特許第6741288号(P6741288)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741288
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】血液分離器
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20200806BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20200806BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   G01N33/48 H
   G01N1/10 D
   G01N37/00 101
   G01N1/10 V
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-100372(P2016-100372)
(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公開番号】特開2017-207383(P2017-207383A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年4月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2015年11月26日から27日北九州国際会議場において開催された化学とマイクロ・ナノシステム学会第32回研究会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】安田 隆
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−089381(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0233894(US,A1)
【文献】 特表2017−514145(JP,A)
【文献】 特表2013−504055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 1/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血球沈降によって血液を血漿と血球に分離する血液分離器において、
血液の導入口と、前記導入口から導入された血液が充填される管路と、前記管路内に在った気体を該管路への血液の充填に伴って排出する排気口とを備え、前記管路は、第1の線領域及び長手方向一端部が該第1の線領域の長手方向一端部に連結された第2の線領域を有し、
前記管路内に充填された血液を血漿と血球に分離する際、連結された前記第1の線領域の長手方向一端部及び前記第2の線領域の長手方向一端部が最上位置に配され、該最上位置に配された、該第1、第2の線領域の各長手方向一端部に、分離された血漿が溜まることを特徴とする血液分離器。
【請求項2】
請求項1記載の血液分離器において、前記管路は、長手方向一端部が前記第1、第2の線領域の各長手方向一端部に接続され、長手方向他端部が前記導入口に連結された第3の線領域を、更に有し、前記排気口は2つあって、それぞれ前記第1、第2の線領域の各長手方向他端部に連結され、前記第3の線領域は、前記管路内に充填された血液を血漿と血球に分離する際、該第3の線領域の長手方向一端部が最上位置に配されることを特徴とする血液分離器。
【請求項3】
請求項1記載の血液分離器において、前記排気口は、前記第1の線領域の長手方向他端部に連結され、前記導入口は、前記第2の線領域の長手方向他端部に連結されていることを特徴とする血液分離器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の血液分離器において、前記管路及び前記導入口は親水性を有し、前記各排気口は疎水性を有し、前記導入口に導入された血液は、毛細管力によって、前記管路に充填されることを特徴とする血液分離器。
【請求項5】
請求項4記載の血液分離器において、前記管路は、一の仮想平面に沿って設けられ、該仮想平面は、前記導入口に血液が導入される際、水平配置されることを特徴とする血液分離器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1に記載の血液分離器において、前記第1、第2の線領域は、断面積及び長さが同じ線分状であり、前記管路内に充填された血液を血漿と血球に分離する際、水平面に対して同じ角度で傾斜することを特徴とする血液分離器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を血漿と血球に分離する血液分離器に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、血液診断のためには数mL以上の採血を要する。採血量を抑制できれば、採血対象者の身体的負担を抑制することができる。また、血液診断の対象が血漿中のタンパク質である場合、診断の前処理として、採血した血液を血漿と血球に分離する血液分離操作がなされる。これらの事情に鑑み、小型のチップに血液を収容して血液を分離する技術が注目され、その具体例が特許文献1、2に記載されている。
特許文献1、2には、小型のチップを遠心機に装着し、遠心力を利用して血液を分離する方法が記載されている。その方法を利用する場合、遠心機を持てないような小規模な医療機関は、外部の臨床検査機関に血液診断を委託することとなり、診断結果を得るのに数日間待つ必要がある。
【0003】
そのため、遠心機を用いることなく血液分離操作を行うことが求められ、特許文献3には、フィルタ膜を利用して血液を分離する方法が記載されている。特許文献3に記載の方法では、血球への物理的負荷による溶血やフィルタ膜の目詰まり等が問題となる。遠心機及びフィルタ膜を用いない方法として、誘電泳動の利用が考えられるが、その場合、血液の希釈が必要であり、更に、電圧印加による血漿成分への影響も懸念される。
【0004】
より簡便な血液の分離方法として、重力による血球沈降を利用した方法がある。鉛直に配した流路中での血球沈降は長い時間を要するが、流路を傾斜させることで、ボイコット効果により、血球の沈降と血漿の上昇が干渉しなくなり、血球の沈降を速めることが可能となる。そして、特許文献4、5には、ボイコット効果を利用して血液を分離する器具の具体例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−83958号公報
【特許文献2】特開2006−52950号公報
【特許文献3】特開2003−270239号公報
【特許文献4】特開2008−82896号公報
【特許文献5】特開2008−82897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4、5に記載の器具では、血液を分離して得た血漿が空気に直接接触することから、血漿の蒸発が生じ易い。特に、採血量を少なくして採取する血漿が微量になればなるほど血漿が蒸発する影響は大きくなり、血漿の変性や濃度変化等の問題につながることになる。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、重力による血球沈降を利用して血液を血漿と血球に分離し、分離した血漿が直接空気に触れない血液分離器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る血液分離器は、血球沈降によって血液を血漿と血球に分離する血液分離器において、血液の導入口と、前記導入口から導入された血液が充填される管路と、前記管路内に在った気体を該管路への血液の充填に伴って排出する排気口とを備え、前記管路は、第1の線領域及び長手方向一端部が該第1の線領域の長手方向一端部に連結された第2の線領域を有し、前記管路内に充填された血液を血漿と血球に分離する際、連結された前記第1の線領域の長手方向一端部及び前記第2の線領域の長手方向一端部が最上位置に配され、該最上位置に配された、該第1、第2の線領域の各長手方向一端部に、分離された血漿が溜まる。
【0008】
本発明に係る血液分離器において、前記管路は、長手方向一端部が前記第1、第2の線領域の各長手方向一端部に接続され、長手方向他端部が前記導入口に連結された第3の線領域を、更に有し、前記排気口は2つあって、それぞれ前記第1、第2の線領域の各長手方向他端部に連結され、前記第3の線領域は、前記管路内に充填された血液を血漿と血球に分離する際、該第3の線領域の長手方向一端部が最上位置に配されるのが好ましい。
【0009】
本発明に係る血液分離器において、前記排気口は、前記第1の線領域の長手方向他端部に連結され、前記導入口は、前記第2の線領域の長手方向他端部に連結されているのが好ましい。
【0010】
本発明に係る血液分離器において、前記管路及び前記導入口は親水性を有し、前記各排気口は疎水性を有し、前記導入口に導入された血液は、毛細管力によって、前記管路に充填されるのが好ましい。
【0011】
本発明に係る血液分離器において、前記管路は、一の仮想平面に沿って設けられ、該仮想平面は、前記導入口に血液が導入される際、水平配置されるのが好ましい。
【0012】
本発明に係る血液分離器において、前記第1、第2の線領域は、断面積及び長さが同じ線分状であり、前記管路内に充填された血液を血漿と血球に分離する際、水平面に対して同じ角度で傾斜するのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る血液分離器は、第1、第2の線領域は、管路内に充填された血液を血漿と血球に分離する際、各一端部が最上位置に配され、最上位置に配された各一端部に、分離された血漿が溜まるので、重力による血球沈降を利用して血液を血漿と血球に分離し、分離した血漿が直接空気に触れないようにすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)、(B)はそれぞれ、本発明の第1の実施の形態に係る血液分離器の正面図及び平面図である。
図2】(A)、(B)はそれぞれ、管路に血液が充填された様子を示す説明図である。
図3】(A)、(B)はそれぞれ、本発明の第2の実施の形態に係る血液分離器の正面図及び平面図である。
図4】(A)、(B)、(C)はそれぞれ、本発明の第3、第4、第5の実施の形態に係る血液分離器の正面図である。
図5】(A)、(B)はそれぞれ、1型血液分離器及び2型血液分離器の背面図である。
図6】2型血液分離器において血液が血漿と血球に分離した様子を撮像した顕微鏡写真である。
図7】1型血液分離器における血球沈降距離の時間経過に伴う変化を示すグラフである。
図8】2型血液分離器における血球沈降距離の時間経過に伴う変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)、(B)、図2(A)、(B)に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る血液分離器10は、血液Bの導入口11と、導入口11から導入された血液Bが充填される管路12と、管路12内に在った気体を管路12への血液Bの充填に伴って排出する排気口13とを備え、血球沈降によって血液Bを血漿Pと血球Cに分離する。以下、詳細に説明する。
【0016】
血液分離器10は、図1(A)、(B)に示すように、中央で屈曲し、屈曲部が上方に突出した逆V字状の溝14が背面側に形成された板材15と、板材15の背面側に正面側が密着した状態で固定された板材16を備えている。
板材15には、溝14の両端部(下端部)にそれぞれ連続する貫通孔17、18が形成されている。板材16は、板材15の背面側に密着することによって、溝14を覆って逆V字状の管路12を設け、貫通孔17、18の一側(板材15の背面側)を塞いでそれぞれ導入口11及び排気口13を形成している。そのため、板材15、16に平行で、管路12全体を横切る平面を仮想平面Fとして、管路12は一の仮想平面Fに沿って設けられていることとなる。
【0017】
板材15(即ち、血液分離器10)を正面視して、図1(A)に示すように、管路12は、左下がりの線分状(直線状)の第1の線領域19と、一端部(上端部)が第1の線領域19の一端部(上端部)に連結された右下がりの線分状(直線状)の第2の線領域20を有している。第2の線領域20の他端部(下端部)は導入口11に連結され(連続し)、第1の線領域19の他端部(下端部)は排気口13に連結され(連続し)ている。第1、第2の線領域19、20は、断面積及び長さが同じである。なお、「線領域」とは、線状(線分状や円弧状等)の領域を意味する。
【0018】
板材15、16は、透明な素材からなり、本実施の形態では、板材15、16が、高光透過性及び疎水性を有するPDMS(Polydimethylsiloxane)によって形成されている。板材15、16の管路12及び導入口11の形成領域は、親水性の処理(本実施の形態では、ホスホリルコリン処理)がなされている。そのため、管路12及び導入口11は親水性を有し、排気口13は疎水性を有している。
【0019】
管路12及び導入口11が親水性を有するのは、導入口11に導入された血液Bを、毛細管力によって、管路12に充填するためである。
板材15、16は、板材15が板材16の上側に位置するように水平配置された状態で(即ち、仮想平面Fが水平配置された状態で)、板材15の上方から導入口11に血液Bが導入され、導入口11に導入された血液Bは、毛細管現象によって、管路12内を排気口13に向かって進む。血液Bが管路12内を排気口13に向かって進んでいる間、管路12内の空気(気体の一例)は、排気口13から外に押し出される。
【0020】
そして、導入口11に導入された血液Bが第1の線領域19の他端部(排気口13の手前)に達することによって、図2(A)に示すように、管路12全体に血液Bを充填した状態となる。従って、ポンプ等の駆動源を用いることなく、血液Bを管路12全体に充填することが可能である。
また、排気口13は疎水性を有するので、管路12内に充填された血液Bが排気口13に浸入するのを抑制することができる。
【0021】
管路12内全体に血液Bが充填した状態になった後、図2(B)に示すように、板材15、16は立設される。板材15、16が立設状態になることで、第1の線領域19は、一端部が最上位置に配され、他端部が最下位置に配され、第2の線領域20は、一端部が最上位置に配され、他端部が最下位置に配される。板材15、16を立設状態にした際、第1、第2の線領域19、20は、水平面に対して同じ角度で傾斜する。水平面に対する第1、第2の線領域19、20の角度をそれぞれθ1、θ2とすると、θ1、θ2は、30°〜60°の範囲であり、本実施の形態では、θ1=θ2=45°である。
【0022】
板材15、16の立設状態を維持することで、管路12内の血液Bは、ボイコット効果による血球沈降によって、血漿Pと血球Cに分離され、第1、第2の線領域19、20の最上位置に配された第1、第2の線領域19、20の連結箇所(即ち、第1、第2の線領域19、20の各一端部)に、分離された血漿Pが溜まる。よって、第1、第2の線領域19、20は、管路12内の血液Bを血漿Pと血球Cに分離する際、各一端部が最上位置に配されることとなる。
【0023】
板材15、16が立設状態の間、毛細管力によって血液Bは管路12内に保持されるため、血液Bが導入口11から流れ出ることはない。なお、導入口11の体積が大きくなると、管路12に血液Bを充填するのに要する血液B量が増加するため、導入口11は、血液Bを安定的に導入できる大きさであれば、それ以上大きくする必要はない。
排気口13は疎水性を有することから、板材15、16が立設状態の間、管路12内の血液Bが排気口13に浸入するのは抑制されている。そのため、排気口13への血液Bの浸入が抑制されている本実施の形態は、排気口に血液Bが浸入する場合に比べ、板材15、16を立設状態にしてから管路12内の血液Bの流れが止まるまでの時間が短い。血液Bの流れが止まることで、血球Cの沈降が乱れることなく安定して進行する。
【0024】
なお、ボイコット効果による血球沈降の初速度は、血液が流れる流路の幅が狭いほど速くなり、同流路が長いほど速くなると言われている。本実施の形態では、第1、第2の線領域19、20は、幅が20μm〜2mm、断面積が400μm〜4mm、長さが100μm〜50mmである。
そして、板材15、16が立設状態の際、第1、第2の線領域19、20は、図2(B)に示すように、断面積、長さ及び水平面に対する角度が同じである。そのため、断面積、長さ及び水平面に対する角度の一部又は全部が異なる場合に比べ、板材15、16を立設状態にした際、第1の線領域19における血漿P及び血球Cの流れと、第2の線領域20における血漿P及び血球Cの流れは対称性を有し、第1、第2の線領域19、20の連結箇所に分離した血漿Pを安定的に留めることが可能である。
【0025】
分離された血漿Pが第1、第2の線領域19、20の連結箇所に溜まった部分の高さ方向の長さ(以下、「血球沈降距離」とも言う)をhとして、hは時間の経過と共に長くなり、時間(例えば、2〜10分)の経過により管路12内の血球C及び血漿Pの流動が実質的に無くなった際にhは不変となる。本実施の形態では、hが不変状態となった際、100μm以上になることを確認している。ここで、第1、第2の線領域19、20の連結箇所、つまり、第1、第2の線領域19、20の各一端部は、外部に晒されない管路12の中間部に位置するため、第1、第2の線領域19、20の連結箇所に溜まった血漿Pは蒸発が防止された状態である。
【0026】
hが不変状態になった後、あるいは、hが所定値以上になった後、第1、第2の線領域19、20の連結箇所に対して光が当てられ、第1、第2の線領域19、20の連結箇所に溜まった血漿Pを対象に吸光光度法による計測が行われる。血漿を対象にした吸光光度法によって、例えば、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ−GT(γ−GTP)、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、ビリルビン、アルブミン、グルコース、HbA1c、尿酸の値を求めることができる。
なお、分離された血漿Pを対象とした計測は、吸光光度法によるものに限らず、例えば、第1、第2の線領域19、20の連結箇所に予め電極を設けておき、第1、第2の線領域19、20の連結箇所に溜まった血漿Pを対象とした電気化学的計測を行うようにしてもよい。
【0027】
本実施の形態では、板材15、16(即ち仮想平面F)を鉛直に配置して、板材15、16を立設状態にするが、第1、第2の線領域19、20において、第1、第2の線領域19、20の各上端部が最上に位置するのであれば、板材15、16を鉛直に対して傾斜した状態を立設状態としてもよい。なお、板材15、16を立設状態で維持するため、固定用の治具を用いることができる。
【0028】
上述したように、血液分離器10は、第2の線領域20の他端部が導入口11に連結されているが、これに限定されない。以下、図3(A)、(B)を参照して、第2の線領域20に導入口が連結されていない血液分離器30について説明する。なお、血液分離器10と同様の構成については、血液分離器10と同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0029】
本発明の第2の実施の形態に係る血液分離器30は、図3(A)、(B)に示すように、背面側に3つの線分状の溝片31、32、33及び貫通孔18、35、34が形成された板材36を有し、板材36の背面側に板材16が密着して固定されている。
溝片31、32、33は、各一端部が一箇所で連結され、板材16は、溝片31、32、33の開口側を覆って管路37を形成する。管路37は、溝片31、32、33が板材16に覆われてそれぞれ形成された線分状の第1、第2、第3の線領域19、20、38を有している。第1、第2、第3の線領域19、20、38は、図3(A)に示すように、各一端部が連結され、第3の線領域38は、板材36を正面視して、上下方向に配されている。
【0030】
板材16は、図3(A)、(B)に示すように、貫通孔18、34、35の一側を塞いでそれぞれ排気口13、導入口39、排気口40を形成している。排気口13、40は第1、第2の線領域19、20の各他端部にそれぞれ連結され(連続し)、導入口39は第3の線領域38の他端部に連結され(連続し)ている。
板材36は高光透過性及び疎水性を有する素材(本実施の形態ではPDMS)によって形成され、板材16、36の管路37及び導入口39の形成領域は親水性処理がなされている。
【0031】
板材16、36は、板材36が板材16の上側に位置するように水平配置された状態で、導入口39に血液Bが導入され、導入口39に導入された血液Bは、毛細管力によって、管路37内を第3の線領域38から第1、第2の線領域19、20を経由してそれぞれ排気口13、40に向かう。血液Bが管路37内を排気口13、40に向かって進んでいる間、管路37内の空気は、排気口13、40から排出される。導入口39に導入された血液Bが第1、第2の線領域19、20の他端部に達することによって、管路37全体に血液Bが充填した状態となる。排気口13、40は疎水性を有するため、管路37内に充填した血液Bは、排気口13、40内に浸入するのが抑制されている。
【0032】
管路37内全体に血液Bが充填した状態になった後、板材16、36は立設され、第1の線領域19は一端部が最上位置に配され、第2の線領域20は一端部が最上位置に配され、第3の線領域38は一端部が最上位置に配される。そして、板材16、36の立設状態を維持することで、管路37内に充填された血液Bは、ボイコット効果による血球沈降によって、血漿Pと血球Cに分離され、第1、第2、第3の線領域19、20、38の最上位置に配された第1、第2、第3の線領域19、20、38の連結箇所(即ち、第1、第2、第3の線領域19、20、38の各一端部)に、分離された血漿Pが溜まる。
【0033】
血液分離器10が、第1、第2の線領域19、20の各他端部に疎水性のある排気口13及び親水性のある導入口11がそれぞれ連結されているのに対し、血液分離器30は、第1、第2の線領域19、20の各他端部に疎水性のある排気口13及び疎水性のある排気口40がそれぞれ連結されているため、血液分離器30は、血液分離器10に比べて、第1、第2の線領域19、20それぞれの血液Bの流れの対称性が高い。従って、血液分離器30は、血液分離器10に比べ、板材16、36を立設状態にしてから管路37内の血液Bの流れが止まるまでの時間が短く、しかも、血液Bの流れが止まった状態を安定的に維持することができる。
【0034】
板材16、36を立設状態にすることによって、分離された血漿Pが第1、第2、第3の線領域19、20、38の連結箇所に溜まった部分の高さ、即ち血球沈降距離が不変状態になった後(あるいは、血球沈降距離が所定値以上になった後)、第1、第2、第3の線領域19、20、38の連結箇所に溜まった血漿Pに対して、吸光光度法による計測がなされる。
【0035】
また、上述したように、血液分離器10は、第1、第2の線領域19、20が排気口13及び導入口11にそれぞれ連結され、血液分離器30は、第1、第2の線領域19、20が排気口13、40にそれぞれ連結されているが、第1、第2の線領域が導入口又は排気口に連結されている必要は必ずしもない。
以下、図4(A)、(B)、(C)を参照して、第1、第2の線領域が導入口や排気口に連結されていない本発明の第3、第4、第5の実施の形態に係る血液分離器50、60、70について説明する。なお、血液分離器50、60、70において、血液分離器10、30と同様の構成については、血液分離器10、30と同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0036】
血液分離器50が備える管路51は、図4(A)に示すように、第1、第2の線領域19、20と、第1、第2の線領域19、20の他端部に一端部がそれぞれ連結された線分状の線領域52、53を有している。線領域52と第1の線領域19のなす角度及び線領域53と第2の線領域20のなす角度は45°である。線領域52、53の他端部にはそれぞれ排気口54及び導入口55が連結され、導入口55から導入された血液Bは、線領域53を通って、第2の線領域20、第1の線領域19、線領域52へ順に進み、管路51内全体に血液Bが充填される。
【0037】
血液分離器60が備える管路61は、図4(B)に示すように、第1、第2の線領域19、20と、第1、第2の線領域19、20の他端部に一端部がそれぞれ連結された線分状の線領域62、63を有している。線領域62と第1の線領域19のなす角度及び線領域63と第2の線領域20のなす角度は90°である。線領域62、63の他端部にはそれぞれ排気口64及び導入口65が連結され、導入口65から導入された血液Bは、線領域63を通って、第2の線領域20、第1の線領域19、線領域62へ順に進み、管路61内全体に血液Bが充填される。
【0038】
血液分離器70が備える管路71は、図4(C)に示すように、第1、第2の線領域19、20と、第1、第2の線領域19、20の他端部に一端部がそれぞれ連結された逆V字状の線領域72、73を有している。線領域72、73の他端部にはそれぞれ排気口74及び導入口75が連結され、導入口75から導入された血液Bは、線領域73を通って、第2の線領域20、第1の線領域19、線領域72へ順に進み、管路71内全体に血液Bが充填される。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
実験では、第3の線領域を有さない図5(A)に示す血液分離器(以下、「1型血液分離器」と言う)及び第3の線領域91を有する図5(B)に示す血液分離器(以下、「2型血液分離器」)について、人の血液を対象に血球沈降距離を測定した。
【0040】
1型血液分離器は、図5(A)に示すように、溝及び2つの貫通孔が形成されたPDMS製の板材81にガラス板82を重ねて、第1、第2の線領域83、84を有する管路85、導入口86及び排気口87を設けたものであり、管路85及び導入口86は親水性の処理がなされている。1型血液分離器は3つあって、各1型血液分離器は、第1、第2の線領域83、84の長さが異なり、それぞれ第1、第2の線領域83、84の連結箇所を除いた第1、第2の線領域83、84の長さLが10mm、15mm、20mmであり、幅Wは全て200μmである。
【0041】
2型血液分離器は、図5(B)に示すように、溝及び3つの貫通孔が形成されたPDMS製の板材92にガラス板93を重ねて、第1、第2、第3の線領域94、95、91を有する管路96、導入口97及び排気口98、99を設けたものであり、管路96及び導入口97は親水性の処理がなされている。2型血液分離器は3つあって、各2型血液分離器は、第1、第2の線領域94、95の長さが異なり、それぞれ第1、第2の線領域94、95の連結箇所を除いた第1、第2の線領域94、95の長さLが10mm、15mm、20mmであり、幅Wは全て200μmである。
【0042】
実験の結果、3つの1型血液分離器及び3つの2型血液分離器の全てにおいて、1型血液分離器又は2型血液分離器を立設状態にすることで、血球沈降により血液が血漿と血球に分離され、第1、第2の線領域83、84の連結箇所又は第1、第2、第3の線領域94、95、91の連結箇所に、分離された血漿が溜まることを確認した。2型血液分離器のL=10mmにおいて、血球沈降が生じた様子を撮像した画像を図6に示す。図6中の”Sedimentation length,h”は、血球沈降距離hを示す。なお、1型血液分離器の第1、第2の線領域83、84及び2型血液分離器の第1、第2の線領域94、95は、1型血液分離器又は2型血液分離器が立設状態で、水平方向に対しそれぞれ45°の角度をなすように設計されている。
【0043】
図7に、3つの1型血液分離器の時間経過による血球沈降距離の変化を測定した結果を示し、図8に、3つの2型血液分離器の時間経過による血球沈降距離の変化を測定した結果を示す。図7図8に示す結果より、立設状態にしてから2分半経過することによって、3つの1型血液分離器及び3つの2型血液分離器の全てで、血球沈降距離が約100μmに達することが分かる。
【0044】
なお、1型血液分離器のL=15mm、20mmでは、図7に示すように、2分経過後に時間経過に伴い血球沈降距離の減少が見られた。これは、導入口から排気口に向かう血液の流れが続いて、分離された血漿が第1、第2の線領域83、84の連結箇所から移動したためである。これに対し、2型血液分離器では時間経過によって血液の流れが実質的に停止するため、血球沈降距離の減少は見られず、血球沈降距離は時間経過に伴って増加した。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、毛細管力によって管路に血液を充填させる必要はなく、ポンプ等の外部の駆動源を用いて、管路に血液を充填させるようにしてもよい。外部の駆動源により管路に血液を充填させる場合、管路は親水性を有さなくてもよい。
【0046】
また、排気口が疎水性を有することによって、排気口への血液の浸入を抑制する代わりに、管路と排気口の間に疎水性を有する管を設けて、排気口への血液の浸入を抑制するようにしてもよい。
そして、第1、第2の線領域は線分状である必要はなく、例えば、円弧状であってもよい。
更に、管路は一の仮想平面に沿って設けられている必要はない。管路が一の仮想平面に沿って設けられていない場合とは、例えば、第1、第2の線領域が円弧状で、第1の線領域全体を横切る仮想平面と第2の線領域全体を横切る仮想平面が異なる場合である。
【符号の説明】
【0047】
10:血液分離器、11:導入口、12:管路、13:排気口、14:溝、15、16:板材、17、18:貫通孔、19:第1の線領域、20:第2の線領域、30:血液分離器、31、32、33:溝片、34、35:貫通孔、36:板材、37:管路、38:第3の線領域、39:導入口、40:排気口、50:血液分離器、51:管路、52、53:線領域、54:排気口、55:導入口、60:血液分離器、61:管路、62、63:線領域、64:排気口、65:導入口、70:血液分離器、71:管路、72、73:線領域、74:排気口、75:導入口、81:板材、82:ガラス板、83:第1の線領域、84:第2の線領域、85:管路、86:導入口、87:排気口、91:第3の線領域、92:板材、93:ガラス板、94:第1の線領域、95:第2の線領域、96:管路、97:導入口、98、99:排気口、B:血液、C:血球、F:仮想平面、P:血漿
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8