【実施例】
【0015】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
化学合成したH−(FPGVG)
5−NH
2、即ち、FPGVGの配列が5回繰り返されたペプチドを対象に、皮膚保湿性、皮膚浸透性、及び、色素の包含放出性を試験した結果を以下に示す。なお、H−(FPGVG)
5−NH
2を、以下、「実施例のペプチド」とも言う。
皮膚保湿性試験及び皮膚浸透性試験では、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングのLabCyte(登録商標) EPI−MODEL 12のヒト3次元培養皮膚(以下、単に「培養皮膚」とも言う)を用いた。
【0016】
≪皮膚保湿性試験≫
皮膚保湿性試験においては、まず、実施例のペプチドを基に、溶媒に蒸留水(以下、「D.W.」として記す)を用いて、0.1w/w%溶液(100gの溶液に対して実施例のペプチドが0.1g含有された溶液、以下、単に「0.1%溶液」とも言う)、及び、1.0w/w%溶液(100gの溶液に対して実施例のペプチドが1.0g含有された溶液、以下、単位、「1.0%溶液」とも言う)を調整した。
【0017】
次に、0.1%溶液、及び、1.0%溶液それぞれについて、200μLの溶液を表面に適用(供給)した培養皮膚を、恒温振盪器によって、32℃で保温して30分間、振盪させ、その後、培養皮膚上の溶液を紙製のウエスでふき取り、32℃の環境下で1時間、乾燥した。上述した培養皮膚の表面に溶液を適用してから1時間の乾燥を終えるまでのサイクルを、3回、繰り返した(合計、3サイクル行った)後、乾燥処理を終えた培養皮膚の重量(以下、「湿重量」とも言う)を測定し、次に、乾燥器によって、培養皮膚を24時間、乾燥させ、培養皮膚の重量(以下、「乾燥重量」とも言う)を計測した。
【0018】
そして、以下の式1によって、培養皮膚内の含水率を求めた。
含水率(%)={(湿重量−乾燥重量)/湿重量}×100 ・・・(式1)
また、0.1%溶液、及び、1.0%溶液と比較するため、実施例のペプチドを含有しないD.W.についても、0.1%溶液、及び、1.0%溶液の培養皮膚に対するのと同様の処理を行い、培養皮膚内の含水率を計測した。
【0019】
培養皮膚内の含水率は、
図1に示すように、D.W.、0.1%溶液、及び、1.0%溶液を適用したそれぞれの場合において、64.8±4.9%、69.9±5.6%、及び、74.6±4.0%となった。
乾燥処理を含め、いかなる処理も行っていない培養皮膚の含水率は、76.3±1.8%であったため、1.0%溶液を適用した培養皮膚は、いかなる処理も行っていない培養皮膚と同レベルの含水率まで回復したことが判明した。従って、実施例のペプチド溶液は、培養皮膚の含水率を維持、又は、増加させる皮膚保湿性があることが明らかになった。
【0020】
≪皮膚浸透性試験≫
皮膚浸透性試験では、まず、培養カップ内に入れられた培養皮膚上に、200μLの実施例のペプチド溶液(1.0%溶液)を載せ、32℃に設定された恒温振盪器内に培養皮膚を収容した。
次に、恒温振盪器に収容してから5分後に、ウエスで培養皮膚上の実施例のペプチド溶液を取り除き、そのウエスを、1.5mLサンプルチューブに入れた。ウエスで実施例のペプチド溶液が拭き取られた培養皮膚は、0.1%TFA+5%CH
3CN溶液と0.1%TFA+95%CH
3CN溶液を1:1の割合で混合した混合溶液(以下、「抽出溶液」とも言う)0.5mLで洗浄され、表面がよく拭かれた後に、1.5mLサンプルチューブに入れられた。なお、「TFA」は、トリフルオロ酢酸を示す。
【0021】
そして、ウエスが入れられたサンプルチューブと、培養皮膚が入れられたサンプルチューブとにそれぞれ、抽出溶液を1.5mL入れ、32℃に保った環境下で、24時間、振盪を行った。
次に、ウエスが入れられたサンプルチューブ、及び、培養皮膚が入れられたサンプルチューブをそれぞれ、1万5千rpmで、15分間、遠心した後、各サンプルチューブ内の上清に含まれる実施例のペプチドの定量を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって行った。
【0022】
ウエスから抽出された実施例のペプチドは、培養皮膚内に浸透しなかったものであり、培養皮膚から抽出された実施例のペプチドは、培養皮膚内に浸透したものであると言えるため、培養皮膚から抽出された実施例のペプチドの量を、培養皮膚内に浸透した実施例のペプチドの量として扱うことができる。
なお、ウエスから抽出された実施例のペプチドの量と、培養皮膚から抽出された実施例のペプチドの量とを合算した量が、最初に、培養皮膚上に与えられた実施例のペプチドの量と等しくなることを確認している。
また、実施例のペプチド溶液を載せた後、培養皮膚を32℃に設定された恒温振盪器内に収容する時間を、15分間、30分間、60分間にそれぞれ延長した場合についても、上述した手順を行うことによって、培養皮膚内に浸透した実施例のペプチドの量を導出した。
【0023】
これらの実験で得た結果を基に、培養皮膚内に浸透する実施例のペプチドの量の時間経過による推移を求めた。その推移を
図2に示す。
実施例のペプチド溶液を培養皮膚に5分間、適用することによって、
図2に示すように、1枚の培養皮膚に浸透した実施例のペプチドの量は、2.1μgになることが確認された。そして、実施例のペプチド溶液を培養皮膚に適用した時間を15分、30分及び60分にしたそれぞれの場合では、1枚の培養皮膚に浸透した実施例のペプチドの量は、約15μgとなり、15分以上の時間の経過による大きな変化はみられなかった。
よって、実施例のペプチド溶液を皮膚に一定時間(例えば、15分間)以上、適用することにより、実施例のペプチドが皮膚に安定的に浸透することが確認された。
【0024】
≪色素の包含放出性試験≫
色素の包含放出性試験においては、まず、実施例のペプチド及び色素それぞれが所定量含有されたペプチド溶液を作製した。そして、作製したペプチド溶液を4℃の環境下で24時間、静置、又は、振盪させた後、40℃で24時間、静置、又は、振盪することによって、ペプチド溶液中の実施例のペプチドに色素を包含させ、次に、ペプチド溶液を40℃の環境下で、3分間、1万rpmで遠心分離し、上清を回収した。
【0025】
回収した上清に対し、所定波長の吸光度を測定し、測定結果を基に、実施例のペプチドに包含された色素量を求めた。
そして、上清が回収されたペプチド溶液の残渣に、1mlの水を加え、40℃で24時間、静置、又は、振盪した後、再び、上清を回収し、回収した上清に対し、所定波長の吸光度を測定し、測定結果を基に、実施例のペプチドから放出された色素量を求めた。実施例のペプチドから放出された色素量を求める手順を、3週間、毎日繰り返し、放出される色素量の累積を調査した。
【0026】
以上の色素の包含放出性試験を、以下の表1に示す各条件で行った結果を、表2及び
図3〜
図7に示す。表2は、各条件において、実施例のペプチドに含有された色素量を示したものである。そして、
図3〜
図7は、実施例のペプチドから放出された色素量の累積を、各条件で比較した結果を示すグラフである。具体的には、
図3が、条件(i)と条件(iii)の色素混入方法の比較、
図4が、条件(i)と条件(iv)の包含させた色素量の比較、
図5が、条件(v)と条件(vi)の静置・振盪の比較、
図6が、条件(i)と条件(ii)の静置・振盪の比較、
図7が、条件(i)と条件(v)のペプチド濃度の比較をそれぞれ示している。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表2に示す結果より、実施例のペプチドは、条件(i)〜条件(vi)のいずれにおいても、94%以上の高包含率で色素を包含することが確認された。
そして、
図3〜
図7に示す結果より、実施例のペプチドは、最短でも、1週間、色素を継続的に放出することが確認できた。
また、実施例のペプチドと、その他の蛋白質との比較を行うため、比較例であるウシ血清アルブミン(BSA)を担体として、上述した手順と同様の手順により、色素の包含放出性の試験を行ったところ、ウシ血清アルブミンは、色素を包含しないことが確認された。従って、色素の包含放出性は、蛋白質に共通して備わっているものでないことが明らかである。
【0030】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。