特許第6738758号(P6738758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 古河AS株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6738758-電線接続構造体およびその製造方法 図000005
  • 特許6738758-電線接続構造体およびその製造方法 図000006
  • 特許6738758-電線接続構造体およびその製造方法 図000007
  • 特許6738758-電線接続構造体およびその製造方法 図000008
  • 特許6738758-電線接続構造体およびその製造方法 図000009
  • 特許6738758-電線接続構造体およびその製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738758
(24)【登録日】2020年7月22日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】電線接続構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/58 20060101AFI20200730BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20200730BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   H01R4/58 A
   H01R4/02 C
   H01R43/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-70749(P2017-70749)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-174060(P2018-174060A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2018年8月7日
【審判番号】不服2019-16296(P2019-16296/J1)
【審判請求日】2019年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】川田 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】橘 昭頼
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祥
【合議体】
【審判長】 大町 真義
【審判官】 田村 嘉章
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−113946(JP,A)
【文献】 特開2015−22880(JP,A)
【文献】 特開2007−305314(JP,A)
【文献】 特開2004−179484(JP,A)
【文献】 特開2017−2367(JP,A)
【文献】 特開2016−225159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 3/00 - 3/08
H01R 4/58 - 4/72
H01R 43/00 - 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記アルミニウム系導体を露出させた導体露出部を有する被覆電線と、
前記導体露出部と導電可能に接続される接続部材とで構成され、
前記接続部材が、アルミニウム系材料または銅系材料からなる、端子または導体接続部をもつ電線であり、
前記導体露出部が、前記端子または前記導体接続部と共に電線接続構造を形成してなる電線接続構造体であって、
前記アルミニウム系導体が、Al−Mg−Si系合金であり、
前記Al−Mg−Si系合金が、マグネシウム(Mg)を0.10〜1.00質量%、ケイ素(Si)を0.10〜1.20質量%、鉄(Fe)を0.10〜1.40質量%、チタン(Ti)を0.00〜1.50質量%、ホウ素(B)を0.00〜0.30質量%、銅(Cu)を0.00〜1.00質量%、銀(Ag)を0.00〜0.50質量%、金(Au)を0.00〜0.50質量%、マンガン(Mn)を0.00〜1.00質量%、クロム(Cr)を0.00〜1.00質量%、ジルコニウム(Zr)を0.00〜0.50質量%、ハフニウム(Hf)を0.00〜0.50質量%、バナジウム(V)を0.00〜0.50質量%、スカンジウム(Sc)を0.00〜0.50質量%、コバルト(Co)を0.00〜0.50質量%およびニッケル(Ni)を0.00〜0.50質量%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
前記導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、30μm以上50μm以下であり、
前記電線接続構造を形成する前記導体露出部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、前記導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の17〜50%であることを特徴とする電線接続構造体。
【請求項2】
アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部を有する被覆電線を準備し、
前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥くことにより、前記被覆電線に前記アルミニウム系導体が露出された導体露出部を形成し、
形成した前記導体露出部に、当該導体露出部と導電可能に接続するための接続部材を重ね合わせ、次いで、
前記導体露出部と前記接続部材を重ね合わせた状態で超音波接合することによって一体化した電線接続構造を形成し、
前記アルミニウム系導体が、Al−Mg−Si系合金であり、
前記Al−Mg−Si系合金が、マグネシウム(Mg)を0.10〜1.00質量%、ケイ素(Si)を0.10〜1.20質量%、鉄(Fe)を0.10〜1.40質量%、チタン(Ti)を0.00〜1.50質量%、ホウ素(B)を0.00〜0.30質量%、銅(Cu)を0.00〜1.00質量%、銀(Ag)を0.00〜0.50質量%、金(Au)を0.00〜0.50質量%、マンガン(Mn)を0.00〜1.00質量%、クロム(Cr)を0.00〜1.00質量%、ジルコニウム(Zr)を0.00〜0.50質量%、ハフニウム(Hf)を0.00〜0.50質量%、バナジウム(V)を0.00〜0.50質量%、スカンジウム(Sc)を0.00〜0.50質量%、コバルト(Co)を0.00〜0.50質量%およびニッケル(Ni)を0.00〜0.50質量%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
前記導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、30μm以上50μm以下であり、
前記電線接続構造を形成する前記導体露出部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、前記導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の17〜50%であることを特徴とする電線接続構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記アルミニウム系導体を露出させた導体露出部を有する被覆電線の導体露出部を、アルミニウム系材料または銅系材料からなる、端子または電線の導体接続部に導電可能に接続した電線接続構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電線と端子、あるいは電線同士を電気接続するために相互連結することによって形成される電線接続構造体は、通常、電線の導体として、銅または銅合金からなる銅系導体が用いられるが、軽量化等の観点から、最近では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系導体が用いられる検討が行われるようになってきた。この場合、アルミニウム系導体の導体露出部に端子が圧着接続される。
【0003】
しかしながら、アルミニウム系導体は、銅系導体と比較して強度が劣っているため、特に圧着等により端子とアルミニウム系導体の導体露出部とを接続させて電線接続構造体を形成した場合、電線接続構造体を形成する導体露出部が変形しやすいため断面積の減少量が大きくなり、その結果、電線接続構造体の強度が著しく低下する傾向がある。このため、例えば、自動車(特にエンジンルーム)内のように高温でかつ振動が繰り返し発生するような長期間苛酷な使用環境下に、アルミニウム系導体の導体露出部で形成した電線接続構造体を晒し続けると、振動等によって電線接続構造体が破壊されやすくなり、さらには、導体露出部に端子を組み付ける際に作業者が誤って電線を引っ張ってしまうと、電線接続構造体が容易に破壊するおそれもあった。
【0004】
従来のジョイント端子と被覆電線のジョイント構造(接続構造体)としては、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1によれば、接続構造体のジョイント端子がオープンバレル型の端子であり、2本の被覆電線における各導体露出部を互いに圧着接続する圧着部に加締め片を有し、この加締め片を各導体露出部の方向へ折り返して、各導体露出部をまとめて加締めることで、導体露出部同士を互いに導電可能に接続することができるとしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された接続構造体は、加締め片によって両導体露出部を加締めて圧着接続した一般的な構成を開示しているにすぎず、被覆電線の導体の材質、強度、結晶粒径については何ら検討がなされていない。特に、被覆電線の導体として、アルミニウム系導体を用いた場合に、自動車(特にエンジンルーム)内のように高温でかつ振動が繰り返し発生するような長期間苛酷な使用環境下に、アルミニウム系導体の導体露出部で形成した電線接続構造体を晒し続けると、導体露出部の強度が著しく低下し、その結果、電気接続構造体を形成する導電露出部同士の導電性を長期間にわたって確保することが難しくなる他、振動や外力等の作用によっては電線の破断も生じやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−129275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、アルミニウム系導体の導体露出部の強度が高く、さらには、当該導体露出部が苛酷な使用環境下に晒されても強度の低下を抑制して、優れた耐久性を具備する電線接続構造体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題に対して鋭意検討を行った結果、アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部と、アルミニウム系導体を露出させた導体露出部とを有する被覆電線において、導体露出部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径を、導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径に対し、適正範囲の割合で小さくすることにより、アルミニウム系導体の導体露出部を、結晶粒径の微細化によって強度を向上させることができると共に、アルミニウム系導体の導体露出部が苛酷な使用環境下に晒されても強度の低下が有効に抑制されて、優れた耐久性を具備する電線接続構造体を提供できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部、および、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いで前記アルミニウム系導体を露出させた導体露出部を有する被覆電線と、前記導体露出部と導電可能に接続される接続部材とで構成され、前記接続部材が、アルミニウム系材料または銅系材料からなる、端子または導体接続部をもつ電線であり、前記導体露出部が、前記端子または前記導体接続部と共に電線接続構造を形成してなる電線接続構造体であって、前記電線接続構造を形成する前記導体露出部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、前記導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の2〜80%であることを特徴とする電線接続構造体。
(2)前記電線接続構造を形成する前記導体露出部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、前記導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の2〜50%であることを特徴とする、上記(1)記載の電線接続構造体。
(3)アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部を有する被覆電線を準備し、前記絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥くことにより、前記被覆電線に前記アルミニウム系導体が露出された導体露出部を形成し、形成した前記導体露出部に、当該導体露出部と導電可能に接続するための接続部材を重ね合わせ、次いで、前記導体露出部と前記接続部材を重ね合わせた状態で超音波接合によって一体化した電線接続構造を形成し、前記電線接続構造を形成する前記導体露出部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、前記導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の2〜80%であることを特徴とする電線接続構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部、および、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いでアルミニウム系導体を露出させた導体露出部を有する被覆電線と、当該導体露出部と導電可能に接続される接続部材とで構成され、接続部材が、アルミニウム系材料または銅系材料からなる、端子または導体接続部をもつ電線であり、導体露出部が、端子または導体接続部と共に電線接続構造を形成し、当該電線接続構造を形成する導体露出部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の2〜80%の範囲であることにより、アルミニウム系導体の導体露出部の引張強度が上昇し、さらには、アルミニウム系導体の導体露出部が熱衝撃試験等により苛酷な使用環境下に晒されても引張強度の低下を有効に抑制することができる結果、優れた耐久性を具備する電線接続構造体を提供することができる。また、被覆電線の導体露出部に超音波を印加すると、導体露出部と、この導体露出部に導電可能に接続される接続部材とから構成される電線接続構造が形成されると同時に、導体露出部の結晶粒微細化も達成される。この結晶粒微細化により、ホール・ペッチ(Hall-Petch)の関係式に基づき、アルミニウム系導体の導体露出部の引張強度を上昇させることができる。また、導体被覆部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径に対する導体露出部におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の比を一定の範囲に制御することにより、アルミニウム系導体の導体露出部が苛酷な使用環境下に晒されても引張強度の低下を抑制できる優れた耐久性を示す電線接続構造体を提供することができる。このようなアルミニウム系導体の導体露出部の引張強度が高く、かつ優れた耐久性を示す電線接続構造体の使用により、長期間にわたるアルミニウム系導体の導体露出部と接続部材との導電性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に従う第1実施形態である電線接続構造体の斜視図である。
図2図2は、本発明に従う第2実施形態である電線接続構造体の斜視図である。
図3図3は、本発明に従う第3実施形態である電線接続構造体の斜視図である。
図4図4は、本発明に従う第4実施形態である電線接続構造体の斜視図である。
図5図5は、実施例2で作製した電線接続構造体において、被覆電線の導体露出部の結晶粒組織を光学顕微鏡で観察したときの写真である。
図6図6は、比較例2で作製した電線接続構造体において、被覆電線の導体露出部の結晶粒組織を光学顕微鏡で観察したときの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に従う実施形態を、図面を参照しながら以下で説明する。図1は、第1実施形態の電線接続構造体を斜視図で示したものである。図示の電線接続構造体10は、導体被覆部2および導体露出部4を有する被覆電線1と、アルミニウム系材料からなる導体接続部5を有する接続部材3とから構成されている。被覆電線1の導体露出部4と、接続部材3の導体接続部5とを超音波接合することにより、電線接続構造6が形成されている。導体接続部5には、アルミニウム系材料が使用されているが、銅系材料も同様に使用することができる。
【0013】
また、以下において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(電線接続構造体)
本発明の電線接続構造体10は、アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部2、および、アルミニウム系導体を露出させた導体露出部4を有する被覆電線1と、接続部材3と、被覆電線1と接続部材3とが一体化して形成された電線接続構造6とで構成され、電線接続構造6を構成する導体露出部4におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、導体被覆部2におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の2〜80%の範囲である。電線接続構造体10を構成する各要素については、以下の通りであり、このような電線接続構造体10は、アルミニウム系導体の導体露出部4の引張強度が高く、さらには、アルミニウム系導体の導体露出部4が苛酷な使用環境下に晒されても、引張強度の低下を有効に抑制できる結果、耐久性に優れている。
【0015】
(被覆電線)
本発明で使用される被覆電線1は、アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部2と、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いでアルミニウム系導体を露出させた導体露出部4を有する。被覆電線1は、例えば、アルミニウム系材料からなる複数の素線を束ねて構成されたアルミニウム系導体が絶縁被覆で被覆された1本の被覆電線であってもよく、あるいは、このような被覆電線を束ねて構成された複数の被覆電線であってもよい。また、複数の被覆電線は、少なくとも1本の被覆電線がアルミニウム導体を有していれば、銅系導体を有する被覆電線と、アルミニウム系導体を有する被覆電線とを束ねて構成してもよく、アルミニウム系導体を有する被覆電線のみを束ねて構成してもよい。アルミニウム系導体は、所定の断面積となるように、素線を撚って構成されることが好ましいが、この形態に限定されるものではなく、単線で構成されていてもよい。
【0016】
アルミニウム系導体は、特に限定されるものではないが、例えば、純アルミニウム(Al)、アルミニウム−マンガン系合金(Al−Mn系合金)、アルミニウム−マグネシウム系合金(Al−Mg系合金)、アルミニウム−マグネシウム−ケイ素系合金(Al−Mg−Si系合金)、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム系合金(Al−Zn−Mg系合金)、アルミニウム−銅−マグネシウム系合金(Al−Cu−Mg合金)等のアルミニウム合金を用いることができる。より高い強度が付与される観点から、アルミニウム合金であることが好ましい。
【0017】
このようなアルミニウムまたはアルミニウム合金として、例えば、JIS H 4100:2015の規格における合金番号1050、1060、1070、1100または1200の純アルミニウム、合金番号3003または3203のAl−Mn系合金、合金番号5052、5454、5083または5086のAl−Mg系合金、合金番号6101、6N01、6005A、6060、6061、6063または6082のAl−Mg−Si系合金、合金番号7003、7N01、7005、7020、7050または7075のAl−Zn−Mg系合金、合金番号2014、2014A、2017、2017Aまたは2024のAl−Cu−Mg合金を用いることができる。
【0018】
アルミニウム合金は、Al−Mg−Si系合金であることが好ましい。このようなAl−Mg−Si系合金は、例えば、マグネシウム(Mg)を0.10〜1.00質量%、ケイ素(Si)を0.10〜1.20質量%および鉄(Fe)を0.10〜1.40質量%含有し、さらに任意元素としてチタン(Ti)を0.00〜1.50質量%、ホウ素(B)を0.00〜0.30質量%、銅(Cu)を0.00〜1.00質量%、銀(Ag)を0.00〜0.50質量%、金(Au)を0.00〜0.50質量%、マンガン(Mn)を0.00〜1.00質量%、クロム(Cr)を0.00〜1.00質量%、ジルコニウム(Zr)を0.00〜0.50質量%、ハフニウム(Hf)を0.00〜0.50質量%、バナジウム(V)を0.00〜0.50質量%、スカンジウム(Sc)を0.00〜0.50質量%、コバルト(Co)を0.00〜0.50質量%、ニッケル(Ni)を0.00〜0.50質量%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなることが好ましく、Mgを0.39〜0.43質量%、Siを0.61〜0.65質量%、Feを0.18〜0.22質量%、Niを0.075〜0.105質量%、Mnを0.06〜0.15質量%、Tiを0.008〜0.015質量%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなることがより好ましい。
【0019】
絶縁被覆は、絶縁性を有する材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル、架橋ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム等を主成分とするハロゲン系樹脂、または、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、エチレンプロビレンゴム、珪素ゴム、ポリエステル等を主成分とするハロゲンフリー樹脂等を、絶縁被覆を構成する樹脂材として用いることができ、特にポリ塩化ビニル樹脂が使用される。また、必要に応じて、これらの樹脂材に可塑剤や難燃剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0020】
導体被覆部2は、アルミニウム系導体が絶縁被覆で被覆した被覆電線1において、アルミニウム系導体が露出しておらず、絶縁被覆で覆われているアルミニウム系導体の部分を意味する。導体被覆部2は、後述する超音波の影響を受けない当初のアルミニウム系導体の部分であることから、本発明において、導体被覆部2の平均結晶粒径は、アルミニウム系導体自体が有している平均結晶粒径を意味する。
【0021】
導体露出部4は、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥いでアルミニウム系導体が露出している部分を意味する。導体露出部4は、後述する超音波が印加されるアルミニウム系導体の部分であり、超音波により、接続部材3と共に電線接続構造6を形成すると同時に、結晶粒微細化を達成する。絶縁被覆を剥ぐ長さは、導体露出部4が、当該導体露出部4と後述する接続部材3が接続できる程度に十分な長さを有していれば特に限定されるものではなく、対応する接続部材3と接続する領域の範囲に応じて、適宜設計することができる。導体露出部4の長さ、すなわち、絶縁被覆を剥ぐ長さは、例えば、5〜25mmが好ましく、10〜20mmがより好ましい。
【0022】
(接続部材)
本発明で使用される接続部材3は、アルミニウム系材料または銅系材料からなる、端子または電線であり、被覆電線1の導体露出部4と導電可能に接続される。接続部材3が電線である場合、当該電線は、被覆電線1の導体露出部4と接続するための導体接続部5を有している。アルミニウム系材料は、例えば、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金であり、銅系材料は、例えば、銅(Cu)または銅合金である。端子または導体接続部5と接続する被覆電線1の導体露出部4は、アルミニウム系導体で構成されているため、端子または導体接続部5もアルミニウム系材料であることが好ましい。このようなアルミニウム系材料として、上記の被覆電線1のアルミニウム系導体に使用される純アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用することができる。端子または導体接続部5としてアルミニウム系材料を使用することにより、端子または導体接続部5と導体露出部4は互いに同種金属であることから、これらをより強固かつ容易に接続することができる。また、アルミニウム系材料は、銅や銅合金の銅系材料よりも軽いため、電線接続構造体10を効率良く軽量化することができる。
【0023】
接続部材3が端子である場合、アルミニウム系材料または銅系材料からなる端子の一部が被覆電線1の導体露出部4と接続できれば特に限定されるものではなく、様々な形状の端子を使用することができる。導体露出部4との密着性をより強固にするため、例えば、被覆電線1の絶縁被覆部分を留めるための加締め片を備える端子を使用してもよい。また、導体露出部4に接続される端子の表面には、めっき処理が施されていてもよい。このようなめっき処理は、例えば、ニッケルめっき、ニッケル合金めっき、コバルトめっき、コバルト合金めっき、銅めっき、銅合金めっき、錫めっき、錫合金めっき、銀めっき、銀合金めっき、パラジウムめっき、パラジウム合金めっき、金めっき、または金合金めっき等により行うことができる。めっき処理の方法としては、特に限定はされるものではないが、湿式めっき法によって行なうことが好ましい。
【0024】
接続部材3が電線である場合、アルミニウム系材料または銅系材料からなる電線の導体接続部5が一方の被覆電線1の導体露出部4と接続できれば特に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム系材料または銅系材料からなる導体を絶縁被覆で被覆した他方の被覆電線の一部を剥いで導体を露出させることにより導体接続部5を形成し、この導体接続部5と一方の被覆電線1の導体露出部4とを導電可能に接続することができる。導体露出部4を有する一方の被覆電線1と導体接続部5を有する他方の被覆電線とは、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、また、これらの被覆電線の一方または双方を複数使用してもよい。さらに、電線接続構造6を形成する際、双方の被覆電線の導体を構成する電線のバラつきを抑えるため、導体露出部4と導体接続部5とが金属管に挿入された状態で、これらを接合させることが好ましい。金属管は、超音波接合によって電線接続構造6を形成する際に、金属管を介して導体露出部4と導体接続部5との接合ができれば、特に限定されるものではないが、銅管、銅合金管、アルミニウム管又はアルミニウム合金管であることが好ましく、強度の観点から、銅管又は銅合金管であることがより好ましい。
【0025】
(電線接続構造)
本発明の電線接続構造体10において、被覆電線1の導体露出部4は、端子または電線の導体接続部5と共に電線接続構造6を形成する。すなわち、電線接続構造6は、導体露出部4と接続部材3とが接合して一体化した状態であり、これにより、導体露出部4と接続部材3とを確実に導電することができる。本発明において、導体露出部4と接続部材3は、後述する超音波により接合することができる。導体露出部4と接続部材3を重ね合わせた状態で超音波を印加することにより、導体露出部4と接続部材3とから構成される電線接続構造6が形成されると同時に、ホール・ペッチ(Hall-Petch)の関係式に基づき、導体露出部4の結晶粒微細化も達成される。
【0026】
ホール・ペッチの関係式は、以下の式で表される。
【式1】
【0027】
σ=σ+k/d1/2
式中、σは降伏応力(引張強度)、σは摩擦応力(基準とする引張強度)、kは結晶粒界のすべりに対する抵抗を示す定数、dは平均結晶粒径を表す。この関係式から、材料の平均結晶粒径(d)が小さくなると、σ(引張強度)は大きくなることがわかる。本発明においては、この関係式に基づき、導体露出部4におけるアルミニウム系導体の引張強度が向上しているものと考えられる。
【0028】
本発明において、電線接続構造体10を形成する接続部材3は、被覆電線1の導体露出部4と直接接続される。当該導体露出部4が他の金属部材で完全に覆われた状態で接続部材3と接続すると、接続部材3と導体露出部4とを直接接続する場合よりも導電性が低くなるからである。これにより、接続部材3と導体露出部4との間のより高い導電性を確保することができる。
【0029】
図2は、第2実施形態の電線接続構造体を斜視図で示したものである。図示の電線接続構造体10は、導体被覆部2および導体露出部4を有する被覆電線1と、アルミニウム系材料または銅系材料からなる導体接続部5を有する接続部材3とから構成されている。被覆電線1の導体露出部4と接続部材3の導体接続部5とを、銅管である金属管7の両開口端からそれぞれ向かい合わせに挿入した後に、超音波接合することによって、電線接続構造6が形成されている。導体露出部4と導体接続部5は、金属管7の内部で接合されている。金属管7は、銅合金管、アルミニウム管又はアルミニウム合金管であってもよい。
【0030】
図3は、第3実施形態の電線接続構造体を斜視図で示したものである。図示の電線接続構造体10は、導体被覆部2および導体露出部4を有する複数の被覆電線1と、アルミニウム系材料または銅系材料からなる導体接続部5を有する接続部材3とから構成されている。複数の被覆電線1の導体露出部4と接続部材3の導体接続部5とを、銅管である金属管7の一方の開口端からそれぞれ挿入した後に、超音波接合することによって、電線接続構造6が形成されている。図2と同様、導体露出部4と導体接続部5は、金属管7の内部で接合されており、また、金属管7は、銅合金管、アルミニウム管又はアルミニウム合金管であってもよい。
【0031】
図4は、第4実施形態の電線接続構造体を斜視図で示したものである。図示の電線接続構造体10は、導体被覆部2および導体露出部4を有する被覆電線1と、アルミニウム系材料または銅系材料からなる端子である接続部材3とから構成されている。被覆電線1の導体露出部4と接続部材3とを超音波接合することによって、電線接続構造6が形成されている。接続部材3の端子には、錫めっき、ニッケルめっき等のめっき処理が施されていてもよい。
【0032】
(本発明の特徴的な構成)
本発明の特徴的な構成は、導体露出部4におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径を、導体被覆部2におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径よりも一定の範囲の割合で小さくすることにある。より具体的には、電線接続構造6を構成する導体露出部4におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、導体被覆部2におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の2〜80%であることにあり、2〜50%であることが好ましい。導体露出部4におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径(以下「平均結晶粒径P」という)が、導体被覆部2におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径(以下「平均結晶粒径Q」という)の2%未満であると、導体露出部4と導体被覆部2の強度差が大きくなりすぎて、両者の境界位置での強度差により、局部破断等が生じ、さらには耐久性も劣ってしまう。一方、平均結晶粒径Pが平均結晶粒径Qの80%よりも大きいと、局部破断は生じないものの、十分な耐久性を得ることができない。そのため、平均結晶粒径Pが平均結晶粒径Qの2〜80%の範囲外では、もはや結晶粒微細化による強度向上の効果が付与されず、結果として、得られる電線接続構造体10の導体露出部4が苛酷な使用環境下に晒されると、アルミニウム系導体の導体露出部4の引張強度が低下を抑制することができなくなる。
【0033】
平均結晶粒径Pは、超音波を印加する条件に応じて変動し、平均結晶粒径Qは、使用される被覆電線1のアルミニウム系導体の種類に応じて変動する。平均結晶粒径Pは、1〜40μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。また、平均結晶粒径Qは、50μmを超えると、電線の強度低下が生じるため、50μm以下であることが好ましい。また、超音波が印加される導体露出部4との関係性を考慮すると、平均結晶粒径Qは、20〜50μmであることが好ましく、30〜50μmであることがより好ましい。例えば、平均結晶粒径Qが50μmである場合、平均結晶粒径Pは、1〜40μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。平均結晶粒径Qが35〜45μmである場合、平均結晶粒径Pは、5〜20μmであることが好ましい。平均結晶粒径Qが30μmである場合、平均結晶粒径Pは、1〜20μmであることが好ましく、1〜15μmであることがより好ましい。
【0034】
(電線接続構造体の製造方法)
次に、本発明に従う電線接続構造体10の製造方法について説明する。本発明における電線接続構造体10の製造方法は、主に、導体被覆部2を有する被覆電線1を準備する工程、導体露出部4を形成する工程、電線接続構造6を形成する工程を含み、導体露出部4におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径が、導体被覆部2におけるアルミニウム系導体の平均結晶粒径の2〜80%である。このような製造方法により、アルミニウム系導体の導体露出部4の引張強度が高く、さらには、アルミニウム系導体の導体露出部4が苛酷な使用環境下に晒されても引張強度の低下を抑制できる優れた耐久性を示す電線接続構造体10を得ることができる。
【0035】
(導体被覆部を有する被覆電線を準備する工程)
まず、アルミニウム系導体を絶縁被覆で被覆した導体被覆部2を有する被覆電線1を準備する。被覆電線1を構成するアルミニウム系導体および絶縁被覆は、それぞれ上述した材料を使用することができ、特に、アルミニウム系導体はアルミニウム合金であることが好ましく、絶縁被覆は、ポリ塩化ビニル樹脂であることが好ましい。また、アルミニウム系導体も特に限定されるものではないが、アルミニウム系材料からなる複数の素線を撚り合わせて束ねて構成されたアルミニウム系導体が好ましい。このようなアルミニウム系導体として、例えば、アルミニウム素線を7本撚り合わせて束ねて構成された0.75sq(0.75mm)のサイズ(太さ)のアルミニウム系導体を使用することができる。
【0036】
(導体露出部を形成する工程)
次に、絶縁被覆の一部を所定の長さだけ剥ぎ、被覆電線1にアルミニウム系導体が露出された導体露出部4を形成する。絶縁被覆を剥ぐ手段は特に限定されるものではないが、例えば、ワイヤーストリッパーなどの工具または機器を使用することができる。絶縁被覆を剥ぐ長さは、接続部材3が導体露出部4と接続する領域の範囲に応じて、適宜設計することができ、例えば、5〜25mmが好ましく、10〜25mmが特に好ましい。
【0037】
(電線接続構造を形成する工程)
さらに、形成した導体露出部4に、当該導体露出部4と導電可能に接続するための接続部材3を重ね合わせ、次いで、導体露出部4と接続部材3を重ね合わせた状態で超音波接合によって一体化した電線接続構造6を形成する。なお、電線接続構造6を形成する工程は、ここでは一例として、超音波接合を用いた場合を示しているが、本発明では、かかる場合だけには限定されず、電線接続構造6を形成した際に、導体露出部4の結晶粒を微細化することが可能であるような他の手段を用いてもよい。接続部材3には、上述した材料からなる端子または電線を使用して、所望とする電線接続構造6を形成する。超音波接合は、導体露出部4と接続部材3を重ね合わせた状態で垂直方向に加圧力を与えながら、導体露出部4と接続部材3との接合面に平行な超音波振動を印加することにより行われる。一般に、アルミニウムは、空気中の酸素に一瞬でも触れると表面に強靭な酸化被膜を形成することが知られており、また、金属表面は、油や埃などの物質による汚れが付着していることがある。超音波振動によって導体露出部4と接続部材3との界面同士が摩擦により互いに擦れ合い、接合面の酸化被膜や付着物が取り除かれ、清浄な接合面に、活性化した金属分子が現れる。さらに超音波振動を与えると、摩擦熱による加熱から金属原子の運動が盛んになり、拡散による金属原子の移動が発生する。そして、相互の金属部材間に強力な引力が発生し、導体露出部4における金属と接続部材3における金属が固相状態で接合する。
【0038】
このような超音波接合は、導体露出部4における金属と接続部材3における金属が固相状態で接合されるため、互いの金属が溶融する温度までは上昇せず、比較的低温(通常、母材溶融温度の35〜50%程度)で行うことができる。一方、導体露出部4と接続部材3との接合面に平行な超音波振動を印加すると、超音波振動による微視的なせん断変形が生じ、これにより、導体露出部4と接続部材3とから構成される電線接続構造6が形成されると同時に、導体露出部4の結晶粒微細化も達されると考えられる。
【0039】
上記の工程を経て、平均結晶粒径Pが平均結晶粒径Qの2〜80%の範囲である電線接続構造体10を作製する。超音波接合において印加される超音波のエネルギーを、使用される被覆電線1のアルミニウム系導体に応じて調整することにより、平均結晶粒径Pを平均結晶粒径Qの2〜80%の範囲内にすることができる。印加される超音波のエネルギーは、100〜450Jが好ましく、300〜450Jがより好ましい。超音波接合において印加される超音波のエネルギーが大きいほど、平均結晶粒径Pをより小さくすることができる。また、超音波接合において、重ね合わせた状態の導体露出部4と接続部材3に垂直方向に与えられる加圧力は、使用される被覆電線1のアルミニウム系導体と接合部材3に応じて調整することができ、1〜1000kPaが好ましく、50〜500kPaがより好ましい。
【0040】
また、本発明における電線接続構造体10の製造方法では、電線接続構造6は、圧着装置等による圧着工程を経ずに形成される。よって、本発明における電線接続構造体10の製造方法には、露出したアルミニウム芯線が、銅材料からなる被着体を介して端子に圧着接続する特許第5447071号公報に記載の方法は含まれない。
【0041】
本発明の製造方法で得られる電線接続構造体10は、平均結晶粒径Pが平均結晶粒径Qの2〜80%の範囲である。これにより、苛酷な使用環境下に晒されても十分な強度を保持できる優れた耐久性を示す電線接続構造体10を提供が可能となる。
【0042】
なお、上述した実施形態は、本発明のいくつかの代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0043】
以下の実施例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1〜7)
表2に示される合金組成を有するアルミニウム系導体(以下「合金1」という)を、ポリ塩化ビニルの絶縁被膜で被覆することにより、導体被覆部を有する被覆電線Aを準備した。この被覆電線Aの先端側をワイヤーストリッパーにより約1.5cm剥いでアルミニウム系導体が露出した導体露出部を形成した。接続部材として、被覆電線Aと同じ種類のアルミニウム系導体、同じ導体被覆部を有する被覆電線Bを準備した。被覆電線Aと同様に被覆電線Bの先端側もワイヤーストリッパーにより約1.5cm剥いでアルミニウム系材料からなる導体接続部をもつ電線を形成した。形成した被覆電線Aの導体露出部に、被覆電線Bの導体接続部を重ね合わせ、次いで、双方の電線がばらばらにならないように、JIS H 3300:2012の規格に基づくC1220T(1/2H)の銅管(厚さ0.3mm)の両端から、被覆電線A及び被覆電線Bをそれぞれ挿入した。銅管に挿入して重ね合わせた状態の導体露出部と導体接続部を、超音波接合機の受け台上に設置した。重ね合わせた状態の導体露出部と導体接続部に対して、銅管の上から垂直方向に100kPaの加圧力を与えながら、表3に示される超音波条件により超音波を印加し、超音波接合によって一体化した電線接続構造を形成した。このようにして得られた電線接続構造体について、導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径をそれぞれ測定した。また、得られた電線接続構造体の引張強度を下記の方法により評価した。導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径、ならびに得られた電線接続構造体の引張強度の結果を表3に示す。尚、上記アルミニウム系導体の合金組成は、表1に示される合金組成の範囲から任意のものを採用できるが、実施した合金1の合金組成は表2に示される通りである。
【0045】
(比較例1、2)
比較例1、2は、表3に示される超音波条件により超音波を印加し、導体露出部の平均結晶粒径が、導体被覆部の平均結晶粒径の2〜80%の範囲外となる以外は、実施例1〜7と同様に行った。導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径、ならびに得られた電線接続構造体の引張強度の結果を表3に示す。
【0046】
(実施例8〜11)
実施例8〜11は、表1、2に示される合金組成を有するアルミニウム系導体の代わりにJIS H 4100:2015の規格に基づく合金番号1050の純アルミニウム(以下「合金2」という)を用いて、表3に示される超音波条件により超音波を印加した以外は、実施例1〜7と同様に行った。導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径、ならびに得られた電線接続構造体の引張強度の結果を表3に示す。
【0047】
(比較例3)
比較例3は、表3に示される超音波条件により超音波を印加し、導体露出部の平均結晶粒径が、導体被覆部の平均結晶粒径の2〜80%の範囲外となる以外は、実施例8〜11と同様に行った。導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径、ならびに得られた電線接続構造体の引張強度の結果を表3に示す。
【0048】
(実施例12、13)
実施例12、13は、表1、2に示される合金組成を有するアルミニウム系導体の代わりにJIS H 4100:2015の規格に基づく合金番号6060のアルミニウム合金(以下「合金3」という)を用いて、表3に示される超音波条件により超音波を印加した以外は、実施例1〜7と同様に行った。導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径、ならびに得られた電線接続構造体の引張強度の結果を表3に示す。
【0049】
(比較例4)
比較例4は、表3に示される超音波条件により超音波を印加し、導体露出部の平均結晶粒径が、導体被覆部の平均結晶粒径の2〜80%の範囲外となる以外は、実施例12、13と同様に行った。導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径、ならびに得られた電線接続構造体の引張強度の結果を表3に示す。
【0050】
(実施例14)
実施例14は、表1、2に示される合金組成を有するアルミニウム系導体の代わりにJIS H 4100:2015の規格に基づく合金番号7030のアルミニウム合金(以下「合金4」という)を用いて、表3に示される超音波条件により超音波を印加した以外は、実施例1〜7と同様に行った。導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径、ならびに得られた電線接続構造体の引張強度の結果を表3に示す。
【0051】
(比較例5)
比較例5は、表3に示される超音波条件により超音波を印加し、導体露出部の平均結晶粒径が、導体被覆部の平均結晶粒径の2〜80%の範囲外となる以外は、実施例14と同様に行った。導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径、ならびに得られた電線接続構造体の引張強度の結果を表3に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
〈導体被覆部の平均結晶粒径と導体露出部の平均結晶粒径の測定方法〉
伸線方向に切り出した各実施例、比較例の電線接続構造体の縦断面を樹脂で埋め、機械研磨後、電解研磨を行った。得られた電線接続構造体のうち、導体露出部における結晶粒組織と導体被覆部における結晶粒組織をそれぞれ200〜400倍の光学顕微鏡(オリンパス社製)で撮影し、JIS H 0501:1986、JIS H 0502:1986に準じて公差法による粒径測定を行った。具体的には、撮影された写真に伸線方向に平行な直線を引き、その直線と交わる粒界の数を測定した。この測定を、アルミニウム系導体の外周部及び内部についてそれぞれ20〜50個程度の結晶粒界と交わるように測定し、外周部及び内部の平均結晶粒径とした。直線長さは長いほど好ましいが、作業性の観点から、20〜50個程度の結晶粒径を測定できるように、また直線が長いと光学顕微鏡の撮影範囲からはみ出てしまうため複数本の直線を用いるなどして、直線の長さと本数を調節して測定した。
【0055】
(評価方法)
〈引張強度〉
引張強度は、小型卓上試験機(SHIMADZU社製:型番EZ−SX)を用いて、各実施例、比較例で得られた電線接続構造体が当初に示す引張強度と耐久試験後に電線構造体が当初に示す引張強度をそれぞれ評価した。このような引張強度は、超音波の影響を受けていない1つの導体における導体被覆部の絶縁被覆を剥いで引張強度を測定した際に導体露出部が切断される引張荷重を、超音波の印加前後に測定し、その差を評価した。引張強度が向上した場合を「◎(優)」、引張強度の低下が0以上15N未満である場合を「○(良)」、強度低下が15以上30N未満のものを「可」、30N以上である場合を「×(不可)」と認定し、本試験では、「◎(優)」および「○(良)」に該当する場合を、引張強度が合格レベルにあるとして評価した。また、耐久試験は、超音波を印加した各実施例、比較例の電線接続構造体の熱衝撃試験(−40℃〜120℃の範囲で1000サイクル)を行い、超音波の印加前の引張荷重と耐久試験後の引張荷重の差を評価した。
【0056】
【表3】
【0057】
図5は、実施例2の導体露出部における結晶粒組織を光学顕微鏡で観察したときの写真であり、図6は、同様に比較例2の導体被覆部における結晶粒組織を光学顕微鏡で観察したときの写真である。図5、6より、実施例2の導体露出部における結晶粒組織は、比較例2の導体露出部における結晶粒組織よりも微細化されている。このことから、本発明の電線接続構造体では、導体露出部の結晶粒微細化が超音波の印加により達成されていることがわかる。
【0058】
表3の結果から、導体露出部の平均結晶粒径が、導体被覆部の平均結晶粒径の2〜80%の範囲内にある実施例1〜14は、いずれも超音波印加後の引張強度および耐久試験後の引張強度が良好であった。特に、導体露出部の平均結晶粒径が導体被覆部の平均結晶粒径の2〜50%の範囲内にある実施例1〜4、8〜10、12および13は、超音波印加後の引張強度が優れていた。これに対し、導体露出部の平均結晶粒径が導体被覆部の平均結晶粒径の2〜80%の範囲外である比較例1〜5は、いずれも超音波印加後の引張強度については良好であったが、耐久試験後の引張強度が合格レベルになく、劣っていた。このことから、本発明の要件を満たす電線接続構造体は、アルミニウム系導体の導体露出部の引張強度が高く、さらには、アルミニウム系導体の導体露出部が苛酷な使用環境下に晒されても、引張強度の低下を抑制できる優れた耐久性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、アルミニウム系導体の導体露出部の引張強度が高く、かつアルミニウム系導体の導体露出部が苛酷な使用環境下に晒されても引張強度の低下が抑制されて、優れた耐久性を具備する電線接続構造体を提供することが可能になった。本発明の電線接続構造体は、自動車用ワイヤハーネスのコネクタ等に好適に用いられる他、電子機器同士の配線や、多くの電気配線を必要とする多様な機械装置等にも使用できるなど、あらゆる分野での適用が期待できる。
【符号の説明】
【0060】
1 被覆電線
2 導体被覆部
3 接続部材
4 導体露出部
5 導体接続部
6 電線接続構造
7 金属管
10 電線接続構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6