(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エキスパンドシートに貼着された状態で該エキスパンドシートを介して環状フレームにより支持されている被加工物を構成する複数のチップの間隔を拡張した状態で維持するチップ間隔維持方法であって、
環状テーブルの保持面上に該エキスパンドシートを固定するとともに、該環状テーブルの内周側に配設された吸引保持テーブルの吸着面で該エキスパンドシートを吸引保持しない状態で支持し、該保持面と該吸着面とを上下方向に相対的に移動させて該エキスパンドシートを拡張して該チップ間に間隔を形成するチップ間隔形成ステップと、
該チップ間隔形成ステップを実施した後、該エキスパンドシートの該チップに対応する領域を該吸引保持テーブルの該吸着面で吸引保持し該チップ間の間隔を維持した状態で、環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートを加熱して被加工物の外周側で引き延ばされた該エキスパンドシートを収縮させるエキスパンドシート収縮ステップと、を備え、
少なくとも該エキスパンドシート収縮ステップを実施する前に、環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートに複数の矩形状の熱収縮テープを貼着する熱収縮テープ貼着ステップを更に備え、
該エキスパンドシート収縮ステップでは環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートを該熱収縮テープとともに加熱することで該熱収縮テープが貼着された領域の該エキスパンドシートを収縮させる、チップ間隔維持方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エキスパンドシートを拡張して被加工物を適切にチップに分割し、チップ間に所定の間隔を設けた後、分割された被加工物は、エキスパンドシートが貼着されたまま、エキスパンドシートからチップをピックアップするピックアップ工程に搬送される。ピックアップ工程においては、例えば、チップを下からニードルで突き上げて、エキスパンドシートから浮き上がったチップを真空チャックでピックアップする。エキスパンドシートは、拡張されてテンションが解除されると、環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間の領域が延びて弛んだ状態になるため、ピックアップ工程に搬送する際の環状フレームを介した被加工物のハンドリング時に、エキスパンドシートの弛みに起因してチップ同士が接触して、チップが損傷するおそれがある。
【0006】
そこで、上記特許文献1に記載されているように、被加工物をチップに分割した後、エキスパンドシートのうち、環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間の弛み領域のみを加熱して収縮させるとともに、チップが貼着された部分は収縮させずにチップ同士が接触することがないようにする方法がある。
【0007】
しかし、被加工物が貼着されているエキスパンドシートが、加熱によっては収縮しない又は収縮しにくいタイプのものである場合には、エキスパンドシートの弛み領域を加熱しても的確に収縮させることができず、結果として、被加工物の環状フレームを介したハンドリング時において、チップ同士が接触して、チップが損傷する場合があった。
【0008】
したがって、加熱によって収縮しない又は収縮しにくいエキスパンドシートが被加工物に貼着されている場合においても、チップ同士の間隔が拡張された状態を維持しつつ、エキスパンドシートの弛みに起因するチップ同士の接触及び損傷が発生しないようにするという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、エキスパンドシートに貼着された状態で該エキスパンドシートを介して環状フレームにより支持されている被加工物を構成する複数のチップの間隔を拡張した状態で維持するチップ間隔維持方法であって、
環状テーブルの保持面上に該エキスパンドシートを固定するとともに、該環状テーブルの内周側に配設された吸引保持テーブルの吸着面で該エキスパンドシートを吸引保持しない状態で支持し、該保持面と該吸着面とを上下方向に相対的に移動させて該エキスパンドシートを拡張して該チップ間に間隔を形成するチップ間隔形成ステップと、該チップ間隔形成ステップを実施した後、
該エキスパンドシートの該チップに対応する領域を該吸引保持テーブルの該吸着面で吸引保持し該チップ間の間隔を維持した状態で
、環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートを加熱して被加工物の外周側で引き延ばされた該エキスパンドシートを収縮させるエキスパンドシート収縮ステップと、を備え、少なくとも該エキスパンドシート収縮ステップを実施する前に、環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートに複数の
矩形状の熱収縮テープを貼着する熱収縮テープ貼着ステップを更に備え、該エキスパンドシート収縮ステップでは環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートを該熱収縮テープとともに加熱することで該熱収縮テープが貼着された領域の該エキスパンドシートを収縮させる、チップ間隔維持方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るチップ間隔維持方法は、
環状テーブルの保持面上にエキスパンドシートを固定するとともに、環状テーブルの内周側に配設された吸引保持テーブルの吸着面でエキスパンドシートを吸引保持しない状態で支持し、保持面と吸着面とを上下方向に相対的に移動させてエキスパンドシートを拡張してチップ間に間隔を形成するチップ間隔形成ステップと、チップ間隔形成ステップを実施した後、エキスパンドシートのチップに対応する領域を吸引保持テーブルの吸着面で吸引保持しチップ間の間隔を確実に維持した状態で、環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートを加熱して被加工物の外周側で引き延ばされたエキスパンドシートを収縮させるエキスパンドシート収縮ステップと、を備え、少なくともエキスパンドシート収縮ステップを実施する前に、環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートに複数の
矩形状の熱収縮テープを貼着する熱収縮テープ貼着ステップを備え、エキスパンドシート収縮ステップでは環状フレームの内周縁と被加工物の外周縁との間のエキスパンドシートを熱収縮テープとともに加熱することで、熱収縮テープを加熱によって収縮させて、熱収縮テープが貼着された領域のエキスパンドシートを収縮させるため、加熱によって収縮しないエキスパンドシートでも収縮させることができ、かつ、チップ同士の間隔を拡張した状態で
確実に維持することができる。そのため、エキスパンドシートの弛みに起因してチップ同士が接触することでチップの損傷が発生してしまうことを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す被加工物Wは、例えば、外形が円形状の半導体ウエーハであり、被加工物Wの表面Wa上には、分割予定ラインSによって区画された格子状の領域に多数のデバイスDが形成されている。被加工物Wは、分割予定ラインSに沿ってデバイスDを備える各チップに分割されるにあたって、例えば、
図2に示すレーザー加工装置1によって分割起点となる改質層が被加工物Wの内部に形成される。そのために、
図1に示す保護テープT1が表面Waに貼着された状態になる。
【0013】
保護テープT1は、例えば、被加工物Wの外径と同程度の外径を有する円盤状のフィルムであり、粘着力のある粘着面T1aを備えている。例えば、粘着面T1aには、紫外線を照射すると硬化して粘着力が低下するアクリル系ベース樹脂等からなるUV硬化糊が用いられている。被加工物Wの表面Waに保護テープT1の貼着面T1aが貼着されることで、被加工物Wの表面Waは保護テープT1によって保護された状態になる。
【0014】
レーザー加工装置1は、例えば、被加工物Wを吸引保持するチャックテーブル10と、チャックテーブル10に保持された被加工物Wに対してレーザー光を照射するレーザー光照射手段11と、を少なくとも備えている。チャックテーブル10は、例えば、その外形が円形状であり、ポーラス部材等からなる保持面10a上で被加工物Wを吸引保持する。チャックテーブル10は、鉛直方向の軸心回りに回転可能であるとともに、加工送り手段12によって、X軸方向に往復移動可能となっている。
【0015】
レーザー光照射手段11は、例えば、被加工物Wに対して透過性を有する所定の波長のレーザー光を発振できる図示しないレーザー光発振器を備えており、レーザー光発振器から発振されたレーザー光を集光器111の内部の集光レンズ112に入光させることで、レーザー光を被加工物Wの内部に集光することができる。例えば、被加工物Wがシリコンウエーハであり、レーザー光照射手段11により被加工物Wの内部に良好な改質層を形成したい場合には、赤外領域の波長のレーザー光をレーザー光発振器から発振させる。
【0016】
レーザー光照射手段11の近傍には、被加工物Wの分割予定ラインSを検出するアライメント手段14が配設されている。アライメント手段14は、赤外線を照射する図示しない赤外線照射手段と、赤外線を捕らえる光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された赤外線カメラ140とを備えており、赤外線カメラ140により取得した画像に基づき、パターンマッチング等の画像処理によって被加工物Wの表面Waの分割予定ラインSを検出することができる。レーザー光照射手段11はアライメント手段14と一体となって構成されており、両者は連動してY軸方向及びZ軸方向へと移動する。
【0017】
以下に、レーザー加工装置1を用いて分割予定ラインSに沿って被加工物Wに分割起点となる改質層を形成する場合について説明する。まず、
図2に示すレーザー加工装置1のチャックテーブル10の保持面10aと被加工物Wの保護テープT1により保護されている表面Wa側とが対向するように位置合わせを行い、被加工物Wを裏面Wb側を上側にしてチャックテーブル10上に載置する。そして、チャックテーブル10に接続された図示しない吸引源が作動し被加工物Wをチャックテーブル10上に吸引保持する。
【0018】
次いで、加工送り手段12により、チャックテーブル10に保持された被加工物Wが−X方向(往方向)に送られるとともに、アライメント手段14により分割予定ラインSが検出される。ここで、
図1に示す分割予定ラインSが形成されている被加工物Wの表面Waは下側に位置し、アライメント手段14と直接対向してはいないが、赤外線カメラ140により被加工物Wの裏面Wb側から透過させて分割予定ラインSを撮像することができる。赤外線カメラ140によって撮像された分割予定ラインSの画像により、アライメント手段14がパターンマッチング等の画像処理を実行し、分割予定ラインSの位置が検出される。
【0019】
分割予定ラインSが検出されるのに伴って、レーザー光照射手段11がY軸方向に駆動され、レーザー光を照射する分割予定ラインSと集光器111とのY軸方向における位置合わせがなされる。この位置合わせは、例えば、集光器111に備える集光レンズ112の直下に分割予定ラインSの中心線が位置するように行われる。
【0020】
次いで、集光器111で所定波長のレーザー光の集光点を分割予定ラインSに対応する被加工物Wの内部の所定の高さ位置付ける。そして、レーザー光発振器から発振され集光レンズ112で集光されたレーザー光を分割予定ラインSに沿って照射しつつ、被加工物Wを−X方向に所定の加工送り速度で加工送りし、
図2に示すように被加工物Wの内部に改質層Mを形成していく。改質層Mの形成位置は、例えば、被加工物Wの裏面Wbと表面Waからデバイスチップの仕上がり厚さ分だけ上方の位置との間の位置となる。
【0021】
例えば、一本の分割予定ラインSにレーザー光を照射し終えるX軸方向の所定の位置まで被加工物Wが−X方向に進行すると、レーザー光の照射を停止するとともに被加工物Wの−X方向(往方向)での加工送りを一度停止させ、レーザー光照射手段11を+Y方向へ移動して、レーザー光が照射された分割予定ラインSの隣に位置しレーザー光がまだ照射されていない分割予定ラインSと集光器111とのY軸方向における位置付けを行う。次いで、加工送り手段11が、被加工物Wを+X方向(復方向)へ加工送りし、往方向でのレーザー光の照射と同様に分割予定ラインSにレーザー光が照射されていく。順次同様のレーザー光の照射を行うことにより、X軸方向に延びる全ての分割予定ラインSに沿ってレーザー光が被加工物Wの裏面Wb側から照射され、被加工物W内部に分割起点となる改質層Mが形成されていく。さらに、チャックテーブル10を90度回転させてから同様のレーザー光の照射を行うと、縦横全ての分割予定ラインSに沿って改質層Mが形成される。
【0022】
改質層Mが形成された被加工物Wは、例えば、
図3に示す研削装置2により被加工物Wの裏面Wbが研削され仕上がり厚みに薄化されるとともに、研削圧力により改質層Mを分割起点として表面Wa側に亀裂を伸長させることで、個々のデバイスチップに分割される。
【0023】
研削装置2は、例えば、被加工物Wを吸引保持する保持テーブル20と、保持テーブル20に保持された被加工物Wを研削加工する研削手段21とを少なくとも備えている。保持テーブル20は、例えば、その外形が円形状であり、ポーラス部材等からなる保持面20a上で被加工物Wを吸引保持する。保持テーブル20は、鉛直方向の軸心周りに回転可能であるとともに、Y軸方向送り手段23によって、Y軸方向に往復移動可能となっている。
【0024】
研削手段21は、研削手段21を保持テーブル20に対して離間又は接近するZ軸方向に研削送りする研削送り手段22によって上下動可能となっている。研削送り手段22は、例えば、モータ等によって動作するボールネジ機構である。研削手段21は、軸方向が鉛直方向(Z軸方向)である回転軸210と、回転軸210を回転駆動するモータ212と、回転軸210の下端に接続された円環状のマウント213と、マウント213の下面に着脱可能に接続された研削ホイール214とを備える。
【0025】
研削ホイール214は、ホイール基台214aと、ホイール基台214aの底面に環状に配設された略直方体形状の複数の研削砥石214bとを備える。研削砥石214bは、例えば、レジンボンドやメタルボンド等でダイヤモンド砥粒等が固着されて成形されている。なお、研削砥石214bの形状は、環状に一体に形成されているものでもよい。
【0026】
例えば、回転軸210の内部には、研削水供給源に連通し研削水の通り道となる図示しない流路が、回転軸210の軸方向(Z軸方向)に貫通して形成されており、流路はマウント213を通り、ホイール基台214aの底面において研削砥石214bに向かって研削水を噴出できるように開口している。
【0027】
以下に、研削装置2よって被加工物Wを研削して分割する場合について説明する。まず、保持テーブル20の中心と被加工物Wの中心とが略合致するようにして、被加工物Wが、裏面Wb側を上に向けた状態で保持面20a上に載置される。そして、図示しない吸引源により生み出される吸引力が保持面20aに伝達されることにより、保持テーブル20が被加工物Wを吸引保持する。
【0028】
次いで、被加工物Wを保持した保持テーブル20が、研削手段21の下まで+Y方向へ移動して、研削手段21に備える研削ホイール214と被加工物Wとの位置合わせがなされる。位置合わせは、例えば、
図3に示すように、研削ホイール214の回転中心が保持テーブル20の回転中心に対して所定の距離だけ+Y方向にずれ、研削砥石214bの回転軌道が保持テーブル20の回転中心を通るように行われる。
【0029】
研削手段21に備える研削ホイール214と被加工物Wとの位置合わせが行われた後、回転軸210が+Z方向側から見て反時計回り方向に回転駆動されるのに伴って研削ホイール214が回転する。また、研削手段21が研削送り手段22により−Z方向へと送られ、回転する研削ホイール214の研削砥石214bが被加工物Wの裏面Wbに当接することで研削加工が行われる。研削中は、保持テーブル20が回転するのに伴って、保持面20a上に保持された被加工物Wも回転するので、研削砥石214bが被加工物Wの裏面Wbの全面の研削加工を行う。また、研削加工中においては、研削水を回転軸210中の流路を通して研削砥石214bと被加工物Wとの接触部位に対して供給して、研削砥石214bと被加工物Wの裏面Wbとの接触部位を冷却・洗浄する。
【0030】
研削を続行して被加工物Wを仕上げ厚みへと薄化すると、改質層Mに沿って研削圧力が作用することで亀裂が被加工物Wの表面Waに向かって伸長し、被加工物Wは、
図3に示すように、矩形状の個々のデバイスチップCに分割される。
【0031】
チップCに分割された被加工物Wは、
図4に示すように、エキスパンドシートT2に貼着され、エキスパンドシートT2を介して環状フレームFによって支持された状態が維持されて環状フレームFを介したハンドリングが可能になるとともに、保護テープT1が剥離される。
【0032】
エキスパンドシートT2は、例えば、被加工物Wの外径よりも大きい外径を有する円盤状のシートであり、例えば、加熱収縮性が小さく、また、機械的外力に対し適度な伸縮性を備えるPET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂延伸フィルムやPEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂フィルム等からなる基材層を備えており、基材層上に、紫外線を照射すると硬化して粘着力が低下するUV硬化糊が積層され形成された粘着面T2aを備えている。なお、エキスパンドシートT2の基材層の材質や厚み等は、被加工物Wの種類、被加工物Wの厚み等によって適宜変更可能である。
【0033】
図4においては上側を向いた状態のエキスパンドシートT2の粘着面T2aの外周部分に、円形の開口を備えた環状フレームFの裏面Fbが貼着される。さらに、被加工物Wが裏面Wb側を下側に向けて、環状フレームFの開口内において露出しているエキスパンドシートT2の粘着面T2aの上方に位置付けられる。この際には、被加工物Wの中心が環状フレームFの開口の中心に略合致するように位置合わせされる。そして、被加工物Wの裏面WbがエキスパンドシートT2の粘着面T2aに押し付けられて、被加工物の裏面WbにエキスパンドシートT2が貼着される。こうして被加工物WがエキスパンドシートT2を介して環状フレームFに支持された状態となり、さらに、被加工物Wの表面Waから保護テープT1が剥離される。
【0034】
次いで、エキスパンドシートT2を介して環状フレームFにより支持されている各チップC間に所定の間隔が形成されるように、エキスパンドシートT2を拡張する。これは、チップCに分割されエキスパンドシートT2を介して環状フレームFにより支持された状態の被加工物Wは、全体として被加工物Wの形状が維持されチップC間に間隔がないため、その後の被加工物Wの搬送時や、エキスパンドシートT2からのチップCのピックアップ時に、隣接するチップC同士が擦れ合い、チップ欠けが生じてチップCの品質が低下してしまうことを防ぐためである。
【0035】
しかし、拡張されたエキスパンドシートT2の環状フレームFの内周縁Feと被加工物Wの外周縁Wdとの間の領域T2cが延びて弛んだ状態となることで、環状フレームFを介した被加工物Wのハンドリング時に、エキスパンドシートT2の弛みに起因してチップC同士が接触してチップCが損傷してしまうことを防止する必要がある。そこで、本発明に係るチップ間隔維持方法を以下に実施していく。
【0036】
(1)熱収縮テープ貼着ステップ
例えば、本実施形態においては、エキスパンドシートT2の環状フレームFの内周縁Feと被加工物Wの外周縁Wdとの間の領域T2cに複数の熱収縮テープT3を貼着する熱収縮テープ貼着ステップをまず実施する。熱収縮テープT3は、例えば、少なくともエキスパンドシートT2よりも大きな加熱収縮性及び機械的外力に対する適度な伸縮性を備える樹脂(例えば、ポリプロピレン又はポリ塩化ビニル等)から構成されており、その外形が矩形状に形成されている。熱収縮テープT3は、本実施形態においては糊層からなる粘着面を備えているが、粘着面を備えていないものでもよい。なお、矩形状の熱収縮テープT3は、例えば、外形がリング状に形成された熱収縮テープよりもコストを抑えることができ、かつ貼着もより容易に行うことができる。すなわち、例えば、矩形状の熱収縮テープT3は、長尺状の熱収縮テープを直線状に切断するのみで切り出すことができるが、リング状の熱収縮テープは、円形状に切断していく必要があるため、切断作業に煩雑さを伴い、また、廃棄しなければならない部分が多く生じてしまうためである。
【0037】
図5に示すように、エキスパンドシートT2の環状フレームFの内周縁Feと被加工物Wの外周縁Wdとの間の領域T2cに対して、被加工物Wの周方向に一定の間隔をおいて矩形状の熱収縮テープT3を複数枚(例えば、図示の例においては計18枚)環状に貼着していく。熱収縮テープT3が縦又は横のいずれかの方向により伸縮しやすい特性を備えている場合には、熱収縮テープT3の伸縮しやすい方向と被加工物Wの径方向とを合致させると好ましい。
【0038】
また、エキスパンドシートT2の領域T2cに対して、被加工物Wの周方向に一定の間隔をおいて矩形状の熱収縮テープT3を環状に複数枚(例えば、計18枚)貼着した後、さらに径方向外側にもう一周環状に熱収縮テープT3を複数枚(例えば、計12枚)貼着してもよい。
【0039】
(2)チップ間隔形成ステップ
例えば、熱収縮テープ貼着ステップを実施した後、エキスパンドシートT2を介して環状フレームFによって支持された状態の被加工物Wを、
図6に示すチップ間隔拡張装置5に搬送する。チップ間隔拡張装置5は、エキスパンドシートT2を拡張することで、各チップCの間隔を拡張することができる装置である。チップ間隔拡張装置5は、例えば、エキスパンドシートT2の外径よりも大きな外径を備える環状テーブル50を具備しており、環状テーブル50の開口50cの直径はエキスパンドシートT2の外径よりも小さく形成されている。環状テーブル50の外周部には、例えば4つ(図示の例においては、2つのみ図示している)の固定クランプ52が均等に配設されている。固定クランプ52は、図示しないバネ等によって回転軸52cを軸に回動可能となっており、環状テーブル50の保持面50aと固定クランプ52の下面との間に環状フレームF及びエキスパンドシートT2を挟み込むことができる。
【0040】
環状テーブル50の開口50c内には、円筒状の拡張ドラム53が高さ位置を固定して配設されており、環状テーブル50の中心と拡張ドラム53の中心とは略合致している。この拡張ドラム53の外径は、エキスパンドシートT2の外径より小さく、かつ、被加工物Wの外径よりも大きく形成されている。
拡張ドラム53の内周側には、被加工物Wを吸引保持する吸引保持テーブル6が配設されている。吸引保持テーブル6は、多孔質部材によって形成され上面に吸着面600を有する吸着部60と、吸着部60を支持する枠体61と、吸着部60に吸引力を伝達する吸引源62とを備えている。吸着面600と枠体61の上面610とは面一に形成されており、吸引源62により生み出される吸引力が吸着面600に伝達されることにより、吸着面600上においてエキスパンドシートT2を介して被加工物Wを吸引保持することができる。
【0041】
環状テーブル50は、例えば、環状テーブル昇降手段55によってZ軸方向に上下動可能となっている。環状テーブル昇降手段55は、例えばエアシリンダであり、内部に図示しないピストンを備え基端側(−Z方向側)に底のある有底円筒状のシリンダチューブ550と、シリンダチューブ550に挿入され一端がピストンに取り付けられたピストンロッド551とを備える。ピストンロッド551のもう一端は、環状テーブル50の下面に固定されている。シリンダチューブ550にエアが供給(または、排出)されシリンダチューブ550の内部の圧力が変化することで、ピストンロッド551がZ軸方向に移動し、環状テーブル50がZ軸方向に移動する。
【0042】
チップC間に所定の間隔を形成するには、例えば、基準高さ位置に位置付けられた環状テーブル50の保持面50aに、エキスパンドシートT2を介して環状フレームFが載置される。次いで、固定クランプ52を回動させ、環状フレームF及びエキスパンドシートT2が固定クランプ52と環状テーブル50の保持面50aとの間に挟持固定された状態にする。この状態においては、環状テーブル50の保持面50aと拡張ドラム53の環状の上端面とは同一の高さ位置にあり、拡張ドラム53の上端面が、エキスパンドシートT2の環状フレームFの内周縁Feと被加工物Wの外周縁Wdとの間の領域T2cに、エキスパンドシートT2の基材面側(
図6における下面側)から当接する。また、エキスパンドシートT2の基材面側のうち領域T2cよりも内周側は、吸着面600及び上面610によって支持されるが、吸着面600における吸引保持は行わない。
【0043】
図7に示すように、環状テーブル昇降手段55が、固定クランプ52との間に環状フレームF及びエキスパンドシートT2を挟み込んだ状態の環状テーブル50を−Z方向に下降させることで、環状テーブル50の保持面50aを拡張ドラム53の上端面より下方のエキスパンドシート拡張位置に位置付ける。その結果、拡張ドラム53は固定クランプ52に対して相対的に上昇し、エキスパンドシートT2は、拡張ドラム53の上端面で押し上げられて径方向外側に向かって放射状に拡張される。また、熱収縮テープT3も、エキスパンドシートT2の粘着力及び水平方向に掛かる張力によって拡張される。そして、エキスパンドシートT2が拡張されるのに伴って、各チップC間に所定の間隔Vが形成される。なお、間隔Vの大きさは、環状テーブル50の降下位置によって適宜変更可能な大きさである。
【0044】
なお、熱収縮テープ貼着ステップは、例えば、チップ間隔形成ステップを行った後に実施してもよい。
【0045】
(3)エキスパンドシート収縮ステップ
チップ間に所定の間隔Vが形成された後、吸引源62と吸着部60とを連通させて吸着面600に吸引作用を施し、エキスパンドシートT2のうち領域T2cの内周側を吸引保持する。そして、
図8に示すように、例えば、環状テーブル50の保持面50aと拡張ドラム53の環状の上端面とが同一の高さ位置になるように、環状テーブル昇降手段55が環状テーブル50を+Z方向に上昇させると、エキスパンドシートT2を水平方向に引っ張る力が無くなりエキスパンドシートT2のテンションが解除される。これに伴って、エキスパンドシートT2の環状フレームFの内周縁Feと被加工物Wの外周縁Wdとの間の領域T2cが延びて弛んだ状態になる。そのため、
図8に示す加熱手段7によって、エキスパンドシートT2の領域T2cを熱収縮テープT3とともに加熱する。
【0046】
加熱手段7は、例えば、赤外線を放射可能な赤外線ヒータであり、熱収縮テープT3及びエキスパンドシートT2の領域T2cを上方から非接触で加熱する。なお、加熱手段7は、接触式でもよく、また、熱風をノズルから噴射可能な熱風ヒータであってもよい。熱収縮テープT3の熱収縮率は大きく、また、熱収縮テープT3はチップ間隔形成ステップにおいて拡張されているため、加熱手段7によって加熱されることによって、例えば拡張前の大きさまで径方向内側に向かって収縮する。エキスパンドシートT2は、加熱手段7による加熱による熱的収縮はほとんどしないが、熱収縮テープT3の収縮力が、熱収縮テープT3が貼着されているエキスパンドシートT2の領域T2cに機械的外力として伝播するため、弛んでいるエキスパンドシートT2の領域T2cが径方向内側に向かって引かれて、拡張前の状態まで収縮する。また、加熱手段7による加熱は、熱収縮テープT3及びエキスパンドシートT2の領域T2cに対してのみ行われるため、隣接する各チップCの間隔Vを拡張後の大きさで維持できる。さらに、領域T2cの内周側は吸着面600において吸引保持されているため、チップCが動かず、隣接するチップCの間隔Vを確実に維持することができる。
【0047】
エキスパンドシート収縮ステップが完了した後、エキスパンドシートT2を介して環状フレームFに支持された状態の複数のチップCは、図示しないピックアップ装置に搬送されるが、チップC同士の間隔Vが拡張された状態は維持され、かつ、エキスパンドシートT2は弛みなく張った状態で環状フレームFに貼着された状態に戻っているため、環状フレームFを介した被加工物Wのハンドリング時にチップC同士が接触して損傷してしまうことを防ぐことができる。
【0048】
なお、本発明に係るチップ間隔維持方法は上記実施形態に限定されるものではなく、また、添付図面に図示されているレーザー加工装置1、研削装置2及びチップ間隔拡張装置5の構成等についても、これに限定されず、本発明の効果を発揮できる範囲内で適宜変更可能である。
【0049】
例えば、本実施形態においては、レーザー加工装置1によって改質層Mを被加工物Wに形成した後、研削装置2によって被加工物Wの研削及び分割を行っているが、被加工物Wの分割を研削装置2による研削によって行うのではなく、チップ間隔拡張装置5によってエキスパンドテープT2を拡張して被加工物Wの分割を行い、同時にチップ間に所定の間隔を形成するものとしてもよい。
【0050】
また、被加工物Wの分割をレーザー加工装置1を用いずに行ってもよい。すなわち、まず、回転可能な切削ブレードを備える切削装置によって、被加工物Wに表面Wa側から分割予定ラインSに沿って切削加工を施して、被加工物Wに所定の深さの加工溝を形成した後、被加工物Wを裏面Wb側から加工溝の底部が露出する高さ位置まで研削することで、チップに分割するものとしてもよい。その後、チップ間隔拡張装置5によってエキスパンドテープT2を拡張して、チップ間に所定の間隔を形成するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
W:被加工物 Wa:被加工物の表面 Wb:被加工物の裏面 S:分割予定ライン
D:デバイス M:改質層 C:チップ
T1:保護テープ T1a:保護テープの粘着面
T2:エキスパンドシート T2a:エキスパンドシートの粘着面
T2b:エキスパンドシートの基材面 T3:熱収縮テープ
1:レーザー加工装置 10:チャックテーブル 10a:チャックテーブルの保持面
11:レーザー光照射手段 111:集光器 112:集光レンズ
12:加工送り手段 14:アライメント手段 140:赤外線カメラ
2:研削装置 20:保持テーブル 20a:保持テーブルの保持面
23:Y軸方向送り手段
21:研削手段 210:回転軸 212:モータ 213:マウント
214:研削ホイール 214a:ホイール基台 214b:研削砥石
5:チップ間隔拡張装置 50:環状テーブル 50a:環状テーブルの保持面 50c:環状テーブルの開口 52:固定クランプ 53:拡張ドラム
55:環状テーブル昇降手段 550:シリンダチューブ 551:ピストンロッド
6:吸引保持テーブル 60:吸着部 600:吸着面 61:枠体 610:上面
62:吸引源
7:加熱装置