特許第6743491号(P6743491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6743491
(24)【登録日】2020年8月3日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】廃酸の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20060101AFI20200806BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20200806BHJP
   C02F 11/06 20060101ALI20200806BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20200806BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   C02F1/62 ZZAB
   C02F11/00 J
   C02F11/06 A
   C02F1/20 C
   B01D53/14 200
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-108595(P2016-108595)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-213507(P2017-213507A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】田邉 秋宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 茂
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 泰輔
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−020103(JP,A)
【文献】 特開2011−026687(JP,A)
【文献】 特開2005−224686(JP,A)
【文献】 特開2005−154196(JP,A)
【文献】 特開2012−012230(JP,A)
【文献】 特開2010−031302(JP,A)
【文献】 特開2007−092124(JP,A)
【文献】 特開平11−047764(JP,A)
【文献】 特開2015−182052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/62
C02F 11/00 − 11/20
C02F 1/20 − 1/26
B01D 53/14 − 53/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬排ガスの処理の際に生じる重金属の銅、砒素、亜鉛、及びカドミウム並びに硫酸分を含む廃酸に硫化剤を添加して該重金属を硫化させた後、得られたスラリーを第1硫化澱物と第1清澄液とに固液分離する第1硫化工程と、前記第1清澄液にカルシウム系中和剤を添加して前記硫酸分から石膏を生成させた後、この石膏を含むスラリーを石膏と石膏終液に固液分離する石膏製造工程と、前記石膏終液に硫化剤を添加して残存する重金属を硫化させた後、得られたスラリーを第2硫化澱物と第2清澄液とに固液分離する第2硫化工程とを備え、前記第1硫化工程で添加する硫化剤の量を、前記第2硫化澱物の砒素品位が0.1〜3.0質量%となるように調整すること、及び前記第1硫化工程の処理液から発生するガスを捕集し、該ガスを前記廃酸の少なくとも一部と気液接触させることを特徴とする廃酸の処理方法。
【請求項2】
前記第2硫化澱物に含まれる硫黄分を除去する硫黄除去工程、又は該硫黄分を酸化して硫酸塩又は亜硫酸塩とする硫黄酸化工程を更に有することを特徴とする、請求項1に記載の廃酸の処理方法。
【請求項3】
前記第1硫化工程の前に前記廃酸を重金属を含有し且つpHが3〜14の水溶液からなる希釈液で希釈することを特徴とする、請求項1又は2に記載の廃酸の処理方法。
【請求項4】
前記第1清澄液に空気を吹き込みながら、該第1清澄液中を浮上して液面から発生したガスを捕集し、該ガスを吸収剤に気液接触させることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の廃酸の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬排ガスの処理の際に生じる廃酸の処理方法に関し、特に廃酸に含まれるカドミウムや亜鉛を分離回収することが可能な廃酸の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬プロセスにおいて発生する銅製錬排ガスには亜硫酸ガス(SO)が含まれるため、従来、硫酸工場に送って転化工程及び吸収工程を経て硫酸を製造することが行われている。しかし、上記銅製錬排ガスは亜硫酸ガス以外にCu等の重金属の煙灰やヒュームを含んでいるため、上記転化工程で処理する前にガス精製工程で洗浄水を用いて重金属を除去した後、後段の乾燥工程で乾燥している。
【0003】
上記ガス精製工程で使用した重金属を含む洗浄水は、連続的又は定期的に抜き出して処理している。上記銅製錬排ガスはSO以外にSOを含んでいるため、上記の抜き出した洗浄排水は当該SO由来の硫酸分を含んでいる。このため、硫酸分を含む上記洗浄排水(以降、廃酸と称する)の処理ではこれら硫酸分と重金属の処理が必要になる。かかる廃酸の処理方法として、特許文献1には、廃酸に炭酸カルシウムを添加して硫酸分を石膏として除去した後、水硫化ナトリウムを添加して重金属を硫化澱物として除去する技術が開示されている。また、特許文献2には、廃酸を希釈してから水硫化ナトリウムを添加して重金属を硫化澱物として除去した後、炭酸カルシウムを添加して不純物品位の低い石膏を製造する方法が開示されている。
【0004】
近年、銅製錬工場では夾雑物を多く含む様々な原料を処理することが多くなってきている。これに伴い、上記の硫化澱物にはCu以外の重金属の占める割合が増える傾向にある。硫化澱物は一般に銅製錬工程に繰り返して処理するため、特定の重金属については系内での循環量が増大することになり、現状の廃酸の処理装置の処理能力を超えることが懸念されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−275895号公報
【特許文献2】特開2005−154196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の廃酸の処理方法がかかえる問題点に鑑みてなされたものであり、廃酸に含まれるCu以外の重金属を分離回収して製錬工程に繰り返す硫化澱物の量を減らすことが可能な廃酸の処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、廃酸から生成される硫化澱物には重金属(鉄以上の比重を持つ金属)として銅や砒素のほか有価金属である亜鉛やカドミウムを比較的多く含んでいるため、廃酸に対して2回に分けて硫化剤を添加して第1及び第2の硫化澱物を生成すると共に、それぞれの硫化反応条件を調整することで、第2の硫化澱物において銅や砒素の分配量を減らしつつ亜鉛とカドミウムの分配量を増やし得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る廃酸の処理方法は、銅製錬排ガスの処理の際に生じる重金属の銅、砒素、亜鉛、及びカドミウム並びに硫酸分を含む廃酸に硫化剤を添加して該重金属を硫化させた後、得られたスラリーを第1硫化澱物と第1清澄液とに固液分離する第1硫化工程と、前記第1清澄液にカルシウム系中和剤を添加して前記硫酸分から石膏を生成させた後、この石膏を含むスラリーを石膏と石膏終液に固液分離する石膏製造工程と、前記石膏終液に硫化剤を添加して残存する重金属を硫化させた後、得られたスラリーを第2硫化澱物と第2清澄液とに固液分離する第2硫化工程とを備え、前記第1硫化工程で添加する硫化剤の量を、前記第2硫化澱物の砒素品位が0.1〜3.0質量%となるように調整すること、及び前記第1硫化工程の処理液から発生するガスを捕集し、該ガスを前記廃酸の少なくとも一部と気液接触させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、廃酸に含まれるCu以外の重金属を分離回収して製錬工程に繰り返される硫化澱物の量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一具体例の廃酸の処理方法のブロックフロー図である。
図2】本発明の他の具体例の廃酸の処理方法のブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一具体例の廃酸の処理方法について図1を参照しながら説明する。この本発明の一具体例の処理方法は、銅製錬排ガスの処理の際に生じる重金属及び硫酸分を含む廃酸に対して硫化剤を添加して重金属から硫化澱物を生成し、これを固液分離により除去する第1硫化工程と、該第1硫化工程で除去した後の処理液に炭酸カルシウムを添加して硫酸分を石膏として回収する石膏製造工程と、該石膏製造工程で石膏を回収した後の処理液に再度硫化剤を添加して残存する重金属から硫化澱物を生成し、これを固液分離により回収する第2硫化工程と、第2硫化工程で回収した硫化澱物を処理して有価金属であるカドミウムや亜鉛を回収する有価金属回収工程とで構成される。
【0012】
各工程について具体的に説明すると、先ず第1硫化工程では、廃酸に硫化剤を添加して混合し、酸化還元電位(ORP)約80〜110mV(銀−塩化銀電極基準)の条件で硫化反応を行って硫化澱物を生成させる(第1硫化反応ステップ)。上記硫化剤には、水硫化ナトリウム(硫化水素ナトリウム)NaHS、硫化水素HS、硫化ナトリウムNaS等の一般的な硫化剤を使用することができる。これらの中では、水硫化ナトリウムと硫化水素がコストの点で優れており、また、石膏製造に適した硫酸濃度の石膏始液が得られる点においても特に有利である。
【0013】
上記第1硫化反応ステップで得た硫化澱物を含む第1スラリーは、次に固液分離手段によって硫化澱物に富む第1濃縮物と第1清澄液とに分離する(第1固液分離ステップ)。上記固液分離手段には比較的低コストで大量のスラリーを処理できるシックナーを用いるのが好ましい。
【0014】
上記第1固液分離ステップで得た硫化澱物を含む第1濃縮物は、次に脱水手段によって含水率を低減させ(第1脱水ステップ)、その後、銅製錬工程の自熔炉、転炉などの炉に送り、熔融金属と共に処理する。上記脱水手段にはフィルタープレス、真空式ろ過機、ベルトプレス、遠心分離機等の一般的な脱水装置を使用することができる。なお、この脱水手段で上記の第1固液分離ステップと第1脱水ステップとの両方を行ってもよい。
【0015】
一方、上記第1固液分離ステップで得た第1清澄液は、上記固液分離手段で分離できなかった細かな固形分をろ過により除去した後、石膏始液として石膏製造工程の中和槽に送られる。この中和槽において、石膏始液にカルシウム系中和剤を添加して中和反応を行って、硫酸分を石膏として析出させる。この石膏を含むスラリーから石膏を固液分離により除去することで、硫酸分が除かれた石膏終液が得られる。上記のカルシウム系中和剤としては、炭酸カルシウム(石灰石)、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを粉砕したものを用いるのがコスト的な観点から好ましい。なお、上記カルシウム系中和剤は、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムを不純物として含んでいても問題なく使用することができる。
【0016】
上記の石膏製造工程で得た石膏終液は、次に第2硫化工程において第2硫化反応ステップ、第2固液分離ステップ及び第2脱水ステップの順に処理される。即ち、第2硫化反応ステップでは、石膏終液に硫化剤として水硫化ナトリウム又は硫化水素を添加して混合し、酸化還元電位約10mVの条件で硫化反応を行って硫化澱物を含む第2スラリーを得る。この第2スラリーは第2固液分離ステップの固液分離手段で硫化澱物に富む第2濃縮物と第2清澄液とに固液分離する。この第2濃縮物は、第2脱水ステップの脱水手段で含水率を低減し、第2硫化澱物として回収する。一方、第2清澄液は活性汚泥などの一般的な排水処理工程に送って処理する。上記の第2固液分離ステップの固液分離手段及び第2脱水ステップの脱水手段には、それぞれ前述した第1固液分離ステップの固液分離手段及び第1脱水ステップの脱水手段と同様の装置を使用することが好ましい。
【0017】
有価金属回収工程では、先ず上記の第2脱水ステップで得た第2硫化澱物に対して硫黄除去工程又は硫黄酸化工程を行うことで、様々な亜鉛精製法やカドミウム精製法に適した亜鉛やカドミウムの濃縮物を得ることができる。硫黄除去工程は第2硫化澱物から硫黄を分離するもので、500℃以上での焙焼や真空蒸発などの一般的な方法を用いることができる。硫黄酸化工程は第2硫化澱物を酸化して硫化物を硫酸塩又は亜硫酸塩に変えるものであり、例えば硫酸、酸素、空気などの酸化剤で硫黄を酸化する方法を挙げることができる。
【0018】
以降は公知の精製法を用いて該濃縮物から亜鉛やカドミウムを回収することができる。例えば硫黄除去工程又は硫黄酸化工程と同時に、あるいはその後段において、硫酸などの浸出液で亜鉛やカドミウムを浸出し、得られた亜鉛やカドミウムを含む溶解液に対して、例えば分別蒸留などの精製手段で処理することで亜鉛とカドミウムを分離して回収することができる。
【0019】
ところで、上記の硫黄除去工程や硫黄酸化工程で得た亜鉛やカドミウムの濃縮物の砒素品位が高いと、その後段の亜鉛精製やカドミウム精製で砒素を除去するのが困難になる。従って上記濃縮物の砒素品位を下げるには、第2硫化澱物の砒素品位を下げるのが望ましく、そのためには、第1硫化工程で硫化剤を多めに添加し、砒素を第1硫化澱物として除去することが有効である。
【0020】
そこで、本発明の一具体例の廃酸の処理方法では、第2硫化澱物の砒素品位が0.1〜3.0質量%になるように、好ましくは0.5〜2.0質量%になるように、第1硫化工程で添加する硫化剤の量の調整を行っている。廃酸中の砒素含有量が多くなると多量の硫化剤を添加する必要があるが、前述したように第1硫化工程において処理液の酸化還元電位(ORP)を80〜110mV(銀−塩化銀電極基準)となる程度に硫化剤を添加すれば、通常は上記の範囲の砒素品位に制御することができる。
【0021】
上記のように、回収する亜鉛やカドミウムの純度を高めるには第1硫化工程で硫化剤を多めに添加することが有効であるが、この添加量が多すぎると、亜鉛やカドミウムが第1硫化澱物となって除去されてしまう。従って、回収する亜鉛やカドミウムの純度とその回収量とを両立させるため、上記した程度に第2硫化澱物に砒素が含まれているのが好ましい。これにより、硫化剤を節約することも可能になる。
【0022】
銅製錬プロセスで処理する原料に含まれる砒素の量が増えると廃酸中の砒素量が増えるので、上記したように第1硫化工程で硫化剤を多く添加する必要が生じる。硫化剤を多く添加した結果、当該第1硫化工程やその後段の工程が行われる反応槽などの機器から硫化水素ガスが発生しやすくなるので、問題を生じるおそれがある。
【0023】
そこで、以下に示す3つ対応策の内のいずれか1つ以上を行うのがよい。なお、図2には下記第1及び第2の対応策を含んだブロックフロー図が示されている。すなわち、第1の対応策は、第1硫化工程が行われる1つ又は複数の反応槽内の処理液から発生するガスをファン等によって捕集し、この捕集ガスが含有する硫化水素を吸収剤によって吸収するものである。吸収剤としては、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリを使用することができるが、硫化剤を添加する前の廃酸の少なくとも一部を吸収剤として捕集ガスに気液接触させることもできる。この場合、廃酸が含有する重金属の一部は、硫化水素の一部を吸収して硫化澱物を生成するので、この硫化水素に予硫化の役割を担わせることができる。よって、硫化水素を吸収した廃酸を第1硫化反応ステップに送ることで、第1硫化工程で使用する硫化剤を削減することができる。
【0024】
第2の対応策は、第1硫化反応ステップで処理する廃酸に、廃酸の酸濃度を低下させるため希釈液を添加するものである。廃酸のpHは一般に3未満なので、廃酸よりもpHが高い液を使用する。希釈液としては、例えばpHが3〜14の範囲内の水溶液が好ましく、硫化澱物を良好にろ過する観点からは、pHが3〜8の範囲内の水溶液がより好ましい。このように希釈液で廃酸を希釈することにより、次の反応を抑制できる。
【0025】
[化学式1]
2NaHS+HSO→2HS↑+NaSO
[化学式2]
MS+HSO→HS↑+MSO
(式中のMは2価の金属元素を表す)
希釈液としては、例えば他工程からの排液を用いることができ、重金属を含有している廃液であっても特に問題なく好適に用いることができる。
【0026】
第3の対応策は、ファンやダクトを備えてない等の事情のある反応槽に処理液を送液する場合に好適な方法であり、該送液前に処理液をエアレーション(すなわち、処理液中に空気等のガスを吹き込む)しながら、浮上して液面から発生するガスを捕集するものである。このエアレーションによって、液中の硫化水素分圧が低下すると共に気液接触が促進されるので、溶存していた硫化水素を速やかに取り除くことができる。なお、捕集したガスは、前述した第1の対応策と同様に、吸収剤であるアルカリや廃酸の少なくとも一部に気液接触させてガス中の硫化水素を吸収すればよい。
【0027】
以上説明したように、本発明の廃酸の処理方法は、廃酸の浄化だけでなく亜鉛やカドミウムなどの有価金属を回収できる。特に、第2硫化工程の前段に石膏製造工程があるので石膏終液の酸濃度を低減でき、第2硫化工程において硫化水素の発生を抑えながら反応を進めることができる。また、石膏製造工程の前段に第1硫化工程があるので、石膏の品質を向上することができる。
【実施例】
【0028】
[実施例]
銅製錬プラントから実際に排出された重金属及び硫酸を含むpH0の廃酸を、300L/分の流量で第1硫化反応ステップを行う反応槽に供給し、ここに濃度25質量%の水硫化ナトリウムをORPが110mV(銀−塩化銀電極基準)となるように添加することにより第1硫化澱物を含む第1スラリーを得た。この第1スラリーを第1固液分離ステップのシックナーにて固液分離し、第1上澄み液と沈降濃縮した底部抜き出しの第1濃縮物とに分離した。この第1濃縮物を貯液槽に溜めた後、第1脱水ステップのフィルタープレスでろ過することにより第1硫化澱物を回収した。
【0029】
一方、第1上澄み液は、微細な粒子をフィルタープレスでろ過して除いた後、得られた石膏始液を石膏製造工程へ送液した。ここで中和ステップを行うべく石膏始液に炭酸カルシウムを添加してpH2.3に調整し、石膏を析出させた。この石膏を含むスラリーを固液分離して石膏と石膏終液とを得た。この石膏終液は、第2硫化工程の反応槽に送液した。
【0030】
第2硫化工程の反応槽では、第2硫化反応ステップを行うべく、ORPが10mV(銀−塩化銀電極基準)となるように調整しながら石膏終液に水硫化ナトリウムを添加して第2硫化澱物を含む第2スラリーを得た。この第2スラリーを第2固液分離ステップのシックナーで固液分離し、第2上澄み液と沈降濃縮した底部抜き出しの第2濃縮物とに分離した。この第2濃縮物を貯液槽に溜めた後、第2脱水ステップのフィルタープレスでろ過した。これにより、試料1の第2硫化澱物を回収した。得られた試料1の第2硫化澱物の砒素の含有量をICP発光分光法を用いて分析したところ、3.0質量%であった。
【0031】
上記試料1の第2硫化澱物をビーカーに分取し、撹拌しながら空気を吹き込むと共に硫酸を徐々に添加したところ、第2硫化澱物の全量が溶解した。この溶解液に亜鉛粉末を溶けなくなるまで添加したところ、沈殿が生じた。亜鉛粉末を添加後の溶解液を5Cの濾紙を用いてろ過し、固形分と濾液とに分離した。濾液を乾燥したところ、結晶が得られた。この結晶をX線回折で分析したところ硫酸亜鉛であった。一方、固形分をICP発光分光法を用いて分析したところ、カドミウムの含有量が80質量%以上であり、該固形分中の砒素の含有量(質量)はカドミウムの約1/5であった。
【0032】
次に、第1硫化工程のORPを80mVにした以外は上記試料1の場合と同様にして廃酸を処理し、試料2の第2硫化澱物を作製した。この試料2の第2硫化澱物の砒素の含有量は1.5質量%であった。得られた試料2の第2硫化澱物に対して上記試料1の場合と同様に処理して固形分と結晶を作製した。その結果、得られた結晶をX線回折で分析したところ硫酸亜鉛であった。また、固形分をICP発光分光法を用いて分析したところ、カドミウムの含有量が80質量%以上であり、該固形分中の砒素の含有量(質量)はカドミウムの約1/10であった。
【0033】
更に、第1硫化工程のORPを120mVにした以外は上記試料1の場合と同様にして廃酸を処理し、試料3の第2硫化澱物を作製した。この試料3の第2硫化澱物の砒素の含有量は3.9質量%であった。得られた試料3の第2硫化澱物に対して上記試料1の場合と同様に処理して固形分と結晶を作製した。その結果、得られた結晶をX線回折で分析したところ硫酸亜鉛であった。また、ICP発光分光法を用いて固形分を分析したところ、カドミウムの含有量が80質量%未満であり、該固形分中の砒素の含有量(質量)はカドミウムの約1/4であった。
【0034】
[参考例]
第2硫化澱物に硫酸でなく水を添加した以外は、上記実施例と同様にしたところ、第2硫化澱物はほぼ溶解しなかった。第2硫化澱物の懸濁水溶液に亜鉛粉末を添加したところ、ほとんど溶けなかったので中止した。
【0035】
[実施例2]
上記試料1の第2硫化澱物をロータリーキルンに装入して1000℃で焙焼し、煙灰を回収した。この煙灰に水を添加したところ、煙灰の全量が溶解した。この溶解液に亜鉛粉末を溶けなくなるまで添加したところ、沈殿が生じた。亜鉛粉末を添加した後の溶解液を5Cの濾紙を用いてろ過し、固形分と濾液とに分離した。濾液を乾燥したところ、結晶が得られた。この結晶をX線回折で分析したところ硫酸亜鉛であった。一方、固形分をICP発光分光法を用いて分析したところ、カドミウムの含有量が80質量%以上であり、該固形分中の砒素の含有量(質量)はカドミウムの約1/5であった。
【0036】
[実施例3]
上記試料2の第2硫化澱物をロータリーキルンに装入して1400℃で焙焼し、煙灰を回収した。この煙灰に水を添加したところ、煙灰の全量が溶解した。この溶解液に亜鉛粉末を溶けなくなるまで添加したところ、沈殿が生じた。亜鉛粉末を添加した後の溶解液を5Cの濾紙を用いてろ過し、固形分と濾液とに分離した。濾液を乾燥したところ、結晶が得られた。この結晶をX線回折で分析したところ硫酸亜鉛であった。一方、固形分をICP発光分光法を用いて分析したところ、カドミウムの含有量が80質量%以上であり、該固形分中の砒素の含有量(質量)はカドミウムの約1/10であった。
図1
図2