特許第6742005号(P6742005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6742005粉末化粧料における「柔らかさ」の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742005
(24)【登録日】2020年7月30日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】粉末化粧料における「柔らかさ」の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20200806BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   G01N11/00 D
   G01N33/15 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-95176(P2016-95176)
(22)【出願日】2016年5月11日
(65)【公開番号】特開2017-203676(P2017-203676A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591275665
【氏名又は名称】三信鉱工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 直晃
(72)【発明者】
【氏名】浅野 浩志
(72)【発明者】
【氏名】高尾 泰正
(72)【発明者】
【氏名】浅井 巌
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−095712(JP,A)
【文献】 特開2014−197503(JP,A)
【文献】 特開2005−271013(JP,A)
【文献】 特開昭61−100639(JP,A)
【文献】 米国特許第04760734(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第102706774(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末化粧料の粉末又は化粧料用粉末原料の粉末において、感触特性の一因子である「柔らかさ」を、下記手順に従った粉体層せん断力測定から得られる応力緩和率を物性指標として評価する方法。尚、下記手順(1)で負荷する垂直応力の規定値を、20<σ<125kPaとする。
(1)円柱状のセル(上部固定セル、下部可動セル)内部に粉末を充填し、上杵を静かにのせた後、垂直応力を一定の速度で徐々に負荷する。
(2)垂直応力の規定値σに達した後、垂直応力の負荷を停止し定容積状態で粉体層の緩和時間を設ける。
(3)十分に応力緩和が起こった時点での垂直応力の値σ’を読み取り、規定値からの垂直応力の減衰率として応力緩和率を得る。
(4)得られた応力緩和率を相対比較して、その値が大きいほど「柔らかさ」が高いと判断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料における感触特性の一因子である「柔らかさ」を客観的に評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケアやメイクアップ化粧料は、ユーザーが容器から手にとって直接肌に塗布し使用することが一般的である。そして、化粧料は毎日使用するものであることから、化粧効果において、その機能性は勿論のこと、使用感(感触)も極めて重要な要素と言える。
【0003】
化粧料、及び原料の感触特性の評価方法には、大きく分けて官能評価と物性評価がある。官能評価は、実使用に近い評価であるというメリットがある一方で、主観的評価であることから、評価者の感性による個人差に加えて肌状態や心理状態にも大きく影響されるものである。このため、官能試験のみに頼らず物理機器を用いた客観的指標による評価方法や表示方法等の技術が強く望まれていた。
【0004】
クリーム等の乳化型化粧料、及び油性原料においては一般的に「のび」、「なめらかさ」、「しっとり感」といった感触特性が評価される。一方で、パウダーファンデーション等の粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料においては、「のび」や「なめらかさ」、「しっとり感」に加えて、粉体特有の感触特性である「柔らかさ」が求められる。
【0005】
従来、化粧料、及び原料の感触特性を評価する手法の一つとして、表面摩擦測定による客観的指標に基づいた評価方法が検討されている。例えば、「のび」、「なめらかさ」、「しっとり感」といった官能評価から得られる感触特性と、表面摩擦測定から得られる平均摩擦係数(MIU)、及び/又は平均摩擦係数の変動係数(MMD)といった摩擦特性との相関性について検討されている(特許文献1、非特許文献1、2参照)。一方、粉末化粧料においては、固形粉末化粧料の「なめらかさ」について回転式レオメーターを用いて客観的に評価した例が報告されている(特許文献2)。しかしながら、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料の「柔らかさ」を評価した例はない。
【0006】
一般に、ゴム弾性を有するシリコーンエラストマーやナイロン、ポリウレタンといった樹脂は、感触特性としての「柔らかさ」が高いことが知られている。これら粉体の「柔らかさ」は、JIS K6253に記載されているデュロメータ硬さと相関すると考えられることから、原料単体としては硬度が低いほど柔らかい粉体であることが予想される。しかしながら、実際の開発現場においては原料単体の弾力性が、官能の柔らかさと必ずしも一致しない。
【0007】
一方、パウダーファンデーション等の粉末化粧料には、マイカ、タルク、セリサイト等の無機板状粉体が含有されている。これら無機板状粉体は、板状粉体特有の延展性の良さと皮膚への付着性を有することから、粉末化粧料には欠かせない成分である。しかしながら、これら無機板状粉体の多くは固い結晶構造に起因して、感触特性としての「柔らかさ」は低い。
【0008】
無機板状粉体において、ゴム弾性を有する樹脂を表面処理することで「柔らかさ」を付与した例が報告されている(特許文献3参照)。
【0009】
また、同様に表面処理を施すことで「柔らかさ」を付与した例が報告されている(特許文献4、5参照)。このように、ゴム弾性を有さない無機板状粉体においても、表面処理剤の種類や配合量によって、「柔らかさ」を付与できることが知られている。
【0010】
香粧品分野において、一般に「柔らかさ」を付与した粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料は、好ましい使用感であることから非常に市場価値が高い。
【0011】
これらの背景に基づき、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料においても、物理機器を用いた「柔らかさ」の客観的指標が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−24282号公報
【特許文献2】特許第4322177号公報
【特許文献3】特許第3963635号公報
【特許文献4】特許第4176054号公報
【特許文献5】特許第4176055号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J.Soc.Cosmet.Chem.Japan.Vol.32,No.1,59−64(1998)摩擦感テスターを用いた油性剤の性能評価
【非特許文献2】28th IFSCC Conference,2014 Objective evaluation system of the cleansing oil
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料における「柔らかさ」を、物理機器を用いて客観的に評価するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる実情において、本願発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の粉体層せん断力測定から得られる応力緩和率と、官能評価から得られる「柔らかさ」との間に高い相関性があることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本願発明は、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料において、感触特性の一因子である「柔らかさ」を、特定の方法による粉体層せん断力測定(初期垂直応力σ、及び応力緩和後の垂直応力σ’から応力の減衰率を得る方法)から得られる応力緩和率を物性指標として関連付けて評価する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本願発明は、ゴム弾性を有する樹脂のみならず、無機板状粉体を始めとしたあらゆる粉末原料、及びそれらを種々配合して調製される粉末化粧料の「柔らかさ」を客観的に評価するため、特定の方法による粉体層せん断力測定から得られる応力緩和率を物性指標として関連付けるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】粉体層せん断力測定装置概略
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本願発明の粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料の使用感の評価方法を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本願発明によれば、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料を肌に塗布した際の使用感のひとつである「柔らかさ」を客観的に評価することが出来る。ここで、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料に対する「柔らかさ」とは、粉体の厚み感、肌当たりの良さといった感覚を言う。
【0020】
本願発明の粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料の「柔らかさ」の評価方法は、評価の対象となる粉末を用いて粉体層せん断力測定を実施し、初期垂直応力σ、及び応力緩和後の垂直応力σ’から得られる応力緩和率(100−(σ’/σ)×100)により、前記粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料の「柔らかさ」を評価する。
【0021】
尚、粉体層せん断力測定試験とは、粉体を垂直方向に圧密することで粉体層を形成した後、一定の推進速度で水平方向にせん断を実施した際の垂直応力とせん断応力を測定し、粉体の摩擦特性や付着特性を評価する測定方法を言う。
【0022】
本願発明の実施形態においては、下記手順に従った粉体層せん断力測定から得られる応力緩和率を物性指標として評価する。
(1)円柱状のセル(上部固定セル、下部可動セル)内部に粉末を充填し、上杵を静かにのせた後、垂直応力を一定の速度で徐々に負荷する。
(2)垂直応力の規定値σに達した後、垂直応力の負荷を停止し定容積状態で粉体層の緩和時間を設ける。
(3)十分に応力緩和が起こった時点での垂直応力の値σ’を読み取り、規定値からの垂直応力の減衰率として応力緩和率を得る。
(4)得られた応力緩和率を相対比較して、その値が大きいほど「柔らかさ」が高いと判断する。
【0023】
化粧料を指先で塗布する動作では、繊細な力が指先に加わっているので、指先の垂直応力も低いものとなっている。このため、測定を正確に行うため、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料の使用感の評価では、負荷する垂直応力は、実際にセル内部の粉末を押し込んだ押し込み荷重ではなく、押し込まれたことにより粉末にかかる正味の荷重である底面荷重をロードセルで制御することが好ましい。図1の底面荷重検出用ロードセルのようなセンサーを用いて荷重を検知すれば、セル壁面摩擦による圧力欠損の影響を無くし、粉体層にかかる実荷重を規定することが出来る。
【0024】
粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料の使用感の評価において、手順(1)で負荷する垂直応力の規定値は、特に限定されないが20〜125kPaの範囲であることが好ましい。垂直応力が20kPa以下では粉体層の形成が十分でない場合があり、また125kPa以上では実際に人が粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料を官能評価する時の指先の圧力に比べて非常に高圧力下での測定となるため、相関性が低くなる場合がある。
【0025】
粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料の使用感の評価において、手順(2)で設ける緩和時間は、特に限定されないが50〜100秒の範囲であることが好ましい。緩和時間が50秒以下では、応力緩和が十分でない場合があり、正確な測定が出来ない場合がある。緩和時間が100秒以下であれば、効率良く十分な応力緩和を得ることが出来る。
【0026】
粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料の使用感の評価において、円柱状セル(円柱状上部固定セル、及び円柱状下部可動セル)の内径は、特に限定されないが3〜43mmの範囲であることが好ましい。円柱状セルの内径が3mm未満では、試料間での応力緩和率の差が出にくい場合があり、43mmより大きい場合は使用するサンプル量が増える上、試料間の応力緩和率の差に関してそれ以上の効果は見込めない。
【0027】
応力緩和率は、図1に示すような粉体層せん断力測定装置を用いて測定出来る。この装置では、前述のように垂直応力を底面荷重で検知しているのが特徴である。本装置以外にも例えば、市販品である粉体層せん断力測定装置NS−S500(ナノシーズ社製)を用いても測定出来る。粉体層せん断力測定を実施するときの室内温度及び相対湿度は、化粧料使用時の環境を考慮すると、室温10〜35℃、及び相対湿度30〜65%が好ましい。
【実施例】
【0028】
以下実施例により本願発明をさらに詳細に説明する。尚、これらは本願発明を何ら限定するものではない。
【0029】
(実施例1)
[物性評価]
表1に示す化粧料用粉末原料A〜Cについて、下記のようにして粉体層せん断力測定を実施して、応力緩和率を得た。A〜Cはいずれもセリサイトであるが以下のように表面処理状態が異なる。Aは、表面処理を施していない未処理品、Bは、一般にすべり性向上の目的で処理されるシリコーン処理品(処理量3重量%)、Cは、シリコーン主鎖にアミノ基を修飾することで、しっとり感や柔らかさを付与したアミノ変性シリコーン処理品(処理量5重量%)である。
測定装置:粉体層せん断力測定装置(ナノシーズ社製 試作機)
測定条件:室内温度25℃、相対湿度50%
円柱状上部固定セル(内径43mm)
円柱状下部可動セル(深さ5mm)
粉体層せん断帯厚み0.2mm
垂直方向進行速度200μm/秒
データ取り込み速度100m秒
手順(1)で負荷した初期垂直応力60kPa
緩和時間100秒
[官能評価]
表1に示す化粧料用粉末原料A〜Cの「柔らかさ」について、専門パネル8名による使用テストを行い、パネル各人が下記絶対評価にて5段階に評価し評点を付け、サンプル毎にパネル全員の評点合計から、その平均値を官能評価値として算出した。
1:非常に低い
2:低い
3:標準
4:高い
5:非常に高い
【0030】
(表1)
【0031】
上記表1において、粉体層せん断力測定から得られた応力緩和率と官能評価で得られた「柔らかさ」との間に高い相関性が認められた。
【0032】
(実施例2)
[物性評価]
表2に示す粉末化粧料モデルD、及びEについて、下記のようにして粉体層せん断力測定を実施して、応力緩和率を得た。D、及びEはいずれも未処理セリサイト、ナイロン粉末、イソノナン酸イソトリデシルの混合により調製したモデルフェイスパウダーであるが、一般に柔らかい使用感であるとされるナイロン粉末の配合量が異なる。
測定装置:粉体層せん断力測定装置(ナノシーズ社製 試作機)
測定条件:室内温度25℃、相対湿度50%
円柱状上部固定セル(内径43mm)
円柱状下部可動セル(深さ5mm)
粉体層せん断帯厚み0.2mm
垂直方向進行速度200μm/秒
データ取り込み速度100m秒
手順(1)で負荷した初期垂直応力60kPa
緩和時間100秒
[官能評価]
表2に示す粉末化粧料モデルD、及びEの「柔らかさ」について、上記と同様にして専門パネル5名による使用テストを実施して官能評価値を算出した。
【0033】
(表2)
【0034】
上記表2においても、ナイロン粉末を多く含有する粉末化粧料モデルEの方が、「柔らかさ」が高いという官能評価結果が得られ、応力緩和率もそれに対応して高い値となった。よって、応力緩和率と「柔らかさ」との間に相関性が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明の評価方法は、粉末化粧料、及び化粧料用粉末原料における感触特性の一因子である「柔らかさ」を、粉体層せん断力測定から得られる応力緩和率を物性指標として関連付けて評価出来るものである。本願発明の評価方法を用いれば、粉末化粧料の効率的効果的な開発、好適な化粧料の提供やそのアドバイスに利用出来る。
図1