特許第6733551号(P6733551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許6733551架橋性ニトリルゴム組成物およびゴム架橋物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733551
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】架橋性ニトリルゴム組成物およびゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 35/04 20060101AFI20200728BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20200728BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20200728BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   C08L35/04
   C08L67/00
   C08L77/00
   C08K5/17
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-566060(P2016-566060)
(86)(22)【出願日】2015年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2015083549
(87)【国際公開番号】WO2016104056
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-262867(P2014-262867)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】福峯 義雄
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−213842(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133618(WO,A1)
【文献】 特開2013−018936(JP,A)
【文献】 特開2007−162025(JP,A)
【文献】 特開平02−053861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)、樹脂(B)およびポリアミン架橋剤(C)を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物であって、
前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および前記樹脂(B)の合計量100重量部に対して60重量部以上含み、
前記樹脂(B)がポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂から選ばれる少なくとも一種の樹脂であり、
前記樹脂(B)の融点以上で混練することにより得られる架橋性ニトリルゴム組成物の製造方法
【請求項2】
前記樹脂(B)がポリアミド樹脂である請求項記載の架橋性ニトリルゴム組成物の製造方法
【請求項3】
前記樹脂(B)の融点以上で混練する際に、二軸押出機を用いて混練を行う請求項1または2に記載の架橋性ニトリルゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜の何れか一項に記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物の製造方法
【請求項5】
請求項記載のゴム架橋物の製造方法であって、その100%引張応力が10MPa以上であるゴム架橋物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐圧縮永久歪み性に優れ、かつ、常態物性、耐熱老化性および耐燃料油性に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ニトリルゴム組成物、および該架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム)は、耐燃料油性、機械的特性、耐薬品性等を活かして、ホースやチューブなどの自動車用ゴム部品の材料として使用されており、また、ニトリルゴムのポリマー主鎖中の炭素−炭素二重結合を水素化した水素化ニトリルゴム(高飽和ニトリルゴム)はさらに耐熱性に優れるため、ホース、シール材、ガスケット、ダイアフラム等のゴム部品に使用されている。
【0003】
近年、自動車用ゴム部品に対する要求特性が厳しくなり、特に、シール材用途に用いられるゴム部品においては、常態物性(引張強度、伸びおよび引張応力)、耐熱老化性、耐燃料油性、耐圧縮永久歪み性などに優れることが求められる。
【0004】
かかる状況に対してα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜60重量%を含有するカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムと、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下である高飽和ニトリルゴムとを特定割合で併用し、これらに、ポリアミド樹脂を配合してなるゴム組成物が提案されている(特許文献1)。このゴム組成物を用いることにより、常態物性、耐燃料油性に加えて、ロール加工性に優れるゴム架橋物が得られるが、例えば、O−リングのように空間部を抱える構造のゴム架橋物では、圧縮時にかかる力の影響により、圧縮永久歪みが大きくなる傾向があるため、更なる耐圧縮永久歪み性の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/133618号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐圧縮永久歪み性に優れ、かつ、常態物性、耐熱老化性および耐燃料油性に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ニトリルゴム組成物、および該架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を所定量以上用い、これに樹脂(B)およびポリアミン架橋剤(C)を配合してなり、かつ、これらを樹脂(B)の融点よりも高い温度で混練することで得られる架橋性ニトリルゴム組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、
(1) カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)、樹脂(B)およびポリアミン架橋剤(C)を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物であって、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および前記樹脂(B)の合計量100重量部に対して30重量部以上含み、前記樹脂(B)の融点以上で混練することにより得られる架橋性ニトリルゴム組成物、
(2) (1)に記載の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物によれば、耐圧縮永久歪み性に優れ、かつ、常態物性、耐熱老化性および耐燃料油性に優れたゴム架橋物を与えることができる。また、該架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物について説明する。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)、樹脂(B)およびポリアミン架橋剤(C)を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物であって、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を、前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および前記樹脂(B)の合計量100重量部に対して30重量部以上含み、前記樹脂(B)の融点以上で混練することにより得られる。
【0011】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)を樹脂(B)の融点以上で混練することにより高飽和ニトリルゴム組成物を得た後に、この高飽和ニトリルゴム組成物にポリアミン架橋剤(C)を加えることにより得ることが好ましい。
【0012】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られる。
【0013】
ここで、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位15〜60重量%、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜60重量%を含有し、ヨウ素価が120以下のゴムである。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0015】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、15〜60重量%であり、好ましくは18〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が上記範囲の下限値以上であると、得られるゴム架橋物の耐燃料油性が過度に低下する、という現象を抑えることができ、逆に、上記範囲の上限値以下であると、耐寒性が過度に低下する、という現象を抑えることができる。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。これらのなかでも、マレイン酸モノアルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が2〜6のマレイン酸モノアルキルエステルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、1〜60重量%であり、好ましくは2〜20重量%、より好ましくは2〜10重量%である。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が上記範囲の下限値以上であると、得られるゴム架橋物の引張強度および伸びが過度に悪化する、という現象を抑えることができる。一方、上記範囲の上限値以下であると、耐熱性が過度に悪化する、という現象を抑えることができる。
【0018】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)は、得られるゴム架橋物にゴム弾性を付与するために、共役ジエン単量体単位を含有することが好ましい。
【0019】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0020】
共役ジエン単量体単位(水素添加等により飽和化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは25〜84重量%、より好ましくは25〜80重量%、さらに好ましくは40〜78重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が上記範囲の下限値以上であると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が過度に低下する、という現象を抑えることができ、逆に、上記範囲の上限値以下であると、耐熱性や耐化学的安定性が過度に損なわれる、という現象を抑えることができる。
【0021】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)には、本発明の効果を損なわない範囲において、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体を共重合したものであってもよい。
【0022】
このようなカルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などのα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;が挙げられる。また、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、カルボキシ基含有単量体として用いることができる。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体の単位の含有量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0024】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、共役ジエン単量体および、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体以外のカルボキシル基含有単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を有さないもの)、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0025】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が3〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0026】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0027】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートなどのジアルキルアミノ基含有α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;などが挙げられる。
【0028】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0029】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0030】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0031】
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のヨウ素価は、好ましくは120以下であり、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。ヨウ素価を120以下とすることにより、得られるゴム架橋物の耐熱性を向上させることができる。
【0032】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜110である。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のポリマームーニー粘度が上記範囲の下限値以上であると、得られるゴム架橋物の機械特性が過度に低下する、という現象を抑えることができ、逆に、上記範囲の上限値以下であると、ゴム組成物の加工性が過度に低下する、という現象を抑えることができる。
【0033】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは0.006〜0.116ephr、より好ましくは0.012〜0.087ephr、特に好ましくは0.023〜0.058ephrである。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のカルボキシル基含有量が上記範囲の下限値以上であると、得られるゴム架橋物の高温下における特性、具体的には、高温下における引張強度が過度に低下する、という現象を抑えることができる。一方、上記範囲の上限値以下であると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が過度に低下する、という現象を抑えることができる。
【0034】
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)の製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合して共重合体ゴムのラテックスを調製し、必要に応じて水素化することにより製造することが好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0035】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0036】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0037】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0038】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。乳化重合の際に使用する水の量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0039】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0040】
なお、共重合して得られた共重合体のヨウ素価が120より高い場合には、ヨウ素価を120以下とするために、共重合体の水素化(水素添加反応)を行ってもよい。この場合における、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0041】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)の含有割合は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)の合計を100重量%とした場合に、30重量%以上、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上である。
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)の含有割合が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性が悪化する。
【0042】
樹脂(B)
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、樹脂(B)を含有する。本発明に用いる樹脂(B)としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂を用いることが好ましい。
【0043】
ポリエステル樹脂としては、エステル結合を有する重合体であって、多価アルコールと多塩基酸または多塩基酸エステル化合物との重縮合により得られる樹脂であればよく、特に限定されないが、例えば、アルキッド樹脂、マレイン酸樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの一般的に知られているポリエステル樹脂を用いることができる。
【0044】
多価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどが用いられる。
また、多塩基酸としては、たとえば、フタル酸、フマル酸、アジピン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸などが用いられる。
【0045】
これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ポリエステル樹脂としては、多価アルコールとしてエチレングリコール、ブチレングリコールまたはトリメチレングリコールを用い、多塩基酸としてフタル酸やナフタレン−2,6−ジカルボン酸を用いて得られるポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0046】
本発明で用いるポリエステル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは40,000〜100,000、より好ましくは60,000〜100,000である。また、ポリエステル樹脂の融点は、得られるゴム架橋物の耐熱性を良好なものとしながら、加工時における各成分の熱劣化を有効に防止することができる観点から、好ましくは180〜300℃であり、より好ましくは190〜280℃、さらに好ましくは200〜260℃である。なお、ポリエステル樹脂の融点は、たとえば、示差走査型熱量計を用いて、融解熱のピーク温度より求めることができる。
【0047】
樹脂(B)としてポリエステル樹脂を用いる場合の、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、ポリエステル樹脂の含有割合は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)の合計量を100重量%とした場合に、15〜50重量%であり、好ましくは18〜45重量%、より好ましくは20〜40重量%である。ポリエステル樹脂の含有割合が上記範囲の下限値以上であると、耐熱性、耐燃料油性、引張強度、引張応力、および圧縮応力が過度に悪化する、という現象を抑えることができる。一方、上記範囲の上限値以下であると、加工性が過度に悪化する、という現象を抑えることができる。
【0048】
ポリアミド樹脂としては、酸アミド結合(−CONH−)を有する重合体であれば限定されないが、例えば、ジアミンと二塩基酸との重縮合により得られる重合体、ジホルミルなどのジアミン誘導体と二塩基酸との重縮合により得られる重合体、ジメチルエステルなどの二塩基酸誘導体とジアミンとの重縮合により得られる重合体、ジニトリルまたはジアミドとホルムアルデヒドとの反応により得られる重合体、ジイソシアナートと二塩基酸との重付加により得られる重合体、アミノ酸またはその誘導体の自己縮合により得られる重合体、ラクタムの開環重合により得られる重合体などが挙げられる。また、これらのポリアミド樹脂は、ポリエーテルブロックを含有していてもよい。
【0049】
ポリアミド樹脂の具体例としては、ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、のような脂肪族ポリアミド樹脂;ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、キシレン含有ポリアミドのような芳香族ポリアミド樹脂が挙げられる。これらのなかでも、本発明の効果がより一層顕著になることから、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11およびナイロン12がより好ましく、ナイロン66、ナイロン11およびナイロン12がさらに好ましく、ナイロン66およびナイロン12が特に好ましい。
【0050】
また、本発明で用いるポリアミド樹脂は、融点が、150〜350℃であることが好ましく、より好ましくは170〜330℃、さらに好ましくは200〜300℃である。融点が上記範囲の下限値以上であると、得られるゴム架橋物の耐熱性が過度に低下する、という現象を抑えることができ、一方、融点が上記範囲の上限値以下であると、加工性が過度に低下する、という現象を抑えることができる。
【0051】
樹脂(B)としてポリアミド樹脂を用いる場合の、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、ポリアミド樹脂の含有割合は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)の合計量を100重量%とした場合に、5〜50重量%であり、好ましくは10〜45重量%、より好ましくは15〜40重量%である。ポリアミド樹脂の含有量が上記範囲の下限値以上であると、耐燃料油性が過度に低下する、という現象を抑えることができる。一方、ポリアミド樹脂の含有量が上記範囲の上限値以下であると、加工性が悪化し、硬さが過度に高くなる、という現象を抑えることができる。
【0052】
なお、高飽和ニトリルゴムの耐燃料油性を改善するために高飽和ニトリルゴムにポリアミド樹脂を混合することが有効であるが、単に、高飽和ニトリルゴムに、ポリアミド樹脂を混合した場合には、加工性が悪化し、得られるゴム架橋物の引張強度が低下し、硬さが高くなりすぎてしまうという不具合が発生する場合がある。
【0053】
これに対して、本発明でポリアミド樹脂を用いる場合には、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を主成分とし、これに樹脂(B)としてポリアミド樹脂を配合することにより、これらに、加工性を向上させることができるとともに、ゴム架橋物とした際における耐圧縮永久歪み性、耐燃料油性、常態物性および耐熱老化性を向上させることができ、また硬さが高くなりすぎることを抑制できる。
【0054】
高飽和ニトリルゴム組成物の調製
高飽和ニトリルゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)を、樹脂(B)の融点以上の温度で混練することにより調製される。本発明においては、樹脂(B)の融点以上の温度で混練を行うことにより、樹脂(B)を溶融状態として混練することができるため、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)を均一に混合することができる。そして、これにより、樹脂(B)を配合することによる効果、すなわち、架橋後のゴム架橋物を、耐熱老化性および耐燃料油性に優れ、常態物性(引張強度、破断伸び、引張応力)および耐圧縮永久歪み性が高度にバランスされたものとすることができるという効果を適切に得ることができる。一方、混練温度を、樹脂(B)の融点未満の温度とすると、各成分を均一に混合することができず、得られるゴム架橋物は、引張強度、破断伸び、耐熱老化性及び耐圧縮永久歪み性に劣る。
【0055】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)を混練する際における温度は、樹脂(B)の融点以上の温度であればよいが、樹脂(B)の融点よりも5℃以上高い温度が好ましく、樹脂(B)の融点よりも10℃以上高い温度がより好ましい。混練する際の温度の上限は、特に限定されないが、各成分の熱劣化を有効に防止するという観点より、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下である。
【0056】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)を混練する際における、混合方法としては、特に限定されないが、各成分の混合性をより高めるという点より、剪断力が付与される混合方法、たとえば、二軸押出機などの押出機を用いて混合する方法や、バンバリーミキサ、ブラベンダーミキサ、インターナルミキサ、ニーダーなどの密閉型混練機、ロール混練機を用いる方法などが挙げられる。
【0057】
なお、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)を混練する際には、後述する、老化防止剤などの各種配合剤や、その他のゴムを同時に混合してもよい。
【0058】
架橋性ニトリルゴム組成物
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)、樹脂(B)に、さらにポリアミン架橋剤(C)を配合してなるものである。
【0059】
ポリアミン架橋剤(C)
本発明においては、架橋剤としてポリアミン架橋剤(C)を用いる。架橋剤として、ポリアミン架橋剤(C)を用いることにより、得られるゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性が改善される。
【0060】
本発明で使用されるポリアミン架橋剤(C)は、2つ以上のアミノ基を有する化合物、または、架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基またはヒドラジド構造(−CONHNH2で表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物および架橋時にその化合物の形態になるものが好ましい。その具体例として、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物、ヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩などの脂肪族多価アミン類;2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4'−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4'−メチレンビス(o−クロロアニリン)などの芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド構造を2つ以上有する化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0061】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、ポリアミン架橋剤(C)の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)の合計量100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。ポリアミン架橋剤(C)の配合量が上記範囲の下限値以上であると、得られるゴム架橋物の機械特性および耐圧縮永久歪み性が過度に悪化する、という現象を抑えることができる。一方、上記範囲の上限値以下であると、得られるゴム架橋物の耐疲労性が過度に悪化する、という現象を抑えることができる。
【0062】
塩基性架橋促進剤
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)、樹脂(B)及びポリアミン架橋剤(C)に加えて、塩基性架橋促進剤を含有していることが好ましい。塩基性架橋促進剤をさらに含有させることにより、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0063】
塩基性架橋促進剤の具体例としては、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(以下「DBU」と略す場合がある)および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5(以下「DBN」と略す場合がある)、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−メトキシエチルイミダゾール、1−フェニル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリメチルイミダゾール、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−エトキシイミダゾール、1−メチル−4−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−4−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−アミノイミダゾール、1−メチル−4−(2−アミノエチル)イミダゾール、1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール、1−メチル−5−ニトロベンゾイミダゾール、1−メチルイミダゾリン、1,2−ジメチルイミダゾリン、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−フェニルイミダゾリン、1−メチル−2−ベンジルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプチルイミダゾリン、1−メチル−2−ウンデシルイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプタデシルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシメチルイミダゾリン、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾリンなどの環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤;テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン、オルトトリルビグアニドなどのグアニジン系塩基性架橋促進剤;n−ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニアなどのアルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤;ジシクロヘキシルアミンなどの、窒素原子にシクロアルキル基が2つ結合してなる第2級アミン化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、グアニジン系塩基性架橋促進剤および環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤が好ましく、環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤がより好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5がさらに好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7が特に好ましい。
【0064】
塩基性架橋促進剤を配合する場合における、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。塩基性架橋促進剤の配合量が上記範囲の下限値以上であると、架橋性ニトリルゴム組成物の架橋速度が遅過ぎて架橋密度が過度に低下する、という現象を抑えることができる。一方、配合量が上記範囲の上限値以下であると、架橋性ニトリルゴム組成物の貯蔵安定性が過度に損なわれる、という現象を抑えることができる。
【0065】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、上記以外に、ゴム分野において通常使用される配合剤、たとえば、カーボンブラックやシリカなどの補強剤、炭酸カルシウム、タルクやクレイなどの充填材、酸化亜鉛や酸化マグネシウムなどの金属酸化物、メタクリル酸亜鉛やアクリル酸亜鉛などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩、共架橋剤、架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、ジエチレングリコールなどの活性剤、シランカップリング剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料、発泡剤などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を配合することができる。
【0066】
カーボンブラックとしては、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、オースチンブラック、グラファイトなどが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0067】
シリカとしては、石英粉末、珪石粉末等の天然シリカ;無水珪酸(シリカゲル、アエロジル等)、含水珪酸等の合成シリカ;等が挙げられ、これらの中でも、合成シリカが好ましい。またこれらシリカはシランカップリング剤等で表面処理されたものであってもよい。
【0068】
シランカップリング剤としては特に限定されないが、その具体例としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトメチルトリメトキシラン、γ−メルカプトメチルトリエトキシラン、γ−メルカプトヘキサメチルジシラザン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピルジスルファンなどの硫黄を含有するシランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシ基含有シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;3−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロプロピル基含有シランカプリング剤;3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカプリング剤;p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基含有シランカップリング剤;3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基含有シランカップリング剤;ジアリルジメチルシラン等のアリル基含有シランカップリング剤;テトラエトキシシラン等のアルコキシ基含有シランカップリング剤;ジフェニルジメトキシシラン等のフェニル基含有シランカップリング剤;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のフロロ基含有シランカップリング剤;イソブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン等のアルキル基含有シランカップリング剤;アセトアルコキシアルミニウムジイソポロピレートなどのアルミニウム系カップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデジル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートなどのチタネート系カップリング剤;などが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0069】
共架橋剤としては、特に限定されないが、ラジカル反応性の不飽和基を分子中に複数個有する低分子または高分子の化合物が好ましく、たとえば、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンなどの多官能ビニル化合物;トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレートなどのイソシアヌレート類;トリアリルシアヌレートなどのシアヌレート類;N,N'−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド類;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルセバケート、トリアリルホスフェートなどの多価酸のアリルエステル;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート;エチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンのトリアリルエーテル、ペンタエリトリットの部分的アリルエーテルなどのアリルエーテル類;アリル化ノボラック、アリル化レゾール樹脂等のアリル変性樹脂;トリメチロールプロパントリメタクリレートやトリメチロールプロパントリアクリレートなどの、3〜5官能のメタクリレート化合物やアクリレート化合物;などが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0070】
可塑剤としては、特に限定されないが、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、アルキルスルホン酸エステル化合物類可塑剤、エポキシ化植物油系可塑剤などを用いることができる。具体例としては、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸混合直鎖アルキルエステル、ジペンタエリスリトールエステル、ピロメリット酸2−エチルヘキシルエステル、ポリエーテルエステル(分子量300〜5000程度)、アジピン酸ビス[2−(2−ブトキシエトキシ)エチル]、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸系のポリエステル(分子量300〜5000程度)、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジブチル、リン酸トリクレシル、セバシン酸ジブチル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、エポキシ化大豆油などが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0071】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)以外のその他の重合体を配合してもよい。その他の重合体としては、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)以外のニトリルゴム(飽和ニトリルゴムを含む)、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムなどを挙げることができる。その他の重合体を配合する場合におけるこれらの架橋性ニトリルゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)の合計100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0072】
架橋性ニトリルゴム組成物の調製
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物の調製方法は、特に限定されないが、上記のようにして得られる高飽和ニトリルゴム組成物(カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)を、樹脂(B)の融点以上の温度で混合することにより得られた組成物)に、ポリアミン架橋剤(C)および各成分(熱に不安定な成分を除く)を、好ましくは、10〜200℃、より好ましくは20〜170℃で、バンバリーミキサ、ブラベンダーミキサ、インターミキサ、ニーダーなどの混合機で混練し、ロールなどに移して架橋剤(C)や熱に不安定な架橋助剤などを加えて、好ましくは10〜80℃の条件で、二次混練する方法等が挙げられる。
【0073】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるものである。
【0074】
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、ゴム架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜6時間である。
【0075】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0076】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した高飽和ニトリルゴム組成物、および架橋性ニトリルゴム組成物を用いて得られるものであるため、耐圧縮永久歪み性に優れ、さらに耐熱老化性、耐燃料油性、常態物性(引張強度、破断伸びおよび引張応力)が高度にバランスされたものである。本発明のゴム架橋物は、特に、その100%引張応力が、好ましくは10MPa以上、より好ましくは15MPa以上、特に好ましくは20MPa以上である。
【0077】
そのため、本発明のゴム架橋物は、このような特性を活かし、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置およびボールねじ等)用のシール、バルブおよびバルブシート、BOP(Blow Out Preventer)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。これらのなかでも、本発明のゴム架橋物は、シール材用途に好適に用いることができ、特に、本発明のゴム架橋物は、引張強度、伸び、引張応力および圧縮応力が高度にバランスされたものであることから、高圧条件においても変形量を低く抑ええられるものであるため、高圧シール材(たとえば、1MPa以上の圧力が印加された状態で用いられるシール材)用途に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。以下において、特記しない限り、「部」は重量基準である。物性および特性の試験または評価方法は以下のとおりである。
【0079】
ゴム組成
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、マレイン酸モノn−ブチル単位の含有割合は、2mm角の高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数を求め、求めたモル数をマレイン酸モノn−ブチル単位の量に換算することにより算出した。
【0080】
1,3−ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位の含有割合は、高飽和ニトリルゴムを用いて、水素添加反応前と水素添加反応後のヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6383に従い、ケルダール法により、高飽和ニトリルゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
【0081】
ヨウ素価
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0082】
カルボキシル基含有量
2mm角のカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位はephr)。
【0083】
ムーニー粘度(ポリマームーニー)
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー)は、JIS K6300−1に従って測定した(単位は〔ML1+4、100℃〕)。
【0084】
常態物性(引張強度、破断伸び、100%引張応力)
架橋性ニトリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強度、破断伸びおよび100%引張応力を測定した。
【0085】
耐熱老化性
上記常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得た後、JIS K6257に従い、空気加熱老化試験を行った。具体的には、得られたシート状のゴム架橋物を温度150℃、168時間の条件でギヤーオーブンに保持した後、上記常態物性と同様にして引張試験を実施し、下記式より、伸び変化率を測定した。伸び変化率がゼロに近いほど耐熱老化性に優れると判断できる。
伸び変化率(%)={((熱老化後の伸び)−(常態での伸び))/(常態での伸び)}×100
【0086】
耐燃料油試験
上記常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得た後、JIS K6258に従い、該ゴム架橋物を温度40℃、168時間の条件で、イソオクタン/トルエン=50/50(体積比)の試験燃料油(Fuel−C)中に浸漬することにより耐燃料油試験を行った。そして、試験燃料油に浸漬前後のゴム架橋物の体積を測定し、浸漬後の体積変化率△V(単位:%)を「体積変化率△V=([浸漬後の体積−浸漬前の体積]/浸漬前の体積)×100」にしたがって算出することで、耐燃料油性の評価を行った。体積変化率△Vの絶対値が小さいほど、燃料油による膨潤の度合いが小さく、耐燃料油性に優れると判断できる。
【0087】
圧縮永久歪み試験(O−リング圧縮永久歪み)
内径30mm、リング径3mmの金型を用いて、架橋性ニトリルゴム組成物を170℃でプレス圧10MPaにて20分間架橋した後、170℃で4時間二次架橋を行ってO−リングセット試験用の試験片を得た。そして、O−リング圧縮永久歪みを、O−リングを挟んだ二つの平面の距離をリング厚み方向に25%圧縮した状態で150℃にて168時間保持する条件でJIS K6262に従って測定した。
【0088】
合成例1(カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−1)の合成)
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル(以下、「AN」ということがある。)36部、マレイン酸モノn−ブチル(以下、「MBM」ということがある。)4部およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン(以下、「BD」ということがある。)60部を仕込んだ。次いで、反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら重合反応を継続し、重合転化率が85%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で残留単量体を、減圧することにより除去し、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0089】
次いで、上記にて得られたニトリルゴムのラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1,000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−1)のラテックスを得た。
【0090】
そして、得られたラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−1)を得た。得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−1)の各単量体単位の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、マレイン酸モノn−ブチル単位4重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)60重量%であり、またヨウ素価は10、カルボキシル基含有量は3.0×10-2ephr、ポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は55であった。
【0091】
合成例2(カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−2)の合成)
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル21部、マレイン酸モノn−ブチル5部、アクリル酸n−ブチル35部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン39部を仕込んだ。次いで、反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら重合反応を継続し、重合転化率が83%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で残留単量体を、減圧にして除去し、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0092】
次いで、上記にて得られたニトリルゴムのラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1,000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−2)のラテックスを得た。
【0093】
そして、得られたラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−2)を得た。得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−2)の各単量体単位の組成は、アクリロニトリル単位21重量%、マレイン酸モノn−ブチル単位4.5重量%、アクリル酸n−ブチル単位30重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)44.5重量%であり、またヨウ素価は8、カルボキシル基含有量は0.029ephr、ポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は48であった。
【0094】
合成例3(高飽和ニトリルゴム(a'−3)の合成)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、これに脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加することで、石鹸水溶液を調製した。そして、得られた石鹸水溶液に、アクリロニトリル38部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン62部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、重合反応を開始した。そして、重合転化率が85%になった時点で、濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止し、水温60℃のロータリーエバポレ−タを用いて残留単量体を除去して、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
【0095】
次いで、上記にて得られたラテックスを、ラテックスに含有されるニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固させ、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥することで、ニトリルゴムを得た。そして、得られたニトリルゴムを、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴムに対して500重量ppm加え、水素圧3.0MPaで水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なうことにより、高飽和ニトリルゴム(a'−3)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(a'−3)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)64重量%であり、ヨウ素価は7、ポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は85であった。また、高飽和ニトリルゴム(a'−3)について、上記方法にしたがって、カルボキシル基含有量を測定したところ、検出限界以下であり、カルボキシル基を実質的に含有しないものであった。
【0096】
実施例1
合成例1で得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−1)70部およびナイロン66(商品名「アミランCM3006」、東レ社製、ポリアミド樹脂、示差走査型熱量計を用いて計測された融解熱のピーク温度より求めた融点:265℃)30部を、二軸押出機を用いて280℃にて混練することで、高飽和ニトリルゴム組成物を得た。
【0097】
そして、バンバリーミキサを用いて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム組成物100部に、FEFカーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製、カーボンブラック)20部、ステアリン酸1部、4,4'−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内新興化学社製、老化防止剤)1.5部を添加して混練し、次いで、混合物をロールに移して、DBU(商品名:RHENOGRAN XLA−60(GE2014)、RheinChemie社製、DBU60%(ジンクジアルキルジフォスフェイト塩になっている部分を含む))3部、および、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名:Diak#1、デュポン・ダウ・エラストマー社製、ポリアミン架橋剤)1.8部を添加して混練し、架橋性ニトリルゴム組成物を得た。
そして、上述した方法により、常態物性の測定、耐熱老化性の評価、耐燃料油試験、および圧縮永久歪み試験を行った。結果を表1に示す。
【0098】
実施例2
合成例1で得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−1)75部およびナイロン66(商品名「アミランCM3006」、東レ社製、ポリアミド樹脂)25部を、二軸押出機を用いて280℃にて混練することで、高飽和ニトリルゴム組成物を得た。
【0099】
また、架橋性ニトリルゴム組成物を得る際に、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム組成物を用いたこと、及びヘキサメチレンジアミンカルバメートの量を2部としたこと以外は、実施例1と同様に架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
そして、上述した方法により、常態物性の測定、耐熱老化性の評価、耐燃料油試験、および圧縮永久歪み試験を行った。結果を表1に示す。
【0100】
実施例3
二軸押出機を用いて高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、合成例1で得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−1)に代えて、合成例2で得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−2)を使用した以外は、実施例1と同様に高飽和ニトリルゴム組成物、および架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
そして、上述した方法により、常態物性の測定、耐熱老化性の評価、耐燃料油試験、および圧縮永久歪み試験を行った。結果を表1に示す。
【0101】
実施例4
二軸押出機を用いて高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、ナイロン66に代えてポリブチレンテレフタレート((商品名「トレコン1401−X06」、東レ社製、ポリエステル樹脂、示差走査型熱量計を用いて測定された融解熱のピーク温度より求めた融点:225℃)を用いたこと、および混練温度を280℃から235℃に変更した以外は、実施例1と同様に高飽和ニトリルゴム組成物、および架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
そして、上述した方法により、常態物性の測定、耐熱老化性の評価、耐燃料油試験、および圧縮永久歪み試験を行った。結果を表1に示す。
【0102】
実施例5
架橋性ニトリルゴム組成物を得る際に、ヘキサメチレンジアミンカルバメートに代えて、2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン(和歌山精化社製、ポリアミン架橋剤)(以下「BAPP」ということがある。)を2.4部使用した以外は、実施例1と同様に架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
そして、上述した方法により、常態物性の測定、耐熱老化性の評価、耐燃料油試験、および圧縮永久歪み試験を行った。結果を表1に示す。
【0103】
比較例1
合成例1で得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a−1)20部、高飽和ニトリルゴム(a'−3)50部およびナイロン66(商品名「アミランCM3006」、東レ社製、ポリアミド樹脂)30部を、二軸押出機を用いて280℃にて混練することで、高飽和ニトリルゴム組成物を得た。
【0104】
また、架橋性ニトリルゴム組成物を得る際に、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム組成物を用いたこと、及びDBU及びヘキサメチレンカルバメートに代えて1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「Vul Cup40KE」、アルケマ製、有機過酸化物架橋剤)を7部用いたこと以外は、実施例1と同様に架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
そして、上述した方法により、常態物性の測定、耐熱老化性の評価、耐燃料油試験、および圧縮永久歪み試験を行った。結果を表1に示す。
【0105】
比較例2
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、二軸押出機を用いて280℃で混練を行ったことに代えて、ロール混練機を用いて100℃で混練を行ったこと以外は、実施例1と同様に高飽和ニトリルゴム組成物、および架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
そして、上述した方法により、常態物性の測定、耐熱老化性の評価、耐燃料油試験、および圧縮永久歪み試験を行った。結果を表1に示す。
【0106】
比較例3
高飽和ニトリルゴム組成物を得る際に、二軸押出機を用いて280℃で混練を行ったことに代えて、バンバリーミキサを用いて200℃で混練を行ったこと以外は、実施例1と同様に高飽和ニトリルゴム組成物、および架橋性ニトリルゴム組成物を調製した。
そして、上述した方法により、常態物性の測定、耐熱老化性の評価、耐燃料油試験、および圧縮永久歪み試験を行った。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)、樹脂(B)およびポリアミン架橋剤(C)を含有してなる架橋性ニトリルゴム組成物であって、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を本発明所定の割合で配合し、樹脂(B)の融点以上の温度で混練することにより得られた架橋性ニトリルゴム組成物を用いた場合には,得られるゴム架橋物は、耐圧縮永久歪み性に優れ、さらに耐熱老化性および耐燃料油性に優れ、引張強度、伸びおよび100%引張応力が高度にバランスされたものであった(実施例1〜5)。
【0109】
一方、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)の配合量が少なすぎる場合には、得られるゴム架橋物は、耐圧縮永久歪み性に劣るものとなった(比較例1)。
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を本発明所定の割合で配合したものの、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)および樹脂(B)の混練を樹脂(B)の融点未満の温度で行った場合には、得られるゴム架橋物は、引張強度、および伸びに劣るものとなった(比較例2,3)。