である。特に好ましい割合は、約0.01重量%から約1重量%の範囲である。最も好ましい割合は、約0.01重量%から約0.5重量%の範囲である。
【0056】
成分Bは、2つの末端基がアルキルなどである化合物である。成分Bの好ましい例として、化合物(2−1)から(2−11)、化合物(3−1)から(3−19)、および化合物(4−1)から(4−7)を挙げることができる。成分Bの化合物において、R11およびR12は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルまたはアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよい。
【0057】
【0058】
成分Bは、誘電率異方性の絶対値が小さいので、中性に近い化合物である。化合物(2)は、主として粘度の減少または光学異方性の調整に効果がある。化合物(3)および(4)は、上限温度を高くすることによってネマチック相の温度範囲を広げる効果、または光学異方性の調整に効果がある。
【0059】
成分Bの含有量を増加させるにつれて組成物の誘電率異方性が小さくなるが粘度は小さくなる。そこで、素子のしきい値電圧の要求値を満たす限り、含有量は多いほうが好ましい。IPS、VAなどのモード用の組成物を調製する場合には、成分Bの含有量は、液晶組成物の重量に基づいて、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上である。
【0060】
成分Cは、右末端にハロゲンまたはフッ素含有基を有する化合物である。成分Cの好ましい例として、化合物(5−1)から(5−16)、化合物(6−1)から(6−113)、化合物(7−1)から(7−57)を挙げることができる。成分Cの化合物において、R13は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;X11は、フッ素、塩素、−OCF、−OCHF、−CF、−CHF、−CHF、−OCFCHF、または−OCFCHFCFである。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
成分Cは、誘電率異方性が正であり、熱、光などに対する安定性が非常に優れているので、IPS、FFS、OCBなどのモード用の組成物を調製する場合に用いられる。成分Cの含有量は、液晶組成物の重量に基づいて1重量%〜99重量%の範囲が適しており、好ましくは10重量%〜97重量%の範囲、さらに好ましくは40重量%〜95重量%の範囲である。成分Cを誘電率異方性が負である組成物に添加する場合、成分Cの含有量は液晶組成物の重量に基づいて30重量%以下が好ましい。成分Cを添加することにより、組成物の弾性定数を調整し、素子の電圧−透過率曲線を調整することが可能となる。
【0068】
成分Dは、右末端基が−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nである化合物(8)である。成分Dの好ましい例として、化合物(8−1)から(8−64)を挙げることができる。成分Dの化合物において、R14は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;X12は−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nである。
【0069】
【0070】
【0071】
成分Dは、誘電率異方性が正であり、その値が大きいので、TNなどのモード用の組成物を調製する場合に主として用いられる。この成分Dを添加することにより、組成物の誘電率異方性を大きくすることができる。成分Dは、液晶相の温度範囲を広げる、粘度を調整する、または光学異方性を調整する、という効果がある。成分Dは、素子の電圧−透過率曲線の調整にも有用である。
【0072】
TNなどのモード用の組成物を調製する場合には、成分Dの含有量は、液晶組成物の重量に基づいて1重量%〜99重量%の範囲が適しており、好ましくは10重量%〜97重量%の範囲、さらに好ましくは40重量%〜95重量%の範囲である。成分Dを誘電率異方性が負である組成物に添加する場合、成分Dの含有量は液晶組成物の重量に基づいて30重量%以下が好ましい。成分Dを添加することにより、組成物の弾性定数を調整し、素子の電圧−透過率曲線を調整することが可能となる。
【0073】
成分Eは、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンのように、ラテラル位が2つのハロゲンで置換されたフェニレンを有する。これらの化合物の好ましい例として、化合物(9−1)から(9−8)、化合物(10−1)から(10−17)、化合物(11−1)、化合物(12−1)から(12−3)、化合物(13−1)から(13−11)、化合物(14−1)から(14−3)、および化合物(15−1)から(15−3)を挙げることができる。これらの化合物おいて、R15およびR16は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;R17は、水素、フッ素、炭素数1から10のアルキル、または炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよい。
【0074】
【0075】
【0076】
成分Eは、誘電率異方性が負に大きい。これらの化合物は、IPS、VA、PSAなどのモード用の組成物を調製する場合に用いられる。これらの化合物の含有量を増加させるにつれて組成物の誘電率異方性が負に大きくなるが、粘度が大きくなる。そこで、素子のしきい値電圧の要求値を満たす限り、含有量は少ないほうが好ましい。誘電率異方性が−5程度であることを考慮すると、充分な電圧駆動をさせるには、含有量が40重量%以上であることが好ましい。
【0077】
これらの化合物のうち、化合物(9)は二環化合物であるので、主として、粘度の減少、光学異方性の調整、または誘電率異方性の増加に効果がある。化合物(10)および(11)は三環化合物であるので、上限温度を高くする、光学異方性を大きくする、または誘電率異方性を大きくするという効果がある。化合物(12)から(15)は、誘電率異方性を大きくするという効果がある。
【0078】
IPS、VA、PSAなどのモード用の組成物を調製する場合には、化合物(9)から(15)の含有量は、液晶組成物の重量に基づいて、好ましくは40重量%以上であり、さらに好ましくは50重量%〜95重量%の範囲である。化合物(9)から(15)を誘電率異方性が正である組成物に添加する場合は、これらの化合物の含有量が液晶組成物の重量に基づいて30重量%以下が好ましい。これらの化合物を添加することにより、組成物の弾性定数を調整し、素子の電圧−透過率曲線を調整することが可能となる。
【0079】
以上に述べた成分B、C、D、およびEを適切に組み合わせることによって、高い上限温度、低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、大きな誘電率異方性、適切な弾性定数、大きな比抵抗などの特性の少なくとも1つを充足する液晶組成物を調製することができる。必要に応じて、成分B、C、D、およびEとは異なる液晶性化合物を添加してもよい。
【0080】
液晶組成物の調製は、必要な成分化合物を室温よりも高い温度で溶解させるなどの方法により行われる。用途に応じて、この組成物に添加物を添加してよい。添加物の例は、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、色素、消泡剤などである。このような添加物は当業者によく知られており、文献に記載されている。
【0081】
PSA(polymer sustained alignment)モードを有する液晶表示素子では、組成物が重合体を含有する。重合性化合物は、組成物中に重合体を生成させる目的で添加される。電極間に電圧を印加した状態で紫外線を照射して、重合性化合物を重合させることによって、組成物の中に重合体を生成させる。この方法によって、適切なプレチルトが得られるので、応答時間が短縮され、画像の焼き付きが改善された液晶表示素子が得られる。
【0082】
重合性化合物の好ましい例は、アクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、およびビニルケトンである。さらに好ましい例は、少なくとも1つのアクリロイルオキシを有する化合物および少なくとも1つのメタクリロイルオキシを有する化合物である。さらに好ましい例には、アクリロイルオキシとメタクリロイルオキシの両方を有する化合物も含まれる。
【0083】
さらに好ましい例は、化合物(M−1)から(M−16)である。これらの化合物において、R25、R26、R27、およびR28は独立して、水素またはメチルであり;s、v、およびxは独立して、0または1であり;tおよびuは独立して、1から10の整数である。L21、L22、L23、L24、L25、およびL26は独立して、水素またはフッ素である。
【0084】
【0085】
重合性化合物は、重合開始剤を添加することによって、速やかに重合させることができる。反応温度を最適化することによって、残存する重合性化合物の量を減少させることができる。光ラジカル重合開始剤の例は、BASF社のダロキュアシリーズからTPO、1173、および4265であり、イルガキュアシリーズから184、369、500、651、784、819、907、1300、1700、1800、1850、および2959である。
【0086】
光ラジカル重合開始剤の追加例は、4−メトキシフェニル−2,4−ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2−(4−ブトキシスチリル)−5−トリクロロメチル−1,3,4−オキサジアゾール、9−フェニルアクリジン、9,10−ベンズフェナジン、ベンゾフェノン/ミヒラーズケトン混合物、ヘキサアリールビイミダゾール/メルカプトベンズイミダゾール混合物、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,4−ジエチルキサントン/p−ジメチルアミノ安息香酸メチル混合物、ベンゾフェノン/メチルトリエタノールアミン混合物である。
【0087】
液晶組成物に光ラジカル重合開始剤を添加した後、電場を印加した状態で紫外線を照射することによって重合を行うことができる。しかし、未反応の重合開始剤または重合開始剤の分解生成物は、素子に画像の焼き付きなどの表示不良を引き起こすかもしれない。これを防ぐために重合開始剤を添加しないまま光重合を行ってもよい。照射する光の好ましい波長は150nm〜500nmの範囲である。さらに好ましい波長は250nm〜450nmの範囲であり、最も好ましい波長は300nm〜400nmの範囲である。
【0088】
重合性化合物を保管するとき、重合を防止するために重合禁止剤を添加してもよい。重合性化合物は、通常は重合禁止剤を除去しないまま組成物に添加される。重合禁止剤の例は、ヒドロキノン、メチルヒドロキノンのようなヒドロキノン誘導体、4−t−ブチルカテコール、4-メトキシフェノ−ル、フェノチアジンなどである。
【0089】
光学活性化合物は、液晶分子にらせん構造を誘起して必要なねじれ角を与えることによって逆ねじれを防ぐ、という効果を有する。光学活性化合物を添加することによって、らせんピッチを調整することができる。らせんピッチの温度依存性を調整する目的で2つ以上の光学活性化合物を添加してもよい。光学活性化合物の好ましい例として、下記の化合物(Op−1)から(Op−18)を挙げることができる。化合物(Op−18)において、環Jは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、R28は炭素数1から10のアルキルである。
【0090】
【0091】
酸化防止剤は、大きな電圧保持率を維持するために有効である。酸化防止剤の好ましい例として、下記の化合物(AO−1)および(AO−2);IRGANOX 415、IRGANOX 565、IRGANOX 1010、IRGANOX 1035、IRGANOX 3114、およびIRGANOX 1098(商品名:BASF社)を挙げることができる。紫外線吸収剤は、上限温度の低下を防ぐために有効である。紫外線吸収剤の好ましい例は、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアゾール誘導体などである。具体例として下記の化合物(AO−3)および(AO−4);TINUVIN 329、TINUVIN P、TINUVIN 326、TINUVIN 234、TINUVIN 213、TINUVIN 400、TINUVIN 328、およびTINUVIN 99−2(商品名:BASF社);および1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を挙げることができる。
【0092】
【0093】
化合物(AO−1)において、R30は炭素数1から20のアルキル、炭素数1から20のアルコキシ、−COOR31、または−CHCHCOOR31であり、ここでR31は炭素数1から20のアルキルである。化合物(AO−2)において、R32は炭素数1から20のアルキルである。化合物(AO−5)において、R32は炭素数1から20のアルキルであり;R33は水素、メチル、またはO(酸素ラジカル)であり;環Gは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり;zは、1、2、または3である。
【0094】
立体障害のあるアミンのような光安定剤は、大きな電圧保持率を維持するために好ましい。光安定剤の好ましい例として、上記の化合物(AO−5)および(AO−6);TINUVIN 144、TINUVIN 765、およびTINUVIN 770DF(商品名:BASF社)を挙げることができる。熱安定剤も大きな電圧保持率を維持するために有効であり、好ましい例としてIRGAFOS 168(商品名:BASF社)を挙げることができる。GH(guest host)モードの素子に適合させるために、アゾ系色素、アントラキノン系色素などのような二色性色素(dichroic dye)が組成物に添加される。消泡剤は、泡立ちを防ぐために有効である。消泡剤の好ましい例は、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどである。
【0095】
4.液晶表示素子
液晶組成物は、PC、TN、STN、OCB、PSAなどの動作モードを有し、アクティブマトリックス(AM方式)で駆動する液晶表示素子に使用できる。この組成物は、PC、TN、STN、OCB、VA、IPSなどの動作モードを有し、パッシブマトリクス(PM)方式で駆動する液晶表示素子にも使用することができる。これらのAM方式およびPM方式の素子は、反射型、透過型、半透過型のいずれのタイプにも適用ができる。
【0096】
この組成物は、NCAP(nematic curvilinear aligned phase)素子にも適しており、ここでは組成物がマイクロカプセル化されている。この組成物は、ポリマー分散型液晶表示素子(PDLCD)や、ポリマーネットワーク液晶表示素子(PNLCD)にも使用できる。これらの組成物においては、多量の液晶性化合物が添加される。一方、重合性化合物の添加量が液晶組成物の重量に基づいて約10重量%以下であるとき、PSAモードの液晶表示素子が作製される。好ましい割合は約0.1重量%から約2重量%の範囲である。さらに好ましい割合は、約0.2重量%から約1.0重量%の範囲である。PSAモードの素子は、アクティブマトリックス、パッシブマトリクスのような駆動方式で駆動させることができる。このような素子は、反射型、透過型、半透過型のいずれのタイプにも適用ができる。
【実施例】
【0097】
実施例(使用例を含む)により本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、使用例1の組成物と使用例2の組成物との混合物を含む。本発明は、使用例の組成物の少なくとも2つを混合することによって調製した組成物をも含む。本発明はこれらの実施例によっては制限されない。
【0098】
1.化合物(1)の実施例
化合物(1)は、合成例に示す手順により合成した。特に記載のないかぎり、反応は窒素雰囲気下で行った。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物の特性は、下記に記載した方法により測定した。
【0099】
NMR分析
測定には、ブルカーバイオスピン社製のDRX−500を用いた。H−NMRの測定では、試料をCDClなどの重水素化溶媒に溶解させ、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で測定した。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F−NMRの測定では、CFClを内部標準として用い、積算回数24回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0100】
GC分析
測定には、島津製作所製のGC−2010型ガスクロマトグラフを用いた。カラムは、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB−1(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。キャリアーガスとしてはヘリウムを用い、流量は1ml/分に調整した。試料気化室の温度を300℃、検出器(FID)部分の温度を300℃に設定した。試料はアセトンに溶解して、1重量%の溶液となるように調製し、得られた溶液1μlを試料気化室に注入した。記録計には島津製作所製のGCSolutionシステムなどを用いた。
【0101】
HPLC分析
測定には、島津製作所製のProminence(LC−20AD;SPD−20A)を用いた。カラムはワイエムシー製のYMC−Pack ODS−A(長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)を用いた。溶出液はアセトニトリルと水を適宜混合して用いた。検出器としてはUV検出器、RI検出器、CORONA検出器などを適宜用いた。UV検出器を用いた場合、検出波長は254nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.1重量%の溶液となるように調製し、この溶液1μLを試料室に導入した。記録計としては島津製作所製のC−R7Aplusを用いた。
【0102】
紫外可視分光分析
測定には、島津製作所製のPharmaSpec UV−1700用いた。検出波長は190nmから700nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.01mmol/Lの溶液となるように調製し、石英セル(光路長1cm)に入れて測定した。
【0103】
測定試料
相構造および転移温度(透明点、融点、重合開始温度など)を測定するときには、化合物そのものを試料として用いた。ネマチック相の上限温度、粘度、光学異方性、誘電率異方性などの特性を測定するときには、化合物と母液晶との混合物を試料として用いた。
【0104】
測定方法
特性の測定は下記の方法で行った。これらの多くは、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA;Japan Electronics and Information Technology Industries Association)で審議制定されるJEITA規格(JEITA・ED−2521B)に記載された方法、またはこれを修飾した方法であった。測定に用いたTN素子には、薄膜トランジスター(TFT)を取り付けなかった。
【0105】
(1) 相構造
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP−52型ホットステージ)に試料を置き、3℃/分の速度で加熱しながら相状態とその変化を偏光顕微鏡で観察し、相の種類を特定した。
【0106】
(2) 転移温度(℃)
測定には、パーキンエルマー社製の走査熱量計、Diamond DSCシステムまたはエスアイアイ・ナノテクノロジー社製の高感度示差走査熱量計、X−DSC7000を用いた。試料は、3℃/分の速度で昇降温し、試料の相変化に伴う吸熱ピークまたは発熱ピークの開始点を外挿により求め、転移温度を決定した。化合物の融点、重合開始温度もこの装置を使って測定した。化合物が固体からスメクチック相、ネマチック相などの液晶相に転移する温度を「液晶相の下限温度」と略すことがある。化合物が液晶相から液体に転移する温度を「透明点」と略すことがある。
【0107】
結晶はCと表した。結晶の種類の区別がつく場合は、それぞれをC、Cのように表した。スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。スメクチック相の中で、スメクチックA相、スメクチックB相、スメクチックC相、またはスメクチックF相の区別がつく場合は、それぞれS、S、S、またはSと表した。液体(アイソトロピック)はIと表した。転移温度は、例えば、「C 50.0 N 100.0 I」のように表記した。これは、結晶からネマチック相への転移温度が50.0℃であり、ネマチック相から液体への転移温度が100.0℃であることを示す。
【0108】
(3) ネマチック相の上限温度(TNIまたはNI;℃)
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。試料が化合物(1)と母液晶との混合物であるときは、TNIの記号で示した。試料が化合物(1)と成分B、C、Dのような化合物との混合物であるときは、NIの記号で示した。
【0109】
(4) ネマチック相の下限温度(T;℃)
ネマチック相を有する試料を0℃、−10℃、−20℃、−30℃、および−40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が−20℃ではネマチック相のままであり、−30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、Tを≦−20℃と記載した。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
【0110】
(5) 粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s)
測定には、東京計器株式会社製のE型回転粘度計を用いた。
【0111】
(6) 光学異方性(屈折率異方性;25℃で測定;Δn)
測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率(n‖)は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率(n⊥)は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性(Δn)の値は、Δn=n‖−n⊥、の式から計算した。
【0112】
(7) 比抵抗(ρ;25℃で測定;Ωcm)
電極を備えた容器に試料1.0mLを注入した。この容器に直流電圧(10V)を印加し、10秒後の直流電流を測定した。比抵抗は次の式から算出した。(比抵抗)={(電圧)×(容器の電気容量)}/{(直流電流)×(真空の誘電率)}。
【0113】
(8) 電圧保持率(VHR−1;25℃で測定;%)
測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmであった。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積であった。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率で表した。
【0114】
(9) 電圧保持率(VHR−2;80℃で測定;%)
25℃の代わりに、80℃で測定した以外は、上記と同じ手順で電圧保持率を測定した。得られた結果をVHR−2の記号で示した。
【0115】
(10)電圧保持率(VHR−3;25℃で測定;%):紫外線を照射したあと、電圧保持率を測定し、紫外線に対する安定性を評価した。測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そしてセルギャップは5μmであった。この素子に試料を注入し、光を20分間照射した。光源は超高圧水銀ランプUSH−500D(ウシオ電機製)であり、素子と光源の間隔は20cmであった。VHR−3の測定では、16.7ミリ秒のあいだ減衰する電圧を測定した。大きなVHR−3を有する組成物は紫外線に対して大きな安定性を有する。VHR−3は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。
【0116】
(11)電圧保持率(VHR−4;25℃で測定;%):試料を注入したTN素子を80℃の恒温槽内で500時間加熱したあと、電圧保持率を測定し、熱に対する安定性を評価した。VHR−4の測定では、16.7ミリ秒のあいだ減衰する電圧を測定した。大きなVHR−4を有する組成物は熱に対して大きな安定性を有する。
【0117】
誘電率異方性が正の試料と負の試料とでは、特性の測定法が異なることがある。誘電率異方性が正であるときの測定法は、項(12a)から(16a)に記載した。誘電率異方性が負の場合は、項(12b)から(16b)に記載した。
【0118】
(12a)粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s)
正の誘電率異方性:測定は、M. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995) に記載された方法に従った。ツイスト角が0度であり、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が5μmであるTN素子に試料を入れた。この素子に16Vから19.5Vの範囲で0.5V毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM.Imaiらの論文、40頁の計算式(8)とから回転粘度の値を得た。この計算で必要な誘電率異方性の値は、この回転粘度を測定した素子を用い、下に記載した方法で求めた。
【0119】
(12b)粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s)
負の誘電率異方性:測定は、M. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995) に記載された方法に従った。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmのVA素子に試料を入れた。この素子に39ボルト〜50ボルトの範囲で1ボルト毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM.Imaiらの論文、40頁の計算式(8)とから回転粘度の値を得た。この計算に必要な誘電率異方性は、下記の誘電率異方性の項で測定した値を用いた。
【0120】
(13a)誘電率異方性(Δε;25℃で測定)
正の誘電率異方性:2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、そしてツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(10V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。
【0121】
(13b)誘電率異方性(Δε;25℃で測定)
負の誘電率異方性:誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。誘電率(ε‖およびε⊥)は次のように測定した。
1)誘電率(ε‖)の測定:よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであるVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。
2)誘電率(ε⊥)の測定:よく洗浄したガラス基板にポリイミド溶液を塗布した。このガラス基板を焼成した後、得られた配向膜にラビング処理をした。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。
【0122】
(14a)弾性定数(K;25℃で測定;pN)
正の誘電率異方性:測定には横河・ヒューレットパッカード株式会社製のHP4284A型LCRメータを用いた。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmである水平配向素子に試料を入れた。この素子に0ボルトから20ボルト電荷を印加し、静電容量および印加電圧を測定した。測定した静電容量(C)と印加電圧(V)の値を「液晶デバイスハンドブック」(日刊工業新聞社)、75頁にある式(2.98)、式(2.101)を用いてフィッティングし、式(2.99)からK11およびK33の値を得た。次に171頁にある式(3.18)に、先ほど求めたK11およびK33の値を用いてK22を算出した。弾性定数Kは、このようにして求めたK11、K22、およびK33の平均値で表した。
【0123】
(14b)弾性定数(K11およびK33;25℃で測定;pN)
負の誘電率異方性:測定には株式会社東陽テクニカ製のEC−1型弾性定数測定器を用いた。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmである垂直配向素子に試料を入れた。この素子に20ボルトから0ボルト電荷を印加し、静電容量および印加電圧を測定した。静電容量(C)と印加電圧(V)の値を、「液晶デバイスハンドブック」(日刊工業新聞社)、75頁にある式(2.98)、式(2.101)を用いてフィッティングし、式(2.100)から弾性定数の値を得た。
【0124】
(15a)しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V)
正の誘電率異方性:測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が0.45/Δn(μm)であり、ツイスト角が80度であるノーマリーホワイトモード(normally white mode)のTN素子に試料を入れた。この素子に印加する電圧(32Hz、矩形波)は0Vから10Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧−透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が90%になったときの電圧で表した。
【0125】
(15b)しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V)
負の誘電率異方性:測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子に印加する電圧(60Hz、矩形波)は0Vから20Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧−透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が10%になったときの電圧で表した。
【0126】
(16a)応答時間(τ;25℃で測定;ms)
正の誘電率異方性:測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が5.0μmであり、ツイスト角が80度であるノーマリーホワイトモード(normally white mode)のTN素子に試料を入れた。この素子に矩形波(60Hz、5V、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%であるとみなした。立ち上がり時間(τr:rise time;ミリ秒)は、透過率が90%から10%に変化するのに要した時間である。立ち下がり時間(τf:fall time;ミリ秒)は透過率10%から90%に変化するのに要した時間である。応答時間は、このようにして求めた立ち上がり時間と立ち下がり時間との和で表した。
【0127】
(16b)応答時間(τ;25℃で測定;ms)
負の誘電率異方性:測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が3.2μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のPVA素子に試料を入れた。この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子にしきい値電圧を若干超える程度の電圧を1分間印加し、次に5.6Vの電圧を印加しながら23.5mW/cmの紫外線を8分間照射した。この素子に矩形波(60Hz、10V、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%であるとみなした。応答時間は透過率90%から10%に変化するのに要した時間(立ち下がり時間;fall time;ミリ秒)で表した。
【0128】
[合成例1]
化合物(1−2−1)を、下記の合成スキームに従って合成した。
【0129】
第1工程:化合物(T−1)の合成
水素化ホウ素ナトリウム(6.5g、172mmol)をテトラヒドロフラン(250mL)に懸濁させた。2,6−t−ブチルシクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオン(50g、227mmol)のテトラヒドロフラン(250mL)溶液を25℃で滴下し、さらに1時間攪拌した。反応終了後、反応混合物をアセトン(100mL)と水(500mL)の混合物に注ぎ、メチルt−ブチルエーテル(500mL)を加えた。そのものを分液し、水層をメチルt−ブチルエーテル(500mLで2回)で抽出した。合わせた有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液(500mL)および水(500mL)にて洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮することにより、化合物(T−1)を淡黄色油状物として(46g、207mmol)得た。
【0130】
第2工程:化合物(T−2)の合成
1,3−ジチアン(61g、507mmol)をテトラヒドロフラン(420mL)に溶解させ、窒素雰囲気下−30℃に冷却した。n−ブチルリチウム(1.6モル/Lのヘキサン溶液、350mL、560mmol)を、−30℃に保ちながら滴下した後、−30℃で1時間攪拌した。この混合物を−30℃に保ちながらクロロトリメチルシラン(66g、608mmol)を滴下した。−30℃で1時間攪拌した後、25℃まで昇温させた。反応混合物に10%塩酸(500mL)を加え、ヘキサン(500mLで3回)で抽出した。合わせた有機層を水(200mLで2回)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮することにより、化合物(T−2)を淡黄色油状物(90g、468mmol)として得た。
【0131】
第3工程:化合物(T−3)の合成
上記操作で得られた化合物(T−2)(90g、468mmol)をテトラヒドロフラン(500mL)に溶解させ、窒素雰囲気下で−10℃に冷却した。n−ブチルリチウム(1.6モル/Lのヘキサン溶液、327mL、523mmol)を−10℃に保ちながら滴下し、さらに−10℃で1時間攪拌した。この混合物を−10℃に保ちながら、4−ペンチルシクロヘキサ−1−オン(73g、434mmol)のテトラヒドロフラン(100mL)溶液を滴下した。その後25℃で1時間攪拌した。反応混合物に10%塩酸(400mL)を加え、ヘキサン(500mLで3回)で抽出した。合わせた有機層を水(200mLで2回)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。再結晶(エタノール)により精製し、化合物(T−3)を淡黄色固体(106g、392mmol)として得た。
【0132】
第4工程:化合物(1−2−1)の合成
上記操作で得られた化合物(T−3)(35g、129mmol)を塩化メチレン(150mL)に溶解させ、窒素雰囲気下で0℃に冷却した。この溶液を0℃に保ちながらトリフルオロメタンスルホン酸(20g、133mmol)を滴下し、さらに25℃で1時間攪拌した。この混合物を−70℃に冷却し、−70℃を保ちながら化合物(T−1)(32g、144mmol)とトリエチルアミン(19g、188mmol)の塩化メチレン(60mL)溶液を滴下した。−70℃で2時間攪拌した後、−70℃を保ちながらトリエチルアミン三フッ化水素酸塩(69g、428mmol)を滴下し、さらに20分間攪拌した。−70℃を保ちながら臭素(69g、432mmol)を滴下し、−70℃で40分間攪拌し、さらに25℃で1時間攪拌した。反応混合物に飽和亜硫酸ナトリウム水溶液(300mL)を加え分液した後、有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液(300mL)、水(300mL)で洗浄した。この溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン)および再結晶(エタノール/酢酸エチルで2回)により精製し、化合物(1−2−1)を無色針状結晶(8g、19mmol)として得た。
【0133】
H−NMR(δppm;CDCl):6.94(s,2H)、5.05(s,1H)、2.06−1.94(m,3H)、1.86(d,J=12.1Hz,2H)、1.42(s,18H)、1.40−1.18(m,11H)、0.96−0.86(m,5H).
19F−NMR(δppm;CDCl):78.43(d,J=8.0Hz,2F).
【0134】
[合成例2]
化合物(1−3−1)を、合成例1に示した方法と同様にして合成した。出発原料として4’−プロピル−[1,1’−ビ(シクロヘキサ)]−4−ノン)を96g用いたところ、この化合物を無色針状結晶(14g)として得た。
【0135】
H−NMR(δppm;CDCl):6.94(s,2H)、5.05(s,1H)、2.05(d,J=11.0Hz,2H)、2.01−1.94(m,1H)、1.84(d,J=11.0Hz,2H)、1.74(t,J=15.8Hz,4H)、1.42(s,18H)、1.37(d,J=12.0Hz,2H)、1.33−1.28(m,2H)、1.14(t,J=6.0Hz,3H)、1.06−0.97(m,6H)、0.89−0.84(m,5H).
19F−NMR(δppm;CDCl):78.47(d,J=8.5Hz,2F).
【0136】
[合成例3]
化合物(1−2−15)を、下記の合成スキームに従って合成した。
【0137】
第1工程:化合物(T−11)の合成
窒素雰囲気下、4−ペンチル安息香酸(8.06g、41.9mmol)、トルエン(40ml)、および2,2,4−トリメチルペンタン(40ml)を反応器に入れて、60℃に加熱した。そこへプロパンジチオール(5.0g、45.8mmol)を加え1時間撹拌したのち、トリフルオロメタンスルホン酸(13.9g、92.3mmol)をゆっくりと加え1時間撹拌した。続いて留出してくる水を除去しつつ、さらに2時間加熱還流を行った。反応混合物を室温まで冷却したのち、減圧下で濃縮し、残渣をt−ブチルメチルエーテルからの再結晶により精製して、化合物(T−11)(7.2g、17.4mmol;41%)を得た。
【0138】
第2工程:化合物(1−2−15)の合成
窒素雰囲気下、化合物(T−1)(5.0g、22.7mmol)、トリエチルアミン(2.3g、23.0mmol)、およびジクロロメタン(30ml)を反応器に入れて、−70℃に冷却した。そこへ化合物(T−11)(7.2g、17.4mmol)のジクロロメタン(80ml)溶液をゆっくりと加え1時間撹拌した。次にフッ化水素トリエチルアミン錯体(8.8g、54.5mmol)をゆっくりと加え30分間撹拌した。続いて臭素(14.2g、88.8mmol)をゆっくりと加えさらに1時間撹拌した。反応混合物を氷水に注ぎ込み、炭酸水素ナトリウムを用いて中和したのち、水層をジクロロメタンで抽出した。一緒にした有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘプタン)で精製して、化合物(1−2−15)(0.7g、1.7mmol;10%)を得た。
【0139】
H−NMR(δppm;CDCl):7.62(d,J=8.0Hz,2H)、7.26(d,J=8.0Hz,2H)、7.26(s,2H)、5.09(s,1H)、2.65(t,J=7.5Hz,2H)、1.66−1.59(m,2H)、1.42(s,18H)、1.36−1.29(m,4H)、0.90(t,J=7.0Hz,3H).
19F−NMR(δppm;CFCl):−65.57(s,2F).
【0140】
[合成例4]
化合物(1−3−34)を、合成例3に示した方法と同様にして合成した。出発原料として2−フルオロ−4−(4−プロピルシクロヘキシル)安息香酸を用いたところ、この化合物を無色針状結晶(1.8g)として得た。
【0141】
H−NMR(δppm;CDCl):7.58(dd,J=8.0Hz,2H)、7.07−6.97(m,4H)、5.09(s,1H)、2.56−2.45(m,1H)、1.93−1.83(m,4H)、1.47−1.18(m,7H)、1.42(s,18H)、1.10−0.99(m,2H)、0.90(t,J=7.0Hz,2H).
19F−NMR(δppm;CFCl):−65.57(d,J=13.5Hz,2F)、−115.212−−115.425(m,1F).
【0142】
合成例1から4に記載された実験操作と「2.化合物(1)の合成」とを参照することによって、以下に示す化合物(1−1−1)、(1−1−2)、(1−2−1)から(1−2−35)、(1−3−1)から(1−3−61)を合成することが可能である。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】

【0150】

【0151】

【0152】
【0153】

【0154】
[比較実験]
化合物(1)は酸化防止剤として有用である。この効果を調べるために、化合物(1)を液晶組成物Aに添加した。この組成物を入れたTN素子を作製し、電圧保持率(VHR−2およびVHR−3)を測定した。測定法は上の項(9)と項(10)に記載したとおりである。液晶組成物Aの成分とその割合は以下のとおりである。記号による化合物の表記法は、表2を参照のこと。
【0155】
(液晶組成物A)
3−HH−V (2−1) 18%
3−HH−4 (2−1) 10%
3−HB−O2 (2−5) 3%
4−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 10%
5−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 6%
3−HHB−1 (3−1) 6%
3−HHB−3 (3−1) 5%
3−HHB−O1 (3−1) 5%
3−BB(F,F)XB(F,F)−F (6−97) 14%
3−HHB(F,F)−F (6−3) 9%
3−BB(F)B(F,F)−F (6−69) 7%
3−GHB(F,F)−F (6−109) 4%
3−HHXB(F,F)−F (6−100) 3%
【0156】
本発明の化合物として、化合物(1−2−1)と化合物(1−3−1)を選んだ。化合物の構造式を表1に記載した。比較の酸化防止剤としては、公知の化合物(BH7)を選んだ。この化合物は、国際公開第2014/162587号の実施例8で使われているからである。特開平9−124529号公報の実施例に記載された化合物(BH3L)も選んだ。各化合物を液晶組成物Aに0.10%の割合で添加した。この組成物をTN素子に入れ、電圧保持率を測定した。結果を表1にまとめた。80℃の温度で測定した電圧保持率はVHR−2で表した。この条件では、本発明の化合物と比較化合物のいずれも、電圧保持率は99%であり、ほぼ同一であった。次に、紫外線処理したあと測定した。紫外線を20分間照射したところ、電圧保持率(VHR−3)のカラムに示したように、大きな差が見られた。比較化合物では、4.8%と6.3%のように電圧保持率が激減したが、化合物(1−2−1)と化合物(1−3−1)は、それぞれ46.2%と41.4%にとどまった。したがって、化合物(1−2−1)と化合物(1−3−1)は、比較化合物と比べて大きなVHR−3を有したので、紫外線に対して高い安定性を有すると結論できる。
【0157】
【0158】
2.液晶組成物の実施例
実施例(使用例を含む)における化合物は、下記の表2の定義に基づいて記号により表した。表2において、1,4−シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は化合物の番号に対応する。(−)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物の含有量(百分率)は、液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)である。最後に、液晶組成物の特性値をまとめた。特性は、先に記載した方法にしたがって測定し、測定値を(外挿することなく)そのまま記載した。
【0159】
【0160】
[使用例1]
3−HB−O2 (2−5) 11%
5−HB−CL (5−2) 15%
3−HBB(F,F)−F (6−24) 7%
3−PyB(F)−F (5−15) 10%
5−PyB(F)−F (5−15) 10%
3−PyBB−F (6−80) 10%
4−PyBB−F (6−80) 9%
5−PyBB−F (6−80) 9%
5−HBB(F)B−2 (4−5) 10%
5−HBB(F)B−3 (4−5) 9%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−1)を0.08%の割合で添加した。

NI=94.4℃;η=37.9mPa・s;Δn=0.185;Δε=7.8.
【0161】
[使用例2]
2−HB−C (8−1) 6%
3−HB−C (8−1) 10%
3−HB−O2 (2−5) 15%
2−BTB−1 (2−10) 4%
3−HHB−F (6−1) 5%
3−HHB−1 (3−1) 7%
3−HHB−O1 (3−1) 5%
3−HHB−3 (3−1) 14%
3−HHEB−F (6−10) 4%
5−HHEB−F (6−10) 4%
2−HHB(F)−F (6−2) 7%
3−HHB(F)−F (6−2) 7%
5−HHB(F)−F (6−2) 7%
3−HHB(F,F)−F (6−3) 5%
上記の組成物に下記の化合物(1−3−1)を0.05%の割合で添加した。

NI=99.6℃;η=17.5mPa・s;Δn=0.101;Δε=4.5.
【0162】
[使用例3]
7−HB(F,F)−F (5−4) 5%
3−HB−O2 (2−5) 5%
2−HHB(F)−F (6−2) 10%
3−HHB(F)−F (6−2) 9%
5−HHB(F)−F (6−2) 9%
2−HBB(F)−F (6−23) 9%
3−HBB(F)−F (6−23) 9%
5−HBB(F)−F (6−23) 16%
2−HBB−F (6−22) 4%
3−HBB−F (6−22) 5%
5−HBB−F (6−22) 4%
3−HBB(F,F)−F (6−24) 5%
5−HBB(F,F)−F (6−24) 10%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−16)を0.05%の割合で添加した。

NI=83.6℃;η=25.3mPa・s;Δn=0.115;Δε=5.6.
【0163】
[使用例4]
5−HB−CL (5−2) 13%
3−HH−4 (2−1) 15%
3−HH−5 (2−1) 4%
3−HHB−F (6−1) 4%
3−HHB−CL (6−1) 3%
4−HHB−CL (6−1) 4%
3−HHB(F)−F (6−2) 10%
4−HHB(F)−F (6−2) 9%
5−HHB(F)−F (6−2) 8%
7−HHB(F)−F (6−2) 9%
5−HBB(F)−F (6−23) 4%
1O1−HBBH−5 (4−1) 3%
3−HHBB(F,F)−F (7−6) 3%
4−HHBB(F,F)−F (7−6) 2%
5−HHBB(F,F)−F (7−6) 3%
3−HH2BB(F,F)−F (7−15) 3%
4−HH2BB(F,F)−F (7−15) 3%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−1)を0.1%の割合で添加した。

NI=117.0℃;η=19.2mPa・s;Δn=0.090;Δε=3.6.
【0164】
[使用例5]
3−HHB(F,F)−F (6−3) 10%
3−H2HB(F,F)−F (6−15) 8%
4−H2HB(F,F)−F (6−15) 8%
5−H2HB(F,F)−F (6−15) 10%
3−HBB(F,F)−F (6−24) 19%
5−HBB(F,F)−F (6−24) 20%
3−H2BB(F,F)−F (6−27) 8%
5−HHBB(F,F)−F (7−6) 4%
5−HHEBB−F (7−17) 2%
3−HH2BB(F,F)−F (7−15) 3%
1O1−HBBH−4 (4−1) 4%
1O1−HBBH−5 (4−1) 4%
上記の組成物に下記の化合物(1−3−1)を0.1%の割合で添加した。

NI=100.3℃;η=35.3mPa・s;Δn=0.115;Δε=8.9.
【0165】
[使用例6]
5−HB−F (5−2) 12%
6−HB−F (5−2) 9%
7−HB−F (5−2) 7%
2−HHB−OCF3 (6−1) 7%
3−HHB−OCF3 (6−1) 8%
4−HHB−OCF3 (6−1) 7%
5−HHB−OCF3 (6−1) 3%
3−HH2B−OCF3 (6−4) 4%
5−HH2B−OCF3 (6−4) 4%
3−HHB(F,F)−OCF2H (6−3) 5%
3−HHB(F,F)−OCF3 (6−3) 5%
3−HH2B(F)−F (6−5) 3%
3−HBB(F)−F (6−23) 10%
5−HBB(F)−F (6−23) 10%
5−HBBH−3 (4−1) 3%
3−HB(F)BH−3 (4−2) 3%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−16)を0.1%の割合で添加した。

NI=84.9℃;η=15.2mPa・s;Δn=0.092;Δε=4.6.
【0166】
[使用例7]
5−HB−CL (5−2) 11%
3−HH−4 (2−1) 8%
3−HHB−1 (3−1) 6%
3−HHB(F,F)−F (6−3) 8%
3−HBB(F,F)−F (6−24) 19%
5−HBB(F,F)−F (6−24) 15%
3−HHEB(F,F)−F (6−12) 10%
4−HHEB(F,F)−F (6−12) 4%
5−HHEB(F,F)−F (6−12) 4%
2−HBEB(F,F)−F (6−39) 4%
3−HBEB(F,F)−F (6−39) 4%
5−HBEB(F,F)−F (6−39) 3%
3−HHBB(F,F)−F (7−6) 4%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−1)を0.05%の割合で添加した。

NI=79.2℃;η=21.7mPa・s;Δn=0.101;Δε=8.6.
【0167】
[使用例8]
3−HB−CL (5−2) 5%
5−HB−CL (5−2) 5%
3−HHB−OCF3 (6−1) 5%
3−H2HB−OCF3 (6−13) 5%
5−H4HB−OCF3 (6−19) 15%
V−HHB(F)−F (6−2) 5%
3−HHB(F)−F (6−2) 6%
5−HHB(F)−F (6−2) 6%
3−H4HB(F,F)−CF3 (6−21) 8%
5−H4HB(F,F)−CF3 (6−21) 10%
5−H2HB(F,F)−F (6−15) 5%
5−H4HB(F,F)−F (6−21) 7%
2−H2BB(F)−F (6−26) 5%
3−H2BB(F)−F (6−26) 8%
3−HBEB(F,F)−F (6−39) 5%
上記の組成物に下記の化合物(1−3−1)を0.08%の割合で添加した。

NI=70.5℃;η=25.3mPa・s;Δn=0.096;Δε=8.3.
【0168】
[使用例9]
5−HB−CL (5−2) 20%
3−HH−4 (2−1) 10%
3−HH−5 (2−1) 5%
3−HB−O2 (2−5) 15%
3−HHB−1 (3−1) 8%
3−HHB−O1 (3−1) 5%
2−HHB(F)−F (6−2) 7%
3−HHB(F)−F (6−2) 7%
5−HHB(F)−F (6−2) 7%
3−HHB(F,F)−F (6−3) 6%
3−H2HB(F,F)−F (6−15) 5%
4−H2HB(F,F)−F (6−15) 5%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−16)を0.06%の割合で添加した。

NI=73.1℃;η=13.0mPa・s;Δn=0.076;Δε=2.8.
【0169】
[使用例10]
5−HB−CL (5−2) 5%
7−HB(F)−F (2−1) 5%
3−HH−4 (2−1) 11%
3−HH−EMe (2−2) 10%
3−HHEB−F (6−10) 9%
5−HHEB−F (6−10) 10%
3−HHEB(F,F)−F (6−12) 10%
4−HHEB(F,F)−F (6−12) 6%
4−HGB(F,F)−F (6−103) 6%
5−HGB(F,F)−F (6−103) 7%
2−H2GB(F,F)−F (6−106) 6%
3−H2GB(F,F)−F (6−106) 6%
5−GHB(F,F)−F (6−109) 9%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−1)を0.12%の割合で添加した。

NI=80.4℃;η=22.4mPa・s;Δn=0.064;Δε=6.7.
【0170】
[使用例11]
3−HB−O1 (2−5) 15%
3−HH−4 (2−1) 6%
3−HB(2F,3F)−O2 (9−1) 10%
5−HB(2F,3F)−O2 (9−1) 10%
2−HHB(2F,3F)−1 (10−1) 13%
3−HHB(2F,3F)−1 (10−1) 13%
3−HHB(2F,3F)−O2 (10−1) 14%
5−HHB(2F,3F)−O2 (10−1) 15%
3−HHB−1 (3−1) 4%
上記の組成物に下記の化合物(1−3−1)を0.12%の割合で添加した。

NI=90.5℃;η=35.7mPa・s;Δn=0.090;Δε=−3.4.
【0171】
[使用例12]
2−HH−5 (2−1) 5%
3−HH−4 (2−1) 15%
3−HH−5 (2−1) 4%
3−HB−O2 (2−5) 10%
3−H2B(2F,3F)−O2 (9−4) 13%
5−H2B(2F,3F)−O2 (9−4) 14%
3−HHB(2F,3CL)−O2 (10−12) 5%
2−HBB(2F,3F)−O2 (10−7) 4%
3−HBB(2F,3F)−O2 (10−7) 10%
5−HBB(2F,3F)−O2 (10−7) 10%
3−HHB−1 (3−1) 3%
3−HHB−3 (3−1) 4%
3−HHB−O1 (3−1) 3%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−16)を0.1%の割合で添加した。

NI=79.9℃;η=19.9mPa・s;Δn=0.095;Δε=−4.0.
【0172】
[使用例13]
2−HH−3 (2−1) 20%
3−HH−4 (2−1) 8%
1−BB−3 (2−8) 8%
3−HB−O2 (2−5) 4%
3−BB(2F,3F)−O2 (9−3) 9%
5−BB(2F,3F)−O2 (9−3) 7%
2−HH1OB(2F,3F)−O2 (10−5) 15%
3−HH1OB(2F,3F)−O2 (10−5) 18%
3−HHB−1 (3−1) 5%
3−HHB−O1 (3−1) 3%
5−B(F)BB−2 (3−8) 3%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−1)を0.07%の割合で添加した。

NI=73.6℃;η=15.9mPa・s;Δn=0.100;Δε=−3.2.
【0173】
[使用例14]
2−HH−3 (2−1) 20%
7−HB−1 (2−5) 8%
5−HB−O2 (2−5) 8%
3−HB(2F,3F)−O2 (9−1) 16%
5−HB(2F,3F)−O2 (9−1) 15%
3−HHB(2F,3CL)−O2 (10−12) 3%
4−HHB(2F,3CL)−O2 (10−12) 3%
5−HHB(2F,3CL)−O2 (10−12) 3%
3−HH1OCro(7F,8F)−5 (13−6) 5%
5−HBB(F)B−2 (4−5) 10%
5−HBB(F)B−3 (4−5) 9%
上記の組成物に下記の化合物(1−3−1)を0.09%の割合で添加した。

NI=76.0℃;η=22.2mPa・s;Δn=0.100;Δε=−2.4.
【0174】
[使用例15]
1−BB−3 (2−8) 12%
3−HH−V (2−1) 27%
3−BB(2F,3F)−O2 (9−3) 12%
2−HH1OB(2F,3F)−O2 (10−5) 13%
3−HH1OB(2F,3F)−O2 (10−5) 22%
3−HHB−1 (3−1) 7%
5−B(F)BB−2 (3−8) 7%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−16)を0.05%の割合で添加した。

NI=76.1℃;η=14.8mPa・s;Δn=0.110;Δε=−3.0.
【0175】
[使用例16]
2−HH−3 (2−1) 6%
3−HH−V1 (2−1) 10%
1V2−HH−1 (2−1) 8%
1V2−HH−3 (2−1) 7%
3−BB(2F,3F)−O2 (9−3) 8%
5−BB(2F,3F)−O2 (9−3) 4%
3−H1OB(2F,3F)−O2 (9−5) 7%
2−HH1OB(2F,3F)−O2 (10−5) 9%
3−HH1OB(2F,3F)−O2 (10−5) 17%
3−HDhB(2F,3F)−O2 (10−3) 8%
3−HHB−1 (3−1) 4%
3−HHB−3 (3−1) 3%
2−BB(2F,3F)B−3 (11−1) 9%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−1)を0.1%の割合で添加した。

NI=85.7η=21.2mPa・s;Δn=0.105;Δε=−4.4.
【0176】
[使用例17]
1V2−BEB(F,F)−C (8−15) 6%
3−HB−C (8−1) 18%
2−BTB−1 (2−10) 10%
5−HH−VFF (2−1) 30%
3−HHB−1 (3−1) 4%
VFF−HHB−1 (3−1) 8%
VFF2−HHB−1 (3−1) 9%
3−H2BTB−2 (3−17) 5%
3−H2BTB−3 (3−17) 5%
3−H2BTB−4 (3−17) 5%
上記の組成物に下記の化合物(1−3−1)を0.1%の割合で添加した。

NI=81.8℃;η=11.8mPa・s;Δn=0.132;Δε=6.5.
【0177】
[使用例18]
5−HB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−41) 4%
3−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 4%
4−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 5%
5−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 5%
3−HH−V (2−1) 41%
3−HH−V1 (2−1) 7%
3−HHEH−5 (3−13) 3%
3−HHB−1 (3−1) 4%
V−HHB−1 (3−1) 5%
V2−BB(F)B−1 (3−6) 5%
1V2−BB−F (5−1) 3%
3−BB(F,F)XB(F,F)−F (6−97) 11%
3−HHBB(F,F)−F (7−6) 3%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−16)を0.1%の割合で添加した。

NI=82.0℃;η=12.1mPa・s;Δn=0.106;Δε=6.4.
【0178】
[使用例19]
3−GB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−53) 5%
3−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 3%
4−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 7%
5−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 3%
3−HH−V (2−1) 41%
3−HH−V1 (2−1) 6%
3−HHEH−5 (3−13) 4%
3−HHB−1 (3−1) 4%
V−HHB−1 (3−1) 5%
V2−BB(F)B−1 (3−6) 5%
1V2−BB−F (5−1) 3%
3−BB(F,F)XB(F,F)−F (6−97) 5%
3−GB(F,F)XB(F,F)−F (6−113) 4%
3−HHBB(F,F)−F (7−6) 5%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−1)を0.12%の割合で添加した。

NI=86.0℃;η=14.1mPa・s;Δn=0.104;Δε=7.0.
【0179】
[使用例20]
5−HB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−41) 5%
3−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 3%
4−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 7%
5−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 3%
3−HH−V (2−1) 41%
3−HH−V1 (2−1) 7%
3−HHB−1 (3−1) 4%
V−HHB−1 (3−1) 5%
V2−HHB−1 (3−1) 3%
V2−BB(F)B−1 (3−6) 5%
1V2−BB−F (5−1) 3%
3−BB(F,F)XB(F,F)−F (6−97) 11%
3−HHBB(F,F)−F (7−6) 3%
上記の組成物に下記の化合物(1−2−15)を0.15%の割合で添加した。

NI=82.0℃;η=10.9mPa・s;Δn=0.107;Δε=6.4.
【0180】
[使用例21]
3−GB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−53) 5%
3−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 3%
4−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 7%
5−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (7−47) 3%
3−HH−V (2−1) 41%
3−HH−V1 (2−1) 7%
3−HHB−1 (3−1) 4%
V−HHB−1 (3−1) 5%
V2−HHB−1 (3−1) 3%
V2−BB(F)B−1 (3−6) 5%
1V2−BB−F (5−1) 3%
3−HHXB(F,F)−F (6−100) 5%
3−BB(F,F)XB(F,F)−F (6−97) 6%
3−HHBB(F,F)−F (7−6) 3%
上記の組成物に下記の化合物(1−3−34)を0.1%の割合で添加した。

NI=86.3℃;η=11.2mPa・s;Δn=0.105;Δε=6.6.





【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の化合物は、酸化防止剤として有用である。この化合物を含有する液晶組成物は、上限温度、下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、正または負に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、紫外線に対する高い安定性、熱に対する高い安定性、大きな弾性定数などの特性において、少なくとも1つの特性を充足する、または少なくとも2つの特性のあいだで適切なバランスを有する。この組成物を含有する液晶表示素子は、短い応答時間、大きな電圧保持率、低いしきい値電圧、大きなコントラスト比、長い寿命などの特性を有するので、液晶プロジェクター、液晶テレビなどに用いることができる。