特許第6741124号(P6741124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6741124
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】アクリルゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/00 20060101AFI20200806BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   C08F6/00
   C08F20/10
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-112911(P2019-112911)
(22)【出願日】2019年6月18日
【審査請求日】2019年11月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩文
(72)【発明者】
【氏名】江尻 和弘
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−243102(JP,A)
【文献】 特開平05−017516(JP,A)
【文献】 特開平10−001511(JP,A)
【文献】 特開平11−158215(JP,A)
【文献】 特開2011−012142(JP,A)
【文献】 特開2002−187901(JP,A)
【文献】 特開2009−040957(JP,A)
【文献】 特開平08−239420(JP,A)
【文献】 特開平02−006505(JP,A)
【文献】 特表2014−528024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルゴムのクラムとセラム水との混合物であるクラムスラリーを、バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機に投入し、前記押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程を備える、アクリルゴムの製造方法であって、
前記押出機として、減圧ベント口を複数有するものを用い、
押出方向上流側の減圧ベント口の絶対圧力を、押出方向下流側の減圧ベント口の絶対圧力よりも高くする、アクリルゴムの製造方法。
【請求項2】
押出方向上流側の減圧ベント口の絶対圧力と、押出方向下流側の減圧ベント口の絶対圧力との差を、5.0〜94.0kPaの範囲とする、請求項1に記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項3】
前記押出機として、前記減圧ベント口をつ以上有するものを用い、
つ以上の前記減圧ベント口のうち、少なくともつの減圧ベント口の絶対圧力を、押出方向上流側から押出方向下流側に向かって、順に低くなるように設定する、請求項1または2に記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項4】
前記押出機として、複数の前記減圧ベント口に、覗き窓を有するものを用いる、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項5】
アクリルゴムを、含水率60〜70重量%であるクラムスラリーの状態で、前記押出機に投入して、アクリルゴムの乾燥を行う請求項1〜4のいずれかに記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項6】
前記押出機として、複数の前記減圧ベント口よりも押出方向上流側に、押出方向上流側から順に、第1排出スリットおよび第2排出スリットを備えるものを用いる、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリルゴムの製造方法。
【請求項7】
前記押出機で単位時間当たりに乾燥されるアクリルゴムの処理量をQ[kg/h]、前記スクリューの回転数をN[rpm]としたとき、下記式(1)を満たす、請求項1〜6のいずれかに記載のアクリルゴムの製造方法。
3≦Q/N≦8 (1)
【請求項8】
洗浄タンク内で、アクリルゴムを洗浄する洗浄工程をさらに備え、
前記洗浄工程と前記乾燥工程とを、この順に連続工程とする請求項1〜7のいずれかに記載のアクリルゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴムの製造方法に関し、さらに詳しくは、ベントアップの発生を抑制しながら、アクリルゴムの含水率を適切に低減可能なアクリルゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性、耐圧縮永久歪み性等の諸特性に優れるゴム架橋物が得られるゴム材料として、自動車用途を中心とした機能部品等に広く用いられている。また、アクリルゴムの製造過程では、ゴム重合体を塩析させた後に、押出機などにより押出乾燥する処理が行われる。
【0003】
たとえば、特許文献1には、ゴム重合体を、押出機などにより押出乾燥する技術において、大気圧に連通し脱圧して気化物を大気に排出するベント口と、強制脱圧して気化物を排出する減圧ベント口とを備えた押出機を用いる技術が開示されている。この特許文献2においては、減圧ベント口を複数備えた押出機が例示されているが、複数の減圧ベント口の絶対圧力をいかなる条件とするかについては全く言及がなされていない。
【0004】
また、特許文献2には、ゴム重合体を、押出機などにより押出乾燥する技術において、押出乾燥されたゴム重合体を、密閉されたスチーム流によりさらに乾燥させる技術が開示されている。この特許文献2にいては、押出機先端からのゴム重合体の押出量や、押出機のスクリューの回転数、押出機先端内部におけるポリマーの圧力、さらには、押出機の比エネルギーなどの種々の条件を変更した際における、実験結果が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3,4には、特許文献1や特許文献2のような押出機内においてゴム重合体の脱水、乾燥のみを行う技術とは異なり、押出機内において、ゴム重合体の塩析、ならびに、これに続いて、脱水および乾燥を行う技術が開示されている。これら特許文献3,4においては、押出機として、複数のベント口を有するものを用いる態様が例示されているが、特許文献3,4においても、複数のベント口の絶対圧力をいかなる条件とするかについては全く言及がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−202406号公報
【特許文献2】特開2002−3523号公報
【特許文献3】特開2011−12142号公報
【特許文献4】特開2002−187901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
押出機を用いた押出乾燥においては、アクリルゴムの脱水および乾燥を、この順で行うものであるが、アクリルゴムの乾燥効率を高め、これにより得られるアクリルゴムの含水率を低減するために、脱水に続く乾燥は、通常、減圧ベント口を介した減圧乾燥により行われる。しかしながら、減圧ベント口を介した減圧乾燥においては、減圧ベント口において、溶融したアクリルゴムが発泡し、アクリルゴムが減圧ベント口に流れ込むベントアップが発生してしまい、これにより生産性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、ベントアップの発生を抑制しながら、アクリルゴムの含水率を適切に低減可能なアクリルゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、押出機を用いて、アクリルゴムの乾燥を行う際に、押出機として、減圧ベント口を複数有するものを用い、かつ、押出方向上流側の減圧ベント口の絶対圧力を、押出方向下流側の減圧ベント口の絶対圧力よりも高くすることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程を備える、アクリルゴムの製造方法であって、
前記押出機として、減圧ベント口を複数有するものを用い、
押出方向上流側の減圧ベント口の絶対圧力を、押出方向下流側の減圧ベント口の絶対圧力よりも高くする、アクリルゴムの製造方法が提供される。
【0011】
本発明において、押出方向上流側の減圧ベント口の絶対圧力と、押出方向下流側の減圧ベント口の絶対圧力との差を、5.0〜94.0kPaの範囲とすることが好ましい。
本発明において、前記押出機として、前記減圧ベント口を2つ以上有するものを用い、2つ以上の前記減圧ベント口のうち、少なくとも2つの減圧ベント口の絶対圧力を、押出方向上流側から押出方向下流側に向かって、順に低くなるように設定することが好ましい。
本発明において、前記押出機として、複数の前記減圧ベント口に、覗き窓を有するものを用いることが好ましい。
本発明において、アクリルゴムを、含水率60〜70重量%であるクラムの状態で、前記押出機に投入して、アクリルゴムの乾燥を行うことが好ましい。
【0012】
本発明において、前記押出機として、複数の前記減圧ベント口よりも押出方向上流側に、押出方向上流側から順に、第1排出スリットおよび第2排出スリットを備えるものを用いることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記押出機で単位時間当たりに乾燥されるアクリルゴムの処理量をQ[kg/h]、前記スクリューの回転数をN[rpm]としたとき、下記式(1)を満たすことが好ましい。
3≦Q/N≦8 (1)
本発明において、洗浄タンク内で、アクリルゴムを洗浄する洗浄工程をさらに備えるものとし、前記洗浄工程と前記乾燥工程とを、この順に連続工程とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ベントアップの発生を抑制しながら、アクリルゴムの含水率を適切に低減可能なアクリルゴムの製造方法の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態に係るアクリルゴムの製造方法に用いる洗浄タンクおよび押出機を示す概略図である。
図2図2は、押出機の内部に配置されるスクリューを示す概略図である。
図3図3は、図1のIII−III線と図2のIII−III線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアクリルゴムの製造方法は、バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程を備える、アクリルゴムの製造方法であって、
前記押出機として、減圧ベント口を複数有するものを用い、
押出方向上流側の減圧ベント口の絶対圧力を、押出方向下流側の減圧ベント口の絶対圧力よりも高く設定するものである。
【0017】
<アクリルゴム>
まず、本発明の製造方法で用いるアクリルゴムについて説明する。
本発明の製造方法で用いるアクリルゴムは、分子中に、主成分(ゴム全単量体単位中、好ましくは30重量%以上有するものを言う。)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体〔アクリル酸エステル単量体および/またはメタクリル酸エステル単量体の意。以下、(メタ)アクリル酸メチルなど同様。〕単位を含有するゴム状の重合体である。
【0018】
本発明の製造方法で用いるアクリルゴムの主成分である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、たとえば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体などを挙げることができる。
【0019】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数1〜8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数が2以上である、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n−ブチルがより好ましく、アクリル酸エチル、およびアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数2〜8のアルコキシアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、および(メタ)アクリル酸4−メトキシブチルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸2−メトキシエチルが好ましく、アクリル酸2−エトキシエチル、およびアクリル酸2−メトキシエチルが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0021】
本発明の製造方法で用いるアクリルゴムにおいては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位30〜100重量%、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位70〜0重量%からなるものを用いることが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法で用いるアクリルゴム中における、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは50〜99.9重量%、さらに好ましくは80〜99.5重量%、特に好ましくは95〜99.5重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐候性、耐熱性、および耐油性が低下するおそれがあり、一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0023】
本発明の製造方法で用いるアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位に加えて、必要に応じて、架橋性単量体単位を含有していてもよい。架橋性単量体単位を形成する架橋性単量体としては、特に限定されないが、たとえば、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体;エポキシ基を有する単量体;ハロゲン原子を有する単量体;ジエン単量体;などが挙げられる。
【0024】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸、および炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルなどが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いることにより、アクリルゴムを、カルボキシル基を架橋点として持つカルボキシル基含有アクリルゴムとすることができ、これにより、ゴム架橋物とした場合における、耐圧縮永久歪み性をより高めることができる。
【0025】
炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、クロトン酸、およびケイ皮酸などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸の具体例としては、フマル酸、マレイン酸などのブテンジオン酸;イタコン酸;シトラコン酸;クロロマレイン酸;などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルの具体例としては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−ブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニルなどの脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn−ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノエステル;などが挙げられる。
これらの中でも、炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルが好ましく、ブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル、または脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘキシルがさらに好ましく、フマル酸モノn−ブチルが特に好ましい。これらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。なお、上記単量体のうち、ジカルボン酸には、無水物として存在しているものも含まれる。
【0026】
エポキシ基を有する単量体としては、特に限定されないが、たとえば、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;アリルグリシジルエーテルおよびビニルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有エーテル;などが挙げられる。
【0027】
ハロゲン原子を有する単量体としては、特に限定されないが、たとえば、ハロゲン含有飽和カルボン酸の不飽和アルコールエステル、(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステル、ハロゲン含有不飽和エーテル、ハロゲン含有不飽和ケトン、ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物、ハロゲン含有不飽和アミド、およびハロアセチル基含有不飽和単量体などが挙げられる。
【0028】
ハロゲン含有飽和カルボン酸の不飽和アルコールエステルの具体例としては、クロロ酢酸ビニル、2−クロロプロピオン酸ビニル、およびクロロ酢酸アリルなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸1−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸1,2−ジクロロエチル、(メタ)アクリル酸2−クロロプロピル、(メタ)アクリル酸3−クロロプロピル、および(メタ)アクリル酸2,3−ジクロロプロピルなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−(クロロアセトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(クロロアセトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸3−(クロロアセトキシ)プロピル、および(メタ)アクリル酸3−(ヒドロキシクロロアセトキシ)プロピルなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−(クロロアセチルカルバモイルオキシ)エチル、および(メタ)アクリル酸3−(クロロアセチルカルバモイルオキシ)プロピルなどが挙げられる。
【0029】
ハロゲン含有不飽和エーテルの具体例としては、クロロメチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、3−クロロプロピルビニルエーテル、2−クロロエチルアリルエーテル、および3−クロロプロピルアリルエーテルなどが挙げられる。
ハロゲン含有不飽和ケトンの具体例としては、2−クロロエチルビニルケトン、3−クロロプロピルビニルケトン、および2−クロロエチルアリルケトンなどが挙げられる。
ハロメチル基含有芳香族ビニル化合物の具体例としては、p−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、o−クロロメチルスチレン、およびp−クロロメチル−α−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0030】
ハロゲン含有不飽和アミドの具体例としては、N−クロロメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
ハロアセチル基含有不飽和単量体の具体例としては、3−(ヒドロキシクロロアセトキシ)プロピルアリルエーテル、p−ビニルベンジルクロロ酢酸エステルなどが挙げられる。
【0031】
ジエン単量体としては、共役ジエン単量体、非共役ジエン単量体が挙げられる。
共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、およびピペリレンなどを挙げることができる。
非共役ジエン単量体の具体例としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、および(メタ)アクリル酸2−ジシクロペンタジエニルエチルなどを挙げることができる。
【0032】
上記架橋性単量体の中でも、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いた場合には、アクリルゴムをカルボキシル基含有アクリルゴムとすることができる。アクリルゴムを、カルボキシル基含有アクリルゴムとすることにより、耐油性、耐熱性を良好なものとしながら、耐圧縮永久歪み性を向上させることができる。
【0033】
本発明の製造方法で用いるアクリルゴム中における、架橋性単量体単位の含有量は、好ましくは0.01重量%以上であり、より好ましくは0.1〜50重量%、さらに好ましくは0.5〜20重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%である。架橋性単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるゴム架橋物の機械的特性や耐熱性を良好なものとしながら、耐圧縮永久歪み性をより適切に高めることができる。
【0034】
本発明の製造方法で用いるアクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、および必要に応じて用いられる架橋性単量体単位に加えて、これらと共重合可能な他の単量体の単位を有していてもよい。このような共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、アクリルアミド系単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル単量体、その他のオレフィン系単量体などが挙げられる。
【0035】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0036】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
アクリルアミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル単量体としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジn−ブチルなどのマレイン酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの;フマル酸ジメチル、フマル酸ジn−ブチルなどのフマル酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの;マレイン酸ジシクロペンチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジn−ブチルなどのイタコン酸ジアルキルエステルであってアルキル基の炭素数が1〜18のもの:イタコン酸ジシクロヘキシルなどのイタコン酸ジシクロアルキルエステルであってシクロアルキル基の炭素数が4〜16のもの;などが挙げられる。
その他のオレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0037】
これら共重合可能な他の単量体の中でも、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレンおよび酢酸ビニルが好ましく、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、およびエチレンがより好ましい。
【0038】
共重合可能な他の単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。本発明のアクリルゴム中における、これら共重合可能な他の単量体の単位の含有量は、通常、49.9重量%以下、好ましくは19.5重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは4.5重量%以下である。
【0039】
なお、本発明の製造方法で用いるアクリルゴムを、共重合可能な他の単量体の単位を含有するものとする場合には、その含有量は、上記範囲とすればよいが、なかでも、エチレン単位を有するものとする場合には、エチレン単位の含有量は、10重量%以下とすることが好ましく、4.5重量%以下とすることがさらに好ましい。同様に、本発明の製造方法で用いるアクリルゴムを、アクリロニトリル単位や、メタクリロニトリル単位を有するものとする場合にも、アクリロニトリル単位およびメタクリロニトリル単位の合計の含有量を、10重量%以下とすることが好ましく、4.5重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
本発明の製造方法で用いるアクリルゴムは、上記各単量体を重合することにより得ることが好ましい。重合反応の形態としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、および溶液重合法のいずれも用いることができるが、重合反応の制御の容易性などの点から、公知のアクリルゴムの製造法として一般的に用いられている常圧下での乳化重合法や溶液重合法によるのが好ましく、乳化重合法によれば、アクリルゴムを、ラテックスの形態(アクリルゴムのラテックス)にて得ることができ、溶液重合法によれば、アクリルゴムを、重合体溶液の形態(アクリルゴムの重合体溶液)にて得ることができる。重合は、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。重合は、通常、0〜70℃、好ましくは5〜50℃の温度範囲で行われる。
【0041】
そして、得られたアクリルゴムのラテックスについては、凝固剤を用いて凝固させる方法により、アクリルゴムの重合体溶液については、水および必要に応じて凝固剤を添加した水を用いて凝固させる方法により、アクリルゴムのクラムとセラム水の混合物(以下、「クラムスラリー」とする)を得ることができる。凝固剤の具体例としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化バリウムなどが挙げられる。
【0042】
<アクリルゴムの製造方法>
次いで、本発明のアクリルゴムの製造方法について、説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るアクリルゴムの製造方法に用いる洗浄タンクおよび押出機を示す概略図である。
【0043】
以下においては、本発明のアクリルゴムの製造方法に用いる製造装置として、図1に示す一実施形態に係る洗浄タンクおよび押出機を使用する場合を例示して、上記のように乳化重合または溶液重合を行った後、凝固することにより得られるクラムスラリーについて、洗浄を行い、次いで、乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴムを得る方法について説明する。
【0044】
図1に示すように、本実施形態に係る製造装置は、押出機1と、洗浄タンク7を備える。上記した方法にしたがって得られるクラムスラリーは、図1に示すように、洗浄タンク7に連続的に供給され、洗浄タンク7内で、洗浄が行われる。洗浄タンク7においては、洗浄されたクラムスラリーが、洗浄タンク7から連続的に排出され、連続的に排出されたクラムスラリーは、洗浄タンク7に設けられた排出口から、押出機1のフィード口310に連続的に供給されるようになっている。そして、押出機1のフィード口310に供給されたクラムスラリーは、後述するように、押出機1内にて、乾燥が行われることとなる。なお、本実施形態によれば、図1に示すように、洗浄タンク7による洗浄および押出機1による乾燥を連続工程で行うものであるため、省スペース化および生産効率の向上を可能とすることができ、さらには、連続工程で行うことにより、製造安定性を高めることもできる。
【0045】
洗浄タンク7による、クラムスラリーの洗浄方法としては、特に限定されないが、洗浄タンク7に、クラムスラリーとともに、洗浄水を供給し、洗浄タンク7に備えられた攪拌羽根により攪拌する方法が挙げられる。これにより、アクリルゴムのクラム中における、凝固に用いた凝固剤の含有量を低減することができる。クラム100重量部に対する、洗浄水の供給量は、洗浄を効果的に行うという観点より、好ましくは900〜9900重量部、より好ましくは1570〜4900重量部である。なお、図1においては、洗浄タンク7を一つ備える態様を例示したが、2以上の洗浄タンクを多段に設けた構成として、複数回の洗浄を行うような態様としてもよい。
【0046】
押出機1は、図1に示すように、駆動ユニット2、および分割された11個のバレルブロック31〜41で構成される単一のバレル3を有する。バレル3の内部には、供給ゾーン100、脱水ゾーン102、および乾燥ゾーン104が、バレル3の上流側から下流側にかけて順次形成されている。
【0047】
供給ゾーン100は、洗浄タンク7から連続的に供給されるクラムスラリーをバレル3の内部に供給する領域である。脱水ゾーン102は、クラムスラリーから、凝固剤などが含まれる液体(セラム水)を分離し排出する領域である。乾燥ゾーン104は、脱水後のクラムを乾燥させる領域である。
【0048】
本実施形態では、バレルブロック31の内部が供給ゾーン100に対応し、バレルブロック32〜34の内部が脱水ゾーン102に対応し、バレルブロック35〜41の内部が乾燥ゾーン104に対応する。なお、各バレルブロックの設置数は、取り扱うアクリルゴムの組成等に応じて最適な数とすることができ、図1に示す態様に限定されるものではない。
【0049】
供給ゾーン100を構成するバレルブロック31には、含水クラムを受け入れるフィード口310が形成され、フィード口310に、洗浄タンク7から、クラムスラリーが連続的に供給される。また、脱水ゾーン102を構成するバレルブロック32,34には、クラムスラリーに含まれる水分を排水する第1排出スリット320、第2排出スリット340が、それぞれ形成されている。また、乾燥ゾーン104の一部を構成するバレルブロック36,38,39,40には、脱水後のクラム中に含まれる水分などの揮発分を脱気により除去するための第1減圧ベント口360、第2減圧ベント口380、第3減圧ベント口390、および第4減圧ベント口400がそれぞれ形成されている。
【0050】
図2は、押出機1の内部に配置されるスクリューを示す概略図である。バレル3の内部には、図2に示すようなスクリュー6が配置されている。スクリュー6の基端には、これを駆動するために、駆動ユニット2(図1参照)に格納されたモータなどの駆動手段が接続されており、これによりスクリュー6は回転駆動自在に保持される。スクリュー6の形状は、特に限定されないが、多種のスクリュー構成を持つスクリューブロックとニーディングディスクとを適宜組合せて構成することが好適である。
【0051】
本実施形態では、スクリュー6が、バレル3の内部に形成された上述した各ゾーン100,102,104に対応する領域に、それぞれ異なる態様のスクリュー構成を有するように構成することができる。
【0052】
本実施形態では、図2に示すように、スクリュー6全体の長さをL(mm)とし、スクリュー6の外径をDa(mm)とした場合に、L/Daは、好ましくは20〜60である。なお、スクリュー6の外径Daは、スクリューを構成するスクリューブロック60の山部60A(図3参照)の、軸方向から見た場合における直径で定義される。
【0053】
また、図3に示すように、本実施形態では、このようなスクリュー6を2本用いて、軸芯を平行にして互いに噛み合った状態とした二軸押出機としている。ここで、図3は、図1のIII−III線と図2のIII−III線に沿う断面図であり、図3に示す断面図は、押出機1のスクリューブロック60部分の断面図であって、谷部60Bを横切る断面図である。すなわち、図3に示すように、2本のスクリュー6,6は、一方のスクリュー6のスクリューブロック60の山部60Aを、他方のスクリュー6のスクリューブロック60の谷部60Bに噛み合わせるとともに、一方のスクリュー6のスクリューブロック60の谷部60Bを、他方のスクリュー6のスクリューブロック60の山部60Aに噛み合わせる状態とした二軸噛合型である。二軸噛合型とすることにより、各ゾーン100,102,104における混合性を向上させることができる。また、2本のスクリュー6の回転方向は、同方向でも異方向でもよいが、セルフクリーニングの性能面からは同方向に回転する形式のものが好ましい。
【0054】
図3に示すように、本実施形態では、スクリューブロック60の外径をDa(mm)、スクリューブロック60の谷部60Bの短径をDi(mm)とした場合に、Da/Diが、好ましくは1.2〜2.5の範囲である。Da/Diをこのような範囲とすることで、設備を大がかりなものとすることなく、アクリルゴムの回収率や生産レート(単位時間あたりに得られる乾燥されたアクリルゴムの量)を良好なものとすることができる。
【0055】
また、谷部60Bの短径Diは、図3に示すように、谷部60Bのうち、谷部60Bの深さが、最も深くなっている部分である深さDi’(mm)である部分における、軸方向から見た場合における径である。すなわち、谷部60Bの短径Diは、外径Da、および谷部60Bのうち深さが最も深い部分である深さDi’から、Di=Da−Di’×2により求めることができる。
【0056】
また、スクリュー6のうち、乾燥ゾーン104に対応する領域の軸方向の長さをL1(mm)とした場合に、L1と、上述したスクリュー6全体の長さをL(mm)との関係L1/Lは、好ましくは0.2〜0.9である。L1/Lがこの範囲であると、押出乾燥の条件制御が容易で、アクリルゴムが十分に乾燥されるとともに、アクリルゴムの劣化の抑制が可能となるため、安定してアクリルゴムの製造を行うことができる。
【0057】
なお、本実施形態では、上述したバレルブロック41の下流側には、バレル3内で脱水・乾燥処理されたアクリルゴムを、所定形状に押し出し製品化するためのダイ5が接続され、たとえば、乾燥されたアクリルゴムをシート状に押出すことができる。
【0058】
次に、本実施形態に係る押出機1を用いたアクリルゴムの製造方法を説明する。
まず、洗浄タンク7により洗浄されたクラムスラリーを、洗浄タンク7から、直接(あるいは、所定のクラムスラリー流路を介して)、バレルブロック31に設けられたフィード口310に連続的に供給する。フィード口310に供給するクラムスラリー中に含まれるクラム状のアクリルゴムとしては、最終的に得られる乾燥後のアクリルゴム中に含まれる凝固剤量を低く抑えることができるという観点、および後述する第1排出スリット320からの、クラムのスリット抜けを低減できるという観点から、含水率が比較的高いものとすることが好ましく、具体的には、フィード口310に供給するクラムの含水率は、好ましくは50〜70重量%であり、より好ましくは58〜70重量%であり、さらに好ましくは60〜70重量%である。なお、フィード口310に供給するクラムの含水率は、たとえば、洗浄タンク7に供給する洗浄前のクラムスラリーの含水率や、洗浄タンク7に供給する洗浄水の量や、スリット・スクリーン等の水除去設備を経て調整することで、制御することができる。
【0059】
また、フィード口310に供給するクラムスラリー中に含まれるクラム状のアクリルゴムの平均クラム径は、特に限定されないが、乾燥効率を高めるという観点から、好ましくは0.1〜10mmであり、より好ましくは1.0〜5.0mmである。クラム状のアクリルゴムの平均クラム径は、凝固時の凝固条件を調整することにより制御することができる。
【0060】
供給ゾーン100を構成するバレルブロック31におけるバレル温度は、特に限定されないが、アクリルゴムの劣化を抑制しつつ、乾燥効率を高めるという観点より、好ましくは30〜150℃、より好ましくは40〜140℃である。
【0061】
フィード口310に供給されたクラムスラリーは、スクリュー6の回転により、供給ゾーン100から、脱水ゾーン102に送られる。脱水ゾーン102では、バレルブロック32に設けられた第1排出スリット320、およびバレルブロック34に設けられた第2排出スリット340から、クラムスラリーに含まれるセラム水を排出させ、含水状態のクラムを、好ましくは10〜50重量%の水分を含有する状態で、より好ましくは10〜40重量%の水分を含有する状態で得ることができる。
【0062】
脱水ゾーン102を構成するバレルブロック32〜34におけるバレル温度は、特に限定されないが、アクリルゴムの劣化を抑制しつつ、脱水効率を高めるという観点より、好ましくは30〜170℃、より好ましくは40〜160℃である。
【0063】
脱水ゾーン102で得られた含水状態のクラムは、スクリュー6の回転により乾燥ゾーン104に送られる。乾燥ゾーン104に送られたクラムは、スクリュー6の回転により可塑化混練されて融体となり、発熱して昇温しながら下流側へ運ばれる。そして、この融体がバレルブロック36,38,39,40に設けられた減圧ベント口360,380,390,400に達すると、圧力が解放されるために、融体中に含まれる水分などの揮発分が分離気化される。
【0064】
減圧ベント口360,380,390,400は、図1に示すように、各減圧ベント口の側面に接続された減圧配管を介して、減圧ポンプに接続されており、これにより、減圧されるように構成されている。また、減圧ベント口360,380,390,400には、絶対圧力を調整するためのバルブ(不図示)および絶対圧力を測定するための圧力計(不図示)が設けられており、これにより、絶対圧力を調整できるようになっている。なお、図1においては、減圧ベント口360,380,390,400は、減圧配管を通して、同一の減圧ポンプに接続されるような態様を例示したが、このような態様に特に限定されず、別々の減圧ポンプに接続してもよい。
【0065】
本実施形態においては、減圧ベント口360,380,390,400の最も上流側に位置する第1減圧ベント口360の絶対圧力Pを、最も下流側に位置する第4減圧ベント口400の絶対圧力Pよりも高い(P>P)ものとする。これにより、スクリュー6の回転により可塑化混練されて融体となったアクリルゴムのベントアップ(アクリルゴムの融体が発泡し、減圧ベント口に、アクリルゴムの融体が流れ込む現象)を抑制しながら、減圧ベント口360,380,390,400による、アクリルゴムの融体中に含まれる水分などの揮発分の除去効率を適切に高めることができるものである。
【0066】
本実施形態では、第1減圧ベント口360の絶対圧力Pを、第4減圧ベント口400の絶対圧力Pよりも高い(P>P)ものとすればよいが、これらの圧力の差を、5.0〜94.0kPaの範囲とすることが好ましく、9.0〜92.0kPaの範囲とすることがより好ましく、18.0〜88.0kPaの範囲とすることがさらに好ましい。圧力の差を上記範囲とすることにより、ベントアップを適切に抑制しながら、アクリルゴムの融体中に含まれる水分などの揮発分の除去効率をより高めることができる。特に、押出乾燥時のアクリルゴムの粘度等を考慮すると、圧力の差を上記範囲とすることが好適である。
【0067】
なお、本実施形態おいては、第1減圧ベント口360の絶対圧力Pを、第4減圧ベント口400の絶対圧力Pよりも高い(P>P)ものとすればよく、各減圧ベント口の絶対圧力は、特に限定されないが、第1減圧ベント口360の絶対圧力は、7.3〜96.3kPaとすることが好ましく、11.3〜94.3kPaとすることがより好ましく、21.3〜91.3kPaとすることがさらに好ましい。
【0068】
また、本実施形態おいては、第1減圧ベント口360の絶対圧力Pが、第4減圧ベント口400の絶対圧力Pよりも高いものであればよく、第2減圧ベント口380の絶対圧力Pおよび第3減圧ベント口390の絶対圧力Pは、特に限定されないが、第2減圧ベント口380の絶対圧力Pは、第1減圧ベント口360の絶対圧力Pと同じ(P=P)か、第2減圧ベント口380の絶対圧力Pの方が低い(P>P)ような態様とすることが好ましい。また、第3減圧ベント口390の絶対圧力Pも、特に限定されないが、第2減圧ベント口380の絶対圧力Pとの関係において、第2減圧ベント口380の絶対圧力Pと同じ(P=P)か、第3減圧ベント口390の絶対圧力Pの方が低い(P>P)ような態様とすることが好ましい。さらには、第3減圧ベント口390の絶対圧力Pは、第4減圧ベント口400の絶対圧力Pとの関係において、第4減圧ベント口400の絶対圧力Pと同じ(P=P)か、第3減圧ベント口390の絶対圧力Pの方が高い(P>P)ような態様とすることが好ましい。
【0069】
すなわち、本実施形態においては、各減圧ベント口の絶対圧力P,P,P,Pについて、P>P=P=Pの関係、P=P>P=Pの関係、P=P=P>Pの関係、P>P>P=Pの関係、P>P=P>Pの関係、および、P>P>P>Pの関係のいずれかとすることが好ましい。
【0070】
これらの中でも、アクリルゴムの融体中に含まれる水分などの揮発分の除去効率をより高めることができるという観点より、4つの減圧ベント口のうち、3つの減圧ベント口に着目した場合に、このような3つの減圧ベント口の絶対圧力が、押出方向上流側から、下流側に向かって、順に低くなるような態様とすることが好ましい。すなわち、4つの減圧ベント口のうち、第1減圧ベント口360、第2減圧ベント口380、および第4減圧ベント口400に着目した場合には、これらの絶対圧力P,P,Pについて、P>P>Pの関係(すなわち、P>P>P=Pの関係、またはP>P>P>Pの関係)とすることが好ましい。また、4つの減圧ベント口のうち、第1減圧ベント口360、第3減圧ベント口390、および第4減圧ベント口400に着目した場合には、これらの絶対圧力P,P,Pについて、P>P>Pの関係(すなわち、P>P=P>Pの関係、またはP>P>P>Pの関係)とすることが好ましい。この場合においては、P>P>P>Pの関係のように、4つの減圧ベント口の絶対圧力が、押出方向上流側から、下流側に向かって、順に低くなるような態様とすることも、もちろん可能である。
【0071】
各減圧ベント口の絶対圧力は、上記関係となるように適宜設定すればよく、特に限定されないが、第2減圧ベント口370の絶対圧力は、2.3〜91.3kPaとすることが好ましく、6.3〜81.3kPaとすることがより好ましく、11.3〜71.3kPaとすることがさらに好ましい。また、第3減圧ベント口380の絶対圧力は、2.3〜61.3kPaとすることが好ましく、3.3〜51.3kPaとすることがより好ましく、3.3〜46.3kPaとすることがさらに好ましく、第4減圧ベント口400の絶対圧力は、2.3〜51.3kPaとすることが好ましく、3.3〜41.3kPaとすることがより好ましく、3.3〜36.3kPaとすることがさらに好ましい。
【0072】
なお、たとえば、第4減圧ベント口400の絶対圧力を、好ましくは2.3〜21.3kPa、より好ましくは2.3〜11.3kPaと比較的低いものとする場合には、第1減圧ベント口360の絶対圧力Pと、第4減圧ベント口400の絶対圧力Pとの圧力の差を、60〜94.0kPaの範囲とすることが好ましく、より好ましくは70〜94.0kPa、さらに好ましくは80〜88.0kPaである。また、たとえば、第4減圧ベント口400の絶対圧力を、好ましくは22.3〜51.3kPa、より好ましくは26.3〜41.3kPa、さらに好ましくは28.3〜36.3kPaと比較的高いものとする場合には、第1減圧ベント口360の絶対圧力Pと、第4減圧ベント口400の絶対圧力Pとの圧力の差を、5.0〜25kPaの範囲とすることが好ましく、より好ましくは5.0〜20kPa、さらに好ましくは7.0〜15kPaである。圧力の差を、上記範囲とすることにより、アクリルゴムの押出乾燥により適した条件とすることができ、これにより、ベントアップの抑制効果およびアクリルゴムの融体中に含まれる水分などの揮発分の除去効率をより高めることができる。
【0073】
なお、図1に示すように、減圧ベント口360,380,390,400の上面には、減圧ベント内の様子を確認できるように、ガラス製の覗き窓361,381,391,401がそれぞれ形成されており、これにより、ベントアップの発生の有無を容易に確認でき、運転開始初期などの運転条件が安定しない段階おいてベントアップが発生した場合でも、このようなベントアップの発生を適時に発見することができる。
【0074】
乾燥ゾーン104を構成するバレルブロック35〜41におけるバレル温度は、特に限定されないが、アクリルゴムの融体のベントアップを適切に抑制しながら、アクリルゴムの融体中に含まれる水分などの揮発分の除去効率をより高めることが出来るという観点より、好ましくは100.0〜220.0℃、より好ましくは105.0〜210.0℃である。
【0075】
そして、乾燥ゾーン104を通過した水分が分離されたクラムは、スクリュー6により出口側へ送り出され、実質的に水分をほとんど含まない状態、具体的には、水分含有量が、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.1〜0.8重量%と低減された状態でダイ5に導入され、ここで、たとえばシート状で排出され、必要に応じて冷却された後に、シートカッター(図示省略)に導入されて切断され、適当な長さとされる。
【0076】
なお、本実施形態においては、押出機1で単位時間当たりに乾燥されるアクリルゴムの処理量をQ[kg/h]、スクリュー6の回転数をN[rpm]としたとき、下記式(1)を満たすような条件とすることが好ましい。
3≦Q/N≦8 (1)
【0077】
ここで、単位時間当たりに乾燥処理されるアクリルゴムの処理量Qは、押出機1において1回の押出乾燥処理が行われる場合に、1時間で乾燥処理されるアクリルゴムの処理量[kg/h]である。また、スクリュー6の回転数Nは、押出機1においてスクリュー6がバレル3の内部で1分間に回転したときの回転数[rpm]である。「Q/N」は、好ましくは3≦Q/N≦8であり、より好ましくは3.5≦Q/N≦7、さらに好ましくは4≦Q/N≦6、特に好ましくは4.5≦Q/N≦5.5である。
【0078】
本実施形態によれば、第1減圧ベント口360の絶対圧力Pを、第4減圧ベント口400の絶対圧力Pよりも高いものとするものであるため、「Q/N」を上記範囲とした場合でも、ベントアップを適切に抑制することができ、これにより、「Q/N」を上記範囲とすることによる効果、具体的には、含水率が適切に低減されたアクリルゴムを、高い生産性にて生産できるという効果を効果的に高めることができるものである。
【0079】
以上のようにして、本実施形態の製造方法によれば、アクリルゴムを製造することができる。なお、本実施形態の製造方法により製造されるアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)(ポリマームーニー)は、特に限定されないが、好ましくは10〜80、より好ましくは20〜70、さらに好ましくは25〜60である。
【0080】
以上のように、本発明によれば、第1の観点に係る発明として、
バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程を備える、アクリルゴムの製造方法であって、
前記押出機として、減圧ベント口を複数有するものを用い、
押出方向上流側の減圧ベント口の絶対圧力を、押出方向下流側の減圧ベント口の絶対圧力よりも高くする、アクリルゴムの製造方法を提供することができる。
本発明の第1の観点に係る発明によれば、ベントアップの発生を抑制しながら、アクリルゴムの含水率を適切に低減することができる。
なお、本発明の第1の観点に係る発明において、減圧ベント口が3個以上ある場合には、3個以上ある減圧ベント口のうち、少なくとも一つの減圧ベント口が、それよりも押出方向下流側にある減圧ベント口よりも、絶対圧力が低いような態様を含むものであればよく、その具体的な態様は特に限定されない。
【0081】
また、本発明によれば、第2の観点に係る発明として、
バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程を備える、アクリルゴムの製造方法であって、
前記押出機として、覗き窓を有する減圧ベント口を備えるものを用いる、アクリルゴムの製造方法を提供することができる。
本発明の第2の観点に係る発明によれば、ベントアップの発生の有無を容易に確認することができる。
【0082】
また、本発明によれば、第3の観点に係る発明として、
バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程を備える、アクリルゴムの製造方法であって、
アクリルゴムを、含水率60〜70重量%であるクラムの状態で、前記押出機に投入して、アクリルゴムの乾燥を行う、アクリルゴムの製造方法が提供される。
本発明の第3の観点に係る発明によれば、最終的に得られる乾燥後のアクリルゴム中に含まれる凝固剤量を低く抑えることができるとともに、排水スリットからの、クラムのスリット抜けの発生を低減することができる。
【0083】
また、本発明によれば、第4の観点に係る発明として、
バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程を備える、アクリルゴムの製造方法であって、
前記押出機で単位時間当たりに乾燥されるアクリルゴムの処理量をQ[kg/h]、前記スクリューの回転数をN[rpm]としたとき、下記式(1)を満たす、アクリルゴムの製造方法が提供される。
3≦Q/N≦8 (1)
本発明の第4の観点に係る発明によれば、含水率が適切に低減されたアクリルゴムを、高い生産性にて生産できるという効果を効果的に高めることができるものである。
【0084】
また、本発明によれば、第5の観点に係る発明として、
洗浄タンク内で、アクリルゴムを洗浄する洗浄工程と、
バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程とを備え、
前記洗浄工程と前記乾燥工程とを連続工程とする、アクリルゴムの製造方法が提供される。
本発明の第5の観点に係る発明によれば、省スペース化および生産効率の向上を可能とすることができ、さらには、製造安定性をも高めることもできる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
【0086】
<合成例1>
温度計、攪拌装置、窒素導入管および減圧装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部およびアクリル酸エチル15部、アクリル酸n−ブチル55部、アクリル酸メトキシエチル28部およびフマル酸モノn−ブチル2部を仕込んだ。その後、減圧による脱気および窒素置換をくり返して酸素を十分除去した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.002部およびクメンハイドロパーオキシド0.005部を加えて常圧、常温下で乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続することで、アクリルゴムのラテックスを得た。次いで、得られたアクリルゴムのラテックスを塩化カルシウム水溶液で凝固させることで、アクリルゴムのスラリー(固形分濃度32重量%)を得た。
【0087】
<実施例1>
合成例1で得られたアクリルゴムのスラリーについて、図1に示す洗浄タンク7および押出機1を用いて、洗浄をよび乾燥を行うことで、固形状のアクリルゴムを得た。実施例1においては、洗浄タンク7において洗浄を行う際における、アクリルゴムのの洗浄タンク7への供給レートを500kg/h、洗浄水の洗浄タンク7への供給レートを12000kg/hとして、洗浄を行った。また、洗浄後のアクリルゴムのスラリー(含水率:60重量%)は、洗浄タンク7から押出機1に、1250kg/hの供給レート(アクリルゴム換算での供給レート(すなわち、乾燥されるアクリルゴムの処理量Q)は、500kg/h)にて供給して、押出機1による乾燥を行った。
【0088】
押出機1による乾燥の条件としては、供給ゾーン100のバレル温度:80℃、脱水ゾーン102のバレル温度:130℃、および乾燥ゾーン104のバレル温度:160℃とし、第1減圧ベント口360の絶対圧力:90.3kPa、第2減圧ベント口380の絶対圧力:31.3kPa、第3減圧ベント口390の絶対圧力:4kPa、および第4減圧ベント口400の絶対圧力:4kPaとし(第1減圧ベント口360の絶対圧力と、第4減圧ベント口400の絶対圧力との差が、86.3kPa)、スクリュー6の回転数Nを100rpm(Q/N=5)とした。
【0089】
実施例1によれば、洗浄タンク7および押出機1により、アクリルゴムのスラリーの洗浄および乾燥を行い、固形状のアクリルゴムを連続的に得るという操作を2時間連続して行った結果、各減圧ベント口のベントアップは、発生せず、また、得られた固形状のアクリルゴムも含水率が0.7重量%と低減されたものであった。なお、得られた固形状のアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)(JIS K6300−1に従って測定。以下、同様。)は、32であった。
【0090】
<実施例2>
押出機1により乾燥を行う際における各減圧ベント口の絶対圧力を、第1減圧ベント口360の絶対圧力:41.3kPa、第2減圧ベント口380の絶対圧力:41.3kPa、第3減圧ベント口390の絶対圧力:36.3kPa、および第4減圧ベント口400の絶対圧力:31.3kPaとした(第1減圧ベント口360の絶対圧力と、第4減圧ベント口400の絶対圧力との差が、10kPa)以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴムのスラリーの洗浄および乾燥を行い、固形状のアクリルゴムを連続的に得るという操作を2時間連続して行った。その結果、実施例2においても、各減圧ベント口のベントアップは、発生せず、また、得られた固形状のアクリルゴムも含水率が0.2重量%と低減されたものであった。なお、得られた固形状のアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、34であった。
【0091】
<比較例1>
押出機1により乾燥を行う際における各減圧ベント口の圧力を、第1減圧ベント口360の絶対圧力:4kPa、第2減圧ベント口380の絶対圧力:4kPa、第3減圧ベント口390の絶対圧力:4kPa、および第4減圧ベント口400の絶対圧力:4kPaとした(第1減圧ベント口360の絶対圧力と、第4減圧ベント口400の絶対圧力とが同じ)以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴムのスラリーの洗浄および乾燥を行い、固形状のアクリルゴムを連続的に得るという操作を30分連続して行った。その結果、比較例1においては、第1減圧ベント口360および第2減圧ベント口380において、ベントアップが発生してしまう結果となった。
【符号の説明】
【0092】
1… 押出機
2… 駆動ユニット
3… バレル
31〜41… バレルブロック
360… 第1減圧ベント口
380… 第2減圧ベント口
390… 第3減圧ベント口
400… 第4減圧ベント口
361,381,391,401… 覗き窓
5… ダイ
6… スクリュー
7… 洗浄タンク
【要約】
【課題】ベントアップの発生を抑制しながら、アクリルゴムの含水率を適切に低減可能なアクリルゴムの製造方法を提供すること。
【解決手段】バレルの内部にスクリューが回転駆動自在に配置されている押出機を用いて、アクリルゴムを乾燥する乾燥工程を備える、アクリルゴムの製造方法であって、前記押出機として、減圧ベント口を複数有するものを用い、押出方向上流側の減圧ベント口の絶対圧力を、押出方向下流側の減圧ベント口の絶対圧力よりも高くする、アクリルゴムの製造方法を提供する。
【選択図】なし
図1
図2
図3