特許第6738768号(P6738768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6738768
(24)【登録日】2020年7月22日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】ディスク駆動装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 17/038 20060101AFI20200730BHJP
【FI】
   G11B17/038
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-88625(P2017-88625)
(22)【出願日】2017年4月27日
(65)【公開番号】特開2018-185881(P2018-185881A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2019年10月29日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】中山 賢
(72)【発明者】
【氏名】中村 肇宏
(72)【発明者】
【氏名】今川 公恵
(72)【発明者】
【氏名】北脇 高太郎
(72)【発明者】
【氏名】村田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】米光 誠
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−097803(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/047190(WO,A1)
【文献】 特開平06−168536(JP,A)
【文献】 特開2005−228443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 17/038
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に貫通孔を有し、厚みが0.8mmt以下である円盤形状のディスクと、
前記ディスクの貫通孔に挿入されるスピンドルを有し、当該スピンドルと共に前記ディスクを共回転するスピンドルモータと、
前記ディスクの上面に設けられ、前記ディスクの内径側部分を締付け固定するクランプ部材と、
を備え、
前記クランプ部材は、前記ディスクの上面と対向する前記クランプ部材の下面に環状の突起部を有し
記ディスクの上面に前記クランプ部材の前記突起部を押圧接触させたクランプ固定状態にて測定した前記ディスクの上面における平坦度F1が、10μm以下であり、かつ
前記クランプ部材だけを抜き出して測定した前記突起部の先端面における平坦度をF2とするとき、前記平坦度F2が5μm以下であることを特徴とするディスク駆動装置。
【請求項2】
複数枚の前記ディスクが、前記スピンドルを回転中心とする同軸上に、環状のスペーサ部材を介して間隔をおいてクランプに固定されている、請求項1に記載のディスク駆動装置。
【請求項3】
前記ディスクだけを抜き出して測定した前記ディスクの表面における周方向の板厚偏差をD1とするとき、前記板厚偏差D1が0.5μm以下である、請求項1または2に記載のディスク駆動装置。
【請求項4】
前記ディスクだけを抜き出して測定した前記ディスクの表面における周方向の板厚偏差をD1とし、前記ディスクの重み付け係数を10とするとき、前記D1および前記F2は、下記式(1)、すなわち、
D1×10+F2≦7.5μm・・・・(1)
を満足する、請求項1または2に記載のディスク駆動装置。
【請求項5】
前記ディスクが、前記ディスクの内径側部分に相当する表面の周方向の板厚偏差をD2とするとき、前記D2が2μm以下であることを特徴とする、ディスク駆動装置のディスク用ブランク材を用いてなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のディスク駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスクドライブ等に用いられる記録媒体用のディスクを駆動するためのディスク駆動装置、および当該ディスク駆動装置に用いられるディスクを作製するためのブランク材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータの記録装置としてハードディスクドライブ(以下「HDD」という)が広く用いられている。HDDには、記録媒体用のディスクを支持および回転させるディスク駆動装置が搭載されており、ディスク駆動装置は、一般に、データを記録する1枚又は複数枚のディスク、ディスクを回転させるスピンドルモータ、及びディスクの内径側部分を固定するクランプ部材を有している。HDDには、このようなディスク駆動装置の他に、各ディスクに対してデータ処理を行う磁気ヘッド、当該磁気ヘッドをディスクに対して移動自在に支持したアクチュエータ、当該アクチュエータを回動および位置決めするスイングアーム等が備えられている。
【0003】
このようなHDDにおいて、高速なデータ処理を行うためにはディスクの高速回転が必要となる。しかしながら、ディスクが高速回転すると、ディスクと共に回転する空気によって気流が発生し、この気流の乱れによりディスクが振動するフラッタリングと呼ばれる現象が生じる。このようなフラッタリングは、磁気ヘッドの浮上安定性を悪化させ、ディスクに対する磁気ヘッドの位置決め精度が低下し、記録密度の向上に支障を生じさせる要因となる。
【0004】
一方、近年のHDDの大容量化に伴い、より多くのディスクをHDDに収容させるべく、ディスクの薄板化が進んでいる。しかしながら、より薄いディスクをクランプ部材で固定すると、ディスクの内径側部分に荷重が作用して、固定前のディスクの状態と固定後のディスクの状態でフラットネス(平坦度)が変化する結果、(クランプ部材で固定する前の)ディスク自体のフラットネスが小さくても、クランプ部材で固定したディスクの状態ではフラットネスが大きくなる場合がある。この場合は、ディスクの厚さが薄くなるほど顕著に生じる傾向があった。このようなディスクの薄板化に伴い、クランプ部材で固定されたディスクにおける高速回転時のフラッタリングを抑制することがより重要視されている。
【0005】
特許文献1には、磁気記録媒体用ガラス基板の主表面において、締結部材(クランプ部材)により締付けられる箇所を含むクランプ領域の平坦度を1μm以下にし、かつ当該クランプ領域の板厚偏差を0.3μm以下に特定することにより、高速回転時のディスクのフラッタリングを抑制できることが教示されている。また、クランプ部材により締付け固定される箇所の平坦度が悪いと、ガラス基板の形状が変形し、磁気ディスク全体としての平坦度が悪化することが示唆されている。しかしながら、特許文献1では、磁気記録媒体用ガラス基板(ディスク)の主平面におけるクランプ領域で平坦度と板厚偏差に着目した発明であって、締結部材(クランプ部材)で固定する前のディスク状態と、固定後のディスクでフラットネス(平坦度)が変化する点には開示がなく、クランプ部材で締付け固定されたディスクの状態における平坦度については何ら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5029777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、ディスク自体の平坦度が小さくても、クランプ部材で固定されて押圧接触されたディスクの状態では、平坦度が大きくなって高速回転時にディスクにフラッタリングが生じる場合があるという課題を解決する必要があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、クランプ部材で固定されたディスクの状態で性状の適正化を図ることによって、高速回転時のディスクのフラッタリングを有効に抑制できるディスク駆動装置および当該ディスクを作製するための基材として用いられるブランク材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題に対して鋭意検討を行った結果、クランプ固定状態でのディスク全体の平坦度と、ディスクのフラッタリングとの相関性を明らかにすることにより、ディスクのフラッタリングを抑制することができ、かつ、ディスクがクランプ固定された状態でも所望の平坦度を有するディスクを具備するディスク駆動装置を提供できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]中央部に貫通孔を有する円盤形状のディスクと、前記ディスクの貫通孔に挿入されるスピンドルを有し、当該スピンドルと共に前記ディスクを共回転するスピンドルモータと、前記ディスクの上面に設けられ、前記ディスクの内径側部分を固定するクランプ部材と、を備え、前記クランプ部材は、前記ディスクの上面と対向する前記クランプ部材の下面に環状の突起部を有し、かつ前記ディスクの上面に前記クランプ部材の前記突起部を押圧接触させたクランプ固定状態にて測定した前記ディスクの上面における平坦度F1が、10μm以下であることを特徴とするディスク駆動装置。
[2]複数枚の前記ディスクが、前記スピンドルを回転中心とする同軸上に、環状のスペーサ部材を介して間隔をおいてクランプに固定されている、[1]に記載のディスク駆動装置。
[3]前記ディスクだけを抜き出して測定した前記ディスクの表面における周方向の板厚偏差をD1とし、前記クランプ部材だけを抜き出して測定した前記突起部の先端面における平坦度をF2とするとき、前記板厚偏差D1が0.5μm以下であり、かつ前記平坦度F2が5μm以下である、[1]または[2]に記載のディスク駆動装置。
[4]前記ディスクだけを抜き出して測定した前記ディスクの表面における周方向の板厚偏差をD1とし、前記クランプ部材だけを抜き出して測定した前記突起部の先端面における平坦度をF2とし、前記ディスクの重み付け係数を10とするとき、前記D1および前記F2は、下記式(1)、すなわち、
D1×10+F2≦7.5μm・・・・(1)
を満足する、[1]または[2]に記載のディスク駆動装置。
[5]ディスクの内径側部分に相当する表面の周方向の板厚偏差をD2とするとき、前記D2が2μm以下であることを特徴とする、ディスク駆動装置のディスク用ブランク材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、中央部に貫通孔を有する円盤形状のディスクと、ディスクの貫通孔に挿入されるスピンドルを有し、当該スピンドルと共にディスクを共回転するスピンドルモータと、ディスクの上面に設けられ、ディスクの内径側部分を固定するクランプ部材と、を備え、クランプ部材は、ディスクの上面と対向するクランプ部材の下面に環状の突起部を有し、かつディスクの上面にクランプ部材の突起部を押圧接触させたクランプ固定状態にて測定したディスクの上面における平坦度F1が、10μm以下であることにより、クランプ固定されたディスク、特に薄板化したディスクの状態でフラッタリングを有効に抑制できるディスク駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に従うディスク駆動装置の縦断面概略図を示す。
図2図2は、本発明に従うディスク駆動装置において、クランプ固定状態のディスクにおいて、ディスクの上面における平坦度F1とディスクのフラッタリング(振動数)との関係を示す。
図3図3は、ディスクの表面における周方向の板厚偏差D1の測定対象を説明するための図である。
図4図4は、本発明に従うディスク駆動装置において、平坦度F2が5μm以下であるクランプ部材と、平坦度F2が5μmよりも大きいクランプ部材とで、それぞれディスクの上面を押圧した場合における、ディスク自体の表面における周方向の板厚偏差D1と、クランプ固定状態にあるディスクの上面における平坦度F1との関係を示す。
図5図5は、本発明に従うディスク駆動装置において、式(1)の左辺に、周方向の板厚偏差D1と、クランプ部材の突起部の先端面における平坦度F2の数値を代入して得られた数値を横軸に、クランプ固定状態のディスクの上面の平坦度F1の数値を縦軸にしたときの実験データを示す。
図6図6は、本発明に使用されるディスクの製造方法のフローを示す図である。
図7図7は、ブランク材の表面における周方向の板厚偏差D2の測定対象を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のディスク駆動装置およびブランク材について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明のディスク駆動装置の縦断面の概略図を示す。図1に示すように、本実施形態のディスク駆動装置10は、中央部に貫通孔を有する円盤形状のディスク1と、ディスク1の貫通孔に挿入されるスピンドル2を有し、スピンドル2と共にディスク1を共回転するスピンドルモータ3と、ディスク1の上面に設けられ、ディスク1の内径側部分を固定するクランプ部材4とを備えている。クランプ部材4は、ビス等によりスピンドルモータ3の回転軸であるスピンドル2に固定されており、ディスク1の上面と対向するクランプ部材4の下面に環状の突起部5を有している。ディスク1の上面にクランプ部材4の突起部5を押圧接触させることにより、ディスク1はクランプ固定状態となる。ディスク1の上面の内径側部分がこの突起部5によりクランプ固定されることにより、高速回転させてデータ処理する際おけるディスク1の離脱が防止される。このように、クランプ部材4の突起部5によりクランプ固定されるディスク1の上面の内径側部分の領域を、クランプ領域と呼ぶ。通常、クランプ領域は、ディスクの直径の26%〜32%の寸法に相当する領域を意味する。
【0015】
図1では、3枚のディスク1、1、1が、スピンドル2を回転中心とする同軸上に、環状のスペーサ部材6を介して間隔をおいてクランプ固定されている場合を示している。各ディスク1は、同軸上に位置しているため、スピンドルモータ3の回転により、これらのディスク1、1、1は、スピンドル2とともに共回転する。ディスクの枚数は1枚、2枚であってもよく、3枚よりも多くてもよい。ディスクが1枚の場合には、スペーサを省くこともできる。ディスクが複数枚の場合には、ディスクの枚数に応じて、スペーサ部材6の厚みを変えて所望の回転が得られるように適宜調整することができる。
【0016】
ディスク1の基材は、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス製、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であることが好ましい。また、ディスク1の厚みは、0.8mmtより大きいと、厚みが厚いためにクランプ固定状態でのディスクのフラッタリングの影響は受けにくい。一方、ディスク1の厚みが0.8mmt以下であるとディスクの変形が起こりやすく、フラッタリングの影響が受けやすい特に、ディスク1の厚みが0.635mmt以下であるとディスクの剛性が大きく低下するためフラッタリングの影響顕著である。したがって、本発明に使用されるディスクは、フラッタリングの影響を受けやすい0.8mmt以下の厚みを有する薄板化されたディスクを対象とすることが望ましい。また、ディスク1のサイズは、特に限定されるものではないが、例えばいわゆる3.5インチ、2.5インチが挙げられる。特に、3.5インチのディスクに適用することが、高速回転中のディスクのフラッタリングを顕著に抑制できる点でより好適である。
【0017】
ディスク駆動装置10に具備されるクランプ部材4には、優れた加工性と、ディスク1をクランプ固定するための高い機械的強度が要求される。そのため、クランプ部材4は、高剛性材料であることが好ましく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム合金等を使用することができる。一方で、クランプ部材の素材がバネやゴム等の弾性体であると、ディスク、特に薄板化したディスクのクランプ固定が十分ではないため、高速回転時のディスクの振動を十分に抑えることができず、フラッタリングが生じやすくなる。また、図1において、クランプ部材4の厚さtは、特に限定されるものではないが、ディスク1のクランプ領域に突起部5を押圧接触させて、ディスク1にクランプ固定状態が十分に維持できる程度の負荷を与えるため、1.0mm〜8.0mmの範囲であることが好ましく、1.5mm〜5.8mmの範囲であることがより好ましい。
【0018】
ディスク駆動装置10に具備される環状のスペーサ部材6においても、クランプ部材4と同様に、スペーサ部材6を介して複数枚のディスク1、1、1をそれぞれクランプ固定するための高い機械的強度が要求される。そのため、スペーサ部材6も高剛性材料であることが好ましく、例えば、ステンレス鋼、セラミック、アルミニウム合金等の剛体を使用することができる。一方で、スペーサ部材の素材がバネやゴム等の弾性体であると、ディスク、特に薄板化したディスクのクランプ固定が十分ではない。また、スペーサ部材6の厚さは、特に限定されるものではなく、ディスクの厚さおよび枚数に応じて適宜設計することができるが、0.5mm〜5.0mmの範囲であることが好ましく、1.8mm〜3.6mmの範囲であることがより好ましい。
【0019】
本発明のディスク駆動装置は、ディスク1の上面にクランプ部材4の突起部5を押圧接触させたクランプ固定状態にて測定したディスク1の上面における平坦度F1を10μm以下とすることにあり、好ましくは5μm以下である。平坦度F1が10μmより大きいと、クランプ固定状態のディスクを高速回転させると、フラッタリングを悪化させるからである。ここで平坦度F1は、ディスク1の表面全体の最大山高さと最大谷深さの差で表わされる。最大山高さは測定範囲における輪郭曲線の平均線と測定範囲内で最も高い値との差であり、最大谷深さは当該平均線と測定範囲内で最も低い値との差である。平坦度F1の測定は、JIS B 0182−1993に規定される方法に準拠し、Zygo社製Zygo MESAのようなディスク用の平坦度測定機を用いて行うことができる。なお、JIS B 0182−1993では、平面度が規定されているが、当該平面度は、上記平坦度F1と同等のフラットネスとして評価できる。具体的には、平坦度測定機に設置されている土台に、平坦度測定機の測定面に対して角度を変えるための治具を固定する。例えば、3個のマイクロメーターを備えた治具を用いることができ、治具の測定面に対する角度をθ方向(中心角0゜から角度θ傾斜した方向)とψ方向(直径方向)についてマイクロメーターで調節する。次いで、治具にディスク駆動装置をネジ止めなどで固定して、平坦度測定機の測定面についてクランプ固定状態のディスクが平行になるように角度を調節することにより、平坦度F1の測定をおこなうことができる。
【0020】
図2は、クランプ固定状態のディスクにおいて、上面における平坦度F1とフラッタリング(振動数)との関係を示した図の一例を示したものである。図2の結果から、平坦度F1が10μm以下になると、ディスクのフラッタリング(振動)が安定して小さくなっているのがわかる。このことから、平坦度F1が10μm以下であることにより、ディスクのフラッタリングを抑制できることがわかる。
【0021】
平坦度F1は、ディスク駆動装置10に具備されるクランプ部材4の平坦度、すなわち、ディスク1のクランプ領域に当接する環状の突起部5の先端面における平坦度により変動する場合がある。そこで、本発明者らは、突起部5の先端面における平坦度と、ディスク1の表面における平坦度F1との相関性についても検討した。
【0022】
本発明の他の実施態様において、ディスクだけを抜き出して測定したディスク1の表面における周方向の板厚偏差をD1、クランプ部材だけを抜き出して測定した突起部5の先端面における平坦度をF2としたとき、板厚偏差D1が0.5μm以下であり、かつ平坦度F2が5μm以下であるディスク駆動装置10が使用される。板厚偏差D1とは、ディスク1の周方向、すなわち、ディスク1の内周面の所定の位置から外周面までの周方向におけるディスク1の板厚を測定し、得られた板厚の最大値と最小値の差を求め、この差を板厚偏差D1とする。具体的には、図3に示される半径方向距離L1におけるディスク1の周方向の板厚を測定し、その最大値と最小値の差を算出した値が板厚偏差D1である。板厚偏差D1の測定は、特に限定されるものではないが、例えば、ユニパルス社製UMA−500などの静電容量式の変位計を使用し、内周を把持したディスク1を回転させる事により行うことができる。具体的には、三点チャックを用いてディスク1の内周部を把持し、三点チャックを回転ステージに固定する。次いで、回転ステージによってディスク1を5°毎に回転させることにより、ディスク1の周方向の板厚を測定することができる。なお、板厚偏差D1と、クランプ固定しないディスク1の表面における平坦度とは、ほとんど関係がない。そのため、本発明では、クランプ固定状態のフラットネスを議論する観点から板厚偏差D1を測定対象としている。
【0023】
平坦度F2は、環状の突起部5の先端面全体の最大山高さと最大谷深さの差で表わされる。最大山高さは測定範囲における輪郭曲線の平均線と測定範囲内で最も高い値との差であり、最大谷深さは当該平均線と測定範囲内で最も低い値との差である。具体的には、ディスク1のクランプ領域に当接する環状の突起部5の先端面全体の厚さを測定し、その最大山高さと最大谷深さの差が平坦度F2である。平坦度F2の測定は、特に限定されるものではないが、例えば、ミツトヨ社製ラウンドテストなどの真円度測定機を使用し、内径を把持したクランプ部材を回転させる事により行うことができる。具体的には、三点チャックを用いてクランプ部材4を把持し、突起部5の測定部を決定する。測定部は、突起部5のうち、ディスク1と接する部分であって、クランプ領域内で半径方向にスタイラスを移動させていき、高さが最も高くなっている部分とする。測定部にスタイラスを設置し、クランプを円周方向に回転させることにより、平坦度F2を測定することができる。
【0024】
図4は、平坦度F2が5μm以下であるクランプ部材と、平坦度F2が5μmよりも大きいクランプ部材とで、それぞれディスクの上面を押圧した場合における、ディスク自体の表面における周方向の板厚偏差D1と、クランプ固定状態にあるディスクの上面における平坦度F1との関係をプロットした図の一例を示したものである。図4中、四角でプロットした点が、平坦度F2が5μmよりも大きいクランプ部材を使用した場合の板厚偏差D1と平坦度F1との関係を表し、丸でプロットした点が、平坦度F2が5μm以下であるクランプ部材を使用した場合の板厚偏差D1と平坦度F1との関係を表す。図4の結果から、平坦度F2が5μm以下の表面をもつクランプ部材と、板厚偏差D1が0.5μm以下のディスクとを具備するディスク駆動装置を用いた場合、クランプ固定状態のディスクの平坦度F1を10μm以下に抑えられ、その結果、ディスクのフラッタリングを有効に抑制できることがわかる。
【0025】
加えて、図4の結果は、クランプ固定状態のディスクの平坦度F1は、クランプ自体の板厚偏差D1が同じ数値であっても、突起部5の表面(先端面)における平坦度F2に応じて変化することも示されている。そこで、本発明者らは、前記平坦度F1と前記板厚偏差D1との相関性に加え、さらに前記平坦度F2との相関性についても検討した。
【0026】
本発明の他の実施態様において、ディスクだけを抜き出して測定したディスク1の表面における周方向の板厚偏差をD1とし、クランプ部材だけを抜き出して測定した突起部5の先端面における平坦度をF2とし、ディスクの重み付け係数を10とするとき、D1およびF2は、下記式(1)、
D1×10+F2≦7.5μm・・・・(1)
を満足するディスク駆動装置10が使用される。板厚偏差D1、平坦度F2は上記に定義した通りである。重み付け係数とは、ディスク1の平坦度F1、クランプ部材の平坦度F2は、ある程度クランプ部材の押し圧によって矯正可能であるが、板厚偏差D1はクランプ部材の押し圧によって変化しないため、板厚部分の重み付けを考慮する必要があった。重み付け係数を変化させていった場合、おおよそ10程度で平坦度F1と、板厚偏差D1および平坦度F2との相関関係が最も高くなった。そのため、式(1)において、これらの相関関係が最も高い相関係数である10を重み付け係数として定義した。
【0027】
図5は、上記式(1)の左辺に、前記周方向の板厚偏差D1と、クランプ部材の突起部の先端面における平坦度F2の数値を代入して得られた数値を横軸にとり、クランプ固定状態のディスクの上面の平坦度F1の数値を縦軸にとったときの実験データの一例を示したものである。図5から、式(1)の左辺に代入して得られた数値が7.5以下の場合に、クランプ固定状態のディスクの上面の平坦度F1が10μm以下に抑えられ、その結果、ディスクのフラッタリングを抑制できることがわかる。例えば、平坦度F2が6.0μmの表面をもつクランプ部材4を使用した場合には、ディスクの周方向の板厚偏差D1が0.15μm以下であれば、クランプ固定状態のディスクの上面の平坦度F1を10μm以下に抑えることができる。
【0028】
次に、本発明のディスク駆動装置10に備えられているディスク1の原材料となるブランク材について説明する。一般に、ディスク1は、原材料となるブランク材を円盤形状に加工し、次いで、順次、研削加工(Gサブ加工)・表面研磨(Pサブ加工)、めっき処理が施された表面に、スパッタリング等により磁性膜を形成するメディア加工等の各工程を経て作製される。ブランク材の素材となる基材は、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス製、アルミニウム製又はアルミニウム合金製であることが好ましく、薄板化を行なうための表面研磨等の加工性が優れている観点から、アルミニウム合金製であることがより好ましい。
【0029】
以下、本発明に使用されるディスクの製造例を、図6を参照しながら具体的に説明する。ここで、アルミニウム合金の調製(ステップS101)〜冷間圧延(ステップS105)は、アルミニウム合金板を製造する工程であり、ディスクブランクの作製(ステップS106)〜磁性体の付着(ステップS111)は、製造されたアルミニウム合金板から磁気ディスクを作製する工程である。
【0030】
まず、アルミニウム合金基板を製造する工程を説明する。所望の成分組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、常法にしたがって加熱・溶融することによって調製する(ステップS101)。次いで、調製されたアルミニウム合金の溶湯から半連続鋳造(DC鋳造)法又は連続鋳造(CC)法等によりアルミニウム合金を鋳造する(ステップS102)。鋳造時の冷却速度は、例えば、0.1〜1000℃/sの範囲が好ましく、鋳造方法としてはDC鋳造法よりも冷却速度が速いCC法の方がより好ましい。次いで、鋳造されたアルミニウム合金の均質化処理を実施する(ステップS103)。均質化処理は省略することもできるが、実施する場合には、例えば400〜500℃で1時間以上等の条件で行うことが好ましい。次いで、均質化処理をしたアルミニウム合金を熱間圧延し板材とする(ステップS104)。熱間圧延するにあたっては、特にその条件は限定されるものではないが、熱間圧延開始温度は300〜500℃の範囲であることが好ましく、熱間圧延終了温度は260〜400℃の範囲であることが好ましい。次いで、熱間圧延した板を冷間圧延して、約1.0mm程度のアルミニウム合金板とする(ステップS105)。熱間圧延終了後は、冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は、特に限定されるものではないが、必要な製品板強度、板厚等に応じて定めることができ、例えば、圧延率を20〜80%とすることができる。冷間圧延の前又は冷間圧延の途中で、冷間圧延加工性を確保するために焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の加熱ならば、300〜450℃で0.1〜10時間の条件で行うことが好ましく、連続式の加熱ならば、400〜500℃で0〜60秒間保持の条件で行うことが好ましい。このような工程を経て、アルミニウム合金板を製造することができる。
【0031】
次に、ステップS101〜105の工程を経て製造されたアルミニウム合金板から磁気ディスクを作製する工程を説明する。アルミニウム合金板を磁気ディスクとして加工するには、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作製する(ステップS106)。次いで、ディスクブランクを大気中にて300℃以上450℃以下で30分以上の加圧焼鈍を行い、ディスクブランクの表面を平坦化する(ステップS107)。次いで、アルミニウム合金板を切削加工、研削加工、脱脂、エッチングし、アルミニウム合金基板を作製する(ステップS108)。次いで、アルミニウム合金基板表面にジンケート処理(Zn置換処理)を施す(ステップS109)。次いで、ジンケート処理した表面に下地処理(Ni−Pめっき)する(ステップS110)。次いで、下地処理した表面にスパッタリングで磁性体を付着させる(ステップS111)。このような工程を経て、アルミニウム合金板から磁気ディスクが完成する。
【0032】
本発明の他の実施態様において、本発明におけるディスク駆動装置のディスク用ブランク材は、ディスクの内径側部分に相当する表面の周方向の板厚偏差をD2としたときに、板厚偏差D2が2μm以下であるブランク材である。そのため、本発明のディスク駆動装置10に具備されるディスク1の基材は、ディスクの内径側部分に相当する表面の周方向の板厚偏差をD2とするときに、板厚偏差D2が2μm以下であるブランク材の加工品であってもよい。ここで、ディスクの内径側部分に相当する表面とは、上記ディスク1のクランプ領域に相当する領域を意味する。具体的には、図7に示されるように、ブランク材20の表面内径側の領域7であり、この領域7がディスク1のクランプ領域に相当する。また、板厚偏差D2は、所定の円盤形状に加工したブランク材をプレアニール処理した後の板厚偏差である。このような処理が施されたブランク材20について、内径側の領域7内における、内周面の所定の位置からの周方向のブランク材の板厚を測定し、得られた板厚の最大値と最小値の差を求め、この差を板厚偏差D2とする。具体的には、図7に示される領域7内における半径径方向距離L2の板厚を測定し、その最大値と最小値の差を算出した値が板厚偏差D2である。板厚偏差D2の測定は、特に限定されるものではないが、例えば、ユニパルス社製UMA−500などの静電容量式の変位計を使用し、内周を把持したブランク材20を回転させる事により行うことができる。具体的には、三点チャックを用いてブランク材20の内周部を把持し、三点チャックを回転ステージに固定する。次いで、回転ステージによってブランク材20を5°毎に回転させることにより、ブランク材20の領域7における周方向の板厚を測定ことができる。
【0033】
以上、上記実施形態に係るディスク駆動装置、ならびにブランク材について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づき、各種の変形および変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のディスク駆動装置は、ディスクのフラッタリングを抑制できると共に、ディスクがクランプ固定された状態でも所望の平坦度を有しているため、HDD等の記憶装置のディスク駆動装置として好適に用いられる。また、本発明のブランク材は、上記のようなディスクを得やすいため、このようなディスク駆動装置に具備されるディスク基材の加工品として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0035】
1 ディスク
2 スピンドル
3 スピンドルモータ
4 クランプ部材
5 突起部
6 スペーサ部材
7 領域
10 ディスク駆動装置
20 ブランク材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7