特許第6735382号(P6735382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6735382
(24)【登録日】2020年7月15日
(45)【発行日】2020年8月5日
(54)【発明の名称】3次元微動測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01Q 10/04 20100101AFI20200728BHJP
【FI】
   G01Q10/04
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-70985(P2019-70985)
(22)【出願日】2019年4月3日
(62)【分割の表示】特願2014-141057(P2014-141057)の分割
【原出願日】2014年7月9日
(65)【公開番号】特開2019-109260(P2019-109260A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】繁野 雅次
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和俊
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将史
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−214111(JP,A)
【文献】 特開2006−234507(JP,A)
【文献】 特開平08−254540(JP,A)
【文献】 特開2001−188035(JP,A)
【文献】 特開2001−135561(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0203020(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1587982(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00〜90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバーをなす移動体と、
前記移動体が固定される固定部材と、
前記固定部材が固定され、該固定部材を介して前記移動体を3次元に微動可能な3次元微動部と、
前記3次元微動部よりも大きい移動量で粗動可能な3次元粗動部であって、前記3次元微動部が固定され、該3次元微動部を3次元のうち重力方向である一軸に粗動させる第1の3次元粗動部と、第1の3次元粗動部が粗動する軸と異なる二軸が粗動する第2の3次元粗動部とからなる3次元粗動部と、
前記第1及び第2の3次元粗動部が固定される基体部と、
前記第1の3次元粗動部に固定されて前記固定部材の移動量を検出する移動量検出手段と、を備えた3次元微動測定装置であって、
前記3次元微動部と前記第2の3次元粗動部とは前記基体部の別個の位置にそれぞれ対向するように固定され、
前記第2の3次元粗動部の前記移動体側には測定対象物を配置する試料ステージが設置されてなる3次元微動測定装置。
【請求項2】
前記基体部は側面から見てコ字状である、請求項1に記載の3次元微動測定装置。
【請求項3】
前記3次元粗動部は、粗動制御回路によって独立にその位置を制御される、請求項1又は2に記載の3次元微動測定装置。
【請求項4】
前記移動量検出手段は、前記固定部材の検出面を検出する請求項1〜3のいずれか一項に記載の3次元微動測定装置。
【請求項5】
前記検出面が3次元の各軸に配置され、前記移動量検出手段は前記各軸の検出面毎に設けられて対応する検出面を検出する請求項4に記載の3次元微動測定装置。
【請求項6】
前記移動量検出手段は、非接触型センサである請求項1〜5のいずれか一項に記載の3次元微動測定装置。
【請求項7】
前記非接触型センサは、静電容量、光干渉又は光回折を使用したセンサである請求項6に記載の3次元微動測定装置。
【請求項8】
前記移動体の3次元の位置のうち少なくとも一軸の位置の制御を、前記移動量検出手段が検出した前記移動量に基づいたクローズドループ制御により行うための制御部を備えた請求項1〜7のいずれか一項に記載の3次元微動測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージを駆動する機構を有する走査型プローブ顕微鏡等の3次元微動測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡は、カンチレバーの先端に取付けた探針を試料表面に近接又は接触させ、試料の表面形状を測定するものである。走査型プローブ顕微鏡の測定モードとしては、(1)探針と試料の間の原子間力を一定に保って試料の表面形状を測定するコンタクト・モード、(2)カンチレバーをピエゾ素子等によって共振周波数近傍で強制振動させ、探針を試料に近接させた時に、両者の間の間欠的な接触によって探針の振幅が減衰するのを利用して試料の形状を測定する方法(以下、適宜「ダイナミック・フォース・モード(DFM測定モード)」という)、(3)カンチレバーをピエゾ素子等によって共振周波数近傍で強制振動させ、探針を試料に近接させた時に両者の間に働く力によって探針の共振状態が変化するのを利用し、試料の形状及び物性を測定する方法(以下、適宜「ノンコンタクト・モード(NC-AFM測定モード)」という)、が知られている。
【0003】
又、走査型プローブ顕微鏡は、試料をxy(平面)方向にそれぞれ走査する2つ(2軸)の微動機構(圧電素子等)と、試料をz(高さ)方向に走査する1つ(1軸)の微動機構(圧電素子等)とからなる微動部を備え、例えば微動部上に配置されたステージの表面に試料が載置されている。圧電素子に印加する電圧と圧電素子の変位はある程度比例するので、試料表面の高さ情報は圧電素子に印加した電圧から算出することができる。しかし、圧電素子の動作特性はヒステリシスやクリープを有するため、印加電圧から圧電素子の正確な位置を求めることは困難である。
そこで、圧電素子上にインピーダンスを利用した位置検出センサを設けた技術が開発されている(特許文献1参照)。そして、このような技術を用いることで、微動部の3つ(3軸)の圧電素子の位置をそれぞれ検出し、微動部上に配置された試料の3次元の位置を算出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-225654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、3軸の各圧電素子上の位置検出センサを用いて試料の3次元の位置を算出する場合には、各圧電素子についてそれぞれ検出した1軸の変位を3方向に組み合わせる。しかしながら、図6に示すように、圧電素子1100aは、移動方向(x方向)以外の直交する2軸(例えば、y方向)にもわずかに変位するので、圧電素子1100a上の位置検出センサ1100sで測定されるx方向の変位量がd1であるのに対し、実際の変位量はd1にy方向の微小な変位を合成したdxとなる。このため、3軸の各圧電素子の位置検出センサで検出した変位量を3方向に組み合わせても、実際の変位量との間で誤差が生じる。
一方、走査型プローブ顕微鏡で測定する試料は微細であることが多いため、この試料の位置を直接検出することは困難である。又、試料の位置を測定しようとしても、試料毎にステージ上の位置や試料の形状が異なるために測定条件も個々に異なり、測定条件の調整に多大な時間や労力を要する。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、カンチレバー等の移動体を固定した固定部材の3次元の位置を、移動体の微動に比べて相対的に動かない基体部又は粗動部に固定された移動量検出手段で直接検出することで、固定部材、ひいては移動体の位置を簡易にかつ正確に測定できる3次元微動測定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
【0008】
本発明の3次元微動測定装置は、カンチレバーをなす移動体と、前記移動体が固定される固定部材と、
前記固定部材が固定され、該固定部材を介して前記移動体を3次元に微動可能な3次元微動部と、前記3次元微動部よりも大きい移動量で粗動可能な3次元粗動部であって、前記3次元微動部が固定され、該3次元微動部を3次元のうち重力方向である一軸に粗動させる第1の3次元粗動部と、第1の3次元粗動部が粗動する軸と異なる二軸が粗動する第2の3次元粗動部とからなる3次元粗動部と、前記第1及び第2の3次元粗動部が固定される基体部と、
前記第1の3次元粗動部に固定されて前記固定部材の移動量を検出する移動量検出手段と、を備えた3次元微動測定装置であって、前記3次元微動部と前記第2の3次元粗動部とは前記基体部の別個の位置にそれぞれ対向するように固定され、前記第2の3次元粗動部の前記移動体側には測定対象物を配置する試料ステージが設置されてなる。
この3次元微動測定装置によれば、移動体が固定された固定部材の3次元の位置を、移動体の微動に比べて相対的に動かない3次元粗動部に固定された移動量検出手段で直接検出することで、固定部材、ひいては移動体の位置を簡易にかつ正確に測定できる。
又、移動体の反対側に配置される対象物を3次元粗動部を介して載置した場合、対象物が重いほど、対象物の自重により3次元の粗動位置が大きくドリフトする傾向にある。そこで、3次元粗動部の一軸を対象物と反対側の固定部材側に取り付けることで、上記ドリフトの影響を抑えて3次元粗動させることができる。
【0009】
発明の3次元微動測定装置において、前記基体部は側面から見てコ字状であってもよい。
発明の3次元微動測定装置において、前記3次元粗動部は、粗動制御回路によって独立にその位置を制御されてもよい。
本発明の3次元微動測定装置において、前記移動量検出手段は、前記固定部材の検出面を検出してもよい。
この3次元微動測定装置によれば、例えば検出面として高精度な回折格子(体積型ホログラム格子)を用い、これを回折レーザ光を検出する移動量検出手段で検出することで、移動体の位置をより正確に測定できる。
【0010】
前記検出面が3次元の各軸に配置され、前記移動量検出手段は前記各軸の検出面毎に設けられて対応する検出面を検出してもよい。
この3次元微動測定装置によれば、3次元の各軸の変位を移動量検出手段で検出することで、移動体の位置をより正確に測定できる。
【0011】
前記移動量検出手段が非接触型センサであると、移動体の位置をより正確に測定できる。
【0012】
前記非接触型センサが静電容量、光干渉又は光回折を使用したセンサであると、移動体の位置をより正確に測定できる。
【0016】
前記移動体の3次元の位置のうち少なくとも一軸の位置の制御を、前記移動量検出手段が検出した前記移動量に基づいたクローズドループ制御により行うための制御部を備えてもよい。
この3次元微動測定装置によれば、移動体の3次元の位置を正確に制御して高精度に位置決めしたり、移動量を制御しながら、移動体の位置を測定できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カンチレバー等の移動体を固定した固定部材の3次元の位置を、移動体の微動に比べて相対的に動かない基体部又は粗動部に固定された移動量検出手段で直接検出することで、固定部材、ひいては移動体の位置を簡易にかつ正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る3次元微動測定装置(走査型プローブ顕微鏡)のブロック図である。
図2図1のA−A線に沿う断面図である。
図3】参考例に係る3次元微動測定装置のブロック図である。
図4本発明の別の実施形態に係る3次元微動測定装置の変形例を示すブロック図である。
図5】別の参考例に係る3次元微動測定装置のブロック図である。
図6】従来の圧電素子の変位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明の第1の実施形態に係る3次元微動測定装置(走査型プローブ顕微鏡)200Aのブロック図であり、図2図1のA−A線に沿う断面図である。
図1において、走査型プローブ顕微鏡200Aは、先端に探針を保持するカンチレバー1と、カンチレバー取り付け部(斜面ブロック)101と、それぞれx、y、z方向に走査する圧電素子を積層した3軸の圧電素子から構成される円筒型のスキャナ111と、走査型プローブ顕微鏡の各構成部分を支持するフレームをなす基体部13と、非接触型センサ130と、非接触型センサ130からの検出信号を受ける検出面132と、3次元粗動部122と、3次元粗動部122上に設置された試料ステージ102と、全体を制御するプローブ顕微鏡コントローラー24及び制御部(コンピュータ)40等とを備える。
コンピュータ40は、走査型プローブ顕微鏡200Aの動作を制御するための制御基板、CPU(中央制御処理装置)、ROM、RAM等の記憶手段、インターフェース、操作部等を有する。
カンチレバー1、カンチレバー取り付け部101、スキャナ111、非接触型センサ130がそれぞれ特許請求の範囲の「移動体」、「固定部材」、「3次元微動部」、「移動量検出手段」に相当する。
【0021】
基体部13は、側面から見て略コ字状に形成され、コ字の下側部材の上面に3次元粗動部122が固定され、3次元粗動部122上に設置された試料ステージ102の所定位置に試料300が載置されている。
一方、コ字状の基体部13のコ字の上側部材の下面にスキャナ111が固定され、スキャナ111の下面にカンチレバー取り付け部101が固定されている。カンチレバー取り付け部101は先端面が斜面状の略四角柱をなし、当該先端面にカンチレバー1が片持ち式に取り付けられている。カンチレバー1は試料300に対向し、カンチレバー1の先端の探針が試料300に接触又は近接して試料300の表面形状や表面の特性を検出するようになっている。
【0022】
そして、基体部13の上方に配置されたレーザ光源30からレーザ光が照射され、レーザ光はダイクロックミラー31を介して基体部13の上側部材を貫通する照射孔13hから下方に向かってカンチレバー1の背面に照射される。カンチレバー1から反射されたレーザ光は、ミラー32で反射されて変位検出器5で検出される。カンチレバー1の上下(z方向)の移動量は、ダイクロックミラー31へ入射されるレーザの光路の変化(入射位置)に反映される。従って、この入射位置からカンチレバー1の変位量が変位検出器5で検出されることになる。
このように、第1の実施形態の走査型プローブ顕微鏡200Aは、カンチレバー1に照射した光の反射光の位置ずれをカンチレバー1(探針)の変位として検出する光テコ方式を採用している。又、走査型プローブ顕微鏡200Aは、カンチレバー1が取り付けられたカンチレバー取り付け部101をスキャンして測定を行うレバースキャン方式の走査型プローブ顕微鏡となっている。
【0023】
プローブ顕微鏡コントローラー24は、後述するZ制御回路20、微動制御回路(X,Y,Z出力アンプ)22、粗動制御回路23、センサコントローラ25を有する。プローブ顕微鏡コントローラー24はコンピュータ40に接続されてデータの高速通信が可能である。コンピュータ40は、プローブ顕微鏡コントローラー24内の回路の動作条件を制御し、測定されたデータを取り込み制御し、表面形状測定、表面物性測定、周波数・振動特性、フォースカーブ測定、などを実現する。
【0024】
スキャナ111は、カンチレバー取り付け部101(及びカンチレバー1)を3次元に移動(微動)させるものであり、カンチレバー取り付け部101をそれぞれxy(試料300の平面)方向に走査する2つの(2軸の)圧電素子111a、111bと、カンチレバー取り付け部101をz(高さ)方向に走査する圧電素子111cと、を備えた3軸の圧電素子から構成されている。
圧電素子は、電界を印加すると結晶がひずみ、外力で結晶を強制的にひずませると電界が発生する素子であり、圧電素子としては、セラミックスの一種であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)を一般に使用することができるがこれに限られない。
圧電素子111a〜111cは微動制御回路22に接続され、微動制御回路22に所定の制御信号(電圧)を出力することで、圧電素子111a、111bをそれぞれxy方向へ駆動し、圧電素子111cをz方向へ駆動する。
【0025】
3次元粗動部122は、試料ステージ102を大まかに3次元移動させて試料300をカンチレバー1に近付けるものであり、xステージ122a、yステージ122b、zステージ122cを有する。3次元粗動部122は、例えばステップモータによりネジ機構を駆動して動作し、粗動制御回路23によって制御される。
【0026】
又、図2に示すように、カンチレバー取り付け部101は、先端面が斜面状の略四角柱をなしている。そして、非接触型センサ130は、3つの非接触型センサ130a〜130cからなり、非接触型センサ130aはカンチレバー取り付け部101の背面(基体部13)からカンチレバー取り付け部101に向き、非接触型センサ130b、130cはカンチレバー取り付け部101の両側面(図1の紙面方向)からカンチレバー取り付け部101に向いている。
一方、各非接触型センサ130a〜130cにそれぞれ対向するカンチレバー取り付け部101の3つの面に、それぞれ検出面132a〜132cが設置されている。
なお、非接触型センサ130aは、基体部13のコ字の上下に伸びる部材の内面に取り付けられて水平方向に延びるステー135aの先端に取り付けられている。又、非接触型センサ130b、130cは、それぞれ基体部13の上面に取り付けられて下方に伸びるステー135b、135cの先端に取り付けられている。
【0027】
そして、第1の実施形態では、検出面132a〜132cが回折格子(体積型ホログラム格子)であり、非接触型センサ130a〜130cは対応するレーザ変位計であり、検出面132a〜132cも「移動量検出手段」の一部を構成する。
このレーザ変位計は、体積型ホログラム格子で回折されるレーザ光を検出するフォトディテクタ、及びレーザ光をS偏光とP偏光に分ける偏光ビームスプリッタ、ミラー等を有し、体積型ホログラム格子が一方向(1軸)に移動したときにレーザ光の干渉状態が変わり、格子1ピッチに応じて干渉光が明暗することにより、1軸での変位を検出する。
従って、例えば図2に示すように、検出面132a、132b、132cを、それぞれx、y、z方向を検出する向きに設置することで、後述するように各非接触型センサ130a〜130cにてカンチレバー取り付け部101のx、y、z方向の変位を検出するようになっている。
【0028】
次に、走査型プローブ顕微鏡200Aの動作について説明する。
まず、3次元粗動部122を動作させ、試料ステージ102を大まかに3次元移動させて試料300をカンチレバー1(探針)に近付ける。さらに、スキャナ111をxy方向に適宜移動させてカンチレバー1と試料300の位置関係を調整し、試料300の任意の場所を測定する。そして、スキャナ111の圧電素子111cにより、カンチレバー1は試料300に接触する位置までz方向に送られる。
このようにして、試料300にカンチレバー1の探針を近接又は接触させ、このとき、上記した光テコ方式によってカンチレバー1の変位を検出し、スキャナ111によりカンチレバー1の高さ(z)方向の変位量を一定に保ちながら試料300の表面(xy)を走査する。そして、カンチレバー1の変位量を一定に保つための制御信号を物性情報として、試料300の表面の物性を測定する。
なお、光テコ方式で変位を検出する際、変位検出器5の電気信号の振幅は、交流−直流変換機構6により直流のレベル信号に変換され、さらにZ制御回路20へ入力される。Z制御回路20は、カンチレバー1の高さ(z)方向の変位量を一定に保つように、微動制御回路22のz信号部へ制御信号を伝達し、z信号部は圧電素子111cをz方向へ駆動する制御信号(電圧)を出力する。すなわち、試料300と探針の間に働く原子間力によって生じるカンチレバー1の高さ(z)方向の変位を上述の機構で検出し、当該変位が一定になるように圧電素子111cを変位させる。そして、この状態で、微動制御回路22にてxy方向に圧電素子111a、111bを変位させて試料300のスキャンを行い、表面の形状や物性値をマッピングする。
【0029】
ここで、第1の実施形態においては、走査型プローブ顕微鏡200Aでのカンチレバー1による試料300の表面の形状や物性の測定の際、カンチレバー取り付け部101の3次元の位置を、非接触型センサ130a〜130cで直接検出している。非接触型センサ130a〜130cの検出信号は、表面の形状や物性値をマッピングする際の実際の3次元の変位量としてセンサコントローラ25を経て制御部40に逐次取得される。そして、制御部40に取得された上記検出信号(情報)に基づいて、試料表面の3次元形状等の再構成を行う。このため、これらの3次元形状等のデータは、従来の走査型プローブ顕微鏡が圧電素子111a、111b、111cへの印加電圧に基づいて取得する3次元変位量に比べ、他方向からの干渉を受けない精度の高いものとなる。
よって、カンチレバー取り付け部101に固定されたカンチレバー1の位置、及びカンチレバー1に対向してカンチレバー1に接触又は近接する試料300の位置を正確に測定できるので、カンチレバー1により試料300をスキャンする際の位置決め精度、及び試料300の表面の形状や物性値の測定精度や解像度が向上する。
また、X‐Y平面内の動き(位置)は、非接触型センサ130a〜130cの検出信号に基づくクローズドループ制御を採用し、より高精度な位置決めを行いながらの移動を行わせることもできる。これにより、X‐Y平面内の位置決め誤差をより少なくした制御ができる。
なお、本実施形態で通常の表面形状を観察する場合、Z方向の動き(位置)については、上記検出信号(センサの値)を直接読み込むだけで十分なので、クローズドループ制御を行わなくてもよい。しかしながら、フォースカーブ測定のようにZ方向の移動量を制御する必要がある場合は、非接触型センサ130cのZ方向の検出信号に基づいたクローズドループ制御を行ってもよい。
クローズドループ制御は、プローブ顕微鏡コントローラー24及び制御部40で行うことができる。又、クローズドループ制御は、上記検出信号のデータを制御部40にフィードバックする公知のフィードバック制御である。
【0030】
又、本実施形態では、検出面132a〜132cが3次元の各軸に配置され、非接触型センサ130a〜130cが各軸の検出面132a〜132c毎に設けられて対応する検出面を検出する。このため、検出面132a〜132cが設置されたカンチレバー取り付け部101の3次元の位置をより正確に測定することができる。
【0031】
図3は参考例に係る走査型プローブ顕微鏡200Bのブロック図である。走査型プローブ顕微鏡200Bは、スキャナ111と基体部13との間に3次元粗動部122が介装され、試料ステージ102が基体部13のコ字の上側部材の下面に直接固定されていること、及び非接触型センサ130dの取付構造が異なること以外は、第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡200Aと同一であるので、同一の構成部分に同一符号を付して説明を省略する。
走査型プローブ顕微鏡200Bにおいて、3次元粗動部122とスキャナ111との間に粗動ステージ125が配置され、粗動ステージ125は3次元粗動部122の粗動に伴って3次元変位する。そして、スキャナ111は、粗動ステージ125の下面の一部に固定され、粗動ステージ125のうちスキャナ111が固定されていない面には下方に伸びるステー136が固定されている。さらに、ステー136の先端には、カンチレバー取り付け部101の背面に向く非接触型センサ130dが取り付けられている。
なお、第2の実施形態においては、非接触型センサ130dは1つのみ設置され、カンチレバー取り付け部101のz方向の変位を検出するようになっている。さらに、非接触型センサ130dは静電容量センサであり、検出面として第1の実施形態のような回折格子を非接触型センサ130dに対向するカンチレバー取り付け部101の1つの面(背面)に設置する必要はなく、上記背面がそのまま検出面となっている。
【0032】
ここで、3次元粗動部122上に載置する試料300が重いほど、試料300の自重により、3次元の粗動位置が大きくドリフトする傾向にある。そこで、3次元粗動部122を試料300と反対側のカンチレバー取り付け部101側に取り付けることで、上記ドリフトの影響を抑えて3次元粗動させることができる。
なお、図3の例では、3次元粗動部122の3軸(xステージ122a、yステージ122b、zステージ122c)のすべてをカンチレバー取り付け部101側に取り付けたが、図4の走査型プローブ顕微鏡200Cに示すように、3次元粗動部122の3軸のうち少なくとも1軸をカンチレバー取り付け部101側に取り付けてもよい。特に、試料300の自重によるドリフトは上下(z)方向に顕著であるため、少なくともz軸(zステージ122c)をカンチレバー取り付け部101側に取り付けることが好ましい。この場合、3次元粗動部122の2軸(xステージ122a、yステージ122b)は、試料ステージ102と基体部13との間に介装されることになる。
ここで、走査型プローブ顕微鏡200Cにおいて、3次元粗動部122の2軸(xステージ122a、yステージ122b)が、特許請求の範囲の「第2の3次元粗動部」に相当する。
【0033】
但し、第2の実施形態のように基体部13に3次元粗動部122を固定した場合、非接触型センサ130aを基体部13に固定すると、3次元粗動部122によって大きく変位したスキャナ111上のカンチレバー取り付け部101の位置を検出しなければならず、非接触型センサ130aの計測レンジを超えてしまい、検出が困難になる。そこで、非接触型センサ130aを3次元粗動部122に固定することで、3次元粗動による変位の影響を受けずに、3次元粗動部122に固定されたスキャナ111の微動の変位量を正確に検出することができる。
【0034】
第2の実施形態の走査型プローブ顕微鏡200Bにおいても、第1の実施形態と同様に、カンチレバー取り付け部101に固定されたカンチレバー1の位置、及びカンチレバー1に対向してカンチレバー1に接触又は近接する試料300の位置を正確に測定できるので、カンチレバー1により試料300をスキャンする際の位置決め精度、及び試料300の表面の形状や物性値の測定精度や解像度が向上する。
【0035】
図5は別の参考例に係る走査型プローブ顕微鏡200Dのブロック図である。走査型プローブ顕微鏡200Dは、スキャナ111が試料ステージ102と基体部13との間に介装されていること、及び非接触型センサ130aの取付構造が異なること以外は、第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡200Aと同一であるので、同一の構成部分に同一符号を付して説明を省略する。
このように、本実施形態の走査型プローブ顕微鏡200Dは、試料300を配置した試料ステージ102をスキャンして測定を行うサンプルスキャン方式の走査型プローブ顕微鏡となっている。
又、走査型プローブ顕微鏡200Dにおいて、基体部13のコ字の上下に伸びる部材の内面には、試料ステージ102の背面に向く非接触型センサ130aが取り付けられている。非接触型センサ130aは試料ステージ102のz方向の変位を検出するようになっている。又、非接触型センサ130aは第1の実施形態と同様のレーザ変位計であり、非接触型センサ130aに対向する試料ステージ102の1つの面(背面)に、回折格子からなる検出面132aを設置している。
ここで、走査型プローブ顕微鏡200Dにおいて、試料300、試料ステージ102が、それぞれ特許請求の範囲の「移動体」、「固定部材」に相当する。
【0036】
走査型プローブ顕微鏡200Dは、第1の実施形態と同様に光テコ方式により、カンチレバー1(探針)の変位を検出し、スキャナ111を動作させて試料ステージ102側の高さを制御することで、カンチレバー1の高さ(z)方向の変位量を一定に保ちながら試料300の表面(xy)を走査する。
【0037】
本発明は上記実施形態に限定されない。移動体は、カンチレバーや試料に限定されず、例えば、ICテスターなどに使用するプローバー(圧子)端子、精密加工の刃物(ボール盤のドリル、旋盤のバイト、フライス盤のエンドミル、NC旋盤の刃等)、パッチクランプシステム(マニピュレータ)などで使用するピペットが挙げられる。このうち、プローバーは細すぎてセンサで直接位置を測定することが困難であり、ドリルやエンドミルは回転しているためにセンサで直接位置を測定することが困難である。又、バイトは加工によって摩耗するので、センサで直接位置を測定しても値が不正確となる。ピペットは直径が10μm程度と細く、又、使い捨てタイプで一々付け替えて使用するため、センサで直接位置を測定しようとしても、付け替えの都度、センサの初期位置等の調整が必要になり困難となる。このように、移動体が固定される固定部材を測定することで、上記問題を回避できる。
【0038】
移動量検出手段も上記に限定されず、例えば静電容量、光干渉又は光回折を使用したセンサ、光ファイバと光学干渉計からなる光学式センサ、歪ゲージ等の電気式センサでもよい。但し、静電容量、光干渉又は回折格子を用いたセンサを用いると検出精度が高いので好ましい。但し、非接触型センサ130は特に限定されず、であってもよい。
又、移動量検出手段は、固定部材の少なくとも一方向(一軸)の移動量を検出すればよい。
【0039】
本発明の3次元微動測定装置を走査型プローブ顕微鏡に適用する場合、上記例では、試料とカンチレバーとの間の高さ(z)方向の変位量を一定に保つことで、試料の高さの変位から3次元形状像を測定したが、その他に (ii)共振状態の位相の値から位相像を、(iii)振動振幅の目標値との差により誤差信号像を、(iv)探針試料間の物性地から多機能測定像を測定することもできる。又、その他の周波数・振動特性を測定することもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 移動体(カンチレバー)
13 基体部
101 固定部材(カンチレバー取り付け部)
102 固定部材(試料ステージ)
111 3次元微動部(スキャナ)
122 3次元粗動部
122a、122b 第2の3次元粗動部(xステージ、yステージ)
130、130a〜130d 移動量検出手段
132、132a〜132c 検出面
200A〜200D 3次元微動測定装置(走査型プローブ顕微鏡)
300 移動体(試料)
図1
図2
図3
図4
図5
図6