【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:一般社団法人日本質量分析学会 第64回質量分析総合討論会2016大阪 開催日:平成28年5月19日 集会名:第29回バイオメディカル分析科学シンポジウム 開催日:平成28年9月2日 集会名:第29回バイオメディカル分析科学シンポジウム 開催日:平成28年9月3日 掲載アドレス:http://www.sciencedirect.com/science/journal/aip/07317085 掲載日:平成28年11月17日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記1つ以上のフラグメントイオンの量の検出は、多重反応モニタリング(MRM)または選択反応モニタリング(SRM)を用いた検出である、請求項3ないし請求項6のいずれか一項に記載のビタミンDの定量方法。
質量の異なるn種の4−(4‘−ジメチルアミノフェニル)−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(DAPTAD)アイソトポログによりそれぞれ誘導体化された、質量の異なるn個の誘導体化試料の混合試料から、ビタミンD誘導体を分離する分離部と、
前記分離部で分離されたビタミンD誘導体をイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部で生成されたイオンを質量に応じて分離して検出する質量分離部と、
前記質量分離部で分離して検出された質量の異なるn種のビタミンD誘導体について、それぞれ検出されたイオンの量に基づいて、前記混合試料中に含まれる前記n種のビタミンD誘導体の量に対して関連付けて定量する計算部と、
を備える、質量分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0019】
以下、本実施の一実施形態について、質量分析装置、ビタミンDの定量方法の順に、図面を参照しながら説明する。
【0020】
1. 質量分析装置
まず、本実施形態に係る質量分析装置の構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る質量分析装置100の構成を模式的に示す図である。
【0021】
図1に示すように、質量分析装置100は、分離部10と、イオン化部20と、質量分離部30と、処理部40と、表示部50と、操作部52と、記憶部54と、を含んで構成されている。さらに、質量分離部30は、第1質量分離部32と、開裂部34と、第2質量分離部36と、を含んで構成されている。
【0022】
質量分析装置100は、2つの質量分離部32,36の間に開裂部34を設けたタンデム型(MS/MS)質量分析装置である。質量分析装置100では、第1質量分離部32で特定の質量数のイオン(プリカーサーイオン)を取り出して開裂部34に導き、第1質量分離部32で選択したプリカーサーイオンから生じた2次的なイオン(フラグメントイオン)を第2質量分離部36で検出する。
【0023】
質量分析装置100の分析対象となる試料は、例えば、ビタミンDおよびビタミンD代謝物を含む生体由来試料等の試料を前処理し、その後、後述する質量の異なるn種の誘導体化試薬(DAPTADアイソトポログ)を用いて誘導体化された、質量の異なるn種の誘導体化試料の混合試料である。
【0024】
分離部10は、n種の誘導体化試料の混合試料から、ビタミンD誘導体を分離する。例えば、分離部10は高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」とも呼ぶ。)であり、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーは、逆相分配高速液体クロマトグラフィーである。分離部10が逆相分配高速液体クロマトグラフィーであることにより、ビタミンD誘導体の分離において、特に、25(OH)D
3と、不活性妨害代謝物である3−エピ体(3−epi−25(OH)D
3)等の構造異性体を分離することが可能となる。
【0025】
分離部10は、図示しないが、移動相容器と、ポンプと、インジェクタと、カラムと、を備える。移動相容器は、移動相を貯留する。ポンプは、移動相容器に貯留された移動相
を吸引し、試料を導入するためのインジェクタを通して、一定の流量で移動相をカラムに供給する。インジェクタは、例えばオートサンプラを備え、あらかじめ調製された所定量の試料を移動相中に導入する。インジェクタによって移動相中に試料が導入されると、移動相とともに、試料はカラムに導入される。
【0026】
質量の異なるn種の誘導体化試料の混合試料は、カラムを通過する間に、カラムに充填された固定相及び移動相と試料中の物質との相互作用の差によって物質が分離される。分離された物質は、時間方向にずれてカラムの出口から溶出する。すなわち、分離された物質ごとに保持時間が定まっており、保持時間は、インジェクタによって試料が移動相中に導入されてからカラムから溶出するまでの時間である。溶出液はイオン化部20に導入される。
【0027】
イオン化部20は、分析対象となる、分離部10で分離されたビタミンD誘導体をイオン化する。イオン化部20で用いるイオン化法は、特に限定されないが、エレクトロスプレーイオン化法(Electrospray Ionization,ESI)が好ましく用いられる。ESIは、最もフラグメンテーションを起こし難く、適用可能な化合物の範囲が広く、また操作性が高いため好ましい。イオン化部20で生成されたイオンは、分析対象MにH
+が付加した状態で質量分離部30に導入され、質量に応じて分離して検出される。
【0028】
第1質量分離部32は、イオン化部20で生成されたイオンを質量に応じて分離して検出する。第1質量分離部は、検出結果の情報(マススペクトルデータ)を、処理部40に出力する。
【0029】
また、第1質量分離部32は、特定のイオンを選択して、開裂部34に送る。第1質量分離部32で選択されるイオンは、処理部40のプリカーサーイオン選択部44で決定される。
【0030】
第1質量分離部32としては、例えば、四重極型(Quadrupole,Q)、飛行時間型(Time−of−Flight,TOF)、イオントラップ型(Ion Trap,IT)、磁場偏向型(Magnetic Sector)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(Fourier−Transform Ion Cyclotron
Resonance, FT−ICR)等の質量分析計を用いることができる。
【0031】
開裂部34は、第1質量分離部32で選択されたプリカーサーイオンを開裂させる。これにより、フラグメントイオンが生成される。すなわち、フラグメントイオンは、プリカーサーイオンを開裂させて得られるイオンである。開裂部34におけるプリカーサーイオンの開裂方法としては、例えば、ガスとの衝突による衝突誘起解離(collision
induced dissociation,CID)法、プリカーサーイオンに光を照射して開裂させる光解離などの方法が挙げられる。なお、開裂部34における開裂方法は特に限定されない。
【0032】
第2質量分離部36は、開裂部34で開裂されたフラグメントイオンを質量に応じて分離して検出する。第2質量分離部36は、検出結果の情報(マススペクトルデータ)を、処理部40に出力する。
【0033】
第2質量分離部36としては、例えば、四重極型(Quadrupole,Q)、飛行時間型(Time−of−Flight,TOF)、イオントラップ型(Ion Trap,IT)、磁場偏向型(Magnetic Sector)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(Fourier−Transform Ion Cyclotron
Resonance, FT−ICR)等の質量分析計を用いることができる。なお、第2質量分離部36では、第1質量分離部32と同じ種類の質量分析計を用いてもよいし、第1質量分離部32とは異なる種類の質量分析計を用いてもよい。ビタミンDを同定する際の第1質量分離部32と第2質量分離部36の組み合わせとしては、例えば、第1質量分離部32および第2質量分離部36がともに四重極型質量分析計である場合などが好ましい。
【0034】
表示部50は、処理部40から入力される表示信号に基づいて、処理部40の処理結果等を文字やグラフその他の情報として表示するものである。表示部50は、例えば、ビタミンDの同定結果を表示する。表示部50は、例えば、CRT、LCD、タッチパネル型ディスプレイなどである。
【0035】
操作部52は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部40に送る処理を行う。操作部52は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0036】
記憶部54は、処理部40が各種の計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部54は、処理部40の作業領域として用いられ、操作部52から入力された操作信号、処理部40が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。
【0037】
記憶部54には、MS/MS測定を行った結果からビタミンDを同定するためのビタミンDのピークリスト(質量電荷比の一覧)が記憶されている。
【0038】
処理部40は、記憶部54に記憶されているプログラムに従って、各種の計算処理を行う。処理部40の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)等のハードウェアや、プログラムにより実現できる。
【0039】
本実施形態では、処理部(CPU)40は、記憶部54に記憶されているプログラムを実行することで、以下に説明する、プリカーサーイオンリスト作成部42、プリカーサーイオン選択部44、計算部46、制御部48として機能する。ただし、処理部40の少なくとも一部をハードウェア(専用回路)で実現してもよい。
【0040】
プリカーサーイオンリスト作成部42は、第1質量分離部32の検出結果に基づいて、プリカーサーイオンリストを作成する。ここで、プリカーサーイオンリストとは、MS/MS測定を行う候補となるイオン、すなわち、第1質量分離部32で選択されるイオンのリストである。
【0041】
具体的には、プリカーサーイオンリスト作成部42は、第1質量分離部32におけるMS測定の結果得られたMSスペクトルに現れるピークについてそのリスト(m/z値のリスト)をつくり、これをプリカーサーイオンリストとする。ここで、MS測定とは、試料をイオン化部20でイオン化して得られたイオンを第1質量分離部32で測定することをいう。また、MSスペクトルとは、MS測定により得られたマススペクトル(横軸にm/z値、縦軸に検出強度を取ったスペクトル)をいう。
【0042】
プリカーサーイオン選択部44は、プリカーサーイオンリスト作成部42が作成したプリカーサーイオンリストからイオンを選択して、第1質量分離部32で選択されるイオンを決定する。すなわち、プリカーサーイオン選択部44がプリカーサーイオンリストから選択したイオンが、第1質量分離部32で選択されてプリカーサーイオンとなる。プリカーサーイオン選択部44は、例えば、プリカーサーイオンリストからピーク強度(検出強
度)が大きい順にイオンを選択する。
【0043】
プリカーサーイオン選択部44がプリカーサーイオンリストからイオンを選択すると、制御部48は、プリカーサーイオン選択部44が選択したイオンについて、MS/MS測定が行われるように、質量分析装置100の各部10,20,30を制御する。このとき、第1質量分離部32では、プリカーサーイオン選択部44で選択されたイオンが選択されて開裂部34に導かれるように制御される。ここで、MS/MS測定とは、イオン化部20で生成されたイオンのなかから特定のイオンを第1質量分離部32で選択し、そのイオンを開裂部34で自発的または強制的に開裂させて第2質量分離部36で質量分析を行うことをいう。
【0044】
計算部46は、質量分離部30で分離して検出された、すなわち、MS/MS測定で得られた質量の異なるn種のビタミンD誘導体について、それぞれ検出されたイオンの量に基づいて、混合試料中に含まれるn種のビタミンD誘導体の量に対して関連付けて定量する。すなわち、計算部46は、第2質量分離部36でフラグメントイオンとして分離された質量の異なるn種のビタミンD誘導体について、ピークの帰属を行い、ビタミンD誘導体として検出された各ピークのイオンの量(イオン強度)に基づいて定量計算を行い、その結果に基づいて、n個の誘導体化試料の混合試料液に含まれるn種のビタミンD誘導体のそれぞれの量を計算し、n個の試料中に含まれる各ビタミンDの定量計算を行う。
【0045】
計算部46は、例えば、MS/MS測定により得られたマススペクトル(MS/MSスペクトル)から得られるピークリスト(質量電荷比の一覧)と記憶部54に記憶されている、誘導体化されたビタミンDおよびビタミンD代謝物のピークリストとを比較する。例えば、計算部46は、記憶部54に記憶されているピークリスト内の情報から、ビタミンD誘導体のフラグメントイオンを選択し、MS/MS測定の結果とピークリストとを照合して、ピークの同定を行うと共に、ピークのイオン強度から、ビタミンDの定量を行う。
【0046】
なお、ピークリストは、トランジションを含み、操作部52の操作によってトランジションを選択することができる。
【0047】
制御部48は、分離部10、イオン化部20、質量分離部30を制御する。制御部48が、これらの各部10,20,30を制御することにより、MS測定やMS/MS測定等が行われる。
【0048】
2. ビタミンDの定量方法
次に、本実施形態に係るビタミンDの定量方法について説明する。
【0049】
本実施形態に係るビタミンDの定量方法は、生体由来試料に含まれるビタミンDを誘導体化試薬を用いて誘導体化し、質量分析装置を用いて測定する、ビタミンDの定量方法であって、n個の試料に対し、n種の4−(4‘−ジメチルアミノフェニル)−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(DAPTAD)アイソトポログをそれぞれ誘導体化試薬として用いて誘導体化を行う誘導体化工程と、前記誘導体化工程により得られたn種の誘導体化試料を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合試料に含まれる、質量の異なるn種のビタミンD誘導体のそれぞれを、質量分析装置を用いて定量分析する定量分析工程と、を含むものである。
【0050】
図2は、本実施形態に係るビタミンDの定量方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、本実施形態に係るビタミンDの定量方法を、
図1に示す質量分析装置100を用いて行う例について説明する。
【0051】
なお、本明細書において、「DAPTAD誘導体」とは、s−cis−ジエンを有する化合物であるビタミンDのs−cis−ジエン部分にクックソン型誘導体化試薬であるDAPTADが付加することにより形成された化合物を意味する。また、本明細書において、「誘導体化」とは、s−cis−ジエンを有する化合物であるビタミンDに、クックソン型誘導体化試薬であるDAPTADを付加させて、DAPTAD誘導体を形成することを意味する。さらに、本明細書において、「誘導体化反応」とは、s−cis−ジエンを有する化合物であるビタミンDに、クックソン型誘導体化試薬であるDAPTADを反応させてDAPTAD誘導体を形成するための反応を意味する。
【0052】
2.1. 誘導体化工程
まず、n個の試料に対し、n種の4−(4‘−ジメチルアミノフェニル)−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(DAPTAD)アイソトポログをそれぞれ誘導体化試薬として用いて、生体由来試料に含まれるビタミンDを誘導体化を行う(ステップS10)。
【0053】
具体的には、n個の生体由来試料、例えば、血漿又は血清を採取して前処理を行い、得られた試料を、それぞれ異なるDAPTADアイソトポログを用いて誘導体化する。
【0054】
2.1.1. ビタミンD
本実施形態において誘導体化の対象となる化合物は、s−cis−ジエンを有する化合物であるビタミンDまたはビタミンD代謝物である。ビタミンDまたはビタミンD代謝物は、その構造中にs−cis−ジエンを有するため、後述するクックソン型誘導体化試薬の一種であるDAPTADとディールス・アルダー反応により定量的に反応して誘導体化され、特にLC/ESI−MS/MSによる分析において、高感度および高選択性な定量分析が可能となる。
【0055】
ビタミンDは、広義の分類ではセコステロイドに属し、植物性食品に由来するビタミンD
2と動物性食品や皮膚産生に由来するビタミD
3の総称である。両者は側鎖構造のみが異なる同族体であり、ヒトの体内では同様に代謝され、同等の生理活性を有すると考えられている。このため、本明細書においては、両者を区別せず、単にビタミンDと表記する。また、本明細書において、ビタミンDおよびビタミンD代謝物のいずれも単にビタミンDとも呼ぶが、これらは、天然若しくは合成により得られたビタミンD又はビタミンD代謝の中間体及び生成物等の、ビタミンDの変換により生成したビタミンDに関連するいずれかの分子種を意味する。
【0056】
そのようなビタミンDの分子種としては、特に限定されないが、例えば、25−ヒドロキシビタミンD
3(25(OH)D
3)、25−ヒドロキシビタミンD
2(25(OH)D
2)、1α,25−ジヒドロキシビタミンD
3(1,25(OH)
2D
3)、23,25−ジヒドロキシビタミンD
3(23,25(OH)
2D
3)、25,26−ジヒドロキシビタミンD
3(25,26(OH)
2D
3)、24,25−ジヒドロキシビタミンD
3(24,25(OH)
2D
3)、4β,25−ジヒドロキシビタミンD
3(4β,25(OH)
2D
3)等が挙げられる。ビタミンDの分子種は、前記の分子種の異性体であってもよく、例えば、3−エピ−25−ヒドロキシビタミンD
3(3−エピ−25(OH)D
3)等が挙げられる。また、これらのビタミンDの分子種は硫酸塩であってもよく、例えば、25−ヒドロキシビタミンD
3−3β−硫酸塩(25(OH)D
3S)等が挙げられる。なお、ビタミンDの定量分析の際には、これらのビタミンDの分子種が複数種含まれていても構わない。
【0057】
2.1.2. DAPTAD
本実施形態の誘導体化工程において、上記のビタミンDおよびビタミンD代謝物は、ク
ックソン型誘導体化試薬の一種であるDAPTADによって誘導体化される。クックソン型誘導体化試薬は、化合物のs−cis−ジエンと選択的に反応し、ディールス・アルダー反応により定量的に誘導体を形成する試薬である。
【0058】
図3に示すように、DAPTAD、すなわち、4−(4‘−ジメチルアミノフェニル)−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオンは、クックソン型誘導体化試薬の中でも、感度、選択性および安定性の観点から、LC/ESI−MS/MSを用いたビタミンDの定量分析において、好適に用いられる。
【0059】
また、本実施形態において、DAPTADは、n種のDAPTADアイソトポログである。アイソトポログは、同位体組成のみ異なる同一分子、すなわち、同一化学組成を有するが、同位体の量が異なることにより分子量の異なる複数の分子種を意味し、各アイソトポログは、特有の正確な質量を有するが、特有の構造を有さない。したがって、誘導体化試薬として同位体を利用し、アイソトポログとして用いることにより、得られる誘導体を質量分析装置によって分析する際の選択性が向上する。特に、LC/ESI−MS/MSによるSRMモードにおいては、MS/MSスペクトルを比較し、共通のイオン、一定の質量差が生じるイオンを整理することにより、測定の際のトランジションの選択の幅が広がるため、より多くの試料および項目を同時に分析することが可能となる。
【0060】
なお、アイソトポログとしては、n種の化合物の間で、分子量がそれぞれ異なる関係となるように設計されておればよく、同位体により標識されている化合物のみを複数種含んでいてもよく、n−1種の標識化化合物と1種の標識されていない化合物を含んでいてもよい。また、標識化に用いる同位体としては、
2H(重水素)、
13C(炭素13)、
15N(窒素15)等の安定同位体を用いることが好ましい。
【0061】
本実施形態では、DAPTADアイソトポログとしては、アイソトポログは、化合物の調製が比較的容易である点により、同位体により標識されていないDAPTADと、安定同位体である重水素(
2H)により標識されたDAPTADであることが好ましい。また、
2Hにより標識されたDAPTADは、天然起源の安定同位体の影響を最小限に抑えるために、互いに質量が少なくとも3Da異なることが好ましい。本実施形態では、例えば、4−(4‘−ジメチルアミノフェニル)部のメチル基の一方または両方が重水素(
2H)により標識された、
2H
3−DAPTADや
2H
6−DAPTADであることが好ましい。この場合、同位体により標識されていないDAPTADは、
2H
0−DAPTADと表記され、
2H
3−DAPTADとは3Da質量が異なり、
2H
6−DAPTADとは6Da質量が異なる。
【0062】
DAPTADの合成は、公知の方法、すなわち、上記の非特許文献1に記載の方法により合成することができる。同位体標識されたDAPTAD、すなわち、
2H
3−DAPTADおよび
2H
6−DAPTADについても同様である。
【0063】
2.1.3. DAPTADによるビタミンDの誘導体化
ビタミンDの誘導体化の前に、まず、n個の生体由来試料、例えば、血漿又は血清を採取して前処理を行う。前処理は、例えば、血漿試料に内標準物質として
2H
6−25(OH)D
3を含有するアセトニトリルを添加し、ボルテックスミキサーを用いて混合の後、遠心分離し、その上清の溶媒を留去することにより行う。必要に応じて、メタノール等の有機溶媒を用いた除タンパクや固相抽出、液液抽出、Supported Liquid
Extraction(SLE)を行うことが好ましい。
【0064】
上記操作により得られた残渣を、DAPTAD、
2H
3−DAPTADまたは
2H
6−DAPTADのいずれかにより誘導体化する。この誘導体化の工程は、エタノール等のア
ルコールを含む誘導化反応停止剤により誘導体化反応を停止させる反応停止工程を含み、この反応停止工程において、得られる誘導体の分解を防止するための誘導体分解防止剤を添加することが好ましい。誘導体分解防止剤は、反応停止工程において反応液に含まれていれば、得られる誘導体の分解を防止する効果が得られるため、誘導体分解防止剤は反応停止工程の前に反応液に添加されていてもよく、また、反応停止剤溶液中に添加されていてもよい。
【0065】
誘導体分解防止剤としては、容易に揮発して、LC/ESI−MS/MSによる分析の際に、LCでの分離や、ESIによるイオン化に影響を与えない化合物であれば、特に限定されず使用可能である。本実施形態で使用可能な誘導体分解防止剤としては、例えば、アンモニアまたはアミンが挙げられる。アミンは、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンのいずれも使用可能である。これらの中でも特に、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミン、メチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミンを用いることが、得られる誘導体の分解防止の点で好ましい。
【0066】
このように、反応停止工程において誘導体分解防止剤を添加することにより、クックソン型誘導体化試薬の製造時に使用して残留した酸化剤が分解され、得られる誘導体の分解が防止される。このため、DAPTAD誘導体が高収率で得られるだけでなく、残留した酸化剤の影響で生成する分解物等も減少する。このため、得られたDAPTAD誘導体をLC/ESI−MS/MSによって分析する際に、感度および選択性が高く、正確な定量分析が可能となる。
【0067】
特に、ビタミンD誘導体のうち25(OH)D
3Sを誘導体化した25(OH)D
3S−DAPTADは、分解して25(OH)D
3−DAPTADへと脱硫酸抱合化される場合がある。このため、試料中に25(OH)D
3Sと25(OH)D
3の両方が含まれる場合、25(OH)D
3S−DAPTADの25(OH)D
3−DAPTADへ分解されると、25(OH)D
3Sは実際よりも値が低く観測され、反対に、25(OH)D
3は実際よりも値が高く観測される。したがって、25(OH)D
3S−DAPTADの分解を抑制するために、反応停止工程において誘導体分解防止剤を添加すると、より高感度で精確に定量分析することが可能となる。
【0068】
なお、上記ビタミンDの誘導体化においては、質量の異なるn種の4−(4‘−ジメチルアミノフェニル)−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(DAPTAD)アイソトポログと、誘導体化反応停止剤と、誘導体分解防止剤と、を備える、ビタミンD定量用試薬キットを用いて行ってもよい。この場合、ビタミンDの定量において、ビタミンDの誘導体化が容易となる。また、このようなビタミンD定量用試薬キットでは、誘導体化試薬としてn種のDAPTADアイソトポログを含むことにより、一度の測定で微量で精確な同時定量分析が可能であり、かつ、一度の測定で複数の試料(n個)の同時分析が可能なことから、分析スループットも向上したビタミンD定量用試薬キットを提供することができる。さらに、誘導化反応停止剤と、誘導体分解防止剤とを備えることにより、得られる誘導体の分解が抑制され、さらに精確な分析が可能となる。
【0069】
2.2. 混合工程
次に上記誘導体化工程で得られたn種(DAPTADアイソトポログが、
2H
0−DAPTAD、
2H
3−DAPTADおよび
2H
6−DAPTADの3種の場合には3種)の試料を混合する(ステップS12)。
【0070】
2.3. 定量分析工程
上記混合工程で得られた混合試料に含まれる、質量の異なるn種のビタミンD誘導体のそれぞれを、タンデム型の質量分析装置100を用いて定量分析する。この定量分析工程
は、より詳細には、誘導体化試料の混合試料を、高速液体クロマトグラフィーで分離する分離工程と、分離された試料をイオン化するイオン化工程と、イオン化工程で生成されたイオンを質量に応じて分離してプリカーサーイオンを選択する第1質量分離工程と、第1質量分離工程で選択されたプリカーサーイオンを開裂させて、1つ以上のフラグメントイオンを生成する開裂工程と、開裂工程で生成された前記1つ以上のフラグメントイオンを、質量に応じて分離する第2質量分離工程と、第2質量分離工程で分離された1つ以上のフラグメントイオンの量を検出して、検出されたイオンの前記量を前記生体由来試料に含まれる前記ビタミンDの量に対して関連付ける工程とを含む。
【0071】
分離工程は、まず、上記で得られた混合試料の溶媒を留去し、残渣を移動相に溶解した試料の一部を、分離部10のLCのインジェクタ(図示せず)より、移動相と共に導入する。質量の異なるn種の誘導体化試料の混合試料は、カラムを通過する間に分離され、時間方向にずれてカラムの出口から溶出する(ステップS14)。
【0072】
次に、制御部48が質量分析装置100の各部10,20,30を制御して、MS測定を行う。
【0073】
まず、イオン化部20が、分離された試料をイオン化する(ステップS16)。次に、第1質量分離部20が、イオン化部20で生成されたイオンを質量分離して検出する。このようにして、MS測定が行われる。第1質量分離部20は、検出結果の情報、すなわちMS測定の結果の情報を、処理部40に出力する。
【0074】
次に、プリカーサーイオンリスト作成部42は、MS測定の結果に基づいて、プリカーサーイオンリストを作成する。
【0075】
具体的には、プリカーサーイオンリスト作成部42は、MS測定の結果からMSスペクトルの情報を取得する。そして、プリカーサーイオンリスト作成部42は、MSスペクトルに現れるピークを検出し、そのピークのm/z値およびそのピーク強度(イオン強度)のリストを作成する。これが、プリカーサーイオンリストとなる。
【0076】
次に、プリカーサーイオン選択部44は、プリカーサーイオンリストからイオンを選択する(ステップS18)。例えば、ビタミンDとして25(OH)D
3を選択し、試薬としてDAPTADを用いた25(OH)D
3−DAPTADを選択する場合、プリカーサーイオン選択部44は、プリカーサーイオンリストから、25(OH)D
3−DAPTADのプリカーサーイオンとして、質量/電荷比619.5のイオンを選択する。また、ビタミンDとして25(OH)D
3Sを選択し、試薬としてDAPTADを用いた25(OH)D
3S−DAPTADを選択する場合、プリカーサーイオン選択部44は、プリカーサーイオンリストから、25(OH)D
3S−DAPTADのプリカーサーイオンとして、質量/電荷比699.6のイオンを選択する。誘導体試薬として
2H
3−DAPTADまたは
2H
6−DAPTADを用いた場合には、質量/電荷比は、それぞれ前記と3Da異なる値となる。
【0077】
次に、制御部48が質量分析装置100の各部10,20,30,40を制御して、MS/MS測定を行う(ステップS16)。ここで、LC/ESI−MS/MSを用いた定量分析では、フラグメントイオンの量の検出は、多重反応モニタリング(MRM)または選択反応モニタリング(SRM)を用いた検出であることが好ましく、特にSRMを用いることが好ましい。この場合、適宜トランジションを選択することにより、誘導体化したビタミンDの分析を行う。その際に用いるLC用のカラムや移動相等の測定条件は、分析対象および使用する装置に応じて適宜選択する。
【0078】
具体的には、イオン化部20で生成されたイオンの中から分析対象となるイオンを第1質量分離部20で選択し、選択されたイオンを開裂部34で開裂させ(ステップS20)、生成されたフラグメントイオンを第2質量分離部36で質量に応じて分離し、質量分析する(ステップS22)。このようにして、MS/MS測定が行われる。例えば、プリカーサーイオンとして、質量/電荷比619.5のイオンを選択した場合、25(OH)D
3−DAPTADのフラグメントイオンは、質量/電荷比341.3となる。同様に、プリカーサーイオンとして、質量/電荷比699.6のイオンを選択した場合、25(OH)D
3S−DAPTADのフラグメントイオンは、質量/電荷比341.3となる。誘導体試薬として
2H
3−DAPTADまたは
2H
6−DAPTADを用いた場合には、質量/電荷比は、それぞれ前記と3Da異なる値となる。
【0079】
第2質量分離部36は、開裂により生成した1つ以上のフラグメントイオンを、質量に応じて分離して検出する。そして、検出結果の情報、すなわちMS/MS測定の結果の情報を、処理部40に出力する。処理部40の計算部46は、MS/MS測定の結果に基づいて、ビタミンDの同定および定量を行う(ステップS24)。
【0080】
具体的には、計算部46は、選択したイオンについてのMS/MS測定の結果(MS/MSスペクトル)取得したマススペクトルデータからピークを検出してピークリストを作成する。そして、取得したピークリスト各ピーク(イオン)の帰属を行い、その質量/電荷比からビタミンDの同定を行う。さらに、イオン(ピーク)の強度、すなわち、イオンの量から、ビタミンDの定量を行う。
【0081】
以上のように、本実施形態によれば、誘導体化試薬として、同位体組成のみ異なる同一分子であるn種のDAPTADアイソトポログを用いることにより、質量分析装置によって分析する際の選択性が向上し、一度の測定でn個の試料の同時定量分析が可能となる。このため、n個の試料中に含まれるビタミンDの微量で精確な分析が可能となり、分析スループットが向上する。
【0082】
なお、本実施形態に係る定量方法は、ビタミンD以外のs−cis−ジエンを有する化合物にも適用可能である。そのような化合物としては、例えば、7−デヒドロコレステロール、エルゴステロール、共役リノール酸、ビタミンA等が挙げられる。
【0083】
また、DAPTAD以外のクックソン型誘導体化試薬のアイソトポログを用いた誘導体の定量方法にも適用可能である。そのようなクックソン型誘導体化試薬としては、例えば、4−フェニル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(PTAD)、4−[2−(6,7−ジメトキシ−4−メチル−3−オキソ−3,4−ジヒドロキノキサリル)エチル]−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(DMEQTAD)、4−(4−ニトロフェニル)−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(NPTAD)、4−フェロセニルメチル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン(FMTAD)等が挙げられる。
【0084】
さらに、本実施形態では、質量分析装置100の質量分離部30として、2つの質量分離部32,36を有するタンデム型質量分析装置(MS/MS)を用いた例を示したが、誘導体化した試料のピークを明りょうに識別できる高い質量分解能を有する装置であれば、質量分離部は1つであっても分析可能である。
【0085】
3.実施例
以下、本発明を実験例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り「%」は「質量%」の意味で用いる。
【0086】
3.1. ビタミンDとして使用した25(OH)D
3
市販の25(OH)D
3(和光純薬工業株式会社製)を用いて、100μg/mLの濃度の25(OH)D
3保存液を調整した。25(OH)D
3保存液の濃度は、265nmにおけるモル吸光係数(ε)18200を用いて、UV分光法により確認した。その後の希釈は、エタノールを用いて行い、0.50,1.0,2.5,5.0,10および25ng/mLの溶液を調製した。内標準物質(IS)として、市販の[26,26,26,27,27,27−
2H
6]−25(OH)D
3(アイソサイエンス社、アメリカ合衆国)を用い、そのエタノール溶液(50ng/mL)を調整した。
【0087】
3.2. DAPTADアイソトポログの合成
同位体標識していないDAPTADは、公知の方法、すなわち、上記の非特許文献1に記載の方法により合成した。同位体標識されたDAPTAD、すなわち、
2H
3−DAPTADおよび
2H
6−DAPTADについては、
図4に記載のスキームに基づき合成した。なお、使用した全ての溶媒は、市販特級品以上のグレードの溶媒である。
【0088】
まず、
2H
3−DAPTADおよび
2H
6−DAPTADの合成のために、中間体[
2H
3−および
2H
6−4−(ジメチルアミノ)安息香酸(スキーム中のIVaおよびIVb]を合成した。
【0089】
4−メチルアミノ安息香酸(I;シグマアルドリッチジャパン合同会社)と4−アミノ安息香酸塩エチル(IIb;東京化成工業株式会社)を購入し、silica−gel 60(Merck製、粒子径60−200μm)シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ;150×12mmi.d.)に付した。
【0090】
4−メチルアミノ安息香酸(I、500mg、3.4mmol)とp−トルエンスルホン酸(50mg、0.22mmol)をメタノール20mL中で混合し、室温にて一晩撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチル50mLで溶解し、飽和食塩水50mLを用いて3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥し、その後溶媒を減圧留去した。残渣を上記と同様のシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。ヘキサン−酢酸エチル(4:1、v/v)溶出画分を集め、溶媒を減圧留去し、4−メチルアミノ安息香酸メチルを無色粉末として得た(IIa、172mg、1.1mmol)
【0091】
4−メチルアミノ安息香酸メチル(IIa、172mg、1.1mmol)、
2H
3−ヨードメタン(400μL、5.7mmol)、炭酸カリウム(200mg、1.4mmol)をメタノール2mL中で混合し、65℃にて一晩撹拌した。反応混合物を酢酸エチル50mLで希釈し、飽和食塩水50mLを用いて3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥し、その後溶媒を減圧留去した。残渣を、上記と同様のシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。ヘキサン−酢酸エチル(4:1、v/v)溶出画分を集め、溶媒を減圧留去し、
2H
3−4−ジメチルアミノ安息香酸メチルを無色粉末として得た(IIIa、108mg、0.59mmol)。
【0092】
2H
3−4−ジメチルアミノ安息香酸メチル(IIIa、108mg、0.59mmol)、水酸化カリウム(100mg、1.8mmol)をメタノール水溶液(1:1、v/v、20mL)中で混合し、90℃にて一晩撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣を水2mLで溶解し、酢酸を用いて酸性化した。混合液を酢酸エチル50mLで希釈し、飽和食塩水50mLを用いて3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥し、その後溶媒を減圧留去し、
2H
3−4−ジメチルアミノ安息香(IVa、85mg、0.49mmol)を無色粉末として得た。IVaは精製することなく次の反応に用いた。
【0093】
4−アミノ安息香酸エチル(IIb、400mg、2.4mmol)、
2H
3−ヨードメタン(900μL、14.4mmol)、炭酸カリウム(400mg、2.8mmol)をエタノール2mL中で混合し、65℃にて一晩撹拌した。反応混合物を酢酸エチル50mLで希釈し、飽和食塩水50mLを用いて3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥し、その後溶媒を減圧留去した。残渣を、上記と同様のシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。ヘキサン−酢酸エチル(7:3、v/v)溶出画分を集め、溶媒を減圧留去し、
2H
6−4−ジメチルアミノ安息香酸エチルを無色粉末として得た(IIIb、225mg、1.2mmol)。
【0094】
2H
6−4−ジメチルアミノ安息香酸エチル(IIIb、225mg、1.2mmol)、水酸化カリウム(100mg、1.8mmol)をメタノール水溶液(1:1、v/v、20mL)中で混合し、90℃にて一晩撹拌した。溶媒を減圧留去し、残渣を水2mLで溶解し、酢酸を用いて酸性化した。混合液を酢酸エチル50mLで希釈し、飽和食塩水50mLを用いて3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥し、その後溶媒を減圧留去した。
2H
6−4−ジメチルアミノ安息香酸(IVb、160mg、0.93mmol)を無色粉末として得た。IVbは精製することなく次の反応に用いた。
【0095】
カルボン酸(IVa、IVb)の
2H
3−DAPTADおよび
2H
6−DAPTADへの変換は、既知の方法(上記の非特許文献1に記載の方法)にて行った。つまり、カルボニルアジド体(Va、Vb)を生成するために、カルボン酸(IVa、IVb)をジフェニルリン酸アジドで処理し、クルチウス転位によりイソシアネート(VIa、VIb)に変換した。イソシアネート体(VIa、VIb)は、カルバジン酸エチルにより処理し、セミカルバジド体(VIIa、VIIb)を生成した。セミカルバジド体(VIIa、VIIb)をアルカリ処理により環化し、ウラゾール体を生成した。その後、得られたウラゾール体(VIIIa、VIIIb)を酢酸エチル中でヨードベンゼンジアセテートを用いて酸化し、
2H
3−DAPTADおよび
2H
6−DAPTADを赤色の酢酸エチル溶液として得た。
【0096】
3.3. DAPTADを用いたビタミンDの誘導体化
後述のように調整した試料を乾燥し、
2H
0−DAPTAD、
2H
3−DAPTADまたは
2H
6−DAPTADのいずれか(10μg)の酢酸エチル溶液(50μL)を加え、その混合物を室温で1時間放置した後、エタノール(20μL)を添加して反応を停止させた。
【0097】
3.4. LC/ESI−MS/MSの条件
・使用した装置
LC/MS/MSは、日本ウォーターズ株式会社製、Waters(登録商標) Quattro Premier XE 三連四重極質量分析装置に、日本ウォーターズ株式会社製、LC−e2695カラムクロマトグラフィーを接続して使用し、イオン化法にはESIを用い、下記分析条件で分析した。
【0098】
・分析条件
カラム:YMC−Pack Pro C18 RS(株式会社ワイエムシィ製、粒子径3μm、カラムサイズ150×2.0mmi.d.)
カラム温度:40℃
移動相:0.05%ギ酸含有メタノール−10mMギ酸アンモニウム(4:1、v/v)
流速:0.2mL/min
イオン化モード:ESI(+)
キャピラリー電圧:3.3kV
コーン電圧:40V[25(OH)D
3−DAPTAD]、35V[25(OHD)
3S−DAPTAD]または30V[25(OH)D
3−DAPTAD]
CE(コリジョンエナジー):25eV
ソース温度:120℃
脱溶媒温度:400℃
脱溶媒ガス(N
2)流量:800L/h
コーンガス(N
2)流量:50L/h
コリジョンガス(Ar)流量:0.19mL/min
【0099】
SRMで使用したトランジションは表1に記載の通りである。
【表1】
【0100】
なお、データの解析には、日本ウォーターズ株式会社製、質量分析用ソフトウェア「Waters MassLynx(登録商標)ソフトウェア」 ヴァージョン4.1内の自動処理システムであるQuanLynxを用いた。
【0101】
3.5. 血漿試料
本発明の方法の開発と評価は、日本赤十字社から入手した新鮮凍結血漿−LR「日赤」(FFP−LR「日赤」)を用いて行った。日本人の新生児からの血漿試料も使用した。血液は、静岡済生会総合病院で出生後60日以内の新生児の手の甲の静脈から採取した。なお、書面によるインフォームド・コンセントを新生児の親から得た。また、実験手順は、東京理科大学の倫理委員会によって承認された。
【0102】
3.6. 前処理
血漿(5.0μL)を、内標準物質(50pg)を含有するアセトニトリル(100μL)に添加し、ボルテックスミキサーを用いて30秒間混合し、その後、1000gで10分間遠心分離した。その上清を別の試験管に移し、N
2気流下で溶媒を留去した。残渣を、DAPTAD、
2H
3−DAPTADまたは
2H
6−DAPTADのいずれかにより誘導体化し、得られた3種の試料を混合して溶媒を留去した。残渣を移動相(60μL)に溶解し、その一部(15μL)をLC/ESI−MS/MSに付した。
【0103】
3.7. サロゲートマトリックスの準備(25(OH)D
3を含まない血漿抽出液)
血漿(1.0μL)をアセトニトリル(9.0μL)に添加し、ボルテックスミキサーを用いて30秒間攪拌し、その後、1000gで10分間遠心分離した。その上清を別の試験管に移し、活性炭(1.0g、Norit(登録商標)、ナカライテスク株式会社製)を用いて15時間攪拌した。2000gで10分間遠心分離して活性炭を除去し、その上清をメスフラスコ中で10mLとなるようにアセトニトリルで希釈し、サロゲートマトリックス(25(OH)D
3を含まない血漿抽出液)として使用した。50μLのサロゲートマトリックスは、5μLのプラズマ由来の成分が含まれている。
【0104】
3.8. 検量線の作成
内標準物質(50pg)と段階的な濃度に調整した25(OH)D
3(5.0,10,25,50,100および250pg;1.0,2.0,5.0,10,20および50ng/mLに相当)を、サロゲートマトリックス(50μL;5μLの血漿に相当。)に
添加した。溶媒を留去した後、残渣を上記の通りに誘導体化した。3種のDAPTADにより誘導体化され、同量の25(OH)D
3を含有する3種の試料を混合し、溶媒を留去した。残渣を移動相に溶解し、LC/ESI−MS/MSに付した。誘導体化した25(OH)D
3と内標準物質のピーク面積比(y軸)を25(OH)D
3の濃度(ng/mL
血漿、x軸)に対してプロットし、得られた回帰直線を検量線として使用した。
【0105】
3.9. 25(OH)D
3の定量におけるDAPTAD同位体の平等
血漿を三分割し(それぞれ5.0μL)、それぞれ内標準物質(50pg)を含有するアセトニトリル(100μL)に添加して前処理し、異なるDAPTADにより誘導体化した。得られた3種の試料を混合し、溶媒を留去した。残渣を移動相に溶解し、LC/ESI−MS/MSに付した。測定により得られたDAPTAD、
2H
3−DAPTADまたは
2H
6−DAPTADにより誘導体化した25(OH)D
3濃度を比較した。この試験は、10種の異なる血漿試料(成人5、新生児5)に対して行われた。
【0106】
3.10. 分析精度と正確度
分析精度について、3種の異なる血漿試料;バッチA(血漿A−1,A−2およびA−3)およびバッチB(血漿B−1,B−2およびB−3)からなる2種のバッチを用いて試験した。血漿A−1およびB−1には
2H
0−DAPTAD、血漿A−2およびB−2には
2H
3−DAPTAD、血漿A−3およびB−3には
2H
6−DAPTADをそれぞれ使用した。日内変動係数(n=5)、日間変動係数(n=5)は、それぞれ、1日および5日間にわたって試料の反復測定により評価した。精度を相対標準偏差(RSD、%)として決定した。
【0107】
分析の正確度は、バッチAとBを用いて評価した。血漿試料(5.0μL)を、内標準物質(50pg)とスパイク試料としての25(OH)D
3(12.5,25,50,および100pg;1.0,2.5,5.0,10,および20ng/mLに相当)を含有するアセトニトリル(100μL)に添加し、前処理し、異なるDAPTADにより誘導体化した。得られた3種の試料を混合し、溶媒を留去した。分析の正確度(回収率)はF/(F
0+X)x100(%)で定義され、ここで、Fはスパイク試料中の25(OH)D
3の濃度を、F
0は日間変動係数により決定された25(OH)D
3濃度を、Xはスパイクされた濃度を表す。
【0108】
3.11. マトリックス効果
マトリックス効果について、post-extraction addition experimentにより調べた。DAPTAD誘導体化25(OH)D
3の標準試料(50pg/60μL、n=5)とマトリックス試料を分析した。この試料は、標準DAPTAD誘導体化25(OH)D
3(50pg/60μL、n=5)に血漿試料15μLの抽出物を添加することにより調製した。
【0109】
3.12. 血漿25(OH)D
3の決定のための標準方法
血漿(5.0μL)を、上記と同様に前処理し、DAPTADにより誘導体化し、LC/ESI−MS/MSに付した。このように、標準方法では、1つの試料は、1回のLC/ESI−MS/MSの走査で分析した。標準方法ではまた、3−epi−25(OH)D
3による25(OH)D
3濃度の偽高値を避けるために、DAPTADにより誘導体化して行った。
【0110】
3.13. 分析結果
3種の異なる試料の同時定量における、天然起源の安定同位体の影響を最小限に抑えるために、互いに質量が少なくとも3Da異なるDAPTADアイソトポログを設計した。DAPTADは上記のように調整し、DAPTADアイソトポログ溶液は酢酸エチル中で
それぞれウラゾール体の酸化によって調製され、誘導体化のために使用した。DAPTADアイソトポログ溶液は、−18℃で保存した場合、2ヵ月は安定であり、2ヶ月以内であるならば誘導体化に使用することができる。
2H
3−DAPTADおよび
2H
6−DAPTADの同位体純度は、25(OH)D
3と反応させた後に、LC/ESI−MS(選択イオン検出;SIM)により決定した。DAPTADアイソトポログの25(OH)D
3との反応は、室温で1時間行われた。
【0111】
2H
3−、
2H
2−、
2H
1−および
2H
0−型のプロトン化分子[M+H]
+(m/z
622.5、621.5、620.5および619.5)をモニターすることにより、
2H
3−DAPTADの同位体純度は99.0%より高かった(
2H
2−型の含有量は0.98%であり、
2H
1−および
2H
0−型は全く検出されなかった。)。
2H
6−DAPTAD(選択イオン m/z 625.5)の同位体純度は約98.5%だった(
2H
5−型の含有量は1.50%であり、
2H
4−、
2H
3−、
2H
3−、
2H
2−、
2H
1−および
2H
0−型は全く検出されなかった。)。このように、使用されたDAPTADアイソトポログは、十分な同位体純度を有していた。
【0112】
図5に示すように、ESI−MSおよびESI−MS/MSにおける、25(OH)D
3−DAPTAD、25(OH)D
3−
2H
3−DAPTADおよび25(OH)D
3−
2H
6−DAPTADの挙動は同様であり、誘導体のプロトン化分子[M+H]
+は、それぞれm/z 619.5,622.5,および625.5であり、[M+H]
+の衝突誘起解離により、m/z 341.3,344.3および347.3において特徴的なA環のフラグメントイオンを与え、これらは、ビタミンD骨格のC6−7結合の開裂に由来する。誘導体化されたIS、
2H
6−25(OH)D
3−DAPTAD、
2H
6−25(OH)D
3−
2H
3−DAPTAD、
2H
6−25(OH)D
3−
2H
6−DAPTADは、同様のフラグメンテーション・パターンを示す(それぞれ、m/z 625.5→341.3、628.5→344.3、631.5→347.3)。このように、フラグメンテーション・パターンは互いに重ならないため、誘導体の間では干渉は起こらない。表1に記載のSRMで使用したトランジションを、血漿中の25(OH)D
3の定量のために使用した。表1において、検出限界は、全ての誘導体において0.25fmolだった(S/N比5)。
【0113】
上記したように、天然起源の安定同位体の影響を最小限に抑えるために、DAPTADアイソトポログは、互いに質量が少なくとも3Da異なるように設計した。この点を確認するために、DAPTAD誘導体および
2H
3−DAPTAD誘導体をLC/ESI−MS/MSに付し、m/z 344.3と374.3(それぞれ、[M+H]
+のアイソトピック質量+3Daに対応する。)のアイソトピックピークをモニターした。結果として、それらの強度は無視できる程度低く、
2H
3−DAPTAD誘導体または
2H
6−DAPTAD誘導体の[M+H]
+のモノアイソトピック質量の強度は0.5%未満であった。これらの結果より、天然起源の安定同位体であるDAPTAD誘導体および
2H
3−DAPTAD誘導体のアイソトピックピークは、それぞれ、
2H
3−DAPTAD誘導体または
2H
6−DAPTAD誘導体の定量に対する影響は無視できる程度であることがわかった。
【0114】
図5に示すように、LCの溶出において、
2H
3−DAPTAD誘導体は、DAPTAD誘導体よりも約0.1分早く溶出する。
2H
6−DAPTAD誘導体は、
2H
3−DAPTAD誘導体よりも約0.1分早く溶出する。したがって、
2H−コードされたアイソトポログは、一般に、それらのH−コードされた化合物よりも逆相LCの固定相とより弱い疎水性相互作用を有するため、僅かながら同位体効果が観察された。しかし、同位体効果は、血漿中の25(OH)D
3の定量分析にはほとんど影響しなかった。25(OH)D
3のDAPTADアイソトポログを用いた誘導体は、
図3に示したように、6R体およ
び6S体の2種類の異性体が存在する。ここでは、血漿中の25(OH)D
3の定量のために、6S体を用いた。
【0115】
3.14. 検量線
検量線は、実際の分析がなされる生体試料と同一のマトリックスを用いてされるべきである。しかし、25(OH)D
3は内因性化合物であり、D結合タンパク質やアルブミンと強く結合しているため、血漿をそのまま活性炭処理に付しても25(OH)D
3を完全に含まない血漿は作成できなかった。本実施例において、血漿から調製したサロゲートマトリックスを、検量線の作成のために使用した。
図6および表2に示すように、0.998より大きな係数(γ
2)を有する十分な直線性が、いずれのDAPTADアイソトポログについても得られた。5種の異なるサロゲートマトリックスを用いて作成された5つの曲線の傾きのRSDは非常に小さかった(0.75−1.12%)ことが示されているように、再現可能な検量線が得られた。いずれのアイソトポログを用いても、各検量線の傾きには有意な差はなかった。
【0117】
3.15. 25(OH)D
3の定量におけるDAPTADアイソトポログの等価
同じ血漿の3つのアリコートを同時に、異なるDAPTADアイソトポログで誘導体化した後に分析し、測定値(25(OH)D
3濃度)を比較した。表3から明らかなように、使用したいずれのDAPTADアイソトポログにおいても、血漿の上清からは類似の値が得られた。測定値のRSDは、4.2%以下であった。このように、DAPTADアイソトポログは、血漿中の25(OH)D
3の定量において、同様に作用することがわかった。
【0119】
3.16. 分析精度と正確度
3種の異なる血漿試料の、3種のDAPTADアイソトポログを用いた同時測定において、表4に示すように、日内変動係数(n=5)は5.9%以下であり、日間変動係数(n=5)も5.5%以下であった。回収率(正確度)は98.7−102.2%であり、本発明による方法は正確であることを示している。
【0121】
3.17. マトリックス効果
3種の血漿試料は同時測定のために混合されているため、多重マトリックス効果(イオン抑制)が懸念された。しかし、post-extraction addition experimentの結果が示すように、マトリックス効果はそれほど重要ではない。マトリックス試料の応答は、標準試料のものの89.7±5.9%(平均±SD、n=5)だった。
【0122】
3.18. 新たに開発された方法の適用性
新たに開発された方法の適用性を実証するために、18バッチ(全部で48血漿試料)を3種のDAPTADアイソトポログを用いた本方法に基づいて分析した。バッチは、3
種の異なる血漿試料からなり、それは、成人23、乳児25から集められた。ESI−MS/MSにおいてDAPTAD誘導体は高感度であるため、25(OH)D
3の測定のために、5.0μLだけ血漿が使われた。誘導体化前の前処理は除タンパクのみを行った。
【0123】
各バッチから得られたクロマトグラムを
図7に示す。それは、成人1と乳児2の試料からなり、誘導体化25(OH)D
3(保持時間8.3分:DAPTAD誘導体、保持時間8.2分:
2H
3−DAPTAD誘導体、保持時間8.1分:
2H
6−DAPTAD誘導体)およびIS(保持時間8.2分:DAPTAD誘導体、保持時間8.1分:
2H
3−DAPTAD誘導体、保持時間8.0分:
2H
6−DAPTAD誘導体、)は、不活性代謝物である3−epi−25(OH)D
3と干渉せずに明確に観察された。
【0124】
3種のDAPTADアイソトポログ[10.4±4.8ng/mL(平均±SD)、2.4−21.1ng/mL(範囲)]を用いたバッチ測定における濃度は、上述の標準方法に一致し、1つの試料は、1度のLC/ESI−MS/MSの走査で分析できた[
図8、10.6±4.9ng/mL(平均±SD)、2.6−22.7ng/mL(測定範囲)]。2つの方法で測定された値には、良好な相関関係がみられた(y=0.955x+0.2442、γ
2=0.968)。○で示す乳児の血漿中の25(OH)D
3濃度は、2.4−13.9ng/mLであり、●で示す成人のものより(5.8−21.1ng/mL)優位に低かった。誘導体化により分析感度は約30倍向上し、5.0μLの血漿を使用した場合における定量の限界は1.0ng/mLだった。したがって、新たに開発した本方法は、乳児の血漿のように25(OH)D
3濃度が低い試料の分析に有効であった。そして、3種のDAPTADアイソトポログを用い、1度の測定で3種の異なる試料中の25(OH)D
3濃度を分析可能である方法は、従来と比べて測定時間が1/3となった(48試料について、540分→170分)。
【0125】
3.19. 血漿中25(OH)D
3と25(OH)D
3Sの同時定量法
次に、血漿中25(OH)D
3と25(OH)D
3Sの同時定量を行った。この例では、試料として血漿試料20μLが使われた。前処理として、誘導体化の前に、除タンパクと、Oasis(登録商標) HLB(製品名、日本ウォーターズ株式会社製)による固相抽出を行った。内標準物質として、
2H
3−25(OH)D
3と
2H
6−25(OH)D
3Sを用いた。
【0126】
得られた結果を
図9−12に示す。
図9、10に示すように、誘導体化25(OH)D
3およびISは、3−epi−25(OH)D
3と干渉せずに明確に観察された。同様に、
図11、12に示すように、誘導体化25(OH)D
3SおよびISは、25(OH)D
3およびISと異なる保持時間において、互いに干渉せずに明確に観察された。また、
図13に示すように、新生児血漿中の25(OH)D
3Sの濃度は、在胎週数と相関する傾向にあり、早産児において低い傾向が見られた。
【0127】
3.20. 誘導体分解防止剤の使用による効果
次に、
図14−17により、25(OH)D
3をDAPTADを用いて誘導体化する際に、反応停止工程において、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加したことによる効果を説明する。
【0128】
図14および16は、25(OH)D
3−DAPTAD誘導体化の反応停止工程の際に、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加しなかった例のマスクロマトグラムであり、
図15および17は、25(OH)D
3−DAPTAD誘導体化の反応停止工程の際に、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加した例のマスクロマトグラムである。なお、全ての例において、誘導体化する試料の中に25(OH)D
3以外の化合物は加えておらず、分析条件は上記と同様であり、観測したトランジションは25(OH)D
3−DAPTADである。また、
図14および15では、使用した試料の量は2.5pg相当量、
図16および17では、使用した試料の量は100pg相当量をインジェクションした。
【0129】
まず、2.5pg相当量をインジェクションした
図14および15を比較してみると、
図14と比べて、
図15ではSRM測定における25(OH)D
3−DAPTADのトランジションでのノイズが低減し、シグナルノイズ比(S/N比)が大きくなっていた。これにより、25(OH)D
3をDAPTADで誘導体化する際に、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加すると、25(OH)D
3−DAPTAD誘導体の分解が抑えられ、ノイズも低減されたものと考えられる。
【0130】
また、100pg相当量をインジェクションした
図16および17を比較してみると、
図16では、ノイズよりも誘導体のイオン強度が有意に減少していたが、
図16と比べて、
図17ではSRM測定における25(OH)D
3−DAPTADのトランジションでのイオン強度が大きくなっていた。
【0131】
このように、25(OH)D
3をDAPTADで誘導体化の反応停止工程において、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加することにより、25(OH)D
3−DAPTADの分解防止効果が得られることが分かった。
【0132】
次に、
図18−21により、25(OH)D
3SをDAPTADを用いて誘導体化する際に、反応停止工程において、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加したことによる効果を説明する。
【0133】
図18および20は、25(OH)D
3S−DAPTAD誘導体化の反応停止工程の際に、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加しなかった例のマスクロマトグラムであり、
図19および21は、25(OH)D
3S−DAPTAD誘導体化の反応停止工程の際に、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加した例のマスクロマトグラムである。
図18および19では、観測したトランジションは25(OH)D
3−DAPTADであり、
図20および21では、観測したトランジションは25(OH)D
3S−DAPTADである。なお、全ての例では、誘導体化する試料の中に25(OH)D
3等の25(OH)D
3S以外の化合物は加えておらず、分析条件は上記と同様である。
【0134】
図18と19を比較してみると、保持時間8.0−9.0分にかけて観測される25(OH)D
3−DAPTADピークは、
図18の方がイオン強度が高い結果となった。これに対し、
図20と21を比較してみると、保持時間5.0分前後に観測される25(OH)D
3S−DAPTADピークは、
図21の方がイオン強度が高い結果となった。これらの結果により、25(OH)D
3SをDAPTADを用いて誘導体化する際に、トリエチルアミンを添加しない場合には、25(OH)D
3S−DAPTADが分解して25(OH)D
3−DAPTADへと脱硫酸抱合化される場合があるが、トリエチルアミンを添加すると、25(OH)D
3S−DAPTADの25(OH)D
3−DAPTADへの分解が抑制されることが示された。
【0135】
ここで、25(OH)D
3Sおよび25(OH)D
3は、いずれも内因性のビタミンD代謝物であり、いずれも測定対象となるが、
図18および20に示されたように、誘導体化した25(OH)D
3S−DAPTADの一部が分解して25(OH)D
3−DAPTADとなると、25(OH)D
3S−DAPTADの正確な定量も難しくなる。これに対し、
図20および21に示したように、反応停止工程の際に誘導体分解防止剤を添加すると、25(OH)D
3S−DAPTADの分解が抑制されるため、25(OH)D
3S−DAPTADの精度の良い定量が可能となる。
【0136】
さらに、
図14−17の結果により、25(OH)D
3も、DAPTADによる誘導体化の際に、反応停止工程の際に誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加すれば誘導体の分解防止効果が得られるため、イオン強度も減少しない。このため、25(OH)D
3と25(OH)D
3Sとが混在する試料の場合であっても、DAPTADによる誘導体化の反応停止工程の際に誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加することにより、どちらか一方だけ測定したい場合であっても、また、同時に両方を測定したい場合にも、それぞれを精度良く定量することが可能となり、トリエチルアミンの添加により測定値の信頼性を向上させることが可能となることが示された。
【0137】
以上により、25(OH)D
3−DAPTADおよび25(OH)D
3S−DAPTADは、DAPTAD調製時に残ってしまった酸化剤(ヨードベンゼンジアセテート)により分解される場合もあるが、DAPTAD誘導体化の反応停止工程の際に、誘導体分解防止剤としてトリエチルアミンを添加することで、誘導体の分解が抑えられ、従来よりも高感度で精確に定量分析することが可能となることがわかった。
【0138】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。