特許第6728906号(P6728906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6728906
(24)【登録日】2020年7月6日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】熱交換器のスケール除去方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/10 20060101AFI20200713BHJP
   F28D 9/00 20060101ALI20200713BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20200713BHJP
   F28G 9/00 20060101ALI20200713BHJP
   C22B 23/00 20060101ALN20200713BHJP
【FI】
   C23G1/10
   F28D9/00
   F28F21/08 G
   F28G9/00 N
   !C22B23/00 102
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-76011(P2016-76011)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2017-186611(P2017-186611A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿本 稔
【審査官】 西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−028051(JP,A)
【文献】 特開2015−183282(JP,A)
【文献】 特開2012−026027(JP,A)
【文献】 特開昭60−262984(JP,A)
【文献】 特開2014−012884(JP,A)
【文献】 特開2015−031458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/10
F28D 9/00
F28F 21/08
F28G 9/00
C22B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を含む塩化ニッケル水溶液から、水酸化鉄(III)沈澱を生成させ、該水酸化鉄(III)を含有した塩化ニッケル水溶液スラリーを固液分離する脱鉄工程から得られる脱鉄終液を冷却するプレート式熱交換器のスケール除去方法であって、
脱鉄終液および冷却の通液を停止した状態で、塩酸タンクに貯えられた5〜10重量%の濃度の塩酸水溶液を前記熱交換器との間で循環させて通液し、
塩酸タンクにて通液する塩酸水溶液の塩酸濃度を調整することにより、
前記熱交換器が備える、前記脱鉄終液を冷却するための、純チタン製もしくは耐食チタン合金製の伝熱面の脱鉄終液流路側に付着したスケールを除去する、
ことを特徴とする熱交換器のスケール除去方法
【請求項2】
前記塩酸水溶液の濃度は5〜6重量%であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器のスケール除去方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に付着したスケールの除去方法に関する。より詳しくは、鉄を含む塩化ニッケル水溶液から鉄を除去する脱鉄工程から得られる脱鉄終液を冷却するために用いられる熱交換器に付着したスケールの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル製錬においては、ニッケル鉱石やニッケル精鉱を溶鉱炉や電気炉等の乾式炉で溶解処理する乾式製錬法、ニッケル鉱石やニッケル精鉱中のニッケルを水溶液中に浸出して、不純物を除去した後、ニッケルを回収する湿式製錬法があり、目的や用途に応じて最適な方法が工業化されている。
【0003】
その中で、湿式製錬法では、例えば特許文献1に記載されているように、塩素ガスの酸化作用を利用してニッケルマットや混合硫化物を浸出し、浸出されたニッケルイオンおよびコバルトイオンを電解採取によって電気ニッケル及び電気コバルトとして製品化する塩素浸出プロセスが実用化されている。
【0004】
塩素浸出プロセスのうちの塩素浸出工程では、混合硫化物と後述するセメンテーション残渣を塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによりニッケルおよびコバルトを塩化物水溶液中に浸出する。
【0005】
次に、セメンテーション工程では、塩素浸出工程で得られた酸化剤としての2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に、粉砕したNiと金属ニッケルを主成分とするニッケルマットを接触させて銅とニッケルの置換反応を行うことにより、ニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、銅イオンはCuSまたはCu(金属銅)の形態となって固体(セメンテーション残渣の一部)となる。
【0006】
そのセメンテーション終液と、ニッケルマットの置換浸出残渣と前記CuSまたはCu(金属銅)の形態となって沈澱した固体とからなるセメンテーション残渣は、固液分離された後、セメンテーション終液は次の浄液工程へ、固体のセメンテーション残渣は前記塩素浸出工程へ送られる。
【0007】
ここで、セメンテーション終液には、回収対象金属であるニッケルやコバルトの他にも、銅、鉄、鉛、亜鉛等の不純物が含有されているため、コバルトを分離回収し、不純物を除去し、電解採取に適した高純度塩化ニッケル水溶液を得るために、浄液工程が構成されている。セメンテーション終液は、脱鉄工程、コバルト分離工程、脱鉛工程、脱亜鉛工程を経て処理されることにより不純物が除去され、電解採取工程に供給される。
【0008】
脱鉄工程では、例えば酸化剤としての塩素ガスと中和剤としての炭酸塩を用いる酸化中和法が用いられている。酸化中和法は、鉄等の一部の重金属が、高次の酸化状態のイオンになると、低いpH領域でも水酸化物になり易い性質を利用したものであり、湿式製錬の浄液工程をはじめ、重金属を含む排水処理等に汎用されている方法である。
【0009】
コバルト分離工程では、例えば溶媒抽出法が用いられている。塩化浴中においてはアミン系抽出剤を用いた溶媒抽出法が一般的に実施されているが、これは、水溶液中の塩化物イオン濃度が十分に高い場合、コバルトはクロロ錯イオンを形成するが、ニッケルはクロロ錯イオンを形成しないことを利用したものである。溶媒抽出工程でコバルトを含む塩化ニッケル水溶液から分離されたコバルトは、逆抽出操作によって塩化コバルト水溶液となり、さらに塩化コバルト浄液工程にて不純物が除去された後、電解採取工程にて製品である電気コバルトとなる。
【0010】
脱鉛工程、脱亜鉛工程は、必要に応じて、適宜公知の方法が選択されている。
【0011】
上記浄液工程を経た塩化ニッケル水溶液はpH調整の後、電解採取工程に送られ、電解採取工程にて電気ニッケルとなる。
【0012】
この塩素浸出プロセスでは、上記セメンテーション工程における反応効率を上げるため、高温で反応が操作される。よって、次工程の脱鉄工程で処理されるセメンテーション終液は高温であり、脱鉄後の脱鉄終液も高温となる。
【0013】
ところが、次の溶媒抽出工程では、有機溶媒の蒸発、有機溶媒の分解、装置材質の耐熱性等を鑑みて、ある一定温度以下で操作される必要があり、脱鉄終液は熱交換器により冷却される。
【0014】
しかしながら、脱鉄終液は高濃度の塩化ニッケル水溶液であることから、脱鉄終液を冷却するために用いられる熱交換器の伝熱面の脱鉄終液流路側には、カルシウムを含んだスケールが徐々に析出、成長してくる。このスケールによって、通液量の減少が引き起され、操業の継続が困難となるため、定期的に熱交換器への脱鉄終液の通液を停止して、伝熱面に付着したスケールの除去作業を行う必要があった。
【0015】
しかし、スケールの除去作業は多大な手間と時間を要する。通常、複数基の熱交換器を並列に配置することで、スケールの除去作業時でも残りの熱交換器を稼働させ脱鉄終液の通液を継続できる構成とはしているが、それでもスケールの除去作業時間が長引けば、脱鉄終液の流量低下によって電気ニッケルが減産となる可能性もあった。
【0016】
特許文献2には、配管のスケーリング防止方法が開示されているが、液組成、pH等の条件が異なるため、ニッケル製錬における塩素浸出プロセスの脱鉄終液に適用できるのもでは無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2012−026027号公報
【特許文献2】特開平10−202213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて考案されたものであり、鉄を含む塩化ニッケル水溶液から鉄を除去する脱鉄工程から得られる脱鉄終液を冷却するために用いられる熱交換器において、多大な手間と時間を要さずに当該熱交換器に付着したスケールの除去を行うことができる熱交換器のスケール除去方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記目的を達成すべく、特に、スケールの溶解方法について鋭意検討を重ねた結果、熱交換器に5〜10重量%の濃度の塩酸水溶液を通液することにより、スケールが除去できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
第1発明の熱交換器のスケール除去方法は、鉄を含む塩化ニッケル水溶液から、水酸化鉄(III)沈澱を生成させ、該水酸化鉄(III)を含有した塩化ニッケル水溶液スラリーを固液分離する脱鉄工程から得られる脱鉄終液を冷却するプレート式熱交換器のスケール除去方法であって、脱鉄終液および冷却の通液を停止した状態で、塩酸タンクに貯えられた5〜10重量%の濃度の塩酸水溶液を前記熱交換器との間で循環させて通液し、塩酸タンクにて通液する塩酸水溶液の塩酸濃度を調整することにより、前記熱交換器が備える、前記脱鉄終液を冷却するための、純チタン製もしくは耐食チタン合金製の伝熱面の脱鉄終液流路側に付着したスケールを除去する、ことを特徴とする。
【0021】
第2発明の熱交換器のスケール除去方法は、第1発明において、前記塩酸水溶液の濃度は5〜6重量%であることを特徴とする。
【0022】
【0023】
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱交換器のスケール除去方法によれば、つぎの効果を奏する。
a)鉄を含む塩化ニッケル水溶液から鉄を除去する脱鉄工程の熱交換器において、多大な手間と時間を要さずに熱交換器に付着したスケールの除去を行うことができる。このため、流量低下によって電気ニッケルが減産となる可能性も無くなる。
b)塩酸濃度の低下に伴う濃度再調整は塩酸タンクにて行える。
c)脱鉄終液および冷却水の通液を停止するので、塩酸水溶液を循環使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る脱鉄工程の概略フロー図である。
図2】実施例および比較例におけるチタン試験片の重量変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、鉄を含む塩化ニッケル水溶液から、水酸化鉄(III)沈澱を生成させ、該水酸化鉄(III)を含有した塩化ニッケル水溶液スラリーを固液分離する脱鉄工程から得られる脱鉄終液を冷却する熱交換器のスケール除去方法であって、5〜10重量%の濃度の塩酸水溶液を前記熱交換器に通液することにより、前記熱交換器が備える、前記脱鉄終液を冷却するための、純チタン製もしくは耐食チタン合金製の伝熱面の脱鉄終液流路側に付着したスケールを除去することを特徴とするものである。
【0027】
そこで、ここでは、本発明の一実施形態として、ニッケルを回収する湿式製錬法である、塩素ガスの酸化作用を利用してニッケルマットや混合硫化物を浸出し、浸出されたニッケルイオンおよびコバルトイオンを電解採取によって電気ニッケル及び電気コバルトとして製品化する塩素浸出プロセスにおいて、脱鉄工程から得られる脱鉄終液を冷却するために用いられる熱交換器への適用を例にとって、以下に説明する。
【0028】
1.塩素浸出プロセス
塩素浸出プロセスにおいて、原料とされるニッケルマットとは、乾式製錬から産出されたニッケル硫化物を指し、混合硫化物とは、低品位ラテライト鉱石から硫酸浸出によって産出されたニッケル・コバルト混合硫化物を指している。塩素浸出プロセスのうちの塩素浸出工程では、混合硫化物と後述するセメンテーション残渣を塩化物水溶液にレパルプした後、そのスラリーに塩素ガスを吹込むことによりニッケルおよびコバルトを塩化物水溶液中に浸出する。
【0029】
次に、セメンテーション工程では、塩素浸出工程で得られた酸化剤としての2価の銅クロロ錯イオンを含んだ塩素浸出液に、粉砕したNiと金属ニッケルを主成分とするニッケルマットを接触させて銅とニッケルの置換反応を行うことにより、ニッケルマット中のニッケルが液に置換浸出され、銅イオンはCuSまたはCu(金属銅)の形態となって固体(セメンテーション残渣の一部)となる。
【0030】
そのセメンテーション終液と、ニッケルマットの置換浸出残渣と前記CuSまたはCu(金属銅)の形態となって沈澱した固体とからなるセメンテーション残渣は、固液分離された後、セメンテーション終液は次の浄液工程へ、固体のセメンテーション残渣は前記塩素浸出工程へ送られる。
【0031】
ここで、セメンテーション終液には、回収対象金属であるニッケルやコバルトの他にも、銅、鉄、鉛、亜鉛等の不純物が含有されているため、コバルトを分離回収し、不純物を除去し、電解採取に適した高純度塩化ニッケル水溶液を得るために、浄液工程が構成されている。
【0032】
セメンテーション終液は、脱鉄工程、コバルト分離工程、脱鉛工程、脱亜鉛工程を経て処理されることにより不純物が除去され、電解採取工程に供給される。
【0033】
2.脱鉄工程の概要
図1は、本発明に係る脱鉄工程の概略フロー図である。脱鉄工程は、セメンテーション終液に、塩素ガスを吹き込んで酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を900〜1000mVに調整し、炭酸ニッケルを添加してpHを1.5〜3.0に調整して、水酸化鉄(III)沈澱を生成させ、該水酸化鉄(III)を含有した塩化ニッケル水溶液スラリーを固液分離することによって、脱鉄終液と脱鉄澱物を得るものである。
【0034】
脱鉄工程で処理されるセメンテーション終液の温度は約70℃と高温であり、脱鉄後の脱鉄終液も65〜70℃となる。
【0035】
脱鉄工程の次工程であるコバルト分離工程では、高温の脱鉄終液が送液されると有機溶媒の蒸発量が増加して保有有機溶媒量が減少する。保有有機溶媒量の減少によって、油水分離性の悪化によるコバルトを抽出した有機溶媒へのニッケル混入量の増加等のプロセス上の問題や、有機溶媒の補充量の増加等のコスト上の問題が発生する。さらには、有機溶媒の蒸発量が増加すると、臭気の発生のような安全、保安上の問題も発生する。また、高温の脱鉄終液が送液されると有機溶媒の分解が促進されるため、逆抽出液に分解生成物が混入することによる排水のCOD負荷上昇の懸念も生じる。また、溶媒抽出設備には、ポリ塩化ビニルやFRP等の樹脂材料が多用されているため、高温による軟化、変形等、さらにはそのことによる液漏れの問題も発生する。
【0036】
そこで、脱鉄終液は、熱交換器によって約55℃まで冷却される必要がある。熱交換方式については、例えばシェルアンドチューブ方式の熱交換器等、脱鉄終液を冷却することができるものであれば、特に制限されない。その中では、プレート式熱交換器であることが好ましい。そのために、本発明の一実施形態として、プレートクーラーによる水を冷媒とした冷却を行う。また、冷媒についても、手近で冷却効率も高い水が最適であるが、例えば冷風を用いても、エチレングリコール等の特殊な冷媒を用いても、特に制限されない。
【0037】
3.熱交換器のスケール除去方法
上記したように、水等を冷媒としてプレートクーラーによる、脱鉄終液の冷却を継続すると、このプレートクーラーの伝熱面の脱鉄終液流路側に、カルシウムを含んだスケールが徐々に析出、成長してくる。このスケールによって、脱鉄終液の通液量の減少が引き起され、操業の継続が困難となるため、定期的に熱交換器への通液を停止して、付着したスケールの除去作業を行う必要があった。
【0038】
そのために、通常、複数基の熱交換器を並列に配置することで、スケールの除去作業時でも残りの熱交換器を稼働させ脱鉄終液の通液を継続できる構成としているが、それでもスケールの除去作業時間が長引けば、脱鉄終液の流量低下によって電気ニッケルが減産となる可能性もあった。図1では、2基のプレートクーラーが並列に配置されており、スケールの除去作業時は、スケールの除去作業を行っていない1基のみに脱鉄終液を通液するようにしている。
【0039】
従来のスケールの除去作業では、プレートクーラーを分解して、1枚1枚のプレートを丹念に掃除していたため、多大な手間と時間を要すると共に、高度な整備技術も要していた。また、プレートクーラーを分解するため、プレート間をシールしているガスケットを、分解の都度、更新する必要があり、その整備コストも高いものとなっていた。さらに、プレートクーラーの分解整備作業には、分解したプレートクーラーを再度組立てる作業を伴うため、常に通液開始時の液漏れリスクが付きまとっていた。
【0040】
ところで、調査の結果、このスケールの主成分は石膏(CaSO・2HO)であることが分かった。そこで、本発明では、塩酸を用いてスケールの溶解を行う。
【0041】
本発明のスケール除去作業は、脱鉄終液および冷却水の通液を停止して、脱鉄終液流路側に5〜10重量%の塩酸水溶液を通液する。また、この時、上記塩酸水溶液は循環使用することが好ましい。必要な設備としては、塩酸タンクと塩酸をプレートクーラーに送り込むためのポンプ、および行きと帰りの配管や切替えバルブとなる。塩酸タンクにて通液する塩酸水溶液の塩酸濃度を調整し、塩酸濃度が低下した場合には、再調整を行えば良い。
【0042】
塩酸によるスケールの溶解は、(式1)で示した反応に従う。
CaSO・2HO+2HCl→CaCl+HSO+2HO (式1)
【0043】
プレートクーラーの伝熱面をなすプレートは純チタンであるため、高濃度の塩酸を使用した場合、プレートの腐食による減耗が生じる。プレートは極めて薄く作られており、そのことが高い伝熱係数を担保するものとなるが、プレートに穴が開いてしまうと、冷却水側に塩化ニッケル水溶液がリークしてしまい、環境上の問題も発生する。
【0044】
そこで、プレートクーラー伝熱面の脱鉄終液流路側に通液する塩酸水溶液の濃度は、5〜10重量%とする。5重量%未満ではスケール除去効果が低下し、10重量%を超えるとチタン材が腐食する恐れがある。さらに、塩酸水溶液の濃度は、5〜6重量%であることがより好ましい。
【0045】
本発明の熱交換器のスケール除去方法によれば、熱交換器を分解掃除する必要が無いため、多大な手間と時間を要さずに熱交換器に付着したスケールの除去を行うことができ、脱鉄終液の流量低下によって電気ニッケルが減産となる可能性も無くなる。また、分解した熱交換器を再度組立てる作業が発生しないため、脱鉄終液の通液開始時の液漏れリスクも無い。さらに、プレート式熱交換器の場合、分解、再組立ての作業が無いため、ガスケットを交換する必要も無く、コストが掛からない。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本実施例および比較例の記載により本発明の範囲が特別に限定されるものでは無い。
【0047】
(実施例1)
実操業における脱鉄工程の脱鉄終液冷却用のプレートクーラーに付着したスケールを採取し、10gのスケールを、塩酸濃度5重量%に調整した塩酸水溶液200mL中に投入し、常温で20時間浸漬した時の塩酸水溶液中のカルシウム濃度を測定した。
【0048】
(実施例2)
実施例1と同じスケール10gを、塩酸濃度10重量%に調整した塩酸水溶液200mL中に投入し、常温で20時間浸漬した時の塩酸水溶液中のカルシウム濃度を測定した。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同じスケール10gを、塩酸濃度18重量%に調整した塩酸水溶液200mL中に投入し、常温で20時間浸漬した時の塩酸水溶液中のカルシウム濃度を測定した。
【0050】
実施例1、実施例2、比較例1では、カルシウム濃度の測定は、ICP発光分光分析装置により行った。実施例1、実施例2、比較例1の結果を表1に示した。
【表1】
【0051】
実施例1、実施例2、比較例1より、常温で20時間浸漬することにより、5重量%塩酸および10重量%塩酸では、約4gのスケールを溶解することができた。18重量%塩酸では、逆にスケールの溶解量は減少した。18重量%塩酸では、石膏の溶解によって生成した硫酸による逆反応が生じた可能性がある。
【0052】
(実施例3)
約21.8gの純チタンの試験片を、塩酸濃度5重量%に調整した塩酸水溶液に浸漬し、常温下で60日間放置して、重量変化について調査した。
【0053】
(実施例4)
約21.8gの純チタンの試験片を、塩酸濃度10重量%に調整した塩酸水溶液に浸漬し、常温下で60日間放置して、重量変化について調査した。
【0054】
(比較例2)
約21.7gの純チタンの試験片を、塩酸濃度35重量%に調整した塩酸水溶液に浸漬し、常温下で60日間放置して、重量変化について調査した。実施例3、実施例4、比較例2の結果を図2に示した。
【0055】
図2より、5重量%塩酸および10重量%塩酸では、60日間浸漬しても大きな重量変化は無かったが、35重量%塩酸では約1g減少した。
【0056】
これにより、純チタン製の伝熱面の脱鉄終液流路側に付着したスケールを除去する場合、5〜10重量%の濃度の塩酸水溶液を用いれば、チタン材の腐食がないことが確認された。
図1
図2