特許第6741545号(P6741545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6741545固体高分子形燃料電池用の触媒及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6741545
(24)【登録日】2020年7月29日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】固体高分子形燃料電池用の触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20200806BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20200806BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20200806BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20200806BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20200806BHJP
【FI】
   H01M4/90 M
   H01M4/92
   H01M4/86 M
   H01M4/88 K
   H01M8/10
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-199601(P2016-199601)
(22)【出願日】2016年10月10日
(65)【公開番号】特開2018-63750(P2018-63750A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】橋本 渡
(72)【発明者】
【氏名】生井 竜紀
(72)【発明者】
【氏名】石田 稔
(72)【発明者】
【氏名】中島 仁
(72)【発明者】
【氏名】岡谷 一輝
(72)【発明者】
【氏名】海江田 武
(72)【発明者】
【氏名】松谷 耕一
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−011647(JP,A)
【文献】 特開2006−222092(JP,A)
【文献】 特表2012−524981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
B01J 21/00 − 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金とコバルトとジルコニウムとが合金化した触媒金属が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒であって、
前記炭素粉末担体上の白金、コバルト、ジルコニウムの担持量の比率が、モル比でPt:Co:Zr=3:0.5〜1.5:0.1〜3.0であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項2】
炭素粉末担体上の白金、コバルト、ジルコニウムの担持量の比率が、モル比でPt:Co:Zr=3:0.5〜1.5:0.2〜1.8である請求項1記載の固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項3】
触媒粒子についてのX線回折分析による回折パターンにおいて、2θ=40.0°以上42.0°以下の領域で現れるPtCoのピーク位置が、2θ=41.10°以上42.00°以下である請求項1又は請求項2記載の固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項4】
触媒粒子についてのX線回折分析による回折パターンにおいて、2θ=28.0°以上28.4°以下の領域で現れるZrOのピーク強度(I)と、2θ=40.0°以上42.0°以下の領域で現れるPtCoのピーク強度(I)との比(I/I)が1.3以下である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項5】
触媒金属は、その表面のコバルト濃度及びジルコニア濃度が、その中心部のコバルト濃度及びジルコニウム濃度よりも低い請求項1〜請求項4のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用触媒。
【請求項6】
触媒金属の担持密度は、30質量%以上70質量%以下である請求項1〜請求項5のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用の触媒。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法であって、
炭素粉末担体上に白金粒子が担持されてなる白金触媒に、コバルト及びジルコニウムを担持する工程、
前記担持工程によりコバルト及びジルコニウムが担持された白金触媒を900℃以上1200℃以下で熱処理する工程、
前記熱処理工程後の触媒を、少なくとも1回酸化性溶液に接触させ、担持されたコバルト及びジルコニウムの一部を溶出させる工程、
を含む固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項8】
酸化性溶液は、硫酸、硝酸、亜リン酸、過ジルコニウム酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸である請求項7記載の固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項9】
酸化性溶液との接触処理は、処理温度を40℃以上90℃以下とし、接触時間を1時間以上10時間以下とする請求項7又は請求項8記載の固体高分子形燃料電池用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の触媒に関する。特に、固体高分子形燃料電池のカソード(空気極)での使用に有用な触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
かつて次世代の発電システムと称された燃料電池は、その期待に応えるべく実用化が現実的なものとなっており、その普及が待たれるところである。燃料電池には、いくつかの形式があるが、その中でも特に固体高分子形燃料電池は動作温度が比較的低く、かつ小型軽量化が可能であるという利点がある。そして、これらのメリットから、固体高分子形燃料電池は、自動車用電源や家庭用電源として有望視されており、既に実用段階まで発展している。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜を水素極及び空気極で挟持する積層構造を有する。そして、水素極へは水素を含む燃料が、空気極へは酸素又は空気がそれぞれ供給され、それぞれの電極で生じる酸化、還元反応により電力を取り出すようにしている。固体高分子形燃料電池の水素極及び空気極は、電気化学的反応を促進させるための触媒と固体電解質との混合体が一般に適用されている。この電極触媒としては、触媒金属として貴金属、特に、触媒活性が高い白金を担持させた白金触媒が従来から広く用いられている。
【0004】
近年においては、触媒の白金使用量を低減して触媒コストの低減を図るため、白金と白金以外の金属を担持しそれらの合金を触媒金属とする検討例が増えている。この白金合金を触媒金属とする触媒として特に有用であるとされるのが、白金とコバルトとの合金を触媒金属とするPt−Co触媒である。このPt−Co触媒は、白金使用量を低減しつつも、白金触媒以上の活性を発揮し得るからである。そして、Pt−Co触媒の特性を更に改良するため、コバルトに次ぐ第3の合金元素を合金化した3元系合金触媒も報告されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−150867号公報
【特許文献2】特開2009−21208号公報
【特許文献3】特許第5152942号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体高分子形燃料電池の実用化の促進のためには、その電極触媒について初期活性が高いことが望まれる。また、初期活性に加えて耐久性、即ち、触媒活性の持続性の向上も要求される。触媒は、時間経過と共に活性低下(失活)すること自体は回避し難いが、活性維持可能な時間を増大させることは、固体高分子形燃料電池の運用上特に重要な特性である。上記の従来の3元系合金触媒においても、これらの特性についての検討が一応は行われている。
【0007】
しかしながら、特許文献1、2記載の触媒に関しては、耐久性の評価に関して不十分であり、高負荷領域における触媒活性に関する知見が不足している。固体高分子形燃料電池の電極触媒は、強い酸性雰囲気並びに水蒸気雰囲気の下、高電位負荷を受けるという過酷な環境下にて使用される。特許文献1、2記載の触媒は、比較的マイルドな領域における触媒活性が評価されており、現実に固体高分子形燃料電池に適用されたときの有用性が明らかではない。一方、特許文献3記載の触媒は、本願出願人によるものであり、広範な電位領域での触媒活性と耐久性を評価し、その中で好適な構成の触媒を提供するものである。しかし、この触媒も今後レベルアップする初期活性や耐久性に対する要求に応えるためには、更なる改良が必要である。
【0008】
そこで本発明は、白金、コバルトに加えて、第3の金属を添加し合金化した触媒金属が担持された固体高分子形燃料電池用の触媒について、初期活性及び耐久性がより改善されたもの、及び、その製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
固体高分子形燃料電池の空気極用において、触媒活性を左右する問題として、反応ガスである酸素の吸着エネルギーの強さが挙げられる。空気極における酸素分子の4電子還元反応を効果的に進行させるためには、酸素ガスの吸着・脱離が適切に生じていることが必要であるので、吸着エネルギーを適切にすることが好ましいと考えられる。本発明者等は、触媒金属の酸素ガスに対する吸着エネルギーを好適に調節するため、Pt−Co触媒に各種の金属を添加した3元系触媒を試作しその活性を検討するスクリーニング試験を行った。そして、この予備的な試験から、白金、コバルト共に、ジルコニウム(Zr)を担持し合金化した触媒において、初期活性と耐久性を向上させることができるとして本発明に想到した。
【0010】
即ち、本発明は、触媒金属として白金、コバルト、ジルコニウムが炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒であって、前記炭素粉末担体上の白金、コバルト、ジルコニウムの担持量の比率が、モル比でPt:Co:Zr=3:0.5〜1.5:0.1〜3.0であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用触媒である。
【0011】
以下、本発明についてより詳細に説明する。上記の通り、本発明に係る触媒は、触媒金属が白金、コバルト、ジルコニウムで構成され、白金に対する添加元素であるコバルト、ジルコニウムの構成比を一定の範囲内に制限することを特徴とする。
【0012】
担体上に担持された触媒金属について、白金、コバルト、ジルコニウムの構成比を、Pt:Co:Zr=3:0.5〜1.5:0.1〜3.0とするのは、本発明の触媒に対し、従来技術であるPt−Co触媒以上の初期活性を発揮させるためである。本発明者等の検討によれば、Pt−Co触媒に第3の触媒金属としてジルコニウムを添加し、合金化することで、触媒金属粒子の主成分となる白金の酸素分子の吸着エネルギーが最適化され、酸素分子の4電子還元機能を向上させることができる。これにより、触媒の初期活性は従来技術以上となり、耐久性も向上する。そのため、ジルコニウムはある程度の添加が要求される一方、過剰添加すると却って活性を低下させる。上記の白金、コバルト、ジルコニウムの構成比は、この作用を考慮して画定されたものである。そして、耐久性向上の観点から白金、コバルト、ジルコニウムの構成比のより好ましい範囲は、Pt:Co:Zr=3:0.5〜1.5:0.2〜1.8である。
【0013】
そして、本発明において、好適な触媒活性及び耐久性を発揮するためには、特性向上に寄与する金属相を含みつつ、触媒活性に寄与しない金属相が抑制されることが好ましい。この観点に立つとき、本発明に係る触媒においては、白金、コバルト、ジルコニウムの各金属が適切に合金化した合金相(Pt−Co−Zr合金相)が発達したものが好ましい。
【0014】
本発明者等によれば、このPt−Co−Zr合金相が適切に発達した触媒ついては、X線回折分析により得られるプロファイルにおいて、PtCo合金に帰属する回折ピークのピーク位置がZrの合金化によってシフトする。具体的には、PtCoのピーク位置は、2θ=40.0°以上42.0°以下でありの領域で現れる。ここで、Zrの合金化のないPt−Co触媒のPtCoのピーク位置は、2θ=約40.8°近傍に発現するのが一般的である。そして、本発明のPt−Co触媒にZrを合金化することで、PtCoのピークは高角度側にシフトする。このシフト量は、合金化の程度、つまり、ZrがPtCo相に侵入しPt−Co−Zr合金相となる程度によって大きくなる。本発明者等の検討では、好適な触媒金属を形成した状態として、PtCoのピークが0.3°以上シフトし、2θ=41.10°以上42.00°以下の範囲内にピークがある状態が好ましい。そして、2θ=41.10°以上41.50°以下の範囲内にピーク位置がある状態がより好ましい。
【0015】
一方、本発明において生成するおそれのある、触媒活性に効果のない相としては、ZrOの単一相が挙げられる。ZrOは酸化物であり低電子伝導率であるため、多量に存在した場合、燃料電池電極反応における電子移動を阻害するからである。本発明においては、触媒粒子についてのX線回折分析による回折パターンにおいて、2θ=28.0°以上28.4°以下の領域で現れるZrOのピーク強度(I)と、上記した、2θ=40.0°以上42.0°以下の領域で現れるPtCoのピーク強度(I)との比(I/I)が1.3以下であるものが好ましい。ZrOのピーク強度比が1.3以下となる触媒では、ZrOの単一相の生成も少なく、燃料電池電極反応に対する影響も無視できる程度となるからである。
【0016】
以上のようにPtCo相(Pt−Co−Zr合金相)、ZrO相の状態や生成量を規定するためにX線回折分析の結果を用いるのは、X線回折分析は比較的簡易な分析方法でありながら、触媒金属の状態を正確に測ることができ、適切な基準ピークの設定により定量性も有するからである。尚、本発明における上記各合金相、酸化物相のピーク位置等は、CuKα線を用いたXRD測定の結果に基づくものである。
【0017】
以上説明した、白金、コバルト及びジルコニウムの構成比の設定、並びに、触媒金属となる合金相の規定により初期活性に優れたPt−Co−Zr3元系触媒を得ることができる。
【0018】
そして、本発明においては、触媒金属の表面のコバルト濃度及びジルコニウム濃度が、中心部のコバルト濃度及びジルコニウム濃度よりも低いことが好ましい。このようにすることで、耐久性を更に向上させることができる。
【0019】
本発明者等によれば、Pt合金を触媒金属とした触媒で劣化が生じる要因としては、添加金属(コバルト、ジルコニウム)が触媒金属から電気化学的に溶解することが挙げられる。このような電気化学的溶解が生じると、触媒金属内部でコバルト、ジルコニウムが粒子表面へと拡散しつつ溶解し、触媒金属中のコバルト、ジルコニウムの構成比の変動が生じる。このような触媒金属の構成変動によって、耐久性の低下が懸念される。
【0020】
そこで、予め、触媒金属について、その表面の白金濃度が高い状態、いわばコア/シェル構造の状態とすることで、触媒金属表面を電気化学的に強化し、活性低下を抑制することができる。この触媒金属表面についてのコバルト濃度及びジルコニウム濃度の低減(触媒金属表面についての白金濃度の富化)は、必ずしも表面を純白金にすることを要求するものではなく、触媒金属の表面と中心部との間に、コバルト濃度及びジルコニウム濃度の濃度差が生じていれば良い。
【0021】
また、触媒金属は、平均粒径2〜20nmの粒子が好ましい。2nm未満の粒子は長時間の活性持続特性が明確に得られなくなるからであり、20nmを超える粒子となると触媒の初期活性が十分に得られなくなるからである。また、担体である炭素粉末は、比表面積が50〜1200m/gの炭素粉末を適用するのが好ましい。50m/g以上とすることで、触媒が付着する面積を増加させることができるので触媒金属を高い状態で分散させ有効表面積を高くすることができる一方、1200m/gを超えると、電極を形成する際にイオン交換樹脂の浸入しにくい超微細孔(約20Å未満)の存在割合が高くなり触媒金属の利用効率が低くなるからである。
【0022】
尚、本発明に係る触媒は、固体高分子形燃料電池の電極としての性能を考慮し、触媒金属の担持密度を30〜70質量%とするのが好ましい。ここでの触媒金属の担持密度とは、担体に担持させる触媒金属質量(担持させた白金、コバルト、ジルコニウムの合計質量)の触媒全体の質量に対する比をいう。
【0023】
次に、本発明に係る固体高分子形燃料電池の触媒の製造方法について説明する。本発明に係る触媒の製造にあたっては、基本的工程は一般的な合金触媒の製造方法に準じ、担体に触媒金属となる金属を担持し、適宜に乾燥した後に熱処理を行い担持した金属の合金化を行う。
【0024】
この触媒金属中の合金相の調整について、本発明では、触媒金属の担持工程において、まず、白金のみが担持された触媒を用意し、これにコバルト及びジルコニウムを担持することを必須とする。触媒金属の担持には、構成金属を担体に同時に担持することが一般的でありまた効率的でもある。しかし、白金、コバルト、ジルコニウムは、それぞれ、前駆体(金属塩中の金属イオン)から金属粒子を形成させるための最適条件が異なる。そのため、同時に担持する場合には、得られる触媒中の白金:コバルト:ジルコニウムの比率の制御が困難という問題がある。そこで、まず、白金触媒を用意し、この白金触媒を前駆体としてコバルト及びジルコニウムを担持することで、白金:コバルト:ジルコニウムの比率が正確に制御された触媒を得ることができる。
【0025】
白金触媒の準備については、従来の白金触媒の製造方法によるものを用意すれば良い。市販の白金触媒を利用しても良い。通常、白金触媒は炭素粉末担体に白金塩溶液を接触(含浸、滴下)させた後、還元処理して白金粒子を形成して製造される。尚、本発明に係る触媒の前駆体となる白金触媒については、担体上に白金が微細分散した状態にあることが好ましい。その様な、好適な分散状態の白金触媒を得るため、担体に白金塩溶液を接触させる際に、白金塩溶液と炭素粉末担体とを粉砕しつつ混合することが好ましい。
【0026】
白金触媒へのコバルト及びジルコニウムの担持も、それ自体は一般的な触媒金属の担持方法によることができる。白金触媒にコバルト及びジルコニウムの金属塩溶液を接触させ、還元処理して白金粒子の近傍に金属状態のコバルト及びジルコニウムを析出させる。コバルトの金属塩溶液としては塩化コバルト6水和物、硝酸コバルト、酢酸コバルト4水和物等が使用でき、ジルコニウムの金属塩溶液としては硫酸ジルコニウム水和物、オキシ硝酸ジルコニウム(水和物)、塩化ジルコニル、酢酸ジルコニウム等が使用できる。このときの白金触媒とコバルト、ジルコニウム金属溶液の接触の順序は、特に限定されることはなく、いずれかの金属塩溶液を先に接触させても良いし、コバルト、ジルコニウムの金属塩溶液の混合液と白金触媒とを接触させても良い。
【0027】
コバルト及びジルコニウムの担持量は、白金触媒の白金の担持量を考慮しつつ、コバルト及びジルコニウムの金属塩溶液の濃度によって調整できる。尚、比率の調整は、後述する酸処理を行うことを考慮し、コバルト及びジルコニウムの担持量を、設定した構成比よりも高めになるように設定することが好ましい。具体的には、設定した構成比に対して、コバルトでは1.5〜3倍程度、ジルコニウムでは1.5〜3倍程度となるように担持量を上乗せすると良い。
【0028】
白金触媒へのコバルト及びジルコニウムの担持後は、必要に応じて乾燥処理を行った後、熱処理して各金属を合金化する。ここで合金化のための熱処理温度は900℃以上1200℃以下とする。900℃未満の熱処理では合金化、特に、Pt、Co、Zrの合金相の形成が不十分であり活性に乏しい触媒となる。また、熱処理温度は高いほど3元合金の形成が進行しやすくなるが、1200℃を超える熱処理は、触媒金属の粗大化が懸念されること、及び、設備的にも困難となることからこれを上限とした。この熱処理は非酸化性雰囲気で行うのが好ましく、特に還元雰囲気(水素ガス雰囲気等)で行うのが好ましい。
【0029】
そして、本発明では、上記熱処理工程を経た触媒について、少なくとも1回酸化性溶液に接触させる。これにより、触媒金属表面のコバルト及びジルコニウムを溶出させ、表面のみコバルト及びジルコニウムの濃度を下げて耐久性が更に向上した触媒とすることができる。この酸化性溶液としては、硫酸、硝酸、亜リン酸、過ジルコニウム酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸等の溶液が好ましい。これらの酸化性溶液の濃度は、0.1〜1mol/Lとするのが好ましく、溶液に触媒を浸漬するのが好ましい。
【0030】
酸化性溶液処理の条件としては、接触時間は、1〜10時間が好ましく、処理温度は、40〜90℃が好ましい。尚、酸化性溶液処理は、触媒を酸化性溶液に1回接触させる場合のみならず、複数回繰り返し行っても良い。また、複数回の酸処理を行う場合には、処理ごとに溶液の種類を変更しても良い。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明に係る高分子固体電解質型燃料電池用の触媒は、Pt−Co触媒にZrを添加する3元系触媒とし、コバルト及びジルコニウムの構成比率を限定することで初期活性及び耐久性に優れたものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】第2実施形態で製造したPt−Co−Zr合金触媒のX線回折パターンを示す図。
図2】第3実施形態で製造したPt−Co−Zr合金触媒のX線回折パターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
第1実施形態:ここでは、Pt触媒に対し、Coを第2の金属とし、更に、Zr等を第3の金属(M)として担持・合金化した3元系触媒(Pt−Co−M触媒)を製造した。そして、触媒の活性評価を行い、好適な添加金属の確認を行った。触媒製造の基本工程は下記の通りである。
【0034】
[白金触媒の担持]
まず、前駆体となる白金触媒を製造した。ジニトロジアンミン白金硝酸溶液と純水と粉砕容器内に投入し、ここに担体となる炭素微粉末(比表面積900m/g)を粉砕しながら添加した。その後、還元剤として変性アルコール(95%メタノール+5%エタノール)を加え、混合溶液を約95℃で6時間還流反応させて白金を還元した。その後、濾過、乾燥(125℃ 15時間)して洗浄し、白金触媒を得た。この白金触媒は、白金担持率46.5質量%である。
【0035】
[Co、金属Mの担持]
上記で用意した白金触媒にコバルトと第3金属Mを担持した。塩化コバルトと金属Mの塩化物又は硫酸塩をイオン交換水100mLに溶解させた金属塩溶液を作製し、ここに上記の白金触媒10gを浸漬し、マグネティックスターラーにて攪拌した。そして、この溶液に濃度1質量%の水素化ホウ素ナトリウム(SBH)溶液400mLを滴下し攪拌して還元処理し、白金触媒にコバルト、金属Mを担持した。その後、ろ過・洗浄・乾燥した。本実施形態では、各金属の担持量の比率を、Pt:Co:M=3:2:1とした。
【0036】
[熱処理]
Pt、Co、金属Mの触媒金属を担持した触媒について、合金化のための熱処理を行った。本実施形態では、100%水素ガス中で熱処理温度を900℃として30分の熱処理を行った。
【0037】
[酸性溶液処理]
熱処理語の触媒に対して、酸性溶液処理を行った。酸性溶液処理では、まず、熱処理後の触媒を、0.2mol/Lの硫酸水溶液中80℃にて2時間処理した後、濾過・洗浄・乾燥した。そして、1.0mol/Lの硝酸水溶液中70℃にて2時間処理した後、濾過・洗浄・乾燥した。更に、硝酸水溶液に処理をもう一回行い、洗浄しPt−Co−Mの3元系触媒を製造した。尚、本実施形態では、上記で製造した白金触媒にコバルトのみを添加・合金化したPt−Co触媒も製造している(Pt:Co=3:2で担持)。
【0038】
そして、製造した各種のPt−Co−M3元系触媒について、製造後の初期活性と、加速劣化後の活性(耐久性)を評価するための性能試験を行った。これらの性能試験では、触媒からカソード電極(空気極)を製造して燃料電池(単セル)を作製し、そのMass Activityを測定し、その結果に基づき評価を行った。燃料電池の作製において、プロトン伝導性高分子電解質膜を電極面積5cm×5cm=25cm2のカソードおよびアノード電極で挟み合わせた膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)を作製した。活性測定前の前処理として、水素流量=1000mL/min、酸素流量=1000mL/min、セル温度=80℃、アノード加湿温度=90℃、カソード加湿温度=30℃の条件にて電流/電圧曲線を引いた。その後、本測定として、Mass Activityを測定した。試験方法は0.9Vでの電流値(A)を測定し、電極上に塗布したPt重量からPt1gあたりの電流値(A/g-Pt)を求めてMass Activityを算出した。
【0039】
上記で初期活性を測定した後、触媒について耐久試験を行い、その後の活性耐を評価した。耐久試験は、作製した燃料電池のカソードのセル電位を三角波で掃引する加速劣化試験を行い、劣化後の活性(Mass Activity)を測定した。加速劣化試験は、200−650mVの間を掃引速度40mV/sで20時間掃引して触媒金属表面をクリーニングし、その後、200−650mVの間を掃引速度100mV/sで24時間掃引させて劣化させた。そして、劣化後の触媒について、上記と同様にMass Activityを測定した。
【0040】
初期活性及び耐久試験後の活性の評価は、本実施形態で製造した各種のPt−Co−M3元系触媒、Pt−Co触媒、及び、白金触媒について行った。そして、白金触媒の初期活性(Mass Activity)の値を基準とし、これを100として、各触媒の活性を評価した。この結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から、初期活性だけを見ると、Zrの他にTi、Hfといった第4族元素の金属の添加が効果的であるといえる。但し、Ti、Hfは耐久試験(44時間耐久)を行うことで活性が低下する。耐久性を考慮すると、Zrの添加が好ましいことが分かる。本実施形態では、Cr、Mo等の他の遷移金属や、Ag、Au等の貴金属、La、Ceの希土類元素についても評価を行ったが、殆どが従来の白金触媒やPt−Co触媒に劣るものであった。以上の試験結果から、Pt−Co触媒にZrを添加したPt−Co−Zr触媒は、従来の触媒より好適な初期活性及び耐久性は発揮されることが確認された。
【0043】
第2実施形態:本実施形態では、Pt−Co−Zr触媒について、各触媒金属の構成比を変化させたときの特性評価を行った。第1実施形態と同様の白金触媒を前駆体とし、塩化コバルトと硫酸ジルコニウムを吸着させた。ここでは、各金属のモル比について、Pt:Co:Zr=3:2:0.5(実施例2)、Pt:Co:Zr=3:2:1(実施例3)、Pt:Co:Zr=3:2:3(実施例4)となるようにした。そして、熱処理温度を1050℃に設定して熱処理を行い、第1実施形態と同様に酸性溶液処理を行ってPt−Co−Zr触媒を製造した。
【0044】
尚、本発明においては、各触媒金属を担持して熱処理した後、酸性溶液処理にてCo、Zrの一部を溶解しているので、触媒製造後の金属含有量は、担持段階(仕込み段階)の比率と変化している。そこで、本実施形態で製造したPt−Co−Zr触媒について、各構成金属の含有量とモル比を測定した。この測定は、触媒をICP分析により、各金属の含有量(質量%)を測定し、その結果から構成モル比を算出した。
【0045】
そして、本実施形態で製造したPt−Co−Zr触媒について、初期活性と耐久試験後の活性を評価した。この評価試験の内容は第1実施形態と同様である。この結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
実施例2〜実施例4のPt−Co−Zr触媒は、仕込みの際の触媒金属の担持量に応じて、各金属の比率(Pt:Co:Zr)が相違している。いずれの触媒においても、Pt触媒及びPt−Co触媒に対して、初期活性及び耐久性の双方において優れた特性を発揮することが確認された。
【0048】
次に、第2実施形態で製造した3種のPt−Co−Zr触媒について、XRD分析を行って相構成を検討した。この分析では、X線回折装置JEOL製JDX-8030を用いた。試料は微粉末状にしてガラス製セルに入れ、X線源としてCu(kα線)、管電圧40kV、管電流30mA,2θ=20〜90°までスキャン速度7°/min、ステップ角度0.1°で行った。
【0049】
図1は、各触媒のX線回折パターンを示す。このXRDプロファイルについて、PtCoのピーク位置と、ZrOのピーク強度(I)とPtCoのピーク強度(I)との比(I/I)を算出したところ、以下の結果を得た。
【0050】
【表3】
【0051】
図1及び表3から、Pt−Co触媒へのZrの合金化によって、PtCoのピーク位置が高角度側にシフトすることが分かる。このPtCoのピーク位置のシフト量は、Zrの比率が増加することで増大する傾向がある。今回の本願実施形態においては、実施例2、3、4はいずれも良好な触媒活性及び耐久性を有することが確認されており、このことから、PtCoのピーク位置の好適範囲として2θ=41.10°以上42.00°以下の領域が推定される。
【0052】
また、ZrO相の形成についてみると、Zrの比率の増加によってZrO相のピークが鮮明に発現していることが分かる。そして、実施例4の触媒活性から、ZrO相のピーク強度としては、2θ=40.0°以上42.0°以下の領域で現れるPtCoのピーク強度(I)との比(I/I)が1.3以下とすることが好ましいと考察される。
【0053】
第3実施形態:ここでは、Pt−Co−Zr触媒について、触媒金属担持後の熱処理温度の範囲について検討した。第1実施形態と同様にして、白金触媒にCo及びZrを担持し(仕込み段階の比率:3:2:1)、その後、900℃(第1実施形態(実施例1)、1050℃(実施例3)、1200℃(実施例5)の3種の温度で熱処理した。そして、各々の熱処理後の触媒について、第1実施形態と同様に熱処理及び酸性溶液処理を行い、Pt−Co−Zr触媒を製造した。製造した3種のPt−Co−Zr触媒について、触媒金属の構成比を測定した後、初期活性と耐久試験後の活性を評価した。この評価試験の内容は第1実施形態と同様である。この結果を表4に示す
【0054】
【表4】
【0055】
この試験結果について、900℃以上1200℃以下で熱処理した各触媒は、従来のPt−Co触媒に対し、いずれも良好な初期活性及び耐久性を発揮する。そして、熱処理温度としては、耐久性において1050℃が最適であることが分かった。
【0056】
そして、第3実施形態で製造した3種のPt−Co−Zr触媒について、第2実施形態と同じ条件にてXRD分析を行って相構成を検討した。図2は、各触媒のX線回折パターンを示す。このXRDプロファイルについて、PtCoのピーク位置を算出したところ、以下の結果を得た。
【0057】
【表5】
【0058】
Pt−Co触媒へZrを合金化することでPtCoのピーク位置が高角度側にシフトするが、図2及び表5の結果から、PtCoのピーク位置のシフト量は、熱処理温度の上昇と共に増大する傾向があることがわかる。本実施形態においては、実施例1、3、5はいずれも良好な触媒活性及び耐久性を有することが確認されており、本実施形態の結果からも、PtCoのピーク位置の好適範囲として2θ=41.10°以上42.00°以下の領域がわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、固体高分子形燃料電池の電極触媒として、耐久性の改善と初期発電特性の改善の双方を達成することができる。本発明は、燃料電池の普及に資するものであり、ひいては環境問題解決の基礎となるものである。
図1
図2