(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6732293
(24)【登録日】2020年7月10日
(45)【発行日】2020年7月29日
(54)【発明の名称】ポリドーパミンを含む複合コーティング層が形成されたリチウム−硫黄電池用分離膜、この製造方法及びこれを含むリチウム−硫黄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 2/16 20060101AFI20200716BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20200716BHJP
【FI】
H01M2/16 L
H01M2/16 P
!H01M10/052
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-500900(P2018-500900)
(86)(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公表番号】特表2018-520490(P2018-520490A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(86)【国際出願番号】KR2017000530
(87)【国際公開番号】WO2017131377
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2018年1月11日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0010969
(32)【優先日】2016年1月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】592127149
【氏名又は名称】韓国科学技術院
【氏名又は名称原語表記】KOREA ADVANCED INSTITUTE OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ホ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヘシン・イ
(72)【発明者】
【氏名】スン・ジン・キム
(72)【発明者】
【氏名】トゥ・キョン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】キ・ヨン・クウォン
【審査官】
小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2015/0318532(US,A1)
【文献】
特表2015−501070(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104051695(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0056517(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0141234(KR,A)
【文献】
特表2014−523630(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−1261703(KR,B1)
【文献】
特開2015−201270(JP,A)
【文献】
Joo-Seong Kim et al.,A Lithium-Sulfur Battery with a High Areal Energy Density,ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2014年 9月10日,Vol.24 No.34,pp.5359-5367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14−2/18
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜本体;及び
上記分離膜本体の少なくとも一面に形成された複合コーティング層;を含み、
上記複合コーティング層は、ポリドーパミンと伝導性物質を含み、
上記複合コーティング層は、ポリドーパミンと伝導性物質を3:1〜7:1の重量比で含むことを特徴とする、リチウム−硫黄電池用分離膜。
【請求項2】
上記複合コーティング層の厚さは、0.1〜10μmであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム−硫黄電池用分離膜。
【請求項3】
上記伝導性物質は、炭素系導電材、伝導性高分子及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウム−硫黄電池用分離膜。
【請求項4】
上記炭素系導電材は、黒鉛系、活性炭系、カーボンブラック系、炭素繊維系、炭素ナノ構造体及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種を含むことを特徴とする、請求項3に記載のリチウム−硫黄電池用分離膜。
【請求項5】
上記伝導性高分子は、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアズレン、ポリピリジン、ポリインドール、ポリカルバゾール、ポリアジン、ポリキノン、ポリアセンチレン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンジオキシチオフェン及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種を含むことを特徴とする、請求項3に記載のリチウム−硫黄電池用分離膜。
【請求項6】
上記分離膜本体と複合コーティング層の間にポリドーパミンコーティング層をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム−硫黄電池用分離膜。
【請求項7】
上記ポリドーパミンコーティング層の厚さは、0.1〜10μmであることを特徴とする、請求項6に記載のリチウム−硫黄電池用分離膜。
【請求項8】
リチウム−硫黄電池用分離膜の製造方法において、
i)分離膜本体を準備する段階;
ii)ポリドーパミン、伝導性物質及び溶媒を混合してスラリーを製造する段階;
iii)上記スラリーを分離膜本体の少なくとも一面にコーティングする段階;及び
iv)上記コーティングされた分離膜を乾燥して複合コーティング層を形成する段階;を含み、
上記複合コーティング層は、ポリドーパミンと伝導性物質を3:1〜7:1の重量比で含むことを特徴とする、リチウム−硫黄電池用分離膜の製造方法。
【請求項9】
上記i)段階を行った後、ii)段階を行う前に、
ポリドーパミンスラリーを製造して分離膜の本体上にコーティングした後、乾燥してポリドーパミンコーティング層を形成する段階を行うことを特徴とする、請求項8に記載のリチウム−硫黄電池用分離膜の製造方法。
【請求項10】
正極;負極;上記正極と負極の間に介在される分離膜;及び電解質を含むリチウム−硫黄電池において、
上記分離膜は、請求項1ないし請求項7のいずれか一項の分離膜であることを特徴とするリチウム−硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年1月28日付韓国特許出願第10−2016−0010969号を基礎した優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容を本明細書の一部として含む。
本発明は、ポリドーパミンを含む複合コーティング層が形成されたリチウム−硫黄電池用分離膜及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、電子製品、電子機器、通信機器などの小型軽量化が急速に進められており、環境問題と係って電気自動車の必要性が台頭されることにつれ、これら製品の動力源として使われる二次電池の性能改善に対する要求も増えている実情である。その中で、リチウム二次電池は、高エネルギー密度及び高い標準電極電位のため、高性能電池として相当脚光を浴びている。
【0003】
特に、リチウム−硫黄(Li−S)電池は、S−S結合(Sulfur−sulfur bond)を有する硫黄系物質を正極活物質として使用し、リチウム金属を負極活物質として使用する二次電池である。正極活物質の主材料である硫黄は、資源がとても豊かで、毒性がなく、原子量が小さいという長所がある。また、リチウム−硫黄電池の理論放電容量は、1675mAh/g−sulfurで、理論エネルギー密度が2,600Wh/kgであって、現在研究されている他の電池システムの理論エネルギー密度(Ni−MH電池:450Wh/kg、Li−FeS電池:480Wh/kg、Li−MnO
2電池:1,000Wh/kg、Na−S電池:800Wh/kg)に比べて非常に高いため、現在まで開発されている電池の中で最も有望な電池である。
【0004】
リチウム−硫黄電池の放電反応の中で、負極(Anode)ではリチウムの酸化反応が発生し、正極(Cathode)では硫黄の還元反応が発生する。放電前の硫黄は、環状のS
8構造を有しているが、還元反応(放電)時にS−S結合が切れてSの酸化数が減少し、酸化反応(充電)時にS−S結合が再び形成されながらSの酸化数が増加する、酸化−還元反応を利用して電気エネルギーを貯蔵及び生成する。このような反応の中で、硫黄は環状のS
8で還元反応によって線形構造のリチウムポリスルフィド(Lithium polysulfide、Li
2S
x、x=8、6、4、2)に変換され、結局、このようなリチウムポリスルフィドが完全に還元されると、最終的にリチウムスルフィド(Lithium sulfide、Li
2S)が生成される。各々のリチウムポリスルフィドに還元される過程によって、リチウム−硫黄電池の放電は、リチウムイオン電池とは違って段階的に放電電圧を示すことが特徴である。
【0005】
Li
2S
8、Li
2S
6、Li
2S
4、Li
2S
2などのリチウムポリスルフィドの中で、特に、硫黄の酸化数が高いリチウムポリスルフィド(Li
2S
x、通常x>4)は、親水性の電解液に容易に溶ける。電解液に溶け込んだリチウムポリスルフィドは、濃度の差によってリチウムポリスルフィドが生成された正極から遠い方へ拡散して行く。このように正極から湧出されたリチウムポリスルフィドは、正極反応領域の外へ失われ、リチウムスルフィド(Li
2S)への段階的還元が不可能である。すなわち、正極と負極を脱して溶解された状態で存在するリチウムポリスルフィドは、電池の充・放電反応に参加できなくなるので、正極で電気化学反応に参加する硫黄物質の量が減少するようになり、結局、リチウム−硫黄電池の充電容量減少及びエネルギー減少の主な要因となる。
【0006】
さらに、負極に拡散したリチウムポリスルフィドは、電解液の中で浮遊または沈澱すること以外も、リチウムと直接反応して負極表面にLi
2Sの形態で固着するので、リチウム金属負極を腐食させる問題が生じる。
【0007】
このようなリチウムポリスルフィドの湧出を最小化するために、多様な炭素構造に硫黄粒子を詰め込む複合体を形成する正極複合体のモルフォロジー(Morphology)を変形させる研究が進められているが、このような方法は製造方法が複雑で、根本的問題を解決できていない実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、リチウム−硫黄電池は、正極から湧出されて拡散するリチウムポリスルフィドによって電池の容量及び寿命特性が低下する問題点がある。
したがって、本発明の目的は、リチウムポリスルフィドの湧出及び拡散を抑制し、これのさらなる還元反応サイトを提供するリチウム−硫黄電池用分離膜を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、上記リチウム−硫黄電池用分離膜の製造方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、上記リチウム−硫黄電池用分離膜を含むリチウム−硫黄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明は、分離膜本体及び上記分離膜本体の正極と対面する一面にポリドーパミンと伝導性物質を含む複合コーティング層を含むことを特徴とする、リチウム−硫黄電池用分離膜を提供する。
【0011】
また、本発明は分離膜本体を準備する段階;ポリドーパミン、伝導性物質及び溶媒を混合してスラリーを製造する段階;上記スラリーを分離膜本体の少なくとも一面にコーティングする段階;及び上記コーティングされた分離膜を乾燥して複合コーティング層を形成する段階;を含むリチウム−硫黄電池用分離膜の製造方法を提供する。
また、本発明は上記リチウム−硫黄電池用分離膜を含むリチウム−硫黄電池を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるリチウム−硫黄電池は、正極から湧出されるリチウムポリスルフィドを複合コーティング層に含まれた伝導性物質の多孔性構造が吸着して湧出及び拡散を防止するだけでなく、さらに電気伝導性を与えて正極活物質の反応サイトを提供するので、電池の容量及び寿命特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1具現例として複合コーティング層を有する分離膜を含む、リチウム−硫黄電池の断面図である。
【
図2】本発明の第2具現例として複合コーティング層とポリドーパミンコーティング層を有する分離膜を含むリチウム−硫黄電池の断面図である。
【
図3】本発明による実施例1及び比較例1の放電サイクル特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施例を添付された例示図面に基づいて詳しく説明する。このような図面は、本発明を説明するための一具現例として幾つかの異なる形態で具現されることができるし、本明細書に限定されない。この時、図面では本発明を明確に説明するために、説明と関係ない部分を省略し、明細書全体にわたって類似する部分に対しては類似の図面符号を使用した。また、図面で表示された構成要素の大きさ及び相対的な大きさは、実際の縮尺とは無関系であり、説明の明瞭性のために縮小または誇張されてもよい。
【0015】
[リチウム−硫黄電池用分離膜]
本発明は、リチウムポリスルフィドの拡散を防止して硫黄の還元反応の追加的サイト(site)を提供するために、分離膜本体の少なくとも一面にポリドーパミンと伝導性物質を含む複合コーティング層を含む、リチウム−硫黄電池用分離膜を提供する。上記分離膜本体の少なくとも一面とは、電極を組み立てる時、正極と対向する面を必ず含む一面または両面である。
【0016】
図1は、本発明の第1具現例によるリチウム−硫黄電池を示す断面図である。
図1に図示されたように、リチウム−硫黄電池は正極200、負極300を備え、これらの間に電解質400及び分離膜100が介在された構造を有し、特に、本発明は分離膜本体110と複合コーティング層120が順に積層された多層構造の分離膜100を提供する。この時、複合コーティング層120は
図1に示したように、分離膜本体110の一側面に形成されてもよく、必要な場合は両側面に形成することができる。
【0017】
上記分離膜本体110は、本発明で特にその材質を限定することなく、電極を物理的に分離し、電解質及びイオン透過能を有するものであって、通常の分離膜として使われるものであれば特に制限されずに使用可能であるが、多孔性で非伝導性または絶縁性の物質として、特に電解液のイオン移動に対して低抵抗であり、電解液の含湿能に優れたものが好ましい。
【0018】
具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムを単独で、またはこれらを積層して使うことができるし、または通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布を使うことができるが、これに限定されるものではない。
【0019】
特に、本発明では、分離膜本体110上に形成される複合コーティング層120を形成してリチウムポリスルフィドの拡散を防止し、硫黄の還元反応の追加的なサイトを提供する。
【0020】
上記複合コーティング層120に含まれるポリドーパミンの単量体形態であるドーパミン(Dopamine)は、神経伝達物質としてよく知られており、海の中のムラサキイガイ類(Mussels)から発見される3,4−ジヒドロキシ‐L‐フェニルアラニン(3,4−Dihydroxy−Lphenylalanine(L−DOPA))分子の模倣分子である。特に、ドーパミンの酸化剤−誘導自体高分子化(Oxidant−induced self−polymerization)と電気化学的高分子化反応(Electrochemical polymerization)によって生成されたポリドーパミンは、共有結合(Covalent bond)カテコール(Catechol)とイミン(Imine)作用基を有していて、生体物質、合成高分子などの有機質だけでなく、電池の電極または分離膜のような固体表面でもとても強い結合を形成するので、表面改質(Surface reforming)、表面変換(Surface modification)、自己組み立て多層薄膜(Self−assembled multilayer)、ナノ複合体薄膜(Nanocomposite thin film)の形成などが可能である。ドーパミンのカテコール作用基は、酸素の存在下で容易に酸化され、自体−高分子化によって多様な厚さのポリドーパミン薄膜を形成する。
【0021】
環境に優しくて、容易に手に入れることができる有機物のドーパミンは、pH8.5程度の緩衝溶液(Buffer solution)下で自体−高分子化を成して、この過程を通じて形成されたポリドーパミンは反応性が非常に強くて、その表面に新しい結合を作ることが容易である。また、ポリドーパミンは常温で自己高分子化が可能であるため、追加的な試薬や装備がなくてもコーティングできる長所があるため、製造上の工程費用及び工程効率が優秀である。
【0022】
このようなポリドーパミンは、接着力が大きい物質であって、薄くて均一なコーティングが可能であり、
図1に図示されたように、リチウムイオン10を正極内部へ容易に拡散させながら、リチウムポリスルフィド20の透過は不可能であり、電極反応は活性化しながらリチウムポリスルフィド20の拡散は防止することができるので、本発明のリチウム−硫黄電池の分離膜の複合コーティング層120で適用した。
【0023】
また、本発明の複合コーティング層120は、リチウム−硫黄電池にさらに電気伝導性を与えるために、上述したポリドーパミンとともに伝導性物質を含む。リチウム−硫黄電池の正極活物質である硫黄は、それ自体では伝導性を持たないため、導電性炭素系物質と複合化して正極200に製造することが一般的である。本発明の複合コーティング層120は伝導性物質を含み、正極反応サイト以外にも追加的硫黄物質の還元反応サイトを提供する。
【0024】
より具体的には、複合コーティング層120は伝導性物質の多孔性構造によって、硫黄の還元段階の中間生成物であるリチウムポリスルフィド(Lithium polysulfide、Li
2S
x、x=8、6、4、2)(20)を吸着して拡散を抑制する。また、複合コーティング層120の導電性物質が上記吸着されたリチウムポリスルフィド20の還元反応サイトをさらに提供して電極効率を高められるようになる。
【0025】
本発明による複合コーティング層110に含まれる上記伝導性物質は、炭素系導電材、伝導性高分子及びこれらの組み合わせからなる群から選択するものであってもよい。
【0026】
上記炭素系導電材は、その種類に制限はないが、天然黒鉛、人造黒鉛、膨脹黒鉛、グラフェン(Graphene)、スーパー−ピー(Super−P)、スーパー−シー(Super−C)のような黒鉛(Graphite)系、活性炭(Activated carbon)系、チャンネルブラック(Channel black)、デンカブラック(Denka black)、ファーネスブラック(Furnace black)、サーマルブラック(Thermal black)、コンタクトブラック(Contact black)、ランプブラック(Lamp black)、アセチレンブラック(Acetylene black)のようなカーボンブラック(Carbon black)系;炭素纎維(Carbon fiber)系、炭素ナノチューブ(Carbon nanotube:CNT)、フラーレン(Fullerene)のような炭素ナノ構造体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種を含むことができるし、好ましくはSuper‐Pを使用する。
【0027】
上記伝導性高分子は、その種類に制限はないが、ポリアニリン(Polyaniline)、ポリピロール(Polypyrrole)、ポリチオフェン(Polythiopene)、ポリアズレン(Polyazulene)、ポリピリジン(Polypyridine)、ポリインドール(Polyindole)、ポリカルバゾール(Polycarbazole)、ポリアジン(Polyazine)、ポリキノン(Polyquinone)、ポリアセンチレン(Polyacetylene)、ポリセレノフェン(Polyselenophene)、ポリテルロフェン(Polytellurophene)、ポリパラフェニレン(Poly−p−phenylene)、ポリフェニレンビニレン(Polyphenylene vinylene:PPV)、ポリフェニレンスルフィド(Polyphenylene sulfide:PPS)、ポリエチレンジオキシチオフェン(Polyethylenedioxythiophene:PEDT)及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種を含むものであってもよい。
【0028】
上述したリチウムポリスルフィド拡散防止効果と、リチウムポリスルフィドの還元反応サイトを提供するための伝導性付与効果のためにポリドーパミンと伝導性物質の重量比は、3:1〜7:1の範囲内で調節できる。もし、上記範囲よりポリドーパミンを過量使う場合には、抵抗層として作用して電池性能低下の問題が発生し、逆に伝導性物質を過量使う場合には、相対的にポリドーパミンの含量が減少されるので、ポリドーパミンによる効果を確保しにくい問題が発生するので、上記範囲で適切に使う。
【0029】
このような複合コーティング層120は、上記効果を確保するために、分離膜本体110上に0.1〜10μm、好ましくは0.1〜5μmの厚さで形成する。もし、その厚さが上記範囲の未満であれば、リチウムポリスルフィドの吸着効果が微々たるものであり、これと逆に、上記範囲を超える場合には、リチウムイオン伝導性が低下して電極性能に問題が発生するので、上記範囲内で適切に使う。
【0030】
さらに、上記言及した第1具現例による分離膜本体110/複合コーティング層120の多層構造を有する分離膜100は、これらの間に他の層をさらに備えてその効果を高めることができる。
【0031】
図2は、本発明の第2具現例によるリチウム−硫黄電池を示す断面図で、
図2に図示されたように、第2具現例によるリチウム−硫黄電池は、分離膜として分離膜本体110と複合コーティング層120の間にポリドーパミンコーティング層130を備える。この時、分離膜本体110及び複合コーティング層120は、第1具現例で言及したことに従う。
【0032】
上記さらに備えられたポリドーパミンコーティング層130は、分離膜本体110と複合コーティング層120界面間の接着力を向上させる目的として使って、上述したポリドーパミンによるリチウムポリスルフィドの捕集効果をさらに確保することができる。この時、ポリドーパミンコーティング層130は、厚さを0.1〜10μmとなるように形成する。もしその厚さが上記範囲を超えればリチウムイオンの伝導度が低下する問題を引き起こすので、最大10μm以下で形成するのが好ましい。
【0033】
[リチウム−硫黄電池用分離膜の製造方法]
本発明の第1具現例で提示する、
図1に図示されたようなリチウム−硫黄電池用分離膜は、次のような段階を経て製造される。
先ず、分離膜本体110を用意する。分離膜本体110は、本発明で特に限定しないし、前述した分離膜本体のいずれか一つを選択することができるし、直接製造したり市販される分離膜を購入して使うことが可能である。
【0034】
次に、ポリドーパミンと伝導性物質を上述した3:1〜7:1の重量比で混合した後、所定の溶媒に分散させてスラリー状態で製造する。この時、ポリドーパミン自体の接着特性上、別途のバインダーは要求されない。上記溶媒としては、ポリドーパミンと伝導性物質を均一に分散させることができるし、容易に蒸発されて乾燥し易いものを使うことが好ましく、具体的には、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、水、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。また、上記スラリーを製造するための混合は、通常の混合器、例えば、ペーストミキサー、高速せん断ミキサー、ホモミキサーなどを利用して通常の方法で撹拌することができる。
【0035】
次に、上記製造されたスラリーを分離膜本体110の一面にコーティングする。ここで、分離膜本体110の一面とは、後で電極を組み立てる時、正極200と対向して組み立てられる分離膜本体110の一面である。この時、上記スラリーを湿式コーティングする方法でその制限はないし、例えば、ドクターブレードコーティング(Doctor blade coating)、ディップコーティング(Dip coating)、グラビアコーティング(Gravure coating)、スリットダイコーティング(Slit die coating)、スピンコーティング(Spin coating)、コンマコーティング(Comma coating)、バーコーティング(Bar coating)、リバースロールコーティング(Reverse roll coating)、スクリーンコーティング(Screen coating)、キャップコーティング(Cap coating)方法などを行って製造することができる。
【0036】
次に、上記コーティングされた分離膜を乾燥して複合コーティング層120を形成する。上記乾燥工程は、金属集電体でコーティングされたスラリーを乾燥するためにスラリー内の溶媒及び水気を除去する過程であって、使った溶媒によって乾燥温度及び時間が変わることがあり、一般的に50〜200℃の真空オーブンで48時間以内で乾燥することが好ましい。
【0037】
また、本発明の第2具現例で提示する
図2に図示されたようなリチウム−硫黄電池用分離膜は、上記言及した第1具現例の製造方法に従うが、上記分離膜本体110に複合コーティング層120をコーティングする前に上記ポリドーパミンコーティング層130をコーティングすることで製造することができる。
【0038】
この時、上記ポリドーパミンコーティング層130は、ポリドーパミンを前述した溶媒に分散したコーティング溶液を製造した後、湿式コーティング工程を行って得られるし、上記第1具現例で提示したコーティング方法のいずれか一つの方法に従うことができる。
【0039】
[リチウム−硫黄電池]
前述した第1及び第2具現例で提示する分離膜100は、好ましくは、リチウム−硫黄電池の分離膜として適用可能であり、
図1及び
図2に提示したように、分離膜100は正極200及び負極300の間に介在され、この時、複合コーティング層120が片面にだけコーティングされる場合、好ましくは、複合コーティング層120が正極200と対向するように配置して組み立てる。
【0040】
上記正極200は、正極活物質として硫黄元素(Elemental sulfur、S8)、硫黄系化合物またはこれらの混合物を含んでもよく、これらは硫黄物質単独では電気伝導性がないため導電材と複合して適用する。上記硫黄系化合物は、具体的に、Li
2S
n(n≧1)、有機硫黄化合物または炭素−硫黄ポリマー((C
2S
x)
n:x=2.5〜50、n≧2)などであってもよい。
【0041】
上記導電材は、多孔性であってもよい。よって、上記導電材としては、多孔性及び導電性を有するものであれば、制限されずに使用することができるし、例えば、多孔性を有する炭素系物質を使うことができる。このような炭素系物質としては、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、活性炭、炭素纎維、炭素ナノチューブ(CNT)などを使うことができる。また、金属メッシュなどの金属性繊維;銅、銀、ニッケル、アルミニウムなどの金属性粉末;またはポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料も使うことができる。上記導電性材料は、単独または混合して使われてもよい。
【0042】
上記負極300は、負極活物質としてリチウムイオン(Li
+)を可逆的に吸蔵(Intercalation)または放出(Deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質、リチウム金属またはリチウム合金を使うことができる。上記リチウムイオン(Li
+)を可逆的に吸蔵または放出できる物質は、例えば、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物であってもよい。上記リチウムイオン(Li
+)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質は、例えば、酸化スズ、チタンニトラートまたはシリコンであってもよい。上記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)とナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)及びスズ(Sn)からなる群から選択される金属の合金であってもよい。
【0043】
また、リチウム−硫黄電池を充・放電する過程において、正極活物質として使われる硫黄が非活性物質に変化され、リチウムの負極表面に付着されることがある。このように、非活性硫黄(Inactive sulfur)は、硫黄が様々な電気化学的または化学的反応を経て正極の電気化学反応にこれ以上参加できない状態の硫黄を意味し、リチウムの負極表面に形成された非活性硫黄は、リチウム負極の保護膜(Protective layer)としての役割をする長所もある。
【0044】
上記正極200、負極300及び分離膜100に含浸されている電解質400は、リチウム塩を含む非水系電解質としてリチウム塩と電解液で構成されていて、他にも有機固体電解質及び無機固体電解質などが使われる。
【0045】
本発明のリチウム塩は、非水系有機溶媒に溶解されやすい物質であって、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO
4、LiBF
4、LiB
10Cl
10、LiB(Ph)
4、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiSO
3CH
3、LiSO
3CF
3、LiSCN、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiNO
3、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、イミドからなる群から一つ以上が含まれてもよい。
【0046】
上記リチウム塩の濃度は、電解質混合物の正確な組成、塩の溶解度、溶解された塩の伝導性、電池の充電及び放電条件、作業温度及びリチウムバッテリー分野に公知された他の要因のような幾つかの要因によって、0.2〜4M、具体的に0.3〜2M、より具体的に0.3〜1.5Mであってもよい。0.2M未満と使用すると、電解質の伝導度が低くなって電解質性能が低下することがあるし、4Mを超えて使用すると、電解質の粘度が増加してリチウムイオン(Li
+)の移動性が減少されることがある。
【0047】
上記非水系有機溶媒は、リチウム塩をよく溶解させなければならないし、本発明の非水系有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ガンマ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロキシフラン(franc)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキセン、ジエチルエーテル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル系、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非量子性有機溶媒が使われてもよく、上記有機溶媒は一つまたは二つ以上の有機溶媒の混合物であってもよい。
【0048】
上記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリシン(Agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合体などが使われてもよい。
【0049】
本発明の無機固体電解質としては、例えば、Li
3N、LiI、Li
5NI
2、Li
3N−LiI−LiOH、LiSiO
4、LiSiO
4−LiI−LiOH、Li
2SiS
3、Li
4SiO
4、Li
4SiO
4−LiI−LiOH、Li
3PO
4−Li
2S−SiS
2などのLi窒化物、ハロゲン化物、硫酸塩などが使われてもよい。
【0050】
本発明の電解質には、充・放電特性、難燃性などの改善を目的として、例えば、ピリジン、トリエチルホスフェート、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グリム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N−置換オキサゾリジノン、N,N−置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2−メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどが添加されてもよい。場合によっては、不燃性を付与するために、四塩化炭素、三フッ化エチレンなどのハロゲン含有溶媒をさらに含ませることもあり、高温保存特性を向上させるために二酸化炭酸ガスをさらに含ませることもできるし、FEC(Fluoro−ethylene carbonate)、PRS(Propene sultone)、FPC(Fluoro−propylene carbonate)などをさらに含ませることができる。
【0051】
電解質は、液状電解質で使用してもよく、固体状態の電解質セパレーター形態としても使うことができる。液状電解質で使う場合は、電極を物理的に分離する機能を有する物理的な分離膜として多孔性ガラス、プラスチック、セラミックスまたは高分子などからなる分離膜をさらに含む。
【0052】
上述した正極200と負極300を所定の大きさで切り取った正極板と負極板の間に、上記正極板と負極板に対応する所定の大きさで切り取った分離膜100を介在させた後、積層することでスタック型電極組み立て体を製造することができる。
【0053】
または、正極200と負極300が分離膜100シートを挟んで対面するように、二つ以上の正極板及び負極板を分離膜シート上に配列したり、または上記二つ以上の正極板及び負極板が分離膜を挟んで積層されているユニットセルを二つ以上分離膜シート上に配列し、上記分離膜シートを巻取したり、電極板またはユニットセルの大きさで分離膜シートを折り曲げることで、スタックアンドフォールディング型電極組み立て体を製造することができる。
【0054】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、幾つかの別の形態で変形されてもよく、本発明の範囲が後述する実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界で平均知識を有する者には本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0055】
<実施例1>
1.分離膜製造
ポリドーパミンと炭素系導電材であるSuper−Pを5:1の重量比で混合し、塩基性(pH8.5)バッファー溶液に分散させて製造されたスラリーを20μm厚さのポリプロピレンフィルムの片面に5μm厚さでコーティングして分離膜を製造した。
【0056】
2.リチウム−硫黄電池の製造
炭素及び硫黄を9:1の重量比で混合して製造された正極活物質70重量%、導電材であるデンカブラック(Denka black)20重量%、及びバインダーとしてSBR/CMC(重量比1:1)10重量%組成の正極合剤を脱イオン水に添加して正極スラリーを製造した後、アルミニウム集電体にコーティングして正極を製造した。但し、バインダーでSBRはスチレンブタジエンゴムで、CMCはカルボキシメチルセルロースである。
【0057】
負極として約150μm厚さを有するリチウムホイルを使い、電解液として1MのLiN(CF
3SO
2)
2が溶解されたジメトキシエタンとジオキソルランを1:1の体積比で混合した電解液を使い、上記製造されたポリドーパミンとSuper−Pがコーティングされた分離膜を使ってリチウム−硫黄電池を製造した。
【0058】
<比較例1>
上記ポリプロピレンにポリドーパミンとSuper−Pがコーティングされた分離膜の代わりに何も処理されていない20μmのポリプロピレンフィルムを分離膜として使うことを除き、上記実施例1と同様の方法でリチウム−硫黄電池を製造した。
【0059】
<実験例1>
実施例1及び比較例1によって製造されたリチウム−硫黄電池をそれぞれ0.1C/0.1Cで充電/放電を30サイクル繰り返しながら、サイクルごとに各電池の初期容量を測定した。
図3に図示されたように、本明細書による実施例1のリチウム−硫黄電池は、比較例1のリチウム−硫黄電池より初期容量が大きく、寿命特性も向上されたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上記リチウム−硫黄電池を含む電池パックは、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、プラグ−インハイブリッド電気自動車(Plug−in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)、電力貯蔵装置の電源として使われてもよい。