特許第6738067号(P6738067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6738067電子ビーム発生装置、電子ビーム露光装置、および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738067
(24)【登録日】2020年7月21日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】電子ビーム発生装置、電子ビーム露光装置、および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20200730BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20200730BHJP
   H01J 37/073 20060101ALI20200730BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20200730BHJP
   H01J 1/308 20060101ALI20200730BHJP
   H01J 1/48 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   H01L21/30 541B
   H01L21/30 541W
   H01J37/305 B
   H01J37/073
   G03F7/20 504
   H01J1/308
   H01J1/48
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-37623(P2017-37623)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-142679(P2018-142679A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小島 明
(72)【発明者】
【氏名】宮口 裕
(72)【発明者】
【氏名】池上 尚克
(72)【発明者】
【氏名】江刺 正喜
(72)【発明者】
【氏名】越田 信義
(72)【発明者】
【氏名】須田 隆太郎
【審査官】 植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0243468(US,A1)
【文献】 特開2006−040725(JP,A)
【文献】 特開2007−329220(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/025045(WO,A1)
【文献】 特開2001−332168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面から電子を放出する電子放出部と、
前記電子放出部の前記第1面側に設けられ、前記電子放出部から放出された電子を通過させるグラフェン層と
を備え
前記グラフェン層は、前記電子放出部から放出された電子の回折波を出力する電子ビーム発生装置。
【請求項2】
第1面から電子を放出する電子放出部と、
前記電子放出部の前記第1面側に設けられ、前記電子放出部から放出された電子を通過させるグラフェン層と
を備え
前記グラフェン層における前記電子放出部とは反対側の面に設けられた電極層を更に備える電子ビーム発生装置。
【請求項3】
前記グラフェン層には、前記電子放出部に印加される駆動電圧と、前記電極層に印加される電圧との間の電圧が印加される請求項に記載の電子ビーム発生装置。
【請求項4】
第1面から電子を放出する電子放出部と、
前記電子放出部の前記第1面側に設けられ、前記電子放出部から放出された電子を通過させるグラフェン層と
を備え
前記電子放出部は、
前記電子放出部の前記第1面側に電子を放出する基板と、
前記基板における電子を放出する面上に形成され、前記基板により放出された電子を前記第1面の表面側へと伝搬するナノ結晶層と
を有し、
前記基板は、独立して駆動電圧を印加可能な複数のn型不純物領域を有する電子ビーム発生装置。
【請求項5】
前記基板は、前記複数のn型不純物領域のそれぞれ同士間の少なくとも一部にそれぞれ設けられ、同電位に接続される複数のガード領域を有する請求項に記載の電子ビーム発生装置。
【請求項6】
前記グラフェン層は、単原子層のグラフェンを1または複数重ねて形成される請求項1から5の何れか一項に記載の電子ビーム発生装置。
【請求項7】
前記グラフェン層は、単原子層のグラフェンを1以上10以下の数重ねて形成される請求項に記載の電子ビーム発生装置。
【請求項8】
電子ビーム露光装置であって、
第1面から電子を放出する電子放出部と、前記電子放出部の前記第1面側に設けられ、前記電子放出部から放出された電子を通過させるグラフェン層とを有する電子ビーム発生装置と、
前記電子ビーム発生装置から出力される電子ビームを屈折させる電子レンズと、
前記電子ビームを照射する対象物を載置するステージ部と
を備え、
前記電子ビーム発生装置の前記グラフェン層は、前記電子放出部から放出された電子の複数次の回折波を出力し、
当該電子ビーム露光装置は、
前記電子レンズのレンズ系に干渉しない位置に配置され、前記複数次の回折波のうち、前記対象物に照射される第1回折波とは次数が異なる第2回折波を受光する受光部と、
前記受光部の受光結果を示す信号と、基準信号との比較によって前記対象物に対する前記第1回折波の照射位置のずれを判断し、当該照射位置を調整する位置調整部と
を更に備える電子ビーム露光装置
【請求項9】
第1面から電子を放出する電子放出部を形成する段階と、
前記電子放出部の前記第1面側に、前記電子放出部から放出された電子を通過させるグラフェン層を貼り付ける段階と
を備え
前記グラフェン層は、前記電子放出部から放出された電子の回折波を出力する電子ビーム発生装置の製造方法。
【請求項10】
第1面から電子を放出する電子放出部を形成する段階と、
前記電子放出部の前記第1面側に、前記電子放出部から放出された電子を通過させるグラフェン層を貼り付ける段階と
前記グラフェン層における前記電子放出部とは反対側の面に電極層を設ける段階と、
を備える電子ビーム発生装置の製造方法。
【請求項11】
第1面から電子を放出する電子放出部を形成する段階と、
前記電子放出部の前記第1面側に、前記電子放出部から放出された電子を通過させるグラフェン層を貼り付ける段階と
を備え
前記電子放出部は、
前記電子放出部の前記第1面側に電子を放出する基板と、
前記基板における電子を放出する面上に形成され、前記基板により放出された電子を前記第1面の表面側へと伝搬するナノ結晶層と
を有し、
前記基板は、独立して駆動電圧を印加可能な複数のn型不純物領域を有する電子ビーム発生装置の製造方法。
【請求項12】
前記グラフェン層を貼り付ける段階において、前記電子放出部の前記第1面側にグラフェンを転写する請求項9から11の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム発生装置、電子ビーム露光装置、および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細パターンが設けられる半導体集積回路は、電子ビーム露光装置を用い、パターンデータに応じて電子ビームを半導体基板に直接描画して当該微細パターンを形成していた(例えば、特許文献1および2参照)。
特許文献1 特開2007−329220号公報
特許文献2 特開平9−245708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、描画するパターンの微細化と、半導体ウェハの大口径化が進むことにより、電子ビーム露光装置のスループットが低下していた。例えば、描画すべき画素数が30年程度で2万倍程度に増加し、1枚の半導体ウェハを10時間以上かけて描画する場合も生じていた。そこで、複数の電子ビームを用いることで、スループットを改善することが考えられていた。即ち、複数の電子ビームを効率よく、また、高精度に出力できる電子ビーム発生源が望まれていた。また、このような電子ビーム発生源を、簡便な方法で作製できることが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、第1面から電子を放出する電子放出部と、電子放出部の第1面側に設けられ、電子放出部から放出された電子を通過させるグラフェン層とを備える電子ビーム発生装置および電子ビーム発生装置の製造方法を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様においては、第1の態様の電子ビーム発生装置と、電子ビーム発生装置から出力される電子ビームを屈折させる電子レンズと、電子ビームを照射する対象物を載置するステージ部とを備える電子ビーム露光装置を提供する。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の構成例を示す。
図2】本実施形態に係るグラフェン層120の構成例を示す。
図3】本実施形態に係る電子ビーム発生装置100のエミッション効率の一例を示す。
図4】本実施形態に係る電子ビーム発生装置100のダイオード電流およびエミッション電流の一例を示す。
図5】比較対象の試料Aの放出電子エネルギー分布の一例を示す。
図6】本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の放出電子エネルギー分布の一例を示す。
図7】本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の変形例を示す。
図8】本実施形態に係る電子ビーム発生装置100を形成する製造フローの一例を示す。
図9】本実施形態に係る電子ビーム露光装置1000の構成例を半導体ウェハ30と共に示す。
図10】本実施形態に係る電子ビーム照射装置40の構成例を半導体ウェハ30と共に示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の構成例を示す。電子ビーム発生装置100は、外部から電圧が印加されることにより電子ビームを発生して放出する。電子ビーム発生装置100は、電子放出部から放出される電子を、グラフェン層を通過させてから放出して、放出する電子ビームの放出角分散を低減させる。図1は、+Z方向に電子ビームを放出する電子ビーム発生装置100の、XZ面と略平行な面における断面図の一例を示す。電子ビーム発生装置100は、電子放出部110と、グラフェン層120と、電極層130と、を備える。
【0010】
電子放出部110は、第1面から電子を放出する。ここで、図1は、XY平面と略平行な面を第1面の例とした。本実施形態において、電子放出部110がナノ結晶を有する例を説明する。なお、電子放出部110は、ナノ結晶を有する例に限定されることはない。電子放出部110は、平面上に形成され、電子ビーム源として機能するものであればよい。電子放出部110は、基板10およびナノ結晶層20を有する。
【0011】
基板10は、電子放出部110の第1面側に電子を放出する。基板10は、例えば、n型半導体および金属等の導電性基板である。基板10は、電圧が印加されることにより、ナノ結晶層20に電子を放出する。基板10は、図1におけるXY平面と略平行な面から+Z方向に向けて、即ち、ナノ結晶層20に向けて電子を放出する。なお、基板10は、略一定の電位となる電極としての機能を有してよい。
【0012】
ナノ結晶層20は、基板10における電子を放出する面上に形成され、基板10により放出された電子を電子放出部110の第1面の表面側へと伝搬する。ナノ結晶層20は、基板10上において+Z方向に積層されてよい。ナノ結晶層20は、例えば、ナノ結晶シリコン22を有する。ナノ結晶シリコン22は、電子トンネル障壁として機能する表面酸化膜24を形成し、当該ナノ結晶シリコン22が複数並ぶことにより、電子トンネル障壁を接続した列が形成される。
【0013】
このような電子トンネル障壁の列は、当該障壁に電圧を印加することで、当該障壁を通過させる電子を、例えば数個の単位といった極微量な単位で制御することができる。したがって、電子放出部110は、ナノ結晶層20を有することで、電子の放出量を精密に、かつ、再現性よく制御することができる。ナノ結晶層20の厚さは、数百nmから数μm程度でよい。ナノ結晶層20の厚さは、1μmから2μm程度が好ましい。
【0014】
グラフェン層120は、電子放出部110の第1面側に設けられ、電子放出部110から放出された電子を通過させる。グラフェン層120は、電子放出部110上に形成される。グラフェン層120は、例えば、電子放出部110上に転写されて形成される。グラフェン層120は、数原子層程度に形成されることが望ましい。グラフェン層120は、単原子層に形成されることがより望ましい。グラフェン層120は、単原子層のグラフェンを1または複数重ねて形成されてよい。グラフェン層120は、例えば、単原子層のグラフェンを1以上10以下の数重ねて形成される。
【0015】
層状のグラフェンを複数重ねる場合、当該層状のグラフェン毎に、電子放出部110上にそれぞれ転写されてグラフェン層120が形成されてよい。図1は、グラフェン層120が単層グラフェンを2層有する例を示す。なお、このように層状のグラフェンを複数重ねて接触させた場合、グラフェン間に電位障壁が発生することがある。そこで、グラフェンの各層は、当該電位障壁を打ち消す程度の電圧が印加されてよい。
【0016】
図1は、2層のグラフェンのうち、電子放出部110から離間している側のグラフェンに電圧V01が印加され、電子放出部110に隣接する側のグラフェンに電圧V02が印加される例を示す。これにより、2層のグラフェンの間にはV01−V02の電位差が電位障壁を低減させるように印加される。なお、電位障壁は、例えば、0.1から0.2V程度である。2つのグラフェンの間に印加される電位差V01−V02の絶対値は、当該2つのグラフェンの間に生じる電位障壁の最大値の絶対値よりも大きい値にすることが望ましい。
【0017】
電極層130は、グラフェン層120における電子放出部110とは反対側の面に設けられる。電極層130は、金属等の導電性材料を含んでよい。また、電極層130は、LaB6等の仕事関数の低い材料を有してもよい。また、電極層130は、グラフェン層120自身であってもよい。なお、グラフェン層120が複数の単層グラフェンを有する場合、電子放出部110から最も離間して配置される単層グラフェンが、電極層130として機能してよい。
【0018】
図1は、電極層130がXY平面と略平行な面に形成された例を示す。電子ビーム発生装置100は、電極層130および基板10の間に閾値Vth以上の電圧が印加されることにより、電子ビームを+Z方向に向けて放出する。電極層130は、電極パッド132を有する。
【0019】
電極パッド132は、外部から基板10よりも大きい電圧が印加される。電極パッド132に電圧が印加されることに応じて、電極層130および電極層130が設けられるグラフェン層120が、略一定の電位となる。図1は、電極パッド132に電圧V01が印加される例を示す。
【0020】
以上の本実施形態に係る電子ビーム発生装置100は、電子放出部110が発生した弾道電子を、グラフェン層120を介して放出する。ここで、グラフェン層120は、電子放出部110から放出された電子の回折波を出力するので、電子ビーム発生装置100は、放出角分散を低減させた電子ビームを出力することができる。このような弾道電子の回折波を出力させるグラフェン層120について、次に説明する。
【0021】
図2は、本実施形態に係るグラフェン層120の構成例を示す。図2は、グラフェン層120が第1グラフェン層122および第2グラフェン層124を有する例を示す。第2グラフェン層124には電極層の電圧V01が、印加されてよい。また、グラフェン層120には、電子放出部110に印加される駆動電圧と、電極層130に印加される電圧との間の電圧が印加されてよい。即ち、図1で説明したように、第1グラフェン層122には電圧V02が印加されてよい。
【0022】
図2は、第1グラフェン層122および第2グラフェン層124がそれぞれ単層のグラフェンを有し、それぞれのグラフェン層の6員環を模式的に示した例を示す。グラフェンの6員環の原子格子間隔は、0.5nm程度である。したがって、電子放出部110が、略0.5nm程度の波長の電子波を有する弾道電子を発生することにより、グラフェン層120は、回折格子のように機能し、弾道電子を回折することができる。
【0023】
例えば、電子放出部110がナノシリコンを有する場合、弾道電子および準弾道電子のエネルギーは、5eVから10eV程度となり、電子波の波長は0.5nm程度以下となる。したがって、電子ビーム発生装置100は、弾道電子をグラフェン層120に通過させることにより、効率よく強い回折効果を得ることができる。例えば、弾道電子が第1グラフェン層122に入力すると、複数の次数の回折波が、当該第1グラフェン層122を通過して放出される。即ち、電子ビーム発生装置100は、放出する電子ビームの指向性を向上させ、放出角分散を低減させることができる。
【0024】
以上のように、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100は、複数の次数の回折波を、電子ビームとしてそれぞれ出力することができる。したがって、例えば、電子ビーム発生装置100が放出する複数時の回折波のうち、n次の第1回折波を対象物に照射して露光に用い、第1回折波とは次数の異なるm次の第2回折波を用いて第1回折波の露光位置をアライメントすることができる。これに代えて、電子ビーム発生装置100が放出する複数時の回折波のうち、n次の第1回折波を対象物に照射して露光に用い、第1回折波とは放出角が異なる−n次の第2回折波を用いて第1回折波の露光位置をアライメントしてもよい。
【0025】
ここで、露光位置のアライメントは、第1回折波の露光位置とは異なる位置に設けられたアライメントマーカに第2回折波を照射し、発生する反射電子および/または2次電子を検出することで、実行されてよい。また、第1回折波の露光する方向に対応するように、アライメントマーカ列が設けられ、第2回折波の照射による反射電子および/または2次電子を検出強度が略一定に保たれるように、露光動作を制御してよい。このように、電子ビーム発生装置100を用いることで、アライメント動作を実行させつつ、露光動作を実行することができるので、より正確な微細パターンを形成できる。
【0026】
また、電子ビーム発生装置100は、例えば、面放出型の電子放出部110を備えてもよい。この場合、電子放出部110は、1つが直径略5nm程度の点電子源の集まりとなるので、電子ビーム発生装置100は、グラフェン層120の回折格子が回折した点列を対象物に照射することになる。したがって、電子ビーム発生装置100は、複数の次数の回折波を対象物の結像面に照射することにより、微細パターンの複数のコピーを対象物に描画することができる。
【0027】
また、例えば、弾道電子が第1グラフェン層122および第2グラフェン層124といった複数のグラフェン層に入力すると、当該複数のグラフェン層を通過して放出される複数の次数の回折波を選択することができる。即ち、多層の回折格子により、複数の次数の回折波のうち特定の角度の回折波を選択して放出することができる。図2は、グラフェン層120が弾道電子26を複数の方向に回折する例を示す。例えば、第1面に対して略垂直方向に放出される電子ビームを第1電子ビーム32とした。また、第1電子ビーム32に対してX方向に予め定められた角度をそれぞれ有する電子ビームを第2電子ビーム34とした。また、第2電子ビーム34とは回折方向が逆の、次数の符号が反転する電子ビームを第3電子ビーム36とした。
【0028】
なお、第1グラフェン層122および第2グラフェン層124は、電子放出部110上において、それぞれ予め定められた特定の方位に積層されるものとする。これにより、電子ビーム発生装置100は、放出する電子ビームの放出角分散を低減させた複数の次数の電子ビームを放出することができる。
【0029】
図3は、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100のエミッション効率の一例を示す。図3は、横軸が印加電圧、縦軸が電流密度およびエミッション効率である。なお、横軸の印加電圧は、基板10に印加される駆動電圧と、電極層130に印加される電圧との電位差を示す。例えば、基板10に−5Vが印加され、電極層130に0Vが印加された場合、電子ビーム発生装置100の印加電圧は5Vとなる。
【0030】
また、基板10および電極層130にそれぞれ電圧が印加された場合に、基板10および電極層130の間に流れる電流の電流密度をダイオード電流とした。また、基板10および電極層130にそれぞれ電圧が印加された場合に、電子ビーム発生装置100から出力する電子ビームを電流密度に換算した値をエミッション電流とした。図3より、印加電圧が略5Vを超えることにより、電子ビームの放出が開始されることがわかる。
【0031】
また、エミッション電流をダイオード電流で割った値を、エミッション効率とした。図3は、実際に作製した3つの試料に対して、ダイオード電流およびエミッション電流を測定し、エミッション効率を評価した結果を示す。「試料A」は、電子放出部110にグラフェン層120を設けずに、直接電極層130を積層させた比較対象の電子ビーム発生装置である。「試料A」は、3つの試料のうち、印加電圧の上昇に伴って、ダイオード電流が最も高くなり、エミッション電流が最も低くなったので、エミッション効率は最も低い値となった。
【0032】
「試料B」は、グラフェン層120が単層グラフェンを5層有する電子ビーム発生装置100である。即ち、試料Bは、電子放出部110から数えて5層目の単層グラフェンが、電極層130として機能する、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の例を示す。このような構成であっても、エミッション効率は、試料Aと比較して数倍から十数倍に向上することがわかる。
【0033】
ここで、電子放出部110の表面は、ナノ結晶層20等を形成させるので、微細な凹凸が形成されることがある。試料Aは、このような表面形状の電子放出部110上にスパッタおよびメッキ等により金属を積層させて電極層130を形成させるので、電子放出部110および電極層130の間等に、欠陥等が生じやすくなる。
【0034】
これに対して、本実施形態に係るグラフェン層120は、電子放出部110とは異なる銅基板等に単層のグラフェンを形成させてから、電子放出部110に転写することができる。即ち、欠陥がより少ない状態のグラフェン層120を形成してから電子放出部110上に積層させることができるので、電子放出部110およびグラフェン層120の間等に欠陥等が発生することを防止できる。したがって、電子放出部110上にグラフェン層120を設けただけの構成であっても、エミッション効率を向上させることができる。
【0035】
また、「試料C」は、グラフェン層120が単層グラフェン層を1層有し、当該グラフェン層120に電極層130が設けられた、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の例を示す。試料Cのエミッション効率は、試料Aと比較して、数十倍に向上することがわかる。
【0036】
試料Cは、試料Bと同様に、グラフェン層120を転写するので、電子放出部110およびグラフェン層120の間等に生じる欠陥等を低減できる。また、試料Cは、グラフェン層120に金属等による低抵抗かつ高導電率の電極層130を形成するので、グラフェン層120全体を略一定の電圧に保ち、効率的に電子ビームを放出することができる。
【0037】
なお、当該電極層130を金属に代えて、LaB6等にすることで、低い仕事関数の電子ビームを放出できる。即ち、より低い印加電圧で電子ビームを放出することができる。この場合、LaB6等は、金属と比較して高抵抗かつ低導電率なので、金属膜と比較して同程度またはより薄い膜で形成されることが望ましい。
【0038】
図4は、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100のダイオード電流およびエミッション電流の一例を示す。図4は、横軸が印加電圧の逆数、縦軸が電流密度を電圧の2乗で割った値の自然対数である。図4は、ファウラー・ノルドハイム・プロットと呼ばれ、ナノシリコン中の強電界効果に基づくトンネル伝導を評価する図である。図4において、測定結果のプロットが直線状になっていれば、ナノシリコン層において電子のトンネル伝導が生じていることを示す。作製した試料は、いずれも、印加電圧が略5V程度を超えることにより、電子のトンネル伝導が生じていることが図4からわかる。
【0039】
図5は、比較対象の試料Aの放出電子エネルギー分布の一例を示す。図5は、横軸が放出電子のエネルギー、縦軸が放出電子の数である。図5は、印加電圧を7V、8V、および9Vとした場合に試料Aから放出される電子ビームのエネルギー分布をそれぞれ示す。印加電圧が7Vおよび8Vの場合、印加電圧が9Vの結果と比較して、電子ビームの放出量が少ないことがわかる。また、印加電圧が7Vから9Vに増加するに伴い、放出電子エネルギー分布の幅が徐々に広くなっていくことがわかる。
【0040】
図6は、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の放出電子エネルギー分布の一例を示す。図6は、図3で説明した試料Bの放出電子エネルギー分布の一例を示す。図6は、横軸が放出電子のエネルギー、縦軸が放出電子の数である。図6は、印加電圧を7V、8V、および9Vとした場合に電子ビーム発生装置100から放出される電子ビームのエネルギー分布をそれぞれ示す。
【0041】
図6より、印加電圧が7Vから9Vに増加しても、放出電子エネルギー分布の幅がほとんど変化せず、安定な電子ビームが放出されていることがわかる。また、図5および図6より、電子ビーム発生装置100の放出電子エネルギー分布の幅は、試料Bの放出電子エネルギー分布の幅と比較して狭く、エネルギー分散を低減させた電子ビームを放出できることがわかる。
【0042】
図7は、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の変形例を示す。本変形例の電子ビーム発生装置100において、図1に示された本実施形態に係る電子ビーム発生装置100の動作と略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。本変形例の電子ビーム発生装置100は、基板10の一部の領域に駆動電圧を供給する電圧供給回路140を更に備え、当該一部の領域から弾道電子を放出させるか否かを制御する。
【0043】
図7は、グラフェン層120が単層グラフェンを1層有し、当該グラフェン層120に電極層130が形成された例を示す。また、本変形例の電子ビーム発生装置100は、電子放出部110の基板10が複数の領域に分割される。基板10は、例えば、独立して駆動電圧を印加可能な複数のn型不純物領域12を有する。図7は、基板10がn型不純物領域12a、n型不純物領域12b、n型不純物領域12c、およびn型不純物領域12dの4つの領域を有する例を示す。
【0044】
また、基板10は、複数のn型不純物領域12のそれぞれ同士間の少なくとも一部にそれぞれ設けられ、同電位に接続される複数のガード領域14を有する。即ち、基板10において、n型不純物領域12のそれぞれは、ガード領域14に囲まれ、他のn型不純物領域12とは電気的に絶縁される。ガード領域14は、n型不純物領域でよい。ガード領域14は、略一定のガード電圧Vがそれぞれ印加されてよい。ここで、ガード電圧Vは、電子放出部110が電子の放出を開始する閾値電圧Vthよりも低い電圧でよい。
【0045】
このように、n型不純物領域12が、他のn型不純物領域12とは別個に駆動電圧を受け取ることができるので、電子放出部110は、駆動電圧を受け取ったn型不純物領域12から、対応する弾道電子をそれぞれ放出することができる。即ち、本変形例の電子ビーム発生装置100は、n型不純物領域12の数に応じた数の電子ビームを放出することができる。また、本変形例の電子ビーム発生装置100は、n型不純物領域12に供給される駆動電圧に応じて、対応する電子ビームをそれぞれ放出することができる。図7は、電子ビーム発生装置100が4つの電子ビームを放出することができる例を示す。
【0046】
電圧供給回路140は、基板10に設けられたn型不純物領域12に駆動電圧を供給する電圧供給素子142を有する。電圧供給素子142は、n型不純物領域12に対応して、n型不純物領域12の数と少なくとも同じ数だけ基板10に設けられてよい。電圧供給素子142は、外部の制御信号等に応じて、駆動電圧を対応するn型不純物領域12に供給してよい。
【0047】
例えば、電圧供給素子142は、FETでよい。この場合、電圧供給素子142は、ゲート端子に入力する制御信号に応じて、ソース端子に接続された駆動電圧Vを、ドレイン端子に接続されたn型不純物領域12に供給する。なお、駆動電圧Vは、電極層130に供給される電圧V01よりも低電圧で、略5V以上の電位差を有する電圧でよい。図7は、電圧供給素子142aから電圧供給素子142dの4つの素子が、ゲート端子にそれぞれ入力する制御信号に応じて、対応するn型不純物領域12にそれぞれ駆動電圧Vを供給する例を示す。
【0048】
以上のように、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100は、駆動電圧Vが印加されたn型不純物領域12から弾道電子を放出させ、複数の電子ビームの放出を別個独立に制御することができる。また、電子ビーム発生装置100は、グラフェン層120を通過させてから電子ビームを照射することができるので、それぞれの電子ビームを効率よく放出することができ、また、それぞれの電子ビームの放出角分散を低減させることができる。
【0049】
以上のように、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100は、複数の電子ビームを効率よく、また、高精度に出力できる。また、電子ビーム発生装置100は、簡便な構成なので、簡便な方法で作製できる。このような電子ビーム発生装置100の製造フローについて次に述べる。
【0050】
図8は、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100を形成する製造フローの一例を示す。まず、第1面から電子を放出する電子放出部110を形成する(S810)。一例として、基板10上にナノ結晶層20を形成させることで、電子放出部110を形成してよい。ナノ結晶層20は、自己組織的な電気化学的製法により、ナノ結晶シリコン22および表面酸化膜24が基板10上に配列される。ナノ結晶シリコン22は、略5nm間隔に形成されてよい。
【0051】
なお、電子放出部110は、ナノ結晶層20に代えて、放出する電子をトンネリングさせる絶縁膜が形成されてもよい。このような絶縁膜は、放出する電子の量をトンネルする確率によって調整することができるので、当該絶縁膜の材質、膜厚および絶縁膜に印加する電圧によって、電子の放出量を制御することができる。
【0052】
次に、グラフェン層120を形成する(S820)。グラフェン層120は、電子放出部110とは別個に形成されてよい。グラフェン層120は、例えば、銅等の成長用基板の上に単原子層程度に形成される。グラフェン層120は、レジスト等が塗布された後に、成長用基板と分離されてよい。グラフェン層120は、エッチング等により、成長用基板と分離されてよい。
【0053】
次に、電子放出部110の第1面側に、電子放出部110から放出された電子を通過させるグラフェン層120を貼り付ける(S830)。なお、グラフェン層120を貼り付ける段階S830において、電子放出部110の第1面側にグラフェン層120を転写してよい。グラフェン層120およびナノ結晶層20は、ファンデルワールス力によって固定されるので、転写することによって電子放出部110にグラフェン層120を貼り付けることができる。
【0054】
なお、グラフェン層120に電圧を印加する場合は、当該グラフェン層120に電極パッドを形成してよい。また、ここで、グラフェン層120のレジストを除去してよい。また、グラフェン単層を複数層形成する場合は、グラフェン層120の転写を繰り返して積層させてよい。
【0055】
次に、グラフェン層120の電子放出部110とは反対側の面に電極層130を形成する(S840)。電極層130は、金属等をスパッタおよびメッキ等により堆積させて形成してよい。電極層130としてグラフェンを用いる場合は、グラフェン層を転写して電極層130を形成してよい。そして、電極層130に電極パッド132を形成することで、電子ビーム発生装置100を形成することができる。
【0056】
以上のように、複数の電子ビームを効率よく、また、高精度に出力できる電子ビーム発生装置100を、簡便な方法で作製できる。このような電子ビーム発生装置100を用いることにより、複数の電子ビームを対象物に照射して露光する電子ビーム露光装置を容易に実現できる。このような電子ビーム露光装置について、次に説明する。
【0057】
図9は、本実施形態に係る電子ビーム露光装置1000の構成例を半導体ウェハ30と共に示す。電子ビーム露光装置1000は、複数の電子ビームを照射する電子ビーム照射装置40を備える。電子ビーム露光装置1000は、当該電子ビーム照射装置40を用いて半導体ウェハ30等に微細パターンを描画する。
【0058】
ここで半導体ウェハ30は、シリコン、シリコンカーバイド、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、窒化ガリウム、ガリウム燐、またはインジウム燐等の半導体材料の結晶を加工して形成された板状の基板でよい。電子ビーム露光装置1000は、電子ビーム照射装置40と、ステージ部50と、記憶部60と、制御部70と、通信部80と、計算機部90とを備える。
【0059】
電子ビーム照射装置40は、複数の電子ビームを照射する電子カラムである。電子ビーム照射装置40は、半導体ウェハ30の表面に複数の電子ビームを照射して予め定められた描画パターンを描画する。電子ビーム照射装置40は後に説明する。
【0060】
ステージ部50は、電子ビームを照射する対象物を載置する。図中において、当該対象物を半導体ウェハ30とした例を示す。ステージ部50は、載置した半導体ウェハ30を水平方向に移動させ、電子ビーム照射装置40によって半導体ウェハ30の一方の面に予め定められた微細パターンを予め定められた位置に描画させる。
【0061】
ステージ部50は、例えば、ステージの水平平面を移動するXYステージを有する。また、ステージ部50は、予め定められた回転軸を中心として回転移動するθステージを有してよい。また、ステージ部50は、ステージの水平位置を調整するチルトステージを更に有してよい。また、ステージ部50は、半導体ウェハ30を垂直方向に移動させ、半導体ウェハ30および電子ビーム照射装置40の間の距離を調節するZステージを更に有してよい。
【0062】
記憶部60は、電子ビーム照射装置40が描画する描画パターン情報を記憶する。ここで、描画パターン情報は、半導体ウェハ30の一方の面上の位置情報、および電子ビームを照射するか否かの情報等でよい。記憶部60は、予め定められた描画パターン情報を予め記憶してよい。
【0063】
制御部70は、電子ビーム照射装置40および記憶部60にそれぞれ接続され、記憶部60に記憶された描画パターン情報に応じて、電子ビーム照射装置40に複数の電子ビームを出力させる制御信号を送信する。また、制御部70は、ステージ部50にそれぞれ接続され、記憶部60に記憶された描画パターン情報に応じて、ステージ部50を移動させる制御信号を送信してよい。また、制御部70は、通信部80を介して受け取った指示信号に応じて、電子ビーム照射装置40および/またはステージ部50に制御信号を送信してよい。
【0064】
通信部80は、制御部70と計算機部90とを接続する。通信部80は、汎用または専用のインターフェイスを有して、制御部70と計算機部90とを接続して通信させてよい。通信部80は、Ethernet(登録商標)、USB、Serial RapidIO等の汎用の高速シリアルインターフェースまたはパラレルインターフェースを用いてよい。また、通信部80は、無線で制御部70と計算機部90とを接続してよい。
【0065】
計算機部90は、制御部70に電子ビーム照射装置40および/またはステージ部50を動作させる指示信号を送信する。計算機部90は、電子ビーム露光装置1000を動作させる動作プログラムを実行して、当該動作プログラムに応じて指示信号を送信してよい。また、計算機部90は、ユーザの指示を入力させる入力デバイスを有し、ユーザの指示に応じて指示信号を送信してよい。計算機部90は、パーソナルコンピュータまたはサーバマシンでよい。
【0066】
図10は、本実施形態に係る電子ビーム照射装置40の構成例を半導体ウェハ30と共に示す。図10は、電子ビーム照射装置40の縦断面の構成例を示す。電子ビーム照射装置40は、電子ビーム発生装置100と、加速電極230と、電子レンズ240とを備える。
【0067】
電子ビーム発生装置100は、制御信号に応じて、複数の電子ビームを発生させる。電子ビーム発生装置100は、図7で説明したように、電子ビームを発生させる領域が放出面に複数配列された面電子ビーム源である。電子ビーム発生装置100は、当該電子ビームを発生させる領域が、放出面にマトリクス状に配列されてよく、これに代えて、面電子ビーム源の中心に対して同心円状に配置されてもよい。
【0068】
電子ビーム発生装置100の電圧供給回路140は、制御部70から制御信号を受け取り、描画パターン情報に応じて、対応するn型不純物領域12に駆動電圧を供給する。これにより、電子ビーム発生装置100は、描画パターン情報に応じた電子ビームを出力させる。
【0069】
加速電極230は、電子ビーム発生装置100の電子ビームを出力する側に備わり、電子ビーム発生装置100の電子ビームを出力させる電極よりも高い電圧が印加され、当該電子ビームを加速する。加速電極230は、電子ビーム発生装置100が電子ビームを発生する領域にそれぞれ対応する複数の貫通孔が形成され、複数の電子ビームをそれぞれ通過させる。加速電極230は、電子ビーム発生装置100に対応して、複数の貫通孔がマトリクス状に配列されてよく、これに代えて、同心円状に配置されてもよい。加速電極230は、略一定の電圧が印加される。
【0070】
電子レンズ240は、電子ビーム発生装置100から出力される電子ビームを屈折させる。電子レンズ240は、電子ビーム発生装置100から出力される複数の電子ビームによる描画パターンを予め定められた倍率に縮小して、対象物である半導体ウェハ30に照射する。例えば、電子レンズ240は、複数の電子ビームが描画する描画パターンを1/100以下に縮小する。電子レンズ240は、コイル部242と、レンズ部244と、収束部246とを有する。
【0071】
コイル部242は、複数の電子ビームのXY方向の偏向を制御する。即ち、コイル部242は、半導体ウェハ30の電子ビームが照射される表面における当該電子ビームのビーム形状を制御する。コイル部242は、電子ビーム照射装置40のX軸またはY軸と、半導体ウェハ30の表面上のX軸またはY軸との対応を補正するローテーションコイルでよい。また、コイル部242は、半導体ウェハ30の表面上のビーム径のXおよびY方向の振幅を補正してもよい。
【0072】
レンズ部244は、半導体ウェハ30の表面上に複数の電子ビームを結像させる。レンズ部244は、テレセントリックレンズ系を構成してよく、電子ビーム発生装置100の対物レンズとして機能する。
【0073】
収束部246は、加速電界および/または減速電界を複数の電子ビームに印加する。収束部246は、複数の電子ビームの太さおよび束を絞って収束させて、予め定められたエネルギーの電子ビームを対象物である半導体ウェハ30に照射する。
【0074】
以上の本実施形態に係る電子ビーム照射装置40は、面電子ビーム源等の複数の電子ビームを発生させる電子ビーム発生装置100を有し、1つの電子カラムから複数の電子ビームを試料に照射してスループットを向上させる。従来、このような複数の電子ビームを発生させる電子ビーム発生装置100を製造することは困難であったが、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100は、以上の説明のように、半導体製造プロセス等の製造工程により、簡便に製造することができる。
【0075】
また、電子ビーム発生装置100は、複数の方向に回折波を放出することができるので、露光用の電子ビームの照射位置のアライメントを、回折波を用いて実行することができる。図10は、電子ビーム照射装置40が受光部300および位置調整部310を更に備えることで、このようなアライメントを実行する例を示す。
【0076】
この場合、電子ビーム発生装置100のグラフェン層120は、電子放出部110から放出された電子の複数次の回折波を出力する。即ち、電子ビーム発生装置100は、少なくとも、半導体ウェハ30の方向と、半導体ウェハ30とは異なる方向とに、それぞれ異なる次数の回折波を放出する。ここで、対象物である半導体ウェハ30に照射される回折波を、第1回折波とする。
【0077】
受光部300は、複数次の回折波のうち、第1回折波とは次数が異なる第2回折波を受光する。受光部300は、電子レンズ240のレンズ系に干渉しない位置に配置されることが望ましい。
【0078】
位置調整部310は、受光部300の受光結果に基づいて、対象物に対する第1回折波の照射位置を調整する。位置調整部310は、予め定められた基準信号と、受光部300の受光信号とを比較することにより、第1回折波の照射位置のズレを判断してよい。ここで、予め定められた基準信号は、第1回折波が正しい照射位置に調整された場合に、受光部300が第2回折波を受光した信号を予め測定した結果でよい。
【0079】
これにより、位置調整部310は、照射位置のズレに応じた調整量を判断することができる。位置調整部310は、照射位置の調整量を制御部70に送信してよい。これに代えて、位置調整部310は、通信部80を介して、計算機部90に調整量を送信してよい。制御部70または計算機部90は、このような調整量を照射位置のオフセットとして加味することにより、第1回折波の照射位置をより正確に調整することができる。
【0080】
なお、図10は、電子ビーム発生装置100から放出される一の電子ビームの回折波を受光部300が受光する例を示したが、これに限定されることはない。受光部300は、電子ビーム発生装置100から放出される複数の電子ビームの複数の回折波を受光して、複数の電子ビームの照射位置をアライメントしてよい。
【0081】
また、図10は、受光部300が電子ビーム照射装置40の電子カラムの内部に配置される例を示したが、これに限定されることはない。受光部300は、電子カラムの外部に設けられ、第2回折波を受光してよい。また、受光部300は、第2回折波を直接受光しなくてもよい。例えば、対象物にアライメントマーク等が形成されている場合、受光部300は、当該アライメントマークに第2回折波が照射して発生する反射波または2次電子等を検出してもよい。
【0082】
以上のように、本実施形態に係る電子ビーム発生装置100は、複数次数の回折波を放出することができるので、電子ビーム露光装置1000は、露光動作を実行しつつ、露光位置のアライメントを実行できる。
【0083】
以上の本発明の様々な実施形態は、フローチャート及びブロック図を参照して記載されてよい。フローチャート及びブロック図におけるブロックは、(1)オペレーションが実行されるプロセスの段階又は(2)オペレーションを実行する役割を持つ装置の「部」として表現されてよい。特定の段階及び「部」が、専用回路、コンピュータ可読記憶媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、及び/又はコンピュータ可読記憶媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。
【0084】
特定の段階及び「部」が、専用回路、コンピュータ可読記憶媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、及び/又はコンピュータ可読記憶媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。なお、専用回路は、デジタル及び/又はアナログハードウェア回路を含んでよく、集積回路(IC)及び/又はディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、及びプログラマブルロジックアレイ(PLA)等のような、論理積、論理和、排他的論理和、否定論理積、否定論理和、及び他の論理演算、フリップフロップ、レジスタ、並びにメモリエレメントを含む、再構成可能なハードウェア回路を含んでよい。
【0085】
コンピュータ可読記憶媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよい。これにより、当該有形なデバイスに格納される命令を有するコンピュータ可読記憶媒体は、フローチャート又はブロック図で指定されたオペレーションを実行するための手段を作成すべく実行され得る命令を含む、製品を備えることになる。
【0086】
コンピュータ可読記憶媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。コンピュータ可読記憶媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROM又はフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(登録商標)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0087】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ等を含んでよい。また、コンピュータ可読命令は、Smalltalk、JAVA(登録商標)、C++等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、及び「C」プログラミング言語又は同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1又は複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコード又はオブジェクトコードを含んでよい。
【0088】
コンピュータ可読命令は、ローカルに又はローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサ、又はプログラマブル回路に提供されてよい。これにより、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサ、又はプログラマブル回路は、フローチャート又はブロック図で指定されたオペレーションを実行するための手段を生成するために、当該コンピュータ可読命令を実行できる。なお、プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0089】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0090】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0091】
10 基板、12 n型不純物領域、14 ガード領域、20 ナノ結晶層、22 ナノ結晶シリコン、24 表面酸化膜、26 弾道電子、30 半導体ウェハ、32 第1電子ビーム、34 第2電子ビーム、36 第3電子ビーム、40 電子ビーム照射装置、50 ステージ部、60 記憶部、70 制御部、80 通信部、90 計算機部、100 電子ビーム発生装置、110 電子放出部、120 グラフェン層、122 第1グラフェン層、124 第2グラフェン層、130 電極層、132 電極パッド、140 電圧供給回路、142 電圧供給素子、230 加速電極、240 電子レンズ、242 コイル部、244 レンズ部、246 収束部、300 受光部、310 位置調整部、1000 電子ビーム露光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10