(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細胞は、アンモニア態窒素の含有量が38mmol/L以上である培地で生育したか、または、L−グルタミン酸およびその塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物の含有量が34.0mmol/L以上でありアンモニア態窒素の含有量が14mmol/L以上である培地で生育した、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載されたACE阻害用組成物または血圧上昇抑制用組成物または血圧降下用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<組成物の第1実施形態>
以下「ペプチド」とは、2分子以上のアミノ酸がペプチド結合でつながって成る化合物のうちで、分子質量が4.0kDa未満であるものである。本発明に係る組成物の第1実施形態(以下「本組成物1」という。)は、ユーグレナ細胞から分離された水溶性成分(以下「ユーグレナ水性成分」という。)を含んで成る組成物である。本組成物1は、ユーグレナ水性成分を含んで成るため、この水性成分の一部であるアルギニン包含ペプチド(分子内にアルギニン残基を有するペプチド)を含有する。
【0025】
本組成物1の原料であるユーグレナは、動物学の分類上でユーグレナ属(ミドリムシ属)に属する種、及びその変異種からなる群より選ばれた1種類以上の原生動物である。ユーグレナとして、例えば、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、そのZ株(Euglena gracilis Z)、ユーグレナ・グラシリス・バシラリス変種(Euglena gracilis var. bacillaris)、又はユーグレナ・ビリディス(Euglena viridis)等が挙げられる。本組成物1の原料であるユーグレナは、適した培養条件が詳しく研究されており培養しやすい観点から、ユーグレナ・グラシリス、そのZ株、及びユーグレナ・グラシリス・バシラリス変種からなる群より選ばれた1種以上の原生動物であるのが好ましい。
【0026】
ユーグレナ細胞には、例えばL−アルギニンのように、分子内に複数の窒素原子を有する遊離アミノ酸が含蓄されている。また、ユーグレナ細胞には、アルギニン包含ペプチドの一種として、L−アルギニル−L−グルタミン(以下「RQ」という。)又はその塩が含蓄されている。非特許文献1及び非特許文献2の記載から考慮すれば、これらの遊離アミノ酸やRQは、ユーグレナ細胞内に取り込まれた窒素化合物が代謝されて生合成されたものである。RQは水溶性であるため、本組成物1は、ユーグレナ水性成分を含んで成ることにより、ユーグレナ細胞に由来するRQを含有する。
【0027】
ユーグレナ細胞には、上記したRQの他にもアルギニン包含ペプチドとして、L−グルタミニル−L−アルギニン(以下「QR」という。)、L−アルギニル−L−アスパラギン(以下「RN」という。)、L−アスパラギニル−L−アルギニン(以下「NR」という。)、及びこれらジペプチドの塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物が含蓄される場合がある。QR、RN、及びNRも水溶性である。以下、RQ、QR、RN、NR、及びこれらジペプチドの塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物を「本ジペプチド化合物」という。ここでのジペプチドの塩は、薬理学的に許容される塩であり、例えば、アルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩などが挙げられる。ジペプチドの塩は、析出しにくく扱いやすい観点から、ナトリウム塩、及びカリウム塩からなる群より選ばれた1種以上のアルカリ金属塩であるのが好ましい。
【0028】
ジペプチドは、経口摂取されると、刷子縁のH
+依存性輸送担体により水素イオンと共に体内に吸収されることや、その吸収速度が遊離アミノ酸よりも速いことが知られている。また、本ジペプチド化合物は、L−アルギニンよりも強いACE阻害活性を有する。このため、本組成物1を経口摂取すると、本組成物1に含有される本ジペプチド化合物が、体内に吸収されて血中へ移行してACE阻害作用を奏するものと推察される。本組成物1を継続的に経口摂取すると、おそらくはACE阻害作用に起因して、血圧の上昇を抑制する作用や、高い血圧を降下させる作用を奏する。以下、ACE阻害作用、血圧上昇抑制作用、及び血圧降下作用をまとめて「ACE阻害作用等」という。
【0029】
本組成物1は、少なくとも、ユーグレナ細胞に由来する脂質が実質的に除去された組成物である。脂質は、生物由来であり無極性溶媒に可溶な物質である。ユーグレナ細胞に由来する脂質として、例えばn−3系PUFAが挙げられる。ここでの「実質的に」とは、除去される成分が分離操作の精度の問題等により本組成物1に微量に残存していても、本組成物1の内容や本質において本組成物1が奏するACE阻害作用等に寄与していないと認められる程度に除去されていれば、許容されることを意味する。本組成物1では、夾雑物である脂質が実質的に除去されて、ACE阻害作用等の有効成分である本ジペプチド化合物の含有率が相対的に高められている。以上に説明した理由により、本組成物1は、経口摂取により、ACE阻害、血圧上昇抑制、又は血圧降下に用いることができる。本組成物1では、ACE阻害作用等の有効成分として本ジペプチド化合物が活用されている。
【0030】
本組成物1は、例えば、ユーグレナ細胞を油相と水相に分離して採取した水相の溶液そのものでも良い。つまり、本組成物1は、ユーグレナ水性成分と薬理学的に許容される親水溶性溶媒から実質的に成る組成物でも良い。本組成物1は、親水溶性溶媒を除いて取扱いを容易にしたり本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高めたりする観点から、この水相の溶液を濃縮した濃縮物から成るものであるのが好ましい。同様の観点に加えてACE阻害作用等を発揮させやすい観点により、本組成物1は、この濃縮物から更に本ジペプチド化合物の含有率が相対的に高まるように精製された精製物であるのがさらに好ましい。本組成物1は、ここで挙げた水相の溶液、濃縮物、又は精製物に、薬理学的に許容される公知の添加剤もしくは公知の食品素材が混合されて成る組成物でも良い。
【0031】
本組成物1は、ユーグレナ細胞に由来する脂質を実質的に除去されただけでなく、本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高める観点から、さらに、ユーグレナ細胞に由来する分子質量が4.0kDa以上であるタンパク質を実質的に除去する処理(以下「除タンパク処理」という。)を施された組成物であるのが好ましい。この場合の本組成物1では、分子量が小さい本ジペプチド化合物は残存している。ジペプチドと比べて分子量が大きいポリペプチドほど、除タンパク処理された場合の本組成物1に残存しにくい。同様の観点から、本組成物1は、例えばゲルろ過クロマトグラフィー等の分子篩により、ユーグレナ細胞に由来する分子量が1,000以上であるタンパク質やポリペプチドやオリゴペプチドが実質的に除去された組成物であるのがさらに好ましく、ユーグレナ細胞に由来する分子量が500以上であるタンパク質やポリペプチドやオリゴペプチドが実質的に除去された組成物であるのがさらにより好ましい。
【0032】
L−アルギニンよりも強いACE阻害活性を有する本ジペプチド化合物の含有率を高める観点から、本組成物1は、ユーグレナ細胞に由来する、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン、L−アルギニン、L−メチオニン、L−システイン、L−ホモシステイン、タウリン、及びこれら遊離アミノ酸の塩が実質的に除去されるように精製された組成物であるのが好ましい。同様の観点から本組成物1は、上記した遊離アミノ酸の例に限らず、遊離アミノ酸およびその塩が除去された組成物であるのが、さらに好ましい。同様の観点に加えて夾雑物を除去する観点から、本組成物1は、ユーグレナ細胞に由来する脂質を実質的に除去されただけでなく、除タンパク処理されて、遊離アミノ酸およびその塩も実質的に除去するように精製された組成物であるのが、さらにより好ましい。
【0033】
ACE阻害作用等を発揮させやすい観点から、本組成物1における本ジペプチド化合物の含有量は、好ましくは0.10mg/L以上、さらに好ましくは0.40mg/L以上、さらにより好ましくは2.0mg/L以上である。本組成物1の摂取量が少量でもACE阻害作用等を発揮させやすい観点から、本組成物1における本ジペプチド化合物の含有量は、好ましくは10mg/L以上、さらに好ましくは30mg/L以上、さらにより好ましくは60mg/L以上である。精製に要するコストを安く抑える観点から、本組成物1における本ジペプチド化合物の含有量は、好ましくは500g/L以下、さらに好ましくは100g/L以下、さらにより好ましくは10g/L以下である。ここでの「含有量」は、本ジペプチド化合物に該当する化合物が2種以上含有されている場合には合計の含有量を意味する。「g」は、質量グラムである。
【0034】
本組成物1における本ジペプチド化合物の含有量を測定する方法として、本組成物1から少なくとも脂質およびタンパク質を実質的に除去する等して精製した分析用試料を、液体クロマトグラフィー質量分析(以下「LC/MS」という。)又はタンデム四重極質量分析計を用いた液体クロマトグラフィー質量分析(以下「LC/MS/MS」という。)に供して、この分析用試料に含有される本ジペプチド化合物に由来して検出されるピークの面積を測定する方法が挙げられる。分析用試料でのこのピーク面積と、本ジペプチド化合物の標品を同様に分析にかけて検出されるピークの面積と、を比較して、その他にも精製や分析のために行った希釈倍率を考慮することにより、分析用試料のもとになった本組成物1での本ジペプチド化合物の含有量を算出可能である。後述する実験例1から実験例3の説明において、この測定方法の詳細な例を説明する。LC/MS又はLC/MS/MSでの分析結果として、例えば、分析用試料のもとになった本組成物1における本ジペプチド化合物の含有量が0.10mg/L未満であると算出された場合には、ACE阻害作用等を発揮させやすくする観点から、本ジペプチド化合物の含有量が0.10mg/L以上となるように、必要に応じて本組成物1を濃縮したり精製したりして本ジペプチド化合物の含有率を高めるのが好ましい。
【0035】
本組成物1は、ACE阻害、血圧上昇抑制、又は血圧降下に用いられる医薬組成物であっても良い。ここでの「医薬組成物」は、内服される医薬製剤、又はこれに配合される原材料である。医薬組成物である場合の本組成物1は、その取り扱いを容易にする観点から、本発明の目的に反しない限り、ユーグレナ水性成分に、薬理学的に許容される公知の添加剤が1種以上混合されて成るものであっても良い。公知の添加剤として、例えば、賦形剤、甘味料、抗酸化剤、粘滑剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、着香剤、又は着色剤などが挙げられる。例えば、医薬組成物である場合の本組成物1は、ユーグレナ水性成分と賦形剤が混合されて一定の形状に成形された固形製剤でも良い。医薬組成物である場合の本組成物1は、液体製剤またはその原料でも良いし、固形製剤またはその原料でも良い。医薬組成物として用いる場合の本組成物1の形態として、例えば、タブレット状、錠剤、顆粒、懸濁液、シロップ、又は乾燥粉末などの経口投与できる形態が挙げられる。
【0036】
液体製剤またはこれに配合される原材料である場合の本組成物1の剤形として、例えば、乳剤、液剤、又はシロップ剤などが挙げられる。例えば、水、エタノール、グリセリン、シロップ、又はこれらの混液に、ユーグレナ水性成分を溶解または分散させて、液体製剤である場合の本組成物1を調製可能である。あるいは、固形製剤またはこれに配合される原材料である場合の本組成物1の剤形として、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、丸剤、カプセル剤、又はチュアブル剤などが挙げられる。固形製剤である場合の本組成物1を調製するためには、ユーグレナ水性成分と、例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、デンプン、又はマンニット等の賦形剤を混合したり、アラビアゴム、ゼラチン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、又はメチルセルロース等の結合剤を混合したり、カルメロースまたはデンプン等の崩壊剤を混合したり、無水クエン酸、ラウリン酸ナトリウム、又はグリセロール等の安定剤を混合したりしても良い。固形製剤として用いる場合の本組成物1は、ゼラチン、白糖、アラビアゴム、又はカルナバロウ等により被覆されていても良いし、カプセル化されていても良い。
【0037】
本組成物1は、本ジペプチド化合物の含有率が高まるように精製されてユーグレナ細胞由来の脂質やタンパク質といった夾雑物を実質的に除去された場合には、ACE阻害、血圧上昇抑制、又は血圧降下に用いられる輸液組成物であっても良い。ここでの「輸液組成物」は、血中投与される輸液製剤またはこれに配合される原材料である。特許文献3に例示されるようにジペプチドを含有する公知の輸液製剤を製造する際に、精製された場合の本組成物1を他のジペプチドと同様に水や電解質等と混合することにより、輸液製剤である場合の本組成物1を製造可能である。血中投与される観点から、輸液組成物である場合の本組成物1は、加熱滅菌されたものが良い。
【0038】
本ジペプチド化合物は、人工的に有機合成されたACE阻害薬(例えば、ぺリンドプリル等)ほどに強いACE阻害活性を有していない。ACE阻害薬を経口摂取した場合には血圧が短時間で劇的に降下し得るのに対して、本組成物1を継続的に経口摂取し続けた場合には血圧上昇が緩やかに抑えられるか又は血圧が緩やかに降下し得る。このため、ACE阻害薬を経口摂取する場合に生じ得る副作用は、本組成物1を継続的に経口摂取し続ける場合では実質的に生じるおそれがないと考えられる。経口摂取するのであれば、ユーグレナ水性成分を高度に精製しなくて済む。これらの観点から、本組成物1は、ACE阻害、血圧上昇抑制、又は血圧降下に用いられる食品組成物であるのが好ましい。ここでの「食品組成物」は、加工食品、調味料、食品添加物、サプリメント、及びこれらに配合される原材料からなる群より選ばれた1種以上の組成物である。食品組成物である場合の本組成物1は、ユーグレナ水性成分と、公知の食品素材1種以上と、が混合された形態でも良い。加工食品である場合の本組成物1は、例えば、漬物、乾物、練り製品、粉類、缶詰、冷凍食品、インスタント食品、乳製品、菓子類、嗜好品、又は飲料等の形態をとり得る。
【0039】
食品組成物に関して上記したのと同様の観点から、本組成物1は、高血圧の予防または改善に用いられる食品組成物であるのがさらに好ましい。高血圧は、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態である。ヒトでは、収縮期血圧(Systolic Blood Pressure:以下「SBP」という。)が140mmHg以上であり及び/又は拡張期血圧(Diastolic Blood Pressure:以下「DBP」という。)が90mmHg以上であれば、高血圧と診断され得る。高血圧の予防または改善に用いられる食品組成物である場合の本組成物1は、特定保健用食品、栄養機能食品、病者用食品、及び高齢者用食品からなる群より選ばれた1種以上の健康食品として販売され得る。消費者にとって分かりやすい観点から、この健康食品には、本組成物1を継続的に経口摂取することによりACE阻害作用等に起因して発揮される機能を説明する表示が付されているのが好ましい。この機能を表示する文言は、特に限定されないが、例えば、「血圧を下げる」、「血圧低下を期待する」、「血圧の上昇を抑える」、「血圧の上昇を緩やかにする」、「高血圧を予防する」、又は「高血圧の改善に役立つ」等の文言が挙げられる。
【0040】
上記した高血圧の予防または改善と同様の観点から、本組成物1は、高血圧に起因する疾患の予防に用いられる食品組成物であるのも、さらに好ましい。高血圧に起因する疾患は、特に限定されないが、例えば、脳出血、脳梗塞、大動脈瘤、腎硬化症、心筋梗塞、心肥大、又は眼底出血等が挙げられる。高血圧に起因する疾患の予防に用いられる食品組成物である場合の本組成物1も、前述した健康食品として販売されても良く、この販売に際して例えば「腎機能を保護する」等のACE阻害作用等に起因して発揮される機能を説明する表示が付されているのが好ましい。
【0041】
市場で流通させやすい観点から、本組成物1は、ACE阻害剤、血圧上昇抑制剤、又は血圧降下剤であるのも好ましい。ここでの「ACE阻害剤、血圧上昇抑制剤、又は血圧降下剤」は、食品組成物、医薬組成物、又は輸液組成物に配合される原材料として用いられる組成物である。この場合の本組成物1は、前述した水相の溶液、濃縮物、又は精製物の形態でも良いし、これらに薬理学的に許容される公知の添加剤もしくは公知の食品素材が混合されて成る組成物の形態でも良い。本組成物1を継続的に経口摂取すると緩やかにACE阻害作用等を奏するため、ここで挙げたACE阻害剤、血圧上昇抑制剤、又は血圧降下剤は、食品組成物に配合される原材料として用いられる組成物であるのがさらに好ましく、例えば、市場で流通する食品に添付された小袋に収容された乾燥粉末の形態が挙げられる。消費者が、小袋を開けてこの乾燥粉末を食品に振り掛けて、食品ごと乾燥粉末を食べることにより、この消費者の体内でACE阻害作用等が奏される。
【0042】
本組成物1は、以上に説明した事項に限らず、後述する製造方法により得られたものであるのが好ましい。例えば、本ジペプチド化合物の含有量を多くする観点から、本組成物1におけるユーグレナ細胞は、アンモニア態窒素の含有量が38mmol/L以上である培地で生育した細胞であるのが好ましい。同様の観点から、本組成物1におけるユーグレナ細胞は、L−グルタミン酸およびその塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物(以下「グルタミン酸化合物」という。)の含有量が3.4mmol/L以上であり、かつ、アンモニア態窒素の含有量が13mmol/L以上である培地で生育した細胞であるのが好ましい。なお、アンモニア態窒素は、アンモニア、及びアンモニウム塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物に含まれているNH
3やNH
4+の窒素原子である。例えば、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物((NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O)の1.0mol当量は、アンモニア態窒素としては6.0mol当量に相当する。
【0043】
<組成物の第2実施形態>
本発明に係る組成物の第2実施形態(以下「本組成物2」という。)について、前述した本組成物1と共通する事項の説明を適宜省略して、本組成物1と異なる事項を主に説明する。本組成物2は、培地で生育して乾燥させられたユーグレナ細胞を含んで成る組成物である。このため、本組成物2は、培地で生育したユーグレナ細胞に由来する本ジペプチド化合物を含有する。本組成物1と同様、本組成物2におけるユーグレナは、動物学の分類上でユーグレナ属に属する種、及びその変異種からなる群より選ばれた1種類以上の原生動物である。本組成物2におけるユーグレナ細胞は、グルタミン酸化合物の含有量が3.4mmol/L以上であり、かつ、アンモニア態窒素の含有量が13mmol/L以上である培地で生育したものである。
【0044】
培地にアンモニア態窒素を含有させるためには、例えば、アンモニア水、及びアンモニウム塩からなる群より選ばれた1種以上を配合して培地を調製するのが良い。あるいは、アンモニア態窒素の含有量が13mmol/L以上である水を有する池やプールがあれば、その水を採取して培地として利用するか、又はその池やプールの水にグルタミン酸化合物を添加して池やプールでユーグレナ細胞を培養しても良い。アンモニウム塩として、硫酸アンモニウム(硫安)、リン酸アンモニウム(例えば燐安)、硝酸アンモニウム(硝安)、炭酸アンモニウム、又は塩化アンモニウム等が挙げられる。
【0045】
グルタミン酸化合物の含有量が3.4mmol/L以上であり、アンモニア態窒素の含有量が13mmol/L以上である培地でユーグレナ細胞を培養する場合には、一般的な培地でユーグレナ細胞を培養する場合と比べて、細胞数が増加しやすく、細胞がL−アルギニンを本ジペプチド化合物の形態で含蓄するように生育しやすい。このため、本組成物2は、経口摂取により、ACE阻害、血圧上昇抑制、又は血圧降下に用いることができ、その有効成分として本ジペプチド化合物が活用される。したがって、前述した本組成物1と同様の用途で本組成物2を活用することができる。ユーグレナ細胞は、亜硝酸レダクターゼ、硝酸レダクターゼ、及びウレアーゼを有しないため、亜硝酸態窒素(NO
2−)、硝酸態窒素(NO
3−)、及び尿素(CO(NH
2)
2)を代謝して窒素源として利用することができない。一方、ユーグレナ細胞では、培地からアンモニア態窒素やグルタミン酸化合物が取り込まれて代謝されることにより、分子内に窒素原子を複数有する遊離アミノ酸(例えばL−アルギニン)が生合成されやすい。ユーグレナ細胞内でこの遊離アミノ酸の含有量が増すことにより、この遊離アミノ酸から本ジペプチド化合物が生合成されて細胞内で含蓄されやすいものと推察される(非特許文献1及び非特許文献2を参照)。
【0046】
本組成物2における培地で生育したユーグレナ細胞は、生育後に加熱により乾燥させられたものでも良いが、望ましくない加熱変性を避ける観点から、生育後に凍結乾燥されたものが好ましい。水分の減少により本ジペプチド化合物の含有率が相対的に高まるため、ACE阻害作用等を発揮しやすい。乾燥により細胞内液が減少したり細胞膜が壊れたりすると、ユーグレナ細胞での代謝が抑えられて本ジペプチド化合物が分解されにくくなり、本組成物2を長期保管しやすくなると考えられる。あるいは、更に代謝による分解を避けて長期保管しやすい観点から、本組成物2における培地で生育したユーグレナ細胞は、生育後に乾燥させられ破砕された細胞であるのが好ましい。または、更に本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高める観点から、ユーグレナ細胞は、生育後または破砕後に例えば無極性溶媒により脱脂されたものであるのが好ましい。
【0047】
本組成物2は、培地で生育したユーグレナ細胞の乾燥粉末であっても良いが、この乾燥粉末と薬理学的に許容される公知の添加剤1種以上が混合されて成る医薬組成物であっても良い。予防医学の観点から、本組成物2は、この乾燥粉末と公知の食品素材1種以上が混合されて成る食品組成物であるのが好ましい。その他、本組成物2に施され得る処理、本組成物2がとり得る形態や用途、本組成物2における本ジペプチド化合物の含有量やその測定方法等について、前述した本組成物1と同様である。本組成物2は、以上に説明した事項に限らず、後述する製造方法により得られたものであるのが好ましい。
【0048】
<組成物の第3実施形態>
本発明に係る組成物の第3実施形態(以下「本組成物3」という。)について、前述した本組成物1と共通する事項の説明を適宜省略して、本組成物1と異なる事項を主に説明する。本組成物3は、ユーグレナ細胞に由来しない本ジペプチド化合物を含有する組成物である。本組成物3は、ACE阻害活性を有するアルギニン包含ペプチドとして、本ジペプチド化合物を0.10mg/L以上含有している。
【0049】
本組成物3における本ジペプチド化合物は、例えば、L−アルギニンとL−アスパラギン、L−アルギニンとL−グルタミン、又はL−アルギニンとL−アスパラギンとL−グルタミン、を原料として、これらのアミノ酸を公知のペプチド合成法によりペプチド結合させて得ることができる。その上で、本組成物3は、得られた本ジペプチド化合物と薬理学的に許容される公知の添加物1種以上が混合されて成る医薬組成物、または、得られた本ジペプチド化合物と水と電解質が混合されて成る輸液組成物であっても良い。予防医学の観点から、本組成物3は、得られた本ジペプチド化合物と公知の食品素材1種以上が混合されて成る食品組成物であるのが好ましい。
【0050】
あるいは、本組成物3は、ユーグレナ以外の生物由来でありRN、RQ、NR、及びQRのうちの1種以上と同じアミノ酸配列を分子内に多く有するポリペプチド又はタンパク質を、ペプチダーゼにより加水分解して、更に本ジペプチド化合物の含有量が0.10mg/L以上となるように精製することによっても、製造可能と考えられる。この場合の本組成物3は、夾雑物を実質的に除去して本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高める観点から、ペプチダーゼによる酵素処理物が更に除タンパク処理されたもの、酵素処理物から脂質を抽出して実質的に除去したもの、遊離アミノ酸及びその塩を実質的に除去したもの、及びこれらの処理を組み合わせて施されたものからなる群より選ばれた処理物であるのが好ましい。
【0051】
本組成物3は、本ジペプチド化合物の含有量が多いため、ACE阻害、血圧上昇の予防、又は血圧降下に用いることができ、その有効成分として本ジペプチド化合物が活用される。その他、本組成物3に施され得る処理、本組成物3がとり得る形態や用途、本組成物3における本ジペプチド化合物の含有量やその測定方法等について、ユーグレナ細胞や培地に関する事項を除いて、前述した本組成物1と同様である。
【0052】
<組成物の製造方法の第1実施態様>
本発明に係る組成物の製造方法の第1実施態様(以下「本製法1」という。)について、前述した本組成物1と共通する事項の説明を適宜省略して説明する。本製法1は、ユーグレナ水性成分(ユーグレナ細胞から分離された水溶性成分)を含んで成る組成物(本組成物1)の製造方法である。
図1に示すように、本製法1は、準備工程S11、培養工程S12a、収集工程S16、乾燥工程S17、破砕工程S18、除タンパク工程S21、脂質除去工程S22、濃縮工程S30、及び精製工程S40を含む。
【0053】
準備工程S11では、ユーグレナの生細胞を準備する。このためには、例えば、屋外で日当たりの良い水たまり等から野生のユーグレナを採取しても良いが、研究機関から実験用のユーグレナ細胞株の提供を受けるのが効率良い。準備するユーグレナ細胞の分類上の種については、本組成物1の説明で前述したとおりである。
【0054】
培養工程S12aでは、培地でユーグレナの生細胞を培養して生育させることにより、その細胞数を増やしつつもユーグレナ細胞に本ジペプチド化合物を生合成させる。このためには、従来からユーグレナを培養するのに用いられている培地を用いても良い。例えば、次の表1に組成を示すクレイマー・マイヤー培地(以下「CM培地」という。非特許文献6を参照)、表2に組成を示すハットナー培地(非特許文献7を参照)、表3に組成を示すコーレン・ハットナー培地(以下「KH培地」という。非特許文献8を参照)を用いても良い。培地は、液体培地であっても良いし、斜面培地などの固体培地であっても良い。
【0058】
培養工程S12aで用いる培地は、表1から表3に示した組成に類似する組成の培地であっても良い。培地には、本発明の目的に反しない限り、キレート剤や、pH調整剤が含有されているのが好ましい。例えば、前述した表1から表3において、EDTA−Na
2(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩)はキレート剤として作用する。リン酸塩やクエン酸はpH調整剤として作用する。培地には、ペプチドを含有する組成物や、アンモニア水が配合されても良い。ペプチドを含有する組成物として、例えば、ペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。培地には、1種または複数種の遊離アミノ酸やその塩が配合されても良い。
【0059】
培養工程S12aでは、本ジペプチド化合物を多く含蓄するようにユーグレナ細胞を生育させやすい観点から、培地におけるアンモニア態窒素の含有量が38mmol/L以上であるのが好ましい。同様の観点から、培地におけるグルタミン酸化合物の含有量が3.4mmol/L以上であり、アンモニア態窒素の含有量が13mmol/L以上であるのが好ましい。これらの培地は、例えば、表1から表3のいずれかの配合に更にグルタミン酸化合物やアンモニウム塩を追加で配合して調製することができる。同様の観点に加えて、細胞数を効率よく増やす観点から、アンモニア態窒素の含有量が14mmol/L以上である培地でのグルタミン酸化合物の含有量が、24mmol/L以上であるのが好ましく、40mmol/L以上であるのがさらに好ましい。一方、含有量が多すぎて細胞数の増加が妨げられるのを避ける観点から、培地におけるアンモニア態窒素の含有量が、好ましくは1.0mol/L以下であり、さらに好ましくは100mmol/L以下である。同様に細胞数の増加が妨げられるのを避ける観点から、培地におけるグルタミン酸化合物の含有量は、好ましくは1.0mol/L以下であり、さらに好ましくは100mmol/L以下である。
【0060】
培養工程S12aでは、培地を用いて、従来からユーグレナの細胞数を増やす目的で行われている培養方法によりユーグレナ細胞を生育させることができる。例えば、培養容器を厚手の黒布で覆い、培地を暗黒下に保ってユーグレナ細胞を生育させても良い。あるいは、培地に光を照射する明期、及び培地を暗黒下に保つ暗期、を含む明暗周期を設けてユーグレナ細胞を生育させても良い。培養工程S12aでは、光合成により得られる栄養素によってユーグレナ細胞を生育させて細胞数を効率よく増やす観点から、培地に光を照射し続けてユーグレナ細胞を生育させるのが好ましい。
【0061】
培養工程S12aでの培養温度は、例えば20℃以上かつ34℃未満であり、良好に生育させる観点から28℃以上かつ30℃以下であるのが好ましい。同様の観点から、培地に照射する光の強さは、2,000lux以上かつ8,000lux以下であるのが好ましい。同様の観点から、例えば、スターラーにより培地を攪拌しながら培養するのが好ましく、振とう機により培地に1分間に80回以上かつ120回以下の振とうをしながら培養するのも好ましい。同様の観点から、除菌フィルターを通した空気、又は二酸化炭素を1質量%以上かつ5質量%以下含有する空気を、培地に通気させるのが好ましい。培地の初発pHは、例えば2.0以上かつ7.0以下であり、細胞数を効率よく増やす観点から3.0以上かつ5.0以下であるのが好ましい。初発pHを調整するために、培地に少量の希硫酸を添加しても良い。例えば、これらの好ましい培養条件によりKH培地に光を照射し続けてユーグレナ細胞を生育させた場合には、培養開始から2〜3日で対数増殖期に至り、4〜5日で定常期に達することがある。
【0062】
収集工程S16では、次の乾燥行程S17で処理の効率を良くするために、培養期間の終了後に、培地で生育したユーグレナ細胞を収集して、この細胞の密度が高められた収集物を得る。例えば、培地を加熱濃縮して培地における細胞の密度を高めるのでも良いが、望ましくない加熱変性を避けて短時間で効率よく収集する観点から、培地を遠心分離して形成される沈殿物(細胞のペレット)を採取するのが好ましい。例えば、培地を300mLずつチューブに分注して、約4℃で2,000×G程度の遠心力をかけて、チューブ内底に形成されるペレットを採取する。「G」は標準重力加速度(9.80665m/s
2)である。
【0063】
乾燥工程S17では、後の工程(S18からS22等)での処理の効率を良くし、ユーグレナ細胞内で本ジペプチド化合物が代謝により分解されるのを避けるために、この細胞の収集物(例えば、濃縮された培地、又は細胞のペレット)を乾燥させて、乾燥させられたユーグレナ細胞を含有する乾燥物を得る。収集物を加熱乾燥させても良いが、望ましくない加熱変性を避ける観点から、収集物を凍結乾燥させるのが好ましい。
【0064】
破砕工程S18では、後の行程(S21及びS22等)で脂質等を除去しやすくするために、乾燥物に含有されているユーグレナ細胞を破砕して、破砕されたユーグレナ細胞を含有する破砕処理物を得る。このためには、細胞からタンパク質を抽出する目的で行われる公知の細胞破砕法を採り得る。例えば、浸透圧ショック法、酵素消化法、超音波処理、フレンチプレス、乳棒による粉砕、ホモジナイザーによる破砕、及びガラスビーズによる破砕からなる群より選ばれた1種または2種以上を組み合わせた細胞破砕法が挙げられる。破砕時の望ましくない変性を避ける観点から、乾燥物を少量の緩衝液に懸濁した細胞懸濁液を破砕処理に供するのが好ましい。なお、浸透圧ショック法は、乾燥物を滅菌水などの低張液に懸濁して細胞を破裂させる手法である。酵素消化法は、細胞懸濁液に各種の酵素を添加して細胞を消化する手法である。ただし、本ジペプチド化合物を分解し得るジペプチダーゼを添加するのは、避けるのが好ましい。超音波処理は、超音波のせん断力により細胞を破砕する手法である。フレンチプレスは、高圧下で細胞懸濁液を小孔から強制的に押し出して、せん断力により細胞を破砕する手法である。乳棒による粉砕は、乳棒により乳鉢上で細胞をすり潰す手法である。ホモジナイザーによる破砕は、ホモジナイザーにより細胞懸濁液をホモジナイズして、得られたライセートをろ過または遠心分離して不溶物を除去し、上清を採取する手法である。ガラスビーズによる破砕は、細胞懸濁液にガラスビーズを加えて、冷却しながらボルテックスミキサーにより攪拌する操作を繰り返して、得られたライセートをろ過または遠心分離して不溶物を除去し、上清を採取する手法である。
【0065】
除タンパク工程S21では、夾雑物を除いて本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高めるために、破砕処理物に除タンパク処理を施して除タンパク処理物を得る。このためには、破砕処理物からタンパク質を除去する目的で従来から行われている公知の除タンパク処理法を採り得る。例えば、タンパク質変性沈殿法、液体クロマトグラフィーによりタンパク質を分離させて除去する方法、及び限外ろ過からなる群より選ばれた1種または2種以上の組み合わせが挙げられる。分子量が大きいポリペプチドやタンパク質ほど除かれやすく、分子量が小さい本ジペプチド化合物は除タンパク処理物に残存する。
【0066】
除タンパク工程S21でタンパク質変性沈殿法を行う場合には、破砕処理物と沈殿剤を混合して、遠心分離によりタンパク質を沈殿させてから、沈殿物(タンパク質)が混入しないように水層を採取して除タンパク処理物として扱う。例えば、破砕処理物1.0質量部と沈殿剤0.2質量部以上かつ4質量部以下を混合して攪拌し、冷所に15分以上静置してタンパク質を析出させてから、20,000×G程度の遠心力を15分程度かけてタンパク質を沈殿させて、沈殿物(タンパク質)が混入しないように水層(除タンパク処理物)を採取するのが好ましい。沈殿剤として、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、トリクロロ酢酸、及び過塩素酸からなる群より選ばれた1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0067】
除タンパク工程S21で限外ろ過を行う場合には、破砕処理物を、限外分子量が30,000以下である限外ろ過膜に通して、膜を通過したろ液を採取して除タンパク処理物として扱う。限外ろ過膜として、例えば、アミコンウルトラ遠心式限外ろ過フィルター(メルク社製、アミコンは登録商標)が挙げられる。タンパク質や分子量が大きいポリペプチドは、膜を通過できないため除去される。
【0068】
除タンパク工程S21で液体クロマトグラフィー(例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等)によりタンパク質を分離させる場合には、例えば、予備実験として、アミノ酸、ジペプチド、トリペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質の標準試料をカラムに通して、クロマトグラムにより各々の標品の保持時間を記録しておく。その上で、カラムを洗浄して、破砕処理物を洗浄後のカラムに通して、アミノ酸、ジペプチド、及びトリペプチドが含有されている保持時間の画分をそれぞれ採取して混合して、除タンパク処理物として扱う。ポリペプチドやタンパク質が含有された画分を採取しないことにより、ポリペプチドやタンパク質は除去される。
【0069】
脂質除去工程S22では、夾雑物を除いて本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高めるために、除タンパク処理物から脂質を除去して、ユーグレナ水性成分を含有する水溶液を得る。例えば、除タンパク処理物を遠心分離にかけるか又は冷暗所に静置して、成分を比重ごとに分離させて、形成される脂質の層を除去してユーグレナ水性成分を得ても良い。あるいは、除タンパク処理物を液体クロマトグラフィー(例えば、逆相クロマトグラフィー)の分離カラムに通して、カラムを通過した水溶性成分が含有されている画分を採取して、ユーグレナ水性成分として扱っても良い。
【0070】
脂質除去工程S22では、簡易迅速に脂質を除去する観点から、除タンパク処理物を極性溶媒と混合するのが好ましい。極性溶媒は、例えばメタノールでも良い。極性溶媒は、脂質の混入を避けて効率良く水溶性成分を抽出する観点から、20℃での誘電率が35以上である溶媒が好ましく、例えば、アセトニトリル、ギ酸、及び水からなる群より選ばれた1種の溶媒または2種以上の溶媒の混合液が挙げられる。これらの場合、脂質は抽残層(油層)及び沈殿物に留まるのに対して、水溶性成分は極性溶媒(例えば水)に抽出される。混合後に形成される極性溶媒の層(例えば水層)を採取して、ユーグレナ水性成分として扱うことができる。
【0071】
あるいは、脂質除去工程S22では、簡便迅速に脂質を除去する観点から、除タンパク処理物を無極性溶媒と混合させるのが好ましい。無極性溶媒は、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、又はこれらの混合液でも良い。効率良く脂質を抽出して除去する観点から、無極性溶媒は20℃での誘電率が4.5以下である溶媒が好ましく、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、及びジエチルエーテルからなる群より選ばれた1種の溶媒または2種以上の溶媒の混合液が挙げられる。これらの場合、脂質は無極性溶媒に抽出されるのに対して、水溶性成分は抽残層(水層)及び沈殿物に残存する。混合後に形成される抽残層(水層)を採取して、ユーグレナ水性成分として扱うことができる。または、脂質除去工程S22では、簡便迅速に脂質を除去する観点から、除タンパク処理物を極性溶媒および無極性溶媒と混合して、形成される極性溶媒の層(例えば水層)を採取するのが好ましい。
【0072】
脂質除去工程S22で極性溶媒や無極性溶媒を用いる場合には、効率よく抽出する観点から、除タンパク処理物を乾燥させた後に溶媒と混合するのが好ましく、除タンパク処理物を凍結乾燥させた後に溶媒と混合するのがさらに好ましい。夾雑物を除去して本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高める観点から、極性溶媒の層(例えば水層)を採取する際に、無極性溶媒の層(油層)との界面や沈殿物に近接する部分を避けて採取するのが好ましい。界面に存する両親媒性の成分(例えば、リン脂質、糖脂質)や、沈殿物に存する不溶性成分をも除去することができる。
【0073】
濃縮工程S30では、溶媒(例えば水)を除いて本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高めるために、ユーグレナ水性成分を濃縮して濃縮物を得る。このためには、加熱により水溶液を乾燥させても良いが、望ましくない加熱変性を避ける観点から、凍結乾燥により濃縮物を得るのが好ましく、遠心濃縮機(遠心エバポレーター)を用いて遠心濃縮により濃縮物を得るのも好ましい。
【0074】
精製工程S40では、夾雑物を除いて本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高めるために、濃縮物を精製して精製物を得る。このためには、分子篩(例えば、限外ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー、及び吸着クロマトグラフィーからなる群より選ばれた1種または2種以上の組み合わせにより、遊離アミノ酸、分子量が1,000以上であるオリゴペプチドやポリペプチド、タンパク質、炭水化物、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の夾雑物を除去するのが好ましい。あるいは、濃縮物に除タンパク処理を施しても良い。濃縮物から、遊離アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、及びこれらの塩を除去する場合には、濃縮物をゲルろ過クロマトグラフィーのカラムに通して一定の保持時間ごとに分画して、ジペプチドやトリペプチドを含有する保持時間の画分を採取して、精製物として扱うのが好ましい。
【0075】
以上に説明した本製法1において、準備工程S11、培養工程S12a、収集工程S16、乾燥工程S17、及び破砕工程S18の組み合わせは、培地で生育して乾燥させられたユーグレナ細胞が破砕された破砕処理物を準備する工程S10として機能する。除タンパク工程S21と脂質除去工程S22の組み合わせは、破砕処理物から脂質を実質的に除去して、ユーグレナ細胞に由来する水溶性成分を含有する水溶液を得る工程S20として機能する。精製工程S40で得られた精製物を、ユーグレナ水性成分(ユーグレナ細胞から分離された水溶性成分)を含んで成る組成物(本組成物1)として扱うことができる。
【0076】
<組成物の製造方法の第2実施態様>
本発明に係る組成物の製造方法の第2実施態様(以下「本製法2」という。)について、前述した本製法1と共通する事項の説明を適宜省略して、本製法1と異なる事項を主に説明する。本製法2は、培地で生育して乾燥させられたユーグレナ細胞を含んで成る組成物(本組成物2)の製造方法である。
図2に示すように本製法2は、準備工程S11、培養工程S12b、収集工程S16、及び乾燥工程S17を含む。
【0077】
本製法2における準備工程S11は、本製法1と同様である。本製法2における培養工程S12bでは、グルタミン酸化合物の含有量が3.4mmol/L以上であり、アンモニア態窒素の含有量が13mmol/L以上である培地を用いる。ユーグレナの細胞数を効率良く増やす観点から、アンモニア態窒素の含有量が14mmol/L以上である培地でのグルタミン酸化合物の含有量が、24mmol/L以上であるのが好ましく、40mmol/L以上であるのがさらに好ましい。これらの組成の培地で培養されて生育したユーグレナ細胞は、本ペプチド化合物を多く含蓄しやすい。培養工程S12bについて、その他の事項は本製法1における培養工程S12aと同様である。
【0078】
本製法2での収集工程S16及び乾燥工程S17は、本製法1と同様である。収集工程S16と乾燥工程S17の組み合わせは、培地で生育したユーグレナ細胞を乾燥させる工程S15として機能する。乾燥工程S17により得られた乾燥物を、培地で生育して乾燥させられたユーグレナ細胞を含んで成る組成物(本組成物2)として扱うことができる。
【0079】
<組成物の製造方法のその他の実施態様>
本発明に係る組成物の製造方法は、その目的に反しない限り、
図1に示す本製法1や
図2に示す本製法2を、以下に例示するように変更した態様でも良い。
【0080】
準備工程S11で本ジペプチド化合物を多く含蓄しているユーグレナ細胞を大量に準備可能な場合には、工程を簡略化させる観点から、培養工程(S12a又はS12b)を省略可能である。この場合には、既に乾燥されたユーグレナ細胞、又は既に脱脂されたユーグレナ細胞を準備するのでも良く、細胞が死んでいても良い。準備工程S11で本ジペプチド化合物を多く含蓄しているユーグレナ細胞を高密度で含有する乾燥物または懸濁液を大量に準備可能な場合には、培養工程(S12a又はS12b)だけでなく、収集工程S16及び乾燥工程S17も省略可能である。
【0081】
培養工程(S12a又はS12b)において、培養中に培地から水分が蒸発して培地における細胞の密度が高くなった場合には、収集工程S16を省略しても良い。あるいは、本製法1において、破砕工程S18、除タンパク工程S21、脂質除去工程S22、及び濃縮工程S30の各工程において処理の効率が悪くなっても問題ない場合には、工程を簡略化させる観点から、収集工程S16及び乾燥工程S17を省略しても良い。
【0082】
培養工程(S12a又はS12b)で用いた培地が少量(例えば1.0L以下)である場合には、収集工程S16及び乾燥工程S17をまとめて行なうことができる。この場合、培養後の培地を加熱により乾固させても良いが、望ましくない加熱変性を避ける観点から、培養後の培地を凍結乾燥するのが好ましく、培養後の培地を遠心濃縮するのも好ましい。
【0083】
図1に示す本製法1での破砕工程S18では、次の除タンパク工程S21の効率を高める観点から、破砕処理物を濃縮してから除タンパク工程S21に供するのが好ましい。このための手法として、破砕処理物を遠心分離して形成される下層を採取する、破砕処理物を凍結乾燥する、又は破砕処理物を遠心濃縮する、等が例示される。同様の観点から、除タンパク工程S21では、除タンパク処理物を濃縮して次の脂質除去工程S22に供するのが好ましい。
【0084】
あるいは、本製法1では、破砕工程S18と脂質除去工程S22をまとめて行い工程を簡略化させる観点から、ユーグレナ細胞を含有する乾燥物または細胞懸濁液を、無極性溶媒と混合して、混合後に形成される抽残層(水層)を採取するのが好ましい。ユーグレナは微小な単細胞生物であり、細胞を乾燥させたときに細胞膜などが幾らか壊れるため、乾燥されたユーグレナ細胞を無極性溶媒と混合させることにより、この細胞から時間をかけて脂質を除去することが可能である。この場合、採取した抽残層(水層)に除タンパク処理を施すのが好ましい。
【0085】
または、本製法1では、除タンパク工程S21と脂質除去工程S22をまとめて行い工程を簡略化させる観点から、破砕されたユーグレナ細胞を含有する破砕処理物と、タンパク質沈殿剤として機能する極性溶媒とを混合して、混合後に形成される抽出層(極性溶媒の層または水層)を採取するのが好ましい。もしくは、本製法1では、破砕工程S18、除タンパク工程S21、及び脂質除去工程S22をまとめて行うことにより工程を更に簡略化させる観点から、ユーグレナ細胞を含有する乾燥物または細胞懸濁液と、タンパク質沈殿剤として機能する極性溶媒とを混合して、混合後に形成される抽出層(極性溶媒の層または水層)を採取するのが好ましい。タンパク質沈殿剤として機能する極性溶媒として、例えばアセトニトリル水溶液が挙げられる。もしくは、乾燥されたユーグレナ細胞を含有する乾燥物から脂質を除去して、得られる水溶液に対して除タンパク処理を施して、得られる除タンパク処理物をユーグレナ細胞に由来する水溶性成分を含有する水溶液として扱っても良い。
【0086】
本製法1では、精製工程S40で除タンパク処理を行う場合に、除タンパク工程S21を省略しても、タンパク質や分子量が1,000以上であるペプチドが除去された本組成物1を得ることができる。本組成物1において、本ジペプチド化合物の含有率が低くても問題ない場合や、本ジペプチド化合物以外に夾雑物が多く含有されていて問題ない場合には、本製法1から除タンパク工程S21、濃縮工程S30、及び精製工程S40からなる群より選ばれた1つ以上の工程を省略しても良い。この場合には、脂質除去工程S22で採取された水溶液そのものを、ユーグレナ水性成分を含んで成る組成物(本組成物1)として扱うことができる。
【0087】
図2に示す本製法2では、夾雑物を除いて本ジペプチド化合物の含有率を相対的に高める観点から、ユーグレナ細胞の収集物を無極性溶媒と混合して幾らか脱脂された細胞を乾燥工程S17に供しても良い。同様の観点から、乾燥されたユーグレナ細胞を含有する乾燥物を無極性溶媒と混合して、幾らか脱脂された細胞を含んで成る組成物を得ても良い。
【0088】
本組成物1を医薬組成物または食品組成物として用いる場合には、
図1に示す脂質除去工程S22、濃縮工程S30、及び精製工程S40からなる群より選ばれた1つ以上の工程の後に、さらに、薬理学的に許容される公知の添加剤または公知の食品素材を混合するのが好ましい。本組成物1を輸液製剤として用いる場合には、直に血中に投与されるため、精製工程S40で得られた精製物を水や電解質と混合して輸液製剤を製造するのが好ましい。本組成物2を医薬製剤または加工食品として用いる場合には、
図2に示す乾燥工程S17の後に、さらに、薬理学的に許容される公知の添加剤または公知の食品素材を混合するのが好ましい。
【実施例】
【0089】
<ユーグレナ細胞に含蓄されたジペプチドの分析>
本発明者らは、公立大学法人大阪府立大学の食品代謝栄養学研究室から、この研究室で管理されている実験用のユーグレナ・グラシリス細胞株の提供を受けた。このユーグレナ細胞を培養して生育させるために、実験例1に係る培地として、前述したKH培地(表3)150mLをフラスコ内で調製した。また、実験例1に係る培地(KH培地)と比べて、次の表4に示すようにL−グルタミン酸、硫安((NH
4)
2SO
4)、及び燐安((NH
4)
2HPO
4)を多く配合された他は、同じ組成である実験例2に係る培地および実験例3に係る培地を、各々150mLずつ別個のフラスコ内で調製した。
【0090】
【表4】
【0091】
実験例1から実験例3の各々に係る培地について、フラスコの口部に綿栓を詰めて、オートクレーブにより2気圧、121℃で15分間かけて加圧滅菌した。滅菌した培地をクリーンベンチ内に置いて培地が冷えてから、雑菌が混入しないようにして、培地ごとに1.0×10
4個以上かつ3.0×10
4個以下程度のユーグレナ細胞が含有されるように細胞の懸濁液を少量添加した。28℃以上かつ30℃以下に保たれた培養室内で、細胞を添加された培地を振とう機により80rpm程度で振とうしながら、この培地に5,000lux程度の強さの光を照射し続けて、7日間かけて細胞を培養して生育させた。
【0092】
培養後の実験例1から実験例3の各々に係る培地を、凍結乾燥機により凍結乾燥させて、凍結乾燥物を得た。凍結乾燥物200mgをチューブ内で80質量%アセトニトリル水溶液5.0mLに懸濁させて、細胞懸濁液を調製した。チューブごと細胞懸濁液を氷冷しながら、超音波破砕機(株式会社トミー精工製、型名:UR−21P)により細胞懸濁液に超音波の振動を10秒間加える処理を3回繰り返して、細胞の破砕処理液を得た。遠心分離機により破砕処理液に4℃で6,000×Gの遠心力を10分間かけて、遠心分離により形成された上清を約5mL採取した。この上清が200μL以下になるまで遠心濃縮機(株式会社トミー精工製、型名:CC−105)により遠心濃縮して、濃縮物を得た。
【0093】
上記した濃縮物から本ジペプチド化合物の含有率が高まるように精製するために、カラム平衡化バッファーとして100mmol/Lの塩酸を調製した。このバッファーを固相抽出カラム(ウォーターズ コーポレーション製、Oasis MCX Column、Oasisは登録商標)に注入して平衡化させた。また、実験例1から実験例3の各々に係る濃縮物を、100mmol/Lの塩酸800μLと混合して、得られた混合液を平衡化されたカラムに注入した。さらに、メタノールを注入してカラム内を洗浄した後に、アンモニアを500mmol/L含有するメタノールを注入してカラムから溶出された水溶液を採取した。採取した水溶液を遠心濃縮により乾固させることにより、精製物を得た。
【0094】
LC/MS(液体クロマトグラフィー質量分析)及びLC/MS/MS(タンデム四重極質量分析計を用いた液体クロマトグラフィー質量分析)を行うために、LC−MS/MS(ウォーターズ コーポレーション製、LCの型番:Alliance e 2965、MS/MSの型番:Xevo TQD)を準備した。実験例1から実験例3の各々に係る精製物を2.0質量%モノフルオロ酢酸水溶液に溶解させて、LC/MS用の試料とした。また、標準試料として、QRとRQを各々1.0μmol/Lずつ含有するか、又はNRとRNを各々1.0μmol/Lずつ含有する、2.0質量%モノフルオロ酢酸水溶液を調製した。移動相Aとして、ギ酸を0.1質量%含有するアセトニトリル溶液を調製した。移動相Bとして、ギ酸アンモニウムを100mmol/L含有する水溶液を調製した。アミノ酸分析用カラム(インタクト株式会社製、Intrada Amino Acid、内径2.0mm×カラム長50mm)のカラム温度を40℃に保ち、このカラムにLC/MS用の試料および標準試料のいずれか20μLを注入して、更に移動相A及び移動相Bを次の表5に示すように濃度勾配を制御してこのカラムに流速0.3mL/分で送液して各成分を分離させることにより、LC/MS又はLC/MS/MSを行った。
【0095】
【表5】
【0096】
LC/MSにより標準試料(QRとRQ)から得られたトータルイオンクロマトグラムでは、
図3に示すように、保持時間6.49分でQRに由来するピークが認められ、保持時間6.88分でRQに由来するピークが認められた。また、QRやRQをLC/MS/MSにかけると、分子内に有するアルギニン残基に由来して、H
2NC(:NH)NHCH
2−イオンが生じる。このプロダクトイオンの質量電荷比は、約70である。このため、
図4に示すm/z=70での選択イオンモニタリングのクロマトグラムにおいても、同様の保持時間において、QRに由来するピークと、RQに由来するピークが認められた。
【0097】
図4に示すように、実験例1から実験例3の各々に係る試料では保持時間6.88分前後で大きなピークが認められたため、いずれの試料もRQを多く含有していることが示唆された。また、
図4の保持時間6.49分前後において、実験例1及び実験例2ではピークが認められなかったが、実験例3では微小なピークが認められた。このため、実験例1及び実験例2と比べて、実験例3に係る試料ではQRが検出可能な程度に多く含有されていることが示された。
【0098】
図4に示すように、実験例1ではQR及びRQ以外のペプチドに由来する微小なピークが多数認められたことに対して、実験例2及び実験例3で同様のピークはほとんど認められなかった。このことと前述した表3及び表4を考慮すると、実験例1に係る培地(KH培地)と比べて実験例3に係る培地では、グルタミン酸化合物やアンモニア態窒素の含有量が多いことに起因して、培地で生育したユーグレナ細胞においてL−アルギニンがQRやRQの形態で含蓄されやすいものと考えられる。
【0099】
MassLynx質量分析(MS)用ソフトウェア(ウォーターズ コーポレーション製、version4.1)により、
図4に示すクロマトグラムからノイズを除き、
図5に示すクロマトグラムを得た。
図5での標準試料におけるRQに由来するピークの面積が1.0μmol/L相当であることに基づいて、実験例1から実験例3の各々に係る試料においてRQに由来するピークの面積から各々の試料におけるRQの含有量を算出した。
【0100】
【表6】
【0101】
表6に示すように、実験例2に係る試料および実験例3に係る試料では、実験例1に係る試料と比べてRQの含有量が8倍を超えて多かった。このため、実験例1に係る培地(KH培地)で生育して乾燥されたユーグレナ細胞と比べて、実験例2に係る培地又は実験例3に係る培地で生育して乾燥されたユーグレナ細胞では、RQが多く含有されていることが示唆された。KH培地よりもグルタミン酸化合物およびアンモニア態窒素の含有量が多い培地でユーグレナ細胞が生育したことに起因して、この細胞内でグルタミン酸化合物やアンモニア態窒素からRQが多く生合成されたものと考えられる。
【0102】
標準試料(NRとRN)からLC/MSにより得られたトータルイオンクロマトグラムでは、
図6に示すように、保持時間6.15分でNRに起因するピークが認められ、保持時間6.79分でRNに起因するピークが認められた。このNRに起因するピークは、実験例1に係る試料では認められたが、実験例2及び実験例3に係る試料では認められなかった。また、このRNに起因するピークは、実験例2に係る試料では認められたが、実験例1及び実験例3に係る試料では認められなかった。このため、NRやRNは、ユーグレナ細胞を生育させる培地の組成によって、含蓄されやすい場合と含蓄されにくい場合があるものと考えられる。
【0103】
<アミノ酸およびジペプチドの各々が有する、ACE阻害活性の評価>
ACE阻害活性を有する遊離アミノ酸として、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン、L−グルタミン酸、及びL−アルギニン(全て協和発酵キリン株式会社製)をそれぞれ準備した。また、これらの遊離アミノ酸5種を等質量ずつ混合して、遊離アミノ酸の混合組成物を調製した。ACE阻害活性測定用の基質溶液や酵素溶液など一式として、株式会社同仁化学研究所製のACE Kit−WSTを準備した(非特許文献9を参照)。
【0104】
18mΩのミリQ水に、上記した遊離アミノ酸5種のうちのいずれか1種または混合組成物を溶解させて、比較試験用の溶液を調製した。非特許文献9に記載された測定操作の方法に従って、比較試験用の溶液20μL、基質溶液20μL、及び酵素溶液20μLを混合して、混合液60μLを調製した。この混合液において、遊離アミノ酸の含有量が例えば500mg/L、又は1,000mg/Lになるように調製した。また、ACE阻害物質を含有していない対照群として、比較試験用の溶液の代わりにミリQ水を混合した混合液を調製した。ACEを含有していない対照群として、酵素溶液の代わりにミリQ水を混合した混合液を調製した。これらの混合液それぞれを37℃で10分間保ってから、波長450μmの光に対する吸光度(以下「OD
450」という。)を測定した。ACE阻害物質を含有していない対照群でのOD
450の測定値がACE阻害率0%を示すものとみなし、ACEを含有していない対照群でのOD
450の測定値がACE阻害率100%を示すものとみなした上で、OD
450の測定結果に基づいて混合液それぞれでのACE阻害率を算出した。算出結果の平均値を次の表7に示す。
【0105】
【表7】
【0106】
また、GenScript社のペプチド合成受託サービスに依頼して、RQ、QR、RN、及びNRを準備した。これらのジペプチド4種は、L−アルギニン及びL−アスパラギン、または、L−アルギニン及びL−グルタミンを原料として用いて、ペプチド合成により調製されたものである。これらジペプチド4種の各々によるACE阻害率を測定するにあたり、混合液においてRQ、QR、RN、及びNRのいずれか1種のジペプチドが0.12mg/L、0.62mg/L、3.1mg/L、15mg/L、又は77mg/Lのいずれかの濃度で含有されるようにした他は、前述した遊離アミノ酸でのACE阻害率の測定と同様の手法により測定してACE阻害率を算出した。算出結果の平均値を、
図7及び次の表8に示す。
【0107】
【表8】
【0108】
図7及び表8に示すように、ジペプチド4種のうちのいずれか1種を含有する混合液において、ジペプチドの含有量が多いほどACE阻害率の値が大きくなった。表7と表8を比較すると、遊離アミノ酸よりもジペプチドの方が、少量でもACE阻害率の値が高い。この実験結果により、本発明者らは、RQ、QR、RN、及びNRの各々が、L−アルギニン等の遊離アミノ酸よりも強いACE阻害活性を有するジペプチドであることを発見した。表8に示すように、ジペプチドの含有量が3.1mg/Lから77mg/Lである混合液でのACE阻害率の値が大きいため、「N.D.」と記載した部分について再実験を行えば、小さい値ながらもACE阻害活性を有するという実験データを得ることができるであろうと考えられる。
【0109】
<ユーグレナ水性成分を含んで成る組成物の試作>
前述した実験例1と同様に、ユーグレナ・グラシリスの細胞株の提供を受けた。ユーグレナを培養して生育させるために、実験例4に係る培地として、前述したCM培地(表1)から組成の一部を変更して、次の表9に示す組成の培地150mLをフラスコ内で調製した。また、実験例4に係る培地(表9)と比べて、表10に示すようにL−グルタミン酸または燐安((NH
4)
2HPO
4)の含有量が多いことを除けば、同じ組成である実験例5から実験例10の各々に係る培地を150mLずつ別個のフラスコ内で調製した。
【0110】
【表9】
【0111】
【表10】
【0112】
前述した実験例1と同様に、実験例4から実験例10の各々に係る培地を加圧滅菌して冷えてからユーグレナ細胞の懸濁液を添加し、振とうしながら光を照射して7日間かけて培養することにより細胞を生育させた。培養期間の終了時に、各々の培地を攪拌して少量を採取して、血球計算盤上に滴下して、液滴上にカバーガラスを貼り付けた。顕微鏡で観察して、血球計算盤上における1.0mm×1.0mmの区画内に存する細胞数を数えて、次の数式1により培地1.0mLあたりのユーグレナ細胞数を算出した。
【0113】
【数1】
N
C:培地1.0mLあたりの細胞数
N
N:1.0mm
2あたりに存する細胞数の平均値
10
4:1.0mm
2に対する容量の変換値
【0114】
培養後の実験例4から実験例10の各々に係る培地をチューブに分注して、遠心分離機により4℃で2,000×Gの遠心力をかけた。遠心分離により形成された細胞のペレットを採取して、このペレットを少量のトリス塩酸緩衝液に懸濁させることにより、ユーグレナ細胞を高密度で含有する細胞懸濁液を得た。この細胞懸濁液および超音波破砕機の発振棒をビーカーに入れ、ビーカーを氷冷しながら20kHzの振動を繰り返し加えて、ユーグレナ細胞の破砕処理液を得た。この破砕処理液を新たなチューブ内に移して4℃で6,000×Gの遠心力をかけて、形成された上清を回収した。この上清とトリクロロ酢酸を混合して、4℃で6,000×Gの遠心力をかけてタンパク質を沈殿させて、除タンパク処理された上清を得た。この上清とジエチルエーテルを混合することにより、上清に含有されている脂質をジエチルエーテルに抽出させた。形成されたジエチルエーテルの層を除去して、形成された水層を採取した。この水層を凍結乾燥機により乾燥させて、実験例4から実験例10の各々に係る凍結乾燥物(ユーグレナ水性成分を含んで成る組成物)を得た。これらの凍結乾燥物の各々の総質量を量った。
【0115】
<試作した組成物におけるACE阻害活性の評価>
実験例4から実験例10の各々について上記した凍結乾燥物のうちの200μgを採取して、pH5.0である酢酸緩衝液20μLに溶解させて、更に0.5質量%ニンヒドリン試液40μLと混合した。凍結乾燥物と酢酸緩衝液とニンヒドリン試液の混合液を、沸騰湯浴中で15分間熱してから、室温(20℃前後)で30分間放置して冷やした。30分放置した混合液に、50体積%エタノール水溶液260μLを混合して、得られた溶液について分光光度計により波長595μmの光に対する吸光度(OD
595)を測定した。L−アルギニンの標品による検量線に基づいて(このことを以下「アルギニン換算」という。)、各々の実験例に係る凍結乾燥物におけるアミノ酸の絶対量(遊離アミノ酸とペプチド構成アミノ酸との合計量)を算出した。
【0116】
別途、実験例4から実験例10の各々に係る凍結乾燥物の一部を採取して、ミリQ水と混合することにより、ACE阻害活性を測定するための試料溶液を調製した。前述したACE Kit−WSTを用いて、非特許文献9に記載された測定操作の方法に従って、試料溶液20μL、基質溶液20μL、及び酵素溶液20μLを混合した。この混合により、アルギニン換算でのアミノ酸の絶対量が45mg/Lとなるように、実験例4から実験例10の各々に係る凍結乾燥物のいずれかを含有する混合液60μLを調製した。この混合液を37℃で10分間保ってからOD
450を測定して、前述したようにACE阻害率を算出した。算出結果の平均値を次の表11に示す。
【0117】
【表11】
【0118】
表11に示すように、実験例4から実験例10のいずれも、「アミノ酸の絶対量が45mg/Lである混合液でのACE阻害率」の値が38%以上であった。前述した表7および表8に示したACE阻害率の値も考慮すると、実験例4から実験例10の各々に係る凍結乾燥物は、L−アルギニンを、遊離アミノ酸というよりも本ジペプチド化合物の形態で多量に含有しているものと推察される。
【0119】
また、表11に示す実験例4から実験例7の比較により、「培地におけるアンモニア態窒素の含有量」が増すほど、「7日間培養した培地1.0mLあたりに存するユーグレナ細胞数」が減少することが示された。一方、実験例4及び実験例5と比較して、実験例6および実験例7では、「培地におけるアンモニア態窒素の含有量」が増すほど、「アミノ酸の絶対量が45mg/Lである混合液でのACE阻害率」の値が大きくなった。このため、培地におけるアンモニア態窒素の含有量が38mmol/L以上であると、アンモニア態窒素の含有量が増すほど細胞数が増えにくくなるが、個々の細胞で本ジペプチド化合物が多量に含蓄されやすくなるものと考えられる。
【0120】
表11に示す実験例4、及び実験例8から実験例10の比較により、培地におけるアンモニア態窒素の含有量が15.1mmol/Lである場合には、培地におけるL−グルタミン酸の含有量が多くなる程、「7日間培養した培地1.0mLあたりに存するユーグレナ細胞数」が増して、「アミノ酸の絶対量が45mg/Lである混合液でのACE阻害率」の値が大きくなることが示された。また、実験例4から実験例7と比べて、実験例8と実験例10では、「凍結乾燥物1,000mgあたりの原料となったユーグレナ細胞数」が多かった。このため、培地におけるアンモニア態窒素の含有量が15.1mmol/Lである場合には、培地におけるL−グルタミン酸の含有量が多くなると細胞数が増加しやすくなることにより、凍結乾燥物に本ジペプチド化合物が多く集められたものと推察される。
【0121】
<動物実験>
本発明に係る組成物を経口摂取して発揮されるACE阻害作用等について検証するために、動物実験を行うこととした。動物実験に供する組成物(実験例11に係る凍結乾燥物)を試作するために、ゲルろ過クロマトグラフィー用担体としてGEヘルスケア・ジャパン株式会社製のSephadexG−10を準備して、直径1.5cm×長さ15cmのカラムに充填した。SephadexG−10の排除限界は、700Daである。排除限界は、カラム内を通される分子が固定相(担体)に捕捉されて分画され得る分子量の上限値である。このため、SephadexG−10は、本ジペプチド化合物のように分子量が比較的に小さいペプチドを分画するのに適した担体である。予備実験として、約20℃の室温下において、QR、L−グルタミン酸、及びL−アルギニンを含有する溶液をSephadexG−10充填カラムに通して、QRを含有するがL−グルタミン酸やL−アルギニンを実質的に含有しない画分がカラムから流出した保持時間を調べた。また、前述した実験例1と同様に、ユーグレナ・グラシリス細胞株の提供を受けた。前述したKH培地(表3)から組成の一部を変更して、次の表12に示す組成である実験例11に係る培地150mLをフラスコ内で調製した。
【0122】
【表12】
【0123】
上記した実験例11に係る培地を用いた他は前述した実験例1と同様にして、ユーグレナ細胞を培養して生育させ、培養後の培地を凍結乾燥させて、細胞懸濁液を調製して超音波破砕にかけて、破砕処理液を得た。この破砕処理液を約20℃の室温下においてSephadexG−10充填カラムに注入して分画し、前述した予備実験で本ジペプチド化合物が流出したのと同じ保持時間においてカラムから流出した画分を得た。ここで得られた画分は、ユーグレナ細胞に由来する脂質、タンパク質、遊離アミノ酸及びその塩、並びに分子量が比較的に大きいポリペプチドやオリゴペプチドを実質的に含有しておらず、本ジペプチド化合物の含有率が高まるように精製されたユーグレナ水性成分を含有する溶液である。この画分を凍結乾燥させて、実験例11に係る凍結乾燥物を得た。実験例11に係る凍結乾燥物におけるアミノ酸の絶対量(遊離アミノ酸とペプチド構成アミノ酸との合計量)を、前述した実験例4から実験例10と同様にして測定した。その上で、実験例11に係る凍結乾燥物を、アミノ酸の絶対量が2.0mg/Lとなるように生理食塩水と混合して、試料水を調製した。
【0124】
日本チャールス・リバー株式会社から、SPF(Specific Pathogen Free)化された12週齢の雄性SHR/NCrlCrljラット(以下「SHRラット」という。)を12匹購入した。SHRラットは、加齢に伴い高血圧を自然発症する系統の実験動物である。動物実験は、アメリカ国立衛生研究所の「動物実験の管理と使用に関する指針」に従って実施した。20℃以上かつ26℃以下であり相対湿度50%RH以上かつ70%RH以下に保たれた飼育室内において、12匹のSHRラットを6匹の対照群ラットと6匹の実験群ラットに分けて、次の表13に示す配合の飼料(以下「飼育用飼料」という。)を自由に摂取させて6日間かけて予備飼育してから、12時間にわたり絶食させた。
【0125】
【表13】
【0126】
非観血法によるラット用の血圧計(株式会社ソフトロン製、型番:BP−98A−L、非特許文献10を参照)を準備した。前述した12時間の絶食を済ませた時点を実験開始時として、この時点において飼育室内の雰囲気下でラット用の血圧計を用いて、ラットごとに尾の付け根部分での収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)を測定した。実験開始時での血圧測定後から、対照群ラットには生理食塩水と飼育用飼料を自由に摂取させて、実験群ラットには前述した試料水と飼育用飼料を自由に摂取させて、それぞれ飼育室内で7週間にわたり飼育した。なお、予備飼育およびその後の7週間にわたる飼育中に、いずれのラットも、外観や体重増加に異常は見当たらなかった。対照群ラットでの生理食塩水の摂取量と実験群ラットでの試料水の摂取量について、ラットごとに個体差が若干見られたものの、対照群ラット6匹での平均値と実験群ラット6匹での平均値は同程度であった。同様に、飼育用飼料の摂取量についても個体差が若干見られたが、対照群ラット6匹での平均値と実験群ラット6匹での平均値は同程度であった。実験開始から5週、6週、及び7週経過時に、実験開始時と同様にしてSBP及びDBPを測定した。7週経過時でSBP及びDBPを測定後に、ラットごとに尾静脈から採血し、得られた血液を遠心分離して血清を得た。この血清とラット用アンジオテンシンII定量キット(Cloud−Clone Corp.WUHAN社製、型番:KSA005Ra11)を用いて、このキットの説明書(非特許文献11を参照)に従ってアンジオテンシンIIの血中濃度を測定した。測定結果を、
図8(a)、
図8(b)、及び次の表14に示す。
【0127】
【表14】
【0128】
図8(a)及び表14に示すように、実験開始時でのSBP及びDBPについて、対照群ラットと実験群ラットでの差は実質的に認められなかった。一方、実験開始から5週、6週、及び7週経過時においてSBP及びDBP共に、対照群ラットよりも実験群ラットの方が低い値を示した。6週経過時でのSBP及びDBPでは、対照群ラットよりも実験群ラットの方が有意に低い値を示した。
図8(b)及び表14に示すように、実験開始から7週経過時におけるアンジオテンシンIIの血中濃度について、対照群ラットよりも実験群ラットの方が有意に低い値を示した。この動物実験の結果から、実験例11に係る凍結乾燥物を継続的に経口摂取させた実験群ラットでは、実験開始時からの加齢に伴う血圧上昇が緩やかに抑えられたことが示唆された。この血圧上昇抑制作用は、実験群ラットの体内において実験例11に係る凍結乾燥物に含有される本ジペプチド化合物がACE阻害作用を奏したことにより、アンジオテンシンIIの生成量が少なく抑えられたことに起因するものと考えられる。この作用機序を考慮すると、実験群11に係る凍結乾燥物は、SHRラットに限らず、ヒトを含む哺乳動物において高血圧の予防または改善に用いられる食品組成物として適していると考えられる。