特許第6733737号(P6733737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6733737有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機エレクトロニクス素子、及び有機エレクトロニクス素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6733737
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機エレクトロニクス素子、及び有機エレクトロニクス素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20200728BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   H05B33/22 D
   H05B33/10
   H05B33/14 B
【請求項の数】18
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2018-544644(P2018-544644)
(86)(22)【出願日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】JP2016080383
(87)【国際公開番号】WO2018070019
(87)【国際公開日】20180419
【審査請求日】2019年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉成 優規
(72)【発明者】
【氏名】龍崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】浅野 直紀
【審査官】 井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−51602(JP,A)
【文献】 特開2013−45986(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/81052(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/81031(WO,A1)
【文献】 S. A. SHAFFER ET AL,Hypervalent Ammonium Radicals. Effects of Alkyl Groups and Aromatic Substituents,JOURNAL OF ORGANIC CHEMISTRY,1996年,61,16,5234-5245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H05B 33/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるイオン化合物と、電荷輸送性ユニットを有する化合物と、を少なくとも含有する有機エレクトロニクス材料。
【化1】
(一般式(1)中、
ArFは、フルオロアリール基又はフルオロヘテロアリール基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子(H)、アルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Aは、アニオンを示す。)
【請求項2】
上記アニオンが下記一般式(1b)〜(5b)のいずれかで表される、請求項1に記載の有機エレクトロニクス材料。
【化2】
(一般式(1b)〜(5b)中、
〜Yは、それぞれ独立に、単結合、又は二価の連結基を表し、
〜R16は、それぞれ独立に、電子求引性の一価の基を表し、R及びR、R〜Rから選ばれる少なくとも2つの基、R〜R10から選ばれる少なくとも2つの基、又はR11〜R16から選ばれる少なくとも2つの基は、それぞれが互いに結合して環を形成していてもよく、
は酸素原子、Eは窒素原子、Eは炭素原子、Eはホウ素原子又はガリウム原子、Eはリン原子又はアンチモン原子を表す。)
【請求項3】
前記R及びRの少なくとも一方が、アルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基である、請求項1又は2に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項4】
前記R及びRの少なくとも一方が、アルキル基又はベンジル基である、請求項3に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項5】
前記ArFがフルオロアリール基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項6】
前記電荷輸送性ユニットが、芳香族アミン、カルバゾール、又はチオフェンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項7】
前記電荷輸送性ユニットを有する化合物が、ポリマー又はオリゴマーである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項8】
前記電荷輸送性ユニットを有する化合物が、1つ以上の重合性官能基を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項9】
前記重合性官能基が、オキセタン基、エポキシ基、及びビニルエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料、又は請求項10に記載のインク組成物を用いてなる有機層を備える、有機エレクトロニクス素子。
【請求項12】
前記有機層上にさらに別の有機層が成膜されてなる多層化された有機層を備える、請求項11に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項13】
前記有機層及び前記別の有機層の少なくとも一方が、正孔注入層、正孔輸送層、及び発光層よりなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項12に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項14】
さらに基板を含み、
前記基板が樹脂フィルムである、請求項11〜13のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項15】
有機エレクトロルミネセンス素子である、請求項11〜14のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料、又は請求項10に記載のインク組成物を用いて、塗布法で有機層を成膜する工程を含む、有機エレクトロニクス素子の製造方法。
【請求項17】
さらに、前記塗布法で成膜した有機層を重合させて不溶化させる工程を含む、請求項16に記載の有機エレクトロニクス素子の製造方法。
【請求項18】
不溶化させた有機層上に、さらに別の有機層を成膜して多層化する工程を含む、請求項17に記載の有機エレクトロニクス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロニクス材料に関し、さらには、当該有機エレクトロニクス材料を用いたインク組成物、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子)、及び有機エレクトロニクス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子である。有機エレクトロニクス素子は、省エネルギー、低価格、及び高柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の一例としては、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子ということもある)、有機光電変換素子、有機トランジスタなどが挙げられる。
【0004】
有機エレクトロニクス素子の中でも有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプの代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0005】
有機EL素子の分野では、発光効率及び寿命特性を改善する目的や、低駆動電圧化を目的として、電荷輸送性の化合物に電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされている。
【0006】
このような技術では、電荷輸送性化合物と電子受容性化合物とを混合したときに生成する、電荷輸送性化合物のラジカルカチオンと対アニオンとからなる化合物を生成させることにより、発光効率及び寿命特性や駆動電圧の改善を図っているものと考えられる。
【0007】
例えば、特許文献1には、電荷輸送膜用組成物として、所定の式で表されるイオン化合物と電荷輸送性化合物とからなる組成物が開示されている。
【0008】
一方、有機EL素子は、用いる材料及び製膜方法から、低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子の2つに大別される。高分子型有機EL素子は、有機材料が高分子材料により構成されており、真空系での成膜が必要な低分子型有機EL素子と比較して、印刷やインクジェットなどの簡易成膜が可能なため、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な素子である。
【0009】
低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子とも、これまで精力的に研究が行われてきたが、未だに発光効率の低さ、発光寿命の短さが大きな問題となっている。この問題を解決する一つの手段として、低分子型有機EL素子では多層化が行われている。
【0010】
低分子型有機EL素子は蒸着法で製膜を行うため、用いる化合物を順次変更しながら蒸着を行うことで容易に多層化が達成できる。一方、高分子型有機EL素子は、印刷やインクジェットといった湿式プロセスを用いて製膜を行うことが多い。湿式プロセスによる多層化では、上層を塗布する際に下層が溶解してしまうという課題が生じる。そのため、高分子型有機EL素子の多層化は低分子型有機EL素子に比べ困難であり、発光効率の向上、及び寿命特性の改善効果を得ることが困難であった。
【0011】
この問題に対処するために、これまでにいくつかの方法が提案されている。一つは、溶解度の差を用いる方法である。例えば、水溶性であるポリチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)からなる正孔注入層と、トルエン等の芳香族系有機溶媒を用いて製膜された発光層との2層構造からなる素子である。この場合、PEDOT:PSS層はトルエン等芳香族溶媒に溶解しないため、2層構造を作製することが可能となっている。
【0012】
また、特許文献2には、上述した多層化での課題を克服するために、シロキサン化合物やオキセタン基、ビニル基などの重合反応を利用して化合物の溶解度を変化させ、薄膜を溶剤に対して不溶化する方法が開示されている。
【0013】
上記のとおり、有機エレクトロニクス素子においては、駆動電圧、発光効率、寿命特性等の素子の特性改善を目的として様々な検討が行われているが、未だ十分なものではなく、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−233162号公報
【特許文献2】国際公開第2008/010487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記した問題に鑑み、駆動電圧が低く、かつ、発光効率及び寿命特性に優れた有機エレクトロニクス素子を形成することが可能な有機エレクトロニクス材料を提供することを目的とする。また、本発明は、更に、当該有機エレクトロニクス材料を用いたインク組成物、有機エレクトロニクス素子、及び当該有機エレクトロニクス素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の構造を有するイオン化合物と電荷輸送性ユニットとを有する化合物を組み合わせた有機エレクトロニクス材料が、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
〔1〕本発明の一態様は、下記一般式(1)で表されるイオン化合物と、電荷輸送性ユニットを有する化合物と、を少なくとも含有する有機エレクトロニクス材料に関する。
【化1】
(一般式(1)中、
ArFは、フルオロアリール基又はフルオロヘテロアリール基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子(H)、アルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、
Aは、アニオンを示す。)
【0018】
〔2〕本発明の更なる一態様は、上記アニオンが下記一般式(1b)〜(5b)のいずれかで表される、上記有機エレクトロニクス材料に関する。
【化2】
(一般式(1b)〜(5b)中、
〜Yは、それぞれ独立に、単結合、又は二価の連結基を表し、
〜R16は、それぞれ独立に、電子求引性の一価の基を表し、R及びR、R〜Rから選ばれる少なくとも2つの基、R〜R10から選ばれる少なくとも2つの基、又はR11〜R16から選ばれる少なくとも2つの基は、それぞれが互いに結合して環を形成していてもよく、
は酸素原子、Eは窒素原子、Eは炭素原子、Eはホウ素原子又はガリウム原子、Eはリン原子又はアンチモン原子を表す。)
【0019】
〔3〕本発明の更なる一態様は、上記R及びRの少なくとも一方が、アルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基である、上記有機エレクトロニクス材料に関する。
【0020】
〔4〕本発明の更なる一態様は、上記R及びRの少なくとも一方が、アルキル基又はベンジル基である、上記有機エレクトロニクス材料に関する。
【0021】
〔5〕本発明の更なる一態様は、上記ArFがフルオロアリール基である、上記有機エレクトロニクス材料に関する。
【0022】
〔6〕本発明の更なる一態様は、上記電荷輸送性ユニットが、芳香族アミン、カルバゾール、又はチオフェンである、上記有機エレクトロニクス材料に関する。
【0023】
〔7〕本発明の更なる一態様は、上記電荷輸送性ユニットを有する化合物が、ポリマー又はオリゴマーである、上記有機エレクトロニクス材料に関する。
【0024】
〔8〕本発明の更なる一態様は、電荷輸送性ユニットを有する化合物が、1つ以上の重合性官能基を有する、上記有機エレクトロニクス材料に関する。
【0025】
〔9〕本発明の更なる一態様は、上記重合性官能基が、オキセタン基、エポキシ基、及びビニルエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記有機エレクトロニクス材料に関する。
【0026】
〔10〕本発明の別の一態様は、上記有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物に関する。
【0027】
〔11〕本発明の別の一態様は、上記有機エレクトロニクス材料、又は上記インク組成物を用いてなる有機層を備える、有機エレクトロニクス素子に関する。
【0028】
〔12〕本発明の更なる一態様は、上記有機層上にさらに別の有機層が成膜されてなる多層化された有機層を備える、上記有機エレクトロニクス素子に関する。
【0029】
〔13〕本発明の更なる一態様は、上記有機層及び上記別の有機層の少なくとも一方が、正孔注入層、正孔輸送層、及び発光層よりなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記有機エレクトロニクス素子に関する。
【0030】
〔14〕本発明の更なる一態様は、さらに基板を含み、
上記基板が樹脂フィルムである、上記有機エレクトロニクス素子に関する。
【0031】
〔15〕本発明の更なる一態様は、有機エレクトロルミネセンス素子である、上記有機エレクトロニクス素子に関する。
【0032】
〔16〕本発明の別の一態様は、上記有機エレクトロニクス材料又は上記インク組成物を用いて、塗布法で有機層を成膜する工程を含む、有機エレクトロニクス素子の製造方法に関する。
【0033】
〔17〕本発明の更なる一態様は、さらに、上記塗布法で成膜した有機層を重合させて不溶化させる工程を含む、上記有機エレクトロニクス素子の製造方法に関する。
【0034】
〔18〕本発明の更なる一態様は、不溶化させた有機層上に、さらに別の有機層を成膜して多層化する工程を含む、上記有機エレクトロニクス素子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0035】
本発明の実施形態によれば、駆動電圧が低く、かつ、発光効率及び寿命特性に優れた有機エレクトロニクス素子を形成することが可能な有機エレクトロニクス材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施形態である有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
<有機エレクトロニクス材料>
本実施形態の有機エレクトロニクス材料は、下記一般式(1)で表されるイオン化合物と、電荷輸送性ユニットを有する化合物(以下、電荷輸送性化合物ともいう)とを含有する。
【0038】
【化3】
(一般式(1)中、
ArFは、フルオロアリール基又はフルオロヘテロアリール基を表し、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子(H)、アルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基を示し、
Aは、アニオンを示す。)
【0039】
本実施形態において、上記一般式(1)で表されるイオン化合物は、カチオン部位を構成するN(窒素原子)に結合する4つの基のうちの少なくとも1つが水素原子であり、かつ、少なくとも1つが−CH−Ar−F、すなわち、メチレン基、アリーレン基又はヘテロアリーレン基、及びフルオロ基より構成される基であることを特徴とする。
【0040】
一般式(1)で表されるイオン化合物を用いることにより、本実施形態の有機エレクトロニクス材料を用いて形成される有機エレクトロニクス素子を低駆動電圧化し、また、発光効率及び寿命特性を高めることができる。
このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。本実施形態の有機エレクトロニクス材料においては、特定のカチオン構造を有する一般式(1)のイオン化合物と電荷輸送性化合物とを含有することにより、電荷輸送性化合物のドーピングが速やかに起こる。これにより、正孔密度が上昇し、電荷輸送性の向上効果が得られるものと推測される。
【0041】
従って、本実施形態の有機エレクトロニクス材料を用いて形成される層(以下、「有機層」とも記載する)は電荷輸送性に優れている。このため、当該有機層を有機エレクトロニクス素子に用いることにより、素子の低消費電力化、発光効率及び寿命特性の向上の効果が得られるものと推定される。なお、このメカニズムは推論であり、何ら本発明を限定するものではない。
【0042】
また、一実施形態では、一般式(1)で表されるイオン化合物を用いると、後述するように、最高占有軌道(HOMO)の深い電荷輸送性化合物を用いた場合にも、電荷輸送性向上の効果が得られ易いという利点がある。
【0043】
また、一実施形態では、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物と、一般式(1)のイオン化合物とを併用することにより、有機エレクトロニクス材料の硬化性を向上させることができる。これは一般式(1)のイオン化合物が重合開始剤として機能することによるものと推定される。これにより、有機エレクトロニクス素子の有機層の多層化をより容易に行うことができる。従って、一般式(1)のイオン化合物と、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物とを組合せることにより、塗布法を用いた積層素子の作製に好適に用いることができるという利点もある。
【0044】
以下に、一般式(1)で表される化合物の例を具体的に説明する。
【0045】
一般式(1)中、より詳細には、ArFは、フルオロアリール基又はフルオロヘテロアリール基を表し、これらの基は、それぞれ置換基を有してもよい。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子(H)、又は、アルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、これらの基は、それぞれ置換基を有してもよい。Aは、アニオンを表す。
ここで、フルオロアリール基及びフルオロヘテロアリール基の置換基は、それぞれ独立に、アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましい。アルキル基及びベンジル基の置換基は、それぞれ独立に、ハロゲンであることが好ましく、アリール基及びヘテロアリール基の置換基は、それぞれ独立に、ハロゲン、アルキル基、又はアルコキシ基であることが好ましい。
【0046】
ここで、本実施形態の有機エレクトロニクス材料をインク組成物としたときの溶媒への溶解性を高める観点から、一般式(1)において、R及びRの少なくとも1つが、アルキル基、ベンジル基、アリール基、又はヘテロアリール基であることが好ましい。また、R及びRのいずれか一方が、アルキル基又はベンジル基であることがより好ましい(すなわち、R及びRが、ともにアリール基又はヘテロアリール基となることがない)。R及びRのいずれもが、アルキル基又はベンジル基であることがさらに好ましい。これらの基は、非置換であっても、置換基を有していてもよい。
【0047】
一般式(1)において、ArF、R及びRで表される基について説明する。
【0048】
ArFで表されるフルオロアリール基は、アリール基が有する少なくとも1つの水素原子が、フッ素原子で置換された基である。ArFで表されるフルオロヘテロアリール基はヘテロアリール基が有する少なくとも1つの水素原子が、フッ素原子で置換された基である。
【0049】
ArFで表される基が有するフルオロ基の数n(置換したフッ素原子の数)は、1以上であればよく、アリール基又はヘテロアリール基の置換し得る位置すべてに置換していてもよい。電荷輸送性向上の観点では、フルオロ基の数nは、1以上10以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
【0050】
ArFにおけるアリール基は、芳香族炭化水素から、水素原子1個を除いた原子団である。ここに芳香族炭化水素としては、単環の芳香族炭化水素の他、縮合環をもつもの、2個以上の独立したベンゼン環又は縮合環が、直接又はビニレンなどの二価の基を介して結合したものが含まれる。ベンゼン環、又は、2〜4個の芳香環が縮合した芳香族炭化水素がより好ましい。また、アリール基は置換基を有していてもよく、置換基の例としては、フッ素を除くハロゲン(例えば、塩素、ホウ素、ヨウ素等)、アルコキシ基、アルキル基等が挙げられる。アリール基の炭素数(置換基の炭素数を含む)は通常6〜60程度であり、6〜30がより好ましく、6〜20がさらに好ましく、6〜15が特に好ましい。
具体的には、フェニル基、C〜C12アルコキシフェニル基(C〜C12は、置換基の炭素数1〜12であることを示す。以下も同様である。)、C〜C12アルキルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、フェナントレン−イル基、ピレン−イル基、ペリレン−イル基、ペンタフルオロフェニル基などが例示される。フェニル基、C〜C12アルコキシフェニル基、及びC〜C12アルキルフェニル基が好ましい。フェニル基、C〜Cアルコキシフェニル基、及びC〜Cアルキルフェニル基がより好ましい。フェニル基がさらに好ましい。
ここで、置換基であるC〜C12アルコキシ基として、具体的には、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、i−プロピルオキシ、ブトキシ、i−ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、3,7−ジメチルオクチルオキシ、ラウリルオキシなどが例示される。また、C〜C12アルキル基として、具体的には、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、3,7−ジメチルオクチル、ラウリルなどが例示される。
【0051】
ArFにおけるヘテロアリール基は、芳香族複素環化合物から水素原子1個を除いた残りの原子団をいう。該ヘテロアリール基は、非置換であっても、又は置換基を有していてもよい。置換基としては、フッ素を除くハロゲン(例えば、塩素、ホウ素、ヨウ素等)、上記アリール基の説明で例示したアルキル基、アルコキシ基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。非置換の1価の芳香族複素環基の炭素数は、通常4〜60程度であり、好ましくは4〜20である。中でも、4〜6員のヘテロ環を有するものがより好ましい。ヘテロ原子としては、S(硫黄)、O(酸素)、N(窒素)等が挙げられる。
1価の複素環基としては、チエニル基、C〜C12アルキルチエニル基、ピロリル基、フリル基、ピリジル基、C〜C12アルキルピリジル基などが例示される。チエニル基、C〜C12アルキルチエニル基、ピリジル基、及びC〜C12アルキルピリジル基が好ましく、C〜Cアルキルチエニル基、ピリジル基、及びC〜Cアルキルピリジル基がより好ましい。
【0052】
ArFで表される基は、フルオロアリール基であることが好ましく、フルオロフェニル基であることがより好ましい。
【0053】
又はRで表されるアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれでもよい。アルキル基は置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン(フッ素、塩素、ホウ素、ヨウ素等)、C〜C12アルコキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、スルホ基、ヒドロキシ基、ニトロ基等が挙げられ、ハロゲンが好ましい。
アルキル基の炭素数(置換基の炭素数を含む)は、通常1〜20程度であり、1〜15が好ましい。また、R及びRの少なくとも一方が、炭素数1〜6のアルキル基であることも好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ラウリル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基などが例示される。
【0054】
又はRで表されるベンジル基は置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン(フッ素、塩素、ヨウ素、ホウ素等)、C〜C12アルコキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミノ基、スルホ基、ヒドロキシ基、ニトロ基等が挙げられ、ハロゲンが好ましく、フッ素がより好ましい。
【0055】
又はRで表されるアリール基及びヘテロアリール基としては、上記ArFにおけるアリール基及びヘテロアリール基として例示したものが挙げられる。R又はRで表されるアリール基及びヘテロアリール基は、未置換であっても、又は置換基を有していてもよい。置換基としては、上記ArFにおけるアリール基及びヘテロアリール基の置換基として例示した基、及びフッ素等が挙げられる。
【0056】
RaとRbの組合せとしては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基とベンジル基若しくはフルオロベンジル基との組合せ、炭素数1〜6のアルキル基と炭素数1〜6のアルキル基との組合せ、炭素数1〜6のアルキル基と炭素数7〜20のアルキル基との組合せ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
一般式(1)において、Aで表されるアニオンは、当該技術分野で知られるアニオンであれば特に限定されない。一実施形態において、駆動電圧低減や安定した長時間駆動が可能な有機エレクトロニクス素子、特に有機EL素子を製造する観点から、下記一般式(1b)〜(5b)で表されるいずれかのアニオンが好ましい。
【0058】
【化4】
一般式(1b)〜(5b)中、
〜Yは、それぞれ独立に、単結合、又は二価の連結基を表す。
〜R16は、それぞれ独立に、電子求引性の一価の基を表す。これら基の構造中に、さらに置換基及び/又はヘテロ原子をもっていてもよい。また、R及びR、R〜R、R〜R10、又はR11〜R16の基は、それぞれ互い結合して、環を形成していても、あるいはポリマー構造を形成していてもよい。
は酸素原子、Eは窒素原子、Eは炭素原子、Eはホウ素原子又はガリウム原子、Eはリン原子、又はアンチモン原子を表す。
【0059】
好ましくは、上記Aで表されるアニオンの一実施形態において、一般式(1b)〜(5b)中、Y〜Yは、それぞれ独立に、単結合、又は二価の連結基を表し、R〜R16は、それぞれ独立に、電子求引性の一価の基を表し、R及びR、R〜Rから選ばれる少なくとも2つの基、R〜R10から選ばれる少なくとも2つの基、又はR11〜R16から選ばれる少なくとも2つの基は、それぞれ、互いに結合して環を形成していてもよく、Eは酸素原子、Eは窒素原子、Eは炭素原子、Eはホウ素原子又はガリウム原子、Eはリン原子又はアンチモン原子を表す。また、Aで表されるアニオンの別の実施形態において、一般式(1b)〜(5b)のいずれかで表される構造が、R〜R16のいずれかを介して2個以上連結したポリマー構造を形成していてもよい。
【0060】
電子求引性の一価の基(上記式中のR〜R16)の例示としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数が通常1以上12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数が通常2以上10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の炭素数が通常3以上25以下、好ましくは4以上15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アセトキシ基等の炭素数が通常2以上20以下のアシルオキシ基;アルキルオキシスルホニル基;アリールオキシスルホニル基;トリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基等の、アルキル、アルケニル、アルキニル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、ハロアルケニル基、及びハロアルキニル基;ペンタフルオロフェニル基などの炭素数が通常6以上20以下のハロアリール基、などが挙げられる。上記のハロアルキル基、ハロアルケニル基、及びハロアルキニル基において、アルキル、アルケニル、及びアルキニル基は、それぞれ炭素数が通常1以上20以下、好ましくは1以上10以下、より好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状であってよく、その構造においてヘテロ原子(例えば、N、O、S等)をさらに含んでいてもよい。
これらの中でも、負電荷を効率よく非局在化できる観点から、より好ましくは、上記に例示した一価の基のうち水素原子を有する基の水素原子の一部又は全てをフッ素等のハロゲン原子で置換した基が好ましい。例えば、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキルスルホニル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルキルオキシスルホニル基、パーフルオロアリールスルホニル基、パーフルオロアリールオキシスルホニル基、パーフルオロアシル基、パーフルオロアルコキシカルボニル基、パーフルオロアシルオキシ基、パーフルオロアリールオキシカルボニル基、パーフルオロアルケニル基、パーフルオロアルキニル基である。これらの基は、好ましくは、炭素数1〜20であり、ヘテロ原子(例えば、N、O、S等)さらに含んでもよく、直鎖状、分岐状若しくは環状であってよい。
例えば、下記構造式群(1)で表される基が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、これらの中でも、炭素数1〜8の直鎖状、又は分岐鎖状のパーフルオロアルキル基、炭素数3〜6の環状パーフルオロアルキル基、炭素数6〜18のパーフルオロアリール基が好ましい。
【0061】
構造式群(1)
【化5】
【0062】
また、上記一般式におけるY〜Yが2価の連結基を示す場合、具体的には、下記一般式(1c)〜(11c)のいずれか1種であることが好ましい。
【0063】
【化6】
式中、Rは任意の有機基を表す。
【0064】
一般式(7c)〜(11c)におけるRは、電子受容性の向上、溶媒への溶解性の観点から、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基であることが好ましい。これら基の構造中に、さらに置換基、及び/又はヘテロ原子をもっていてもよい。より好ましくは、上記一般式(1b)〜(5b)の説明において例示した一価の基のうち、電子求引性の置換基を有する有機基であり、例えば、上記構造式群(1)の基が挙げられる。
【0065】
また、一般式(1)においてAで表されるアニオンは負電荷が主として酸素原子、窒素原子、炭素原子、ホウ素原子又はガリウム原子上にあるものが好ましい。特に限定されないが、より好ましくは酸素原子、窒素原子、炭素原子、ホウ素原子上にあるものであり、最も好ましくは下記一般式(12c)、(13c)、(14c)、(15c)で表されるものである。
【0066】
【化7】
(式中、RF1〜RF10は、それぞれ独立に電子求引性の一価の基を表し、これら基の構造中にさらに置換基、ヘテロ原子をもっていてもよい。またRF1〜RF9は、それぞれ互いに結合して環を形成していても、又はポリマー構造を形成していてもよい。
詳細には、Aで表されるアニオンの一実施形態において、RF1及びRF2、RF3〜RF5から選ばれる少なくとも二つの基、RF6〜RF9から選ばれる少なくとも二つの基は互いに結合して環を形成していてもよい。Aで表されるアニオンの別の実施形態において、一般式(12c)〜(15c)のいずれかで表される構造が、それぞれ、RF1〜RF10のいずれかを介して2個以上結合したポリマー構造を形成していてもよい。
F1〜RF10の例としては、特に限定されないが、例えば、上記構造式群(1)で示される基が挙げられる。
【0067】
一般式(1)で表されるイオン化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、有機エレクトロニクス材料の全質量中、0.01質量%以上20質量%以下が好ましい。0.01質量%以上であると電荷輸送性や硬化性の観点で好ましく、20質量%以下であると成膜性の観点で好ましい。イオン化合物の含有量は、有機エレクトロニクス材料の全質量中0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
[電荷輸送性化合物]
本実施形態における「電荷輸送性化合物」について詳細に述べる。本実施形態において電荷輸送性化合物とは、電荷輸送性ユニットを有する化合物を言う。本実施形態において「電荷輸送性ユニット」とは、正孔又は電子を輸送する能力を有した原子団であり、以下、その詳細について述べる。
【0069】
上記電荷輸送性ユニットは、正孔又は電子を輸送する能力を有していればよく、特に限定されないが、芳香環を有するアミンやカルバゾール、チオフェンであることが好ましい。これらの具体例としては、国際公開第2011/132702号公報に記載されているものが挙げられる。特に、下記(1)〜(14)のアミン構造が好ましい。下記(1)〜(14)のアミン構造中のE、Ar、Xとしては上記公報に記載されているものを用いてもよい。E、Ar、Xは、例えば以下に示す通りである。
Eは、それぞれ独立に、−R、−OR、−SR、−OCOR、−COOR、−SiR等を表す。ここで、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜22個の、直鎖、環状若しくは分岐アルキル基、又は炭素数2〜30個のアリール基若しくはヘテロアリール基を表す。
Arは、それぞれ独立に炭素数2〜30個のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基及びヘテロアリール基は置換基を有していてもよい。
Xは、それぞれ独立に、二価の連結基であり、特に制限はないが、上記Eのうち水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基等が好ましい。
【0070】
【化8】
【0071】
また、本実施形態における電荷輸送性化合物は、低分子の化合物であっても、ポリマー又はオリゴマーのような高分子の化合物であってもよい。有機溶媒への溶解性の観点からは、ポリマー又はオリゴマーのような高分子化合物が好ましく、昇華や再結晶などでの精製が容易な観点からは低分子化合物であることが好ましい。
【0072】
本実施形態における電荷輸送性化合物がポリマー又はオリゴマーである場合、十分な重合反応を進行させるための温度を下げる観点から、3方向以上に分岐する構造を有するポリマー又はオリゴマーが好ましい。また、この分岐した構造はポリマー又はオリゴマーのガラス転移温度を高くすることができ、ポリマー又はオリゴマーの耐熱性向上にも寄与する。
【0073】
この分岐した構造とは、ポリマー又はオリゴマー1分子中の種々の鎖の中で、最も重合度の大きくなる鎖を主鎖とした時に、主鎖に対して重合度が同じか、それよりは重合度の小さい側鎖が連結していることを指す。本実施形態において重合度とは、ポリマー又はオリゴマーを合成する際に用いられるモノマー単位が、ポリマー又はオリゴマー1分子当たりにいくつ含まれるかを表す。本実施形態において側鎖は、ポリマー又はオリゴマーの主鎖とは異なる鎖であり、少なくとも1つ以上の重合単位を有しているものをいい、それ以外は側鎖ではなく置換基とみなす。
【0074】
分岐した構造を形成する方法としては、1分子中に重合可能な部位を3ヶ所以上有するモノマーを用いてポリマー又はオリゴマーを形成してもよいし、直線状のポリマー又はオリゴマーを形成した後に、それら同士を重合させることで形成してもよく、特に限定されない。
【0075】
具体的には、上記ポリマー又はオリゴマー中の分岐構造を形成する起点となる単位として、後述する構造単位Bを含むことが好ましい。
【0076】
また、本実施形態におけるポリマー又はオリゴマーは、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、既述の国際公開第2011/132702号公報に記載の一般式(1a)〜(84a)で表される繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、又はヘテロアリーレン基として後述する構造単位Lで表される構造を共重合繰り返し単位として有する共重合体であってもよい。この場合、共重合体では、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。また、本実施形態で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。
【0077】
また、本実施形態における電荷輸送性化合物は、上述のものに限られず、市販のものでもよく、当業者公知の方法で合成したものであってもよく、特に制限はない。
【0078】
以下、本実施形態の有機エレクトロニクス材料に用いることができるポリマー及びオリゴマーの例について、具体的に説明する。なお、以下の説明において、ポリマー及びオリゴマーを「電荷輸送性ポリマー」と記載することもある。
【0079】
電荷輸送性ポリマーは、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。電荷輸送性ポリマーは、好ましくは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含み、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bを更に含んでもよい。電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」〜「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0080】
(構造)
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。電荷輸送性ポリマーは以下の部分構造を有するポリマーに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0081】
直鎖状の電荷輸送性ポリマー
【化9】
【0082】
分岐構造を有する電荷輸送性ポリマー
【化10】
【0083】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニレン構造、ターフェニレン構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0084】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。
【0085】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Lは、以下に限定されない。
【化11】
【0086】
【化12】
【0087】
なお、構造単位中のRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。好ましくは、Rは、それぞれ独立に、−R、−OR、−SR、−OCOR、−COOR、−SiR、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択される。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状若しくは分岐アルキル基、又は炭素数2〜30個のアリール基若しくはヘテロアリール基を表す。アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。アルキル基は、更に、炭素数2〜20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、更に、炭素数1〜22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基である。Arは、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0088】
芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。
【0089】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。
【0090】
構造単位Bの具体例として、下記一般式(1)〜(10)の構造のうちいずれか1種を含むことが好ましい。構造単位Bは、以下に限定されない。
【0091】
【化13】
【0092】
(式中、Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、炭素数2〜30個のアリーレン基、若しくはヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。
アリーレン基とは芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。
ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。
Wは、3価の連結基を表し、上記アリーレン基又はヘテロアリーレン基からさらに水素原子1個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。例えば、炭素数2〜30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。
Yは、それぞれ独立に2価の連結基を表す。例えば、構造単位LにおけるR(但し、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、リン原子のいずれかを表す。)構造単位中、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、構造単位LにおけるRが挙げられる。
【0093】
上記一般式(4)、(7)におけるYとしては、以下の式で表される2価の連結基であることが好ましい。
【0094】
【化14】
(式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜22個の、直鎖、環状若しくは分岐アルキル基、又は炭素数2〜30個のアリール基若しくはヘテロアリール基を表す。ここで、アリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子一個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子1個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。)
【0095】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。構造単位Tは、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。構造単位Tが構造単位Lと同じ構造を有していてもよい。一実施形態において、構造単位Tは、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、後述するように、電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位Tは重合可能な構造(例えば、ピロール−イル基等の重合性官能基)であってもよい。
【0096】
構造単位Tの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Tは、以下に限定されない。
【化15】
【0097】
Rは、構造単位LにおけるRと同様である。電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、好ましくは、Rのいずれか少なくとも1つが、重合性官能基を含む基である。
【0098】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
【0099】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0100】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0101】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1〜70が好ましく、100:3〜50がより好ましく、100:5〜30が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10〜200:10〜100が好ましく、100:20〜180:20〜90がより好ましく、100:40〜160:30〜80が更に好ましい。
【0102】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーのH NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0103】
(重合性官能基)
また、本実施形態における電荷輸送性化合物は、溶解度を変化させて有機薄膜の積層構造を作製するため、一つ以上の「重合性官能基」を有することが好ましい。ここで、上記重合性官能基」とは、重合反応を起こすことにより2分子以上の分子間で結合を形成可能な官能基のことであり、以下、その詳細について述べる。
【0104】
上記重合性官能基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、アレーン基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、フリル基、ピロール基、チオフェン基、シロール基等を挙げることができる)、小員環を有する基(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基等の環状エーテル基;ジケテン基、エピスルフィド基等)、ラクトン基、ラクタム基、又はシロキサン誘導体を含有する基等が挙げられる。複素環基(例えば、フラン−イル基、ピロール−イル基、チオフェン−イル基、シロール−イル基)などが挙げられる。また、上記基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。例えば、エステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせである。重合性官能基としては、特に、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、アクリレート基、メタクリレート基が反応性の観点から好ましく、オキセタン基が最も好ましい。重合性置換基の自由度を上げ、硬化反応を生じさせやすくする観点からは、ポリマー又はオリゴマーの主鎖と重合性官能基が、炭素数1〜8のアルキル鎖で連結されていることがより好ましい。
【0105】
また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていることが好ましい。さらに、重合性官能基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、電荷輸送性ポリマーは、アルキレン鎖及び/又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と重合性官能基との連結部、及び/又は、これらの鎖と電荷輸送性ポリマーの骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。前述の「重合性官能基を含む基」とは、重合性官能基それ自体、又は、重合性官能基とアルキレン鎖等とを合わせた基を意味する。重合性官能基を含む基として、例えば、国際公開第WO2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0106】
重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0107】
重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0108】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0109】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、重合性官能基の仕込み量(例えば、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーのH NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0110】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0111】
(製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、園頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0112】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第WO2010/140553号の記載を参照できる。
【0113】
(数平均分子量)
また、上記電荷輸送性化合物がポリマー又はオリゴマーである場合、溶剤への溶解性、成膜性の観点から数平均分子量が、500以上が好ましく、1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。より好ましくは2,000以上900,000以下、さらに好ましくは3,000以上800,000以下であり、50,000以下が更に好ましい。1,000より小さいと化合物が結晶化しやすくなり、成膜性に劣ってしまう。また、1,000,000より大きいと溶剤への溶解度が低下し、塗布溶液や塗布インクを作製するのが困難になる。
【0114】
(重量平均分子量)
また、上記電荷輸送性化合物がポリマー又はオリゴマーである場合、重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整することができる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、後述のインク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。
【0115】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0116】
(含有量)
電荷輸送性化合物の含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。100質量%とすることも可能である。
【0117】
一実施形態では、電荷輸送性化合物として、最高占有軌道(HOMO)の深い電荷輸送性化合物を用いることも好ましい。
有機エレクトロニクス材料を有機EL素子の正孔注入層及び/又は正孔輸送層に用いる場合、例えばHOMOの深い発光層に対しては、正孔輸送層から発光層への正孔の注入障壁を軽減することができるという点で、HOMOの深い(HOMOの絶対値の大きい)電荷輸送性化合物が望まれる場合がある。
一方で、有機EL素子等の有機エレクトロニクス素子の低駆動電圧化を目的として、電荷輸送性化合物に電子受容性化合物を添加することで、電荷輸送性化合物の電荷輸送性を向上させる試みがなされている。しかし、特に、最高被占軌道(HOMO)の深い電荷輸送性化合物を用いた場合、有機EL素子の低電圧化は困難であるという課題があった。
これに対し、本実施形態の有機エレクトロニクス材料では、一般式(1)で表されるイオン化合物を電荷輸送性化合物と併用することにより、HOMOの深い電荷輸送性化合物を用いた場合でも、駆動電圧の低減や安定した長時間駆動を図ることができる。この理由は明らかではないが、一般式(1)のイオン化合物は、フッ化ベンジル基を含む特定のカチオン構造を有するために、HOMOの深い電荷輸送性化合物を速やかにドーピングし、有機EL素子の駆動電圧を低下させる効果を奏するためと推測される。なお、このメカニズムは推論であって何ら本実施形態を限定するものではない。
先に説明した電荷輸送性化合物のなかでも、HOMOの深い電荷輸送性化合物として、例えば、分子内にフッ化アリール構造やフェニレン構造を有する化合物等が挙げられる。 ここで、本明細書において、HOMOの深い電荷輸送性化合物とは、例えば、HOMOが−5.2eV以下、好ましくは−5.3eV以下であるものを意味する。HOMOの絶対値は、後述する実施例に記載の方法により測定される値であり、絶対値が大きいほどHOMOが深いことを意味する。HOMOの深い電荷輸送性化合物の具体例として、後述する実施例で例示した電荷輸送性化合物2及び3が挙げられる。
【0118】
また、本実施形態の有機エレクトロニクス材料は、重合反応による溶解度の差を利用するために、重合開始剤を含むことが好ましい。
【0119】
この重合開始剤としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合性官能基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に限定されないが、光照射及び/又は加熱によって重合を開始させるものであることが好ましい。また、後述のインク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。
上記式(1)で表されるイオン化合物は単独で重合開始剤として用いることができる。また、式(1)で表されるイオン化合物と他の重合開始剤とを併用してもよい。
【0120】
[他の任意成分]
有機エレクトロニクス材料は、上述の電荷輸送性化合物以外の電荷輸送性化合物、他のポリマー等を更に含有してもよい。
【0121】
<インク組成物>
一実施形態において、上記有機エレクトロニクス材料は、該材料を溶解又は分散し得る溶媒をさらに含有し、インク組成物を構成してもよい。インク組成物は、少なくとも、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料と、該材料を溶解又は分散し得る溶剤とを含む。インク組成物は、有機エレクトロニクス材料による特性を低下させない範囲で、必要に応じて公知の各種添加剤を含んでもよい。例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。このようなインク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成することができる。
溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテルを使用することができる。
本実施形態のインク組成物において、溶媒に対する有機エレクトロニクス材料の含有量は、種々の塗布プロセスに適用できる範囲で調整される。例えば、溶媒100質量%に対する電荷輸送性化合物の割合は、0.1〜30質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0122】
<有機層>
本実施形態の有機エレクトロニクス材料を用いて有機エレクトロニクス素子などに用いられる各種の層を形成することができる。層を成膜する方法は限定されるものではないが、有機EL素子の多層化を容易にする観点で塗布法により成膜することが好ましい。
塗布法により成膜を行うためには、例えば、本実施形態の有機エレクトロニクス材料を含む溶液(インク組成物)を、例えば、インクジェット法等の無版印刷法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法等の有版印刷法の公知の方法で所望の基体上に塗布する塗布工程の後、必要により、塗布後に得られた塗布層を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させる乾燥工程により、溶媒を除去する方法が挙げられる。電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、光照射や加熱処理などによりポリマー又はオリゴマーの重合反応を進行させ、塗布層の溶解度を変化(硬化)させることによって行うことができる。基体は、有機エレクトロニクス素子に用いられる各種基板であってもよいし、成膜された他の層であってもよい。成膜された他の層は、本実施形態の有機層であってもよい。このような作業を繰り返すことで高分子型の有機エレクトロニクス素子や有機EL素子の多層化を図ることが可能となる。
【0123】
上記のような塗布方法(塗布工程)は、通常、−20〜+300℃の温度範囲、好ましくは10〜100℃、特に好ましくは15〜50℃で実施することができ、また上記溶液に用いる溶媒としては、特に制限はないが、例えば、上述のインク組成物の調製に用いる溶媒が挙げられる。
【0124】
また、上記光照射には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、発光ダイオード、太陽光等の光源を用いることができる。
【0125】
また、上記加熱処理は、ホットプレート上やオーブン内で行うことができ、特に、本実施形態においては上述のイオン化合物を用いることで硬化性に優れることから、(1)低温での硬化や、(2)短時間での硬化が可能である。低温での硬化は、耐熱温度が低い樹脂基板等の使用に寄与し、短時間での硬化は、生産性の向上に寄与する。
具体的には、上記(1)の場合、加熱温度は、0〜300℃の温度範囲、好ましくは50〜250℃、特に好ましくは50〜200℃で実施することができる。低温での硬化を行う場合は、加熱時間は、例えば5〜60分とすることができ、好ましくは10〜40分である。上記(2)の場合、1〜60分とすることが好ましく、1〜20分とすることが好ましい。短時間での硬化を行う場合は、加熱温度は、例えば180〜250℃とすることができ、好ましくは200〜230℃である。
【0126】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下である。
【0127】
有機EL素子、特に高分子型有機EL素子では、発光効率や寿命特性の向上の観点で、有機層を多層化し、各々層の機能を分離することが望ましい。一方、大面積でも成膜が可能な、印刷やインクジェットいった湿式プロセスを用いて製膜を有機層の多層化を行うためには、下層が上層製膜時に溶解しないようにする必要がある。有機層を多層化する技術としては、前述の特許文献1に記載されるような溶解度の差を用いる方法は有効ではあるが、水溶性のPEDOT:PSSを使用すると薄膜中に残存する水分を除去する必要があるという課題があった。また、前述の特許文献2に記載されるように重合反応を利用して溶剤への溶解度を変化させる手法も、使用できる材料が限られてしまうことや、空気中の水分に対する安定性や素子特性の観点で改善の余地があった。
また、上記材料を用いたインク組成物は、硬化のために高い温度での処理が必要であり樹脂基板の適用が困難であること、あるいは長時間の加熱が必要なため生産性が低いなどの問題があった。
【0128】
しかし、本発明の一実施形態の有機エレクトロニクス材料は、硬化性、特には低温硬化性に優れるため、樹脂基板等を用いた場合も、多層化された有機層を有する有機エレクトロニクス素子を高い歩留まりで作製することができる。
【0129】
<有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子>
本実施形態の有機エレクトロニクス素子は、上記有機エレクトロニクス材料又は上記インク組成物を用いて成膜された層を含むことが好ましく、さらには当該成膜した層を重合させて不溶化した層を含むことがより好ましい。上記有機エレクトロニクス材料又は上記インク組成物を用いて成膜された層は塗布法により成膜された層であることが好ましい。
同様に、本実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)は、上記有機エレクトロニクス材料又は上記インク組成物を用いて成膜された層を含むことが好ましく、さらには当該成膜した層を重合させて不溶化した層を含むことがより好ましい。
いずれの素子も、本実施形態の有機エレクトロニクス材料を用いて形成された電荷輸送性に優れた層を含み、駆動電圧が低く、長い発光寿命を有することができる。
本実施形態の有機エレクトロニクス素子は、上述の有機エレクトロニクス材料又はインク組成物を用いて、例えば、塗布法により有機層を成膜する工程を含む方法により製造することができる。
【0130】
以下に、本実施形態のEL素子について詳述する。
[有機EL素子]
本実施形態の有機EL素子は、発光層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されず、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層などの他の層を有していてもよい。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。また、正孔注入層、正孔輸送層、及び発光層の少なくともひとつを、本実施形態の有機エレクトロニクス材料又はインク組成物を用いて形成された層とすることが好ましく、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方を本実施形態の有機エレクトロニクス材料又はインク組成物を用いて形成された層とすることがより好ましい。一実施形態において、有機層の形成は、先に説明したインク組成物を使用し、塗布法に従って良好に実施することができる。
【0131】
図1は、本発明の実施形態である有機EL素子の一例を示す断面模式図である。図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、上記実施形態の有機層からなる正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。以下、各層について説明する。
【0132】
(発光層)
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマー又はオリゴマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。ポリマーは、溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq3))、スチルベン、これらの誘導体があげられる。蛍光発光を利用するポリマー又はオリゴマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体や混合物が好適に利用できる。
【0133】
一方、近年有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M.A.Baldo et al.,Nature,vol.395,p.151(1998)、M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,vol.75,p.4(1999)、M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照。)。
【0134】
本実施形態の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)3〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(上記M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照)又はAdachi et al.,Appl.Phys.Lett.,78no.11,2001,1622に示される赤色発光を行う(btp)2Ir(acac){bis〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}、Ir(piq)〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。
【0135】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0136】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。
ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。ホスト材料として、本実施形態の有機エレクトロニクス材料を使用することもできる。
【0137】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2’-dimethylbiphenyl)、これらの誘導体などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体などが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0138】
熱活性化遅延蛍光材料としては、例えば、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009);Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011);Chem. Comm., 48, 9580 (2012);Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012);J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012);Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013);J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013);Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013);Chem. Comm., 49, 10385 (2013);Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0139】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。
塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0140】
(陰極)
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0141】
(陽極)
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電性を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0142】
(電子輸送層、電子注入層)
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2- (4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole) (PBD))、ベンゾイミダゾール誘導体、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq3))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。また、本実施形態の有機エレクトロニクス材料も使用することができる。
【0143】
(正孔注入層及び正孔輸送層)
本実施形態の有機EL素子としては、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方に、本実施形態の一般式(1)のイオン化合物と電荷輸送性化合物とを含む有機エレクトロニクス材料を用いることが好ましい。正孔注入層及び正孔輸送層の一方に本実施形態の有機エレクトロニクス材料を用い、他方に他の材料を用いてもよい。
正孔注入層及び正孔輸送層に用いることのできる材料としては、本明細書において例示した材料の他、例えば、芳香族アミン系化合物(α−NPDなどの芳香族ジアミン)、フタロシアニン系化合物、チオフェン系化合物(例えば、チオフェン系導電性ポリマー:ポリ(4−スチレンスルホン酸塩))(PEDPT:PSS)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0144】
(基板)
本実施形態の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものが好ましい。ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられるがこれらに限定されない。樹脂フィルム(フレキシブル基板)を用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり、特に好ましい。また、本実施形態の有機エレクトロニクス材料は低温硬化性に優れているため、基板として樹脂フィルムを用いた有機エレクトロニクス素子に好適に用いることができる。
【0145】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0146】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気や酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素や窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0147】
(発光色)
本実施形態の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0148】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有する組合せ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組合せなどが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0149】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本実施形態の表示素子は、既述の本実施形態の有機EL素子を備えたことを特徴としている。
例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、本実施形態の有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
画像の形成には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレイ用として用いられる。
【0150】
また、本実施形態の照明装置は、既述の本実施形態の有機EL素子を備えたことを特徴としている。さらに、本実施形態の表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴としている。バックライト(白色発光光源)として上述の本実施形態の照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを本実施形態の照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【0151】
本実施形態の有機エレクトロニクス材料は電荷輸送性に優れることから、有機EL素子の他、各種有機エレクトロニクス素子に好適に用いることができる。
【実施例】
【0152】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0153】
<1>イオン化合物の合成
[イオン化合物1]
三口丸底フラスコにトルエン(20ml)、4−Fluoro−N−methylbenzylamine(I)2.8g(0.02mol)、4−Fluorobenzyl bromide 7.6g(0.04mol)、水酸化ナトリウム水溶液(50%)7.9g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.64g(0.002mol)を加え、10時間加熱還流下で攪拌を行った。撹拌終了後、有機層を水洗し、硫酸マグネシウム5gを加え有機層の脱水を行い、有機層をロータリーエバポレーターで濃縮した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒=ヘキサン:酢酸エチル=1:1(体積比))にてN−(4−fluorobenzyl)−1−(4−fluorophenyl)−N−methylmethanamine(I)(収量4.0g/反応収率80%)を得た。
上記N−(4−fluorobenzyl)−1−(4−fluorophenyl)−N−methylmethanamine(I)2.5g(0.01mol)に臭化水素酸(48%)1.7gを混合し、少し加温して振り混ぜ、1時間放置後、減圧で水分を除去したところ粘稠な油状物となった。この油状物をプロトンNMRでチェックしたところ、N−(4−fluorobenzyl)−1−(4−fluorophenyl)−N−methylmethanamine(I)は消滅しており、N−(4−fluorobenzyl)−1−(4−fluorophenyl)−N−methylmethanammonium bromide(II)が生成していることが確認された。
ついで、上記(II)1.6g(0.005mol)と、Sodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.)35.1g(0.005mol)とを混合し、撹拌した。得られた反応混合物を終夜放置したところ、全体が白濁しゼリー状になる中に白色の沈殿物が認められた。水を適宜加え、これを減圧濾過、水洗、乾燥し白色の固体物を得た(収量3.5g/反応収率75%)。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0154】
【化16】
【0155】
[イオン化合物2]
三口丸底フラスコにトルエン(20ml)、4−Fluoro−N−methylbenzylamine(I)2.8g(0.02mol)、benzyl bromide 6.9g(0.04mol)、水酸化ナトリウム水溶液(50%)7.9g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.64g(0.002mol)を加え、10時間加熱還流下で攪拌を行った。撹拌終了後、有機層を水洗し、硫酸マグネシウム5gを加え有機層の脱水を行い、有機層をロータリーエバポレーターで濃縮した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒=ヘキサン:酢酸エチル=1:1(体積比))にて、N−benzyl−1−(4−fluorophenyl)−N−methylmethanamine(I)(収量4.1g/反応収率90%)を得た。
上記N−benzyl−1−(4−fluorophenyl)−N−methylmethanamine(I)2.3g(0.01mol)に臭化水素酸(48%)1.7gを混合し、少し加温して振り混ぜ、1時間放置後、減圧で水分を除去したところ、粘稠な油状物となった。この油状物をプロトンNMRでチェックしたところ、N−benzyl−1−(4−fluorophenyl)−N−methylmethanamine(I)は消滅しており、N−benzyl−1−(4−fluorophenyl)−N−methylmethanammonium bromide(II)が生成していることが確認された。
ついで、上記(II)1.6g(0.005mol)と、Sodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.)35.1g(0.005mol)とを混合し、撹拌した。得られた反応混合物を終夜放置したところ、全体が白濁しゼリー状になる中に白色の沈殿物が認められた。水を適宜加え、これを減圧濾過、水洗、乾燥し白色の固体物を得た(収量3.2g/反応収率70%)。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0156】
【化17】
【0157】
[イオン化合物3]
三口丸底フラスコにトルエン(20ml)、4−Fluoro−N−methylbenzylamine(I)2.8g(0.02mol)、1−Iodobutane 7.3g(0.04mol)、水酸化ナトリウム水溶液(50%)7.9g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.64g(0.002mol)を加え、10時間加熱還流下で攪拌を行った。撹拌終了後、有機層を水洗し、硫酸マグネシウム5gを加え有機層の脱水を行い、有機層をロータリーエバポレーターで濃縮した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒=ヘキサン:酢酸エチル=1:1(体積比))にて、N−(4−fluorobenzyl)−N−methylbutan−1−amine(I)(収量3.5g/反応収率90%)を得た。
上記N−(4−fluorobenzyl)−N−methylbutan−1−amine(I)2.0g(0.01mol)に臭化水素酸(48%) 1.7gを混合し、少し加温して振り混ぜ、1時間放置後、減圧で水分を除去したところ、粘稠な油状物となった。この油状物をプロトンNMRでチェックしたところ、N−(4−fluorobenzyl)−N−methylbutan−1−amine(I)は消滅しており、N−(4−fluorobenzyl)−N−methylbutan−1−ammonium bromide(II)が生成していることが確認された。
ついで、上記(II)1.38g(0.005mol)と、Sodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.)35.1g(0.005mol)とを混合し、撹拌した。得られた反応混合物を終夜放置したところ、全体が白濁しゼリー状になる中に白色の沈殿物が認められた。水を適宜加え、これを減圧濾過、水洗、乾燥し白色の固体物を得た(収量3.3g/反応収率75%)。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0158】
【化18】
【0159】
[イオン化合物4]
三口丸底フラスコにトルエン(20ml)、4−Fluoro−N−methylbenzylamine(I)2.8g(0.02mol)、1−Iododecane 22.9g(0.04mol)、水酸化ナトリウム水溶液(50%)7.9g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.64g(0.002mol)を加え、10時間加熱還流下で攪拌を行った。撹拌終了後、有機層を水洗し、硫酸マグネシウム5gを加え有機層の脱水を行い、有機層をロータリーエバポレーターで濃縮した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒=ヘキサン:酢酸エチル=1:1(体積比))にて、N−(4−fluorobenzyl)−N−methyldecane−1−amine(I)(収量3.8g/反応収率80%)を得た。
上記N−(4−fluorobenzyl)−N−methyldecane−1−amine(I)2.8g(0.01mol)に臭化水素酸(48%)1.7gを混合し、少し加温して振り混ぜ、1時間放置後、減圧で水分を除去したところ、粘稠な油状物となった。この油状物をプロトンNMRでチェックしたところ、N−(4−fluorobenzyl)−N−methyldecane−1−amine(I)は消滅しており、N−(4−fluorobenzyl)−N−methyldecane−1−ammonium bromide(II)が生成していることが確認された。
ついで、上記(II)1.80g(0.005mol)と、Sodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.)35.1g(0.005mol)とを混合し、撹拌した。得られた反応混合物を終夜放置したところ、全体が白濁しゼリー状になる中に白色の沈殿物が認められた。水を適宜加え、これを減圧濾過、水洗、乾燥し白色の固体物を得た(収量2.4g/反応収率50%)。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0160】
【化19】
【0161】
[イオン化合物5]
Trihexylamine(I)2.7g(0.01mol)に臭化水素酸(48%)1.7gを混合し、少し加温して振り混ぜ、1時間放置後減圧で水分を除去したところ、粘稠な油状物となった。この油状物をプロトンNMRでチェックしたところ、Trihexylamine(I)は消滅しており、Trihexylammonium bromide(II)が生成していることが確認された。
ついで、上記(II)1.75g(0.005mol)と、Sodium tetrakis(pentaphenyl)borate(10% aq.)35.1g(0.005mol)とを混合し、撹拌した。得られた反応混合物を終夜放置したところ、全体が白濁しゼリー状になる中に白色の沈殿物が認められた。水を適宜加え、これを減圧濾過、水洗、乾燥し白色の固体物を得た(収量2.8g/反応収率60%)。
以上の反応の反応式を以下に示す。
【0162】
【化20】
【0163】
<2>電荷輸送性化合物の合成
[Pd触媒の調製]
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール(15ml)を加え、30分間攪拌した。同様に、サンプル管にトリス(t−ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5ml)を加え、5分間攪拌した。これらの溶液を混合し室温で30分間攪拌し触媒とした。
【0164】
[電荷輸送性化合物1]
以下のようにして、電荷輸送性化合物(電荷輸送性ポリマー)1を調製した。三口丸底フラスコに、下記モノマー1(2.0mmol)、下記モノマー2(5.0mmol)、下記モノマー3(4.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、さらに、別途調製したPd触媒の溶液(7.5mL)を加え、攪拌した。30分撹拌した後、上記フラスコ内に、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を追加した。この混合物を2時間にわたって、加熱・還流した。なお、ここまでの全ての操作は、窒素気流下で行った。また、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1(体積比))に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−水(9:1(体積比))で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過し、トルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine,polymer−bound on styrene−divinylbenzene copolymer」、ポリマー100mgに対して200mg)を加えて、一晩撹拌した。
撹拌終了後、金属吸着剤と不溶物をろ過して取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮液をトルエンに溶解した後、メタノール−アセトン(8:3(体積比))から再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過し、メタノール−アセトン(8:3(体積比))で洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、電荷輸送性化合物1を得た。得られた電荷輸送性化合物1の数平均分子量は5,600であり、重量平均分子量は9,000であった。
【0165】
【化21】
【0166】
数平均分子量及び重量平均分子量は、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した、測定条件は、以下のとおりである。
送液ポンプ :L-6050 (株)日立ハイテクノロジーズ
UV-Vis検出器 :L-3000 (株)日立ハイテクノロジーズ
カラム :Gelpack(登録商標)GL-A160S/GL-A150S 日立化成(株)
溶離液 :THF(和光純薬製, HPLC用, 安定剤不含)
流速 :1 mL/min
カラム温度 :室温
分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0167】
[電荷輸送性化合物2]
モノマー1をモノマー4に変更した以外は、電荷輸送性化合物1と同様の操作を行い、電荷輸送性化合物2を得た。得られた電荷輸送性化合物2の数平均分子量は5,000であり、重量平均分子量は8,000であった。
【化22】
【0168】
[電荷輸送性化合物3]
モノマー1をモノマー5に変更した以外は、電荷輸送性化合物1と同様の操作を行い、電荷輸送性化合物3を得た。得られた電荷輸送性化合物3の数平均分子量は6,000であり、重量平均分子量は9,000であった。
【化23】
【0169】
[電荷輸送性化合物4]
モノマー1をモノマー6に変更した以外は、電荷輸送性化合物1と同様の操作を行い、電荷輸送性化合物4を得た。得られた電荷輸送性化合物4の数平均分子量は6,000であり、重量平均分子量は9,000であった。
【化24】
【0170】
<3>電荷輸送性化合物の最高被占軌道(HOMO)レベルの測定
(電荷輸送性化合物1の測定)
電荷輸送性化合物1(10.0mg)をトルエン溶液(1000μl)に溶解し、インク組成物を調製した。このインク組成物を3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上で、120℃で10分間にわたって加熱処理し、測定用サンプルを得た。次いで、AC−5(理研計器製)を用いて、上記測定用サンプルのHOMOレベルを測定した。測定値は、5.10eVであった。
【0171】
(電荷輸送性化合物2の測定)
電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物2に変えたこと以外は上記と同様にして測定を行った。測定値は、5.35eVであった。
【0172】
(電荷輸送性化合物3の測定)
電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物3に変えたこと以外は上記同様にして測定を行った。測定値は、5.45eVであった。
【0173】
<4>有機エレクトロニクス材料(インク組成物)の評価
[実施例1]
以下に示すようにしてインク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性の評価を行った。
(硬化性の評価)
電荷輸送性化合物1(10.0mg)とイオン化合物1(0.15mg)とをトルエン溶液(1000μl)に溶解し、インク組成物を調製した。このインク組成物を3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上で、120℃で10分間加熱して重合反応を行った。加熱後にトルエンに石英板を1分間浸漬し、洗浄をおこなった。洗浄前後のUV−visスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、残膜率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0174】
(電荷輸送性の評価)
電荷輸送性を評価するにあたり、以下のように評価素子を作製した。
<電荷輸送性評価素子の作製>
電荷輸送性化合物1(100mg)、上記イオン化合物1(3.0mg)、及びトルエン(1.91mL)を混合し、インク組成物を得た。ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、先に調製したインク組成物を3000min−1でスピン塗布し、ホットプレート上で120℃、10分間加熱することにより、電荷輸送膜(150nm)を作製した。次に、上記電荷輸送膜を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、アルミニウム(膜厚100nm)を蒸着した。
【0175】
アルミニウムを蒸着後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITO基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、電荷輸送性評価素子を作製した。
【0176】
これら電荷輸送性評価素子のITOを正極、アルミニウムを陰極として電圧を印加した。50mA/cm通電時の印加電圧を表1に示す。
【0177】
[実施例2]
実施例1において、イオン化合物1をイオン化合物2に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0178】
[実施例3]
実施例1において、イオン化合物1をイオン化合物3に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0179】
[実施例4]
実施例1において、イオン化合物1をイオン化合物4に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0180】
[実施例5]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物2に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0181】
[実施例6]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物2に、イオン化合物1をイオン化合物2に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0182】
[実施例7]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物2に、イオン化合物1をイオン化合物3に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0183】
[実施例8]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物2に、イオン化合物1をイオン化合物4に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0184】
[実施例9]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物3に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0185】
[実施例10]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物3に、イオン化合物1をイオン化合物2に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0186】
[実施例11]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物3に、イオン化合物1をイオン化合物3に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0187】
[実施例12]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物3に、イオン化合物1をイオン化合物4に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0188】
[比較例1]
実施例1において、イオン化合物1をイオン化合物5に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0189】
[比較例2]
実施例1において、イオン化合物1を下記四級アンモニウムイオンに変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0190】
【化25】
【0191】
[比較例3]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物2に、イオン化合物1をイオン化合物5に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0192】
[比較例4]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物2に、イオン化合物1を上記比較例2で用いた四級アンモニウムイオンに変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0193】
[比較例5]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物3に、イオン化合物1をイオン化合物5に変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0194】
[比較例6]
実施例1において、電荷輸送性化合物1を電荷輸送性化合物3に、イオン化合物1を上記比較例2で用いた四級アンモニウムイオンに変更したこと以外は実施例1と同様にして各インク組成物を調製し、硬化性及び電荷輸送性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0195】
【表1】
【0196】
表1より、実施例1〜4においては、比較例1、2と比較して、硬化性及び電荷輸送性のいずれも同時に良好な結果が得られたことが分かる。実施例5〜8、及び9〜12についても比較例3、4あるいは5、6と比較して硬化性及び電荷輸送性のいずれも同時に良好な結果が得られたことが分かる。
つまり、本実施形態の有機エレクトロニクス材料は耐溶剤性を備えつつ、正孔電流が流れやすくなっており、有機エレクトロニクス素子の低電圧化に寄与すると考えられる。
【0197】
<5>有機EL素子の作製及び評価
[実施例13〜15、及び比較例7〜12]
窒素雰囲気下で、電荷輸送性化合物4(10.0mg)、下記イオン化合物6(0.5mg)、及びトルエン(2.3mL)を混合し、正孔注入層形成用のインク組成物を調製した。ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、上記インク組成物を回転数3,000min−1でスピンコートし、塗膜を形成した。次いで、ホットプレート上で120℃、10分間加熱して上記塗膜を硬化することにより、正孔注入層(25nm)を形成した。
【0198】
【化26】
【0199】
次に、表2に示した電荷輸送性化合物1〜3のいずれか1種(10.0mg)と、イオン化合物1、イオン化合物4、及び四級アンモニウムのいずれか1種(0.5mg)と、トルエン(1.15mL)とを混合し、正孔輸送層形成用のインク組成物を調製した。
先に形成した正孔注入層の上に、上記正孔輸送層形成用のインク組成物を、回転数3,000min−1でスピンコートし、塗膜を形成した。次いで、ホットプレート上で120℃、10分間にわたって加熱し、上記塗膜を硬化することにより、正孔輸送層(40nm)を形成した。各実施例及び比較例において、正孔注入層を溶解させることなく、正孔輸送層を形成することができた。
【0200】
【表2】
【0201】
上記で得た正孔注入層及び正孔輸送層を順次有する基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、CBP:Ir(ppy)(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、TPBi(30nm)、LiF(0.8nm)、及びAl(100nm)をこの順に蒸着法で成膜し、封止処理を行って有機EL素子を作製した。
【0202】
実施例13〜15及び比較例7〜12で得た有機EL素子に電圧を印加したところ、緑色発光が確認された。それぞれの素子について、発光輝度1,000cd/mにおける発光効率、及び初期輝度5,000cd/mにおける発光寿命(輝度半減時間)を測定した。
測定結果を表3に示す。
【0203】
【表3】
【0204】
以上の実施例13〜15及び比較例7〜12との比較から、本実施形態の有機エレクトロニクス材料は駆動電圧のほか発光効率、寿命特性にも優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0205】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板
図1