(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[重合性シラン化合物]
本発明の重合性シラン化合物は、下記式[1]で表される化合物である。
【化3】
上記式[1]中、Xは重合性二重結合を有する置換基を少なくとも1つ有するフェニル基、重合性二重結合を有する置換基を少なくとも1つ有するナフチル基、重合性二重結合を有する置換基を少なくとも1つ有するビフェニル基、又は重合性二重結合を有する置換基を少なくとも1つ有するフェナントリル基を表し、Ar
1は縮合多環炭化水素基(炭素原子数1乃至6のアルキル基で置換されていてもよい)、又は複数の芳香環が単結合で直接結合している炭化水素環集合基(炭素原子数1乃至6のアルキル基で置換されていてもよい)を表し、R
1はメチル基、エチル基、又はイソプロピル基を表す。
【0012】
Xが表す重合性二重結合を有する基を少なくとも1つ有するフェニル基としては、例えば、2−ビニルフェニル基、3−ビニルフェニル基、4−ビニルフェニル基、4−ビニルオキシフェニル基、4−アリルフェニル基、4−アリルオキシフェニル基、4−イソプロペニルフェニル基が挙げられる。
【0013】
Xが表す重合性二重結合を有する基を少なくとも1つ有するナフチル基としては、例えば、4−ビニルナフタレン−1−イル基、5−ビニルナフタレン−1−イル基、6−ビニルナフタレン−2−イル基、5−ビニルオキシナフタレン−1−イル基、5−アリルナフタレン−1−イル基、4−アリルオキシナフタレン−1−イル基、5−アリルオキシナフタレン−1−イル基、8−アリルオキシナフタレン−1−イル基、5−イソプロペニルナフタレン−1−イル基が挙げられる。
【0014】
Xが表す重合性二重結合を有する基を少なくとも1つ有するビフェニル基としては、例えば、4’−ビニル−[1,1’−ビフェニル]−2−イル基、4’−ビニル−[1,1’−ビフェニル]−3−イル基、4’−ビニル−[1,1’−ビフェニル]−4−イル基、4’−ビニルオキシ−[1,1’−ビフェニル]−4−イル基、4’−アリル−[1,1’−ビフェニル]−4−イル基、4’−アリルオキシ−[1,1’−ビフェニル]−4−イル基、4’−イソプロペニル−[1,1’−ビフェニル]−4−イル基が挙げられる。
【0015】
Xが表す重合性二重結合を有する基を少なくとも1つ有するフェナントリル基としては、例えば、3−ビニルフェナントレン−9−イル基、7−ビニルフェナントレン−9−イル基、10−ビニルフェナントレン−9−イル基、7−ビニルフェナントレン−2−イル基、6−ビニルフェナントレン−3−イル基、10−ビニルフェナントレン−3−イル基、3−ビニルオキシフェナントレン−9−イル基、3−アリルフェナントレン−9−イル基、3−アリルオキシフェナントレン−9−イル基、3−イソプロペニルフェナントレン−9−イル基が挙げられる。
【0016】
上記Xとしては、中でも、重合性二重結合を有する基を少なくとも1つ有するフェニル基であることが好ましく、ビニルフェニル基がより好ましい。
【0017】
Ar
1が表す縮合多環炭化水素基としては、例えば、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ビフェニレン、フルオレンから誘導される1価の基が挙げられる。
また複数の芳香環が単結合で直接結合している炭化水素環集合基としては、例えば、ビフェニル、テルフェニル、クアテルフェニル、ビナフタレン、フェニルナフタレン、フェニルフルオレン、ジフェニルフルオレンから誘導される1価の基が挙げられる。
なお上記縮合多環炭化水素基及び炭化水素環集合基において、置換基として有し得る炭素原子数1乃至6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0018】
上記Ar
1としては、中でも、縮合多環炭化水素基(炭素原子数1乃至6のアルキル基で置換されていてもよい)であることが好ましく、フェナントリル基がより好ましい。
【0019】
上記式[1]で表される化合物の具体例としては、例えば、ジメトキシ(9−フェナントリル)(4−ビニルフェニル)シラン、ジエトキシ(9−フェナントリル)(4−ビニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシ(9−フェナントリル)(4−ビニルフェニル)シラン、ジメトキシ(9−フェナントリル)(4−ビニルナフタレン−1−イル)シラン、ジメトキシ(9−フェナントリル)(4’−ビニル−[1,1’−ビフェニル]−4−イル)シラン、ジメトキシ(9−フェナントリル)(3−ビニルフェナントレン−9−イル)シラン、ジメトキシ(1−ナフチル)(4−ビニルフェニル)シラン、ジメトキシ(2−ナフチル)(4−ビニルフェニル)シラン、ジメトキシ(2−フェナントリル)(4−ビニルフェニル)シラン、ジメトキシ(3−フェナントリル)(4−ビニルフェニル)シラン、ジメトキシ(9−フェナントリル)(4−ビニルフェニル)シラン、[1,1’−ビフェニル]−4−イルジメトキシ(4−ビニルフェニル)シランが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の重合性シラン化合物は慣用の方法にて製造し得、例えば、アルコキシシラン化合物とグリニャール試薬とを反応させてオルガノアルコキシシラン化合物を得る、従来のグリニャール反応や、アルコキシヒドロシラン化合物とアリールハロゲン化物とを遷移金属触媒を用いて反応させてオルガノアルコキシシラン化合物を得る、従来のカップリング反応にて製造可能である。
詳細には、Ar
1基を有するグリニャール試薬:Ar
1−Mg−Halと、重合性二重結合を有する芳香環基を有するトリアルコキシシラン化合物:X−Si(OR
1)
3とを反応させて、又は、重合性二重結合を有する芳香環基を有するグリニャール試薬:X−Mg−Halと、Ar
1基を有するトリアルコキシシラン化合物:Ar
1−Si(OR
1)
3とを反応させて、式[1]で表される重合性シラン化合物を得ることができる(上記Ar
1、X、R
1は前記式[1]と同じ意味を表し、Halはハロゲン原子を表す)。
前記グリニャール試薬は、ハロゲン化アリール:Ar
1−Hal又はX−Halと、マグネシウムとの反応により、得られる。
【0021】
上記グリニャール試薬の製造、並びに、グリニャール試薬とアルコキシシラン化合物との反応は、有機溶媒中で実施され得る。ここで使用される有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒等の不活性有機溶媒を挙げることができる。これら有機溶媒は、一種を単独で又は二種以上を混合して用いてもよい。
上記の製造温度並びに反応温度は、0〜200℃、特に20〜150℃の範囲が好ましい。
また、グリニャール試薬の製造時や、グリニャール試薬とアルコキシシラン化合物との反応系に酸素が存在すると、製造・反応段階でグリニャール試薬が酸素と反応し、目的物である重合性シラン化合物の収率低下の原因となるので、これらは窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行うことがよい。
【0022】
反応の終了後、得られた重合性シラン化合物をろ過、溶媒留去等の任意の方法で回収し、必要に応じて、再結晶、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製処理を適宜行うことが好ましい。また、着色成分や金属などの不純物を除去する目的で、得られた重合性シラン化合物を不活性有機溶媒に溶解させたのち、例えば、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、スカベンジャー、活性炭、シリカゲル、金属吸着剤と必要時間だけ接触させてもよい。
【0023】
[ポリシロキサン]
本発明はポリシロキサンも対象とし、すなわち上記式[1]で表される重合性シラン化合物の重縮合物であるポリシロキサン、並びに、上記式[1]で表される重合性シラン化合物と、該式[1]で表される重合性シラン化合物とは異なるアルコキシケイ素化合物との共重縮合物であるポリシロキサンも対象とする。前記式[1]で表される重合性シラン化合物とは異なるアルコキシケイ素化合物としては特に限定されないが、好ましい態様において、後述する式[2]で表される芳香族シラン化合物が挙げられる。
なお、以降の本明細書において、“重縮合”と“共重縮合”をあわせて、単に“重縮合”ともいう。
【0024】
<芳香族シラン化合物>
上記芳香族シラン化合物は、下記式[2]で表される化合物である。
【化4】
上記式[2]中、Ar
2は縮合多環炭化水素基(炭素原子数1乃至6のアルキル基で置換されていてもよい)、又は複数の芳香環が単結合で直接結合している炭化水素環集合基(炭素原子数1乃至6のアルキル基で置換されていてもよい)を表し、R
2はメチル基、エチル基、又はイソプロピル基を表す。
【0025】
Ar
2が表す縮合多環炭化水素基(炭素原子数1乃至6のアルキル基で置換されていてもよい)としては、例えば、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ビフェニレン、フルオレンから誘導される1価の基が挙げられる。
また複数の芳香環が単結合で直接結合している炭化水素環集合基としては、例えば、ビフェニル、テルフェニル、クアテルフェニル、ビナフタレン、フェニルナフタレン、フェニルフルオレン、ジフェニルフルオレンから誘導される1価の基が挙げられる。
なお上記縮合多環炭化水素基及び炭化水素環集合基において、置換基として有し得る炭素原子数1乃至6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0026】
上記Ar
2としては、中でも、縮合多環炭化水素基(炭素原子数1乃至6のアルキル基で置換されていてもよい)であることが好ましく、フェナントリル基がより好ましい。
【0027】
上記式[2]で表される化合物の具体例としては、例えば、トリメトキシ(1−ナフチル)シラン、トリエトキシ(1−ナフチル)シラン、トリイソプロポキシ(1−ナフチル)シラン、トリメトキシ(2−ナフチル)シラン、トリエトキシ(2−ナフチル)シラン、トリイソプロポキシ(2−ナフチル)シラン、トリメトキシ(2−フェナントリル)シラン、トリメトキシ(3−フェナントリル)シラン、トリメトキシ(9−フェナントリル)シラン、トリエトキシ(9−フェナントリル)シラン、トリイソプロポキシ(9−フェナントリル)シラン、[1,1’−ビフェニル]−4−イルトリメトキシシラン、[1,1’−ビフェニル]−4−イルトリエトキシシラン、[1,1’−ビフェニル]−4−イルトリイソプロポキシシランが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
<重合性シラン化合物とそれとは異なるアルコキシケイ素化合物の配合割合>
本発明に係るポリシロキサンが、式[1]で表される重合性シラン化合物に加え、それとは異なるアルコキシケイ素化合物、例えば式[2]で表される芳香族シラン化合物を含みて構成される場合、これらアルコキシケイ素化合物の重縮合反応にかかる配合モル比は特に限定されないが、硬化物の物性を安定させる目的から、通常、式[1]で表される重合性シラン化合物1モルに対し、芳香族シラン化合物9モル以下の範囲が好ましい。より好ましくは1.5モル以下で配合される範囲である。重合性シラン化合物の配合モル数に対する芳香族シラン化合物の配合モル比を9以下とすることで、十分な架橋密度が得られ、熱に対する寸法安定性がより向上し、かつ、より高屈折率、低アッベ数を有する硬化物を得ることができる。
上述の重合性シラン化合物、芳香族シラン化合物は、必要に応じて適宜化合物を選択して用いることができ、またそれぞれ複数種の化合物を併用することもできる。この場合の配合モル比も、重合性シラン化合物のモル量の総計と、芳香族シラン化合物のモル量の総計の比が、上記の範囲となる。
【0029】
<酸又は塩基性触媒>
上記式[1]で表される重合性シラン化合物の重縮合反応、または式[1]で表される重合性シラン化合物と、それとは異なるアルコキシケイ素化合物、特に式[2]で表される芳香族シラン化合物との重縮合反応は、酸又は塩基性触媒の存在下で好適に実施される。
上記重縮合反応に用いる触媒は、後述の溶媒に溶解する、又は均一分散する限りにおいては特にその種類は限定されず、必要に応じて適宜選択して用いることができる。
用いることのできる触媒としては、例えば、酸性化合物として、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸などの有機酸;塩基性化合物として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、水酸化アンモニウム、第四級アンモニウム塩、アミン類;フッ化物塩として、NH
4F、NR
4Fが挙げられる。なお、ここでRは、水素原子、炭素原子数1乃至12の直鎖状アルキル基、炭素原子数3乃至12の分枝状アルキル基、炭素原子数3乃至12の環状アルキル基からなる群から選ばれる一種以上の基である。
これら触媒は、一種単独で、又は複数種を併用することもできる。
【0030】
上記酸性化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、シュウ酸、ホウ酸が挙げられる。
【0031】
上記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、トリエチルアミンが挙げられる。
【0032】
上記フッ化物塩としては、例えば、フッ化アンモニウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウムを挙げることができる。
【0033】
これら触媒のうち、好ましく用いられるのは、塩酸、酢酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム及び水酸化テトラエチルアンモニウムからなる群から選ばれる一種以上である。
触媒の使用量は、重縮合反応に係るアルコキシケイ素化合物、すなわち、式[1]で表される重合性シラン化合物、さらにはそれとは異なるアルコキシケイ素化合物、例えば式[2]で表される芳香族シラン化合物の総質量に対し、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。触媒の使用量を0.01質量%以上とすることで反応がより良好に進行する。また、経済性を考慮すれば、10質量%以下の使用で十分である。
【0034】
<重縮合反応>
本発明に係るポリシロキサン(重縮合物)は、式[1]で表される重合性シラン化合物の構造が一つの特徴となっている。前記重合性シラン化合物に含まれる反応性基(重合性二重結合)は、ラジカル又はカチオンによって容易に重合し、重合後(硬化後)に硬化物の耐熱性に寄与し得る。
式[1]で表される重合性シラン化合物の加水分解重縮合反応、そして、該重合性シラン化合物と、それとは異なるアルコキシケイ素化合物との、好ましい態様において式[2]で表される芳香族シラン化合物との加水分解重縮合反応は、無溶媒下で行うことも可能だが、後述するテトラヒドロフラン(THF)などの、上記重合性シラン化合物等のアルコキシケイ素化合物に対して不活性な溶媒を反応溶媒として用いることも可能である。反応溶媒を用いる場合は、反応系を均一にしやすく、より安定した重縮合反応を行えるという利点がある。
【0035】
ポリシロキサンの合成反応は、前述のように無溶媒で行ってもよいが、反応をより均一化させるために溶媒を使用しても問題ない。溶媒は、上記シラン化合物と反応せず、その重縮合物を溶解するものであれば特に限定されない。
このような反応溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルセロソルブ、ジエチルカルビトール等のグリコールエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類が挙げられる。これら溶媒は、一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
本発明に係るポリシロキサンは、式[1]で表される重合性シラン化合物を、または式[1]で表される重合性シラン化合物と、それとは異なるアルコキシケイ素化合物、特に式[2]で表される芳香族シラン化合物とを、前述の酸又は塩基性触媒の存在下で、加水分解重縮合を行うことにより得られる。加水分解重縮合にかかる反応温度は20〜150℃、より好ましくは30〜120℃である。
反応時間は、重縮合物の分子量増加が終了し、分子量分布が安定するのに必要な時間以上なら、特に制限は受けず、より具体的には数時間から数日間である。
【0037】
重縮合反応の終了後、得られたポリシロキサンをろ過、溶媒留去等の任意の方法で回収し、必要に応じて適宜精製処理を行うことが好ましい。
【0038】
本発明に係るポリシロキサンの製造方法の一例として、上記式[1]で表される重合性シラン化合物を、または式[1]で表される重合性シラン化合物と、それとは異なるアルコキシケイ素化合物、特に式[2]で表される芳香族シラン化合物とを、塩基の存在下で重縮合し、陽イオン交換樹脂を用いて塩基を除去してなる方法が挙げられる。
上記塩基並びにその使用量は、上述した塩基性化合物及びフッ化物塩からなる群から選択される一種以上の化合物、またその使用量を採用し得、好ましくは水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム及び水酸化テトラエチルアンモニウムからなる群から選ばれる一種以上のものを塩基として使用できる。
また重縮合反応に用いる反応条件等や反応溶媒等は上述したものを採用できる。
そして反応終了後、塩基の除去に使用する陽イオン交換樹脂としてはスルホ基をイオン基として有するイオン交換樹脂が好ましく用いられる。
【0039】
上記陽イオン交換樹脂としては、スチレン系(スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)、アクリル系等一般的に使用されている母体構造のものを使用できる。また、イオン基としてスルホ基を有する強酸性陽イオン交換樹脂、イオン基としてカルボキシ基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂の何れであってもよい。さらに、陽イオン交換樹脂の形態としては、粒状、繊維状、膜状といった種々のものを使用できる。これら陽イオン交換樹脂は、市販されているものを好適に使用することができる。
中でも、スルホ基をイオン基として有する強酸性陽イオン交換樹脂が好ましく用いられる。
【0040】
市販されている強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標)15、同200、同200C、同200CT、同252、同1200 H、同IR120B、同IR120 H、同IR122 Na、同IR124、同IRC50、同IRC86、同IRN77、同IRP−64、同IRP−69、同CG−50、同CG−120、アンバージェット(登録商標)1020、同1024、同1060、同1200、同1220、アンバーリスト(登録商標)15、同15DRY、同15JWET、同16、同16WET、同31WET、同35WET、同36、ダウエックス(登録商標)50Wx2、同50Wx4、同50Wx8、同DR−2030、同DR−G8、同HCR−W2、同650C UPW、同G−26、同88、同M−31、同N−406、ダウエックス(登録商標)モノスフィアー(登録商標)650C、同88、同M−31、同99K/320、同99K/350、同99Ca/320、ダウエックス マラソン(登録商標)MSC、同C[以上、ダウ・ケミカル社製];ダイヤイオン(登録商標)EXC04、同HPK25、同PK208、同PK212、同PK216、同PK220、同PK228L、同RCP160M、同SK1B、同SK1BS、同SK104、同SK110、同SK112、同SK116、同UBK510L、同UBK555[以上、三菱化学(株)製];レバチット(登録商標)MonoPlusS100、同MonoPlusSP112[以上、ランクセス社製]が挙げられる。
【0041】
また、市販されている弱酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標)CG−50、同FPC3500、同IRC50、同IRC76、同IRC86、同IRP−64、ダウエックス(登録商標)MAC−3[以上、ダウ・ケミカル社製];ダイヤイオン(登録商標)CWK30/S、同WK10、同WK11、同WK40、同WK100、同WT01S[以上、三菱化学(株)製]が挙げられる。
【0042】
このような反応によって得られた重縮合化合物(ポリシロキサン)は、GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwが500〜100,000、好ましくは500〜30,000であり、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.0〜10である。
なお、上記ポリシロキサンは、[X(Ar
1)SiO]で表されるシロキサン単位を少なくとも有する化合物であり、例えば、[X(Ar
1)SiO]と[Ar
2SiO
3/2]で表されるシロキサン単位を少なくとも有する、架橋構造を持つ化合物である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0044】
(1)スピンコーター
装置:Brewer Science社製 Cee(登録商標)200X
(2)UV露光
装置:アイグラフィックス(株)製 バッチ式UV照射装置(高圧水銀灯2kW×1灯)
(3)
1H NMRスペクトル
装置:Bruker社製 AVANCE III HD
測定周波数:500MHz
溶媒:CDCl
3
内部基準:テトラメチルシラン(δ=0.00ppm)
(4)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:(株)島津製作所製 Prominence(登録商標)GPCシステム
カラム:昭和電工(株)製 Shodex(登録商標)GPC KF−804L及びGPC KF−803L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:RI
検量線:標準ポリスチレン
(5)透過率
装置:日本分光(株)製 紫外可視近赤外分光光度計V−670
リファレンス:石英
(6)屈折率n
d、アッベ数ν
d
装置:ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製 多入射角分光エリプソメーター VASE
測定温度:室温(およそ23℃)
【0045】
また、略記号は以下の意味を表す。
PheTMS:トリメトキシ(9−フェナントリル)シラン
SPDMS:ジメトキシ(フェニル)(4−ビニルフェニル)シラン
SPeDMS:ジメトキシ(フェナントレン−9−イル)(4−ビニルフェニル)シラン
STMS:トリメトキシ(4−ビニルフェニル)シラン[信越化学工業(株)製 信越シリコーン(登録商標)KBM−1403]
TMOS:テトラメトキシシラン[東京化成工業(株)製]
TEAH:35質量%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液[アルドリッチ社製]
I184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[BASFジャパン(株)製 IRGACURE(登録商標)184]
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
THF:テトラヒドロフラン
【0046】
[製造例1]トリメトキシ(9−フェナントリル)シラン(PheTMS)の製造
凝縮器を備えた500mLの反応フラスコに、マグネシウム切削片[関東化学(株)製]10.4g(0.43mol)を仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、9−ブロモフェナントレン[東京化成工業(株)製]100.3g(0.39mol)、及びTHF346gの混合物を、室温(およそ23℃)下、1時間で滴下し、さらに30分間撹拌することで、グリニャール試薬を調製した。
1Lの反応フラスコに、TMOS178.0g(1.17mol)、及びTHF346gを仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、上記グリニャール試薬を、室温(およそ23℃)下、30分間で滴下し、さらに2時間撹拌した。この反応混合物から、エバポレーターを用いてTHFを減圧留去した。得られた残渣に、ヘキサン1,000gを加え、可溶物を溶解した後、不溶物をろ別した。この不溶物に、再度ヘキサン500gを加え、同様に不溶物をろ別した。それぞれのろ液を混合し、エバポレーターを用いてヘキサンを減圧留去することで、粗生成物を得た。粗生成物を減圧蒸留(1mmHg、120〜150℃)した後、メタノール389gで再結晶することで、目的とするPheTMS74.6g(収率64%)を得た。
【0047】
[実施例1]ジメトキシ(フェナントレン−9−イル)(4−ビニルフェニル)シラン(SPeDMS)の製造
凝縮器を備えた1Lの反応フラスコに、マグネシウム切削片[関東化学(株)製]15.7g(0.65mol)を仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、9−ブロモフェナントレン[東京化成工業(株)製]151.2g(0.58mol)、及びTHF518gの混合物を、室温(およそ23℃)下、1時間で滴下し、さらに1時間撹拌することで、グリニャール試薬を調製した。
2Lの反応フラスコに、STMS131.9g(0.58mol)、及びTHF259gを仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、上記グリニャール試薬を、還流下(およそ66℃)、30分間で滴下し、さらに24時間還流させた。この反応混合物から、エバポレーターを用いてTHFを減圧留去した。得られた残渣にヘキサン1,000gを加え、1時間還流させて可溶物を溶解した後、不溶物をろ別した。この不溶物に再度ヘキサン750gを加え、同様に可溶物を溶解後、不溶物をろ別した。それぞれのろ液を混合し、エバポレーターを用いてヘキサンを減圧留去することで、粗生成物を得た。粗生成物をヘキサン150gで再結晶することで、目的とするSPeDMS102.4g(収率47%)を得た。
得られた化合物の
1H NMRスペクトルを
図1に示す。
【0048】
【化5】
【0049】
[実施例2]反応性ポリシロキサン1(PStPe)の製造
凝縮器を備えた50mLの反応フラスコに、TEAH1.36g(3.23mmol)、及びTHF12gを仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、実施例1に従って製造したSPeDMS29.9g(80.7mmol)、及びTHF24gの混合物を、室温(およそ23℃)下、10分間で滴下し、40℃で16時間撹拌した。これを室温(およそ23℃)に冷却した。次いで、この反応混合物に、予めTHFで洗浄した陽イオン交換樹脂[ダウ・ケミカル社製 アンバーリスト(登録商標)15JWET]6.0g、及びろ過助剤[日本製紙(株)製 KCフロック W−100GK]1.2gを加え、1時間撹拌して反応を停止させた。その後、孔径0.5μmのメンブレンフィルタで陽イオン交換樹脂及びろ過助剤をろ過し、さらに酢酸エチル30gで洗い流した。このろ液及び洗浄液を併せて、メタノール897gに添加してポリマーを沈殿させた。この沈殿物をろ過、乾燥することで、目的とする反応性ポリシロキサン1(以下、PStPeと略記することもある)18.9gを得た。
GPCによるポリスチレン換算で測定される得られた化合物の重量平均分子量Mwは610、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.2であった。
【0050】
[実施例3]反応性ポリシロキサン2(XPe55)の製造
凝縮器を備えた50mLの反応フラスコに、TEAH0.90g(2.14mmol)、イオン交換水0.86g(47.7mmol)、及びTHF7gを仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、実施例1に従って製造したSPeDMS9.9g(26.8mmol)、製造例1に従って製造したPheTMS8.0g(26.8mmol)、及びTHF14gの混合物を、室温(およそ23℃)下、10分間で滴下し、40℃で16時間撹拌した。これを室温(およそ23℃)に冷却した。次いで、この反応混合物に、予めTHFで洗浄した陽イオン交換樹脂[ダウ・ケミカル社製 アンバーリスト(登録商標)15JWET]3.6g、及びろ過助剤[日本製紙(株)製 KCフロック W−100GK]0.72gを加え、1時間撹拌して反応を停止させた。その後、孔径0.5μmのメンブレンフィルタで陽イオン交換樹脂及びろ過助剤をろ過し、さらに酢酸エチル18gで洗い流した。このろ液及び洗浄液を併せて、メタノール538gに添加してポリマーを沈殿させた。この沈殿物をろ過、乾燥することで、目的とする反応性ポリシロキサン2(以下、XPe55と略記することもある)14.8gを得た。
GPCによるポリスチレン換算で測定される得られた化合物の重量平均分子量Mwは1,000、分散度:Mw/Mnは1.0であった。
【0051】
[実施例4]反応性ポリシロキサン3(XPe46)の製造
凝縮器を備えた100mLの反応フラスコに、TEAH1.50g(3.57mmol)、イオン交換水1.43g(79.5mmol)、及びTHF12gを仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、実施例1に従って製造したSPeDMS13.2g(35.6mmol)、製造例1に従って製造したPheTMS16.0g(53.6mmol)、及びTHF23gの混合物を、室温(およそ23℃)下、10分間で滴下し、40℃で16時間撹拌した。これを室温(およそ23℃)に冷却した。次いで、この反応混合物に、予めTHFで洗浄した陽イオン交換樹脂[ダウ・ケミカル社製 アンバーリスト(登録商標)15JWET]5.9g、及びろ過助剤[日本製紙(株)製 KCフロック W−100GK]1.2gを加え、1時間撹拌して反応を停止させた。その後、孔径0.5μmのメンブレンフィルタで陽イオン交換樹脂及びろ過助剤をろ過し、さらに酢酸エチル29gで洗い流した。このろ液及び洗浄液を併せて、メタノール877gに添加してポリマーを沈殿させた。この沈殿物をろ過、乾燥することで、目的とする反応性ポリシロキサン3(以下、XPe46と略記することもある)23.7gを得た。
GPCによるポリスチレン換算で測定される得られた化合物の重量平均分子量Mwは1,100、分散度:Mw/Mnは1.0であった。
【0052】
[比較例1]ジメトキシ(フェニル)(4−ビニルフェニル)シラン(SPDMS)の製造
凝縮器を備えた500mLの反応フラスコに、マグネシウム切削片[関東化学(株)製]10.2g(0.42mol)を仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、ブロモベンゼン[東京化成工業(株)製]60.0g(0.38mol)、及びTHF340gの混合物を、室温(およそ23℃)下、1時間で滴下し、さらに1時間撹拌することで、グリニャール試薬を調製した。
1Lの反応フラスコに、STMS85.7g(0.38mol)、及びTHF170gを仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、上記グリニャール試薬を、室温(およそ23℃)下、30分間で滴下し、さらに2時間撹拌した。この反応混合物から、エバポレーターを用いてTHFを減圧留去した。得られた残渣に、ヘキサン600gを加え、可溶物を溶解した後、不溶物をろ別した。この不溶物に、再度ヘキサン300gを加え、同様に不溶物をろ別した。それぞれのろ液を混合し、エバポレーターを用いてヘキサンを減圧留去することで、粗生成物を得た。粗生成物を減圧蒸留(1mmHg、140〜150℃)することで、目的とするSPDMS50.4g(収率49%)を得た。
得られた化合物の
1H NMRスペクトルを
図2に示す。
【0053】
【化6】
【0054】
[比較例2]反応性ポリシロキサン2(PStPh)の製造
凝縮器を備えた50mLの反応フラスコに、TEAH0.50g(1.18mmol)、及びTHF3gを仕込み、窒素バルーンを用いてフラスコ中の空気を窒素で置換した。ここへ、比較例1に従って製造したSPDMS8.0g(29.6mmol)、及びTHF6gの混合物を、室温(およそ23℃)下、10分間で滴下し、40℃で16時間撹拌した。これを室温(およそ23℃)に冷却した。次いで、この反応混合物に、予めTHFで洗浄した陽イオン交換樹脂[ダウ・ケミカル社製 アンバーリスト(登録商標)15JWET]1.6g、及びろ過助剤[日本製紙(株)製 KCフロック W−100GK]0.32gを加え、1時間撹拌して反応を停止させた。その後、孔径0.5μmのメンブレンフィルタで陽イオン交換樹脂及びろ過助剤をろ過し、さらに酢酸エチル8gで洗い流した。このろ液及び洗浄液を混合し濃縮することで、目的とする反応性ポリシロキサン2(以下、PStPhと略記することもある)5.9gを得た。
GPCによるポリスチレン換算で測定される得られた化合物の重量平均分子量Mwは1,800、分散度:Mw/Mnは1.4であった。
【0055】
[反応性ポリシロキサンの光学特性評価]
実施例2乃至実施例4及び比較例2で製造した反応性ポリシロキサン3質量部、I184 0.03質量部、及びPGMEA7質量部を混合した。この溶液を、孔径0.2μmのPTFEシリンジフィルタでろ過し、固形分濃度30質量%のワニスを得た。
各ワニスを、石英基板上にスピンコーティング(1,500rpm×30秒間)し、100℃のホットプレートで1分間加熱乾燥した。この塗膜を、窒素雰囲気下、20mW/cm
2で150秒間UV露光し、さらに150℃のホットプレートで20分間加熱することで、膜厚1.5μmの硬化膜を作製した。得られた硬化膜の波長400〜800nmの最小透過率を測定した。結果を表1に示す。
また、石英基板をシリコンウェハーに変更した以外は上記と同様に硬化膜を作製し、得られた硬化膜の波長588nm(d線)における屈折率n
dを測定した。結果を表1に併せて示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、実施例2乃至実施例4に示す本発明のシラン化合物の重合物から得られた硬化物は、透過率90%以上の高い透明性を有し、かつ1.70以上の高い屈折率を示すことが確認された。
一方、特定構造を有さないシラン化合物の重合物から得られた硬化物(比較例2)にあっては、透過率は高いものの屈折率が1.613と低いことが確認され、本発明の優位性が示された。