(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
(磁歪式トルクセンサの説明)
まず、磁歪式トルクセンサ(以下、単にトルクセンサという)について
図1乃至
図3を用いて説明しておく。
図1は、トルクセンサのセンサ部の一例を示す図であり、(a)はシャフトに取り付けた際の側面図、(b)はそのA−A線断面図である。
図2は、ボビンを展開した状態を模式的に示す平面図であって、(a)は第1検出コイル及び第4検出コイルを説明する図、(b)は第2検出コイル及び第3検出コイルを説明する図である。
図3は、トルクセンサの検出信号によりシャフトに付与されたトルクを測定する測定部の一例を示す回路図である。
【0014】
図1(a),(b)に示すように、トルクセンサ1のセンサ部2は、磁歪特性を有する磁歪式トルクセンサ用シャフト(以下、単にシャフトという)101の周囲に取り付けられている。トルクセンサ1は、シャフト100に付与されたトルク(回転トルク)を測定するものである。
【0015】
シャフト100は、磁歪特性を有する材料から構成され、円柱状(棒状)に形成されている。シャフト100は、例えば、車両のパワートレイン系のトルク伝達に用いられるシャフト、あるいは車両のエンジンのトルク伝達に用いられるシャフトである。
【0016】
センサ部2は、コイル21と、磁性体リング22と、を備えている。磁性体リング22は、磁性体(強磁性体)からなり、中空円筒状に形成されている。磁性体リング22の中空部にはコイル21が挿入される。磁性体リング22は、コイル21の検出コイル3で生じた磁束が外部に漏れて感度が低下することを抑制する役割を果たす。
【0017】
コイル21は、非磁性体である樹脂からなるボビン23と、ボビン23の外周に絶縁電線を巻き付けて構成される複数の検出コイル3と、を有している。ボビン23は、シャフト100と離間して同軸に設けられており、中空円筒状に形成されている。ボビン23の外周面には、シャフト100の軸方向に対して所定角度(ここでは+45度)傾斜した複数の第1傾斜溝4と、軸方向に対して第1傾斜溝4と反対方向に所定角度(ここでは−45度)傾斜した複数の第2傾斜溝5とが形成されている。第1傾斜溝4及び第2傾斜溝5は、ボビン23の径方向に窪んだ溝によって形成されている。
【0018】
図2(a),(b)に示すように、コイル21は、検出コイル3として、第1〜第4検出コイル31〜34を有している。第1検出コイル31及び第4検出コイル34は、第1傾斜溝4に沿って絶縁電線をボビン23に巻き付けて形成される。第2検出コイル32及び第3検出コイル33は、第2傾斜溝5に沿って絶縁電線をボビン23に巻き付けて形成される。
【0019】
図2(a)中、符号31a,31bは、それぞれ第1検出コイル31の1層分の入力端と出力端を示し、符号34a,34bは、それぞれ第4検出コイル34の1層分の入力端と出力端を示す。
図2(b)中、符号32a,32bは、それぞれ第2検出コイル32の1層分の入力端と出力端を示し、符号33a,33bは、それぞれ第3検出コイル33の1層分の入力端と出力端を示す。なお、
図2(a),(b)では1ターン分の絶縁電線の巻き付けを示しており、目的のターン絶縁電線の巻き付けを繰り返すことで、各検出コイル31〜34が形成される。また、
図2(a),(b)に示した絶縁電線の巻き付け方法は一例であり、他の巻き付け方を用いて検出コイル31〜34を形成してもよい。
【0020】
第1検出コイル31及び第4検出コイル34は、シャフト100の軸方向に対して所定角度(ここでは+45度)傾斜した第1方向でのシャフト100の透磁率変化を検出するためのものである。また、第2検出コイル32及び第3検出コイル33は、シャフト100の軸方向に対して第1方向と反対側に所定角度(ここでは−45度)傾斜した第2方向でのシャフト100の透磁率変化を検出するためのものである。
【0021】
図3に示すように、測定部41は、第1〜第4検出コイル31〜34のインダクタンスの変化を検出することにより、シャフト100に付与されたトルクを測定するものである。
【0022】
測定部41は、第1検出コイル31、第2検出コイル32、第4検出コイル34、第3検出コイル33をこの順序で環状に接続して構成されたブリッジ回路42と、第1検出コイル33と第2検出コイル32との間の接点aと第3検出コイル33と第4検出コイル34との間の接点bとの間に交流電圧を印加する発信器43と、第1検出コイル31と第3検出コイル33との間の接点cと第2検出コイル32と第4検出コイル34との間の接点d間の電圧を検出する電圧測定回路44と、電圧測定回路44で測定した電圧を基にシャフト100に付与されたトルクを演算するトルク演算部45と、を備えている。ブリッジ回路42は、第1検出コイル31及び第4検出コイル34を対向する一方の辺に配置し、第2検出コイル32及び第3検出コイル33を対向する他方の辺に配置して構成される。
【0023】
測定部41では、シャフト100にトルクが付与されない状態では、第1〜第4検出コイル31〜34のインダクタンスL1〜L4は等しくなり、電圧測定回路44で検出される電圧は略0となる。
【0024】
シャフト100にトルクが付与されると、軸方向に対して+45度の方向の透磁率が減少(又は増加)し、軸方向に対して−45度方向の透磁率が増加(又は減少)する。よって、発信器43から交流電圧を印加した状態でシャフト100にトルクが付与されると、第1検出コイル31及び第4検出コイル34ではインダクタンスが減少(又は増加)し、第2検出コイル32及び第3検出コイル33ではインダクタンスが増加(又は減少)する。その結果、電圧測定回路44で検出される電圧が変化するので、この電圧の変化を基に、トルク演算部45がシャフト100に付与されたトルクを演算する。
【0025】
第1検出コイル31及び第4検出コイル34と、第2検出コイル32及び第3検出コイル33とは、巻き付け方向が異なる以外は全く同じ構成であるから、
図3のようなブリッジ回路42を用いることで、第1〜第4検出コイル31〜34のインダクタンスへの温度等の影響をキャンセルすることが可能であり、シャフト100に付与されたトルクを精度よく検出することができる。また、トルクセンサ1では、第1検出コイル31及び第4検出コイル34でインダクタンスが増加(又は低下)すれば、第2検出コイル32及び第3検出コイル33ではインダクタンスが低下(又は増加)するため、
図3のようなブリッジ回路42を用いることで、検出感度をより向上することができる。
【0026】
(シャフト100とその製造方法の説明)
本実施の形態では、シャフト100として、クロム鋼(SCr)又はクロムモリブデン鋼(SCM)からなる軸材に、浸炭焼入れ焼戻し処理を施した後に、ショットピーニングを施したものを用いる。
【0027】
つまり、本実施の形態に係るシャフト100の製造方法は、クロム鋼又はクロムモリブデン鋼からなる軸材に、浸炭焼入れ焼戻し処理を施す熱処理工程と、少なくとも熱処理工程後の軸材のセンサ部2が取り付けられる位置に、ショットピーニングを施すショットピーニング工程と、を備えている。
【0028】
軸材の全体に浸炭焼入れ焼戻し処理を施すことによって、シャフト100の靱性を含む機械的強度を高めることができる。
【0029】
さらに、熱処理後の軸材にショットピーニングを施すことで、シャフト100の表面(表面から所定深さの領域)においてマルテンサイト変態(無拡散変態)を生じさせ、非磁性のオーステナイトを減少させ、強磁性のマルテンサイトを増大させることができる。その結果、シャフト100の表面における非磁性領域が減少し磁性領域が増大することにより、トルクが付与された際の透磁率の変化が大きくなり、トルクセンサ1の感度を向上させることが可能になる。なお、オーステナイトは、面心立方格子構造の鉄(γ鉄)に他元素が固溶したものである。また、マルテンサイトは、体心正方格子の鉄の結晶中に炭素が侵入した固溶体である。
【0030】
また、熱処理後の軸材にショットピーニングを施すことで、軸材の表面が加工硬化されヒステリシス特性が改善される。より詳細には、熱処理後の軸材にショットピーニングを施すことにより、シャフト100の表面における磁区(磁気モーメントの向きが揃った区域)が細分化されると共に、磁区の境界である磁壁の移動を妨げるピニングサイトとなるオーステナイトが低減される。その結果、付与しているトルクを開放した際に、磁区や磁壁がもとの状態に戻り易くなり、ヒステリシス誤差が低減される。
【0031】
なお、トルクセンサ1の感度とは、
図4に示すように、センサ出力V(mV)を、シャフト100に付与されるトルクT(Nm)で除したものであり、V/T(mV/Nm)で表される。シャフト100に付与するトルクTを−T1以上+T1以下とし、トルク−T1に対応するセンサ出力をV1、トルク+T1に対応するセンサ出力をV2とすると、センサ感度は(V2−V1)/(2×T1)=Vs/Tsで表される。また、ヒステリシス誤差は、直線性誤差とも呼称されるものであり、センサ出力Vs(=V2−V1)に対するトルク増加時及び減少時の同トルクでのセンサ出力差の最大値Vhの比率であり、Vh/Vs(%FS、FSはフルスケールを意味する)で表すことができる。
【0032】
本実施の形態では、シャフト100の軸材としてクロム鋼(SCr420)を用いた場合、及びクロムモリブデン鋼(SCM420)を用いた場合について、最適なショットピーニングの条件について検討した。使用したクロム鋼(SCr420)及びクロムモリブデン鋼(SCM420)の成分表を表1に示す。また、それぞれの熱処理条件を表2に示す。
【0035】
表2に示すように、本実施の形態では、熱処理工程後の軸材の硬度を、HRC59以上62以下としている。これは、熱処理工程後の軸材の硬度が低いと、センサ感度が低下したりヒステリシス誤差が高くなったりする場合があるためである。センサ感度及びヒステリシス誤差の悪化を抑制するために、熱処理工程後の軸材の硬度はHRC58以上とすることが望ましい。つまり、熱処理工程では、熱処理工程後の軸材の硬度がHRC58以上となるように熱処理を行うことが望ましい。ただし、熱処理工程後の軸材の硬度が高すぎると、靱性が低下してシャフト100としての性能が低下するおそれがあるため、熱処理工程後の軸材の硬度は、HRC62以下とすることが望ましく、HRC59以上62以下とすることがより望ましい。
【0036】
本実施の形態では、ショットピーニングのショット材として、粒径0.6mm、HRC(ロックウェル硬さ)60のスチールからなるものを用いた。また、ショットピーニングにおける噴射圧力は0.4MPa(P4と表す)、あるいは0.55MPa(P5と表す)とし、噴射時間は2分(M2と表す)、5分(M5と表す)、あるいは10分(M10と表す)とした。
【0037】
試験では、シャフト100に与えるトルクを、0、10、20、30、40、50、40、30、20、10、0、−10、−20、−30、−40、−50、−40、−30、−20、−10、0(単位はNm)と変化させて、トルクに対するセンサ出力の関係(
図4参照)を取得し、当該関係からセンサ感度とヒステリシス誤差を演算した。また、温度を150℃、20℃、−40℃として同様の試験を行った。
【0038】
軸材としてクロム鋼(SCr420)を用いた場合の試験結果を
図5(a),(b)に示す。
図5(a),(b)の横軸において、例えばP4M2という表記は、噴射圧力が0.4MPaであり、噴射時間が2分であることを表している。
図5(a),(b)の横軸では、概略として、左から右にかけてショットピーニングの噴射エネルギーが大きくなっている。
【0039】
図5(a),(b)に示すように、クロム鋼(SCr420)では、噴射時間を長くするほど、また噴射圧力を高くするほど、センサ感度の向上、及びヒステリシス誤差の低減の効果が得られることが分かる。つまり、ショットピーニングの噴射エネルギーが大きくなるほど、センサ感度及びヒステリシス誤差が改善されている。
【0040】
ショットピーニングを行わない試料に対しても同様に試験を行ったところ、センサ感度は約2mV/Nmであり、ヒステリシス誤差は約6%FSであった。よって、軸材としてクロム鋼を用い、粒径0.6mmでHRC60のショット材を用いる場合には、少なくとも噴射圧力を0.4MPa以上、噴射時間を2分以上とすることで、センサ感度の向上、及びヒステリシス誤差の低減の効果が得られるといえる。
【0041】
トルクセンサ1では、センサ感度が4mV/Nm以上であり、かつヒステリシス誤差が3%以下であることが望まれる。よって、センサ感度が4mV/Nm以上でかつヒステリシス誤差が3%以下となるように、噴射圧力0.4MPa以上0.55MPa未満でかつ噴射時間を5分以上とするか、あるいは噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間を2分以上とすることが好ましい。
【0042】
さらに、ノイズやシャフト100の回転の影響(回転軸の偏心の影響)を考慮して全体のヒステリシス誤差を3%以下に抑えるためには、これらの影響がない状況でのヒステリシス誤差を2%以下に抑えることがより望ましく、噴射圧力0.4MPa以上0.55MPa未満でかつ噴射時間を10分以上とするか、あるいは噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間を2分以上とすることがより好ましいといえる。なお、10分以上の噴射時間とした場合にはシャフト100の生産に時間がかかり、量産性が低下してしまうおそれがある。よって、量産性を高めるという観点からは、ショットピーニング工程において、噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間2分以上とすることがより好ましいといえる。
【0043】
上述のように、噴射エネルギーが大きいほどセンサ感度及びヒステリシス誤差が改善されることから、ショット材としては、できるだけ粒径が大きく硬度が高いものを用いることが望ましいといえる。
図5の試験結果より、少なくとも、粒径0.6mm以上、HRC60以上(HV700以上)のショット材を用い、かつ噴射圧力0.4MPa以上、噴射時間2分以上の条件でショットピーニングを行うことで、センサ感度及びヒステリシス誤差を改善可能である。
【0044】
なお、本発明者が粒径0.35mmかつHV(ビッカース硬さ)1200のショット材を用いてショットピーニングを行ったところ、ヒステリシス誤差は低減したもののセンサ感度の十分な向上が認められなかった。また、粒径0.8mmかつHRC60のショット材を用いてショットピーニングを行ったところ、粒径0.6mmかつHRC60のショット材を用いた場合とほぼ同様の結果が得られた。なお、ショット材の粒径が大きすぎるとシャフト100の表面の凹凸が大きくなり、それによる誤差が大きくなるおそれがあるため、ショット材の粒径は、0.6mm以上0.8mm以下とすることが望ましい。
【0045】
また、ショットピーニング時の噴射圧力を高くし過ぎると、安全性を確保するために特殊なショットピーニング装置を用いる必要が生じ、コストが高くなる。一般的なショットピーニング装置を使用することを考慮すると、安全性を確保する観点から、ショットピーニング時の噴射圧力は0.4MPa以上0.6MPa以下とすることが望ましい。
【0046】
次に、噴射圧力0.5MPaかつ噴射時間2分とした資料(P5M10)を用い、X線回折試験を行った。X線回折試験では、直径20mmかつ厚さ5mmの短円柱状の試料を用い、当該試料にCuKα線を照射して試験を行った。X線回折試験の結果を
図6(a)〜(c)に示す。なお、
図6(b),(c)は、
図6(a)の一部を拡大したものである。また、
図6(a)〜(c)では、比較のため、ショットピーニングを行わない試料についての結果も併せて示している。
【0047】
図6(a)〜(c)に示すように、本発明の試料(ショットピーニングありP5M10)では、ショットピーニングを行わない従来例の試料(ショットピーニングなし)と比較して、非磁性のオーステナイトが減少し、強磁性のマルテンサイトが増加しており、これによりセンサ感度が向上することが分かる。なお、
図6(a)〜(c)における括弧内の数字はミラー指数を表している。また、
図6(a)〜(c)の縦軸である回折強度の単位は、cps(counts per second)である。
【0048】
また、
図6(c)に示すように、ミラー指数(200)におけるオーステナイトとマルテンサイトのピーク値の大小関係が、本発明と従来例とで逆転している。つまり、従来例では、オーステナイト(200)のピーク値がマルテンサイト(200)のピーク値よりも大きいが、本発明では、オーステナイト(200)のピーク値がマルテンサイト(200)のピーク値よりも小さくなっている。本発明者が検討したところ、特にマルテンサイト(200)及びマルテンサイト(211)のピーク値が高いほど、低温時のヒステリシス誤差を低減できることが分かった。低温時のヒステリシス誤差を低減するために、マルテンサイト(200)及びマルテンサイト(211)のピーク値は、ショットピーニングを行う前のピーク値の1.15倍以上であることが望ましい。
【0049】
次に、クロムモリブデン鋼(SCM420)における試験結果を
図7(a),(b)に示す。なお、試験条件は
図5のクロム鋼における試験条件と同様とした。
図7(a),(b)に示すように、クロムモリブデン鋼では、P4M2、P5M2、及びP5M10のいずれの場合でもセンサ感度が4mV/Nm以上であり、かつヒステリシス誤差が概略2%以下となっている。よって、少なくとも、粒径0.6mm以上、HRC60以上(HV700以上)のショット材を用い、噴射圧力を0.4MPa以上、噴射時間を2分以上とすることで、センサ感度の向上及びヒステリシス誤差の低減の効果を十分に得ることができる。
【0050】
また、クロムモリブデン鋼についても、噴射圧力0.5MPaかつ噴射時間2分とした資料(P5M10)を用い、クロム鋼と同様にX線回折試験を行った。結果を
図8(a)〜(c)に示す。なお、
図8(b),(c)は、
図8(a)の一部を拡大したものである。また、
図8(a)〜(c)では、比較のため、ショットピーニングを行わない試料(SCM420)についての結果も併せて示している。
【0051】
図8(a)〜(c)に示すように、本発明の試料(ショットピーニングありP5M10)では、ショットピーニングを行わない従来例の試料(ショットピーニングなし)と比較して、非磁性のオーステナイトが減少し、強磁性のマルテンサイトが増加しており、これによりセンサ感度の向上に寄与していることが分かる。また、ミラー指数(200)におけるオーステナイトとマルテンサイトのピーク値の大小関係が、本発明と従来例とで逆転している。さらに、マルテンサイト(200)及びマルテンサイト(211)のピーク値は、ショットピーニングを行う前のピーク値の1.15倍以上となっている。
【0052】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るシャフト100の製造方法では、クロム鋼又はクロムモリブデン鋼からなる軸材に、浸炭焼入れ焼戻し処理を施す熱処理工程と、少なくとも熱処理工程後の軸材のセンサ部が取り付けられる位置に、ショットピーニングを施すショットピーニング工程と、を備え、ショットピーニング工程において、粒径0.6mm以上かつHRC60以上のショット材を用い、噴射圧力を0.4MPa以上、噴射時間を2分以上としている。
【0053】
ショットピーニング工程を備えることにより、シャフト100の表面のみで非磁性のオーステナイトを減少させることが可能となり、シャフト100の靱性の低下を抑制できる。また、クロム鋼又はクロムモリブデン鋼からなる軸材を用いた場合において、粒径0.6mm以上かつHRC60以上のショット材を用い、噴射圧力を0.4MPa以上、噴射時間を2分以上とする条件でショットピーニングを行うことにより、センサ感度を向上でき、かつヒステリシス誤差を低減することが可能となる。
【0054】
また、ショットピーニング工程において、噴射圧力0.4MPa以上0.55MPa未満でかつ噴射時間を5分以上とするか、あるいは噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間を2分以上とすることで、−40℃以上150℃以下の広い温度域において、センサ感度を4mV/Nm以上と高いセンサ感度を確保でき、かつ3%FS以下と低いヒステリシス誤差を実現できる。
【0055】
さらに、ショットピーニング工程において、噴射圧力0.4MPa以上0.55MPa未満でかつ噴射時間を10分以上とするか、あるいは噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間を2分以上とすることで、ヒステリシス誤差を2%FS以下とし、ノイズやシャフト100の回転の影響を考慮した場合においても、全体として3%FS以下の低いヒステリシス誤差を実現可能になる。
【0056】
さらにまた、ショットピーニング工程において、噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間を2分以上とすることで、2%FS以下のヒステリシス誤差を維持しつつも、ショットピーニング工程にかかる時間を短縮でき、量産性を高めることができる。
【0057】
また、熱処理工程において、熱処理工程後の軸材の硬度がHRC58以上となるように熱処理を行うことで、熱処理の影響によるセンサ感度及びヒステリシス誤差の悪化を抑制できる。
【0058】
また、ショットピーニング工程において、ショットピーニング工程後のシャフト表面の表面粗さRaが0.2以下となるようにショットピーニングを行うことで、シャフト100表面の凹凸の影響による誤差を抑制し、より精度の高いトルク検出が可能になる。
【0059】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0060】
[1]磁歪式トルクセンサ(1)のセンサ部(2)が取り付けられる磁歪式トルクセンサ用シャフト(100)の製造方法であって、クロム鋼又はクロムモリブデン鋼からなる軸材に、浸炭焼入れ焼戻し処理を施す熱処理工程と、少なくとも前記熱処理工程後の軸材の前記センサ部(2)が取り付けられる位置に、ショットピーニングを施すショットピーニング工程と、を備え、前記ショットピーニング工程では、粒径0.6mm以上かつロックウェル硬さ60以上のショット材を用い、噴射圧力を0.4MPa以上、噴射時間を2分以上とする、磁歪式トルクセンサ用シャフトの製造方法。
【0061】
[2]前記ショットピーニング工程では、噴射圧力0.4MPa以上0.55MPa未満でかつ噴射時間を5分以上とするか、あるいは噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間を2分以上とする、[1]に記載の磁歪式トルクセンサ用シャフトの製造方法。
【0062】
[3]前記ショットピーニング工程では、噴射圧力0.4MPa以上0.55MPa未満でかつ噴射時間を10分以上とするか、あるいは噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間を2分以上とする、[1]に記載の磁歪式トルクセンサ用シャフトの製造方法。
【0063】
[4]前記ショットピーニング工程では、噴射圧力0.55MPa以上でかつ噴射時間を2分以上とする、[1]に記載の磁歪式トルクセンサ用シャフトの製造方法。
【0064】
[5]前記軸材がクロム鋼からなる、[2]乃至[4]の何れか1項に記載の磁歪式トルクセンサ用シャフトの製造方法。
【0065】
[6]前記熱処理工程では、該熱処理工程後の軸材の硬度がロックウェル硬さ58以上となるように熱処理を行う、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の磁歪式トルクセンサ用シャフトの製造方法。
【0066】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0067】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。