特許第6735192号(P6735192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6735192リチウムイオン電池スクラップの処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735192
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池スクラップの処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20200728BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20200728BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20200728BHJP
   C22B 3/30 20060101ALI20200728BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20200728BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20200728BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20200728BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20200728BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20200728BHJP
【FI】
   C22B7/00 CZAB
   C22B3/06
   C22B3/38
   C22B3/30
   C22B23/00 102
   C22B26/12
   C22B3/44 101A
   C22B15/00
   B09B3/00 304Z
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-174681(P2016-174681)
(22)【出願日】2016年9月7日
(65)【公開番号】特開2018-40035(P2018-40035A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】横田 拓也
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−221178(JP,A)
【文献】 特開2012−001750(JP,A)
【文献】 特開2004−214025(JP,A)
【文献】 特開2009−079237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも銅を含むリチウムイオン電池スクラップを酸性溶液に接触させて、リチウムイオン電池スクラップを浸出させる浸出工程を有し、
前記浸出工程にて、酸性溶液の酸化還元電位(ORPvsAg/AgCl)が急上昇し始めたタイミングで、鉄、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも一種の元素を含む金属片を、酸性溶液に添加
前記金属片を添加するタイミングを、前記酸化還元電位の上昇速度が15mV/min以上となったときから5分経過するまでの間とする、リチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項2】
前記浸出工程で得られる浸出後液がアルミニウム及び鉄を含み、
前記浸出後液を、pH4.0〜6.0の範囲内に中和した後に固液分離を行い、浸出後液中のアルミニウムを除去する脱アルミニウム工程と、前記脱アルミニウム工程の後、酸化剤を添加して、pHを3.0〜5.0の範囲内に調整した後に固液分離を行い、鉄を除去する脱鉄工程とをさらに有する、請求項1に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項3】
前記浸出工程で、リチウムイオン電池スクラップに含まれる銅を固体のままで浸出後液中に残し、前記脱アルミニウム工程で、固液分離により、浸出後液中の銅を、アルミニウムとともに除去する、請求項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項4】
前記浸出工程で得られる浸出後液がアルミニウム及び鉄を含み、
前記浸出後液に対して固液分離を行った後、酸化剤を添加して、pHを3.0〜4.0の範囲内に調整した後に固液分離を行い、鉄を除去する脱鉄工程と、前記脱鉄工程の後、pH4.0〜6.0の範囲内に中和した後に固液分離を行い、アルミニウムを除去する脱アルミニウム工程とをさらに有する、請求項1に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項5】
前記脱鉄工程で添加する酸化剤を、二酸化マンガン、正極活物質、および、正極活物質を浸出して得られるマンガン含有浸出残渣からなる群から選択される一種以上とする、請求項のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項6】
前記脱アルミニウム工程及び前記脱鉄工程を経て得られた分離後液が、該分離後液中に溶解したマンガン、銅、鉄及び/又はアルミニウムを含み、
前記分離後液に対して溶媒抽出を行い、該分離後液からマンガン、銅、鉄及び/又はアルミニウムを除去する抽出工程をさらに有する、請求項のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項7】
前記抽出工程で、前記分離後液に対し、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する混合抽出剤を使用して溶媒抽出する、請求項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項8】
前記抽出工程後の抽出残液から、コバルト及び/又はニッケルを回収するコバルト/ニッケル回収工程をさらに含む、請求項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項9】
前記コバルト/ニッケル回収工程の後、リチウムを回収するリチウム回収工程をさらに含む、請求項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン電池スクラップを処理する方法に関するものであり、特には、各種リチウムイオン電池スクラップからの有価金属の回収に有効に用いることのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の電子デバイスをはじめとして多くの産業分野で使用されているリチウムイオン電池は、マンガン、ニッケルおよびコバルトを含有するリチウム金属塩を正極活物質として用いたものであり、近年は、その使用量の増加および使用範囲の拡大に伴い、電池の製品寿命や製造過程での不良により廃棄される量が増大している状況にある。
かかる状況の下では、大量に廃棄されるリチウムイオン電池スクラップから、上記のニッケルおよびコバルト等の高価な元素を、再利用するべく比較的低コストで容易に回収することが望まれる。
【0003】
有価金属の回収のためにリチウムイオン電池スクラップを処理するには、はじめに、たとえば、所要に応じて焙焼、破砕および篩別等の各工程を経て得られた粉状ないし粒状のリチウムイオン電池スクラップを、過酸化水素水を用いて酸浸出し、そこに含まれ得るリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、銅、アルミニウム等を溶液中に溶解させて浸出後液を得る。
【0004】
次いで、その浸出後液に対して溶媒抽出法を実施して、各金属元素を分離させる。ここでは、浸出後液に浸出しているそれぞれの金属を分離させるため、浸出後液に対し、分離させる金属に応じた複数段階の溶媒抽出もしくは中和等を順次に施し、さらには、各段階で得られたそれぞれの溶液に対して、逆抽出、電解、炭酸化その他の処理を施す。具体的には、まず鉄およびアルミニウムを回収し、続いてマンガンおよび銅、そしてコバルト、その後にニッケルを回収して、最後に水相にリチウムを残すことで、各有価金属を回収することができる。
【0005】
なおこの種の従来技術として、特許文献1には、ニッケル及びコバルトと鉄、アルミニウム及びマンガンその他の不純物元素とを含有する硫酸酸性水溶液から、ニッケルを回収する方法であって、硫酸酸性水溶液から、鉄およびアルミニウムを酸化中和処理にて除去し、次いで、中和処理によりニッケルおよびコバルトを含有する混合水酸化物を分離回収した後、その混合水酸化物を溶解して得た濃縮液から、溶媒抽出処理によってコバルトおよびニッケルをそれぞれ含有する逆抽出液を得ることが記載されている。
また、特許文献2には、リチウム、マンガン、ニッケル、及びコバルトからなる金属群Aと、銅、アルミニウム及び鉄からなる金属群Bとを含有する金属混合水溶液に対して、所定の条件の溶媒抽出を順次に施し、各金属を分離することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−180439号公報
【特許文献2】特許第5706457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、複数種類の金属イオンを含む浸出後液から各金属を分離回収するためには、多くの処理を要する。それ故、浸出後液に含まれる複数種類の金属イオンのうち、特定の金属イオンを溶解させずに固体として残すことができれば、その後の回収工程で、各金属を分離回収するために浸出後液に施す多様な処理のうち、固体として残した金属の回収に必要な処理を簡略化ないし省略することができるので、処理の能率及びコストの観点から有効である。
特に、銅イオンが浸出後液に高い濃度で含まれていると、たとえばコバルトを溶媒抽出して逆抽出した後の電解工程で、電着異常が発生する原因となることがあり、後工程での負荷が大きいという問題がある。
【0008】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、銅を含むリチウムイオン電池スクラップを浸出させるに当り、可能な限り銅を酸性溶液に溶解させずに固体として残して、後工程での負荷を軽減することのできるリチウムイオン電池スクラップの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は鋭意検討の結果、銅を含むリチウムイオン電池スクラップを酸性溶液と接触させて浸出させる際に、コバルト等が酸性溶液中に固体として残留している間は、銅の酸化溶解が抑制されて浸出されず、その後、コバルト等が完全に溶解すると、銅の浸出が開始するとともに、それに伴って酸化還元電位が急上昇することを新たに見出した。
そして、このことを利用することにより、酸性溶液中に銅を溶解させずに固体として残すことができると考えた。
【0010】
この知見に基き、この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法は、少なくとも銅を含むリチウムイオン電池スクラップを酸性溶液に接触させて、リチウムイオン電池スクラップを浸出させる浸出工程を有し、前記浸出工程にて、酸性溶液の酸化還元電位(ORPvsAg/AgCl)が急上昇し始めたタイミングで、鉄、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも一種の元素を含む金属片を、酸性溶液に添加し、前記金属片を添加するタイミングを、前記酸化還元電位の上昇速度が15mV/min以上となったときから5分経過するまでの間とすることにある。
【0012】
この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法は、前記浸出工程で得られる浸出後液がアルミニウム及び鉄を含み、前記浸出後液を、pH4.0〜6.0の範囲内に中和した後に固液分離を行い、浸出後液中のアルミニウムを除去する脱アルミニウム工程と、前記脱アルミニウム工程の後、酸化剤を添加して、pHを3.0〜5.0の範囲内に調整した後に固液分離を行い、鉄を除去する脱鉄工程とをさらに有することが好ましい。
ここでは、前記浸出工程で、リチウムイオン電池スクラップに含まれる銅を固体のままで浸出後液中に残し、前記脱アルミニウム工程で、固液分離により、浸出後液中の銅を、アルミニウムとともに除去することがより好ましい。
【0013】
また、この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法は、前記浸出工程で得られる浸出後液がアルミニウム及び鉄を含み、前記浸出後液に対して固液分離を行った後、酸化剤を添加して、pHを3.0〜4.0の範囲内に調整した後に固液分離を行い、鉄を除去する脱鉄工程と、前記脱鉄工程の後、pH4.0〜6.0の範囲内に中和した後に固液分離を行い、アルミニウムを除去する脱アルミニウム工程とをさらに有することが好ましい。
【0014】
上述した脱鉄工程で添加する酸化剤は、二酸化マンガン、正極活物質、および、正極活物質を浸出して得られるマンガン含有浸出残渣からなる群から選択される一種以上とすることが好適である。
【0015】
また、上述した脱アルミニウム工程及び脱鉄工程を経て得られた分離後液が、該分離後液中に溶解したマンガン、銅、鉄及び/又はアルミニウムを含み、前記分離後液に対して溶媒抽出を行い、該分離後液からマンガン、銅、鉄及び/又はアルミニウムを除去する抽出工程をさらに有することが好ましい。
この抽出工程では、前記分離後液に対し、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する混合抽出剤を使用して溶媒抽出することが好ましい。
【0016】
この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法は、上記の抽出工程後の抽出残液から、コバルト及び/又はニッケルを回収するコバルト/ニッケル回収工程をさらに含むことが好適である。
また、前記コバルト/ニッケル回収工程の後、リチウムを回収するリチウム回収工程をさらに含むことが好適である。
【発明の効果】
【0017】
この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法によれば、浸出工程にて、酸性溶液の酸化還元電位が急上昇し始めたタイミングで、鉄、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも一種の元素を含む金属片を、酸性溶液に添加することにより、銅の溶解が抑制されるので、可能な限り銅を酸性溶液に溶解させずに固体として残して、後工程での負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法の一の実施形態を示すフロー図である。
図2】この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法の他の実施形態を示すフロー図である。
図3】実施例における時間の経過に伴うORP、pH及びCu濃度の変化を示すグラフである。
図4】比較例における時間の経過に伴うORP、pH及びCu濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るリチウムイオン電池スクラップの処理方法では、少なくとも銅を含むリチウムイオン電池スクラップを酸性溶液に接触させて、リチウムイオン電池スクラップを浸出させる浸出工程において、酸性溶液の酸化還元電位(ORPvsAg/AgCl)が急上昇し始めたタイミングで、鉄、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも一種の元素の金属又は、該少なくとも一種の元素を含有する合金からなる金属片を、酸性溶液に添加する。
【0020】
(リチウムイオン電池スクラップ)
この発明で対象とするリチウムイオン電池スクラップは、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用されたリチウムイオン電池のスクラップであればどのようなものでもかまわないが、なかでも、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄されたものを対象とすることが、資源の有効活用の観点から好ましい。
【0021】
リチウムイオン電池スクラップとしては、いわゆる電池滓とすることができ、この電池滓にアルミニウム箔付き正極材もしくは正極活物質を混合したものでもよく、また、電池滓を、必要に応じて焙焼し、化学処理し、破砕し、および/もしくは篩別したもの等とすることができる。
【0022】
電池滓には、マンガン、ニッケル及びコバルトを含有するリチウム金属塩である正極活物質の他、カーボン、鉄及び銅を含む負極材や、正極活物質が付着されるアルミニウム箔、リチウムイオン電池のアルミニウム筐体が含まれることがある。具体的には、リチウムイオン電池には、正極活物質を構成するリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンのうちの一種の元素からなる単独金属酸化物および/または、二種以上の元素からなる複合金属酸化物、並びに、アルミニウム、銅、鉄、カーボン等が含まれ得る。
【0023】
この発明では、銅を、たとえば0.5質量%〜5質量%、好ましくは1質量%〜15質量%で含むリチウムイオン電池スクラップを対象とすることが特に効果的である。このような比較的多量の銅を含むリチウムイオン電池スクラップを従来の方法で浸出した場合、多量の銅が溶解した溶液に対して溶媒抽出を行うことになり、その後の電解工程で、電着異常が発生する原因となるからである。なお、リチウムイオン電池スクラップ中に含まれる銅が少なすぎる場合、特に大きな問題とはならないが、この発明を適用することによる効果が薄くなる。
【0024】
(浸出工程)
浸出工程では、たとえば破砕・篩別により篩下に得られた粉末状の上記のリチウムイオン電池スクラップを、浸出液としての硫酸酸性溶液等の酸性溶液と接触させて浸出させる。それにより、リチウムイオン電池スクラップに含まれる所定の金属が浸出した浸出後液を得る。
【0025】
ここにおいて、この実施形態では、リチウムイオン電池スクラップを投入した酸性溶液の酸化還元電位(ORPvsAg/AgCl)を、たとえば0.5分もしくは0.1分等の数分おきに計測し、その酸化還元電位が、それまでの変化と比較して急上昇し始めたタイミングで、酸性溶液に、鉄、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも一種の元素の金属又は、該少なくとも一種の元素を含有する合金からなる金属片を添加する。
【0026】
酸性溶液と、銅を含むリチウムイオン電池スクラップとを接触させると、たとえばリチウムイオン電池スクラップに含まれ得る正極活物質のコバルトや、アルミニウム箔のアルミニウム等が、銅よりも卑な金属であることに起因して、銅よりも先に溶解することになり、その後、それらの金属が完全に溶解した際に、銅の溶解が開始するとともに酸化還元電位が急上昇する。
このタイミングで、鉄、ニッケル及び/又はコバルトを酸性溶液に添加することにより、銅の代わりにそれらの添加金属が溶解し、銅の溶解が抑制されて銅が浸出されないことになる。なおここで、酸化還元電位が急上昇し、銅が溶解するORP値に達した後には銅の溶解が始まるところ、鉄、ニッケル及び/又はコバルトの添加前に、銅が若干溶解していたとしても、添加された鉄、ニッケル及び/又はコバルトの溶解に伴い、銅がイオンから固体に戻ることもあると考えられる。いずれにしても、鉄、ニッケル及び/又はコバルトの添加は、浸出工程で得られる浸出後液中に銅を固体で残すことに寄与する。
【0027】
金属片を酸性溶液に添加するタイミングは、具体的には、酸性溶液とリチウムイオン電池スクラップとを接触させた後、酸性溶液の酸化還元電位の上昇速度が15mV/min以上、好ましくは30mV/min以上となったときとすることができ、特に、酸化還元電位の上昇速度が一旦15mV/min以上となったときから5分経過するまでの間、好ましくは1分経過するまでの間とすることが好ましい。酸化還元電位の上昇速度が15mV/min未満では、リチウムイオン電池スクラップに含まれ得るコバルト等が完全に溶解しておらず、銅の溶解がまだ始まる前の状態と考えられる。また、酸化還元電位の上昇速度が15mV/min以上となってから5分を経過した後は、かなりの銅が既に溶解していることが懸念される。
【0028】
より具体的には、酸性溶液の酸化還元電位が、たとえば−300mV以上かつ−100mV以下となったとき、好ましくは−250mV以上かつ−200mV以下となったときに、上述した金属片を添加することができる。酸化還元電位が低すぎる状態で金属片を添加すると、リチウムイオン電池スクラップに含まれ得るコバルト等が完全に溶解しておらず銅の溶解がまだ始まる前の状態と考えられ、この一方で、酸化還元電位が高すぎる状態で金属片を添加すると、銅が既に溶解していることが懸念されるからである。
【0029】
酸性溶液に添加する金属片は、鉄、ニッケル及びコバルトのうちの少なくとも一種の元素を含む金属であり、これが単体金属からなるか又は合金からなるかは問わない。
鉄、ニッケル、コバルトは、イオン化傾向が銅よりも大きく、銅に比して溶けやすいことから、上述したような銅の浸出抑制を可能にする。しかも、これらの元素は、そもそもリチウムイオン電池スクラップに含まれていることが多く、浸出工程後に除去ないし回収しやすい。なお、アルミニウムも銅よりイオン化傾向が大きく、リチウムイオン電池スクラップに含まれ得るが、浸出工程後の除去が比較的困難であることから、酸性溶液への添加元素としてはあまり望ましくない。
【0030】
上述した元素を金属片の形態で酸性溶液に添加するのは、浸出工程の後の種々の工程での固液分離等による回収が容易になるからである。この金属片としては、たとえば、最大寸法が、好ましくは1mm〜1000mm、より好ましくは10mm〜100mmの板状もしくは箔状のものとすることができる。この範囲内の寸法の金属片であれば、有効に溶解し得る程度の酸性溶液との接触面積が確保されるとともに、溶解後の溶け残ったものを後工程で容易に回収することができる。細かい粉末状とした場合は、浸出工程後の回収に手間ないし器具を要することがあり、この一方で、ある程度の大きさを有するブロックもしくは塊状とした場合は、酸性溶液との接触面積が小さくなってあまり溶解せず、銅の溶解が有効に抑制されないおそれがある。
【0031】
浸出工程では、浸出液のpHは、0〜2.0とすることができる。このときのpHが大きすぎると、コバルト及びニッケルの浸出速度が十分でない可能性があり、この一方で、pHが小さすぎると、浸出が急速に進み、銅が浸出してしまい、また、後工程にてpHを上げる必要がある際はpH調整のためコスト増となる可能性があるからである。
【0032】
また浸出工程で、リチウムイオン電池スクラップを酸性溶液に添加したときから浸出終了までの浸出時間は0.5時間〜10時間とすることが好ましい。反応時間が短すぎると、溶かしたいコバルトやニッケルが十分に溶解しない場合がある。一方、浸出時間が長すぎると、銅の溶解が始まるおそれがあるからである。浸出時間のより好ましい範囲は、1時間〜5時間、さらに好ましくは1時間〜3時間である。
【0033】
以上に述べた浸出工程の後は、たとえば、図1に示す実施形態又は図2に示す実施形態の工程を行うことができる。以下にそれぞれの実施形態を詳細に説明する。
【0034】
図1に示す実施形態>
図1に示す実施形態では、上記の浸出工程の後、脱アルミニウム工程及び脱鉄工程をこの順序で行い、その後、抽出工程を経てコバルト/ニッケル回収工程、リチウム回収工程を行う。
【0035】
(脱アルミニウム工程)
脱アルミニウム工程では、上記の浸出工程で得られた浸出後液のpHを、4.0〜6.0の範囲内に上昇させて中和することにより、浸出後液中のアルミニウムを沈殿させ、その後の固液分離により、かかるアルミニウムを除去する。
【0036】
この脱アルミニウム工程で、pHが低すぎるとアルミニウムを十分に沈殿させることができず、この一方で、pHが高すぎるとコバルト等の他の金属も沈殿してしまう。この観点より、脱アルミニウム工程における浸出後液のpHは、4.0〜6.0とすることがより好ましく、特に、4.5〜5.0とすることがさらに好ましい。
脱アルミニウム工程では、pHを上述した範囲内に上昇させるため、浸出後液に、たとえば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等のアルカリを添加することができる。
【0037】
また脱アルミニウム工程では、浸出後液の酸化還元電位(ORPvsAg/AgCl)を−500mV〜100mVとすることが好ましく、さらには、−400mV〜0mVとすることがより好ましい。このときの酸化還元電位が高すぎる場合は、コバルトが四酸化三コバルト(Co34)として沈殿するおそれがあり、この一方で、酸化還元電位が低すぎると、コバルトが単体金属(Coメタル)に還元されて沈殿することが懸念される。
【0038】
そしてまた、脱アルミニウム工程では、浸出後液の温度を、50℃〜90℃とすることが好適である。これはすなわち、浸出後液の温度を50℃未満とした場合は、反応性が悪くなることが懸念され、また、90℃より高くした場合は高熱に耐えられる装置が必要になる他、安全上も好ましくない。
【0039】
上述したようにしてアルミニウムを十分に沈殿させた後は、フィルタープレスやシックナー等の公知の装置及び方法を用いて固液分離を行って、主として、沈殿したアルミニウムを除去する。
脱アルミニウム工程における固液分離では、浸出工程で溶かさずに固体として残した銅や、リチウムイオン電池スクラップに含まれ得るカーボンもまた分離させることができる。この固液分離では、アルミニウムとともに銅も除去できるので、たとえば浸出工程直後の銅を単独で除去するための固液分離を省略することができて、処理能率の向上およびコストの低減を図ることができる。したがって、浸出工程後で脱アルミニウム工程前には固液分離を行わずに、浸出後液中の銅を固体のままで残すことが好適である。
【0040】
また、アルミニウムのみの沈殿物を濾過しようとすると、ゲル状のアルミニウム沈殿物は濾過することが困難であり、濾過速度の低下を招くが、この脱アルミニウム工程における固液分離では、沈殿物に、アルミニウムのみならず銅やカーボン等が含まれることから、かかる銅やカーボン等が、ゲル状のアルミニウム沈殿物の濾過のしにくさを補って、濾過に要する時間を短縮化することができる。
【0041】
なお、先述の浸出工程で得られる浸出後液が、それに溶解したリチウムを含む場合であって、浸出後液中のアルミニウムに対するリチウムのモル比(Li/Al比)が、1.1以上であれば、脱アルミニウム工程における沈殿物に含まれるアルミニウムが、ゲル状のAl(OH)3の他、結晶性のあるLiAlO2、LiAl2(OH)7等の複合酸化物、複合水酸化物を生成し、粉末状に近い形態となる。この場合は、更なる濾過時間の短縮化を図ることができる。この観点から、浸出後液中のアルミニウムに対するリチウムのモル比(Li/Al比)は、1.1以上とすることが好ましい。
【0042】
なお、浸出後液中のリチウムは、リチウムイオン電池スクラップにそもそも含まれるリチウムが酸浸出されたものとすることができる他、浸出後液に他のリチウム含有材料を添加して、これが酸浸出されたものとすることもできる。また、リチウム含有材料の添加により、浸出後液中のAl/Li比を調整することが可能である。このリチウム含有材料としては、試薬を用いることもできるが、リチウムイオン電池スクラップの処理プロセスで得られた炭酸リチウム、水酸化リチウムその他のリチウム化合物や、これらのうちの少なくとも一種を水に溶解させて得られるリチウム水溶液とすることが好ましい。
【0043】
(脱鉄工程)
脱鉄工程では、上記の脱アルミニウム工程で得られた溶液に、酸化剤を添加するとともに、pHを3.0〜5.0の範囲内に調整することにより、溶液中の鉄を沈殿させ、その後の固液分離により、かかる鉄を除去する。
【0044】
この脱鉄工程では、酸化剤の添加により、溶液中の鉄が、2価から3価へ酸化されることになり、3価の鉄は2価の鉄よりも低いpHで酸化物(水酸化物)として沈殿することから、上記のような比較的低いpHに調整することで、鉄を沈殿させることができる。多くの場合、鉄は、水酸化鉄(Fe(OH)3)等の固体となって沈殿する。
ここで、仮にpHを大きく上昇させた場合はコバルトの沈殿を招くが、この脱鉄工程では、それほどpHを上昇させることなしに、鉄を沈殿させることができるので、この際のコバルトの沈殿を有効に抑制することができる。
【0045】
脱鉄工程で、pHが低すぎると鉄を十分に沈殿させることができず、この一方で、pHが高すぎると、コバルト等の他の金属も沈殿してしまう。この観点より、脱鉄工程におけるpHは、3.0〜4.0とすることがより好ましく、特に3.0〜3.5とすることがさらに好ましい。
【0046】
また脱鉄工程では、溶液の酸化還元電位(ORPvsAg/AgCl)を、好ましくは300mV〜900mV、より好ましくは500mV〜700mVとする。このときの酸化還元電位が低すぎる場合は、鉄が酸化されない可能性があり、この一方で、酸化還元電位が高すぎると、コバルトが酸化され酸化物として沈殿するおそれがある。
【0047】
脱鉄工程では、酸化剤の添加に先立って、上述した範囲にpHを低下させるため、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸等の酸を添加することができる。
【0048】
脱鉄工程で添加する酸化剤は、鉄を酸化できるものであれば特に限定されないが、二酸化マンガン、正極活物質、及び/又は、正極活物質を浸出して得られるマンガン含有浸出残渣とすることが好ましい。これらは、溶液中の鉄を効果的に酸化させることができる。なお、正極活物質を酸等により浸出して得られるマンガン含有浸出残渣には、二酸化マンガンが含まれ得る。
酸化剤として上記の正極活物質等を用いる場合、溶液に溶解しているマンガンが二酸化マンガンとなる析出反応が生じるので、析出したマンガンを鉄とともに除去することができる。
【0049】
酸化剤の添加後は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等のアルカリを添加して、pHを所定の範囲に調整することができる。
【0050】
(抽出工程)
リチウムイオン電池スクラップにマンガンが含まれること等によって、脱アルミニウム工程及び脱鉄工程を経て得られた分離後液にマンガンが含まれる場合や、先述した浸出工程、脱アルミニウム工程、脱鉄工程で完全に除去されずに残った銅、アルミニウム、鉄が当該分離後液に含まれる場合があり、この場合は、その分離後液に対してマンガン等を抽出する抽出工程を行うことができる。但し、当該分離後液にマンガン等が含まれない場合は、この抽出工程は省略することも可能である。
【0051】
具体的には、抽出工程では、脱鉄工程後の分離後液に対して、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する混合抽出剤を使用して溶媒抽出し、マンガン、銅、鉄及び/又はアルミニウムを分離させることができる。
特に、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を併用することにより、銅、鉄、アルミニウムの分離効率が顕著に向上する。なかでも、銅はほとんど抽出することができる。
【0052】
(コバルト/ニッケル回収工程)
マンガン抽出工程の後、抽出残液中のコバルト及び/又はニッケルを回収する。コバルト及び/又はニッケルの回収はそれぞれ、公知の方法により行うことができる。具体的には、コバルト及びニッケルの溶媒抽出をそれぞれ順次に行い、溶媒中のコバルトを逆抽出によって水相に移動させて電解採取によって回収し、また、溶媒中のニッケルも同様に逆抽出および電解採取により回収可能である。
【0053】
(リチウム回収工程)
コバルト/ニッケル回収工程の後、リチウムが残っている場合は、水相のリチウムを、たとえば、炭酸化して炭酸リチウムとして回収することができる。
【0054】
図2に示す実施形態>
図2に示す実施形態では、上記の浸出工程の後、図1に示す実施形態とは逆に、脱鉄工程及び脱アルミニウム工程をこの順序で行った後に、図1に示す実施形態と同様にして、抽出工程を経て、コバルト/ニッケル回収工程、リチウム回収工程を行う。
図2に示す実施形態では、上述した浸出工程の終わりに、浸出後液に対して、フィルタープレスやシックナー等の公知の装置及び方法を用いて固液分離を行い、浸出後液に含まれる銅等の固体を除去することができる。
【0055】
(脱鉄工程)
浸出工程の固液分離の後、脱鉄工程として、酸化剤を添加するとともに、pHを3.0〜4.0の範囲内に調整することにより、溶液中の鉄を沈殿させ、その後の固液分離により、かかる鉄を除去する。
この脱鉄工程では、酸化剤の添加により、溶液中の鉄が、2価から3価へ酸化され、3価の鉄は2価の鉄よりも低いpHで酸化物(水酸化物)として沈殿することから、上記のような比較的低いpHに調整することで、鉄を沈殿させることができる。多くの場合、鉄は、水酸化鉄(Fe(OH)3)等の固体となって沈殿する。
pHを大きく上昇させた場合はコバルトの沈殿を招くが、この脱鉄工程では、それほどpHを上昇させることなしに、鉄を沈殿させることができるので、この際のコバルトの沈殿を有効に抑制することができる。
【0056】
脱鉄工程で、pHが低すぎると鉄を十分に沈殿させることができず、この一方で、pHが高すぎると、コバルト等の他の金属も沈殿してしまう。この観点より、脱鉄工程におけるpHは、3.0〜4.0とすることがより好ましい。
【0057】
また脱鉄工程では、溶液の酸化還元電位(ORPvsAg/AgCl)を、好ましくは500mV〜1400mV、より好ましくは700mV〜1200mVとする。このときの酸化還元電位が高すぎる場合は、コバルトが酸化され酸化物として沈殿するおそれがあり、この一方で、酸化還元電位が低すぎると、鉄が酸化されない可能性がある。
【0058】
脱鉄工程で添加する酸化剤は、鉄を酸化できるものであれば特に限定されないが、二酸化マンガン、正極活物質、及び/又は、正極活物質を浸出して得られるマンガン含有浸出残渣とすることが好ましい。これらは、溶液中の鉄を効果的に酸化させることができる。なお、正極活物質を酸等により浸出して得られるマンガン含有浸出残渣には、二酸化マンガンが含まれ得る。
なお、酸化剤として上記の正極活物質を用いる場合、溶液に溶解しているマンガンが二酸化マンガンとなる析出反応を生じるので、析出したマンガンを鉄とともに除去することができる。
【0059】
また、脱鉄工程では、上述した範囲にpHを調整するため、たとえば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等のアルカリを添加することができる。
【0060】
(脱アルミニウム工程)
脱アルミニウム工程では、上記の脱鉄工程で得られた溶液のpHを、4.0〜6.0の範囲内に上昇させて中和することにより、当該溶液中のアルミニウムを沈殿させ、その後の固液分離により、かかるアルミニウムを除去する。
【0061】
この脱アルミニウム工程で、pHが低すぎるとアルミニウムを十分に沈殿させることができず、この一方で、pHが高すぎると、コバルト等の他の金属も沈殿してしまう。この観点より、脱アルミニウム工程におけるpHは、4.0〜6.0とすることがより好ましく、特に、4.5〜5.0とすることがさらに好ましい。
脱アルミニウム工程では、pHを上述した範囲内に上昇させるため、たとえば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等のアルカリを添加することができる。
【0062】
そしてまた、脱アルミニウム工程では、溶液の温度を、60℃〜90℃とすることが好適である。これはすなわち、温度を60℃未満とした場合は、反応性が悪くなることが懸念され、また、90℃より高くした場合は、高熱に耐えられる装置が必要になる他、安全上も好ましくない。そのため、溶液の温度は、60℃〜90℃とすることが好ましい。
【0063】
ここで、先述の浸出工程で得られる浸出後液が、溶解したリチウムを含む場合、浸出後液中のアルミニウムに対するリチウムのモル比(Li/Al比)を、1.1以上としておくことが、この脱アルミニウム工程での沈殿物の濾過性向上の点で好ましい。この場合、脱アルミニウム工程における沈殿物に含まれるアルミニウムが、ゲル状のAl(OH)3の他、結晶性のあるLiAlO2、LiAl2(OH)7等の複合酸化物、複合水酸化物を生成し、粉末状に近い形態となるこの沈殿物は、固液分離時に濾過し易いことから、脱アルミニウム工程での固液分離の際の濾過に要する時間を短縮化することができる。
この観点から、浸出後液中のアルミニウムに対するリチウムのモル比(Li/Al比)は、1.1以上とすることが好ましい。
【0064】
なお、浸出後液中のリチウムは、リチウムイオン電池スクラップにそもそも含まれるリチウムが酸浸出されたものとすることができる他、浸出後液等に他のリチウム含有材料を添加して、これが酸浸出されたものとすることもできる。また、リチウム含有材料の添加により、浸出後液中のAl/Li比を調整することが可能である。このリチウム含有材料としては、試薬を用いることもできるが、リチウムイオン電池スクラップの処理プロセスで得られた炭酸リチウム、水酸化リチウムその他のリチウム化合物や、これらのうちの少なくとも一種を水に溶解させて得られるリチウム水溶液とすることが好ましい。
【0065】
(抽出工程)
リチウムイオン電池スクラップにマンガンが含まれること等によって、脱鉄工程及び脱アルミニウム工程を経て得られた分離後液にマンガンが含まれる場合や、先述した浸出工程、脱鉄工程、脱アルミニウム工程で完全に除去されずに残った銅、鉄、アルミニウムが分離後液に含まれる場合があり、この場合は、分離後液に対してマンガン等を抽出する抽出工程を行うことができる。但し、分離後液にマンガン等が含まれない場合は、この抽出工程は省略することも可能である。
【0066】
具体的には、抽出工程では、脱アルミニウム工程後の分離後液に対して、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する混合抽出剤を使用して溶媒抽出し、マンガン、銅、鉄及び/又はアルミニウムを分離させることができる。
特に、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を併用することにより、銅、鉄、アルミニウムの分離効率が顕著に向上する。なかでも、銅はほとんど抽出することができる。
【0067】
(コバルト/ニッケル回収工程)
マンガン抽出工程の後、抽出残液中のコバルト及び/又はニッケルを回収する。コバルト及び/又はニッケルの回収はそれぞれ、公知の方法により行うことができる。具体的には、コバルト及びニッケルの溶媒抽出をそれぞれ順次に行い、溶媒中のコバルトを逆抽出によって水相に移動させて電解採取によって回収し、また、溶媒中のニッケルも同様に逆抽出および電解採取により回収可能である。
【0068】
(リチウム回収工程)
コバルト/ニッケル回収工程の後、リチウムが残っている場合は、水相のリチウムを、たとえば、炭酸化して炭酸リチウムとして回収することができる。
【実施例】
【0069】
次に、この発明を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的とするものであって、それに限定されることを意図するものではない。
【0070】
リチウムイオン電池スクラップとして表1に示す品位の電池粉41.1gを純水に投入して速度500rpmで撹拌した後、98%の濃硫酸をpHが1.8となるように添加し、それにより得た酸性溶液を70℃に加温した。
【0071】
【表1】
【0072】
そして、酸性溶液のORPが−250mV(Ag/AgCl)になるまで、70℃で撹拌を継続し、この間もpHが1.8に維持されるように適宜濃硫酸を追加した。
実施例では、酸性溶液のORPが−250mVになった際に、0.5gのCoの金属片を酸性溶液に添加し、その添加後、30分間にわたって70℃で撹拌を継続した。一方、比較例では、かかる金属片を添加せずに、酸性溶液のORPが−250mVになってから30分間にわたって70℃で撹拌を継続した。
【0073】
これらの実施例および比較例のそれぞれにおける時間の経過に伴うORP、pH及びCu濃度の変化を、図3及び4のそれぞれにグラフで示す。また、実施例および比較例のそれぞれにおけるそれらのORP、pH及びCu濃度の測定値を、ORP上昇速度とともに、表2及び表3にそれぞれ示す。
なおここでは、液温が70℃に達した時点を時間0hとした。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
実施例では、図3に示すように、ORPが急上昇したタイミングで金属片を添加したことにより、酸性溶液中のCu濃度を低く抑えることができた。一方、比較例では、図4に示すように、金属片を添加しなかったことにより、Cu濃度が大きく上昇した。
【0077】
以上の試験結果より、この発明によれば、浸出工程で銅を酸性溶液に溶解させずに固体として残すことができ、それにより、後工程での負荷の軽減に寄与できることが解かった。
図1
図2
図3
図4