(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739698
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】軟磁性金属膜および磁性部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20200730BHJP
C22C 19/00 20060101ALI20200730BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20200730BHJP
H01F 10/14 20060101ALI20200730BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20200730BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C22C19/00 H
C23C14/14 F
H01F10/14
H01F10/16
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-221038(P2015-221038)
(22)【出願日】2015年11月11日
(65)【公開番号】特開2017-88962(P2017-88962A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】山本 将大
(72)【発明者】
【氏名】井上 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】日野 高志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀一
【審査官】
松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−171495(JP,A)
【文献】
湯本敦史、鷹野一朗、丹羽直毅,超音速フリージェットPVDによるFe厚膜の成膜と軟磁気特性, 日本磁気学会学術講演概要集,日本,日本磁気学,2014年 8月19日,第38回 2pE-9,98
【文献】
湯本敦史,超音速フリージェットPVDによるナノ結晶軟磁性Fe基膜の形成,平成24年 科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書,日本,日本学術振興会,2012年 5月31日,C-19,'1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 19/00
C23C 14/14
H01F 10/14
H01F 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:T100−aMa
(式中、TはFe、Co、およびNiから選ばれ、50重量%以上がFeである1以上の元素を表し、MはMn、Si、Al、B、Zr、Ti、およびCrから選ばれる1以上の元素を表し、aは原子%で0≦a≦20を満たす数である)
で表され且つ不可避不純物を含む組成と、
膜厚×長さ10μmの単位面積内に一次粒子の凝集体である二次凝集粒子を有する結晶組織と、を具備し、
前記一次粒子の粒径が5nm以上30nm以下であり、
前記二次凝集粒子の粒径が0.05μm以上2μm以下である異方性分散を有する、軟磁性金属膜であって、
前記軟磁性金属膜の比透磁率の実成分μr’が1200以上であり、
前記軟磁性金属膜の保磁力Hcが1A/m以上30A/m以下である、
軟磁性金属膜。
【請求項2】
前記軟磁性金属膜の厚さが1μm以上200μm以下である、請求項1に記載の軟磁性金属膜。
【請求項3】
前記軟磁性金属膜の表面粗さRaが0.8μm以下である、請求項1または請求項2に記載の軟磁性金属膜。
【請求項4】
前記軟磁性金属膜の空孔率が12%以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の軟磁性金属膜。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の軟磁性金属膜を具備する、磁性部品。
【請求項6】
前記磁性部品は、樹脂、紙、金属、およびセラミックから選ばれる少なくとも一つの材料を有する基材をさらに具備し、
前記軟磁性金属膜は、前記基材上に設けられている、請求項5に記載の磁性部品。
【請求項7】
前記磁性部品が磁気シールドまたはアンテナである、請求項5または請求項6に記載の磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね、軟磁性金属膜およびそれを用いた磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
RFID(Radio Frequency Identier:RFID)は、交通系カード、電子マネー、商品タグ、コンテナ認識用タグ等として様々な物品の識別に使用されている。使用される周波数は、例えば135kHz、13.56MHz、433MHz、900MHz、2.45GHz等である。RFIDのそれぞれは、ノイズ、汚れ、廻りこみ、通信距離等に関する特徴を有し、各々適した環境で使用されている。通信方式としては、例えば電磁誘導方式および電界方式の2種類の方式が挙げられ、周波数により使い分けられている。
【0003】
近年、13.56MHzの周波数で動作するRFIDを用いたIC(Integrated Circuit:IC)タグにおいて、確実な動作環境、長い通信距離等の通信特性、ICタグがリーダーライタと対向する場合の平面状を有する広い通信エリア等が求められている。
【0004】
識別タグに用いられるアンテナは、識別する物品が金属製である場合、物品の影響を回避するため、アンテナコイルと物品との間に電気絶縁性を有するスペーサを備える。当該スペーサを磁芯部材で代用する場合がある。
【0005】
アンテナコイルは様々な通信機器内に組み込まれる。よって、識別する物品以外の金属部品がアンテナコイルの周辺にあれば、アンテナは、金属部品の影響を受けやすい。また、携帯電話、タブレット等の携帯機器にRFIDを内蔵する場合、周辺の基板、部品等に付随する各種金属部材の影響を受けやすい。上記金属部品の影響を回避するため、例えば通信面の裏面に貼りつけられた金属製のシールド板を有することにより、金属部品による通信特性の変動を抑制するアンテナモジュールが知られている。
【0006】
金属製のシールド板を備えた従来のアンテナモジュールの一例は、携帯電話等の携帯情報端末の筐体内部に組み込まれている。当該アンテナモジュールは、外部のリーダーライタR/Wと非接触により通信することができる。従来のアンテナモジュールの一例は、例えば非接触通信用のアンテナコイルと、情報を格納したICチップを搭載するベース基板と、ベース基板の裏面側に積層された磁芯部材と、磁芯部材の裏面側に積層された金属製のシールド板と、を具備する。シールド板は、携帯情報端末の筐体内部に配置されている端末本体用の別の制御基板からの外部ノイズがアンテナコイルの通信性能に悪影響を及ぼさないようにするための第1の機能と、第1の機能と反対にアンテナコイルで発生する電波が制御基板の諸機能に悪影響を及ぼさないようにするための第2の機能と、を有する。
【0007】
シールド板によってアンテナコイルの通信特性の変動を防止することができる。しかしながら、シールド板によってアンテナコイルの通信特性が一定のレベルまで低下する。つまり、金属製のシールド板の存在により、アンテナコイルのインダクタンスが低下して通信距離が劣化する。通信特性の向上という観点から見ると、シールド板は、大きなマイナス要因である場合がある。
【0008】
アンテナモジュールが電波シールド機能を有していない場合、アンテナモジュールと当該アンテナモジュールを備える機器本体の制御基板との間で電磁干渉が発生して相互に機能上の不具合が発生するおそれがある。
【0009】
上記のように、金属製シールド板を用いた構造ではアンテナ特性の向上に限界がある。金属製シールド板を必要とせずに電磁干渉を抑制するためには、例えば透磁率が高く、保磁力が低い磁性材料が望まれる。上記磁性材料としては、例えば3〜100nmの粒子径を有するFe合金からなる軟磁性金属膜が挙げられる。上記Fe合金からなる軟磁性金属膜は、ナノ粒子を均質に堆積させて形成された軟磁性金属膜である。しかしながら、均質な軟磁性金属膜では、特に高周波領域での高透磁率化に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−304370号公報
【特許文献2】特開2006−245950号公報
【特許文献3】特開2011−171495号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本金属学会誌 第65巻第7号(2001)635−643頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決する課題の一つは、高透磁率化および低保磁力化が可能な軟磁性金属膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態に係る軟磁性金属膜は、組成式:T
100−aM
a(式中、TはFe、Co、およびNiから選ばれ
、50重量%以上がFeである1以上の元素を表し、MはMn、Si、Al、B、Zr、Ti、およびCrから選ばれる1以上の元素を表し、aは原子%で0≦a≦20を満たす数である
)で表され且つ不可避不純物を含む組成と、
膜厚×長さ10μmの単位面積内に一次粒子の凝集体である二次凝集粒子を有する結晶組織と、を具備
し、一次粒子の粒径
が5nm以上30nm以下であり
、二次凝集粒子の粒径
が0.05μm以上2μm以下であ
る異方性分散を有する。軟磁性金属膜の比透磁率の実成分μr’は1200以上である。軟磁性金属膜の保磁力Hcは1A/m以上30A/m以下である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の軟磁性金属膜は、組成式:T
100−aM
a(式中、TはFe、Co、およびNiから選ばれる1以上の元素を表し、MはMn、Si、Al、B、Zr、Ti、およびCrから選ばれる1以上の元素を表し、aは原子%で0≦a≦20を満たす数である)
で表され、不可避不純物を含む組成と、一次粒子の凝集体である二次凝集粒子を有する結晶組織と、を具備する。例えば結晶組織が上記組成を有していてもよい。
【0016】
軟磁性金属膜は、複数の結晶を含む多結晶体を備える。個々の結晶は、組成式T
100−aM
a(式中、TはFe、Co、およびNiから選ばれる1以上の元素を表し、MはMn、Si、Al、B、Zr、Ti、およびCrから選ばれる1以上の元素を表し、aは原子%で0≦a≦20を満たす数である)を満たし、不可避不純物を含む。なお、軟磁性金属膜が不可避不純物を含んでいなくてもよい。
【0017】
上記組成式のT成分は、軟磁性を付与する機能を有する元素である。Fe、Co、Niのうち、Feが特に好ましい。例えば上記組成式の元素Tの50重量%以上はFeであってもよい。純Feの飽和磁束密度(Bs)は、約2.2T(テスラ)である。このように、Feを主成分として含むことにより、Bsを大きくすることができる。Fe、Co、Niはそれぞれ単独で、またはFe、Co、およびNiから選ばれる2または3の元素を含む合金として含まれていてもよい。
【0018】
上記組成式のM成分は、T成分の耐食性改善、磁気特性の改善等の機能を有する。よって、M成分に使用する元素は、用途または目的に応じて選択することが好ましい。M成分の含有量aは、原子%で0≦a≦20を満たす。M成分の含有量が20原子%を超えるとT成分の磁気特性を活かすことができない。
【0019】
軟磁性金属膜の任意の断面組織を観察したとき、軟磁性金属膜は、一次粒子の凝集体である二次凝集粒子を有する。一次粒子の粒径は、例えば5nm以上30nm以下であることが好ましい。二次凝集粒子の粒径は、例えば0.05μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0020】
図1に実施形態に係る軟磁性金属膜の断面の模式図を示す。
図1に示す磁性部品10は、一次粒子2の凝集体である二次凝集粒子3を有する軟磁性金属膜1を備える。軟磁性金属膜1は、基材4上に設けられている。
【0021】
軟磁性金属膜1は、基材4上に堆積し、前述の組成式を満たす複数の一次粒子2を有する。さらに、軟磁性金属膜1には、一次粒子2の凝集体である二次凝集粒子3が存在する。
【0022】
一次粒子2の粒径は、例えばX線回折のピークの半値幅から算出した値により検出される。膜に対してXRD(X−ray Diffraction:XRD)測定を行い、極力強度が大きいピークを選択し、積分強度の半値幅θを求め、Scherrerの式を用いて以下の式により結晶粒の大きさを算出する。
【0023】
D=K・λ/βcosθ
(式中、Dは結晶粒の直径を表し、λはX線波長を表し、βは結晶子の大きさによる回折線の拡がり(半値幅)を表し、θは回折線のブラッグ角を表し、KはScherrer定数(0.9)を表す。)
【0024】
二次凝集粒子の存在は、例えば軟磁性金属膜の破断面(割った膜の断面)を5000倍でSEM(Scanning Electron Microscope:SEM)観察したときに確認することができる。二次凝集粒子は、一次粒子が凝集することにより形成されている。また、SEMにより二次凝集粒子の粒界を確認することができる。このため、凝集していない一次粒子の堆積状態と、二次凝集粒子の状態とを区別することができる。また、SEM写真に写る二次凝集粒子の最も長い対角線を二次凝集粒子の粒径と判断する。
【0025】
実施形態に係る軟磁性金属膜では、「膜厚×長さ(10μm)」の単位面積内に一次粒子の堆積領域と二次凝集粒子の領域が存在する。一次粒子の結晶粒径は、例えば5nm以上30nm以下であることが好ましい。一次粒子の結晶粒径が5nm未満であると、小さな結晶粒子を堆積させることが困難である。一次粒子の結晶粒径が30nmを超えると、保磁力が大き過ぎてヒステリシス損失が大きくなる。一次粒子の結晶粒径は、8nm以上20nm以下であることがより好ましい。
【0026】
二次凝集粒子の粒径は、例えば0.05μm以上2μm以下であることが好ましい。二次凝集粒子を存在させることにより渦電流を抑制することができる。よって、例えば10MHz以上の高周波域で透磁率を維持することができる。二次凝集粒子の粒径が0.05μm未満であると、渦電流抑制効果が不十分である。また、二次凝集粒子の粒径が2μmを超えると、保磁力が大き過ぎてヒステリシスの損失が大きくなる。二次凝集粒子の粒径は、例えば0.1μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。
【0027】
軟磁性金属膜の表面粗さRaは、0.8μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.8μmを超えると、透磁率が小さくなるおそれがある。軟磁性金属膜の表面粗さRaは0.7μm以下であることがより好ましい。
【0028】
表面粗さRaは、軟磁性金属膜の表面の任意の単位面積100μm×100μmの領域を測定することにより求められる。測定には、例えばJIS−B−0601に準じた粗さ計を用いることができる。
【0029】
軟磁性金属膜の空孔率は、例えば12%以下であることが好ましい。空孔率の下限値は特に限定されないが、例えば1%以上であることが好ましい。空孔率がゼロに近づくほど緻密な組織である。組織が1%未満であると緻密過ぎるため二次凝集粒子が形成され難くなる。空孔率は2%以上10%以下であることがより好ましい。
【0030】
空孔率の測定方法例について以下に説明する。軟磁性金属膜の断面のSEM写真(倍率5000倍)を取得する。SEM写真の単位面積「膜厚×長さ10μm」を2値解析法にて求める。軟磁性金属膜の厚さは1μm以上200μm以下、さらには1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0031】
図2に軟磁性金属膜表面の模式図を示す。
図2に示す軟磁性金属膜1の表面は、二次凝集粒子3および空孔5を有する。表面の空孔5はクレータである。二次凝集粒子3は、軟磁性金属膜1全体に均一に存在することが好ましい。軟磁性金属膜1全体に二次凝集粒子が存在することにより、渦電流を抑制することができる。
【0032】
上記軟磁性金属膜は、様々な磁性部品に好適である。磁性部品に用いる場合、基材上に軟磁性金属膜を形成する。基材は、例えば樹脂、紙、金属、セラミックから選ばれる1つの材料を有することが好ましい。基材の材料に関しては、用途や使用環境に応じて選択する。また、後述するSFJ(Supersonic Free Jet:SFJ)−PVD(Physical Vapor Deposition:PVD)法(超音速フリージェット−物理蒸着法)のように原料粉を高温に加熱せずに噴射できる成膜方法であれば樹脂や紙等の上にも成膜できる。
【0033】
磁性部品としては、例えば磁気シールド、アンテナ、磁気センサ、トランス、ノイズ抑制部品等の様々な部品が挙げられる。上記部品のうち、磁気シールドまたはアンテナが好ましい。
【0034】
実施形態に係る軟磁性金属膜は、ナノ粒子を有する。このため、異方性分散を成し得ることができる。異方性分散により、透磁率の絶対値を改善することができる。また、実施形態にかかる軟磁性金属膜は、二次凝集粒子を含むため、渦電流を抑制することができる。よって、周波数特性を維持し、例えば10MHz以上での高透磁率を実現することができる。
【0035】
実施形態に係る軟磁性金属膜では、比透磁率の実成分μr’を1200以上にすることができる。比透磁率の実成分μr’の上限は特に限定されないが、例えば3000以下であることが好ましい。また、実施形態に係る軟磁性金属膜では、保磁力Hcを1A/m以上とすることができる。保磁力Hcの上限は特に限定されないが、例えば30A/m以下であることが好ましい。この範囲であれば量産性に優れている。
【0036】
上記軟磁性金属膜を用いたアンテナでは、金属製のシールド板を必要とすることなく電磁干渉を抑制しつつ、通信特性の低下を抑制することができる。また、上記軟磁性金属膜を用いたアンテナでは、薄膜を用いているため、薄型化も可能である。
【0037】
以上のように、本実施形態では、高透磁率化および低保磁力化が可能で、薄型化が可能な軟磁性金属膜を提供することができる。それを用いた磁性部品は、小型化した上で磁気特性を向上させることができる。
【0038】
次に、実施形態に係る軟磁性金属膜の製造方法について説明する。実施形態に係る軟磁性金属膜が上記構成を有していれば、製造方法は特に限定されない。歩留り良く軟磁性金属膜を得るための製造方法として例えば次の製造方法が挙げられる。
【0039】
軟磁性金属膜の成膜方法としては、SFJ−PVD法が好ましい。SFJ−PVD法は、ガス中蒸着と真空中蒸着とを組合せた成膜方法である。SFJ−PVD法は、例えばガス中蒸着によりミクロンからナノオーダーの超微粒子を生成し、当該超微粒子を数km/sの超音速になるまで加速させた搬送ガス流により基材に吹き付けて堆積させるコーティング技術である。SFJ−PVD法は、高い表面エネルギーを有する超微粒子に大きな運動エネルギーを付与して堆積することができる。このため、低温で高密度の膜を形成することができる。SFJ−PVD法のその他の概要は例えば非特許文献1に示されている。
【0040】
蒸発源としては、目的とする組成を有するインゴットを用意する。組成式T
100−aM
a(式中、TはFe、Co、およびNiから選ばれる1以上の元素を表し、MはMn、Si、Al、B、Zr、Ti、およびCrから選ばれる1以上の元素を表し、aは原子%で0≦a≦20を満たす数である)で表される組成を有する軟磁性膜を形成する際は、上記組成式を満たす蒸発源を用意する。
【0041】
次に、蒸発源を加熱する。加熱により蒸発源から超微粒子が蒸発する。この超微粒子を搬送ガスで超音波になるまで加速させ、基材上に堆積させる。搬送ガスとしては、例えばヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが好ましい。二次凝集粒子を形成させるためには、基材への衝突速度、超微粒子表面のラジカル性等を制御することが好ましい。基材への衝突速度の制御は、チャンバー差圧(蒸発源を蒸発させるチャンバーと基材を配置するチャンバーの雰囲気の圧力差)やノズル構造の制御等である。ノズル構造のサイズは、例えば蒸発した複数個分の超微粒子をまとめて搬送することができるサイズであることが好ましい。
【0042】
基材に用いられる材料は、樹脂、紙、金属、およびセラミックから選ばれる1つであることが好ましい。実施形態に係る磁性部品では、その基材の材質は限定されない。SFJ−PVD法は、低温で成膜することができるため、樹脂や紙等耐熱性の低い材料に成膜することができる。また、SFJ−PVD法は、比較的低速で基板に吹き付けるため、セラミック等の脆い材料に成膜することもできる。金属は単一金属または合金であってもよい。
【0043】
軟磁性金属膜の厚さは、特に限定されない。軟磁性金属膜の厚さは、例えば目的とする磁気特性が得られる程度の厚さであることが好ましい。製造性の観点からすると、厚さは、例えば200μm以下、さらには100μm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
蒸発源としてFeNi合金(Fe55重量%、Ni45重量%)製インゴットを用意した。FeNiインゴットとしては純度99.99重量%以上と高純度のインゴットを用意した。
【0045】
このインゴットを用いてSFJ−PVD法により実施例および比較例に係る軟磁性金属膜を成膜した。軟磁性金属膜のサイズは、縦2mm×幅2mmで統一した。このとき、衝突速度および超微粒子表面のラジカル性を制御することにより二次凝集粒子のサイズを制御した。また、基材としては石英基板を用意した。得られた軟磁性金属膜に対し、一次粒子の粒径、二次凝集粒子の粒径、表面粗さRa、空孔率、膜厚を測定した。一次粒子の粒径を、X線回折により第一強度ピークの半値幅を使いScherrerの式にて求めた。
【0046】
二次凝集粒子の粒径、空孔率および膜厚を測定するために、軟磁性金属膜の任意の断面におけるSEM写真(倍率5000倍)を取得した。SEM写真において単位面積「膜厚×長さ10μm」を用いて上記測定を行った。二次凝集粒子の粒径は、SEM写真の単位面積「膜厚×長さ10μm」における二次凝集粒子の最大径である。空孔率を、SEM写真の単位面積「膜厚×長さ10μm」を使って2値解析法にて求めた。膜厚は、単位面積「膜厚×長さ10μm」における最大厚さである。表面粗さRaを、軟磁性金属膜表面の任意の単位面積100μm×100μmを使って求めた。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1〜4に係る軟磁性金属膜において、特性のそれぞれは好ましい範囲に制御されている。比較例1に係る軟磁性金属膜において、一次粒子の粒径は好ましい範囲を外れている。比較例2に係る軟磁性金属膜において、二次凝集粒子の粒径は好ましい範囲を外れている。比較例3に係る軟磁性金属膜は、二次凝集粒子が存在しない均質な組織を有する。比較例4に係る軟磁性金属膜において、空孔率は好ましい範囲を超えている。
【0049】
このような軟磁性金属膜の比透磁率の実成分μr’、保磁力Hcを求めた。比透磁率の実成分μr’の測定を、インピーダンス測定器を用いて測定周波数10MHz、励磁磁界80A/mにより行った。また、保磁力の測定を、B−H特性測定装置において、測定周波数10KHz、励磁磁界400A/mにて行った。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2から分かる通り、実施例1〜4に係る軟磁性金属膜の比透磁率の実成分μr’は1200以上3000以下、保磁力Hcは1A/m以上30A/m以下である。このことから実施例1〜4に係る軟磁性金属膜は、高透磁率および低保磁力を両立していることがわかる。これに対し、比較例1〜4に係る軟磁性金属膜は、高透磁率および低保磁力を両立していない。実施例に係る軟磁性金属膜であれば様々な磁性部品に好適である。特に、実施例に係る軟磁性金属膜は、アンテナとして優れた特性を得ることができる。保磁力が大きい比較例1および比較例4に係る軟磁性金属膜を用いる場合、ヒステリシス損が大きい。一方、透磁率が低い比較例2および比較例3に係る軟磁性金属膜を用いる場合、金属製シールド材のシールド効果が小さい。
【0052】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示されており、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…軟磁性金属膜、2…一次粒子、3…二次凝集粒子、4…基材、5…空孔、10…磁性部品。