特許第6732223号(P6732223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6732223ストレスに起因する精神症状の予防または緩和用の食品または医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732223
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】ストレスに起因する精神症状の予防または緩和用の食品または医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/15 20160101AFI20200716BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20200716BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20200716BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20200716BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20200716BHJP
【FI】
   A23L33/15
   A61K31/355
   A61K31/045
   A61K45/00
   A61P25/00 101
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-15856(P2016-15856)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-131185(P2017-131185A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】593204214
【氏名又は名称】三菱ケミカルフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】七里 元督
(72)【発明者】
【氏名】青木 由典
(72)【発明者】
【氏名】小池 泰介
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 ビタミン,2013年,第87巻,第2号,第61−69頁
【文献】 ビタミン,2012年,第86巻,第4号,第212,213頁
【文献】 ビタミン,福澤 健治,第86巻,第12号,第671−677頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00−35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
AGRICOLA(STN)
FSTA(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トコフェロール類、トコトリエノール類およびプレニル基(イソプレノイド)含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、ストレスに起因する精神症状の予防又は緩和用食品組成物であって、前記ストレスに起因する精神症状が、刺激に対する過敏症状、過度の緊張、神経の高ぶり、興奮、イライラ、不安感、ナーバス、焦り、焦燥感、切迫感、強迫観念、狼狽感、動揺、精神的混乱、怒りっぽい、腹立たしい、不快感、気忙しい、リラックスできない、落ち着かない、気が散る、集中できない、過活動、逃避からなる群から選ばれる症状であり、
トコフェロール類が、(α−、β−、γ−、δ−)トコフェロール、クロマン骨格の2位のメチル基以外の置換基(側鎖)が−CH2−(CH2−CH2−CH(CH3)−CH2n−H(n=1,2、4〜10の整数)である化合物であり、
トコトリエノール類が(α−、β−、γ−、δ−)トコトリエノール、クロマン骨格の2位のメチル基以外の置換基(側鎖)が−CH2−(CH2−CH = C(CH3)−CH2n−H(n=1,2、4〜10の整数)である化合物であり、
プレニル基(イソプレノイド)含有化合物のプレニル基が、ジメチルアリル基、ゲラニル基、ファルネシル基、ゲラニルゲラニル基、ゲラニル基ファルネシル基、ヘキサプレニル基、オクタプレニル基、又はデカプレニル基である、ストレスに起因する精神症状の予防又は緩和用食品組成物
【請求項2】
(α−、β−、γ−、δ−)トコトリエノール、ゲラニオール、ゲラニルゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、スクアレン、ユビキノン、ユビキノール、メナキノン−4(ビタミンK2)、メナキノン−7、フィトエン、ドリコール、ファルネシルピロリン酸、テプレノン、インドメタシンファルネシルからなる群から選ばれる少なくとも1種を配合してなる、請求項1に記載のストレスに起因する精神症状の予防又は緩和用食品組成物。
【請求項3】
トコフェロール類、トコトリエノール類およびプレニル基(イソプレノイド)含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分とする、ストレスに起因する精神症状の予防又は緩和用医薬組成物であって、前記ストレスに起因する精神症状が、全般性不安障害、強迫神経症、強迫性障害、神経過敏、パニック症状、強迫行為、強迫観念、不穏、精神錯乱、恐怖症からなる群から選ばれる症状であり、
トコフェロール類が、(α−、β−、γ−、δ−)トコフェロール、クロマン骨格の2位のメチル基以外の置換基(側鎖)が−CH2−(CH2−CH2−CH(CH3)−CH2n−H(n=1,2、4〜10の整数)である化合物であり、
トコトリエノール類が(α−、β−、γ−、δ−)トコトリエノール、クロマン骨格の2位のメチル基以外の置換基(側鎖)が−CH2−(CH2−CH = C(CH3)−CH2n−H(n=1,2、4〜10の整数)である化合物であり、
プレニル基(イソプレノイド)含有化合物のプレニル基が、ジメチルアリル基、ゲラニル基、ファルネシル基、ゲラニルゲラニル基、ゲラニル基ファルネシル基、ヘキサプレニル基、オクタプレニル基、又はデカプレニル基である、ストレスに起因する精神症状の予防又は緩和用医薬組成物
【請求項4】
(α−、β−、γ−、δ−)トコトリエノール、ゲラニオール、ゲラニルゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、ファルネシルピロリン酸、テプレノン、スクアレン、ユビキノン、ユビキノール、メナキノン−4(ビタミンK2)、メナキノン−7、インドメタシンファルネシル、フィトエン、ドリコール、からなる群から選ばれる少なくとも1種を配合してなる、請求項3に記載のストレスに起因する精神症状の予防又は緩和用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレスに起因する精神症状の予防または緩和用の食品または医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トコトリエノールはトコフェロールと共にビタミンE同族体である。両者は、構造的に類似しているが、クロマン環の側鎖がトコフェロールではフィチル側鎖であるのに対しトコトリエノールではイソプレノイド側鎖である点で両者は相違する。
【0003】
特許文献1は、トコトリエノールがニューロン損傷、心臓組織損傷、外皮損傷、筋肉組織損傷などの12−リポキシゲナーゼ媒介性細胞毒性を阻害することを開示する。
【0004】
一方、ストレスは脳の興奮状態を招来させ、うつ病性障害、全般性不安障害、不眠症などの原因となっており、治療には三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピン系薬剤などの向精神薬が用いられることが多いが、自殺や依存性などに注意が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-501846
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ストレスに起因する精神症状を安全に予防もしくは緩和することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の食品組成物及び医薬組成物を提供するものである。
項1. トコフェロール類、トコトリエノール類およびプレニル基(イソプレノイド)含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、ストレスに伴う精神症状の予防又は緩和用食品組成物。
項2. トコトリエノール、ゲラニオール、ゲラニルゲラニオール、ファルネソール、スクアレン、ユビキノン、ユビキノール、メナキノン−4(ビタミンK2)、メナキノン−7、フィトエン、ドリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を配合してなる、項1に記載のストレスに伴う精神症状の予防又は緩和用食品組成物。
項3. トコフェロール類、トコトリエノール類およびプレニル基(イソプレノイド)含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分とする、ストレスに伴う精神症状の予防又は緩和用医薬組成物。
項4. トコトリエノール、ゲラニオール、ゲラニルゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、ファルネシルピロリン酸、テプレノン、スクアレン、ユビキノン、ユビキノール、メナキノン−4(ビタミンK2)、メナキノン−7、インドメタシンファルネシル、フィトエン、ドリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を配合してなる、項3に記載のストレスに伴う精神症状の予防又は緩和用医薬組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ストレスに起因する精神症状を安全かつ効果的に予防もしくは緩和できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の作用メカニズムを示す概略図
図2】12-HETEの構造式
図3】水浸拘束負荷と血漿中12-HETEの変化及び12/15リポキシゲナーゼとの関係
図4】12-HETEと胃潰瘍の関係
図5】水浸拘束負荷後各臓器の12-HETE
図6】ビタミンE及びゲラニルゲラニオールの構造
図7】水浸拘束負荷後の血漿12-HETE生成に対するトコトリエノール及びゲラニルゲラニオールの影響
図8】12-HpETE、12-HETEの構造式と生成
図9】水浸拘束負荷後の総行動距離と12-HpETE投与の影響
図10】水浸拘束負荷後の尾懸垂試験と12-HpETE投与の影響
図11】想定されるストレス関連疾患の発症機序
図12】大脳皮質のノルアドレナリンとMHPGと12-HpETE投与の影響
図13】視床下部のノルアドレナリンとMHPGと12-HpETE投与の影響
図14】水浸拘束負荷後の高架式十字迷路試験におけるトコトリエノール及びゲラニルゲラニオールの影響
図15】水浸拘束負荷後の尾懸垂試験におけるトコトリエノール及びゲラニルゲラニオールの影響
図16】水浸拘束負荷後の胃潰瘍の形成に対するトコトリエノール及びゲラニルゲラニオールの影響
図17】大脳皮質のノルアドレナリンとMHPGに対する各化合物の影響
図18】視床下部のノルアドレナリンとMHPGに対する各化合物の影響
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、リポキシゲナーゼは、脂質酸化酵素の1種であり、哺乳動物で以下のように分布する。
・12-リポキシゲナーゼ
・血小板型12-リポキシゲナーゼ
アラキドン酸 → 12-HETE (ヒトは血小板型のみ)
・白血球型12-リポキシゲナーゼ
アラキドン酸 → 12-HETE, 15-HETE
(ブタ、ウマ、マウスの白血球の12-リポキシゲナーゼは15-リポキシゲナーゼとの相同性が高く12/15-リポキシゲナーゼ と言われている。
*ヒトでは12/15-リポキシゲナーゼは存在しない)
・15-リポキシゲナーゼ:様々な組織にあり、 ヒトとウサギに存在する。
・15-リポキシゲナーゼ-1 : リノール酸 →13-(Z,E)-HODE
・15-リポキシゲナーゼ-2 : アラキドン酸 →15-HETE
その他にも5-リポキシゲナーゼ、8-リポキシゲナーゼ等がある。
【0011】
本発明において、ストレスに起因する精神症状の改善には、ビタミンE同族体であるトコフェロール類、トコトリエノール類およびトコトリエノール類のイソプレノイド側鎖構造に類似のプレニル基(イソプレノイド)含有化合物が有効である。好ましくはトコトリエノール類およびトコトリエノール類のイソプレノイド側鎖構造に類似のプレニル基(イソプレノイド)含有化合物である。
【0012】
ビタミンEの構造を図6に示す。
【0013】
ビタミンEは脂溶性ビタミンの一種であり、 天然にはα-, β-, γ-, δ-トコフェロールとα-, β-, γ-, δ-トコトリエノールの8種類が存在する。トコフェロールはクロマン環にフィチル側鎖が結合した構造をしている。トコトリエノールはクロマン環にイソプレノイド側鎖が結合した構造をしている。トコフェロール、トコトリエノールはそれぞれクロマン環につくメチル基の位置及び数によってα-, β-, γ-, δ-トコフェロールとα-, β-, γ-, δ-トコトリエノールと命名されている。
【0014】
トコフェロール類としては、(α−、β−、γ−、δ−)トコフェロール、クロマン骨格の2位のメチル基以外の置換基(側鎖)が
−CH−(CH−CH−CH(CH)−CH−H(n=1、2、4〜10の整数)
である化合物が挙げられる。
【0015】
トコトリエノール類としては、(α−、β−、γ−、δ−)トコトリエノール、クロマン骨格の2位のメチル基以外の置換基(側鎖)が
−CH−(CH−CH = C(CH)−CH−H(n=1、2、4〜10の整数)である化合物が挙げられる。
ここで、−(CH−CH = C(CH)−CH−H がプレニル基 であり、置換基(側鎖)としては、ジメチルアリル基、ゲラニル基、ファルネシル基、ゲラニルゲラニル基、ゲラニルファルネシル基、ヘキサプレニル基、オクタプレニル基、デカプレニル基などの、プレニル基を1〜10個有する基が挙げられる。
トコトリエノール類のイソプレノイド側鎖構造に類似のプレニル基(イソプレノイド)含有化合物としては、ゲラニオール、ゲラニルゲラニオール、ファルネソール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、ファルネシルピロリン酸、テプレノン、スクアレン、ユビキノン、ユビキノール、メナキノン−4(ビタミンK2)、メナキノン−7、インドメタシンファルネシル、フィトエン、ドリコールなどが挙げられる。
【0016】
プレニル基(イソプレノイド)含有化合物のプレニル基の構造を以下に示す。
【0017】
【化1】
【0018】
プレニル基(イソプレノイド)含有化合物の構造例を以下に示す。
【0019】
【化2】
【0020】
ストレスに伴う精神症状としては、トコフェロール類、トコトリエノール類およびプレニル基(イソプレノイド)含有化合物は、これらの精神症状を予防、緩和、改善もしくは治療することができる。
【0021】
本発明の食品組成物により主に緩和もしくは改善され得るストレスに伴う精神症状としては、刺激に対する過敏反応、(過度の)緊張、神経の高ぶり、神経質、興奮、イライラ、不安感、憂鬱、ナーバス、焦り、焦燥感、切迫感、強迫観念、狼狽感、動揺、精神的混乱、怒りっぽい、腹立たしい、不快感、自分を責める、無価値観、落ち込み、覇気がない、やる気が出ない、現実逃避、気忙しい、リラックスできない、落ち着かない、気が散る、集中できないといった症状、さらにこれら精神症状に伴う不眠(睡眠障害)、物忘れ、物覚えの悪さ、過食、拒食、異常な間食、食欲不振、体重増加、体重減少、胃部不快感、胃もたれ、むかつき、目の疲れ、胸の圧迫感、手足の冷感、なかなか疲れがとれない、物(酒、煙草、賭け事、ゲーム等)への依存性が高まる、ストレス性行動(衝動的な暴力、暴言、怒鳴る、泣きわめく、叫ぶ、八つ当たりする、過活動、自傷行為、自殺企図、独り言を言う、引きこもる、不登校、逃避、放浪、ケアレスミス、電話をかけまくる、いつも同じことを繰り返す(常同行為)、危険な行動・行為を繰り返す、衝動買い等)、動悸喜怒哀楽をコントロールできないといった症状などが挙げられる。
【0022】
本発明の医薬組成物により主に改善され得るストレスに伴う精神症状としては、ストレスによって引き起こされる不安(全般性不安障害、強迫神経症(強迫性障害)、を含む)、神経過敏、パニック症状、強迫行為、強迫観念、ノイローゼ、不穏、精神錯乱、恐怖症といった症状、さらにはこれら精神症状に伴う睡眠障害、記銘力障害、消化器症状(下痢、便秘、食欲不振、吐き気、心因性多食症、味覚障害、過敏性腸症候群、逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎等)、循環器症状(高血圧、低血圧、不整脈、虚血性心疾患等)、糖尿病、自律神経失調症、易感染性、自傷行為、自殺、リストカット、口渇、肩こり、首のこり、背部痛、腰痛、手足のしびれ、歯ぎしり、顎関節症、偏頭痛、緊張性頭痛、めまい、耳鳴り、立ちくらみ、突発性難聴、息切れ、息苦しさ、寝汗、緊張性の発汗、かゆみ、ほてり、のぼせ、微熱、手足の冷感、冷え症、神経性の頻尿、過敏症膀胱、夜尿症、残尿感、性機能低下、皮膚のかゆみ、アトピー性皮膚炎、帯状疱疹、じんましん、肌荒れ、アレルギー、円形脱毛症、肌荒れ 湿疹、口内炎 ヘルペス、喘息、神経因性咳嗽、生理不順、月経前症候群、月経困難症、更年期障害が挙げられる。
【0023】
ストレスに起因する精神症状の改善用のトコトリエノール類およびプレニル基(イソプレノイド)含有化合物の成人1日あたりの好ましい摂取量は、必要に応じて、1用量あたり約1mg 〜 約1000mg の単一用量または複数回用量で、被験体に毎日投与される。好ましくは、成人に対する用量は約600mgであり、そして一日あたり1 〜 3回投与される。
【0024】
本発明の食品組成物としては、具体的には、穀類(米ぬか、米胚芽、パーム油、大麦、小麦胚芽、ライ麦等)、飲料類(清涼飲料、コーヒー、ココア、ジュース、ミネラル飲料、茶飲料(緑茶、紅茶、烏龍茶等)、乳飲料、炭酸飲料など)、洋菓子(チョコレート、ガム、グミ、タブレット、ゼリー、キャンデー、クッキー、クラッカー、ビスケット、スナック菓子、ケーキ、プリン等)、和菓子(飴、煎餅、かりんとう、あられ、団子、おはぎ、大福、豆もち、餅、餡、饅頭、カステラ、あんみつ、羊かん等)、氷菓(アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベット、かき氷等)、レトルトカレーなどのレトルト食品、即席ラーメン、即席うどん、即席そば、即席焼きそば、即席スパゲティなどの即席食品、瓶詰・缶詰、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、テリーヌ、ゼリー状飲料等)、調味料(食塩、醤油、みりん、味噌、旨味調味料、複合調味料、ソース、マヨネーズ、ケチャップ等)乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト、生クリーム等)、加工果実(ジャム、マーマレード、シロップ漬、干し果実等)、穀類加工食品(麺、パスタ、パン等)、漬物(たくあん、奈良漬、キムチ等)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、サラミ、ベーコン等)、冷凍食品(エビフライ、コロッケ、春巻き、とんかつ、シューマイ、餃子、ハンバーグ、たこ焼き等)、油脂食品(サラダオイル、パーム油、ココナッツ油、米ぬか油、マーガリン、バター)、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品、高齢者用食品などが挙げられる。
【0025】
医薬組成物には、トコフェロール類、トコトリエノール類およびプレニル基(イソプレノイド)含有化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種と薬学的に許容される担体が含まれる。医薬組成物は、素錠、フィルムコート錠、糖衣錠などの錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル、チュアブル錠、シロップ剤、ドリンク剤などの剤形で提供される。
【0026】
本発明の食品組成物及び医薬組成物は、ストレスに伴う精神症状が顕在化したときに摂取すれば症状を軽減することができ、症状がないときに摂取すればストレスがかかったときの症状を軽減することができる。従って、本発明の食品組成物及び医薬組成物は、予防的にも治療的にも使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
【0028】
実施例では、以下の1)〜7)の方法を用いた。
1)水浸拘束負荷方法
10週令雄のC57BL6/Jマウスを柔らかいステンレス製金網に入れ拘束する。拘束は呼吸ができなくなる程には圧迫は行わず、回転できるほどの自由度がある状態で行う。
常温の水を1.5cmの深さにはった水槽(水温は24±1℃)に、マウスを拘束状態にした金網を横にして入れる。水深はマウスの腹部、脚部のみが水に接する程度に設定し、その状態で3時間の水浸拘束を負荷する。
【0029】
水浸拘束中マウスは絶食状態であり、対照であるマウス(水浸拘束非負荷)も同じ時間絶食としている(飲水は可能)。
【0030】
2)高架式十字迷路
高架式十字迷路は地上から50cmの高さに十字状に迷路(幅10cm)が組まれている。2方向(幅10cm 長さ50cm)には高さ40cmの壁に囲まれており、別の2方向(幅10cm 長さ50cm)には壁がない。
水浸拘束終了後、マウスをステンレス製金網より取り出し、高架式十字迷路の中心部分(10cm ×10cm)にそっと置き、中心部の上方に取り付けたビデオカメラにて撮影し、マウスの行動を行動解析装置にて記録する。行動解析装置にて5分間のマウスの移動した距離、移動した時間を解析する。
【0031】
3)尾懸垂試験
水浸拘束終了後、マウスをステンレス製金網より取り出し、マウスの尾の先端1-1.5cmにテープを巻いて固定する。尾の無いテープの先端部分を支持台に取り付けたクリップで挟む。マウスは尻尾を固定された状態で空中でぶら下がった状態となる。高さはマウスの鼻先が机上から20-25cmとなるようにする。支持台およびマウスを3方向を壁で取り囲み、1方向からビデオカメラにてマウスの行動を記録する。
6分間マウスを懸垂した状態におき、マウスの体動がない時間(秒)を測定した。
【0032】
4)血漿および脳組織の採取
水浸拘束および行動実験終了後、麻酔下にて血液を採取する。また脳組織も採取する。
血液はヘパリンを添加した状態で採取し、4℃、830g で5分間遠心分離し、血漿成分を抽出し-80℃で保存する。
脳組織はさらに大脳皮質、視床下部を分画・採取し-80℃で保存する。
【0033】
5)脂質酸化物の解析方法
(i) 血漿(もしくは組織ホモジネート) 50μLに生理食塩水450μLを加え、合計500μLにする。
(ii) 内部標準と1mM トリフェニルフォスフィンおよび100μM 2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール含有メタノール溶液を515μL加える。
【0034】
(内部標準:1mg/L 13-(Z,E)-HODE-d4、1mg/L 8-イソプロスタン-d4、3.6mg/L 7α-ヒドロキシコレステロール-d7)
(iii) 窒素置換後、ふたを閉めて撹拌しながら室温で30分間静置(還元処理)。
(iv) 500μLの 1M 水酸化カリウム含有メタノール溶液を加えて、もう一度窒素置換し、40℃、30分間処理(けん化処理)。
(v) 10%酢酸水溶液を2ml 加える。
(vi) クロロホルム/酢酸エチル(4/1)を5ml 加えて1分間激しく撹拌。
(vii) 4℃ 3,000Gで 10分間遠心。
(viii) 上層および蛋白の層を吸引にて除去。
(ix) 下層(約5ml)を窒素ガスで約2mlまで濃縮 (30℃まで加温可能)
(x) サンプルチューブにガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)用と液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC-MS/MS)用に2等分する。
(xi) 窒素ガスで完全に乾固する。(測定まで-30℃以下で保存可能)
(xii) 液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC-MS/MS)解析用:70%メタノール水溶液を200μl加えて激しく撹拌。フィルターにて夾雑物を除去。
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)析用:N、O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド 30μLを加えて60℃で1時間加温処理した後氷冷。アセトン50μLを加えてサンプルとする。
【0035】
液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC-MS/MS)にて、9-(E,Z)-HODE(9-ヒドロキシ-10(E),12(Z)-オクタデカジエノイックアシッド)、9-(E,E)-HODE(9-ヒドロキシ-10(E),12(E)-オクタデカジエノイックアシッド)、13-(Z,E)-HODE(13-ヒドロキシ-9(Z),11(E)-オクタデカジエノイックアシッド)、13-(E,E)-HODE(13-ヒドロキシ-9(E),11(E)-オクタデカジエノイックアシッド)、5-HETE(5-ヒドロキシ-6,8,11,14-エイコサテトラエノイックアシッド)、12-HETE(12-ヒドロキシ-5,8,10,14-エイコサテトラエノイックアシッド)、15-HETE(15-ヒドロキシ-5,8,11,13-エイコサテトラエノイックアシッド)を同時に測定した。
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)にて、コレステロール、7α-ヒドロキシコレステロール、7β-ヒドロキシコレステロール、リノール酸を測定した。
【0036】
6)血漿中α-トコフェロール、α-トコトリエノール、γ-トコトリエノール濃度の測定方法
血漿50μlに20μM BHT含有クロロホルム/メタノール(クロロホルム:メタノール=2:1)を150μl添加。撹拌を1分行い、4℃、15,000rpmで 5分間、遠心分離し下層を回収する。下層(クロロホルム層)10μlを液体クロマトグラフ-電気化学検出器(HPLC-ECD)にて測定した。HPLCの条件はカラムφ4.6mm×250mmのODSカラムおよび還元カラム(4.0mm×15mm)を使用し、カラム温度は40℃で行った。移動相溶液は50mM NaClO4含有メタノールを用い、流速 0.7ml/分とした。
【0037】
7)脳内モノアミン類の測定方法
水浸拘束、行動実験後に大脳皮質と視床下部を分解採取した。各組織重量の10倍量(1mgあたり10μL)の0.2 M perchloric acid(100 μM EDTA-2Na と内部標準物質として100 ng of isoproterenolを含有)を加え、ホモジナイザーにて組織破砕する。30分間氷上で静置した4℃、20,000gにて15分間遠心分離する。遠心後、上清を採取し適量の1M CH3COONaを添加し、pHを3に調整する。うち10μLを液体クロマトグラフ-電気化学検出器(HPLC-ECD)にて測定する。測定は、4.6×150mm ODSカラムを用い、カラム温度は25℃に設定する。移動相溶液は0.83 M citrate-sodium acetic acid buffer (pH 3.5に調整。230 mg/l octane sulphonic acid、5 mg/l EDTA-2Na、17% メタノールを含有)を用い、流速は1.0 mL/分とする。
【0038】
本発明の説明
本発明の代表的化合物を用いて効果発現を動物実験にて検証し、詳細なメカニズムを解明した(図1参照)。
【0039】
マウスへのストレス(水浸拘束負荷)によって白血球型12-リポキシゲナーゼ(12/15-リポキシゲナーゼ)の活性化を介してアラキドン酸酸化物の1種である12-hydroxyeicosatetraenoic acid (12-HETE)が血漿中で増加する。この12-HETEは大脳皮質および視床下部においてノルアドレナリン放出を惹起することを見出した。水浸拘束負荷後に尾懸垂試験を行ったところ、水浸拘束ストレスによって逃避衝動が誘導されるが、12-HETEは脳内ノルアドレナリンの放出を惹起することでこの逃避衝動を誘導することを見出した。
【0040】
マウスにα-トコフェロール、α-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、ゲラニルゲラニオール(トコトリエノールは12/15-リポキシゲナーゼ活性阻害作用を有する)を添加した餌を1週間投与した後、水浸拘束を負荷した。各化合物は血漿中12-HETEの生成を抑制し、ストレス負荷後の逃避衝動の亢進を抑制した。また、大脳皮質および視床下部におけるノルアドレナリン放出を抑制することを確認した。
【0041】
参考例1
本発明者はマウスにストレス負荷である水浸拘束を負荷するとアラキドン酸酸化物の1種である12-hydroxyeicosatetraenoic acid (12-HETE)(図2) が血中で著増することを見出した(図3)。また、脂質酸化酵素であるマウス白血球型12-リポキシゲナーゼ(12/15−リポキシゲナーゼ)の欠損マウスに対する同負荷では12-HETE増加が抑制されることを見出した(図3左)。また、マクロファージ内の12/15-リポキシゲナーゼの局在が水浸拘束によって細胞質から膜に移行することを確認し(図3右)、この12/15-リポキシゲナーゼの局在変化によって12/15-リポキシゲナーゼが活性化することで12-HETEが血中で増加することが考えられた。
【0042】
水浸拘束をマウスに負荷するとストレス負荷に起因して胃潰瘍が発生する。そこで、マウスに胃潰瘍治療薬(プロトンポンプ阻害剤)を前投与した後、水浸拘束を負荷した。プロトンポンプ阻害剤により胃潰瘍は完全に抑制できたが、血漿中12-HETEの生成は抑制されなかった(図4)ことから、12-HETE産生は胃潰瘍ではなくストレスに起因していることが明らかとなった。
【0043】
また、マウスへの水浸拘束3時間負荷後、血漿及び組織を採取し、胃、脳、腸管、肝臓、脾臓、精巣の各組織の脂質酸化生成物を測定した。今回調べた組織/臓器の範囲では脂質酸化物が顕著に増加している組織/臓器はなく、血漿中でのみ顕著に増加が認められた(図5)。図中のtHODEはリノール酸酸化物(hydroperoxyoctadecadienoic acid)を示す。
【0044】
実施例1
水浸拘束負荷によって増加する12-HETEの生成をα-トコトリエノールで抑制できるかを確かめた。
【0045】
具体的には、α-トコフェロール(αT)、α-トコトリエノール(αT3)、γ-トコトリエノール(γT3)、ゲラニルゲラニオール(GGOH)(図6参照)を餌重量あたり0.1%含有した餌、および対照餌(cont.)として餌重量あたり0.002%のα-トコフェロールを含有した餌を作成し、9週齢のC57BL6マウスに1週間与えた。餌を与え1週間後に水浸拘束を3時間負荷し、水浸拘束負荷終了後に血漿を採取し、液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC-MS/MS)にて脂質酸化物を測定した(方法の詳細は前述の5))。
【0046】
結果、図7に示すように水浸拘束後の血漿中の12-HETEの生成の抑制効果を確認した。12-HETE生成抑制効果はγ-トコトリエノール>α-トコトリエノール>ゲラニルゲラニオール>α-トコフェロールの順で強かった。
【0047】
ゲラニルゲラ二オールでも効果が認められたことから、これらに共通するイソプレノイド構造が12/15-リポキシゲナーゼの活性阻害効果を有している可能性がある。
【0048】
同じサンプルを用いて血漿中α-トコフェロール、α-トコトリエノール、γ-トコトリエノール濃度を測定した(方法は前述の6))。結果を表1に示す。α-トコトリエノール投与群ではα-トコトリエノールが血漿中で検出され、γ-トコトリエノール投与群ではγ-トコトリエノールが血漿中で検出された。しかしながら、α-トコフェロール投与群で認められたα-トコフェロール濃度に比べ低濃度であった。
【0049】
【表1】
【0050】
さらに、水浸拘束負荷後に増加する12-HETEにどのような生理作用があるかを検証するために行動実験を行った。
【0051】
野生型マウスに水浸拘束を負荷せず12-HpETE(12/15-リポキシゲナーゼによって生成されるアラキドン酸の過酸化物であり、12-HETEは12-HpETEの還元物(図8参照))を500ng投与し行動実験を行った。また、12/15−リポキシゲナーゼ欠損マウスに対して3時間の水浸拘束を負荷し、水浸拘束終了10分前に12-HpETEを500ng投与し行動実験を行った。
12-HpETEは尾静脈から静注した。血液中で12-HpETEは速やかに還元され12-HETEとなる。500ngの静脈投与によって血液中で水浸拘束負荷時と同濃度まで12-HETE濃度が上昇することを確認している。
【0052】
3時間の水浸拘束後に行動実験として高架式十字迷路試験と尾懸垂試験を行った(方法は前述2)、3))。
高架式十字迷路試験では、総行動距離を測定することで、水浸拘束負荷後の疲労度を評価することができる。
【0053】
野生型マウスでは水浸拘束後にぐったりとしており総行動距離も顕著に減少していた(図9)。野生型マウスに対して12-HpETEを投与してもぐったり感は現れず、総行動距離も減少しなかった。
【0054】
一方、水浸拘束を負荷した12/15−リポキシゲナーゼ欠損マウスでは、ぐったり感はやや改善しており、水浸拘束後の野生型マウスに比べ総行動距離は長かった。また、水浸拘束負荷後の12/15−リポキシゲナーゼ欠損マウスに12-HpETEを投与すると総行動距離は減少した。
12-HETE(12-HpETE)は単独では疲労・ぐったり感を誘導しないが、水浸拘束負荷という負荷があれば12-HETE(12-HpETE)は疲労・ぐったり感を誘導することが明らかとなった。
【0055】
尾懸垂試験では逃避不可能な状況(尾懸垂)での逃避行動を観察する。逃避をあきらめる(絶望する)と無動となり6分間の試験中の無動時間を計測する。無動時間が長いことはうつ傾向が強いこと意味し、抗うつ剤、アンフェタミン、カフェインで無動時間が短くなることが知られており抗うつ薬の評価に使用される。
【0056】
野生型マウスでは、上述の高架式十字迷路試験の結果で示される通り、水浸拘束後にぐったりとしているため、水浸拘束後に尾懸垂試験を実施すると無動時間が増加することが予想されていた。しかしながら、図10に示すように水浸拘束負荷によって無動時間は逆に減少し、尾懸垂の状態からの逃避衝動が亢進していることを見出した。また、野生型マウスに対して12-HpETEを投与すると、この逃避衝動が水浸拘束負荷せずに誘導された。一方、12/15−リポキシゲナーゼ欠損マウスでは水浸拘束を負荷しても、無動時間の減少は見られなかった。しかしながら、12/15−リポキシゲナーゼ欠損マウスに水浸拘束負荷後に12-HpETEを投与すると無動時間は減少した。
【0057】
以上の結果より、12-HETE(12-HpETE)は水浸拘束というストレス負荷後の逃避衝動を誘導する生理作用を有していることを見出した。
【0058】
これまでの知見をヒトの生理的反応および疾患に適用して考える(図11参照)。
ストレスに対して「逃避もしくは闘争」するのは生理的反応として知られているが、過度のストレスによって12-HETEが過剰に産生されると、微細な刺激に過敏に逃避衝動を感じる過度の緊張や不安状態を起こすことで外傷後ストレス障害やパニック障害・不安障害に陥り、逆に12-HETEが生成されなくなると、刺激に対する逃避衝動が減弱し、うつ病に陥ることが予想される。
【0059】
この12HETE(12-HpETE)による逃避衝動誘導のメカニズムの解明を行った。
恐怖や不安に関与すると言われている脳内のノルエピネフリン(NE)に着目した。NEは節前神経終末からシナプス間隙に分泌された後、節前神経に再取り込みされるが、一部はモノアミン酸化酵素によって3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール(MHPG; 3-methoxy-4-hydroxy phenylglycol)へと代謝される。すなわちNEの代謝産物であるMHPGは神経興奮によってシナプス間隙に放出されたNE量を反映することが知られている(精神神経学雑誌 2009; 111(7): 741-761; Methods Find Exp Clin Pharmacol. 1998; 20(1): 31-7.)。
【0060】
前述の図9および図10の行動解析を行ったマウスで、水浸拘束負荷・行動実験後に大脳皮質を摘出し、NEおよびMHPGを液体クロマトグラフ-電気化学検出器(HPLC-ECD)にて解析した(方法は前述、方法7))。
【0061】
野生型マウスでは水浸拘束後NEが減少し、MHPGが増加した(図12)。また、野生型マウスに水浸拘束非負荷で12-HpETEを投与するとNEは減少しなかったが、MHPGは有意差を持って増加した(図12)。
【0062】
一方、12/15−リポキシゲナーゼ欠損マウスでは水浸拘束負荷によってNEは減少せず、MHPGも増加しなかった(図12)。しかし、水浸拘束負荷後の12/15−リポキシゲナーゼ欠損マウスに12-HpETEを投与すると、NEは減少し、MHPGは増加した(図12)。
【0063】
以上の結果は視床下部においても同様の傾向が観察された(図13)。
【0064】
本結果は、水浸拘束に伴う12-HETE(12-HpETE)の増加は大脳皮質、視床下部におけるNEの神経間隙への放出を誘導し、その結果、逃避衝動の亢進という形でマウスの行動に影響が出たことを示唆する。
【0065】
以上の知見を元に、トコトリエノールおよびゲラニルゲラニオールの水浸拘束後の精神症状に対する効果を検証した。具体的には、前述と同様、α-トコフェロール(αT)、α-トコトリエノール(αT3)、γ-トコトリエノール(γT3)、ゲラニルゲラニオール(GGOH)(図6参照)を餌重量あたり0.1%含有した餌、および対照餌(cont.)として餌重量あたり0.002%のα-トコフェロールを含有した餌を作成し、9週齢のC57BL6マウスに1週間与えた。餌を与え1週間後に水浸拘束を3時間負荷し、水浸拘束負荷終了後に高架式十字迷路および尾懸垂試験を行った。また、行動実験終了後に脳組織を採取した。
【0066】
高架式十字迷路試験では水浸拘束後の総行動距離の改善効果が確認された(図14)。総行動距離の改善効果はγ-トコトリエノール>α-トコトリエノール>ゲラニルゲラニオール>α-トコフェロールの順で強く、前述図7の各化合物による水浸拘束後の12-HETEの生成の抑制効果を反映していた。これらの化合物は水浸拘束後の疲労を改善できる。尾懸垂試験では、水浸拘束後の無動時間の減少・逃避衝動の亢進の改善効果が確認された(図15)。
【0067】
無動時間の減少の改善効果もγ-トコトリエノール>α-トコトリエノール>ゲラニルゲラニオール>α-トコフェロールの順で強く、前述図6の各化合物による水浸拘束後の12-HETEの生成の抑制効果を反映していた。
【0068】
また、水浸拘束負荷を行うと胃潰瘍が形成される。水浸拘束後に胃組織を採取し、ホルマリン固定した後、胃潰瘍の発生箇所の数および面積を測定した。α-トコフェロール、α-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、ゲラニルゲラニオールのいずれも胃潰瘍の発生箇所数を減少し、潰瘍面積も縮小する効果があることを確認した(図16)。
【0069】
今回使用した化合物の胃潰瘍形成抑制作用は、胃粘膜保護作用による胃潰瘍治療薬として使用されるテプレノン(「化2」参照 )に構造が類似している事が関与している可能性もある。
【0070】
各化合物による水浸拘束・行動実験終了後に脳組織を採取し、大脳皮質、視床下部のNEおよびMHPG含有量を測定・解析した。
【0071】
大脳皮質ではNE含有量は大きく変化しなかったが、水浸拘束によるMHPGの増加が、各化合物の投与によって抑制されることを確認した(図17)。α-トコフェロールに比較して、γ-トコトリエノール、α-トコトリエノール、ゲラニルゲラニオールではMHPGの抑制効果は有意に強かったが、γ-トコトリエノール、α-トコトリエノール、ゲラニルゲラニオール間では顕著な差は見られなかった。
【0072】
視床下部においてもNE含有量は大きく変化しなかった。水浸拘束によるMHPGの増加は各化合物の投与によって抑制されることを確認された(図18)。
【0073】
以上の結果は、今回使用した化合物は、水浸拘束に伴う12-HETEの生成を抑制することで脳内NEの放出を抑制し、その結果、水浸拘束というストレスによる行動症状を緩和することを示唆する。
【0074】
また、今回使用した化合物は、MHPGの増加を水浸拘束非負荷状態よりも減少させる効果はなく、また尾懸垂試験でも水浸拘束非負荷状態よりも無動時間を延長させる効果はなかった。
【0075】
この結果はこれら化合物はうつ状態を誘導するわけではないことを意味する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16
図17
図18