特許第6739142号(P6739142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6739142リチウムイオン2次電池用負極活物質およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739142
(24)【登録日】2020年7月27日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】リチウムイオン2次電池用負極活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20200730BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20200730BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20200730BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200730BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/1393
   H01M4/1395
   H01M4/36 A
   H01M4/36 E
   H01M4/38 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-100861(P2014-100861)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2015-219989(P2015-219989A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年4月18日
【審判番号】不服2018-10447(P2018-10447/J1)
【審判請求日】2018年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】津吉 徹
【合議体】
【審判長】 粟野 正明
【審判官】 平塚 政宏
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−535776(JP,A)
【文献】 特開2004−362789(JP,A)
【文献】 特開2013−145669(JP,A)
【文献】 特開2008−311209(JP,A)
【文献】 特開2004−146292(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/183717(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/1393
H01M 4/1395
H01M 4/36
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.01〜5μmであるSiまたはSi合金と、炭素質物と黒鉛とからなる平均粒子径が1〜40μmである複合化物に、黒鉛を添加してなる混合物であり、添加する黒鉛の平均粒子径が0.1〜40μmであり、複合化物の粒子径に対する黒鉛の平均粒子径は30〜100%であり、SiまたはSi合金と炭素質物が共に0.5μm以下の厚みの黒鉛薄層の間に挟まった構造であり、その構造が積層および/または網目状に広がっており、該黒鉛薄層が複合化物粒子の表面付近で湾曲して複合化物粒子を覆っており、その複合化物粒子の周りに黒鉛が配置していることを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極活物質。
【請求項2】
SiまたはSi合金の量は複合化物中の10重量%以上80重量%以下であり、複合化物に添加する黒鉛の量は、複合化物と添加する黒鉛の総量に対して0.5重量%以上99.5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン2次電池用負極活物質。
【請求項3】
SiまたはSi合金、炭素前駆体、黒鉛を混合する工程と、造粒・圧密化する工程と、混合物を粉砕して複合化物粒子を形成する工程と、該複合化物粒子を不活性ガス雰囲気中で焼成する工程と、複合化物と黒鉛とを混合する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン2次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
複合化物と黒鉛とを混合する工程において、該複合化物と該黒鉛とを溶媒を用いてスラリー化することを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン2次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
複合化物と黒鉛とを混合する工程において、電極作製時に必要なバインダーと導電助剤とを添加する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン2次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン2次電池用負極活物質およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、タブレット型端末などモバイル機器の高性能化やHEV、PHEV、EVなどエネルギー効率の高い車両の普及に伴い、リチウムイオン2次電池に対する要求も複雑化している。例えばモバイル機器では、その使用目的から充電深度(DOD)の深い所で高耐久性・高容量材料が要望されている。一方、EVのような車載用途では充電深度の制御が可能なため、比較的充電深度の浅い所において高容量でサイクル特性が高い電池材料が要望されている。
【0003】
現在、リチウムイオン2次電池の負極材には主に黒鉛が用いられているが、さらなる高容量化のため、理論容量が高く、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な元素であるシリコンやスズ等の金属、もしくは他の元素との合金を用いた負極材の開発が活発に行われている。
【0004】
一方、これらのリチウムイオンを吸蔵・放出可能な金属材料からなる活物質は、充放電に伴い、リチウムが金属材料に挿入・脱離することにより、体積の膨張・収縮が起こることが知られている。そのため、Li挿入・脱離に伴う応力により、活物質の微細化が起こり、負極材料の構造破壊により導電性が切断されると言われている。従って、これらの金属材料を用いた負極は繰り返し使用により電池寿命が著しく低下することが課題となっている。
【0005】
この課題に対し、これらの金属材料を微粒子化し、炭素質物や黒鉛などで複合化する手法が提案されている。このような複合粒子は、これらの金属材料がリチウムと合金化し、微細化しても炭素質物や黒鉛によって導電性が確保されるため、これらの材料を単独で負極材として用いるよりもサイクル特性が向上することが知られている。例えば、特許文献1には、炭素質物と、平均粒子径が10nm以上200nm以下の、Ag、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn及びPbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素からなるナノ金属微粒子とを含有し、該炭素質物、該黒鉛質物及び該ナノ金属微粒子の合計重量に対して、該ナノ金属微粒子を3重量%以上、20重量%以下含有することが開示されている。また、特許文献2には、黒鉛粒子、Si微粒子及び非晶質炭素(A)を含む複合粒子表面に、黒鉛又はカーボンブラックから選ばれる少なくとも1種類以上を含む炭素質粒子が配置されるとともに、該炭素質物負極活物質が、非晶質炭素(B)によって被覆されていることが開示されている。さらに、特許文献3には、黒鉛粒子の周りに珪素及び炭素を少なくとも含有するとともに前記黒鉛粒子より粒子径が小さな複合粒子が分散して配置され、かつ前記黒鉛粒子および前記複合粒子が非晶質炭素膜によって被覆されたことが記載されている。また、特許文献4には、X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の幅をもとにシーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1〜500nmである、珪素の微結晶が珪素化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることが開示されている。
【0006】
特許文献1、2では、金属Siの微細粒子を黒鉛や炭素質物中に均一混合またはSi微粒子の表面を非晶質炭素で被覆を行っているが、サイクル特性が十分に確保できていない。サイクル特性を向上させるために特許文献3、4ではSiOx相中にSiの微結晶を析出させると共に粒子表面を炭素でコーティングする方法を採用している。それによりサイクル特性は向上するものの、非特許文献1において示されているようにSiOx相がLiと反応して電気化学的に不活性なLiSiOに変化するため、初期クーロン効率が著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−213927公報
【特許文献2】特開2008−277232公報
【特許文献3】特許第4308446号公報
【特許文献4】特許第3952180号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Yamada Battery Technology 22,72(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、SiまたはSi合金(以下、併せて「Si化合物」という)と、炭素質物または炭素質物と黒鉛とを含んで複合化した材料に、炭素化物を高分散に添加混合したリチウムイオン2次電池用負極活物質であり、放電容量が大きく、Si化合物を用いてもサイクル寿命が長く、クーロン効率の高いリチウムイオン2次電池を与える負極活物質およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことにSi化合物と、炭素質物または炭素質物と黒鉛とを含んでなるリチウムイオン2次電池用負極活物質において、Si化合物と炭素質物と黒鉛とを複合化した後に、炭素化物を添加して高分散混合することによって、Si化合物を使用した場合でも、高容量で、サイクル寿命が長く、クーロン効率の高いリチウムイオン2次電池を与える負極活物質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、平均粒子径が0.01〜5μmであるSiまたはSi合金と、炭素質物または炭素質物と黒鉛とからなる平均粒子径が1〜40μmである複合化物に、炭素化物を添加してなる混合物であることを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極活物質である。
【0012】
以下、本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質について詳細に説明する。
【0013】
本発明でいうSiとは、純度が98%程度の汎用グレードの金属シリコン、純度が2〜4Nのケミカルグレードの金属シリコン、塩素化して蒸留精製した4Nより高純度のポリシリコン、単結晶成長法による析出工程を経た超高純度の単結晶シリコン、半導体製造プロセスで発生したウエハの研磨や切断の屑、プロセスで不良となった廃棄ウエハなど、汎用グレードの金属シリコン以上の純度のものであれば特に限定されない。
【0014】
本発明でいうSi合金とは、Siが主成分の合金である。前記Si合金において、Si以外に含まれる元素としては、周期表2〜15族の元素の一つ以上が好ましく、合金に含まれる相の融点が900℃以上となる元素の選択および/または添加量が好ましい。
【0015】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質において、Si化合物の平均粒子径(D50)は0.01〜5μmであり、0.05〜0.5μmの範囲がさらに好ましい。0.01μmより小さいと、表面酸化による容量や初期効率の低下が激しく、5μmより大きいと、リチウム挿入による膨張で割れが激しく生じ、サイクル劣化が激しくなりやすい。なお、平均粒子径(D50)はレーザー粒度分布計で測定した体積平均の粒子径である。
【0016】
本発明のSi化合物と、炭素質物または炭素質物と黒鉛とからなる複合化物粒子の平均粒子径は1〜40μmである。複合化物粒子の平均粒子径が1μm未満の場合は、嵩高くなって高密度の電極が作製し難くなると共に、粒子径が小さい微粉体であるためハンドリングに難点がある。粒子径が40μmを超えると負極の塗布厚みを厚くしないとシート作製ができないため、電極シート抵抗が大きくなり、放電容量やサイクル特性が低下する。
【0017】
本発明でいう炭素質物とは、非晶質もしくは微結晶の炭素物質であり、2000℃を超える熱処理で黒鉛化する易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)と、黒鉛化し難い難黒鉛化炭素(ハードカーボン)がある。
【0018】
本発明でいう黒鉛とは、グラフェン層がc軸に平行な結晶であり、鉱石を精製した天然黒鉛、石油や石炭のピッチを黒鉛化した人造黒鉛等があり、原料の形状としては鱗片状、小判状もしくは球状、円柱状もしくはファイバー状等がある。また、それらの黒鉛を酸処理、酸化処理した後、熱処理することにより膨張させ、黒鉛層間の一部が剥離してアコーディオン状となった膨張黒鉛もしくは膨張黒鉛の粉砕物、または超音波等により層間剥離させたグラフェン等も用いることができる。
【0019】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質において、複合化物中に存在するSi化合物の量は、10重量%以上80重量%以下が好ましく、15〜50重量%がさらに好ましい。Si化合物の含有量が10重量%未満の場合、従来の黒鉛に比べて十分に大きい容量が得られず、80重量%より大きい場合、サイクル劣化が激しくなりやすい。
【0020】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質において、複合化物に添加混合する炭素化物の添加量は、複合化物と添加する炭素化物の総量に対して0.5重量%以上99.5重量%以下が好ましく、より好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは20〜80重量%である。
【0021】
本発明でいう添加する炭素化物は特に限定するものではないが、導電性を有し、Liの挿入脱離による負極活物質としての充放電容量を有し、サイクル特性やクーロン効率に優れた負極材料が好ましい。具体的には、前記炭素質物や黒鉛等が挙げられる。そのような材料を単独で使用した場合、電気抵抗率が1×10−5Ωm以上、初期放電容量が350mAh/g程度であり、50サイクル後のサイクル容量維持率が95%以上、初回クーロン効率が85%以上、10回目のクーロン効率が98%以上、50回目のクーロン効率が99%以上のものが好ましい。
【0022】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質において、前記添加する炭素化物の粒子径は0.1〜40μmが好ましい。粒子径が0.1μm未満では、非常に微細な粒子のため、複合化物粒子との均質混合が難しい。粒子径が40μmを超えると負極の塗布厚みを厚くしないとシート作製ができないため、電極シート抵抗が大きくなり、放電容量やサイクル特性が低下する。
【0023】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質において、複合化物の粒子径に対する添加する炭素化物の平均粒子径の比率(平均粒子径比)は2.5〜300%であり、10〜200%が好ましく、30〜100%がさらに好ましい。平均粒子径比が2.5%未満では複合化物粒子に比べ添加する炭素化物の粒子径が極端に小さくなり、複合化物粒子との均質混合が難しくなる可能性がある。また、平均粒子径比が300%を超えると複合化物粒子の導電性を確保するのが難しくなる可能性がある。
【0024】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質においては、前記Si化合物と炭素質物が共に0.5μm以下の厚みの黒鉛薄層の間に挟まった構造であることが好ましく、その構造が積層および/または網目状に広がって活物質粒子を形成し、該黒鉛薄層が活物質粒子の表面付近で湾曲して複合化物粒子を覆っており、その複合化物粒子の周りに黒鉛または炭素質物が配置していることが好ましい。黒鉛薄層の厚みが0.5μmを超えると黒鉛薄層の電子伝導性が低下する可能性がある。
【0025】
次に、本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質の製造方法について説明する。
【0026】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質の製造方法は、Si化合物、炭素前駆体、さらに必要に応じて黒鉛を混合する工程と、造粒・圧密化する工程と、混合物を粉砕して複合化物粒子を形成する工程と、該複合化物粒子を不活性ガス雰囲気中で焼成する工程と、複合化物と炭素化物とを混合する工程を含むものである。
【0027】
原料であるSi化合物は、平均粒子径(D50)が0.01〜5μmの粉末を使用する。所定の粒子径のSi化合物を得るためには、上述のSi化合物の原料(インゴット、ウエハ、粉末などの状態)を粉砕機で粉砕し、場合によっては分級機を用いる。インゴット、ウエハなどの塊の場合、最初はジョークラッシャー等の粗粉砕機を用いて粉末化することができる。その後、例えば、ボール、ビーズなどの粉砕媒体を運動させ、その運動エネルギーによる衝撃力や摩擦力、圧縮力を利用して被砕物を粉砕するボールミル、媒体撹拌ミルや、ローラによる圧縮力を利用して粉砕を行うローラミルや、被砕物を高速で内張材に衝突もしくは粒子相互に衝突させ、その衝撃による衝撃力によって粉砕を行うジェットミルや、ハンマー、ブレード、ピンなどを固設したローターの回転による衝撃力を利用して被砕物を粉砕するハンマーミル、ピンミル、ディスクミルや、剪断力を利用するコロイドミルや高圧湿式対向衝突式分散機「アルティマイザー」などを用いて微粉砕することができる。
【0028】
粉砕は、湿式、乾式共に用いることができる。さらに微粉砕するには、例えば、湿式のビーズミルを用い、ビーズの径を段階的に小さくすること等により非常に細かい粒子を得ることができる。また、粉砕後に粒度分布を整えるため、乾式分級や湿式分級もしくはふるい分け分級を用いることができる。乾式分級は、主として気流を用い、分散、分離(細粒子と粗粒子の分離)、捕集(固体と気体の分離)、排出のプロセスが逐次もしくは同時に行われ、粒子相互間の干渉、粒子の形状、気流の乱れ、速度分布、静電気の影響などで分級効率を低下させないように、分級をする前に前処理(水分、分散性、湿度などの調整)を行うか、使用される気流の水分や酸素濃度を調整して行われる。乾式で分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行われ、所望の粒度分布とすることが可能となる。
【0029】
別の所定の粒子径のSi化合物を得る方法としては、プラズマやレーザー等でSi化合物を加熱して蒸発させ、不活性ガス中で凝固させて得る方法、ガス原料を用いてCVDやプラズマCVD等で得る方法があり、これらの方法は0.1μm以下の超微粒子を得るのに適している。
【0030】
原料の炭素前駆体としては、炭素を主体とする炭素系化合物で、不活性ガス雰囲気中での熱処理により炭素質物になるものであれば特に限定されないが、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、合成ピッチ、タール類、セルロース、スクロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリルアルコール、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。
【0031】
原料である黒鉛は、天然黒鉛、石油や石炭のピッチを黒鉛化した人造黒鉛等が利用でき、鱗片状、小判状もしくは球状、円柱状もしくはファイバー状等が用いられる。また、それらの黒鉛を酸処理、酸化処理した後、熱処理することにより膨張させて黒鉛層間の一部が剥離してアコーディオン状となった膨張黒鉛もしくは膨張黒鉛の粉砕物、または超音波等により層間剥離させたグラフェン等も用いることができる。原料の黒鉛は予め混合工程で使用可能な大きさに整えて使用し、混合前の粒子サイズとしては天然黒鉛や人造黒鉛では1〜100μm、膨張黒鉛もしくは膨張黒鉛の粉砕物、グラフェンでは5μm〜5mm程度である。
【0032】
これらのSi化合物、炭素前駆体、さらに必要に応じて黒鉛との混合は、炭素前駆体が加熱により軟化、液状化するものである場合は、加熱下でSi化合物、炭素前駆体、さらに必要に応じて黒鉛を混練することによって行うことができる。また、炭素前駆体が溶媒に溶解するものである場合には、溶媒にSi化合物、炭素前駆体、さらに必要に応じて黒鉛を投入し、炭素前駆体が溶解した溶液中でSi化合物、炭素前駆体、さらに必要に応じて黒鉛を分散、混合し、次いで溶媒を除去することで行うことができる。用いる溶媒は、炭素前駆体を溶解できるものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、炭素前駆体としてピッチ、タール類を用いる場合には、キノリン、ピリジン、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、クレオソート油等が使用でき、ポリ塩化ビニルを用いる場合には、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ニトロベンゼン等が使用でき、フェノール樹脂、フラン樹脂を用いる場合には、エタノール、メタノール等が使用できる。
【0033】
混合方法としては、炭素前駆体を加熱軟化させる場合は、混練機(ニーダー)を用いることができる。溶媒を用いる場合は、上述の混練機の他、ナウターミキサー、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサ、ハイスピードミキサー、ホモミキサー等を用いることができる。また、これらの装置でジャケット加熱したり、その後、振動乾燥機、パドルドライヤーなどで溶媒を除去する。
【0034】
これらの装置で、炭素前駆体を固化、または、溶媒除去の過程における撹拌をある程度の時間続けることで、Si化合物、炭素前駆体、さらに必要に応じて黒鉛との混合物は造粒・圧密化される。また、炭素前駆体を固化、または溶媒除去後の混合物をローラーコンパクタ等の圧縮機によって圧縮し、解砕機で粗粉砕することにより、造粒・圧密化することができる。これらの造粒・圧密化物の大きさは、その後の粉砕工程での取り扱いの容易さから0.1〜5mmが好ましい。
【0035】
造粒・圧密化物の粉砕方法は、圧縮力を利用して被砕物を粉砕するボールミル、媒体撹拌ミルや、ローラによる圧縮力を利用して粉砕を行うローラミルや、被砕物を高速で内張材に衝突もしくは粒子相互に衝突させ、その衝撃による衝撃力によって粉砕を行うジェットミルや、ハンマー、ブレード、ピンなどを固設したローターの回転による衝撃力を利用して被砕物を粉砕するハンマーミル、ピンミル、ディスクミル等の乾式の粉砕方法が好ましい。また、粉砕後に粒度分布を整えるため、風力分級、ふるい分け等の乾式分級が用いられる。粉砕機と分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行われ、所望の粒度分布とすることが可能となる。
【0036】
粉砕して得られた複合粒子は、アルゴンガスや窒素ガス気流中、もしくは真空など不活性雰囲気中で焼成する。
【0037】
前記複合化物と炭素化物とを混合する方法は、特に限定しないが、該複合化物と該炭素化物とを水またはアルコール等の有機溶媒等の分散溶媒を用いてスラリー化することが好ましい。それ以外の方法としては、V型ミキサー、スクリューミキサー等の乾式法が挙げられる。
【0038】
前記複合化物と炭素化物とを混合する工程において、電極作製時に必要なバインダーと導電助剤を添加することが可能である。これにより、複合化物と炭素化物、バインダー、導電助剤を一度に添加して調合できるだけでなく、これにより、それらの部材の均質な調製が可能となる。
【0039】
このようにして得られる本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質は、リチウム2次電池の負極材料として用いることができる。
【0040】
本発明の負極活物質は、例えば、有機系結着剤、導電助剤および溶剤と混練して、シート状、ペレット状等の形状に成形するか、または集電体に塗布し、該集電体と一体化してリチウム2次電池用負極とされる。
【0041】
有機系結着剤としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イオン導電性の大きな高分子化合物が使用できる。イオン導電率の大きな高分子化合物としては、ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド等が使用できる。有機系結着剤の含有量は、負極材全体に対して3〜20重量%含有させることが好ましい。また、有機系結着剤の他に粘度調整剤として、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、その他のアクリル系ポリマー、または脂肪酸エステル等を添加しても良い。
【0042】
導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であれば良く、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粉末や金属繊維、または天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛などを用いることができる。導電剤の添加量は、負極材全体中に対して0〜20重量%であり、さらには1〜10重量%が好ましい。導電剤量が少ないと、負極材の導電性に乏しい場合があり、初期抵抗が高くなる傾向がある。一方、導電剤量の増加は電池容量の低下につながる恐れがある。
【0043】
前記溶剤としては特に制限はなく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、イソプロパノール、純水等が挙げられ、その量に特に制限はない。集電体としては、例えばニッケル、銅等の箔、メッシュなどが使用できる。一体化は、例えばロール、プレス等の成形法で行うことができる。
【0044】
このようにして得られた負極は、セパレータを介して正極を対向して配置し、電解液を注入することにより、従来のシリコンを負極材料に用いたリチウム2次電池と比較して、サイクル特性に優れ、高容量、高初期効率という優れた特性を有するリチウム2次電池を作製することができる。
【0045】
正極に用いられる材料については、例えばLiNiO、LiCoO、LiMn、LiNiMnCo1−x−y、LiFePO、Li0.5Ni0.5Mn1.5、LiMnO−LiMO(M=Co,Ni,Mn)等を単独または混合して使用することができる。
【0046】
電解液としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等のリチウム塩を、例えばエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート等の非水系溶剤に溶解させた、いわゆる有機電解液を使用することができる。さらには、イミダゾリウム、アンモニウム、およびピリジニウム型のカチオンを用いたイオン液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF、PF、(CFSO等が挙げられる。イオン液体は前述の有機電解液溶媒と混合して使用することが可能である。電解液には、ビニレンカーボネートやフロロエチレンカーボネートの様なSEI(固体電解質界面層)形成剤を添加することもできる。
【0047】
また、上記塩類をポリエチレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド等やこれらの誘導体、混合物、複合体等に混合された固体電解質を用いることもできる。この場合、固体電解質はセパレータも兼ねることができ、セパレータは不要となる、セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはこれらを組み合わせたものを使用することができる。
【0048】
その後、充放電装置を用いて電池性能を評価する。電池評価条件は、特に制約はなく、定電流法、定電流定電圧法、定容量法、定電力法、パルス法などが挙げられる。特に、定電流法、定電流定電圧法は、充放電深度(DOD)が100%近くでの電池特性評価として用いられることが多く、定容量法や定電力法は、充放電深度(DOD)が比較的浅い領域での電池評価にも使用することが可能である。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、微粒子のシリコンによる粒子当たりの膨張体積の低減と、緻密な炭素質物との複合化物と黒鉛との高分散混合により、電気伝導パスのネットワークが網目状に広がっているため、繰り返しの充放電時の電気伝導性の低下を抑えることが可能となり、高容量でかつ優れたサイクル特性と、安定したクーロン効率が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】実施例1で得られた負極複合化粒子断面のFE−SEMによる低倍率の反射電子像である。
図2】実施例1で得られた負極複合化粒子断面のFE−SEMによる高倍率の反射電子像である。
図3】実施例1で得られた負極活物質の電極シート作製後のSEM写真である。
図4】実施例2で得られた負極活物質の電極シート作製後のSEM写真である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
平均粒子径(D50)が7μmのケミカルグレードの金属Si(純度3N)をエタノールに20重量%混合し、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いた微粉砕湿式ビーズミルを6時間行い、平均粒子径(D50)が0.3μm、乾燥時のBET表面積が100m/gの超微粒子Siスラリーを得た。
【0053】
粒子径約0.5mm、厚み約0.02mmの扁平形状をした天然黒鉛を、濃硫酸に硝酸ナトリウム1重量%、過マンガン酸カリウム7重量%を添加した液に24時間浸漬し、その後、水洗して乾燥し、酸処理黒鉛を得た。この酸処理黒鉛を、5g/分の供給速度になるように14L/分の流量の窒素ガスを流動させて電気ヒーターで1150℃に加熱した長さ1m、内径11mmのムライト管に通した。上記加熱処理により酸処理黒鉛中の硫酸が亜硫酸等のガスに分解排出することによって酸処理黒鉛は膨張し、それをステンレス容器で捕集した。熱処理前後の軽装嵩密度の比率より算出した膨張率は350%であった。SEM観察で、黒鉛層が厚み方向に剥離膨張化し、アコーディオン状の形状をした粉末であることが確認された。
【0054】
上記超微粒子Siスラリーを86g、上記膨張黒鉛を20.6g、レゾール型のフェノール樹脂(ASBERY社製グレード3772)を12.9g、エタノール3.2Lを撹拌容器に入れて、ホモミキサーで8000rpmで1時間混合撹拌した。その後、混合液をロータリーエバポレーターに移し、回転しながら温浴で60℃に加熱し、アスピレータで真空に引き、溶媒を除去した。その後、ドラフト中でバットに広げて排気しながら2時間乾燥し、目開き2mmのメッシュを通し、さらに12時間乾燥して、約50gの混合乾燥物(軽装嵩密度80g/L)を得た。
【0055】
この混合乾燥物を3本ロールミルに2回通し、粒度約2mm、軽装嵩密度467g/Lに造粒・圧密化した。
【0056】
次に、この造粒・圧密化物をニューパワーミルに入れて水冷しながら、21000rpmで15分間粉砕し、同時に球形化し、軽装嵩密度640g/Lの球形化粉末を得た。得られた粉末をアルミナボートに入れて、管状炉で窒素ガスを流しながら、最高温度900℃で1時間焼成した。その後、目開き45μmのメッシュを通し、平均粒子径(D50)が18.6μm、軽装嵩密度が753g/Lの複合化物を得た。
【0057】
図1に、得られた複合化物粒子をイオンビームで切断した断面のFE−SEMによる反射電子像を示す。複合化物粒子内部は0.05〜1.0μmの長さのSiの微粒子が炭素質物と共に0.02〜0.5μmの厚みの黒鉛薄層に挟まった構造が網目状に広がり、積層していた。この複合化物に添加する炭素化物として、平均粒子径(D50)が12.1μmの市販の天然黒鉛(日本黒鉛製CGB10)を使用した。複合化物と添加した黒鉛の平均粒子径比は65%であった。使用した天然黒鉛の放電容量は365mAh/gであり、50回充放電を繰り返した後の放電容量も365mAh/gと放電容量は殆ど変化しなかった。また、初回クーロン効率は86.6%、10回充放電を繰り返した後のクーロン効率は99.0%、50回充放電を繰り返した後のクーロン効率は99.7%であった。
【0058】
「リチウムイオン2次電池用負極の作製」
得られた前記複合化物と天然黒鉛(50:50重量%)を負極活物質として秤量し、前記負極活物質を95.5重量%(固形分全量中の含有量。以下同じ。)に対して、導電助剤としてアセチレンブラック0.5重量%と、バインダとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)1.5重量%とスチレンブタジエンゴム(SBR)2.5重量%、水とを混合後、自転・公転ミキサー(シンキー製泡取り錬太郎)を用いて負極活物質を分散混合して負極合剤含有スラリーを調製した。
【0059】
得られたスラリーを、アプリケータを用いて固形分塗布量が3mg/cmになるように厚みが18μmの銅箔に塗布し、110℃で定置運転乾燥機にて0.5時間乾燥した。この時のシート電極の表面形状のSEM写真を図1に示す。
【0060】
乾燥後、13.8mmφの円形に打ち抜き、圧力0.6t/cmの条件で一軸プレスし、さらに真空下、110℃で2時間熱処理して、厚みが30μmの負極合剤層を形成したリチウムイオン2次電池用負極を得た。
【0061】
「評価用セルの作製」
評価用セルは、グローブボックス中でスクリューセルに上記負極、24mmφのポリプロピレン製セパレータ、21mmφのガラスフィルター、18mmφで厚み0.2mmの金属リチウムおよびその基材のステンレス箔を、各々、電解液にディップした後、この順に積層し、最後に蓋をねじ込み作製した。電解液はエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1対1の混合溶媒とし、LiPFを1.2mol/Lの濃度になるように溶解させ、これにフルオロエチレンカーボネートを2体積%添加したものを使用した。評価用セルは、さらにシリカゲルを入れた密閉ガラス容器に入れて、シリコンゴムの蓋を通した電極を充放電装置(北斗電工製SM−8)に接続した。
【0062】
「評価条件」
評価用セルは25℃の恒温室にて、サイクル試験した。充電は、3mAの定電流で0.01Vまで充電後、0.01Vの定電圧で電流値が0.2mAになるまで行った。また放電は、2mAの定電流で1.5Vの電圧値まで行った。初回放電容量と初期充放電効率は、初回充放電試験の結果とした。
【0063】
また、サイクル特性は、前記充放電条件にて50回充放電試験した後の放電容量と初回の放電容量を比較し、そのサイクル容量維持率として評価した。
【0064】
実施例2
得られた前記複合化物と前記天然黒鉛30:70重量%からなる負極活物質を使用した以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質、負極、評価用セルの順に作製し、セル評価した。
【0065】
比較例1
複合化物として平均粒子径が7μmの市販のシリコン(中国製(阪和工業(株))を使用し、複合化物と前記天然黒鉛30:70重量%からなる負極活物質を使用した以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質、負極、評価用セルの順に作製し、セル評価した。
【0066】
比較例2
比較例1の複合化物と前記天然黒鉛40:60重量%からなる負極活物質を使用した以外は、比較例1と同様の方法で負極活物質、負極、評価用セルの順に作製し、セル評価した。
【0067】
比較例3
負極活物質として前記天然黒鉛を添加せず、実施例1の複合化物のみを使用した以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質、負極、評価用セルの順に作製し、セル評価した。
【0068】
比較例4
負極活物質として前記複合化物を添加せず、前記天然黒鉛のみを使用した以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質、負極、評価用セルの順に作製し、セル評価した。
【0069】
実施例1〜2の負極活物質作製条件と比較例1〜4の負極活物質作製条件を表1に示す。また、実施例1〜2の結果と比較例1〜4の結果を表2に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表2から明らかなように、Si、炭素質物、黒鉛を複合化後、黒鉛を添加して作製した負極活物質を使用した実施例1、2のリチウムイオン2次電池は、高容量で、充放電サイクル特性が良好かつクーロン効率の安定が早いことがわかる。
【0073】
これに対し、Siを炭素質物や黒鉛で複合化せずに、単に黒鉛を添加して作製した負極活物質を用いた比較例1、2のリチウムイオン2次電池は、初回クーロン効率とサイクル容量維持率が大きく低下していることがわかる。さらに、Si、炭素質物と黒鉛を複合化して作製した負極活物質を用いた比較例3では、充放電サイクル特性や10回目のクーロン効率が劣ることがわかる。さらにまた、単に黒鉛を添加して作製した負極活物質は、放電容量が低い。比較例3、4の加重平均値を用いて、実施例1、2の電池特性を計算した結果を計算例1、2に示す。実施例1、2は、計算例1、2に比べ、サイクル容量維持率や10回目のクーロン効率が高く、本発明の複合化物と黒鉛を添加することにより、加重平均予測をはるかに超える電池性能が確保できていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明であるリチウムイオン2次電池負極活物質およびその製造方法は、高容量で、長寿命が必要とされるリチウムイオン2次電池に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
11 複合化物断面反射電子像中の黒鉛または炭素化物層(灰色)
12 複合化物断面反射電子像中の微細Si粒子(白色)
13 複合化粒子
14 添加物粒子
図1
図2
図3
図4