特許第6742801号(P6742801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6742801デュラム小麦由来の小麦粉、該デュラム小麦由来の小麦粉の製造方法、麺類又は皮類用小麦粉組成物、麺類又は皮類の製造方法並びに麺類又は皮類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6742801
(24)【登録日】2020年7月31日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】デュラム小麦由来の小麦粉、該デュラム小麦由来の小麦粉の製造方法、麺類又は皮類用小麦粉組成物、麺類又は皮類の製造方法並びに麺類又は皮類
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20200806BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20200806BHJP
【FI】
   A23L7/10 Z
   A23L7/109 D
   A23L7/109 B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-92349(P2016-92349)
(22)【出願日】2016年5月2日
(65)【公開番号】特開2017-200444(P2017-200444A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2019年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】大井 明香
(72)【発明者】
【氏名】松井 広顕
(72)【発明者】
【氏名】平野 誠也
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−226079(JP,A)
【文献】 特開2015−133952(JP,A)
【文献】 特開2000−069925(JP,A)
【文献】 特開2009−213354(JP,A)
【文献】 特開2015−154753(JP,A)
【文献】 特開2009−011277(JP,A)
【文献】 特開2015−159759(JP,A)
【文献】 特開2006−101728(JP,A)
【文献】 特開2007−116974(JP,A)
【文献】 特開2015−226527(JP,A)
【文献】 特開2015−195767(JP,A)
【文献】 特開2002−119199(JP,A)
【文献】 特開平09−220049(JP,A)
【文献】 粉体工学研究会誌,1970年,Vol.7, No,1,pp.50-56
【文献】 小麦粉 −その原料と加工品−,日本麦類研究会,1994年11月30日,改訂第3版,296−299,358−367頁
【文献】 日本食品科学工学会誌,2000年,vol.47, no.1,pp.17-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−7/25
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が20μm以上60μm未満であり、灰分が0.90質量%以下であり、損傷でん粉含有量が1〜15質量%である、デュラム小麦由来の小麦粉。
【請求項2】
デュラム小麦を粉砕し、平均粒径が20μm以上60μm未満であり、灰分が0.90質量%以下であり、損傷でん粉含有量が1〜15質量%である小麦粉を得るデュラム小麦由来の小麦粉の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のデュラム小麦由来の小麦粉を含む麺類又は皮類用小麦粉組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のデュラム小麦由来の小麦粉又は請求項に記載の麺類又は皮類用小麦粉組成物を原料に配合することを含む麺類又は皮類の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のデュラム小麦由来の小麦粉を含む麺類又は皮類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュラム小麦由来の小麦粉、該デュラム小麦由来の小麦粉の製造方法、麺類又は皮類用小麦粉組成物、麺類又は皮類の製造方法並びに麺類又は皮類に関する。
【背景技術】
【0002】
デュラム小麦は、二粒系小麦といわれるもので、胚乳部が硝子質であり、粒子が非常に硬く微粉砕が難しい。そのため、普通系小麦のように粉にしないで、胚乳部を粗挽きにしたセモリナ画分を採り出して、デュラムセモリナとして食品原料などに用いることが一般的である。
【0003】
一方、近年は、デュラムセモリナよりも粒度が細かいデュラム小麦由来の小麦粉を小麦粉加工食品に使用する技術が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、平均粒径が60〜100μmであり、かつ200μm以下の粒径部分が90%以上のデュラム小麦粉を麺類又は皮類に使用する技術が開示されている。また、特許文献3には、平均粒径が60〜100μmであり、かつ200μm以下の粒径部分が90%以上のデュラム小麦粉をイースト発酵食品に使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−213354号公報
【特許文献2】特開2015−154753号公報
【特許文献3】特開2009−11277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来の方法により得られたデュラム小麦由来の小麦粉は、小麦粉加工食品、特に、麺類や皮類の原料として用いた場合に食感が劣る場合があり、更なる改良が求められていた。
そこで、本発明は、麺類や皮類に配合した場合に粘弾性やモチモチとした食感を付与することができるデュラム小麦由来の小麦粉を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、平均粒径が20μm以上60μm未満であり、灰分が0.90質量%以下であり、損傷でん粉含有量が1〜15質量%である、デュラム小麦由来の小麦粉を提供する。
また、本発明は、上記デュラム小麦由来の小麦粉を含む麺類又は皮類用小麦粉組成物を提供する。
また、本発明は、上記デュラム小麦由来の小麦粉又は上記麺類又は皮類用小麦粉組成物を原料に配合することを含む麺類又は皮類の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記デュラム小麦由来の小麦粉を含む麺類又は皮類を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、麺類や皮類に配合した場合に粘弾性やモチモチとした食感を付与することができるデュラム小麦由来の小麦粉を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0009】
<デュラム小麦由来の小麦粉>
本実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉は、平均粒径が20μm以上60μm未満である。平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置にて、ミー散乱解析を用いて測定し、体積基準分布(積算分布または頻度分布)として測定する。平均粒径の上限値は、好ましくは55μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。平均粒径の上限値をこのような範囲とすることにより、麺類又は皮類の原料として用いた場合に良好な食感が得られる。また、平均粒径の下限値は、好ましくは25μm以上である。平均粒径の下限値をこのような範囲とすることにより、デュラム小麦由来の小麦粉の損傷でん粉含有量が過剰に増加するのを抑えて、得られる麺類及び皮類の粘弾性やモチモチ感を向上させることができる。
【0010】
一般に、小麦を細かく粉砕しようとすると組織が破壊されるため、小麦粉の損傷でん粉含有量は増加する傾向があるが、本実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉に含有される損傷でん粉含有量は過剰に多くないことが好ましい。具体的には、損傷でん粉含有量は1〜15質量%であることが好ましく、3〜15質量%がより好ましく、5〜13質量%が更に好ましい。損傷でん粉含有量が極端に高くならないようにすることで、得られる麺類及び皮類の粘弾性やモチモチ感がより向上する。
本実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉は、平均粒径が20μm以上60μm未満と極めて細かいため、損傷でん粉含有量を1質量%未満に抑えることは、技術上非常に困難である。
【0011】
損傷でん粉含有量が5%以下のデュラム小麦由来の小麦粉を得るためには、従来のデュラム小麦よりも粒子が軟らかい「ソフトデュラム」を原料として用いる。ソフトデュラムを用いることにより、微粉砕しても損傷でん粉含有量を低く抑えることが可能である。
【0012】
損傷でん粉含有量は、AACC Method 76−31に従って測定することができる。具体的には、試料中に含まれている損傷でん粉のみをカビ由来α−アミラーゼでマルトサッカライドと限界デキストリンに分解し、次いでアミログルコシダーゼでグルコースにまで分解し、生成されたグルコースを定量することにより測定する。また、市販のキット(例えば、MegaZyme製、Starch Damage Assay Kit)を用いて測定してもよい。
【0013】
本実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉は、灰分が0.90質量%以下であり、好ましくは0.85質量%以下、より好ましくは0.80質量%以下である。灰分はデュラム小麦の表皮に多く含まれているため、灰分の割合は表皮混入の指標となる。一般に、小麦粉に混入している表皮の量が多いと灰分の割合が高くなり、得られる麺類及び皮類の食感、香り、色が悪くなる傾向が見られる。本実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉は、灰分を0.90質量%以下とすることで、食感、香り、色が良好な麺類及び皮類を得ることができる。灰分の測定は直接灰化法を用いて行うことができる。具体的には、AACC法08−02に記載の方法で、700℃で30〜45分灰化して測定することができる。
【0014】
一般に、デュラムセモリナを製造する際には、「クリアー粉」、「末粉」などと称される副産物が生成される。この副産物は、平均粒径は小さいが、表皮混入により灰分の割合が比較的高く、麺類又は皮類の原料に配合した場合に食感や食味が悪くなる。これに対して本実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉は、灰分の割合が0.90質量%以下であるため、得られる麺類及び皮類は食感や食味が良好である。
【0015】
本実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉は、麺類、皮類、パン類、菓子類などの小麦粉加工食品全般に用いることができ、これらの中でも、麺類及び皮類に好適に用いることができる。本実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉を配合することにより、粘弾性やモチモチ感が良好な麺類及び皮類を得ることができる。
【0016】
ところで、一般的に、デュラム小麦由来のセモリナや小麦粉を主原料として製造されるパスタ類は、デュラム小麦特有の風味や色合いが強いことが好まれる。一方、特に生パスタや調理後にチルド流通される調理済パスタ類、冷凍パスタ等のパスタ類は、適度な粘性と弾力があり、モチモチとした食感であることが求められる。デュラムセモリナや従来の比較的粒度の粗いデュラム小麦由来の小麦粉を多く配合するパスタ類は、粘弾性が低く硬い食感になる傾向があり、モチモチとした食感を得にくい。適度な粘弾性やモチモチとした食感を付与するために、原料の一部に、普通系小麦由来の小麦粉や加工でん粉を使用することができるが、デュラム小麦由来の原料の配合量が低下するため、デュラム小麦特有の風味が低下し、パスタ類としての風味が劣る。このため、パスタ類に使用した時に、適度な粘弾性やモチモチとした食感を得ることができるデュラム小麦由来の小麦粉が求められている。
【0017】
さらに、調理後にチルド流通される調理済み冷やし中華麺や冷やしうどんなどの調理麺は、経時的な老化を抑制するために、加工でん粉を配合して老化耐性を向上させる場合がある。しかし、加工でん粉を配合すると麺の強度が低下し、喫食時に麺のほぐれが悪くなるという問題がある。麺の老化耐性や食感を低下させることなく、調理麺のほぐれを向上させる方法が求められている。
【0018】
また、餃子等の包餡食品の皮は、包餡後保存時に離水、乾燥することで、耳の部分が硬くなる。グルテンは、保水力が高いため、グルテン量の多い強力小麦粉やデュラム小麦由来のセモリナや小麦粉を配合することで皮の乾燥を抑制することができる。しかし、デュラムセモリナや従来の比較的粒度の粗いデュラム小麦由来の小麦粉を配合すると、粘弾性が低下し、皮の食感が低下する。保水力が高く、なおかつ皮類の粘弾性やモチモチとした食感を損なわない素材が求められている。
【0019】
本実施形態の粒度特性をもつデュラム小麦由来の小麦粉は、デュラムセモリナや従来の粒度特性を持ったデュラム小麦由来の小麦粉と異なり、麺類や皮類に配合した時に、粘弾性やモチモチとした食感を付与することができる。そのため、パスタ類の食感改良を目的として配合される副材料の配合量を減らすことができ、デュラム小麦特有の風味が強い良好なパスタ類を製造することができる。さらに、調理麺においては、麺の老化を抑制し、かつ、ほぐれを向上させることができる。また、餃子等の包餡食品の皮に配合することで、皮類の乾燥を抑制し、かつ、モチモチとした良好な食感の皮類を製造することができる。
【0020】
<デュラム小麦由来の小麦粉の製造方法>
上述した本発明の一実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉は、以下に示す製造方法により得ることができる。
【0021】
本発明の一実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉の製造方法において、原料となるデュラム小麦の産地や品種などは特に限定されず自由に選択することができる。近年は、品種改良によって、従来のデュラム小麦よりも粒子が軟らかい「ソフトデュラム」と称されるデュラム小麦が開発されている。ソフトデュラムは、「Transfer of Soft Kernel Texture from Triticumaestivum to Durum Wheat, Triticum turgidum ssp. Durum (CROP SCIENCE, VOL. 51 (2011))」によって得ることができる。このようなソフトデュラムを用いることにより、通常のデュラム小麦を用いた場合と比較して、微粉化により平均粒径を小さくした場合であっても損傷でん粉含有量がより少ない小麦粉を得ることができる。
【0022】
デュラム小麦の粉砕には衝撃式粉砕機、気流式粉砕機、ロール式粉砕機などの粉砕機を用いることができる。例えば、ロール粉砕の場合にはロールミル等;気流粉砕の場合には、ジェットミル等;衝撃式粉砕の場合には、ハンマーミル、ピンミル、ターボミル等が挙げられる。また、複数の粉砕方法を組み合わせた粉砕機(サイクロンミル、相対流粉砕機など)を用いることもできる。これらの粉砕機を単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、微粉化により平均粒径を小さくした場合であっても損傷でん粉含有量がより少ない小麦粉を得ることができるため、衝撃式粉砕機、気流式粉砕機が好ましい。市販の粉砕機としては、例えば、「コロプレックス型粉砕機」(槇野産業株式会社製)、「ハンマーミル」(株式会社奈良機械製作所製)、「マルチノ・ジェットミル」(太平洋機構株式会社製)などが挙げられる。
【0023】
デュラム小麦由来の小麦粉の製造工程は、以下の通りである。
常法にしたがって精選したデュラム小麦粒を、加水・調質(テンパリング)した後、常法に従って、ブレーキング工程、グレーディング工程、ピュリフィケーション工程によりセモリナ画分を得た。当該セモリナ画分をリダクション工程で、上述した粉砕機を用いて粉砕した。リダクション工程で粉砕する際に、微細化することによって平均粒径が20μm以上60μm未満のデュラム小麦由来の小麦粉を得ることができる。また、粉砕した後に篩や空気分級によって分級し、微細化された画分を回収することで平均粒径を所望の範囲にまで小さくすることや、分級機能を備えた粉砕機で粉砕することにより、平均粒径が20μm以上60μm未満のデュラム小麦由来の小麦粉を得ることもできる。
得られたデュラム小麦由来の小麦粉の平均粒径、灰分及び損傷でん粉含有量は、前述の測定方法にて測定すればよい。
【0024】
<麺類又は皮類用小麦粉組成物>
本発明の一実施形態に係る麺類及び皮類用小麦粉組成物は、上述した本発明の一実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉を含む。上記デュラム小麦由来の小麦粉以外の原料としては、一般的に麺類又は皮類の生地に配合される原料を含むことが好ましい。
【0025】
上記デュラム小麦由来の小麦粉以外の原料としては、例えば、穀粉が挙げられる。当該穀粉としては、例えば、強力粉、中力粉、薄力粉などの普通小麦由来の小麦粉、米粉、ライ麦粉、オーツ粉、とうもろこし粉などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明の一実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉以外のデュラム小麦由来の小麦粉を含んでいてもよい。さらに、普通小麦及び/又はデュラム小麦のふすまを含んでもよい。
【0026】
穀粉以外の原料としては、例えば、食塩、でん粉類、糖類、乳成分、卵成分、増粘多糖類、乳化剤、酵素製剤、炭酸カルシウムなどの無機塩類、ビタミン類、pH調整剤、保存剤、着色料、その他の食品添加物などが挙げられる。これらは目的に応じて単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本実施形態の麺類又は皮類用小麦粉組成物に含まれる上記デュラム小麦由来の小麦粉の割合は、麺類及び皮類の種類や形態などに応じて決定すればよいが、小麦粉組成物の全量中1〜100質量%が好ましい。例えば、麺類の場合はより好ましくは3〜100質量%であり、皮類の場合はより好ましくは5〜100質量%である。このような範囲とすることで、食感がより良好な麺類及び皮類を製造することができる。
【0028】
<麺類及び皮類の製造方法>
本発明の一実施形態に係る麺類及び皮類の製造方法は、上記デュラム小麦由来の小麦粉を原料に配合すること、又は、上記デュラム小麦由来の小麦粉を含む麺類又は皮類用小麦粉組成物を原料に配合することを含む。それ以外の製造手順は特に限定されず、常法に従って麺類又は皮類を製造することができる。
【0029】
原料に配合される上記デュラム小麦由来の小麦粉の割合は、麺類及び皮類の種類や形態などに応じて決定すればよい。パスタ類の場合、紛体原料の全量中20〜100質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましい。また、中華麺類やうどん、皮類の場合は、粉体原料の全量中1〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。このような範囲とすることで、食感がより良好な麺類及び皮類を製造することができる。
【0030】
<麺類及び皮類>
本発明の一実施形態に係る麺類及び皮類は、上述した本発明の一実施形態に係るデュラム小麦由来の小麦粉を含むため、粘弾性やモチモチ感があって食感が良好である。上記デュラム小麦由来の小麦粉を用いることにより、例えばパスタ類の場合、良好な食感とデュラム小麦特有の風味を付与することができる。また、例えば調理麺の場合、良好な食感を付与し、且つほぐれ感を向上させることができる。また、例えば皮類の場合、良好な食感を付与し、且つ皮類の保水力を高めて乾燥を抑制することで包餡食品の耳部分が硬くなりにくくなる。
【0031】
麺類の種類は、特に限定されず、例えば、パスタ類、うどん、そうめん、ひやむぎ、中華麺、焼きそば、日本そばなどが挙げられる。これらの中でも、パスタ類、うどん、中華麺が好適である。麺類の形態は、特に限定されず、例えば、生麺、半乾燥麺、乾燥麺、茹で麺、蒸し麺、冷凍麺、即席麺、調理麺、LL麺などが挙げられる。これらの中でも、生麺、半乾燥麺、茹で麺、調理麺が好適である。皮類の種類は、特に限定されず、例えば、餃子の皮、春巻きの皮、ワンタンの皮、シュウマイの皮などが挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
<デュラム小麦由来の小麦粉の製造>
デュラム小麦(カナダ産、ウェスタン・アンバー・デュラム)を、常法に従って精選、加水・調質(テンパリング)した後、ブレーキング工程、グレーディング工程、ピュリフィケーション工程を経てセモリナ画分を回収した。
製造例1のデュラム小麦由来の小麦粉は、回収したセモリナ画分を、ローターミル(ZM200、株式会社レッチェ製)により粉砕して製造した。
製造例2のデュラム小麦由来の小麦粉は、回収したセモリナ画分を、ハンマーミル(AP−1SH、ホソカワミクロン株式会社製)によりにより粉砕して製造した。
製造例3のデュラム小麦由来の小麦粉は、回収したセモリナ画分を、ピンミル(160Z、槇野産業株式会社製)により65Hzの設定で粉砕して製造した。
製造例4のデュラム小麦由来の小麦粉は、回収したセモリナ画分を、ピンミルにより60Hzの設定で粉砕して製造した。
製造例5のデュラム小麦由来の小麦粉は、回収したセモリナ画分を、ピンミルにより55Hzの設定で粉砕して製造した。
製造例6のデュラム小麦由来の小麦粉は、比較製造例1のデュラム小麦由来の小麦粉を目開き100μmの篩で篩い、篩を通過した画分を回収することにより製造した。
製造例7のデュラム小麦由来の小麦粉は、回収したセモリナ画分を、ロールミル(MLU−202、ビューラー社製)により粉砕して製造した。
比較製造例1のデュラム小麦由来の小麦粉は、回収したセモリナ画分を、ピンミルにより30Hzの設定で粉砕して製造した。
なお、市販のデュラム小麦由来の小麦粉として、「シルクロード」(昭和産業株式会社製)を用いた。
【0034】
<デュラム小麦由来の小麦粉の特性測定>
製造例1〜7、比較製造例1及び市販のデュラム小麦由来の小麦粉について、平均粒径を、レーザー回析式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS(株式会社日本レーザー製)を用いて測定した。灰分は、AACC08−02に従って測定した。
また、損傷でん粉含有量は、市販のキット(MegaZyme製,Starch Damage Assay Kit)を用いて測定した。具体的には、各小麦粉試料100mgに、予め40℃で10分間プレインキュベートしたα−アミラーゼ溶液(Aspergillus oryae由来,50unit/ml)を1ml添加して、撹拌した後、40℃で10分間処理した。次いで、クエン酸−燐酸水溶液(pH2.5)を5ml添加して反応を停止させ、遠心分離(1,000g,5分)して上清を得た。この上清0.1mlにアミログルコシダーゼ溶液(Aspergillus niger由来,2unit/0.1ml)を添加して40℃で20分間処理した後、510nmで吸光度を測定し、得られた吸光度から生成したグルコース量を算出し、試料中に含まれる損傷でん粉含有量を算出した。
測定結果を表1に示す。
【0035】
<試験例1:生パスタ>
試験例1では、生パスタを製造して、デュラム小麦由来の小麦粉の平均粒径、灰分及び損傷でん粉含有量の好適範囲を検討した。下記表1に示すデュラム小麦由来の小麦粉を用いて、以下の手順により実施例1〜7、比較例1及び対照例1の生パスタを製造した。
【0036】
まず、横型ピンミキサーを用いて、各デュラム小麦由来の小麦粉100質量部と、食塩1%を溶解した水30質量部を、15分間ミキシングし、生地を作成した。これらの生地を、押し出し製麺機により、真空条件下で押し出すことで生パスタを製造した。ダイスは、厚み1.7mm、幅3.5mmを使用した。
【0037】
実施例1〜7、比較例1及び対照例1の生パスタを、約100℃の熱湯中で3分間茹で、得られた茹で立てのパスタを10人の専門パネラーが以下の評価基準に従って食感の評価を行い、その平均値を算出して、小数点第2位を四捨五入した値を評価点とした。
1:対照例1より粘弾性がかなり劣る食感
2:対照例1より粘弾性がやや劣る食感
3:対照例1と同等の粘弾性のある食感
4:対照例1より粘弾性があり、生パスタとして良好な食感
5:対照例1より粘弾性が強く、生パスタとしてかなり良好な食感
試験例1の結果を下記表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
平均粒径が25〜57μmであり、灰分が0.72〜0.80質量%であるデュラム小麦由来の小麦粉を用いた実施例1〜7の生パスタは、対照例1よりも粘弾性があって生パスタとして良好な食感であった。特に、損傷でん粉含有量が15質量%以下である実施例1〜3、5、6は、いずれも評価点が4.0点以上であり、生パスタとしてより好ましい食感であった。また、比較例1及び対照例1の結果から、平均粒径が同程度の場合、損傷でん粉含有量が低いほど食感が向上する傾向にあることが確認された。更に、実施例3、6及び対照例1の結果から、損傷でん粉含有量が同程度の場合、平均粒径が小さいほど食感が向上する傾向にあることが確認された。
【0040】
<試験例2:乾麺のうどん>
試験例2では、下記表2に示す小麦粉を用いて、以下の手順により実施例8〜13、比較例2及び対照例2の乾麺のうどんを製造した。市販品の普通小麦粉Aとして、「星空(商品名)」(昭和産業株式会社製)を用いた。
【0041】
まず、横型ピンミキサーを用いて、各デュラム小麦由来の小麦粉または市販の普通小麦粉A100質量部と、食塩4%を溶解した水35質量部を、15分間ミキシングし、生地を作成した。これらの生地を、ロール式製麺法にて、切り刃角♯12番を用いて、麺線の厚みが1.50mmになるように製麺した後、常法にて乾燥し、乾麺を製造した。
【0042】
実施例8〜13、比較例2及び対照例2の乾麺のうどんを、約100℃の熱湯中で8分間茹でた後、10℃の冷水で冷却し、10人の専門パネラーが以下の評価基準に従って食感の評価を行い、その平均値を算出して、小数点第2位を四捨五入した値を評価点とした。
1:対照例2より粘弾性がかなり劣る食感
2:対照例2より粘弾性がやや劣る食感
3:対照例2と同等の粘弾性のある食感
4:対照例2より粘弾性があり、うどんとして良好な食感
5:対照例2より粘弾性が強く、うどんとしてかなり良好な食感
試験例2の結果を下記表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
実施例8〜12は対照例2と比較して粘弾性があり、食感が良好であった。また、実施例13は対照例2とほぼ同等の食感であった。これらの結果から、乾麺であっても粘弾性があって良好な食感が得られることが確認された。
【0045】
<試験例3:調理済チルドパスタ>
試験例3では、下記表3に示す小麦粉又は加工でん粉を用いて、以下の手順により実施例14〜16、比較例3、4及び対照例3の調理済チルドパスタを製造した。市販品の普通小麦粉Bとして、「金蘭(商品名)」(昭和産業株式会社製)を、加工でん粉として、「SF−2800」(敷島スターチ株式会社製)を用いた。
【0046】
まず、横型ピンミキサーを用いて、表3に示す紛体原料(各デュラム小麦由来の小麦粉、市販の普通小麦粉、加工でん粉)100質量部と、食塩1%を溶解した水30質量部を、15分間ミキシングし、生地を作成した。これらの生地を、押し出し製麺機により、真空条件下で押し出すことで、生パスタを製造した。ダイスは、厚み1.7mm、幅3.5mmを使用した。得られた生パスタを、約100℃の熱湯中で3分間茹でた後、5℃の冷却水で冷却し、水を切った後、茹でた麺100質量部に対して2質量部のサラダ油をまぶし、4℃で24時間冷蔵保存して、実施例14〜16、比較例3、4及び対照例3の調理済みチルドパスタを製造した。電子レンジ(1500W)により1分間加熱した調理済チルドパスタを10人の専門パネラーが以下の評価基準に従って食感及び風味の評価を行い、その平均値を算出して、小数点第2位を四捨五入した値を評価点とした。
(食感)
1:対照例3より粘弾性がかなり劣る食感
2:対照例3より粘弾性がやや劣る食感
3:対照例3と同等の粘弾性のある食感
4:対照例3より粘弾性があり、パスタとして良好な食感
5:対照例3より粘弾性が強く、パスタとしてかなり良好な食感
(風味)
3:対照例3と同程度の風味である
4:対照例より、デュラム小麦の風味がやや強く、パスタとして良好な風味である。
5:対照例より、デュラム小麦の風味が強く、パスタとして非常に良好な風味である。
試験例3の結果を下記表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
実施例14、15は対照例3と比較して食感が良好であった。また、実施例16は対照例3とほぼ同等の食感であった。風味については、実施例14〜16のいずれも評価点が4.0以上で良好であった。これらの結果から、調理済チルドパスタであっても、粘弾性があり食感が良好で、デュラム小麦の風味が強く風味も良好な麺が得られることが確認された。
【0049】
<試験例4:冷やし中華>
試験例4では、下記表4に示す小麦粉又は加工でん粉を用いて、以下の手順により実施例17〜22、比較例5及び対照例4、5の冷やし中華を製造した。市販品の普通小麦粉Cとして、「めんのちから(商品名)」(昭和産業株式会社製)を用いた。加工でん粉は、試験例3と同じものを用いた。
【0050】
まず、横型ピンミキサーを用いて、表4に示す紛体原料(各デュラム小麦由来の小麦粉、市販の普通小麦粉、加工でん粉)100質量部と、食塩1%及びかんすい1.2%を溶解した水36質量部(実施例17〜22及び比較例5)又は40質量部(対照例4及び5)を、15分間ミキシングし、生地を作成した。これらの生地を、ロール式製麺法にて、切り刃角♯20番を用いて、麺線厚みが1.5mmになるように製麺した。得られた中華麺を、約100℃の熱湯中で1分30秒間茹でた後、5℃の冷却水で冷却し、水を切った後、茹でた麺100質量部に対して4質量のほぐし剤をまぶし、4℃で24時間冷蔵保存して、実施例17〜22、比較例5及び対照例4、5の冷やし中華を製造した。得られた冷やし中華を10人の専門パネラーが以下の評価基準に従って食感及びほぐれの評価を行い、その平均値を算出して、小数点第2位を四捨五入した値を評価点とした。
(食感)
1:対照例4より粘弾性がかなり劣る食感
2:対照例4より粘弾性がやや劣る食感
3:対照例4と同等の粘弾性のある食感
4:対照例4より粘弾性があり、冷やし中華として良好な食感
5:対照例4より粘弾性が強く、冷やし中華としてかなり良好な食感
(ほぐれ)
1:対照例4よりかなりほぐれにくい
2:対照例4よりややほぐれにくい
3:対照例4と同等のほぐれ
4:対照例4よりほぐれやすい
5:対照例4よりかなりほぐれやすい
試験例4の結果を下記表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
実施例17〜21は対照例4と比較して食感が良好であった。また、実施例22は対照例4とほぼ同等の食感であった。風味については、実施例17〜22のいずれも評価点が3.9以上で良好であった。これらの結果から、茹で上げ後に冷蔵した調理麺は、粘弾性があり食感が良好で、且つほぐれが良好であることが確認された。
【0053】
<試験例5:餃子の皮>
試験例5では、下記表5に示す小麦粉を用いて、以下の手順により実施例23〜28、比較例6、対照例6の餃子の皮を製造した。市販品の普通小麦粉Bは試験例3と同じものを用いた。
【0054】
まず、横型ピンミキサーを用いて、各デュラム小麦由来の小麦粉または市販の普通小麦粉B100質量部と、食塩1%を溶解した水32質量部を、15分間ミキシングし、生地を作成した。これらの生地を、ロール式製麺法にて、麺帯の厚みが0.9mmになるように薄く伸ばした後、直径90mmになるように生地をくり抜き餃子の皮を得た。
【0055】
実施例23〜28、比較例6、対照例6の餃子の皮で餃子の具15gを包んで成形した餃子を、油を引いたフライパンで1分間焼成し、更に水を150mL入れて5分間蒸し焼きにした。得られた餃子を10人の専門パネラーが以下の評価基準に従って食感及び耳の部分の硬さの評価を行い、その平均値を算出して、小数点第2位を四捨五入した値を評価点とした。食感は焼成直後の餃子で評価し、耳部分の硬さは焼成後に時間が経過して冷めた状態の餃子で評価した。
(食感)
1:対照例5よりモチモチ感がかなり劣る食感
2:対照例5よりモチモチ感がやや劣る食感
3:対照例5と同等のモチモチ感のある食感
4:対照例5よりモチモチがあり、良好な食感
5:対照例5よりモチモチ感が強く、かなり良好な食感
(冷めたときの耳の部分の硬さ)
1:対照例5よりかなり硬い
2:対照例5よりやや硬い
3:対照例5と同等の硬さ
4:対照例5よりややソフト感があり良好
5:対照例5よりソフト感がありかなり良好
試験例5の結果を下記表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
実施例23〜27は対照例6と比較して食感が良好であった。また、実施例28は対照例6とほぼ同等の食感であった。耳の硬さについては、実施例23〜28のいずれも評価点が3.8以上であり、良好であった。これらの結果から、モチモチ感があり良好な食感の餃子得られることが確認された。また、本発明に係るデュラム小麦由来の小麦粉を含有する皮類は、保水力が高く乾燥しにくいため、冷めた後でも耳の部分が硬くなりにくくソフトで良好な食感を有することが確認された。