(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来法で得られる生成物は、反応により生成する夾雑物由来の着色が強く、歯科材料用途、特に審美性が求められる前歯部分にも使用され、歯科材料用途の中でも特に透明性が求められる表面滑沢材用途に用いるには不適であった。また前記夾雑物により接着力が阻害されること、夾雑物の除去のためには蒸留などの精製操作を行う必要があり、経済的に不利であることなども問題となっていた。一方、有害なジブチルスズオキシド触媒を使用する方法は、得られる生成物を歯科材料として人体に使用するという特性上、許容できない方法であった。
【0009】
そのため、前記誘導体を製造する際、着色や接着力低下の原因となる夾雑物の生成を抑制でき、蒸留などの精製操作を省略しても着色の少ない高純度の前記誘導体を得ることができる製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した問題点を解決するために鋭意検討を行った結果、含窒素芳香族化合物の存在下に、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド類を(メタ)アクリロイル化することにより、蒸留などの精製操作なしに、着色の少ない(メタ)アクリルアミド部位を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体を効率よく製造することができることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、下記[1]〜[6]を提供する。
[1]下記一般式(1)
【0012】
【化2】
(1)
【0013】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基を表す。Wは、炭素数1〜6の2価の脂肪族基、または2価の芳香族基を表し、ここでWは、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−NR
3−、−CO−NR
3−、−O−CO−NR
3−および−NR
3−CO−NR
3−からなる群から選ばれる少なくとも1つの結合基がさらに挿入されていてもよく、R
3は、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜6の脂肪族基を表し、R
3が複数存在する場合にはそれらは互いに同一であっても少なくとも一部が互いに異なっていてもよい。)
で示されるアルコール(以下、「アルコール(1)」と称する場合がある)と、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを、含窒素芳香族化合物の存在下に反応させる工程を含む、下記一般式(2)
【0014】
【化3】
(2)
【0015】
(式中、R
1およびWは前記定義の通りであり、R
2は水素原子またはメチル基を表す。)
で示される化合物(以下、「(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)」と称する場合がある)の製造方法。
[2]前記含窒素芳香族化合物がピリジンである、[1]の製造方法。
[3]前記(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が(メタ)アクリル酸ハロゲン化物である、[1]または[2]の製造方法。
[4]前記(メタ)アクリル酸ハロゲン化物が(メタ)アクリル酸クロリドである、[1]〜[3]のいずれかの製造方法。
[5]前記R
1が水素原子であり、前記R
2がメチル基である、[1]〜[4]のいずれかの製造方法。
[6]前記Wがエチレン基である、[1]〜[5]のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法により、歯科用接着材料の原料などとして有用な(メタ)アクリルアミド部位を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体を製造する際、着色や接着力低下の原因となる夾雑物の生成を抑制でき、蒸留などの精製操作を省略しても着色の少ない高純度の前記誘導体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)を製造するための本発明の方法は、アルコール(1)と、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを、含窒素芳香族化合物の存在下に反応させる工程を含む。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」または「メタクリル」を指す。
【0018】
〔アルコール(1)および(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)〕
アルコール(1)および(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)において、R
1およびR
2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。中でも、R
1が水素原子であり、且つR
2がメチル基であることが、歯科用接着材料としての性能の観点から好ましい。
【0019】
またアルコール(1)および(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)において、Wは、炭素数1〜6の2価の脂肪族基、または2価の芳香族基を表す。中でも、Wが炭素数1〜6の2価の脂肪族基であることが、歯科用接着材料としての性能の観点から好ましい。
【0020】
Wが表す炭素数1〜6の2価の脂肪族基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもいずれでもよい。当該脂肪族基の具体例としては、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基(1,2−エチレン基)、1−メチルエチレン基、トリメチレン基、1−エチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、テトラメチレン基、1−ブチルエチレン基、1−エチル−1−メチルエチレン基、1−エチル−2−メチルエチレン基、1,1,2−トリメチルエチレン基、1−エチルトリメチレン基、2−エチルトリメチレン基、1,1−ジメチルトリメチレン基、1,2−ジメチルトリメチレン基、1,3−ジメチルトリメチレン基、1−メチルテトラメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、ペンタメチレン基、1−メチル−1−プロピルエチレン基、1−メチル−2−プロピルエチレン基、2−メチル−2−プロピルエチレン基、1,1−ジエチルエチレン基、1,2−ジエチルエチレン基、1−エチル−1,2−ジメチルエチレン基、1−エチル−2,2−ジメチルエチレン基、1,1,2,2−テトラメチルエチレン基、1−プロピルトリメチレン基、2−プロピルトリメチレン基、1−エチル−1−メチルトリメチレン基、1−エチル−2−メチルトリメチレン基、1−エチル−3−メチルトリメチレン基、2−エチル−1−メチルトリメチレン基、2−エチル−2−メチルトリメチレン基、1,1,2−トリメチルトリメチレン基、1,1,3−トリメチルトリメチレン基、1,2,2−トリメチルトリメチレン基、1,2,3−トリメチルトリメチレン基、1−エチルテトラメチレン基、2−エチルテトラメチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、1,2−ジメチルテトラメチレン基、1,3−ジメチルテトラメチレン基、1,4−ジメチルテトラメチレン基、2,2−ジメチルテトラメチレン基、2,3−ジメチルテトラメチレン基、1−メチルペンタメチレン基、2−メチルペンタメチレン基、3−メチルペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、シクロペンタン−1,2−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,2−ジイル基、シクロヘキサン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基などが挙げられる。これらの2価の脂肪族基が非対称である場合、その向きに特に制限はない。
これらの中でも、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、1−メチルエチレン基、トリメチレン基、1−エチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基およびテトラメチレン基からなる群から選ばれる基が好ましく、メチルメチレン基、エチレン基、1−メチルエチレン基、トリメチレン基、1−エチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基およびテトラメチレン基からなる群から選ばれる基がより好ましく、エチレン基がさらに好ましい。
【0021】
Wが表す2価の芳香族基としては、例えば、フェニレン基、トリレン基、キリシレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等のアリーレン基;フランジイル基、チオフェンジイル基、ピロールジイル基、オキサゾールジイル基、イソオキサゾールジイル基、チアゾールジイル基、イソチアゾールジイル基、イミダゾールジイル基、ピラゾールジイル基、フラザンジイル基、トリアゾールジイル基、ピランジイル基、ピリジンジイル基、ピリダジンジイル基、ピリミジンジイル基、ピラジンジイル基、1,3,5−トリアジンジイル基等のヘテロアリーレン基などが挙げられる。Wが表す2価の芳香族基の炭素数は4〜12の範囲内であることが好ましく、5〜10の範囲内であることがより好ましく、6〜8の範囲内であることがさらに好ましい。Wが表す2価の芳香族基の中でも、アリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0022】
Wは、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−NR
3−、−CO−NR
3−、−O−CO−NR
3−および−NR
3−CO−NR
3−からなる群から選ばれる少なくとも1つの結合基がさらに挿入されていてもよい。ここで、R
3は、水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜6の脂肪族基を表し、R
3が複数存在する場合にはそれらは互いに同一であっても少なくとも一部が互いに異なっていてもよい。なお、これらの結合基が非対称である場合、その向きに特に制限はない。Wに当該結合基がさらに挿入されている場合、上記したWが表す2価の脂肪族基の炭素数およびWが表す2価の芳香族基の炭素数には当該結合基の炭素数は算入しない。
【0023】
R
3が表す脂肪族基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもいずれでもよい。また当該脂肪族基は、飽和脂肪族基(アルキル基)であっても、不飽和脂肪族基(アルケニル基、アルキニル基)であってもいずれでもよく、入手性、製造容易性および化学的安定性の観点からはアルキル基が好ましい。
前記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、neo−ペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。R
3が表す脂肪族基の炭素数は1〜4の範囲内であることが好ましく、1〜3の範囲内であることがより好ましい。R
3が表す脂肪族基の中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基からなる群から選ばれる基が好ましい。
【0024】
R
3が表す脂肪族基は、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、水酸基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基などが挙げられる。R
3が表す脂肪族基が置換基を有している場合、上記したR
3が表す脂肪族基の炭素数には当該置換基の炭素数は算入しない。R
3が表す脂肪族基が有する置換基の数は特に限定されないが、0〜3個であることが好ましく、0〜2個であることがより好ましく、0〜1個であることがさらに好ましく、0個である(すなわちR
3が表す脂肪族基が置換基を有さない)ことが特に好ましい。
【0025】
R
3としては、水素原子、または置換基を有していてもよい直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子、または置換基を有していてもよい直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0026】
前記結合基としては、−O−、−S−、−CO−、−NH−および−CO−NH−からなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましい。
【0027】
Wに挿入される前記結合基の数は特に限定されないが、0〜3個であることが好ましく、0〜2個であることがより好ましく、0〜1個であることがさらに好ましく、0個である(すなわちWに前記結合基が挿入されていない)ことが特に好ましい。なお、Wに前記結合基が2個以上挿入される場合、前記結合基同士は隣接しないことが好ましい。
【0028】
〔(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物〕
本発明の製造方法では(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いる。
【0029】
前記(メタ)アクリル酸ハロゲン化物としては、例えば、(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミド、(メタ)アクリル酸ヨージドなどが挙げられる。
【0030】
(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物は、当該化合物に包含される化合物のうちの1種を単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を併用してもよく、例えば、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物を併用してもよい。(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物としては、経済性、後処理の容易さの観点から、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物が好ましく、(メタ)アクリル酸クロリドが特に好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の使用量に特に制限はないが、反応速度、経済性、後処理の容易さの観点から、アルコール(1)1モルに対して、合計0.8〜5モルであることが好ましく、合計0.8〜3モルであることがより好ましく、合計0.8〜1.5モルであることがさらに好ましい。
【0032】
〔含窒素芳香族化合物〕
本発明の製造方法で用いる含窒素芳香族化合物としては、例えば、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,3,4−チアジアゾール、ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、2,6−ルチジン、4−ジメチルアミノピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、インドール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、カルバゾール、アクリジン、フェノチアジン、イソオキサゾール、イソチアゾールなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、生成物の品質、反応性、経済性の観点から、ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、2,6−ルチジン、4−ジメチルアミノピリジン、イミダゾール、キノリンが好ましく、ピリジン、2,6−ルチジン、4−ジメチルアミノピリジンがより好ましく、ピリジンがさらに好ましい。
【0033】
含窒素芳香族化合物の使用量に特に制限はないが、反応速度、経済性、後処理の容易さの観点から、アルコール(1)1モルに対して0.8〜5モルであることが好ましく、0.8〜3モルであることがより好ましく、0.8〜1.5モルであることが特に好ましい。
また、同様の観点から、含窒素芳香族化合物の使用量は(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物1モルに対して0.8〜1.5モルであることが好ましく、0.9〜1.4モルであることがより好ましく、0.9〜1.2モルであることが特に好ましい。
【0034】
〔その他の条件〕
本発明の製造方法においては溶媒を用いてもよい。前記溶媒としては、反応を阻害しなければ特に制限はないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、フルオロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素;アセトニトリルなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、エーテルが好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0035】
溶媒を使用する場合、その使用量は、反応速度や廃溶媒量の観点から、アルコール(1)1質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。また、同様の観点から、アルコール(1)1質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の製造方法においては重合禁止剤を用いてもよい。前記重合禁止剤に特に制限はなく、例えば、ヒドロキノン、メトキシフェノール(p−メトキシフェノール等)、ベンゾキノン、トルキノン、p−tert−ブチルカテコール等のキノン系化合物;2,6−ジtert−ブチルフェノール、2,4−ジtert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール等のアルキルフェノール系化合物;フェノチアジン等のアミン系化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、キノン系化合物が好ましく、メトキシフェノールがより好ましく、p−メトキシフェノールがさらに好ましい。
【0037】
重合禁止剤を使用する場合、その使用量は、アルコール(1)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物、溶媒、重合禁止剤及び含窒素芳香族化合物の全体の質量に対して5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.05質量%以下が特に好ましい。また、アルコール(1)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物、溶媒、重合禁止剤及び含窒素芳香族化合物の全体の質量に対して0.001質量%以上が好ましい。
【0038】
本発明の製造方法における反応温度は、−30℃〜200℃が好ましく、経済性と反応速度の観点からは−30℃〜150℃がより好ましく、−30℃〜100℃がさらに好ましく、−20℃〜50℃が特に好ましい。
【0039】
本発明の製造方法における反応圧力に特に制限はないが、常圧で実施するのが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法における反応時間は使用するアルコール(1)や溶媒の種類などに応じて適宜設定すればよいが、0.1時間〜48時間が好ましく、経済性の観点からは0.1〜24時間がより好ましい。
【0041】
本発明の製造方法は、アルコール(1)と、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを、含窒素芳香族化合物の存在下に反応させる工程(反応工程)を含み、これにより(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)を生成させることができる。当該反応は所望の段階、好ましくは使用されたアルコール(1)および(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物のうちの使用モル数の少ない方の50モル%以上が(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)に変換された段階で、より好ましくは使用されたアルコール(1)および(メタ)アクリル酸ハロゲン化物および(メタ)アクリル酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物のうちの使用モル数の少ない方の70モル%以上が(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)に変換された段階で、水、アルコール等の活性水素含有化合物をさらに加えることで停止することができる。
【0042】
反応工程後の反応混合物、好ましくは上記のように反応を停止した後の反応混合物からは、有機化合物の分離精製に一般的に採用される方法によって(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)を分離精製することができる。例えば、反応を停止する際に使用した水あるいはさらに添加した水の存在下に撹拌後、静置して有機層と水層とを分離する。該有機層に対し、必要に応じてそのまま、あるいは濃縮したり有機溶媒(酢酸エチル等)を添加したりした後に水で1回または2回以上洗浄し、濃縮する。このようにして、高純度の(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)を得ることができる。洗浄に使用される上記水は純水に限定されず、塩酸、硫酸水溶液等の酸性水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等の塩基性水溶液、飽和食塩水などを用いてもよい。
【0043】
得られた(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)は蒸留などによりさらに精製してもよいが、本発明の製造方法によれば、着色や接着力低下の原因となる夾雑物の生成を抑制でき、蒸留などの精製操作を省略しても着色の少ない高純度の(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)を得ることができることから、蒸留による精製操作を経ずに所望の用途に使用することができ、場合によっては上記濃縮を行うなどして得られた粗体をそのまま所望の用途に用いることもできる。
【0044】
本発明の製造方法により得られた(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)の用途に特に制限はないが、本発明によれば、着色や接着力低下の原因となる夾雑物の生成が抑制され、着色の少ない高純度の(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)が得られることから、例えば、歯科用接着材料の原料、表面滑沢材の原料等の歯科材料用途などに好ましく使用することができる。
【0045】
(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)を歯科材料用途に用いる場合の具体的な方法に特に制限はなく、その具体的な用途に応じて適宜調整することができるが、例えば、本発明の製造方法により得られた(メタ)アクリル酸エステル誘導体(2)、他の重合性単量体および光重合開始剤(例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(TMDPO)など)を混合することにより、接着性組成物やコーティング組成物として用いることができる。前記他の重合性単量体としては、例えば、メチルメタクリレート(MMA)等の単官能重合性単量体、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(DPTA)等の多官能重合性単量体などが挙げられ、これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されない。
【0047】
〔略号〕
((メタ)アクリル酸エステル誘導体(2))
MAEA:2−メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド
(多官能重合性単量体)
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
DPTA:ジペンタエリスリトールテトラアクリレート
(単官能重合性単量体)
MMA:メチルメタクリレート
(光重合開始剤)
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
【0048】
〔HPLC分析〕
各実施例、比較例で得られたMAEAの純度は、HPLCを使用し、以下の条件により測定した。
カラム:L−columnODS 4.6mmφ×250mm(化学物質評価研究機構製)
溶離液:アセトニトリル/水=3/7(v/v)
流速:1.0mL/分
検出:紫外検出器(測定波長210nm)
カラム温度:40℃
【0049】
〔ハーゼン色数分析〕
各実施例、比較例で得られたMAEAのハーゼン色数は、LANGE社製LICO400分光測色器を用い、蒸留水を標準として測定した。
【0050】
〔着色性確認試験〕
15mmφ×1mmの金型に歯冠用硬質レジン(クラレノリタケデンタル社製、商品名「エステニアC&B」(E4))を充填し、透明ポリプロピレンフィルムで圧接して酸素を遮断した状態で技工用照射器(モリタ社製、商品名「αライトIII」)を用いて3分間光照射を行った後、歯科用加熱重合器(クラレノリタケデンタル社製、品番「KL−400」)にて加熱処理(110℃、15分間)を行い、硬化板を作製した。前記硬化板の表面を1000番の耐水研磨紙で研磨した後、硬化板表面に、歯科用リン酸エッチング材(クラレノリタケデンタル社製、商品名「K エッチャント GEL」)を塗布し、5秒間放置した後、水洗・乾燥した。次いで、歯科セラミックス用接着材料(クラレノリタケデンタル社製、商品名「クリアフィル セラミック プライマー」)を塗布し、乾燥した。その後、レジン硬化板の中央部分に、直径5mmの穴を空けた厚さ150μmのテープを貼り付け、さらにその表面に各参考例または比較参考例で得られたコーティング組成物をテープの穴の中に塗布した。この塗布面に対し、歯科用可視光線照射器(モリタ社製、商品名「ジェットライト3000」)を用いて20秒間光照射を行い、コーティング組成物を硬化させた後、テープを剥がすことにより、直径5mmの高分子コーティング層が形成された試料を得た。高分子コーティング層で被覆されていなかった部分と高分子コーティング層で被覆されている部分を目視にて観察し、着色性を下記に示す基準で評価した。
被覆されている部分と被覆されていない部分に違いが無い ○
被覆されている部分と被覆されていない部分に違いがある ×
【0051】
<実施例1>
MAEA(A−1)の合成
撹拌装置、温度計を備えた2Lの4つ口フラスコにTHF900g、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド(KJケミカルズ社製)120g(1.04mol)、ピリジン91.0g(1.15mol)、p−メトキシフェノール0.12gを加えて、5℃に冷却し、メタクリル酸クロリド120.2g(1.15mol)を1時間かけて滴下した。滴下後、20℃で12時間撹拌を行い、蒸留水170gを加え、20℃で8時間さらに撹拌した。撹拌後、有機層と水層に分離し、有機層を減圧濃縮後、酢酸エチル600gを加え、この有機層を5%塩酸150g、5%炭酸水素ナトリウム水溶液300g、蒸留水100gの順で洗浄し、有機層を減圧濃縮し、HPLC純度98.5%のMAEA(A−1)144.0g(ネット141.8g、0.77mol)を得た(収率74%)。ハーゼン色数は98であった。このMAEAの化学式と
1H−NMRによる測定結果を以下に示す。
【0052】
【化4】
【0053】
1H−NMR(400MHz CDCl
3):δ1.94(m,3H),3.62(m,2H),4.28(m,2H),5.58(m,1H),5.66(m,1H),6.08(s,1H),6.10(m,1H),6.11(m,1H),6.28(m,1H)(ppm)
【0054】
<比較例1>
MAEA(B−1)の合成
ピリジンの代わりにトリエチルアミン1.15molを使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、HPLC純度96.7%のMAEA(B−1)140.1g(ネット135.5g、0.74mol)を得た(収率71%)。ハーゼン色数は311であった。
【0055】
<参考例1>
MAEA(A−1)30質量部、DPHA50質量部、MMA17質量部、および、TMDPO3質量部からなるコーティング組成物を調製した。
【0056】
<参考例2>
MAEA(A−1)30質量部、DPTA50質量部、MMA17質量部、および、TMDPO3質量部からなるコーティング組成物を調製した。
【0057】
<比較参考例1および2>
MAEA(A−1)の代わりにMAEA(B−1)を用いたこと以外は、それぞれ、参考例1および2と同様にしてコーティング組成物を調製した。
【0058】
参考例1、2および比較参考例1、2で調製したコーティング組成物を用いて着色性確認試験を行った結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、本発明の製造方法により得られたMAEA(A−1)を用いたコーティング組成物(参考例1および2)は、トリエチルアミンを
塩基として用いて得られたMAEA(B−1)を用いたコーティング組成物(比較参考例1および2)と比較して、塗布後の高分子コーティング層に着色がなく、審美性に優れていることが分かる。