【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業センター・オブ・イノベーションプログラム『感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る化粧料の価値評価法は、化粧料の使用実感を評価指標とする第1の評価ステップと、化粧料の感性価値を評価指標とする第2の評価ステップと、第1の評価ステップで得られた評価結果と、第2の評価ステップで得られた評価結果を関連付けて評価する第3のステップを有する。
【0012】
〔第1の評価ステップ〕
第1の評価ステップで使用される評価指標は化粧料の使用実感、つまり化粧料を使用した際に得られる感覚(印象)である。使用実感は、漠然とした或いは抽象的な感触(感覚)のみならず、化粧料の効果の観点、例えば「肌の変化」や「化粧料ののり」「メークアップのしやすさ」といった特定の視点に着目した感触(感覚)でもあり得る。評価指標は、例えば、「肌にすいつく」「しっとりしている」「ふきとり感がある」「すっきりしている」「肌あたりがなめらかである」「肌あたりがよい」「ハリ感がでる」「なめらかである」などの用語(以下「印象語」という場合がある。)で示される。
【0013】
印象語は、化粧料を使用した際の自由記述による評価から統計的手法によって決定され得る。統計的手法は、例えば、印象語としてふさわしいかを判定する適合度試験、自由記述された用語が類似するかどうかを判定する類似度試験、自由記述された用語がどの程度離れた印象があるかどうかを判定する距離測定試験(実験)である。適合度試験は、自由記述された用語が印象語としてふさわしいかどうかを被試験者によって段階的に評価してもらい、その評価の高いものから選択する試験である。類似度試験は、2つの用語の間で、それぞれ同じ印象を表現できているかどうかを判定し、同じ印象を表現できると評価された割合から取捨選択を行う試験である。距離測定試験は、2つの用語の間で心理上どの程度離れているかを数字で表す試験である。2つの用語間の距離は、対象となる全ての用語について得られた評価点から求められる。試験に使用され得る距離は、例えば、ユークリッド距離であり、マハラノビス距離であり、マンハッタン距離であり得るが、これらの距離に限定されない。用語の選択基準は適宜定めることができ、例えば離れた距離にある2つの用語を選択する、ほぼ等間隔になるように幾つかの用語を選択するなどの方法が例示される。
【0014】
評価に使われる印象語は、これらの統計的手法の1つ又は2つ以上の組み合わせによって決定される。印象語の語数は有意義な評価が得られるように適宜定められ、例えば4であり、6であり、8であり、10でもあり得る。また、印象語から感じられる使用実感が偏らないように設定することが好ましい。このために、例えば適合度試験、類似度試験、距離測定試験の結果をさらにクラスタ分類や主成分分析などによる分類を行い、分類された区分ごとに2語又は3語を選択する方法も例示される。もっとも、印象語の選択はこれらの統計的手法に限られることはなく、経験的に感じられる印象語や予測される印象語を用いることにしてもよい。一方、印象語の決定に際して、特定の観点から自由記述をしてもらい、前記統計的方法によって印象語を決定したり、自由記述して得られた用語について特定の観点から絞り込むこともできる。例えば、漠然とした或いは抽象的な使用感触ではなく、前記のごとく例えば「肌変化」といった化粧料の効果などの特定の視点に着目した自由記述から決定する方法があげられる。特定の観点からの視点を導入することで、より詳細な検討が行える。
【0015】
第1の評価ステップにおいては、決定された印象語に基づき試験対象となる化粧料の評価試験が行われる。評価試験は、評価対象の化粧料から、決定された印象語が実感として感じられるかどうかについて採点する試験である。例えば、採点は7段階で行い、印象語に該当すれば最高点である7点を付与し、全く該当しないのであれば最低点である1点を付与する。評価階級は7段階でなくともよく、5段階や3段階としてもよいが、3段階のように評価階級が少ないと化粧料間の評価が出来なくなるおそれがある。ここで得られた得点は、第3のステップにおいて、評価結果として利用される。
【0016】
一度の試験で評価対象となる化粧料は、1つの化粧料でもあり、複数の同種化粧料でもあり得る。ここで同種化粧料とは、用途や機能が同等であって互いに比較しえる関係にある化粧料を言う。例えば、乳液であれば処方が異なる複数の乳液、化粧水であれば処方が異なる複数の化粧水が評価対象となる。評価結果を処方設計に利用することを考慮すれば処方の異なる複数の化粧料を用いることが好ましい。評価対象となる化粧料は、使用により使用感が得られる化粧料であれば特に限定されない。例えば、皮脂や角層をふきとる目的を有するふきとり化粧水や、皮脂や角層をふきとる目的を有さず、主として皮膚に潤いを与えることを目的とする化粧水、美容液、乳液、クリームなどのスキンケア、トニックなどの頭髪料、ファンデーションなどのベースメーク、口紅などのポイントメークでもあり得る。
【0017】
第1の評価ステップにおいては、評価の時期を複数とすることが好ましい。ここで評価の時期とは使用実感を判断する時期を言う。評価の時期を複数とすることで、ユーザーが感じる価値と化粧料の使用実感との関係を詳しく把握することができ、より詳細な化粧料の価値評価ができる。また、処方設計の指針となる情報量が多くなる。もっとも、複数の時期で評価した場合であっても、すべての時期で得られたデータ又はいくつかの時期で得られたデータをまとめて集計し、1つ又は2つ以上の評価結果を算出しても差し支えない。
【0018】
評価の時期は化粧料の使用との関係で定められ、使用される化粧料の種類や試験目的が考慮される。例えば、単回使用の評価を行う場合では、評価の時期は、例えば「化粧料の使用後」であり、「化粧料の使用中」であり、「化粧料の使用中又は使用後」であり、「使用した翌朝」でもあり得る。また、継続使用における評価を行う場合では、評価の時期は、例えば「使用開始後何日目」や「継続使用中」などのように評価期間の中間時点や、「使用期間の終了後(継続使用した後)」など評価期間の終了時点でもあり得る。そして、単回使用における評価時期や継続使用を前提とする評価時期を適宜組み合わせることもできる。印象語に基づく採点は評価の時期ごとに行ってもよいし、評価期間の終了後に行ってもよい。
【0019】
また、スキンケアのように、種類の異なる化粧料を一連の行為として使用する場合では、化粧料のそれぞれの使用の際にそれぞれ評価することが好ましい。スキンケアでは、洗顔後にふきとり化粧水を使用して角層や皮脂を除去した後、化粧水を塗布し、その後美容液や乳液、さらにはクリームを塗布するなど、ユーザーの所望により用途の異なる複数の化粧料を逐次使用することがある。この場合、ふきとり化粧水の価値は、他のスキンケアアイテムの影響も考えられる。そこで、種類の異なる化粧料の使用時期ごとに評価することができる。例えば、一度の手入れにおいて3種類の化粧料を使用する場合、評価対象である第1の化粧料(例えばふきとり化粧水)の使用の際における使用実感、それに続いて用いられる第2の化粧料(例えば乳液)の使用の際における第2の化粧料の使用実感、さらに続いて用いられる第3の化粧料(例えばクリ−ム)の使用の際における第1の化粧料の使用実感などを評価してもよい。一度の手入れはスキンケアに限定されて使用される用語ではなく、例えば、スキンケアとその後に使用されるメークアップ化粧料の使用、シェービングクリームの使用とひげそり後のアフターシェービングローションの使用、ヘアトニックの使用とヘアリキッドの使用、ヘアシャンプーの使用と洗髪後のヘアリンスやヘアコンディショナーの使用など、2種以上の異なる種類の化粧料がほぼ連続して使用されることが想定される行為を意味する。本発明の評価方法においては、一度の手入れにおいて評価される場合もあれば、継続的に複数回行われる手入れにおいて評価されることもあり得る。また、本発明の評価方法は、第1の化粧料を使用した後における第2の化粧料の価値評価をする場合などにも適用できる。この場合には、第1の化粧料の使用の際における使用実感を評価することなく、第2の化粧料の使用後以降の使用実感を評価すればよい。
【0020】
〔第2の評価ステップ〕
第2の評価ステップで使用される評価指標は化粧料の感性価値である。感性価値とは、ユーザーの感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化する価値である。これは使用実感として感じる印象ではなく、化粧料を使用することで認められる当該化粧料に対する感性を表す指標である。この評価指標は、第1の評価ステップで行われる化粧料の使用時に感じられる評価指標ではなく、第1の評価ステップにおける評価期間の終了後に総合的に判断される指標であることに注意されるべきである。評価指標は、例えば、「ずっと使いたい」「使い続ける意欲がわく」「心地よい」「肌に負担がない」「ふきとり効果がある」などの用語(以下「価値語」という場合がある。)で示される。
【0021】
これらの価値語は、化粧料を使用した際に自由記述による評価から統計的手法によって決定され得る。統計的手法は、第1の評価ステップにおいて印象語を決定するのと同様の方法である。例えば、適合度試験、類似度試験、距離測定試験である。評価に使われる価値語は、これらの統計的手法の1つ又は2つ以上の組み合わせによって決定されるが、価値語の選択はこれらの統計的手法に限られることはない。また、価値語の語数も有意義な評価が得られるように適宜定められ、例えば4であり、6であり、8であり、10でもあり得る。また、価値語が有する感性が偏らないように設定することが好ましい。なお、価値語には、上記にしたように自由記述に委ねられた総合的に判断された評価から決定され得るものであるため、使用実感に近い評価指標も含まれる場合もある。
【0022】
第2の評価ステップでは、決定された価値語に基づき試験対象となる化粧料の評価試験が行われる。評価試験は、対象の化粧料から、決定された価値語が感性価値として感じられるかどうかについて採点する試験である。例えば、採点は7段階で行い、価値語に該当すれば最高点である7点を付与し、全く該当しないのであれば最低点である1点を付与する。評価階級は7段階でなくともよく、5段階や3段階としてもよいが、3段階のように少ないと化粧料間の評価が出来なくなるおそれがある。ここで得られた得点は、第3のステップにおいて、評価結果として利用される。
【0023】
〔第3のステップ〕
第3のステップは、前記第1の評価ステップで得られた評価結果と、前記第2の評価ステップで得られた評価結果を関連付けて評価するステップである。関連づけて評価するとは、第1の評価ステップで得られた評価結果と第2の評価ステップで得られた評価結果の間に、何らかの相関(正の相関、負の相関など)があるのか否か、またはどの程度の相関があるのかどうか、また、因果関係が存在するのかどうかなどを検討するステップである。関連付ける方法は、好ましくは多変量解析などの数学的解析手段を用いる方法が例示される。また、関連付けは好ましくは可視化される。両者を関連付けて可視化する方法は特に限定されるものではなく、例えば、パス図や散布図として可視化する方法が示される。また、数学的手段を用いることなく、それぞれ評価結果を単にグラフや表として可視化することで、評価してもよい。
【0024】
パス図を作成する方法は、例えば共分散構造分析(SEM)により作成される。パス図の作成方法は公知であり、いずれの方法によってもよい。SEMには、第1の評価ステップで得られた評価結果(得点)と第2の評価ステップで得られた評価結果(得点)をそのまま用いる方法や、第1の評価ステップで得られた評価結果と、第2の評価ステップで得られた評価結果を因子分析し、得られた因子得点データを用いる方法が挙げられる。作成にはいくつかのモデルが参照され、モデル適合度の良好なパス図が選択される。パス図には、好ましくは第1の評価ステップの評価結果から抽出された因子と、第2の評価ステップの評価結果から抽出された因子が関連づけて表示される
【0025】
また、散布図は因子間の関係を多次元的に示した図である。散布図の作成方法も公知であり、いずれの方法によってもよい。第1の評価ステップの評価結果から抽出された因子間の散布図と第2の評価ステップの評価結果から抽出された因子間の散布図を、好ましくは2次元空間の2軸で描く。複数品目の化粧料を評価した場合には散布図には評価された化粧料ごとの評価結果を示す。散布図の作成には、第1の評価ステップで得られた評価結果(得点)と、第2の評価ステップで得られた評価結果(得点)をそのまま用いる方法や、第1の評価ステップで得られた評価結果と第2の評価ステップで得られた評価結果を因子分析して得られた因子得点データを用いる方法が挙げられる。散布図では、ユーザーの価値評価の高かった化粧料が、第1の評価ステップにおいてどの因子による影響が大きく、第2の評価ステップにおいてどの因子による影響が大きいかを目視で比較できる。
【0026】
第3のステップでは、第1の評価ステップが複数の評価時期においてなされている場合には、因子は評価の時期ごとで示されることが望ましい。この場合、パス図では、評価の時期に対応した階層で示される。また、第1の評価ステップにおいて、複数の評価の時期をまとめて評価結果を算出して、因子を抽出してもよい。そして、因子の相互関係を見ながら、最適なパス図を描くこともできる。例えば、抽出された因子を構成する印象語又は価値語から受ける印象を元に、当該印象語又は価値語が属する因子の修正を行った上でパス図や散布図を描くことをしてもよい。
【0027】
次に下記の実施例に基づき本発明について具体的に詳細に説明する。もっとも、本発明は下記の実施例に限られるものではない。
【実施例1】
【0028】
〔印象語・評価語の選択・設定〕
(事前調査)
化粧料の評価に先立って、評価時に使用する評価指標となる印象語及び価値語の選択・設定を行った。まず、事前調査としてふきとり化粧水をスキンケアアイテムとして普段から使用している女性パネラー18名(23歳〜57歳)を対象に、指定されたふきとり化粧水とその他に各パネラーが普段使用するスキンケアアイテムを使用してもらい、次の4つの視点からパネラー自身による自由な記述評価を行ってもらった。すなわち、ふきとり化粧水を使用した際に感じたふきとり化粧水の使用実感(使用感触)(視点S1)、ふきとり化粧水の使用後に他のスキンケアアイテムを使用した際に感じたスキンケアアイテムの使用実感(視点S2)、ふきとり化粧水とスキンケアアイテムを継続使用した後に感じたふきとり化粧料の使用実感(ここでは「肌変化」に着目した。)(視点S3)及び評価期間終了後に感じたふきとり化粧水の感性価値(視点S4)について、それぞれ自由な記述評価をしてもらった。ふきとり化粧水は4品、期間は1品につき3日間朝晩使用の計12日間とした。他のスキンケアアイテムは各パネラーが任意に選択した化粧料であり、それらは化粧水、美容液、乳液、クリームと称される化粧料であった。その結果、意味が重複する印象語・価値語を整理したところ、表1に示すように、ふきとり化粧料の使用実感(視点S1)からは95語の印象語が、他のスキンアイテムの使用実感(視点S2)からは40語の印象語が、継続使用後のふきとり化粧料の使用実感(肌変化)(視点S3)からは33語の印象語が、ふきとり化粧料の感性価値(視点S4)では71語の価値語が見いだされた。
【0029】
【表1】
【0030】
(評価語の設定)
自由な記述から得られた印象語及び価値語から、ふきとり化粧水を表現するのにふさわしい印象語及び価値語を選択・設定を行った。
【0031】
事前調査に参加したパネラー17名に対して同様の調査を行った。この調査でも、事前調査と同じ化粧料を使用してもらった。期間もふきとり化粧水1品につき、3日間朝晩使用の計12日間とした。評価は、事前調査により得られた印象語(S1:95語、S2:40語、S3:33語)、価値語(S4:71語)について、それぞれ使用実感又は感性価値を表す評価語として適切かどうか7段階(1.非常に適していない、2.適していない、3.やや適していない、4.どちらでもない、5.やや適している、6.適している、7.非常に適している)で評価してもらった。その後、評価平均点数が高く標準偏差が小さい印象語及び価値語を選択した。その結果、視点S1では33語、視点S2では15語、視点S3では12語、視点S4では25語が選択された。選択された印象語及び価値語を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
さらにふきとり化粧水の価値評価のための評価指標を、選択された印象語及び価値語から体系的な選択を行った。体系的な選択のために、各印象語間及び各価値語間において類似度を算出した上で、視点S1〜S3においてそれぞれの使用実感を表す印象語群及び視点S4の感性価値を表す価値語群に対してクラスタ分析を行った。
【0034】
印象語及び価値語の選択に関わったパネラー17名に、印象語・価値語の選択と同様の調査を行った。なお、評価は、選択された印象語(S1:33語、S2:15語、S3:12語)及び価値語(S4:25語)について、視点S1〜S4における評価語(印象語又は価値語)が、それぞれの視点S1〜S4において示された他の評価語(印象語又は評価語)で表現できるかどうか2段階で評価してもらった。つまり、視点ごとで1つの印象語が他の印象語、あるいは1つの価値語が他の価値語で置き換えることができるかどうか、すべての評価語について評価してもらった。ある評価語iが他の評価語jで表現できると評価された割合を一致率r
ij(i番目に列記された評価語についての一致率)とすると、評価語iの類似度R
iは、その一致率r
ijのベクトルとして、R
i=(r
i1,r
i2,・・・,r
in)と表わされる。ただし、nは視点S1〜S3それぞれの使用実感を表す印象語群及び視点S4の感性価値を表す価値語群それぞれにおける語数、すなわちS1では33である。
【0035】
ここで得られたR
iを用いて、Ward法による平方ユークリッド距離を使用した階層クラスタ分析を行い、階層的に分類した。得られた階層構造から、最も階層間の距離の長い点でクラスタを分類することを基準として、クラスタ数を決定した。クラスタ分析の結果を
図1〜4に示す。なお、表中の数字は表2に示す用語に付された数字に対応する。この結果、視点S1におけるクラスタ数は3となった。他のシーンについても同様の分析をした結果、視点S2におけるクラスタ数は2、視点S3におけるクラスタ数は2、視点S4におけるクラスタ数は3となった。
【0036】
次に各クラスタ内の評価語から評価に使用される代表語を選択した。代表語は、各クラスタの意味空間を包括する評価語に近づけるべく、各クラスタ内において、類似度の中心とそれぞれの評価語の類似度の差分が最も小さい評価語2語を選択した。あるクラスタにおける類似度の中心Cは次の数式1で表される。数式1中mは各クラスタに属する評価語を示し,その総数をMとする(視点S1におけるクラスタ1ではM=13)。nは次元数(各視点における評価語数と同じ:視点S1ではn=33)を示す。また、評価語iと類似度の中心Cとの類似度の差分D
iは類似度R
iを用いて次の数式2で表される。
【0037】
【数1】
【0038】
【数2】
【0039】
さらに、各クラスタ内の評価語の類似度Riに対して主成分分析を行い、第1主成分軸(Z1)の主成分得点が最大値及び最小値となる評価語(計2語)、第2主成分軸(Z2)の主成分得点が最大値及び最小値となる評価語(計2語)を選択した。なお、各クラスタ内の評価語が少ない場合には主成分分析が適用できないので、類似度の中心Cとそれぞれの評価語iの類似度R
iの差分D
iが最も小さいものから3語を選択した。選択結果を表3〜表6に示した。これらの手法により選択された評価語を評価指標として、各視点S1〜S4においてふきとり化粧水を評価することにした。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
〔ふきとり化粧水の評価試験〕
ふきとり化粧水の未使用者を対象にして、ふきとり化粧水の価値評価を行った。上記で設定した評価語に基づいて評価してもらった。被験者はふきとり化粧水の未使用者であって、洗顔料及び化粧水以外に乳液やクリームなどのスキンケア化粧料を1アイテム以上使用している女性(30歳〜49歳)とした。
【0045】
各被験者には4種類のふきとり化粧水のうち1品を使用してもらい、ふきとり化粧水以外のスキンケアアイテムを普段通りに使用してもらった。期間は朝晩の使用で1ヶ月間とした。評価は、上記で選択された印象語(S1:18語、S2:11語、S3:9語)及び価値語(S4:15語)について、7段階評価(7が最も当てはまる、1が全く当てはまらない)をしてもらった。
【0046】
得られた評価結果について最尤法とプロマックス回転による因子分析を行った。このとき、固有値が1.0以上であることを基準とし、因子負荷量が0.40未満である評価語を分析の対象から除外し、再度因子分析を行った。因子分析によって得られた、視点ごとの因子負荷量を表7〜10に示した。視点S1からは3つの因子、視点S2からは2つの因子、視点S3からは1つの因子、視点S4からは3つの因子が抽出され、それぞれの因子を総合的に表す因子名を付与した。因子名は、各因子に属する評価語の中で因子負荷量の高い評価語を中心にして因子に属する評価語を象徴するような名称を付した。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】
【0049】
【表9】
【0050】
【表10】
【0051】
(パス図の作成)
さらに因子得点データを観測変数とした共分散構造分析(SEM)による分析を行った。いくつかのモデルを試み、最終的にモデル適合度の良好なパス図を得た。そのパス図を
図5に示した。パス係数は「ふきとり感触」から「保湿感」、「ふきとり感触」から「快適感」、「ふきとり後感」から「成分実感」、「肌変化」から「成分実感」がそれぞれ5%水準で有意、「ふきとり感触」から「ふきとり実感」、「保湿感」から「成分実感」が1%水準で有意、残りのパス係数はすべて0.1%水準で有意であった。
【0052】
(散布図の作成)
次に評価に用いた4種類のふきとり化粧水を、各視点S1〜S4における因子を二次元空間の2軸として、各ふきとり化粧水の因子得点の平均値でマッピングした。それらの結果を
図6〜9に示した。
【0053】
(評価法の妥当性)
因子分析の結果、表7のふきとり化粧水の使用実感(S1)の視点からは「ふきとり感触」(第1因子)「ふきとり後感」(第3因子)というふきとり化粧水の使用感を評価する言葉で因子をまとめることができ、視点S1における評価は妥当であると考えられる。表8の他のスキンケアアイテムの使用実感(S2)の視点からは「しっとり感が増す」「しっとりしている」という「保湿感」(第1因子)、「なめらかである」などの「なめらか感」(第2因子)といった組み合わせで使用されたスキンケアアイテムを評価している言葉で因子をまとめることができ、視点S2における評価も妥当であると考えられる。表9の継続使用した後におけるふきとり化粧水の使用実感(S3)の視点からも「肌変化」(第1因子)という長期使用後に得られる印象で因子をまとめることができ、視点S3における評価も妥当であると考えられる。表10のふきとり化粧水の感性価値(S4)の視点からは「心地よい」「肌の感触がよい」といった「快適感」(第1因子)、「ふきとり感触が心地よい」「汚れがとれた感じがある」というふきとりの感覚と、「ずっと使いたい」「使い続ける意欲がわく」という意欲を表す語が混在した「ふきとり意欲」(第2因子)、そして「有効成分が入っている」「肌の変化を感じた」という語を含む「成分実感」(第3因子)としてまとめられた。視点S4では、使用実感では言い表されない価値語が含まれており、ふきとり化粧水の価値としての判断が得られていると考えられる。従って、視点S4における評価も妥当であると考えられる。
【0054】
次に、
図5のパス図では、S1の視点における第1因子「ふきとり感触」から、他の視点における因子に多くのパスが伸びている。特に「ふきとり意欲」には直接のパスと、強い因果を示す「なめらか感」を介して間接的に届く2つのルートが確認できた。「なめらか感」は「肌変化」を介し、「快適感」と「成分実感」にも因果を示していることから、「ふきとり感触」はふきとり化粧水にとって極めて重要な因子であることが確認され、供試された4つの化粧料は、いずれもふきとり化粧水として意義を有するものと評価される。また「ふきとり後感」は「成分実感」への直接へのパスと、「肌変化」を介して間接的に届く2つのルートが確認できた。これは「ふきとり後感」がふきとり化粧水の有効成分による肌変化を実感させているのではないかと考えられる。このように、化粧料として特殊な製剤であるふきとり化粧水はユーザーに対して新たな価値を与える商品であることがあらためて確認された。
【0055】
(製品設計への応用)
これまでの評価で使用された4種類のふきとり化粧水はそれぞれ異なる処方特性を有している。これによると、視点S4においてふきとり化粧水2が3つの因子において全て最も高い評価を得ている(
図9参照)。このことからふきとり化粧水2がユーザーによる価値評価の高いふきとり化粧水であることが理解される。このことから、評価の低いふきとり化粧水3や4は、ふきとり化粧水2に近づけるための工夫をすればよいことになる。例えば、ふきとり化粧水3は「快適感」がよく似た評価であるが「ふきとり意欲」が弱い評価となっている。このため「ふきとり意欲」を増すような処方設計が必要となる。これを各視点でみると、
図6の視点S1ではふきとり化粧水3はその処方内容から「ふきとり感触」が高くなると推測されたが、実際の評価では低い評価となり、因子「ふきとり感触」を構成する最上位にある評価語「ふきとりやすい」の影響が大きいためであると想像される(表7参照)。このことから「ふきとりやすさ」を改善する処方変更が望まれる。
【0056】
また、視点S4における「ふきとり意欲」のマッピング(
図9(A)(B))では、ふきとり化粧水1がまずまずの評価であった。SEMによる分析(
図5)では「ふきとり意欲」は視点S1における「ふきとり感触」とS2における「なめらか感」の2つの因子との因果関係が示されているが、これらのマッピングを見ると、ふきとり化粧水1はすべての因子において評価は低い。この結果からは、ふきとり化粧水1では、その使用感触を象徴する「ふきとり感触」や「なめらか感」以外の要素がふきとり化粧水1の価値を高めていると推測できる。
【0057】
このように、上記選択された項目について評価を行うことでユーザーが判断する感性価値と使用感触との関係を把握することができる。そしてそれらを分析することで、新たな化粧料の処方設計に役立たせることができる。
【実施例2】
【0058】
実施例1で得られたふきとり化粧水の未使用者を対象にした評価結果について、視点S1〜S3の使用実感をまとめて同様な評価を行った。つまり、視点S1から視点S3における評価はふきとり化粧水を使用した際の印象であるため、これらを1つの評価項目として捉え、使用時における印象評価と、新たな商品としての価値評価との2つの視点からふきとり化粧水の価値を評価した。S1における評価語18語、S2における評価語11語、S3における評価語9語の計38語をまとめて実施例1と同様にして最尤法とプロマックス回転による因子分析を行った。その結果、表11に示す5つの因子が抽出された。また、これらの因子から
図10に示すパス図及び
図11、12に示す散布図が得られた。なお、視点S4における散布図は
図9と同じである。
【0059】
【表11】
【0060】
視点S1〜S3における評価語をまとめて因子分析した結果、表12のように各印象語が所属していた印象語群情報から、複数の視点を包括した因子と、単独の視点における因子に分けられた。複数の視点を包括した因子は、視点S1と視点S2を包括した因子(Gr1)と、視点S1から視点S3を包括した因子(Gr2)と、視点S1と視点S3を包括した因子(Gr3)と、視点S2と視点S3を包括した因子(Gr4)であり、単独の因子は、視点S1単独の因子(Gr5)である。視点S1と視点S2を包括した因子(Gr1)は「保湿感」、視点S1から視点S3を包括した因子(Gr2)は「スキンケア効果」、視点S1と視点S3を包括した因子(Gr3)は「ふきとり効果」、視点S2と視点S3を包括した因子(Gr4)は「肌変化」、視点S1における単独の因子(Gr5)は「ふきとり感触」をそれぞれ表現する言葉としてまとめられた。ここで、「ふきとり効果」は、視点S1と視点S3を包括した因子としてまとめられたが、ここに含まれる「透明感がある」「くすみがない」の評価はその言葉の有する印象はスキンケア行為から得られる印象で評価されるべきものと考えられ、視点S1〜S3に共通する因子として修正した。また、各視点間で共通する印象語はいずれかの視点を代表する印象語として取り扱い、例えば因子「肌変化」に属する印象語「すべすべする」(視点S2の印象語群、S3の印象語群にもある)は視点S3に属する印象語として取り扱うように修正した。そのように取り扱えば、「保湿感」「スキンケア効果」「ふきとり効果」は複数の視点を包括する因子(共通因子)、つまりふきとり化粧水とスキンケアアイテムの組み合わせに由来していることを表しており、各因子に含まれる評価語(印象語)が表す印象と一致する。そして、その他の「肌変化(Gr4)」「ふきとり感触(Gr5)」は各印象語群でまとめられる因子(独自因子)に由来していることを表しており、各因子に含まれる評価語(印象語)が表す印象と一致する。
【0061】
次に、上記で修正した因子(Gr1〜5)を元にしてパス図(
図10)を作成した。ここでは複数の視点を包括する因子(共通因子)は複数の視点間を縦断するサイズで表した。このパス図より、視点S1における単独因子である「ふきとり感触」は、同じ視点S1における要素を含んでいる「スキンケア効果」「保湿感」「ふきとり効果」と高い相関関係を示すことが分かった。また、共通因子と独自因子の双方が、視点S4における3因子と因果関係を示すことが分かった。このことから、ふきとり化粧水の感性価値を高めるためには、通常のスキンケアアイテムで共通する因子と、ふきとり化粧水独自の因子の両面を考慮する必要があると考えられる。
【0062】
共通因子である「保湿感」と「スキンケア効果」「ふきとり効果」の3因子、独自因子である「肌変化」「ふきとり感触」の2因子を元にそれぞれ散布図を作図した。
図11より、ふきとり化粧水2はスキンケアアイテムとしての保湿感がふきとり化粧水4と比較して劣っているため、この保湿感を高める処方設計をすることで、視点S4の感性価値をさらに向上できる可能性があると判断された。同様に
図12より、ふきとり化粧水4は、ふきとり感触を高める処方設計をすることで、相関関係の高い「スキンケア効果」「保湿感」「ふきとり効果」に影響し、結果として視点S4の感性価値をさらに向上できる可能性があると判断された。
【0063】
このように、実施例1と同様に、使用時における印象評価と、商品としての感性価値との関係は、所望する商品価値を得るための処方変更の指針となり得る。なお、今後の評価では、実施例1で決定された評価語(印象語・価値語)に基づいて行ってもよく、また、ユーザーの自由記述に基づく評価語の決定から行ってもよいのは言うまでもない。