(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
70at%以上78at%以下のNiと、5at%以上13at%以下のAlと、6.5at%以上17.5at%以下のVと、1at%以上5at%以下のNbと、Ni、Al、V、Nbの合計重量に対して10重量ppm以上1000重量ppm以下のB(ホウ素)と、不可避不純物とからなる合計100%の合金組成を有する金属間化合物合金であって、
前記金属間化合物合金は、母相中に第2相が分散した微細組織を有し、
前記母相及び第2相のそれぞれはNi、Al、V、Nbを含み、かつ、これらの元素の組成比は前記母相と第2相とでは異なり、
第2相のNb濃度は、前記母相のNb濃度よりも高いことを特徴とする金属間化合物合金。
前記希釈領域は、前記基材と前記クラッド層との界面に形成され、前記クラッド層側から前記基材側に近づくほど前記基材の成分の濃度が高くなり前記基材側から前記クラッド層側に近づくほど前記金属間化合物合金の成分の濃度が高くなる領域である請求項4に記載の金属部材。
70at%以上78at%以下のNiと、5at%以上13at%以下のAlと、6.5at%以上17.5at%以下のVと、1at%以上5at%以下のNbと、Ni、Al、V、Nbの合計重量に対して10重量ppm以上1000重量ppm以下のB(ホウ素)と、不可避不純物とからなる金属間化合物粉末をキャリアガスと共に基材に噴射しながら前記基材にレーザ光を照射することによりクラッド層を形成する工程を含み、
前記基材は、前記クラッド層によりコーティングする対象となる基材であり、かつ、Fe系合金又は鋼で形成された部材であり、
前記粉末は、前記レーザ光を受光することにより少なくとも一部が溶融し前記基材上に堆積することを特徴とするクラッド層の製造方法。
前記クラッド層を形成する工程は、前記金属間化合物粉末をキャリアガスと共に基材に噴射しながら前記基材にレーザ光を照射することを複数回重ねて行う工程である請求項6に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の金属間化合物合金は、70at%以上78at%以下のNiと、5at%以上13at%以下のAlと、6.5at%以上17.5at%以下のVと、1at%以上5at%以下のNbと、Ni、Al、V、Nbの合計重量に対して10重量ppm以上1000重量ppm以下のB(ホウ素)と、不可避不純物とからなる合計100%の合金組成を有する金属間化合物合金であって、前記金属間化合物合金は、母相中に第2相が分散した微細組織を有し、第2相のNb濃度は、前記母相のNb濃度よりも高いことを特徴とする。
本発明の金属間化合物合金は、母相のNb濃度が0.1at%以上3at%以下であり、第2相のNb濃度が3at%以上9at%以下である微細組織を有することが好ましい。このため、本発明の金属間化合物合金は高い硬さを有する。このことは、発明者等が行った実験により実証された。
【0009】
本発明は、基材と、基材を被覆するクラッド層とを備え、前記クラッド層が本発明の金属間化合物合金で形成された領域を有する金属部材も提供する。
本発明の金属部材では、熱シールドとなり高い高温硬さ及び高温耐摩耗性を有する金属間化合物合金のクラッド層が基材を被覆するため、本発明の金属部材は高い高温硬さ及び高温耐摩耗性を有することができる。また、基材にFe系合金や鋼など用いることができ、比較的安価な金属部材を提供することができる。また、クラッド層を設けることにより、金属部材を補修することや再生することが可能になる。
本発明の金属部材に含まれる基材又はクラッド層は希釈領域を有することが好ましく、希釈領域は前記金属間化合物合金の成分と基材の成分とを含む領域であることが好ましい。
この希釈領域を介して基材とクラッド層とが強固に接合することができ、クラッド層が基材から剥離することを抑制することができる。
本発明の金属部材に含まれる希釈領域は、基材とクラッド層との界面に形成されることが好ましく、クラッド層側から基材側に近づくほど基材の成分の濃度が高くなり基材側からクラッド層側に近づくほど前記金属間化合物合金の成分の濃度が高くなる領域であることが好ましい。
このことにより、基材とクラッド層とが強固に接合し、金属部材が耐剥離性を有することができる。
【0010】
本発明は、70at%以上78at%以下のNiと、5at%以上13at%以下のAlと、6.5at%以上17.5at%以下のVと、1at%以上5at%以下のNbと、Ni、Al、V、Nbの合計重量に対して10重量ppm以上1000重量ppm以下のB(ホウ素)と、不可避不純物とからなる金属間化合物粉末をキャリアガスと共に基材に噴射しながら前記基材にレーザ光を照射することによりクラッド層を形成する工程を含み、前記粉末は、前記レーザ光を受光することにより溶融(全体が溶融または部分的に溶融)し前記基材上に堆積するクラッド層の製造方法も提供する。
この製造方法により、本発明の金属間化合物合金で形成された領域を有するクラッド層を基材上に形成することができ、基材を耐熱特性に優れたクラッド層で被覆することができる。また、本発明のクラッド層の製造方法により、本発明の金属部材を製造することができる。
本発明の製造方法に含まれるクラッド層を形成する工程は、前記金属間化合物粉末をキャリアガスと共に基材に噴射しながら基材にレーザ光を照射することを複数回重ねて行う工程であることが好ましい。
この製造方法により、金属間化合物粉末を重ねて堆積させることができ、基材上に厚いクラッド層を形成することができる。このため、長期間の摩耗による減肉に耐えるクラッド層を形成することができる。また、高温耐摩耗性に優れた金属部材を製造することができる。また、基材の成分がクラッド層に混入することを抑制することができる。
本発明のクラッド層の製造方法は、クラッド層にレーザ光を照射することによりクラッド層を熱処理する工程をさらに含むことが好ましい。
このことにより、基材内部に余分な熱を与えないでクラッド層を熱処理することができる。従って、クラッド層の熱処理により基材の硬さを低下させることを抑制することができる。また、クラッド層を均質化熱処理することができる。
【0011】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0012】
図1は本実施形態の金属部材の概略断面図であり、
図2は本実施形態の金属部材を製造する方法の説明図である。
本実施形態の金属間化合物合金は、70at%以上78at%以下のNiと、5at%以上13at%以下のAlと、6.5at%以上17.5at%以下のVと、1at%以上5at%以下のNbと、Ni、Al、V、Nbの合計重量に対して10重量ppm以上1000重量ppm以下のB(ホウ素)と、不可避不純物とからなる合計100%の合金組成を有する金属間化合物合金であって、前記金属間化合物合金は、母相中に第2相が分散した微細組織を有し、第2相のNb濃度は、前記母相のNb濃度よりも高いことを特徴とする。
本実施形態の金属部材10は、基材1と、基材1を被覆するクラッド層3とを備え、クラッド層3は、本実施形態の金属間化合物合金で形成された領域を有することを特徴とする。
【0013】
本実施形態のクラッド層の製造方法は、70at%以上78at%以下のNiと、5at%以上13at%以下のAlと、6.5at%以上17.5at%以下のVと、1at%以上5at%以下のNbと、Ni、Al、V、Nbの合計重量に対して10重量ppm以上1000重量ppm以下のB(ホウ素)と、不可避不純物とからなる金属間化合物粉末をキャリアガスと共に基材に噴射しながら前記基材にレーザ光を照射することによりクラッド層を形成する工程を含み、前記粉末は、前記レーザ光を受光することにより溶融し前記基材上に堆積することを特徴とする。
【0014】
本実施形態の金属間化合物合金、又は本実施形態のクラッド層の製造方法に用いる金属間化合物粉末は、70at%以上78at%以下のNiと、5at%以上13at%以下のAlと、6.5at%以上17.5at%以下のVと、1at%以上5at%以下のNbと、Ni、Al、V、Nbの合計重量に対して10重量ppm以上1000重量ppm以下のB(ホウ素)と、不可避不純物とからなる合金組成を有する。
前記合金組成のNi含有量は、71at%以上77at%以下であってもよく、73at%以上76at%以下であってもよい。また、Ni含有量は、70、70.5、71、71.5、72、72.5、73、73.5、74、74.5、75、75.5、76、76.5、77、77.5、78at%のいずれか2つの数値の間の範囲であってもよい。
前記合金組成のAl含有量は、7at%以上11at%以下であってもよい。また、Al含有量は、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13at%のいずれか2つの数値の間の範囲であってもよい。
【0015】
前記合金組成のV含有量は、11at%以上15at%以下であってもよい。また、V含有量は、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5at%のいずれか2つの数値の間の範囲であってもよい。
前記合金組成のNb含有量は、1.5at%以上4.5at%以下であってもよい。また、Nb含有量は、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5at%のいずれか2つの数値の間の範囲であってもよい。
【0016】
前記合金組成のB(ホウ素)含有量は、20重量ppm以上500重量ppm以下であってもよい。B含有量は、10、20、30、40、50、70、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000重量ppmのいずれか2つの数値の間の範囲であってもよい。
不可避不純物は、本実施形態の金属間化合物合金に不可避的に含まれる不純物であり、金属間化合物合金の製造に用いる材料に不可避的に含まれる不純物や製造中に金属間化合物合金に不可避的に混入する不純物を含む。また、本実施形態の金属間化合物がレーザメタルデポジション(以下、LMDという)により製造する場合、不可避不純物は不可避的にクラッド層に混入する基材の成分も含む。
【0017】
本実施形態の金属間化合物合金は、母相中に第2相が分散した微細組織を有し、第2相のNb濃度は、母相のNb濃度よりも高い。このことにより、金属間化合物合金は高い硬さを有することができる。
このような微細構造を有する金属間化合物合金は、LMDにより金属間化合物合金のクラッド層を形成することにより製造することができる。また、本実施形態の金属間化合物合金は、実質的に母相と第2相とからなる微細組織を有することができる。
前記微細組織において、母相のNb濃度は0.1at%以上3at%以下であり、第2相のNb濃度は3at%以上9at%以下であってもよい。金属間化合物合金がこのような微細組織を有することにより、金属間化合物合金が高い硬さを有することができる。また、第2相のNb濃度と母相のNb濃度の差は、3at%以上5at%以下であってもよい。また、第2相のNb濃度は4at%以上7at%以下であってもよい。
前記微細組織において、母相のNi濃度は、第2相のNi濃度よりも高くてもよい。また、母相のNi濃度と第2相のNi濃度との差は2.5at%以上であってもよい。
【0018】
本実施形態の金属部材10に含まれるクラッド層3が前記金属間化合物合金で形成された領域を有することができる。このため、クラッド層3が高い高温硬さ及び高温耐摩耗性を有することができ、金属部材10は高い高温硬さ及び高温耐摩耗性を有することができる。また、クラッド層3が高温での摩耗を抑制するため、基材1にFe系合金や鋼など用いることが可能となり、比較的安価な金属部材を提供することができる。また、クラッド層3を設けることにより、金属部材を補修することや再生することが可能になる。
クラッド層3は、基材1の成分が実質的に混入していない堆積領域6を有することができる。また、この堆積領域6が前記金属間化合物合金で形成されてもよい。
本実施形態の金属部材10に含まれるクラッド層3又は基材1は、前記金属間化合物合金の成分と基材1の成分とを含む希釈領域4を有することができる。この希釈領域4により、基材1とクラッド層3とを強固に接合させることができ、クラッド層3が基材1から剥離することを抑制することができる。
希釈領域4は、基材1とクラッド層3との界面に形成され、クラッド層3側から基材1側に近づくほど基材1の成分の濃度が高くなり基材1側からクラッド層3側に近づくほど前記金属間化合物合金の成分の濃度が高くなる領域であってもよい。このことにより、基材1とクラッド層3とが強固に接合し、金属部材10が耐剥離性を有することができる。
クラッド層3の厚さは、例えば、0.8mm以上5mm以下とすることができ、また、1mm以上4mm以下とすることもできる。
クラッド層3は、緻密層であってもよい。また、クラッド層3は気泡を取り込んだ緻密層であってもよい。
【0019】
本実施形態の金属部材10に含まれる基材1は、クラッド層3によりコーティングする対象となる基材であり、例えばFe系合金、鋼などで形成された部材である。Fe系合金、鋼などは、高温になると強度・硬さが極端に低下する。しかし、このような基材1上にクラッド層3を形成することにより、クラッド層3が高温での摩耗から基材1を保護し、金属部材10の高温における耐摩耗性、強度、耐食性、耐酸化性を向上させることができる。
【0020】
本実施形態のクラッド層3は、金属間化合物粉末をキャリアガスと共に基材1に噴射しながら基材1にレーザ光を照射することによりクラッド層3を形成する工程を含み、前記粉末は、前記レーザ光を受光することにより溶融し基材1上に堆積するLMDにより製造することができる。
この製造方法に用いる金属間化合物粉末は、70at%以上78at%以下のNiと、5at%以上13at%以下のAlと、6.5at%以上17.5at%以下のVと、1at%以上5at%以下のNbと、Ni、Al、V、Nbの合計重量に対して10重量ppm以上1000重量ppm以下のB(ホウ素)と、不可避不純物とからなる。このような粉末は、例えば、アトマイズ法により製造することができる。また、金属間化合物粉末の粒径は、125μm以下であってもよい。
【0021】
クラッド層3は、例えば、
図2のように、一定スピードで移動する噴射ノズル7の中心部から基材1に向けてレーザ光を照射し、このレーザ光が照射されているポイントに向けて金属間化合物粉末をキャリアガスと共に噴射することにより形成することができる。噴射した粉末は、レーザ光を受光することにより溶融し基材1上に堆積し、基材1上に溶融プール5が形成される。噴射ノズル7の移動によりこの溶融プール5が急冷され、クラッド層3が形成される。キャリアガスは、例えばアルゴン(Ar)ガスとすることができる。また、キャリアガスは、シールドガスとして機能することができる。このことにより、クラッド層3を形成する際の大気による酸化を抑制することができる。
【0022】
クラッド層3を形成する際、レーザ出力を1kW以上1.6kW以下とし、粉末供給速度を5g/min以上25g/min以下とすることができる。また、レーザ出力を1.6kWとしたとき、粉末供給速度を20g/min以上25g/min以下とすることができる。レーザ出力を1.2kWとしたとき、粉末供給速度を15g/min以上19g/min以下とすることができる。また、レーザ出力を1.0kWとしたとき、粉末供給速度を6g/min以上12g/min以下とすることができる。このことにより、クラッド層3に基板成分が実質的に混入していない堆積領域6を形成することができる。
また、クラッド層3を形成する際、レーザ出力及び粉末供給速度は、クラッド層3に基板成分が実質的に混入していない堆積領域6が形成されるように調整することができる。
【0023】
クラッド層3は、金属間化合物粉末をキャリアガスと共に基材1に噴射しながら基材1にレーザ光を照射することを複数回重ねて行うことにより形成されてもよい。例えば、上述のような方法により基材1上にクラッド層3を形成した後、このクラッド層3上にさらにもう一層上述の方法によりクラッド層3を重ねて形成することができる。このことにより、重ねて形成したクラッド層3が一体化し厚いクラッド層3を形成することができる。
【0024】
上述の方法により形成したクラッド層3にレーザ光を照射することによりクラッド層3を熱処理してもよい。このことにより、基材1の内部に余分な熱を与えないで金属部材10の表層だけを熱処理することができ、クラッド層3の合金組成の不均一性を解消することができる。なお、レーザ光により熱処理する際は、金属間化合物合金粉末は噴射しない。
【0025】
実験
図2に示したようなLMDにより基板上にクラッド層を形成し表2に示した複数の試料を作製した。なお、クラッド層は、長さ:約60mm、幅:約5mm、高さ:約1〜2.5mmのサイズで作製した。
合金粉末には、表1に示したような合金組成を有する金属間化合物合金粉末を用いた。なお、この合金粉末は、アトマイズ法により製造した粉末を125μm以下の粒径に分級したものである。また、キャリアガスにはアルゴン(Ar)ガスを用い、約5L/minで噴射ノズルから噴射させた。また、噴射ノズルの移動速度(溶接速度)は、5mm/sとした。
【0028】
基板には、SUS304(18−20mass%Cr、8−10.5mass%Ni、残Fe)、炭素鋼S50C(0.47−0.53mass%C、0.15−0.35mass%Si、0.6−0.9mass%Mn、残Fe)又はSKD61(0.35−0.42mass%C、0.8−1.2mass%Si、0.25−0.5mass%Mn、4.8−5.5mass%Cr、1−1.5mass%Mo、0.8−1.15mass%V、残Fe)を用いた。
レーザ出力は1.0〜2.0kWとし、粉末供給速度は6.96〜20.9g/minとした。
層数は、単層、2層又は6層とし、2層及び6層の試料は、同じ条件で2回又は6回肉盛して製造した。また、試料No.26は、LMDによりクラッド層を形成した後、クラッド層の一部にレーザを照射することにより熱処理を行った。レーザ熱処理条件は、レーザ出力を600Wとし、ノズル速度を2mm/sとした。
【0029】
No.1〜No.9、No.11〜No.17の試料のクラッド層についてビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験は、クラッド層の断面が現れるように試料を放電加工により切断しバフ研磨又は電解研磨した後、クラッド層の断面に圧子を押し付けることにより測定した。測定結果を
図3〜
図5に示す。なお、No.16、No.17の試料では、測定位置により硬さにバラツキがあったため図には示していない。また、No.10、No.18〜No.20の試料では、放電加工の際にクラッド層が基板から剥離した。
【0030】
レーザ出力を1.2kWとした試料では、粉末供給速度が小さいと硬さは200HV程度であったが、粉末供給速度が大きいNo.9の試料では490HVを超える硬さが測定された。レーザ出力を1.6kWとした試料では、粉末供給速度が小さいと硬さは200HV程度であったが、粉末供給速度が大きいNo.4の試料では400HVを超える硬さが測定された。レーザ出力を2.0kWとした試料では、硬さが200HV程度であり、粉末供給速度が大きいNo.15の試料でも硬さが300HV程度であった。
従って、粉末供給速度が大きいほどクラッド層は硬くなる傾向があることがわかった。しかし、粉末供給速度が大きすぎると、クラッド層が基板から剥離しやすくなることがわかった。
【0031】
クラッド層の硬さが約490HVであったNo.9の試料の断面の光学顕微鏡写真を
図6に示し、クラッド層の硬さが約230HVであったNo.14の試料の断面の光学顕微鏡写真を
図7に示す。No.9の試料では、基板とクラッド層との界面が残っているのに対し、No.14の試料では、基板とクラッド層との界面がほとんど残っていないことがわかった。
【0032】
電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いてNo.9、No.14の試料の断面のライン分析を行った。ライン分析は、
図1に示した一点鎖線A−Aのようにクラッド層の表面付近から基板に至るライン上で行った。No.9の試料の分析結果を
図8に示し、No.14の試料の分析結果を
図9に示す。
No.9の試料では、クラッド層に基板成分であるFe、Crが実質的に含まれていない堆積領域6が形成されていることがわかった。
また、No.9の試料では、基板材料が堆積材料で希釈された希釈領域が堆積領域と基板との界面に形成されていることがわかった。希釈領域の厚さは約0.2mmであった。この希釈領域では、基板側に近づくほど堆積成分であるNi、Al、V、Nb濃度が減少し、クラッド層側に近づくほど基板成分であるFe、Cr濃度が減少することがわかった。このような希釈領域が形成されることにより、基板とクラッド層との密着性は向上すると考えられる。また、No.9の試料のクラッド層では、Nbが不均一に存在することがわかった。
【0033】
No.14の試料では、クラッド層に基板成分であるFe、Crが含まれることがわかった。No.14の試料では、
図2に示したようなLMDによりクラッド層を製造する際に、レーザ光により基板の一部が溶融し溶融プール5において堆積成分と基板成分とが混合しクラッド層が形成されたと考えられる。従って、No.14の試料では、この基板成分の混入によりクラッド層の硬さが低下したと考えられる。
【0034】
No.9の試料のクラッド層の断面(堆積領域)のSEM観察を行った。また、No.9の試料のクラッド層の断面(堆積領域)のEPMAによる元素マッピング及び定量分析を行った。
図10はクラッド層の断面のSEM像であり、
図11はクラッド層の断面の元素マップであり、
図12(a)はクラッド層の断面の二次電子像であり、
図12(b)は(a)に示したポイント1(第2相)、ポイント2(母相)における定量分析の結果を示す表である。
図10〜12からクラッド層は、母相中に第2相が分散した微細組織を有することがわかった。また、
図11のNb元素マップ及び
図12(b)の定量分析結果から第2相のNb濃度は、母相のNb濃度の3.5倍以上であることがわかった。また、第2相のNi濃度は、母相のNi濃度に比べ低いことがわかった。また、この微細組織には、基板成分であるFe及びCrが実質的に含まれておらず、Nb、Niに濃度分布があるが、LMDに用いた金属間化合物合金の合金組成に近い合金組成を有することがわかった。なお、このクラッド層に含まれるFe、Crは不可避不純物である。
No.9の試料のクラッド層は、このような微細組織を有するため大きい硬さを有すると考えられる。また、LMDではレーザ光照射により形成された溶融プールが急冷されてクラッド層が形成されるため、クラッド層はこのような微細組織を有すると考えられる。
【0035】
No.9の試料を1280℃で5時間熱処理し、試料を炉冷した。この熱処理後の試料のクラッド層の断面のSEM観察を行った。また、熱処理後の試料のクラッド層についてビッカース硬さ試験を行った。
図13はクラッド層のSEM写真である。また、クラッド層のビッカース硬さは492HVであった。
図13の写真のように、熱処理後の試料のクラッド層は二重複相組織(初析L1
2相と、L1
2相及びD0
22相の共析組織とからなる微細組織)を有することがわかった。
従って、母相中に第2相が分散した微細組織を有する熱処理前のクラッド層の硬さは、2重複相組織を有する熱処理後のクラッド層の硬さと同等であることがわかった。
【0036】
ビッカース硬さ試験において測定位置により硬さにバラツキがあったNo.16の試料のクラッド層の断面についてエネルギー分散型X線分析(EDS)で点分析を行った。また、No.16と同じLMD条件で2回肉盛をしてクラッド層を形成したNo.21の試料についてもEDS点分析を行った。
図14(a)はNo.16の試料のクラッド層の断面のSEM写真であり、
図14(b)は
図14(a)に示したポイント1〜5における定量分析の結果を示す表である。
図15(a)はNo.21の試料のクラッド層の断面のSEM写真であり、
図15(b)は
図15(a)に示したポイント1〜6における定量分析の結果を示す表である。
【0037】
図14(a)、
図15(a)のSEM写真から、クラッド層は上部に薄いグレーの領域が観察され、下部に濃いグレーの領域が観察された。また、No.16の試料では薄いグレーの領域が狭いのに対し、No.21の試料では薄いグレーの領域が広いことがわかった。また、
図15(a)のSEM写真から、1回目に肉盛した領域と2回目に肉盛した領域との界面はほとんど残っていないため、クラッド層を複数回の肉盛により形成できることがわかった。
図14のポイント2〜5、
図15のポイント6の濃いグレーの領域では基板成分であるFe、Crが多く含まれるため堆積成分と基板成分とが混合した領域であると考えられる。
図14のポイント1、
図15のポイント1〜5の薄いグレーの領域では基板成分であるFe、Crがほとんど含まれておらず、この領域は、LMDで用いた金属間化合物合金粉末の合金組成に近い合金組成を有することがわかった。従って、薄いグレーの領域は、No.9の試料のクラッド層と同じように高い硬さを有する堆積領域と考えられ、濃いグレーの領域は、No.14の試料のクラッド層と同じように比較的低い硬さを有する希釈領域と考えられる。
【0038】
炭素鋼S50Cの基板を用いたNo.22〜No.24の試料の断面についてビッカース硬さ試験を行った。この試験は、クラッド層の表面から直線的に並んだ0.1mm間隔のポイントで行った。試験結果を
図16に示す。なお、表面からの距離が1〜2mmの硬さが800−900HVである領域は、炭素鋼基板の表面がLMDのレーザ光により焼入れされ硬化した層であると考えられる。なお、この領域は炭素鋼であるため高温になると硬さは低下すると考えられる。
粉末供給速度を13.9g/minとしたNo.24の試料では、表面から0.8mmの領域(クラッド層)は450HVを超える硬さを有することがわかった。この領域は、基板成分が実質的に混入していない堆積領域となっていると考えられる。
また、No.22の試料では、表面から0.6mmの領域(クラッド層)の硬さにはバラツキがあることがわかった。また、No.23の試料でも、表面から0.7mmの領域(クラッド層)の硬さにはバラツキがあることがわかった。従って、No.22、No.23の試料のクラッド層では、基板成分が実質的に混入していない堆積領域と希釈領域とが混在していると考えられる。
【0039】
SKD61の基板を用いたNo.25の試料の断面についてビッカース硬さ試験を行った。この試験は、クラッド層の表面から直線的に並んだ0.1mm間隔のポイントで行った。試験結果を
図17に示す。なお、表面からの距離が1.5〜2.7mmの硬さが700−850HVであるの領域は、SKD61基板の表面がLMDのレーザ光により焼入れされ硬化した層であると考えられる。なお、この領域は高温になると硬さは低下すると考えられる。また、熱の影響を受けていないSKD61基板の硬さは約550HV〜600HVである。
No.25の試料ではクラッド層の硬さにバラツキがあることがわかった。従って、No.25の試料のクラッド層では、基板成分が実質的に混入していない堆積領域と希釈領域とが混在していると考えられる。
【0040】
No.26の試料のクラッド層のレーザ熱処理をした部分の断面とレーザ熱処理をしていない部分の断面についてビッカース硬さ試験を行った。この試験は、クラッド層の表面から直線的に並んだ0.1mm間隔のポイントで行った。試験結果を
図18に示す。クラッド層のレーザ熱処理をしていない部分では、硬さにバラツキがあることがわかった。従って、クラッド層のレーザ熱処理をしていない部分では、基板成分が実質的に混入していない堆積領域と希釈領域とが混在していると考えられる。また、クラッド層のレーザ熱処理をした部分では硬さのバラツキが小さくなった。これは、レーザ熱処理により堆積領域と希釈領域とが混ざり合ったためと考えられる。従って、レーザ熱処理によりクラッド層の合金組成の不均一性が解消できることがわかった。
【0041】
No.21の試料について折り曲げ試験を行った。
図19は、折り曲げ試験を行った試料の写真である。折り曲げ試験ではクラッド層は基板から剥離することはなかった。従って、基板とクラッド層との密着性は良好であることがわかった。
図20は、No.16と同じLMD条件にて6回肉盛を行ったNo.27の試料の写真である。この試料では、厚さが約5mmのクラッド層を形成することができた。