(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
グラフェンは炭素のsp
2結合のみから構成される2次元平面状構造を有する炭素同素体である。Novoselovらによる2004年のグラフェンの単離の報告以降、グラフェンは実用化研究において注目を集めている。グラフェンはその2次元構造に由来する特異な電子構造に基づいて、電子及びホールの高い移動度を有する。また、シリコン用のプロセスと共用できるメリットもある。これらのことから、グラフェンはポストシリコンを視野に入れた次世代材料として期待されている。
【0003】
このように優れた電導特性を有するグラフェンであるが、その作製は必ずしも容易ではない。例えばNovoselovらが報告した方法は、グラファイトを剥離して転写する極めて単純な方法である(非特許文献1)。しかしながらこの方法は、優れた品質のグラフェンを与える一方で、転写の制御性を著しく欠く。また、この方法では、得られるグラフェンのサイズも極めて限定的である。そのため、デバイス作製に必要な歩留まりはまったく期待できない方法であると考えられる。
【0004】
実用化においては、ウエハスケールの大面積で均一なグラフェンの作製が求められる。これを実現するいくつかの手法が知られている。代表的なものは化学気相成長法(CVD法)である。この方法を用いると、例えば銅箔やニッケル箔、コバルト箔、ルテニウム箔などの金属基板の表面に1層のグラフェンを大面積に成長させることが可能である(非特許文献2、3)。しかし銅箔などは金属であるから、グラフェンのデバイス応用のためには、銅箔などからグラフェンを剥離し、絶縁体基板上に転写するプロセスが必要である。
【0005】
別の方法として、シリコンカーバイド(SiC)を熱分解する方法がある(非特許文献4)。SiC基板を高温で加熱することによりSiが昇華し、基板表面にグラフェン薄膜が形成される。しかし、この方法で作製したグラフェンをデバイス応用するためには、半導体であるSiC基板とグラフェンとの結合を切断し、絶縁体基板上に転写するプロセスが必要である。
以上のようにグラフェンはその作製法によらず、デバイス応用において基板への転写というプロセスが必要となっている。
【0006】
グラフェンを絶縁基板に転写する場合、必要箇所に被覆率100%で転写することが理想的である。ここで「被覆率」とは、基板表面の面積における、グラフェンによって被覆されている面積の比率をいう。
例えば、マイクロメートルスケールの局所領域では、100%に近い被覆率を達成することが可能と考えられる。しかし、合成されたグラフェン膜自体に欠陥がある場合がある。また一方で、プロセスにおいてグラフェン膜がダメージを受ける場合や、剥離する場合もある。
これらの理由から、ミリメートルスケールを超えるサイズのデバイスにおける実際の被覆率は100%に達しない場合がほとんどである。被覆率が100%に達しない場合には、被覆率を100%と仮定して電子及びホールの高い移動度を見積もることとなるため、誤差が生じるおそれがある。
【0007】
よって、実際のデバイスにおいて、グラフェンを有する部材の性能・性質を定量的に見積もるためには、精度よくグラフェンの被覆面積を求める方法が必要となる。以下、グラフェンの被覆面積を単に「被覆面積」と略称することがある。
グラフェンの被覆面積を測定する方法としては、たとえば顕微ラマンイメージングを用いる方法がある(非特許文献5)。ラマンスペクトル法は、グラフェン膜の構造を精密に分析することが可能である。しかし、1回の測定で分析できる面積はレーザースポット径(約1μm)程度であり、測定には1分程度を要する。このため、たとえば10μm四方程度の面積を、レーザースポットを走査してイメージを取得し、グラフェンの被覆面積を求めるためには、1時間〜数時間程度も要する。
【0008】
また原子間力顕微鏡を用いる方法もある。この方法では、厳密には原子・分子の種類を区別することができない。しかし、グラフェンは炭素原子1層(約1nm)の厚さを有するため、被覆箇所と基板が露出している箇所を表面形状イメージから容易に区別できる。この方法では、1回の測定で分析できる面積は、高さ1nmの分解能の条件においては10μm四方程度が限界である。よって、顕微ラマンイメージングや原子間力顕微鏡法を用いてミリメートルスケールを超えるサイズのデバイス全体の被覆面積を正確に見積もることは現実的でなく、いくつかの代表的な測定点から得られるデータを用いて全体の被覆面積を推測することになる。
【0009】
このほかにラマンスペクトルと光学顕微鏡像を組み合わせて測定する方法がある。光学顕微鏡像はミリメートルスケールを超えるサイズにおいても迅速で簡便な測定が可能である。あらかじめ光学顕微鏡像における特徴的なパターン(濃淡や色の違いなど)を抽出し、各パターンにおける顕微ラマンスペクトルを測定することで、グラフェン膜の状態(膜の有無、重なり等)をパターンと照合することができる。これにより間接的にデバイス全体の被覆面積を見積もることが可能である。しかし、パターンとラマンスペクトルの関連付けを間違えた場合は誤差が大きくなる。また光学顕微鏡像測定においては、特定の基板上(例えばSiO
2を100nm〜300nm程度積層したSi基板)以外では、グラフェンの有無や層数に応じた特徴的なパターン(濃淡や色の違いなど)を得るのが困難であることから、基板材料の選択肢が少ないという課題もある(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A.K.Geim,K.S.Novoselov,Nature Materials VOL.6,PP183-191(2007).
【非特許文献2】A.Reina et al.,‘Large Area,Few-Layer Graphene Films on Arbitrary Substrates by Chemical Vapor Deposition’,Nano Letters,vol.9,no.1,pp.30-35,2009.
【非特許文献3】X.Li et al.,‘Large-Area Synthesis of High-Quality and Uniform Graphene Films on Copper Foils’,SCIENCE,vol.324,pp.1312-1314,2009.
【非特許文献4】H.Hibino,H.Kageshima,M.Nagase,Journal of Physics D:Applied Physics VOL.43,374005,2010.
【非特許文献5】D Graf et al.,Sol Sate Commun,143,44(2007).
【非特許文献6】C Casiraghi et al.,Nano Lett,7,2711(2007).
【発明を実施するための形態】
【0015】
<グラフェンの面積測定方法>
本発明は、絶縁体基板上に基準グラフェン膜が被覆された試験片を、前記基準グラフェン膜の面積を異ならせて複数用意する工程と、複数の前記試験片のそれぞれについて、空洞共振器摂動法により、入射するマイクロ波の周波数と、前記マイクロ波の反射波の反射強度又は透過波の透過強度との対応関係である共振曲線を求め、前記共振曲線のピーク値である共振周波数f
0と、前記共振曲線の半値幅Δfとから、下記式(1)に従ってQ値を求める工程と、前記Q値の逆数と前記基準グラフェン膜の面積との対応関係を求める工程と、絶縁体基板上にグラフェン膜が形成された測定対象物について、空洞共振器摂動法により前記共振曲線を求め、下記式(1)に従ってQ値を求める工程と、前記対応関係に基づいて、前記測定対象物が備える前記グラフェン膜の面積を求める工程と、を有するグラフェンの面積測定方法である。
本発明の一実施形態によれば、ミリメートルスケールのデバイスを被覆しているグラフェンの被覆面積を定量的に測定することができる。
【0017】
≪試験片準備工程≫
本実施形態においては、まず、絶縁体基板上に基準グラフェン膜が被覆された試験片を、前記基準グラフェン膜の面積を異ならせて複数用意する。以下、本工程を「試験片準備工程」と記載する場合がある。試験片は下記の方法により製造できる。
【0018】
[試験片]
本実施形態に用いる試験片は、絶縁体基板上に基準グラフェン膜が被覆されている。以下、試験片準備工程(「試験片の製造方法」と記載する場合がある)について説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に用いる試験片の製造方法の一例を示す模式図である。
本実施形態に用いる試験片10Aは、基板14の表面の一部にグラフェン11a及びポリマー薄膜21aがこの順で積層された構造を有する。
【0020】
本実施形態に用いる基板14としては、絶縁体材料が好ましく、例えば石英基板(SiO
2)、サファイア基板、他の無機固体材料基板等が好適に用いられる。また、ポリイミド、テフロン(登録商標)、他の有機高分子材料などを使用してもよい。
基板14としては、上述の絶縁体材料を2種以上組み合わせた材料を用いてもよく、これらの材料を重ねあわせた多層を使用してもよい。本実施形態においては、高分子材料としてアモルファスフッ素樹脂(サイトップ、旭硝子社製)、ポリ塩化ビニリデンフィルム(PVDCフィルム、サラン樹脂、旭化成製)などが挙げられる。
試験片の製造方法は、グラフェン担持膜を製造する工程(
図1(a)〜(e))と、基板上にグラフェン担持膜を積層する工程(
図1(f)〜(g))とを有することが好ましい。
【0021】
・グラフェン担持膜を製造する工程
{工程(a)}
本工程は、化学気相成長法(CVD法)により銅箔12上にグラフェン層11及び13を製造する工程である(
図1に示す(a))。本工程においては、銅箔12の上面及び下面の両方にグラフェン層を積層してよい。本工程において、銅箔12に変えて、ニッケル箔、コバルト箔、ルテニウム箔を用いてもよい。本工程により、グラフェン層13、銅箔12、グラフェン層11がこの順で積層された積層体10を得る。
【0022】
{工程(b)}
本工程は、前記工程(a)で得られた積層体10の、グラフェン層11の表面にスピンコートによりポリマー薄膜21を形成し、グラフェン膜の担持膜を作製する工程である(
図1に示す(b))。ポリマー薄膜21は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましい。本工程により、グラフェン層13、銅箔12、グラフェン層11、ポリマー薄膜21がこの順で積層された積層体20を得る。
【0023】
{工程(c)}
本工程は、積層体20のポリマー薄膜21の上に、グラフェンを被覆する形状およびサイズにくり抜いた枠状の熱収縮テープ31を貼付して固定する工程である。
図1(c)に示す熱収縮テープ31は、符号31bに示す部分がくり抜かれた、符号31aに示す枠状の熱収縮テープである。符号31bに示す部分の形状又は大きさを調整することにより、試験片のグラフェン膜の被覆面積を調整できる。
【0024】
本実施形態においては、熱収縮テープに変えて、塩化ビニルフィルムと粘着層とを備えたプリント基板用保護テープや、ポリイミドフィルムと粘着層とを備えたカプトンテープを用いてもよい。本工程により、グラフェン層13、銅箔12、グラフェン層11、ポリマー薄膜21、熱収縮テープ31がこの順で積層された積層体30を得る。
【0025】
{工程(d)}
前記工程(c)の後、熱収縮テープ31を積層した面とは反対側の面に成長したグラフェン層13を、酸素プラズマエッチング等により除去することが好ましい。本工程により、銅箔12、グラフェン層11、ポリマー薄膜21、熱収縮テープ31がこの順で積層された積層体40を得る。
【0026】
{工程(e)}
本工程は、前記工程(d)の後、銅箔12を酸(例えばFeCl
3を0.05g/mL濃度で溶かした溶液)でエッチングし、その後洗浄のため水中に浸漬する工程である。ポリマー薄膜21と熱収縮テープ31にグラフェン層11が担持したグラフェン担持膜50を水上に浮遊させた形態で作製する工程である。
【0027】
・基板上にグラフェン担持膜を積層する工程
{工程(f)}
本工程は、上記で得られたグラフェン担持膜50を、基板14の上に積層する工程である。本工程においては、基板14の表面の所定の箇所に、基板14とグラフェン層11とが接するようにグラフェン担持膜50をすくい取り、乾燥させて固定することが好ましい。また、ポリマー薄膜21と熱収縮テープ31に担持したグラフェンを水中から取り出して乾燥させ、この乾燥させた担持膜を基板14の表面の所定の箇所に設置後、少量の水をグラフェンと基板14の表面に加えて密着させた後再度乾燥させて固定してもよい。
【0028】
{工程(g)}
本工程は、グラフェン担持膜50を乗せた基板をホットプレートで約100℃程度に加熱し、枠状の熱収縮テープを除去する工程である。これにより、熱収縮テープのくり抜き部分の形状のグラフェン11a及びポリマー薄膜21aがこの順で積層された試験片10Aが得られる。
【0029】
本実施形態において、測定対象物が単層のグラフェン膜である場合には、単層の基準グラフェン膜が被覆された試験片を使用して対応関係を求めて検量線を作成することが好ましい。
また、測定対象物が2層以上に積層された多層グラフェン膜である場合には、多層の基準グラフェン膜が被覆された試験片を使用して対応関係を求めて検量線を作成することが好ましい。この時、測定対象物のグラフェン層の積層数と、試験片に積層されたグラフェン層の積層数とは同一であることが好ましい。つまり一例を挙げると、測定対象物のグラフェン層が2層である場合には、試験片のグラフェン層も2層とすることが好ましい。
本実施形態においては、前記工程(c)〜工程(g)を繰り返すことにより基板上に多層グラフェンを積層することができる。また、あらかじめ多層グラフェンを合成しておき、これを転写することにより基板上に多層グラフェンを搭載してもよい。
【0030】
本工程により、例えば基準グラフェン膜として、グラフェンの被覆面積が1.3mm
2〜11mm
2の試験片を用意する。試験片のそれぞれの被覆面積は、前記「1.3mm
2〜11mm
2」の場合であれば、例えば2mm
2間隔で均等に準備することが好ましいがこれに限定されない。
用意する試験片の個数は特に限定されないが、一例を挙げると5枚〜6枚の試験片を用意すればよい。
【0031】
≪Q値算出工程≫
前記「試験片準備工程」の後、準備した複数の試験片のそれぞれについて、空洞共振器摂動法により、入射するマイクロ波の周波数と、マイクロ波の反射波の反射強度又は透過波の透過強度との対応関係である共振曲線を求める。そして、得られた共振曲線のピーク値である共振周波数f
0と、共振曲線の半値幅Δfとから、式(1)に従ってQ値を求める。以下、本工程を「Q値算出工程」と記載する場合がある。
【0032】
本工程では、空洞共振器摂動法に基づき、マイクロ波空洞共振器の内部に、準備した複数の試験片をそれぞれ設置する。ここに所定のエネルギーのマイクロ波を入射して、その反射波の反射強度又は透過波の透過強度を共振周波数付近で掃引しながら測定する。その後、反射強度(ΔPr、単位:mW)と共振周波数との対応関係を示す共振曲線を求める。透過波の透過強度を測定する場合には、透過強度と共振周波数との対応関係の示す共振曲線を求めればよい。
【0033】
[検出装置]
本発明のグラフェンの面積測定方法に用いる検出装置の一例を示す模式図を
図2に示す。
図2に示す検出装置20は、マイクロ波源1と、マイクロ波パワーセンサ5と、マイクロ波空洞共振器6とを備えている。本実施形態において、マイクロ波空洞共振器6はグラフェンを有する1cm〜10cm程度の試験片S又は測定対象物Sを設置可能な設置部7を有する。
【0034】
マイクロ波源1、マイクロ波空洞共振器6及びマイクロ波パワーセンサ5は、マイクロ波を伝送する導波管15によって接続されている。また、マイクロ波源1とマイクロ波パワーセンサ5との間に、アイソレーター2、減衰器3、サーキュレーター4をこの順で備えていてもよい。マイクロ波源1としては、公知のマイクロ波発生装置が挙げられる。
上述の試験片又は測定対象物のマイクロ波の反射波の反射強度を測定する場合は、
図2に示す設置部7に置き、マイクロ波を入射してその反射スペクトルを計測する。
【0035】
本実施形態において
図2に示す検出装置20は、マイクロ波源1で特定の周波数に調整して発生させたマイクロ波を、導波管15を介してアイソレーター2で孤立させ、減衰器3で所定の出力に減衰する。調整されたマイクロ波はサーキュレーター4を介してマイクロ波空洞共振器6に送られる。
試験片S又は測定対象物Sを含む共振器から反射した反射波は、サーキュレーター4を介してマイクロ波パワーセンサ5に入射する。
マイクロ波源1において周波数を制御することにより、共振曲線を得ることができる。
【0036】
マイクロ波空洞共振器6の設置部7には1cm〜10cm程度の測定対象物Sを設置可能である。測定に用いるマイクロ波の周波数を調整することで共振器のサイズは適宜変更することができる。このためメートル程度のサイズの測定対象物Sも測定することができる。
つまり、一度に測定可能な測定対象物のグラフェンの被覆面積は、ミリメートル四方以上〜1メートル四方程度まで測定可能であり、従来の顕微ラマンイメージングや原子間力顕微鏡法の測定面積の限界を大きく超えることができる。
【0037】
また1つの測定対象物Sの測定にかかる時間は原理的には1秒以下程度であり、従来の顕微ラマンイメージングや原子間力顕微鏡法と比較して大幅に時間を短縮することができる。
さらに測定対象物Sの配置は共振器内に置くだけと簡便であるため、30秒程度で測定対象物の交換が可能である。顕微ラマンイメージングや原子間力顕微鏡法では、レーザーの焦点合わせやプローブ位置の調整など、サンプル交換に伴うオペレーションは1分間〜数分間程度を要する。よって本発明により、単位時間に測定できる測定対象物の個数を大幅に増加することができる。
【0038】
共振周波数の測定結果の一例を
図3(a)に示す。
図3(a)は、反射強度(ΔPr、単位:mW)と共振周波数からのシフト値(
図3(a)においては「周波数シフト」と略称を記載する。単位;MHz)との関係を示す共振曲線である。
図3(a)に示すように、試験片の被覆面積Aが小さい場合は鋭い共振ピークとなり、試験片の被覆面積Aが大きい場合はブロードな共振ピークとなる。
【0039】
そして、得られた共振曲線のピーク値である共振周波数f
0と、共振曲線の半値幅Δfとから、下記式(1)に従ってQ値を求める。半値幅は共振曲線から求める。半値幅は、ピークの開始点とピークの終了点とを結ぶベースラインから、共振ピークトップまでの高さの半量の位置におけるピーク幅として求める。このとき、測定対象物Sを入れない状態で測定したバックグラウンド測定値(以下「BG値」と記載する)を、製造した試験片又は測定対象物の測定値からBG値を差し引く処理をする。
【0041】
Q値を算出することにより得られるグラフの一例を
図3(b)に示す。
図3(b)に示すように、被覆面積Aが大きいほど共振の鋭さ(Q値)が減少する。
図3(b)に示すグラフにおいて、横軸は被覆面積A(略記して「A」と記載、単位はmm
2)であり、縦軸はQ値(単位なし)である。
【0042】
≪Q値の逆数算出工程≫
前記「Q値算出工程」の後、前記Q値の逆数と前記基準グラフェン膜の面積との対応関係を求める。以下、本工程を「Q値の逆数算出工程」と記載する場合がある。
本工程においては、Q値の逆数を試験片の被覆面積Aに対してプロットする。これにより得られるグラフの一例を
図3(c)に示す。
図3(c)に示すグラフにおいて、横軸は被覆面積A(略記して「A」と記載、単位はmm
2)であり、縦軸はQ値の逆数(単位なし)である。
試験片の被覆面積AはQ値の逆数と下記式(2)の関係が成り立ち、式(2)に対応する比例関係が得られる。このため、本実施形態においては、
図3(c)に示すグラフを、Q値の逆数からグラフェン膜の面積を求める検量線として用いることができる。
【0044】
上述のように、基準グラフェン膜を被覆させた試験片を空洞共振器摂動法の理論に基づいて測定し、基準グラフェン膜の面積と、Q値の逆数との対応関係を示す検量線を作成する。
【0045】
≪対象物測定工程≫
本工程は、絶縁体基板上にグラフェン膜が形成された測定対象物について、空洞共振器摂動法により共振曲線を求め、上記式(1)に従ってQ値を求める工程である。以下、本工程を「対象物測定工程」と記載する。「測定対象物」とは、グラフェンの被覆面積が未知の被測定物を意味する。
本工程におけるQ値の測定方法は、前記「Q値算出工程」と同様である。
【0046】
≪測定対象物の面積算出工程≫
上記「対象物測定工程」により算出した測定対象物のQ値と前述の工程により得られた検量線を基に、測定対象物のグラフェンの被覆面積を定量的に算出することができる。
【0047】
本発明によれば、空洞共振器摂動法の理論に基づき、マイクロ波と物質の相互作用による誘電損失を測定することにより、数ミリメートル以上のグラフェン被覆面積を種々の固体基板上において短時間で直接的に定量することができる。
【0048】
<デバイスの製造方法>
本発明のデバイスの製造方法は、絶縁体基板上にグラフェンを配置し、グラフェン膜を製造する工程と、前記グラフェン膜の面積を、前記本発明のグラフェンの面積測定方法により測定する工程と、を有する。
本発明のデバイスの製造方法において、絶縁体基板上にグラフェンを配置する工程は特に限定されず、一例を挙げると、前記本発明のグラフェンの面積測定方法において説明した、グラフェン担持膜を製造する工程と、基板上にグラフェン担持膜を積層する工程と、により絶縁体基板上にグラフェンを配置すればよい。
【0049】
本発明のデバイスの製造方法は、前記本発明のグラフェンの面積測定方法によりグラフェンの被覆面積を測定する工程を有する。これにより、絶縁体基板上に所望の面積のグラフェン膜を備えるデバイスを製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
<検量線の作成>
グラフェンの被覆面積が既知の6種の試験片を用意した。本実施例において、試験片1〜6は
図1に示す方法で作製した。
・試験片1
石英基板の表面の一部にグラフェンが積層され、グラフェンの被覆面積が1.3mm
2である試験片。
・試験片2
石英基板の表面の一部にグラフェンが積層され、グラフェンの被覆面積が3.3mm
2である試験片。
・試験片3
石英基板の表面の一部にグラフェンが積層され、グラフェンの被覆面積が8.2mm
2である試験片。
・試験片4
石英基板の表面の一部にグラフェンが積層され、グラフェンの被覆面積が8.6mm
2である試験片。
・試験片5
石英基板の表面の一部にグラフェンが積層され、グラフェンの被覆面積が10mm
2である試験片。
・試験片6
石英基板の表面の一部にグラフェンが積層され、グラフェンの被覆面積が11mm
2である試験片。
【0052】
マイクロ波空洞共振器内に上記の試験片1〜6をそれぞれ設置し、約1mWのエネルギーのマイクロ波を入射して、その反射スペクトルを約9GHzの共振周波数の付近で掃引しながら測定した。
【0053】
試験片1〜6における共振ピークを、
図3(a)に示す。前記(1)式に従って求めたQ値を被覆面積Aに対してプロットした結果を
図3(b)に示す。
図3(b)に示す通り、グラフェンの被覆面積が大きいほど共振の鋭さ(Q値)が減少した。
Q値の逆数を被覆面積Aに対してプロットした結果を
図3(c)に示す。
図3(c)に示すとおり、前記(2)式に対応する比例関係が得られた。
【0054】
試験片1〜6をそれぞれ測定するためにかかった時間は、試験片を配置する時間を含めてそれぞれ1分程度であった。このようにして得られた既知の被覆面積のグラフェンを搭載した試験片におけるQ値の逆数と被覆面積Aの関係を検量線として用いれば、未知の被覆面積のグラフェンを搭載した試験片おける被覆面積Aを直接的に定量することができる。
【0055】
上述のとおり、本発明によればミリメートルスケールを超えるサイズの測定対象物におけるグラフェンの被覆面積を、短時間で直接的に定量する方法を提供されることが示された。