特許第6743024号(P6743024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6743024
(24)【登録日】2020年7月31日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20200806BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20200806BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20200806BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20200806BHJP
   C08L 35/06 20060101ALI20200806BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20200806BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   C08L33/12
   C08K5/3475
   C08K5/3492
   C08K5/36
   C08L35/06
   C08L69/00
   B32B27/30 A
   B32B27/30 B
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-535552(P2017-535552)
(86)(22)【出願日】2016年8月17日
(86)【国際出願番号】JP2016074019
(87)【国際公開番号】WO2017030147
(87)【国際公開日】20170223
【審査請求日】2019年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-161011(P2015-161011)
(32)【優先日】2015年8月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】野本 祐作
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−105371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/12
B32B 27/30
C08K 5/3475
C08K 5/3492
C08K 5/36
C08L 35/06
C08L 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルに由来する構造単位を100質量%含むメタクリル樹脂(A)5〜90質量%と、少なくとも下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位および下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位とよりなるビニル共重合体(B)10〜95質量%とを含有し、ガラス転移温度が、130〜160℃である樹脂組成物。
【化1】

(式中のRおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
【化2】

(式中のRおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記メタクリル樹脂(A)が、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
メタクリル樹脂(A)30〜60質量%と、ビニル系共重合体(B)40〜70質量%とを含有する請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位を50〜84質量%含有し、環状酸無水物(b2)に由来する構造単位を15〜49質量%含有し、メタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位を1〜35質量%含有する請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
メタクリル酸エステル(b3)がメタクリル酸メチルである請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
紫外線吸収剤を含有する請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール骨格を有することを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記紫外線吸収剤が、トリアジン骨格を有することを特徴とする請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記紫外線吸収剤が、その骨格内に硫黄を含有することを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
2種類以上の紫外線吸収剤を含有する請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物を具備する成形品。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる層と、
ガラス転移温度が130〜160℃の範囲にある熱可塑性樹脂組成物(T)からなる層とを具備する積層体。
【請求項13】
熱可塑性樹脂組成物(T)が、ポリカーボネートを含有する樹脂組成物である請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
熱可塑性樹脂組成物(T)と前記樹脂組成物とのTgの差の絶対値が30℃以下である請求項12又は13に記載の積層体。
【請求項15】
少なくとも一方の表面に、さらに耐擦傷性層を備える請求項1214のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル樹脂とビニル系共重合体とから成る樹脂組成物に関する。また、前記樹脂組成物を含む成形品および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性、耐擦傷性、耐候性などに優れるメタクリル樹脂は、光学部材、照明部材、看板部材、装飾部材等に用いる成形体の材料として有用である。しかし、メタクリル樹脂はガラス転移温度が約110℃と低いため、該樹脂からなる成形体は熱によって変形しやすいという問題を有している。
メタクリル樹脂のガラス転移温度を高める方法として、メタクリル樹脂にスチレンとマレイン酸無水物とからなる共重合樹脂(SMA樹脂)をポリマーブレンドする方法が知られている。例えば、非特許文献1では、メタクリル樹脂とマレイン酸無水物の共重合比率が異なる種々のSMA樹脂とのポリマーブレンドに関して検討しており、マレイン酸無水物を8〜33質量%含むSMA樹脂はメタクリル樹脂と相溶し、メタクリル樹脂と比較して高いガラス転移温度を有することが報告されている。また、特許文献1では、スチレンとマレイン酸無水物とメタクリル酸メチルとからなる共重合体とメタクリル樹脂とのポリマーブレンドが、高いガラス転移温度と低吸水性を有すると報告されている。さらに、特許文献2では、メタクリル樹脂とSMA樹脂とを含有する樹脂組成物からなる層とポリカーボネートからなる層とを備える積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−105371号公報
【特許文献2】国際公開第2015/050051号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. R. BRANNOCK, J. W. BARLOW, and D. R. PAUL, Journal of Polymer Science: Part B: Polymer Physics, Vol. 29, 413-429 (1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法で得られる樹脂組成物は、SMA樹脂の影響により、表面硬度、耐薬品性が低下するという問題がある。SMA樹脂の組成比率を少なくすることで、表面硬度、耐薬品性の低下を抑制することができるが、得られる樹脂組成物のガラス転移温度が不十分となる。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みて成されたものである。その目的とするところは、メタクリル樹脂とSMA樹脂とを含有する樹脂組成物において、メタクリル樹脂の特徴である高い透明性を低下させることなく、表面硬度、耐薬品性、ガラス転移温度の高い樹脂組成物およびそれを含んで成る成形品および積層体を提供することである。
【0007】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、以下の態様において上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
[1] メタクリル酸メチルに由来する構造単位を99質量%以上含むメタクリル樹脂(A)5〜90質量%と、少なくとも下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位および下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位とよりなるビニル共重合体(B)10〜95質量%とを含有する樹脂組成物。
【化1】

(式中のRおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
【化2】

(式中のRおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
[2] 前記メタクリル樹脂(A)が、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を99.5質量%以上含むことを特徴とする[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記メタクリル樹脂(A)が、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が50%以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] メタクリル樹脂(A)30〜60質量%と、ビニル系共重合体(B)40〜70質量%とを含有する[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位を50〜84質量%含有し、環状酸無水物(b2)に由来する構造単位を15〜49質量%含有し、メタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位を1〜35質量%含有する[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] メタクリル酸エステル(b3)がメタクリル酸メチルである[5]に記載の樹脂組成物。
[7] ガラス転移温度が、115〜160℃である[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] 紫外線吸収剤を含有する[1]〜[7]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
[9] 前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール骨格を有することを特徴とする[8]に記載の樹脂組成物。
[10] 前記紫外線吸収剤が、トリアジン骨格を有することを特徴とする[9]に記載の樹脂組成物。
[11] 前記紫外線吸収剤が、その骨格内に硫黄を含有することを特徴とする[8]〜[10]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[12] 2種類以上の紫外線吸収剤を含有する[8]〜[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13] [1]〜[12]のいずれかに記載の樹脂組成物を具備する成形品。
[14] [1]〜[12]のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層と、ガラス転移温度が130〜160℃の範囲にある熱可塑性樹脂組成物(T)からなる層とを具備する積層体。
[15] 熱可塑性樹脂組成物(T)が、ポリカーボネートを含有する樹脂組成物である[14]に記載の積層体。
[16] 熱可塑性樹脂組成物(T)と前記樹脂組成物とのTgの差の絶対値30℃以下である[14]又は[15]に記載の積層体。
[17] 少なくとも一方の表面に、さらに耐擦傷性層を備える[14]〜[16]のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る樹脂組成物は、メタクリル樹脂とSMA樹脂とを含有する樹脂組成物において、メタクリル樹脂の特徴である高い透明性を低下させることなく、表面硬度、耐薬品性、ガラス転移温度の高い樹脂組成物およびそれを含んで成る成形品および積層体を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本明細書で特定する数値は、後述する実施例に記載した方法により測定したときに得られる値を示す。例えば、重量平均分子量Mwは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値であり、後述する実施例に記載した方法により測定したときに得られる値を示している。また、本明細書で特定する数値「A〜B」とは、数値Aと数値Aより大きい値であって、且つ数値Bと数値Bより小さい値を満たす範囲を示す。
【0011】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、メタクリル樹脂(A)と、下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位および下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位を含むビニル系共重合体(B)(以下、「SMA樹脂(B)」と称する)とを含有してなるものである。
【化3】

(式中のRおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
【化4】

(式中のRおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
【0012】
本発明の樹脂組成物中のメタクリル樹脂(A)の含有量は5〜90質量%の範囲である。樹脂組成物中のメタクリル樹脂(A)の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが最も好ましい。また、樹脂組成物中のメタクリル樹脂(A)の含有量は、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以下であることが最も好ましい。本発明の樹脂組成物からなる層は、樹脂組成物中のメタクリル樹脂(A)の含有量が5質量%以上であることで耐擦傷性に優れるものとなり、90質量%以下であることで、他の層と積層した際に高温高湿下における反りの発生を抑制できる。
【0013】
メタクリル樹脂(A)は、全単量体単位のうちに、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と称する)に由来する構造単位を99質量%以上、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは100質量%含む。メタクリル樹脂(A)がMMAに由来する構造単位を99質量%以上含むことにより、本発明の樹脂組成物の耐熱性、耐薬品性を高めることができる。メタクリル樹脂(A)のMMAに由来する構造単位の含有量は、メタクリル樹脂(A)をメタノール中で再沈殿することにより精製した該樹脂を、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて熱分解および揮発成分の分離を行い、得られたMMAと共重合成分(主として、アクリル酸メチル)とのピーク面積の比から算出することができる。
【0014】
本発明の樹脂組成物に含有されるメタクリル樹脂(A)には、全単量体単位のうちに、MMA以外の単量体に由来する構造単位を1質量%以下で含むことができるが、該構造単位を含まないことが好ましい。
【0015】
前記単量体として、MMA以外のメタクリル酸エステルに由来する構造単位が挙げられる。かかるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシルなどのメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸1−メチルシクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘプチル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸アラルキルエステル;などが挙げられる。入手性の観点から、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、およびメタクリル酸tert−ブチルが好ましい。メタクリル樹脂(A)におけるMMA以外のメタクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量は、合計で1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、MMA以外のメタクリル酸エステルに由来する構造単位を含まないことが最も好ましい。
【0016】
また、前記単量体として、メタクリル酸エステル以外の他の単量体に由来する構造単位が挙げられる。かかる他の単量体としては、アクリル酸メチル(以下、「MA」と称する)、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸3−ジメチルアミノエチルなどのアクリル酸エステルが挙げられ、入手性の観点から、MA、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル等のアクリル酸エステルが好ましく、MAおよびアクリル酸エチルがより好ましく、MAが最も好ましい。メタクリル樹脂(A)におけるこれら他の単量体に由来する構造単位の含有量は、合計で1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、メタクリル酸エステル以外の他の単量体に由来する構造単位を含まないことが最も好ましい。
【0017】
メタクリル樹脂(A)は、MMA単独または任意成分である他の単量体を重合することで得られる。かかる重合において、複数種の単量体を用いる場合は、通常、かかる複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合に供する。重合方法に特に制限はないが、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、乳化重合法などの方法でラジカル重合することが好ましい。
【0018】
メタクリル樹脂(A)は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)の下限が、50%以上であることが好ましく、51%以上であることがより好ましく、52%以上であることがさらに好ましい。かかる構造の含有量の下限値が50%以上であることで、本発明の樹脂組成物は耐熱性に優れるものとなる。
【0019】
ここで、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(以下、単に「シンジオタクティシティ(rr)」と称することがある。)は連続する3つの構造単位の連鎖(3連子、triad)が有する2つの連鎖(2連子、diad)が、ともにラセモ(rrと表記する)である割合である。なお、ポリマー分子中の構造単位の連鎖(2連子、diad)において立体配置が同じものをメソ(meso)、逆のものをラセモ(racemo)と称し、それぞれm、rと表記する。
メタクリル樹脂(A)のシンジオタクティシティ(rr)(%)は、重水素化クロロホルム中、30℃で、1H-NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルからテトラメチルシラン(TMS)を0ppmとした際の、0.6〜0.95ppmの領域の面積(X)と0.6〜1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、式:(X/Y)×100にて算出することができる。
【0020】
メタクリル樹脂(A)の重量平均分子量(以下、「Mw」と称する)は40,000〜500,000が好ましく、60,000〜300,000がより好ましく、80,000〜200,000がさらに好ましい。かかるMwが40,000以上であることで、本発明の樹脂組成物は、力学強度に優れるものとなり、500,000以下であることで、SMA樹脂との相溶性が良好となり、本発明の樹脂組成物からなる成形体の透明性を高めることができる。
【0021】
メタクリル樹脂(A)のガラス転移温度は、100℃以上であることが好ましく、105℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましい。かかるガラス転移温度が100℃以上であることで、本発明の樹脂組成物は、耐熱性に優れるものとなる。なお、本明細書におけるガラス転移温度とは、示差走査熱量計を用い、昇温速度10℃/分で測定し、中点法で算出したときの温度である。
【0022】
メタクリル樹脂(A)の23℃水中における飽和吸水率は、2.5質量%以下であることが好ましく、2.3質量%以下であることがより好ましく、2.1質量%以下であることがさらに好ましい。かかる飽和吸水率が2.5質量%以下であることで、本発明の樹脂組成物は、耐湿性に優れるものとなり、吸湿に起因する積層体の反りが抑制できる。なお、本明細書における飽和吸水率は3日間以上真空乾燥した成形品の質量に対する、該成形品を23℃の蒸留水中に浸漬し、経時的に質量を測定し、平衡に達した時点における質量の増加率として測定した値である。
【0023】
メタクリル樹脂(A)のメルトフローレイト(以下、「MFR」と称する)は1〜10g/10分の範囲であることが好ましい。かかるMFRの下限値は1.2g/10分以上であることがより好ましく、1.5g/10分であることがさらに好ましい。また、かかるMFRの上限値は7.0g/10分以下であることがより好ましく、4.0g/10分以下であることがさらに好ましい。MFRが1〜10g/10分の範囲にあると、加熱溶融成形の安定性が良好である。なお、本明細書における本発明の樹脂組成物のMFRとは、メルトインデクサーを用いて、温度230℃、3.8kg荷重下で測定した値である。
【0024】
本発明の樹脂組成物中のSMA樹脂(B)の含有量は10〜95質量%の範囲である。樹脂組成物中のSMA樹脂(B)の含有量は15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%以上であることが最も好ましい。また、樹脂組成物中のSMA樹脂(B)の含有量は90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましく、70質量%以下であることが最も好ましい。本発明の積層体は、樹脂組成物中のSMA樹脂(B)の含有量が10質量%以上であることで他の層と積層した際に、高温高湿下における反りの発生が抑制でき、95質量%以下であることで耐擦傷性に優れる。
【0025】
SMA樹脂(B)は、少なくとも芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(b1)と環状酸無水物に由来する構造単位(b2)とよりなるビニル系共重合体(B)である。
【0026】
一般式(1)中のRおよびR並びに一般式(2)中のRおよびRがそれぞれ独立して表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などの炭素数12以下のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などの炭素数4以下のアルキル基がより好ましい。
【0027】
としては、水素原子、メチル基、エチル基およびt−ブチル基が好ましい。R、R、Rとしては、水素原子、メチル基およびエチル基が好ましい。
【0028】
SMA樹脂(B)中の芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位の含有量は50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、SMA樹脂(B)中の芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位の含有量は84質量%以下であることが好ましく、82質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。かかる含有量が50〜84質量%の範囲であると、本発明の樹脂組成物は耐湿性と透明性に優れるものとなる。但し、SMA樹脂(B)が、芳香族ビニル化合物(b1)と環状酸無水物(b2)の2つの単量体のみから成る場合には、SMA樹脂(B)中の芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位の含有量は50〜85質量%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
芳香族ビニル化合物(b1)としては、例えばスチレン;2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン等の各アルキル置換スチレン;α−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレン;が挙げられ、入手性の観点からスチレンが好ましい。これら芳香族ビニル化合物(b1)は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0030】
SMA樹脂(B)中の環状酸無水物(b2)に由来する構造単位の含有量は15質量%以上であることが好ましく、18質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、SMA樹脂(B)中の環状酸無水物(b2)に由来する構造単位の含有量は49質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。かかる含有量が15〜49質量%の範囲にあることで、本発明の樹脂組成物は耐熱性と透明性に優れるものとなる。但し、SMA樹脂(B)が、芳香族ビニル化合物(b1)と環状酸無水物(b2)の2つの単量体のみから成る場合には、SMA樹脂(B)中の環状酸無水物(b2)に由来する構造単位の含有量は15〜50質量%の範囲とすることが好ましい
【0031】
環状酸無水物(b2)としては、例えば無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられ、入手性の観点から、無水マレイン酸が好ましい。環状酸無水物(b2)は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0032】
SMA樹脂(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)および環状酸無水物(b2)に加え、メタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位を含有していることが好ましい。SMA樹脂(B)中のメタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらにより好ましく、10質量%以上であることが最も好ましい。また、SMA樹脂(B)中のメタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位の含有量は35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、26質量%以下であることがさらに好ましい。かかる含有量が1〜35質量%の範囲にあることで、さらに、透明性、熱安定性に優れるものとなる。
【0033】
メタクリル酸エステル(b3)としては、例えばMMA、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルメタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチル;などが挙げられる。これらのメタクリル酸エステルのうち、アルキル基の炭素数が1〜7であるメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、得られたSMA樹脂の耐熱性や透明性が優れることから、MMAが特に好ましい。また、メタクリル酸エステルは1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
【0034】
SMA樹脂(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)、環状酸無水物(b2)およびメタクリル酸エステル(b3)以外の他の単量体に由来する構造単位を有していてもよい。かかる他の単量体としては、MA、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸3−ジメチルアミノエチルなどのアクリル酸エステルが挙げられる。これら他の単量体は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。SMA樹脂(B)における、かかる他の単量体に由来する構造単位の含有量は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
SMA樹脂(B)は、少なくとも芳香族ビニル化合物(b1)および環状酸無水物(b2)の単量体を重合することにより得られる。単量体として、メタクリル酸エステル(b3)並びに任意成分である他の単量体を加えて重合してもよい。かかる重合においては、通常、用いる単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合に供する。重合方法に特に制限はないが、生産性の観点から、塊状重合法、溶液重合法などの方法でラジカル重合することが好ましい。
【0036】
SMA樹脂(B)のMwは40,000〜300,000の範囲が好ましい。かかるMwが40,000以上であることで、本発明の樹脂組成物は力学強度に優れるものとなり、300,000以下であることで、メタクリル樹脂との相溶性が良好となり、本発明の樹脂組成物からなる成形品の透明性を高めることができる。
【0037】
SMA樹脂(B)のガラス転移温度は、115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、125℃以上であることがさらに好ましい。かかるガラス転移温度が110℃以上であることで、本発明の樹脂組成物は、耐熱性に優れるものとなり、熱に起因する積層体の反りが抑制できる。
【0038】
SMA樹脂(B)の23℃水中における飽和吸水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましい。かかる飽和吸水率が1.0質量%以下であることで、本発明の樹脂組成物は、耐湿性に優れるものとなり、吸湿に起因する積層体の反りが抑制できる。
【0039】
SMA樹脂(B)のMFRは1〜10g/10分の範囲であることが好ましい。かかるMFRの下限値は1.2g/10分以上であることがより好ましく、1.5g/10分であることがさらに好ましい。また、かかるMFRの上限値は7.0g/10分以下であることがより好ましく、4.0g/10分以下であることがさらに好ましい。MFRが1〜10g/10分の範囲にあると、加熱溶融成形の安定性が良好である。
【0040】
本発明の樹脂組成物が含有するメタクリル樹脂(A)とSMA樹脂(B)との質量比(メタクリル樹脂(A)/SMA樹脂(B))は、高温下における反りの発生の抑制、透明性、耐擦傷性の観点から5/95〜90/10の範囲であることが好ましい。かかる質量比は10/90以上であることがより好ましく、15/85以上であることがさらに好ましく、20/80以上であることが特に好ましい。また、かかる質量比は85/15以下であることがより好ましく、80/20以下であることがさらに好ましく、75/25以下であることが特に好ましい。
【0041】
メタクリル樹脂(A)とSMA樹脂(B)の混合は、例えば溶融混合法、溶液混合法等が使用できる。溶融混合法では、例えば一軸又は多軸混練機、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の溶融混練機を用いて、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス雰囲気下で溶融混練を行う。溶液混合法では、メタクリル樹脂(A)とSMA樹脂(B)とを、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に溶解させて混合する。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、メタクリル樹脂(A)とSMA樹脂(B)以外の他の重合体を含有してもよい。かかる他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン、エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;メタクリル酸メチル−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDMなどのオレフィン系ゴムなどが挙げられる。他の重合体は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
該樹脂組成物中における他の重合体の含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて各種添加剤を含有していてもよい。かかる添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染料・顔料、光拡散剤、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などが挙げられる。これら添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定でき、該樹脂組成物100質量部に対して、例えば、酸化防止剤の含有量は0.01〜1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01〜3質量部、光安定剤の含有量は0.01〜3質量部、滑剤の含有量は0.01〜3質量部、染料・顔料の含有量は0.01〜3質量部とすることが好ましい。
【0044】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられる。これらの中、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。リン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤/フェノール系酸化防止剤を質量比で0.2/1〜2/1で使用するのが好ましく、0.5/1〜1/1で使用するのがより好ましい。
【0045】
リン系酸化防止剤としては、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(株式会社ADEKA製「アデカスタブHP−10」)、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイト(BASFジャパン株式会社製「IRGAFOS168」)、3,9−ビス(2,6−ジ‐tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(株式会社ADEKA製「アデカスタブPEP−36」などが好ましい。
【0046】
フェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASFジャパン株式会社製「IRGANOX1010」、オクタデシル−3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASFジャパン株式会社製「IRGANOX1076」)などが好ましい。
【0047】
熱劣化防止剤としては、実質上無酸素の条件下で高温にさらされたときに生じるポリマーラジカルを補足することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。該熱劣化防止剤としては、2−t−ブチル−6−(3’‐t−ブチル−5’−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学株式会社製「スミライザーGM」)、2,4−ジt−アミル−6−(3’,5’−ジt−アミル−2’−ヒドロキシ−α―メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学株式会社製「スミライザーGS」)などが好ましい。
【0048】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤は、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリァジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、トリァジン類、または波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm・mol−1cm−1以下である紫外線吸収剤が好ましい。これらの紫外線吸収剤は、単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いても良い。
【0049】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いので、本発明の樹脂組成物を光学用途に適用する場合に用いる紫外線吸収剤として好ましい。ベンゾトリアゾール類としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BASFジャパン株式会社製「商品名TINUVIN329」)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASFジャパン株式会社製「商品名TINUVIN234」)、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール](株式会社ADEKA製「アデカスタブLA−31」)などが好ましい。
【0050】
また、波長380nm付近の波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(株式会社ADEKA製「アデカスタブLA−F70」)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASFジャパン株式会社製「TINUVIN477」や「TINUVIN460」)などが挙げられる。
【0051】
骨格内に硫黄を含有する紫外線吸収剤は、紫外線吸収能に加えて、樹脂組成物の屈折率を高めることができるため、本発明の樹脂組成物を光学用途に適応する場合に好ましい。骨格内に硫黄を含有する紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール類として、2−(5−オクチルチオ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−tert−ブチル−4−メチルフェノール(Compound A)、2−(5−ドデシルチオ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−tert−ブチル−4−メチルフェノール(Compound B)が挙げられる。また、トリアジン類として、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−メチルチオフェニル)−1,3,5−トリアジン(CompoundC)、2,4、6−(2−ヒドロキシ−4−へキシルチオフェニル)−1,3,5−トリアジン(CompoundD)などが挙げられる。
骨格内に硫黄を含有する紫外線吸収剤は、樹脂組成物の屈折率を高めることができるが、波長380nm以上の可視光領域に吸収を有することがあり、樹脂組成物が着色する原因となることがある。そのため、他の紫外線吸収剤と併用することが好ましい。
【0052】
紫外線吸収剤を併用して用いる場合、紫外線吸収剤のうち、骨格内に硫黄を含有しないベンゾトリアゾール類を[1]、骨格内に硫黄を含有しないトリアゾール類を[2]、骨格内に硫黄を含有する紫外線吸収剤を[3]と標記すると、例えば、[1]と[2]; [1]と[3]; [2]と[3]: [1]と[2]と[3]; の組み合わせが挙げられる。さらに、[1]〜[3]のいずれにも該当しない紫外線吸収剤を[4]を併用しても良い。
【0053】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6一テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類が挙げられる。例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(株式会社ADEKA製「アデカスタブLA−77Y」)などが挙げられる。
【0054】
滑剤は、ポリマーと金属表面との滑りを調整し、凝着や粘着を防ぐことで離型性および加工性などを改善する効果があると言われる化合物である。例えば、高級アルコール、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪族アミド、脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらの中、本発明の樹脂組成物との融和性の観点から、炭素原子数12〜18の脂肪族1価アルコールが好適である。例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどが挙げられる。
【0055】
本発明の樹脂組成物に他の重合体および/または添加剤を含有させる際は、メタクリル樹脂(A)および/またはSMA樹脂(B)を重合する際に添加しても、メタクリル樹脂(A)およびSMA樹脂(B)を混合する際に添加しても、メタクリル樹脂(A)およびSMA樹脂(B)を混合した後に添加してもよい。
【0056】
本発明の樹脂組成物のガラス転移温度は、115〜160℃の範囲であることが好ましい。かかるガラス転移温度の下限値は120℃以上がより好ましく、130℃以上であることがさらにより好ましく、140℃以上であることが最も好ましい。また、かかるガラス転移温度の上限値は155℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が115〜160℃の範囲であることにより、本発明の樹脂組成物からなる成形体の高温下における反りの発生が抑制できる。
【0057】
本発明の樹脂組成物の23℃水中における飽和吸水率は、1.9質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。かかる飽和吸水率が1.9質量%以下であることで、本発明の樹脂組成物は、耐湿性に優れるものとなり、吸湿に起因する積層体の反りが抑制できる。
【0058】
本発明の樹脂組成物のMFRは1〜10g/10分の範囲であることが好ましい。かかるMFRの下限値は1.5g/10分以上であることがより好ましく、2.0g/10分であることがさらに好ましい。また、かかるMFRの上限値は7.0g/10分以下であることがより好ましく、4.0g/10分以下であることがさらに好ましい。MFRが1〜10g/10分の範囲にあると、加熱溶融成形の安定性が良好である。
【0059】
本発明の樹脂組成物を、共押出成形法、Tダイラミネート成形法、押出被覆法などの押出成形法;インサート射出成形法、二色射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法、インジェクションブレス成形法などの射出成形法;ブロー成形法;カレンダー成形法;プレス成形法;スラッシュ成形法などの方法で加熱溶融成形することによって各種成形品を得ることができる。本発明の樹脂組成物は、高温下で長時間溶融成形してもゲルが生成し難いので、高温度かつ長期滞留条件を要する成形品の製造にも適する。本発明の樹脂組成物は、シート、フィルム、板などのような薄く広い成形品の製造に好適である。
【0060】
[積層体]
本発明の積層体は、本発明の樹脂組成物(以下、樹脂組成物[C1]ともいう)からなる少なくとも1層と、他の材料からなる少なくとも1層とを有するものである。本発明の積層体に用いられる他の材料は、特に限定されない。例えば、樹脂などの有機材料;金属単体、金属酸化物などの無機材料が挙げられる。
【0061】
本発明の一実施形態に係る積層体は、樹脂組成物[C1]からなる少なくとも1層と、他の層である樹脂組成物[C2]からなる少なくとも1層とを有するものである。
【0062】
樹脂組成物[C2]に含有される樹脂は特に限定されない。該樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェノキシ樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;エネルギー線硬化性樹脂などを挙げることができる。樹脂組成物[C2]の樹脂は1種単独でまたは2種以上を組みわせて用いることができる。これらのうち、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリカーボネートがより好ましい。
【0063】
樹脂としてポリカーボネートを採用した場合、樹脂組成物[C2]に含有されるポリカーボネートの量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。係るポリカーボネートの重量平均分子量は、好ましくは20,000〜100,000である。ポリカーボネートの重量平均分子量が前記範囲内にあると、樹脂組成物[C2]の耐熱性および耐衝撃性が向上し、且つ樹脂組成物[C1]と樹脂組成物[C2]とからなる積層シートを優れた成形加工性と高い生産性にて製造することができる。また、前記ポリカーボネートは、Mw/Mnが、好ましくは1.7〜2.6、より好ましくは1.7〜2.3、さらに好ましくは1.7〜2.0である。
【0064】
上記ポリカーボネートは、市販品を用いてもよく、例えば、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー(登録商標)」、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロン/ノバレックス(登録商標)」、出光興産株式会社製「タフロン(登録商標)」、帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標)」などが好適に使用できる。
【0065】
本発明に用いられる樹脂組成物[C2]は、ガラス転移温度が130〜160℃である熱可塑性樹脂組成物(T)であることが好ましい。この熱可塑性樹脂組成物(T)は、ポリカーボネートを含有する樹脂組成物であることが好ましい。また、樹脂組成物[C2]は、そのガラス転移温度が、樹脂組成物[C1]のガラス転移温度と同程度であることが好ましい。具体的に、樹脂組成物[C2]のガラス転移温度と樹脂組成物[C1]のガラス転移温度との差の絶対値|ΔTg|は、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下である。|ΔTg|が30℃以下であると、積層体の高温高湿下での反りの発生を抑制する効果がより高くなる。
【0066】
本発明に用いられる樹脂組成物[C2]は、23℃水中における飽和吸水率が0.1〜1.0質量%である熱可塑性樹脂組成物(T)であることが好ましい。この熱可塑性樹脂組成物(T)は、ポリカーボネートを含有する樹脂組成物であることが好ましい。また、樹脂組成物[C2]は、その飽和吸水率が、樹脂組成物[C1]の飽和吸水率と同程度であることが好ましい。具体的に、樹脂組成物[C2]の飽和吸水率と樹脂組成物[C1]の飽和吸水率との差の絶対値|Δ飽和吸水率|は、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。両樹脂の飽和吸水率差が1.5質量%以下であると、積層体の高温高湿下での反りの発生を抑制する効果がより高くなる。
【0067】
本発明に用いられる樹脂組成物[C2]は、メルトボリュームレート(以下、「MVR」と称する)が1〜30cm/10分の範囲である熱可塑性樹脂組成物(T)であることが好ましい。該MVRは、3〜20cm/10分の範囲であることがより好ましく、6〜10cm/10分の範囲であることがさらに好ましい。
なお、本明細書におけるMVRとは、メルトインデクサーを用いて、温度300℃、1.2kg荷重下の条件で測定したものである。
【0068】
本発明に用いられる樹脂組成物[C2]には、耐熱分解性、耐熱変色性、耐光性などを向上させるために、公知の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などを挙げることができる。
【0069】
本発明の別の一実施形態に係る積層体は、樹脂組成物[C1]からなる少なくとも1層[L1]と、樹脂組成物[C2]からなる少なくとも1層[L2]と、少なくとも一つの機能性付与層[L3]とを有するものである。機能性付与層[L3]は、特に限定されない。例えば、耐擦傷性層、ハードコート層、帯電防止層、防汚層、摩擦低減層、防眩層、反射防止層、粘着層、衝撃強度付与層などが挙げられる。機能性付与層[L3]は、公知の方法で形成することができる。例えば、ハードコート層は、ハードコート用の樹脂溶液を塗布し、乾燥、硬化させることによって得ることができる。反射防止層は、低屈折率膜と高屈折率膜とを蒸着などで積層することによって得ることができる。機能性付与層[L3]のうち、例えば耐擦傷性層、ハードコート層、帯電防止層、防汚層、摩擦低減層、防眩層、反射防止層などは、一般に、積層体の最も外側に設けられる。機能性付与層[L3]は、1種だけを設けてもよいし、複数種を設けてもよい。本発明の積層体は、耐擦傷性を高める観点からは、少なくとも一方の表面に、耐擦傷性層を有することが好ましい。
【0070】
本発明の積層体における層構成は特に制限されない。本発明の積層体の積層順序としては、樹脂組成物[C1]からなる層を[L1]層、樹脂組成物[C2]からなる層を[L2]層、機能性付与層[L3]を「L3」層と標記すると、例えば、[L1]層/[L2]層、[L1]層/[L2]層/[L1]層、[L2]層/[L1]層/[L2]層、[L1]層/[L2]層/[L1]層/[L2]層/[L1]層、[L1]層/[L2]層/[L3]層、[L3]層/[L1]層/[L2]層、[L3]層/[L1]層/[L2]層/[L3]層、[L3]層/[L1]層/[L2]層/[L1]層/[L3]層、[L1]層/[L2]層/[L3]層/[L2]層/[L1]層、などを挙げることができる。例えば、[L3]層がハードコート層である場合、[L3]層/[L1]層/[L2]層、[L3]層/[L1]層/[L2]層/[L3]層、[L3]層/[L1]層/[L2]層/[L1]層/[L3]層が好ましい。
【0071】
本発明は、シート、薄板、フィルムなどのような形状の積層体において有用である。本発明に係る積層体を保護カバーとして用いる場合、保護される面(被保護面)から見て樹脂組成物[C1]層が樹脂組成物[C2]層よりも外側に位置するように配置することが好ましい。例えば、 [L1]層/[L2]層の層構成からなる積層体を、[L1]層/[L2]層/被保護面の順に配置したり、[L1]層/[L2]層/[L1]層の層構成からなる積層体を、[L1]層/[L2]層/[L1]層/被保護面の順に配置したりすることが好ましい。
【0072】
本発明に係る積層体の総厚さは用途により設定可能であるが、好ましくは0.2〜2mm、より好ましくは0.3〜1.5mmである。薄すぎると剛性が不十分となる傾向がある。厚すぎると液晶表示装置などの軽量化の妨げになる傾向がある。
【0073】
本発明に係る積層体における樹脂組成物[C1]からなる層の厚さは0.02〜0.5mmの範囲であることが好ましい。かかる層の厚さの下限値は0.03mm以上であることがより好ましく、0.05mm以上であることがさらに好ましい。また、かかる層の厚さの上限値は0.3mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることがさらに好ましい。かかる厚さが0.01mm未満であると耐擦傷性及び耐候性が不足する場合がある。また0.5mmを超えると耐衝撃性が不足する場合がある。
【0074】
高温下における反りの発生を抑制する観点から、本発明に係る積層体は厚さ方向に対称となるような積層順序とすることが好ましく、さらに各層の厚さも対称となっていることがより好ましい。
【0075】
本発明に係る積層体は、その製造方法によって特に制限はなく、例えば、多層押出し成形、多層ブロー成形、多層プレス成形、多色射出成形、インサート射出成形などの多層成形法によって製造することができる。これら多層成形法のうち、生産性の観点から、樹脂組成物[C1]と樹脂組成物[C2]との多層押出し成形が好ましい。
多層押出し成形の方法は特に限定されず、熱可塑性樹脂の多層積層体の製造に用いられる公知の多層押出し成形法が採用され、例えば、フラットなTダイと表面が鏡面仕上げされたポリシングロールを備えた装置によって成形される。Tダイの方式としては、加熱溶融状態の樹脂組成物[C1]および樹脂組成物[C2]がTダイ流入前に積層されるフィードブロック方式、あるいは樹脂組成物[C1]および樹脂組成物[C2]がTダイ内部で積層されるマルチマニホールド方式などを採用できる。積層体を構成する各層間の界面の平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
【0076】
樹脂組成物[C1]および樹脂組成物[C2]は、多層成形する前に、フィルターにより溶融濾過することが好ましい。溶融濾過した各樹脂組成物を用いて多層成形させることにより、異物やゲル等に由来する欠点の少ない積層シートが得られる。溶融濾過に使用されるフィルターは、特に限定されない。該フィルターは、使用温度、粘度、求められる濾過精度などの観点で公知のものの中から適宜選択される。フィルターの具体例としては、ポリプロピレン、コットン、ポリエステル、ビスコースレーヨン、グラスファイバー等からなる不織布;フェノール樹脂含浸セルロースフィルム;金属繊維不織布焼結フィルム;金属粉末焼結フィルム;金網;あるいはこれらを組み合わせてなるものを挙げることができる。中でも耐熱性、耐久性および耐圧力性の観点から金属繊維不織布焼結フィルムを複数枚積層して用いることが好ましい。
前記フィルターの濾過精度に特に制限はないが、30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0077】
本発明の樹脂組成物によれば、優れた透明性、表面硬度および耐熱性を有する。したがって、本発明に係る樹脂組成物を溶融成形してなる成形品および積層体は、外観が良好であり、耐擦傷性に優れ、さらに寸法変化が小さいため、光学部材などに好適に用いることができる。
【0078】
本発明に係る成形品、成形品および積層体の用途としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機ディスプレイカバーなどの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、透明導電フィルム、導光フィルム、偏光子保護フィルム、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスクなどを挙げることができる。
【0079】
以下に実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
[樹脂組成物] 実施例1a〜3aおよび比較例1a〜6aで得られた樹脂組成物の物性を以下の方法で測定した。
【0081】
<全光線透過率>
射出成形機(住友重機械工業株式会社製、SE−180DU−HP)を用いて、シリンダ温度280℃、金型温度75℃および成形サイクル1分の条件で本発明に係る樹脂組成物を射出成形して、厚さ2mm、一辺50mmの正方形の試験片を得た。各々の試験片をJIS‐K7361‐1の方法に準拠し、日本電色工業株式会社製分光色差計SE5000を用いて測定した。
【0082】
<ヘイズ>
前記と同様の方法により、本発明に係る樹脂組成物から成る試験片を得た。各々の試験片をJIS‐K7361の方法に準拠し、日本電色工業株式会社製分光色差計SE5000を用いて測定した。
【0083】
<ロックウェル硬度>
前記と同様の方法により、本発明に係る樹脂組成物から成る試験片を得た。各々の試験片をJIS−K7202‐2の方法に準拠し、東洋精機社製ロックウェル硬度試験機DXT−FAを用いて、Mスケールにて測定した。
【0084】
<ガラス転移温度(Tg)>
JIS K7121に準拠して、本発明に係る樹脂組成物を、室温から250℃まで20℃/分で昇温し、5分間保持し、‐100℃まで10℃/分で冷却し、次いで‐100℃から250℃までを10/分で昇温させる温度条件において示差走査熱量(DSC)分析を行った。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度として採用した。測定装置としてTA INSTRUMENTS社製Q−20を用いた。
【0085】
<飽和吸水率>
前記と同様の方法により、本発明に係る樹脂組成物から成る試験片を得た。温度80℃、5mmHgの条件下において試験片を24時間真空乾燥させた。次いで、試験片をデシケータ中で放冷した。デシケータから試験片を取り出して直ぐに質量(初期質量)を測定した。
次いで該試験片を23℃の蒸留水に浸漬した。試験片を水から取り出し、表面に付着した水を拭き取って質量を測定した。該試験片を蒸留水に浸漬し、上記と同様にして質量を測定した。質量変化がなくなるまで蒸留水への浸漬、質量測定を繰り返した。質量変化がなくなったときの質量(吸水質量)と、初期質量とから、下式によって飽和吸水率を算出した。
飽和吸水率(%)=[(吸水質量−初期質量)/初期質量]×100
【0086】
<耐薬品性>
前記と同様の方法により、本発明に係る樹脂組成物から成る試験片を得た。表1に示す日焼け止め剤0.05gを試験片表面に均一に塗布し、その上に試験用添付白布(単一繊維布)を2枚、アルミニウム板(75mm×150mm×1mm)および錘(500g)を載せて、表1に示す温度下で一時間放置した。その後、錘、アルミニウム板、試験用添付白布を取り除き、中性洗剤を染み込ませた不織布ワイパー(コットンシーガル)で試験片表面を水洗した。自然乾燥後、試験片表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
○ : 外観変化なし
△ : 添付白布痕はないが、僅かに白化
× : 添付白布痕あり、著しく白化
【0087】
【表1】

【0088】
<各種材料例>
本発明に係る樹脂組成物を含有するメタクリル樹脂(A)およびビニル共重合体(B)について、下記に示す材料を用いた。
メタクリル樹脂(A1):株式会社クラレ製パラペット
(Mw=82,000、MMA共重合比率=100%、MA共重合比率=0%、rr比率=52%)
メタクリル樹脂(A2):株式会社クラレ製パラペット
(Mw=120,000、MMA共重合比率=93.6%、MA共重合比率=6.4%、rr比率=48%)
メタクリル樹脂(A3):株式会社クラレ製パラペット
(Mw=79,000、MMA共重合比率=88.7%、MA共重合比率=11.3%、rr比率=45%)
ビニル共重合体(B):電気化学工業株式会社製レジスファイ
(Mw=80,000、スチレン/無水マレイン酸/MMA=56%/18%/26%)
【0089】
<実施例1a>
メタクリル樹脂(A1)70質量部、ビニル系共重合体(B)30質量部を2軸混練機にてシリンダ温度230℃で溶融混練した。その後、溶融樹脂を押し出して、ペレット状の樹脂組成物[1]を得た。樹脂組成物[1]の組成および物性評価の結果を表2に示す。
【0090】
<実施例2a>
樹脂組成物の組成比率を、メタクリル樹脂(A1)50質量部、ビニル系共重合体(B)50質量部とした以外は実施例1aと同じ手法にて樹脂組成物[2]を得た。樹脂組成物[2]の組成および物性を表2に示す。
【0091】
<実施例3a>
樹脂組成物の組成比率を、メタクリル樹脂(A1)30質量部、ビニル系共重合体(B)70質量部とした以外は実施例1aと同じ手法にて樹脂組成物[3]を得た。樹脂組成物[3]の組成および物性を表2に示す。
【0092】
<比較例1a>
メタクリル樹脂(A1)の代わりにメタクリル樹脂(A2)を用いた以外は実施例1aと同じ手法にて樹脂組成物[4]を得た。樹脂組成物[4]の組成および物性を表2に示す。
【0093】
<比較例2a>
メタクリル樹脂(A1)の代わりにメタクリル樹脂(A2)を用いた以外は実施例2aと同じ手法にて樹脂組成物[5]を得た。樹脂組成物[5]の組成および物性を表2に示す。
【0094】
<比較例3a>
メタクリル樹脂(A1)の代わりにメタクリル樹脂(A2)を用いた以外は実施例3aと同じ手法にて樹脂組成物[6]を得た。樹脂組成物[6]の組成および物性を表2に示す。
【0095】
<比較例4a>
メタクリル樹脂(A1)の代わりにメタクリル樹脂(A3)を用いた以外は実施例1aと同じ手法にて樹脂組成物[7]を得た。樹脂組成物[7]の組成および物性を表2に示す。
【0096】
<比較例5a>
メタクリル樹脂(A1)の代わりにメタクリル樹脂(A3)を用いた以外は実施例2aと同じ手法にて樹脂組成物[8]を得た。樹脂組成物[8]の組成および物性を表2に示す。
【0097】
<比較例6a>
メタクリル樹脂(A1)の代わりにメタクリル樹脂(A3)を用いた以外は実施例3aと同じ手法にて樹脂組成物[9]を得た。樹脂組成物[9]の組成および物性を表2に示す。
【0098】
【表2】


【0099】
以上の結果が示すとおり、本発明に係る樹脂組成物(実施例1a〜3a)は、同組成の本発明に係る樹脂組成物(比較例1a〜6a)と比較して、透明性を維持したまま、高いガラス転移温度、表面硬度と低い飽和吸水率を有していることから、耐熱性、耐擦傷性および耐湿性に優れる。また、耐薬品性に優れる。
【0100】
[積層体] 実施例1b〜3bおよび比較例1b〜6bで得られた積層体の物性を以下の方法で測定した。
【0101】
<透明性>
本発明に係る積層体の全光線透過率をJIS‐K7361‐1の方法に準拠し、日本電色工業株式会社製分光色差計SE5000を用いて測定した。また、本発明に係る積層体のヘイズをJIS‐K7361の方法に準拠し全光線透過率と同様の装置を用いて測定した。全光線透過率が90%以上かつヘイズが0.3%以下のものを○、全光線透過率が90%以上またはヘイズが0.3%以下のものを△、全光線透過率が90%未満かつヘイズが0.3%超のものを×とした。
【0102】
<鉛筆硬度>
テーブル移動式鉛筆引掻き試験機(型式P)(東洋精機株式会社製)を用いて測定した。本発明に係る積層体の樹脂組成物からなる層の表面に対して角度45度、荷重750gで鉛筆の芯を押し付けながら引っ掻き傷の傷跡の有無を確認した。鉛筆の芯の硬度は順に増していき、傷跡を生じた時点よりも1段階軟かい芯の硬度を鉛筆硬度とした。鉛筆硬度が、H以上のものを○、Fであったものを△、F未満のものを×とした。
【0103】
<反り変化量>
本発明に係る積層体から、押出流れ方向に対して垂直な方向が短辺、押出流れ方向に対して平行な方向が長辺となるように、短辺65mm、長辺110mmの長方形試験片を切り出した。試験片の短辺を摘み吊り、温度75℃、相対湿度50%に設定した環境試験機の中に、4時間放置した後、試験片を25℃に放冷した結果、試験片は弓状に反った。これは成形条件の影響により発生した反りと思われる。弓状に反った試験片を、定盤の上に該試験片を端部が定盤に接するように(即ち、試験片が山形になるように)置き、定盤と試験片との隙間の最大距離(通常、試験片の長辺中央部付近が最大となる。)を、隙間ゲージを用いて測定した。この値を初期反り量とした。
続いて、弓状に反った試験片の短辺を摘み吊り、温度85℃、相対湿度85%に設定した環境試験機の中に、72時間放置した。試験片を25℃、相対湿度50%に設定した環境試験機内で4時間放冷後、上記と同じ方法で定盤と試験片との隙間の最大距離を測定した。この測定値と初期反り量との差を「反り変化量」と定義した。反り変化量の絶対値が0.5mm未満のものを○、0.5以上1.0未満のものを△、1.0mm以上のものを×とした。
【0104】
<耐薬品性>
積層体を一辺50mmの正方形に切り出し、試験片とした。表1に示す日焼け止め剤0.05gを試験片の樹脂組成物からなる層の表面に均一に塗布し、その上に試験用添付白布(単一繊維布)を2枚、アルミニウム板(75mm×150mm×1mm)および錘(500g)を載せて、表1に示す温度下で一時間放置した。その後、錘、アルミニウム板、試験用添付白布を取り除き、中性洗剤を染み込ませた不織布ワイパー(コットンシーガル)で試験片表面を水洗した。自然乾燥後、試験片表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
○ : 外観変化なし
△ : 添付白布痕はないが、僅かに白化
× : 添付白布痕あり、著しく白化
【0105】
<ポリカーボネート層の耐光性>
積層体試験片およびポリカーボネート層を有さない樹脂組成物[1]〜[3]の厚さ80μmの単層フィルムの試験片に紫外線を照射し、JIS Z−8730に準じて色差(ΔE)を測定した。積層体の試験片は樹脂組成物[1]〜[3]層の側から紫外線を照射した。ポリカーボネート層を有する積層体の色差から樹脂組成物単層フィルムの色差を引いた値を、ポリカーボネート層の色差とした。
試験方法:
試験機:岩崎電気社製アイ スーパーUVテスターSUV−F1型
測色計:日立製作所製カラーアナライザーC-2000型
暴露時間:24時間
【0106】
<実施例1b>
シリンダ温度245〜260℃、吐出量430kg/時に設定された、軸径150mmの単軸押出機[I]にポリカーボネート(住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「SDポリカ(登録商標)PCX」。以下同じ)のペレットを連続的に投入した。シリンダ温度215〜230℃、吐出量37kg/時に設定された、軸径65mmの単軸押出機[II]に樹脂組成物[1]のペレットを連続的に投入した。
押出機[I]および押出機[II]から同時にポリカーボネートと樹脂組成物[1]とを押出して、それぞれ予め樹脂を充填させたフィルター孔サイズ20μmのプリーツ型円筒フィルター(富士フィルター工業株式会社製)を通過後に、ジャンクションブロックに導入し、次いで樹脂吐出口幅1600mm、リップ間隔2.0mmのマルチマニホールドダイ(ノードソン株式会社)で温度245℃にてポリカーボネートと樹脂組成物[1]とを共押出成形してシート状にした。このシートを、横4本ロールの1,2番ロール間にてバンク成形し、4本ロールにて鏡面を転写しながら冷却し、厚さ80μmの樹脂組成物[1]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0107】
<実施例2b>
樹脂組成物[1]を樹脂組成物[2]に変えた以外は実施例1bと同じ方法にて厚さ80μmの樹脂組成物[2]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0108】
<実施例3b>
樹脂組成物[1]を樹脂組成物[3]に変えた以外は実施例1bと同じ方法にて厚さ80μmの樹脂組成物[3]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0109】
<実施例1c>
実施例1bにおいて、樹脂組成物[1]100質量部あたりにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(LA31RG;アデカ社製)1.0質量部を添加した以外は同様にして積層体を得た。紫外線照射によるポリカーボネート層のΔEは、実施例1bで15以上であったのに対し、実施例1cで0.5以下であった。
<実施例2c>
実施例1cにおいて、樹脂組成物[2]に変えた以外は同様にして積層体を得た。ポリカーボネート層のΔEは、実施例2bで15以上であったのに対し、実施例2cで0.5以下であった。
<実施例3c>
実施例1cにおいて、樹脂組成物[3]に変えた以外は同様にして積層体を得た。ポリカーボネート層のΔEは、実施例3bで15以上であったのに対し、実施例3cで0.5以下であった。
【0110】
<比較例1b>
樹脂組成物[1]を樹脂組成物[4]に変えた以外は実施例1bと同じ方法にて厚さ80μmの樹脂組成物[4]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0111】
<比較例2b>
樹脂組成物[1]を樹脂組成物[5]に変えた以外は実施例1bと同じ方法にて厚さ80μmの樹脂組成物[5]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0112】
<比較例3b>
樹脂組成物[1]を樹脂組成物[6]に変えた以外は実施例1bと同じ方法にて厚さ80μmの樹脂組成物[6]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0113】
<比較例4b>
樹脂組成物[1]を樹脂組成物[7]に変えた以外は実施例1bと同じ方法にて厚さ80μmの樹脂組成物[7]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0114】
<比較例5b>
樹脂組成物[1]を樹脂組成物[8]に変えた以外は実施例1bと同じ方法にて厚さ80μmの樹脂組成物[8]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0115】
<比較例6b>
樹脂組成物[1]を樹脂組成物[9]に変えた以外は実施例1bと同じ方法にて厚さ80μmの樹脂組成物[9]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。
【0116】
実施例1b〜3b、比較例1b〜6bの評価結果を表3に示す。
【表3】
【0117】
以上の結果が示すとおり、本発明に係る積層体(実施例1b〜3b)は、透明性を保持したまま、高い鉛筆硬度と耐薬品性を有する。さらに本発明に係る積層体は、高温高湿下に放置しておいても反りが少ないことがわかる。