【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するN−ビニ
ルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニルエステル類とのランダム共重合体をコート剤
成分として用いることによって、担体表面を容易に処理可能で有り、コート剤で処理され
た担体を細胞培養用材料として用いることができることを見出し、本発明を完成するに至
った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)
【0013】
【化1】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアシル基
を表す。)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)
【0014】
【化2】
(式中、R
2は炭素数2〜18のアシル基を表す。)で表される繰り返し単位からなるラ
ンダム共重合体(以下、本発明のランダム共重合体と称する。)に関するものであり、下
記一般式(3)
【0015】
【化3】
(式中、R
1は水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアシル基
を表す。)で表されるN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物、および下記一般式(
4)
【0016】
【化4】
(式中、R
2は炭素数2〜18のアシル基を表す。)で表されるビニルエステル類をラジ
カル重合させるN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物とビニルエステル類とのラン
ダム共重合体の製造法に関するものである。さらに本発明のランダム共重合体を含むコー
ト剤、および該コート剤で担体表面を処理して得られる細胞培養用材料に関するものであ
る。
【0017】
一般式(1)の繰り返し単位および一般式(3)のN−ビニルイミダゾリジン−2−オ
ン化合物において、R
1が表す炭素数1〜12のアルキル基は分岐および/または環状構
造を有してもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル
基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基
、ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブ
チル基、1−エチルプロピル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基
、1−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチ
ル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、
シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチル基、オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−
エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ウンデシル基、
ドデシル基などを例示できる。R
1が表す炭素数1〜12のアシル基は分岐および/また
は環状構造を有してもよく、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イ
ソブチリル基、ペンタノイル基、3−メチルブチリル基、2,2−ジメチルプロパノイル
基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オクタノイル基、
ノナノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基などを例示できる。合成の容易さ、および
細胞の培養に適している点で、R
1はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基
、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリ
ル基、またはイソブチリル基のいずれかであることが好ましく、エチル基、プロピル基、
イソプロピル基、アセチル基、またはプロピオニル基であることがさらに好ましい。
【0018】
一般式(2)ならびに一般式(4)のビニルエステル類においてR
2は炭素数2〜18
のアシル基を表し、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタ
ノイル基、3−メチルブチリル基、2,2−ジメチルプロパノイル基、ヘキサノイル基、
ヘプタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノ
イル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル
基、ベンゾイル基、4−tert−ブチルベンゾイル基などを例示できる。コーティング
性に優れる点で、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、3−
メチルブチリル基、2,2−ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル基、シクロヘキサンカ
ルボニル基またはベンゾイル基が好ましい。
【0019】
N−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物(3)とビニルエステル類(4)とからラ
ンダム共重合体を製造する際、ラジカル重合を用いると簡便に且つ効率よく重合体を得る
ことができる。より具体的なラジカル重合法として、フリーラジカル重合を利用したバル
ク重合、溶液重合、乳化重合などの公知の方法をあげることができる。ラジカル重合をよ
り効率よく開始させるために、任意の量のラジカル開始剤を添加できる。反応に好適に用
いられるラジカル開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化
物を例示でき、重合促進剤と呼ばれるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミ
ン、N,N−ジメチルパラトルイジンなどのアミン化合物と組み合わせて用いることによ
って低温で迅速な重合が可能である。さらに、ラジカル開始剤としてジラウロイルペルオ
キシド、ベンゾイルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチ
ルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物、またα,α−ア
ゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−
ジメチルバレロニトリル)(V−70)や1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カ
ルボニトリル)(V−40)などのアゾ化合物を例示することができる。中でも副反応を
抑制する観点から、アゾ化合物が好適に用いられる。
【0020】
本発明のランダム共重合体はN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物(3)とビニ
ルエステル類(4)とを任意の割合で混合してフリーラジカル重合を行うことにより製造
できるほか、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法を用いることによっても製造で
きる。
【0021】
任意の割合のN−ビニルイミダゾリジン−2−オン化合物(3)とビニルエステル類(
4)混合物に、先に挙げたラジカル重合開始剤およびRAFT剤の共存下、RAFT重合
を行う。
【0022】
全モノマーのモル量[M]とラジカル重合開始剤から発生するラジカル種のモル量[I
・]の比[M]/[I・]、およびモノマーの転化率を制御することによって本発明のラ
ンダム共重合体の分子量や分子量分布を制御することができる。RAFT剤の使用量[R
AFT]は[I・]と同量、もしくはそれ以上あれば良く、一般に[RAFT]/[I・
]は1〜10、好ましくは1.5〜5となるよう調整する。モノマーの転化率はRAFT
剤の種類、[RAFT]/[I・]の値、溶媒の有無または種類、モノマーの初期濃度、
溶液の粘度、重合温度、重合時間などによって任意に制御できる。RAFT剤としては、
一般にジチオカルバメート化合物やジチオカーボネート化合物など非共役モノマーのRA
FT重合に適した公知のものを使用することができ、より具体的には、N−メチル−N−
フェニルジチオカルバミン酸シアノメチル、N,N−ジフェニルジチオカルバミン酸シア
ノメチル、N−メチル−N−4−ピリジルジチオカルバミン酸シアノメチル、N,N−ジ
フェニルジチオカルバミン酸エトキシカルボニルメチル、エトキシジチオカルボン酸1−
シアノエチルなどを例示できるが、R
1およびR
2の種類や組み合わせになどによってR
AFT剤の選択が異なってくることがある。RAFT剤の選択については例えば、Mac
romolecules、第45巻、5321−5342頁(2012年)などの公知文
献を参考にすると良い。
【0023】
通常、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下または脱酸素下で重合を行う
ことで再現性良く本発明のランダム共重合体を製造でき、溶媒を用いると重合反応が円滑
に進行する。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソ
プロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ペンタン、シクロペ
ンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレ
ン、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエ
タン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテ
ル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキ
シド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DM
Ac)、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプ
ロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ピコリン
等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒を二
種以上混合して用いることもできる。重合反応は通常0℃〜100℃の範囲内で円滑に進
行する。
【0024】
本発明のランダム共重合体における繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)の比率は
、担体表面のコーティングや細胞培養などが可能であれば特に制限は無いが、概ね、繰り
返し単位(1):繰り返し単位(2)=1:9〜9:1(重量比)、好ましくは2:8〜
8:2である。この比率は
1H−NMRなどの核磁気共鳴スペクトルを測定し、それぞれ
の繰り返し単位由来のスペクトルの積分値から数平均値として求めることができ、重量比
に換算することで求めることができる。
【0025】
本発明のランダム共重合体の分子量としては重量平均分子量、数平均分子量、粘度平均
分子量など測定方法に応じて用いることができる。重量平均分子量(Mw)に関しては1
000〜1000000であることが好ましく、重合体の性質の制御および加工性などの
観点から5000〜500000であることがさらに好ましい。分子量分布(PD)に特
に制限はないが、概ね1〜20の範囲であることが好ましく、重合体の均一性の観点から
1〜5の範囲であることがさらに好ましい。分子量の算出方法として、ポリスチレンやポ
リエチレングリコールなどの標準試料を基準に換算するゲル濾過クロマトグラフィー(G
PC)法、粘度法、光散乱法など公知の方法をあげることができる。
【0026】
本発明のランダム共重合体を溶媒に溶解してコート剤を調製できる。コート剤に用いら
れる溶媒としては本発明のランダム共重合体を溶解し、担体表面などに塗布した後、溶媒
を除去できれば特に制限は無いが、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプ
ロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、
シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン
、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、アセトン、メ
チルエチルケトン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフ
ラン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、DMF、N,N−ジメチル
アセトアミド、N−メチルピロリジン−2−オン、エチレングリコール、2−メトキシエ
タノール、2−ブトキシエタノールなどを用いることができるが、これらに限定されるも
のではない。また、これらの溶媒を二種以上混合して用いることもできる。
【0027】
コート剤の濃度は、コーティングに支障なければ特に制限は無いが、概ね、本発明のラ
ンダム共重合体の濃度を0.01〜20重量%となるように調整すると良い。
【0028】
ガラス製、樹脂製など様々な材質から成るシャーレ、袋、スポンジ状の多孔質基材、粒
状多孔質基材、不織布や織布など繊維基材などの種々の形状の担体の表面を本発明のラン
ダム共重合体を含むコート剤で処理することによって、細胞培養用材料を作製することが
できる。コート剤の処理方法は特に制限は無く、公知の方法を用いることができ、例えば
ディップ法、スプレイ法、キャスト法、スピンキャスト法、インクジェット印刷法などを
用いることができる。