(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用複合粒子、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単量体組成物は、ポリオキシアルキレン構造および2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能化合物(C)をさらに含み、全単量体中の前記多官能化合物(C)の割合が0.1質量%以上20.0質量%以下であり、
ここで、ポリオキシアルキレン構造および2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物は、20℃における水100gに対する溶解度が7g以上であっても、前記化合物(B)には該当せず前記多官能化合物(C)に該当する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物。
前記単量体組成物は、全単量体中の前記エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)の割合を全単量体中の前記化合物(B)の割合で除した値が1.5未満である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物。
前記単量体組成物は、エチレン性不飽和スルホン酸およびその塩、並びにエチレン性不飽和リン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種よりなる化合物(D)をさらに含み、全単量体中の前記化合物(D)の割合が0.4質量%以上30.0質量%以下であり、
ここで、前記エチレン性不飽和スルホン酸およびその塩は、20℃における水100gに対する溶解度が7g以上であっても、前記化合物(B)には該当せず前記化合物(D)に該当し、
また、前記エチレン性不飽和リン酸およびその塩は、20℃における水100gに対する溶解度が7g以上であっても、前記化合物(B)には該当せず前記化合物(D)に該当する、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物。
前記単量体組成物は、全単量体中の前記エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)の割合と全単量体中の前記化合物(D)の割合の合計を全単量体中の前記化合物(B)の割合で除した値が1.5未満である、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物。
請求項1〜6に記載のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物および請求項7に記載のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子からなる群から選択される少なくとも1つを用いて調製される、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、および当該ペースト組成物を乾燥造粒して得られる本発明のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子は、何れもリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を調製するための、スラリー組成物用材料として用いられる。そして、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物およびリチウムイオン二次電池負極用複合粒子の少なくとも一方を用いて調製され、リチウムイオン二次電池の負極の形成に用いる。また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を用いて製造することができる。更に、本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いたことを特徴とする。
【0021】
(リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物)
本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製に先んじて、少なくともシリコン系負極活物質と特定の水溶性重合体を予め混合してなる組成物である。
そして、本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物は、シリコン系負極活物質の含有割合が30質量%以上である負極活物質と、シリコン系負極活物質100質量部当たり3質量部以上500質量部未満の水溶性重合体が、溶媒としての水中に分散および/または溶解されてなり、当該水溶性重合体として、エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方よりなるエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)と、20℃における水100gに対する溶解度が7g以上であるエチレン性不飽和結合を有する共重合可能な化合物(B)とを所定の割合で含む単量体組成物を重合して得られ、かつ電解液膨潤度が120%未満である水溶性重合体を用いることを特徴とする。
【0022】
<水溶性重合体>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物に含まれる水溶性重合体は、水溶性の共重合体である。
ここで、本発明において重合体が「水溶性」であるとは、イオン交換水100質量部当たり重合体1質量部(固形分相当)を添加し攪拌して得られる混合物を、温度20℃以上70℃以下の範囲内で、かつ、pH3以上12以下(pH調整にはNaOH水溶液及び/またはHCl水溶液を使用)の範囲内である条件のうち少なくとも一条件に調整し、250メッシュのスクリーンを通過させた際に、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の質量が、添加した重合体の固形分に対して50質量%を超えないことをいう。
そして、水溶性重合体は、負極活物質、特に水などの溶媒中で凝集しやすいシリコン系負極活物質の分散性を向上させ得る分散剤として機能する成分である。また、水溶性重合体は、結着力を有する。したがって、水溶性重合体は、本発明のペースト組成物を用いてスラリー組成物を調製し、そして当該スラリー組成物を使用して集電体上に負極合材層を形成することにより製造した負極において、負極合材層に含まれる成分が負極合材層から脱離しないように保持し得る結着材としても機能する成分である。
【0023】
ここで、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)および化合物(B)を所定の割合で含有する単量体組成物を重合して得られ、かつ電解液膨潤度が120%未満である水溶性重合体と、シリコン系負極活物質とを特定の量比で配合する本発明のペースト組成物を用いてスラリー組成物を調製し、当該スラリー組成物を負極の作成に用いることにより、シリコン系負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0024】
なお、水溶性重合体とシリコン系負極活物質を含む上記ペースト組成物を調製してから、当該ペースト組成物を用いてスラリー組成物を調製する上述の手法を用いることで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する理由は、明らかではないが、以下の理由によるものであると推察される。
即ち、水溶性重合体とシリコン系負極活物質とを、シリコン系負極活物質リッチの状態で混合することにより、水溶性重合体が、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)のカルボキシル基またはその塩の寄与により、シリコン系負極活物質表面に吸着し当該活物質を好適に被覆する。そして、当該ペースト組成物を用いて調製されるスラリー組成物中におけるシリコン系負極活物質の凝集が抑制され、負極合材層内でのシリコン系負極活物質の分散性が高まり、当該負極活物質の表面劣化が抑制されることで、サイクル特性が向上すると推察される。
また、水溶性重合体の調製に用いられる化合物(B)は水への溶解性が高い、すなわち極性の高い単量体である。よって、得られる水溶性重合体はリチウムイオン二次電池で通常使用される電解液に対する親和性が低く、結果として得られる水溶性重合体の電解液中での膨潤が適度に(120%未満に)抑制される。そのため極板の構造が維持され、負極の膨れが抑制されることでも、サイクル特性が向上すると推察される。
なお、水溶性重合体をスラリー組成物の調製に先んじてシリコン系負極活物質表面に吸着することにより、本発明のペースト組成物を用いて調製したスラリー組成物の固形分濃度を高めることが可能となり、負極の生産性を向上させることも可能となる。
【0025】
[単量体組成物]
本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物に用いられる水溶性重合体は、以下に詳細に説明する単量体組成物を重合して得られるものである。そして、通常、この水溶性重合体は、単量体組成物中に含まれていた単量体に由来する構造単位を当該単量体組成物中の各単量体の存在比率と同様の比率で含有している。
そして、水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物は、例えば、単量体と、重合開始剤などの添加剤と、重合溶媒とを含有する。そして、単量体組成物は、単量体として、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)および化合物(B)を所定の割合で含有する。具体的には、単量体組成物は、単量体組成物中の全単量体の量を100質量%とした際に、20.0質量%以上79.5質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)と、20.0質量%以上79.5質量%以下の化合物(B)とを含有する。即ち、水溶性重合体は、エチレン不飽和カルボン酸化合物(A)由来の構造単位を20.0質量%以上79.5質量%以下含み、化合物(B)由来の構造単位を20.0質量%以上79.5質量%以下含む。
なお、単量体組成物は、任意に、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)および化合物(B)と共重合可能である化合物、具体的には、多官能化合物(C)、エチレン性不飽和スルホン酸およびその塩、並びにエチレン性不飽和リン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種よりなる化合物(D)、更にこれらを除いたその他の化合物を単量体として含有していてもよい。
【0026】
−エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)−
エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としては、エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方を用いることができる。そして、エチレン性不飽和カルボン酸としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。また、エチレン性不飽和カルボン酸塩としては、エチレン性不飽和カルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。
なお、エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ここで、エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
また、エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、ジアクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。さらに、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、などが挙げられる。
【0028】
なお、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としては、エチレン性不飽和カルボン酸塩、好ましくはエチレン性不飽和カルボン酸のリチウム塩を用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸塩を使用すれば、得られる水溶性重合体の水溶性を高めることができるので、重合溶媒として水を使用して水溶性重合体を調製する際に、単量体組成物中の単量体濃度を高濃度としても、水溶性重合体の析出による重合の不均質な進行を防止することができる。従って、高単量体濃度の単量体組成物を使用して生産性を高めつつ、重合を均一に進行させることができる。また、エチレン性不飽和カルボン酸のリチウム塩を使用すれば、得られる水溶性重合体中にカルボン酸リチウム塩基(−COOLi)が導入され、スラリー組成物の安定性が向上する。そして負極合材層と集電体の密着性およびリチウムイオン二次電池の保存安定性が高まり、またリチウムイオン二次電池のサイクル特性が更に向上するとともに内部抵抗を低減することができる。
また、リチウムイオン二次電池の負極の膨らみを抑制してサイクル特性を更に向上させ、加えて内部抵抗を低減する観点からは、エチレン性不飽和カルボン酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸またはそれらの塩を用いることが好ましく、アクリル酸またはアクリル酸塩を用いることが更に好ましい。
【0029】
そして、水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述したエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)が占める割合が20.0質量%以上79.5質量%以下である必要があり、単量体中でエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)が占める割合は、21.0質量%以上であることが好ましく、22.0質量%以上であることが更に好ましく、24.0質量%以上であることが特に好ましく、75.0質量%以下であることが好ましく、72.0質量%以下であることがより好ましく、60.0質量%以下であることが更に好ましく、50.0質量%以下であることが特に好ましい。単量体中でエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)が占める割合が20.0質量%未満の場合、水溶性重合体によりシリコン系負極活物質を十分に分散させることができない。加えて、水溶性重合体の剛性が低下し、負極の膨らみを十分に抑制することができず、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下する。一方、単量体中でエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)が占める割合が79.5質量%超の場合、水溶性重合体の剛性が過度に高くなって脆くなり、その結果、ガスの発生などによりリチウムイオン二次電池の保存安定性が低下する。加えて、単量体中でエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)が占める割合が79.5質量%超の場合、リチウムイオン二次電池のサイクル特性等が低下する。これは、水溶性重合体の親水性が過度に高まり、シリコン系負極活物質との親和性は確保される一方で、例えば表面が疎水性を示す黒鉛に吸着し分散させることが困難となるためであると推察される。
【0030】
−化合物(B)−
化合物(B)としては、エチレン性不飽和結合を有する共重合可能な化合物であって、20℃における水100gに対する溶解度が、7g以上の化合物を用いることができる。このような溶解度を有する化合物(B)に由来する構造単位は、電解液に対する膨潤性が低いと共に、水を重合溶媒とした際の重合性が高いからである。なお、本発明においてエチレン性不飽和カルボン酸およびその塩は、前述の溶解度を満たす場合であっても、化合物(B)には含まれず、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)に含まれるものとし、エチレン性不飽和スルホン酸、エチレン性不飽和リン酸、およびそれらの塩は、前述の溶解度を満たす場合であっても、化合物(B)には含まれず、化合物(D)に含まれるものとする。
そして化合物(B)としては、例えば、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(100以上)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(100以上)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(100以上)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(100以上)、アクリルアミド(100以上)、メタクリルアミド(100以上)、ジメチルアクリルアミド(100以上)、ジエチルアクリルアミド(100以上)、N−メチロールアクリルアミド(100以上)、アクリロニトリル(7)などの、エチレン性不飽和結合を有し、かつ極性の高い官能基(水酸基、アミド基、ニトリル基、アミノ基など)を有する化合物や、エチレングリコールジメタクリレート(100以上)を挙げることができる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ここで、上記の括弧中の数値は、温度20℃における水溶解度(単位:g/100g)を示す。なお、温度20℃における水溶解度は、EPA法(EPA Chemical Fate testing Guideline CG-1500 Water Solubility)で測定することができる。
ここで、化合物(B)の20℃における水100gに対する溶解度は、100g以上であることが好ましい。
なお、上記化合物(B)に替えて、メチルアクリレート(6)、エチルアクリレート(2)、ブチルアクリレート(2)等の20℃における水溶解度が7g未満の化合物を用いて水溶性重合体を調製すると、当該水溶性重合体が電解液中において過度に膨潤し、極板の構造が維持できない。そして、結果として、リチウムイオン二次電池の、サイクル特性や保存安定性を確保することができない。
【0031】
ここで化合物(B)は、リチウムイオン二次電池中への持ち込み水分を低下させガスの発生を抑制する観点、および水溶性重合体と併用しうる他の重合体(例えば、後述するスチレン−ブタジエン共重合体などの粒子状重合体)の安定性を確保する観点から、アンモニウム塩などの有機塩、ナトリウム塩、およびカリウム塩などの塩(特に金属塩)でないことが好ましく、且つ塩に容易に変換される酸性基(フェノール性水酸基など)を有さないことが好ましい。
そして、電解液中での負極の膨らみを抑制し、またリチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減しつつサイクル特性を更に向上させる観点からは、化合物(B)としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミドが好ましく、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミドを用いることがより好ましい。
【0032】
そして、水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述した化合物(B)が占める割合が20.0質量%以上79.5質量%以下である必要があり、単量体中で化合物(B)が占める割合は、30.0質量%以上であることが好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましく、50.0質量%以上であることが更に好ましく、75.0質量%以下であることが好ましく、74.0質量%以下であることがより好ましく、73.0質量%以下であることが更に好ましい。単量体中で化合物(B)が占める割合が20.0質量%未満の場合、極板が過度に脆くなり構造が維持できず、亀裂等が発生することがある。その結果、サイクル特性が低下する。また、保存安定性も低下する。さらに、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を十分に低減することもできない。一方、単量体中で化合物(B)が占める割合が79.5質量%超の場合、負極の膨らみを十分に抑制することができず、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下する。
【0033】
また、全単量体中のエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)の割合を全単量体中の前記化合物(B)の割合で除した値(A/B)が、1.5未満であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましく、また、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。
A/Bが1.5未満であることで、水溶性重合体が電解液中で過度に膨潤することがなく、負極活物質間の粒子間距離が保たれ、かつリチウムイオン伝導性も確保されるため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗をさらに低減することができる。
加えて、A/Bが上述の範囲内であることで、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の低減と、サイクル特性の向上をバランスよく達成することができる。
【0034】
−多官能化合物(C)−
単量体組成物は、単量体として、ポリオキシアルキレン構造および2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能化合物(C)を含むことが好ましい。このような多官能化合物(C)を水溶性重合体の重合に用いることで、水溶性重合体に適度に高い剛性と柔軟性とを付与することができる。従って、充放電による極板の膨れを抑制する等によりサイクル特性の低下を抑制することができる。また、水との親和性が高いエチレンオキシド鎖の寄与により、水溶性重合体の重合が容易となる。加えて、リチウムイオン伝導性が確保され、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減することができる。また、多官能化合物(C)を単量体組成物に含めることで、本発明のペースト組成物を用いて調製したスラリー組成物の固形分濃度を高めることが可能となり、負極の生産性を向上させることができる。
ここで、多官能化合物(C)としては、一般式:−(C
mH
2mO)
n−[式中、mは1以上の整数であり、nは2以上の整数である]で表されるポリオキシアルキレン構造と、2つ以上のエチレン性不飽和結合とを有する化合物を用いることができる。
ポリオキシアルキレン構造と2つ以上のエチレン性不飽和結合とを有する化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、多官能化合物(C)に該当する化合物は、化合物(B)に含まれないものとする。
【0035】
ここで、多官能化合物(C)としては、例えば、ポリオキシアルキレン構造を有するポリオールのポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。具体的には、多官能化合物としては、特に限定されることなく、下記の化合物(I)〜(V)が挙げられる
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを指す。
(I)下記一般式:
【化1】
[式中、nは2以上の整数である]で表されるポリエチレングリコールジアクリレート。
(II)下記一般式:
【化2】
[式中、nは2以上の整数である]で表されるポリテトラメチレングリコールジアクリレート。
(III)下記一般式:
【化3】
[式中、n1およびn2は、2以上の整数であり、互いに同一でも、異なっていても良い]で表されるエトキシ化ビスフェノールAジアクリレート。
(IV)下記一般式:
【化4】
[式中、n1、n2およびn3は、2以上の整数であり、互いに同一でも、異なっていても良い]で表されるエトキシ化グリセリントリアクリレート。
(V)下記一般式:
【化5】
[式中、n1、n2、n3およびn4は、2以上の整数であり、互いに同一でも、異なっていても良い]で表されるエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート。
【0036】
なお、水溶性重合体の重合を容易にし、そして、本発明のペースト組成物を用いて調製したスラリー組成物の固形分濃度を高めることを可能にして負極の生産性を向上させる観点からは、多官能化合物(C)のエチレン性不飽和結合の数(官能数)は、2以上6以下であることが好ましく、2以上4以下であることが更に好ましい。
また、負極の生産性を更に高める観点からは、多官能化合物(C)は、2〜6官能のポリアクリレートであることが好ましく、2〜4官能のポリアクリレートであることが更に好ましい。
【0037】
更に、本発明のペースト組成物を用いて調製したスラリー組成物の安定性およびリチウムイオン二次電池の保存安定性を向上させる観点からは、多官能化合物(C)が有するポリオキシアルキレン構造(−(C
mH
2mO)
n−)の整数mは、20以下であることが好ましく、15以下であることが更に好ましく、10以下であることが特に好ましく、2以上であることが好ましい。整数mが大きすぎる場合には、スラリー組成物の安定性が低下する虞があるからである。また、整数mが小さすぎる場合には、水溶性重合体の剛性が高くなり、リチウムイオン二次電池の保存安定性が低下する虞があるからである。
また、同様の理由により、多官能化合物(C)が有するポリオキシアルキレン構造(−(C
mH
2mO)
n−)の整数nは、20以下であることが好ましく、15以下であることが更に好ましく、10以下であることが特に好ましく、2以上であることが好ましく、3以上であることが更に好ましく、4以上であることが特に好ましい。整数nが大きすぎる場合には、スラリー組成物の安定性が低下する虞があるからである。また、整数nが小さすぎる場合には、水溶性重合体の剛性が高くなり、リチウムイオン二次電池の保存安定性が低下する虞があるからである。なお、多官能化合物(C)が分子内に複数のポリオキシアルキレン構造(−(C
mH
2mO)
n−)を有する場合には、複数のポリオキシアルキレン構造の整数nの平均値が上記範囲内に含まれることが好ましく、全てのポリオキシアルキレン構造の整数nが上記範囲内に含まれることが更に好ましい。
【0038】
そして、水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述した多官能化合物(C)が占める割合が0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、20.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが更に好ましい。単量体中で多官能化合物(C)が占める割合が0.1質量%以上であることで、負極の膨らみを十分に抑制することができ、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。一方、単量体中で多官能化合物(C)が占める割合が20.0質量%以下であることで、水溶性重合体の剛性が過度に高くなって脆くなることを防止し、その結果、ガスの発生などによるリチウムイオン二次電池の保存安定性の低下を抑制することができる。
【0039】
−化合物(D)−
単量体組成物は、単量体として、エチレン性不飽和スルホン酸およびその塩、並びにエチレン性不飽和リン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種よりなる化合物(D)を含んでいてもよい。このような化合物(D)を水溶性重合体の重合に用いることで、スルホン酸基および/またはリン酸基の寄与により水溶性重合体の負極活物質への結着能が向上する結果、水溶性重合体が負極活物質を更に好適に被覆することが可能となるためと推察されるが、負極合材層と集電体の密着性が高まり、サイクル特性および保存安定性を向上させることができる。
【0040】
化合物(D)としては、エチレン性不飽和スルホン酸、エチレン性不飽和リン酸およびそれら塩からなる群から選択される少なくとも一種を用いることができる。
エチレン性不飽和スルホン酸としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸などが挙げられ、エチレン性不飽和スルホン酸塩としては、エチレン性不飽和スルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。
エチレン性不飽和リン酸としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられ、エチレン性不飽和リン酸塩としては、エチレン性不飽和リン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。
化合物(D)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0041】
本発明のペースト組成物において、化合物(D)としては、エチレン性不飽和スルホン酸塩および/またはエチレン性不飽和リン酸塩、好ましくはエチレン性不飽和スルホン酸のリチウム塩および/またはエチレン性不飽和リン酸のリチウム塩を用いることができる。エチレン性不飽和スルホン酸塩および/またはエチレン性不飽和リン酸塩を使用すれば、得られる水溶性重合体の水溶性を高めることができるので、重合溶媒として水を使用して水溶性重合体を調製する際に、単量体組成物中の単量体濃度を高濃度としても、水溶性重合体の析出による重合の不均質な進行を十分に防止することができる。従って、高単量体濃度の単量体組成物を使用して生産性を高めつつ、重合を均一に進行させることができる。また、エチレン性不飽和スルホン酸のリチウム塩および/またはエチレン性不飽和リン酸のリチウム塩を使用すれば、得られる水溶性重合体中にスルホン酸リチウム塩基(−SO
3Li)および/またはリン酸リチウム塩基(−PO
4Li
2、−PO
4LiH)が導入され、ペースト組成物を用いて得られるスラリー組成物の安定性が向上し、負極合材層と集電体の密着性を高めつつ、リチウムイオン二次電池の負極の膨らみを抑制することができる。そしてリチウムイオン二次電池のサイクル特性を更に向上させ、また保存安定性を高めつつ内部抵抗を低減することができる。
また、本発明のペースト組成物を用いて作製した負極合材層と集電体の密着性を向上させ、そして負極の膨らみを抑制する観点からは、化合物(D)としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、リン酸−2−メタクリロイルオキシエチル(アシッドホスホオキシエチルメタクリレート)またはそれらの塩を用いることが好ましく、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはその塩を用いることがより好ましい。
【0042】
そして、水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体中で化合物(D)が占める割合は、0.4質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更に好ましく、5.0質量%以上であることが特に好ましく、30.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましく、15.0質量%以下であることが更に好ましい。単量体中で化合物(D)が占める割合が0.4質量%以上であると、負極合材層と集電体の密着性を確保することができる。また負極の膨らみを十分に抑制し、サイクル特性を更に向上させることが可能となる。一方、単量体中で化合物(D)が占める割合が30.0質量%以下であると、水溶性重合体を含むペースト組成物およびスラリー組成物の粘度が過度に上昇することもなく、スラリー固形分濃度を高めて負極の生産性を高めることができる。また、スラリー固形分濃度を高めることが可能であるため、集電体上に塗布したスラリー組成物を乾燥する際、熱対流による水溶性重合体のマイグレーション(乾燥終了後における負極合材層の表面への偏在)が抑制され、負極合材層と集電体の密着性を高め、そして負極の膨らみを抑制し、サイクル特性を更に向上させることができる。
【0043】
また、単量体組成物が化合物(D)を含む場合、全単量体中のエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)の割合と全単量体中の化合物(D)の割合の合計を全単量体中の化合物(B)の割合で除した値((A+D)/B)が、1.5未満であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましく、0.8以下であることが更に好ましく、また、0.5以上であることが好ましい。
A+D/Bが1.5未満であると、単量体組成物中の単量体に占める塩の割合が抑制され、リチウムイオン二次電池の保存安定性を向上させることができる。一方で、A+D/Bが0.5以上であると、水溶性重合体が負極活物質を好適に被覆することが可能となり、負極合材層と集電体の密着性を高めることができ、また負極の膨らみを抑制することができる。
【0044】
−その他の化合物−
水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物には、上述したエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)、化合物(B)、多官能化合物(C)および化合物(D)と共重合可能な既知の化合物が含まれていてもよい。そして、水溶性重合体の調製に用いる水溶性重合体が含む単量体は、これら(A)〜(D)を除くその他の化合物が占める割合が20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%未満が更に好ましい。
より具体的には、その他の化合物としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、パーフルオロアルキルエチルアクリレート、フェニルアクリレート、などのアクリル酸エステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、パーフルオロアルキルエチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、などのメタクリル酸エステル;その他、酢酸ビニル、グリシジルメタクリレート、2−ビニルピリジン等が挙げられる。
【0045】
−添加剤−
水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物に配合する添加剤としては、過硫酸カリウム等の重合開始剤や、テトラメチルエチレンジアミン等の重合促進剤などの重合反応に使用し得る既知の添加剤が挙げられる。
また、単量体組成物には、単量体としてのエチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸、およびエチレン性不飽和リン酸を、重合前に中和して塩に変換すべく、塩基性化合物を添加剤として添加することが好ましい。単量体を重合前に中和して塩とすることで、重合の安定性を確保することができ、また、重合後に中和する工程を省略し、製造工程全体の簡略化が図れるからである。
ここで、単量体として、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸、およびエチレン性不飽和リン酸の少なくとも何れかを含む単量体組成物を使用した場合には、上記中和を行なう際に、塩基性化合物として塩基性のリチウム化合物を使用することが好ましい。塩基性のリチウム化合物を使用すれば、単量体組成物中に含まれる単量体のカルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸塩基が、それぞれカルボン酸リチウム塩基(−COOLi)、スルホン酸リチウム塩基(−SO
3Li)およびリン酸リチウム塩基(−PO
4Li
2、−PO
4LiH)となり、重合後に得られる水溶性重合体を含むスラリー組成物のチクソ性および安定性が更に向上すると共に、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が低減され、加えてサイクル特性および保存安定性が向上するからである。なお、塩基性のリチウム化合物としては、炭酸リチウム(Li
2CO
3)や水酸化リチウム(LiOH)を用いることができ、水酸化リチウムを用いることが好ましい。
なお、添加剤の種類および配合量は、重合方法等に応じて任意に選択することができる。
【0046】
−重合溶媒−
水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物に配合する重合溶媒としては、重合方法等に応じて、前述した単量体を溶解または分散可能な既知の溶媒を用いることができる。中でも、重合溶媒としては、水を用いることが好ましい。なお、重合溶媒としては、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを用いてもよい。
【0047】
[水溶性重合体の調製]
水溶性重合体は、上述した単量体、添加剤および重合溶媒を既知の方法で混合して得た単量体組成物を、例えばラジカル重合させることで得られる。なお、上記単量体組成物を重合して得られる、水溶性重合体と重合溶媒とを含む溶液は、特に重合溶媒が水である場合はそのままペースト組成物の調製に使用してもよいし、溶媒置換や任意の成分の添加などを行なった後にペースト組成物の調製に使用してもよい。
【0048】
ここで、重合方法としては、水溶液重合、スラリー重合、懸濁重合、乳化重合などの公知の重合法が挙げられるが、溶媒の除去操作が不要であり、溶媒の安全性が高く、且つ、界面活性剤の混入の問題が無いことから、重合溶媒として水を使用した水溶液重合が好ましい。なお、水溶液重合は、単量体組成物を所定の濃度に調整し、反応系内の溶存酸素を不活性ガスで十分に置換した後、ラジカル重合開始剤を添加し、必要により、加熱や紫外線などの光照射をすることによって重合反応を行う方法である。
【0049】
なお、重合溶媒として水を使用し、上述した単量体組成物を水中で重合して水溶性重合体を含む水溶液を調製する場合には、重合後に水溶液のpHを8以上9以下に調整することが好ましい。得られる水溶液を中和してpHを8〜9に調整すれば、ペースト組成物を用いて調製されるスラリー組成物にチクソ性が付与され、そしてスラリー組成物の安定性が高まり、また、リチウムイオン二次電池の保存安定性を向上させることができるからである。なお重合後の中和には、重合前の中和同様「添加剤」の項で上述した塩基性化合物を使用することができる。
【0050】
[水溶性重合体の性状]
そして、上述のようにして調製した水溶性重合体は、電解液膨潤度が120%未満であることが必要であり、117%未満であることが好ましく、115%未満であることがより好ましく、110%未満であることが更に好ましく、また、100質量%以上であることが好ましく、103質量%以上であることがより好ましく、105質量%以上であることが更に好ましい。電解液膨潤度が120%以上であると、水溶性重合体が電解液中で過度に膨潤して極板構造が維持できず、サイクル特性が低下する。一方、電解液膨潤度が100質量%以上であれば、リチウムイオン伝導性が確保され、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減することができる。加えて、水溶性重合体の柔軟性を確保し、水溶性重合体の割れおよび剥離を抑制して、リチウムイオン二次電池の保存安定性を高めることができる。
なお、水溶性重合体の電解液膨潤度は、本明細書の実施例に記載の方法で測定することができる。また、水溶性重合体の電解液膨潤度は、単量体組成物中のエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)、化合物(B)、および化合物(D)の種類や量を変更することにより調整することができる。
【0051】
<負極活物質>
負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極において電子の受け渡しをする物質である。そして、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
【0052】
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物において、負極活物質は、シリコン系負極活物質を30質量%以上含み、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上含む。このように負極活物質中に占めるシリコン系負極活物質の割合が多い状態で、上述した水溶性重合体と混合することにより、凝集し易いシリコン系負極活物質を水溶性重合体で好適に被覆し、当該シリコン系負極活物質の分散性を高めることが可能となる。
なお、ペースト組成物を用いて調製されるスラリー組成物から形成される負極合材層中において、活物質間の導電パスを好適に形成し、内部抵抗を低減する観点からは、ペースト組成物を形成する段階で、シリコン系負極活物質とあわせてその他の負極活物質を併用することが好ましい。かかる観点から、負極活物質中のシリコン系負極活物質の含有割合の上限は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0053】
[シリコン系負極活物質]
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiO
x、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、チタン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含む合金組成物が挙げられる。
また、ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、アルミニウムと、鉄などの遷移金属とを含み、さらにスズおよびイットリウム等の希土類元素を含む合金組成物も挙げられる。
【0055】
SiO
xは、SiOおよびSiO
2の少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。そして、SiO
xは、例えば、一酸化ケイ素(SiO)の不均化反応を利用して形成することができる。具体的には、SiO
xは、SiOを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で熱処理し、ケイ素と二酸化ケイ素とを生成させることにより、調製することができる。なお、熱処理は、SiOと、任意にポリマーとを粉砕混合した後、有機物ガスおよび/または蒸気を含む雰囲気下、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行うことができる。
【0056】
Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物としては、例えば、SiOと、ポリビニルアルコールなどのポリマーと、任意に炭素材料との粉砕混合物を、例えば有機物ガスおよび/または蒸気を含む雰囲気下で熱処理してなる化合物を挙げることができる。また、複合化物は、SiOの粒子に対して、有機物ガスなどを用いた化学的蒸着法によって表面をコーティングする方法、SiOの粒子と黒鉛または人造黒鉛をメカノケミカル法によって複合粒子化(造粒化)する方法などの公知の方法でも得ることができる。
【0057】
ここで、リチウムイオン二次電池の高容量化の観点からは、シリコン系負極活物質としては、ケイ素を含む合金およびSiO
xが好ましい。
また、シリコン系負極活物質の体積平均粒子径D50は、特に限定されないが、10nm以上5μm以下程度である。シリコン系負極活物質は炭素系負極活物質などに比して粒子径が小さく、このような小さい粒子径はシリコン系負極活物質が凝集し易いことの一因となっている。しかし、本発明によれば、上述の水溶性重合体の寄与により、このように粒子径の小さいシリコン系負極活物質の分散性を十分に確保することが可能となる。
なお、シリコン系負極活物質の体積平均粒子径D50は、レーザー回折式粒子径分布測定装置を用いて乾式測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径として求めうる。
【0058】
[その他の負極活物質]
本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物において上記シリコン系負極活物質と併用する負極活物質としては、炭素系負極活物質および金属系負極活物質などが挙げられる。
【0059】
−炭素系負極活物質−
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0060】
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。なお、炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0061】
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。なお、熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0062】
−金属系負極活物質−
金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系負極活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得るSi以外の単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、炭化物、燐化物などが用いられる。
【0063】
なお、負極活物質の膨張および収縮を抑制しつつリチウムイオン二次電池を十分に高容量化する観点からは、その他の負極活物質としては、炭素系負極活物質を用いることが好ましく、人造黒鉛を用いることがより好ましい。即ち、負極活物質は、シリコン系負極活物質と、人造黒鉛などの炭素系負極活物質との混合物であることが好ましい。
【0064】
<水溶性重合体とシリコン系負極活物質の配合量比>
本発明のリチウムイオン二次電池ペースト組成物は、シリコン系負極活物質100質量部当たり、水溶性重合体を3質量部以上500質量部未満含むことが必要であり、好ましくは8質量部以上、より好ましくは12質量部以上、特に好ましくは15質量部以上、また好ましくは250質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは50質量部以下、最も好ましくは35質量部以下含む。水溶性重合体の配合量がシリコン系負極活物質100質量部当たり3質量部未満であると、シリコン系負極活物質を水溶性重合体で十分に被覆することができず、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下する。一方、水溶性重合体の配合量がシリコン系負極活物質100質量部当たり500質量部以上であると、絶縁体である水溶性重合体の量が過剰となり、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇する。
【0065】
<リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製方法>
リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物は、上述した負極活物質、水溶性重合体を水系媒体に分散および/または溶解させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて負極活物質、水溶性重合体、水系媒体を混合することにより、ペースト組成物を調製することができる。
ここで、水系媒体としては、通常は水を用いるが、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを用いてもよい。
また、ペースト組成物は、負極活物質および水溶性重合体以外にも「リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物」の項で後述する、「粒子状重合体」や「その他の成分」を含んでもよい。
このようにして得られるペースト組成物は、そのままスラリー組成物の調製に用いてもよいし、乾燥造粒することで後述する複合粒子としてから、スラリー組成物の調製に用いてもよい。
【0066】
(リチウムイオン二次電池負極用複合粒子)
本発明のリチウムイオン二次電池負極用複合粒子は、上述した本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物を乾燥造粒して得られる。即ち、本発明の複合粒子は、上記ペースト組成物の乾燥造粒物よりなり、通常、上記負極活物質および上記水溶性重合体を含有し、任意に、上記粒子状重合体と、上記その他の成分とを含有する。なお、上述した水溶性重合体および/または粒子状重合体が架橋性の構造単位を含む場合には、水溶性重合体および/または粒子状重合体は、ペースト組成物の乾燥造粒時、または、乾燥造粒後に任意に実施される熱処理時に架橋されていてもよい(即ち、複合粒子は、上述した水溶性重合体および/または粒子状重合体の架橋物を含んでいてもよい)。なお、複合粒子中に含まれている各成分の好適な存在比は、ペースト組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
本発明の複合粒子は、本発明のペースト組成物を乾燥造粒してなるものであるため、本発明の複合粒子を用いてスラリー組成物を調製し、当該スラリー組成物を負極の作製に用いることにより、シリコン系負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
加えて、水分含有量の少ない複合粒子を用いてスラリー組成物を調製すれば、当該スラリー組成物の固形分濃度を高めることが可能となり、負極の生産性を向上させることができる。
【0067】
<乾燥造粒の方法>
ペースト組成物を乾燥造粒することにより、複合粒子を得る際の乾燥造粒の方法は特に限定されないが、噴霧造粒法、流動層造粒法、転動層造粒法、圧縮型造粒法、攪拌型造粒法、押出造粒法、破砕型造粒法、流動層多機能型造粒法、溶融造粒法などが挙げられ、これらの中でも、良好な乾燥効率の観点から噴霧造粒法が好ましい。
【0068】
具体的には、噴霧造粒法を用いた複合粒子の形成では、上記のペースト組成物を、噴霧乾燥機を用いて噴霧することにより、噴霧されたペースト組成物の液滴を乾燥塔内部で乾燥する。これにより、液滴に含まれる負極活物質及び水溶性重合体を含む複合粒子を得ることができる。噴霧されるペースト組成物の温度は、通常は室温であるが、加温して室温より高い温度としてもよい。また、噴霧乾燥時の熱風温度は、通常80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。
【0069】
さらに、噴霧造粒法では、得られた複合粒子を転動造粒してもよいし、得られた複合粒子に加熱処理を施してもよい。転動造粒法としては、例えば特開2008−251965号公報に記載の回転ざら方式、回転円筒方式、回転頭切り円錐方式などの方式があり、複合粒子を転動させるときの温度は、水などの溶媒を十分に除去する観点から、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは200℃以下である。また、加熱処理は、複合粒子の表面を硬化させるために行うものであり、加熱処理温度は、通常80℃〜300℃である。
【0070】
<複合粒子の性状>
上述のようにして調製した複合粒子の体積平均粒子径D50は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは60μm以下、特に好ましくは40μm以下である。複合粒子の体積平均粒子径D50が上述の範囲内であることにより、当該複合粒子を用いたスラリー組成物の調製の際に、シリコン系負極活物質が水溶性重合体に被覆されてなる複合体同士の乖離が容易となり、当該複合体、ひいてはシリコン系負極活物質をスラリー組成物中に好適に分散させることができる。
なお、複合粒子の体積平均粒子径D50は、シリコン系負極活物質の体積平均粒子径D50と同様の測定方法を用いて測定することができる。
【0071】
(リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物)
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上述した本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物および/またはリチウムイオン二次電池負極用複合粒子を用いて調製される。そして、本発明のスラリー組成物を用いて負極を作製すれば、シリコン系負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性を優れたものとすることができる。
ここで、本発明のスラリー組成物は、例えば、ペースト組成物および/または複合粒子と、負極活物質と、必要に応じて、水系媒体と、粒子状重合体と、水溶性重合体と、その他の成分(増粘剤など)とをあわせて混合することで調製される。
【0072】
<負極活物質>
スラリー組成物の調製の際に、ペースト組成物および/または複合粒子中の負極活物質とは別に、新たに負極活物質を加えることができる。ここで、新たに加える負極活物質は、特に限定されないが、負極活物質の膨張および収縮を抑制しつつリチウムイオン二次電池を十分に高容量化する観点からは、シリコン系負極活物質以外の負極活物質が好ましく、炭素系負極活物質がより好ましい。
【0073】
<粒子状重合体>
粒子状重合体は非水溶性の重合体であり、通常、粒子状重合体は、分散媒として水を含む水系のスラリー組成物において粒子状となっている。スラリー組成物の調製の際に、別途結着材として粒子状重合体を添加すれば、シリコン系負極活物質が水溶性重合体に被覆されてなる複合体同士を、その被覆状態を維持したまま負極合材層中にて結着させることが容易となり、リチウムイオン二次電池のサイクル特性および保存安定性を更に向上させることができる。
そして、上述した粒子状重合体としては、特に限定されず、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレンブタジエンアクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体等のジエン重合体、アクリル重合体、フッ素重合体、シリコン重合体などが挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン二次電池のサイクル特性および保存安定性を向上させる観点からは、スチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。
またこれらの粒子状重合体には、粒子の安定性のために、酸化合物の添加など、公知の処理を施してもよい。そして、粒子状重合体の形状は、粒子状であれば特に限定されず、例えばコアシェル型、異形型、中空型等であってもよい。粒子状重合体の形状を、例えばコアシェル型、異形型、中空型とするためには、粒子状重合体の調製方法として原料組成を徐々に変更するパワーフィード重合法を採用することが有効である。
なお、これらの粒子状重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
<水溶性重合体>
スラリー組成物の調製の際に、ペースト組成物および/または複合粒子中の負極活物質とは別に、新たに水溶性重合体を加えることで、負極活物質(特にはシリコン系負極活物質)同士の密着性を高め、負極活物質の膨張および収縮を抑制することができ、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0075】
<その他の成分>
本発明のスラリー組成物は、上述した成分に加え、任意に配合し得る既知の成分を含有していても良い。そのような既知の成分としては増粘剤が挙げられ、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、増粘多糖類、アルギン酸、でんぷんなどの天然系増粘剤や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの合成系増粘剤(但し、上述した水溶性重合体に該当するものを除く)を含有していてもよい。これらの中でも、スラリー組成物にチクソ性を付与し、そしてスラリー組成物の安定性を高める観点から、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸が好ましい。
また、本発明のスラリー組成物は、負極構造をより強固にし、シリコン系負極活物質の膨張収縮を抑制する観点から、さらには負極活物質間の導電性を確保する観点から、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバー等の繊維状添加材を含有していても良い。
【0076】
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製方法>
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、例えば、本発明のペースト組成物および/または複合粒子、負極活物質、そして任意に、粒子状重合体、水溶性重合体、その他の成分、水系媒体を、「リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製方法」の項で上述した混合機を用いて混合することにより、調製することができる。
【0077】
なお、スラリー組成物中の上記各成分の割合は、適宜に調整することができる。
ここで、スラリー組成物の安定性および負極の生産性を高めつつリチウムイオン二次電池の性能を確保する観点からは、スラリー組成物中の水溶性重合体の含有量は、負極活物質100質量部当たり、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
また、スラリー組成物が粒子状重合体を含む場合、スラリー組成物中の粒子状重合体の含有量は、負極活物質100質量部当たり、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることが更に好ましく、0.6質量部以上であることが特に好ましく、また、3.0質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以下であることがより好ましく、1.7質量部以下であることが更に好ましい。粒子状重合体の配合量が負極活物質100質量部当たり、0.05質量部以上であれば、負極合材層と集電体の密着性を高め、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。一方、3.0質量部以下であれば、過度な増粘によりスラリー組成物の調製が困難となることもなく、また内部抵抗が過度に上昇することもない。
更に、スラリー組成物が増粘剤を含む場合、スラリー組成物中の増粘剤の含有量は、負極活物質100質量部当たり、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。増粘剤の配合量を上述の範囲内とすることで、スラリー組成物のチクソ性および安定性を確保することができる。
【0078】
(リチウムイオン二次電池用負極)
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明のスラリー組成物を用いて得られる負極合材層を有する。より具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、集電体上に形成された負極合材層とを備え、負極合材層は、通常、上記スラリー組成物の乾燥物よりなる。そして負極合材層には、少なくとも、負極活物質および水溶性重合体が含まれている。なお、上述した水溶性重合体および/または粒子状重合体が架橋性の構造単位を含む場合には、水溶性重合体および/または粒子状重合体は、スラリー組成物の乾燥時、または、乾燥後に任意に実施される熱処理時に架橋されていてもよい(即ち、負極合材層は、上述した水溶性重合体および/または粒子状重合体の架橋物を含んでいてもよい)。なお、負極合材層中に含まれている各成分は、上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、上記リチウムイオン二次電池用負極は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を使用して調製しているので、シリコン系負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0079】
<リチウムイオン二次電池用負極の製造>
なお、上記リチウムイオン二次電池用負極は、例えば、上述したリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0080】
[塗布工程]
上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる負極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0081】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0082】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と負極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用負極を得ることができる。
【0083】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、負極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、負極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
さらに、負極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、負極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0084】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、負極として、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いたものである。そして、上記リチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いているので、電池容量が高く且つサイクル特性に優れる。
【0085】
<正極>
上記リチウムイオン二次電池の正極としては、リチウムイオン二次電池用正極として用いられる既知の正極を用いることができる。具体的には、正極としては、例えば、正極合材層を集電体上に形成してなる正極を用いることができる。
なお、集電体としては、アルミニウム等の金属材料からなるものを用いることができる。また、正極合材層としては、既知の正極活物質と、導電材と、結着材とを含む層を用いることができる。
【0086】
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のアルキルカーボネート系溶媒に、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチル等の粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。
【0087】
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。
【0088】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
上記リチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0089】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、水溶性重合体の電解液膨潤度、粒子状重合体のガラス転移温度およびゲル含有量、負極の生産性、負極合材層と集電体の密着性、並びに、リチウムイオン二次電池のレート特性、サイクル特性および保存安定性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0090】
<電解液膨潤度>
水溶性重合体を含む水溶液を、湿度50%、温度23〜25℃の環境下で乾燥させて、厚み1±0.3mmに成膜した。成膜したフィルムを、温度60℃の真空乾燥機で10時間乾燥させた後、裁断して約1gを精秤した。得られたフィルム片の質量をW0とする。このフィルム片を、温度60℃の環境下で、電解液(組成:濃度1.0MのLiPF
6溶液(溶媒はエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)を添加))に3日間浸漬し、膨潤させた。その後、フィルム片を引き上げ、表面の電解液をキムワイプで拭いた後、質量を測定した。膨潤後のフィルム片の質量をW1とする。
そして、以下の計算式を用いて電解液膨潤度を算出した。
電解液膨潤度(質量%)=W1/W0×100
<ガラス転移温度>
粒子状重合体を含む水分散液を、湿度50%、温度23〜26℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み1±0.3mmに成膜した。成膜したフィルムを、温度60℃の真空乾燥機で10時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとし、JIS K7121に準拠して、測定温度−100℃〜180℃、昇温速度5℃/分の条件下、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー社製、DSC6220SII)を用いてガラス転移温度Tg(℃)を測定した。
<ゲル含有量>
粒子状重合体を含む水分散液を、湿度50%、温度23〜25℃の環境下で乾燥させて、厚み1±0.3mmに成膜した。成膜したフィルムを、温度60℃の真空乾燥機で10時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムを3〜5mm角に裁断し、約1gを精秤した。裁断により得られたフィルム片の質量をw0とする。このフィルム片を、50gのテトラヒドロフラン(THF)に24時間浸漬した。その後、THFから引き揚げたフィルム片を温度105℃で3時間真空乾燥して、不溶分の質量w1を計測した。
そして、以下の計算式を用いてゲル含有量を算出した。
ゲル含有量(質量%)=(w1/w0)×100
<負極の生産性>
粘度が2000±100mPa・s(B型粘度計、12rpmで測定)となるように調製したスラリー組成物の固形分濃度を以下の基準で評価した。スラリー組成物の固形分濃度が高いほど、スラリー組成物の乾燥が容易になり、生産性が向上することを表す。
A:固形分濃度が45質量%以上
B:固形分濃度が35質量%以上45質量%未満
C:固形分濃度が25質量%以上35質量%未満
D:固形分濃度が25質量%未満
<負極合材層と集電体の密着性>
作製したリチウムイオン二次電池用負極を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、負極合材層を有する面を下にして負極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。測定を3回行い、その平均値を求めてこれを剥離ピール強度とし、以下の基準により評価した。剥離ピール強度の値が大きいほど、負極合材層と集電体の密着性に優れることを示す。
A:剥離ピール強度が5.0N/m以上
B:剥離ピール強度が3.0N/m以上5.0N/m未満
C:剥離ピール強度が2.0N/m以上3.0N/m未満
D:剥離ピール強度が2.0N/m未満
<リチウムイオン二次電池のレート特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で、5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧2.75Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流にて、CC−CV充電(上限セル電圧4.30V)を行い、0.2Cの定電流にて3.00VまでCC放電を行った。
次に、温度25℃の環境下、4.30−2.75V間で、0.2Cの定電流充放電を実施し、このときの放電容量をC0と定義した。その後、同様に0.2Cの定電流にてCC−CV充電、1.0Cの定電流にて放電を実施し、このときの放電容量をC1と定義した。そして、レート特性として、ΔC=(C1/C0)×100(%)で示される容量変化率を求め、以下の基準により評価した。この容量変化率ΔCの値は大きいほど、高電流での放電容量が高く、そして内部抵抗が低いことを示す。
A:ΔCが85%以上
B:ΔCが75%以上85%未満
C:ΔCが65%以上75%未満
D:ΔCが65%未満
<リチウムイオン二次電池のサイクル特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧2.75Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC−CV充電(上限セル電圧4.30V)を行い、0.2Cの定電流法にて2.75VまでCC放電を行なった。
そして、温度25℃の環境下、0.1Cの定電流法にて、セル電圧2.75Vまで放電した。その後、45℃環境下で4.30V、0.5Cの充放電レートにて50サイクル充放電の操作を行った。そのとき1サイクル目の容量、すなわち初期放電容量X1、および50サイクル目の放電容量X2を測定し、ΔC´=(X2/X1)×100(%)で示す容量変化率を求め、以下の基準により評価した。この容量変化率ΔC´の値が大きいほど、サイクル特性に優れることを示す。
A:ΔC´が85%以上
B:ΔC´が80%以上85%未満
C:ΔC´が75%以上80%未満
D:ΔC´が75%未満
<リチウムイオン二次電池の保存安定性>
作製したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧2.75Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC−CV充電(上限セル電圧4.30V)を行い、0.2Cの定電流法にてセル電圧2.75VまでCC放電を行なった。
次に、リチウムイオン二次電池のセルの体積(V0)をアルキメデス法によって算出した。その後、温度25℃、0.2Cの定電流法にてセル電圧4.40Vまで充電し、温度80±2℃の条件下で4日間放置したのち、温度25℃、0.2Cの定電流法にてセル電圧2.75Vまで放電した。その後、セルの体積(V1)を測定し、ガス発生量を以下の計算式により算出し、以下の基準により評価した。ガス発生量が少ないほど、保存安定性に優れていることを示す。
ガス発生量(mL)=V1(mL)−V0(mL)
A:ガス発生量が4mL未満
B:ガス発生量が4mL以上5mL未満
C:ガス発生量が5mL以上6mL未満
D:ガス発生量が6mL以上
【0091】
<水溶性重合体の水溶液の調製>
[製造例1]
セプタム付き1Lフラスコに、イオン交換水720gを投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、イオン交換水10gと、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてのアクリル酸9.5g(25.0%)と、化合物(B)としてのアクリルアミド28.5g(75.0%)とを混合して、シリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液8.0gをシリンジでフラスコ内に追加した。更に、その15分後に、重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液40gをシリンジで追加した。4時間後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液4.0gをフラスコ内に追加し、更に重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液20gを追加して、温度を60℃に昇温し、重合反応を進めた。3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、生成物を温度80℃で脱臭し、残留モノマーを除去した。
その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整して、水溶性重合体を含む水溶液を得た。そして、水溶性重合体の電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。
[製造例2〜8]
表1に示す単量体を表1に示す割合で使用した以外は製造例1と同様にして、水溶性重合体を調製した。そして、水溶性重合体の電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。なお、製造例4および5において、製造例1で使用した単量体に加え、多官能化合物(C)としてポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学(株)製、ライトアクリレート9EG−A、n=9の化合物(I)に相当、官能数=2)を使用した。また、製造例6および7において、製造例1で使用した単量体に加え、その他の化合物としてメチルメタクリレートを使用した。そして、製造例8において、製造例1で使用した化合物(B)としてのアクリルアミドに替えて、ジメチルアクリルアミドを使用した。
[製造例9]
セプタム付き1Lフラスコに、イオン交換水720gを投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、イオン交換水10gと、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてのアクリル酸9.5g(25.0%)と、化合物(B)としてのアクリルアミド24.3g(64.0%)と、化合物(C)としてのポリテトラメチレングリコールジアクリレート(共栄社化学(株)製、n=3の化合物(II)に相当、官能数=2)0.38g(1.0%)と、化合物(D)としての2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸3.8g(10.0%)と、水酸化リチウムの10%水溶液を28.4gとを混合して、シリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液8.0gをシリンジでフラスコ内に追加した。更に、その15分後に、重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液40gをシリンジで追加した。4時間後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液4.0gをフラスコ内に追加し、更に重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液20gを追加して、温度を60℃に昇温し、重合反応を進めた。3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、生成物を温度80℃で脱臭し、残留モノマーを除去した。その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて中和し、水溶性重合体を含む水溶液(pH=8)を得た。そして、水溶性重合体の電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。
[製造例10]
表1に示す単量体を表1に示す割合で使用した以外は製造例1と同様にして、水溶性重合体を調製した。そして、水溶性重合体の電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
<粒子状重合体の水分散液の調製>
[スチレン−ブタジエン共重合体よりなる粒子状重合体(SBR)]
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、スチレン65部、1,3−ブタジエン35部、イタコン酸2部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、分子量調整剤としてのt−ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、溶媒としてのイオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を投入し、十分に攪拌した後、温度55℃に加温して重合を開始した。
モノマー消費量が95.0%になった時点で冷却し、反応を停止した。こうして得られた重合体を含んだ水分散体に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後、温度30℃以下まで冷却し、スチレン−ブタジエン共重合体よりなる粒子状重合体を含む水分散液を得た。なお、スチレン−ブタジエン共重合体のゲル含有量は92質量%であり、ガラス転移温度(Tg)は10℃であった。
[スチレンブタジエンアクリロニトリル共重合体よりなる粒子状重合体(ABS)]
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、アクリロニトリル35部、1,3−ブタジエン65部、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、溶媒としてのイオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を投入し、十分に攪拌した後、温度55℃に加温して、コア部分となる重合体の重合を開始した。
モノマー消費量が80.0%になった時点で、予め準備しておいた、スチレン27部、1,3−ブタジエン15部、アクリロニトリル16部、アクリル酸1部、イタコン酸2部、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、溶媒としてのイオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を混合した水分散体を更に投入して、シェル部分となる重合体の重合を行い、全投入モノマー消費量が95.0%になった時点で冷却し反応を停止した。こうして得られた重合体を含んだ水分散体に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後、温度30℃以下まで冷却し、スチレンブタジエンアクリロニトリル共重合体よりなる粒子状重合体を含む水分散液を得た。なお、スチレンブタジエンアクリロニトリル共重合体のゲル含有量は75質量%であり、コア部のガラス転移温度(Tg)は−37℃であり、シェル部のガラス転移温度(Tg)は35℃であった。
[アクリル重合体よりなる粒子状重合体(ACR)]
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、ブチルアクリレート82部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸2部、N−メチロールアクリルアミド1部、アリルグリシジルエーテル1部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム4部、溶媒としてのイオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.5部を投入し、十分に攪拌した後、温度80℃に加温して重合を開始した。
モノマー消費量が96.0%になった時点で冷却し、反応を停止した。こうして得られたアクリル重合体を含んだ水分散体に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを7に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後、温度30℃以下まで冷却し、アクリル重合体よりなる粒子状重合体を含む水分散液を得た。なお、アクリル重合体のゲル含有量は90質量%であり、ガラス転移温度(Tg)は−50℃であった。
【0093】
<リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製>
シリコン系負極活物質としてのSiO
x(理論容量:2400mAh/g、体積平均粒子径D50:5μm、以下同じ)20部および炭素系負極活物質としての人造黒鉛(理論容量:360mAh/g、体積平均粒子径D50:23μm、以下同じ)5部、並びに製造例1の水溶性重合体の4.5%水溶液を固形分相当で3.0部となるように配合し、ビーズミルにて30分混合して、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物を調製した。
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製>
上述のようにして得られたペースト組成物に、さらに、炭素系負極活物質としての人造黒鉛75部、水溶性重合体の4.5%水溶液を固形分相当で1.0部加え、ディスパー付きのプラネタリーミキサーで30rpm、30分混合した。その後、粒子状重合体としてのSBRの水分散液を固形分相当で0.5部相当加えて、20rpmで15分混合し、ペースト状のスラリーを得た。さらにその後、粘度が2000±100mPa・s(B型粘度計、12rpmで測定)となるようにイオン交換水を加え、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を調製した。なお、このスラリー組成物の固形分濃度をもとに、負極の生産性を評価した。結果を表2に示す。
<リチウムイオン二次電池用負極の製造>
上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の表面に、塗付量が5.8〜6.2mg/cm
2となるように塗布した。このリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物が塗布された銅箔を、300mm/分の速度で、温度80℃のオーブン内を2分間、さらに温度110℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、負極原反を得た。
そして、得られた負極原反をロールプレス機にて密度が1.63〜1.67g/cm
3となるようプレスし、さらに、水分の除去を目的として、真空条件下、温度105℃の環境に4時間置き、負極を得た。この負極を用いて負極合材層と集電体の密着性を評価した。結果を表2に示す。
<リチウムイオン二次電池用正極の製造>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのLiCoO
2100部、導電材としてのアセチレンブラック2部(電気化学工業(株)製、HS−100)、結着材としてのPVDF(ポリフッ化ビニリデン、(株)クレハ化学製、KF−1100)2部を添加し、さらに、分散媒としての2−メチルピリロドンを全固形分濃度が67%となるように加えて混合し、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を調製した。
得られたリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の上に、塗布量が26.3〜27.7mg/cm
2となるように塗布した。その後、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物が塗布されたアルミ箔を、0.5m/分の速度で温度60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、乾燥させた。その後、温度120℃にて2分間加熱処理して、正極原反を得た。
そして、得られた正極原反をロールプレス機にて密度が3.40〜3.50g/cm
3となるようにプレスし、さらに、分散媒の除去を目的として、真空条件下、温度120℃の環境に3時間置き、正極を得た。
<リチウムイオン二次電池の製造>
単層のポリプロピレン製セパレータ、上記の負極および正極を用いて、捲回セル(放電容量800mAh相当)を作製し、アルミ包材内に配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF
6溶液(溶媒はエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を充填した。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、温度150℃のヒートシールをしてアルミ包材を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。このリチウムイオン二次電池を用いて、レート特性、サイクル特性および保存安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0094】
(実施例2、3)
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製時に、SBRよりなる粒子状重合体の水分散液に替えて、それぞれABSよりなる粒子状重合体の水分散液、ACRよりなる粒子状重合体の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0095】
(実施例4〜7、16〜18)
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物およびリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製時に、製造例1の水溶性重合体に替えて、それぞれ製造例2〜5、8〜10の水溶性重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0096】
(実施例8)
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製時に、製造例1の水溶性重合体の水溶液に替えてカルボキシメチルセルロースの水溶液(日本製紙ケミカル製、MAC350HC)を使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0097】
(実施例9)
<複合粒子の製造>
実施例1と同様にして得られたリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物を、噴霧乾燥機(大川原化工機社製、OC−16)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)の回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度が90℃の条件で、噴霧乾燥造粒を行い、リチウムイオン二次電池負極用複合粒子(体積平均粒子径D50:35μm)を得た。
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製>
上述のようにして得られた複合粒子に、炭素系負極活物質としての人造黒鉛75部、製造例1の水溶性重合体の4.5%水溶液を固形分相当で1.0部加え、ディスパー付きのプラネタリーミキサーで30rpm、30分混合した。その後、粒子状重合体としてのSBRの水分散液を固形分相当で0.5部相当加えて、20rpmで15分混合し、ペースト状のスラリーを得た。さらにその後、粘度が2000±100mPa・s(B型粘度計、12rpmで測定)となるようにイオン交換水を加え、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を調製した。なお、このスラリー組成物の固形分濃度をもとに、負極の生産性を評価した。結果を表2に示す。
<リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池の製造>
上述のようにして得られたリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池用負極を得た。この負極を用いて負極合材層と集電体の密着性を評価した。結果を表2に示す。
そして、上述の負極、実施例1と同様にして得られた正極を用いて、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。このリチウムイオン二次電池を用いて、レート特性、サイクル特性および保存安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0098】
(実施例10、13)
リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製時における、人造黒鉛および水溶性重合体の添加量、並びにリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製時における人造黒鉛の添加量を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0099】
(実施例11)
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製時における、水溶性重合体および粒子状重合体の添加量を表2のように変更し、カルボキシメチルセルロースの水溶液(日本製紙ケミカル製、MAC350HC)を表2の固形分量で添加した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0100】
(実施例12)
リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製時における水溶性重合体の添加量およびリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製時における粒子状重合体の添加量を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0101】
(実施例14)
リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製時における、水溶性重合体の添加量を表2のように変更した以外は、実施例10と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0102】
(実施例15)
リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製時における、水溶性重合体の添加量を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0103】
(比較例1)
リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物を調製せず、以下のようにして調製されたリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
<リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製>
シリコン系負極活物質としてのSiO
x20部、炭素系負極活物質としての人造黒鉛80部、水溶性重合体の4.5%水溶液を固形分相当で4.0部を、ディスパー付きのプラネタリーミキサーに加え、30rpm、30分混合した。その後、粒子状重合体としてのSBRの水分散液を固形分相当で0.5部相当加えて、20rpmで15分混合し、ペースト状のスラリーを得た。さらにその後、粘度が2000±100mPa・s(B型粘度計、12rpmで測定)となるようにイオン交換水を加え、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を調製した。
【0104】
(比較例2、3)
リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製時に、製造例1の水溶性重合体に替えて、それぞれ製造例6、7の水溶性重合体を使用した以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0105】
(比較例4)
リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物の調製時に、製造例1の水溶性重合体に替えて、ポリアクリル酸のリチウム塩(ポリカルボン酸[アルドリッチ製、分子量=300万]の1%水溶液を水酸化リチウム[和光純薬、特級試薬]でpH8に調製したもの)を使用した以外は、実施例8と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。そして、実施例1と同様の項目について評価した。結果を表2に示す。
【0106】
なお、以下に示す表中、
「AA」は、アクリル酸を示し、
「AAm」は、アクリルアミドを示し、
「DMAAm」は、ジメチルアクリルアミドを示し、
「PEGDA」は、ポリエチレングリコールジアクリレートを示し、
「PTMGDA」は、ポリテトラメチレングリコールジアクリレートを示し、
「AMPS」は、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を示し、
「MMA」は、メチルメタクリレートを示し、
「Si活物質」は、シリコン系負極活物質を示し、
「炭素活物質」は、炭素系負極活物質を示し、
「CMC」は、カルボキシメチルセルロースを示し、
「PAA」は、ポリアクリル酸のリチウム塩を示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
上述の表2の実施例1〜18および比較例1〜4より、実施例1〜18では、シリコン系負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性を優れたものとできていることがわかる。そして、実施例1〜18では、負極の生産性および負極合材層と集電体の密着性が確保され、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が十分に低減されており、加えて保存安定性を優れたものとできていることがわかる。
また、表2の実施例1〜3より、粒子状重合体の種類を変更することによりリチウムイオン二次電池のサイクル特性および保存安定性を向上させうることがわかる。
更に、表2の実施例1、4〜7、16〜18より、水溶性重合体を調製する際の単量体の種類や配合割合を変更することにより、負極の生産性およびリチウムイオン二次電池の保存安定性およびサイクル特性を向上させうることがわかる。
そして、表2の実施例1、8、11、12、15より、ペースト組成物およびスラリー組成物の調製の際に添加する水溶性重合体、粒子状重合体および増粘剤の量を変更することにより、負極合材層と集電体の密着性およびリチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させ、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減しうることがわかる。
加えて、表2の実施例1、9より、ペースト組成物に替えて、当該ペースト組成物を乾燥造粒してなる複合粒子を用いることで、負極の生産性を向上させうることがわかる。
また、表2の実施例1、10、13、14より、ペースト組成物を調製する際の、負極活物質中に占めるシリコン系負極活物質の割合を変更することで、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減しうることがわかる。