特許第6739876号(P6739876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6739876N−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニルエステル類とのランダム共重合体およびそれを用いた細胞培養用材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6739876
(24)【登録日】2020年7月28日
(45)【発行日】2020年8月12日
(54)【発明の名称】N−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニルエステル類とのランダム共重合体およびそれを用いた細胞培養用材料
(51)【国際特許分類】
   C08F 226/06 20060101AFI20200730BHJP
   C08F 218/04 20060101ALI20200730BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20200730BHJP
【FI】
   C08F226/06
   C08F218/04
   !C12M1/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-10889(P2017-10889)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-24818(P2018-24818A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-150129(P2016-150129)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 映一
(72)【発明者】
【氏名】花村 仁嗣
(72)【発明者】
【氏名】今富 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 悟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】前島 雪絵
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−172262(JP,A)
【文献】 特開2003−119340(JP,A)
【文献】 特表2016−540072(JP,A)
【文献】 特開2016−145315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F226/06、218/04
C12M1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアシル基
を表す。)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)
【化2】
(式中、Rは炭素数2〜18のアシル基を表す。)で表される繰り返し単位からなるラ
ンダム共重合体。
【請求項2】
が炭素数2〜3のアルキル基または炭素数2〜3のアシル基であり、Rが炭素数
3〜7のアシル基であることを特徴とする、請求項1に記載のランダム共重合体。
【請求項3】
下記一般式(3)
【化3】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアシル基
を表す。)で表されるN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物、および下記一般式(
4)
【化4】
(式中、Rは炭素数2〜18のアシル基を表す。)で表されるビニルエステル類をラジ
カル重合させるN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニルエステル類とのラン
ダム共重合体の製造法。
【請求項4】
が炭素数2〜3のアルキル基または炭素数2〜3のアシル基であり、Rが炭素数
3〜7のアシル基であることを特徴とする、請求項3に記載のランダム共重合体の製造法
【請求項5】
請求項1または2に記載のランダム共重合体を含むコート剤。
【請求項6】
請求項5のコート剤で処理して得られる細胞培養用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用材料、または温度応答性ポリマー材料としての応用が期待される
N−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニルエステル類とのランダム共重合体に
関する。
【背景技術】
【0002】
近年、刺激応答性材料、とりわけN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAM)を
用いて合成される温度応答性材料に関する開発が盛んである。NIPAAMのホモポリマ
ーの場合、下限臨界溶液温度(LCST)は体温近傍の32℃であり、これより低温では
NIPAAMのホモポリマーは水に可溶であるが、これより高温では水に不溶であること
が知られている。NIPAAMと種々のコモノマーとのコポリマーが合成され、薬剤の放
出制御材、クロマトグラフィー用分離ゲル、細胞の培養床などへの応用が検討されている
。またコモノマーの種類や組成を制御することでLCSTを調節したり、特定のタンパク
への親和性を高めたりした報告がある(非特許文献1〜4)。
【0003】
一方、特許文献1および2においてN−イミダゾリジン−2−オン誘導体およびそのポ
リマーについて記載がある。具体的にはポリ(1−ビニルイミダゾリジン−2−オン)、
ポリ(1−メチル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン)、ポリ(1−エチル−3−ビ
ニルイミダゾリジン−2−オン)およびポリ(1−ブチル−3−ビニルイミダゾリジン−
2−オン)の合成例、またはポリ(1−メチル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン)
を用いた殺菌性組成物が示されているが、本発明に係るN−ビニルイミダゾリジン−2−
オン化合物とビニルエステル類とのランダム共重合体の合成、およびこれを用いた細胞培
養用材料についての記述は一切無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−172262号公報。
【0005】
【特許文献2】特開2001−172333号公報。
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Langmuir、第14巻、4657−4662頁(1998年)。
【0007】
【非特許文献2】Macromolecules、第33巻、8312−8316頁(2000年)。
【0008】
【非特許文献3】Biomacromolecules、第5巻、505−510頁(2004年)。
【0009】
【非特許文献4】Langmuir、第28巻、16623−16637頁(2012年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
細胞培養用材料として応用可能なN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニル
エステル類とのランダム共重合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するN−ビニ
ルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニルエステル類とのランダム共重合体をコート剤
成分として用いることによって、担体表面を容易に処理可能で有り、コート剤で処理され
た担体を細胞培養用材料として用いることができることを見出し、本発明を完成するに至
った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)
【0013】
【化1】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアシル基
を表す。)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)
【0014】
【化2】
(式中、Rは炭素数2〜18のアシル基を表す。)で表される繰り返し単位からなるラ
ンダム共重合体(以下、本発明のランダム共重合体と称する。)に関するものであり、下
記一般式(3)
【0015】
【化3】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアシル基
を表す。)で表されるN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物、および下記一般式(
4)
【0016】
【化4】
(式中、Rは炭素数2〜18のアシル基を表す。)で表されるビニルエステル類をラジ
カル重合させるN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニルエステル類とのラン
ダム共重合体の製造法に関するものである。さらに本発明のランダム共重合体を含むコー
ト剤、および該コート剤で担体表面を処理して得られる細胞培養用材料に関するものであ
る。
【0017】
一般式(1)の繰り返し単位および一般式(3)のN−ビニルイミダゾリジン−2−オ
ン化合物において、Rが表す炭素数1〜12のアルキル基は分岐および/または環状構
造を有してもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル
基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基
、ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブ
チル基、1−エチルプロピル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基
、1−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチ
ル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、
シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−
エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ウンデシル基、
ドデシル基などを例示できる。Rが表す炭素数1〜12のアシル基は分岐および/また
は環状構造を有してもよく、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イ
ソブチリル基、ペンタノイル基、3−メチルブチリル基、2,2−ジメチルプロパノイル
基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オクタノイル基、
ノナノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基などを例示できる。合成の容易さ、および
細胞の培養に適している点で、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基
、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリ
ル基、またはイソブチリル基のいずれかであることが好ましく、エチル基、プロピル基、
イソプロピル基、アセチル基、またはプロピオニル基であることがさらに好ましい。
【0018】
一般式(2)ならびに一般式(4)のビニルエステル類においてRは炭素数2〜18
のアシル基を表し、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタ
ノイル基、3−メチルブチリル基、2,2−ジメチルプロパノイル基、ヘキサノイル基、
ヘプタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノ
イル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル
基、ベンゾイル基、4−tert−ブチルベンゾイル基などを例示できる。コーティング
性に優れる点で、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、3−
メチルブチリル基、2,2−ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル基、シクロヘキサンカ
ルボニル基またはベンゾイル基が好ましい。
【0019】
N−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物(3)とビニルエステル類(4)とからラ
ンダム共重合体を製造する際、ラジカル重合を用いると簡便に且つ効率よく重合体を得る
ことができる。より具体的なラジカル重合法として、フリーラジカル重合を利用したバル
ク重合、溶液重合、乳化重合などの公知の方法をあげることができる。ラジカル重合をよ
り効率よく開始させるために、任意の量のラジカル開始剤を添加できる。反応に好適に用
いられるラジカル開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化
物を例示でき、重合促進剤と呼ばれるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミ
ン、N,N−ジメチルパラトルイジンなどのアミン化合物と組み合わせて用いることによ
って低温で迅速な重合が可能である。さらに、ラジカル開始剤としてジラウロイルペルオ
キシド、ベンゾイルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチ
ルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物、またα,α−ア
ゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−
ジメチルバレロニトリル)(V−70)や1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カ
ルボニトリル)(V−40)などのアゾ化合物を例示することができる。中でも副反応を
抑制する観点から、アゾ化合物が好適に用いられる。
【0020】
本発明のランダム共重合体はN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物(3)とビニ
ルエステル類(4)とを任意の割合で混合してフリーラジカル重合を行うことにより製造
できるほか、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法を用いることによっても製造で
きる。
【0021】
任意の割合のN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物(3)とビニルエステル類(
4)混合物に、先に挙げたラジカル重合開始剤およびRAFT剤の共存下、RAFT重合
を行う。
【0022】
全モノマーのモル量[M]とラジカル重合開始剤から発生するラジカル種のモル量[I
・]の比[M]/[I・]、およびモノマーの転化率を制御することによって本発明のラ
ンダム共重合体の分子量や分子量分布を制御することができる。RAFT剤の使用量[R
AFT]は[I・]と同量、もしくはそれ以上あれば良く、一般に[RAFT]/[I・
]は1〜10、好ましくは1.5〜5となるよう調整する。モノマーの転化率はRAFT
剤の種類、[RAFT]/[I・]の値、溶媒の有無または種類、モノマーの初期濃度、
溶液の粘度、重合温度、重合時間などによって任意に制御できる。RAFT剤としては、
一般にジチオカルバメート化合物やジチオカーボネート化合物など非共役モノマーのRA
FT重合に適した公知のものを使用することができ、より具体的には、N−メチル−N−
フェニルジチオカルバミン酸シアノメチル、N,N−ジフェニルジチオカルバミン酸シア
ノメチル、N−メチル−N−4−ピリジルジチオカルバミン酸シアノメチル、N,N−ジ
フェニルジチオカルバミン酸エトキシカルボニルメチル、エトキシジチオカルボン酸1−
シアノエチルなどを例示できるが、RおよびRの種類や組み合わせになどによってR
AFT剤の選択が異なってくることがある。RAFT剤の選択については例えば、Mac
romolecules、第45巻、5321−5342頁(2012年)などの公知文
献を参考にすると良い。
【0023】
通常、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下または脱酸素下で重合を行う
ことで再現性良く本発明のランダム共重合体を製造でき、溶媒を用いると重合反応が円滑
に進行する。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソ
プロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ペンタン、シクロペ
ンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレ
ン、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエ
タン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテ
ル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキ
シド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DM
Ac)、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプ
ロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ピコリン
等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒を二
種以上混合して用いることもできる。重合反応は通常0℃〜100℃の範囲内で円滑に進
行する。
【0024】
本発明のランダム共重合体における繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の比率は
、担体表面のコーティングや細胞培養などが可能であれば特に制限は無いが、概ね、繰り
返し単位(1):繰り返し単位(2)=1:9〜9:1(重量比)、好ましくは2:8〜
8:2である。この比率はH−NMRなどの核磁気共鳴スペクトルを測定し、それぞれ
の繰り返し単位由来のスペクトルの積分値から数平均値として求めることができ、重量比
に換算することで求めることができる。
【0025】
本発明のランダム共重合体の分子量としては重量平均分子量、数平均分子量、粘度平均
分子量など測定方法に応じて用いることができる。重量平均分子量(Mw)に関しては1
000〜1000000であることが好ましく、重合体の性質の制御および加工性などの
観点から5000〜500000であることがさらに好ましい。分子量分布(PD)に特
に制限はないが、概ね1〜20の範囲であることが好ましく、重合体の均一性の観点から
1〜5の範囲であることがさらに好ましい。分子量の算出方法として、ポリスチレンやポ
リエチレングリコールなどの標準試料を基準に換算するゲル濾過クロマトグラフィー(G
PC)法、粘度法、光散乱法など公知の方法をあげることができる。
【0026】
本発明のランダム共重合体を溶媒に溶解してコート剤を調製できる。コート剤に用いら
れる溶媒としては本発明のランダム共重合体を溶解し、担体表面などに塗布した後、溶媒
を除去できれば特に制限は無いが、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプ
ロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、
シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン
、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、アセトン、メ
チルエチルケトン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフ
ラン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、DMF、N,N−ジメチル
アセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、エチレングリコール、2−メトキシエ
タノール、2−ブトキシエタノールなどを用いることができるが、これらに限定されるも
のではない。また、これらの溶媒を二種以上混合して用いることもできる。
【0027】
コート剤の濃度は、コーティングに支障なければ特に制限は無いが、概ね、本発明のラ
ンダム共重合体の濃度を0.01〜20重量%となるように調整すると良い。
【0028】
ガラス製、樹脂製など様々な材質から成るシャーレ、袋、スポンジ状の多孔質基材、粒
状多孔質基材、不織布や織布など繊維基材などの種々の形状の担体の表面を本発明のラン
ダム共重合体を含むコート剤で処理することによって、細胞培養用材料を作製することが
できる。コート剤の処理方法は特に制限は無く、公知の方法を用いることができ、例えば
ディップ法、スプレイ法、キャスト法、スピンキャスト法、インクジェット印刷法などを
用いることができる。
【発明の効果】
【0029】
種々の材質・形状の担体表面を、本発明のランダム共重合体を含むコート剤で処理する
ことにより、これらの担体表面の細胞への影響を低減し、細胞の培養、培養細胞の保存、
培養細胞の回収や移送などの取扱いの便宜性を向上できることから、生体適合性材料、細
胞培養用材料としての応用が期待される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定される
ものではない。得られたポリマーの分子量はGPCの結果から求めた。GPCシステムは
GLサイエンス社製GL−7400(検出器:GL−7456、カラム(4本):TSK
gel SuperH5000、H4000×2、H2000、カラム温度:40℃、展
開溶媒:0.01MのLiClのDMF溶液、標準ポリスチレン換算)を用いた。ランダ
ム共重合体の構造および共重合比率はBruker−Biospin社製AVANCEI
II−400を用いたH−NMR測定の結果から決定した。
【0031】
参考例1
【0032】
【化5】
200mLナスフラスコにイミダゾリジン−2−オン10.3g(120mmol)お
よびプロピオン酸無水物100mLを加えて、150℃で1時間撹拌した。室温まで放冷
して析出した固体を回収し、少量の冷エタノールで洗浄することにより、無色固体の1−
プロピオニルイミダゾリジン−2−オン13.0g(収率:76.2%)を得た。H−
NMR(400MHz,CDCl,ppm),δ:1.66(3H,t,J=7.4H
z),2.93(2H,q,J=7.4Hz),3.50(2H,t,J=8.1Hz)
,3.96(2H,t,J=8.1Hz),5.68(1H,bs).EI−MS,m/
z:142(M),127(M−CH,113(M−C,100.I
R(neat,cm−1),ν:3230(w),3129(w),2983(w),2
898(w),1734(m),1670(m),1377(m),1265(m),1
159(m),1062(m),1026(m),941(m)。
【0033】
【化6】
アルゴン雰囲気下、100mLのシュレンク管に1−プロピオニルイミダゾリジン−2
−オン2.86g(20.1mmol)、ヨウ化銅(I)0.19g(1.0mmol)
、N,N’−ジメチルエチレンジアミン0.21mL(2.0mmol),炭酸カリウム
5.53g(40.0mmol)および1Mの臭化ビニルのTHF溶液40.0mL(4
0.0mmol)を加えて、70℃で7時間撹拌した。反応液をセライトで濾過して濾液
を濃縮した。アルミナカラムクロマトグラフィー(展開液:クロロホルム)で精製するこ
とにより、無色固体の1−プロピオニル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン(VIm
)2.83g(収率:83.6%)を得た。H−NMR(400MHz,CDCl
ppm),δ:1.17(3H,t,J=7.4Hz),2.96(2H,q,J=7.
4Hz),3.57(2H,t,J=8.2Hz),3.93(2H,t,J=8.2H
z),4.33(1H,dd,J=1.1,15.9Hz),4.46(1H,dd,J
=1.1,9.0Hz),6.99(1H,dd,J=9.0,15.9Hz).EI−
MS,m/z:168(M),139(M−C,111(M−COC
.IR(neat,cm−1),ν:3111(w),2979(w),1716(
m),1691(m),1633(m),1402(m),1360(m),1360(
m),1230(m),1049(m)。
【0034】
参考例2
【0035】
【化7】
50mLナスフラスコにN−イソプロピルエチレンジアミン10mL(81mmol)
、尿素4.9g(81mmol)およびエチレングリコール5.4mLを加えて、130
℃で1時間、さらに180℃で4時間撹拌した。減圧下でエチレングリコールを留去し、
残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:クロロホルム/メタノール=10
/1)で精製することにより、無色固体の1−イソプロピルイミダゾリジン−2−オン7
.7g(収率:73%)を得た。H−NMR(400MHz,CDCl,ppm),
δ:1.13(6H,d,J=6.8Hz),3.39(4H,m),4.14(1H,
sep,J=6.8Hz),5.27(1H,brs).EI−MS,m/z:128(
M),113(M−CH.IR(neat,cm−1),ν:3197(w),
3089(w),2976(m),2929(m),1685(m),1485(m),
1427(m),1265(m),1227(m),1126(w),1101(w),
1076(w)。
【0036】
【化8】
アルゴン雰囲気下、100mLのシュレンク管に1−イソプロピルイミダゾリジン−2
−オン5.127g(40.00mmol)、ヨウ化銅(I)379mg(1.99mm
ol)、炭酸カリウム11.07g(80.06mmol)、N,N’−ジメチルエチレ
ンジアミン0.43mL(4.0mmol)、臭化ビニル5.6mL(80mmol)お
よびトルエン40mLを加えて、90℃で17時間撹拌した。反応液をセライトで濾過し
て濾液を濃縮し、残渣を減圧蒸留(80℃/10Pa)することにより、無色液体の1−
イソプロピル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン(VIm−iP)4.339g(収
率:70.34%)を得た。H−NMR(400MHz,CDCl,ppm),δ:
1.15(6H,d,J=6.8Hz),3.38〜3.51(4H,m),4.04(
1H,d,J=15.9Hz),4.15(1H,d,J=9.0Hz),4.21(1
H,sep,J=6.8Hz),7.01(1H,dd,J=9.0,15.9Hz).
EI−MS,m/z:154(M),125(M−CH,111(M−C
.IR(neat,cm−1),ν: 2972(w),2937(w),2875
(w),1697(m),1624(m),1485(m),1419(m),1335
(w),1267(m),1232(m),1126(w),1068(w),1034
(w),980(w)。
【0037】
実施例1
【0038】
【化9】
参考例1で得られた1−プロピオニル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン(VIm
)(0.505g,3.00mmol)と安息香酸ビニル(VB)(0.444g,3.
00mmol)をナスフラスコに秤量し、ここにAIBN(9.9mg,60μmol)
を加えて、DMAc2.0mLに溶解した。凍結脱気を行い、封管した後、60℃で87
時間撹拌した。200mLのジエチルエーテルに投入して無色粉末を0.778g回収し
た。Mw:102200、PD:4.99、収率:82.0%。H−NMRスペクトル
図1に示した。図1のVIm由来の重合体に帰属される0.94ppm付近のピークの
積分値とVB由来の重合体に帰属される7.82ppm付近のピークの積分値の比から組
成比を求めたところx/y=47/53であった。
【0039】
実施例2
【0040】
【化10】
参考例1で得られた1−プロピオニル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン(VIm
)(0.505g,3.00mmol)とヘキサン酸ビニル(VH)(0.427g,3
.00mmol)をナスフラスコに秤量し、ここにV−40(14.7mg,60μmo
l)を加えて、DMAc2.0mLに溶解した。凍結脱気を行い、封管した後、80℃で
42時間撹拌した。200mLのヘキサンに投入して無色粉末を0.610g回収した。
Mw:36600、PD:2.86、収率:65.5%。H−NMRスペクトルを図2
に示した。図2のVIm由来の重合体に帰属される1.10ppm付近のピークの積分値
とVH由来の重合体に帰属される0.89ppm付近のピークの積分値の比から組成比を
求めたところx/y=53/47であった。
【0041】
実施例3
【0042】
【化11】
参考例2で得られた1−イソプロピル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン(VIm
−iP)(0.463g,3.00mmol)と安息香酸ビニル(VB)(0.444g
,3.00mmol)をナスフラスコに秤量し、ここにAIBN(18.5mg,60μ
mol)を加えて、DMAc2.0mLに溶解した。凍結脱気を行い、封管した後、60
℃で86時間撹拌した。200mLのジエチルエーテルに投入して淡黄色粉末を0.63
0g回収した。Mw:34700、PD:2.05、収率:69.5%。H−NMRス
ペクトルを図3に示した。図3のVIm−iP由来の重合体に帰属される0.93ppm
付近のピークの積分値とVB由来の重合体に帰属される7.85ppm付近のピークの積
分値の比から組成比を求めたところx/y=45/55であった。
【0043】
実施例4
【0044】
【化12】
参考例1で得られた1−プロピオニル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン(VIm)(0.605g,3.60mmol)と安息香酸ビニル(VB)(0.533g,3.60mmol)をナスフラスコに秤量し、ここにAIBN(10.7mg,72.0μmol)を加えて、DMAc2.4mLに溶解した。凍結脱気を行い、封管した後、60℃で24時間撹拌した。240mLのジエチルエーテルに投入して無色粉末を0.938g回収した。Mw:45500、PD:2.66、収率:82.4%。H−NMRスペクトルを図4に示した。図4のVIm由来の重合体に帰属される0.94ppm付近のピークの積分値とVB由来の重合体に帰属される7.82ppm付近のピークの積分値の比から組成比を求めたところx/y=49/51であった。
【0045】
実施例5
【0046】
【化13】
参考例1で得られた1−プロピオニル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン(VIm)(0.706g,4.20mmol)と安息香酸ビニル(VB)(0.267g,1.80mmol)をナスフラスコに秤量し、ここにAIBN(9.9mg,60μmol)を加えて、DMAc3.0mLに溶解した。凍結脱気を行い、封管した後、60℃で24時間撹拌した。300mLのジエチルエーテルに投入して無色粉末を0.860g回収した。Mw:34000、PD:2.56、収率:88.4%。H−NMRスペクトルを図1に示した。図1のVIm由来の重合体に帰属される0.94ppm付近のピークの積分値とVB由来の重合体に帰属される7.82ppm付近のピークの積分値の比から組成比を求めたところx/y=67/33であった。
【0047】
実施例6
【0048】
【化14】
参考例1で得られた1−プロピオニル−3−ビニルイミダゾリジン−2−オン(VIm)(0.303g,1.80mmol)と安息香酸ビニル(VB)(0.622g,4.20mmol)をナスフラスコに秤量し、ここにAIBN(9.9mg,60μmol)を加えて、DMAc2.0mLに溶解した。凍結脱気を行い、封管した後、60℃で24時間撹拌した。200mLのジエチルエーテルに投入して無色粉末を0.705g回収した。Mw:38500、PD:4.99、収率:76.2%。H−NMRスペクトルを図1に示した。図1のVIm由来の重合体に帰属される0.94ppm付近のピークの積分値とVB由来の重合体に帰属される7.82ppm付近のピークの積分値の比から組成比を求めたところx/y=33/67であった。
【0049】
実施例7
【0050】
実施例1で得られたランダム共重合体0.02gをDMF2mLに溶解して1重量%D
MF溶液を調製し、コート剤とした。スピンコート法にて直径15mm丸型カバーグラス
(松浪硝子工業社製)にコート剤を塗布した後、乾燥させた。
【0051】
続いて、上記カバーグラスを、コーニング社製24ウェルプレートにはめ込み、細胞培
養評価の基材として使用した。マウス結合組織由来細胞(L929細胞)を1.9×10個/ウェルの密度で播種した。培地は10vol%ウシ胎児血清を含むダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地(DMEM培地)を用い、1ウェルあたり1.0mL加えた。37℃、CO濃度5%で培養し、所定時間毎に、10×10倍の倒立型位相差顕微鏡(オリンパス社 IX73)で観察した。初期細胞密度100個/mmに対して、3日間で細胞接着密度が460個/mmに達し、コート剤で処理したカバーグラスは細胞培養用材料として有効に作用した。
【0052】
実施例8
実施例2で得られたランダム共重合体を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で評価した。初期細胞密度100個/mmに対して、3日間で細胞接着密度が475個/mmに達し、コート剤で処理したカバーグラスは細胞培養用材料として有効に作用した。
【0053】
実施例9
実施例3で得られたランダム共重合体を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で評価した。初期細胞密度100個/mmに対して、3日間で細胞接着密度が460個/mmに達し、コート剤で処理したカバーグラスは細胞培養用材料として有効に作用した。
【0054】
実施例10
実施例4で得られたランダム共重合体を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で評価した。初期細胞密度100個/mmに対して、3日間で細胞接着密度が470個/mmに達し、コート剤で処理したカバーグラスは細胞培養用材料として有効に作用した。
【0055】
実施例11
実施例5で得られたランダム共重合体を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で評価した。初期細胞密度100個/mmに対して、3日間で細胞接着密度が480個/mmに達し、コート剤で処理したカバーグラスは細胞培養用材料として有効に作用した。
【0056】
実施例12
実施例6で得られたランダム共重合体を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で評価した。初期細胞密度100個/mmに対して、3日間で細胞接着密度が450個/mmに達し、コート剤で処理したカバーグラスは細胞培養用材料として有効に作用した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のランダム共重合体により、種々の材質・形状の担体表面をコート処理すること
により、これらの担体表面の細胞への影響を低減し、細胞の培養、培養細胞の保存、培養
細胞の回収や移送などの取扱いの便宜性を向上できることから、生体適合性材料、細胞培
養用材料としての応用が期待されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】実施例1で得られたランダム共重合体のH−NMRスペクトルチャート(CDCl溶液)。
図2】実施例2で得られたランダム共重合体のH−NMRスペクトルチャート(CDCl溶液)。
図3】実施例3で得られたランダム共重合体のH−NMRスペクトルチャート(CDCl溶液)。
図4】実施例4で得られたランダム共重合体のH−NMRスペクトルチャート(CDCl溶液)。
図5】実施例5で得られたランダム共重合体のH−NMRスペクトルチャート(CDCl溶液)。
図6】実施例6で得られたランダム共重合体のH−NMRスペクトルチャート(CDCl溶液)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6