特許第6733897号(P6733897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6733897電気化学デバイス用結着剤、電極合剤、電極、電気化学デバイス及び二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6733897
(24)【登録日】2020年7月13日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用結着剤、電極合剤、電極、電気化学デバイス及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20200728BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20200728BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20200728BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20200728BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20200728BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/133
   H01M4/13
   H01M4/134
   H01G11/38
【請求項の数】21
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2020-36430(P2020-36430)
(22)【出願日】2020年3月4日
【審査請求日】2020年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2019-38912(P2019-38912)
(32)【優先日】2019年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩靖
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】平賀 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 穣輝
(72)【発明者】
【氏名】山口 史彦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 明平
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−204719(JP,A)
【文献】 特開2017−045517(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/038186(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01G 11/38
H01M 4/13
H01M 4/133
H01M 4/134
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖にゲスト基を有する第1の構成単位を含む第1の高分子と、
側鎖にホスト基を有する第2の構成単位を含む第2の高分子を含む高分子材料を含有することを特徴とする電気化学デバイス用結着剤。
【請求項2】
前記第1の高分子及び前記第2の高分子の少なくとも一方は、1個以上のフッ素基を有する請求項1記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項3】
側鎖にゲスト基を有する第1の構成単位と、側鎖にホスト基を有する第2の構成単位と、前記第1の構成単位及び第2の構成単位以外の第3の構成単位とを含む第3の高分子を含む高分子材料を含有することを特徴とする電気化学デバイス用結着剤。
【請求項4】
前記第1の構成単位、前記第2の構成単位及び前記第3の構成単位のうちの少なくとも一つの構成単位は、1個以上のフッ素基を有する請求項3記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項5】
前記ゲスト基は、炭化水素基である請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項6】
前記ゲスト基の炭素数は、40以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項7】
前記ゲスト基の炭素数は、3〜20である、請求項6に記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項8】
前記ゲスト基は、1個以上のフッ素基を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項9】
前記第1の構成単位は、下記式(1a)
【化1】
[式中、
Raは水素原子、メチル基又はフッ素基を示す。
Rbは、水素原子又はフッ素基を示す。
Rcは、水素原子又はフッ素基を示す。
は、ヒドロキシ基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基、アルデヒド基及びカルボキシ基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基及び/又は−O−(CH−CH−O)n−(nは1〜20)で表される基を示す。
、ゲスト基を示す。]
で表される構造、及び/又は、
後記の式(1’a)
【化2】
[式中、
Ra、Rb、Rc及びRは、式(1a)におけるそれらと同義である。]
で表される構造を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項10】
前記ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項11】
前記ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体の水酸基由来の酸素原子にメチレン基が結合した基であり、
前記メチレン基はさらに前記第2の構成単位の主鎖又は側鎖に結合している、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項12】
前記第1の構成単位及び前記第2の構成単位に含まれるフッ素基の総数が4以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤と、電極活物質と、分散媒とからなる電極合剤。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の電気化学デバイス用結着剤、電極活物質、及び、集電体を含む電極。
【請求項15】
正極である請求項14に記載の電極。
【請求項16】
負極である請求項14に記載の電極。
【請求項17】
電極活物質は、少なくとも一部に炭素質材料を含むものである請求項14に記載の電極。
【請求項18】
電極活物質は、少なくとも一部にシリコン含有化合物を含むものである請求項14に記載の電極。
【請求項19】
請求項14〜18のいずれか1項に記載の電極を備える電気化学デバイス。
【請求項20】
請求項14〜18のいずれか1項に記載の電極を備える二次電池。
【請求項21】
リチウムイオン電池である請求項20記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学デバイス用結着剤、電極合剤、電極、電気化学デバイス及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、モバイルパソコン、デジタルカメラ等の電子機器が急速に普及し、小型二次電池等の電気化学デバイスの需要が急速に増してきた。さらにそれらの機器が高性能化し、これまでなかった機能が付与されることで、より長時間、過酷な条件での使用に耐えうる電気化学デバイスへのニーズが高まってきている。
【0003】
上記二次電池としては、鉛電池、ニッカド電池、ニッケル水素電池、リチウム電池等が挙げられ、特にリチウム電池は単位体積・重量当たりの密度が高く、出力を大きくすることができることからその需要量が急速に増加してきた。
【0004】
これらの二次電池は、通常、正極又は負極活物質、結着剤、及び、集電体からなる正極及び負極を備え、正極と負極の間はセパレータで電気的な短絡が起こらないように分離されている。正極及び負極、並びに、セパレータは多孔質であり、電解液がしみ込んだ状態で存在している。
【0005】
特許文献1は、活物質としてシリコンを用いたリチウム電池を対象とした、特定の架橋剤により架橋されたポリアクリル酸からなるリチウム電池用結着剤を開示している。
【0006】
特許文献2は、集電体と、集電体の表面に形成された負極活物質及び結着剤であるポリアクリル酸を含む負極活物質層とを有する電池用電極が開示されている。
【0007】
特許文献3〜5は、ホスト基及び/又はゲスト基を有する、伸長性に優れた高分子材料について開示したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2014/065407号
【特許文献2】特開2009−80971号公報
【特許文献3】国際公開第2018/038186号
【特許文献4】国際公開第2013/162019号
【特許文献5】国際公開第2012/036069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、電気化学デバイスの抵抗、ガス発生量を低減することができ、容量保持率を向上させることができる電気化学デバイス用結着剤、それを含む電極合剤、電極、電気化学デバイス及び二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、側鎖にゲスト基を有する第1の構成単位を含む第1の高分子と、
側鎖にホスト基を有する第2の構成単位を含む第2の高分子とを含む高分子材料を含有する電気化学デバイス用結着剤に関する。
上記第1の高分子及び上記第2の高分子の少なくとも一方は、1個以上のフッ素基を有することが好ましい。
【0011】
本開示は、側鎖にゲスト基を有する第1の構成単位と、側鎖にホスト基を有する第2の構成単位と、上記第1の構成単位及び第2の構成単位以外の第3の構成単位とを含む第3の高分子を含む高分子材料を含有することを特徴とする電気化学デバイス用結着剤でもある。
【0012】
上記第1の構成単位、上記第2の構成単位及び上記第3の構成単位のうちの少なくとも一つの構成単位は、1個以上のフッ素基を有することが好ましい。
上記ゲスト基は、炭化水素基である好ましい。
上記ゲスト基の炭素数は、40以下であることが好ましい。
上記ゲスト基の炭素数は、3〜20であることが好ましい。
上記ゲスト基は、1個以上のフッ素基を有することが好ましい。
【0013】
上記第1の構成単位は、下記式(1a)
【0014】
【化1】
[式中、
Raは水素原子、メチル基又はフッ素基を示す。Rbは、水素原子又はフッ素基を示す。Rcは、水素原子又はフッ素基を示す。
は、ヒドロキシ基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基、アルデヒド基及びカルボキシ基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基及び/又は−O−(CH−CH−O)n−(nは1〜20)で表される基を示す。
、ゲスト基を示す。]
で表される構造、及び/又は、
下記式(1’a)
【0015】
【化2】
[式中、
Ra、Rb、Rc及びRは、式(1a)におけるそれらと同義である。]
で表される構造であることが好ましい。
上記ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体であることが好ましい。
【0016】
上記ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体の水酸基由来の酸素原子にメチレン基が結合した基であり、
上記メチレン基はさらに上記第2の構成単位の主鎖又は側鎖に結合していることが好ましい。
上記第1の構成単位及び上記第2の構成単位に含まれるフッ素基の総数は4以上であることが好ましい。
【0017】
本開示は、上述の電気化学デバイス用結着剤と、電極活物質と、水又は非水溶剤とからなる電極合剤でもある。
【0018】
本開示は、上述の電気化学デバイス用結着剤、電極活物質、電解液、及び、集電体を含む電極でもある。
上記電極は、正極であってもよい。
上記電極は、負極であってもよい。
上記電極活物質は、少なくとも一部に炭素質材料を含むものであってもよい。
上記電極活物質は、少なくとも一部にシリコン含有化合物を含むものであってもよい。
【0019】
本開示は、上述の電極を備える電気化学デバイスでもある。
本開示は、上述の電極を備える二次電池でもある。
上記二次電池は、リチウムイオン電池であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本開示は、電気化学デバイスの抵抗、ガス発生量を低減することができ、容量保持率を向上させることができる電気化学デバイス用結着剤、それを含む電極合剤、電極、電気化学デバイス及び二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示を詳細に説明する。
電気化学デバイスは、電極間で電子やイオンをやりとりすることにより電気エネルギーと化学エネルギーを変換するものであり、一般的にコンデンサ、キャパシタ、電池等を含むものである。電子や金属イオンが電極の間を移動し、この際、電極に含まれる活物質に金属イオンが挿入、あるいは脱離する。この金属イオンの挿入脱離によって活物質の急激な体積変化が生じ、活物質の一次粒子表面にクラック等の不具合が発生しやすくなる。特に高容量の二次電池で、出力を大きくするために多量の金属イオンの移動が起こると、体積変化も非常に大きなものとなる。さらに放充電が長期にわたると活物質が微粉化してしまい、最終的には電池の寿命が短くなるという問題があった。
これらの観点から、長寿命の電気化学デバイスの開発には、放充電による体積変化を抑制または体積変化に追随し得る活物質材料や結着剤の開発が必要とされてきた。
【0022】
従来の結着剤の役割は、電極において活物質と集電体とを結着して強度のある極板を形成し、活物質が本来持つ特性をアシストすることである。本開示の電気化学デバイス用結着剤は、従来の結着剤としての性能を有し、かつ、これまでにない優れた伸長性を有することで、活物質の体積変化に追随し得るものである。
【0023】
本開示の電気化学デバイス用結着剤は、ホスト―ゲスト相互作用による可逆的結合を形成する高分子材料からなることを特徴とする。ホスト−ゲスト相互作用は、例えば、ホスト基とゲスト基との疎水性相互作用、水素結合、分子間力、静電相互作用、配位結合、π電子相互作用等によって生じ得るが、これらに限定されるものではない。
【0024】
このホスト―ゲスト相互作用による結合は1種の非共有結合であり、可逆的な結合である。このため、一定以上の応力がかかると容易に破断され、再接近すると再結合が起こる。
すなわち、上記電気化学デバイス用結着剤を使用すると、電極内で高分子材料に含まれるホスト基とゲスト基との結合(以下、ホスト―ゲスト結合と表す)の破断及び再結合が起こることとなる。
【0025】
一般的に材料の破壊は応力集中部位から進行することが知られている。しかし、上記高分子材料は一定以上の応力が加えられた際、ホスト―ゲスト結合が容易に破断することで、高分子材料の一か所への応力集中を緩和し、材料全体に応力を分散することができる。結果、材料全体が均一に変形することで高い伸縮性を示すようになる。また、高分子の架橋構造が解離後再形成される性能を自己修復性とも呼び、本開示の電気化学デバイス用結着剤は高い自己修復性を有するものであるといえる。
【0026】
これまで、ホスト―ゲスト相互作用による可逆的結合を形成する高分子材料を電気化学デバイスの結着剤として利用した例はなかった。本開示は、上記高分子材料を結着剤として使用することにより、活物質の体積変化に追随し、電気化学デバイスの長寿命化を実現できることを見出したものである。
【0027】
本開示の電気化学デバイス用結着剤を二次電池に使用した場合の挙動について説明する。
上記電気化学デバイス用結着剤を含む電池において放電する際、負極から正極に向かって電子が流れ、金属イオンが負極から脱離して正極に移動することで正極の体積が肥大する。従来の二次電池では、正極活物質が膨張するために、正極活物質の劣化が引き起こされていた。しかしながら、本開示の電気化学デバイス用結着剤を使用すると、金属イオンが流れ込むことで生じる膨張により一定以上の応力のかかったホスト―ゲスト結合が破断し架橋構造の解離が生じるが、高分子材料自体は破壊に至ることなく膨張に追随することで、結着剤本来の機能を維持できる。
【0028】
一方、負極では、金属イオンが脱離することによって体積の減少が起こる。この時、かかっていた応力が除かれ、上記高分子材料はゴム弾性により収縮することで活物質の微粉化を防ぐ。同時にホスト基とゲスト基が再接触・再結合し、架橋構造が再形成されることで、高分子材料は強固な結着剤として機能し続ける。
【0029】
また、充電の際、正極から負極に向かって電子が流れ、金属イオンが正極から脱離して負極に移動する。この場合、負極でホスト―ゲスト結合の破断が生じ、正極でホストーゲスト結合の再形成が起こっている。
したがって、充電時も放電時と同様に、正極及び負極の電極構造を維持することができる。
【0030】
更には、本発明の結着剤を使用した電気化学用デバイスは、内部抵抗が低下するという効果を有する。このような効果を奏する作用は明らかではないが、本発明の高分子を使用することで、電子接点の改良ができ、これによって抵抗が低減されると推測される。
【0031】
(電気化学デバイス用結着剤)
以下、本開示の電気化学デバイス用結着剤に含まれる高分子材料について、詳述する。
上記高分子材料としては、例えば、後記する第1の実施形態、あるいは、後記する第2の実施形態とすることができる。以下では、高分子材料(第1の実施形態及び第2の実施形態の高分子材料を含む)を、単に「高分子材料」と称する場合がある。
【0032】
(第1の実施形態の高分子材料)
第一の実施形態は、側鎖にゲスト基を有する第1の構成単位を含む第1の高分子と、側鎖にホスト基を有する第2の構成単位を含む第2の高分子とを含む高分子材料である。
また、上記第1の高分子及び第2の高分子のうち少なくとも一方は1個以上のフッ素基を有するものであることが好ましい。上記フッ素基を有することで、さらに伸張率及び柔軟性に優れた高分子材料とすることができる。
【0033】
第1の高分子は、第1の構成単位を有して形成されている。上記第1の構成単位は側鎖にゲスト基を有し、第1の高分子におけるゲスト基として機能する。
上記第1の高分子は、1個以上のフッ素基を有することができる。第1の高分子が一個以上のフッ素基を有する場合、フッ素基の結合位置は特に限定されない。
【0034】
上記ゲスト基としては特に限定されず、炭化水素基、芳香族アリール基等を挙げることができる。
上記炭化水素基としては特に限定されず、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等を挙げることができる。
【0035】
上記アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、アダマンチル等の、直鎖状、分枝鎖状、環状又は籠状の炭素数1〜20のアルキル基を挙げることができる。
【0036】
上記アルケニル基としては、例えば、ビニル、1−プロペン−1−イル、2−プロペン−1−イル、イソプロペニル、2−ブテン−1−イル、4−ペンテン−1−イル、及び5−へキセン−1−イル等の、直鎖状又は分枝鎖状の、炭素数2〜20のアルケニル基を挙げることができる。
【0037】
上記アルキニル基としては、例えば、エチニル、1−プロピン−1−イル、2−プロピン−1−イル、4−ペンチン−1−イル、5−へキシン−1−イル等の、直鎖状又は分枝鎖状の、炭素数2〜20のアルキニル基を挙げることができる。
【0038】
上記ゲスト基は、直鎖、分岐、環状及び籠状のいずれでもよい。ゲスト基の炭素数は、強いホスト−ゲスト相互作用を形成し得るという観点から、40以下であることが好ましく、3〜20であることが特に好ましい。なかでも、ゲスト基がアダマンチル基などであれば、後記するβ−シクロデキストリンと強いホスト−ゲスト相互作用を形成し得るため好ましい。
【0039】
上記ゲスト基は、1個以上のフッ素基を有していてもよい。
ゲスト基がフッ素基を有する場合、このゲスト基の具体例としては、1個以上のフッ素基を有する炭化水素基(好ましくは、パーフルオロ炭化水素基)、フルオロ(ポリ)エーテル基、パーフルオロ(ポリ)エーテル基、−O−(CHCH−O)n−Rf(ここで、Rfは1個以上のフッ素基を有する炭化水素基、nは、例えば1〜20)、−(CF)n−CN(nは、例えば1〜20)等を挙げることができる。
【0040】
1個以上のフッ素基を有する炭化水素基の炭素数は特に限定的ではないが、例えば、40以下であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。この場合、ゲスト基は、ホスト基とホスト−ゲスト相互作用をしやすくなるので、当該態様の高分子材料は、破断ひずみが優れる。当該炭素数は、3〜20であることがさらに好ましく、3〜10であることが特に好ましい。
【0041】
ゲスト基が1個以上のフッ素基を有する炭化水素基である場合は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、ホスト−ゲスト相互作用がより起こりやすいという観点から、直鎖状であることが好ましい。例えば、好ましいゲスト基として、一以上のフッ素基を有する直鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0042】
ゲスト基がフルオロ(ポリ)エーテル基である場合は、その炭素数は、例えば、3〜40であることができる。また、その酸素数は、例えば、13〜30であることができる。この場合、ゲスト基は、ホスト基とホスト−ゲスト相互作用をしやすくなるので、破断ひずみが優れる高分子材料となりやすい。フルオロ(ポリ)エーテル基、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の具体例としては、−(CFCFCF−O)n−又は−(CFCF−O)n(CF−O)m−(例えば、n及びmは1〜20))を繰り返し構造にもち、末端が−CFCF、もしくは−CFである構造を挙げることができる。
【0043】
ゲスト基がフルオロ(ポリ)エーテル基である場合は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、ホスト−ゲスト相互作用がより起こりやすいという観点から、直鎖状であることが好ましい。
ゲスト基が−(CF)n−CNである場合、nは、例えば、1〜20である。
【0044】
第1の高分子を形成する第1の構成単位の構造は特に限定されないが、例えば、後記一般式(1a)で表される構造とすることができる。
【0045】
【化3】
【0046】
[式(1a)中、Raは水素原子、メチル基又はフッ素基を示す。
Rbは、水素原子又はフッ素基を示す。
Rcは、水素原子又はフッ素基を示す。
は、ヒドロキシ基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基、アルデヒド基及びカルボキシ基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基及び/又は−O−(CH−CH−O)n−(nは1〜20)で表される基を示す。
は、ゲスト基を示す。]
【0047】
なお、上記(1a)で表される構造は、以下の一般式(1b)で表される単量体を重合させることで形成される構造である。
【0048】
【化4】
【0049】
[式(1b)中、
Ra、Rb、Rc、R及びRは、式(1a)におけるそれらと同義である。]
【0050】
また、第1の構成単位は、一般式(1a)で表される構成単位に代えて、又は、これとの組み合わせで後記の式(1’a)
【0051】
【化5】
【0052】
[式(1’a)中、
Ra、Rb、Rc及びRは、式(1a)におけるそれらと同義である。]
とすることができる。
【0053】
なお、上記(1’a)で表される構造は、以下の一般式(1’b)で表される単量体を重合させることで形成される構造である。
【0054】
【化6】

【0055】
[式中、Ra、Rb、Rc及びRは、式(1a)におけるそれらと同義である。]
【0056】
式(1a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルコキシ基として炭素数1〜10のアルコキシ基が例示され、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0057】
式(1a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該チオアルコキシ基として炭素数1〜10のチオアルコキシ基が例示され、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0058】
式(1a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルキル基として炭素数1〜30のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0059】
式(1a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、アミノ基の窒素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子と結合し得る。本明細書でいう置換基としては、例えば、上記炭化水素基、ハロゲン、水酸基等をいう。
【0060】
式(1a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、アミド基の炭素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子と結合し得る。
【0061】
式(1a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、Rに対してオルト位、メタ位、パラ位のいずれの炭素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子に結合してもよい。
【0062】
式(1a)中、Rがアルデヒド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、アルデヒド基の炭素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子と結合し得る。
【0063】
式(1a)中、Rがカルボキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、カルボキシ基の炭素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子と結合し得る。
【0064】
式(1a)中、Rが−O−(CHCH−O)n−である場合、nは、例えば、1〜20である。また、この場合のゲスト基は、1個以上のフッ素基を有する炭化水素基が挙げられ、炭素数は例えば、1〜10であることが好ましい。この場合、ゲスト基は、ホスト基とホスト−ゲスト相互作用をしやすくなるので、当該態様の高分子材料は、破断ひずみに優れ、伸長率及び柔軟性に優れる傾向がある。
【0065】
式(1a)中、Rとしては、上述したゲスト基と同様のゲスト基が例示される。
【0066】
上述した第1の構成単位は、重合性不飽和結合を有する単量体を原料とする重合体として記載したものであるが、本開示の第1の構成単位は、このような構造に限定されるものではない。例えば、上記第1の構成単位は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びポリエステル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の樹脂の構成単位であってもよい。つまり、上記第1の構成単位は、主鎖にウレタン結合、エポキシ基、エステル基を有する構造であってもよい。その他、上記第1の構成単位は、アルキッド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ポリイソシアネート系樹脂、ケトン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、石油樹脂、シリカゲルやケイ酸などの無機系樹脂を形成する構造であってもよい。
【0067】
以上の構造を有する第1の高分子の例としては、(メタ)アクリル系樹脂(アクリル系重合体)、ポリエステル系樹脂、アルキッド樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ポリイソシアネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂(たとえば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体など)、ケトン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、石油樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンおよびそれらポリオレフィン類の塩素化物などを重合させたオレフィン系樹脂;シリカゲルやケイ酸などの無機系樹脂、または、これら樹脂の基本骨格を有するエラストマー(ゴム)が挙げられる。
【0068】
次に、第2の高分子について説明する。
第2の高分子は、第2の構成単位を有して形成されている。上記第2の構成単位は側鎖にホスト基を有し、第2の高分子におけるホスト基として機能する。
第2の高分子は、一個以上のフッ素基を有することができる。第2の高分子が一個以上のフッ素基を有する場合、フッ素基の結合位置は特に限定されない。
【0069】
ホスト基を形成するための分子(以下、「ホスト部位」と表記することがある)としては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、カリックス[6]アレーンスルホン酸、カリックス[8]アレーンスルホン酸、12−クラウン−4、18−クラウン−6、[6]パラシクロファン、[2,2]パラシクロファン、ククルビット[6]ウリル及びククルビット[8]ウリルの群から選ばれる少なくとも1種が例示される。これらのホスト部位は、置換基を有していてもよい。すなわち、ホスト部位は、そのホスト部位の誘導体であってもよい。
【0070】
ホスト部位としては、シクロデキストリン又はその誘導体であることが好ましい(本明細書においてシクロデキストリンという語はシクロデキストリンを化学的に誘導したものもト相互作用が起こりやすくなり、高分子材料の機械的物性が向上し、特に、破断ひずみに優れ、伸長率及び柔軟性に優れる。また、高分子材料の透明性もより高くなる。
【0071】
なお、シクロデキストリン誘導体の種類は特に限定されず、例えば、公知の方法によって製造されたシクロデキストリン誘導体をホスト部位として適用することができる。
【0072】
また、ゲスト基がアルキル基である場合、ホスト部位としては、αまたはβ―シクロデキストリンおよびその誘導体が好ましく、ゲスト基が特にフルオロアルキル基である場合は、ホスト部位としてγ−シクロデキストリン及びその誘導体であることが好ましい。この場合、特にゲスト基とのホスト−ゲスト相互作用が起こりやすくなり、高分子材料は破断ひずみに優れ、伸長率及び柔軟性に優れる。
【0073】
ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体の水酸基由来の酸素原子にメチレン基(−CH−)が結合した基であってもよい。この場合、上記メチレン基は上記第2の構成単位の主鎖又は側鎖に結合し得る。つまり、上記メチレン基は上記第2の高分子の主鎖又は側鎖に結合し得る。上記メチレン基(−CH−)は、第2の高分子主鎖とホスト部位であるシクロデキストリンとのいわゆるリンカーの役割を果たす。これにより、第2の高分子に柔軟性が付与されるので、ホスト−ゲスト相互作用が起こりやすくなる。その結果、高分子材料の破断ひずみが高くなり、伸長率及び柔軟性に優れる。
【0074】
上記メチレン基は、第2の高分子の側鎖に結合することができ、例えば、第2の高分子の構成単位が後記の一般式(2a)で表される構成単位である場合、そのRに結合することができる。より具体的に、第2の高分子の側鎖がエステル基を有する場合は、エステル基の酸素原子にメチレン基が結合することができ、第2の高分子の側鎖がアミド基を有する場合は、アミド基の窒素原子にメチレン基が結合することができる。また、メチレン基は、主鎖のC−C炭素原子に結合してもよい。
【0075】
第2の高分子を形成する第2の構成単位の構造は特に限定されないが、例えば、後記一般式(2a)で表される構成単位を有することができる。
【0076】
【化7】
【0077】
式(2a)中、Raは水素原子、メチル基又はフッ素基、Rbは、水素原子又はフッ素基、Rcは、水素原子又はフッ素基、Rはヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシ基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基又は−C(O)NH−(CH−O−C(O)−(nは2〜8)を示し、Rはホスト基を示す。
【0078】
式(2a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルコキシ基として炭素数1〜10のアルコキシ基が例示され、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0079】
式(2a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該チオアルコキシ基として炭素数1〜10のチオアルコキシ基が例示され、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0080】
式(2a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルキル基として炭素数1〜30のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
【0081】
式(2a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、アミノ基の窒素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子と結合し得る。
【0082】
式(2a)中、Rが1個以上の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、アミド基の炭素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子と結合し得る。
【0083】
式(2a)中、Rがアルデヒド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、アルデヒド基の炭素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子と結合し得る。
式(2a)中、Rがカルボキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、カルボキシ基の炭素原子が主鎖(C−C結合)の炭素原子と結合し得る。
式(2a)中、Rとしては、上述したホスト基が例示される。
【0084】
式(2a)中、Rはアミド基及びカルボキシ基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であることが好ましい。すなわち、式(2a)で表される構成単位は、水素原子がRで置換されたアミド基を側鎖に有する構造及び水素原子がRで置換されたカルボキシ基を側鎖に有する構造の少なくともいずれか一方を有していることが好ましい。この場合、本開示の高分子材料の製造が容易となりやすい。
【0085】
第2の構成単位はフッ素基を有していなくてもよく、フッ素基を有する場合フッ素原子の数は10以下であることが好ましい。
【0086】
なお、上記(2a)で表される構造は、以下の一般式(2b)で表される単量体を重合させることで形成される構造である。
【0087】
【化8】
【0088】
式(2b)中、Ra、Rb、Rc、R及びRは、式(2a)中におけるRa、Rb、Rc、R及びRと同義である。
【0089】
上記第2の構成単位は、式(2a)で表される構造以外であってもよい。
例えば、上記第2の構成単位は、上記第1の構成単位で例示した樹脂の構成単位であってもよい。
【0090】
また、以上の構造を有する第2の高分子の例としては、上記第1の高分子で挙げた化合物を例示することができる。
【0091】
上記第1の高分子及び上記第2の高分子はそれぞれ、第1の構成単位、第2の構成単位を有するが、その他の構成単位を更に有することもできる。
【0092】
例えば、第1の高分子は、第1の構成単位に加えて、第2の構成単位を含有することができる。また、第2の高分子は、第2の構成単位に加えて、第1の構成単位を含有することができる。
【0093】
さらに、第1の高分子及び第2の高分子はいずれも、ホスト−ゲスト相互作用が可能である限りは、第1の構成単位及び第2の構成単位以外の構成単位を含むことができる。このような構成単位としては、例えば、第1の構成単位及び第2の構成単位と共重合可能な構成単位(以下、「第3の構成単位」と表記する)である。
【0094】
第3の構成単位は、例えば、後記式(3a)で表される構成単位を含有してもよい。
【0095】
【化9】
【0096】
式(3a)中、Raは水素原子、メチル基又はフッ素基、Rbは、水素原子又はフッ素基、Rcは、水素原子又はフッ素基、Rはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいカルボキシ基又は1個以上の置換基を有していてもよいアミド基を示す。
【0097】
式(3a)中、Rが1個の置換基を有するカルボキシ基である場合、カルボキシ基の水素原子がアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基)で置換されたカルボキシ基が挙げられる。
【0098】
式(3a)中、Rが1個以上の置換基を有するアミド基、すなわち、第2級アミド又は第3級アミドである場合、第1級アミドの少なくとも一つの水素原子又は2個の水素原子がアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基)で置換されたアミド基が挙げられる。
【0099】
また、式(3a)中、Rは、アミノ基;アミド基;水素原子がアルキル基、水酸基又はアルコキシル基で置換されたアミド基;カルボキシ基;水素原子がアルキル基、ヒドロキシアルキル基(例えばヒドロキシエチル基)又はアルコシル基で置換されたカルボキシ基;であることが好ましい。
【0100】
なお、式(1a)、(2a)及び(3a)におけるRa、Rb及びRcは互いに同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0101】
なお、上記(3a)で表される構造は、以下の一般式(3b)で表される単量体を重合させることで形成される構造である。
【0102】
【化10】
【0103】
[式(3b)中、
Ra、Rb、Rc及びRは、式(3a)におけるそれらと同義である。]
【0104】
第1の高分子は、第1の構成単位に加えて、第2の及び/又は第3の構成単位を有する場合、各構成単位の配列順序は限定的ではなく、例えば、これらがランダムに配列していてもよい。この場合、上記第1の高分子は、いわゆるランダムコポリマーとなる。上記第1の高分子は、また、ブロックコポリマーであってもよいし、交互配列コポリマーであってもよい。
【0105】
同様に、第2の高分子は、第2の構成単位に加えて、第1の及び/又は第3の構成単位を有する場合、各構成単位の配列順序は限定的ではなく、例えば、これらがランダムに配列していてもよい。この場合、上記第2の高分子は、いわゆるランダムコポリマーとなる。もちろん、上記第2の高分子は、ブロックコポリマーであってもよいし、交互配列コポリマーであってもよい。
【0106】
第1の高分子及び第2の高分子が有する構成単位数は特に限定されないが、例えば、それぞれ10000〜300000とすることができる。
【0107】
第1の実施形態の高分子材料は、上記第1の高分子と上記第2の高分子を含む。例えば、第1の実施形態の高分子材料は、上記第1の高分子と上記第2の高分子とがホスト−ゲスト相互作用する。本開示の効果が阻害されない程度であれば、第1の実施形態の高分子材料は、上記第1の高分子及び上記第2の高分子以外の他の高分子を含むことができる。当該他の高分子は、第1の高分子及び上記第2の高分子と物理的に混合されていてもよく、この場合、高分子材料は、いわゆるポリマーブレンドとなる。
【0108】
第1の高分子と第2の高分子との配合比率は特に限定されるものではないが、1:2〜1:0.5であることが好ましい。
【0109】
(第2の実施形態の高分子材料)
第2の実施形態の高分子材料は、一分子内に上記第1の構成単位と、上記第2の構成単位と、上記第3の構成単位とを有する第3の高分子を含むものである。なお、上記第1の構成単位、上記第2の構成単位及び上記第3の構成単位のうちの少なくとも一つの構成単位は、1個以上のフッ素基を有するものであることが好ましい。
【0110】
第2の実施形態の高分子材料では、例えば、分子間と分子内でホスト−ゲスト相互作用が形成されている。
【0111】
第3の高分子は、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、交互配列コポリマー等であってよく、構成単位の配列順序は特に限定されない。
【0112】
高分子材料が、第1の構成単位、第2の構成単位及び第3の構成単位を有している場合、各々の含有割合は特に限定されない。
【0113】
例えば、第1の構成単位、第2の構成単位及び第3の構成単位の総モル数に対して第1の構成単位を0.01〜30モル%、第2の構成単位を0.01〜30モル%とすることができる。この場合、ホスト基とゲスト基との相互作用が生じやすく、高分子材料の破断ひずみが高くなり、伸長率及び柔軟性に優れる。第1の構成単位、第2の構成単位及び第3の構成単位の総モル数に対して、第1の構成単位が0.1〜10モル%、第2の構成単位が0.1〜10モル%であることが好ましく、さらに第1の構成単位が0.5〜3モル%、第2の構成単位が0.5〜3モル%であることがより好ましい。また、すべての構成単位のモル数に対して、第1の構成単位及び第2の構成単位はいずれも、0.5〜2モル%であることが特に好ましい。
【0114】
上記高分子材料において、上記第1の構成単位及び上記第2の構成単位に含まれるフッ素基の総数が4以上であることが好ましい。この場合、高分子材料は、非常に優れた伸張性を有することができる。
さらに、上記フッ素基の総数が40以下であることが好ましく、6以上、30以下であることが特に好ましい。
【0115】
本開示に係る高分子材料は、本開示の効果が損なわれない程度である限り、重合後に化学的な処理を施し、高分子材料を変性させても良い。例えば、重合して上記第3の構成単位を形成することが可能な重合性単量体として酢酸ビニルを用いて合成した高分子材料は、水酸化ナトリウムなどの塩基で処理することで酢酸ビニル由来のアセチル基が脱保護されるので、ホスト−ゲスト相互作用を有するポリビニルアルコールへと変化し得る。また、例えば、生ゴム状態の高分子材料に架橋剤を加え、加熱(加硫)することでホスト−ゲスト相互作用を有する高分子材料を変性させることができる。この場合の変性高分子材料は、エラストマー(ゴム)となる。
【0116】
高分子材料の形態は特に限定されないが、溶媒を含有する高分子ゲルであってもよい。
高分子材料が高分子ゲルである場合、溶媒の種類は特に限定されない。例えば、溶媒として、水が例示される他、アルコール等の有機溶媒であってもよい。
【0117】
本開示の電気化学デバイス用結着剤に使用する各高分子材料は、その製造方法を特に限定されるものではなく、例えば、国際公開第2018/038186号、国際公開第2013/162019号、国際公開第2012/036069号に記載された方法によって製造することができる。具体的には、ホスト基を有する不飽和単量体や、ゲスト基を有する不飽和単量体をそれぞれ単独又はその他の不飽和単量体と共重合させることによって、製造することができる。
【0118】
(電極合剤)
本開示は、上述の電気化学デバイス用結着剤と、電極活物質と、水又は非水溶剤とからなる電極合剤でもある。上記電極活物質は、正極活物質、及び、負極活物質に分けられる。上記正極活物質及び負極活物質としては特に限定されず、鉛電池、ニッカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、アルカリ金属硫黄電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ等の公知の電気化学デバイスに使用されているものを挙げることができる。
【0119】
<正極>
上記正極活物質としては特に限定されず、公知の電気化学デバイスに使用されるものを挙げることができる。リチウムイオン二次電池の正極活物質について具体的に説明すると、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、リチウム含有遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物、硫黄系材料、導電性高分子等が挙げられる。なかでも、正極活物質としては、リチウム含有遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、特に、高電圧を産み出すリチウム含有遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0120】
リチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、リチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO等のリチウム・コバルト複合酸化物、LiNiO等のリチウム・ニッケル複合酸化物、LiMnO、LiMn、LiMnO等のリチウム・マンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。上記置換したものとしては、リチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物、リチウム・マンガン・アルミニウム複合酸化物、リチウム・チタン複合酸化物等が挙げられ、より具体的には、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiMn1.8Al0.2、LiMn1.5Ni0.5、LiTi12、LiNi0.82Co0.15Al0.03等が挙げられる。
【0121】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、リチウム含有遷移金属リン酸化合物の具体例としては、例えば、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0122】
特に、高電圧、高エネルギー密度、あるいは、充放電サイクル特性等の観点から、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiNi0.82Co0.15Al0.03、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiFePOが好ましい。
【0123】
上記硫黄系材料としては、硫黄原子を含む材料が例示でき、単体硫黄、金属硫化物、及び、有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、単体硫黄がより好ましい。上記金属硫化物は金属多硫化物であってもよい。上記有機硫黄化合物は、有機多硫化物であってもよい。
【0124】
上記金属硫化物としては、LiS(0<x≦8)で表される化合物;Li(0<x≦8)で表される化合物;TiSやMoS等の二次元層状構造をもつ化合物;一般式MeMo(MeはPb,Ag,Cuをはじめとする各種遷移金属)で表される強固な三次元骨格構造を有するシュブレル化合物等が挙げられる。
【0125】
上記有機硫黄化合物としては、カーボンスルフィド化合物等が挙げられる。
【0126】
上記有機硫黄化合物は、カーボン等の細孔を有する材料に坦持させて、炭素複合材料として用いる場合がある。炭素複合材料中に含まれる硫黄の含有量としては、サイクル性能に一層優れ、過電圧が更に低下することから、上記炭素複合材料に対して、10〜99重量%が好ましく、20重量%以上がより好ましく、30重量以上が更に好ましく、40重量以上が特に好ましく、また、85重量%以下が好ましい。
上記正極活物質が上記硫黄単体の場合、上記正極活物質に含まれる硫黄の含有量は、上記硫黄単体の含有量と等しい。
【0127】
導電性高分子としては、p−ドーピング型の導電性高分子やn−ドーピング型の導電性高分子が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン系、ポリフェニレン系、複素環ポリマー、イオン性ポリマー、ラダー及びネットワーク状ポリマー等が挙げられる。
【0128】
また、これら正極活物質の表面に、主体となる正極活物質を構成する物質とは異なる組成の物質が付着したものを用いることもできる。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等、有機高分子等が挙げられる。
【0129】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により正極活物質表面に付着させることができる。
【0130】
表面付着物質の量としては、正極活物質に対して重量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、上限として好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での非水系電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0131】
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が用いられるが、中でも一次粒子が凝集して、二次粒子を形成し、その二次粒子の形状が球状ないし楕円球状であるものが好ましい。通常、電気化学素子はその充放電に伴い、電極中の活物質が膨張収縮をするため、そのストレスによる活物質の破壊や導電パス切れ等の劣化がおきやすい。そのため一次粒子のみの単一粒子活物質であるよりも、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成したものである方が膨張収縮のストレスを緩和して、劣化を防ぐため好ましい。また、板状等軸配向性の粒子であるよりも球状ないし楕円球状の粒子の方が、電極の成形時の配向が少ないため、充放電時の電極の膨張収縮も少なく、また電極を作成する際の導電剤との混合においても、均一に混合されやすいため好ましい。
【0132】
正極活物質のタップ密度は、通常1.5g/cm以上、好ましくは2.0g/cm以上、更に好ましくは2.5g/cm以上、最も好ましくは3.0g/cm以上である。正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い金属複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく特に上限はないが、通常4.5g/cm以下、好ましくは4.3/cm以下である。
【0133】
正極活物質のタップ密度は、目開き300μmの篩を通過させて、20cmのタッピングセルに試料を落下させてセル容積を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを1000回行なって、その時の体積と試料の重量から求めた密度をタップ密度として定義する。
【0134】
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、最も好ましくは3μm以上で、通常20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは16μm以下、最も好ましくは15μm以下である。上記下限を下回ると、高嵩密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成すなわち活物質と導電剤やバインダー等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引く等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ正極活物質を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性を更に向上させることもできる。
【0135】
なお、本開示におけるメジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA−920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0136】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、正極活物質の平均一次粒子径としては、通常0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.08μm以上、最も好ましくは0.1μm以上で、通常3μm以下、好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.6μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下するために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。なお、一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0137】
正極活物質のBET比表面積は、0.2m/g以上、好ましくは0.3m/g以上、更に好ましくは0.4m/g以上で、50m/g以下、好ましくは10m/g以下、更に好ましくは5.0m/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極活物質形成時の塗布性に問題が発生しやすい場合がある。
【0138】
BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0139】
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属硝酸塩、硫酸塩等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これにLiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法、また、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源と、必要に応じ他の元素の原料物質とを水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これを高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0140】
なお、本開示において、正極活物質は1種を単独で用いても良く、異なる組成又は異なる粉体物性の2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0141】
<負極>
負極は、負極活物質を含む負極活物質層と、集電体とから構成される。上記負極活物質としては特に限定されず、公知の電気化学デバイスに使用されるものを挙げることができる。リチウムイオン二次電池の正極活物質について具体的に説明すると、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料、導電性高分子等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0142】
リチウムを吸蔵・放出可能な炭素質材料としては、種々の原料から得た易黒鉛性ピッチの高温処理によって製造された人造黒鉛若しくは精製天然黒鉛、又は、これらの黒鉛にピッチその他の有機物で表面処理を施した後炭化して得られるものが好ましく、天然黒鉛、人造黒鉛、人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400〜3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料、負極活物質層が少なくとも2種類以上の異なる結晶性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、から選ばれるものが、初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスがよくより好ましい。また、これらの炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0143】
上記の人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400〜3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料としては、カーボンナノチューブ、グラフェン、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ及びこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークス及びこれらを一部黒鉛化した炭素剤、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物及びこれらの炭化物、又は炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n−ヘキサン等の低分子有機溶剤に溶解させた溶液及びこれらの炭化物等が挙げられる。
【0144】
上記負極活物質として用いられる金属材料(但し、リチウムチタン複合酸化物を除く)としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズ(以下、「特定金属元素」と略記)の単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0145】
特定金属元素から選ばれる少なくとも1種の原子を有する負極活物質としては、いずれか1種の特定金属元素の金属単体、2種以上の特定金属元素からなる合金、1種又は2種以上の特定金属元素とその他の1種又は2種以上の金属元素とからなる合金、並びに、1種又は2種以上の特定金属元素を含有する化合物、及びその化合物の酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の複合化合物が挙げられる。負極活物質としてこれらの金属単体、合金又は金属化合物を用いることで、電池の高容量化が可能である。
【0146】
Liと合金化可能な金属粒子は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量と
サイクル寿命の点から、金属粒子は、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Ag、Si、Sn、Al、Zr、Cr、P、S、V、Mn、Nb、Mo、Cu、Zn、Ge、In、Ti等からなる群から選ばれる金属又はその化合物であることが好ましい。また、2種以上の金属からなる合金を使用しても良く、金属粒子が、2種以上の金属元素により形成された合金粒子であってもよい。これらの中でも、Si、Sn、As、Sb、Al、Zn及びWからなる群から選ばれる金属又はその金属化合物が好ましい。
金属化合物として、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等が挙げられる。また、2種以上の金属からなる合金を使用しても良い。
【0147】
また、これらの複合化合物が、金属単体、合金又は非金属元素等の数種の元素と複雑に結合した化合物も挙げられる。具体的には、例えばケイ素やスズでは、これらの元素と負極として作動しない金属との合金を用いることができる。例えば、スズの場合、スズとケイ素以外で負極として作用する金属と、更に負極として動作しない金属と、非金属元素との組み合わせで5〜6種の元素を含むような複雑な化合物も用いることができる。
【0148】
Liと合金可能な金属粒子の中でも、Si又はSi金属化合物が好ましい。Si金属化合物は、Si金属酸化物であることが好ましい。Si又はSi金属化合物は、高容量化の点で、好ましい。本明細書では、Si又はSi金属化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、SiOx,SiNx,SiCx、SiZxOy(Z=C、N)等が挙げられる。Si化合物は、好ましくは、Si金属酸化物であり、Si金属酸化物は、一般式で表すとSiOxである。この一般式SiOxは、二酸化Si(SiO2)と金属Si(Si)とを原料として得られるが、そのxの値は通常0≦x<2である。SiOxは、黒鉛と比較して理論容量が大きく、更に非晶質SiあるいはナノサイズのSi結晶は、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能となる。
Si金属酸化物は、具体的には、SiOxと表されるものであり、xは0≦x<2であり、より好ましくは、0.2以上、1.8以下、更に好ましくは、0.4以上、1.6以下、特に好ましくは、0.6以上、1,4以下であり、X=0がとりわけ好ましい。この範囲であれば、高容量であると同時に、Liと酸素との結合による不可逆容量を低減させることが可能となる。
【0149】
また、Si又はSnを第一の構成元素とし、それに加えて第2、第3の構成元素を含む複合材料が挙げられる。第2の構成元素は、例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム及びジルコニウムのうち少なくとも1種である。第3の構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウム及びリンのうち少なくとも1種である。
【0150】
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタン及びリチウムを含有する材料が好ましく、より好ましくはチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が好ましく、更にリチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記)が好ましい。すなわち、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物を、電解液電池用負極活物質に含有させて用いると、出力抵抗が大きく低減するので特に好ましい。
【0151】
上記リチウムチタン複合酸化物としては、一般式:
LiTi
[式中、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、Zn及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わす。]
で表される化合物であることが好ましい。
上記組成の中でも、
(i)1.2≦x≦1.4、1.5≦y≦1.7、z=0
(ii)0.9≦x≦1.1、1.9≦y≦2.1、z=0
(iii)0.7≦x≦0.9、2.1≦y≦2.3、z=0
の構造が、電池性能のバランスが良好なため特に好ましい。
【0152】
上記化合物の特に好ましい代表的な組成は、(i)ではLi4/3Ti5/3、(ii)ではLiTi、(iii)ではLi4/5Ti11/5である。また、Z≠0の構造については、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3が好ましいものとして挙げられる。
【0153】
電極活物質(正極活物質又は負極活物質)の含有量は、得られる電極の容量を増やすために、電極合剤中40重量%以上が好ましい。
【0154】
上記電極合剤は、更に導電剤を含んでもよい。上記導電剤は、導電性を向上させるために配合される添加物であり、黒鉛、ケッチェンブラック、逆オパール炭素、アセチレンブラックなどのカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF)、グラフェンシート、カーボンナノチューブ(CNT)などの種々の炭素繊維などとすることができる。
【0155】
本開示の電極合剤は、さらに水系溶媒又は有機溶媒の分散媒を含むものである。水系溶媒としては、通常、水が用いられるが、これにエタノール等のアルコール類、N−メチルピロリドン等の環状アミド類等の有機溶媒を、水に対して30重量%以下の範囲で併用することもできる。また、有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;更に、それらの混合溶剤等の低沸点の汎用有機溶剤を挙げることができる。なお、これらは何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なかでも、電極合剤の安定性、塗工性に優れている点から、N−メチル−2−ピロリドン、及び/又は、N,N−ジメチルアセトアミドであることが好ましい。
【0156】
また、スラリーの安定化のため増粘剤を用いることができる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。増粘剤は必要に応じて使用すればよいが、使用する場合には、負極活物質層中における増粘剤の含有量が通常0.5重量%以上、5重量%以下の範囲で用いることが好ましい。
【0157】
上記電極合剤中の上記分散媒の配合量は、集電体への塗布性、乾燥後の薄膜形成性等を考慮して決定される。上記電気化学デバイス用結着剤と上記分散媒との割合は、重量比で0.5:99.5〜20:80が好ましい。
【0158】
上記電極合剤は、集電体との接着性を更に向上させるため、例えば、ポリメタクリレート、ポリメチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂、ポリイミド、ポリアミド及びポリアミドイミド系樹脂等を更に含んでいてもよい。また、架橋剤を添加し、γ線や電子線等の放射線を照射して架橋構造を形成させてもよい。架橋処理法としては放射線照射に留まらず、他の架橋方法、例えば熱架橋が可能なアミン基含有化合物、シアヌレート基含有化合物等を添加して熱架橋させてもよい。
【0159】
上記電極合剤は、スラリーの分散安定性を向上させるために、界面活性作用等を有する樹脂系やカチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の分散剤を添加してもよい。さらに、スチレンブタジエンゴム、セルロース、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の従来公知の結着剤を併用してもよい。
【0160】
上記電極合剤における本開示の電気化学デバイス用結着剤の配合割合は、好ましくは電極合剤の0.05〜20重量%であり、より好ましくは1〜10重量%である。
【0161】
上記電気化学デバイス用結着剤を含む電極合剤を調製する方法としては、該結着剤を上記分散媒に溶解又は分散させた溶液又は分散液に上記電極活物質を分散、混合させるといった方法が一般的である。そして、得られた電極合剤を、金属箔又は金属網等の集電体に均一に塗布、乾燥、必要に応じてプレスして集電体上へ薄い電極合剤層を形成し薄膜状電極とする。
【0162】
そのほか、例えば結着剤と電極活物質を先に混合した後、上記分散媒を添加し合剤を作製してもよい。また、結着剤と電極活物質を加熱溶融し、押出機で押し出して薄膜の合剤を作製しておき、導電性接着剤や汎用性有機溶剤を塗布した集電体上に貼り合わせて電極シートを作製することもできる。更に、予め予備成形した電極活物質に結着剤の溶液又は分散液を塗布してもよい。このように、結着剤としての適用方法は特に限定されない。
【0163】
(電極)
本開示は、上述した本開示の電気化学デバイス用結着剤を含む電極でもある。
上記電極は、集電体と、当該集電体上に形成された、上記電極活物質と上記電気化学デバイス用結着剤とからなる電極材料層とを有することが好ましい。本開示の電気化学デバイス用結着剤は、正極及び負極のいずれに使用した場合であっても本開示の効果を得ることができるため、どちらかの電極に限定されることはない。特に、本開示の電気化学デバイス用結着剤は、充放電時における電極活物質の体積に追従することができ、Si系負極材料などの高容量活物質に使用するのが好ましい。
【0164】
集電体(正極集電体及び負極集電体)としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等が挙げられる。中でも、正極集電体としては、アルミ箔等が好ましく、負極集電体としては銅箔等が好ましい。
本開示の電極は、例えば上述した方法によって製造することができる。
【0165】
(電気化学デバイス)
本開示は、上述の電極を備える電気化学デバイスでもある。
上記電気化学デバイスとしては特に限定されず、従来公知の電気化学デバイスに適用することができる。具体的には、リチウムイオン電池等の二次電池、リチウム電池等の一次電池、ナトリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、ラジカル電池、太陽電池(特に色素増感型太陽電池)、燃料電池;
リチウムイオンキャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、電気化学キャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ;
アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ等の各種コンデンサ;
エレクトロミック素子、電気化学スイッチング素子、各種電気化学センサー等を挙げることができる。
【0166】
なかでも、高容量で出力が大きいために、多量の金属イオンの移動による体積変化が大きなものとなる二次電池にも好適に使用することができる。
【0167】
(二次電池)
本開示は、上述した本開示の電極を備える二次電池でもある。本開示の二次電池においては、正極及び負極の少なくとも一方が、上述した本開示の電極であればよく、負極が上述した本開示の電極であることが好ましい。二次電池はリチウムイオン電池であることが好ましい。
【0168】
本開示の二次電池は、更に非水系電解液を備えることが好ましい。上記非水系電解液は特に限定されるものではないが、有機溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチルプロピオネート等の公知の炭化水素系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、フルオロエーテル、フッ素化カーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート等のフッ素系溶媒の1種又は2種以上が使用できる。電解質も従来公知のものがいずれも使用でき、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCl、LiBr、CHSOLi、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(CFSO2、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiPO2、炭酸セシウム等を用いることができる。
【0169】
また、正極と負極との間にセパレータを介在させてもよい。セパレータとしては、従来公知のものを使用してもよいし、上述した本開示の電気化学デバイス用結着剤をコーティングに使用したセパレータを使用してもよい。
セパレータとしては従来公知のものが挙げられるが、例えば、電解液を吸収保持するガラス繊維製セパレータ、ポリマーからなる多孔性シート及び不織布を挙げることができる。多孔性シートは、例えば、微多孔質のポリマーで構成される。このような多孔性シートを構成するポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドが挙げられる。特にポリオレフィン系微多孔質セパレータ及びガラス繊維製セパレータは、有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質があり、電解液との反応性を低く抑えることができることから好ましい。多孔性シートからなるセパレータの厚みは限定されないが、車両のモータ駆動用二次電池の用途においては、単層又は多層で全体の厚み4〜60μmであることが好ましい。また、多孔性シートからなるセパレータの微細孔径は、最大で10μm以下(通常、10〜100nm程度)、空孔率は20〜80%であることが好ましい。
【0170】
不織布としては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン(登録商標)、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独又は混合して用いる。不織布セパレータの空孔率は50〜90%であることが好ましい。さらに、不織布セパレータの厚さは、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満では電解液の保持性が悪化し、200μmを超える場合には抵抗が増大する場合がある。
【実施例】
【0171】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「重量部」「重量%」を表す。
【0172】
合成例1 (化合物Aの合成)
反応容器に、ホスト基を有する重合性単量体である6−アクリルアミドメチル−α−シクロデキストリン21mg(0.02mmol)と、ゲスト基を有する重合性単量体であるアクリル酸n−ブチル3mg(0.02mmol)と、後記のアクリルアミド添加後の溶液濃度が2mol/kgとなるように純水とを加えることで、混合物を調製した(混合工程)。全重合性単量体中、ホスト基を有する重合性単量体は1mol%、ゲスト基を有する重合性単量体は1mol%である。
【0173】
この混合物を80℃以上に加温攪拌した後、アクリル酸141mg(1.96mmol)、過硫酸アンモニウム4.6mg(0.02mmol)、[2−(ジメチルアミノ)エチル]ジメチルアミン3.0μLを添加し、室温で1時間重合することで、高分子材料を得た。
【0174】
合成例2 (化合物Bの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−β−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、アクリル酸t−ブチルとしたこと以外は実施例1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0175】
合成例3 (化合物Cの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−β−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、N−(1−アダマンチル)アクリルアミドとしたこと以外は実施例1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0176】
合成例4 (化合物Dの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとしたこと以外は実施例1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0177】
合成例5 (化合物Eの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、各々0.01mmol、アクリル酸1.98mmol用いること以外は実施例1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0178】
合成例6 (化合物Fの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、アクリル酸に代えアクリルアミドを用いること以外は実施例1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0179】
合成例7 (化合物Gの合成)
ホスト基を有する重合性単量体であるパーアセチル−6−アクリルアミドメチル−α−シクロデキストリン35mg(0.02mmol)と、ゲスト基を有する重合性単量体であるアクリル酸n−ブチル3mg(0.02mmol)と、アクリル酸71mg(0.98mmol)と、エチルアクリレート98mg(0.98mmol)とを混合し、この混合物を80℃以上に加温攪拌した。なお、以後このアクリル酸とエチルアクリレートの総モル数を主モノマーモル数、モル比率を主モノマー比と表記する。
【0180】
この混合物に、光開始剤イルガキュア184 4mg(0.02mmol)を加え、高圧水銀ランプによる紫外線照射を5分間行い硬化物である高分子材料を得た。
【0181】
合成例8 (化合物Hの合成)
ホスト基を有する重合性単量体をパーアセチル−6−アクリルアミドメチル−β−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、アクリル酸t−ブチルとしたこと以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0182】
合成例9 (化合物Iの合成)
ホスト基を有する重合性単量体をパーアセチル−6−アクリルアミドメチル−β−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、N−(1−アダマンチル)アクリルアミドとしたこと以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0183】
合成例10 (化合物Jの合成)
ホスト基を有する重合性単量体をパーアセチル−6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとしたこと以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0184】
合成例11 (化合物Kの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、アクリル酸に代えアクリルアミドを用いること以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0185】
合成例12 (化合物Lの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、各々0.01mmol、アクリル酸とエチルアクリレートの主モノマーモル数を1.98mmolとする以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0186】
合成例13 (化合物Mの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、各々0.04mmol、アクリル酸とエチルアクリレートの主モノマーモル数を1.92mmolとする以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0187】
合成例14 (化合物Nの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、主モノマー比を20:80にする以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0188】
合成例15 (化合物Oの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、主モノマー比を40:60にする以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0189】
合成例16 (化合物Pの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、主モノマー比を60:40にする以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0190】
合成例17 (化合物Qの合成)
ホスト基を有する重合性単量体を6−アクリルアミドメチル−γ−シクロデキストリン、ゲスト基を有する重合性単量体を、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートとし、主モノマー比を80:20にする以外は実施例7と同様の方法で高分子材料を得た。
【0191】
(化合物R)
化合物Rには市販のポリアクリル酸(アルドリッチ社製、粘度平均分子量450,000)を用いた。
【0192】
(化合物S)
化合物Sには市販のポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製、商品名:セルム スーパーポリマーSH3400M(重量平均分子量400、000))を用いた。ポリロタキサンは線状高分子がポリエチレングリコール、環状分子がポリカプロラクトングラフトα−シクロデキストリン、末端基がアダマンタンアミンであり、環状分子が線状高分子上をスライドすることにより、高い伸縮性を示す材料である。
【0193】
化合物Tにはカルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム社製 CMC2200)を用いた。
また、化合物Uにはスチレンブタジエンゴム(JSR社製TRD2001)を用いた。
【0194】
合成例18 (電解液の調製)
高誘電率溶媒であるエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよび低粘度溶媒であるエチルメチルカーボネートを、体積比20/10/70になるように混合し、これにLiPFを1.0モル/リットルの濃度となるように添加して、非水電解液を得た。
【0195】
実施例1〜17 (リチウムイオン二次電池の作製)
[正極の作製]
正極活物質としてのLiNi0.8Co0.1Mn0.1(NMC)93重量%と、導電材としてのアセチレンブラック3重量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)4重量%とを、N−メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、予め導電助剤を塗布した厚さ15μmのアルミ箔の片面に塗布して、乾燥し、プレス機にてロールプレスしたものを、活物質層のサイズとして幅50mm、長さ30mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して正極とした。
【0196】
[負極の作製]
負極活物質として人造黒鉛粉末およびSiO(平均粒子径5μm)、粉砕した本開示の所定の高分子(化合物A〜Q)を固形分比が70/25/5(重量%比)に秤量し、さらに水溶媒に分散させ負極合剤スラリーを準備した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅52mm、長さ32mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して負極とした。
【0197】
[アルミラミネートセルの作製]
上記の正極を厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を介して正極と負極を対向させ、上記で得られた非水電解液を注入し、上記非水電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止し予備充電、エージングを行い、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0198】
実施例18
人造黒鉛粉末およびSiO(平均粒子径5μm)、化合物D、化合物Rの固形分比を70/25/3/2(重量%比)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0199】
実施例19
人造黒鉛粉末およびSiO(平均粒子径5μm)、化合物D、濃度1重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョンを用いた化合物Tの固形分比を70/25/2/3(重量%比)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0200】
比較例1〜2
負極に配合する高分子として化合物R及びSを用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0201】
比較例3
負極活物質として人造黒鉛粉末およびSiOをそれぞれ70重量部、25重量部加え、増粘剤、バインダーとしてそれぞれ、化合物Tであるカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1重量%)を用い、カルボキシメチルセルロースナトリウムの固形分として2重量部、及び、化合物Uであるスチレン−ブタジエンゴムの水性ディスパージョンを用い(スチレン−ブタジエンゴムの濃度50重量%)スチレン−ブタジエンゴムの固形分として3重量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。このスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして負極とした。
このように得られた負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を調製した。
【0202】
(電池特性の測定)
[サイクル特性試験]
上記で製造したリチウムイオン二次電池を、板で挟み加圧した状態で、25℃において、1Cに相当する電流で4.3Vまで定電流−定電圧充電(以下、CC/CV充電と表記する。)(0.1Cカット)した後、1Cの定電流で3Vまで放電し、これを1サイクルとして、3サイクル目の放電容量から初期放電容量を求めた。再度サイクルを行い、100サイクル後の放電容量をサイクル後の容量とした。初期放電容量に対する100サイクル後の放電容量の割合を求め、これをサイクル容量保持率(%)とした。
(100サイクル後の放電容量)÷(初期放電容量)×100=容量保持率(%)
結果を表1に示す。
【0203】
[IV抵抗の評価]
初期放電容量の評価が終了した電池を、25℃にて、1Cの定電流で初期放電容量の半分の容量となるよう充電した。これを2.0Cで放電させ、その10秒時の電圧を測定した。放電時の電圧の降下から抵抗を算出し、IV抵抗とした。
結果を表1に示す。
【0204】
[ガス発生量]
高温サイクル特性試験が終了した電池を十分に冷却させた後、アルキメデス法により体積を測定し、高温サイクル特性試験前後の体積変化から発生したガス量を求めた。
結果を表1に示す。
【0205】
【表1】
【0206】
表1の結果より、本開示の結着剤を使用した実施例のリチウムイオン電池は、サイクル特性試験後の放電容量保持率が高いことから、優れた寿命特性を示すことが明らかとなった。また、実施例のIV抵抗値は比較例のものよりも小さく、良好な放電量を有することが示された。さらに、実施例のリチウムイオン電池は、ガス発生量が小さいことから、充放電を繰り返した後にも体積変化が小さいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本開示の電気化学デバイス用結着剤を使用することで、携帯用電源、自動車用電源等の種々の電源として利用できる電気化学デバイス、特に高出力の二次電池の寿命特性を改善することができる。
【要約】
【課題】
伸長性に優れ、電極構造の体積変化を抑制することができる高分子材料からなる電気化学デバイス用結着剤、それを含む電極合剤、電極、電気化学デバイス及び二次電池を提供する。
【解決手段】
側鎖にゲスト基を有する第1の構成単位を含む第1の高分子と、
側鎖にホスト基を有する第2の構成単位を含む第2の高分子を含む高分子材料を含有することを特徴とする電気化学デバイス用結着剤。
【選択図】なし